(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セルロースナノファイバーを含有する水溶液から、セルロースナノファイバーと結合可能かつ水に不溶な回収物質を用いてセルロースナノファイバーを回収する方法であって、
前記水溶液に前記回収物質を混合して混合溶液を形成し、
該混合溶液を前記回収物質の融点よりも高温の状態から該回収物質の融点以下まで冷却する方法であり、
前記回収物質は、
融点が大気圧下で20℃〜80℃であり、
セルロースナノファイバーと結合し得る親水部と水に不溶性の疎水部の両方を有しており、前記水溶液に混合して形成した混合溶液中で液滴状を形成する物質である
ことを特徴とするナノファイバー回収方法。
前記回収物質が、1−ドデカノール、1−トリデカノール、イソトリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、1−オクタデシルアルコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、1−ヘキサデカン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、エルカ酸、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、1−アミノオクタデカン、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、ウンデセン酸、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、トリパルミチン、からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物を含む
ことを特徴とする請求項1または2記載のナノファイバー回収方法。
前記回収物質が、1−ドデカノール、1−トリデカノール、イソトリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、1−オクタデシルアルコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、1−ヘキサデカン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、エルカ酸、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、ウンデセン酸、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、トリパルミチン、からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物を含む
ことを特徴とする請求項4記載のナノファイバー含有材。
セルロースナノファイバーを含有する水溶液から、セルロースナノファイバーと結合可能かつ水に不溶な回収物質を含有するセルロースナノファイバー含有材を製造する方法であって、
前記回収物質は、
融点が大気圧下で20℃〜80℃であり、
セルロースナノファイバーと結合し得る親水部と水に不溶性の疎水部の両方を有しており、前記水溶液に混合して形成した混合溶液中で液滴状を形成し、
該混合溶液を前記回収物質の融点よりも高温の状態から該回収物質の融点以下まで冷却する
ことを特徴とするナノファイバー含有材の製造方法。
前記回収物質が、1−ドデカノール、1−トリデカノール、イソトリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、1−オクタデシルアルコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、1−ヘキサデカン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、エルカ酸、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、1−アミノオクタデカン、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、ウンデセン酸、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、トリパルミチン、からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物を含む
ことを特徴とする請求項6、7または8記載のナノファイバー含有材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、CNFは水溶媒中に分散した状態で提供されるのが一般的である。これは、CNF製造の段階で水を使用すること、および、CNFは親水性が高く水分を分離することが困難だからである。したがって、CNFを製造現場から加工工場に運搬する場合に、大量の水分とともにCNFを運搬しなければならず、多大な運送コストとエネルギーが必要となる。
【0007】
CNFを加熱乾燥して脱水すれば、CNFの水分を減少させることができる可能性はある。しかし、加熱乾燥のために多大なエネルギーを必要とするし、加熱乾燥の段階でCNFが変質してしまう可能性もあるという問題がある。
【0008】
また、アクリルやメタクリルポリマー(PMMA)等のポリマー原料には、高疎水性、高粘性のものも多い。このため、ポリマー原料と水を多く含む親水性のCNFを混合して均一分散させることは難しい。均一に分散させようとすれば、強い機械的剪断力を加えて混錬しなければならず、多大なエネルギーが必要になる。CNFを疎水性に改質すれば均一分散はさせやすくなるが、改質のために試薬を使用しなければならず、改質に多大なコストが発生する。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、ナノファイバーを含有するスラリーなどの懸濁液や、ナノファイバーを含有するコロイド状液等の水分量を減少させて簡便にナノファイバーを回収できるナノファイバー回収方法を提供する。
また、本発明は、運搬が容易でありポリマー等への混合に適したナノファイバー含有材およびナノファイバー含有材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(ナノファイバー回収方法)
第1発明のナノファイバー回収方法は、セルロースナノファイバーを含有する水溶液から、セルロースナノファイバーと結合可能かつ水に不溶な回収物質を用いてセルロースナノファイバーを回収する方法であって、前記水溶液に前記回収物質を混合して混合溶液を形成し、該混合溶液を前記回収物質の融点よりも高温の状態から該回収物質の融点以下まで冷却する方法であり、前記回収物質は、融点が大気圧下で20℃〜80℃であり、セルロースナノファイバーと結合し得る親水部と水に不溶性の疎水部の両方を有しており、前記水溶液に混合して形成した混合溶液中で液滴状を形成する物質であることを特徴とする。
第2発明のナノファイバー回収方法は、第1発明において、前記親水部は、前記セルロースナノファイバーのセルロース水酸基と水素結合する官能基を1種または2種以上有しており、該官能基が、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、アミド基、エステル(アルコシカルボニル基)のいずれかであることを特徴とする。
第3発明のナノファイバー回収方法は、第1または第2発明において、前記回収物質が、1−ドデカノール、1−トリデカノール、イソトリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、1−オクタデシルアルコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、1−ヘキサデカン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、エルカ酸、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、1−アミノオクタデカン、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、ウンデセン酸、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、トリパルミチン、からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物を含むことを特徴とする。
(ナノファイバー含有材)
第4発明のナノファイバー含有材は、セルロースナノファイバーと、セルロースナノファイバーと分子間相互作用により結合可能かつ水に不溶な回収物質と、を含有し、該回収物質は、セルロースナノファイバーと結合し得る親水部と水に不溶性の疎水部の両方を有しており、融点が大気圧下で20℃〜80℃であ
り、前記親水部は、前記セルロースナノファイバーのセルロース水酸基と水素結合する官能基を1種または2種以上有しており、該官能基が、水酸基、カルボキシ基、アミド基、エステル(アルコシカルボニル基)のいずれかであることを特徴とする。
第
5発明のナノファイバー含有材は、第
4発明において、前記回収物質が、1−ドデカノール、1−トリデカノール、イソトリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、1−オクタデシルアルコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、1−ヘキサデカン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、エルカ
酸、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、ウンデセン酸、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、トリパルミチン、からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物を含むことを特徴とする。
(ナノファイバー含有材の製造方法)
第
6発明のナノファイバー含有材の製造方法は、セルロースナノファイバーを含有する水溶液から、セルロースナノファイバーと結合可能かつ水に不溶な回収物質を含有するセルロースナノファイバー含有材を製造する方法であって、前記回収物質は、融点が大気圧下で20℃〜80℃であり、セルロースナノファイバーと結合し得る親水部と水に不溶性の疎水部の両方を有しており、前記水溶液に混合して形成した混合溶液中で液滴状を形成し、該混合溶液を前記回収物質の融点よりも高温の状態から該回収物質の融点以下まで冷却することを特徴とする。
第
7発明のナノファイバー含有材の製造方法は、第
6発明において、前記親水部は、前記セルロースナノファイバーのセルロース水酸基と水素結合する官能基を1種または2種以上有しており、該官能基が、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、アミド基、エステル(アルコシカルボニル基)のいずれかであることを特徴とする。
第
8発明のナノファイバー含有材の製造方法は、第
6または第
7発明において、前記混合溶液を加圧または減圧することを特徴とする。
第
9発明のナノファイバー含有材の製造方法は、第
6、第
7または第
8発明において、前記回収物質が、1−ドデカノール、1−トリデカノール、イソトリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、1−オクタデシルアルコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、1−ヘキサデカン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、エルカ酸、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、1−アミノオクタデカン、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、ウンデセン酸、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、トリパルミチン、からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
(ナノファイバー回収方法)
第1発明によれば、水溶液に回収物質を混合すれば、回収物質にセルロースナノファイバーを結合させることができる。そして、混合溶液を回収物質の融点以下まで冷却すれば、固化した回収物質とともにセルロースナノファイバーを回収することができる。しかも、回収物質を固化させた状態で、回収物質とともにセルロースナノファイバーが凝集した凝集物を水溶液から回収するので、セルロースナノファイバーを簡単に水と分離して回収することができる。また、上記のような凝集物を回収しているので、回収物質とともにセルロースナノファイバーを脱水することができる。したがって、セルロースナノファイバーを含有する材料(回収物)の水分率を少なくできるので、セルロースナノファイバーを含有する材料を軽量コンパクトにでき、運送などが容易になり運送コストも低減できる。
第2発明によれば、回収物質にセルロースナノファイバーを適切に結合させることができる。
第3発明によれば、回収物質が室温付近に融点を有する所定の化合物を含んでいるので、容易に固化と液化を切り替えることができる。したがって、セルロースナノファイバーの回収が容易になる。しかも、セルロースナノファイバーのようにファイバー間の溶媒除去過程で生じる強固な水素結合を、回収物質の親水部の効果で弱めることができるので、セルロースナノファイバー同士の凝集を抑えることができる。
(ナノファイバー含有材)
第4発明によれば、疎水性の材料にそのまま添加して使用することができるので、セルロースナノファイバーを様々な分野で使用できるようになる。
また、セルロースナノファイバーと回収物質が適切に結合しているので、疎水性の材料により適切に添加しやすくなる。
第
5発明によれば、回収物質が所定の化合物を含んでいるので、疎水性の材料にさらにより適切に添加しやすくなる。
(ナノファイバー含有材の製造方法)
第
6発明によれば、水溶液に回収物質を混合すれば、回収物質にセルロースナノファイバーを結合させることができる。そして、混合溶液を回収物質の融点以下まで冷却すれば、固化した回収物質とセルロースナノファイバーを含有するセルロースナノファイバー含有材を回収することができる。しかも、回収物質を固化させた状態で、回収物質とセルロースナノファイバーが凝集した凝集物として、セルロースナノファイバー含有材を水溶液から回収するので、セルロースナノファイバーの含水率を低下させた状態のセルロースナノファイバー含有材を製造することができる。また、上記のような凝集物としてセルロースナノファイバー含有材を回収しているので、セルロースナノファイバー含有材を脱水することができる。したがって、セルロースナノファイバー含有材の水分率を少なくできるので、セルロースナノファイバー含有材を軽量コンパクトにでき、運送などが容易になり運送コストも低減できる。
第
7発明によれば、回収物質にセルロースナノファイバーを適切に結合させることができる。
第
8発明によれば、混合溶液を加圧または減圧するので、回収物質の沸点や融点をコントロールできる。すると、ナノファイバーに適した回収物質を使用できるので、ナノファイバー含有材の回収効率を高くすることができる。
第
9発明によれば、回収物質が室温付近に融点を有する所定の化合物を含んでいるので、容易に固化と液化を切り替えることができる。したがって、セルロースナノファイバー含有材の回収が容易になる。しかも、セルロースナノファイバーのようにファイバー間の溶媒除去過程で生じる強固な水素結合を、回収物質の親水部の効果で弱めることが出来るので、セルロースナノファイバー含有材に含まれるナノファイバー同士の凝集を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のナノファイバー回収方法は、ナノファイバーが分散している水溶液(ナノファイバー含有液)からナノファイバーを回収する方法であって、含水率を低下させた状態でナノファイバーを回収することができることに特徴を有している。
【0014】
本発明のナノファイバー回収方法によって回収されるナノファイバー(以下単にナノファイバーという場合がある)は、水と結合する性質を有するものである。例えば、セルロースナノファイバーのように水酸基を有していれば、この水酸基によって水と結合する。
かかるナノファイバーは、一般的に、「直径(繊維幅)が1〜100nmであって、長さ(繊維長)が直径の100倍以上の繊維状物質」と定義されるものである。
かかるナノファイバーは、種々の素材から製造される。例えば、植物由来のナノファイバーは、セルロース、アガロースなど(原料:木材、草、綿花など)から製造することができる。また、動物由来のナノファイバーは、キチン、キトサン、ケラチン、コラーゲンなど(原料:カニ殻、羊毛など)から製造することができる。さらに、人工ポリマー、カーボンナノファイバー、グラフェンなどの人工物からもナノファイバーを製造することができる。
また、上述したような素材からナノファイバーを製造する製法もとくに限定されない。例えば、電界紡糸法、物理的衝撃法、凍結乾燥法、気相成長法などの方法によって、所定の繊維幅や繊維長を有するナノファイバーを製造することができる。
本発明のナノファイバー回収方法によって回収されるナノファイバーの一例として、セルロースナノファイバーがある。このセルロースナノファイバーは、繊維幅が数〜数十nm、繊維長が数百nmの微小繊維である植物起因のセルロースをナノ化処理(機械的解繊やTEMPO触媒酸化など)したものである。かかるセルロースナノファイバーの製造方法は種々の方法で製造される。例えば、上述した機械的解繊やTEMPO触媒酸化などの方法によって製造することができる。
【0015】
本発明のナノファイバー回収方法によってナノファイバーを回収するナノファイバー含有液は、上述したようなナノファイバーが水に分散した水溶液であり、ナノファイバーを含有するスラリーなどの懸濁液や、ナノファイバーを含有するコロイド状液等が該当する。例えば、セルロースを機械的解繊する際には水が供給されるので、水にセルロースナノファイバーが分散した水溶液が得られる。この水溶液をそのままナノファイバー含有液として使用することができる。また、前記水溶液は粘性が高い(どろどろした状態)ので、このナノファイバー含有液に水を添加してセルロースナノファイバーの分散性や流動性を高めて(言い換えれば粘性を低くして)から、本発明のナノファイバー回収方法を適用してもよい。
【0016】
また、ナノファイバー含有液のナノファイバーの濃度は、とくに限定されない。ナノファイバー含有液中のナノファイバーが十分に分散し、かつ、後述する回収物質をナノファイバー含有液に混合できる状態になっていればよい。例えば、ナノファイバー含有液のナノファイバーの濃度は、0.1重量%以上10重量%以下であればよく、とくに限定されない。とくに、1重量%以上3重量%以下であれば、回収物質とナノファイバーを均一分散させやすくなるという点で好ましい。なお、ナノファイバー含有液の粘度は、ナノファイバーの濃度にほぼ比例するので、ナノファイバーの濃度が低下すると粘度は低下し、ナノファイバーの濃度が高くなると粘度も高くなる。
【0017】
さらに、ナノファイバー含有液は、ナノファイバーが水に分散した水溶液であるが、本明細書において、水溶液とは、溶媒が水のみからなるものだけでなく、他の溶媒を含有するものも含む概念である。例えば、水に、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等が含まれているものも、本明細書における水溶液に該当する。また、水以外の溶媒の含有割合は、水溶液において水の割合よりも少なければよく、とくに限定されない。例えば、水と他の溶媒の割合が、50:50〜99:1程度の場合が本明細書における水溶液に該当する。
【0018】
(本発明のナノファイバーの回収方法)
本発明のナノファイバーの回収方法は、上述したようなナノファイバー含有液からナノファイバーを回収する方法であり、ナノファイバーと結合可能かつ水に不溶な回収物質を使用してナノファイバーを回収する。具体的には、ナノファイバーを回収物質と結合させることによって、ナノファイバーを水から分離して、水分含有率の少ない状態のナノファイバーを回収する。
【0019】
以下、本発明のナノファイバーの回収方法を
図1に基づいて説明するが、以下では、回収物質としてドデカノールを使用した場合を代表として説明する。
【0020】
まず、ナノファイバー含有液を所定の温度に調整する。具体的には、ドデカノールの融点(24℃)よりも高い温度となるように、ナノファイバー含有液の温度を調整する。
【0021】
ついで、所定の温度に調整されたナノファイバー含有液に対して、液体状のドデカノールを混合して攪拌する。すると、液体状態のドデカノールはナノファイバー含有液中に容易に均一分散される。ドデカノールは水に不溶であるので、ナノファイバー含有液の液中では、ドデカノールの液滴が水中に浮遊した状態となる。
【0022】
ここで、ドデカノールは多数の水酸基を有しているので、ドデカノールをナノファイバー含有液中に均一に分散させている間に、ナノファイバー含有液中に分散しているナノファイバーとドデカノールが結合する。例えば、ナノファイバーがセルロースナノファイバー等のように水酸基を有していれば、ナノファイバーの水酸基とドデカノールの水酸基が結合する。すると、ドデカノールの液滴の周囲にナノファイバーが付着したような状態となる。つまり、ドデカノールの液滴の表面に、ナノファイバーが濃縮された状態となる。
【0023】
ナノファイバー含有液にドデカノールを混合してから一定期間攪拌すると、ナノファイバー含有液の温度を低下させる。具体的には、ドデカノールの融点(24℃)よりも低い温度となるように、ナノファイバー含有液の温度を調整する。すると、ドデカノールは液体の状態から固体(ゲル状)の状態になる。このとき、ドデカノールはナノファイバーと結合したまま固化するので、固体となったドデカノールの周囲にナノファイバーが凝集した凝集物が形成される。
【0024】
ドデカノール(比重0.83g・mL
−1)は水よりも比重が小さいので、凝集物に含まれるドデカノールの量にも依存するが、凝集物はナノファイバー含有液の液面に浮かび上がってくる。したがって、ナノファイバー含有液の液面に浮かんでいる凝集物を網などによって捕集すれば、ナノファイバーを回収することができる。
【0025】
以上のように、本発明のナノファイバーの回収方法を採用すれば、固化したドデカノールとともに、ナノファイバーを凝集物として回収できる。しかも、凝集物では固化したドデカノールとナノファイバーが結合しているので、ナノファイバーと水との結合が弱くなっている。したがって、ドデカノールを混合せずにナノファイバー含有液からナノファイバーを回収した場合に比べて、回収されたナノファイバーは脱水された状態となる。つまり、回収された凝集物、つまり、ナノファイバーを含有する材料(ナノファイバー含有材)の水分率を少なくできるので、ナノファイバー含有材を軽量コンパクトにでき、運送などが容易になり運送コストも低減できる。
【0026】
なお、凝集物は、単体のナノファイバーに比べてはるかに大きな塊となっている。このため、ナノファイバー含有液をろ紙などに比べて目の粗い金網などを使用して濾過しても、凝集物を回収することができる。すると、ろ過する速度も速くできるし、ろ過した凝集物を金網などから回収しやすくなるという利点も得られる。
【0027】
また、回収した凝集物にはドデカノールが含まれているが、後述するように、用途によっては、ドデカノールを含んだままの凝集物をナノファイバー含有材として使用することができる。
【0028】
一方、凝集物からドデカノールを除去すれば、ナノファイバーの割合の多いナノファイバー含有材や、純度が高いナノファイバーを得ることができる。ドデカノールを除去する方法としては、ドデカノールを蒸発させて除去する方法が考えられる。ドデカノールの沸点は260℃であるので、凝集物を加熱してドデカノールの沸点(260℃)以上とすれば、ドデカノールを蒸発させて凝集物から除去することができる。ドデカノールの沸点(260℃)程度であれば、凝集物に含まれるナノファイバーの変質等を防ぐことができる可能性が高い。また、ドデカノールの沸点(260℃)以上に加熱すれば、凝集物中に含まれている水分も同時に除去できるので、純度の高いナノファイバーを回収できる。あるいは、ドデカノールは室温付近に融点を持つので、融点以上としてドデカノールを液化し、ワイヤー等でナノファイバーのみを濾別し、ドデカノールを除去することも可能である。
【0029】
とくに、凝集物を加熱する際の気圧を低くして(減圧条件下で)、できるだけ低い温度でドデカノールを蒸発させれば、加熱がナノファイバーに与える影響をより一層抑えることができる。例えば、約133Pa程度の気圧下であれば、ドデカノールの沸点は80℃程度まで低下するので、ナノファイバーへの影響を極力小さくしつつ、ドデカノールを除去することができる。
【0030】
(ナノファイバー含有材)
上述したような方法で回収されたナノファイバー含有材(言い換えれば上記のごとき方法で製造されたナノファイバー含有材)は、含有するナノファイバーの水分率が低くなっている。したがって、水分を多量に含む通常のナノファイバーを使用できなかった用途にも、ナノファイバー含有材を使用できるようになるので、ナノファイバー含有材を幅広い用途に使用することができる。例えば、疎水性の材料にナノファイバー含有材をそのまま混入して使用することができるようになる。
【0031】
ナノファイバー含有材は、そのままの状態で使用してもよいが、上述したように加熱による乾燥等の方法によってドデカノールを除去してもよい。ドデカノールを除去すれば、ナノファイバーの割合の高いナノファイバー含有材とすることができる。
【0032】
また、ナノファイバー含有材からドデカノールを除去する代わりに、ドデカノールを適切な置換物質によって置換してもよい。適切な置換物質に置換すれば、添加する材料や使用する環境に合ったナノファイバー含有材を製造することができる。
【0033】
例えば、セルロースナノファイバーのようにナノファイバーが水酸基を有する場合、他のアルコールやカルボン酸を置換物質として使用すれば、置換物質の官能基(水酸基やカルボキシル基)とナノファイバーの水酸基とが水素結合する。すると、ナノファイバーを取り巻く溶媒が水である場合と比較して、ナノファイバー間の水素結合が弱まる。すると、アクリルやメタクリルポリマー(PMMA)等のポリマー原料のように、高疎水性、高粘性の材料にナノファイバー含有材を混合した場合において、ナノファイバー含有材とポリマー原料の均一混合性の向上が見込まれる。
【0034】
とくに、アクリルやメタクリルポリマー(PMMA)にナノファイバー含有材を混合できれば、耐候性と透明性を兼備したアクリルやメタクリルポリマーに、ナノファイバーによって物理的強度を付与することができる。すると、アクリルやメタクリルポリマーの用途を拡大できる可能性がある。
【0035】
(回収物質)
本発明のナノファイバー回収方法に使用される回収物質は、ナノファイバーと結合可能かつ水に不溶であって、大気圧下における融点が水の融点より高く水の沸点よりも低いものであれば使用することができる。
【0036】
とくに、上述したドデカノールを使用した場合には、以下のような利点を得ることができる。
【0037】
(ドデカノールの利点)
まず、ドデカノールは室温付近に融点(24℃)を有するので、室温近傍で容易に固化と液化を切り替えることができる。液体状態であれば、ドデカノールを溶液中に分散させることも容易であるし、溶液中において比表面積の高い微小液滴としての状態を迅速に形成させることができる。さらに、回収物質の固化と液化を切り替える際において、ナノファイバー含有液の温度調整が容易になるので、ナノファイバー含有液からナノファイバーを回収する作業が容易になる。
【0038】
また、セルロースナノファイバーのようにファイバー間の溶媒除去過程で生じる強固な水素結合を、ドデカノールの水酸基の効果で弱めることが出来るので、ナノファイバー同士の凝集を抑えることができる。したがって、回収された凝集物(ナノファイバー含有材)において、ナノファイバーの状態を維持させやすくなる。
【0039】
さらに、回収物質としてドデカノールを使用した場合、凝集物の粘性を高くすることができる。すると、回収した凝集物を金網や濾紙等の通気性がある部材によって挟んだ状態において、真空ポンプなどによって吸引することも可能となる。つまり、吸引によって凝集物中に含まれている水分を除去することが可能となるので、凝集物の含水率をさらに低下することができる。
【0040】
(ドデカノール以外の回収物質)
もちろん、回収物質はドデカノールに限られず、上述したようにナノファイバーと結合可能かつ水に不溶であって、大気圧下における融点が水の融点より高く水の沸点よりも低いもの使用することができる。例えば、デカン酸等は、ドデカノールと同様に、室温(約23〜27度)付近に融点を有するので、ナノファイバー含有液の加熱冷却に要するエネルギーを少なくできるし、取り扱いが容易になる。つまり、大気圧下において20〜80℃の間に融点を有する物質、好ましくは、大気圧下において20〜60℃の間に融点を有する物質が回収物質として使用しやすい。
【0041】
また、沸点と同様に、回収物質の融点は、回収物質を含有するナノファイバー含有液に加わる圧力によって変動する。具体的には、ナノファイバー含有液に加わる圧力が大きくなれば、回収物質の融点は高くなり、ナノファイバー含有液に加わる圧力を減圧すれば、回収物質の融点は低くなる。つまり、ナノファイバー含有液に加わる圧力を調整すれば、回収物質の融点を大気圧下の融点から変化させることができる。つまり、ナノファイバー含有液に加わる圧力を調整(加圧減圧)すれば、大気圧下の融点に係わらず、種々の物質を回収物質として使用することが可能となる。すると、大気圧下における融点に係わらず、ナノファイバーに適した回収物質を使用できるので、ナノファイバーの回収効率を高くすることができる。また、回収後の用途に適した回収物質を使用することも可能になるので、回収したナノファイバー含有物を使いやすくなるという利点が得られる。
【0042】
また、回収物質は、大気圧下における沸点が270℃以下であることが望ましい。回収物質の沸点が270℃以下であれば、凝集物を加熱すれば、ナノファイバー(とくにセルロースナノファイバー)を変質させることなく、回収物質を気化させて除去できる。すると、回収物質や液体を含まない(または液体の含有量が少ない)ナノファイバーを得ることができる。
【0043】
とくに、回収物質は、その沸点が270℃以下、好ましくは260℃以下であることが望ましい。かかる沸点の回収物質を使用した場合、上述したドデカノールと同様に、凝集物を加熱する際の気圧を低くすれば、沸点を100℃以下程度まで低下させることが可能となる。すると、ナノファイバー(とくにセルロースナノファイバー)への影響を極力小さくしつつ、回収物質を除去することが可能となる。
【0044】
なお、上述したように、凝集物を加熱する際の気圧を低くすれば、沸点を低下させることができるので、回収物質の沸点は必ずしも上記温度以下である必要はない。
【0045】
(回収物質の例示)
上述したような性質を満たし、本発明の回収方法の回収物質として使用可能と考えられる物質として、以下のような物質を挙げることができる。例えば、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸、脂肪族アミン、脂肪族アミド、芳香族アルコール、芳香族カルボン酸、芳香族アミン、芳香族アミ
ドなどを挙げることができる。
【0046】
上述した回収物質の具体的な例として
は、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、1−トリデカノール、イソトリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール(セタノール)、1−オクタデシルアルコール(ステアリルアルコール
)、1,8−オクタンジオール 、1, 9−ノナンジオール、1,10−デカンジオー
ル、デカン酸(カプリン酸)、ウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、トリデカン酸、テトラデカン酸、1−ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エルカ酸、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、1−アミノオクタデカン、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、ウンデセン
酸、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、トリパルミチン、ソルビタンエステルを挙げることができる。
【実施例】
【0047】
本発明のナノファイバー回収方法によって、ナノファイバー含有液から、ドデカノールとセルロースナノファイバーを含有する物質を回収できることを確認した。回収された物質の特定は、示差走査熱量測定によって行った。使用した示差走査熱量計は(ブルカーエイエックスエス製 DSC 3200CA)である。
【0048】
実験では、まず、セルロースナノファイバーおよびドデカノールについて示差走査熱量測定を行い、その結果に基づいて、回収された物質を推定した。
【0049】
ドデカノールは、液体状の1−ドデカノール(和光純薬工業製)について示差走査熱量測定を実施した。
【0050】
また、セルロースナノファイバーは、以下のように製造したものについて示差走査熱量測定を実施した。
まず、クラフトパルプ(LBKP)を石臼式摩砕機(増幸産業株式会社製、商品名:スーパーマスコロイダー、型番:MKZA10−15J)で叩解して、2重量%のセルロースナノファイバー含有物を得た。得られたセルロースナノファイバー含有物を、300メッシュの金網で挟んだ後、金網の表面に吸水紙を押し当てて数回脱水した。さらに、脱水した試料を、乾いた吸水紙に挟んだ状態で平坦なガラス板上に載せて、その上に5kgのおもりを載せてプレス脱水(30分間)して、測定対象となるセルロースナノファイバーを製造した。
このセルロースナノファイバーについて、赤外線水分計(ケット科学研究所製、型番FD−800)によって固形分濃度を測定したところ、15.0重量%であった。
【0051】
図2にセルロースナノファイバーおよびドデカノールの測定結果を示している。
図2(A)に示すように、セルロースナノファイバーでは、250℃付近に発熱反応に基づくピークが出現し、330℃付近で極大を示している。330℃付近のピークは、セルロースナノファイバーの分解に基づくものと思われる。
また
図2(B)に示すように、ドデカノールでは、29℃付近で吸熱反応に関するピークを示している。この吸熱ピークは、ドデカノールの融解を示している。
【0052】
つぎに、本発明の方法によって回収された物質を測定した。
測定対象となる回収物は以下の方法で製造した。そして、製造された回収物について示差走査熱量測定を実施した。
【0053】
まず、クラフトパルプ(LBKP)を石臼式摩砕機(増幸産業株式会社製、商品名:スーパーマスコロイダー、型番:MKZA10−15J)で叩解して、2重量%のセルロースナノファイバー含有物を製造した。このセルロースナノファイバー含有物に、2重量%となるように1−ドデカノールを添加して混合物を調製した。調製した混合物を、超音波恒温槽内で40℃に加温したのち、超音波照射を30分間行った。その後、混合物を入れた容器を氷水内に浸漬して急冷し、4℃の冷蔵庫内に放置した。
その後、混合物中で凝集している物質(試料)を回収し、試料を300メッシュの金網で挟んだ後、金網の表面に吸水紙を押し当てて数回脱水した。さらに、脱水した試料を、乾いた吸水紙に挟んだ状態で平坦なガラス板上に載せて、その上に5kgのおもりを載せてプレス脱水(10分間)して、測定対象となる回収物を製造した。
この回収物について、赤外線水分計(ケット科学研究所製、型番FD−800)によって固形分濃度を測定したところ、10.8重量%であった。
【0054】
図3に、回収物の示差走査熱量測定の結果を示している。
図3に示すように、回収物では、29℃付近の吸熱と、330℃付近の発熱反応が確認された。
図2の結果と比較すると、29℃付近の吸熱反応は、ドデカノールの融解を示し、330℃付近のピークは、セルロースナノファイバーの分解を示していると推察される。つまり、本発明の方法によって回収された回収物には、セルロースナノファイバーとドデカノールが含まれており、本発明の方法によってドデカノールの周囲に、セルロースナノファイバーを凝集させて回収できることが確認された。