特許第6811986号(P6811986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6811986
(24)【登録日】2020年12月18日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】遠心クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 43/18 20060101AFI20201228BHJP
【FI】
   F16D43/18
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-198247(P2016-198247)
(22)【出願日】2016年10月6日
(65)【公開番号】特開2018-59585(P2018-59585A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】横道 友太
(72)【発明者】
【氏名】青野 薫
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 実開平04−101034(JP,U)
【文献】 特開2013−7432(JP,A)
【文献】 特開2005−344830(JP,A)
【文献】 特開昭47−35537(JP,A)
【文献】 実開平5−83479(JP,U)
【文献】 実開昭51−53338(JP,U)
【文献】 中国特許出願公開第104696388(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 43/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動力を受けてドリブンプーリとともに一体的に回転駆動するドライブプレートと、
前記ドライブプレートの外側にこのドライブプレートと同心で設けられた円筒面を有するクラッチアウターと、
前記ドライブプレートの周方向に沿って延びて前記クラッチアウターの円筒面に面するクラッチシューを有するとともに前記ドライブプレート上に揺動支持ピンを介して回動可能に取り付けられて前記クラッチシューが前記ドライブプレートの回転駆動による遠心力に応じて前記クラッチアウターの円筒面に接触または離隔する方向に揺動する複数のクラッチウエイトと、
前記クラッチウエイトに対して前記遠心力に抗する力を作用させるトーションバネとを備え、
前記トーションバネは、
前記クラッチアウターの前記円筒面に面する前記クラッチウエイトにおける前記周方向の2つの両端部のうちの前記揺動支持ピンから遠い側の端部である遠方端に隣接配置されて前記エンジンのアイドリング時においても同遠方端側に接触して前記遠心力に抗する力を作用させていることを特徴とする遠心クラッチ。
【請求項2】
請求項1に記載した遠心クラッチにおいて、
前記揺動支持ピンは、
前記ドライブプレートの外縁部上で前記クラッチウエイトの前記遠方端に隣接する位置に設けられており、
前記トーションバネは、
前記揺動支持ピンに支持されていることを特徴とする遠心クラッチ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した遠心クラッチにおいて、
前記トーションバネは、
両端部間に形成されたコイル部が巻き戻された状態で前記ドライブプレートまたは前記クラッチウエイトにピン状に形成されたバネ支持体に嵌合して支持されていることを特徴とする遠心クラッチ。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載した遠心クラッチにおいて、
前記トーションバネは、
前記クラッチウエイトにおける前記ドライブプレート側とは反対側に設けられていることを特徴とする遠心クラッチ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載した遠心クラッチにおいて、
前記トーションバネは、
両端部のうちの一方が前記ドライブプレートに掛かっていることを特徴とする遠心クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
エンジンが所定の回転数に達するまでの間は回転駆動力の従動側への伝達を遮断するとともに、エンジンが所定の回転数に達したときに回転駆動力を従動側に伝達する遠心クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、二輪自動車や刈払機などにおいては、エンジンが所定の回転数に達したときに回転駆動力を従動側に伝達する遠心クラッチが用いられている。例えば、下記特許文献1には、平面視で円環状の第2ドライブプレート上の周方向に延びて配置された3つのクラッチウエイトが互いに連結スプリングによって弾性的に連結されて第2ドライブプレートの外側に配置されたクラッチアウターの内側の円筒面に対して揺動する構成の遠心クラッチが開示されている。これにより、下記特許文献1に記載された遠心クラッチにおいては、第2ドライブプレートの回転駆動による遠心力によってクラッチウエイトが連結スプリングに抗しながらクラッチアウターの円筒面にクラッチシューを介して接触して回転駆動力を伝達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−203429号公報
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された遠心クラッチにおいては、第2ドライブプレートの周方向に延びるクラッチウエイトにおける略中央部に連結スプリングが連結されているため、クラッチウエイトの遠心方向の変位を規制するには大きな弾性力(引張力)を持つ連結スプリングが必要になって必要なクラッチ容量(クラッチが伝達する動力の大きさ)の確保が困難になるとともに装置構成が大型化するという問題あった。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、装置構成を大型化することなくクラッチ容量を確保し易くすることができる遠心クラッチを提供することにある。
【発明の概要】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、エンジンの駆動力を受けてドリブンプーリとともに一体的に回転駆動するドライブプレートと、ドライブプレートの外側にこのドライブプレートと同心で設けられた円筒面を有するクラッチアウターと、ドライブプレートの周方向に沿って延びてクラッチアウターの円筒面に面するクラッチシューを有するとともにドライブプレート上に揺動支持ピンを介して回動可能に取り付けられてクラッチシューがドライブプレートの回転駆動による遠心力に応じてクラッチアウターの円筒面に接触または離隔する方向に揺動する複数のクラッチウエイトと、クラッチウエイトに対して遠心力に抗する力を作用させるトーションバネとを備え、トーションバネは、クラッチアウターの円筒面に面するクラッチウエイトにおける周方向の2つの両端部のうちの揺動支持ピンから遠い側の端部である遠方端に隣接配置されてエンジンのアイドリング時においても同遠方端側に接触して遠心力に抗する力を作用させていることにある。
【0007】
このように構成した本発明の特徴によれば、遠心クラッチは、クラッチアウターに対して揺動するクラッチウエイトにおける遠方端に隣接してトーションバネを配置するとともに、このトーションバネにおける一方の端部がクラッチウエイトにおける自由端である前記遠方端に力を作用させているため、従来技術よりも小さい力でクラッチウエイトの遠心方向への変位を規制することができる。この結果、本発明に係る遠心クラッチによれば装置構成を大型化することなくクラッチ容量を確保し易くすることができる。また、この場合、トーションバネは、ドライブプレートにおける最外周部分に配置されるため、ドライブプレートの回転駆動による遠心力によってクラッチウエイトを径方向内側に押圧する力が減少してクラッチウエイトをクラッチアウターに押し付け易くすることができる。
【0008】
また、本発明の他の特徴は、前記遠心クラッチにおいて揺動支持ピンは、ドライブプレートの外縁部上でクラッチウエイトの遠方端に隣接する位置に設けられており、トーションバネは、揺動支持ピンに支持されていることにある。
【0009】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、遠心クラッチは、クラッチウエイトの揺動の支点となる揺動支持ピンがドライブプレートの外縁部上でクラッチウエイトの遠方端に隣接する位置に設けられてトーションバネを支持しているため、遠心クラッチを構成する部品を高密度化して装置構成を小型化することができる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、前記遠心クラッチにおいて、トーションバネは、両端部間に形成されたコイル部が巻き戻された状態でドライブプレートまたはクラッチウエイトにピン状に形成されたバネ支持体に嵌合して支持されていることにある。
【0011】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、遠心クラッチは、トーションバネの両端部間に形成されたコイル部が巻き戻された状態でドライブプレートまたはクラッチウエイトにピン状に形成されたバネ支持体に嵌合して支持されていることでクラッチウエイトが遠心方向へ変位した場合にトーションバネのコイル部の内径が広がってバネ支持体との間の摩擦抵抗が抑えられるため、クラッチウエイトの変位によってトーションバネに過度な力が作用することを防止することができる。なお、トーションバネにおけるコイル部が巻き戻された状態とは、コイル部の巻線を解く方向にトーションバネの両端部を広げる状態のことをいう。
【0012】
また、本発明の他の特徴は、前記遠心クラッチにおいて、トーションバネは、クラッチウエイトにおけるドライブプレート側とは反対側に設けられていることにある。
【0013】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、遠心クラッチは、トーションバネがクラッチウエイトにおけるドライブプレートとは反対側に設けられているため、トーションバネをドライブプレートとクラッチウエイトとの間に配置する場合に比べてトーションバネの組付け作業を容易にすることができ、製造負担およびメンテナンス負担を軽減することができる。
【0014】
また、本発明の他の特徴は、前記遠心クラッチにおいて、トーションバネは、両端部のうちの一方がドライブプレートに掛かっていることにある。
【0015】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、遠心クラッチは、トーションバネにおける両端部のうちの一方の端部がドライブプレートに掛かっているため、同一方の端部をクラッチウエイトに掛けた場合に比べてこのクラッチウエイトとトーションバネとの摩耗を抑えることができるとともにトーションバネを小型化して装置構成全体を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る遠心クラッチの構成を概略的に示す側面断面図である。
図2図1に示す2−2線から見た遠心クラッチの内部構成を示す一部破断平面図である。
図3図1および図2にそれぞれ示す遠心クラッチにおけるドライブプレートの外観構成を概略的に示す斜視図である。
図4図1および図2にそれぞれ示す遠心クラッチにおけるクラッチウエイトの外観構成を概略的に示す斜視図である。
図5図2に示す遠心クラッチにおけるクラッチシューがクラッチアウターに接触した連結状態を示した一部破断平面図である。
図6】本発明の変形例に係る遠心クラッチを備えた動力伝達装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
図7図6に示す7−7線から見た遠心クラッチの内部構成を示す一部破断平面図である。
図8図6および図7にそれぞれ示す遠心クラッチの外観構成を概略的に示す斜視図である。
図9図6および図7にそれぞれ示す遠心クラッチにおけるドライブプレートの外観構成を概略的に示す斜視図である。
図10】本発明の他の変形例に係る遠心クラッチの外観構成を概略的に示す斜視図である。
図11図10に示す遠心クラッチにおけるクラッチウエイトの外観構成を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る遠心クラッチの一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る遠心クラッチ100の構成を概略的に示す側面断面図である。また、図2は、図1に示す2−2線から見た遠心クラッチ100の内部構成を示す一部破断平面図である。この遠心クラッチ100は、主としてスクータなどの自動二輪車両において、エンジンと駆動輪である後輪との間に設けられてエンジンの回転駆動力を後輪に伝達または遮断する機械装置である。
【0018】
(遠心クラッチ100の構成)
遠心クラッチ100は、図示しないエンジンの回転駆動力をドライブシャフト101に伝達または遮断する機械装置であり、主として、ドライブプレート110、5つのクラッチウエイト120およびクラッチアウター130をそれぞれ備えて構成されている。
【0019】
ドライブプレート110は、エンジンから延びるクランク軸90上に設けられてエンジンの回転駆動力によって直接回転駆動する部品であり、金属材料を平面視で円板状に形成して構成されている。より具体的には、ドライブプレート110は、図3に示すように、平板状のベース111の中央部にクランク軸90がスプライン嵌合する嵌合筒部112が形成されている。また、ドライブプレート110は、ベース111における嵌合筒部112の外側部分に周方向に沿ってそれぞれ5つずつの揺動支持ピン113、バネ支持体115およびダンパー支持ピン117がそれぞれ等間隔で設けられている。
【0020】
揺動支持ピン113は、後述するクラッチウエイト120における一方の端部側を回動可能に支持して他方の端部側を揺動させるための部品であり、金属材をピン状に形成して構成されている。この揺動支持ピン113は、取付ボルト113aによってベース111上におけるバネ支持体115よりも内側に起立した状態で固定的に取り付けられている。また、揺動支持ピン113は、先端部にサイドプレート114を介してEリング113bが取り付けられている。サイドプレート114は、5つのクラッチウエイト120をそれぞれ押さえるための部品であり、金属材をリング状に形成して構成されている。
【0021】
バネ支持体115は、トーションバネ116を支持するための部品であり、金属製の段付きの棒体で構成されている。この場合、バネ支持体115は、トーションバネ116のコイル部116a内に嵌合する部分の外径が同コイル部116aの内径よりも細く形成されている。このバネ支持体115は、後述するクラッチアウター130の円筒面131に面するクラッチウエイト120の周方向の両端部のうちの一方である遠方端121aに隣接したベース111上の位置に起立した状態で取付ボルト115aによって固定的に取り付けられる。
【0022】
トーションバネ116は、クラッチウエイト120に対してドライブプレート110の内側に向かう力を作用させるための部品であり、バネ鋼をコイル状に巻いて構成されている。このトーションバネ116は、ドライブプレート110の外縁部上において2つのクラッチウエイト120間に起立するバネ支持体115にコイル部116aが嵌められた状態で支持されている。この場合、トーションバネ116は、コイル部116aの両端からそれぞれ張り出した2つの両端部116b,116cが、このトーションバネ116の両側にそれぞれ位置する2つのクラッチウエイト120における一方のクラッチウエイト120の遠方端121aおよび他方のクラッチウエイト120の近傍端121bにそれぞれ掛けられている。
【0023】
また、この場合、トーションバネ116は、両端部116b,116cがコイル部116aの巻線を解く方向にそれぞれ広げられた状態で各クラッチウエイト120にそれぞれ掛けられている。したがって、トーションバネ116は、コイル部116aが巻き戻された状態でバネ支持体115に嵌められて支持されている。
【0024】
ダンパー支持ピン117は、ダンパー118を支持するための部品であり、金属製の棒体で構成されている。このダンパー支持ピン117は、ドライブプレート110のベース111上におけるバネ支持体115の近傍に起立した状態で固定的に設けられている。ダンパー118は、クラッチウエイト120における前記他方の端部側をクラッチアウター130に対して接近または離隔させる揺動運動を案内するとともに離隔時における緩衝材となる部品であり、ゴム材を円筒状に形成して構成されている。このダンパー118は、ダンパー支持ピン117の外周面上に固定的に嵌合している。
【0025】
5つのクラッチウエイト120は、図4に示すように、それぞれドライブプレート110の回転数に応じてクラッチアウター130に対してクラッチシュー123を介して接触または離隔することによってエンジンからの回転駆動力をドライブシャフト101に伝達または遮断するための部品であり、金属材(例えば、亜鉛材)をドライブプレート110の周方向に沿って延びる湾曲した形状に形成して構成されている。
【0026】
より具体的には、クラッチウエイト120は、クラッチアウター130の内周面である円筒面131に沿って湾曲したブロック状に形成されており、クラッチウエイト120がドライブプレート110とともに回転駆動した際に遠心力を生じさせるための錘として機能する。このクラッチウエイト120は、ドライブプレート110の周方向における一方の端部側が近傍端121bを介してドライブプレート110の内側方向に屈曲してピン嵌合孔122が形成されており、このピン嵌合孔122を介して揺動支持ピン113によって回動自在に支持されている。
【0027】
この場合、近傍端121bは、クラッチアウター130の円筒面131に面するクラッチウエイト120の周方向の両端部のうちの前記揺動支持ピン113に近い方の端部部分であり、換言すれば、前記両端部のうちの前記揺動支持ピン113に近い方の端部とクラッチシュー123の端部との間の部分である。ピン嵌合孔122は、ドライブプレート110における揺動支持ピン113が回動自在に嵌合する部分であり、クラッチウエイト120の厚さ方向に貫通する貫通孔によって構成されている。また、クラッチウエイト120における近傍端121bは、前記トーションバネ116における一方の端部116cによってドライブプレート110の内側方向に向かって押されている。
【0028】
一方、クラッチウエイト120における前記近傍端121bとは反対側の前記揺動支持ピン113から遠い方の端部部分である遠方端121a側は、前記ダンパー118が摺動自在に嵌合するとともに、前記トーションバネ116における一方の端部116bによってドライブプレート110の内側方向に向かって押されている。この場合、遠方端121aは、クラッチアウター130の円筒面131に面するクラッチウエイト120の周方向の両端部のうちの前記揺動支持ピン113から遠い方の端部部分であり、換言すれば、前記両端部のうちの前記揺動支持ピン113から遠い方の端部とクラッチシュー123の端部との間の部分である。さらに、クラッチウエイト120は、クラッチアウター130の円筒面131に対向する外周面にクラッチシュー123が設けられている。クラッチシュー123は、クラッチアウター130の内周面に対する摩擦力を増大させるための部品であり、摩擦材を円弧状に延びる板状に形成して構成されている。
【0029】
なお、図2においては、クラッチウエイト120の構成を分かり易くするため、5つのクラッチウエイト120のうちの1つのクラッチウエイト120の一部を破断して示している。また、図2においては、クランク軸90、Eリング113bおよびサイドプレート114をそれぞれ省略している。
【0030】
クラッチアウター130は、ドライブシャフト101と一体的に回転駆動する部品であり、金属材をドライブプレート110からクラッチウエイト120の外周面を覆うカップ状に形成して構成されている。すなわち、クラッチアウター130は、ドライブプレート110の外周側に変位したクラッチウエイト120のクラッチシュー123に摩擦接触する円筒面131を有して構成されている。
【0031】
(遠心クラッチ100の作動)
次に、上記のように構成した遠心クラッチ100の作動について説明する。この遠心クラッチ100は、自動二輪車車両(例えば、スクータ)におけるエンジンと駆動輪となる後輪との間に配置された動力伝達機構(図示せず)の一部を構成して機能する。まず、遠心クラッチ100は、エンジンがアイドリング状態においては、図2に示すように、エンジンとドライブシャフト101との間の駆動力の伝達を遮断する。具体的には、遠心クラッチ100は、クランク軸90を介して伝達されるエンジンの回転駆動力によってドライブプレート110が回転駆動してクラッチウエイト120が回転駆動する。
【0032】
しかし、この場合、遠心クラッチ100は、クラッチウエイト120に作用する遠心力がトーションバネ116の弾性力(押圧力)よりも小さいため、クラッチシュー123がクラッチアウター130の円筒面131に接触せずエンジンの回転駆動力がドライブシャフト101に伝達されることはない。また、この場合、トーションバネ116は、クラッチウエイト120の遠方端121aの近傍に配置されてクラッチウエイト120における自由端である遠方端121aを押圧しているため、従来技術よりも小さい力でクラッチウエイト120の遠心方向への変位を規制することができる。
【0033】
一方、遠心クラッチ100は、自動二輪車両における運転者のアクセル操作によるエンジンの回転数の増加に応じてエンジンの回転駆動力をドライブシャフト101に伝達する。具体的には、遠心クラッチ100は、図5に示すように、エンジンの回転数が増加するに従ってクラッチウエイト120に作用する遠心力がトーションバネ116の弾性力(押圧力)よりも大きくなってクラッチウエイト120が揺動支持ピン113を中心として径方向外側に向かって回動変位する。
【0034】
すなわち、遠心クラッチ100は、エンジンの回転数が増加するに従ってクラッチウエイト120がトーションバネ116の弾性力(押圧力)に抗しながらクラッチアウター130の円筒面131側に回動変位する結果、クラッチシュー123が円筒面131に接触する。この場合、トーションバネ116は、両端部116b,116cが開くためコイル部116aが巻き戻されてバネ支持体115との嵌合状態がより緩むため、5つのクラッチウエイト120が回動した際にバネ支持体115に対してより回動し易くなる。なお、また、図5においては、クランク軸90、Eリング113bおよびサイドプレート114をそれぞれ省略している。また、図5においては、遠心クラッチ100におけるドライブプレート110およびクラッチアウター130の各回転駆動方向をそれぞれ破線矢印で示している。
【0035】
この連結状態において遠心クラッチ100は、クラッチシュー123がクラッチアウター130の円筒面131に押し付けられた状態を維持するため、ドライブプレート110とクラッチアウター130とは一体的に回転駆動してドライブシャフト101を回転駆動させる。これにより、自動二輪車両は、ドライブシャフト101に連結された変速機(図示せず)を介して後輪を変速しつつ回転駆動することにより走行することができる。
【0036】
一方、エンジンの回転数が減少していく場合においては、遠心クラッチ100は、エンジンの回転駆動力のドライブシャフト101への伝達を遮断する。具体的には、遠心クラッチ100は、エンジンの回転数が減少するに従ってクラッチウエイト120に作用する遠心力がトーションバネ116の弾性力(押圧力)よりも小さくなってクラッチウエイト120が揺動支持ピン113を中心として径方向内側に向かって回動変位する。
【0037】
これにより、クラッチウエイト120は、元の位置(前記アイドリング時の位置)に復帰する。すなわち、遠心クラッチ100は、クラッチシュー123がクラッチアウター130に接触せず回転駆動力を伝達しない切断状態となる。
【0038】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、遠心クラッチ100は、クラッチアウター130に対して揺動するクラッチウエイト120における遠方端121aに隣接してトーションバネ116を配置するとともに、このトーションバネ116における一方の端部116bがクラッチウエイト120における自由端である遠方端121aに力を作用させているため、従来技術よりも小さい力でクラッチウエイト120の遠心方向への変位を規制することができる。この結果、本発明に係る遠心クラッチ100によれば装置構成を大型化することなくクラッチ容量を確保し易くすることができる。また、この場合、トーションバネ116は、ドライブプレート110における最外周部分に配置されるため、ドライブプレート110の回転駆動による遠心力によってクラッチウエイト120を径方向内側に押圧する力が減少してクラッチウエイト120をクラッチアウター130に押し付け易くすることができる。
【0039】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記各変形例において、上記実施形態と同様の構成部分については同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0040】
例えば、上記実施形態においては、トーションバネ116は、ドライブプレート110のベース111上に設けたピン状のバネ支持体115に支持されている。この場合、バネ支持体115は、ドライブプレート110におけるベース111上の外縁部分で互いに隣接する2つのクラッチウエイト120間に起立した状態で設けられている。しかし、トーションバネ116は、クラッチアウター130の円筒面131に面するクラッチウエイト120における遠方端121aに隣接する位置に配置されていればよい。したがって、トーションバネ116は、例えば、図6ないし図9にそれぞれ示すように、揺動支持ピン113に支持されるように構成することもできる。
【0041】
具体的には、揺動支持ピン113は、ドライブプレート110の外縁部上でクラッチウエイト120の遠方端121aに隣接する位置に配置することができる。この場合、図6ないし図9にそれぞれ示す遠心クラッチ200においては、揺動支持ピン113は、3つのクラッチウエイト120を支持するために3つ設けられている。また、クラッチウエイト120は、ドライブプレート110の周方向に沿って延びつつ揺動支持ピン113に延びる略円弧状に形成されるとともに近傍端121b側にバネ支持体115およびピン嵌合孔122がそれぞれ形成される。
【0042】
この場合、バネ支持体115は、トーションバネ116のコイル部116aが嵌合する部分であり、クラッチウエイト120の厚さ方向に円筒状に形成されている。このバネ支持体115は、揺動支持ピン113とは反対側のサイドプレート114側に形成されている。そして、トーションバネ116は、コイル部116aがバネ支持体115に嵌った状態で両端部116b、116cが揺動支持ピン113の両側に位置する2つのクラッチウエイト120のうちの一方の遠方端121a部分および他方の近傍端121b部分にそれぞれ掛けられる。
【0043】
このように構成した遠心クラッチ200によれば、クラッチウエイト120の揺動の支点となる揺動支持ピン113がドライブプレート110の外縁部上でクラッチウエイト120の遠方端121aに隣接する位置に配置されてトーションバネ116を支持しているため、遠心クラッチ200を構成する部品を高密度化して装置構成を小型化することができる。また、遠心クラッチ200は、トーションバネ116がクラッチウエイト120におけるドライブプレート110とは反対側に設けられているため、トーションバネ116をドライブプレート110とクラッチウエイト120との間に配置する場合に比べてトーションバネ116の組付け作業を容易にすることができ、製造負担およびメンテナンス負担を軽減することができる。なお、図7においては、ドライブシャフト101、Eリング113bおよびサイドプレート114をそれぞれ省略しているとともに、ドライブプレート110およびクラッチアウター130の各回転駆動方向を破線矢印で示している。また、図8においては、Eリング113b、サイドプレート114およびクラッチアウター130をそれぞれ省略している。
【0044】
一方、遠心クラッチ200は、前記したように、トーションバネ116をドライブプレート110とクラッチウエイト120との間に配置することもできる。具体的には、遠心クラッチ300は、図10に示すように、クラッチウエイト120におけるバネ支持体115をドライブプレート110側に形成する。そして、トーションバネ116における両端部116b,116cは、前記のように、互いに対向する2つのクラッチウエイト120間に架設してもよいが、一方の端部116bをクラッチウエイト120の遠方端121aに掛けるとともに他方の端部116cをドライブプレート110のベース111に形成した貫通孔に掛けることもできる。図10においては、クラッチアウター130を省略している。
【0045】
このように構成した遠心クラッチ300によれば、トーションバネ116における端部116cがドライブプレート110に掛かっているため、クラッチウエイト120の回動による端部116cとクラッチウエイト120の近傍端121bとの摩耗を抑えることができるとともにトーションバネ116を小型化して装置構成全体を小型化することができる。
【0046】
なお、図6ないし図10に示した遠心クラッチ200,300においては、エンジンからの回転駆動力が変速機91を介して伝達される。この変速機91は、主として、ドライブプーリ92、Vベルト93およびドリブンプーリ94をそれぞれ備えて構成されている。これらのうち、ドライブプーリ92は、エンジンから延びるクランク軸90上に設けられてエンジンの回転駆動力によって直接回転駆動する部品であり、主として、固定ドライブプレート92aおよび可動ドライブプレート92bをそれぞれ備えて構成されている。
【0047】
この場合、ドライブプーリ92は、クランク軸90の回転駆動による遠心力によって可動ドライブプレート92bが固定ドライブプレート92aに対して接近また離隔するように構成されている。そして、これらの固定ドライブプレート92aと可動ドライブプレート92bとの間には、ドリブンプーリ94が連結されたVベルト93が掛けられている。Vベルト93は、ドライブプーリ92の回転駆動力をドリブンプーリ94に伝達するための部品であり、芯線を樹脂材で覆った無端のリング状に形成されている。
【0048】
ドリブンプーリ94は、ドライブプーリ92およびVベルト93をそれぞれ介して伝達されるエンジンからの回転駆動力によって回転駆動する機械装置であり、主として、固定ドリブンプレート94aおよび可動ドリブンプレート94bをそれぞれ備えて構成されている。固定ドリブンプレート94aは、筒状に形成されたドリブンスリーブ95を介して遠心クラッチ200,300におけるドライブプレート110に一体的に連結されている。この場合、ドリブンスリーブ95は、自動二輪車両の後輪に連結されたドライブシャフト101に対してベアリングを介して相対回転自在に取り付けられている。また、ドリブンスリーブ95は、ドライブプレート110におけるベース111の中央部に形成された貫通孔111aにドライブプレート110と一体的に回転駆動可能に嵌合している。
【0049】
一方、可動ドリブンプレート94bは、トルクスプリング96を介してドライブプレート110を押圧した状態でドリブンスリーブ95上に軸方向に摺動自在な状態で嵌合している。これにより、ドリブンプーリ94は、Vベルト93の引張力によって可動ドリブンプレート94bが固定ドリブンプレート94aに対して接近また離隔するように構成されている。
【0050】
すなわち、この変速機91は、固定ドライブプレート92aと可動ドライブプレート92bとの間隔で規定されるVベルト93を挟む直径と、固定ドリブンプレート94aと可動ドリブンプレート94bとの間隔で規定されるVベルト93を挟む直径との大小関係によってエンジンの回転数を無段階で変速する。
【0051】
また、上記実施形態においては、遠心クラッチ100,200,300は、クラッチウエイト120の遠方端121a側がドライブプレート110の回転方向の前方となる所謂リーディング式で構成した。しかし、遠心クラッチ100,200,300は、クラッチウエイト120の近傍端121b側がドライブプレート110の回転方向の前方となる所謂トレーディング式で構成することもでもできる。
【0052】
また、上記実施形態においては、遠心クラッチ100,200,300は、トーションバネ116は、クラッチウエイト120に対してコイル部116aが巻き戻される状態で使用した。この場合、トーションバネ116は、クラッチウエイト120がクラッチアウター130に対して離間した状態においてコイル部116aの内周部がバネ支持体115の外周部に接触するように形成することによりトーションバネ116のガタツキを抑えることができる。
【0053】
しかし、トーションバネ116は、クラッチウエイト120に対して巻き込みの状態で使用することもできる。すなわち、トーションバネ116は、コイル部116aの巻線を絞める方向にトーションバネ116の両端部116b,116bを閉じてクラッチウエイト120に掛けて使用することもできる。
【符号の説明】
【0054】
90…クランク軸、91…変速機、92…ドライブプーリ、92a…固定ドライブプレート、92b…可動ドライブプレート、93…Vベルト、94…ドリブンプーリ、94a…固定ドリブンプレート、94b…可動ドリブンプレート、95…ドリブンスリーブ、96…トルクスプリング、
100,200,300…遠心クラッチ、101…ドライブシャフト、
110…ドライブプレート、111…ベース、111a…貫通孔、112…嵌合筒部、113…揺動支持ピン、113a…取付ボルト、113b…Eリング、114…サイドプレート、115…バネ支持体、116…トーションバネ、116a…コイル部、116b,116c…端部、117…ダンパー支持ピン、118…ダンパー、
120…クラッチウエイト、121a…遠方端、121b…近傍端、122…ピン嵌合孔、123…クラッチシュー、
130…クラッチアウター、131…円筒面。
図1
図2
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図5
図6
図7
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図9
図10
図11