【文献】
加藤宏晴 他,薄鋼板高精度介在物検査装置の開発,日本鉄鋼協会講演論文集 材料とプロセス 第133回春季講演大会,日本,社団法人日本鉄鋼協会,1997年,10巻2号,289
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
厚み方向に並べられた3枚の板状の脚部を有するE型コアと、前記脚部のうち中央又は両側の脚部に巻回されて該脚部を通過する磁束を検出する検出コイルと、を備えてなり、磁気飽和された強磁性体である被検査材を前記脚部の並び方向に沿って移動させて該被検査材中の欠陥により該被検査材から漏洩する磁束を検出する漏洩磁束検出器であって、前記E型コアを前記移動方向と直交する方向である前記被検査材の幅方向に複数個を並べて使用するものにおいて、
前記脚部の少なくとも一つの先端部に、該脚部の幅方向の両端部を残して切り欠いた切欠部が形成されていることを特徴とする漏洩磁束検出器。
前記切欠部は、該切欠部が形成された前記脚部の幅方向中央の切欠き深さが最も深くなるように切り欠いた形状であることを特徴とする請求項1又は2記載の漏洩磁束検出器。
前記切欠部は、該切欠部が形成された前記脚部の先端からの切欠き深さが0.5mm以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の漏洩磁束検出器。
【背景技術】
【0002】
自動車鋼板や缶用鋼板等の強磁性体である鋼板や鋼材の内部欠陥を見つける方法として、被検査材に飽和するまで磁束を入れて該被検査材を移動(搬送)させ、該被検査材の内部欠陥等により該被検査材の表面から漏れ出てくる磁束を利用して、前記被検査材の欠陥を検出する漏洩磁気探傷法がある。
【0003】
このような漏洩磁気探傷法として、例えば特許文献1及び2には、
図12に示すような基部35から下方に延在する中央脚部37と側部脚部39を有するE型コア33と中央脚部37に巻回した検出コイル41とを備えてなる漏洩磁束検出器31を用いる方法が開示されている。検出コイル41の巻き方により
図12に示す以外の構成の漏洩磁束検出器が用いられる場合もあるが、概ね
図12に示す構成のものを用いることが多い。
【0004】
図12に示す漏洩磁束検出器31を用いて、強磁性体である被検査材の一例として鋼板21の欠陥23を検出するには、磁気飽和された鋼板21の移動方向とE型コア33の中央脚部37と側部脚部39の並び方向とが一致するように漏洩磁束検出器31を設置する。そして、鋼板21の欠陥23がE型コア33の下方に移動してきたとき、
図13に示すように、欠陥23により鋼板21から漏洩した磁束が中央脚部37と側部脚部39の磁路に導かれて検出コイル41内を通過する。このとき、E型コア33の中央脚部37の直下を欠陥23が通過する前と通過した後では、中央脚部37を通過する磁束の向きが変化するので、検出コイル41に起電力が発生し、検出コイル41から取り出される信号は正弦波に似た出力(プラス信号とマイナス信号の組み合わせ)になる。
【0005】
そして、検出コイル41から取り出された信号を信号処理して(
図12)適度に増幅し、欠陥に対応(周波数)した信号を取り出すフィルター処理を行った後に欠陥の信号を出力する。さらに、絶対値化処理と閾値処理を行うことで欠陥の大きさを判別し、欠陥の大きさに対応したレベル決めを行う処理を行う。このように、漏洩磁気探傷法においては、被検査材の内部欠陥を検出することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図12に示すような漏洩磁束検出器31に用いられるE型コア33は、被検査材移動方向に直交する方向である被検査材の幅方向において、一般的に、幅方向の大きさが3mmから5mm程度の小さなものであり、鋼板21の全幅方向の欠陥を検出するには、例えば
図14に示すように、複数の漏洩磁束検出器31を鋼板21の幅方向に並べて対応する。なお、
図14は、幅方向の大きさが2.6mmの漏洩磁束検出器31を鋼板21の幅方向に4mmピッチで1列に配置した場合を図示したものである。なお、被検査材である鋼板21は帯状であり、
図14においては鋼板21の被検査材移動方向の両端側を省略している(後述する
図15においても同様)。
【0008】
しかし、漏洩磁束検出器31の検出感度(検出コイル41の出力)は、E型コア33の幅方向中央が最も高く、幅方向外側に向かって低下する特性を有する(
図3)。そのため、複数の漏洩磁束検出器31を鋼板21の幅方向に並べて鋼板21の全幅方向の欠陥を検出する場合、隣り合うE型コア33に間隔があるために、幅方向における検出感度が上下してバラツキが生じてしまい、欠陥23の検出能に差異が生じてしまう。
【0009】
また、検出コイル41からの出力を増幅して信号処理することで幅方向のバラツキを低減したとしても、ノイズも増幅されることで信号(出力)とノイズの比であるS/Nが増加してしまい、増幅しすぎると欠陥による出力とノイズとを分離することができず、欠陥を精度良く検出できなくなってしまう。
【0010】
そこで、従来は、E型コア33の幅を小さくし、できるだけ幅方向に密にして漏洩磁束検出器31を配置するといった対策が取られていた。さらに、隣接する漏洩磁束検出器との間隔(ピッチ)よりも各漏洩磁束検出器の幅が大きい場合には、
図14に示すように幅方向1列に並べることはできないので、
図15に示すように千鳥配列となるように2列以上に並べる方式がとられていた。なお、
図15は、E型コア33の側部脚部39に検出コイル41を巻回した漏洩磁束検出器43を千鳥配列に配置した場合を図示したものであるが、中央脚部37に検出コイル11を巻回した漏洩磁束検出器31であっても同様の配置となる。
【0011】
そして、
図15に示すように千鳥配列に配置する場合には、1列目において隣り合う漏洩磁束検出器43の間の中央に2列目の漏洩磁束検出器43が配置される。また、幅方向における検出感度の低下をさらに少なくするために、幅方向の配置がさらに密となるように千鳥配列を3列または4列とする場合もある。
【0012】
しかしながら、漏洩磁束検出器の幅方向のサイズを小さくして密に配置するものや、千鳥配列に配置するものはいずれも、配置する漏洩磁束検出器の個数を増やすものであるためコストが掛る。例えば、幅2mの鋼板に対して2mmピッチ(千鳥配列)で配置するには、1000個の漏洩磁束検出器を要することになり、多大なコストを要する。
そのため、鋼板の欠陥を全幅で検出する手段を低コストで行うためには、個々の漏洩磁束検出器の幅方向における検出感度のバラツキを低減する技術が望まれていた。
【0013】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、幅方向の検出感度を平坦化してそのバラツキを低減する漏洩磁束検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明に係る漏洩磁束検出器は、厚み方向に並べられた3枚の板状の脚部を有するE型コアと、前記脚部のうち中央又は両側の脚部に巻回されて該脚部を通過する磁束を検出する検出コイルと、を備えてなり、磁気飽和された強磁性体である被検査材を前記脚部の並び方向に沿って移動させて該被検査材中の欠陥により該被検査材から漏洩する磁束を検出するものであって、前記脚部の少なくとも一つの先端部に、該脚部の幅方向の両端部を残して切り欠いた切欠部が形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、前記切欠部は、前記脚部の全てに形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記切欠部は、前記脚部の先端からの切欠き深さが一定となるように切り欠いた形状であることを特徴とするものである。
【0017】
(4)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記切欠部は、該切欠部が形成された前記脚部の幅方向中央の切欠き深さが最も深くなるように切り欠いた形状であることを特徴とするものである。
【0018】
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のものにおいて、前記切欠部は、該切欠部が形成された前記脚部の先端からの切欠き深さが0.5mm以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、厚み方向に並べられた3枚の板状の脚部を有するE型コアと、前記脚部のうち中央又は両側の脚部に巻回されて該脚部を通過する磁束を検出する検出コイルと、を備えてなり、磁気飽和された強磁性体である被検査材を前記脚部の並び方向に沿って移動させて該被検査材中の欠陥により該被検査材から漏洩する磁束を検出するものであって、前記脚部の少なくともいずれか一つの先端部に、幅方向の両端部を残して切り欠いた切欠部が形成されていることにより、前記漏洩する磁束の検出感度が幅方向に平坦化もしくは凹状にして、前記バラツキを低減でき、配置する個数を増加せずに低コストで欠陥を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態に係る漏洩磁束検出器を説明する図である((a)E型コアの形状、(b)中央脚部及び側部脚部に形成した切欠部の形状、(c)漏洩磁束検出器の配置)。
【
図2】本実施の形態に係る漏洩磁束検出器において、被検査材の欠陥の移動に伴う磁束変化による検出コイルの出力の変化を説明する図である。
【
図3】従来の漏洩磁束検出器を2つ並べたとき、検出コイル出力の幅方向分布の一例を示すグラフである。
【
図4】本実施の形態に係る漏洩磁束検出器の検出コイル出力の一例を示すグラフである。
【
図5】本発明に係る漏洩磁束検出器において中央脚部及び側部脚部に形成する切欠部の形状を示す図である。
【
図6】本発明に係る漏洩磁束検出器において検出コイルを巻回する態様を示す図である。
【
図7】本発明の実施例において、E型コアの脚部に形成する切欠部の形状を示す図である。
【
図8】本発明の実施例において、漏洩磁束検出器の配置を示す図である。
【
図9】本発明の実施例における検出コイルの出力の測定結果である(その1)。
【
図10】本発明の実施例における検出コイルの出力の測定結果である(その2)。
【
図11】本発明の実施例における幅方向の検出コイルの幅方向出力のバラツキとS/Nの実測結果である。
【
図12】E型コアを用いた従来の漏洩磁束検出器による漏洩磁気探傷法を説明する図である。
【
図13】E型コアを用いた従来の漏洩磁束検出器による漏洩磁気探傷法における欠陥の位置と漏洩磁束の関係を示す図である。
【
図14】漏洩磁束検出器を幅方向1列に配置した場合の図である。
【
図15】漏洩磁束検出器を幅方向2列に千鳥配列に配置した場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態に係る漏洩磁束検出器について、以下に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本明細書中で示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、本発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【0022】
本実施の形態に係る漏洩磁束検出器1は、
図1に示すように、基部5から延在する板状の脚部である中央脚部7及び側部脚部9が板厚方向に並べられたE型コア3と、中央脚部7に巻回された検出コイル11と、を備えてなり、磁気飽和された鋼板21を中央脚部7と側部脚部9の並び方向に沿って移動させ、鋼板21の欠陥23により鋼板21から漏洩する磁束を検出するものであって、中央脚部7及び側部脚部9の先端部に切欠部13及び切欠部15がそれぞれ形成されているものである。
【0023】
まず、本実施の形態で検査対象とする鋼板21について説明する。
本実施の形態では、強磁性体である被検査材の一例として鋼板21を検査対象とし、鋼板21中の欠陥23を検出するものとする。
【0024】
鋼板21を検査するに際し、まずは、電磁石25により鋼板21を磁気飽和する。なお、
図1において電磁石25は、鋼板21を挟んで漏洩磁束検出器1と反対側に配置されているが、鋼板21を磁気飽和できるものであれば漏洩磁束検出器1と同じ側に配置してもよい。
【0025】
図1において、鋼板21は図中の左右方向のどちらかに移動するものとし、鋼板21の移動に伴って、鋼板21中の介在物や孔等の欠陥23も同様に左右に移動する。そして、欠陥23が磁性体でない場合、鋼板21を磁気飽和させた状態では欠陥23の磁気抵抗が大きいため、鋼板21の上面あるいは下面から磁束が漏洩する。
【0026】
次に、本実施の形態に係る漏洩磁束検出器1の各構成について説明する。
本実施の形態に係る漏洩磁束検出器1に用いられているE型コア3は、基部5と、基部5から延在する中央脚部7及び側部脚部9とを備えてなるものである。
【0027】
中央脚部7は、基部5の中央から延在した板状の脚部である。
側部脚部9(9a、9b)は、中央脚部7の厚み方向の両側において基部5の両端から延在した板状の脚部である。
【0028】
E型コア3は、強磁性体であるフェライトを用いて製作することができる。そして、E型コア3は、鋼板21の上面から所定の高さ(リフト)を離して配置される。
【0029】
切欠部13及び切欠部15は、中央脚部7及び側部脚部9の先端部に、幅方向の両端部を残して切り欠いて形成されたものであり、本例では、中央脚部7及び側部脚部9それぞれの先端からの切欠き深さが一定となるように形成された矩形状とした。切欠部13及び切欠部15は、幅方向の中央部を研削することで形成することができる。
【0030】
検出コイル11は、
図1に示す漏洩磁束検出器1のように1コイル式の場合、中央脚部7に巻回されている。前述のように、欠陥23に起因して鋼板21の上面から漏洩した磁束は、E型コア3の中央脚部7と側部脚部9aを通過する(
図1(c)中に破線で示す欠陥漏洩磁束)。ここで、欠陥23が移動して中央脚部7と側部脚部9aを通過する磁束が変化することにより検出コイル11に起電力が発生する。そして、該発生した起電力を出力として取り出すことにより、欠陥23が検出される。
【0031】
次に、本実施の形態に係る漏洩磁束検出器1の作用効果について、従来の漏洩磁束検出器31(
図12)と対比して説明する。
【0032】
従来の漏洩磁束検出器31により鋼板21から漏洩する磁束を検出する場合、
図2に示すように、漏洩磁束検出器31において検出コイル41を巻回した中央脚部37の直下を通過するタイミングでの磁束の変化が最も大きいために、検出コイル41の出力も最大となる。そして、検出コイル41から得られた出力(欠陥信号)を適宜増幅して、ノイズと欠陥信号の弁別を行い、絶対値回路に通すことで、欠陥に対応したプラス側の信号が得られる。
【0033】
ここで、E型コア33の幅方向中央の直下を欠陥が通過するように鋼板を移動させると、前述のとおり最大の欠陥信号が得られるが、欠陥の位置は、通常はE型コア33の幅方向中央と一致することはあまりなく、ほとんどの場合は幅方向中央から外れた位置を通過する。
【0034】
そして、従来の切欠きのないE型コア33を用いた漏洩磁束検出器31においては、幅方向中央の検出感度が最も高く、幅方向の外側に向かって検出感度が低下する特性を示す。そのため、複数の漏洩磁束検出器31を鋼板の幅に合わせて並べると、鋼板の幅方向における検出感度に凹凸が発生するため、E型コア33の下方を通過する同じ欠陥であっても幅方向位置の違いによって出力の値に差が生じてしまう。
【0035】
欠陥が通過する幅方向位置の違いによる漏洩磁束検出器31の出力の幅方向特性の一例として、
図3に、1chと2chの2個の漏洩磁束検出器31を幅方向に4mmピッチで並べて配置した場合の各漏洩磁束検出器31の出力を示す。
【0036】
図3の横軸は、1chの漏洩磁束検出器31の幅方向中央を0mmとしたときの鋼板の幅方向位置(mm)であり、2chの漏洩磁束検出器31の幅方向中央は、幅方向位置4mmに位置する。また、また、
図3の縦軸は、各幅方向位置を欠陥が通過したときの1chと2chそれぞれの漏洩磁束検出器31の出力である。
【0037】
図3に示すように、漏洩磁束検出器31の出力は、ガウス分布に似た幅方向特性を示し、幅方向中央の直下を欠陥が通過するときの出力が最も高く、外側に向かって出力は低下している。そのため、1chの幅方向中央である幅方向位置0mmを欠陥が通過する場合、1chの出力は最も高いが、2chの出力は低くなっている。同様に、2chの幅方向中央である幅方向位置4mmを欠陥が通過する場合、2chの出力は最も高いが、1chの出力は低くなっている。
【0038】
そして、1chと2chの間(幅方向位置0mmから4mmの範囲)を欠陥が通過する場合、幅方向中央における出力(=3.2V)よりも低下し、1chと2chの中間点(幅方向位置2mm)では2.67Vまで低下する。そのため、鋼板21の幅方向における出力は、
図3に示すように凹凸状の分布となりバラツキが生じる。
【0039】
さらに、漏洩磁束検出器31単体のS/Nは、幅方向中央における出力を用いて評価するが、複数の漏洩磁束検出器31を幅方向に配置した場合の全体としてのS/Nは、隣接する漏洩磁束検出器31の中間点における出力(
図3においては幅方向位置2mmにおける出力)を用いて評価する。そのため、幅方向中央に比べて中間点における出力(検出感度)が低下しない方が、S/Nが良好と評価される。
【0040】
図4に、本実施の形態に係る漏洩磁束検出器1により検出した出力の幅方向特性の結果の一例を示す。
図4は、幅方向位置4mmの位置に幅方向中央が位置するように漏洩磁束検出器1を配置したときの結果であり、
図4中の太実線は、中央脚部7と側部脚部9に切欠部13、15が形成された漏洩磁束検出器1による出力である。また、
図4中の1chおよび2chそれぞれの出力は、前述の
図3に示す出力と同じである。
【0041】
図4より、本実施の形態に係る漏洩磁束検出器1は、幅方向中央部における出力が従来の漏洩磁束検出器31(2ch)の出力よりも低くなり(=3V)、幅方向中央部においてフラット(平坦)な分布となっていることがわかる。そのため、幅方向中央における出力と隣接する漏洩磁束検出器との中間点における出力(=2.67V)との差を低下させることができる。よって、本実施の形態に係る漏洩磁束検出器1によれば、S/Nを低下させずに鋼板の幅方向における出力を平坦化してバラツキを低下できる。
【0042】
本実施の形態に係る漏洩磁束検出器1において、幅方向中央における出力が平坦化される理由は、以下のとおりである。
【0043】
漏洩磁束検出器は、検査対象とする鋼板と中央脚部及び側部脚部の先端との間に一定のギャップを設けて配置(密着させない)するものであるが、一般的に、このギャップを狭くして漏洩磁束検出器を鋼板に近づけると感度が上がる。逆にギャップを広くして漏洩磁束検出器を鋼板から離すと感度が下がる。なお、このようなギャップは、漏洩磁束検出器の場合にはリフトと呼ぶことがある。
【0044】
そこで、中央脚部及び側部脚部の幅方向中央部を鋼板から離すことで幅方向中央部における感度をあえて下げることにより、検出感度の高い幅方向中央部において凸型の特性であった感度を平坦にすることができる。ただし、中央脚部及び側部脚部の幅方向中央部を鋼板から離すと幅方向中央部以外も一緒に離れてしまわないようにする必要がある。そこで、本発明では、中央脚部及び側部脚部の幅方向両端部を残したまま幅方向中央部を研削することで、幅方向中央部のみを鋼板から離すようにしたものである。
【0045】
上記のとおり、E型コアはフェライトで製作されることが多いことから、中央脚部及び側部脚部の幅方向中央部のみを研削することが可能である。つまり、E型コアを用いた漏洩磁束検出器においては、E型コアの中央脚部と側部脚部の先端部を幅方向両端部を残して研削することで、幅方向中央部のみを検査対象の鋼板から相対的に離したような切欠形状の切欠部を形成することが可能である。
【0046】
本実施の形態に係る切欠部13、15のように、単純な矩形状に研削したものであっても、幅方向の検出感度のバラツキを許容可能な範囲に抑えることができる。
もっとも、切欠部の形状としては、複雑な形状に研削することも可能であり、矩形状に限るものではなく、例えば、
図5(a)に示すような台形の切欠部13a、15aや、
図5(b)〜(d)に示すように幅方向中央の切欠き深さが最も深い三角形の切欠部13b、15b、円形の切欠部13c、15c、楕円の切欠部13d、15dであってもよく、幅方向出力特性がフラットとなるように形状を決定すればよい。
【0047】
また、切欠き深さについても、適宜設定すればよい。
【0048】
なお、本実施の形態に係る漏洩磁束検出器1において、検出コイル11は、中央脚部7に巻回したもの(
図6(a))であったが、本発明は、
図6(b)に示すように、中央脚部7には巻回せず、両側の側部脚部9それぞれに巻回した漏洩磁束検出器17であってもよい。漏洩磁束検出器17においては、側部脚部9それぞれを通過する漏洩磁束の変化による出力から欠陥を検出することができる。
【0049】
さらに、本実施の形態に係る漏洩磁束検出器1は、
図1に示すように、中央脚部7と側部脚部9の3枚すべてに切欠部13及び切欠部15が形成されたものであるが、本発明は、中央脚部7とその両側の側部脚部9の少なくとも一つに切欠部13、15が形成されたものであればよい。そして、中央脚部7又は側部脚部9のいずれかに切欠部13、15が形成されている場合、検出コイル11は、切欠部13、15が形成された中央脚部7又は側部脚部9に巻回することを必ずしも要するものではない。
【0050】
なお、本発明に係る漏洩磁束検出器を鋼板の幅方向に複数個配置する場合にあっては、一列に配置するもの(
図14参照)や、千鳥配列(
図15参照)のように複数列を配置するものであってもよい。
【0051】
さらに、漏洩磁束検出器の幅方向の感度ムラの軽減により、最小欠陥を検出するために出力の閾値を下げることによる漏洩磁束検出器の幅方向中央部での欠陥の過検出の防止や、信号処理により出力の最大と最小の差を小さくして最小の出力により欠陥として検出する必要がなくなることから、帯状の被検査材の幅方向全体に漏洩磁束検出器を並べて配置したときの全体としてのS/Nを向上させることができる。
【実施例】
【0052】
本発明の漏洩磁束検出器の作用効果について確認するための具体的な実験を行ったので、その結果について以下に説明する。
【0053】
本実施例では、検査対象とする被検査材としてφ0.1mmのドリル穴により欠陥を模擬した鋼板を用い、該鋼板の欠陥を検出する場合の幅方向出力特性を検証した。
【0054】
実験において、鋼板は電磁石により磁気飽和し、与える磁力は被検査材内の磁束が1.7T相当とした。
そして、本実施例では、発明例として、フェライト製のE型コア3の中央脚部7と側部脚部9のそれぞれの先端部に矩形の切欠部13、15が形成され、側部脚部9に検出コイル11が巻回された漏洩磁束検出器17(
図6(b))を用いた。
【0055】
中央脚部7及び側部脚部9の寸法は、
図7(a)に示すように、幅3mm、高さ6mmとした。そして、中央脚部7と側部脚部9の先端部の切欠部13、15は、0.5mm〜2.5mmの範囲で切欠き深さを変更した(
図7(b)〜(e))。また、検出コイル11には、100Tのものを用いた。
【0056】
図8に示すように、漏洩磁束検出器17を鋼板の幅方向に千鳥配列に2列配置し、1列目と2列目の漏洩磁束検出器17の幅方向間隔(ピッチ)を2mm、各漏洩磁束検出器17の鋼板の表面からのリフトを1mmとした。そして、欠陥の通過する幅方向位置を変化させたときの漏洩磁束検出器17の出力を測定し、幅方向中央における出力と隣接する漏洩磁束検出器17との中間点における出力の差であるバラツキと、中間点における出力とノイズの比S/Nを求めた。
【0057】
なお、
図8は、1列目と2列目の漏洩磁束検出器17の位置関係を示すために、図中では2列目の漏洩磁束検出器を上にずらして図示したものであるが、実際の実験においては、1列目と2列目の漏洩磁束検出器17は高さ方向にずれておらず、リフトが同じとなるように配置している。
【0058】
さらに、本実施例では、切欠部を形成していない漏洩磁束検出器31(
図12)を用いた場合を比較例とし、上記の発明例と同様に、千鳥配列に並べて各漏洩磁束検出器の出力を測定し、バラツキとS/Nを求めた。
【0059】
図9に、発明例及び比較例における幅方向出力特性の測定結果を示す。
図9の横軸は、漏洩磁束検出器17、31の幅方向中央を0mmとしたときの鋼板の幅方向位置(mm)、縦軸は、各幅方向位置を欠陥が通過したときの出力(V)である。また、
図9には、幅方向位置0mmの漏洩磁束検出器17、31に2mmピッチで隣接する漏洩磁束検出器17、31の幅方向出力特性の測定結果もあわせて示している。
【0060】
図9(a)に示す比較例においては、漏洩磁束検出器31の幅方向出力特性はガウス分布状となり、漏洩磁束検出器31の幅方向中央(幅方向位置0mm)と隣接する漏洩磁束検出器31との中間点(幅方向位置-1mm)における出力のバラツキは12%であった。
【0061】
これに対し、
図9(b)に示す発明例においては、中央部がフラットとなった幅方向出力特性となり、漏洩磁束検出器17の幅方向中央(幅方向位置0mm)と隣接する漏洩磁束検出器17との中間点(幅方向位置+1mm)における出力のバラツキは3%となり、幅方向のバラツキが低減された結果が得られた。
【0062】
図10に、発明例において切欠部13、15の切欠き深さを変更した漏洩磁束検出器17の幅方向出力の測定結果を示す。
図9と同様に、
図10の横軸は、漏洩磁束検出器17の幅方向中央を0mmとしたときの鋼板の幅方向位置(mm)、縦軸は、各幅方向位置を欠陥が通過したときの出力(V)である。なお、
図10において、幅方向中央位置における検出器出力を一致させるようにゲイン調整した。
【0063】
発明例における幅方向出力は、比較例に比べるといずれの切欠き深さにおいても幅方向中央の出力がフラットとなり、本実施例における切欠き深さの範囲では、幅方向中央と中間点におけるバラツキは同程度となり、良好な幅方向出力特性が得られていることがわかる。
【0064】
図11に、切欠き深さに対するバラツキとS/Nの結果をまとめて示す。
切欠部を設けていない比較例(切欠き深さ0mm)に比べると、発明例では切欠部が形成されていることでバラツキが低下し、切欠き深さ1.0mm以上においてバラツキは3%程度とほぼ一定となった。
S/Nに関しては、切欠き深さ1.0mm以上において切欠き深さに対してほぼ変化しない結果となった。このことから、切欠部を設けることで、S/Nを低下させずに幅方向出力特性をフラットにできることが示された。