(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている除染装置においては、過酢酸除菌剤が一旦霧化されているため、バイオセーフティキャビネット内の温度及び湿度次第では、ガス状の過酢酸のみならず、ミスト状の過酢酸もバイオセーフティキャビネット内を循環する可能性がある。ミスト状の過酢酸が循環すると、たとえば、バイオセーフティキャビネット内に配置されている粒子除去用のエアフィルタ(たとえば、HEPAフィルタ)が濡れ得る。粒子除去用のエアフィルタが濡れ、粒子除去用のエアフィルタによって捕集された粉塵が水分を吸うと、エアフィルタの乾燥時に粉塵が繊維間で膜を張った状態で固まる可能性がある。その結果、エアフィルタの圧力損失が上昇し得る。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、過酢酸による粒子除去用のエアフィルタの除染時に該エアフィルタが濡れることを抑制可能な除染装置及びシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある局面に従う除染装置は、粒子除去用のエアフィルタを除染するように構成されている。この除染装置は、過酢酸を含むガスがエアフィルタに届くようにガスを放出する一方、過酢酸を含むミストを放出しないように構成されている。
【0007】
この除染装置によれば、過酢酸を含むガスがエアフィルタに向かって放出されミストが放出されないため、過酢酸を含むミストが放出される場合と比較して、エアフィルタが濡れる可能性を低減することができる。すなわち、この除染装置によれば、エアフィルタが濡れる可能性が低減するため、粒子除去用のエアフィルタによって捕集された粉塵が繊維間で膜を張った状態で固まってエアフィルタの圧力損失を上昇させる可能性を低減することができる。
【0008】
上記除染装置において、上記ガスは、過酢酸を含む薬剤を加熱することなく生成されてもよい。
【0009】
この除染装置によれば、過酢酸を含む薬剤が加熱されないため、過酢酸の分解を抑制することができる。また、この除染装置によれば、過酢酸を含む薬剤の温度が除染対象のエアフィルタが配置された空間内の温度と同程度に維持されるため、該空間内で結露が発生する可能性を抑制することができる。
【0010】
上記除染装置は、過酢酸を含む薬液を収容するように構成された過酢酸ガス発生部を備え、過酢酸ガス発生部に薬液が収容された場合に、薬液の表面積は20cm
2以上であってもよい。
【0011】
この除染装置は、過酢酸を含む薬液から過酢酸ガスを発生すればよい。過酢酸ガスの発生方法は、薬液を開口が十分広い容器に入れて過酢酸ガスを発生させる方法でもよい。また、過酢酸ガスの拡散方法は、自然拡散でも良いし、送風機によって風を当ててもよいし、たとえば、密閉容器に備え付けられた送風機によるエアの拡散であってもよい。
【0012】
上記除染装置は、過酢酸を含む薬液が染み込んだ多孔質部材を備えてもよい。
【0013】
この除染装置は、過酢酸を含む薬剤が染み込んだ多孔質部材からガスを発生させてもよい。過酢酸ガスの拡散方法は、自然拡散でも良いし、送風機によって風を当ててもよいし、たとえば、密閉容器に備え付けられた送風機によるエアの拡散であってもよい。
【0014】
上記除染装置は、内部に流体の流路が形成されており、下流側に開口部が形成された筐体と、流路上に配置された送風機とをさらに備え、上記多孔質部材は、流路上に配置されていてもよい。
【0015】
この除染装置においては、送風機が薬剤を含んだ多孔質部材に向かって送風することによって、多孔質部材から開口部に向かって過酢酸を含むガスが放出される。したがって、この除染装置によれば、過酢酸を含むガスがエアフィルタに向かって放出されるため、過酢酸を含むミストが放出される場合と比較して、エアフィルタが濡れる可能性を低減することができる。
【0016】
上記除染装置は、過酢酸を含む薬液を収容する収容体と、収容体に収容された過酢酸が蒸発することで生成されたガスに風を送るように構成された送風機とを備え、送風機によって風を送られたガスが、エアフィルタに届いてもよい。
【0017】
この除染装置においては、送風機が過酢酸を含むガスに向かって送風することによって、ガスが放出される。したがって、この除染装置によれば、過酢酸を含むガスがエアフィルタに向かって放出されるため、過酢酸を含むミストが放出される場合と比較して、エアフィルタが濡れる可能性を低減することができる。
【0018】
上記除染装置は、内部に流体の流路が形成されており、下流側に開口部が形成された筐体と、流路上に配置されており、過酢酸を含むミストを発生するように構成されたミスト発生器と、流路上においてミスト発生器よりも下流側に配置されており、ミストを吸着するように構成されたミスト吸着フィルタと、流路上に配置された送風機とを備えてもよい。
【0019】
この除染装置においては、ミスト除去フィルタによってミスト発生器において発生したミストが除去され、過酢酸を含むガスが開口部から放出される。したがって、この除染装置によれば、過酢酸を含むガスがエアフィルタに向かって放出されるため、過酢酸を含むミストがエアフィルタに放出される場合と比較して、エアフィルタが濡れる可能性を低減することができる。
【0020】
本発明の他の局面に従うシステムは、容器と、除染装置とを備える。容器は、粒子除去用のエアフィルタを保持するように構成されている。除染装置は、過酢酸を含むガスがエアフィルタに届くようにガスを容器内に放出する一方、過酢酸を含むミストを容器内に放出しないように構成されている。
【0021】
このシステムによれば、除染装置によって過酢酸を含むガスが容器内のエアフィルタに向かって放出されるため、過酢酸を含むミストが放出される場合と比較して、エアフィルタが濡れる可能性を低減することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、過酢酸による繊維状のエアフィルタの除染時に該エアフィルタが濡れることを抑制可能な除染装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0025】
[1.実施の形態1]
(1−1.システムの概要)
図1は、本実施の形態に従うシステム10の概略を説明するための図である。
図1に示されるように、システム10は、安全キャビネット100と、除染装置200とを含んでいる。
【0026】
安全キャビネット100は、バイオハザードを抑制するための箱状の実験設備である。実験者は、作業空間S1に手を挿入し、たとえば生物材料を用いた実験を行なう。安全キャビネット100においては、作業空間S1が負圧に保たれている。すなわち、安全キャビネット100においては、たとえば、作業空間S1内に配置された生物材料の実験者側への拡散が抑制されている。
【0027】
安全キャビネット100は、ファン110と、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタ120,130と、シャッタ140とを含んでいる。実験時においては、ファン110が作動することによって気流が生じ、HEPAフィルタ120を通じて清浄な空気が外部に排出されるとともに、HEPAフィルタ130を通じて清浄な空気が作業空間S1に供給される。シャッタ140は、開閉可能に構成されている。
【0028】
除染装置200は、安全キャビネット100の使用後に、安全キャビネット100内に配置されているHEPAフィルタ120,130を除染(バイオ除染)するための装置である。たとえば、除染装置200は、安全キャビネット100の使用後に作業空間S1内に配置される。除染装置200は、作業空間S1にガス状の過酢酸を放出することによって、HEPAフィルタ120,130を除染するように構成されている。除染装置200がHEPAフィルタ120,130の除染のためにガス状の過酢酸を放出する理由について次に説明する。
【0029】
仮に除染装置200によってミスト状の過酢酸が放出されると、安全キャビネット100内の湿度次第では、HEPAフィルタ120,130が濡れ得る。HEPAフィルタ120,130が濡れ、繊維状のHEPAフィルタ120,130によって捕集された粉塵が水分を吸うと、HEPAフィルタ120,130の乾燥時に粉塵が繊維間で膜を張った状態で固まる可能性がある。その結果、HEPAフィルタ120,130の圧力損失が上昇し得る。圧力損失が上昇すると、たとえば、HEPAフィルタ120,130のバーストを引き起こす可能性がある。
【0030】
そこで、システム10においては、除染装置200が作業空間S1にガス状の過酢酸のみを放出することによって、HEPAフィルタ120,130が除染される。除染装置200によれば、過酢酸を含むガスのみがHEPAフィルタ120,130に向かって放出されるため、過酢酸を含むミストが放出される場合と比較して、HEPAフィルタ120,130が濡れる可能性を低減することができる。すなわち、この除染装置200によれば、HEPAフィルタ120,130が濡れる可能性が低減するため、繊維状のHEPAフィルタ120,130によって捕集された粉塵が繊維間で膜を張った状態で固まってHEPAフィルタ120,130の圧力損失を上昇させる可能性を低減することができる。
【0031】
以下、除染装置200の構成について詳細に説明し、その後、安全キャビネット100内における除染の手順について説明する。
【0032】
(1−2.除染装置の構成)
図2は、除染装置200の正面を示す模式図である。
図3は、
図2のIII−III断面を示す模式図である。
図2及び
図3に示されるように、除染装置200は、筐体210と、トレイ220と、多孔質部材230と、ファン240とを含んでいる。
【0033】
筐体210は、内部に空洞(流体の流路)が形成された四角柱形状である。筐体210は、たとえば、樹脂又は金属で構成されている。筐体210の正面には開口部O1が形成されており、筐体210の背面には開口部O2が形成されている。トレイ220、多孔質部材230及びファン240の各々は、筐体210内に形成された流路上に配置されている。
【0034】
トレイ220は、過酢酸を含む液体状の薬剤(以下、「過酢酸系除染剤」とも称する。)を収容するように構成されている。
【0035】
多孔質部材230は、過酢酸を含む液体状の薬剤(薬液)によって湿潤されていればよい。本実施の形態においては、薬液を収容するトレイ220内に多孔質部材230を配置することによって、多孔質部材230が薬液によって湿潤されている。なお、多孔質部材230の湿潤方法はこれに限定されず、たとえば、多孔質部材230の上方から薬液をかけることによって、多孔質部材230を薬液で湿潤させてもよい。
【0036】
なお、多孔質部材230は、過酢酸を含む液体状の薬剤により湿潤し、通風により薬剤を効率良くガス化できれば、構造や部材は特に限定されない。たとえば、多孔質部材230は、織物、編み物、不織布又はフィルム等のシート状のものをひだ折り状、コルゲート状に加工することによって形成されていてもよい。珪藻土、ゼオライト等の多孔質材料が織物、編み物、不織布又はフィルム等の中に内包されていてもよい。多孔質部材230は、トレイ220内に配置されている。多孔質部材230は、毛細管現象によりトレイ220内の過酢酸系除染剤を吸い上げる。すなわち、多孔質部材230には、過酢酸系除染剤が染み込んでいる。
【0037】
ファン240は、上流側から下流側に向かう風を発生させるように構成されている。ファン240としては、公知の種々のファン(送風機)を採用することができる。ファン240は、多孔質部材230よりも上流側に配置されている。すなわち、ファン240が作動すると、多孔質部材230に向かう風が生じ、多孔質部材230から開口部O1に向かって過酢酸を含むガスのみが放出される。
【0038】
(1−3.除染手順)
図4は、除染時のシステム10の状態を示す図である。
図4に示されるように、システム10の除染時には、遮閉部材141,142によって安全キャビネット100の内部が密閉状態又は準密閉状態とされる。これにより、過酢酸ガスが安全キャビネット100の外部に漏れ出ることが抑制されるため、安全キャビネット100内のガス濃度を高めることができる。また、実験を通じて、遮閉部材141による密閉が行なわれても、除染時にHEPAフィルタ120の上方における過酢酸ガス濃度が十分に上昇することが分かっている。
【0039】
図5は、システム10における除染の手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、たとえば、安全キャビネット100の使用終了後に実験者によって実行される。
【0040】
図5を参照して、実験者は、安全キャビネット100の作業空間S1内に除染装置200を配置する(ステップS100)。実験者は、除染装置200を操作することによって、HEPAフィルタ120,130の除染を除染装置200に開始させる(ステップS110)。なお、除染装置200による除染は、タイマー設定や除染プログラムによる設定によって自動的に開始されてもよいし、除染機本体に取り付けたスイッチや、作業空間S1外に設けられたスイッチの操作に基づいて開始されてもよい。
【0041】
実験者は、除染が完了したか否かを判断し(ステップS120)、除染が完了したと判断した場合に(ステップS120においてYES)、作業空間S1から除染装置200を取り出し、処理を完了する。
【0042】
(1−4.特徴)
以上のように、除染装置200によれば、過酢酸を含むガスのみがHEPAフィルタ120,130に向かって放出されるため、過酢酸を含むミストが放出される場合と比較して、HEPAフィルタ120,130が濡れる可能性を低減することができる。すなわち、除染装置200によれば、HEPAフィルタ120,130が濡れる可能性が低減するため、繊維状のHEPAフィルタ120,130によって捕集された粉塵が繊維間で膜を張った状態で固まってHEPAフィルタ120,130の圧力損失を上昇させる可能性を低減することができる。
【0043】
特に、除染装置200においては、ファン240が多孔質部材230に向かって送風することによって、多孔質部材230から開口部O1に向かって過酢酸を含むガスのみが放出される。したがって、除染装置200によれば、過酢酸を含むガスのみがHEPAフィルタ120,130に向かって放出されるため、過酢酸を含むミストが放出される場合と比較して、HEPAフィルタ120,130が濡れる可能性を低減することができる。
【0044】
[2.実施の形態2]
上記実施の形態1においては、除染装置200によってガス状の過酢酸が放出された。本実施の形態2においては、除染装置200Aによってガス状の過酢酸が放出される。以下、実施の形態1と異なる点を中心に説明する。
【0045】
(2−1.除染装置の構成)
図6は、除染装置200Aの正面を示す模式図である。
図7は、
図6のVII−VII断面を示す模式図である。
図6及び
図7に示されるように、除染装置200Aは、筐体210Aと、ファン240Aと、ミスト発生装置250Aと、ミスト吸着フィルタ260Aとを含んでいる。
【0046】
筐体210Aは、内部に空洞(流体の流路)が形成された四角柱形状である。筐体210Aは、たとえば、樹脂又は金属で構成されている。筐体210Aの正面には開口部O1Aが形成されており、筐体210Aの背面には開口部O2Aが形成されている。ファン240A、ミスト発生装置250A及びミスト吸着フィルタ260Aの各々は、筐体210A内に形成された流路上に配置されている。
【0047】
ファン240Aは、上流側から下流側に向かう風を発生させるように構成されている。ファン240Aとしては、公知の種々のファン(送風機)を採用することができる。
【0048】
ミスト発生装置250Aは、過酢酸系除染剤を用いてミスト状の過酢酸を発生させるように構成されている。ミストの発生方式としては、たとえば、超音波霧化方式及び霧吹き方式が存在し、これらのうちいずれの方式が用いられてもよい。ミスト発生装置250Aは、ファン240Aより下流側に配置されている。すなわち、ファン240A及びミスト発生装置250Aが作動すると、ミスト発生装置250Aが発生させたミスト状の過酢酸が風に乗ってミスト吸着フィルタ260A側に向かう。
【0049】
ミスト吸着フィルタ260Aは、ミスト発生装置250Aよりも下流側に配置されており、ミスト発生装置250Aが発生させたミストを吸着するように構成されている。すなわち、除染装置200Aにおいては、ミスト吸着フィルタ260Aによってミスト発生装置250Aにおいて発生したミストが吸着、気化され、過酢酸を含むガスのみが開口部O1Aから放出される。
【0050】
(2−2.特徴)
以上のように、除染装置200Aによれば、過酢酸を含むガスのみがHEPAフィルタ120,130に向かって放出されるため、過酢酸を含むミストが放出される場合と比較して、HEPAフィルタ120,130が濡れる可能性を低減することができる。すなわち、除染装置200Aによれば、HEPAフィルタ120,130が濡れる可能性が低減するため、粒子除去用のHEPAフィルタ120,130によって捕集された粉塵が繊維間で膜を張った状態で固まってHEPAフィルタ120,130の圧力損失を上昇させる可能性を低減することができる。
【0051】
特に、除染装置200Aにおいては、ミスト吸着フィルタ260Aによってミスト発生装置250Aにおいて発生したミストが除去され、過酢酸を含むガスのみが開口部O1Aから放出される。したがって、除染装置200Aによれば、過酢酸を含むガスのみがHEPAフィルタ120,130に向かって放出されるため、過酢酸を含むミストがHEPAフィルタ120,130に放出される場合と比較して、HEPAフィルタ120,130が濡れる可能性を低減することができる。
【0052】
ミスト吸着フィルタ260Aはミストを吸着し、さらに、吸着したミストを気化させることができることがより好ましい。ミスト吸着フィルタ260Aとしては、たとえば、織物、編み物、不織布等のシート状のものをひだ折り状にしたものがある。ミスト吸着フィルタ260Aの素材としては、ガラス、樹脂、セルロースなどがあるが、強度があり、バーストに強い樹脂、セルロースが好ましい。ミスト吸着フィルタ260Aの性能としては、ULPA(Ultra Low Penetration Air)フィルタ、HEPAフィルタ、中性能フィルタが考えられるが、初期の圧力損失及びミスト付着による圧力損失の向上を考えると、中性能フィルタがより好ましい。
【0053】
なお、ミストの発生方式として超音波方式が採用される場合には、振動子が振動することによって除染剤が霧化するため、振動子により除染剤が加熱され得る。除染剤が加熱されると、過酢酸の分解が促進される。また、除染剤が加熱され安全キャビネット100内の温度が上昇し、室温と安全キャビネット100内の温度との差が大きくなると、結露の原因となる。
【0054】
[3.実施の形態3]
上記実施の形態1,2においては、それぞれ除染装置200,200Aによってガス状の過酢酸が放出された。本実施の形態3においては、除染装置200Bによってガス状の過酢酸が放出される。以下、実施の形態1,2と異なる点を中心に説明する。
【0055】
(3−1.除染装置の構成)
図8は、本実施の形態3に従う除染装置200Bの概略構成を示す図である。
図8に示されるように、除染装置200Bは、筐体210Bと、ファン240Bとを含んでいる。
【0056】
筐体210Bは、金属又は樹脂等の除染剤により腐食しない材質で構成されており、除染剤112を収容するように構成されている。除染剤は、過酢酸を含む水溶液である。筐体210Bの上方には、ファン240Bが設けられている。
【0057】
ファン240Bは、回転することによって、筐体210Bの外部から内部に向かう気流、及び、筐体210Bの内部から外部に向かう気流を生じさせるように構成されている。ファン240Bが回転することによって、除染剤が蒸発して生じた過酢酸ガスが筐体210Bの外部に放出される。除染装置200Bにおいては、除染剤が蒸発して生じた過酢酸ガスのみが筐体210Bの外部に放出されるため、過酢酸を含むミストが放出されることはない。
【0058】
(3−2.特徴)
以上のように、除染装置200Bによれば、過酢酸を含むガスのみがHEPAフィルタ120,130に向かって放出されるため、過酢酸を含むミストが放出される場合と比較して、HEPAフィルタ120,130が濡れる可能性を低減することができる。すなわち、除染装置200Aによれば、HEPAフィルタ120,130が濡れる可能性が低減するため、粒子除去用のHEPAフィルタ120,130によって捕集された粉塵が繊維間で膜を張った状態で固まってHEPAフィルタ120,130の圧力損失を上昇させる可能性を低減することができる。
【0059】
特に、除染装置200Bにおいては、除染剤が加熱されることなく過酢酸ガスが放出される。したがって、除染装置200Bによれば、除染剤の加熱によって安全キャビネット100内の温度と室温との差が大きくなることがないため、安全キャビネット100内が結露する可能性を低減することができる。
【0060】
[4.変形例]
以上、実施の形態1−3について説明したが、本発明は、上記実施の形態1−3に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。以下、変形例について説明する。但し、以下の変形例は適宜組合せ可能である。
【0061】
(4−1)
上記実施の形態1−3において、除染対象のエアフィルタは、HEPAフィルタ120,130であった。しかしながら、除染対象のエアフィルタは、これに限定されない。除染対象のエアフィルタは、たとえば、中性能フィルタであってもよいし、ULPAフィルタであってもよい。
【0062】
(4−2)
また、上記実施の形態1−3において、除染対象のエアフィルタを保持する容器は、安全キャビネット100であった。しかしながら、除染対象のエアフィルタを保持する容器は、これに限定されない。たとえば、除染対象のエアフィルタを保持する容器は、除染対象のエアフィルタを内部に収容可能な容器であればどのような容器であってもよい。また、除染対象のエアフィルタを保持する容器は、密閉されていてもよいし、準密閉状態であってもよい。すなわち、該容器の密閉度は、過酢酸ガスの漏洩によって過酢酸ガスの濃度が極端に低下しない程度であればよい。たとえば、該容器は、アイソレータ装置、培養器、遠心分離機、パスボックス、保管庫、空調機器、ダクト等であってもよい。
【0063】
(4−3)
また、上記実施の形態1−3において、過酢酸系除染剤は加熱されないことが好ましい。また、過酢酸系除染剤は発熱体に接触しないことが好ましい。過酢酸系除染剤を加熱しない方式において、除染環境の温度が低いとガスの発生量が著しく低下するため、除染環境の温度は、10℃以上であることが好ましく、15℃以上であることがより好ましい。温度を維持する場合には、除染する容器内の温度と、容器が配置された空間(部屋等)内の温度とを略同一に維持することが好ましい。一方、過酢酸系除染剤が40℃以上に加熱されると、過酢酸の分解が促進されることが知られている。すなわち、過酢酸系除染剤を40℃未満に維持することによって、過酢酸の分解を抑制することができる。また、過酢酸系除染剤の温度を室温と同程度に維持することによって、薬剤付近で結露が発生する可能性を抑制することができる。
【0064】
(4−4)
また、上記実施の形態1,2において、除染装置200,200Aは、安全キャビネット100内の湿度が所定値に達した場合に、ガス状の過酢酸の放出を停止するように構成されてもよい。すなわち、除染装置200,200Aは、安全キャビネット100内の湿度を検知する湿度センサの出力に従って、ガス状の過酢酸の放出可否を決定するように構成されていてもよい。上記所定値は、たとえば、RH95%以下である。
【0065】
(4−5)
また、上記実施の形態2において、除染装置200Aは、HEPAフィルタ260Aを含んでいた。しかしながら、除染装置200Aは、たとえば、HEPAフィルタ260Aの代わりに、中性能フィルタ又はULPAフィルタを含んでもよい。また、これらのフィルタの材質は、ガラス、化合繊、セルロース等のいずれであってもよい。
【0066】
[5.実験]
本発明の効果を確認するために、以下の実験を行なった。以下、実験内容及び実験結果について説明する。
【0067】
(5−1.実験1)
図9は、実験1における実験装置を示す模式図である。
図9を参照して、開口が275mmのダクトに、1辺が305mmのHEPAフィルタを設置した。HEPAフィルタの上方に配置された網上には内径 約50mm(面積 約20cm
2)のシャーレにMar Cor Purafication社製アクトリル(過酢酸系除菌剤)を約10ml入れたものを配置し、HEPAフィルタの下方には菌種G.stearothermophilus 菌数10
6のBI(Biological Indicator)を配置した。この状態で12時間放置し、その後、BIを回収した。回収されたBIを培養し、BIの死滅を確認した。BIが死滅し、除染が完了していることを確認できたため、HEPAフィルタの除染も完了していると推定した。本実験1を通じて、ガス状の過酢酸によって、HEPAフィルタを除染可能であることを確認できた。
【0068】
(5−2.実験2)
図10は、実験2における実験装置を示す模式図である。
図10を参照して、準密閉容器内に、HEPAフィルタ及びファンを収容するダクト、HEPAフィルタの圧力損失を測定するための圧力損失計、及び、除染装置を配置した。除染装置がミスト状の過酢酸を放出した場合には、HEPAフィルタの圧力損失が急上昇した。一方、除染装置がガス状の過酢酸を放出した場合には、HEPAフィルタの圧力が急上昇しなかった(湿度上昇に伴ない数パスカル上昇しただけであった。)。本実験2を通じて、除染装置がガス状の過酢酸を放出することで、除染対象のHEPAフィルタの圧力損失の上昇を抑制可能であることを確認できた。
【0069】
(5−3.実験3)
図11は、実験3における実験環境を示す模式図である。
図11に示されるように、実験3においては、除染装置200Bが用いられた。除染剤としては、1Lのミンケア10%希釈液が用いられた。安全キャビネット100の内部と、HEPAフィルタ120の上方との各々に3枚のBIが配置された。BIとしては、MesaLabs社のHMV−091(菌数10
6)が用いられた。除染中、除染装置200Bのファン240Bを常時稼働した状態で、安全キャビネット100の内部のファン110を5分間稼働させ、15分間停止させるという動作を繰り返した。除染時間は、除染開始から5時間であった。回収されたBIを培養し、全数のBIの死滅を確認した。BIが死滅し、除染が完了していることを確認できたため、HEPAフィルタ120,130の除染も完了していると推定した。
本発明のある局面に従う除染装置は、粒子除去用のエアフィルタを除染するように構成されている。この除染装置は、過酢酸を含むガスがエアフィルタに届くようにガスを放出する一方、過酢酸を含むミストを放出しないように構成されている。本発明の他の局面に従うシステムは、容器と、除染装置とを備える。容器は、粒子除去用のエアフィルタを保持するように構成されている。除染装置は、過酢酸を含むガスがエアフィルタに届くように、ガスを容器内に放出する一方、過酢酸を含むミストを放出しないように構成されている。