特許第6811689号(P6811689)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6811689-メカニカルシール用摺動部材 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6811689
(24)【登録日】2020年12月17日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】メカニカルシール用摺動部材
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20201228BHJP
【FI】
   F16J15/34 G
【請求項の数】3
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2017-131030(P2017-131030)
(22)【出願日】2017年7月4日
(65)【公開番号】特開2019-15304(P2019-15304A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】岡 昌男
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅史
(72)【発明者】
【氏名】菅野 尭央
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−061515(JP,A)
【文献】 特開平03−033565(JP,A)
【文献】 特開2010−236093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34−15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール作用をなす環状の摺動面を有するメカニカルシール用摺動部材であって、
前記摺動面に付着する摩耗粉移着膜を前記摺動面の摺動方向に分断すべく前記摺動方向と直交する方向に延びる有端形状とした複数の凹部を前記摺動面に設け
前記凹部は、
前記摺動方向に隣接するもの同士が前記摺動方向と直交する方向に重なり合いながら前記摺動方向に複数配列されることによって前記摺動面の径方向全幅に亙って満遍なく設けられ、
前記摺動面に発生した摩耗粉を収容して蓄積する、
ことを特徴とするメカニカルシール用摺動部材。
【請求項2】
請求項1記載のメカニカルシール用摺動部材において、
前記凹部を伝っての密封流体漏れが発生しないように前記凹部の長手方向端部を当該摺動部材の端部に達しないようにしたことを特徴とするメカニカルシール用摺動部材。
【請求項3】
請求項1または2記載のメカニカルシール用摺動部材において、
前記凹部の深さを10μm以上の大きさとしたことを特徴とするメカニカルシール用摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール技術に係るメカニカルシール用摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシールにはシール作用をなすため、摺動面(密封摺動面)を有する摺動部材が組み付けられており、摺動面は環状であってかつ軸直角平面状に形成されている。
【0003】
また、液溜まりを設けること、動圧分布を調整すること、密封流体に対するポンピング作用をなすこと等を目的として、摺動面上にディンプル加工や溝加工を施す技術が開発されている。
【0004】
しかしながら、これらの加工によって形成されるディンプルや溝等の凹部は、その設置目的に照らして、ピンポイント状の凹部、摺動面の摺動方向(円周方向)に沿って延びる凹部、摺動面の摺動方向に対し斜め方向に延びる凹部、またはスパイラル状の凹部とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−343741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、摺動部材が摺動すると摩耗粉が発生し、発生した摩耗粉は少なくとも一部が摺動面に付着する。摩耗粉は、摺動部材の回転(相対回転を含む)中に発生するので、摺動面の摺動方向に沿って帯状(環状)に付着する。以下このように摩耗粉が摺動面の摺動方向に沿って帯状に付着したものを摩耗粉移着膜または摩耗粉堆積移着膜とも称する。
【0007】
しかしながら、このように摩耗粉移着膜が摺動面上に形成されると、摺動時に発生する摩擦抵抗が大きくなる傾向を示し、この高摩擦化がシール作用に影響を及ぼして、シール性能や製品寿命の低下に至ることがある。
【0008】
動面に付着する摩耗粉移着膜を摺動面の摺動方向に分断することを可能とし、もって摩耗粉移着膜の形成による不具合の発生を抑制低減することができるメカニカルシール用摺動部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ール作用をなす環状の摺動面を有するメカニカルシール用摺動部材であって、前記摺動面に付着する摩耗粉移着膜を前記摺動面の摺動方向に分断すべく前記摺動方向と直交する方向に延びる有端形状とした複数の凹部を前記摺動面に設け、前記凹部は、前記摺動方向に隣接するもの同士が前記摺動方向と直交する方向に重なり合いながら前記摺動方向に複数配列されることによって前記摺動面の径方向全幅に亙って満遍なく設けられ、前記摺動面に発生した摩耗粉を収容して蓄積する。
【発明の効果】
【0010】
動面に付着する摩耗粉移着膜を摺動面の摺動方向に分断すべく摺動方向と直交する方向に延びる凹部が摺動面に設けられているので、摩耗粉移着膜が摺動面の摺動方向に分断され不均一な状態で摺動面に付着する。したがって摩耗粉が摺動面の摺動方向に沿って帯状に付着する場合と比較して、摩擦抵抗の増大率が小さく抑えられる。したがって高摩擦化によるシール性能や製品寿命の低下を抑制低減することが可能とされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係るメカニカルシール用摺動部材の正面図
図2図1におけるA部拡大図であって同メカニカルシール用摺動部材における摺動面の一部を示す説明図
図3】凹部の他の例を示す説明図
図4】比較例に係るメカニカルシール用摺動部材における摺動面の一部を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示すようにメカニカルシール用の摺動部材11には、環状であってかつ軸直角平面状の摺動面(密封摺動面)21が設けられており、この摺動部材11がシール作動に伴って相手摺動部材(図示せず)と摺動すると摩耗粉が発生し、発生した摩耗粉は少なくともその一部が摺動面21に付着する。摩耗粉は摺動部材11の回転(相対回転を含む)中に発生するので、比較例として図4に示すように摺動面21の摺動方向(円周方向)xに沿って帯状(環状)に付着し、摩耗粉移着膜101を形成する。しかしながらこのように摩耗粉が摺動面21の摺動方向xに沿って帯状に付着すると、摺動時に発生する摩擦抵抗が大きくなり、高摩擦化がシール作用に影響を及ぼし、シール性能や製品寿命の低下に至ることがある。
【0013】
そこで、当該実施の形態では図2に拡大して示すように、摺動面21に付着し摺動面21上に形成される摩耗粉移着膜を摺動面21の摺動方向xに分断したものとすべく摺動面21上に凹部31が設けられている。
【0014】
凹部31は、摺動面21の摺動方向xと直交する方向(径方向)に延びる溝として形成されている。
【0015】
凹部31の開口形状(平面形状)は直線状とされ、例えば長方形(図2)、楕円形(図3)または長円形(図示せず)などとされている。
【0016】
凹部31の深さは、その設置目的に照らして上記従来のディンプル加工や溝加工による凹部と比較して大きい数値の、10μm以上の大きさとされている。
【0017】
凹部31は、複数ないし多数が摺動面21上に分散して万遍なく設けられている。配置に規則性はとくに必要とされないが、摺動面21上に環状の凹部不形成領域が設定されないよう凹部31は複数ないし多数が摺動面21の全幅(径方向全幅)に亙って万遍なく設けられている。
【0018】
尚、1本の凹部31が摺動面21の全幅を貫通するよう設けられると、この貫通する凹部31を伝って密封流体が漏れる懸念を生じるため、これを未然に防止すべく、凹部31の少なくとも一方の長手方向端部は摺動面21の幅方向端部(内周端部または外周端部)に達しない有端形状とされている。
【0019】
上記構成のメカニカルシール用摺動部材11では、発生する摩耗粉の少なくとも一部が凹部31に収容され凹部31内に蓄積されるため、摺動面21上に付着する摩耗粉の量が減少し、その結果として、摩耗粉が摺動面21の摺動方向xに沿って帯状に付着して摩耗粉移着膜101を形成すると云った事態が発生しなくなる。図2に示すように摩耗粉102は、摺動面21の摺動方向xに沿ってところどころに点在する有端形状の尾っぽ状のものとして摺動面21上に付着する。
【0020】
したがって上記構成のメカニカルシール用摺動部材11によれば、摩耗粉が摺動面21の摺動方向に沿って帯状に付着する場合(図4)と比較して摺動時に発生する摩擦抵抗が低減させることができるため、高摩擦化によるシール性能や製品寿命の低下を抑制低減することができる。
【符号の説明】
【0021】
11 メカニカルシール用摺動部材
21 摺動面
31 凹部
101 摩耗粉移着膜
102 摩耗粉
図1
図2
図3
図4