(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6811309
(24)【登録日】2020年12月16日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】非透過性接着リングによる締結要素
(51)【国際特許分類】
F16B 11/00 20060101AFI20201228BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20201228BHJP
C09J 5/06 20060101ALI20201228BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
F16B11/00 A
C09J201/00
C09J5/06
C09J4/02
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-511403(P2019-511403)
(86)(22)【出願日】2017年8月22日
(65)【公表番号】特表2019-532231(P2019-532231A)
(43)【公表日】2019年11月7日
(86)【国際出願番号】EP2017071119
(87)【国際公開番号】WO2018037003
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2019年5月31日
(31)【優先権主張番号】102016115639.6
(32)【優先日】2016年8月23日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】520074653
【氏名又は名称】テサ エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン フランク
【審査官】
竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5939261(JP,B2)
【文献】
独国実用新案第202014101631(DE,U1)
【文献】
実開昭57−34546(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 47/00
F16B 11/00
C09J 4/02
C09J 5/06
C09J 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体を表面(18)に取り付けるように設計された締結要素(10)の本体(12)を、前記表面(18)に取り付けるための方法であって、
前記本体(12)を、前記表面(18)に対して接触配置する工程であって、前記本体(12)は、接着リング(20)を使用して前記表面(18)に取り付けられ、前記表面(18)と、前記接着リング(20)と、その間の接合部により、前記表面(18)、前記接着リング(20)、および接合部と、前記本体(12)との間の空間(16)に対する気密バリアが形成され、前記本体(12)は、前記空間(16)と、前記本体(12)外側との、通気性および/または透水性接続部を少なくとも1つ有し、前記外側は、前記本体(12)により前記空間(16)から分離される、工程と、
前記空間(16)内に接着材を注入して、前記本体(12)に対する接触領域を有する接着材体(22)で充填する工程と、
前記空間(16)内に存在する前記接着材体(22)に対して水分を供給することで、前記接着材体(22)の硬化処理を開始する工程と、を含み、
前記硬化処理の開始前、さらに/あるいは前記硬化処理中に、前記接着リング(20)と、前記接着材体(22)が加熱され、これにより前記接触領域の範囲内に存在し、前記本体(12)に面する前記接着材体(22)の部分が断熱層(22a)を形成し、前記断熱層(22a)は接触領域に亘って、広範囲で均一に硬化され、前記本体(12)に面していない前記接着材体の残りの未硬化部分(22b)に対するさらなる気密バリアを構成し、これにより前記本体(12)に負荷がかかることで、前記未硬化部分(22b)内に空気が入り、気泡発生により保持力が低減されることが防止される、方法。
【請求項2】
前記接着材が、可撓性、湿分硬化単一成分接着剤または封止剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加熱が、1分から5分の間、特に2分間実行される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記加熱時に、前記接着リング(20)および接着材体(22)が60℃から80℃、特に70℃から80℃の温度に加熱される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記接着材体(22)に水分を供給する工程は、前記本体(12)に水分を供給することを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記本体(12)は、予め水分が充填された水分貯蔵部を備え、前記本体(12)が前記表面(18)に配置された状態で、前記水分貯蔵部は前記接着材体(22)に接続される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
特に前記加熱状態において、前記接着リング(20)が、前記本体(12)が配置される前記表面(18)の凹凸に適合する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
表面(18)に物体を取り付けるための締結要素(10)の使用であって、前記締結要素(10)は、接着材用の空間(16)を画定する、本体(12)と接着リング(20)とを備え、前記本体(12)は前記空間(16)と、前記本体(12)外側との、通気性および/または透水性接続部を少なくとも1つ有し、前記外側は、前記本体(12)により前記空間(16)から分離される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法における締結要素(10)の使用。
【請求項9】
前記接着リング(20)が接着剤を備える、特に完全に接着剤で形成される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記接着剤は、純粋または変性アクリレートから形成される、請求項9に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体を表面に取り付けるように設計された締結要素の本体を、表面に設置する方法に関する。さらなる態様として、本発明は、本発明の方法で表面に適切に設置される、物体を表面に取り付けるための締結要素に関する。
【0002】
そのような締結要素の典型的な適用分野としては、特に施釉タイル、大理石板等の壁張りを備える部屋において、壁、天井、床等の表面に物体を固定的に取り付ける用途が挙げられる。物体としては、タオルホルダー、棚、照明等の付属器具や備品が挙げられる。締結要素、または締結要素の本体は、接着材で表面に取り付けられる。接着材は通常、水分の添加により硬化する接着剤から構成される。
【背景技術】
【0003】
ドイツ特許公報DE10 2008 037 095B3、ドイツ特許出願公開公報DE44 16 884A1、WO03/036106A1にこの種の公知の締結要素の例が記載されている。
【0004】
しかし、この従来技術で公知の締結要素は、その周辺の環境条件によっては、12時間にも上る接着材の硬化時間が経過するまで、完全には負荷をかけることができないことが知られている。特に商業分野において、このような長い組付け時間は、不便以外の何物でもない。即ち、締結要素を設置したり、それに負荷をかけたりすることが、一般的に営業時間が8時間以内である営業日中に実行できない。
【0005】
特に、本発明の発明者らは、表面に設置されているが、接着材が完全に硬化する前の締結要素または本体に負荷がかかると、本体に沿って延在する通気性接続部、あるいは本体を表面上に予め配置可能にする接着リングと表面との間の隙間から、接着材周辺、延いては接着材そのものの中に空気が入り込んでしまうことを発見した。この結果、接着材と表面、および/または接着材と本体との間の接触領域、あるいは接着材そのものの中に気泡が発生し得る。気泡が発生すると、締結要素または本体の、表面に対する保持力が低減してしまうことがある。
【発明の概要】
【0006】
したがって、本発明の目的は、締結要素の本体を表面に設置する方法と、本発明に係る方法により物体を表面に取り付けるように設計された締結要素を提供することである。これらにより、簡潔に、締結要素の完全な耐荷重性をより短時間で実現できる。
【0007】
この目的は、物体を表面に取り付けるように設計された締結要素の本体を、表面に取り付けるための方法により実現される。方法は、
前記本体を、前記表面に対して接触配置する工程であって、前記本体は、接着リングを使用して前記表面に取り付けられ、前記表面と、前記接着リングと、その間の接合部により、前記表面、前記接着リング、および接合部と、前記本体との間の空間に対する気密バリアが形成され、前記本体は、前記空間と、前記本体外側との、通気性および/または透水性接続部を少なくとも1つ有し、前記外側は、前記本体により前記空間から分離されるか、前記本体が、前記表面に対して配置された時点で既に接着材体に対して供給可能な水分を含有する、工程と、
前記空間内に接着材を注入して、前記本体に対する接触領域を有する接着材体で充填する工程と、
前記空間内に存在する前記接着材体に対して水分を供給することで、前記接着材体の硬化処理を開始する工程と、を含み、
前記硬化処理の開始前、さらに/あるいは前記硬化処理中に、前記接着リングと、前記接着材体が加熱され、これにより前記接触領域の範囲内に存在する前記接着材体が断熱層を形成し、前記断熱層は接触領域に亘って、広範囲で均一に硬化され、前記接着材体の残りの未硬化部分に対するさらなる気密バリアを構成する。
【0008】
さらに、この目的は、表面に物体を取り付けるための締結要素により達成される。前記締結要素は、本体と、接着リングとを備え、これらは接着材用の空間を画定し、前記本体は前記空間と、前記本体外側との、通気性および/または透水性接続部を少なくとも1つ有し、前記外側は、前記本体により前記空間から分離され、前記締結要素は、本発明に係る前記方法により、前記表面に適切に取り付けられる。
【0009】
本発明に係る方法の利点として、接着リングが軟化して、表面、および/または本体の凹凸により適合するようになる。したがって、凹凸表面の場合でも、上述の接合部が気密バリアを構成することが保証される。
【0010】
また本発明に係る方法の利点として、表面の凹凸に適合した接着リングが冷却されると、表面に対してアダプタが動きにくくなる。
【0011】
特に、締結要素の保持力にとって極めて重要なことに、本発明に係る方法を利用することで、接着材体の未硬化部分が密閉封止される。即ち、締結要素または本体が設置された表面と、接着リングと、上述の広範囲で均一に硬化された断熱層とによりこれが実現される。したがって、本体に負荷がかかることで接着材体の未硬化部分内に空気が入り、気泡発生により保持力が低減されることが防止される。
【0012】
典型的には、本発明に係る方法を利用すると、硬化接着材により構成される断熱層が、約1時間の硬化時間後には、0.1から0.2mmの厚さを有することができる。
【0013】
本体は、表面に配置された時点で、接着材体に供給可能な水分を含有するので、本体への水分の供給を省略することができる、または本体に既に含有されている水分に加えて水分を供給することができる。
【0014】
本発明の改良として、接着材が、可撓性、湿分硬化単一成分接着剤または封止剤で形成可能であることが提案される。
【0015】
加熱は、1分から5分の間、特に2分間実行されることが有利である。これにより、硬化処理が均一かつ信頼性高く開始でき、それに応じて上述の断熱層が形成されることが保証される。
【0016】
この文脈において、加熱時に、接着リングおよび接着材体が60℃から80℃、特に70℃から80℃の温度に加熱されることが有利である。これらパラメータに基づいて、本体が表面に対して信頼性高く、特に非破壊的に配置できる。
【0017】
本発明の改良として、接着材体に水分を供給する工程は、本体に水分を供給することを含んでもよい。これは、例えば本体に水または霧状の水を吹きかけることで実現できる。したがって、本体に供給される水分は、本体を通じて接着材体に移動でき、この改良においては水により硬化される接着材から形成される接着材体の硬化処理が開始できる。
【0018】
例えば本体は、開口または流路を有してもよく、これを介して、水分を、吹き付け処理による運動エネルギーで接着材体に送り込むことができる。
【0019】
さらに/あるいは、本体は、少なくとも部分的有孔構成であってもよい。これにより、本体に供給された水分を、例えば毛細管現象により、接着材体に送り込むことができる。
【0020】
ここで、以下のとおりに本体に水分が供給される、または本体が構成される。即ち、上述の断熱層が均一に形成できるように、本体の通気性および/または透水性部分に隣接して設けられた、接着材体の部分に水分を供給する。完全有孔本体の場合、これは、本体の水分が供給可能な表面に亘る均一な水分分布により実現できる。
【0021】
本体は、予め水分が充填された、水分貯蔵部を備えることが有利である。本体が表面に配置された状態で、この水分貯蔵部は接着材体に接続される。ここで、水分貯蔵部は、それそのものが接着材体に直接接触できるように、あるいは水分貯蔵部内に含有された水分が適切な接続構成を介して接着材体に接触可能となるように、本体内に配置することができる。
【0022】
本発明の改良として、特に加熱状態において、接着リングが、本体が配置される表面の凹凸に適合できる。ここで、接着リングの加熱により実現できる上述の利点および効果について触れる。さらに、接着リングは非加熱状態でも表面の凹凸に適合できることから、空間内に注入されている接着材が、接着リングと、表面との間は通過不能となる。したがって、追加の洗浄作業は不要となる。接着リングは、一般的に、閉リングとして捉えられるものである。このリングは必ずしも円形でなくてもよく、特に本体の形状に合わせて例えば矩形構成であってもよい。
【0023】
ここで、上記方法の性質として、例えば本体を通じて空間が接着材で充填されるため、接着材は本体の開口または流路内にも存在し得ることにも留意されたい。そのような接着材も同様に硬化処理の対象となる。しかし、上述の空間外に存在する接着材は、本体の表面に対する保持力にほとんど、または全く寄与しないので、このように配置された接着材は、本発明の要点として捉えられない。
【0024】
本発明の第2態様は、導入部で触れたように、接着材用の空間を画定する本体および接着リングを備え、物体を表面に取り付けるための締結要素に関する。本体は、空間と、本体外側との、通気性および/または透水性接続部を少なくとも1つ備え、外側は、本体により空間から分離され、締結要素は、本発明の方法により、表面に適切に取り付けられる。表面に設置された状態で、接着リングと、表面は、接着材用に、気密バリアを形成する。
【0025】
概して、本発明に係る方法についての説明において、締結要素またはその本体の構成に対応する記載についても触れるべきであろう。
【0026】
ここで、接着リングが接着剤を備える、特に完全に接着剤で形成されることが有利である。これにより、接着リング自体が接着性を帯びるので、締結要素を事前に表面に配置して、その後締結要素または本体を人および/または機械で保持することなく、特に注入孔から、本体を通じて適切な空間内に接着材を注入可能となる。本体が、空気および/または余剰の接着材を空間から排出することができる、少なくとも1つの出口孔を有することが有利である。
【0027】
接着剤は、純粋または変性アクリレートから形成されることが有利である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明を、例示的実施形態に基づいて、そして添付の図面を参照することで、以下に詳述する。図面は以下のとおりである。
【0029】
【
図1】
図1は、本発明に係る締結要素の本体の概略断面図を示す。
【
図2】
図2は、本体内に接着材を注入した後の
図1の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1において、本発明に係る締結要素に、全体として参照符号10を付す。締結要素10は、本例示的実施形態では完全有孔構成を有する本体12を備える。
【0031】
ここで、「有孔」という用語は、例えば本体12の上部14から、本体12を通って、空間16内へと、水分の移動を可能とする構造を示すことを意図していることに留意されたい。これは、例えば本体12の開孔構造で実現可能である。
【0032】
ここで本体12は好ましくは焼結金属、具体的には銅化合物または発泡混合材料で形成されることが好ましい。
【0033】
締結要素10が取り付けられる土台となる表面18により、空間16の、本体12に対して反対側が画定される。通常、表面18はタイル、施釉タイル、石表面等の土台である。
【0034】
空間16は、表面18に略平行な方向の境界が、接着リング20により画定されている。本明細書に示す例示的実施形態では、接着リング20は空間16を完全に囲んでいる。これにより、空間16は、本体12で画定された側を除いて、締結要素10の環境に対して密閉封止されている。
【0035】
図1に示すように、本実施形態では、接着リング20は、本体12の幅寸法から、幅方向Bにはみ出している。これは第1に、空間16の容積を一定として、接着リングが幅方向Bにおいて本体12と面一である場合と比較して、接着リング20と表面18との有効接着面が広くとれるという利点がある。さらに第2の利点として、表面18と接着リング20との間に形成される接合部を、凹凸面の場合でも、高い信頼性をもって気密に閉じることができる。
【0036】
空間16内に接着材を注入するため、本体12を貫通する注入孔24が設けられる。これにより、空間16を接着材体22で充填できる。
【0037】
さらに、空間16内への接着材注入の際に空気が排出できるように、また空間16と注入孔24との容積を越える接着材体22の余剰分が排出できるように出口孔26が設けられている。出口孔26は、注入孔24と略平行で、同様に本体12を貫通する。
【0038】
本体12は、公知の接続装置を有することができる。例えば、雄螺子、および/または少なくとも1つの雌螺子等が挙げられる。これにより、本体12に、例えば物体取付用のアダプタ要素を接続することができる。
【0039】
図2は、表面18上に配置された
図1の締結要素10を示し、注入孔24を通じて接着材が空間16内、そして一部出口孔26内に注入された状態を示す。その後、本発明に係る方法の残りの工程が実行され、接着材体22の本体12に面した部分22が既に硬化しているが、接着材体22の、本体12に面していない部分22bはまだ硬化していない状態となっている。接着材体22の硬化部分22aと、接着材体22の未硬化部分22bとの境界を、
図2に点線28で示す。
【0040】
したがって、接着材体22の未硬化部分22bは、締結要素10の環境から、具体的には表面18、接着リング20、接着材体22の硬化部分22aにより、全面的に密閉封止されている。これにより、締結要素10に負荷がかかっても、接着材体内に保持力を低減するような気泡発生22につながる、接着材体22の未硬化部分22bを通じた空気の侵入を防止することができる。