特許第6811619号(P6811619)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6811619
(24)【登録日】2020年12月17日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20201228BHJP
【FI】
   H01L21/304 651B
   H01L21/304 651H
【請求項の数】8
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-3275(P2017-3275)
(22)【出願日】2017年1月12日
(65)【公開番号】特開2018-113354(P2018-113354A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2019年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾辻 正幸
【審査官】 小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−293702(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0260517(US,A1)
【文献】 特表2005−515613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を水平に保持する基板保持工程と、
前記基板の上面に処理液を供給して、当該基板の上面を覆う処理液の液膜を形成する液膜形成工程と、
前記基板の上面に、前記液膜の一部から前記処理液が除去された液膜除去領域を形成する液膜除去領域形成工程と、
形成した前記液膜除去領域を拡大させる液膜除去領域拡大工程と、
前記液膜除去領域拡大工程に並行して、前記液膜除去領域と隣接する前記液膜の縁部に、前記基板の上面側から、前記処理液よりも表面張力の低い低表面張力液の蒸気を含む気体を供給する蒸気供給工程と、
前記基板の下面の略全面に冷却流体を供給して、前記液膜を、前記低表面張力液の沸点未満の温度に冷却する冷却工程と、前記基板の下面の、前記液膜除去領域に対応する位置に、加熱流体を吹き付けて、前記液膜除去領域を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱する加熱工程とを含み、前記液膜除去領域拡大工程に並行して、前記基板の下面側から、前記基板上の前記液膜のうち前記縁部を除く部分を、前記低表面張力液の沸点未満の温度に冷却しながら、前記液膜除去領域を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱する冷却加熱工程と、
前記基板の下面側から前記液膜除去領域を加熱する範囲を、前記液膜除去領域の拡大に同期させて拡大させる加熱範囲拡大工程とを含む、基板処理方法。
【請求項2】
前記液膜除去領域形成工程、前記液膜除去領域拡大工程、前記蒸気供給工程、前記冷却加熱工程、および前記加熱範囲拡大工程に並行して、前記基板を、鉛直な所定の回転軸線まわりに回転させる基板回転工程をさらに含み、
前記液膜除去領域形成工程ないし前記液膜除去領域拡大工程では、前記基板回転工程を実行して前記基板を回転させながら、前記気体を、前記基板の上面の回転中心付近に吹き付けることによって、当該基板の上面の、前記回転中心を含む領域に、前記液膜除去領域を略円形に形成するとともに、前記気体を吹き付ける位置を、前記回転中心から径方向外方に移動させることによって、前記液膜除去領域を拡大させ、
前記冷却加熱工程ないし前記加熱範囲拡大工程では、前記基板回転工程を実行して前記基板を回転させながら、当該基板の下面の、前記液膜除去領域に対応する、前記回転中心を含む範囲を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱するとともに、当該加熱の範囲を、前記気体の吹き付け位置の移動による液膜除去領域の拡大に同期させて、前記回転中心から径方向外方に移動させて拡大させる、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
記加熱範囲拡大工程は、前記基板の下面の、前記加熱流体の吹き付け位置を、前記液膜除去領域の拡大による、前記液膜と前記液膜除去領域との境界の移動に同期させて移動させる吹き付け位置移動工程を含む、請求項1または2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記液膜除去領域形成工程ないし前記液膜除去領域拡大工程では、前記気体を、前記基板の上面の全幅に亘る薄層状として、前記基板の上面の一端部に吹き付けることによって、当該基板の上面の、前記一端部付近に、前記液膜除去領域を形成するとともに、前記気体を吹き付ける位置を、前記一端部から、前記基板の他端部方向へ移動させることによって、前記液膜除去領域を拡大させ、
前記冷却加熱工程は、
前記基板の下面の略全面に冷却流体を供給して、前記液膜を、前記低表面張力液の沸点未満の温度に冷却する冷却工程と、
加熱流体を、前記薄層状の気体と平行な、前記基板の下面の全幅に亘る薄層状として、前記基板の下面の、前記液膜除去領域に対応する位置に吹き付けて、前記液膜除去領域を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱する加熱工程とを含み、
前記加熱範囲拡大工程は、前記基板の下面の、前記加熱流体の吹き付け位置を、前記液膜除去領域の拡大による、前記液膜と前記液膜除去領域との境界の移動に同期させて移動させる吹き付け位置移動工程を含む、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記処理液は、水を含み、前記低表面張力液は、水よりも表面張力の低い有機溶剤を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
基板を水平に保持する基板保持ユニットと、
前記基板保持ユニットで水平に保持した基板を、当該基板の中央部を通る鉛直な回転軸線まわりに回転させる基板回転ユニットと、
処理液を、前記基板の上面に供給するための処理液供給ユニットと、
前記基板に、前記基板の上面側から、前記処理液よりも表面張力の低い低表面張力液の蒸気を含む気体を供給するための気体供給ユニットと、
前記基板の下面に冷却流体を供給するための冷却流体供給ユニットを含み、前記冷却流体供給ユニットから冷却流体を供給することで、前記基板の下面側から、前記基板を、前記低表面張力液の沸点未満の温度に冷却するための冷却ユニットと、
前記基板の下面に加熱流体を吹き付けるための加熱流体吹付ユニットを含み、前記加熱流体吹付ユニットから加熱流体を吹き付けることで、前記基板の下面側から、前記基板を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱するための加熱ユニットと、
前記基板保持ユニット、前記基板回転ユニット、前記処理液供給ユニット、前記気体供給ユニット、前記冷却ユニット、および前記加熱ユニットを制御する制御装置とを含み、
前記制御装置は、前記基板を水平に保持する基板保持工程と、前記基板の上面に前記処理液を供給して液膜を形成する液膜形成工程と、前記基板の上面の回転中心付近に、前記液膜の一部から前記処理液が除去された液膜除去領域を形成する液膜除去領域形成工程と、前記液膜除去領域を、前記回転中心から径方向外方に拡大させる液膜除去領域拡大工程と、前記液膜除去領域拡大工程に並行して、前記液膜除去領域と隣接する前記液膜の内周側の縁部に、前記基板の上面側から、前記低表面張力液の蒸気を含む気体を供給する蒸気供給工程と、前記基板の下面の略全面に冷却流体を供給して、前記液膜を、前記低表面張力液の沸点未満の温度に冷却する冷却工程と、前記基板の下面の、前記液膜除去領域に対応する位置に、加熱流体を吹き付けて、前記液膜除去領域を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱する加熱工程とを含み、前記液膜除去領域拡大工程に並行して、前記基板の下面側から、前記基板上の前記液膜のうち前記縁部を除く部分を、前記低表面張力液の沸点未満の温度に冷却しながら、前記液膜除去領域を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱する冷却加熱工程と、前記基板の下面側から前記液膜除去領域を加熱する範囲を、前記液膜除去領域の拡大に同期させて拡大させる加熱範囲拡大工程と、前記液膜除去領域形成工程、前記液膜除去領域拡大工程、前記蒸気供給工程、前記冷却加熱工程、および前記加熱範囲拡大工程に並行して、前記基板を、前記回転軸線まわりに回転させる基板回転工程とを実行する、基板処理装置。
【請求項7】
記基板の下面の、前記加熱流体吹付ユニットからの前記加熱流体の吹き付け位置を移動させるための移動ユニットをさらに含み
記制御装置は、前記基板の下面の、前記加熱流体の吹き付け位置を、前記液膜除去領域の拡大による、前記液膜と前記液膜除去領域との境界の移動に同期させて移動させる吹き付け位置移動工程を、前記加熱範囲拡大工程として実行する、請求項6に記載の基板処理装置。
【請求項8】
基板を水平に保持する基板保持ユニットと、
処理液を、前記基板の上面に供給するための処理液供給ユニットと、
前記基板の上面に、前記処理液よりも表面張力の低い低表面張力液の蒸気を含む気体を、前記基板の上面の全幅に亘る薄層状として吹き付けるための気体供給ユニットと、
前記基板の上面の、前記気体供給ユニットからの前記気体の吹き付け位置を移動させるための上面移動ユニットと、
前記基板の下面に冷却流体を供給するための冷却流体供給ユニットと、
前記基板の下面に、加熱流体を、前記基板の下面の全幅に亘る薄層状として吹き付けるための加熱流体吹付ユニットと、
前記基板の下面の、前記加熱流体吹付ユニットからの前記加熱流体の吹き付け位置を移動させるための下面移動ユニットと、
前記基板保持ユニット、前記処理液供給ユニット、前記気体供給ユニット、前記上面移動ユニット、前記冷却流体供給ユニット、前記加熱流体吹付ユニット、および前記下面移動ユニットを制御する制御装置とを含み、
前記制御装置は、前記基板を水平に保持する基板保持工程と、前記基板の上面に前記処理液を供給して液膜を形成する液膜形成工程と、前記気体を、前記基板の上面の全幅に亘る薄層状として、前記基板の上面の一端部に吹き付けることによって、当該基板の上面の、前記一端部付近に、前記液膜の一部から前記処理液が除去された液膜除去領域を形成する液膜除去領域形成工程と、前記気体の吹き付け位置を、前記一端部から、前記基板の他端部方向へ移動させることによって、前記液膜除去領域を拡大させる液膜除去領域拡大工程と、前記基板の下面の略全面に冷却流体を供給して、前記液膜を、前記低表面張力液の沸点未満の温度に冷却する冷却工程と、前記加熱流体を、前記薄層状の気体と平行な、前記基板の下面の全幅に亘る薄層状として、前記基板の下面の、前記液膜除去領域に対応する位置に吹き付けて、前記液膜除去領域を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱する加熱工程と、前記基板の下面の、前記加熱流体の吹き付け位置を、前記液膜除去領域の拡大による、前記液膜と前記液膜除去領域との境界の移動に同期させて移動させる吹き付け位置移動工程とを実行する、基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板処理方法および基板処理装置に関する。処理対象となる基板の例には、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、プラズマディスプレイ用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、太陽電池用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程では、半導体ウエハ等の基板の表面に処理液を供給して、その基板の表面が処理液を用いて処理される。
例えば、基板を1枚ずつ処理する枚葉式の基板処理装置は、基板を、ほぼ水平に保持しながら回転させるスピンチャックと、このスピンチャックによって回転される基板の上面に処理液を供給するためのノズルとを備えている。
【0003】
典型的な基板処理工程では、スピンチャックに保持された基板に対して薬液が供給され、その後に水が供給されることにより、基板上の薬液が水に置換される。その後、基板の上面上から水を排除するための乾燥処理が行われる。
乾燥処理としては、回転状態にある基板の表面に、水よりも表面張力の低い、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol:IPA)等の有機溶剤(低表面張力液)の蒸気を供給する手法が知られている。例えば、ロタゴニ乾燥はこの手法の一つの例である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−131783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような乾燥方法として、具体的には、基板の上面に処理液(水)の液膜を形成し、その液膜に低表面張力液を含む気体(低表面張力液の蒸気など)を吹き付けることにより、基板の上面の、例えば、基板中央部に液膜除去領域を形成する。
そして、液膜除去領域と、液膜の、液膜除去領域と隣接する縁部との境界(以下、「液膜境界」という)を、基板中央部から基板の周縁まで移動させることで液膜除去領域を拡大させて、液膜除去領域を基板の上面の全域に広げる。これにより、基板の上面を乾燥させることができる。
【0006】
本願発明者は、このような乾燥手法を採用する場合、液膜境界における処理液の液面と基板の上面とがなす接触角を大きく保った状態で液膜境界を移動させることにより、パターン間に存在する処理液を極めて短時間で除去できることを知見している。乾燥時においては、パターン間に存在する処理液の除去時間が短くなるにつれて、乾燥時におけるパターン倒壊を抑制することが可能であるから、パターン倒壊を抑制できる乾燥方法として本願発明者は注目している。
【0007】
ところが、近年では、基板処理を利用して作製される装置(例えば、半導体装置)の高集積化のために、微細で高アスペクト比のパターン(凸状パターン、ライン状パターンなど)が基板の表面に形成されるようになってきた。微細で高アスペクト比のパターンは強度が低いので、特許文献1に記載の乾燥手法を採用しても倒壊を招くおそれがある。
そこで、この発明の目的は、パターンの倒壊を効果的に抑制しながら、基板の上面を乾燥させることができる基板処理方法および基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するための請求項1に記載の発明は、基板を水平に保持する基板保持工程と、前記基板の上面に処理液を供給して、当該基板の上面を覆う処理液の液膜を形成する液膜形成工程と、前記基板の上面に、前記液膜の一部から前記処理液が除去された液膜除去領域を形成する液膜除去領域形成工程と、形成した前記液膜除去領域を拡大させる液膜除去領域拡大工程と、前記液膜除去領域拡大工程に並行して、前記液膜除去領域と隣接する前記液膜の縁部に、前記基板の上面側から、前記処理液よりも表面張力の低い低表面張力液の蒸気を含む気体を供給する蒸気供給工程と、前記基板の下面の略全面に冷却流体を供給して、前記液膜を、前記低表面張力液の沸点未満の温度に冷却する冷却工程と、前記基板の下面の、前記液膜除去領域に対応する位置に、加熱流体を吹き付けて、前記液膜除去領域を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱する加熱工程とを含み、前記液膜除去領域拡大工程に並行して、前記基板の下面側から、前記基板上の前記液膜のうち前記縁部を除く部分を、前記低表面張力液の沸点未満の温度に冷却しながら、前記液膜除去領域を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱する冷却加熱工程と、前記基板の下面側から前記液膜除去領域を加熱する範囲を、前記液膜除去領域の拡大に同期させて拡大させる加熱範囲拡大工程とを含む、基板処理方法を提供する。
【0009】
この方法によれば、基板上の液膜のうち縁部の周囲が低表面張力液の蒸気を含む気体の雰囲気とされることにより、気体中に含まれる低表面張力液が液膜の縁部で処理液中に溶け込む。そのため、液膜の縁部と、液膜のうち縁部を除く部分( 液膜のバルク部分) との間に低表面張力液の濃度差、すなわち表面張力差が生じる。
また、液膜のバルク部分が、基板の下面の略全面に供給した冷却流体によって、低表面張力液の沸点未満の温度に冷却された状態で、基板の上面の液膜除去領域が、基板の下面の、上記液膜除去領域に対応する位置に吹き付けた加熱流体によって、低表面張力液の沸点以上の温度に加熱されることにより、基板を通した熱伝導によって、液膜除去領域と隣接する液膜の縁部の温度が上昇して、当該液膜の縁部と液膜のバルク部分との間に温度差が生じる。
【0010】
したがって、液膜の縁部と液膜のバルク部分との間の表面張力差と温度差に基づくマランゴニ効果による液膜の収縮作用により、液膜の縁部において処理液が上方へとせり上がるような挙動を示して、液膜境界における処理液の液面と基板の上面とがなす接触角が大きくなる。
また、基板の上面の液膜除去領域が、基板の下面側から低表面張力液の沸点以上の温度に加熱されることにより、液膜の縁部のうち液膜除去領域に隣接する基板の上面と直接に接する固液界面部分で、低表面張力液が高濃度で溶け込んだ処理液の蒸発が促進されるため、液膜の縁部において処理液が上方へとせり上がるような挙動を示して、液膜境界における処理液の液面と基板の上面とがなす接触角が大きくなる。
【0011】
すなわち、マランゴニ効果による液膜の収縮作用と、固液界面部分における蒸発作用とが相まって、液膜境界における処理液の液面と基板の上面とがなす接触角をより一層大きくして、特許文献1に記載の手法を採用した場合よりもパターンの倒壊を抑制することができる。
さらに、基板の上面の液膜除去領域が低表面張力液の沸点以上の温度に加熱されることにより、液膜除去領域に低表面張力液が結露するのが抑制される。そのため、液膜除去領域に、結露によって、パターンの高さよりも厚い低表面張力液の液膜が形成されてパターンが倒壊するのを抑制することもできる。
【0012】
したがって、この方法によれば、パターンの倒壊を効果的に抑制しながら、基板の上面を乾燥させることができる。
請求項2に記載の発明は、前記液膜除去領域形成工程、前記液膜除去領域拡大工程、前記蒸気供給工程、前記冷却加熱工程、および前記加熱範囲拡大工程に並行して、前記基板を、鉛直な所定の回転軸線まわりに回転させる基板回転工程をさらに含み、前記液膜除去領域形成工程ないし前記液膜除去領域拡大工程では、前記基板回転工程を実行して前記基板を回転させながら、前記気体を、前記基板の上面の回転中心付近に吹き付けることによって、当該基板の上面の、前記回転中心を含む領域に、前記液膜除去領域を略円形に形成するとともに、前記気体を吹き付ける位置を、前記回転中心から径方向外方に移動させることによって、前記液膜除去領域を拡大させ、前記冷却加熱工程ないし前記加熱範囲拡大工程では、前記基板回転工程を実行して前記基板を回転させながら、当該基板の下面の、前記液膜除去領域に対応する、前記回転中心を含む範囲を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱するとともに、当該加熱の範囲を、前記気体の吹き付け位置の移動による液膜除去領域の拡大に同期させて、前記回転中心から径方向外方に移動させて拡大させる、請求項1に記載の基板処理方法である。
【0013】
この方法によれば、基板を回転させながら、低表面張力液の蒸気を含む気体の吹き付け位置を、基板の上面の回転中心を含む領域から径方向外方へ移動させて液膜除去領域を拡大させるのと同期させて、基板の下面側から液膜除去領域を低表面張力液の沸点以上の温度に加熱する範囲を、回転中心から径方向外方に移動させて拡大させることができる。
したがって、この方法によれば、パターンの倒壊をさらに効果的に抑制しながら、基板の上面をより一層効率よく乾燥させることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、記加熱範囲拡大工程は、前記基板の下面の、前記加熱流体の吹き付け位置を、前記液膜除去領域の拡大による、前記液膜と前記液膜除去領域との境界の移動に同期させて移動させる吹き付け位置移動工程を含む、請求項1または2に記載の基板処理方法である。
【0015】
この方法によれば、加熱流体を、液膜除去領域の拡大による、基板の上面の液膜と液膜除去領域との境界の移動に同期させて、その吹き付け位置を移動させながら基板の下面に吹き付けることで、液膜除去領域に対応する範囲の冷却流体を、選択的に排除することにより、当該冷却流体を除去した範囲に対応する基板の上面の液膜除去領域を効率的に、低表面張力液の沸点以上の温度に加熱できる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記液膜除去領域形成工程ないし前記液膜除去領域拡大工程では、前記気体を、前記基板の上面の全幅に亘る薄層状として、前記基板の上面の一端部に吹き付けることによって、当該基板の上面の、前記一端部付近に、前記液膜除去領域を形成するとともに、前記気体を吹き付ける位置を、前記一端部から、前記基板の他端部方向へ移動させることによって、前記液膜除去領域を拡大させ、前記冷却加熱工程は、前記基板の下面の略全面に冷却流体を供給して、前記液膜を、前記低表面張力液の沸点未満の温度に冷却する冷却工程と、加熱流体を、前記薄層状の気体と平行な、前記基板の下面の全幅に亘る薄層状として、前記基板の下面の、前記液膜除去領域に対応する位置に吹き付けて、前記液膜除去領域を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱する加熱工程とを含み、前記加熱範囲拡大工程は、前記基板の下面の、前記加熱流体の吹き付け位置を、前記液膜除去領域の拡大による、前記液膜と前記液膜除去領域との境界の移動に同期させて移動させる吹き付け位置移動工程を含む、請求項1に記載の基板処理方法である。
【0017】
この方法によれば、低表面張力液の蒸気を含む気体を、基板の上面の全幅に亘る薄層状として、基板の上面の一端部から他端部方向へ吹き付け位置を移動させながら吹き付けることによって、上記基板の上面の一端部近傍に液膜除去領域を形成するとともに、当該液膜除去領域を、基板の上面の他端部方向に拡大させることができる。
また、基板の上面の液膜を基板の下面に供給した冷却流体によって低表面張力液の沸点未満の温度に冷却しながら、当該基板の下面に、低表面張力液の沸点以上の温度に加熱した加熱流体を、基板の下面の全幅に亘る薄層状として、上記液膜除去領域の拡大による、液膜と液膜除去領域との境界の移動に同期させて、吹き付け位置を移動させながら吹き付けることによって、上記冷却流体を選択的に排除して、当該冷却流体を除去した範囲に対応する基板の上面の液膜除去領域を効率的に、低表面張力液の沸点以上の温度に加熱できる。
【0018】
したがって、この方法によれば、パターンの倒壊をさらに効果的に抑制しながら、基板の上面をより一層効率よく乾燥させることができる。
処理液および低表面張力液としては、請求項5に記載したように、水を含む処理液と、水よりも表面張力の低い有機溶剤を含む低表面張力液とを組み合わせるのが好ましい。
前記の目的を達成するための請求項6に記載の発明は、基板を水平に保持する基板保持ユニットと、前記基板保持ユニットで水平に保持した基板を、当該基板の中央部を通る鉛直な回転軸線まわりに回転させる基板回転ユニットと、処理液を、前記基板の上面に供給するための処理液供給ユニットと、前記基板に、前記基板の上面側から、前記処理液よりも表面張力の低い低表面張力液の蒸気を含む気体を供給するための気体供給ユニットと、前記基板の下面に冷却流体を供給するための冷却流体供給ユニットを含み、前記冷却流体供給ユニットから冷却流体を供給することで、前記基板の下面側から、前記基板を、前記低表面張力液の沸点未満の温度に冷却するための冷却ユニットと、前記基板の下面に加熱流体を吹き付けるための加熱流体吹付ユニットを含み、前記加熱流体吹付ユニットから加熱流体を吹き付けることで、前記基板の下面側から、前記基板を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱するための加熱ユニットと、前記基板保持ユニット、前記基板回転ユニット、前記処理液供給ユニット、前記気体供給ユニット、前記冷却ユニット、および前記加熱ユニットを制御する制御装置とを含み、前記制御装置は、前記基板を水平に保持する基板保持工程と、前記基板の上面に前記処理液を供給して液膜を形成する液膜形成工程と、前記基板の上面の回転中心付近に、前記液膜の一部から前記処理液が除去された液膜除去領域を形成する液膜除去領域形成工程と、前記液膜除去領域を、前記回転中心から径方向外方に拡大させる液膜除去領域拡大工程と、前記液膜除去領域拡大工程に並行して、前記液膜除去領域と隣接する前記液膜の内周側の縁部に、前記基板の上面側から、前記低表面張力液の蒸気を含む気体を供給する蒸気供給工程と、前記基板の下面の略全面に冷却流体を供給して、前記液膜を、前記低表面張力液の沸点未満の温度に冷却する冷却工程と、前記基板の下面の、前記液膜除去領域に対応する位置に、加熱流体を吹き付けて、前記液膜除去領域を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱する加熱工程とを含み、前記液膜除去領域拡大工程に並行して、前記基板の下面側から、前記基板上の前記液膜のうち前記縁部を除く部分を、前記低表面張力液の沸点未満の温度に冷却しながら、前記液膜除去領域を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱する冷却加熱工程と、前記基板の下面側から前記液膜除去領域を加熱する範囲を、前記液膜除去領域の拡大に同期させて拡大させる加熱範囲拡大工程と、前記液膜除去領域形成工程、前記液膜除去領域拡大工程、前記蒸気供給工程、前記冷却加熱工程、および前記加熱範囲拡大工程に並行して、前記基板を、前記回転軸線まわりに回転させる基板回転工程とを実行する、基板処理装置である。
【0019】
この構成によれば、基板上の液膜のうち縁部の周囲が低表面張力液の蒸気を含む気体の雰囲気とされることにより、気体中に含まれる低表面張力液が液膜の縁部で処理液中に溶け込む。そのため、液膜の縁部と液膜のバルク部分との間に低表面張力液の濃度差、すなわち表面張力差が生じる。
また、液膜のバルク部分が、基板の下面の略全面に供給した冷却流体によって、低表面張力液の沸点未満の温度に冷却された状態で、基板の上面の液膜除去領域が、基板の下面の、上記液膜除去領域に対応する位置に吹き付けた加熱流体によって、低表面張力液の沸点以上の温度に加熱されることにより、基板を通した熱伝導によって、液膜除去領域と隣接する液膜の縁部の温度が上昇して、当該液膜の縁部と液膜のバルク部分との間に温度差が生じる。
【0020】
したがって、液膜の縁部と液膜のバルク部分との間の表面張力差と温度差に基づくマランゴニ効果による液膜の収縮作用により、液膜の縁部において処理液が上方へとせり上がるような挙動を示して、液膜境界における処理液の液面と基板の上面とがなす接触角が大きくなる。
また、基板の上面の液膜除去領域が、基板の下面側から低表面張力液の沸点以上の温度に加熱されることにより、液膜の縁部のうち液膜除去領域に隣接する基板の上面と直接に接する固液界面部分で、低表面張力液が高濃度で溶け込んだ処理液の蒸発が促進されるため、液膜の縁部において処理液が上方へとせり上がるような挙動を示して、液膜境界における処理液の液面と基板の上面とがなす接触角が大きくなる。
【0021】
すなわち、マランゴニ効果による液膜の収縮作用と、固液界面部分における蒸発作用とが相まって、液膜境界における処理液の液面と基板の上面とがなす接触角をより一層大きくできるとともに、液膜除去領域を速やかに拡大させることができ、特許文献1に記載の手法を採用した場合よりもパターンの倒壊を抑制することができる。
さらに、基板の上面の液膜除去領域が低表面張力液の沸点以上の温度に加熱されることにより、液膜除去領域に低表面張力液が結露するのが抑制される。そのため、液膜除去領域に、結露によって、パターンの高さよりも厚い低表面張力液の液膜が形成されてパターンが倒壊するのを抑制することもできる。
【0022】
したがって、この構成によれば、パターンの倒壊を効果的に抑制しながら、基板の上面を乾燥させることができる。
請求項7に記載の発明は、記基板の下面の、前記加熱流体吹付ユニットからの前記加熱流体の吹き付け位置を移動させるための移動ユニットをさらに含み、前記制御装置は、前記基板の下面の、前記加熱流体の吹き付け位置を、前記液膜除去領域の拡大による、前記液膜と前記液膜除去領域との境界の移動に同期させて移動させる吹き付け位置移動工程を、前記加熱範囲拡大工程として実行する、請求項6に記載の基板処理装置である。
【0023】
この構成によれば、加熱流体を、液膜除去領域の拡大による、基板の上面の液膜と液膜除去領域との境界の移動に同期させて、その吹き付け位置を移動させながら基板の下面に吹き付けることで、液膜除去領域に対応する範囲の冷却流体を、選択的に排除することにより、当該冷却流体を除去した範囲に対応する基板の上面の液膜除去領域を効率的に、低表面張力液の沸点以上の温度に加熱できる。
【0024】
前記の目的を達成するための、請求項8に記載の発明は、基板を水平に保持する基板保持ユニットと、処理液を、前記基板の上面に供給するための処理液供給ユニットと、前記基板の上面に、前記処理液よりも表面張力の低い低表面張力液の蒸気を含む気体を、前記基板の上面の全幅に亘る薄層状として吹き付けるための気体供給ユニットと、前記基板の上面の、前記気体供給ユニットからの前記気体の吹き付け位置を移動させるための上面移動ユニットと、前記基板の下面に冷却流体を供給するための冷却流体供給ユニットと、前記基板の下面に、加熱流体を、前記基板の下面の全幅に亘る薄層状として吹き付けるための加熱流体吹付ユニットと、前記基板の下面の、前記加熱流体吹付ユニットからの前記加熱流体の吹き付け位置を移動させるための下面移動ユニットと、前記基板保持ユニット、前記処理液供給ユニット、前記気体供給ユニット、前記上面移動ユニット、前記冷却流体供給ユニット、前記加熱流体吹付ユニット、および前記下面移動ユニットを制御する制御装置とを含み、前記制御装置は、前記基板を水平に保持する基板保持工程と、前記基板の上面に前記処理液を供給して液膜を形成する液膜形成工程と、前記気体を、前記基板の上面の全幅に亘る薄層状として、前記基板の上面の一端部に吹き付けることによって、当該基板の上面の、前記一端部付近に、前記液膜の一部から前記処理液が除去された液膜除去領域を形成する液膜除去領域形成工程と、前記気体の吹き付け位置を、前記一端部から、前記基板の他端部方向へ移動させることによって、前記液膜除去領域を拡大させる液膜除去領域拡大工程と、前記基板の下面の略全面に冷却流体を供給して、前記液膜を、前記低表面張力液の沸点未満の温度に冷却する冷却工程と、前記加熱流体を、前記薄層状の気体と平行な、前記基板の下面の全幅に亘る薄層状として、前記基板の下面の、前記液膜除去領域に対応する位置に吹き付けて、前記液膜除去領域を、前記低表面張力液の沸点以上の温度に加熱する加熱工程と、前記基板の下面の、前記加熱流体の吹き付け位置を、前記液膜除去領域の拡大による、前記液膜と前記液膜除去領域との境界の移動に同期させて移動させる吹き付け位置移動工程とを実行する、基板処理装置である。
【0025】
この構成によれば、基板上の液膜のうち縁部の周囲が低表面張力液の蒸気を含む気体の雰囲気とされることにより、気体中に含まれる低表面張力液が液膜の縁部で処理液中に溶け込む。そのため、液膜の縁部と液膜のバルク部分との間に低表面張力液の濃度差、すなわち表面張力差が生じる。
また、液膜のバルク部分が低表面張力液の沸点未満の温度に冷却された状態で、基板の上面の液膜除去領域が低表面張力液の沸点以上の温度に加熱されることにより、基板を通した熱伝導によって、液膜除去領域と隣接する液膜の縁部の温度が上昇して、当該液膜の縁部と液膜のバルク部分との間に温度差が生じる。
【0026】
したがって、液膜の縁部と液膜のバルク部分との間の表面張力差と温度差に基づくマランゴニ効果による液膜の収縮作用により、液膜の縁部において処理液が上方へとせり上がるような挙動を示して、液膜境界における処理液の液面と基板の上面とがなす接触角が大きくなる。
また、基板の上面の液膜除去領域が、基板の下面側から低表面張力液の沸点以上の温度に加熱されることにより、液膜の縁部のうち液膜除去領域に隣接する基板の上面と直接に接する固液界面部分で、低表面張力液が高濃度で溶け込んだ処理液の蒸発が促進さるため、液膜の縁部において処理液が上方へとせり上がるような挙動を示して、液膜境界における処理液の液面と基板の上面とがなす接触角が大きくなる。
【0027】
すなわち、マランゴニ効果による液膜の収縮作用と、固液界面部分における蒸発作用とが相まって、液膜境界における処理液の液面と基板の上面とがなす接触角をより一層大きくできるとともに、液膜除去領域を速やかに拡大させることができ、特許文献1に記載の手法を採用した場合よりもパターンの倒壊を抑制することができる。
さらに、基板の上面の液膜除去領域が低表面張力液の沸点以上の温度に加熱されることにより、液膜除去領域に低表面張力液が結露するのが抑制される。そのため、液膜除去領域に、結露によって、パターンの高さよりも厚い低表面張力液の液膜が形成されてパターンが倒壊するのを抑制することもできる。
【0028】
したがって、この構成によれば、パターンの倒壊を効果的に抑制しながら、基板の上面を乾燥させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、この発明の第1の実施形態に係る基板処理装置のレイアウトを示す図解的な平面図である。
図2図2は、前記基板処理装置に備えられる処理ユニットの概略構成を示す模式図である。
図3図3は、前記基板処理装置の主要部の電気的構成を説明するブロック図である。
図4図4は、前記処理ユニットによる基板処理の一例を説明するための流れ図である。
図5図5は、前記処理ユニットによる乾燥処理の一例を説明するための流れ図である。
図6A図6Aは、前記乾燥処理の様子を説明するための図解的な断面図である。
図6B図6Bは、前記乾燥処理の様子を説明するための図解的な断面図である。
図6C図6Cは、前記乾燥処理の様子を説明するための図解的な断面図である。
図6D図6Dは、前記乾燥処理の様子を説明するための図解的な断面図である。
図7A図7Aは、前記乾燥処理における液膜の縁部付近の状態の一例を模式的に示した図である。
図7B図7Bは、前記乾燥処理における液膜の縁部付近の状態の他の例を模式的に示した図である。
図8図8は、前記基板処理装置に備えられる処理ユニットの変形例の概略構成を示す模式図である。
図9図9は、この発明の第2の実施形態に係る基板処理装置に備えられる処理ユニットの概略構成を示す模式図である。
図10図10は、前記基板処理装置の主要部の電気的構成を説明するブロック図である。
図11図11は、前記処理ユニットによる乾燥処理の一例を説明するための流れ図である。
図12A図12Aは、前記乾燥処理の様子を説明するための図解的な断面図である。
図12B図12Bは、前記乾燥処理の様子を説明するための図解的な断面図である。
図12C図12Cは、前記乾燥処理の様子を説明するための図解的な断面図である。
図12D図12Dは、前記乾燥処理の様子を説明するための図解的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
図1は、この発明の第1の実施形態に係る基板処理装置1のレイアウトを示す図解的な平面図である。
基板処理装置1は、シリコンウエハなどの基板Wを一枚ずつ処理する枚葉式の装置である。この実施形態では、基板Wは、円板状の基板である。基板処理装置1は、処理液で基板Wを処理する複数の処理ユニット2と、処理ユニット2で処理される複数枚の基板Wを収容するキャリヤCが載置されるロードポートLPと、ロードポートLPと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する搬送ロボットIRおよびCRと、基板処理装置1を制御する制御装置3とを含む。搬送ロボットIRは、キャリヤCと搬送ロボットCRとの間で基板Wを搬送する。搬送ロボットCRは、搬送ロボットIRと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する。複数の処理ユニット2は、例えば、同様の構成を有している。
【0031】
図2は、基板処理装置1に備えられた処理ユニット2の概略構成を示す模式図である。
処理ユニット2は、一枚の基板Wを水平な姿勢で保持して、基板Wの中心を通る鉛直な回転軸線A1まわりに基板Wを回転させるスピンチャック4を含む。処理ユニット2は、スピンチャック4に保持された基板Wの上面にフッ酸等の薬液を供給する薬液供給ノズル5と、スピンチャック4に保持された基板Wの上面に水を含む処理液を供給する処理液供給ノズル6とをさらに含む。処理液供給ノズル6は、水を含む処理液を供給する処理液供給ユニットの一例である。
【0032】
スピンチャック4は、チャックピン7と、スピンベース8と、回転軸9と、基板Wを回転軸線A1まわりに回転させるスピンモータ10とを含む。チャックピン7およびスピンベース8は、基板Wを水平に保持する基板保持ユニットの一例である。回転軸9およびスピンモータ10は、チャックピン7およびスピンベース8によって保持された基板Wを回転軸線A1まわりに回転させる基板回転ユニットの一例である。
【0033】
回転軸9は、回転軸線A1に沿って鉛直方向に延びており、この実施形態では、中空軸である。回転軸9の上端は、スピンベース8の下面の中央に結合されている。スピンベース8は、水平方向に沿う円盤形状を有している。スピンベース8の上面の周縁部には、基板Wを把持するための複数のチャックピン7が周方向に間隔を空けて配置されている。スピンモータ10は、例えば、回転軸9に回転力を与えることによって、基板W、チャックピン7、スピンベース8および回転軸9を回転軸線A1まわりに一体回転させる電動モータを含む。
【0034】
薬液供給ノズル5は、第1のノズル移動機構11によって、例えば、水平方向(回転軸線A1に垂直な方向)に移動される。薬液供給ノズル5は、水平方向への移動によって、基板Wの上面の回転中心位置に対向する中央位置と、基板Wの上面に対向しない退避位置との間で移動させることができる。基板Wの上面の回転中心位置とは、基板Wの上面における回転軸線A1との交差位置である。基板Wの上面に対向しない退避位置とは、平面視においてスピンベース8の外方の位置である。薬液供給ノズル5には、薬液供給管12が接続されている。薬液供給管12には、その流路を開閉する薬液バルブ13が介装されている。
【0035】
薬液供給ノズル5に供給される薬液は、フッ酸に限らず、硫酸、酢酸、硝酸、塩酸、フッ酸、アンモニア水、過酸化水素水、有機酸(例えば、クエン酸、蓚酸等)、有機アルカリ(例えば、TMAH:テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等)、界面活性剤、腐食防止剤のうちの少なくとも1つを含む液であってもよい。
処理液供給ノズル6は、第2のノズル移動機構14によって、例えば、水平方向(回転軸線A1に垂直な方向)に移動される。処理液供給ノズル6は、水平方向への移動によって、基板Wの上面の回転中心位置に対向する中央位置と、基板Wの上面に対向しない退避位置との間で移動させることができる。処理液供給ノズル6には、処理液供給管15が接続されている。処理液供給管15には、その流路を開閉する処理液バルブ16が介装されている。
【0036】
処理液供給ノズル6に供給される処理液は、例えば、水である。水は、例えば、脱イオン水(DIW)である。しかし、水は、脱イオン水に限らず、炭酸水、電解イオン水、水素水、オゾン水、および希釈濃度(例えば、10ppm〜100ppm程度)の塩酸水のいずれであってもよい。
処理ユニット2は、スピンチャック4に保持された基板Wの上方で移動可能な気体供給ノズル17をさらに含む。気体供給ノズル17は、チャックピン7およびスピンベース8に保持された基板Wに、基板Wの上面側から、水よりも表面張力の低い低表面張力液の蒸気を含む気体を吹き付けて供給する気体供給ユニットの一例である。
【0037】
気体供給ノズル17は、第3のノズル移動機構18によって、水平方向(回転軸線A1に垂直な方向)および鉛直方向(回転軸線A1と平行な方向)に移動される。気体供給ノズル17は、水平方向への移動によって、基板Wの上面の回転中心位置に対向する中央位置と、基板Wの上面に対向しない退避位置との間で移動させることができる。第3のノズル移動機構18は、例えば、鉛直方向に沿う回動軸と、回動軸に結合されて水平に延びるノズルアームと、ノズルアームを駆動するアーム駆動機構とを含む。アーム駆動機構は、回動軸を鉛直な回動軸線まわりに回動させることによってノズルアームを水平移動させ、回動軸を鉛直方向に沿って昇降させることによってノズルアームを上下動させる。気体供給ノズル17はノズルアームに固定される。ノズルアームの水平移動および昇降に応じて、気体供給ノズル17が水平方向および垂直方向に移動する。
【0038】
低表面張力液の一例としては、IPAが挙げられる。しかし、低表面張力液は、IPAに限らず、水よりも表面張力が小さく、かつ、基板Wおよび基板Wに形成されたパターンと化学反応しない、IPA以外の有機溶剤を用いることができる。より具体的には、IPA、HFE(ハイドロフルオロエーテル)、メタノール、エタノール、アセトンおよびTrans-1,2-ジクロロエチレンのうちの少なくとも1つを含む液を低表面張力液として用いることができる。
【0039】
気体供給ノズル17から供給する気体は、低表面張力液の蒸気のみからなる必要はなく、他の成分と混合した混合気体であってもよい。例えば、IPAの蒸気と不活性ガスとを含む混合気体であってもよい。不活性ガスとしては、窒素ガス(N)が挙げられる。しかし、不活性ガスは、窒素ガスに限らず、基板Wおよびパターンに対して不活性なガスであればよく、例えば、アルゴン等の希ガス類であってもよい。
【0040】
気体供給ノズル17から供給する気体の温度は、当該気体に含まれる低表面張力液の沸点以上であればよい。例えば、気体がIPAの蒸気またはIPAの蒸気と不活性ガスとの混合気体である場合、気体の温度は80℃〜90℃が好ましい。
気体供給ノズル17には、気体供給管19が接続されている。気体供給管19には、その流路を開閉する気体バルブ20が介装されている。
【0041】
処理ユニット2は、スピンチャック4に保持された基板Wの下面に、当該基板Wを冷却するための冷却流体としての冷却液を供給する冷却液供給ノズル21をさらに含む。冷却液供給ノズル21は、チャックピン7およびスピンベース8に保持された基板Wを、基板Wの下面側から低表面張力液の沸点未満の温度に冷却するための冷却流体供給ユニットの一例である。
冷却液供給ノズル21は、基板Wの下面の略全面に冷却液を供給することによって基板の上面の液膜を冷却する。冷却液供給ノズル21は、回転軸9を挿通しており、基板Wの裏面の中心に臨む吐出口21aを上端に有している。
【0042】
冷却液供給ノズル21は、この実施形態では、基板Wを回転させながら、吐出口21aから基板Wの下面の中心位置へ向けて冷却液を供給する。供給された冷却液は、遠心力の働きによって基板Wの下面の略全面に行き渡って、基板Wおよび基板Wの上面の液膜が、低表面張力液の沸点未満の温度に冷却される。基板Wの下面の回転中心位置とは、基板Wの下面における回転軸線A1との交差位置である。
【0043】
冷却液供給ノズル21には、冷却液供給源から冷却液供給管22を介して冷却液が供給される。供給される冷却液は、例えば、冷水である。冷水は、室温よりも低温の水であり、例えば、1℃〜10℃の水である。しかし、冷却液は、冷水に限らず、基板Wを冷却することができ、かつ、基板Wおよびパターンと化学反応しない液体であればよい。冷却液供給管22には、その流路を開閉するための冷却液バルブ23が介装されている。
【0044】
処理ユニット2は、スピンチャック4に保持された基板Wの下方で移動可能な加熱気体吹付ノズル24をさらに含む。加熱気体吹付ノズル24は、チャックピン7およびスピンベース8に保持された基板Wの下面に加熱流体としての加熱気体を吹き付けるための加熱流体吹付ユニットの一例である。
加熱気体吹付ノズル24は、第4のノズル移動機構25によって、水平方向(回転軸線A1に垂直な方向)に移動される。加熱気体吹付ノズル24は、水平方向への移動によって、基板Wの下面の回転中心位置に対向する中央位置と、基板Wの下面の周縁部に対抗する周縁位置との間で移動させることができる。加熱気体吹付ノズル24が中央位置に位置するときには、基板Wの下面の回転中心位置に加熱気体が吹き付けられる。一方、加熱気体吹付ノズル24が周縁位置に位置するときには、基板Wの下面の周縁部に加熱気体が吹き付けられる。
【0045】
第4のノズル移動機構25は、加熱気体吹付ノズル24からの加熱気体の吹き付け位置を移動させるための移動ユニットの一例である。第4のノズル移動機構25は、例えば、鉛直方向に沿う回動軸に結合されて水平に延びるノズルアームと、ノズルアームを駆動するアーム駆動機構とを含む。加熱気体吹付ノズル24はノズルアームに固定される。
実施形態では、アーム駆動機構はスピンチャック4の下方に設置される。回動軸は回転軸9を挿通しており、ノズルアームおよび加熱気体吹付ノズル24はスピンベース8の上方で、かつ、チャックピン7およびスピンベース8によって保持された基板Wの下方に設置される。アーム駆動機構は、基板Wの回転方向に交差する方向(例えば、基板Wの径方向)にノズルアームを進退させることによって、ノズルアームを水平移動させる。ノズルアームの水平移動に応じて、加熱気体吹付ノズル24が水平方向に移動する。また、第4のノズル移動機構25は、加熱気体吹付ノズル24を水平移動させる構成に加えて、加熱気体吹付ノズル24を鉛直方向に移動させる機構をさらに備えていてもよい。
【0046】
加熱気体吹付ノズル24には、回転軸9を挿通して加熱気体供給管26が接続されている。加熱気体供給管26には、その流路を開閉する加熱気体バルブ27が介装されている。加熱気体の一例としては、加熱された窒素ガスが挙げられる。しかし、加熱気体は、窒素ガスに限らず、基板Wおよびパターンに対して不活性なガスであればよく、例えば、アルゴン等の希ガス類であってもよい。加熱気体吹付ノズル24から供給する加熱気体の温度は、低表面張力液の沸点以上であればよい。例えば、低表面張力液がIPAである場合、加熱気体の温度は80℃〜95℃が好ましい。
【0047】
処理ユニット2は、図2に二点鎖線で示すように、基板Wに対向し基板Wとの間の雰囲気を周囲の雰囲気から遮断(離隔)するための対向部材としての遮断板28を含んでいてもよい。遮断板28は、基板Wとほぼ同じ径またはそれ以上の径を有する円板状に形成され、スピンチャック4の上方でほぼ水平に配置される。遮断板28は、下位置から上位置までの任意の位置(高さ)に移動することができる。遮断板28が基板Wの上面に十分に接近した位置にあるとき、遮断板28と基板Wとの間は、遮断板28によって周囲(遮断板28と基板Wとの間の空間の外部)の雰囲気から離隔される。
【0048】
図3は、基板処理装置1の主要部の電気的構成を説明するブロック図である。
基板処理装置1は、制御装置3を含む。制御装置3は、マイクロコンピュータを備え、所定の制御プログラムに従って基板処理装置1に備えられた制御対象を制御する。より具体的には、制御装置3は、プロセッサ(CPU)3Aと、制御プログラムが格納されたメモリ3Bとを含み、プロセッサ3Aが制御プログラムを実行することによって、基板処理のための様々な制御を実行するように構成されている。特に、制御装置3は、スピンモータ10、第1のノズル移動機構11、第2のノズル移動機構14、第3のノズル移動機構18、第4のノズル移動機構25、バルブ類13,16,20,23,27を制御するようにプログラムされている。
【0049】
図4は、処理ユニット2による基板処理の一例を説明するための流れ図である。
処理ユニット2による基板処理では、まず、薬液処理工程が実行される(ステップS1)。薬液処理工程では、まず、制御装置3は、スピンモータ10を駆動してスピンベース8を回転させて基板Wの回転を開始する。薬液処理工程では、スピンベース8は、所定の薬液回転速度で回転される。薬液回転速度は、例えば、800rpm〜1000rpmである。
【0050】
そして、制御装置3は、第1のノズル移動機構11を制御して、薬液供給ノズル5を基板Wの上方の薬液処理位置に配置する。薬液処理位置は、例えば、薬液供給ノズル5から吐出される薬液が基板Wの上面の回転中心位置に着液可能な位置である。そして、制御装置3は、薬液バルブ13を開く。これにより、回転状態の基板Wの上面に向けて、薬液供給ノズル5から薬液が供給される。供給された薬液は、遠心力の働きによって基板Wの上面の略全面に行き渡る。
【0051】
一定時間の薬液処理の後、基板Wの上面上の薬液を処理液に置換することによって基板Wの上面上から薬液を排除するリンス処理工程が実行される(ステップS2)。
具体的には、制御装置3は、薬液バルブ13を閉じて薬液供給ノズル5からの薬液の供給を停止させる。そして、制御装置3は、薬液供給ノズル5を退避位置へ移動させる。
そして、制御装置3は、第2のノズル移動機構14を制御して処理液供給ノズル6を基板Wの上方のリンス処理位置に配置する。リンス処理位置は、例えば、処理液供給ノズル6から吐出される処理液が基板Wの上面の回転中心位置に着液する位置である。
【0052】
そして、制御装置3は、処理液バルブ16を開く。これにより、回転状態の基板Wの上面に向けて、処理液供給ノズル6から処理液が供給される。供給された処理液は、遠心力の働きによって基板Wの上面の略全面に行き渡り、薬液を置換する。
リンス処理工程では、制御装置3は、スピンモータ10を制御してスピンベース8を所定の処理液回転速度で回転させる。処理液回転速度は、例えば、800rpm〜1200rpmである。
【0053】
そして、基板Wの上面に処理液を供給し続けることで、基板Wの上面上に処理液の液膜が形成される(液膜形成工程)。制御装置3は、スピンモータ10を制御してスピンベース8を所定の処理液膜形成速度で回転させる。処理液膜形成速度は、例えば、10rpm〜20rpmである。
そして、一定時間のリンス処理の後、基板Wの上面上から液膜を排除するための乾燥処理工程が実行される(ステップS3)。乾燥処理工程を実行することで処理ユニット2による基板処理が終了する。
【0054】
次に、処理ユニット2による乾燥処理工程について詳細に説明する。
図5は、処理ユニット2による乾燥処理の一例を説明するための流れ図である。図6A図6Dは、乾燥処理の一例の様子を説明するための図解的な断面図である。
乾燥処理工程では、まず、制御装置3は、処理液バルブ16を閉じて処理液供給ノズル6からの処理液の供給を停止させる。そして、制御装置3は、処理液供給ノズル6を退避位置へ移動させる。
【0055】
そして、制御装置3は、スピンモータ10を制御してスピンベース8を所定の冷却液供給速度で回転させる。冷却液供給速度は、例えば、10rpm〜20rpmである。そして、制御装置3は、冷却液バルブ23を開き、冷却液供給ノズル21に冷却液(例えば冷水)の供給を開始させる(ステップT1)。図6Aに示すように、冷却液29は、回転状態の基板Wの下面の回転中心位置に向けて吐出口21aから吐出される。吐出された冷却液29は、遠心力の働きによって基板Wの下面の略全面に行き渡る。そして、基板Wの下面に冷却液29を供給し続けることで、基板Wおよび基板Wの上面の液膜30が、低表面張力液の沸点未満の温度に冷却される(冷却工程)。
【0056】
一定時間の冷却工程の後、制御装置3は、冷却液バルブ23を閉じることによって、冷却液供給ノズル21からの冷却液の供給を停止させる(ステップT2)。
そして、図6B図6Dに示すように、基板Wの上面の回転中心位置に低表面張力液の蒸気を含む気体を吹き付けることによって基板Wの上面の回転中心を含む領域に略円形の液膜除去領域31を形成する液膜除去領域形成工程と、形成した液膜除去領域31を径方向外方に拡大させる液膜除去領域拡大工程とが実行される。
【0057】
また、液間除去領域形成工程および液膜除去領域拡大工程と並行して、基板Wの下面の回転中心位置に加熱気体を吹き付けることによって、基板Wの上面の液膜除去領域31を低表面張力液の沸点以上の温度に加熱する加熱工程と、液膜除去領域31の拡大による液膜境界32の移動に同期させて、加熱気体の吹き付け位置を移動させる吹き付け位置移動工程とが実行される。
【0058】
詳しくは、制御装置3は、第3のノズル移動機構18を制御して気体供給ノズル17を基板Wの上方の気体供給開始位置に配置する(ステップT3)。気体供給開始位置は、例えば、気体供給ノズル17から吐出される低表面張力液の蒸気を含む気体が基板Wの上面の回転中心位置に到達する位置である。
また、制御装置3は、第4のノズル移動機構25を制御して加熱気体吹付ノズル24を基板Wの下方の加熱気体吹き付け開始位置に配置する(ステップT4)。加熱気体吹き付け開始位置は、例えば、加熱気体吹付ノズル24から吐出される加熱気体が基板Wの下面の回転中心位置に到達する位置である。
【0059】
そして、制御装置3は、スピンモータ10を制御してスピンベース8を所定の液膜除去領域形成速度で回転させる。液膜除去領域形成速度は、例えば、10rpmである。
そして、制御装置3は、気体バルブ20を開くことによって、回転状態の基板Wの上面の回転中心位置に向けて、気体供給ノズル17から低表面張力液の蒸気を含む気体の供給を開始する(ステップT5)。気体供給ノズル17から液膜30に向けて気体を吹き付けると、液膜30を形成する処理液が、気体の吹き付けによって基板Wの上面の回転中心位置から径方向外方向へ押しやられ、基板Wの回転による遠心力の働きも加わって、基板Wの上面の回転中心を含む領域に、図6Bに示すように、液膜除去領域31が略円形に形成される(液膜除去領域形成工程)。
【0060】
また、制御装置3は、加熱気体バルブ27を開くことによって、回転状態の基板Wの下面の回転中心位置に向けて、加熱気体吹付ノズル24から、低表面張力液の沸点以上の温度に加熱された加熱気体の吹き付けを開始する(ステップT6)。加熱気体が吹き付けられると、基板Wの回転による遠心力の働きも加わって、基板Wの下面の回転中心を含む範囲の冷却液29が選択的に排除されるとともに、冷却液29が排除された範囲33が、加熱気体によって加熱される。冷却液29は、先述したように、液膜30のうち、縁部を除くバルク部に対応する部分に残される。そのため、範囲33は、基板Wの上面の液膜除去領域31と、液膜30の縁部とを包含する範囲とされ、範囲33に包含される基板Wの上面の液膜除去領域31の全面が、選択的に、低表面張力液の沸点以上の温度に加熱される(加熱工程)。
【0061】
次いで、制御装置3は、スピンモータ10を制御してスピンベース8を所定の液膜除去領域拡大速度で回転させる。液膜除去領域拡大速度は、例えば、50rpmである。
そして、制御装置3は、気体供給ノズル17からの低表面張力液の蒸気を含む気体の吹き付けを継続しながら、第3のノズル移動機構18を制御して気体供給ノズル17を気体供給開始位置(回転中心位置)から基板Wの径方向外方に所定の速度で移動させる(ステップT7)。気体供給ノズル17を径方向外方へ移動させると、気体供給ノズル17から基板Wの上面に気体を吹き付ける位置が回転中心から径方向外方に移動し、この移動に伴って、液膜除去領域31を囲む液膜30の液膜境界32を形成する処理液がさらに径方向外方へ押し出される。そのため、基板Wの回転による遠心力の働きも加わって、液膜除去領域31が径方向外方に拡大される(液膜除去領域拡大工程)。
【0062】
また、制御装置3は、加熱気体吹付ノズル24からの加熱気体の吹き付けを継続しながら、第4のノズル移動機構25を制御して加熱気体吹付ノズル24を加熱気体吹き付け開始位置(回転中心位置)から基板Wの径方向外方に所定の速度で、液膜除去領域31の拡大に伴う液膜境界32の移動に同期させて移動させる(ステップT8)。加熱気体吹付ノズル24を液膜境界32の移動に同期させて径方向外方へ移動させると、加熱気体吹付ノズル24から基板の下面に加熱気体を吹き付ける位置が回転中心から径方向外方に移動し、この移動に伴って、基板Wの下面の、冷却液29が排除されて、加熱気体によって加熱される範囲33を、液膜除去領域31の拡大に同期させて拡大させることができる(加熱範囲拡大工程)。
【0063】
制御装置3は、気体供給ノズル17が気体供給終了位置まで到達した時点で、第3のノズル移動機構18を制御して気体供給ノズル17の移動を停止させ(ステップT9)、そして、気体バルブ20を閉じることによって、気体供給ノズル17からの低表面張力液の蒸気を含む気体の吹き付けを停止する(ステップT10)。気体供給終了位置は、例えば、気体供給ノズル17から吐出される低表面張力液の蒸気を含む気体が基板Wの上面の周縁に到達する位置である。気体供給ノズル17が気体供給終了位置に達することにより液膜境界32が基板Wの上面の周縁まで移動して、図6Dに示すように、液膜除去領域31が基板Wの上面の全域に広がった状態となる。
【0064】
また、制御装置3は、加熱気体吹付ノズル24が加熱気体吹付終了位置まで到達した時点で、第4のノズル移動機構25を制御して加熱気体吹付ノズル24の移動を停止させ(ステップT11)、そして、加熱気体バルブ27を閉じることによって、加熱気体吹付ノズル24からの加熱気体の吹き付けを停止する(ステップT12)。加熱気体吹付終了位置は、例えば、加熱気体吹付ノズル24から吐出される加熱気体が基板Wの下面の周縁に到達する位置である。加熱気体吹付ノズル24が加熱気体吹付終了位置に達することにより、基板Wの下面の全面で冷却液が排除されて乾燥処理が終了し、処理ユニット2による基板処理が終了する。
【0065】
図7Aは、乾燥処理における液膜30の縁部30aの付近の状態の一例を模式的に示した図である。
一般に、液膜30の縁部30aは、液膜30のバルク部分30bと一体の厚膜部30cと、当該厚膜部30cが液膜除去領域31の拡大に伴って移動(図の例では左方向に移動)する際に、厚膜部30cの移動方向の後端である液膜境界32より後方に生じる薄膜部30dとを含む。薄膜部30dは、液膜30を構成する処理液の一部が、基板Wとの濡れ性に基づいて基板Wの表面に残されたり、気体供給ノズルから供給された気体中に含まれる低表面張力液が結露したりして発生する。
【0066】
パターンPの倒壊に大きく影響するのは、液膜30の縁部30aのうち、パターンPの高さよりも厚い厚膜部30cの後端である液膜境界32における、処理液の液面と基板Wの上面とがなす接触角θである。
乾燥処理のうち、液膜除去領域拡大工程および加熱範囲拡大工程においては、基板W上の液膜30の、縁部30aの周囲が気体供給ノズル17から供給された気体の雰囲気とされることにより、当該気体中に含まれる低表面張力液(IPA)が、主に液膜30の縁部30aで、図中に白抜きの矢印で示すように処理液中に溶け込む。そのため、液膜30の縁部30aとバルク部分30bとの間に低表面張力液の濃度差、すなわち表面張力差が生じる。詳細には、低表面張力液の濃度は、液膜30の縁部30aのうち薄膜部30dにおいて最も高く、続く厚膜部30cからバルク部分30bにかけて徐々に低くなる濃度分布を示す。
【0067】
また、一般に、低表面張力液の沸点は、主に水である処理液の沸点より低いため、低表面張力液の濃度分布に基づいて、液膜30は、縁部30aのうち薄膜部30dにおいて沸点が最も低く、続く厚膜部30cからバルク部分30bにかけて沸点が徐々に高くなる傾向を示す。液膜30のバルク部分30bの沸点は、例えば、液膜を形成する処理液が水である場合、水の沸点である100℃に近く、液膜30の縁部30aのうち薄膜部30dの沸点は、例えば、低表面張力液がIPAである場合、IPAの沸点である82.4℃に近くなり、厚膜部30cの沸点は、この両者の中間で、かつ薄膜部30d側が低くバルク部分30b側が高くなる傾向を示す。
【0068】
また、液膜30の縁部30aを除く、液膜30のバルク部分30bが、基板Wの下面に供給された冷却液29によって、低表面張力液の沸点未満の温度に冷却された状態で、基板Wの上面の液膜除去領域31の全面が、基板Wの下面側から低表面張力液の沸点以上の温度に加熱されることにより、基板Wを通した熱伝導によって、液膜除去領域31と隣接する液膜30の薄膜部30dから厚膜部30cにかけての温度が上昇して、当該液膜30のバルク部分30bとの間に温度差が生じる。詳細には、液膜30は、縁部30aのうち薄膜部30dにおいて温度が最も高く、続く厚膜部30cからバルク部分30bにかけて温度が徐々に低くなる温度分布を示す。
【0069】
したがって、液膜30の縁部30aと、それに続くバルク部分30bとの間の、表面張力差と温度差に基づくマランゴニ効果による液膜30の収縮作用によって、液膜30の縁部30aのうち厚膜部30cにおいて、処理液が、図中に実線の矢印で示すように上方へとせり上がるような挙動を示す。
また、基板Wの上面の液膜除去領域31の全面が、基板Wの下面側から低表面張力液の沸点以上の温度に加熱されることにより、液膜30の縁部30aのうち液膜除去領域31に隣接する基板Wの上面と直接に接する薄膜部30d、ならびに厚膜部30cのうち薄膜部30dおよび基板Wの上面と直接に接する固液界面部分で、低表面張力液が高濃度で溶け込んで沸点が低下した処理液の蒸発が促進される。そのため、固液界面部分における蒸発作用により、液膜30の縁部30aのうち厚膜部30cにおいて、処理液が、図中に実線の矢印で示すように上方へとせり上がるような挙動を示す。
【0070】
さらに液膜30には、図中に黒矢印で示す基板Wの回転による遠心力の働きも作用する。
そのため、マランゴニ効果による液膜30の収縮作用と、固液界面部分における蒸発作用と、基板Wの回転による遠心力の働きとが相まって、液膜境界32における処理液の液面と基板Wの上面とがなす接触角θをより一層大きくできる。
【0071】
また、基板Wの回転による遠心力の作用によって、液膜除去領域31を速やかに拡大させることもできる。
さらに、基板Wの上面の液膜除去領域31の全面が低表面張力液の沸点以上の温度に加熱されることにより、当該液膜除去領域31に隣接する基板Wの上面と直接に接触する薄膜部30dにおいて処理液の蒸発が促進されるとともに、当該薄膜部30dに低表面張力液が結露するのが抑制される。
【0072】
そのため、薄膜部30dの厚みを極力小さくして、当該薄膜部30dがパターンPの倒壊に影響するのを抑制することもできる。
したがって、パターンPの倒壊を効果的に抑制しながら、基板Wの上面を乾燥させることができる。
なお、液膜除去領域拡大工程および加熱範囲拡大工程では、例えば、図7Bに示すように、基板Wの下面の、加熱気体の吹き付けにより冷却液29を排除して加熱する範囲33を、縁部30aと隣接する液膜30のバルク部30bまで拡げるとともに、加熱気体の吹き付けによる範囲33の拡大を、基板Wの上面の、液膜除去領域31の拡大に伴う液膜30の縁部30aの移動に先行させてもよい。
【0073】
液膜30の熱容量は大きいため、基板Wの下面側からの加熱を多少先行させても、上述したメカニズムにより、パターンPの倒壊を効果的に抑制しながら、基板Wの上面を乾燥させることができる。
しかも、加熱気体の吹き付けによる範囲33の拡大と、液膜除去領域31の拡大に伴う液膜30の縁部30aの移動とが完全に一致するように、ノズル移動機構18、25を制御するのは、環境温度等の影響によって容易でない場合がある。
【0074】
これに対し、加熱気体の吹き付けによる範囲33の拡大を先行させる場合には、環境等の影響をも取り込んで、上述したメカニズムにより、パターンPの倒壊を効果的に抑制しながら、基板Wの上面を乾燥させることが可能となり、ノズル移動機構18、25の制御も比較的容易化できる。
ただし、範囲33の拡大が、液膜30の縁部30aの移動より遅れる場合には、上述したメカニズムが正常に機能しない場合を生じるため、範囲33の拡大を、液膜30の縁部30aの移動より遅らせる場合は、本発明に含まないこととする。
【0075】
なお、実施形態では冷却加熱工程を実施するために、基板Wの下面に冷却液を供給するための冷却液供給ノズル21(冷却流体供給ユニット)と、基板Wの下面に加熱気体を吹き付けるための加熱気体吹付ノズル24(加熱流体吹付ユニット)と、加熱気体の吹き付け位置を移動させるための第4のノズル移動機構25(移動ユニット)とを組み合わせていたが、冷却加熱工程を実施するための構成はこれに限定されるものではない。
【0076】
図8は、前記基板処理装置に備えられる処理ユニットの変形例の概略構成を示す模式図である。この変形例の処理ユニット2は、上述したように図2の処理ユニット2のうち、冷却加熱工程を実施するための構成のみが異なるものである。したがって、図8においては、前述の図2に示された各部と同等の構成部分について、図2と同等の符号を付して、その説明を省略する。
【0077】
図8に示すように、処理ユニット2は、スピンチャック4に保持された基板Wの下方で移動可能な冷却加熱ブロック34をさらに含む。
冷却加熱ブロック34は、基板Wの下面に冷却流体を吹き付けるための冷却流体吹付ノズル35と、基板Wの下面に加熱流体を吹き付けるための加熱流体吹付ノズル36と、両ノズル35、36間を仕切るガード37とを一体で移動可能としたものである。冷却流体吹付ノズル35は、ガード37より基板Wの径方向外方に設置され、加熱流体吹付ノズル36は、ガード37より基板Wの径方内方に設置されている。
【0078】
冷却流体吹付ノズル35は、チャックピン7およびスピンベース8に保持された基板Wを低表面張力液の沸点未満の温度に冷却するための冷却ユニットの一例である。
冷却流体吹付ノズル35には、回転軸9を挿通して冷却流体供給管38が接続されている。冷却流体供給管38には、その流路を開閉する冷却流体バルブ39が介装されている。冷却流体の一例としては、例えば、1℃〜10℃の冷水が挙げられる。しかし、冷却流体は、冷水に限らず、基板Wを冷却することができ、かつ、基板Wおよびパターンと化学反応しない液体、もしくは基板Wおよびパターンに対して不活性なガスを用いることができる。より具体的には、冷水、室温以下の不活性ガス(Nなど)を冷却流体として用いることができる。
【0079】
加熱流体吹付ノズル36は、チャックピン7およびスピンベース8に保持された基板Wを低表面張力液の沸点以上の温度に加熱するための加熱ユニットの一例である。
加熱流体吹付ノズル36には、回転軸9を挿通して加熱流体供給管40が接続されている。加熱流体供給管40には、その流路を開閉する加熱流体バルブ41が介装されている。加熱流体の一例としては、例えば、低表面張力液の沸点以上の温水が挙げられる。であればよい。例えば、低表面張力液がIPAである場合、加熱流体の温度は80℃〜95℃が好ましい。しかし、加熱流体は、温水に限らず、基板Wを加熱することができ、かつ、基板Wおよびパターンと化学反応しない液体、もしくは基板Wおよびパターンに対して不活性なガスを用いることができる。より具体的には、温水、窒素ガス、アルゴン等の希ガス類であってもよい。
【0080】
ガード37は、加熱流体吹付ノズル36によって基板Wの下面に吹き付けた加熱流体が基板Wの径方向外方側に漏れたり、逆に、冷却流体吹付ノズル35によって基板Wの下面に吹き付けた冷却流体が基板Wの径方向内方側に漏れたりするのを防ぐ仕切りである。
ガード37としては、仕切り板が挙げられる。しかし、ガード37は、仕切り板に限らず、基板Wの下面に冷却流体と加熱流体の中間の温度の流体を吹き付けるノズルであってもよい。ガード37を設けることにより、冷却流体と加熱流体が基板Wの下面で混ざり合うのを抑制して、基板Wの上面の液膜30のうちバルク部分を低表面張力液の沸点未満の温度に冷却しながら、液膜除去領域31の全面を低表面張力液の沸点以上の温度に加熱できる。
【0081】
冷却加熱ブロック34は、ブロック移動機構42によって、水平方向(回転軸線A1に垂直な方向)に移動される。冷却加熱ブロック34は、水平方向への移動によって、基板Wの下面の回転中心位置に対向する中央位置と、基板Wの下面の周縁部に対向する周縁位置との間で移動させることができる。冷却加熱ブロック34が中央位置に位置するときには、基板Wの下面の回転中心位置に加熱流体、その径方向外方に冷却流体が吹き付けられる。一方、冷却加熱ブロック34が周縁位置に位置するときには、基板Wの下面の周縁部に冷却流体、その径方向内方に加熱流体が吹き付けられる。
【0082】
ブロック移動機構42は、例えば、鉛直方向に沿う回動軸に結合されて水平に延びるノズルアームと、ノズルアームを駆動するアーム駆動機構とを含む。冷却加熱ブロック34はノズルアームに固定される。
アーム駆動機構はスピンチャック4の下方に設置される。回動軸は回転軸9を挿通しており、ノズルアームおよび冷却加熱ブロック34はスピンベース8の上方で、かつ、チャックピン7およびスピンベース8によって保持された基板Wの下方に設置される。アーム駆動機構は、基板Wの回転方向に交差する方向(例えば、基板Wの径方向)にノズルアームを進退させることによって、ノズルアームを水平移動させる。ノズルアームの水平移動に応じて、冷却加熱ブロック34が水平方向に移動する。また、ブロック移動機構42は、冷却加熱ブロック34を水平移動させる構成に加えて、冷却加熱ブロック34を鉛直方向に移動させる機構をさらに備えていてもよい。
【0083】
この変形例によれば、基板Wを回転させながら、気体供給ノズル17から低表面張力液の蒸気を含む気体の供給を開始して、基板Wの上面の回転中心を含む領域に液膜除去領域31を略円形に形成するとともに、それぞれ基板Wの下面への、冷却流体吹付ノズル35からの冷却流体の吹き付けおよび加熱流体吹付ノズル36からの加熱流体の吹き付けを開始する。
【0084】
冷却流体吹付ノズル35からの冷却流体の吹き付け開始位置は、基板Wの下面の、液膜除去領域31を囲む液膜30の縁部より外側に対応する位置に設定し、加熱流体吹付ノズル36からの加熱流体の吹き付け開始位置は、基板Wの下面の、液膜除去領域31内の液膜境界32の近傍に対応する位置に設定する。
そして、冷却流体吹付ノズル35からの冷却流体の吹き付けおよび加熱流体吹付ノズル36からの加熱流体の吹き付けを継続しながら、ブロック移動機構42を制御して冷却加熱ブロック34を基板Wの径方向外方に所定の速度で、液膜除去領域31の拡大に伴う液膜境界32の移動に同期させて移動させる。
【0085】
これにより、冷却流体吹付ノズル35からの冷却流体の吹き付けによって、基板Wの上面の液膜30のバルク部分を低表面張力液の沸点未満の温度に冷却しながら、冷却加熱ブロック34の移動に伴って、加熱流体吹付ノズル36から基板Wの下面に加熱流体を吹き付ける位置を加熱流体の吹き付け開始位置から径方向外方に移動させて、基板Wの上面の液膜除去領域31に対応する、低表面張力液の沸点以上の温度に加熱される範囲を、当該液膜除去領域31の拡大に同期させて拡大させることができる(加熱範囲拡大工程)。
【0086】
図9は、この発明の第2の実施形態に係る基板処理装置に備えられる処理ユニット2の概略構成を示す模式図である。この第2の実施形態の処理ユニット2は、図2の処理ユニット2のうち、液膜除去領域形成工程、液膜除去領域拡大工程、および冷却加熱工程を実施するための構成が異なるものである。したがって、図9においては、前述の図2に示された各部と同等の構成部分について、図2と同等の符号を付して、その説明を省略する。
【0087】
図9に示すように、処理ユニット2は、スピンチャック4に保持された基板Wの上方で移動可能な気体吹付ノズル43をさらに含む。気体吹付ノズル43は、ライン状に配列された複数のノズル穴、もしくはスリット状のノズル穴を備え、当該ノズル穴から、チャックピン7およびスピンベース8に保持された基板Wの上面に、水よりも表面張力の低い低表面張力液の蒸気を含む気体を、上記基板Wの上面の全幅、例えば、円形の基板Wの場合は、当該基板Wの直径に亘る、薄層状(エアナイフ状)として吹き付ける気体供給ユニットの一例である。
【0088】
気体吹付ノズル43は、第3のノズル移動機構44によって、水平方向(回転軸線A1に垂直な方向)および鉛直方向(回転軸線A1と平行な方向)に移動される。気体吹付ノズル43は、水平方向への移動によって、基板Wの上面の一端部と他端部との間で移動させることができる。例えば、円形の基板Wの場合は、当該基板Wの上面の周縁上に設定された一端部から、回転中心を挟んで反対側の周縁上に設定された他端部までの間で移動させることができる。
【0089】
第3のノズル移動機構44は、気体吹付ノズル43からの気体の吹き付け位置を移動させるための上面移動ユニットの一例である。第3のノズル移動機構44は、例えば、鉛直方向に沿う回動軸と、回動軸に結合されて水平に延びるノズルアームと、ノズルアームを駆動するアーム駆動機構とを含む。アーム駆動機構は、回動軸を鉛直な回動軸線まわりに回動させることによってノズルアームを水平移動させ、回動軸を鉛直方向に沿って昇降させることによってノズルアームを上下動させる。気体吹付ノズル43はノズルアームに固定される。ノズルアームの水平移動および昇降に応じて、気体吹付ノズル43が水平方向および垂直方向に移動する。
【0090】
また、ノズルアームは、気体吹付ノズル43のライン状もしくはスリット状のノズル穴の配列を、基板Wの上面と平行で、かつ気体吹付ノズル43の移動方向と一定の角度、例えば、90°で交差する方向に維持しながら、気体吹付ノズル43を水平方向へ移動させるためのリンク機構をさらに含む。
このリンク機構の機能により、気体吹付ノズル43から基板Wの上面に吹き付けられる気体の薄層(エアナイフ)を、気体吹付ノズル43の移動方向と一定の角度、例えば、90°で交差させた状態を維持しながら、基板Wの上面の一端部から他端部方向へ移動させることができる。
【0091】
気体吹付ノズル43には、気体供給管45が接続されている。気体供給管45には、その流路を開閉する気体バルブ46が介装されている。
処理ユニット2は、スピンチャック4に保持された基板Wの下方で移動可能な加熱気体吹付ノズル47をさらに含む。加熱気体吹付ノズル47は、ライン状に配列された複数のノズル穴、もしくはスリット状のノズル穴を備え、当該ノズル穴から、チャックピン7およびスピンベース8に保持された基板Wの下面に、加熱流体としての加熱気体を、記基板Wの下面の全幅、例えば、円形の基板Wの場合は、当該基板Wの直径に亘る、薄層状(エアナイフ状)として吹き付ける加熱流体吹付ユニットの一例である
【0092】
加熱気体吹付ノズル47は、第4のノズル移動機構48によって、水平方向(回転軸線A1に垂直な方向)に移動される。加熱気体吹付ノズル47は、水平方向への移動によって、基板Wの下面の一端部と他端部との間で移動させることができる。例えば、円形の基板Wの場合は、前述した基板Wの上面の一端部に対応する、基板Wの下面の周縁上に設定された一端部から、回転中心を挟んで反対側の周縁上に設定された他端部までの間で移動させることができる。
【0093】
第4のノズル移動機構48は、加熱気体吹付ノズル47からの加熱気体の吹き付け位置を移動させるための下面移動ユニットの一例である。第4のノズル移動機構48は、例えば、鉛直方向に沿う回動軸に結合されて水平に延びるノズルアームと、ノズルアームを駆動するアーム駆動機構とを含む。加熱気体吹付ノズル47はノズルアームに固定される。
アーム駆動機構は、基板Wの回転方向に交差する方向(例えば、基板Wの径方向)にノズルアームを進退させることによって、ノズルアームを水平移動させる。ノズルアームの水平移動に応じて、加熱気体吹付ノズル47が水平方向に移動する。
【0094】
また、ノズルアームは、加熱気体吹付ノズル47のライン状もしくはスリット状のノズル穴の配列を、基板Wの下面と平行で、かつ気体吹付ノズル43のライン状もしくはスリット状のノズル穴の配列と平行に配列した状態に維持しながら、加熱気体吹付ノズル47を水平方向へ移動させるためのリンク機構をさらに含む。
このリンク機構の機能により、加熱気体吹付ノズル47から基板Wの下面に吹き付けられる加熱気体の薄層(エアナイフ)を、気体吹付ノズル43から基板Wの上面に吹き付けられる気体の薄層(エアナイフ)と平行に維持しながら、基板Wの下面の一端部から他端部方向へ移動させることができる。
【0095】
実施形態では、アーム駆動機構はスピンチャック4の下方に設置される。回動軸は回転軸9を挿通しており、ノズルアーム、リンク機構、および加熱気体吹付ノズル47はスピンベース8の上方で、かつ、チャックピン7およびスピンベース8によって保持された基板Wの下方に設置される。また、第4のノズル移動機構48は、加熱気体吹付ノズル47を水平移動させる構成に加えて、加熱気体吹付ノズル47を鉛直方向に移動させる機構をさらに備えていてもよい。
【0096】
加熱気体吹付ノズル47には、回転軸9を挿通して加熱気体供給管49が接続されている。加熱気体供給管49には、その流路を開閉する加熱気体バルブ50が介装されている。
図10は、基板処理装置1の主要部の電気的構成を説明するブロック図である。
基板処理装置1は、制御装置3を含む。制御装置3は、マイクロコンピュータを備え、所定の制御プログラムに従って基板処理装置1に備えられた制御対象を制御する。より具体的には、制御装置3は、プロセッサ(CPU)3Aと、制御プログラムが格納されたメモリ3Bとを含み、プロセッサ3Aが制御プログラムを実行することによって、基板処理のための様々な制御を実行するように構成されている。特に、制御装置3は、スピンモータ10、第1のノズル移動機構11、第2のノズル移動機構14、第3のノズル移動機構44、第4のノズル移動機構48、バルブ類13,16,23,46,50を制御するようにプログラムされている。
【0097】
次に、処理ユニット2による乾燥処理工程について詳細に説明する。
図11は、処理ユニット2による乾燥処理の一例を説明するための流れ図である。図12A図12Dは、乾燥処理の一例の様子を説明するための図解的な断面図である。
乾燥処理工程では、まず、制御装置3は、処理液バルブ16を閉じて処理液供給ノズル6からの処理液の供給を停止させる。そして、制御装置3は、処理液供給ノズル6を退避位置へ移動させる。
【0098】
そして、制御装置3は、スピンモータ10を制御してスピンベース8を所定の冷却液供給速度で回転させる。冷却液供給速度は、例えば、10rpm〜20rpmである。そして、制御装置3は、冷却液バルブ23を開き、冷却液供給ノズル21に冷却液(例えば冷水)の供給を開始させる(ステップT1)。図12Aに示すように、冷却液29は、回転状態の基板Wの下面の回転中心位置に向けて吐出口21aから吐出される。吐出された冷却液29は、遠心力の働きによって基板Wの下面の略全面に行き渡る。そして、基板Wの下面に冷却液29を供給し続けることで、基板Wおよび基板Wの上面の液膜30が、低表面張力液の沸点未満の温度に冷却される(冷却工程)。
【0099】
一定時間の冷却工程の後、制御装置3は、冷却液バルブ23を閉じることによって、冷却液供給ノズル21からの冷却液の供給を停止させる(ステップT2)。
そして、制御装置3は、スピンモータ10を制御してスピンベース8の回転を停止させる(ステップT3)。
そして、図12B図12Dに示すように、基板Wの上面の一端部に低表面張力液の蒸気を含む気体を薄層状に吹き付けることによって、基板Wの上面の一端部を含む領域に液膜除去領域31を形成する液膜除去領域形成工程と、形成した液膜除去領域31を基板Wの他端部方向に拡大させる液膜除去領域拡大工程とが実行される。
【0100】
また、液間除去領域形成工程および液膜除去領域拡大工程と並行して、基板Wの下面の一端部に、加熱気体を、基板Wの上面に吹き付けられる薄層状の気体と平行な薄層状に吹き付けることによって、基板Wの上面の液膜除去領域31を低表面張力液の沸点以上の温度に加熱する加熱工程と、液膜除去領域31の拡大による液膜境界32の移動に同期させて、加熱気体の吹き付け位置を移動させる吹き付け位置移動工程とが実行される。
【0101】
詳しくは、制御装置3は、第3のノズル移動機構44を制御して気体吹付ノズル43を基板Wの上方の気体供給開始位置に配置する(ステップT4)。気体供給開始位置は、例えば、気体吹付ノズル43から吐出される低表面張力液の蒸気を含む気体が基板Wの上面の一端部に到達する位置である。
また、制御装置3は、第4のノズル移動機構48を制御して加熱気体吹付ノズル47を基板Wの下方の加熱気体吹き付け開始位置に配置する(ステップT5)。加熱気体吹き付け開始位置は、例えば、加熱気体吹付ノズル47から吐出される加熱気体が、上記基板Wの上面の一端部に対応する、基板Wの下面の一端部に到達する位置である。
【0102】
そして、制御装置3は、気体バルブ46を開くことによって、基板Wの上面の一端部に向けて、気体吹付ノズル43から低表面張力液の蒸気を含む薄層状の気体の吹き付けを開始する(ステップT6)。気体吹付ノズル43から液膜30に向けて薄層状の気体を吹き付けると、液膜30を形成する処理液が、気体の吹き付けによって基板Wの上面の一端部から他端部方向へ押しやられ、基板Wの上面の一端部を含む領域に、図12Bに示すように、液膜除去領域31が形成される(液膜除去領域形成工程)。
【0103】
また、制御装置3は、加熱気体バルブ50を開くことによって、基板Wの下面の一端部に向けて、加熱気体吹付ノズル47から、低表面張力液の沸点以上の温度に加熱された薄層状の加熱気体の吹き付けを開始する(ステップT7)。加熱気体は、前述したように、基板Wの上面に吹き付けられる薄層状の気体と平行な薄層状に吹き付けられる。加熱気体吹付ノズル47から薄層状の加熱気体が吹き付けられると、基板Wの下面の一端部を含む範囲の冷却液29が選択的に排除されるとともに、冷却液29が排除された範囲33が、加熱気体によって加熱される。冷却液29は、先述したように、液膜30のうち、縁部を除くバルク部に対応する部分に残される。そのため、範囲33は、基板Wの上面の液膜除去領域31と、液膜30の縁部とを包含する範囲とされ、範囲33に包含される基板Wの上面の液膜除去領域31の全面が、選択的に、低表面張力液の沸点以上の温度に加熱される(加熱工程)。
【0104】
次いで、制御装置3は、気体供給ノズル43からの低表面張力液の蒸気を含む気体の吹き付けを継続しながら、第3のノズル移動機構44を制御して気体供給ノズル43を気体供給開始位置(一端部)から基板Wの他端部方向に所定の速度で移動させる(ステップT8)。気体供給ノズル43を移動させると、気体供給ノズル43から基板Wの上面に薄層状の気体を吹き付ける位置が一端部から他端部方向に移動し、この移動に伴って、液膜除去領域31を囲む液膜30の液膜境界32を形成する処理液がさらに他端部方向へ押し出される。そのため、液膜除去領域31が一端部から他端部方向へ拡大される(液膜除去領域拡大工程)。
【0105】
また、制御装置3は、加熱気体吹付ノズル47からの加熱気体の吹き付けを継続しながら、第4のノズル移動機構48を制御して加熱気体吹付ノズル47を加熱気体吹き付け開始位置(一端部)から基板Wの他端部方向に所定の速度で、液膜除去領域31の拡大に伴う液膜境界32の移動に同期させて移動させる(ステップT9)。加熱気体吹付ノズル47を液膜境界32の移動に同期させて他端部方向へ移動させると、加熱気体吹付ノズル47から基板の下面に薄層状の加熱気体を吹き付ける位置が一端部から他端部方向に移動し、この移動に伴って、基板Wの下面の、冷却液29が排除されて、加熱気体によって加熱される範囲33を、液膜除去領域31の拡大に同期させて拡大させることができる(加熱範囲拡大工程)。
【0106】
制御装置3は、気体供給ノズル43が気体供給終了位置(他端部)まで到達した時点で、第3のノズル移動機構44を制御して気体供給ノズル43の移動を停止させ(ステップT10)、そして、気体バルブ46を閉じることによって、気体供給ノズル43からの低表面張力液の蒸気を含む気体の吹き付けを停止する(ステップT11)。気体供給ノズル43が他端部に達することにより液膜境界32が基板Wの上面の他端部まで移動して、図12Dに示すように、液膜除去領域31が基板Wの上面の全域に広がった状態となる。
【0107】
また、制御装置3は、加熱気体吹付ノズル47が加熱気体吹付終了位置(他端部)まで到達した時点で、第4のノズル移動機構48を制御して加熱気体吹付ノズル47の移動を停止させ(ステップT12)、そして、加熱気体バルブ50を閉じることによって、加熱気体吹付ノズル47からの加熱気体の吹き付けを停止する(ステップT13)。加熱気体吹付ノズル47が他端部に達することにより、基板Wの下面の全面で冷却液が排除されて乾燥処理が終了し、処理ユニット2による基板処理が終了する。
【0108】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、他の形態で実施することもできる
【0109】
また、第1の実施形態では、気体供給ノズル17を径方向外方へ移動させることで、低表面張力液の蒸気を含む気体の、基板Wの上面への吹き付け位置を移動させて、液膜30の液膜境界32を同方向に移動させていたが、例えば、スリット状、ライン状のノズルから順に径方向外方へ気体を吹き付けて、液膜30の液膜境界32を径方向外方へ移動させてもよい。
【0110】
同様に、第1の実施形態では、加熱気体吹付ノズル24を径方向外方へ移動させることで、加熱気体の、基板Wの上面への吹き付け位置を移動させて、加熱範囲を拡大させていたが、例えば、ライン状に配列された複数のノズル穴から順に径方向外方へ加熱気体を吹き付けて、加熱範囲を径方向外方へ拡大させてもよい。
具体的には、多数の吐出口を、基板Wの下面に近接させて、かつ基板Wの径方向に沿うように配置する。基板Wの下面中心部に対向する吐出口から加熱気体を吐出することにより、基板Wの下面中心部を加熱する。そして、加熱気体を吐出する吐出口を径方向に順に増やすことにより、加熱範囲を径方向が違法へ拡大させることができる。
【0111】
また、変形例では、例えば、ライン状に配列された複数のノズル穴から順に冷却流体、および加熱流体を径方向外方へ吹き付けて、液膜30のバルク部分を冷却流体によって冷却しながら、加熱範囲を径方向外方へ拡大させてもよい。
さらには、基板Wの下面を液密構造とし、まず冷却流体を充填して基板Wの略全面を低表面張力液の沸点未満の温度に冷却し、次いで、例えば、基板Wの下面の周縁から冷却流体を排出させながら、基板Wの回転中心から、基板Wの下面に加熱流体を注入することによって、加熱範囲を径方向外方へ拡大させてもよい。
【0112】
また、以上の両実施形態、および変形例では、基板処理装置1が、円板状の基板を処理する装置である場合について説明したが、基板処理装置1は、多角形の基板を処理する装置であってもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で、種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0113】
1 基板処理装置
2 処理ユニット
3 制御装置
4 スピンチャック(基板保持ユニット)
5 薬液供給ノズル(処理液供給ユニット)
6 処理液供給ノズル(処理液供給ユニット)
8 スピンベース(基板保持ユニット)
10 スピンモータ(基板回転ユニット)
17 気体供給ノズル(気体供給ユニット)
21 冷却液供給ノズル(冷却流体供給ユニット)
24 加熱気体吹付ノズル(加熱流体吹付ユニット)
25 ノズル移動機構(移動ユニット)
29 冷却液
30 液膜
30a 縁部
31 液膜除去領域
32 液膜境界
33 範囲
34 冷却加熱ブロック
35 冷却流体吹付ノズル(冷却ユニット)
36 加熱流体吹付ノズル(加熱ユニット)
43 気体吹付ノズル(気体供給ユニット)
44 ノズル移動機構(上面移動ユニット)
47 加熱気体吹付ノズル(加熱流体吹付ユニット)
48 ノズル移動機構(下面移動ユニット)
A1 回転軸線
W 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D