特許第6811941号(P6811941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6811941-医薬容器用ホウケイ酸ガラス 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6811941
(24)【登録日】2020年12月18日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】医薬容器用ホウケイ酸ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20201228BHJP
   A61J 1/05 20060101ALN20201228BHJP
【FI】
   C03C3/091
   !A61J1/05 311
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-529545(P2017-529545)
(86)(22)【出願日】2016年7月8日
(86)【国際出願番号】JP2016070251
(87)【国際公開番号】WO2017014066
(87)【国際公開日】20170126
【審査請求日】2019年6月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-142582(P2015-142582)
(32)【優先日】2015年7月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】西田 晋作
(72)【発明者】
【氏名】長壽 研
【審査官】 宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−037343(JP,A)
【文献】 カナダ国特許出願公開第02193999(CA,A1)
【文献】 国際公開第2014/021142(WO,A1)
【文献】 特開昭64−018939(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/035619(WO,A1)
【文献】 特開2005−154259(JP,A)
【文献】 特開平04−219342(JP,A)
【文献】 作花済夫 他,ガラスハンドブック,株式会社朝倉書店,1975年,545−548頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00−14/00
A61J1/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO、Al、B、RO(RはLi、Na及びKから選ばれる1種類以上)を必須成分として含むとともに、CaOの含有量が0〜0.5モル%未満、(NaO+KO+LiO−Al)/Bの値がモル比で0.315〜0.350、(SiO+Al+B)/(NaO+KO+LiO+CaO+MgO)の値がモル比で10〜12、BaOを実質的に含まないことを特徴とする医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項2】
SiO/B/(NaO+KO+LiO)の値が、モル比で1.6未満であることを特徴とする請求項1に記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項3】
Si/Oの値が、モル比で0.4未満となることを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項4】
EP8.0に準じた加水分解抵抗性試験の粉末試験法において、単位ガラス質量当たりの0.02mol/Lの塩酸の消費量が0.030mL以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項5】
DIN12116に準じた耐酸性試験において、面積あたりの質量減少量が1.0mg/dm以下となることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項6】
1150℃〜1250℃の作業温度を有することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項7】
104.5dPa・s以上の液相粘度を有することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラスからなることを特徴とする医薬容器用ガラス管。
【請求項9】
請求項1〜7の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラスからなることを特徴とする医薬容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイアル、アンプル等の管瓶用ガラスや注射器のシリンジに使用される医薬容器用ホウケイ酸ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
バイアル、アンプル等の医薬容器用ホウケイ酸ガラスには、下記に示すような特性が要求される。
(a)充填される薬液中の成分とガラス中の成分が反応しないこと
(b)充填される薬液を汚染しないように化学的耐久性や加水分解抵抗性が高いこと、また、それらが容器加工時の種々の熱処理後も維持されること
(c)ガラス管の製造工程や、バイアル、アンプル等への加工時に、サーマルショックによる破損が生じ難いように低熱膨張係数であること
(d)バイアル、アンプル等への加工後に、容器内面がガラスからの蒸発物などで劣化しないよう、加工時の熱量が低減できること
【0003】
これらの要求特性を満足する標準的な医薬容器用ホウケイ酸ガラスは、構成成分として、SiO、B、Al、NaO、KO、CaO、BaOと少量の清澄剤を含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−214084
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. B. Volf, Technical Approach to Glass, 1990, ELSEVIER
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、充填される薬液の開発が進み、より薬効の高い薬液が使用されつつある。これらの薬液の中には、化学的に不安定で変性しやすく、ガラスとの反応性が高いものもある。これに伴い、バイアルやアンプルを構成する医薬容器用ホウケイ酸ガラスには、従来以上に化学的耐久性や加水分解抵抗性の高いガラスが要求されている。また、ガラスがBaOを含有していると、ガラス溶融時にアルミナ系耐火物との反応によってバリウム長石結晶が析出し易くなり生産性が低下すると共に、ガラスから溶出したBaイオンが薬液中の硫酸イオンと反応して不溶性の沈殿物を発生させる恐れがある。
【0007】
このような事情から、例えば特許文献1では、BaOを含有せず加水分解抵抗性が高いガラスが提案されている。
【0008】
ところで、バイアルやアンプルなどの医薬容器は、管ガラスを局所的にバーナーで加熱して加工することで得られる。このバーナー加熱時に、ガラス中のBやNaOなどが蒸発し、医薬容器内面に凝縮し、異質層が形成される。この異質層の形成によってガラスの化学的耐久性や加水分解抵抗性が実質的に低下し、薬液の保存中や薬液充填後のオートクレーブ処理時に異質層からBやNaOなどが溶出し、薬液成分の変質や薬液のpH変化などを引き起こすという問題がある。また、容器内面が剥離し、薬液中にフレークスと言われる不溶性の異物が発生する原因にもなる。
【0009】
特許文献1では加水分解抵抗性を向上させるためにKOの添加量を調整したガラスを提案している。しかしKOは蒸発し易い。またこの構成ではBやNaOの蒸発を抑制する効果は期待できない。このため、特許文献1のガラスは、医薬容器に加工するためのバーナー加熱時にBやNaOなどが蒸発し、医薬容器内面に異質層が形成され、異質層からBやNaOなどが溶出し、薬液の変質や薬液のpH上昇を引き起こす懸念がある。さらには、薬液中にフレークスが発生する懸念がある。
【0010】
非特許文献1では、ガラス中のBやNaOなどの蒸発に伴う異質層の形成によるガラスの化学的耐久性や加水分解抵抗性の低下及び容器内面の剥離によるフレークスの発生を抑制するためには、ガラス組成の範囲を以下の範囲内とすることが重要であると述べられている。
・(NaO−Al)/Bの値がモル比で0.33〜0.40
・SiO/B/(NaO)の値がモル比で1.6未満
・Si/Oの値がモル比で0.4未満
【0011】
しかし、ガラス組成を上記の範囲内にしても、容器加工時の異質層の形成を抑制することは困難であり、容器加工時の熱処理を経た後において優れた化学的耐久性や加水分解抵抗性を維持する事は困難であった。
【0012】
本発明の目的は、BaOを含有しないガラスであって、化学的耐久性や加水分解抵抗性が良好な、且つ容器加工時の種々の熱処理後も優れた化学的耐久性や加水分解抵抗性を維持することができる医薬容器用ホウケイ酸ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は種々の実験を行い、ガラス組成から算出した(NaO+KO+LiO−Al)/Bの値を、モル比で0.315〜0.350とすれば、ガラスの化学的耐久性や加水分解抵抗性を、容器加工時の種々の熱処理後においても維持することができることを見出し、本発明を提案するに至った。
【0014】
即ち、本発明の医薬容器用ホウケイ酸ガラスは、SiO、Al、B、RO(RはLi、Na及びKから選ばれる1種類以上)を必須成分として含むとともに、CaOの含有量が0〜0.5モル%未満、(NaO+KO+LiO−Al)/Bの値がモル比で0.315〜0.350、BaOを実質的に含まないことを特徴とする。ここで「NaO+KO+LiO−Al」とは、NaO、KO及びLiOの合量からAlの含有量を引いた値である。「(NaO+KO+LiO−Al)/B」とは、(NaO+KO+LiO−Al)の値をBで除した値を意味する。「BaOを実質的に含まない」とは、BaOを積極的に添加しないという意味であり、不純物として混入するものまで排除する主旨ではない。より具体的にはBaOの含有量がモル%で0.05%以下であることを意味する。
【0015】
上記構成によれば、BaOを含有しないため、ガラス溶融時あるいは成形時にBaOとアルミナ系耐火物との反応によってバリウム長石結晶が析出しない。また、ガラスからのBaイオンの溶出が少なく、薬液中の硫酸イオンと不溶性の沈殿物を形成しにくいガラスが得られる。
【0016】
さらに容器加工のための熱処理を経た後、即ち医薬容器の形態に加工された後においても優れた化学的耐久性や加水分解抵抗性を維持することができる。
【0017】
本発明においては、SiO/B/(NaO+KO+LiO)の値が、モル比で1.6未満であることが好ましい。なお、「SiO/B/(NaO+KO+LiO)」とは、SiOの含有量をBの含有量で除した後、さらにNaO、KO及びLiOの含有量の合量で除した値である。
【0018】
上記構成によれば、ガラス管からアンプルやバイアル等のガラス容器を作製する際の加工温度を低くすることが可能となり、ガラスからのBやアルカリ金属酸化物成分の蒸発量を著しく低減できる。その結果、容器加工時の種々の熱処理後も優れた化学的耐久性や加水分解抵抗性を維持することができる。
【0019】
本発明においては、Si/Oの値が、モル比で0.4未満であることが好ましい。なお「Si/O」とは、ガラス中のSiの原子量を、酸化物の酸素原子量で除した値である。
【0020】
上記構成によれば、容器加工時の種々の熱処理後も優れた化学的耐久性や加水分解抵抗性を維持することができるだけでなく、フレークスの発生が起こりにくいガラスが得られる。
【0021】
本発明においては、EP8.0に準じた加水分解抵抗性試験の粉末試験法において、単位ガラス質量当たりの0.02mol/Lの塩酸の消費量が0.030mL以下であることが好ましい。
【0022】
本発明においては、DIN12116に準じた耐酸性試験において、面積あたりの質量減少量が1.0mg/dm以下となることが好ましい。
【0023】
本発明においては、1150℃〜1250℃の作業温度を有することが好ましい。なお「作業温度」とは、ガラスの粘度が10dPa・sとなる温度である。
【0024】
上記構成によれば、ガラス管からアンプルやバイアル等のガラス容器を作製する際の加工温度を低くすることが可能となり、ガラスからのBやアルカリ金属酸化物成分の蒸発量を著しく低減できる。その結果、ガラス容器中に保管される薬液成分の変質や薬液のpH上昇、更にはフレークスが発生する事態を回避することができる。
【0025】
本発明においては、104.5dPa・s以上の液相粘度を有することが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、ガラス管の成形にダンナー法を採用した場合でも、成形時の失透が生じ難くなり好ましい。
【0027】
本発明の医薬容器用ガラス管は、上記医薬容器用ホウケイ酸ガラスからなることを特徴とする。
【0028】
本発明の医薬容器は、上記医薬容器用ホウケイ酸ガラスからなることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例2の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の医薬容器用ホウケイ酸ガラスは、SiO、Al、B、RO(RはLi、Na及びKから選ばれる1種類以上)を必須成分として含む。
【0031】
また本発明の医薬容器用ホウケイ酸ガラスは、BaOを実質的に含まない。BaOがガラス組成中に含まれていると、前述のようにアルミナ系耐火物との反応や、薬液中の硫酸イオンとの反応によって結晶を析出させたり、沈殿物を発生させたりする恐れがある。
【0032】
また本発明の医薬容器用ホウケイ酸ガラスは、高加水分解抵抗性のガラスを得るために、モル比で(NaO+KO+LiO−Al)/Bの値が、0.315〜0.350、好ましくは0.320〜0.345、0.320〜0.340、特に0.325〜0.340未満であることが好ましい。この値が大きすぎると、NaO、KO、LiOといったアルカリ金属酸化物の含有量が多くなり,医薬容器に加工するための種々の熱処理を行うと、これらの成分のガラスからの蒸発量が増える。その結果、ガラスの化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。またB含有量が少なくなって作業温度が高くなる。その結果、加工時の種々の熱処理により、NaO、KO、LiOといったアルカリ金属酸化物が蒸発しやすくなり、化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。この値が小さすぎると、NaO、KO、LiOといったアルカリ金属酸化物含有量が少なくなり、作業温度が高くなる。その結果、医薬容器への加工時の種々の熱処理により、ガラスからNaO、KO、LiOやBが蒸発しやすくなり、化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。またB含有量が多くなるために、容器加工前の時点における化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。
【0033】
また本発明の医薬容器用ホウケイ酸ガラスは、CaOの含有量が0〜0.5モル%未満に制限される。CaOはガラスの高温粘度を低下させる効果があるが、CaO含有量が多過ぎると加水分解抵抗性が低下する。CaOの好ましい範囲は、0〜0.4モル%、特に0.1〜0.4モル%である。
【0034】
また本発明においては、モル比でSiO/B/(NaO+KO+LiO)の値が、1.6未満、さらには0.5〜1.4未満、特に1.0〜1.2未満であることが好ましい。この値が大きすぎるとガラスが失透し易くなり生産性が低下する。この値が小さすぎると、化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。
【0035】
また本発明においては、高加水分解抵抗性のガラスを得るために、モル比でSi/Oの値が、0.4未満、より好ましくは0.1〜0.4%未満、特に0.3〜0.39%未満であることが好ましい。この値が大きすぎると、作業温度が高くなり、加工時の種々の熱処理により、NaO、KO、LiOやBが蒸発しやすくなり、化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。また、フレークスが発生しやすくなる。
【0036】
また本発明においては、ガラスの酸性度を表す(SiO+Al+B)/(NaO+KO+LiO+CaO+MgO)の値が、モル比で、10〜12、特に10.5〜12であることが好ましい。この値が大きすぎると作業温度が高くなり加工時の種々の熱処理により、NaO、KO、LiOやBが蒸発し易くなり、化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。この値が小さすぎると容器加工前の時点における化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。なお「(SiO+Al+B)/(NaO+KO+LiO+CaO+MgO)」とは、SiO、Al及びBの含有量の合量を、NaO、KO、LiO、CaO及びMgOの含有量の合量で除した値である。
【0037】
また本発明においては、Al/SiOの値が、モル比で0.053〜0.059、0.054〜0.058、特に0.055〜0.059であることが好ましい。この値が小さすぎると液相温度が高くなり、成形時に失透し易くなる。またこの値が大きくなり過ぎると作業温度が高くなる。その結果、加工時の種々の熱処理により、NaO、KO、LiOやBが蒸発し易くなり、化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。なお「Al/SiO」とは、Alの含有量をSiOの含有量で除した値である。
【0038】
また本発明の医薬容器用ホウケイ酸ガラスは、上記条件を満たすものであればその組成は制限されないが、例えばガラス組成として、モル%でSiO 75〜80%、Al 3〜6%、B 8〜12%、NaO 2〜8%、KO 0〜5%、LiO 0〜0.2%未満、CaO 0〜0.5%未満であり、且つBaOを実質的に含まないガラスを採用することができる。
【0039】
以下、各成分の組成範囲を上記のように限定した理由を述べる。なお以下の説明において、特に断りがない限り、%表示はモル%を意味する。
【0040】
SiOはガラスネットワークを構成する成分の1つである。SiOの含有量は75〜80%、76〜80%、特に76.5〜79%であることが好ましい。SiOの含有量が少な過ぎると化学的耐久性が低下し、医薬容器用ホウケイ酸ガラスに求められる耐酸性が低くなる。一方、SiOの含有量が多過ぎると液相粘度が低下し、製造工程で失透が起こりやすくなって生産性が低下する。また、作業温度が高くなる。
【0041】
Alはガラスの失透を抑制し、また化学的耐久性及び加水分解抵抗性を向上させる成分である。Alの含有量は3〜6%、3〜5.5%、3〜5%、特に3.5〜5%であることが好ましい。Alの含有量が少な過ぎると上記の効果が得られない。一方、Alの含有量が多過ぎると作業温度が高くなる。
【0042】
はガラスの融点を低下させるだけでなく、液相粘度を上昇させ、失透を抑制する効果を有する。そのため、Bの含有量は8〜12%、8〜11.5%、8〜11%、特に8.5〜11%であることが好ましい。Bの含有量が少な過ぎると作業温度が高くなる。一方、Bの含有量が多過ぎると加水分解抵抗性や化学的耐久性が低下する。
【0043】
NaOはガラスの粘度を低下させ、線熱膨張係数を上昇させる効果がある。NaOの含有量は2〜8%、3〜8%、4〜7%、特に5〜7%であることが好ましい。NaOの含有量が少なすぎると作業温度が高くなる。一方、NaOの含有量が多過ぎると加水分解抵抗性が低下する。
【0044】
OもNaOと同様にガラスの粘度を低下させ、線熱膨張係数を上昇させる効果がある。KOの含有量は0〜5%、0.5〜4%、特に0.5〜3%であることが好ましい。KOの含有量が多過ぎると加水分解抵抗性が低下する。
【0045】
なおKOとNaOの両成分を併用すれば、混合アルカリ効果により、加水分解抵抗性が向上するため、望ましい。
【0046】
LiOはNaOやKOと同様にガラスの粘度を低下させ、また線熱膨張係数を上昇させる効果がある。しかしLiOを添加するとガラス溶融時に耐火物を侵食し易くなる。またLiOを添加すると生産コストの増加に繋がる。そのためLiOの含有量は0〜0.2%未満、0〜0.1%、0〜0.05%、特に0〜0.01%とすることが好ましく、特段の事情がなければLiO以外の他のアルカリ金属酸化物を使用することが望ましい。
【0047】
CaO含有量は、0〜0.5%である。CaOの含有量の限定理由及び好適な範囲については既に述べた通りである。
【0048】
また本発明においては、上記以外にも種々の成分を添加することが可能である。
【0049】
MgOは化学的耐久性向上の効果がある。MgOの含有量は、好ましくは0〜4%未満、0〜2%、特に0〜1%である。MgOの含有量が多すぎると加水分解抵抗性が低下する。
【0050】
SrOは化学的耐久性向上の効果がある。SrOの含有量は、好ましくは0〜4%未満、0〜2%、特に0〜1%である。SrOの含有量が多すぎると加水分解抵抗性が低下する。
【0051】
TiOは加水分解抵抗性を向上させる効果がある。TiOの含有量は0〜5%未満、0〜4%、特に0〜1.5%であることが好ましい。TiOの含有量が多すぎると作業温度が高くなる。
【0052】
ZrOは加水分解抵抗性を向上させる効果がある。ZrOの含有量は0〜5%未満、0〜4%、特に0〜1.5%であることが好ましい。ZrOの含有量が多すぎると作業温度が高くなる。
【0053】
Feは、ガラスを着色させ可視域での透過率を低下させる恐れがあるため、その含有量は0.2%以下、0.1%以下、特には0.02%以下に制限することが望ましい。
【0054】
また清澄剤としてF、Cl、Sb、SnO、NaSO等を一種以上含有しても良い。これらの清澄剤の含有量の合計は0.5%以下、0.4%以下、特に0.3%以下であることが好ましい。またこれらの清澄剤の中では、溶融温度や環境への影響が少ないという理由からClやSnOを使用することが好ましい。Clを使用する場合、その含有量は0.5%以下、0.4%以下、特に0.2%以下であることが好ましい。SnOを使用する場合、その含有量は0.5%以下0.4%以下、特に0.01〜0.3%であることが好ましい。
【0055】
また本発明の医薬容器用ホウケイ酸ガラスは、以下の特性を有することが好ましい。
【0056】
EP8.0に準じた加水分解抵抗性試験の粉末試験法において、単位ガラス質量当たりの0.02mol/Lの塩酸の消費量は、好ましくは0.030mL以下、0.028mL以下、0.026mL以下、特に0.025mL以下である。塩酸消費量が多すぎると、アンプルやバイアルなどの医薬容器を作製し、薬液を充填、保存した際、ガラス成分、特にアルカリ成分の溶出が大幅に増加して薬液成分の変質を引き起こす恐れがある。
【0057】
DIN12116に準じた耐酸性試験において、単位面積あたりの質量減少量は、好ましくは1.0mg/dm以下、特に0.8mg/dm以下である。質量減少量が多くなると、アンプルやバイアルなどの医薬容器を作製し、薬液を充填、保存した際、ガラス成分の溶出量が大幅に増加して薬液成分の変質を引き起こす恐れがある。
【0058】
作業温度は1250℃以下、1150℃〜1250℃、より好ましくは1150℃〜1240℃、特に1160℃〜1230℃である。作業温度が高すぎると、ガラス管からアンプルやバイアル等のガラス容器を作製する際の加工温度が高くなり、ガラス中のBやNaOの蒸発量が著しく増加する。蒸発したこれらの成分はガラス容器の内表面に付着し、薬液の保存中や薬液充填後のオートクレーブ処理時に溶出し、薬液成分の変質や薬液のpH上昇などを引き起こす原因となる。
【0059】
液相粘度は、好ましくは104.5dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.2dPa・s以上、105.4dPa・s以上、特に105.6dPa・s以上である。液相粘度が低くなると、ダンナー法によるガラス管成形時に失透が起こり易くなり、生産性が低下する。
【0060】
線熱膨張係数はガラスの耐熱衝撃性において重要なパラメータである。ガラスが十分な耐熱衝撃性を得るためには、30〜380℃の温度範囲における線熱膨張係数は、好ましくは58×10−7/℃以下、特に48〜55×10−7/℃である。
【0061】
次に本発明の医薬容器用ガラス管を製造する方法を説明する。以下の説明は、ダンナー法を用いた例である。
【0062】
先ず、上記のガラス組成になるように、ガラス原料を調合してガラスバッチを作製する。次いで、このガラスバッチを1550〜1700℃の溶融窯に連続投入して溶融、清澄した後、得られた溶融ガラスを回転する耐火物上に巻きつけながら、耐火物先端部からエアを吹き出しつつ、当該先端部からガラスを管状に引き出す。引き出した管状ガラスを所定の長さに切断して医薬容器用ガラス管を得る。このようにして得られたガラス管は、バイアルやアンプル等の医薬容器の製造に供される。
【0063】
なお、本発明の医薬容器用ガラス管は、ダンナー法に限らず、従来周知の任意の手法を用いて製造しても良い。例えば、ベロー法やダウンドロー法も本発明の医薬容器用ガラス管の製造方法として有効な方法である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
(実施例1)
表1は本発明の実施例(試料No.1〜4)、及び比較例(試料No.5、6)を示している。
【0065】
【表1】
【0066】
各試料は以下のようにして調製した。
【0067】
まず表に示す組成となるように、ガラス建て500gのバッチを調合し、白金坩堝を用いて1650℃で4時間溶融した。なお融液中の泡を除去するために、溶融中に攪拌を2回行った。溶融後、インゴットを作製し、測定に必要な形状に加工し、各種の評価に供した。
【0068】
表1から明らかなように、試料No.1〜4は、(NaO+KO+LiO−Al)/Bの値が本発明の範囲内にあり、耐加水分解抵抗性が高かった。また、ガラス組成中にSnを含むNo.1、3、4について、加水分解抵抗性試験によるSnの溶出を評価したところ、何れの試料もSn溶出量は検出下限未満であった。
【0069】
一方、比較例である試料No.5は、(NaO+KO+LiO−Al)/Bの値が大きすぎるため、耐加水分解抵抗性が低かった。また試料No.6は(NaO+KO+LiO−Al)/Bの値が小さすぎるため、作業温度が高かった。
【0070】
なお線熱膨張係数の測定は、約5mmφ×50mmのロッド状に成形したガラス試料を用い、ディラートメーターにより、30〜380℃の温度範囲において行った。
【0071】
歪点、徐冷点及び軟化点の測定はファイバーエロンゲーション法で行った。
【0072】
作業温度は、白金球引き上げ法によって求めた高温粘度とFulcherの粘度計算式からガラスの粘度曲線を求め、この粘度曲線から10dPa・sに相当する温度を求めた。
【0073】
液相温度の測定は、約120×20×10mmの白金ボートに粉砕したガラス試料を充填し、線形の温度勾配を有する電気炉に24時間投入した。その後、顕微鏡観察にて結晶析出箇所を特定し、結晶析出箇所に対応する温度を電気炉の温度勾配グラフから算出し、この温度を液相温度とした。
【0074】
液相粘度の算出は、歪点、徐冷点、軟化点、作業温度とFulcherの粘度計算式からガラスの粘度曲線を求め、この粘度曲線から液相温度におけるガラスの粘度を算出し、この粘度を液相粘度とした。
【0075】
加水分解抵抗性試験は、アルミナ製の乳鉢と乳棒を用いて試料を粉砕し、EP8.0の粉末試験法に準じた方法で行った。詳細な試験手順は以下の通りである。試料の表面をエタノールで良く拭き、アルミナ製の乳鉢と乳棒で試料を粉砕した後、ステンレス製の目開き710μm、425μm、300μmの3つの篩を用いて分級した。篩に残ったものは再度粉砕し、同じ篩操作を行い、300μmの篩上に残った試料粉末を純水で洗浄し、ビーカー等のガラス容器に投入した。その後、エタノールを入れてかき混ぜ、超音波洗浄機で1分間洗浄した後、上澄み液だけを流し出す操作を6回行った。その後、110℃のオーブンで30分間乾燥させ、デシケーター内で30分間冷却した。得られた試料粉末を、電子天秤を用いて10g精度±0.0001gで秤量し、250mLの石英フラスコに入れ、超純水50mLを加えた。密栓後、フラスコをオートクレーブに入れて121℃、30分間保持した。100℃から121℃までは1℃/分で昇温し、121℃から100℃までは2℃/分で降温した。95℃まで冷却後、試料をコニカルビーカーに取り出した。30mLの超純水でフラスコ内を洗浄し、コニカルビーカーに流し入れる操作を3回行った。試験後の液にメチルレッドを約0.05mL滴下後、0.02mol/Lの塩酸で中和滴定を行い、塩酸の消費量を記録し、試料ガラス1gあたりの塩酸消費量を算出した。この値が小さいほど加水分解抵抗性が高いことになる。
【0076】
耐酸性試験は、試料表面積を50cm、溶出液である6mol/Lの塩酸の液量を800mLとし、DIN12116に準じて行った。詳細な試験手順は以下の通りである。まず全ての表面を鏡面研磨仕上げとした総表面積が50cmのガラス試料片を準備し、前処理として試料をフッ酸(40質量%)と塩酸(2mol/L)を体積比で1:9となるように混合した溶液に浸漬し、10分間マグネティックスターラーで攪拌した。次いで試料片を取出し、超純水中で2分間の超音波洗浄を3回行った後、エタノール中で1分間の超音波洗浄を2回行った。次に、試料片を110℃のオーブンの中で1時間乾燥させ、デシケーター内で30分間冷却した。このようにして得られた試料片の質量mを精度±0.1mgまで測定し、記録した。続いて石英ガラス製のビーカーに6mol/Lの塩酸800mLを入れ、電熱器を用いて沸騰するまで加熱し、白金線で吊した試料片を投入して6時間保持した。試験中の液量の減少を防ぐために、容器の蓋の開口部はガスケット及び冷却管で栓をした。その後、試料片を取り出し、超純水中で2分間の超音波洗浄を3回行った後、エタノール中で1分間の超音波洗浄を2回行った。さらに洗浄した試料片を110℃のオーブンの中で1時間乾燥し、デシケーター内で30分間冷却した。このようにして処理した試料の質量片mを精度±0.1mgまで測定し、記録した。最後に沸騰塩酸に投入する前後の試料の質量m、mmgと試料の総表面積Acmから以下の式1によって単位面積当たりの質量減少量を算出し、耐酸性試験の測定値とした。
【0077】
[式1] 単位面積当たりの質量減少量=100×(m−m)/2×A
【0078】
Snの溶出量は、加水分解抵抗性試験後の試験液について、ICP発光分析装置(バリアン製)にて分析を行った。詳細な試験手順は以下の通りである。加水分解抵抗性試験後の試験溶液をメンブランフィルターでろ過して遠沈管に採取した。Sn含有量が0mg/L、0.05mg/L、0.5mg/L、1.0mg/Lとなるように、Sn標準液(和光純薬工業製)を希釈して、標準溶液を作製した。それらの標準溶液から検量線を作成し、試験液中のSn溶出量を算出した。Snの測定波長は189.925nmとした。
(実施例2)
次に、熱処理後の加水分解抵抗性について評価した。表2は、表1の試料No.1、5、6を用いて評価した結果を示している。
【0079】
【表2】
【0080】
試料No.1、5、6は、実施例1と同様の方法で作製した。次にインゴット状の各試料を電気炉内で600℃又は900℃でそれぞれ5時間熱処理を行った。尚、600℃、900℃は医薬容器加工時の種々の熱処理温度を想定している。熱処理前後の試料について、加水分解抵抗性試験を実施し、得られた溶出液中のNa、K、Ca2+の溶出量を測定した。Na、K、Ca2+の溶出量が少ないほど、加水分解抵抗性が高い事を意味している。図1に評価結果を示す。試料No.5、6は熱処理と共にNa、K、Ca2+の溶出量が増加し、加水分解抵抗性が低下したが、試料No.1は、熱処理に伴うNa、K、Ca2+の溶出量の変化が小さく、優れた加水分解抵抗性が維持されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の医薬容器用ホウケイ酸ガラスは、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、カートリッジなど様々な医薬容器用材料として好適に使用できる。
図1