特許第6812085号(P6812085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6812085油脂加工澱粉、揚げ物用衣材及びその製造方法、揚げ物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6812085
(24)【登録日】2020年12月18日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】油脂加工澱粉、揚げ物用衣材及びその製造方法、揚げ物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/219 20160101AFI20201228BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20201228BHJP
   A23L 7/157 20160101ALI20201228BHJP
【FI】
   A23L29/219
   A23L5/10 E
   A23L7/157
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-197780(P2018-197780)
(22)【出願日】2018年10月19日
(65)【公開番号】特開2020-61997(P2020-61997A)
(43)【公開日】2020年4月23日
【審査請求日】2020年4月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 信人
(72)【発明者】
【氏名】有本 美沙
(72)【発明者】
【氏名】柿野 あけみ
(72)【発明者】
【氏名】山本 来紀
(72)【発明者】
【氏名】高口 均
【審査官】 茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/159658(WO,A1)
【文献】 国際公開第2018/008710(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/030081(WO,A1)
【文献】 特開2018−033394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00 − 7/25
A23L 29/212−29/225
A23L 5/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/CAplus/WPIDS/AGRICOLA(STN)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水懸濁液の水溶性画分の糖組成における重合度1〜3の糖質の含量が3〜16.5質量%であることを特徴とする油脂加工澱粉。
【請求項2】
40質量%濃度の水懸濁液の上清における固形分濃度が0.1〜5.0質量%である、請求項1に記載の油脂加工澱粉。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の油脂加工澱粉を含むことを特徴とする揚げ物用衣材。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の油脂加工澱粉を揚げ物用衣材の原料として添加することを特徴とする揚げ物用衣材の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の揚げ物用衣材を具材に付着させた後、油ちょう処理を行うことを特徴とする揚げ物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば揚げ物用衣材等の原料として好適な新規な油脂加工澱粉、該油脂加工澱粉を用いた揚物用衣材、揚物用衣材の製造方法、及び揚げ物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂加工澱粉は、澱粉粒に油脂が付着・結合しているものであり、澱粉類に油脂を添加混合し、熟成処理を施すことで得られる。油脂加工澱粉は、揚げ物用衣材として使用した場合に好ましい食感・結着性を付与できることから、揚げ物のバッターやまぶし粉の原料として広く用いられている。また、歩留まりや食感を向上させることができることから、ソーセージ、ハンバーグ、はんぺん、カマボコ、ちくわ等の水畜産肉製品にも用いられている。
【0003】
揚げ物用衣材として用いた際の性能(結着性や食感等)を改良するために、油脂加工澱粉の製造方法について種々の検討が行われている。例えば、下記特許文献1には、澱粉に油脂及びリポキシゲナーゼ酵素を添加し、加熱・反応する油脂加工澱粉の製造方法が記載されている。下記特許文献2には、澱粉に油脂及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを添加する油脂加工澱粉の製造方法が記載されている。下記特許文献3には、オキシ塩化リンを用いて処理されたリン酸架橋澱粉に、油脂及び大豆粉砕物を混合し、得られた混合物を加熱処理する油脂加工澱粉の製造方法が記載されている。下記特許文献4には、沈降積が一定範囲である架橋澱粉に油脂類を添加混合し、加熱分解処理を行う油脂加工澱粉の製造方法が記載されている。下記特許文献5には、水分含量が一定の澱粉に乳化剤を混合した油脂を添加・混合した後に、水分量を調整し、熟成処理を施す油脂加工澱粉の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−106832号公報
【特許文献2】特開2005−185122号公報
【特許文献3】特許第4739459号公報
【特許文献4】特開2013−110997号公報
【特許文献5】特許第5265821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、油脂加工澱粉の製造方法については種々検討が行われているが、油脂加工澱粉自体の組成に着目して検討した報告例は少なく、その性能改良を目的に更なる検討の余地があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、例えば、揚げ物用衣材として用いた際の性能(食感)に優れた油脂加工澱粉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の糖組成を有する油脂加工澱粉を、揚げ物用衣材として使用した際に、食感に優れた衣を有する揚げ物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の1つは、水懸濁液の水溶性画分の糖組成における重合度1〜3の糖質の含量が3〜20質量%であることを特徴とする油脂加工澱粉を提供するものである。本発明の油脂加工澱粉によれば、例えば揚げ物用衣材の原料として用いることにより、サクサクとして軽く、更に歯切れのよい食感の衣を有する揚げ物を得ることができる。
【0009】
本発明の油脂加工澱粉においては、40質量%濃度の水懸濁液の上清における固形分濃度が0.1〜5.0質量%であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の別の1つは、上記記載の油脂加工澱粉を含むことを特徴とする揚げ物用衣材を提供するものである。本発明の揚げ物用衣材によれば、サクサクとして軽く、更に歯切れのよい食感の衣を有する揚げ物を得ることができる。
【0011】
更に、本発明の別の1つは、上記記載の揚げ物用衣材を含むことを特徴とする揚げ物食品を提供するものである。本発明の揚げ物食品は、サクサクとして軽く、更に歯切れのよい食感の衣を有する揚げ物となる。
【0012】
更に、本発明の別の1つは、上記記載の油脂加工澱粉を揚げ物用衣材の原料として添加することを特徴とする揚げ物用衣材の製造方法を提供するものである。本発明の揚げ物用衣材の製造方法によれば、サクサクとして軽く、更に歯切れのよい食感の衣を有する揚げ物を得ることができる。
【0013】
更に、本発明の別の1つは、上記揚げ物用衣材を具材に付着させた後、油ちょう処理を行うことを特徴とする揚げ物の製造方法を提供するものである。本発明の揚げ物の製造方法によれば、サクサクとして軽く、更に歯切れのよい食感の衣を有する揚げ物を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記記載の油脂加工澱粉を、例えば揚げ物用衣材の原料として用いることにより、サクサクとして軽く、更に歯切れのよい食感の衣を有する揚げ物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明における油脂加工澱粉とは、澱粉粒子表面の少なくとも一部に油脂が付着されたもので、表面物性を変化させたものである。油脂加工澱粉は、澱粉に油脂を添加混合し、常温以上の温度で熟成処理することによって得られる。これにより、単に油脂を添加混合しただけのものとは異なる特性を有する澱粉が得られる。つまり、澱粉粒子表面の少なくとも一部に前記油脂を付着させることで、澱粉の表面を疎水化することができ、例えば蛋白質との親和性を高めることができる。
【0016】
本発明の油脂加工澱粉の原料となる澱粉としては、食用として利用可能な澱粉であればよく、特に制限はない。例えば、コーンスターチ、タピオカ澱粉、米澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、片栗澱粉、葛澱粉、蕨澱粉、サゴ澱粉、オオウバユリ澱粉等が挙げられる。この中でも、コスト及び効果の点からタピオカ澱粉及び/又はコーンスターチが好ましく、特にタピオカ澱粉が好ましい。また、いずれの澱粉においても通常の澱粉に加え、ウルチ種、ワキシー種、ハイアミロース種のように、育種学的手法もしくは遺伝子工学的手法において改良されたものを用いてもよい。
【0017】
更に、本発明においては、原料となる澱粉として、各種加工澱粉を使用することも可能である。すなわち、澱粉に、酸化処理、エステル化処理、エーテル化処理、架橋処理といった化学修飾処理や、α化処理、造粒処理、湿熱処理、ボールミル処理、微粉砕処理、加熱処理、温水処理、漂白処理、殺菌処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理といった加工処理、あるいはそれらの2種以上の処理を施した澱粉を使用してもよい。これらの加工澱粉の中でも、揚げ物の衣材として利用する場合には、架橋澱粉であることが好ましく、リン酸架橋澱粉であることが特に好ましい。
【0018】
本発明の油脂加工澱粉に用いる油脂としては、食用として認められている油脂、調製油、それらの混合物等が挙げられ、例えば、アマニ油、エゴマ油、くるみ油、サフラワー油、ひまわり油、ぶどう油、大豆油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、なたね油、落花生油、オリーブ油、パーム油、やし油、牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、鯨油、魚油、またこれらの分別油、脱臭油、加熱油、エステル交換油等の加工油脂等が挙げられる。油脂加工澱粉の性能の点から、エゴマ油、サフラワー油を用いるのが好ましい。上述の油脂を単独で使用しても良く、複数種を併用しても良い。
【0019】
本発明の油脂加工澱粉を得る際の油脂の澱粉への添加量は、澱粉100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましく、0.03〜2質量部がより好ましい。0.01質量部未満では、澱粉粒子の表面に油脂が十分に付着されず、澱粉の特性改善効果が弱められる傾向がある。一方、油脂の澱粉への添加量が澱粉に対して5質量部を超えると、澱粉の粉体流動性が悪くなり作業性が悪くなる傾向や油脂自体の臭い等が強くなり食品の味に悪影響を及ぼす傾向がある。
【0020】
油脂の澱粉への添加方法は、澱粉に油脂を分散可能な方法であれば特に制限は無く、通常の撹拌混合、気流混合、スプレー噴霧等の常法で行うことができる。
【0021】
また、本発明の油脂加工澱粉を得る際に油脂と共に乳化剤を澱粉へ加えても良い。乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。また、これらの組合せでもよい。乳化剤を添加する場合、その添加量は、油脂100質量部に対して、10〜1000質量部であることが好ましく、20〜500質量部であることがより好ましい。
【0022】
熟成処理は、澱粉と油脂と必要により乳化剤等の他の原料とを混合したものを、例えば、各種リアクター、エクストルーダー、ドライヤー、タンク、容器、包材等に入れた状態で、常温(10℃、好ましくは15℃)以上の温度において、一定期間処理することにより行うことができる。常温以上の温度であれば当該処理は進み、高温であれば熟成に要する時間は短くなる。すなわち、常温以上の温度条件下に静置することで熟成処理を施すこともでき、加熱することでより高温下で短い時間で熟成処理(加熱熟成処理)を施すこともできる。熟成処理においては、原料澱粉に過度の分解が起こらないように条件を設定する必要がある。このような熟成温度としては、30〜180℃が好ましく、50〜160℃がより好ましい。また、熟成時間は、温度が高いほど短時間でよいが、30分〜2ヶ月が好ましく、1時間〜1ヶ月がより好ましい。
【0023】
本発明の油脂加工澱粉は、上記に示した通り、澱粉に油脂を添加混合し、常温以上の温度で熟成処理することによって得られるが、後述する所望の糖組成(重合度1〜3の糖質の含量が3〜20質量%)を有する油脂加工澱粉が得られる限り、「澱粉に油脂を添加混合し、常温以上の温度で熟成処理」以外に、他の処理や条件を加えることは特に制限されない。
【0024】
例えば、油脂加工澱粉に重合度1〜3の糖質を添加処理することで、所望の糖組成を有する油脂加工澱粉が得られるように調製することができる。このように糖質を添加する場合は、そのタイミングにも特に制限はなく、原料澱粉に油脂を混合する前に添加しても良く、原料澱粉に油脂を混合した後であって熟成処理前に添加しても良く、熟成処理を施した後に添加しても良い。
【0025】
また、例えば、加水分解の起こりやすい強い条件(高温、長時間)で熟成処理を行うことで、所望の糖組成を有する油脂加工澱粉が得られるように調製することができる。強い条件で加熱することで、澱粉の加水分解が顕著に進行し、結果として油脂加工澱粉中の重合度1〜3の糖質を所望の範囲とすることができる。
【0026】
更に、例えば、加水分解の起こりやすいよう低pH条件で熟成処理を行うことで、所望の糖組成を有する油脂加工澱粉が得られるように調製することができる。酸等を添加し低pHの条件で加熱することで澱粉の加水分解が顕著に進行し、結果として油脂加工澱粉中の重合度1〜3の糖質を所望の範囲とすることができる。
【0027】
加えて、例えば、熟成処理をニーダー、撹拌式ドライヤー、ロータリーキルン、押出機、エクストルーダー等の機械を用いて行うことで、澱粉の加水分解をより促進できる。棚式乾燥機、恒温槽、タンク等を用いて静置した状態で加熱する場合に比べ、上記機械を用いて加熱すると熱交換が速やかに行われるため澱粉の加水分解が進行しやすい。
【0028】
ただし、本発明の油脂加工澱粉は、重合度1〜3の糖質含量が所望の範囲を超えると好ましい効果を発揮できないため、加水分解が過剰とならないように各種条件を調整する必要がある。澱粉自体の諸性質によっても、加水分解の進行度合いは異なり、例えば、水分含量が高いほど加水分解が進行しやすく、膨潤し難い澱粉(架橋澱粉等)ほど加水分解が進行し難い。すなわち、熟成処理により油脂加工澱粉の重合度1〜3の糖質を所望の範囲とする場合は、油脂加工澱粉の諸性質(水分含量、用いた原料澱粉の種類、化学修飾により澱粉に付加した官能基の置換度等)を考慮した上で、温度、時間、pH、機器等の加熱条件を適宜調整すればよい。
【0029】
また、後述する所望の水溶性糖質の溶媒中における固形分濃度を有する油脂加工澱粉が得られる限り、「澱粉に油脂を添加混合し、常温以上の温度で熟成処理」以外の、他の処理や条件を加えることは特に制限されなく、上記同様に調整することができる。
【0030】
本発明の油脂加工澱粉は、水懸濁液の水溶性画分の糖組成における重合度1〜3の糖質の含量が3〜20質量%であり、3.5〜19質量%であることが好ましく、4〜18質量%であることがより好ましい。重合度1〜3の糖質の含量が上記範囲を外れると、揚げ物用衣材として用いた場合に、衣の食感の軽さを感じにくくなり、また歯切れが悪くなったりする傾向がある。
【0031】
なお、油脂加工澱粉を懸濁させる水は、特に制限されず、水道水、天然水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水、ミリQ水等の超純水等を例示することができる。
【0032】
本明細書における「懸濁液の水溶性画分の糖組成における重合度1〜3の糖質の含量」とは、油脂加工澱粉中の水溶性糖質における特定重合度(重合度1〜3)糖質の含量を示すものである。この含量は、一例として、以下の手法で分析することができる。
【0033】
なお、本明細書において、「糖組成」とは、試料のHPLC分析における全糖質中の特定糖質の割合(質量%)であり、HPLC分析における各成分のピーク面積比に基づき算出される。後述の実施例に示される通り、HPLC分析においては、糖加熱分解物、油脂、乳化剤、その他添加剤等と考えられる糖以外の成分のピークは、糖組成の算出から除外する。
【0034】
<油脂加工澱粉中の水溶性糖質における特定重合度糖質の含量の分析方法(一例)>
2.0mL容マイクロチューブに0.6gの澱粉試料を入れ、超純水(15〜25℃)1.2mLを添加してボルテックスで良く撹拌する。卓上小型遠心分離機を用いて5,600×gで1分間遠心分離を行う。その後、上清を1.5mL容マイクロチューブに移し、イオン交換樹脂で脱塩処理し、0.45μmのフィルターで濾過した後、以下の条件でHPLC分析を行う。
【0035】
HPLC条件:
カラム:Aminex HPX−42A (Bio−Rad)
カラム温度:75℃
流速:0.5 mL/min
溶離液:超純水
検出器:示差屈折率検出器
【0036】
また、本発明の油脂加工澱粉は、40質量%濃度の水懸濁液の上清中における固形分濃度が0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.3〜5.0質量%であることがより好ましく、0.45〜4.0質量%であることが更に好ましい。固形分濃度が0.1質量%未満であると歯切れが悪いフライ衣となり、固形分濃度が5.0質量%を超えると軽さを感じない、湿気たような食感のフライ衣となる傾向にある。よって、本発明の油脂加工澱粉は、一定程度の水溶性糖質を有し、かつ当該水溶性糖質中の糖組成が一定範囲である場合に、特に有利な効果を発揮することができる。
【0037】
本明細書における「懸濁液の上清中における固形分濃度」とは、油脂加工澱粉中の水溶性糖質の溶媒中における固形分濃度を示すものである。この濃度は、具体的な一例としては、以下の手法で分析することができる。
【0038】
<油脂加工澱粉中の水溶性糖質の溶媒中における固形分濃度>
澱粉試料に超純水(15〜25℃)を加えて40質量%濃度の水懸濁液を調製し、希薄NaOH水溶液を用いてpHを6〜7に調整し撹拌棒で1分間混合する。次に、遠心分離(2,000×g、20分間)を行い、上清を回収して再度遠心分離(2,000×g、20分間)し、上清を再度回収する。得られた上清の質量及びそれを乾固した固形分(水溶性糖質)の質量を測定し、上清中の固形分濃度(%)を算出する。
【0039】
本発明の油脂加工澱粉は、各種食品に配合して用いることができる。食品の種類に特に制限はないが、例えば、揚げ物用衣材の原料として用いることができ、具体的にはバッターや打ち粉といった衣材の原料として用いることができる。
【0040】
本発明の油脂加工澱粉の食品への添加量は、食品の種類に応じて適宜設定すればよいが、揚げ物用衣材の場合、揚げ物用衣材中に、油脂加工澱粉を0.1〜100質量%配合することができ、1〜100質量%配合することが好ましく、2〜50質量%配合することがより好ましい。配合量をこの範囲とすることで、更にサクサクとして軽く、歯切れのよい食感の衣を有する揚げ物を得ることができる。
【0041】
揚げ物用衣材には、本発明の油脂加工澱粉の他に、例えば、小麦粉、コーンフラワー、大豆粉等の穀粉、澱粉、膨張剤、全卵、卵白等の卵又はその加工物、乳化剤、増粘剤、食塩、糖類、香辛料等を配合してもよい。
【0042】
本発明の揚げ物の製造方法は、上記揚げ物用衣材を具材に付着させた後、油ちょう処理を行うことを特徴とする。
【0043】
このような揚げ物用衣材を用いて得られる揚げ物食品としては、から揚げ、天ぷら、竜田揚げ、フライドチキン、チキンカツ、豚カツ、牛カツ、メンチカツ、コロッケ、エビフライ、イカリング、フリッター等を挙げることができる。
【0044】
なお、本発明における揚げ物食品は、油ちょうするものに限らず、フライパン、電子レンジ、オーブン、オーブンレンジ、コンベクションオーブン等による加熱調理法を利用した、所謂ノンフライ食品であっても良い。後述の実施例の通り、本発明の油脂加工澱粉を揚げ物用衣材として用いることで、サクサクと軽い食感の揚げ物を得ることができる。
【0045】
更に、本発明の油脂加工澱粉は、水畜産肉練製品(ハム、チキンナゲット、ソーセージ、ハンバーグ、ミートボール、餃子・シュウマイ・ロールキャベツ、カマボコ、薩摩揚げ、はんぺん、つみれ、魚肉ソーセージ、ちくわ等)や食肉加工品(ハム、ベーコン、ステーキ、ロースビーフ等)、麺類、パン類等の食品にも好適に用いることもできる。
【0046】
本発明の油脂加工澱粉の効果がもたらされるメカニズムについて、詳細は不明であるが重合度1〜3の糖質が20質量%を超えると、低分子の糖質によって吸湿性が高くなることでフライ衣の歯切れが悪くなり、重合度1〜3の糖質が3質量%未満の場合は、高分子の糖質によって澱粉質であるフライ衣の保水性が高くなり、フライ衣の歯切れが悪くなると考えられる。ただし、このメカニズムはあくまでも推察であり、本発明は上記メカニズムに限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
1.油脂加工澱粉の調製とその分析
(1)油脂加工澱粉の調製
<試料1>
タピオカ澱粉に水を添加して、タピオカ澱粉を30〜40質量%含有するスラリーとした。このスラリーを30℃に加温した後、タピオカ澱粉の乾燥質量100質量部に対して2質量部の硫酸ナトリウムを溶解した。その後、水酸化ナトリウムを添加してpH11〜12に調整した後、澱粉の乾燥質量100質量部に対して、0.05質量部の塩化ホスホリルを添加して1時間反応した。次に、硫酸を添加してpH5〜6に調整した後、水洗、脱水、乾燥してリン酸架橋タピオカを得た。得られたリン酸架橋タピオカ100部に対してサフラワー油を0.1部加えて乳鉢で均一に混合し、混合物を得た。この混合物をニーダーにて150℃、2時間加熱することで試料1を調製した。
【0049】
<試料2>
リン酸架橋タピオカを原料澱粉とした市販の油脂加工澱粉(製品名:日食バッタースターチ#500、日本食品化工社製)95質量部に市販のデキストリン(製品名:TK−16、松谷化学工業社製)5質量部を添加混合することで試料2を調製した。
【0050】
<試料3>
試料1と同様の操作で得られたリン酸架橋タピオカに水を添加して、リン酸架橋タピオカを30〜40質量%含有するスラリーとした。スラリーに硫酸を添加してpH2に調整した後、脱水、乾燥した。その後、サフラワー油を0.1部加えて乳鉢で均一に混合し、エアバスにて25℃で1週間熟成処理を施すことで試料3を調製した。
【0051】
<試料4>
アセチル化タピオカを原料澱粉とした市販の油脂加工澱粉(製品名:ねりこみ澱粉K−1、日本食品化工社製)を、更にエアバスを用いて150℃で7時間熟成処理を施すことで試料4を調製した。
【0052】
<試料5>
リン酸架橋タピオカを原料澱粉とした市販の油脂加工澱粉(製品名:日食バッタースターチ#500、日本食品化工社製)を用いた。
【0053】
<試料6>
試料1と同様の操作で得られたリン酸架橋タピオカに、サフラワー油を0.1部加えて乳鉢で均一に混合し、エアバスにて25℃で1週間熟成処理を施すことで試料6を調製した。
【0054】
<試料7>
アセチル化タピオカを原料澱粉とした市販の油脂加工澱粉(製品名:ねりこみ澱粉K−1、日本食品化工社製)を用いた。
【0055】
<試料8>
特開2013−110997号公報の記載に則り、実施例2の試料HDS5を再現することで試料8を調製した。
【0056】
(2)各試料における水懸濁液の水溶性画分の糖組成分析
2.0mL容マイクロチューブに0.6gの各試料を入れ、超純水1.2mL(20℃)を添加してボルテックスで良く撹拌した。卓上小型遠心分離機を用いて5,600×gで1分間遠心分離を行った。その後、上清を1.5mL容マイクロチューブに移し、イオン交換樹脂で脱塩処理し0.45μmのフィルターで濾過した後、以下の条件でHPLC分析を行った。
【0057】
<HPLC条件>
カラム:Aminex HPX−42A (Bio−Rad)
カラム温度:75℃
流速:0.5mL/min
溶離液:超純水
検出器:示差屈折率検出器
【0058】
各試料の糖組成(各成分のピーク面積比に基づく)を求め、結果を表1に示した。
【0059】
【表1】
【0060】
(3)各試料における水溶性糖質の総量の分析
50mL容コニカルチューブに15gの各試料、22.5gの超純水(20℃)を加え、pHを6〜7に調整し撹拌棒で1分間混合した(試料1、2、5、6はスラリー粘度が高い為、200mL容ビーカーを用いて澱粉試料50g、超純水75gで実施した)。次に、遠心分離(2,000×g、20分間)を行い、上清を15mL容コニカルチューブへ回収して、この上清を再度遠心分離(2,000×g、20分間)し、得られた上清をコニカルチューブに再度回収した。得られた上清の質量及びそれを乾固した固形分(水溶性糖質)の質量を測定し、上清中の固形分濃度(%)を算出した。
【0061】
その結果を表2に示した。
【0062】
【表2】
【0063】
2.揚げ物用衣材試験
(1)天ぷらの調製
揚げ物の具材として、厚さ10mmにスライスしたカマボコ(一正蒲鉾製 まめかま白)を用いた。バッターは、試料1〜8の40質量部(乾燥重量として)に対し、薄力粉45質量部、食塩1質量部、グルタミン酸ナトリウム1質量部、増粘多糖類0.4質量部及び氷冷水120質量部を加えて混合撹拌することで調製した。カマボコにバッターを対40〜45質量%となるように付着させ、175℃で1分間フライし、放冷後、急速凍結した。再度、175℃で3分間フライし、天ぷらを調製した。
【0064】
(2)食感(軽さ)の評価
フライ直後に、天ぷらの食感を評価した。食感についての評価基準は、軽い食感(油感や湿り気を感じず、小さい力で簡単に破断し、口どけが良い食感)を呈するものを良好として評価した。評価基準は以下の通りである。
【0065】
1:軽さが全く感じられないもの(油っぽさが非常に強い衣、硬く口どけが悪い衣)
2:軽さがほとんどを感じられないもの
3:少し軽さを感じるもの
4:適度に軽さを感じるもの
5:強く軽さを感じるもの(油っぽさを感じず、ソフトで簡単に破断し、口どけが良い衣)
【0066】
4名のパネラーで評価し、その平均点を算出し、官能評価結果を表3に示した。平均点2.0以下の評価については、望ましい基準に達しないものと判断した。
【0067】
(3)食感(歯切れ)の評価
また、天ぷら衣の歯切れ(歯付きが無く、ゴムのような弾力が少ない食感)についても、歯切れの良いものを良好として評価した。評価基準は以下の通りである。
【0068】
×:歯切れがとても悪い(もちもちして歯に付く)
△:歯切れが悪い
○:歯切れが良い
◎:歯切れがとても良い(もちもちせず、衣に歯が入り易い)
【0069】
4名のパネラーで評価し、パネラー間で評価を協議して、最終的に評価を決定し、官能評価結果を表3に示した。×又は△の評価については、望ましい基準に達しないものと判断した。
【0070】
【表3】