(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の電力変換装置の製造方法と冷却構造を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1〜実施例6に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
実施例1における製造方法と冷却構造は、走行用駆動源などとして車両に搭載されるモータジェネレータのインバータ(電力変換装置の一例)に適用したものである。実施例1の構成を、「インバータの冷却構造」、「インバータの製造方法」に分けて説明する。
【0011】
[インバータの冷却構造]
図1は実施例1におけるインバータの冷却構造の表面図を示し、
図2は裏面図を示し、
図3は断面図を示す。以下、
図1〜
図3に基づいて、実施例1におけるインバータの冷却構造の詳細構成を説明する。
【0012】
実施例1のインバータ1Aは、
図1〜
図3に示すように、インバータケース2(金属ケース)と、パワーモジュール3(発熱デバイス)と、溶接部4と、固定部5と、流路金属板6と、冷媒流路7と、を備えている。このインバータ1Aは、パワーモジュール3と冷媒流路7が、インバータケース2を挟んで対向配置され、冷媒流路7を流れる冷媒によってパワーモジュール3を冷却する構造としている。
【0013】
前記インバータケース2は、
図1及び
図3に示すように、ケース表面2a側にパワーモジュール3が固定され、ケース裏面2b側に冷媒流路7が形成される。このインバータケース2は、金属板をプレス成形することで構成され、
図3に示すように、ケース外周縁2cをパワーモジュール3側に突設させたトレー形状とされる。インバータケース2は、例えば、図外のモータジェネレータのモータハウジングの外周面から突出するケース取り付け部にネジ止めなどにより固定される。インバータケース2の素材としては、冷間圧延鋼板やステンレス板やアルミニウム板などの溶接接合が可能な金属板が用いられる。
【0014】
前記パワーモジュール3は、発熱デバイスの一つであり、半導体素子3aと、絶縁配線基板3bと、ヒートスプレッダー3c(放熱部材)と、絶縁樹脂3eとを有する一体モジュール部品として構成される。
ここで、「発熱デバイス」とは、自己発熱や図外のモータジェネレータやバッテリから受けた熱を通電と共に伝達することで発熱するものをいう。
【0015】
パワーモジュール3の製造に際しては、半導体素子3aと絶縁配線基板3bとヒートスプレッダー3cをシート状はんだ材などによる接合部を介して重ねて実装する。その後、エポキシ樹脂などによるトランスファーモールドによって絶縁樹脂3eが形成される。放熱部材であるヒートスプレッダー3cは、直方体形状の絶縁樹脂3eより縦寸法と横寸法が大きな長方形状板とされ、絶縁樹脂3eの外周から突出する外周部を有する。そして、ヒートスプレッダー3cの両板面うち、絶縁樹脂3eが接着される板面の反対面が、インバータケース2のケース冷却面2dに接触する放熱面3dとされる。つまり、パワーモジュール3は、インバータケース2のケース冷却面2dに接触する放熱面3dを有するヒートスプレッダー3cを一体に備える構造とされる。なお、ヒートスプレッダー3cの素材としては、アルミ合金材などの高伝熱性金属材が用いられる。また、パワーモジュール3からは、
図1に示すように、強電系のPNバスバー3fやUVWバスバー3gが突出して設けられる。
【0016】
パワーモジュール3は、インバータケース2のケース表面2aのうち、冷媒流路7と対向するケース冷却面2dの位置に締結固定される。そして、パワーモジュール3の締結固定状態において、
図3に示すように、インバータケース2と接触するヒートスプレッダー3cの放熱面3dが、ケース冷却面2dに対して密着状態とされる。ここで、パワーモジュール3は、ヒートスプレッダー3cの外周部を固定部5とし、インバータケース2に締結固定される。この固定部5は、固定ネジ5aと、インバータケース2のケース裏面2bに固定された雌ネジ部5bと、により構成される。そして、固定部5は、
図1及び
図3に示すように、冷媒流路7を跨いで溶接部4よりも外側の位置とされる。
【0017】
前記流路金属板6は、金属板をプレス成形することで、凹み流路形状6aと外周フランジ部6bを有する構成としたものである。凹み流路形状6aは、
図3に示すように、インバータケース2への溶接接合状態で冷媒流路7を形成する。外周フランジ部6bは、
図1〜
図3に示すように、インバータケース2のケース裏面2bに対し、レーザー溶接やアーク溶接などによって溶接部4(冷却凝固させた溶接ビード)を形成して溶接接合される。例えば、溶接部4がレーザー溶接による場合、溶接部4による接合幅は0.3mm〜0.7mm程度とされるもので、0.5mm程度の均一な接合幅にするのがより好ましい。なお、流路金属板6には、水などの冷媒が流入する冷媒入力部6cと、熱を奪って温度が上昇した冷媒が流出する冷媒出力部6dが形成される。
【0018】
[インバータの製造方法]
図4は実施例1におけるインバータ1Aの製造方法の初期状態を示し、
図5は流路溶接工程を示し、
図6は発熱デバイス配置工程を示し、
図7は発熱デバイス密着固定工程を示す。以下、
図4〜
図7に基づいて、実施例1におけるインバータ1Aの製造方法を構成する各工程を説明する。
【0019】
インバータ1Aの組み立て製造を開始する前の初期状態では、
図4に示すように、組み立て部品として、インバータケース2(金属ケース)と、パワーモジュール3(発熱デバイス)と、流路金属板6と、を用意する。そして、流路溶接工程(
図5)と、発熱デバイス配置工程(
図6)と、発熱デバイス密着固定工程(
図7)と、を経過してインバータ1Aが製造される。
【0020】
前記流路溶接工程は、
図5に示すように、インバータケース2のケース裏面2bに、凹み流路形状6aを有する流路金属板6の外周フランジ部6b(外周部)をレーザー溶接やアーク溶接などによって溶接する。この溶接では、外周フランジ部6bのうち、凹み流路形状6aを囲む輪郭線に沿って入熱することで、インバータケース2と流路金属板6の金属を溶融して溶接ビードを形成し、その後、溶接ビードを冷却して凝固させる。そして、凝固した溶接ビードによる溶接部4によってインバータケース2と流路金属板6を一体に溶接接合する。この溶接接合により、インバータケース2と流路金属板6の凹み流路形状6aによって、冷媒入力部6cから冷媒出力部6dへと冷媒が流れる冷媒流路7が形成される。
【0021】
前記発熱デバイス配置工程は、
図6に示すように、流路溶接工程に続き、インバータケース2のケース表面2aのうち、冷媒流路7と対向するケース冷却面2dの位置にパワーモジュール3を配置する。このとき、パワーモジュール3に一体に有するヒートスプレッダー3cの放熱面3dは平面形状であるのに対し、インバータケース2のケース冷却面2dは、流路溶接工程による入熱と冷却によってドーム形状に凸歪変形している。
【0022】
前記発熱デバイス密着固定工程は、
図7に示すように、発熱デバイス配置工程に続き、パワーモジュール3に一体に有するヒートスプレッダー3cの外周部を固定部5とし、固定ネジ5aを雌ネジ部5bにネジ込むことで締結固定力F(=締結トルク)を加える。この締結固定力Fによって、凸歪変形しているインバータケース2のケース冷却面2dを、ヒートスプレッダー3cの放熱面3dにより押え付け、ケース冷却面2dの凸歪変形を抑える。そして、締結固定力Fを、ヒートスプレッダー3cの放熱面3dが、インバータケース2のケース冷却面2dに密着するまで上昇させることで、パワーモジュール3をインバータケース2に固定する。この発熱デバイス密着固定工程においては、パワーモジュール3をインバータケース2に固定する固定部5を、冷媒流路7を跨いで溶接部4よりも外側の位置としている。
【0023】
次に、作用を説明する。
実施例1のインバータ1Aの製造方法と冷却構造における作用を、「レーザー溶接による凸歪変形の発生メカニズム」、「パワーモジュールの冷却効率向上作用」、「パワーモジュールの放熱促進作用」に分けて説明する。
【0024】
[レーザー溶接による凸歪変形の発生メカニズム]
インバータケース2に対し流路金属板6をレーザー溶接により接合する際、インバータケース2が凸歪変形を生じる。以下、
図8に基づいて、レーザー溶接による凸歪変形の発生メカニズムを説明する。
【0025】
図8の[I 材料]に記載したように、ケースと凹み流路形状を用意し、
図8の[II 溶接接合]に記載したように、ケースの背面に凹み流路形状をレーザー溶接によって溶接接合する。この溶接接合によって溶接部に対し入熱された後、
図8の[III 溶接部冷却]に記載したように、入熱された溶接部を冷却すると、溶接ビードの凝固によって熱収縮が生じる。この熱収縮状況を観察すると、入熱深さが浅い凹み流路形状側は、溶接ビード幅が広いために熱収縮量が大きくなる。一方、入熱深さが深いケース側は、溶接ビード幅が狭いために熱収縮量が小さくなる。このように、溶接ビード幅の違いにより熱収縮量の大きさが異なるため、熱収縮量が小さいケース表面が凸方向の反りが生じ、ケースがドーム形状の凸歪変形する。
【0026】
[パワーモジュールの冷却効率向上作用]
上記のように、インバータケース2に流路金属板6を溶接すると、溶接ビードの熱収縮歪によりインバータケース2側にドーム形状の凸歪変形が生じる。これに対し、実施例1では、流路溶接工程(
図5)と、発熱デバイス配置工程(
図6)と、発熱デバイス密着固定工程(
図7)と、を有するインバータ1Aの製造方法とした。このうち、発熱デバイス密着固定工程(
図7)では、パワーモジュール3の外周部に加える締結固定力Fによってインバータケース2の凸歪変形を抑え、パワーモジュール3の放熱面3bをケース冷却面2dに密着させてインバータケース2に固定する。
即ち、インバータケース2に流路金属板6を溶接すると、溶接ビードの熱収縮歪によりインバータケース2側にドーム形状の凸歪変形が生じることに着目し、ドーム形状の凸歪変形を積極的に利用し、パワーモジュール3の冷却効率を上げる構成とした。
【0027】
例えば、溶接ビードの熱収縮歪によりインバータケース側にドーム形状の凸歪変形が生じるとき、ヒートスプレッダーの放熱面に凸歪変形に合う凹面を形成し、パワーモジュールの接触面積を稼ぐことが考えられる。しかし、この場合、ヒートスプレッダーの放熱面に工数を要する凹面加工を要するだけでなく、安定して接触面積を拡大できないし、さらに、面接触性が長期にわたって維持されず、冷却効率を向上することができない、という問題がある。
【0028】
なぜなら、溶接ビードの熱収縮歪によるドーム形状の凸歪変形は、環境条件や溶接条件などの違いにより、凸歪変形のドーム形状がばらつく。このため、ヒートスプレッダーの放熱面を一定形状の凹面加工にすると、製品毎に接触面積にバラツキが生じる。そして、ヒートスプレッダーの放熱面とケース冷却面が接触していても、面合わせにより互いに接触しているだけである。このため、例えば、使用状態で加熱/冷却が繰り返されると、接触している放熱面とケース冷却面が変形し、面合わせによる接触面積が製造時の接触面積に比べて減少することがある。
【0029】
これに対し、実施例1では、凸歪変形を抑える変形力を加えることにより、冷媒流路7とはインバータケース2を挟んで対向配置されるパワーモジュール3の密着面積を稼ぐ構成としている。つまり、パワーモジュール3の外周部に加える締結固定力Fによってインバータケース2の凸歪変形が抑えられ、ヒートスプレッダー3cの放熱面3bとケース冷却面2dとの密着面積が拡大される。このため、パワーモジュール3で発生した熱は、拡大された密着面積を通して効率良く冷媒流路7の冷媒により抜熱されるというパワーモジュール3の冷却作用が発揮される。
【0030】
そして、締結固定力Fを加えたままの状態で密着面積を拡大している。このため、放熱面3bとケース冷却面2dとの間には互いに押し合う密着力が作用し続けることになる。よって、例えば、使用状態で加熱/冷却が繰り返されるなどの原因により密着面に変形力が作用しても、作用する変形力が密着力を超えない限り、密着面積を拡大した状態が長期にわたり安定して維持される。
【0031】
このように、インバータケース2のケース冷却面2dに対するパワーモジュール3の密着性が安定して確保されることで、パワーモジュール3の冷却効率が向上する。加えて、ヒートスプレッダー3cの放熱面3bは、素材の板面形状のままでも良いというように、特に、面加工の追加を要さない。このため、放熱面を凹面加工する比較例と比べたとき、低工数・低コストを達成しながら、パワーモジュール3の冷却効率を比較例よりも向上させることができる。
【0032】
実施例1では、インバータ1Aの冷却構造において、パワーモジュール3は、インバータケース2のケース表面2aのうち、冷媒流路7と対向するケース冷却面2dの位置に固定される。そして、インバータケース2と接触するヒートスプレッダー3cの放熱面3dが、ケース冷却面2dに対して密着状態とされる構成とした。
従って、インバータ1Aの製造方法と同様に、インバータケース2のケース冷却面2dに対するパワーモジュール3の密着性が確保されることで、パワーモジュール3の冷却効率が向上する。
【0033】
[パワーモジュールの放熱促進作用]
実施例1では、インバータ1Aの製造方法において、発熱デバイス密着固定工程は、パワーモジュール3をインバータケース2に固定する固定部5を、冷媒流路7を跨ぐように溶接部4よりも外側の位置とする。
【0034】
即ち、溶接ビードによるインバータケース2の熱歪変形は、溶接部4により囲まれた冷媒流路7の中心部分が凸歪変形の頂点になり、溶接部4の外周部まで熱歪変形が残る。よって、パワーモジュール3の外周部に加える締結固定力Fによってインバータケース2の凸歪変形を抑えるには、溶接部4よりも外側の位置を固定部5とし、この固定部5に締結固定力Fを加えるのが密着面積を確保するのに有効である。
【0035】
従って、固定部5によりインバータケース2の凸歪変形を抑える領域が、冷媒流路7を跨いで溶接部4よりも外側領域まで拡大される。このため、ヒートスプレッダー3cの放熱面3bとケース冷却面2dとの密着面積(=放熱面積)が、冷媒流路7に対応するケース冷却面2dを覆う領域まで拡大される。そして、密着面積が拡大する分、パワーモジュール3からの放熱が促進される。
【0036】
実施例1では、インバータ1Aの冷却構造において、パワーモジュール3をインバータケース2に固定する固定部5は、冷媒流路7を跨ぐように溶接部4よりも外側の位置とされる。
【0037】
従って、インバータ1Aの製造方法と同様に、インバータケース2の凸歪変形を抑える領域が、溶接部4よりも外側領域まで拡大される。このため、ヒートスプレッダー3cの放熱面3bとケース冷却面2dとの密着面積(=放熱面積)が、冷媒流路7に対応するケース冷却面2dの覆う領域まで拡大される。そして、密着面積が拡大する分、パワーモジュール3からの放熱が促進される。
【0038】
実施例1では、インバータ1Aの製造方法において、パワーモジュール3は、インバータケース2のケース冷却面2dに接触する放熱面3bを有するヒートスプレッダー3cを一体に有する。発熱デバイス密着固定工程は、ヒートスプレッダー3cの外周部をインバータケース2に締結固定する。
【0039】
即ち、ヒートスプレッダー3cの外周部をインバータケース2に締結固定することで、ヒートスプレッダー3cの放熱面3bとインバータケース2のケース冷却面2dが密着固定される。つまり、パワーモジュール3のうち、ヒートスプレッダー3cを除く構成に放熱面を形成すると、放熱面積が絶縁樹脂形状による制限を受けて狭くなることがある。
【0040】
これに対し、パワーモジュール3に、放熱部材としてのヒートスプレッダー3cを一体に有することで、放熱部材を有さない場合に比べ、放熱面3bの放熱面積が拡大される。そして、放熱面積が拡大される分、パワーモジュール3からの放熱が促進されることになる。加えて、金属材によるヒートスプレッダー3cの場合には、熱伝達性が高められると共に、締結固定時にヒートスプレッダー3cが弾性変形することを利用し、ケース冷却面2dに対する密着面積をより拡大することができる。
【0041】
実施例1では、インバータ1Aの冷却構造において、パワーモジュール3は、インバータケース2のケース冷却面2dに接触する放熱面3bを有するヒートスプレッダー3cを一体に有する構造とされる。ヒートスプレッダー3cの外周部が、インバータケース2に締結固定される。
従って、インバータ1Aの製造方法と同様に、パワーモジュール3に、放熱部材としてのヒートスプレッダー3cを一体に有することで、放熱部材を有さない場合に比べ、放熱面3bの放熱面積が拡大可能である。そして、放熱面積が拡大される分、パワーモジュール3からの放熱が促進されることになる。加えて、金属材によるヒートスプレッダー3cの場合には、熱伝達性を高めることができると共に、締結固定時にヒートスプレッダー3cが弾性変形することを利用し、ケース冷却面2dに対する密着面積をより拡大することができる。
【0042】
次に、効果を説明する。
実施例1におけるインバータ1Aの製造方法と冷却構造にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0043】
(1) 発熱デバイス(パワーモジュール3)と冷媒流路7が、金属ケース(インバータケース2)を挟んで対向配置される。
この電力変換装置(インバータ1A)の製造方法において、流路溶接工程(
図5)と、発熱デバイス配置工程(
図6)と、発熱デバイス密着固定工程(
図7)と、を有する。
流路溶接工程(
図5)は、金属ケース(インバータケース2)のケース裏面2bに、凹み流路形状6aを有する流路金属板6の外周部(外周フランジ部6b)を溶接し、流路金属板6の凹み流路形状6aにより冷媒流路7を形成する。
発熱デバイス配置工程(
図6)は、流路溶接工程に続き、金属ケース(インバータケース2)のケース表面2aのうち、冷媒流路7と対向するケース冷却面2dの位置に発熱デバイス(パワーモジュール3)を配置する。
発熱デバイス密着固定工程(
図7)は、発熱デバイス配置工程に続き、発熱デバイス(パワーモジュール3)の外周部に加える締結固定力Fによって金属ケース(インバータケース2)の凸歪変形を抑え、発熱デバイス(パワーモジュール3)の放熱面3dをケース冷却面2dに密着させて金属ケース(インバータケース2)に固定する。
このため、金属ケース(インバータケース2)のケース冷却面2dに対する放熱面3dの密着性を確保することで、発熱デバイス(パワーモジュール3)の冷却効率を向上させる電力変換装置(インバータ1A)の製造方法を提供することができる。
【0044】
(2) 発熱デバイス密着固定工程は、発熱デバイス(パワーモジュール3)を金属ケース(インバータケース2)に固定する固定部5を、冷媒流路7を跨ぐように溶接部4よりも外側の位置とする(
図7)。
このため、(1)の効果に加え、放熱面3bとケース冷却面2dとの密着面積が拡大されることで、発熱デバイス(パワーモジュール3)からの放熱を促進することができる。
【0045】
(3) 発熱デバイス(パワーモジュール3)は、金属ケース(インバータケース2)のケース冷却面2dに接触する放熱面3bを有する放熱部材(ヒートスプレッダー3c)を一体に有する。
発熱デバイス密着固定工程は、放熱部材(ヒートスプレッダー3c)の外周部を金属ケース(インバータケース2)に固定する(
図7)。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、放熱部材(ヒートスプレッダー3c)により放熱面3bの放熱面積が拡大されることで、発熱デバイス(パワーモジュール3)からの放熱を促進することができる。
【0046】
(4) 発熱デバイス(パワーモジュール3)と冷媒流路7が、金属ケース(インバータケース2)を挟んで対向配置される。
この電力変換装置(インバータ1A)の冷却構造において、冷媒流路7は、金属ケース(インバータケース2)のケース裏面2bに溶接された凹み流路形状6aによる流路金属板6の外周部(外周フランジ部6b)を溶接することで形成される。
発熱デバイス(パワーモジュール3)は、金属ケース(インバータケース2)のケース表面2aのうち、冷媒流路7と対向するケース冷却面2dの位置に固定され、かつ、金属ケース(インバータケース2)と接触する放熱面3dが、ケース冷却面2dに対して密着状態とされる(
図3)。
このため、金属ケース(インバータケース2)のケース冷却面2dに対する放熱面3dの密着性を確保することで、発熱デバイス(パワーモジュール3)の冷却効率を向上させる電力変換装置(インバータ1A)の冷却構造を提供することができる。
【0047】
(5) 発熱デバイス(パワーモジュール3)を金属ケース(インバータケース2)に固定する固定部5は、冷媒流路7を跨ぐように溶接部4よりも外側の位置とされる(
図3)。
このため、(4)の効果に加え、放熱面3bとケース冷却面2dとの密着面積が拡大されることで、発熱デバイス(パワーモジュール3)からの放熱を促進することができる。
【0048】
(6) 発熱デバイス(パワーモジュール3)は、金属ケース(インバータケース2)のケース冷却面2dに接触する放熱面3bを有する放熱部材(ヒートスプレッダー3c)を一体に有する構造とされる。
放熱部材(ヒートスプレッダー3c)の外周部が、金属ケース(インバータケース2)に固定される(
図3)。
このため、(4)又は(5)の効果に加え、放熱部材(ヒートスプレッダー3c)により放熱面3bの放熱面積が拡大されることで、発熱デバイス(パワーモジュール3)からの放熱を促進することができる。
【実施例2】
【0049】
実施例2は、発熱デバイスを平滑コンデンサとし、平滑コンデンサを、ブラケット部材を介してインバータケースに対して締結固定するようにした例である。
【0050】
まず、構成を説明する。
実施例2における製造方法と冷却構造は、実施例1と同様に、走行用駆動源などとして車両に搭載されるモータジェネレータのインバータ(電力変換装置の一例)に適用したものである。実施例2の構成を、「インバータの冷却構造」、「インバータの製造方法」に分けて説明する。
【0051】
[インバータの冷却構造]
図9は実施例2におけるインバータの冷却構造の断面図を示す。以下、
図9に基づいて、実施例2におけるインバータの冷却構造の詳細構成を説明する。
【0052】
実施例2のインバータ1Bは、
図9に示すように、インバータケース2(金属ケース)と、平滑コンデンサ8(発熱デバイス)と、溶接部4と、固定部5と、流路金属板6と、冷媒流路7と、ブラケット部材9と、を備えている。このインバータ1Bは、平滑コンデンサ8と冷媒流路7が、インバータケース2を挟んで対向配置され、冷媒流路7を流れる冷媒によって平滑コンデンサ8を冷却する構造としている。
【0053】
前記平滑コンデンサ8は、発熱デバイスの一つであり、電圧が高いときに蓄電し、電圧が低いときに放電して電圧の変動を抑えるインバータ回路部品である。この平滑コンデンサ8は、直方体形状であり、外周面が絶縁被膜で覆われていて、外周面のうち、表面側がブラケット部材9による固定面8aとされ、裏面側がインバータケース2のケース冷却面2dに接触する放熱面8bとされる。つまり、平滑コンデンサ8は、パワーモジュール3とは異なり、裏面側をインバータケース2のケース冷却面2dに接触する放熱面8bとする放熱部材を有さない構造とされる。
【0054】
前記ブラケット部材9は、平滑コンデンサ8の外側を覆った状態でインバータケース2に平滑コンデンサ8を固定する。このブラケット部材9は、平滑コンデンサ8の外側を覆う形状による発熱デバイス押え部9aと、発熱デバイス押え部9aの外周に延設されるケース固定部9bと、を有して構成される。
【0055】
平滑コンデンサ8は、インバータケース2のケース表面2aのうち、冷媒流路7と対向するケース冷却面2dの位置に、ブラケット部材9を介して締結固定される。そして、平滑コンデンサ8は、ブラケット部材9による締結固定状態において、
図9に示すように、インバータケース2と接触する平滑コンデンサ8の放熱面8bが、ケース冷却面2dに対して密着状態とされる。ここで、ブラケット部材9を介して固定される平滑コンデンサ8は、ブラケット部材9のケース固定部9bを固定部5とし、インバータケース2に締結固定される。この固定部5は、固定ネジ5aと、インバータケース2のケース裏面2bに固定された雌ネジ部5bと、により構成される。そして、固定部5は、
図9に示すように、冷媒流路7を跨いで溶接部4よりも外側の位置とされる。
なお、他の構成は、実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
【0056】
[インバータの製造方法]
実施例2のインバータ1Bの組み立て製造を開始する前の初期状態では、組み立て部品として、インバータケース2(金属ケース)と、平滑コンデンサ8(発熱デバイス)と、流路金属板6と、ブラケット部材9と、を用意する。そして、流路溶接工程と、発熱デバイス配置工程と、発熱デバイス密着固定工程と、を経過してインバータ1Bが製造される。
【0057】
前記流路溶接工程は、実施例1の
図5と同様であり、インバータケース2のケース裏面2bに、凹み流路形状6aを有する流路金属板6の外周フランジ部6b(外周部)をレーザー溶接やアーク溶接などによって溶接接合する。この溶接接合により、インバータケース2と流路金属板6の凹み流路形状6aによって、冷媒流路7が形成される。
【0058】
前記発熱デバイス配置工程は、実施例1の
図6と同様であり、流路溶接工程に続き、インバータケース2のケース表面2aのうち、冷媒流路7と対向するケース冷却面2dの位置に平滑コンデンサ8を配置する。このとき、平滑コンデンサ8の放熱面8bは平面形状であるのに対し、インバータケース2のケース冷却面2dは、流路溶接工程による入熱と冷却によってドーム形状に凸歪変形している。
【0059】
前記発熱デバイス密着固定工程は、発熱デバイス配置工程に続き、平滑コンデンサ8の外周をブラケット部材9で覆い、ブラケット部材9のケース固定部9b(外周部)を固定部5とし、固定ネジ5aを雌ネジ部5bにネジ込むことで締結固定力F(=締結トルク)を加える。この締結固定力Fによって、凸歪変形しているインバータケース2のケース冷却面2dを、平滑コンデンサ8の放熱面8bにより押え付け、ケース冷却面2dの凸歪変形を抑える。そして、締結固定力Fを、平滑コンデンサ8の放熱面8bが、インバータケース2のケース冷却面2dに密着するまで上昇させることで、平滑コンデンサ8をインバータケース2に固定する。この発熱デバイス密着固定工程においては、平滑コンデンサ8をインバータケース2に固定する固定部5を、流路溶接工程での溶接部4よりも外側の位置としている。
【0060】
次に、作用を説明する。
実施例2では、インバータ1Bの製造方法において、平滑コンデンサ8の外側を覆った状態でインバータケース2に平滑コンデンサ8を固定するブラケット部材9を用意する。そして、発熱デバイス密着固定工程は、平滑コンデンサ8を、ブラケット部材9を介してインバータケース2に締結固定する。
【0061】
即ち、平滑コンデンサ8の外周を覆うブラケット部材9をインバータケース2に締結固定することで、平滑コンデンサ8の放熱面8bとインバータケース2のケース冷却面2dが密着固定される。つまり、固定部5に加えられる締結固定力Fは、ブラケット部材9を介して平滑コンデンサ8のケース固定面8aに分散して作用する。そして、ケース固定面8aに作用する分散した力が、平滑コンデンサ8の放熱面8bからケース冷却面2dに作用し、ケース冷却面2dの凸歪変形を抑える。
【0062】
従って、発熱デバイスが絶縁被膜などで薄く覆われた平滑コンデンサ8であるとき、平滑コンデンサ8の絶縁性を確保しつつ、平滑コンデンサ8の放熱面8bとケース冷却面2dとの密着面積を確保することができる。
【0063】
実施例2では、インバータ1Bの冷却構造において、平滑コンデンサ8の外側を覆った状態でインバータケース2に平滑コンデンサ8を固定するブラケット部材9を有する。そして、平滑コンデンサ8は、ブラケット部材9を介してインバータケース2に固定される。
【0064】
従って、インバータ1Bの製造方法と同様に、発熱デバイスが絶縁被膜などで薄く覆われた平滑コンデンサ8であるとき、平滑コンデンサ8の絶縁性を確保しつつ、平滑コンデンサ8の放熱面8bとケース冷却面2dとの密着面積を確保することができる。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0065】
次に、効果を説明する。
実施例2におけるインバータ1Bの製造方法と冷却構造にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0066】
(7) 発熱デバイス(平滑コンデンサ8)の外側を覆った状態で金属ケース(インバータケース2)に発熱デバイス(平滑コンデンサ8)を固定するブラケット部材9を用意する。
発熱デバイス密着固定工程は、発熱デバイス(平滑コンデンサ8)を、ブラケット部材9を介して金属ケース(インバータケース2)に固定する(
図9)。
このため、上記(1),(2)の効果に加え、発熱デバイスが絶縁被膜などで薄く覆われたものであるとき、発熱デバイス(平滑コンデンサ8)の絶縁性を確保しつつ、発熱デバイスの放熱面8bとケース冷却面2dとの密着面積を確保することができる。
【0067】
(8) 発熱デバイス(平滑コンデンサ8)の外側を覆った状態で金属ケース(インバータケース2)に発熱デバイス(平滑コンデンサ8)を固定するブラケット部材9を有する。
発熱デバイス(平滑コンデンサ8)は、ブラケット部材9を介して金属ケース(インバータケース2)に固定される(
図9)。
このため、上記(4),(5)の効果に加え、発熱デバイスが絶縁被膜などで薄く覆われたものであるとき、発熱デバイス(平滑コンデンサ8)の絶縁性を確保しつつ、発熱デバイスの放熱面8bとケース冷却面2dとの密着面積を確保することができる。
【実施例3】
【0068】
実施例3は、発熱デバイスを第1強電バスバーモジュールとし、強電バスバーを覆う絶縁樹脂及び固定樹脂をインバータケースに対して締結固定するようにした例である。
【0069】
まず、構成を説明する。
実施例3における製造方法と冷却構造は、実施例1と同様に、走行用駆動源などとして車両に搭載されるモータジェネレータのインバータ(電力変換装置の一例)に適用したものである。実施例3の構成を、「インバータの冷却構造」、「インバータの製造方法」に分けて説明する。
【0070】
[インバータの冷却構造]
図10は実施例3におけるインバータの冷却構造の断面図を示す。以下、
図10に基づいて、実施例3におけるインバータの冷却構造の詳細構成を説明する。
【0071】
実施例3のインバータ1Cは、
図10に示すように、インバータケース2(金属ケース)と、第1強電バスバーモジュール10(発熱デバイス)と、溶接部4と、固定部5と、流路金属板6と、冷媒流路7と、を備えている。このインバータ1Cは、第1強電バスバーモジュール10と冷媒流路7が、インバータケース2を挟んで対向配置され、冷媒流路7を流れる冷媒によって第1強電バスバーモジュール10を冷却する構造としている。
【0072】
前記第1強電バスバーモジュール10は、発熱デバイスの一つであり、強電バスバー10aと、絶縁樹脂10bと、固定樹脂10cとによって構成される。強電バスバー10aは、パワーモジュールとモータジェネレータを接続するU相バスバー・V相バスバー・W相バスバーなどを有する。絶縁樹脂10bは、強電バスバー10aの外周を覆うように、樹脂モールド成形により形成される。固定樹脂10cは、インバータケース2へ固定する固定樹脂部分として、絶縁樹脂10bを強電バスバー10aの外側まで一体に延出させたものである。そして、絶縁樹脂10b及び固定樹脂10cの樹脂裏面が、インバータケース2のケース冷却面2dに接触する放熱面10dとされる。つまり、第1強電バスバーモジュール10は、放熱部材として、インバータケース2のケース冷却面2dに接触する放熱面10dを有する絶縁樹脂10b及び固定樹脂10cを一体に備える構造とされる。
【0073】
第1強電バスバーモジュール10は、インバータケース2のケース表面2aのうち、冷媒流路7と対向するケース冷却面2dの位置に締結固定される。そして、第1強電バスバーモジュール10の締結固定状態において、
図10に示すように、インバータケース2と接触する放熱面10dが、ケース冷却面2dに対して密着状態とされる。ここで、第1強電バスバーモジュール10は、絶縁樹脂10bの外周部に形成された固定樹脂10cを固定部5とし、インバータケース2に締結固定される。この固定部5は、固定ネジ5aと、インバータケース2のケース裏面2bに固定された雌ネジ部5bと、により構成される。そして、固定部5は、
図10に示すように、冷媒流路7を跨ぐように溶接部4よりも外側の位置とされる。
なお、他の構成は、実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
【0074】
[インバータの製造方法]
実施例3のインバータ1Cの組み立て製造を開始する前の初期状態では、組み立て部品として、インバータケース2(金属ケース)と、第1強電バスバーモジュール10(発熱デバイス)と、流路金属板6と、を用意する。そして、流路溶接工程と、発熱デバイス配置工程と、発熱デバイス密着固定工程と、を経過してインバータ1Cが製造される。
【0075】
前記流路溶接工程は、実施例1の
図5と同様であり、インバータケース2のケース裏面2bに、凹み流路形状6aを有する流路金属板6の外周フランジ部6b(外周部)をレーザー溶接やアーク溶接などによって溶接接合する。この溶接接合により、インバータケース2と流路金属板6の凹み流路形状6aによって、冷媒流路7が形成される。
【0076】
前記発熱デバイス配置工程は、実施例1の
図6と同様であり、流路溶接工程に続き、インバータケース2のケース表面2aのうち、冷媒流路7と対向するケース冷却面2dの位置に第1強電バスバーモジュール10を配置する。このとき、絶縁樹脂10b及び固定樹脂10cの裏面による放熱面10dは平面形状であるのに対し、インバータケース2のケース冷却面2dは、流路溶接工程による入熱と冷却によってドーム形状に凸歪変形している。
【0077】
前記発熱デバイス密着固定工程は、発熱デバイス配置工程に続き、第1強電バスバーモジュール10の固定樹脂10c(外周部)を固定部5とし、固定ネジ5aを雌ネジ部5bにネジ込むことで締結固定力F(=締結トルク)を加える。この締結固定力Fによって、凸歪変形しているインバータケース2のケース冷却面2dを、第1強電バスバーモジュール10の放熱面10dにより押え付け、ケース冷却面2dの凸歪変形を抑える。そして、締結固定力Fを、第1強電バスバーモジュール10の放熱面10dが、インバータケース2のケース冷却面2dに密着するまで上昇させることで、第1強電バスバーモジュール10をインバータケース2に固定する。この発熱デバイス密着固定工程においては、第1強電バスバーモジュール10をインバータケース2に固定する固定部5を、冷媒流路7を跨ぐように溶接部4よりも外側の位置としている。
【0078】
実施例3の作用については、実施例1のパワーモジュール3を、第1強電バスバーモジュール10に置き換えると、実施例1と同様に「第1強電バスバーモジュールの冷却効率向上作用」、「第1強電バスバーモジュールの放熱促進作用」を示す。
【0079】
よって、実施例3におけるインバータ1Cの製造方法と冷却構造にあっては、実施例1と同様に、実施例1の(1)〜(6)に記載した効果が得られる。
【実施例4】
【0080】
実施例4は、発熱デバイスを第2強電バスバーモジュールとし、強電バスバーを覆う絶縁樹脂を、ブラケット部材を介してインバータケースに対して溶接固定するようにした例である。
【0081】
まず、構成を説明する。
実施例4における製造方法と冷却構造は、実施例1と同様に、走行用駆動源などとして車両に搭載されるモータジェネレータのインバータ(電力変換装置の一例)に適用したものである。実施例4の構成を、「インバータの冷却構造」、「インバータの製造方法」に分けて説明する。
【0082】
[インバータの冷却構造]
図11は実施例4におけるインバータの冷却構造の断面図を示す。以下、
図11に基づいて、実施例4におけるインバータの冷却構造の詳細構成を説明する。
【0083】
実施例4のインバータ1Dは、
図11に示すように、インバータケース2(金属ケース)と、第2強電バスバーモジュール11(発熱デバイス)と、溶接部4と、固定部5と、流路金属板6と、冷媒流路7と、ブラケット部材9と、を備えている。このインバータ1Dは、第2強電バスバーモジュール11と冷媒流路7が、インバータケース2を挟んで対向配置され、冷媒流路7を流れる冷媒によって第2強電バスバーモジュール11を冷却する構造としている。
【0084】
前記第2強電バスバーモジュール11は、発熱デバイスの一つであり、強電バスバー11aと、絶縁樹脂11bとによって構成される。強電バスバー11aは、パワーモジュールとモータジェネレータを接続するU相バスバー・V相バスバー・W相バスバーなどを有する。絶縁樹脂11bは、強電バスバー11aの外周を覆うように、樹脂モールド成形により形成される。つまり、第2強電バスバーモジュール11は、インバータケース2のケース冷却面2dに接触する放熱面11dを有する絶縁樹脂11bを一体に備える構造とされる。
【0085】
前記ブラケット部材9は、絶縁樹脂11bの外側を覆った状態で第2強電バスバーモジュール11をインバータケース2に溶接固定する。このブラケット部材9は、絶縁樹脂11bの外側を覆う形状による発熱デバイス押え部9aと、発熱デバイス押え部9aの外周に延設されるケース固定部9bと、を有して構成される。
【0086】
第2強電バスバーモジュール11は、インバータケース2のケース表面2aのうち、冷媒流路7と対向するケース冷却面2dの位置に、ブラケット部材9を介して溶接固定される。そして、強電バスバー11aを内蔵する絶縁樹脂11bは、ブラケット部材9による締結固定状態において、
図11に示すように、インバータケース2と接触する絶縁樹脂11bの放熱面11dが、ケース冷却面2dに対して密着状態とされる。ここで、ブラケット部材9を介して固定される絶縁樹脂11bは、ブラケット部材9のケース固定部9bを固定部5とし、インバータケース2に溶接固定される。この固定部5は、レーザー溶接などによる溶接部5cにより構成される。そして、固定部5は、
図11に示すように、冷媒流路7を跨ぐように溶接部4よりも外側の位置とされる。
なお、他の構成は、実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
【0087】
[インバータの製造方法]
実施例4のインバータ1Dの組み立て製造を開始する前の初期状態では、組み立て部品として、インバータケース2(金属ケース)と、第2強電バスバーモジュール11(発熱デバイス)と、流路金属板6と、ブラケット部材9と、を用意する。そして、流路溶接工程と、発熱デバイス配置工程と、発熱デバイス密着固定工程と、を経過してインバータ1Dが製造される。
【0088】
前記流路溶接工程は、実施例1の
図5と同様であり、インバータケース2のケース裏面2bに、凹み流路形状6aを有する流路金属板6の外周フランジ部6b(外周部)をレーザー溶接やアーク溶接などによって溶接接合する。この溶接接合により、インバータケース2と流路金属板6の凹み流路形状6aによって、冷媒流路7が形成される。
【0089】
前記発熱デバイス配置工程は、実施例1の
図6と同様であり、流路溶接工程に続き、インバータケース2のケース表面2aのうち、冷媒流路7と対向するケース冷却面2dの位置に、第2強電バスバーモジュール11を配置する。このとき、第2強電バスバーモジュール11の放熱面11dは平面形状であるのに対し、インバータケース2のケース冷却面2dは、流路溶接工程による入熱と冷却によってドーム形状に凸歪変形している。
【0090】
前記発熱デバイス密着固定工程は、発熱デバイス配置工程に続き、第2強電バスバーモジュール11の外周をブラケット部材9で覆い、ブラケット部材9のケース固定部9b(外周部)を固定部5とし、レーザー溶接などを行うことで溶接固定力F’(=溶接トルク)を加える。この溶接固定力F’によって、凸歪変形しているインバータケース2のケース冷却面2dを、絶縁樹脂11bの放熱面11dにより押え付け、ケース冷却面2dの凸歪変形を抑える。そして、溶接固定力F’として、絶縁樹脂11bの放熱面11dが、インバータケース2のケース冷却面2dに密着する大きさの力を与えることで、第2強電バスバーモジュール11をインバータケース2に固定する。この発熱デバイス密着固定工程においては、第2強電バスバーモジュール11をインバータケース2に固定する固定部5を、冷媒流路7を跨ぐように溶接部4よりも外側の位置としている。
【0091】
実施例4の作用については、実施例2の平滑コンデンサ8を、第2強電バスバーモジュール11に置き換えると、実施例2と同様の作用を示す。
【0092】
よって、実施例4におけるインバータ1Dの製造方法と冷却構造にあっては、実施例2と同様に、実施例1の(1),(2),(4),(5)に記載した効果、及び、実施例2の(7),(8)に記載した効果が得られる。
【実施例5】
【0093】
実施例5は、発熱デバイスを第3強電バスバーモジュールとし、第3強電バスバーモジュールに有するヒートスプレッダーをインバータケースに締結固定するようにした例である。
【0094】
まず、構成を説明する。
実施例5における製造方法と冷却構造は、実施例1と同様に、走行用駆動源などとして車両に搭載されるモータジェネレータのインバータ(電力変換装置の一例)に適用したものである。実施例5の構成を、「インバータの冷却構造」、「インバータの製造方法」に分けて説明する。
【0095】
[インバータの冷却構造]
図12は実施例5におけるインバータの冷却構造の断面図を示す。以下、
図12に基づいて、実施例5におけるインバータの冷却構造の詳細構成を説明する。
【0096】
実施例5のインバータ1Eは、
図12に示すように、インバータケース2(金属ケース)と、第3強電バスバーモジュール12(発熱デバイス)と、溶接部4と、固定部5と、流路金属板6と、冷媒流路7と、を備えている。このインバータ1Eは、第3強電バスバーモジュール12と冷媒流路7が、インバータケース2を挟んで対向配置され、冷媒流路7を流れる冷媒によって第3強電バスバーモジュール12を冷却する構造としている。
【0097】
前記第3強電バスバーモジュール12は、発熱デバイスの一つであり、強電バスバー12aと、絶縁樹脂12bと、ヒートスプレッダー12c(放熱部材)と、フィン12eとを有する一体モジュール部品として構成される。
【0098】
第3強電バスバーモジュール12の製造に際しては、ヒートスプレッダー12cに一体に設けられたフィン12eの間に強電バスバー12aを配置する。そして、フィン3eをモールド成形型とし、エポキシ樹脂などによるトランスファーモールドすることで絶縁樹脂12bが形成される。放熱部材であるヒートスプレッダー12cは、直方体形状のモールド樹脂部分(強電バスバー12a、絶縁樹脂12b、フィン12e)より縦寸法と横寸法が大きな長方形状板とされ、モールド樹脂部分の外周から突出する外周部を有する。そして、ヒートスプレッダー12cの裏面が、インバータケース2のケース冷却面2dに接触する放熱面12dとされる。つまり、第3強電バスバーモジュール12は、インバータケース2のケース冷却面2dに接触する放熱面12dを有するヒートスプレッダー12c(放熱部材)を一体に備える構造とされる。
【0099】
第3強電バスバーモジュール12は、インバータケース2のケース表面2aのうち、冷媒流路7と対向するケース冷却面2dの位置に締結固定される。そして、第3強電バスバーモジュール12の締結固定状態において、
図12に示すように、インバータケース2と接触するヒートスプレッダー12cの放熱面12dが、ケース冷却面2dに対して密着状態とされる。ここで、第3強電バスバーモジュール12は、ヒートスプレッダー12cの外周部を固定部5とし、インバータケース2に締結固定される。この固定部5は、インバータケース2に固定されたスタッドボルト5dと、スタッドボルト5dに螺合するナット5eと、により構成される。そして、固定部5は、
図12に示すように、冷媒流路7を跨ぐように溶接部4よりも外側の位置とされる。
なお、他の構成は、実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
【0100】
[インバータの製造方法]
実施例5のインバータ1Eの組み立て製造を開始する前の初期状態では、組み立て部品として、インバータケース2(金属ケース)と、第3強電バスバーモジュール12(発熱デバイス)と、流路金属板6と、を用意する。そして、流路溶接工程と、発熱デバイス配置工程と、発熱デバイス密着固定工程と、を経過してインバータ1Cが製造される。
【0101】
前記流路溶接工程は、実施例1の
図5と同様であり、インバータケース2のケース裏面2bに、凹み流路形状6aを有する流路金属板6の外周フランジ部6b(外周部)をレーザー溶接やアーク溶接などによって溶接接合する。この溶接接合により、インバータケース2と流路金属板6の凹み流路形状6aによって、冷媒流路7が形成される。
【0102】
前記発熱デバイス配置工程は、実施例1の
図6と同様であり、流路溶接工程に続き、インバータケース2のケース表面2aのうち、冷媒流路7と対向するケース冷却面2dの位置に第3強電バスバーモジュール12を配置する。このとき、第3強電バスバーモジュール12の放熱面12dは平面形状であるのに対し、インバータケース2のケース冷却面2dは、流路溶接工程による入熱と冷却によってドーム形状に凸歪変形している。
【0103】
前記発熱デバイス密着固定工程は、発熱デバイス配置工程に続き、ヒートスプレッダー12cの外周部を固定部5とし、スタッドボルト5dをナット5eにネジ込むことで締結固定力F(=締結トルク)を加える。この締結固定力Fによって、凸歪変形しているインバータケース2のケース冷却面2dを、第3強電バスバーモジュール12の放熱面12dにより押え付け、ケース冷却面2dの凸歪変形を抑える。そして、締結固定力Fを、第3強電バスバーモジュール12の放熱面12dが、インバータケース2のケース冷却面2dに密着するまで上昇させることで、第3強電バスバーモジュール12をインバータケース2に固定する。この発熱デバイス密着固定工程においては、第3強電バスバーモジュール12をインバータケース2に固定する固定部5を、冷媒流路7を跨ぐように溶接部4よりも外側の位置としている。
【0104】
実施例5の作用は、実施例1のパワーモジュール3を、第3強電バスバーモジュール12に置き換えると、実施例1と同様に、「第3強電バスバーモジュールの冷却効率向上作用」、「第3強電バスバーモジュールの放熱促進作用」を示す。
【0105】
よって、実施例5におけるインバータ1Eの製造方法と冷却構造にあっては、実施例1と同様に、実施例1の(1)〜(6)に記載した効果が得られる。
【実施例6】
【0106】
実施例6は、発熱デバイスをインバータモジュールとし、インバータモジュールをインバータケースに締結固定するようにした例である。
【0107】
まず、構成を説明する。
実施例6における製造方法と冷却構造は、実施例1と同様に、走行用駆動源などとして車両に搭載されるモータジェネレータのインバータ(電力変換装置の一例)に適用したものである。実施例6の構成を、「インバータの冷却構造」、「インバータの製造方法」に分けて説明する。
【0108】
[インバータの冷却構造]
図13は実施例6におけるインバータの冷却構造の表面図を示し、
図14は裏面図を示し、
図15は
図13のG−G線断面図を示し、
図16は
図13のH−H線断面図を示す。以下、
図13〜
図16に基づいて、実施例6におけるインバータの冷却構造の詳細構成を説明する。
【0109】
実施例6のインバータ1Fは、
図13〜
図16に示すように、インバータケース2(金属ケース)と、インバータモジュールIM(発熱デバイス)と、溶接部4と、固定部5と、流路金属板6と、冷媒流路7と、を備えている。このインバータ1Fは、インバータモジュールIMと冷媒流路7が、インバータケース2を挟んで対向配置され、冷媒流路7を流れる冷媒によってインバータモジュールIMを冷却する構造としている。
【0110】
前記インバータモジュールIMは、
図13に示すように、パワーモジュール13と、平滑コンデンサ14と、放電抵抗15と、ドライバー基板16と、PNバスバー17と、UVWバスバー18と、電流センサ19と、絶縁樹脂20とを有する。
【0111】
インバータモジュールIMを構成する各構成要素は、インバータケース2のケース表面2aのうち、冷媒流路7と対向するケース冷却面2dの位置に締結固定される。そして、インバータモジュールIMの締結固定状態において、
図15に示すように、パワーモジュール13、平滑コンデンサ14、放電抵抗15、電流センサ19、絶縁樹脂20の各放熱面が、ケース冷却面2dに対して密着状態とされる。ここで、インバータモジュールIMは、
図13に示すように、パワーモジュール13、平滑コンデンサ14、電流センサ19、絶縁樹脂20の外周部を固定部5とし、インバータケース2に締結固定される。この固定部5は、
図13と
図14の対比から明らかなように、冷媒流路7を跨ぐように溶接部4よりも外側の位置とされる。
なお、他の構成は、実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
【0112】
[インバータの製造方法]
実施例6のインバータ1Fの組み立て製造を開始する前の初期状態では、組み立て部品として、インバータケース2(金属ケース)と、インバータモジュールIM(発熱デバイス)と、流路金属板6と、を用意する。そして、流路溶接工程と、発熱デバイス配置工程と、発熱デバイス密着固定工程と、を経過してインバータ1Cが製造される。
【0113】
前記流路溶接工程は、実施例1の
図5と同様であり、インバータケース2のケース裏面2bに、凹み流路形状6aを有する流路金属板6の外周フランジ部6b(外周部)をレーザー溶接やアーク溶接などによって溶接接合する。この溶接接合により、インバータケース2と流路金属板6の凹み流路形状6aによって、冷媒流路7が形成される。
【0114】
前記発熱デバイス配置工程は、実施例1の
図6と同様であり、流路溶接工程に続き、インバータケース2のケース表面2aのうち、冷媒流路7と対向するケース冷却面2dの位置に予め一体構造に組付けられたインバータモジュールIMを配置する。このとき、インバータモジュールIMの放熱面は平面形状であるのに対し、インバータケース2のケース冷却面2dは、流路溶接工程による入熱と冷却によってドーム形状に凸歪変形している。
【0115】
前記発熱デバイス密着固定工程は、発熱デバイス配置工程に続き、インバータモジュールIMの外周部を固定部5とし、固定ネジ5aを雌ネジ部5bにネジ込むことで締結固定力F(=締結トルク)を加える。この締結固定力Fによって、凸歪変形しているインバータケース2のケース冷却面2dを、インバータモジュールIMの放熱面により押え付け、ケース冷却面2dの凸歪変形を抑える。そして、締結固定力Fを、インバータモジュールIMの放熱面が、インバータケース2のケース冷却面2dに密着するまで上昇させることで、インバータモジュールIMをインバータケース2に固定する。この発熱デバイス密着固定工程においては、インバータモジュールIMをインバータケース2に固定する固定部5を、冷媒流路7を跨ぐように溶接部4よりも外側の位置としている。
【0116】
実施例6の作用は、実施例1のパワーモジュール3を、インバータモジュールIMに置き換えると、実施例1と同様に「インバータモジュールの冷却効率向上作用」、「インバータモジュールの放熱促進作用」を示す。
【0117】
よって、実施例6におけるインバータ1Fの製造方法と冷却構造にあっては、実施例1と同様に、実施例1の(1)〜(6)に記載した効果が得られる。
【0118】
以上、本発明の電力変換装置の製造方法と冷却構造を実施例1〜6に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0119】
実施例1では、発熱デバイスをパワーモジュール3とし、実施例2では、発熱デバイスを平滑コンデンサ8とする例を示した。実施例3〜実施例5では、発熱デバイスを第1強電バスバーモジュール10、第2強電バスバーモジュール11、第3強電バスバーモジュール12とする例を示した。さらに、実施例6では、発熱デバイスをインバータモジュールIMとする例を示した。しかし、発熱デバイスとしては、実施例1〜実施例6以外に、例えば、パワーモジュール、平滑コンデンサ、放電抵抗、強電バスバーなどのうち、1つや2つ以上の組み合わせ部品とする例であっても良い。
【0120】
実施例1,2,3,5,6では、発熱デバイスと金属ケースの固定をボルト・ナットにより締結固定する例を示し、実施例4では、発熱デバイスと金属ケースの固定を溶接固定する例を示した。しかし、発熱デバイスと金属ケースの固定手法としては、締結固定と溶接固定を併用するような例であっても良い。
【0121】
実施例1〜6では、本発明の電力変換装置の製造方法と冷却構造を、モータジェネレータの交流/直流の変換装置として用いられるインバータに適用する例を示した。しかし、本発明の製造方法と冷却構造は、発熱デバイスを用い、電圧・電流・周波数・位相・相数・波形などの電気特性のうち、一つ以上を実質的な電力損失を抑えて変換するインバータ以外の様々な電力変換装置に対しても適用することができる。