特許第6811596号(P6811596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6811596
(24)【登録日】2020年12月17日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20201228BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20201228BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   F16F15/02 C
   F16F15/023 A
   E04H9/02 341D
   E04H9/02 341E
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-236966(P2016-236966)
(22)【出願日】2016年12月6日
(65)【公開番号】特開2018-91456(P2018-91456A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】中田 信治
(72)【発明者】
【氏名】倉林 浩
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−034245(JP,A)
【文献】 特開2006−283808(JP,A)
【文献】 特開2010−071307(JP,A)
【文献】 特開2004−332847(JP,A)
【文献】 特開2002−235795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00− 15/36
E04H 9/00− 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーム部と、
前記フレーム部から振動可能に吊り下げられている振動部と、
調整弾性体と、を備え、
前記振動部は、弾性体と、錘体と、を備え、
前記錘体は、前記弾性体を介して前記フレーム部に吊り下げられ、前記弾性体の弾性変形によって前記フレーム部に対して振動し、
前記フレーム部は、前記振動部が垂下された状態で取り付けられる取付部と、前記取付部を支持する支持部と、を備え、
前記支持部は、前記取付部に垂下された前記振動部よりも下方の位置まで延在しており、
前記支持部は、前記取付部を水平方向に移動可能に支持しており、
前記調整弾性体は、前記取付部の水平方向への移動と反対方向に加力すると共に、前記取付部の水平方向への移動に追従して水平方向に弾性変形可能であり、
前記支持部は、前記調整弾性体の鉛直方向の長さを所定長さ以上に保持する長さ保持部を備え、
前記支持部は、前記調整弾性体を下方から支持する台座部を備え、
前記台座部は、前記取付部との間で前記調整弾性体を挟み込む台座本体部と、前記台座本体部から上方に向かって突設され、前記取付部に取り付けられている棒状の突出部を備え、
前記長さ保持部は、前記突出部により構成されていることを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記振動部の前記弾性体は金属であることを特徴とする、請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記振動部の前記弾性体は鉄製であることを特徴とする、請求項2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記振動部の前記弾性体は、横断面が円形状の棒状部材であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の制振装置。
【請求項5】
前記調整弾性体が3つ以上設けられており、
前記3つ以上の調整弾性体は、上面視で、直線状に配置されていないことを特徴とする、請求項乃至のいずれか1つに記載の制振装置。
【請求項6】
前記調整弾性体はバネであることを特徴とする、請求項乃至のいずれか1つに記載の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制振装置に関し、特に、TMD(Tuned Mass Damper)型の制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動に同調する錘体を用いて建築物の振動を抑制するTMD型の制振装置が知られている。例えば、低層建築物に用いるTMD型の制振装置としては、錘体を小型の積層ゴムで支持させて、交通振動、風、などの外力により錘体を振動させるものが知られている。
【0003】
また、高層建築物に用いるTMD型の制振装置としては、錘体を可撓性を有するロープ等を介して上方から吊り下げて、外力により錘体を振動させるものがしられている。この種の制振装置として、特許文献1には、ロープを介して梁から吊り下げられた錘により振動体を構成するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−177999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の制振装置では、ロープを用いて錘を吊り下げているため、小振幅レベルの外力に対する応答性が低い。また、ロープを用いているため、所望の周期を確保するためのロープ長さを確保する必要があり、制振装置自体が大型化し易い。そのため、特許文献1に記載の制振装置は、数秒以上の固有周期を有するような高層建築物や超高層建築物(高さ60m以上)などに適しているが、例えば、1秒以下の固有周期を有するような中層建築物には適用し難い。
【0006】
その一方で、低層建築物に用いられる、小型の積層ゴムを利用した上述の制振装置であれば、中層建築物の固有周期に同調するように積層ゴムの水平剛性を調整することは可能である。これに対して、中層建築物や高層建築物などの、例えば0.4秒以上の固有周期を有するような建築物の場合には、水平剛性の調整による長周期化のみならず、座屈を防ぐための荷重支持特性を保持する積層ゴムを使用することが必要となる。しかしながら、中層建築物や高層建築物の鉛直荷重による座屈を防ぐ荷重支持特性を保持しつつ、所望の周期となるような水平剛性を確保した積層ゴムの実現は容易ではない。
【0007】
以上のことから、中層建築物や、例えば1秒以下などの比較的固有周期が短い高層建築物に対しても容易に適用可能なTMD型の制振装置が求められている。
【0008】
そこで本発明は、中高層建築物であっても容易に適用可能な構成を有するTMD型の制振装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様としての制振装置は、フレーム部と、前記フレーム部から振動可能に吊り下げられている振動部と、を備え、前記振動部は、弾性体と、錘体と、を備え、前記錘体は、前記弾性体を介して前記フレーム部に吊り下げられ、前記弾性体の弾性変形によって前記フレーム部に対して振動することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の1つの実施形態として、前記弾性体は金属であることが好ましい。
【0011】
本発明の1つの実施形態として、前記弾性体は鉄製であることが好ましい。
【0012】
本発明の1つの実施形態として、前記弾性体は、横断面が円形状の棒状部材であることが好ましい。
【0013】
本発明の1つの実施形態として、前記フレーム部は、前記振動部が垂下された状態で取り付けられる取付部と、前記取付部を支持する支持部と、を備え、前記支持部は、前記取付部に垂下された前記振動部よりも下方の位置まで延在することが好ましい。
【0014】
本発明の1つの実施形態として、前記支持部は、前記取付部を水平方向に移動可能に支持しており、上記制振装置は、前記取付部の水平方向への移動と反対方向に加力する水平方向に弾性変形可能な調整弾性部を備えることが好ましい。
【0015】
本発明の1つの実施形態として、前記支持部は、前記取付部を下方から支持すると共に、前記取付部の水平方向への移動に追従して水平方向に弾性変形可能な調整弾性体を備え、前記調整弾性部は、前記調整弾性体により構成されていることが好ましい。
【0016】
本発明の1つの実施形態として、前記調整弾性部は、前記取付部の水平方向への移動に追従して水平方向に弾性変形可能な調整弾性体であり、前記支持部は、前記調整弾性体の鉛直方向の長さを所定長さ以上に保持する長さ保持部を備えることが好ましい。
【0017】
本発明の1つの実施形態として、前記支持部は、前記調整弾性体を下方から支持する台座部を備え、前記台座部は、前記取付部との間で前記調整弾性体を挟み込む台座本体部と、前記台座本体部から上方に向かって突設され、前記取付部に取り付けられている棒状の突出部を備え、前記長さ保持部は、前記突出部により構成されていることが好ましい。
【0018】
本発明の1つの実施形態として、前記調整弾性体が3つ以上設けられており、前記3つ以上の調整弾性体は、上面視で、直線状に配置されていないことが好ましい。
【0019】
本発明の1つの実施形態として、前記弾性体は、上面視において、前記3つ以上の調整弾性体が上面視で形成する仮想三角形の内側に位置することが好ましい。
【0020】
本発明の1つの実施形態として、前記調整弾性部はバネであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、中高層建築物であっても容易に適用可能な構成を有するTMD型の制振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態としての制振装置を備える建築物を示す図である。
図2図1に示す制振装置の上面図である。
図3図1に示す制振装置の側面図である。
図4図1に示す制振装置の側面図である。
図5図3に示す減衰装置を拡大して示す拡大側面図である。
図6図1に示す制振装置のストッパ部近傍の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る制振装置の実施形態について、図面を参照して説明する。各図において共通する部材、部位には共通の符号を付している。
【0024】
図1は、本実施形態の制振装置1を備える建築物100の概要を示す斜視図である。具体的に、図1では、説明の便宜上、建築物100の一部を軸組架構101が露出した状態で示している。また、図1では、露出した軸組架構101の一部の詳細斜視図を示している(図1の白抜き矢印参照)。
【0025】
図1に示す建築物100は、鉄骨造の軸組みを有する5階建ての中層建築物である。この建築物100は、少なくとも2階〜5階の各階に、複数の住戸と、これら複数の住戸にアクセス可能な共用空間と、が設けられた集合住宅である。但し、建築物100の用途や各階の間取りは、本実施形態の構成に限られるものではない。したがって、各階の間取りは、建築物100の用途(戸建て住宅、介護施設等)に応じて、適宜設計することが可能である。
【0026】
また、図1に示すように、建築物100は、地盤に固定された鉄筋コンクリート造の基礎構造体(図示省略)に固定された、柱部材102や梁部材103などの軸組部材で構成される軸組架構101を有している。軸組架構101を構成する軸組部材は、規格化(標準化)されたものであり、予め工場にて製造されたのち建設現場に搬入され、建設現場にて組み立てられる。
【0027】
基礎構造体は、軸組架構101の下方に位置し、軸組架構101を支持している。基礎構造体の上端部からは、軸組架構101の柱部材102の柱脚を固定するためのアンカーボルトが突設されている。
【0028】
軸組架構101は、複数の柱部材102と、複数の梁部材103と、で構成されている。具体的に、複数の柱部材102は、建築物100の平面視において柱部材102の中心間の寸法が規格化された所定寸法の整数倍となるように、配置されている。複数の梁部材103は、柱部材102間に架設された複数の大梁103aと、大梁103a間に架設された複数の小梁103bと、小梁103b間に架設された複数の繋ぎ梁103cと、を備えている。以下、説明の便宜上、大梁103a、小梁103b及び繋ぎ梁103cを特に区別しない場合は単に「梁部材103」と記載する。
【0029】
更に、建築物100は、軸組架構101の外周部に配置される外周壁104と、各階の床105と、を備えている。
【0030】
外周壁104は、外装部材104aと、断熱部材(不図示)と、内装部材(不図示)と、を含んでいる。外装部材104aは、例えば、軽量気泡コンクリート(以下、「ALC」と記載する。「ALC」とは「autoclaved light weight concrete」の略である。)のパネルにより構成することができ、軸組架構101の周囲にALCパネルを複数連接させることにより、外周壁104の外層を形成することができる。断熱部材は、例えば、フェノールフォーム、ポリスチレンフォーム、ウレタンフォーム等の発泡樹脂系の材料で形成することができ、上述の外装部材104aにより形成された外層の内面に沿って連接することにより、外周壁104の断熱層を形成することができる。更に、内装部材は、例えば、石膏ボードを用いることができ、断熱層の内側に連接することにより、外周壁104の内層を形成することができる。
【0031】
床105は、板状の床支持部材105aを含んでいる。床支持部材105aは、例えば、ALCパネルにより構成することができる。床支持部材105aは、梁部材103間に架設され、梁部材103により直接的又は間接的に支持される。
【0032】
なお、図1に示す建築物100は陸屋根を備えるものであり、屋上階の床105についても床支持部材105aとしてのALCパネルを含んでいる。但し、建築物100の屋上階の床105は、外部空間に露出するため、床支持部材105a上には、シート状の防水部材105bが敷設されることで防水処理が施されている。
【0033】
更に、図1に示すように、建築物100はTMD型の制振装置1を備えている。
【0034】
図1に示すように、制振装置1は梁部材103に取り付けられている。具体的に、本実施形態の制振装置1は、梁部材103のうち、屋上階の床梁に取り付けられている。より具体的に、図1に示す建築物100では、屋上階の床梁のうち略平行して延在する2つの繋ぎ梁103c間に2つの制振装置1が架設されている。更に、図1に示す建築物100では、屋上階の床梁のうち略平行して延在する大梁103aと繋ぎ梁103cとの間に2つの制振装置1が架設されている。つまり、建築物100では、屋上階の床梁に対して、4つの制振装置1が取り付けられている。
【0035】
制振装置1は、梁部材103に対してボルト及びナット等の締結部材により締結されることで、対向する梁部材103間に架設されている。なお、制振装置1は、架設される2つの梁部材103の上面よりも鉛直方向下方に位置し、かつ、架設される2つの梁部材103の下面よりも鉛直方向上方に位置する。換言すれば、制振装置1は、架設される2つの梁部材103の梁成以下の厚みを有しており、2つの梁部材103に架設された状態で、これら2つの梁部材103より鉛直方向上方及び下方に突出しない。このような構成とすることで、梁部材103間のスペースを有効に活用できる。
【0036】
なお、図1に示す建築物100や陸屋根構造を有し、制振装置1が屋上階の床梁に取り付けているが、この設置箇所に限られるものではなく、例えば、最上階の床梁など、他の位置に制振装置1を設置してもよい。
【0037】
また、図1に示す建築物100には4つの制振装置1が設けられているが、制振装置1の設置数は4つに限られるものではなく、所望の応答特性を実現できるように必要に応じて増減することが可能である。
【0038】
以下、制振装置1の詳細について、図2図6を参照して説明する。図2は制振装置1の上面図である。図3及び図4は制振装置1の側面図である。なお、図2の上面視における制振装置1の長手方向(図2では左右方向)を、以下、説明の便宜上、単に「長手方向A」と記載する。また、図2の上面視における制振装置1の短手方向(図2では上下方向)を、以下、説明の便宜上、単に「短手方向B」と記載する。したがって、図3は、制振装置1を短手方向Bで見た場合の側面図であり、図4は、制振装置1を長手方向Aで見た場合の側面図である。更に、図5は、図3に示す側面図のうち減衰装置4を拡大して示す拡大側面図である。また更に、図6は、図2等に示す制振装置1のストッパ部5近傍の縦断面図である。
【0039】
図2図4に示すように、制振装置1は、フレーム部2と、このフレーム部2から振動可能に吊り下げられている振動部3と、減衰装置4と、ストッパ部5と、を備えている。
【0040】
振動部3は、弾性体6と、錘体7と、を備えている。具体的に、錘体7は、弾性体6を介してフレーム部2に吊り下げられている。そして、錘体7は、弾性体6の弾性変形によってフレーム部2に対して振動する。そのため、ロープを介して吊り下げられた錘体がロープの塑性変形を伴って振動する構成と比較して、フレーム部2に入力された振動エネルギーが弾性体6を介して錘体7に伝達され易くなる。これにより、交通振動、風、小規模な地震などの小振幅レベルの外力に対しての錘体7の応答性を高めることができる。
【0041】
また、錘体7が、ロープではなく弾性体6によりフレーム部2から吊り下げられているので、所望の周期をロープ長さの調整により実現する必要がなく、制振装置1自体を小型化し易い。
【0042】
なお、フレーム部2は、図1に示す建築物100の軸組架構101の梁部材103に対して、ボルト及びナット等の締結部材で締結されるものである。具体的に、本実施形態のフレーム部2は、上述したように、屋上階の床梁に対して締結部材により締結される。
【0043】
また、本実施形態の弾性体6は金属、より具体的には、鉄製である。更に、本実施形態の弾性体6は、横断面が円形状の棒状部材である。したがって、本実施形態の錘体7は、フレーム部2から金属の棒状部材により吊り下げられ、金属の棒状部材が弾性変形することにより振動する。
【0044】
なお、弾性体6としての金属の棒状部材の下端部は、錘体7に形成された挿通孔7aに挿通されている。また、弾性体6としての棒状部材の下端部には雄ねじが形成されている。そして、弾性体6としての棒状部材の下端部には、錘体7の間に錘体7の下面を受ける板状の受け部材15を挟み込んだ状態で、ナット部材16が螺合されている。本実施形態の錘体7は、このようにして弾性体6の下端部から脱落しないように吊り下げ支持されている。
【0045】
以下、本実施形態の制振装置1の更なる詳細について説明する。
【0046】
本実施形態のフレーム部2は、取付部8と、支持部9と、を備えている。
【0047】
取付部8には、振動部3が垂下された状態で取り付けられる。具体的に、本実施形態の取付部8には、振動部3の弾性体6が取り付けられ、錘体7が取付部8から鉛直方向下方に吊り下げられた状態となる。
【0048】
支持部9は取付部8を支持している。また、支持部9は、取付部8と当接して支持する当接位置から、取付部8に垂下された振動部3の錘体7よりも下方の位置まで延在している。
【0049】
このように、振動部3及び支持部9の両方を、取付部8に対して鉛直方向の下方側に配置したため、振動部と支持部とが取付部を挟んで鉛直方向の両側に位置する構成(振動部が取付部の下方に位置し、支持部が取付部の上方に位置する構成)と比較して、フレーム部2及び振動部3とを併せた鉛直方向の厚みを薄肉化することができる。そのため、上述したように、同じ階間に位置する梁部材103(図1参照)の間に配置可能な厚みの薄い制振装置1が実現し易くなる。
【0050】
なお、本実施形態の取付部8は、挿通孔8aが形成された金属製の板状部材により構成されている。弾性体6としての金属製の棒状部材は、取付部8を構成する板状部材の挿通孔8aに挿通された状態で、取付部8から抜け落ちないように、取付部8に支持されている。なお、弾性体6を取付部8に対して吊り下げ固定する取り付け構成は、雄ねじ及び雌ねじを用いた螺合接合や溶接接合など、各種の取り付け構成を採用することができる。本実施形態では、弾性体6としての金属製の棒状部材を、雄ねじを含む棒状の本体部6aと、この本体部6aの一端に連続し、本体部6aよりも大径の頭部6bと、を備える長尺ボルトで構成している。そして、頭部6bの外径を挿通孔8aの内径よりも大きくしている。そのため、頭部6bは挿通孔8aを通じて抜け落ちない。これを利用し、弾性体6としての長尺ボルトを、取付部8の挿通孔8aに上方から挿通することで、頭部6bが取付部8の上面のうち挿通孔8aの周囲に突き当たり、弾性体6を挿通孔8aを通じて抜け落ちないようにすることができる。換言すれば、弾性体6を、取付部8から抜け落ちないように、取付部8に支持させることができる。なお、抜け落ち防止のために頭部6bと挿通孔8aの周辺の縁部とを直接当接させる構成に限らず、本実施形態のように、例えば、本体部6aの雄ねじに、挿通孔8aの内径よりも外径の大きいナット部材10を螺合し、このナット部材10を利用して上記同様の抜け落ち防止を実現してもよい。
【0051】
また、本実施形態の支持部9は、取付部8を水平方向に移動可能に支持している。そして、本実施形態の制振装置1は、取付部8の水平方向への移動と反対方向に加力する水平方向に弾性変形可能な調整弾性部を備えている。
【0052】
このように、取付部8自体を水平方向に移動可能とすることで、交通振動や風などの外力に対して取付部8自体の応答性が向上し、取付部8から吊り下げられた振動部3の応答性を更に向上させることができる。
【0053】
また、取付部8自体を水平方向に移動可能とすることで、弾性体6としても、取付部が水平方向に移動できない構成と比較して弾性率の大きい(剛性の高い)ものを利用できる。つまり、取付部が水平方向に移動できない構成と比較して、弾性体6として、より長さの短い金属の棒状部材を用いることが可能となり、制振装置1の薄肉化を実現し易くなる。
【0054】
更に、制振装置1が、取付部8の水平方向の移動に追従して弾性変形する調整弾性部を備えることにより、取付部8を初期位置に復元させることができると共に、調整弾性部の弾性率を調整することで、振動部3の錘体7の振動周期を調整することが可能となる。
【0055】
ここで、本実施形態の調整弾性部は、取付部8の水平方向への移動に追従して水平方向に弾性変形可能な調整弾性体11により構成されている。そして、本実施形態の支持部9は、調整弾性体11の鉛直方向の長さを所定長さ以上に保持する長さ保持部を備えている。
【0056】
具体的に、本実施形態の支持部9は、調整弾性体11を下方から支持する台座部12を備えている。図2図4に示すように、台座部12は、板状のベース部12aと、このベース部12aから立設され、雄ねじが形成されている棒状部12bと、ベース部12aから離間した状態で、この棒状部12bに対して位置が固定されている板状の台座本体部12cと、この台座本体部12cから鉛直方向の上方に向かって突設されている棒状の突出部12dと、を備えている。そして、本実施形態では、上述の長さ保持部が、台座部12の突出部12dにより構成されている。
【0057】
ベース部12aは、建築物100に対して、ボルト及びナット等の締結部材により締結される。つまり、フレーム部2は、ベース部12aが軸組架構101の梁部材103(図1参照)に対してボルト及びナット等の締結部材で締結されることで、建築物100に対して締結固定されている。
【0058】
なお、ベース部12aには、棒状部12bに加えて、後述する調整機構25の調整弾性体25bとしてのコイルバネの一端が係止される棒状の係止突出部26が立設されている。本実施形態の棒状部12b及び係止突出部26は、ベース部12aに螺合されたボルト部材により構成されている。
【0059】
台座本体部12cの鉛直方向の位置は、棒状部12bの長手方向に沿って調整可能である。そして、ベース部12aからの高さが所定高さとなるように台座本体部12cの位置を調整する。その後、台座本体部12cは、ナット部材13を用いて、棒状部12bに対して固定される。
【0060】
なお、台座本体部12cには鉛直方向に貫通する挿通孔12c1が形成されており、取付部8から垂下された弾性体6は、挿通孔12c1を通じて、錘体7の位置まで垂下されている。
【0061】
このように、本実施形態の支持部9は、調整弾性体11を下方から支持する台座部12を備えている。
【0062】
ここで、本実施形態の支持部9の調整弾性体11はバネであり、調整弾性体11は、台座本体部12cと取付部8との間で圧縮変形した状態で挟み込まれて保持されている。具体的に、本実施形態の調整弾性体11は、下端が台座本体部12cの上面に当接し、上端が取付部8の下面に当接するコイルバネである。そして、上述の突出部12dは、台座本体部12cから、調整弾性体11としてのコイルバネの中空部内を鉛直方向上方に向かって延在している。また、突出部12dの上端部は、取付部8に取り付けられている。より具体的に、突出部12dの上端部は、取付部8に形成されている、弾性体6が挿通される挿通孔8aとは別の挿通孔8bに挿通された状態で、取付部8と螺合接合等により接合されている。
【0063】
換言すれば、本実施形態の取付部8及び台座本体部12cは、対向距離が所定距離未満にならないように保持されている。具体的に、本実施形態の突出部12dは、取付部8の挿通孔8bと、台座本体部12cの挿通孔12c2と、を貫通するボルト部材により構成されている。そして、取付部8及び台座本体部12cの間で調整弾性体11としてのコイルバネが圧縮変形した状態で、突出部12dを構成するボルト部材の上下の両端部が、取付部8及び台座本体部12cに対して、ナット部材14を利用して螺合接合されている。これにより、取付部8及び台座本体部12cの対向距離が略一定に保持される。更に、取付部8と台座本体部12cとの間で圧縮変形した状態で挟み込まれて保持されている調整弾性体11の鉛直方向の長さについても、所定長さ以上に保持することができる。このように、本実施形態の長さ保持部は、突出部12dにより構成されている。
【0064】
なお、本実施形態の長さ保持部を構成する突出部12dは、取付部8に対して螺合接合等により接合されているが、水平方向に変形することにより、取付部8の水平方向の移動を許容する。したがって、本実施形態の長さ保持部を構成する突出部を、取付部8の移動に追従して水平方向に弾性変形可能な構成とすれば、調整弾性体11と共に調整弾性部を兼ねる構成とすることができる。但し、長さ保持部としての機能を確保し易くするため、突出部の水平剛性は、調整弾性体11の水平剛性よりも大きくすることが好ましい。
【0065】
ここで、本実施形態では、取付部8を支持する支持部9とは別に、調整弾性部を構成する調整弾性体11を設けているが、この構成に限られるものではなく、取付部8を支持する支持部9が調整弾性体11を備える構成としてもよい。
【0066】
つまり、支持部9が、取付部8を下方から支持すると共に、取付部8の水平方向への移動に追従して水平方向に弾性変形可能な調整弾性体11を備える構成としてもよい。かかる場合には、上述の調整弾性部が、支持部9の調整弾性体11により構成される。このように、支持部9が、取付部8を水平方向に移動可能に支持することに加えて、取付部8に追従して水平方向に弾性変形可能であるため、支持部9が支持機能及び弾性変形機能の両機能を兼ね備える構成となり、部材点数を減らすることができる。そのため、制振装置1の構成をより簡素化でき、制振装置1の小型化が実現し易くなる。
【0067】
次に、本実施形態の制振装置1の更なる詳細について説明する。
【0068】
本実施形態の制振装置1は、上述した弾性体6を複数有している。具体的には、図2図4に示すように、本実施形態の制振装置1は、4つの弾性体6を有している。そして、本実施形態の錘体7は、上面視で異なる位置に配置された4つの弾性体6を介して、フレーム部2に吊り下げられている。換言すれば、本実施形態の制振装置1では、上面視で異なる位置に配置された4つの弾性体6を介して共通の錘体7が、フレーム部2から吊り下げられている。
【0069】
より具体的に、本実施形態の錘体7は、上述した複数の弾性体6により受け部材15を介して支持されている板状のベース錘体70aと、このベース錘体70a上に積載された板状の積載錘体70bと、で構成されている。ここで、長手方向Aで見た側面視(図4参照)において、ベース錘体70aの幅は、積載錘体70bの幅よりも広い。同様に、短手方向Bで見た側面視(図3参照)においても、ベース錘体70aの幅は、積載錘体70bの幅よりも広い。このように、ベース錘体70aは、側面視において、積載錘体70bよりも水平方向外側まで延在している。そして、4つの弾性体6は、ベース錘体70aのうち積載錘体70bよりも水平方向外側に位置する部分に形成された挿通孔7aに挿通され、受け部材15を介してベース錘体70aを支持している。
【0070】
なお、4つの弾性体6は、上面視(図2参照)において、長手方向Aの両側及び短手方向Bの両側の4箇所で、ベース錘体70aを支持している。
【0071】
ここで、図2図4に示すように、フレーム部2は、各弾性体6が取り付けられる4つの取付部8を備えている。この4つの取付部8についても、上面視(図2参照)において、長手方向Aの両側及び短手方向Bの両側の4箇所に位置している。
【0072】
4つの取付部8それぞれは、共通の支持部9により支持されている。より具体的に、支持部9は、4つの取付部8に共通する1つの板状のベース部12aと、4つの取付部8それぞれのために設けられる4箇所(本例では各箇所に2つ)の棒状部12bと、各箇所の棒状部12bに固定されている4つの台座本体部12cと、各台座本体部12cから突設されている3つの突出部12dと、1つの取付部8と1つの台座本体部12cとの間で挟み込まれた状態で保持される3つの調整弾性体11と、を備えている。
【0073】
つまり、本実施形態の制振装置1では、各弾性体6が取り付けられている1つの取付部8と、この1つの取付部8の下方に位置する1つの台座本体部12cとの間で、3つの調整弾性体11が挟み込まれている。
【0074】
ここで、1つの取付部8の下方に位置する3つの調整弾性体11は、上面視(図2参照)で、直線状に配置されていない。このような配置とすることにより、2方向からの外力が入力された場合にも錘体7の回転を抑制することができる。
【0075】
なお、本実施形態では、各弾性体6が取り付けられる取付部8に対して3つの調整弾性体11が係合する構成を示したが、3つ以上の調整弾性体11を上面視で直線状に配置しない構成とすればよく、調整弾性体11の数は3つに限られるものではない。
【0076】
但し、弾性体6は、上面視において、3つの調整弾性体11が形成する仮想三角形の内側に位置するように配置することが好ましい。このようにすれば、2方向からの外力が入力された際の錘体7の回転をより一層抑制することができる。なお、4つ以上の調整弾性体11があっても、いずれか3つの調整弾性体11が形成する仮想三角形の内側に弾性体6を位置させることで、同様の効果を得ることができる。
【0077】
次に、本実施形態の制振装置1の減衰装置4について説明する。図2図3及び図5に示すように、減衰装置4は、錘体7に固定され、錘体7の振動と共に移動する可動部材4aと、フレーム部2に保持された容器17内に収容され、可動部材4aの少なくとも一部が浸されている粘性オイル4bと、を備えている。
【0078】
図2及び図5に示すように、可動部材4aは、2本のビス18により錘体7に締結される板状の本体部4a1と、この本体部4a1に固定され、錘体7の外側で支持部9のベース部12aに向かって垂下されている棒状部4a2と、を備えている。なお、本実施形態の棒状部4a2は、本体部4a1にナット部材19により位置が固定されたボルト部材であり、下端に位置する頭部20が、ベース部12aの固定された容器17内に収容された粘性オイル4b内に埋没している。そのため、錘体7が振動すると、頭部20が粘性オイル4b内を移動することによりエネルギーが吸収される。これにより、錘体7の振動を減衰することができる。
【0079】
なお、図2に示すように、本実施形態の制振装置1は、4つの減衰装置4を備えるが、この数に限られるものではなく、所望の減衰率を達成できるように必要な数の減衰装置4を配置すればよい。したがって、減衰装置4を3つ以下とすることも、5つ以上とすることもバランス良く配置すれば可能である。
【0080】
次に、本実施形態の制振装置1のストッパ部5について説明する。図6に示すように、ストッパ部5は、フレーム部2のベース部12aから立設された棒状部材5aを含むものである。このストッパ部5の棒状部材5aは、錘体7に形成された、弾性体6が挿通される挿通孔7aとは別の挿通孔7b内を延在している。この挿通孔7bの内径には、柔軟性を有するクッション部材21が取り付けられており、錘体7が振動すると、挿通孔7bのクッション部材21が、ストッパ部5の棒状部材5aに当接し、錘体7の移動を規制する。このように、本実施形態のストッパ部5によれば、錘体7の振幅量が過度に大きくなることを防ぐことができる。
【0081】
なお、本実施形態のストッパ部5の棒状部材5aは、ベース部12aに埋設され、挿通孔7bを貫通するボルト部材であり、このボルト部材には、錘体7の鉛直方向の振動を抑制するため、錘体7の上面を受ける板状の上面受け部材22aと、錘体7の下面を受ける板状の下面受け部材22bと、が、錘体7の上下の位置で上下のナット部材23及び24の間に挟み込まれるようにして配置されている。
【0082】
また、図2に示すように、本実施形態のストッパ部5は4つ設けられているが、この数に限られるものではなく、必要に応じて3つ以下とすることも、5つ以上とすることも可能である。また、錘体7の挿通孔7bの内径は、錘体7の振動可能な範囲となるが、挿通孔7bの内径は、許容できる錘体7の最大振幅量に応じて適宜設定することができる。
【0083】
最後に、本実施形態の制振装置1の周期微調整用の調整機構25について説明する。調整機構25は、錘体7にボルト部材27により固定される固定部材25aと、この固定部材25aと係合し、錘体7の水平方向の移動に追従して水平方向に弾性変形可能な調整弾性体25bと、を備えている。ここでは、上述した調整弾性体11と区別するため、説明の便宜上、上述の調整弾性体11を「第1調整弾性体11」と記載し、調整弾性体25bを「第2調整弾性体25b」と記載する。
【0084】
本実施形態の制振装置1の錘体7の振動周期は、主に、弾性体6及び第1調整弾性体11により調整可能であるが、フレーム部2及び振動部3を組み立てた後に、建築物100の固有周期に振動部3の周期を同調させるために微調整が必要になることがある。かかる場合に、制振装置1を分解し、弾性体6及び第1調整弾性体11によって微調整することは非常に手間を要する。また、仮に弾性体6及び第1調整弾性体11によって微調整したとしても、組み立てる工程により、調整がずれる可能性もある。そこで、制振装置1は、フレーム部2及び振動部3を組み立てた状態であっても振動部3の周期を微調整可能なように、調整機構25を備えている。
【0085】
調整機構25によれば、第2調整弾性体25bとして、異なるばね定数を有するコイルバネを使用することにより、振動部3の周期を微調整することができる。なお、調整機構25の第2調整弾性体25bの一端は固定部材25aと係合しており、他端は台座部12のベース部12aに突設された係止突出部26に係止されている。
【0086】
本発明に係る制振装置は、上述した実施形態で示す具体的な構成に限られるものではなく、特許請求の範囲の記載を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【0087】
なお、本発明に係る制振装置は、建築物の階層によらず利用することが可能であるが、上述した実施形態の建築物100のような4〜10階建て等の中層建築物に対しても、特殊な積層ゴムなどの特殊な装置を使用することなく、コンパクトな構成で適用できる点で非常に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は制振装置に関し、特に、TMD(Tuned Mass Damper)型の制振装置に関する。
【符号の説明】
【0089】
1:制振装置
2:フレーム部
3:振動部
4:減衰装置
4a:可動部材
4a1:本体部
4a2:棒状部
4b:粘性オイル
5:ストッパ部
5a:棒状部材
6:弾性体
6a:本体部
6b:頭部
7:錘体
7a:挿通孔
7b:挿通孔
8:取付部
8a:挿通孔
8b:挿通孔
9:支持部
10:ナット部材
11:調整弾性体(調整弾性部)
12:台座部
12a:ベース部
12b:棒状部
12c:台座本体部
12c1:挿通孔
12c2:挿通孔
12d:突出部(長さ保持部)
13:ナット部材
14:ナット部材
15:受け部材
16:ナット部材
17:容器
18:ビス
19:ナット部材
20:頭部
21:クッション部材
22a:上面受け部材
22b:下面受け部材
23:ナット部材
24:ナット部材
25:調整機構
25a:固定部材
25b:調整弾性体
26:係止突出部
27:ボルト部材
70a:ベース錘体
70b:積載錘体
100:建築物
101:軸組架構
102:柱部材
103:梁部材
103a:大梁
103b:小梁
103c:繋ぎ梁
104:外周壁
104a:外装部材
105:床
105a:床支持部材
105b:防水部材
A:制振装置の上面視における長手方向
B:制振装置の上面視における短手方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6