(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0025】
<1.トルクセン誘導体>
まず、本発明の一実施形態に係るトルクセン誘導体について説明する。本実施形態に係るトルクセン誘導体は、下記の一般式(1)で表される化合物である。
【0027】
上記一般式(1)において、
R
1〜R
6は、互いに独立して、水素原子、置換もしくは無置換の炭素原子数1〜16の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素原子数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜36のアリール基または置換もしくは無置換の環形成炭素数3〜32のヘテロシクリル基である。
【0028】
X
1は、置換もしくは無置換のジベンゾフラニル(dibenzofuranyl)基、置換もしくは無置換のジベンゾチエニル(dibenzothienyl)基、置換もしくは無置換のカルバゾリル(Carbazolyl)基または置換もしくは無置換のフルオレニル(fluorenyl)基である。
【0029】
X
2およびX
3は、互いに独立して、水素原子、置換もしくは無置換のジベンゾフラニル(dibenzofuranyl)基、置換もしくは無置換のジベンゾチエニル(dibenzothienyl)基、置換もしくは無置換のカルバゾリル(Carbazolyl)基または置換もしくは無置換のフルオレニル(fluorenyl)基である。
【0030】
本実施形態に係るトルクセン誘導体は、形成される膜において非晶性の構造を有する。このため、本実施形態に係るトルクセン誘導体は、塗布法等で層を形成する際の成膜性に優れており、表面の凹凸の少ない膜を形成することが可能である。したがって、有機電界発光素子の各層の不均一性に起因する問題、例えば印加される電界が不均一となることによる漏電や発光むらを防止することができる。
【0031】
また、本実施形態に係るトルクセン誘導体は形成される膜において非晶性の構造を有することから、形成される膜は、可撓性を有し、基板等への追従性に優れるものとなる。したがって、トルクセン誘導体は、フレキシブルな有機電界発光装置における使用に適している。
【0032】
さらに、本実施形態に係るトルクセン誘導体は、一般式(1)で表すように、そのトルクセン骨格にジベンゾフラニル基等の特定のベンゾヘテロール(Benzoheterole)環またはフルオレニル(fluorenyl)基が結合している。一般的にはトルクセン骨格を有する化合物は正孔輸送能および/または正孔注入能を有するが、このような基は、適度な電子供与能をトルクセン誘導体に与え、この結果、トルクセン誘導体はバイポーラ性を有する。そしてこのようなトルクセン誘導体を有機電界発光素子に用いた場合、素子内の正孔と電子の電荷バランスが適切に調節され、有機電界発光素子の発光効率が優れたものとなる。
【0033】
また、X
1〜X
3は、トルクセン骨格の所定の位置に結合していることにより、トルクセン誘導体内における立体的な込み合いの程度が比較的低いものとなり、この結果、トルクセン誘導体は化学的に安定なものとなる。
【0034】
本実施形態に係るトルクセン誘導体は、これに限定されないが、有機電界発光素子中の発光層のホスト材料、正孔輸送材料および正孔注入材料としての使用に特に適している。
【0035】
上述した一般式(1)中のR
1〜R
6における直鎖状、分岐状または環状のアルキル基の炭素数は、上述した範囲内であればよいが、好ましくは1〜12であり、より好ましくは1〜7である。特に、上記直鎖状または分岐状アルキル基の炭素原子数は、好ましくは1〜6であり、より好ましくは1〜4である。また特に、上記環状アルキル基の炭素原子数は、上述した範囲内であればよいが、好ましくは3〜7であり、より好ましくは4〜7である。また、直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基のうち、直鎖状または分岐状のアルキル基が好ましく、直鎖状アルキル基がより好ましい。
【0036】
また、R
1〜R
6における直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル(methyl)基、エチル(ethyl)基、プロピル(propyl)基、ブチル(butyl)基、オクチル(octyl)基、デシル(decyl)基、ペンタデシル(pentadecyl)基等の直鎖状アルキル基、およびt−ブチル基等の分枝状アルキル基、シクロブチル(cyclobutyl)基、シクロペンチル(cyclopentyl)基、シクロヘキシル(cyclohexyl)基、シクロヘプチル(cycloheptyl)基などのシクロアルキル(cycloalkyl)基を挙げることができる。
【0037】
R
1〜R
6における直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基の炭素原子数は、上述した範囲内であればよいが、好ましくは1〜12であり、より好ましくは1〜7であり、さらに好ましくは1〜6であり、より一層好ましくは1〜4である。また、直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基のうち、直鎖状アルコキシ基が好ましい。また、上記アルコキシ基としては、特に限定されないが、例えば、メトキシ(methoxy)基、エトキシ(ethoxy)基、プロポキシ(propoxy)基、ブトキシ(butoxy)基、オクチルオキシ(octyloxy)基、デシルオキシ(decyloxy)基、ペンタデシルオキシ(pentadecyloxy)基等の直鎖状アルコキシ基およびt−ブトキシ(t−butoxy)基等の分岐状アルコキシ基を挙げることができる。
【0038】
上記アリール基の環形成炭素原子数は、上述した範囲内であればよいが、好ましくは6〜18であり、より好ましくは6〜12、さらに好ましくは4〜7である。また、アリール基としては、例えば、フェニル(phenyl)基などの単環式芳香族基、ビフェニル(biphenyl)基、ターフェニル(terphenyl)基、フルオランテニル(fluoroanthenyl)基、トリフェニレニル(triphenylenyl)基などの非縮合多環式芳香族基、ナフチル(naphtyl)基、アントリル(anthryl)基、フェナントリル(phenanthryl)基、フルオレニル(fluorenyl)基、インデニル(indenyl)基、ピレニル(pyrenyl)基、アセトナフテニル(acetonaphtenyl)基などの縮合多環式芳香族基などを挙げることができる。
【0039】
上記ヘテロシクリル基の環形成炭素原子数は、上述した範囲内であればよいが、好ましくは4〜18であり、より好ましくは5〜12である。ヘテロシクリル基としては、例えば、ヘテロアリール基および非芳香族性ヘテロシクリル基が挙げられる。
【0040】
ヘテロアリール基としては、例えば、ピリジル(pyridyl)基、フラニル(furanyl)基、ピラニル(pyranyl)基、チエニル(thienyl)基、キノリル(quinolyl)基およびイソキノリル(isoquinolyl)基などの単環式ヘテロアリール基や、ベンゾフラニル(benzofuranyl)基、ベンゾチエニル(benzothienyl)基、インドリル(indolyl)基、カルバゾリル(carbazolyl)基、ベンゾオキサゾリル(benzoxazolyl)基、ベンゾチアゾリル(benzothiazolyl)基、キノキサリル(quinoxalyl)基、ベンゾイミダゾリル(benzimidazolyl)基、ピラゾリル(pyrazolyl)基、ジベンゾフラニル(dibenzofuranyl)基、およびジベンゾチエニル(dibenzothienyl)基などの多環式ヘテロアリール基を挙げることができる。
【0041】
非芳香族性ヘテロシクリル基としては、例えば、ピロリジニル(pyrrolidinyl)基、テトラヒドロフラニル(tetrahydrofuranyl)基、テトラヒドロチオフェニル(tetrahydrothiophenyl)基、テトラヒドロピラニル(tetrahydropyranyl)基、テトラヒドロチオピラニル(tetrahydrothiopyranyl)基、ピペリジニル(piperidinyl)基、1,4−ジオキサニル(dioxanyl)基、1,4−オキサチアニル(oxathianyl)基、モルホリニル(morpholinyl)基、1,4−ジチアニル(dithianyl)基、ピペラジニル(piperazinyl)基、1,4−アザチアニル(azathianyl)基などを挙げることができる。
【0042】
R
1〜R
6は、以上説明したものであればよいが、互いに独立して、水素原子、置換もしくは無置換の炭素原子数1〜7の直鎖状、分岐状または環状のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素原子数1〜7の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、または置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜12のアリール基であることが好ましく、炭素原子数1〜7の直鎖状のアルキル基、フェニル基またはアルキルフェニル基であることがより好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、フェニル基またはメチルフェニル基であることがさらに好ましい。
【0043】
X
2およびX
3は、上記一般式(1)において定義される基であればよいが、好ましくは、互いに独立して、置換もしくは無置換のジベンゾフラニル基、置換もしくは無置換のジベンゾチエニル基、置換もしくは無置換のカルバゾリル基または置換もしくは無置換のフルオレニル基である。これにより、トルクセン誘導体の電子供与能を十分なものとすることができる。特に、トルクセン誘導体が発光層に含まれる場合、発光層への正孔注入性のみならず電子注入性を優れたものとすることができる。
【0044】
また、この場合において、X
1〜X
3は、これらのうちいずれか1つ、好ましくは2つ、より好ましくは全てが、ベンゼン環部位においてトルクセン骨格と結合している。これにより、トルクセン誘導体中のトルクセン骨格とX
1〜X
3との間に共役系が形成され、トルクセン誘導体の電子供与能が高いものとなる。
【0045】
より具体的には、上記の場合、X
1〜X
3は、置換もしくは無置換のジベンゾフラン−1−、−2−、−3−もしくは−4−イル、置換もしくは無置換のジベンゾチオフェン−1−、−2−、−3−もしくは−4−イル、置換もしくは無置換のカルバゾール−1−、−2−、−3−もしくは−4−イル、または置換もしくは無置換のフルオレン−1−、−2−、−3−もしくは−4−イルである。X
1〜X
3は、好ましくは、置換もしくは無置換のジベンゾフラン−2−もしくは−4−イル、置換もしくは無置換のジベンゾチオフェン−2−もしくは−4−イル、置換もしくは無置換のカルバゾール−3−イルまたは置換もしくは無置換のフルオレン−2−もしくは−4−イルである。
【0046】
また、X
1〜X
3は、ベンゼン環部位においてトルクセン骨格と結合していなくてもよい。具体的には、X
1〜X
3は、置換もしくは無置換のカルバゾール−9−イルまたは置換もしくは無置換のフルオレン−9−イルであってもよい。
【0047】
X
1〜X
3は、互いに異なるものであってもよいが、これらのうちいずれか2以上が同一の基であることが好ましく、全てが同一の基であることがより好ましい。これにより、トルクセン誘導体の構造が安定化されるとともに、トルクセン誘導体を製造することが比較的容易かつ簡便となる。
【0048】
X
1〜X
3およびR
1〜R
6の各基において置換可能な置換基としては、特に限定されないが、例えば、シアノ(cyano)基、シリル(silyl)基、炭素原子数1〜10のモノ(mono−)、ジ(di−)もしくはトリアルキルシリル(tri−alkylsilyl)基、炭素原子数1〜16の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル(alkyl)基、炭素原子数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ(alkoxy)基、環形成炭素数6〜36のアリール(aryl)基および環形成炭素数3〜32のヘテロシクリル(heterocyclyl)基などが挙げられる。なお、X
1〜X
3およびR
1〜R
6の各基において上記の置換基は、無置換である場合のX
1〜X
3およびR
1〜R
6における水素原子と置換する。また、X
1〜X
3およびR
1〜R
6の各基において2以上の水素原子が置換される場合には、置換基と当該置換基が結合する原子を含んで、環状アルキル基、アリール基および/またはヘテロシクリル基が形成されてもよい。また、この場合において、置換基は、トルクセン骨格と縮合する構造を形成するものであってもよい。
【0049】
また、各置換基の具体例、好ましい炭素原子数等は、特に限定されないが、上述したR
1〜R
6の各基と同様であることができる。特に、X
1〜X
3の置換基は、置換基毎に互いに独立して、炭素原子数1〜6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル(alkyl)基または環形成炭素数4〜18のアリール(aryl)基であることが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、t−ブチル基、フェニル基またはX
1〜X
3のベンゼン環とともに形成される縮合ベンゼン環であることがより好ましく、メチル基またはフェニル基であることがさらに好ましい。
また、置換基は、X
1〜X
3およびR
1〜R
6の各基のいずれの部位に置換してもよい。
【0050】
ここで、上述した本実施形態に係るトルクセン誘導体の具体例である化合物1〜29の構造式を以下に示す。また、以下で示す化合物1〜29のうち、特に、化合物1、18、22、24が好ましい。ただし、本実施形態に係るトルクセン誘導体が以下の化合物に限定されるわけではない。
【0055】
以上にて、本実施形態に係るトルクセン誘導体について詳細に説明した。本実施形態に係るトルクセン誘導体は、形成される膜において非晶性の構造を有するため、成膜性に優れており、表面の凹凸の少ない膜を形成することが可能である。さらに形成される膜は可撓性を有し、基板等への追従性に優れるものとなる。また、本実施形態に係るトルクセン誘導体は、適度なバイポーラ性を有するとともに、正孔注入能および正孔輸送能に優れている。したがって、本実施形態に係るトルクセン誘導体を正孔輸送材料、正孔注入材料および/または発光層のホスト材料として用いることにより、有機電界発光素子内の電荷バランスを好適に調整し、有機電界発光素子の発光効率を向上させることができる。
【0056】
なお、本実施形態に係るトルクセン誘導体の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法等により製造可能である。
【0057】
<2.有機電界発光素子>
次に、
図1を参照しながら、本実施形態に係るトルクセン誘導体を用いた有機電界発光素子について、詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る有機電界発光素子の一例を示す模式図である。
【0058】
図1に示すように、本実施形態に係る有機電界発光素子100は、基板110と、基板110上に配置された第1電極120と、第1電極120上に配置された正孔注入層130と、正孔注入層130上に配置された正孔輸送層140と、正孔輸送層140上に配置された発光層150と、発光層150上に配置された電子輸送層160と、電子輸送層160上に配置された電子注入層170と、電子注入層170上に配置された第2電極180とを備える。
【0059】
本実施形態に係るトルクセン誘導体は、例えば、正孔注入層130、正孔輸送層140および/または発光層150に含まれてもよい。これにより、トルクセン誘導体が含まれる層が平坦かつ均一なものとなる。このため、例えば印加される電界が不均一となることによる漏電や発光むらを防止し、投入した電力を無駄なく発光に使用することが可能となりこの結果、有機電界発光素子100の発光効率を比較的高いものとすることができる。好ましくは、本実施形態に係るトルクセン誘導体は、発光層150に含まれる。ただし、本実施形態に係るトルクセン誘導体が含まれる層は、上記に限定されない。例えば、本実施形態に係るトルクセン誘導体は、第1電極120と第2電極180との間のいずれかの有機層に含まれていてもよい。
【0060】
基板110は、一般的な有機電界発光素子で使用される基板を使用することができる。例えば、基板110は、ガラス基板、半導体基板、または透明なプラスチック基板等であってもよい。
【0061】
基板110上には、第1電極120が形成される。第1電極120は、例えば、陽極であり、金属、合金、または導電性化合物等のうち仕事関数が大きいものによって透過型電極として形成される。具体的には、第1電極120は、透明であり、導電性に優れる酸化インジウムスズ(In
2O
3−SnO
2:ITO)、酸化インジウム亜鉛(In
2O
3−ZnO)、酸化スズ(SnO
2)、酸化亜鉛(ZnO)等で形成されてもよい。また、第1電極120は、上記透明導電膜に対して、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)などを積層した反射型電極として形成されてもよい。
【0062】
第1電極120上には、正孔注入層130が形成される。正孔注入層130は、第1電極120からの正孔の注入を容易にする機能を備えた層であり、例えば、約10nm〜約150nmの厚さにて形成される。
【0063】
ここで、正孔注入層130は、本実施形態に係るトルクセン誘導体で形成されてもよい。また、本実施形態に係るトルクセン誘導体が他の層に含まれる場合、正孔注入層130は、例えば、以下の構造式で表される化合物や、公知の正孔輸送材料等にて形成されてもよい。
【化7】
【0064】
また、正孔注入層130を形成可能な公知の正孔注入材料としては、例えば、トリフェニルアミン含有ポリエーテルケトン(TPAPEK)、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(PPBI)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス−[4−(フェニル−m−トリル−アミノ)−フェニル]−ビフェニル−4,4’−ジアミン(DNTPD)、銅フタロシアニン(copper phthalocyanine)等のフタロシアニン化合物、4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(NPB)、4,4’,4”−トリス{N,Nジフェニルアミノ}トリフェニルアミン(TDATA)、4,4’,4”−トリス(N,N−2−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA)、ポリアニリン/ドデシルベンゼンスルホン酸(Pani/DBSA)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホネート)(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/カンファースルホン酸(Pani/CSA)、およびポリアニリン/ポリ(4−スチレンスルホネート)(PANI/PSS)等を挙げることができる。
【0065】
正孔注入層130上には、正孔輸送層140が形成される。正孔輸送層140は、正孔を輸送する機能を備えた層であり、例えば、約10nm〜約150nmの厚さにて形成される。なお、正孔輸送層140は複数層にて形成されてもよい。
【0066】
ここで、正孔輸送層140は、本実施形態に係るトルクセン誘導体を含んで形成されてもよい。また、本実施形態に係るトルクセン誘導体が他の層に含まれる場合、正孔輸送層140は、公知の正孔輸送材料にて形成されてもよい。公知の正孔輸送材料としては、例えば、1,1−ビス[(ジ−4−トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(TAPC)、N−フェニルカルバゾール(N−phenylcarbazole)、ポリビニルカルバゾール(polyvinylcarbazole)などのカルバゾール誘導体、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(TPD)、4,4’,4”−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(TCTA)、およびN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(NPB)等を挙げることができる。
【0067】
正孔輸送層140上には、発光層150が形成される。発光層150は、蛍光、りん光等によって光を発する層であり、例えば、約10nm〜約60nmの厚さにて形成される。発光層150は、例えば、ドーパント材料およびホスト材料の混合層として形成されてもよい。具体的には、発光層150は、ドーパント材料をホスト材料の総質量に対して0.1〜50質量%、好ましくは0.1〜20質量%でドープした混合層として形成されてもよい。
【0068】
発光層150に含まれるホスト材料およびドーパント材料は、公知のホスト材料およびドーパント材料ならば、いずれも使用することが可能である。例えば、発光層150は、フルオランテン誘導体、ピレン(及びその誘導体)、アリールアセチレン誘導体、フルオレン誘導体、ペリレン(及びその誘導体)、クリセン誘導体、またはスチリル誘導体等をホスト材料またはドーパント材料として含んでもよい。より具体的には、発光層150は、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、4,4’−N,N’−ジカバゾール−ビフェニル(CBP)、ポリ(n−ビニルカルバゾール)(PVK)、4,4’,4”−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(TCTA)、1,3,5−トリス(N−フェニルベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼン(TPBI)、3−tert−ブチル−9,10−ジ(ナフト−2−イル)アントラセン(TBADN)、ジスチリルアリーレン(DSA)、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−2,2’−ジメチル−ビフェニル(dmCBP)、ビス(2,2−ジフェニルビニル)−1,1’−ビフェニル(DPVBi)、1,4−ビス(2−(3−N−エチルカルバゾリル)ビニル)ベンゼン(BCzVB)、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−((ジ−p−トリルアミノ)スチリル)スチルベン(DPAVB)、N−(4−((E)−2−(6−((E)−4−(ジフェニルアミノ)スチリル)ナフタレン−2−イル)ビニル)フェニル)−N−フェニルベンゼンアミン(N−BDAVBi)、2,5,8,11−テトラ−t−ブチルペリレン(TBPe)、1,1−ジピレン(1,1−dipyrene)、1,4−ジピレニルベンゼン(1,4−dipyrenylbenzene)、1,4−ビス(N,N−ジフェニルアミノ)ピレン(1,4−bis(N,N−diphenylamino)pyrene)などをホスト材料またはドーパント材料として含んでもよい。
【0069】
また、発光層150は、特定の色の光を発する層として形成されてもよい。例えば、発光層150は、赤色発光層、緑色発光層、または青色発光層として形成されてもよい。
【0070】
発光層150が青色発光層である場合、公知の青色ドーパントを使用することができる。例えば、青色ドーパントとして、ペリレン(perlene)およびその誘導体、ビス[2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジネート]ピコリネートイリジウム(III)(FIrpic)等のイリジウム(Ir)錯体などを使用することができる。
【0071】
また、発光層150が赤色発光層である場合、公知の赤色ドーパントを使用することができる。例えば、赤色ドーパントとして、ルブレン(rubrene)およびその誘導体、4−ジシアノメチレン−2−(p−ジメチルアミノスチリル)−6−メチル−4H−ピラン(DCM)およびその誘導体、ビス(1−フェニルイソキノリン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)(Ir(piq)
2(acac))等のイリジウム錯体、オスミウム(Os)錯体、白金錯体などを使用することができる。
【0072】
さらに、発光層150が緑色発光層である場合、公知の緑色ドーパントを使用することができる。例えば、クマリン(coumarin)およびその誘導体、トリス[2−(パラ−トリル)ピリジン]イリジウム(Tris[2−(p−tolyl)pyridine]iridium(III)、Ir(mppy)
3)、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)((Ir(ppy)
3)等のイリジウム錯体などを使用することができる。
【0073】
また、ホスト材料は、本実施形態に係るトルクセン誘導体を含んでいてもよい。また、本実施形態に係るトルクセン誘導体が他の層に含まれる場合、ホスト材料は、公知のホストにて形成されてもよい。
【0074】
なお、ホスト材料は、2種以上の化合物の混合物であってもよい。例えば、有機電界発光素子100の電荷バランスを整えるために、ホスト材料は、ホスト材料の主成分となる化合物に加えて、電子輸送能または正孔輸送能を有する化合物を含むことができる。
【0075】
より具体的には、発光層150が、ホスト材料の主成分として本実施形態に係るトルクセン誘導体を含む場合に、電子輸送能を有する化合物をホスト材料としてさらに含んでもよい。これにより、有機電界発光素子100の電荷バランスがより一層整ったものとなり、発光効率が向上する。このような電子輸送能を有する化合物は、特に限定されず、例えば上述したホスト材料として用いることのできる化合物の他、後述する電子輸送材料から選択される。ホスト材料として使用可能な電子輸送能を有する化合物の好ましい例としては、特に限定されないが、キノリノール誘導体、イミダゾール誘導体、ピリジン誘導体が挙げられ、より具体的には、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、1,3,5−トリス(N−フェニルベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼン(TPBI)、1,3−ビス[2−(2,2’−ビピリジン−6−イル)−1,3,4−オキサジアゾ−5−イル]ベンゼン、3,3’,5,5’−テトラ[(m−ピリジル)−フェニル−3−イル]ビフェニル等が挙げられる。
【0076】
また、このような場合において、ホスト材料は、本実施形態に係るトルクセン誘導体と電子輸送能を有する化合物とを、質量比でトルクセン誘導体:電子輸送能を有する化合物=20:1〜1:4、好ましくは10:1〜1:1の割合で含む。
【0077】
発光層150上には、電子輸送層160が形成される。電子輸送層160は、電子を輸送する機能を備えた層であり、例えば、約15nm〜約50nmの厚さにて形成される。電子輸送層160は、例えば、以下の構造式で表される化合物等にて形成されてもよい。
【0079】
また、電子輸送層160は、公知の電子輸送材料にて形成されてもよい。公知の電子輸送材料としては、例えば、tris(8−hydroxyquinolinato)aluminium(Alq3)、および含窒素芳香環を有する化合物等を挙げることができる。含窒素芳香環を有する化合物の具体例としては、例えば、2−(4−tert−ブチルフェニル)−5−(4−ビフェニリル)−1,3,4−オキサジアゾールなどのオキサジアゾール誘導体、1,3,5−tri[(3−pyridyl)−phen−3−yl]benzeneのようなピリジン(pyridine)環を含む化合物、2,4,6−tris(3’−(pyridin−3−yl)biphenyl−3−yl)−1,3,5−triazineのようなトリアジン(triazine)環を含む化合物、2−(4−(N−phenylbenzoimidazolyl−1−ylphenyl)−9,10−dimethylanthraceneのようなイミダゾール(imidazole)環を含む化合物等を挙げることができる。
【0080】
電子輸送層160上には、電子注入層170が形成される。電子注入層170は、第2電極180からの電子の注入を容易にする機能を備えた層であり、約0.3nm〜約9nmの厚さにて形成される。電子注入層170は、電子注入層170を形成する材料として公知の材料ならば、いずれも使用することができる。例えば、電子注入層170は、リチウム8−キノリナート(Liq)およびフッ化リチウム(LiF)等のLi錯体、塩化ナトリウム(NaCl)、フッ化セシウム(CsF)、酸化リチウム(Li
2O)、または酸化バリウム(BaO)等にて形成されてもよい。
【0081】
電子注入層170上には、第2電極180が形成される。第2電極180は、例えば、陰極であり、金属、合金、または導電性化合物等のうち仕事関数が小さいもので反射型電極として形成される。第2電極180は、例えば、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)等の金属、またはアルミニウム−リチウム(Al−Li)、マグネシウム−インジウム(Mg−In)、マグネシウム−銀(Mg−Ag)等の金属の混合物で形成されてもよい。また、第2電極180は、上記金属材料の20nm以下の薄膜や、酸化インジウムスズ、酸化インジウム亜鉛などの透明導電性膜によって透過型電極として形成されてもよい。
【0082】
なお、上述した各層は、真空蒸着法、スパッタ法、各種塗布法など材料に応じた公知の適切な成膜方法によって形成することができる。第1電極120および第2電極180の間に配置された各有機層は、例えば、各種蒸着法、各種塗布法等で形成することができる。ここで、一般式(1)で表されるトルクセン誘導体は、一般に結晶が生じやすい塗布法においても非晶性の膜を形成することができ、平滑な層を形成することができる。このため、当該トルクセン誘導体を含む層は、塗布法により形成された際に従来の化合物を用いて形成された場合と比較して、特に優れた平滑性、層の均一性を有するものとなる。また、第1電極120および第2電極180等の各金属層は、例えば、真空蒸着法、スパッタ法等で形成することができる。
【0083】
以上、本実施形態に係る有機電界発光素子100の一例について説明した。有機電界発光素子100中の本実施形態に係るトルクセン誘導体を含む層は、表面の凹凸が少ないものとなるため、有機電界発光素子100の各層の不均一性に起因する問題、例えば印加される電界が不均一となることによる漏電や発光むらを防止することができる。また、本実施形態に係る有機電界発光素子100は、一般式(1)で表されるトルクセン誘導体を含むことにより、有機電界発光素子100内の電荷バランスが好適に調整されており、発光効率が優れたものとなる。
【0084】
次に本発明の他の実施形態に係る有機電界発光素子について説明する。
図2は、本発明の他の実施形態に係る有機電界発光素子の一例を示す模式図である。
図2に示すように有機電界発光素子100Aは、基板110と、基板110上に配置された第1電極120と、第1電極120上に配置された正孔注入層130と、正孔注入層130上に配置された発光層150Aと、発光層150A上に配置された電子注入層170と、電子注入層170上に配置された第2電極180とを備える。
【0085】
ここで、基板110、第1電極120、正孔注入層130、電子注入層170および第2電極180は、有機電界発光素子100の対応する各部材と同一の構成を有するため、説明を省略する。
【0086】
発光層150Aは、蛍光、りん光等によって光を発する層であり、例えば、約10nm〜約200nm、好ましくは1〜100nmの厚さにて形成される。ここで、発光層150Aは、上述したトルクセン誘導体を含む。発光層150Aは、例えば、ドーパント材料およびホスト材料の混合層として形成されてもよい。具体的には、発光層150は、ドーパント材料をホスト材料の総質量に対して0.1〜50質量%、好ましくは0.1〜20質量%でドープした混合層として形成されてもよい。この場合、例えばトルクセン誘導体は、ホスト材料として用いられることができる。
【0087】
なお、ホスト材料は、上述したトルクセン誘導体に加え、他の化合物を含んでもよい。発光層150Aは、例えば、電子輸送能を有する化合物をホスト材料としてさらに含んでもよい。これにより、有機電界発光素子100の電荷バランスがより一層整ったものとなり、発光効率が向上する。このような電子輸送能を有する化合物は、発光層150において説明したものと同様とすることができ、またホスト材料中の上述したトルクセン誘導体と当該化合物との割合も、同様とすることができる。
【0088】
以上、本実施形態に係る有機電界発光素子100Aの一例について説明した。本実施形態に係る有機電界発光素子100Aは、発光層150Aの表面の凹凸が少ないものとなるため、有機電界発光素子100Aの発光層150Aの不均一性に起因する問題、例えば印加される電界が不均一となることによる漏電や発光むらが防止されている。また、本実施形態に係る有機電界発光素子100Aは、一般式(1)で表されるトルクセン誘導体を含むことにより、有機電界発光素子100A内の電荷バランスが好適に調整されたものとなり、発光効率が優れたものとなる。
【0089】
なお、本実施形態に係る有機電界発光素子100、100Aの積層構造は、上記例示に限定されない。本実施形態に係る有機電界発光素子100、100Aは、公知の他の積層構造にて形成されてもよい。例えば、有機電界発光素子100は、正孔注入層130、正孔輸送層140、電子輸送層160および電子注入層170のうち1層以上を備えていなくともよく、また、他の層を備えていてもよい。さらに、有機電界発光素子100、100Aの各層は、単層で形成されてもよく、複数層で形成されてもよい。
【0090】
また、有機電界発光素子100は、三重項励起子または正孔が電子輸送層160に拡散することを防止するために、正孔輸送層140と発光層150との間に正孔阻止層を備えていてもよい。正孔阻止層は、例えば、オキサジアゾール(oxadiazole)誘導体、トリアゾール(triazole)誘導体、または、フェナントロリン(phenanthroline)誘導体等によって形成することができる。
【実施例】
【0091】
以下では、実施例および比較例を参照しながら、本実施形態に係るトルクセン誘導体、および該トルクセン誘導体を含む有機電界発光素子について具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも一例であって、本実施形態に係るトルクセン誘導体および有機電界発光素子が下記の例に限定されるものではない。
【0092】
[トルクセン誘導体の合成]
まず、以下に説明するような方法に従って、トルクセン誘導体を合成した。
【0093】
(A)原料
出発原料および合成に使用した試薬および溶媒は、すべて市販の試薬グレードのものを精製することなく用いた。また、脱水テトラヒドロフラン(脱水THF)は、市販のものを購入し、そのまま用いた。また、カラムクロマトグラフィーに用いる充填剤として、関東化学社製球状シリカゲル(中性)を用いた。
【0094】
なお、3,8,13−トリブロモ10,15−ジヒドロ−5H−ジインデノ[1,2−a:1’,2’−c]フルオレンは、B.Gomez−Lor,et al., Eu. J. Org. Chem. 2001, 2107−2114に記載の方法を参考にして合成した。
【0095】
(B)同定手法
合成した各化合物について、プロトン核磁気共鳴(
1H NMR)分光法および質量分析(マス(MS)スペクトル)を用いて同定を行った。
1H NMRスペクトルの測定には、Jeol JNM−ECX400分光光度計(400MHz)またはJeol JNM−ECS400分光光度計(400MHz)を用いた。MSスペクトルの測定については、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)をマトリックスとしてマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI法)で試料をイオン化し、飛行時間(TOF)型質量分析計によってMSスペクトルを測定した(MALDI−TOF−MSスペクトル)。なお、MALDI−TOF−MS測定は、Shimadzu−Kratos AXIMA−CFR PLUS TOF Mass質量分析装置を用いて行った。
【0096】
(C)合成
(合成例1)Ph3−Trの合成(比較例)
以下に説明する手順に従い、下記化学式で表される化合物(Ph3−Tr)を合成した。
【化9】
【0097】
(i)Br3−Trの合成
まず、Ph3−Trの合成に先立ち、Ph3−Trの合成における中間体であるBr3−Trを以下のスキームに沿って合成した。
【化10】
【0098】
50mL二口フラスコをドライアップし、窒素雰囲気下で3,8,13−トリブロモ10,15−ジヒドロ−5H−ジインデノ[1,2−a:1’,2’−c]フルオレン(別称;3,8,13−トルクセン)(116mg、0.200mmol)、脱水THF(5.0mL)を加えた混合溶液を氷浴中で撹拌した。次いで混合溶液にt−ブトキシカリウム(180mg、1.60mmol)を加えた。この時、混合溶液は淡黄色から濃赤色へ変化した。1時間撹拌後、ヨードメタン(283mg、2.00mmol)をゆっくりと加え、さらに2時間撹拌した。次に、先と同様の手順でt−ブトキシカリウム(180mg、1.60mmol)およびヨードメタン(283mg、2.00mmol)を加え、氷浴を取り除いた後、室温で12時間撹拌した。反応終了後、エバポレーターで反応混合物から溶媒を取り除き、反応混合物にクロロホルムを加え、濾過により不溶物を取り除いた。ろ液を再びエバポレーターで濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;クロロホルム/ヘキサン=1/2、体積比)により精製し、象牙色の粉末としてのBr3−Tr(75.0mg、0.113mmol、57%)を得た。
【0099】
1H NMR(400 MHz, CDCl
3) δ8.36(d, J = 1.8 Hz, 3H), 7.51(dd, J = 7.9 and 1.8 Hz, 3H), 7.40(d, J = 7.9 Hz, 3H), 1.83(s, 18H);
13C NMR(100 MHz, CDCl
3) δ156.13, 149.34, 138.53, 134.89, 129.98, 128.58, 124.09, 120.28, 46.84, 23.92; MALDI−TOF MS (m/z): [M+2]
+ calcd for C
33H
27Br
3, 661.96; found, 661.96.
【0100】
(ii)Ph3−Trの合成
次に、以下のスキームに従い、Ph3−Trを合成した。
【化11】
【0101】
Br3−Tr(332mg、0.501mmol)、フェニルボロン酸(305mg、2.50mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(57.8mg、0.0500mmol)をトルエン(17.5mL)とエタノール(4.0mL)の混合溶媒に加え、反応容器内を窒素雰囲気にした。そこへ水(4.0mL)に溶解させた炭酸カリウム(691mg、5.00mol)を加えた後、得られた混合物を80℃で、15時間加熱撹拌した。反応混合物を室温まで放冷した後、減圧下で溶媒を除去することにより濃縮した。濃縮後の残渣について、分液ロートを用いてクロロホルム−水で抽出操作を行い、得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレーターで留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;クロロホルム/ヘキサン=1/2、体積比)で精製後、ヘキサン−酢酸エチル混合溶媒から再結晶を行い、Ph3−Trを白色固体として得た(88.0mg、0.134mmol、27%)。
【0102】
1H NMR(400 MHz, CDCl
3) δ8.56(s, 3H), 7.74(dd, J = 7.9 and 1.4 Hz, 6H), 7.64(dd, J = 7.3 and 1.4 Hz, 3H), 7.62(d, J = 7.3 Hz, 3H), 7.54(t, J = 7.3 Hz, 3H), 7.42(t, J = 7.3 Hz, 3H), 2.00(s, 18H);
13C NMR(100 MHz, CDCl
3) δ156.66, 148.83, 142.07, 139.61, 137.34, 135.68, 128.96, 127.32, 127.13, 126.15, 124.67, 122.70, 46.75, 24.28; MALDI−TOF MS (m/z): M
+ calcd for C
51H
42, 654.33; found, 654.09.
【0103】
(合成例2)化合物1の合成(実施例)
以下のスキームに従い、上述した化合物1を合成した。
【化12】
【0104】
Br3−Tr(133mg、0.201mmol)、ジベンゾ[b,d]チオフェン−4−イルボロン酸(205mg、0.899mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(23.4mg、0.0202mmol)をトルエン(7.1mL)とエタノール(1.6mL)の混合溶媒に加え、反応容器内を窒素雰囲気にした。そこへ水(1.6mL)に溶解させた炭酸カリウム(276mg、2.00mol)を加えた後、得られた混合物を80℃で、20時間加熱撹拌した。反応混合物を室温まで放冷した後、減圧下で溶媒を除去することにより濃縮した。濃縮後の残渣について、分液ロートを用いてクロロホルム−水で抽出操作を行い、得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレーターで留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;クロロホルム/ヘキサン=2/3、体積比)で精製後、酢酸エチル−エタノール混合溶媒から再結晶を行い、化合物1を白色固体として得た(142mg、0.146mmol、73%)。
【0105】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ8.66(d, J = 1.4 Hz, 3H), 8.26−8.22(m, 6H), 7,88(dd, J = 7.3 and 1.4 Hz, 3H), 7.74(dd, J = 7.7 and 1.4 Hz, 3H), 7.67−7.61(m, 9H), 7.53−7.47(m, 6H), 2,00(s, 18H);
13C NMR(100 MHz, CDCl
3) δ157.51, 149.32, 139.81, 138.96, 138.86, 137.97, 137.43, 136.37, 136.01, 135.69, 127.33, 127.30, 126.90, 125.60, 125.36, 124.53, 122.91, 122.82, 121.89, 120.44, 47.02, 24.43; MALDI−TOF MS (m/z): M
+ calcd for C
69H
48S
3, 972.29; found, 972.29.
【0106】
(合成例3)化合物18の合成(実施例)
以下のスキームに従い、上述した化合物18を合成した。
【化13】
【0107】
Br3−Tr(265mg、0.400mmol)、2−(ジベンゾ[b,d]チオフェン−2−イル)−4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン(496mg、1.60mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(46.2mg、0.0400mmol)をベンゼン(14mL)とエタノール(3.2mL)の混合溶媒に加え、反応容器内を窒素雰囲気にした。そこへ水(3.2mL)に溶解させた炭酸カリウム(544mg、4.00mol)を加えた後、得られた混合物を80℃で、14時間加熱撹拌した。反応混合物を室温まで放冷した後、減圧下で溶媒を除去することにより濃縮した。濃縮後の残渣について、分液ロートを用いてクロロホルム−水で抽出操作を行い、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレーターで留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;クロロホルム/ヘキサン=1/2、体積比)で精製後、酢酸エチルから再結晶することによって、化合物18を白色固体として得た(219mg、0.225mmol、56%)。
【0108】
1H NMR(400 MHz, CDCl
3) δ8.68(s, 3H), 8.50(d, J = 1.4 Hz, 3H), 8.29−8.27(m, 3H), 8.02(d, J = 8.2 Hz, 3H), 7.93−7.89(m, 3H), 7.85(dd, J = 8.7 and 1.8 Hz, 3H), 7.76 (dd, J = 7.8 and 1.4 Hz, 3H), 7.69(d, J = 7.8 Hz, 3H), 7.56−7.49(m, 6H), 2.07(s, 18H);
13C NMR(100 MHz, CDCl
3) δ156.77, 149.02, 140.14, 139.77, 138.86, 138.50, 137.57, 136.36, 135.82, 135.69, 127.05, 126.51, 126.46, 125.08, 124.63, 123.34, 123.12, 122.97, 121.70, 120.30, 46.94, 24.42; MALDI−TOF MS (m/z): M
+ calcd for C
69H
48S
3, 972.29; found, 972.60.
【0109】
(合成例4)化合物22の合成(実施例)
以下のスキームに従い、上述した化合物22を合成した。
【化14】
【0110】
Br3−Tr(133mg、0.201mmol)、9−フェニル−3−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9H−カルバゾール(295mg、0.80mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(23.3mg、0.0202mmol)をトルエン(7.1mL)とエタノール(1.6mL)の混合溶媒に加え、反応容器内を窒素雰囲気にした。そこへ水(1.6mL)に溶解させた炭酸カリウム(276mg、4.00mol)を加えた後、得られた混合物を80℃で、18時間加熱撹拌した。反応混合物を室温まで放冷した後、減圧下で溶媒を除去することにより濃縮した。濃縮後の残渣について、分液ロートを用いてクロロホルム−水で抽出操作を行い、得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレーターで留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:ヘキサン=1:2)で精製後、得られた固体を適量のメタノールに分散させたものを吸引ろ過し、化合物22を白色固体として得た(88.0mg、0.0765mmol、38%)。
【0111】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ8.70(s, 3H), 8.49(d, J = 1.4 Hz , 3H), 8.26(d, J = 7.7 Hz, 3H), 7.81(dd, J = 8.7 and 1.8 Hz, 3H), 7.77(dd, J = 7.7 and 1.3 Hz, 3H), 7.68−7.62(m, 15H), 7.58(d, J = 8.6 Hz, 3H), 7.54−7.43(m, 9H), 7.37−7.33(m, 3H), 2.07(s, 18H);
13C NMR(100 MHz, CDCl
3) δ156.13, 148.94, 141.50, 140.50, 140.43, 137.82, 137.54, 135.92, 134.50, 130.04, 127.63, 127.21, 126.39, 126.29, 125.79, 125.07, 124.10, 123.63, 122.77, 120.46, 120.18, 119.00, 110.33, 110.07, 46.88, 24.48; MALDI−TOF MS (m/z): M
+ calcd for C
87H
63N
3, 1149.50; found, 1149.20.
【0112】
(合成例5)化合物24の合成(実施例)
以下のスキームに従い、上述した化合物24を合成した。
【化15】
【0113】
Br3−Tr(133mg、0.201mmol)、ジベンゾ[b,d]フラン−4−イルボロン酸(191mg、0.901mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(23.3mg、0.0202mmol)をトルエン(7.1mL)とエタノール(1.6mL)の混合溶媒に加え、反応容器内を窒素雰囲気にした。そこへ水(1.6mL)に溶解させた炭酸カリウム(276mg、2.00mol)を加えた後、得られた混合物を85℃で、14時間加熱撹拌した。反応混合物を室温まで放冷した後、減圧下で溶媒を除去することにより濃縮した。濃縮後の残渣について、分液ロートを用いてクロロホルム−水で抽出操作を行い、得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒をエバポレーターで留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;クロロホルム/ヘキサン=1/2、体積比)で精製後、酢酸エチル−エタノール混合溶媒から再結晶を行い、化合物24を白色固体として得た(111mg、0.120mmol、60%)。
【0114】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ9.09(s, 3H), 8.07(d, J = 7.7 Hz, 3H), 8.02(dd, J = 7.7 and 0.9 Hz, 3H), 7.87(dd, J = 7.3 and 0.9 Hz, 3H), 7.78(d, J = 7.2 Hz, 3H), 7.70(d, J = 8.2 Hz, 3H), 7.63(d, J = 8.2 Hz, 3H), 7.55−7.51(m, 6H), 7.42(t, J = 7.7 Hz, 3H), 2.10(s, 18H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ157.35, 156.39, 153.60, 149.08, 137.36, 135.90, 134.45, 127.46, 127.31, 126.97, 126.61, 126.56, 125.14, 124.52, 123.56, 122.98, 122.90, 120.95, 119.64, 111.87, 47.17, 24.31; MALDI−TOF MS (m/z): M
+ calcd for C
69H
48O
3, 924.36; found, 924.28.
【0115】
[有機電界発光素子の作製]
続いて、塗布法を用いて、以下の手順にて本実施形態に係るトルクセン誘導体を含む有機電界発光素子を作製した。
【0116】
(実施例1)
まず、あらかじめパターニング(patterning)した後、洗浄処理を施したITO−ガラス基板に、紫外線/オゾン(O
3)による表面処理を行った。なお、ITO−ガラス基板におけるITO膜(第1電極)の膜厚は、150nmであった。
【0117】
次いで、PEDOT:PSS(ヘレウス株式会社、Clevios(商標)PVP CH8000)原液1.0mlに水とイソプロピルアルコールとの混合溶液(1:1、v/v)を加え、正孔注入層形成用の溶液を得た。この正孔注入層形成用の溶液を用いて、ITO−ガラス基板に対し2000rpm、2秒、次いで4000rpm、60秒の条件でスピンコート塗布を行った。その後、溶液が塗布されたITO−ガラス基板を105℃で60分乾燥させて、PEDOT:PSSからなる正孔注入層(厚さ:40nm)を形成した。
【0118】
次に、トルクセン誘導体としての化合物1:5mg、トリス[2−(パラ−トリル)ピリジン]イリジウム(Tris[2−(p−tolyl)pyridine]iridium(III)、Ir(mppy)
3):0.50mg、2−(4−tert−ブチルフェニル)−5−(4−ビフェニリル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD):1.0mgをクロロホルム:0.35ml中に溶解させ、発光層形成用の溶液を得た。この、発光層形成用の溶液を用いて、ITO−ガラス基板の正孔注入層上に2000rpm、10秒、次いで3000rpm、20秒の条件でスピンコート塗布を行った。その後、溶液が塗布されたITO−ガラス基板を80℃で30分乾燥させて、発光層(厚さ:68nm)を形成した。
【0119】
続いて、金属成膜用蒸着機に基板を移し、3.0
-4Pa〜3.6
-4Paの真空度にて、電子注入層、および第2電極を蒸着して、有機電界発光素子を作製した。なお、電子注入層は、CsFを用いて膜形成速度:0.1Å/sにて膜厚1nmで形成し、第2電極は、アルミニウム(Al)を用いて膜厚250nmで形成した。なお、アルミニウムの蒸着における膜形成条件は、膜形成速度5.0Å/sにて厚さ50nm、次いで膜形成速度11.0Å/sにて厚さ200nmとした。
【0120】
(実施例2)
トルクセン誘導体としての化合物1に代えて、化合物24を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で有機電界発光素子を作製した。
【0121】
[塗布膜および成膜性評価]
(実施例3、4および比較例1、2)
化合物1、22、10,15−ジヒドロ−5H−ジインデノ[1,2−a:1’,2’−c]フルオレン(10,15−Dihydro−5H−diindeno[1,2−a:1’,2’−c]fluorene、トルクセン)、Ph3−Trについて、成膜性を評価した。具体的には、まず、実施例1と同様にして、ITO−ガラス基板のパターニング、洗浄、正孔注入層(PEDOT:PSSからなる層)の形成を行なった。次いで、5mgの化合物1、22、トルクセンまたはPh3−Trをクロロホルム0.3mlに溶解させてトルクセン誘導体溶液を作製した。このトルクセン誘導体溶液を用いて、ITO−ガラス基板の正孔注入層上に、2000rpm、10秒、次いで3000rpm、20秒の条件でスピンコート塗布を行った。その後、溶液が塗布されたITO−ガラス基板を80℃で30分乾燥させて、トルクセン誘導体層を形成した。
【0122】
形成されたトルクセン誘導体層について、表面粗さおよび膜厚を測定した。表面粗さの測定においては、標準カンチレバーOP−75041が装着されたナノスケールハイブリッド顕微鏡VN−8010(キーエンス株式会社製)を用い、各トルクセン誘導体層の表面を200μm×200μmの範囲にわたり測定を行い、JIS B 0601−1994に準拠した算術平均粗さRaを算出した。膜厚の測定においては、カッターを用いてトルクセン誘導体層上から切り目を形成し、切り目部分とその他の部分の高低差を複数箇所において測定、算出した。上記高低差の平均値を正孔注入層とトルクセン誘導体層の厚さとみなし、高低差の平均値から正孔注入層の厚さ(40nm)を差し引いた値をトルクセン誘導体層の厚さとして算出した。結果を表1に示す。
【0123】
【表1】
【0124】
表1の結果を参照すると、実施例3、4において用いられた化合物1、22のトルクセン誘導体は、比較例1、2において用いられたトルクセン、Ph3−Trと比較して表面粗さが極めて小さいトルクセン誘導体層を形成でき、成膜性が良好であることがわかる。したがって、実施例3、4において形成された発光層は、比較例1、2のものと比較して、より均一な膜厚を有し、発光素子の各層の不均一性に起因する問題、例えば印加される電界が不均一となることによる漏電や発光むらがより確実に防止されていることが推測される。
【0125】
[素子特性評価]
作製した実施例1および2に係る有機電界発光素子の評価結果を以下の表2に示す。なお、作製した有機電界発光素子の発光特性の評価には、浜松ホトニクス製C9920−11輝度配向特性測定装置を用いた。
【0126】
【表2】
【0127】
表2の結果を参照すると、本実施形態に係るトルクセン誘導体は良好な外部量子収率を示した。
【0128】
以上の結果からわかるように、本実施形態に係るトルクセン誘導体は、上述した一般式(1)で表される構造を有することにより、層を形成する際の成膜性に優れたものとなる。また、本実施形態に係るトルクセン誘導体を含む有機電界発光素子の各層の不均一性に起因する問題、例えば印加される電界が不均一となることによる漏電や発光むらを防止することができる。
【0129】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。