特許第6811631号(P6811631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6811631
(24)【登録日】2020年12月17日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】フィルム用粘着剤組成物及び粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/04 20060101AFI20201228BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20201228BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20201228BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20201228BHJP
【FI】
   C09J133/04
   C09J133/14
   C09J11/06
   C09J7/38
【請求項の数】6
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2017-15848(P2017-15848)
(22)【出願日】2017年1月31日
(65)【公開番号】特開2018-123224(P2018-123224A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】髪口 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】狩野 肇
【審査官】 上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−031480(JP,A)
【文献】 特開2016−135835(JP,A)
【文献】 特開2009−215522(JP,A)
【文献】 特開2014−077096(JP,A)
【文献】 特開2013−216769(JP,A)
【文献】 特開平09−235522(JP,A)
【文献】 特開2016−210863(JP,A)
【文献】 特開2011−157458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含み、重量平均分子量が20万〜200万である(メタ)アクリル系共重合体Aと、
水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含み、重量平均分子量が0.5万〜2万である(メタ)アクリル系共重合体Bと、
架橋剤と、
を含有し、
前記(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率b(単位:モル%)が、前記(メタ)アクリル系共重合体Aにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率a(単位:モル%)よりも多く、
前記(メタ)アクリル系共重合体Aのガラス転移温度が、−80℃〜−60℃であり、かつ、前記(メタ)アクリル系共重合体Bのガラス転移温度が、75℃〜130℃であり、
前記架橋剤が、イソシアネート基を有するイソシアネート化合物又はエポキシ基を有するエポキシ化合物のいずれかであり、
前記架橋剤がイソシアネート基を有するイソシアネート化合物である場合、前記架橋剤の含有量は、前記(メタ)アクリル系共重合体A及び(メタ)アクリル系共重合体Bの合計量100質量部に対して、2質量部〜5質量部であり、
前記架橋剤がエポキシ基を有するエポキシ化合物である場合、前記架橋剤の含有量は、前記(メタ)アクリル系共重合体A及び(メタ)アクリル系共重合体Bの合計量100質量部に対して、0.01質量部〜0.05質量部であるフィルム用粘着剤組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系共重合体Aにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率a(単位:モル%)に対する、前記(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率b(単位:モル%)の割合が、1を超えて3以下である請求項1に記載のフィルム用粘着剤組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系共重合体Bが、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含む請求項1又は請求項2に記載のフィルム用粘着剤組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系共重合体A及び前記(メタ)アクリル系共重合体Bの合計含有量に対する、前記(メタ)アクリル系共重合体Aの含有量の割合が、質量基準で、0.5〜0.8である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のフィルム用粘着剤組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル系共重合体Aが、2−エチルへキシルアクリレートに由来する構成単位を含む請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のフィルム用粘着剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のフィルム用粘着剤組成物を含む粘着剤層を有する粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム用粘着剤組成物及び粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
広告看板、ステッカーなどに使用されるマーキングフィルムには、基材として塩化ビニル樹脂を含むフィルムが多用されている。マーキングフィルムは、被着体に貼り付けるための粘着剤層を備えており、粘着剤には、アクリル系粘着剤が使用されることが多い。
また、広告看板には、印刷物が用いられることも多く、印刷物の表面を保護するためのフィルムとしてオーバーラミネートフィルムが用いられる。オーバーラミネートフィルムにも、塩化ビニル樹脂を含むフィルムが多用されており、印刷物の表面に貼り付けるために、アクリル系粘着剤が使用されることが多い。
【0003】
一般に、塩化ビニル樹脂を含むフィルムは、可塑剤により軟質化されている。可塑剤は、経時的にフィルムからフィルムに付与された粘着剤層に移行し、粘着剤層の粘着力及び凝集力の低下を引き起こすことがあり、その結果、フィルムが被着体から剥がれる事態が生じ得る。フィルムから粘着剤層への可塑剤の移行は、特に高温環境下で起こりやすい。
また、マーキングフィルム、オーバーラミネートフィルム等のフィルムは、高温環境下だけでなく、低温(例えば、5℃)環境下でも使用されるため、フィルム用粘着剤には、高温及び低温のいずれの環境下であっても、粘着剤層の粘着力が低下し難く、被着体から剥がれ難いことが求められる。
【0004】
基材に可塑剤を含む塩化ビニル樹脂を使用しても、可塑剤の移行により粘着剤層の粘着力が低下し難いアクリル系粘着剤及び該アクリル系粘着剤を使用した粘着シートが、いくつか知られている。
例えば、特許文献1には、n−ブチルアクリレート100重量部、アクリル酸3〜10重量部及び2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート0.03〜0.2重量部が共重合されてなる重量平均分子量が70万〜95万のアクリル系共重合体が架橋剤により架橋されたゲル分率が35〜50%であるアクリル系粘着剤が、分子量が180〜500の可塑剤及びエポキシ化ダイズ油を含有する塩化ビニル樹脂シートの一面に積層されていることを特徴とする塩化ビニル樹脂粘着シートが開示されている。
特許文献2には、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位Aと、単独重合体としたときのガラス転移温度が0℃〜45℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Bを44質量%〜70質量%と、単独重合体としたときのガラス転移温度が−80℃〜−60℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Cを29質量%〜55質量%と、を含む(メタ)アクリル系共重合体と、架橋剤と、を含有するフィルム用粘着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−217040号公報
【特許文献2】特開2015−174969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、マーキングフィルム、オーバーラミネートフィルム等のフィルムには、従来よりも高温の環境下での使用、例えば90℃以上の高温環境下での使用に対する耐久性が求められる傾向がある。
これに対し、特許文献1及び特許文献2に記載のアクリル系粘着剤では、90℃以上の高温環境下で使用した場合に、可塑剤を含む基材から粘着剤層への可塑剤の移行を十分に抑制できない。また、特許文献1及び特許文献2に記載のアクリル系粘着剤を使用した粘着シートでは、可塑剤を含む被着体に貼り付けた場合に、被着体から粘着剤層への可塑剤の移行を十分に抑制できないため、改善の余地がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高温環境下における可塑剤を含む被着材料から粘着剤層への可塑剤の移行による粘着力の低下が抑制され、かつ、低温環境下における粘着力が優れる粘着剤層を形成できるフィルム用粘着剤組成物、及び粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含み、重量平均分子量が20万〜200万である(メタ)アクリル系共重合体Aと、
水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含み、重量平均分子量が0.4万〜2万である(メタ)アクリル系共重合体Bと、架橋剤と、を含有し、上記(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率b(単位:モル%)が、上記(メタ)アクリル系共重合体Aにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率a(単位:モル%)よりも多いフィルム用粘着剤組成物。
<2> 上記(メタ)アクリル系共重合体Aにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率a(単位:モル%)に対する、上記(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率b(単位:モル%)の割合が、1を超えて3以下である<1>に記載のフィルム用粘着剤組成物。
<3> 上記(メタ)アクリル系共重合体Bが、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含む<1>又は<2>に記載のフィルム用粘着剤組成物。
<4> 上記(メタ)アクリル系共重合体Aのガラス転移温度が、−80℃〜−60℃であり、かつ、上記(メタ)アクリル系共重合体Bのガラス転移温度が、90℃〜120℃である<1>〜<3>のいずれか1つに記載のフィルム用粘着剤組成物。
<5> 上記(メタ)アクリル系共重合体A及び上記(メタ)アクリル系共重合体Bの合計含有量に対する、上記(メタ)アクリル系共重合体Aの含有量の割合が、質量基準で、0.5〜0.8である<1>〜<4>のいずれか1つに記載のフィルム用粘着剤組成物。
<6> 上記(メタ)アクリル系共重合体Aが、2−エチルへキシルアクリレートに由来する構成単位を含む<1>〜<5>のいずれか1つに記載のフィルム用粘着剤組成物。
<7> <1>〜<6>のいずれか1つに記載のフィルム用粘着剤組成物を含む粘着剤層を有する粘着シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温環境下における可塑剤を含む被着材料から粘着剤層への可塑剤の移行による粘着力の低下が抑制され、かつ、低温環境下における粘着力が優れる粘着剤層を形成できるフィルム用粘着剤組成物、及び粘着シートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0011】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、各成分の含有率は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計の含有率を意味する。
【0012】
本発明において「高温環境下」とは、90℃以上の温度環境下を意味する。
本発明において「低温環境下」とは、5℃以下の温度環境下を意味する。
【0013】
本明細書において「粘着剤組成物」とは、(メタ)アクリル系共重合体と架橋剤とを混合した後から、架橋反応が終了する前の、液状又はペースト状の物質を意味する。
本明細書において「粘着剤層」とは、粘着剤組成物の架橋反応が終了した後の物質を意味する。
本明細書において「被着材料」とは、粘着剤層と接する材料を意味し、例えば、粘着シートにおいて、粘着シートを構成する基材及び粘着シートの被着体を意味する。
本明細書において「(メタ)アクリル系共重合体」とは、共重合体を構成する単量体のうち、少なくとも主成分である単量体が(メタ)アクリロイル基を有する単量体である共重合体を意味する。ここでいう主成分である単量体とは、共重合体を構成する単量体の中で最も含有率(質量%)が大きい単量体を意味する。本発明における(メタ)アクリル系共重合体のある実施態様では、主成分である(メタ)アクリロイル基を有する単量体に由来する構成単位の含有率が全構成単位の50質量%以上である。
本明細書において「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」の両方を包含する用語であり、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を包含する用語であり、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両方を包含する用語である。
【0014】
[フィルム用粘着剤組成物]
本発明のフィルム用粘着剤組成物(以下、単に「粘着剤組成物」ともいう。)は、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含み、重量平均分子量が20万〜200万である(メタ)アクリル系共重合体A(以下、「特定(メタ)アクリル系共重合体A」ともいう。)と、水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含み、重量平均分子量が0.4万〜2万である(メタ)アクリル系共重合体B(以下、「特定(メタ)アクリル系共重合体B」ともいう。)と、架橋剤と、を含有する。
また、本発明のフィルム用粘着剤組成物は、上記(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率b(単位:モル%)が、上記(メタ)アクリル系共重合体Aにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率a(単位:モル%)よりも多い粘着剤組成物である。
【0015】
本発明の粘着剤組成物は、高温環境下(即ち、90℃以上の温度環境下)における基材、被着体等の可塑剤を含む被着材料から粘着剤層への可塑剤の移行による粘着力の低下が抑制され、かつ、低温環境下(即ち、5℃以下の温度環境下)における粘着力が優れる粘着剤層を形成できるフィルム用粘着剤組成物である。
本発明の粘着剤組成物から得られる粘着剤層では、可塑剤を含有する基材、例えば、軟質塩化ビニルを含むフィルムに接した場合の、基材から粘着剤層へ可塑剤が移行することによる粘着力の低下が抑制される。また、本発明の粘着剤組成物から得られる粘着剤層を有する粘着シートを貼り付ける被着体に可塑剤が含まれる場合においても、被着体から粘着剤層へ可塑剤が移行することによる粘着力の低下が抑制される。さらに、本発明の粘着剤組成物から得られる粘着剤層は、低温環境下でも粘着力が低下し難く、優れた粘着力が保持される。
本発明の粘着剤組成物がこのような効果を奏し得る理由については明らかではないが、本発明者らは、以下のように推測している。
【0016】
本発明の粘着剤組成物は、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含み、重量平均分子量が20万〜200万である(メタ)アクリル系共重合体A(即ち、特定(メタ)アクリル系共重合体A)を含有することで、低温環境下における粘着力が優れる粘着剤層を形成できると考えられる。
また、本発明の粘着剤組成物は、水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含み、重量平均分子量が0.4万〜2万である(メタ)アクリル系共重合体B(即ち、特定(メタ)アクリル系共重合体B)を含有し、かつ、特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率b(単位:モル%)が、特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率a(単位:モル%)よりも多いことで、分子量の小さい特定(メタ)アクリル系共重合体Bが、粘着剤組成物と基材及び被着体との界面に偏在した後、界面付近で架橋剤との間で架橋構造を形成し、適度な硬さを有する粘着剤層となるため、高温環境下における、基材、被着体等の可塑剤を含む被着材料から粘着剤層への移行が抑制され、その結果、高温環境下でも粘着剤層の粘着力の低下が抑制されると考えられる。
【0017】
本発明の粘着剤組成物は、基材と被着体との貼り合わせに好適に使用できる。
基材は、特に制限されないが、可塑剤を含むフィルムが好ましく、なかでも、軟質塩化ビニルを含むフィルムがより好ましい。本発明の粘着剤組成物によれば、基材として、可塑剤を含むフィルムを使用した場合であっても、高温環境下における基材から粘着剤層への可塑剤の移行による粘着剤層の粘着力の低下が抑制される。
なお、本明細書において「軟質塩化ビニル」とは、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、可塑剤を10質量部以上含むものを意味する。
【0018】
なお、上記の推測は、本発明の効果を限定的に解釈するものではなく、一例として説明するものである。
【0019】
〔特定(メタ)アクリル系共重合体A〕
本発明の粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系共重合体A(即ち、特定(メタ)アクリル系共重合体A)は、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含み、重量平均分子量(Mw)が20万〜200万である。
本発明の粘着剤組成物において、特定(メタ)アクリル系共重合体Aは、低温環境下における粘着剤層の粘着力の低下抑制に寄与する。
本発明の粘着剤組成物に含まれる特定(メタ)アクリル系共重合体Aは、1種のみであってもよく、単量体の組成、重量平均分子量等が異なる2種以上であってもよい。
【0020】
本明細書において「カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位」とは、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体が付加重合して形成される構成単位を意味する。
【0021】
カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体の種類は、特に制限されない。
カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、グルタコン酸、シトラコン酸ω−カルボキシ−ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、粘着力を向上させやすく、低温環境下における粘着剤層の粘着力の低下をより抑制できるとの観点から、アクリル酸が好ましい。
【0022】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aは、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0023】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおけるカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の割合は、例えば、低温環境下における粘着剤層の粘着力の低下がより抑制され、優れた粘着力を良好に保持できるとの観点から、特定(メタ)アクリル系共重合体Aを構成する全構成単位の合計質量に対して、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上が更に好ましい。
また、特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおけるカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の割合は、例えば、ジッピングの発生を抑制できるとの観点から、特定(メタ)アクリル系共重合体Aを構成する全構成単位の合計質量に対して、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。
【0024】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を含むことが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位は、粘着剤層の粘着力の調整に寄与する。
【0025】
本明細書において「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位」とは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が付加重合して形成される構成単位を意味する。
【0026】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aが(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を含む場合、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、無置換の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が好ましく、その種類は特に制限されない。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。また、アルキル基の炭素数は、1〜18の範囲が好ましく、1〜12の範囲がより好ましい。アルキル基の炭素数が上記の範囲内であると、被着体に対する粘着力、及び、粘着シートとしたときの基材との密着性により優れる粘着剤層を形成できる。
【0027】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、i−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、2−エチルヘキシルアクリレート及びn−ブチルアクリレートから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ガラス転移温度が比較的低く、低温環境下における粘着剤層の粘着力の低下がより抑制され、優れた粘着力を良好に保持できるとの観点から、2−エチルヘキシルアクリレートがより好ましい。
【0028】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aが(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を含む場合、特定(メタ)アクリル系共重合体Aは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0029】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aが(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を含む場合、特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおける(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の割合は、例えば、粘着剤層の粘着力を調整しやすいとの観点から、特定(メタ)アクリル系共重合体Aを構成する全構成単位の合計質量に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
また、特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおける(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の割合は、特に制限されず、例えば、特定(メタ)アクリル系共重合体Aを構成する全構成単位の合計質量に対して、97質量%以下が好ましい。
【0030】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aは、本発明の効果が発揮される範囲内において、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位、及び任意の構成単位である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位以外の構成単位(以下、「その他の構成単位」ともいう。)を含んでもよい。この場合、特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおける、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位との合計の割合は、特定(メタ)アクリル系共重合体Aを構成する全構成単位の合計質量に対して、95質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましく、99質量%以上が更に好ましい。
【0031】
その他の構成単位を構成する単量体の種類は、特に制限されない。
その他の構成単位を構成する単量体としては、例えば、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体が挙げられる。
【0032】
水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,3−ジメチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、2−エチル−3−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、高温環境下での可塑剤を含む被着材料に対する粘着力低下抑制能、即ち、粘着力保持能に優れる粘着剤層を形成できるとの観点から、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。
【0033】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aが水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含む場合、特定(メタ)アクリル系共重合体Aは、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0034】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率a(単位:モル%)は、高温環境下での可塑剤を含む被着材料に対する粘着力保持能に優れ、かつ、低温環境下における粘着力にも優れる粘着剤層が得られるとの観点から、5.0モル%以上9.0モル%以下が好ましく、6.0モル%以上8.5モル%以下がより好ましく、6.8モル%以上7.8モル%以下が更に好ましい。
【0035】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)は、20万〜200万であり、40万〜130万が好ましく、55万〜80万がより好ましい。
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)が20万〜200万であることは、ポリマーであることを示し、後述の特定(メタ)アクリル系共重合体Bと区別するものである。
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)が200万以下であると、粘着剤組成物の粘度が適度に低くなり、塗布性が良好となる。
【0036】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)は、下記の方法により測定される値である。具体的には、下記(1)〜(3)に従って測定する。
(1)特定(メタ)アクリル系共重合体Aの溶液を剥離紙に塗布し、100℃で2分間乾燥し、フィルム状の特定(メタ)アクリル系共重合体Aを得る。
(2)上記(1)で得られたフィルム状の特定(メタ)アクリル系共重合体Aとテトラヒドロフランとを用いて、固形分濃度が0.2質量%である試料溶液を得る。
(3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、下記条件にて、標準ポリスチレン換算値として、特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)を測定する。
【0037】
〜条件〜
測定装置:高速GPC(型番:HLC−8220 GPC、東ソー(株)製)
検出器:示差屈折率計(RI)(HLC−8220に組込、東ソー(株)製)
カラム:TSK−GEL GMHXL(東ソー(株)製)を直列に4本接続
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.2質量%
注入量:100μL
流量:0.6mL/分
【0038】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aのガラス転移温度(Tg)は、特に制限されず、例えば、−100℃〜−40℃が好ましく、−90℃〜−50℃がより好ましく、−80℃〜−60℃が更に好ましい。
特定(メタ)アクリル系共重合体AのTgが−100℃以上であると、高温環境下での可塑剤を含む被着材料に対する粘着力保持能に優れる粘着剤層を形成できる。
また、特定(メタ)アクリル系共重合体AのTgが−40℃以下であると、低温環境下における粘着力が優れる粘着剤層を形成できる。
【0039】
特定(メタ)アクリル系共重合体AのTgは、下記式から計算により求められる絶対温度(K)をセルシウス温度(℃)に換算した値である。
【0040】
【数1】
【0041】
式中、Tg1、Tg2、・・・、Tg(k−1)、Tgkは、特定(メタ)アクリル系共重合体Aを構成する各単量体を単独重合体としたときの絶対温度(K)で表されるガラス転移温度をそれぞれ表す。w1、w2、・・・、w(k−1)、wkは、特定(メタ)アクリル系共重合体Aを構成する各単量体の質量分率をそれぞれ表し、w1+w2+・・・+w(k−1)+wk=1である。
なお、絶対温度(K)から273を引くことで絶対温度(K)をセルシウス温度(℃)に換算でき、セルシウス温度(℃)に273を足すことでセルシウス温度(℃)を絶対温度(K)に換算できる。
【0042】
「単独重合体としたときのガラス転移温度」とは、その単量体を単独で重合して製造した単独重合体のガラス転移温度をいう。ここでいう単独重合体のガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置(DSC)(型番:EXSTAR6000、セイコーインスツル(株))を用い、窒素気流中、測定試料10mg、昇温速度10℃/分の条件で測定し、得られたDSCカーブの変曲点を単独重合体のTgとしたものである。
代表的な単量体を使用した単独重合体のガラス転移温度(Tg)は、2−エチルヘキシルアクリレートが−76℃、2−エチルヘキシルメタクリレートが−10℃、n−ブチルアクリレートが−57℃、n−ブチルメタアクリレートが21℃、t−ブチルアクリレートが41℃、t−ブチルメタクリレートが107℃、メチルアクリレートが5℃、エチルアクリレートが−27℃、メタクリル酸が185℃、4−ヒドロキシブチルアクリレートが−39℃、2−ヒドロキシエチルアクリレートが−15℃、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが55℃、アクリル酸が163℃である
【0043】
本発明の粘着剤組成物中における特定(メタ)アクリル系共重合体Aの含有率は、高温環境下での可塑剤を含む被着材料に対する粘着力保持能に優れ、かつ、低温環境下における粘着力にも優れる粘着剤層を形成できるとの観点から、粘着剤組成物の全固形分に対して、50質量%〜80質量%が好ましい。
【0044】
特定(メタ)アクリル系共重合体A及び後述の(メタ)アクリル系共重合体Bの合計含有量に対する、特定(メタ)アクリル系共重合体Aの含有量の割合(特定(メタ)アクリル系共重合体Aの含有量/特定(メタ)アクリル系共重合体A及び特定(メタ)アクリル系共重合体Bの合計含有量)は、質量基準で、0.5〜0.8が好ましく、0.65〜0.8がより好ましく、0.7〜0.8が更に好ましい。
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの含有量/特定(メタ)アクリル系共重合体A及び特定(メタ)アクリル系共重合体Bの合計含有量が、上記の範囲内であると、低温環境下における粘着剤層の粘着力の低下がより抑制され、優れた粘着力を良好に保持できる。
【0045】
〔特定(メタ)アクリル系共重合体B〕
本発明の粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系共重合体B(即ち、特定(メタ)アクリル系共重合体B)は、水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含み、重量平均分子量が0.4万〜2万である。
本発明の粘着剤組成物において、特定(メタ)アクリル系共重合体Bは、高温環境下における可塑剤を含む被着材料から粘着剤層への可塑剤の移行を抑制し、粘着剤層の粘着力の低下抑制に寄与する。
本発明の粘着剤組成物に含まれる特定(メタ)アクリル系共重合体Bは、1種のみであってもよく、単量体の組成、重量平均分子量等が異なる2種以上であってもよい。
【0046】
本明細書において「水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位」とは、水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を有する(メタ)アクリル系単量体が付加重合して形成される構成単位を意味する。
【0047】
水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体の種類は、特に制限されない。
水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体と同様のものが挙げられる。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、高温環境下での可塑剤を含む被着材料に対する粘着力保持能に優れる粘着剤層を形成できるとの観点から、2−ヒドロキシエチルメタクリレートがより好ましい。
【0048】
カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体の種類は、特に制限されない。
カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおけるカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体と同様のものが挙げられる。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおけるカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、高温環境下での可塑剤を含む被着材料に対する粘着力保持能に優れる粘着剤層を形成できるとの観点から、アクリル酸が好ましい。
【0049】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bは、水酸基及びカルボキシ基のうち、水酸基のみを有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位、カルボキシ基のみを有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位、並びに、水酸基及びカルボキシ基の両方を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位のいずれを含んでいてもよいが、水酸基のみを有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含むことが好ましい。
水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含む特定(メタ)アクリル系共重合体Bは、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位(又は水酸基及びカルボキシ基の両方を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位)を含む特定(メタ)アクリル系共重合体Bと比較して、高温環境下における可塑剤を含む被着材料から粘着剤層への可塑剤の移行をより抑制できるため、高温環境下において粘着剤層の粘着力がより低下し難くなるとの観点から好ましい。
【0050】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bは、水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0051】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の割合は、例えば、高温環境下における可塑剤を含む被着材料から粘着剤層への可塑剤の移行を効果的に抑制するとの観点から、特定(メタ)アクリル系共重合体Bを構成する全構成単位の合計質量に対して、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、8質量%以上が更に好ましい。
また、特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の割合は、例えば、低温環境下における粘着剤層の粘着力の低下がより抑制され、優れた粘着力を良好に保持できるとの観点から、特定(メタ)アクリル系共重合体Bを構成する全構成単位の合計質量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下が更に好ましい。
【0052】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率b(単位:モル%)は、高温環境下での可塑剤を含む被着材料に対する粘着力保持能に優れ、かつ、低温環境下における粘着力にも優れる粘着剤層を形成できるとの観点から、3モル%以上30モル%以下が好ましく、5モル%以上20モル%以下がより好ましく、8モル%以上13モル%以下が更に好ましい。
【0053】
本発明の粘着剤組成物では、特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率b(単位:モル%)は、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率a(単位:モル%)よりも多い。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率b(単位:モル%)が、特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率a(単位:モル%)よりも多いと、特定(メタ)アクリル系共重合体Bが、粘着剤組成物と、基材及び被着体との界面に偏在した後、界面付近で架橋剤との間で架橋構造を形成し、適度な硬さを示す粘着剤層となるため、高温環境下における、基材、被着体等の可塑剤を含む被着材料から可塑剤の移行が抑制される。その結果、高温環境下における粘着剤層の粘着力の低下が抑制される。
特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率a(単位:モル%)に対する、特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率b(単位:モル%)の割合(即ち(合計含有率b/合計含有率a)は、1を超えて3以下が好ましく、1.2以上2.0以下がより好ましい。
合計含有率b/合計含有率aが上記の範囲内であると、高温環境下における可塑剤を含む被着材料から粘着剤層への可塑剤の移行がより効果的に抑制されるため、粘着剤層の粘着力の低下がより生じ難い。
【0054】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を含むことが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位は、粘着剤層の粘着力の調整に寄与する。
【0055】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bが(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を含む場合、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の種類は、特に制限されない。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Aにおける(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と同様のものが挙げられる。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、t−ブチルメタクリレート(t−BMA)及びt−ブチルアクリレート(t−BA)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ガラス転移温度が比較的高いとの観点から、t−ブチルメタクリレート(t−BMA)がより好ましい。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bは、ガラス転移温度が高い(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を含むと、高温環境下における可塑剤を含む被着材料から粘着剤層への可塑剤の移行が効果的に抑制されるため、粘着剤層の粘着力の低下がより生じ難い。
【0056】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bが(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を含む場合、特定(メタ)アクリル系共重合体Bは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0057】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bが(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位を含む場合、特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の割合は、例えば、低温環境下における粘着力が優れる粘着剤層を形成できるとの観点から、特定(メタ)アクリル系共重合体Bを構成する全構成単位の合計質量に対して、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましい。
また、特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の割合は、例えば、高温環境下での可塑剤を含む被着材料に対する粘着力保持能に優れる粘着剤層を形成できるとの観点から、特定(メタ)アクリル系共重合体Bを構成する全構成単位の合計質量に対して、99質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましく、95質量%以下が更に好ましい。
【0058】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bは、本発明の効果が発揮される範囲内において、水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位、及び任意の構成単位である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位以外の構成単位(以下、「その他の構成単位」ともいう。)を含んでもよい。この場合、特定(メタ)アクリル系共重合体Bにおける、水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位との合計の割合は、特に制限されない。
なお、その他の構成単位を構成する単量体の種類は、特に制限されない。
【0059】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量(Mw)は、0.4万〜2万であり、0.45万〜1.5万が好ましく、0.5万〜1万がより好ましい。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量(Mw)が0.4万〜2万であることは、オリゴマーであることを示し、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Aと区別するものである。
特定(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量(Mw)が0.4万以上であると、特定(メタ)アクリル系共重合体Aとの相溶性が向上し、粘着剤層の耐久性が向上するため好ましい。
【0060】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量(Mw)は、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)の測定方法と同様の方法により測定される。
【0061】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bのガラス転移温度(Tg)は、特に制限されず、例えば、50℃〜150℃が好ましく、75℃〜130℃がより好ましく、90℃〜120℃が更に好ましい。
特定(メタ)アクリル系共重合体BのTgが50℃以上であると、高温環境下での可塑剤を含む被着材料に対する粘着力保持能に優れる粘着剤層を形成できる。
また、特定(メタ)アクリル系共重合体BのTgが150℃以下であると、低温環境下における粘着力が優れる粘着剤層を形成できる。
【0062】
本発明の粘着剤組成物では、特定(メタ)アクリル系共重合体Aのガラス転移温度が、−80℃〜−60℃であり、かつ、特定(メタ)アクリル系共重合体Bのガラス転移温度が、90℃〜120℃であることが好ましい。
このような態様によれば、高温環境下における可塑剤を含む被着材料から粘着剤層への可塑剤の移行による粘着力の低下、及び低温環境下における粘着剤層の粘着力の低下がより顕著に抑制され、被着材料が可塑剤を含む場合であっても、高温環境下及び低温環境下のいずれにおいても良好な粘着力を有する粘着剤層を形成できる。
【0063】
特定(メタ)アクリル系共重合体Bのガラス転移温度(Tg)は、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体Aのガラス転移温度(Tg)の計算方法と同様の方法により計算される。
【0064】
本発明の粘着剤組成物中における特定(メタ)アクリル系共重合体Bの含有率は、高温環境下での可塑剤を含む被着材料に対する粘着力保持能に優れ、かつ、低温環境下における粘着力にも優れる粘着剤層を形成できるとの観点から、粘着剤組成物の全固形分に対して、15質量%〜30質量%が好ましい。
【0065】
〔(メタ)アクリル系共重合体A及び(メタ)アクリル系共重合体Bの製造方法〕
本発明の粘着剤組成物における(メタ)アクリル系共重合体A(即ち、特定(メタ)アクリル系共重合体A)及び(メタ)アクリル系共重合体B(即ち、特定(メタ)アクリル系共重合体B)の製造方法は、特に制限されない。例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、及び塊状重合に代表される公知の重合方法で、単量体を重合して製造できる。これらの中でも、重合方法としては、処理工程が比較的簡単であり、かつ、短時間で行える点で、溶液重合が好ましい。
【0066】
溶液重合は、一般に、重合槽内に所定の有機溶媒、単量体、重合開始剤、及び必要に応じて連鎖移動剤を仕込み、窒素気流中又は有機溶媒の還流温度で、撹拌しながら数時間加熱反応させる。この場合、有機溶媒、単量体、重合開始剤及び/又は連鎖移動剤の少なくとも一部を逐次添加してもよい。
【0067】
重合反応時に用いられる有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、t−ブチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、テトラリン、デカリン、及び芳香族ナフサに代表される芳香族炭化水素類、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−デカン、ジペンテン、石油スピリット、石油ナフサ、及びテレピン油に代表される脂肪系又は脂環族系炭化水素類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸n−アミル、酢酸2−ヒドロキシエチル、酢酸2−ブトキシエチル、酢酸3−メトキシブチル、及び安息香酸メチルに代表されるエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン、及びメチルシクロヘキサノンに代表されるケトン類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、及びジエチレングリコールモノブチルエーテルに代表されるグリコールエーテル類、並びに、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、及びt−ブチルアルコールに代表されるアルコール類が挙げられる。重合反応時には、これらの有機溶媒を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
特定(メタ)アクリル系共重合体Aの製造に際しては、エステル類、ケトン類等の重合反応中に連鎖移動を生じにくい有機溶媒の使用が好ましく、特に、特定(メタ)アクリル系共重合体Aの溶解性、重合反応の容易さ等の観点から、酢酸エチル、トルエン等の使用が好ましい。
また、特定(メタ)アクリル系共重合体Bの製造に際しては、ケトン類、芳香族炭化水素類等の有機溶媒の使用が好ましく、例えば、重合反応の容易さの観点から、メチルエチルケトン、トルエン等の使用が好ましい。
【0069】
重合開始剤としては、通常の溶液重合で用いられる有機過酸化物、アゾ化合物等を使用できる。
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、カプロイルペルオキシド、ジ−i−プロピルペルオキシジカルボナト、ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカルボナト、t−ブチルペルオキシビバラト、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−アミルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−オクチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−α−クミルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)ブタン、及び2,2−ビス(4,4−ジ−t−オクチルペルオキシシクロヘキシル)ブタンが挙げられる。
アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチルニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、1,1’−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリル、及び2,2’−アゾビス(イソ酪酸メチル)が挙げられる。
【0070】
特定(メタ)アクリル系共重合体A及び特定(メタ)アクリル系共重合体Bの製造に際しては、重合反応中にグラフト反応を起こさない重合開始剤の使用が好ましく、特にアゾビス系の重合開始剤が好ましい。
【0071】
重合開始剤の使用量は、特定(メタ)アクリル系共重合体Aの製造に際しては、特定(メタ)アクリル系共重合体Aを構成する単量体の合計量100質量部に対して、0.2質量部以上0.4質量部以下が好ましく、0.25質量部以上0.35質量部以下がより好ましい。
また、重合開始剤の使用量は、特定(メタ)アクリル系共重合体Bの製造に際しては、特定(メタ)アクリル系共重合体Bを構成する単量体の合計量100質量部に対して、10質量部以上16質量部以下が好ましく、12質量部以上14質量部以下がより好ましい。
【0072】
特定(メタ)アクリル系共重合体A及び特定(メタ)アクリル系共重合体Bの製造に際しては、本発明の目的及び効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて連鎖移動剤を使用できる。
連鎖移動剤としては、例えば、シアノ酢酸、シアノ酢酸の炭素数1〜8のアルキルエステル類、ブロモ酢酸、ブロモ酢酸の炭素数1〜8のアルキルエステル類、α‐メチルスチレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、及び9−フェニルフルオレンに代表される芳香族化合物類、p−ニトロアニリン、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼン、p−ニトロ安息香酸、p−ニトロフェノール、及びp−ニトロトルエンに代表される芳香族ニトロ化合物類、ベンゾキノン及び2,3,5,6−テトラメチル−p−ベンゾキノンに代表されるベンゾキノン誘導体類、トリブチルボランに代表されるボラン誘導体、四臭化炭素、四塩化炭素、1,1,2,2−テトラブロモエタン、トリブロモエチレン、トリクロロエチレン、ブロモトリクロロメタン、トリブロモメタン、及び3−クロロ−1−プロペンに代表されるハロゲン化炭化水素類、クロラール及びフラルデヒドに代表されるアルデヒド類、炭素数1〜18のアルキルメルカプタン類、チオフェノール及びトルエンメルカプタンに代表される芳香族メルカプタン類、メルカプト酢酸、メルカプト酢酸の炭素数1〜10のアルキルエステル類、炭素数1〜12のヒドロキシアルキルメルカプタン類、並びに、ビネン及びターピノレンに代表されるテルペン類が挙げられる。
【0073】
連鎖移動剤の使用量は、例えば、特定(メタ)アクリル系共重合体Aを構成する単量体及び特定(メタ)アクリル系共重合体Bを構成する単量体の合計量100質量部に対して0.005質量部以上10.0質量部以下の範囲にできる。
【0074】
重合温度は、特定(メタ)アクリル系共重合体Aの製造に際しては、70℃以上90℃以下が好ましく、75℃以上88℃以下がより好ましく、80℃以上85℃以下が更に好ましい。
また、重合温度は、特定(メタ)アクリル系共重合体Bの製造に際しては、75℃以上99℃以下が好ましく、80℃以上98℃以下がより好ましく、85℃以上97℃以下が更に好ましい。
【0075】
<架橋剤>
本発明の粘着剤組成物は、架橋剤を含有する。
架橋剤の種類は、本発明の粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系共重合体A及び(メタ)アクリル系共重合体Bを架橋できるものであれば、特に制限されない。
架橋剤としては、イソシアネート基を有するイソシアネート化合物、エポキシ基を有するエポキシ化合物等の架橋剤が挙げられる。
【0076】
イソシアネート化合物としては、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリレンジイソシアネートに代表される芳香族ポリイソシアネート化合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、既述の芳香族ポリイソシアネート化合物の水素添加物に代表される鎖状又は環状の脂肪族ポリイソシアネート化合物、これらのポリイソシアネート化合物のビウレット体、2量体、3量体又は5量体、これらのポリイソシアネート化合物とトリメチロールプロパン等のポリオール化合物とのアダクト体等が挙げられる。
【0077】
エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリトリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、トリス(グリシジル)イソシアヌレート、トリス(グリシドキシエチル)イソシアヌレート、1,3−ビス(N,N−グリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン等が挙げられる。
【0078】
これらの中でも、架橋剤としては、低温環境下での粘着力に優れ、かつ、ジッピングが発生し難い粘着剤層を形成できるとの観点から、イソシアネート化合物が好ましい。
【0079】
架橋剤としては、市販品を使用できる。
架橋剤としてのイソシアネート化合物の市販品としては、例えば、東ソー(株)製の「コロネートHX」、「コロネートHL−S」、「コロネートL」、「コロネート2031」、「コロネート2030」、「コロネート2234」、「コロネート2785」、「アクアネート200」、及び「アクアネート210」、住化コベストロウレタン(株)製の「スミジュールN3300」、「デスモジュールN3400」、及び「スミジュールN−75」、旭化成(株)製の「デュラネートE−405−80T」、「デュラネート24A−100」、及び「デュラネートTSE−100」、並びに、三井武田ケミカル(株)製の「タケネートD−110N」、「タケネートD−120N」、「タケネートM−631N」及び「MT−オレスターNP1200」の商品名により市販されているものを好適に使用できる。
架橋剤としてのエポキシ化合物の市販品としては、例えば、三菱ガス化学(株)製の「TETRAD−X」及び「TETRAD−C」の商品名により市販されているものを好適に使用できる。
【0080】
本発明の粘着剤組成物は、架橋剤を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
【0081】
本発明の粘着剤組成物中の架橋剤の含有量は、特に制限されない。
例えば、架橋剤がイソシアネート基を有するイソシアネート化合物である場合、粘着剤組成物中の架橋剤の含有量は、高温環境下での可塑剤を含む被着材料に対する粘着力保持能に優れ、かつ、低温環境下における粘着力にも優れる粘着剤層を形成できるとの観点から、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体A及び特定(メタ)アクリル系共重合体Bの合計量100質量部に対して、1質量部〜8質量部が好ましく、2質量部〜5質量部がより好ましい。
例えば、架橋剤がエポキシ基を有するエポキシ化合物である場合、粘着剤組成物中の架橋剤の含有量は、上記と同様の観点から、既述の特定(メタ)アクリル系共重合体A及び特定(メタ)アクリル系共重合体Bの合計量100質量部に対して、0.005質量部〜0.08質量部が好ましく、0.01質量部〜0.05質量部がより好ましい。
【0082】
<他の成分>
本発明の粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、既述した成分以外の成分(所謂、他の成分)を含有していてもよい。
他の成分としては、架橋触媒、溶剤、酸化防止剤、着色剤(例えば、染料及び顔料)等の各種添加剤が挙げられる。
なお、本発明の粘着剤組成物では、既述の(メタ)アクリル系共重合体Aが、架橋点となる官能基としてカルボキシ基を有するため、架橋触媒を含有しなくても架橋反応を終了させられる。
【0083】
[粘着シート]
本発明の粘着シートは、既述の本発明の粘着剤組成物を含む粘着剤層を有して構成されたものである。
本発明の粘着シートは、本発明の粘着剤組成物を含む粘着剤層を有するので、高温環境下において基材から粘着剤層へ可塑剤が移行することによる粘着剤層の粘着力の低下が抑制され、かつ、低温環境下における粘着剤層の粘着力に優れる粘着シートである。
また、本発明の粘着シートは、本発明の粘着剤組成物を含む粘着剤層を有するので、粘着シートを貼り付ける被着体に可塑剤が含まれる場合であっても、被着体から粘着剤層へ可塑剤が移行することによる粘着力の低下が抑制される。
【0084】
本発明の粘着シートの具体例としては、例えば、粘着剤組成物を塗布して形成された粘着剤層を有するマーキングフィルム、オーバーラミネートフィルム等が挙げられる。これらのフィルムは、本発明の粘着剤組成物を粘着剤溶液として剥離紙(又は剥離フィルム)上に塗工し、乾燥させることで粘着剤層を形成し、剥離紙(又は剥離フィルム)上に形成された粘着剤層と基材であるフィルムとを貼り合せることで作製できる。
【0085】
本発明の粘着シートにおける基材は、特に制限されないが、可塑剤を含んだフィルムを基材として用いることで、本発明の効果が顕著に奏される。さらに、これらの中でも、軟質塩化ビニルを含んだフィルムを基材として用いることで、本発明の効果がより顕著に奏される。
本発明の粘着シートにおける基材が含み得る可塑剤としては、フタル酸系可塑剤、マレイン酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤等が挙げられる。
【0086】
本発明の粘着シートにおける基材は、着色剤(例えば、染料及び顔料)、熱安定剤、光安定剤、充填材、帯電防止剤、難燃剤等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0087】
本発明の粘着シートにおける基材の厚さは、特に制限されず、例えば、粘着シートの強度の点から、25μm〜200μm程度が好ましい。
【0088】
粘着剤層の厚さは、特に制限されず、例えば、基材上の凹凸、段差等に対する追従性の点から、20μ〜175μm程度が好ましい。
【0089】
基材又は剥離フィルムに粘着剤組成物を塗布する方法は、特に制限されず、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等を用いた方法が挙げられる。
【0090】
本発明の粘着シートの用途は、特に制限されず、例えば、被着材料、即ち、基材及び被着体の少なくとも一方に可塑剤を含む態様で好適に用いることができる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
なお、本実施例において製造した(メタ)アクリル系共重合体A及び(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量(Mw)は、既述の方法により測定した。
また、本実施例において製造した(メタ)アクリル系共重合体A及び(メタ)アクリル系共重合体Bのガラス転移温度(Tg)は、既述の方法により計算した。
【0093】
[(メタ)アクリル系共重合体Aの製造]
〔製造例A1〕
撹拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、及び温度計を備えた反応器に、酢酸エチル100質量部を仕込んだ。
一方、別の容器に、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体としてアクリル酸(AA)12質量部[(メタ)アクリル系共重合体A1の全質量に対して3.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体A1に対して7.3mol%相当]と、その他の単量体として2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)388質量部[(メタ)アクリル系共重合体A1の全質量に対して97.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体A1に対して92.7mol%相当]と、の混合物400質量部を準備した。この準備した混合物のうち100質量部を、上記反応器に仕込んだ後、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.05質量部を添加した。添加後、加熱し、還流温度(82℃)にて20分間保った。次いで、この保持後の反応器内に、残りの混合物300質量部、酢酸エチル10質量部、及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3質量部の混合物を、60分間かけて逐次滴下した。滴下後90分間、83℃に保った後、酢酸エチル50質量部及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.0質量部の混合物を、反応器内に60分間かけて逐次滴下した。滴下後60分間、83℃に保ってから、固形分が40質量%となるようにトルエンで希釈した後、冷却し、(メタ)アクリル系共重合体A1の溶液を得た。
【0094】
〔製造例A2〕
製造例A1において、別の容器に準備した混合物400質量部を、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体としてアクリル酸(AA)6質量部[(メタ)アクリル系共重合体A2の全質量に対して1.5質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体A2に対して3.7mol%相当]と、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2HEMA)6質量部[(メタ)アクリル系共重合体A2の全質量に対して1.5質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体A2に対して2.1mol%相当]と、その他の単量体として2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)388質量部[(メタ)アクリル系共重合体A2の全質量に対して97.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体A2に対して94.2mol%相当]と、の混合物400質量部に変更したこと以外は、製造例A1と同様の操作を行って、(メタ)アクリル系共重合体A2の溶液を得た。
【0095】
〔製造例A3〕
製造例A1において、別の容器に準備した混合物400質量部を、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体としてアクリル酸(AA)12質量部[(メタ)アクリル系共重合体A3の全質量に対して3.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体A3に対して5.2mol%相当]と、その他の単量体としてn−ブチルアクリレート(n−BA)388質量部[(メタ)アクリル系共重合体A3の全質量に対して97.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体A3に対して94.8mol%相当]と、の混合物400質量部に変更したこと以外は、製造例A1と同様の操作を行って、(メタ)アクリル系共重合体A3の溶液を得た。
【0096】
〔製造例A4〕
製造例A1において、別の容器に準備した混合物400質量部を、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体としてアクリル酸(AA)12質量部[(メタ)アクリル系共重合体A4の全質量に対して3.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体A4に対して7.3mol%相当]と、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2HEMA)6質量部[(メタ)アクリル系共重合体A4の全質量に対して1.5質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体A4に対して2.0mol%相当]と、その他の単量体として2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)382質量部[(メタ)アクリル系共重合体A4の全質量に対して95.5質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体A4に対して90.7mol%相当]と、の混合物400質量部に変更したこと以外は、製造例A1と同様の操作を行って、(メタ)アクリル系共重合体A4の溶液を得た。
【0097】
〔製造例A5〕
製造例A1において、別の容器に準備した混合物400質量部を、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2HEMA)12質量部[(メタ)アクリル系共重合体A5の全質量に対して3.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体A5に対して4.2mol%相当]と、その他の単量体として2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)388質量部[(メタ)アクリル系共重合体A5の全質量に対して97.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体A5に対して95.8mol%相当]と、の混合物400質量部に変更したこと以外は、製造例A1と同様の操作を行って、(メタ)アクリル系共重合体A5の溶液を得た。
【0098】
上記にて得られた(メタ)アクリル系共重合体A1〜A5のうち、(メタ)アクリル系共重合体A1〜A4は、少なくともカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含み、重量平均分子量が20万〜200万であるため、本発明における特定(メタ)アクリル系共重合体Aに包含される。
【0099】
(メタ)アクリル系共重合体A1〜A5の単量体組成(単位:質量%)、(メタ)アクリル系共重合体Aにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率a(単位:モル%)、重量平均分子量(Mw、単位:万)、及びガラス転移温度(Tg、単位:℃)を表1に示す。
表1中、「2EHA」は「2−エチルヘキシルアクリレート」、「n−BA」は「n−ブチルアクリレート」、「AA」は「アクリル酸」、及び「2HEMA」は「2−ヒドロキシエチルメタクリレート」を表す。
【0100】
【表1】
【0101】
[(メタ)アクリル系共重合体Bの製造]
〔製造例B1〕
撹拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、及び温度計を備えた反応器に、トルエン237.3質量部、及びメチルエチルケトン237.3質量部を仕込み、還流温度(90℃)にて10分間保った。次いで、この反応器内に、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2HEMA)180質量部[(メタ)アクリル系共重合体B1の全質量に対して10.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体B1に対して10.8mol%相当]、その他の単量体としてt−ブチルメタクリレート(t−BMA)1620質量部[(メタ)アクリル系共重合体B1の全質量に対して90.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体B1に対して89.2mol%相当]、トルエン180.6質量部、メチルエチルケトン180.6質量部、及び重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソ酪酸メチル)232.4質量部の混合物を、180分間かけて逐次滴下した。滴下後230分間、96℃に保った後、固形分が62質量%となるように酢酸エチルで希釈した後、冷却し、(メタ)アクリル系共重合体B1の溶液を得た。
【0102】
〔製造例B2〕
製造例B1において、反応器内に滴下する混合物を、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体としてアクリル酸(AA)180質量部[(メタ)アクリル系共重合体B2の全質量に対して10.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体B2に対して18.0mol%相当]、その他の単量体としてt−ブチルメタクリレート(t−BMA)1620質量部[(メタ)アクリル系共重合体B2の全質量に対して90.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体B2に対して82.0mol%相当]、トルエン180.6質量部、メチルエチルケトン180.6質量部、及び重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソ酪酸メチル)232.4質量部の混合物に変更したこと以外は、製造例B1と同様の操作を行って、(メタ)アクリル系共重合体B2の溶液を得た。
【0103】
〔製造例B3〕
製造例B1において、反応器内に滴下する混合物を、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2HEMA)180質量部[(メタ)アクリル系共重合体B3の全質量に対して10.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体B3に対して9.9mol%相当]、その他の単量体としてt−ブチルアクリレート(t−BA)1620質量部[(メタ)アクリル系共重合体B3の全質量に対して90.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体B3に対して90.1mol%相当]、トルエン180.6質量部、メチルエチルケトン180.6質量部、及び重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソ酪酸メチル)232.4質量部の混合物に変更したこと以外は、製造例B1と同様の操作を行って、(メタ)アクリル系共重合体B3の溶液を得た。
【0104】
〔製造例B4〕
製造例B1において、反応器内に滴下する混合物を、その他の単量体としてt−ブチルメタクリレート(t−BMA)1800質量部[(メタ)アクリル系共重合体B4の全質量に対して100.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体B4に対して100.0mol%相当]、トルエン180.6質量部、メチルエチルケトン180.6質量部、及び重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソ酪酸メチル)232.4質量部の混合物に変更したこと以外は、製造例B1と同様の操作を行って、(メタ)アクリル系共重合体B4の溶液を得た。
【0105】
〔製造例B5〕
撹拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、及び温度計を備えた反応器に、酢酸エチル70質量部、及びメチルエチルケトン300質量部、ABN−V(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))0.25質量部の混合物を仕込み、還流温度(80℃)にて10分間保った。次いで、この反応器内に、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2HEMA)59質量部[(メタ)アクリル系共重合体B5の全質量に対して10.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体B5に対して10.8mol%相当]、その他の単量体としてt−ブチルメタクリレート(t−BMA)531質量部[(メタ)アクリル系共重合体B5の全質量に対して90.0質量%相当、(メタ)アクリル系共重合体B5に対して89.2mol%相当]、酢酸エチル110質量%、ABN−V(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))4質量部の混合物を、120分間かけて逐次滴下した。滴下後60分間、83℃に保った後、酢酸エチル80質量部、ABN−V(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))1.5質量部の混合物を30分間かけて逐次滴下した。滴下後90分間、84℃に保った後、冷却し、(メタ)アクリル系共重合体B5の溶液を得た。
【0106】
上記にて得られた(メタ)アクリル系共重合体B1〜B5のうち、(メタ)アクリル系共重合体B1〜B3は、水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を含み、重量平均分子量が0.4万〜2万であるため、本発明における特定(メタ)アクリル系共重合体Bに包含される。
【0107】
(メタ)アクリル系共重合体B1〜B5の単量体組成(単位:質量%)、(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率b(単位:モル%)、重量平均分子量(Mw、単位:万)、及びガラス転移温度(Tg、単位:℃)を表2に示す。
表2中、「t−BMA」は「t−ブチルメタクリレート」、「t−BA」は「t−ブチルアクリレート」、「AA」は「アクリル酸」、及び「2HEMA」は「2−ヒドロキシエチルメタクリレート」を表す。
【0108】
【表2】
【0109】
[粘着剤組成物の調製]
<実施例1>
製造例A1にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A1の溶液192.3質量部(固形分:76.9質量部)と、製造例B1にて製造した(メタ)アクリル系共重合体B1の溶液37.3質量部(固形分:23.1質量部)と、を混合し、得られた溶液に対して、架橋剤としてコロネート(登録商標)L[商品名、イソシアネート化合物、東ソー(株)]7.51質量部(固形分:3.38質量部)を添加して混合し、実施例1の粘着剤組成物を調製した。
【0110】
<実施例2>
製造例A1にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A1の溶液178.5質量部(固形分:71.4質量部)と、製造例B1にて製造した(メタ)アクリル系共重合体B1の溶液46.1質量部(固形分:28.6質量部)と、を混合し、得られた溶液に対して、架橋剤としてコロネート(登録商標)L[商品名、イソシアネート化合物、東ソー(株)]7.51質量部(固形分:3.38質量部)を添加して混合し、実施例2の粘着剤組成物を調製した。
【0111】
<実施例3>
製造例A1にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A1の溶液156.3質量部(固形分:62.5質量部)と、製造例B1にて製造した(メタ)アクリル系共重合体B1の溶液60.5質量部(固形分:37.5質量部)と、を混合し、得られた溶液に対して、架橋剤としてコロネート(登録商標)L[商品名、イソシアネート化合物、東ソー(株)]7.51質量部(固形分:3.38質量部)を添加して混合し、実施例3の粘着剤組成物を調製した。
【0112】
<実施例4>
製造例A1にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A1の溶液192.3質量部(固形分:76.9質量部)と、製造例B2にて製造した(メタ)アクリル系共重合体B2の溶液37.3質量部(固形分:23.1質量部)と、を混合し、得られた溶液に対して、架橋剤としてコロネート(登録商標)L[商品名、イソシアネート化合物、東ソー(株)]7.51質量部(固形分:3.38質量部)を添加して混合し、実施例4の粘着剤組成物を調製した。
【0113】
<実施例5>
製造例A2にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A2の溶液192.3質量部(固形分:76.9質量部)と、製造例B1にて製造した(メタ)アクリル系共重合体B1の溶液37.3質量部(固形分:23.1質量部)と、を混合し、得られた溶液に対して、架橋剤としてコロネート(登録商標)L[商品名、イソシアネート化合物、東ソー(株)]7.51質量部(固形分:3.38質量部)を添加して混合し、実施例5の粘着剤組成物を調製した。
【0114】
<実施例6>
製造例A3にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A3の溶液192.3質量部(固形分:76.9質量部)と、製造例B1にて製造した(メタ)アクリル系共重合体B1の溶液37.3質量部(固形分:23.1質量部)と、を混合し、得られた溶液に対して、架橋剤としてコロネート(登録商標)L[商品名、イソシアネート化合物、東ソー(株)]7.51質量部(固形分:3.38質量部)を添加して混合し、実施例6の粘着剤組成物を調製した。
【0115】
<実施例7>
製造例A1にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A1の溶液192.3質量部(固形分:76.9質量部)と、製造例B3にて製造した(メタ)アクリル系共重合体B3の溶液37.3質量部(固形分:23.1質量部)と、を混合し、得られた溶液に対して、架橋剤としてコロネート(登録商標)L[商品名、イソシアネート化合物、東ソー(株)]7.51質量部(固形分:3.38質量部)を添加して混合し、実施例7の粘着剤組成物を調製した。
【0116】
<実施例8>
製造例A1にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A1の溶液192.3質量部(固形分:76.9質量部)と、製造例B1にて製造した(メタ)アクリル系共重合体B1の溶液37.3質量部(固形分:23.1質量部)と、を混合し、得られた溶液に対して、架橋剤としてTETRAD−X[商品名、エポキシ化合物、三菱ガス化学(株)]0.6質量部(固形分:0.03質量部)を添加して混合し、実施例8の粘着剤組成物を調製した。
【0117】
<比較例1>
製造例A1にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A1の溶液250質量部(固形分:100質量部)に対して、架橋剤としてコロネート(登録商標)L[商品名、イソシアネート化合物、東ソー(株)]7.51質量部(固形分:3.38質量部)を添加して混合し、比較例1の粘着剤組成物を調製した。
【0118】
<比較例2>
製造例A4にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A4の溶液192.3質量部(固形分:76.9質量部)と、製造例B4にて製造した(メタ)アクリル系共重合体B4の溶液37.3質量部(固形分:23.1質量部)と、を混合し、得られた溶液に対して、架橋剤としてコロネート(登録商標)L[商品名、イソシアネート化合物、東ソー(株)]7.51質量部(固形分:3.38質量部)を添加して混合し、比較例2の粘着剤組成物を調製した。
【0119】
<比較例3>
製造例A5にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A5の溶液192.3質量部(固形分:76.9質量部)と、製造例B1にて製造した(メタ)アクリル系共重合体B1の溶液37.3質量部(固形分:23.1質量部)と、を混合し、得られた溶液に対して、架橋剤としてコロネート(登録商標)L[商品名、イソシアネート化合物、東ソー(株)]7.51質量部(固形分:3.38質量部)を添加して混合し、比較例3の粘着剤組成物を調製した。
【0120】
<比較例4>
製造例A5にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A5の溶液192.3質量部(固形分:76.9質量部)と、製造例B2にて製造した(メタ)アクリル系共重合体B2の溶液37.3質量部(固形分:23.1質量部)と、を混合し、得られた溶液に対して、架橋剤としてコロネート(登録商標)L[商品名、イソシアネート化合物、東ソー(株)]7.51質量部(固形分:3.38質量部)を添加して混合し、比較例4の粘着剤組成物を調製した。
【0121】
<比較例5>
製造例A1にて製造した(メタ)アクリル系共重合体A1の溶液192.3質量部(固形分:76.9質量部)と、製造例B5にて製造した(メタ)アクリル系共重合体B5の溶液37.3質量部(固形分:23.1質量部)と、を混合し、得られた溶液に対して、架橋剤としてコロネート(登録商標)L[商品名、イソシアネート化合物、東ソー(株)]7.51質量部(固形分:3.38質量部)を添加して混合し、比較例5の粘着剤組成物を調製した。
【0122】
[評価用粘着シートの作製]
上記にて調製した粘着剤組成物を、シリコーン処理されたPETフィルム(商品名:フィルムバイナ、厚さ:100μm、藤森工業(株))上に、乾燥後の塗布量が25g/mとなるように粘着剤組成物を塗布した後、熱風乾燥機を用いて100℃で1分間乾燥して、粘着剤層を形成した。次いで、粘着剤層が形成されたPETフィルムの粘着剤層の面に、基材としての軟質塩化ビニル(商品名:00178M7、アジピン酸系可塑剤を30質量%含む、厚さ:75μm、日本カーバイド工業(株))の片面に貼り合わせ、23℃、相対湿度50%の環境下で7日間養生させることにより、評価用粘着シートを得た。
【0123】
[評価]
1.常温環境下における粘着力の測定
上記にて作製した評価用粘着シートを25mm×150mmに切断した。次いで、切断した評価用粘着シートのシリコーン処理されたPETフィルムを剥離し、2kgのゴムローラーを用いて、常温(23℃)、相対湿度50%の環境下にて、粘着剤層をSUS(ステンレス鋼)板に圧着して、試験サンプルとした。この試験サンプルを、23℃、相対湿度50%の環境下で24時間放置した後、SUS板から評価用粘着シートを粘着剤層ごと剥離した場合の粘着力を、測定装置として、(株)エー・アンド・デイのシングルコラム型材料試験機 STA−1225を用い、23℃、相対湿度50%の環境下で、剥離角度180°、剥離速度0.3m/minの条件で測定した。結果を表3に示す。
【0124】
2.高温環境下での粘着力保持能の評価
高温(95℃)環境下で養生後の粘着力を測定し、常温(23℃)環境下における粘着力と比較することで、可塑剤を含む被着材料から粘着剤層に可塑剤が移行しやすい高温環境下においても、粘着剤層の粘着力の低下が抑制されるか(即ち、高温環境下でも粘着力保持能を有しているか)を評価した。具体的には、上記の「1.常温環境下における粘着力の測定」において作製した試験サンプルを、23℃、相対湿度50%の環境下で24時間放置した後、95℃の環境下で96時間養生させ、再び23℃、相対湿度50%の環境下で24時間放置した。この放置後の試験サンプルの、SUS板から評価用粘着シートを粘着剤層ごと剥離した場合の粘着力(即ち、高温環境下で養生後の粘着力)を、測定装置として、(株)エー・アンド・デイのシングルコラム型材料試験機STA−1225を用い、23℃、相対湿度50%の環境下で、剥離角度180°、剥離速度0.3m/minの条件で測定した。そして、高温環境下で養生後の粘着力と上記の常温環境下における粘着力とを比較したときの粘着力の低下率を算出し、下記の評価基準に従って、高温環境下での粘着力保持能を評価した。結果を表3に示す。
なお、評価結果が「A」、「B」、又は「C」であれば、実用上許容される範囲内であると判断した。
【0125】
−評価基準−
A:粘着力の低下率が20%未満である。
B:粘着力の低下率が20%以上30%未満である。
C:粘着力の低下率が30%以上50%未満である。
D:粘着力の低下率が50%以上である。
【0126】
3.低温環境下での粘着力の測定
上記にて作製した評価用粘着シートを25mm×150mmに切断した。次いで、切断した評価用粘着シートのシリコーン処理されたPETフィルムを剥離し、2kgのゴムローラーを用いて、5℃の環境下にて、粘着剤層がBA(ブライトアニール)処理されたSUS板(以下、「BA−SUS板」ともいう。)の面に接するように圧着して、試験サンプルとした。この試験サンプルを、5℃の環境下で1分間放置した後、BA−SUS板から評価用粘着シートを粘着剤層ごと剥離した場合の粘着力を、測定装置として、(株)エー・アンド・デイのシングルコラム型材料試験機STB−1225を用い、5℃の環境下で、剥離角度180°、剥離速度0.3m/minの条件で測定した。結果を表3に示す。
なお、評価結果が「A」、「B」、又は「C」であれば、実用上許容される範囲内であると判断した。
【0127】
−評価基準−
A:最大粘着力が20N/25mmを超える。
B:最大粘着力が10N/25mmを超え、20N/25mm以下である。
C:最大粘着力が5N/25mmを超え、10N/25mm以下である。
D:最大粘着力が5N/25mm以下である。
【0128】
【表3】
【0129】
表3中、「−」は、該当成分を配合していないことを意味する。
表3中、「(メタ)アクリル系共重合体Aにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率a(単位:モル%)に対する、(メタ)アクリル系共重合体Bにおける水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位の合計含有率b(単位:モル%)の割合(合計含有率b/合計含有率a)」は、「合計含有率aに対する合計含有率bの割合[b/a]」と表記する。
【0130】
表3に示すように、実施例1〜実施例8の粘着剤組成物から得られた粘着剤層は、いずれも高温環境下での粘着力保持能に優れ、かつ、低温環境下における粘着力にも優れていた。
一方、(メタ)アクリル系共重合体として、特定(メタ)アクリル系共重合体Aのみを含有する比較例1の粘着剤組成物から得られた粘着剤層は、特定(メタ)アクリル系共重合体A及び特定(メタ)アクリル系共重合体Bの両方を含有する実施例(例えば、実施例1)の粘着剤組成物から得られた粘着剤層と比較して、高温環境下での粘着力保持能が顕著に劣っていた。
(メタ)アクリル系共重合体Aが水酸基及びカルボキシ基の両方を有し、(メタ)アクリル系共重合体Bが水酸基及びカルボキシ基のいずれも有しない比較例2の粘着剤組成物から得られた粘着剤層は、高温環境下での粘着力保持能が低かった。
(メタ)アクリル系共重合体Aがカルボキシ基を有しない比較例3の粘着剤組成物から得られた粘着剤層は、(メタ)アクリル系共重合体Aがカルボキシ基を有する実施例(例えば、実施例1)の粘着剤組成物から得られた粘着剤層と比較して、低温環境下での粘着力が顕著に劣っていた。
水酸基を有し、かつ、カルボキシ基を有しない(メタ)アクリル系共重合体Aと、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系共重合体Bと、を含有する比較例4の粘着剤組成物から得られた粘着剤層は、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系共重合体Aと、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系共重合体Bと、を含有する実施例(例えば、実施例4)の粘着剤組成物から得られた粘着剤層と比較して、低温環境下での粘着力が顕著に劣っていた。また、高温環境下での粘着力保持能についても低かった。
(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量が6万である比較例5の粘着剤組成物から得られた粘着剤層は、(メタ)アクリル系共重合体Bの重量平均分子量が0.4万〜2万の範囲内である実施例(例えば、実施例1)の粘着剤組成物から得られた粘着剤層と比較して、低温環境下での粘着力が顕著に劣っていた。