特許第6811881号(P6811881)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6811881品質管理システムおよび品質管理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6811881
(24)【登録日】2020年12月17日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】品質管理システムおよび品質管理プログラム
(51)【国際特許分類】
   B05C 21/00 20060101AFI20201228BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20201228BHJP
   B60R 13/00 20060101ALI20201228BHJP
   B05C 11/00 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   B05C21/00
   G05B19/418 Z
   B60R13/00
   B05C11/00
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-2795(P2020-2795)
(22)【出願日】2020年1月10日
【審査請求日】2020年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149790
【氏名又は名称】株式会社大気社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 秀久
(72)【発明者】
【氏名】山下 智雄
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2019/171498(WO,A1)
【文献】 特開2018−144007(JP,A)
【文献】 特開2018−206162(JP,A)
【文献】 特表2008−529756(JP,A)
【文献】 特開平6−142565(JP,A)
【文献】 特開2001−70846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 7/00−21/00
B60R 13/00−13/10
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送経路に沿って被塗物を搬送可能な搬送設備と、前記搬送経路に沿って配置された複数の塗装設備からなる塗装設備群と、前記被塗物を検査可能な検査設備と、を備え、
前記搬送設備には、前記被塗物の移動量を検出可能な移動量検出器が設けられ、
前記塗装設備群には、各塗装設備において行われる塗装作業に係る一つまたは複数の工程管理値を検出可能な一つまたは複数の計測機器が設けられ、
前記検査設備には、前記被塗物の品質に係る一つまたは複数の品質管理項目に関する品質管理値を検出可能な一つまたは複数の検査機器、および、人為的な検査により決定された前記品質管理値を入力可能な入力機器の少なくとも一方が設けられた塗装ラインにおいて、前記被塗物の品質を管理可能な品質管理システムであって、
前記移動量、前記工程管理値、および前記品質管理値を入力可能な入力部と、
前記移動量に基づいて、前記工程管理値および前記品質管理値を、前記被塗物の個体識別情報に関連付けることができる個体識別部と、
前記工程管理値の経時変化履歴に基づいて、前記被塗物の塗装状態を表す状態値を算出する演算を実施可能な状態値演算部と、
前記個体識別情報、前記工程管理値、前記状態値、および前記品質管理値の組を記憶可能な記憶部と、
前記工程管理値、前記状態値、および前記品質管理値の複数の組を用いて、前記工程管理値、前記状態値、および前記品質管理値の相関関係を学習可能な学習部と、が備えられている品質管理システム。
【請求項2】
ユーザーインターフェース部がさらに備えられ、
前記ユーザーインターフェース部を通じて特定の前記品質管理項目が指定されたときに、指定された前記品質管理項目に与える影響順位が高い前記工程管理値および前記状態値が前記ユーザーインターフェース部を通じて出力できるように構成されている請求項1に記載の品質管理システム。
【請求項3】
前記工程管理値と、当該工程管理値に基づいて算出された前記状態値と、前記相関関係とに、基づいて、前記品質管理値を予測可能な予測部がさらに備えられている請求項1または2に記載の品質管理システム。
【請求項4】
前記予測部は、予測される前記品質管理値が所定の警告基準を満たす場合に警報を発報する請求項3に記載の品質管理システム。
【請求項5】
前記予測部は、予測される前記品質管理値が所定の品質目標を満たさない場合に、当該品質目標を満たすために必要とされる前記塗装設備群の運転条件の変更を提案可能に構成されている請求項3または4に記載の品質管理システム。
【請求項6】
前記被塗物は自動車の車体であり、前記個体識別情報は車両識別番号である請求項1〜5のいずれか一項に記載の品質管理システム。
【請求項7】
搬送経路に沿って被塗物を搬送可能な搬送設備と、前記搬送経路に沿って配置された複数の塗装設備からなる塗装設備群と、前記被塗物を検査可能な検査設備と、を備え、
前記搬送設備には、前記被塗物の移動量を検出可能な移動量検出器が設けられ、
前記塗装設備群には、各塗装設備において行われる塗装作業に係る一つまたは複数の工程管理値を検出可能な一つまたは複数の計測機器が設けられ、
前記検査設備には、前記被塗物の品質に係る一つまたは複数の品質管理項目に関する品質管理値を検出可能な一つまたは複数の検査機器、および、人為的な検査により決定された前記品質管理値を入力可能な入力機器の少なくとも一方が設けられた塗装ラインにおいて、前記被塗物の品質を管理するための、コンピュータにインストール可能な品質管理プログラムであって、
前記移動量、前記工程管理値、および前記品質管理値の入力を受け付ける入力受付機能と、
前記移動量に基づいて、前記工程管理値および前記品質管理値を、前記被塗物の個体識別情報に関連付ける個体識別機能と、
前記工程管理値の経時変化履歴に基づいて、前記被塗物の塗装状態を表す状態値を算出する演算を実施する状態値演算機能と、
前記個体識別情報、前記工程管理値、前記状態値、および前記品質管理値の組を記憶する記憶機能と、
前記工程管理値、前記状態値、および前記品質管理値の複数の組を用いて、前記工程管理値、前記状態値、および前記品質管理値の相関関係を学習する学習機能と、を前記コンピュータに実行させる品質管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質管理システムおよび品質管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
塗装の品質は、塗装工程における種々のパラメータの影響を受けうる。そのため、塗装工程の実施状況と、被塗物の塗装品質との関係を明らかにしようとする試みが行われている。たとえば特開2019−98303号公報(特許文献1)には、ケレン工程に係るパラメータと、施工面に対する塗装材料の付着性能との関係を学習する吹付け条件情報演算装置が開示されている。また、特開2019−192131号公報(特許文献2)には、塗装ブツの撮影画像と当該塗装ブツの推定原因との関係を学習した学習済みニューラルネットワークを活用して塗装ブツの発生原因を解析する解析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019−98303号公報
【特許文献2】特開2019−192131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、たとえば車体などの比較的大きな被塗物の塗装においては、複数の塗装工程にわたる多数の工程管理項目が存在し、品質管理項目も多岐にわたるため、多数の工程管理項目と多数の品質管理項目との相関関係が非常に複雑であり、特許文献1および2のような技術では、その相関関係を明らかにできない場合があった。また、塗装工程によっては、工程管理値そのものよりも、その経時変化履歴が塗装品質に大きな影響を与える場合があるが、特許文献1および2のような技術では、工程管理値の経時変化履歴は十分に考慮されていなかった。
【0005】
そこで、多数の工程管理項目およびその経時変化履歴と、多数の品質管理項目との相関関係を明らかにできる品質管理システムおよび品質管理プログラムの実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る品質管理システムは、搬送経路に沿って被塗物を搬送可能な搬送設備と、前記搬送経路に沿って配置された複数の塗装設備からなる塗装設備群と、前記被塗物を検査可能な検査設備と、を備え、前記搬送設備には、前記被塗物の移動量を検出可能な移動量検出器が設けられ、前記塗装設備群には、各塗装設備において行われる塗装作業に係る一つまたは複数の工程管理値を検出可能な一つまたは複数の計測機器が設けられ、前記検査設備には、前記被塗物の品質に係る一つまたは複数の品質管理項目に関する品質管理値を検出可能な一つまたは複数の検査機器、および、人為的な検査により決定された前記品質管理値を入力可能な入力機器の少なくとも一方が設けられた塗装ラインにおいて、前記被塗物の品質を管理可能な品質管理システムであって、前記移動量、前記工程管理値、および前記品質管理値を入力可能な入力部と、前記移動量に基づいて、前記工程管理値および前記品質管理値を、前記被塗物の個体識別情報に関連付けることができる個体識別部と、前記工程管理値の経時変化履歴に基づいて、前記被塗物の塗装状態を表す状態値を算出する演算を実施可能な状態値演算部と、前記個体識別情報、前記工程管理値、前記状態値、および前記品質管理値の組を記憶可能な記憶部と、前記工程管理値、前記状態値、および前記品質管理値の複数の組を用いて、前記工程管理値、前記状態値、および前記品質管理値の相関関係を学習可能な学習部と、が備えられていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る品質管理プログラムは、搬送経路に沿って被塗物を搬送可能な搬送設備と、前記搬送経路に沿って配置された複数の塗装設備からなる塗装設備群と、前記被塗物を検査可能な検査設備と、を備え、前記搬送設備には、前記被塗物の移動量を検出可能な移動量検出器が設けられ、前記塗装設備群には、各塗装設備において行われる塗装作業に係る一つまたは複数の工程管理値を検出可能な一つまたは複数の計測機器が設けられ、前記検査設備には、前記被塗物の品質に係る一つまたは複数の品質管理項目に関する品質管理値を検出可能な一つまたは複数の検査機器、および、人為的な検査により決定された前記品質管理値を入力可能な入力機器の少なくとも一方が設けられた塗装ラインにおいて、前記被塗物の品質を管理するための、コンピュータにインストール可能な品質管理プログラムであって、前記移動量、前記工程管理値、および前記品質管理値の入力を受け付ける入力受付機能と、前記移動量に基づいて、前記工程管理値および前記品質管理値を、前記被塗物の個体識別情報に関連付ける個体識別機能と、前記工程管理値の経時変化履歴に基づいて、前記被塗物の塗装状態を表す状態値を算出する演算を実施する状態値演算機能と、前記個体識別情報、前記工程管理値、前記状態値、および前記品質管理値の組を記憶する記憶機能と、前記工程管理値、前記状態値、および前記品質管理値の複数の組を用いて、前記工程管理値、前記状態値、および前記品質管理値の相関関係を学習する学習機能と、を前記コンピュータに実行させることを特徴とする。
【0008】
これらの構成によれば、多数の工程管理項目およびその経時変化履歴と、多数の品質管理項目との相関関係を明らかにできる。
【0009】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0010】
本発明に係る品質管理システムは、一態様として、ユーザーインターフェース部がさらに備えられ、前記ユーザーインターフェース部を通じて特定の前記品質管理項目が指定されたときに、指定された前記品質管理値に与える影響順位が高い前記工程管理項目および前記状態値が前記ユーザーインターフェース部を通じて出力できるように構成されていることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、特定の品質管理項目に与える影響が大きい工程管理項目を、作業者が容易に理解できる。
【0012】
本発明に係る品質管理システムは、一態様として、前記工程管理値と、当該工程管理値に基づいて算出された前記状態値と、前記相関関係とに、基づいて、前記品質管理値を予測可能な予測部がさらに備えられていることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、塗装作業の着手前または実施途中に、被塗物の塗装品質を予測しうる。
【0014】
本発明に係る品質管理システムは、一態様として、前記予測部は、予測される前記品質管理値が所定の警告基準を満たす場合に警報を発報することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、塗装品質が低下しうる状態にあることを、作業者が認識しやすい。
【0016】
本発明に係る品質管理システムは、一態様として、前記予測部は、予測される前記品質管理値が所定の品質目標を満たさない場合に、当該品質目標を満たすために必要とされる前記塗装設備群の運転条件の変更を提案可能に構成されていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、塗装品質を良好に維持しやすい。
【0018】
本発明に係る品質管理システムは、一態様として、前記被塗物は自動車の車体であり、前記個体識別情報は車両識別番号であることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、個々の車体に対して一意に定まる車両識別番号を用いて車体を特定するので、個体識別情報が重複するおそれがない。また、車両識別番号は本発明と関係なく車体に付されるため、品質管理のために新たな個体識別情報を設定する必要がない。
【0020】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る塗装ラインの概略図
図2】本発明の実施形態に係る塗装ラインにおける車体の進行を示す図
図3】本発明の実施形態に係る品質管理システムの構成図
図4】本発明の実施形態に係る品質管理システムに入力されるデータの概略図
図5】本発明の実施形態に係る品質管理システムにおける出力例
図6】電着工程に係る状態値の演算例を示す図
図7】乾燥工程に係る状態値の演算例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る品質管理システムおよび品質管理プログラムの実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る品質管理システムを、塗装ライン100において被塗物である車体Bの品質を管理可能な品質管理システム1に適用した例について説明する。
【0023】
〔塗装ラインの構成〕
まず、本実施形態に係る塗装ライン100について説明する。塗装ライン100は、車体Bに対して塗装を施すことができる一連の設備である(図1)。塗装ライン100の各部はトンネル状に構成されており、コンベアC(搬送設備の例)によって車体Bを一軸上(図1の紙面左右方向)に搬送しながら、車体Bに各塗装工程の作業を施す。本実施形態では、コンベアCの搬送経路に沿って、前処理第一工程101、前処理第二工程102、前処理第三工程103、電着工程104、乾燥工程105、および上塗り塗装工程106(塗装設備群の例)、ならびに検査工程107(検査設備の例)が設けられている。また、品質管理システム1が、各工程101〜107およびコンベアCからの信号を受信可能に設けられている。
【0024】
前処理第一工程101は入口工程であり、塗装ライン100に車体Bを受け入れる。前処理第一工程101に受け入れられた車体Bは、前処理第一工程101において待機する。前処理第一工程101には温度計および湿度計(いずれも計測機器の例)が設けられ、その内部の温度および湿度(いずれも工程管理値の例)を連続的に計測できる。本実施形態においては、車体Bが前処理第一工程101を停止せずに通過する例を示している。車体Bは、前処理第一工程101から次の前処理第二工程102に搬送される。
【0025】
前処理第二工程102は、車体Bに対してディップ洗浄を施す設備であり、車体Bを洗浄液に浸漬して水洗および脱脂を行う。第二塗装設備には温度計(計測機器の例)が設けられ、その内部の温度(工程管理値の例)を連続的に計測できる。車体Bは、前処理第二工程102において停止し、所定の期間にわたって塗装作業が施された後に、次の前処理第三工程103に搬送される。
【0026】
前処理第三工程103は、車体Bに対してスプレー洗浄を施す設備であり、車体Bに対して洗浄液を噴霧して水洗および薬品洗浄を行う。前処理第三工程103には、洗浄液の流量(工程管理値の例)を計測可能な流量計(計測機器の例)、および、洗浄液を噴霧する噴霧装置に流通する空気の圧力(工程管理値の例)を計測可能な圧力計(計測機器の例)が設けられており、上記の流量および圧力を連続的に計測できる。車体Bは、前処理第三工程103を停止せずに通過して、次の電着工程104に搬送される。
【0027】
電着工程104は、車体Bに対して電着塗装を施す設備である。電着工程104には、電着塗装装置に流れる電流値(工程管理値の例)を計測可能な電流計(計測機器の例)が設けられており、電流値を連続的に計測できる。車体Bは、電着工程104において停止し、所定の期間にわたって電着塗装が施された後に、次の乾燥工程105に搬送される。
【0028】
乾燥工程105は、高温の室内において車体Bを乾燥させる設備である。乾燥工程105には温度計(計測機器の例)が設けられ、車体Bの温度(工程管理値の例)を連続的に計測できる。車体Bは、乾燥工程105において停止し、所定の期間にわたって乾燥された後に、次の上塗り塗装工程106に搬送される。
【0029】
上塗り塗装工程106は、車体Bに対して上塗り塗装作業を施す設備である。上塗り塗装工程106には、塗装機の回転数(工程管理値の例)を計測可能な回転計(計測機器の例)が設けられており、回転数を連続的に計測できる。車体Bは、上塗り塗装工程106において停止し、所定の期間にわたって塗装作業が施された後に、次の検査工程107に搬送される。
【0030】
検査工程107は、車体Bに施された塗装の品質を検査する設備である。検査工程107では、検査装置を用いて自動的に行われる検査によって色相、光沢、および平滑性(品質管理値の例)を検出するとともに、人為的な検査によってゴミの有無、はじきの有無、およびムラの有無(品質管理値の例)を決定する。人為的な検査の結果はコンピュータ(入力機器の例)に入力され、検査装置による検査結果とともに、電子データとして品質管理システム1に送出される。
【0031】
コンベアCは、搬送経路にそって車体Bを搬送可能な装置である。コンベアCには、車体Bに付された車体識別番号(個体識別情報の例)を読み取ることができる車体識別装置Dと、車体Bの移動量を検出できるエンコーダEとが設けられている。
【0032】
なお、塗装ライン100は、複数の車体Bに対して同時に塗装作業を施すことができる。たとえば図1に示した状態では、車体B1に対する検査(検査工程107)と、車体B2の乾燥(乾燥工程105)と、車体B3に対するディップ洗浄(前処理第二工程102)とが並行して行われている。
【0033】
ここで、車体Bの各個体(車体B1〜B3)が各工程を進行する様子を図2に示す。図2において、水平の破線は各設備における時間軸を表し、実線は車体Bの進行を表す。たとえば、車体Bの進行を表す実線は、前処理第一工程101および前処理第三工程103を表す破線とそれぞれ一点で交差している。これは、前処理第一工程101および前処理第三工程103において車体Bが停止せず通過することを表す。一方、車体Bの進行を表す実線は、前処理第二工程102などの他の設備を表す破線とは、それぞれ所定の区間にわたって重なっている。これは、これらの設備において車体Bが停止し、その停止している期間にわたって当該設備における塗装作業が実施されることを表す。図2中に鉛直線Vで示した時点は、図1に図示した状態に対応する。
【0034】
〔品質管理システムの構成〕
次に、本実施形態に係る品質管理システム1の構成について説明する。品質管理システム1には、入力部2、個体識別部3、状態値演算部4、記憶部5、学習部6、ユーザーインターフェース部7が備えられている(図3)。
【0035】
入力部2は、エンコーダEにより検出された移動量、前処理第一工程101で計測された温度および湿度、前処理第二工程102で計測された温度、前処理第三工程103で計測された水量および圧力、電着工程104で計測された電流値、乾燥工程105で計測された温度、上塗り塗装工程106で計測された回転数、ならびに検査工程107で検出または特定された色相、光沢、平滑性、ゴミの有無、はじきの有無、およびムラの有無を入力可能に構成されている。
【0036】
ここで、入力部2に入力される移動量、工程管理値、および品質管理値は、経時変化履歴として入力される(図4上部)。また、前述の通り塗装ライン100では複数の車体Bに対して同時に塗装作業が施されているので、入力部2に入力される情報には、複数の車体Bに係る情報が含まれている。したがって、このままでは各車体Bについての工程管理値と品質管理値とを結びつけることができない。
【0037】
個体識別部3は、入力部2に入力された移動量に基づいて、入力部2に入力された工程管理値および品質管理値を、車体Bの車体識別番号に関連付けることができるように構成されている。個体識別部3は、まず、車体識別装置Dによって識別した車体識別番号により特定される車体Bが、どの時刻にどの設備に存していたかを、移動量に基づいて特定する。図4下部には、図2と同様の態様で、車体Bが各工程を進行する様子を示した。この図のように特定される車体Bの進行状況に基づいて、車体Bが、前処理第一工程101で塗装された時刻t、前処理第二工程102で塗装された期間t、などの、各工程101〜107において作業が行われた時刻または期間t〜tが特定される。
【0038】
次に、上記のように特定された時刻または期間t〜tに基づいて、各設備において、車体識別番号により特定される車体Bに対する作業が行われていた時刻または期間を特定する。そして、上記のように特定された時刻または期間に基づいて、工程管理値および品質管理値のそれぞれと、車体識別番号とを対応させる。たとえば、車体Bが前処理第一工程101で塗装された時刻はtであるので、時刻t1における前処理第一工程101の温度T101および湿度H101を、当該車体Bの前処理第一工程101における塗装時の温度および湿度として特定する。また、車体Bが前処理第二工程102で塗装された期間tにおける前処理第二工程102の平均温度T102を、当該車体bの前処理第二工程102における塗装時の温度として特定する。なお上記の例のように、車体識別番号と関連付ける工程管理値は、計測された値そのものでもよいし、平均値を算出するなどの処理を施した値でもよい。
【0039】
状態値演算部4は、入力部2に入力された工程管理値の経時変化履歴に基づいて、車体Bの塗装状態を表す状態値を算出する演算を実施できるように構成されている。算出された状態値は、基になった工程管理値が関連付けられた車体識別番号と同一の車体識別番号に関連付けられる。
【0040】
たとえば電着工程104における電着塗装に係る塗装状態は、電着塗装装置に流れる電流値の積分値によって評価可能である。そこで状態値演算部4は、ある車体Bについての電着工程104に係る状態値として、入力部2に入力された電流値を、当該車体Bが電着塗装を施されていた期間tについて積分した積分値を算出する。期間tにおける電流値の推移の例を図6に示した。電着塗装に係る状態値は、電流値Iを、期間tの始点t41から終点t43にわたって積分した値I、すなわち電流値と時刻軸との間の領域の面積により表される。なお、図6に示した例では、期間tのうち、始点t41から中間点t42にわたる期間については第一の電流計の測定値I図6の一点鎖線)が状態値の算出に用いられ、中間点t42から終点t43わたる期間については第二の電流計の測定値I図6の二点鎖線)が状態値の算出に用いられる。このように、複数の電流計の測定値に基づいて、車体Bに流れた電流の総積分値を算出してもよい。
【0041】
また同様に、状態値演算部4は、ある車体Bについての乾燥工程105に係る状態値として、入力部2に入力された温度を、当該車体Bが乾燥されていた期間tについて積分した積分値を出力する。期間tにおける温度の推移の例を図7に示した。乾燥に係る状態値は、車体Bの温度を期間tの始点t51から終点t52にわたって積分した値T、すなわち温度値と時刻軸との間の領域の面積により表される。図7の例では、乾燥中の温度挙動が正常である例T図7の実線)と、昇温速度が平常時より遅い例T図7の破線)を示している。正常例Tと異常例Tとを比較すると、最高到達温度は同等であるが、積分値Tは異常例Tの方が小さい。この例のように、温度の測定値自体によっては検出が難しい異常であっても、状態値を参照することによりこれを検出しうる。
【0042】
記憶部5は、車体識別番号と、当該車体識別番号に対応付けられた工程管理値、状態値、および品質管理値と、の組を記憶できるように構成されている。具体的には、記憶部5には、車体識別番号をキーとして工程管理値、状態値、および品質管理値が格納されたデータベースが記憶される。
【0043】
学習部6は、記憶部5に記憶された工程管理値、状態値、および品質管理値の複数の組を用いて、工程管理値、状態値、および品質管理値の相関関係を学習できるように構成されている。学習部6における学習に用いられるアルゴリズムとしては、線形回帰、ランダムフォレスト、ベイズ、ロジステック回帰、サボートベクターマシンなどが例示される。品質管理値に影響を与えうる工程管理項目および状態値は多岐にわたるため、その相関関係を人為的に明らかにすることは現実的に困難であるが、上記のようなアルゴリズムを適用することで可能になる。このように、学習部6により工程管理値、状態値、および品質管理値に係る学習済みモデルが構築され、当該学習済みモデルは記憶部5に記憶される。
【0044】
ユーザーインターフェース部7は、使用者から品質管理システム1への入力、および、品質管理システム1から使用者への出力を担う。使用者は、ユーザーインターフェース部7を介して、記憶部5に格納されたデータベースや、学習部6による学習の結果などを閲覧できる。たとえば、使用者がユーザーインターフェース部7を通じて特定の品質管理項目を指定すると、当該品質管理項目に与える影響順位が高い工程管理項目および状態値が、ユーザーインターフェース部7を通じて出力される(図5)。
【0045】
上記に説明した品質管理システム1の各部は、公知のコンピュータおよび周辺機器を用いて実装されうる。入力部2は、各塗装設備と有線接続または無線接続されて各塗装設備からの信号を受信できる入力インターフェースとして実装されうる。個体識別部3、状態値演算部4、および学習部6における演算処理は、CPUなどの公知の演算処理装置により実行されうる。記憶部5は、ハードディスクや半導体メモリなどの公知の記憶装置として実装されうる。ユーザーインターフェース部7は、タッチパネルなどの入出力の双方が可能な装置として実装されてもよいし、キーボードやマウスなどの入力装置とディスプレイなどの出力装置との組み合わせとして実装されてもよい。
【0046】
〔変形例〕
上記の品質管理システム1には、さらに、工程管理値と、当該工程管理値に基づいて算出される状態値と、学習部6により学習された相関関係と、に基づいて、車体Bの品質に係る品質管理値を予測できるように構成された予測部が備えられていてもよい。たとえば、工程101〜104まで実施済みの車体Bに係る品質管理値は、前処理第一工程101の温度および湿度、前処理第二工程102の温度、前処理第三工程103の流量および圧力、ならびに電着工程104の電流値および当該電流値に基づく状態値、に基づいて予測されうる。また、塗装完了済の複数の車体Bに係る工程管理値の履歴に基づいて、今後塗装される車体Bに係る品質管理値を予測しうる。また、このような予測部を備える場合、予測される品質管理値が所定の警告基準を満たす場合に警報を発報するようにしてもよい。
【0047】
さらに、予測される品質管理値が所定の品質目標を満たさない場合に、当該品質目標を満たすために必要とされる各工程101〜106の運転条件の変更を提案可能に構成されていてもよい。加えて、提案された運転条件に従って各工程101〜106の運転条件を実際に変更するように構成されていてもよい。たとえば、工程101〜104まで実施済みの車体Bに係る品質管理値が品質目標を満たさないことが予測される場合に、工程105および106の運転条件を変更して品質目標を満たすことを目指すとともに、工程101〜104の運転条件を変更して後続の車体B(別個体)では品質目標が満たされるようにできる。
【0048】
予測部により予測される品質管理値に基づいて行いうる工程管理手法として、上記の例の他に、各工程101〜106に係る塗装装置の修理や交換などを提案する、塗装ライン100全体の一時停止を提案する、などの形態が例示される。予測される品質管理値を、これらに例示されるような形態で利用すると、製品ロスおよびこれに伴う時間および費用のロスを削減しうる。
【0049】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る品質管理システムおよび品質管理プログラムのその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0050】
上記の実施形態では、本発明の実施形態として、入力部2、個体識別部3、状態値演算部4、記憶部5、学習部6、ユーザーインターフェース部7が備えられた品質管理システム1について説明した。しかし、本発明は、上記の品質管理システム1と同様の機能をコンピュータに実行させる品質管理プログラムでありうる。
【0051】
上記の実施形態では、塗装設備に係る温度、湿度、水量、空気の圧力、および回転数、電着塗装装置の電流値、ならびに乾燥設備に係る温度が検出対象の工程管理値である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る品質管理システムは、上記に例示された工程管理値の他に、塗装ブースの気圧、塗料の流量、工程内粉塵量、ドア開閉頻度、塗料の粘度、塗料の不揮発分量などを工程管理値として検出対象にしうる。
【0052】
上記の実施形態では、色相、光沢、平滑性、ゴミの有無、はじきの有無、およびムラの有無が検出対象の品質管理値である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る品質管理システムは、上記に例示された品質管理値の他に、ピンホールの有無など、あらゆる塗装品質の指標を品質管理値として検出対象にしうる。
【0053】
上記の実施形態では、状態値演算部4が、電着工程104に係る状態値および乾燥工程105に係る状態値を算出する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る品質管理システムは、全工程の塗装設備状態を状態値として算出しうる。
【0054】
上記の実施形態では、ユーザーインターフェース部7が備えられ、使用者から品質管理システム1への入力、および、品質管理システム1から使用者への出力が可能に構成された品質管理システムの例について説明した。しかし、本発明に係る品質管理システムは、必ずしもユーザーインターフェース部を備えなくてもよい。本発明に係る品質管理システムがユーザーインターフェース部を備えない場合、学習部により学習された相関関係は、本発明に係る品質管理システムの外部のサーバ装置に蓄積されるなどの方法により活用されうる。
【0055】
上記の実施形態では、被塗物が車体Bである構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る品質管理システムは、任意の被塗物を塗装する塗装ラインに適用しうる。また、上記の実施形態では車体識別番号を用いて車体Bの個体を識別する構成を例示したが、本発明に係る品質管理システムは、被塗物に対応した任意の個体識別情報を用いうる。
【0056】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、たとえば自動車の車体を塗装する塗装ラインにおける品質管理システムに利用できる。
【符号の説明】
【0058】
1 :品質管理システム
2 :入力部
3 :個体識別部
4 :状態値演算部
5 :記憶部
6 :学習部
7 :ユーザーインターフェース部
100 :塗装ライン
101 :前処理第一工程
102 :前処理第二工程
103 :前処理第三工程
104 :電着工程
105 :乾燥工程
106 :上塗り塗装工程
107 :検査工程
C :コンベア
D :車体識別装置
E :エンコーダ
B :車体
【要約】
【課題】多数の工程管理項目およびその経時変化履歴と、多数の品質管理項目との相関関係を明らかにする。
【解決手段】被塗物の品質を管理可能な品質管理システム1であって、移動量、工程管理値、および品質管理値を入力可能な入力部2と、移動量に基づいて、工程管理値および品質管理値を、被塗物の個体識別情報に関連付けることができる個体識別部3と、工程管理値の経時変化履歴に基づいて、被塗物の塗装状態を表す状態値を算出する演算を実施可能な状態値演算部4と、個体識別情報、工程管理値、状態値、および品質管理値の組を記憶可能な記憶部5と、工程管理値、状態値、および品質管理値の複数の組を用いて、工程管理値、状態値、および品質管理値の相関関係を学習可能な学習部6と、が備えられている。
【選択図】図3
図1
図2
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図7