(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6811697
(24)【登録日】2020年12月17日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】レーザー切断装置及びレーザー切断方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/38 20140101AFI20201228BHJP
B23K 26/16 20060101ALI20201228BHJP
B23K 26/14 20140101ALI20201228BHJP
【FI】
B23K26/38 Z
B23K26/16
B23K26/14
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-182319(P2017-182319)
(22)【出願日】2017年9月22日
(65)【公開番号】特開2019-55422(P2019-55422A)
(43)【公開日】2019年4月11日
【審査請求日】2019年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】小松 由尚
【審査官】
岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−178125(JP,A)
【文献】
特開2017−104891(JP,A)
【文献】
特開昭63−076786(JP,A)
【文献】
特開2005−014075(JP,A)
【文献】
特開2011−041963(JP,A)
【文献】
特開2013−075818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/38
B23K 26/16
B23K 26/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物にレーザー光を照射するレーザー光照射装置と、
前記レーザー光を照射して生じる前記対象物の溶断部又は被切断部に向かってそれぞれ圧力波を照射する複数の圧力波源を備える圧力波照射部と、
前記各圧力波の外周側に沿って前記溶断部又は前記被切断部に向かう噴流をそれぞれ噴射する噴流噴射部と、
を備え、
前記各圧力波が、超音波又は可聴領域の音波であるレーザー切断装置。
【請求項2】
前記噴流噴射部は、前記各圧力波の周囲を囲むようにして、前記噴流を噴射する請求項1に記載のレーザー切断装置。
【請求項3】
前記噴流噴射部は、前記噴流が噴射される方向から見て円形をなす複数のノズル部を有する請求項1又は2に記載のレーザー切断装置。
【請求項4】
前記噴流は、不活性ガスである請求項1から3のいずれか一項に記載のレーザー切断装置。
【請求項5】
対象物にレーザー光を照射して生じる前記対象物の溶断部又は被切断部に複数の圧力波を照射してドロスを除去すると共に、前記各圧力波の外周側に沿って前記溶断部又は前記被切断部に向かう噴流をそれぞれ噴射する工程、
を含み、
前記各圧力波が、超音波又は可聴領域の音波であるレーザー切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー切断装置及びレーザー切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大型の機械装置を解体する場合や、多数の穴あけ加工を行う場合には、レーザー切断装置を用いた熱加工が好適に用いられる。レーザー切断装置は、レーザー光による熱エネルギーによって対象物を切断・加工する。一方で、正確な切断を行うためには、切断によって生じた溶融部(ドロス)を除去するための手段も必要となる。このように、ドロスを除去しながらレーザー切断を行うことができる装置の具体例として、下記特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載された装置は、レーザー光照射装置と、溶断部に向かってそれぞれ圧力波を照射する複数の超音波源を有する圧力波照射装置とを備えている。特許文献1では、圧力波のせん断力によって、溶断部に付着したドロスが除去できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−178125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された装置では、複数の超音波源から供給される各圧力波の外周部がそれぞれ外気に曝されているため、各圧力波と外気との間でせん断力が生じてしまう。せん断力が生じると、各圧力波は減衰する。このため、所望の強さの圧力波を得られず、ドロスを十分に除去できなくなる可能性がある。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、ドロスを効率的に除去することが可能なレーザー切断装置及びレーザー切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の態様によれば、レーザー切断装置は、レーザー光を照射するレーザー光照射装置と、前記レーザー光による溶断部又は被切断部に向かってそれぞれ圧力波を照射する複数の圧力波源を備える圧力波照射部と、前記各圧力波の外周側に沿って前記溶断部又は被切断部に向かう噴流をそれぞれ噴射する噴流噴射部と、を備える。
【0007】
この構成によれば、噴流噴射部から噴射された噴流によって、圧力波と外気との間で生じるせん断力を低減することができる。したがって、圧力波が減衰する可能性を低減することができる。特に、溶断部、又は被切断部が比較的に遠距離に配置されている場合であっても、強度を維持したまま、圧力波を到達させることができる。これにより、正確な切断又は溶断を行うことができる。
【0008】
また、第二の態様によれば、前記噴流噴射部は、前記各圧力波の周囲を囲むようにして、前記噴流を噴射してもよい。
【0009】
この構成によれば、噴流が圧力波の周囲を囲むようにして噴射されることから、圧力波と外気との間で生じるせん断力の発生を、圧力波の周囲全体にわたって低減することができる。
【0010】
また、第三の態様によれば、前記噴流噴射部は、前記噴流が噴射される方向から見て円形をなす複数のノズル部を有してもよい。
【0011】
この構成によれば、ノズル部が円形をなしていることから、圧力波を周囲から囲むとともに、周方向の全域にわたって均一な噴流を発生させることができる。これにより、圧力波と外気との間で生じるせん断力の発生を、圧力波の周囲全体にわたって低減することができる。
【0012】
また、第四の態様によれば、前記噴流は、不活性ガスであってもよい。
【0013】
この構成によれば、噴流として不活性ガスが用いられる。この場合、噴流が周囲空間の流体(空気)を遮断するため、溶断部又は被切断部において化学反応(酸化反応など)が生じる可能性を低減することができる。これにより、さらに安全に装置を運用することができる。
【0014】
また、第五の態様によれば、レーザー切断方法は、レーザー光を照射して生じる被加工物に溶断部又は被切断部に圧力波を照射してドロスを除去すると共に、前記圧力波の外周側に沿って前記溶断部又は被切断部に向かう噴流を噴射する工程、を含む。
【0015】
この方法によれば、圧力波の外周側に沿って噴射された噴流によって、圧力波と外気との間で生じるせん断力を低減することができる。したがって、圧力波が減衰する可能性を低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ドロスを効率的に除去することが可能なレーザー切断装置及びレーザー切断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係るレーザー切断装置の構成を示す図である。
【
図2】レーザー光の照射方向から見た
図1のII部拡大図である。
【
図3】
図2におけるIII−III線断面図である。
【
図4】伝搬距離に対する圧力レベルを示すグラフである。
【
図5】本発明の実施形態に係るレーザー切断装置の変形例を、レーザー光の照射方向から見た拡大図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るレーザー切断装置の他の変形例を、レーザー光の照射方向から見た拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示されるように、本実施形態に係るレーザー切断装置1は、レーザー光Lのエネルギーによって、対象物Sを溶断又は切断したり、対象物Sに穴あけ加工を施したりする装置である。レーザー切断装置1は、レーザー光照射装置2と、圧力波照射部3と、噴流噴射部4と、を備える。
【0019】
レーザー光照射装置2は、レーザー発振装置21と、加工ヘッド22と、を有している。レーザー発振装置21はレーザー光Lを発生させる。加工ヘッド22は、レーザー発振装置21で発生したレーザー光Lを、対象物Sの溶断部C、又は被切断部Cに照射する。加工ヘッド22は、略円形の基板10の中心位置に配置されている。
【0020】
圧力波照射部3は、空気を振動させて圧力波Wを発生させる。圧力波Wは、溶断部C、又は被切断部Cに付与される。圧力波Wが付与されることで、レーザー切断によって生じた溶融部であるドロスDが吹き飛ばされる。
圧力波照射部3は、加工ヘッド22を中心に、基板10の周方向に沿って並ぶ複数の圧力波源30を備える。各圧力波源30は、溶断部C、又は被切断部Cに向かって、それぞれ圧力波Wを照射する。
図1に示されるように、本実施形態では、圧力波照射部3は、基板10の周方向に沿って並ぶ8個の圧力波源30を備えるが、圧力波源30の数や並びは、どのように構成されてもよい。
各圧力波源30は、アレイ状に配列された複数の圧力波振動子31をそれぞれ有する。
本実施形態において、圧力波Wは、超音波である。圧力波振動子31としては、例えば超音波振動子が好適に用いられる。各圧力波源30における複数の圧力波振動子31は、
図2に示されるように、格子状に配列されるとともに、外形が円環状をなすように、基板10上で間隔をあけて配列されている。
【0021】
複数の圧力波源30からは、互いの振動が同期した状態で、溶断部C、又は被切断部Cに向かってそれぞれ圧力波Wが照射される。
本実施形態では、溶断部C、又は被切断部Cにおいて、互いの圧力波Wが集束され、指向性が高められるように、複数の圧力波源30が配置されている。
集束された圧力波Wは、溶断部C、又は被切断部Cで生じたドロスDを吹き飛ばすエネルギーを有している。
【0022】
噴流噴射部4は、各圧力波Wの周囲を気体の噴流Fによって覆うことで、当該圧力波Wを外気から保護する。噴流噴射部4は、気体を貯留するタンク41と、基板10上に形成された複数のノズル部42と、タンク41及び各ノズル部42を接続する供給管43と、を有する。
供給管43の一端は、タンク41に接続されている。供給管43の他端は、複数に分岐されており、各ノズル部42にそれぞれ接続されている。これにより、タンク41に貯留された気体は、供給管43を介して、各ノズル部42に供給される。
【0023】
図3に示されるように、噴流噴射部4は、各圧力波Wの外周側に沿って溶断部C、又は被切断部Cに向かう噴流Fを噴射する。
噴流Fの気体としては、空気の他、窒素、アルゴン等の不活性ガスが用いられる。
本実施形態において、各ノズル部42は、基板10に形成されている。各ノズル部42は、供給管43側から溶断部C、又は被切断部C側に向かって基板10を貫通する開口を有する開口部である。各ノズル部42は、各圧力波源30にそれぞれ設けられる。各ノズル部42は、各圧力波源30を外周側から囲むように、それぞれ円形のスリット状に開口している。タンク41から圧送された気体は、各ノズル部42を通過する際に噴流Fとなって溶断部C、又は被切断部Cに向かう。この時、各噴流Fは各圧力波源30から照射される圧力波Wをそれぞれ外周側から囲むようにして流れる。
【0024】
このような構成によって、レーザー切断装置1は、対象物Sにレーザー光Lを照射して生じる溶断部C、又は被切断部Cに圧力波Wを照射すると共に、圧力波Wの外周側に沿って溶断部C又は被切断部Cに向かう噴流Fを噴射する工程を含むレーザー切断方法を実施する。
【0025】
対象物Sにレーザー光Lを照射することで、当該対象物Sには溶断部C、又は被切断部Cが生じる。この時、溶断部C、又は被切断部Cには、対象物Sが溶融したドロスも生じる。各圧力波源30から圧力波Wが照射されると、このドロスが圧力波Wによって除去される。ここで、圧力波Wが直接的に外気に曝されている場合、圧力波Wと外気との間でせん断力が生じてしまう。せん断力が生じると、最外周部の圧力波Wが減衰してしまう。そこで、本実施形態では、各圧力波Wの外周側に沿ってそれぞれ噴流Fが噴射される。この噴流Fによって圧力波Wと外気との間で生じるせん断力が低減される。
【0026】
以上、説明したように、上述の構成によれば、噴流噴射部4から噴射された噴流Fによって、圧力波Wと外気との間で生じるせん断力を低減することができる。したがって、圧力波Wが減衰する可能性を低減することができる。
【0027】
特に、溶断部C、又は被切断部Cが比較的に遠距離に配置されている場合であっても、強度を維持したまま、圧力波Wを到達させることができる。これにより、正確な切断又は溶断を行うことができる。
図4には、噴流Fを噴射した場合の圧力波Wの減衰特性曲線PAと、噴流Fを噴射しなかった場合の圧力波Wの減衰特性曲線PBとが示される。
図4に示されるように、噴流Fを噴射しなかった場合に比べて、本実施形態のように噴流Fを噴射した場合の方が、伝搬距離に対する圧力波Wの減衰を抑制することができる。
このように、本実施形態のレーザー切断装置1は、比較的遠距離まで圧力波Wの圧力レベル(圧力強度)を維持させることができる。
【0028】
さらに、上述の構成によれば、噴流Fが各圧力波Wの周囲を囲むようにして噴射されることから、圧力波Wと外気との間で生じるせん断力の発生を、圧力波Wの周囲全体にわたって低減することができる。
【0029】
また、上述の構成によれば、ノズル部42が円形をなしていることから、各圧力波Wを周囲から囲むとともに、周方向の全域にわたって均一な噴流Fを発生させることができる。これにより、圧力波Wと外気との間で生じるせん断力の発生を、圧力波Wの周囲全体にわたって低減することができる。
【0030】
加えて、上述の構成によれば、噴流Fを形成する気体として不活性ガスが用いられる。したがって、溶断部C、又は被切断部Cに残留した熱が噴流Fに伝播した場合でも、噴流F中で不用意な化学反応が生じる可能性を低減することができる。これにより、さらに安全に装置を運用することができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明した。なお、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0032】
例えば、上記実施形態では、圧力波振動子31が格子状かつ円環状に配列されている例について説明した。しかしながら、圧力波振動子31の配置は上記実施形態によっては限定されず、全体として矩形状をなしていたり、多角形状をなしていたりしてもよい。
【0033】
また、圧力波振動子31は超音波振動子に限定されず、可聴領域の音波を発生させる素子を圧力波振動子として用いることも可能である。この場合、圧力波Wとして可聴領域の音波が用いられる。
【0034】
また、上記実施形態では、噴流Fが圧力波Wの周囲を囲んでいるが、噴流Fは圧力波Wの周囲を完全に囲んでもよいし、部分的に囲んでもよい。変形例として、せん断力の発生を低減できるなら、噴流Fは、圧力波Wの周囲の一部に設けられてもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、ノズル部42は、各圧力波源30を外周側から囲むように、円形のスリット状の開口を有している。変形例として、
図5に示される噴流噴射部4’のノズル部42’のように、ノズル部は、各圧力波源30を外周側から囲むように、各圧力波源30の周囲に沿って並べられた複数の円弧のスリット状の開口を有していてもよい。他の変形例として、
図6に示される噴流噴射部4’’のノズル部42’’のように、ノズル部は、各圧力波源30を外周側から囲むように、各圧力波源30の周囲に沿って並べられた複数の穴を有していてもよい。この場合、穴の形状は、円形であってもよく、多角形であってもよい。
【0036】
また、上記実施形態では、ノズル部42は、基板10に形成されている。変形例として、ノズル部は、基板10とは別に、基板10と溶断部C、又は被切断部Cとの間に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 レーザー切断装置
2 レーザー光照射装置
3 圧力波照射部
4 噴流噴射部
4’ 噴流噴射部
4’’ 噴流噴射部
10 基板
21 レーザー発振装置
22 加工ヘッド
30 圧力波源
31 圧力波振動子
41 タンク
42 ノズル部
42’ ノズル部
42’’ ノズル部
43 供給管
C 溶断部、又は被切断部
F 噴流
S 対象物
L レーザー光
W 圧力波