特許第6812091号(P6812091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6812091
(24)【登録日】2020年12月18日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】軟磁性樹脂組成物および軟磁性フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20201228BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   H01F1/26
   H05K9/00 X
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-88690(P2015-88690)
(22)【出願日】2015年4月23日
(65)【公開番号】特開2016-6852(P2016-6852A)
(43)【公開日】2016年1月14日
【審査請求日】2018年2月22日
【審判番号】不服2020-4312(P2020-4312/J1)
【審判請求日】2020年4月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-111612(P2014-111612)
(32)【優先日】2014年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(72)【発明者】
【氏名】松富 亮人
(72)【発明者】
【氏名】鎌倉 菜穂
(72)【発明者】
【氏名】土生 剛志
【合議体】
【審判長】 酒井 朋広
【審判官】 赤穂 嘉紀
【審判官】 須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−59752(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/053737(WO,A1)
【文献】 特開2005−340530(JP,A)
【文献】 特開2002−158482(JP,A)
【文献】 特開2012−212790(JP,A)
【文献】 特開2013−140880(JP,A)
【文献】 特開2014−69409(JP,A)
【文献】 特開平8−109244(JP,A)
【文献】 特開2013−136821(JP,A)
【文献】 特開2007−191587(JP,A)
【文献】 特開2013−14709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粒子、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびアクリル樹脂を含有する軟磁性樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂が、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂であり、
前記フェノール樹脂が、フェノールノボラック樹脂であり、
エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびアクリル樹脂の総量に対して、エポキシ樹脂の含有割合が、30質量%以上90質量%以下であり、
エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびアクリル樹脂の総量に対して、アクリル樹脂の含有割合が、1.0質量%以上15.0質量%以下であり、
前記軟磁性粒子の含有割合は、前記軟磁性樹脂組成物に対して、60体積%以上であり、
硬化後のガラス転移温度以上における線膨張係数が22.0ppm/℃以下であることを特徴とする、軟磁性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の軟磁性樹脂組成物から形成されることを特徴とする、軟磁性フィルム。
【請求項3】
厚さが500μm以下であることを特徴とする、請求項2に記載の軟磁性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性樹脂組成物および軟磁性フィルム、詳しくは、軟磁性樹脂組成物およびそれから形成される軟磁性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器に、電子機器のノイズを抑制するために、透磁率に優れる軟磁性フィルムを設けることが知られている。電子機器の製造プロセスでは、軟磁性フィルムが配置された基板に電子部品をはんだを介して配置し、その後、はんだをリフロー炉において加熱する(リフローはんだ付けする)ことにより、基板と電子部品とをはんだにより、電気的に接続している。
【0003】
そのような軟磁性フィルムとして、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、合成ゴムおよびフェノール樹脂を含有する樹脂組成物と、軟磁性金属粉末とを含有する複合磁性体であって、軟磁性金属粉末の含有割合が複合磁性体に対して、54体積%である複合磁性体が提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。特許文献1の複合磁性体は、リフローはんだ付けにおいて形態不良を生じにくいため、耐リフロー性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−26324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子機器に薄型化が求められており、軟磁性フィルムの平坦性を確保すべく、軟磁性フィルムには、リフローはんだ付けの加熱において反りを抑制することが要求されている。
【0006】
しかし、特許文献1の記載の複合磁性体では、上記した要求を十分に満足させることができないという不具合がある。
【0007】
本発明の目的は、透磁率に優れながら、加熱における反りを抑制することのできる軟磁性フィルムおよびそれを形成するための軟磁性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の軟磁性樹脂組成物は、軟磁性粒子、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびアクリル樹脂を含有する軟磁性樹脂組成物であって、前記軟磁性粒子の含有割合が、前記型軟磁性樹脂組成物に対して、60体積%以上であり、硬化後の前記軟磁性樹脂組成物は、22.0ppm/℃以下の線膨張係数を有することを特徴としている。
【0009】
本発明の軟磁性フィルムは、上記した軟磁性樹脂組成物から形成されることを特徴としている。
【0010】
本発明の軟磁性フィルムは、厚さが500μm以下であることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の軟磁性樹脂組成物および軟磁性フィルムは、軟磁性粒子、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびアクリル樹脂を含有し、軟磁性粒子の含有割合が特定値以上である。
【0012】
そのため、軟磁性樹脂組成物および軟磁性フィルムは、透磁率に優れながら、硬化後の軟磁性樹脂組成物および軟磁性フィルムは、特定値以下の線膨張係数を有することができる。
【0013】
その結果、ノイズを抑制できながら、加熱による軟磁性フィルムの反りを抑制して、加熱後の軟磁性フィルムの平坦性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の軟磁性フィルムの一実施形態を備える軟磁性積層回路基板の断面図を示す。
図2図2Aおよび図2Bは、実施例における反りの測定を説明する図であって、図2Aは、平面図、図2Bは、側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の軟磁性樹脂組成物は、軟磁性粒子、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびアクリル樹脂を含有する。
【0016】
軟磁性粒子を構成する軟磁性材料としては、例えば、磁性ステンレス(Fe−Cr−Al−Si合金)、センダスト(Fe−Si−A1合金)、パーマロイ(Fe−Ni合金)、ケイ素銅(Fe−Cu−Si合金)、Fe−Si合金、Fe−Si―B(−Cu−Nb)合金、Fe−Si−Cr−Ni合金、Fe−Si−Cr合金、Fe−Si−Al−Ni−Cr合金、フェライトなどが挙げられる。これらの中でも、磁気特性の点から、好ましくは、センダスト(Fe−Si−Al合金)が挙げられる。
【0017】
軟磁性粒子は、扁平状(板状)に形成されている、すなわち、厚みが薄くて面が広い形状に形成されている。軟磁性粒子の扁平率(扁平度)は、例えば、8以上、好ましくは、15以上であり、また、例えば、80以下、好ましくは、65以下である。扁平率は、例えば、軟磁性粒子の平均粒子径(平均長さ)を軟磁性粒子の平均厚さで除したアスペクト比として算出される。
【0018】
軟磁性粒子の平均粒子径(平均長さ)は、例えば、3.5μm以上、好ましくは、10μm以上であり、また、例えば、100μm以下である。平均厚みは、例えば、0.3μm以上、好ましくは、0.5μm以上であり、また、例えば、3μm以下、好ましくは、2.5μm以下である。軟磁性粒子の扁平率、平均粒子径、平均厚みなどを調整することにより、軟磁性粒子による反磁界の影響を小さくでき、その結果、軟磁性粒子の透磁率を増加させることができる。なお、軟磁性粒子の大きさを均一にするために、必要に応じて、ふるいなどを使用して分級された軟磁性粒子を用いてもよい。
【0019】
軟磁性粒子の比重は、例えば、5.0以上8.0以下である。
【0020】
軟磁性樹脂組成物における軟磁性粒子の体積割合は、固形分換算で、60体積%以上、好ましくは、65体積%以上、より好ましくは、70体積%以上であり、例えば、95体積%以下、好ましくは、90体積%以下である。また、質量割合は、固形分換算で、例えば、85質量%を超過し、好ましくは、88質量%以上、より好ましくは、90質量%以上であり、また、例えば、98質量%以下、好ましくは、95質量%以下である。軟磁性粒子の含有割合を上記下限以上とすることにより、軟磁性フィルムの磁気特性が優れる。一方、上記上限以下とすることにより、軟磁性樹脂組成物の成膜性が優れる。
【0021】
なお、軟磁性粒子などの各成分の体積割合は、各成分の質量をその成分の比重で除した理論体積を元に算出される。各成分の比重は、カタログ値または公知の測定方法(例えば、比重測定法)によって得られる。
【0022】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオンレン型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂などが挙げられる。また、エポキシ樹脂として、例えば、ヒダントイン型エポキシ樹脂、トリスグリシジルイソシアヌレート型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂なども挙げられる。これらは単独使用または2種以上を併用することができる。
【0023】
これらのエポキシ樹脂のうち、好ましくは、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0024】
トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂は、繰り返し単位として2つ以上の官能基(グリシジル基など)を有する多官能モノマーから構成されるエポキシ樹脂(多官能モノマー型エポキシ樹脂)であって、具体的には、下記一般式(1)で表されるトリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0025】
【化1】
【0026】
なお、nは、モノマーの重合度を示す。
【0027】
トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂は、多官能モノマー型エポキシ樹脂であるため、溶融温度が低く、かつ、フェノール樹脂と密に架橋硬化できる。そのため、軟磁性粒子を高い含有割合(具体的には、60体積%以上)で含有する軟磁性樹脂組成物を圧縮し、高充填率の軟磁性樹脂組成物を作製する際に、軟磁性粒子同士の反発力による樹脂組成物の亀裂ひいては空隙の発生(スプリングバック)を抑制することができ、低い線膨張係数を有する軟磁性樹脂組成物をより確実に作製することができる。
【0028】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば、10g/eq.以上、好ましくは、100g/eq.以上であり、また、例えば、500g/eq.以下、好ましくは、180g/eq.以下である。
【0029】
エポキシ樹脂の粘度(150℃)は、例えば、1.0Pa・s以下、好ましくは、0.2Pa・s以下であり、また、0.01Pa・s以上である。粘度は、ICI粘度計により測定される。
【0030】
エポキシ樹脂の比重は、例えば、1.0以上1.5以下である。
【0031】
エポキシ樹脂の配合割合は、後述される。
【0032】
フェノール樹脂は、エポキシ樹脂の硬化剤であって、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、フェノールビフェニレン樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、レゾール樹脂などが挙げられる。これらは単独使用また2種以上を併用することができる。
【0033】
これらのフェノール樹脂のうち、好ましくは、フェノールノボラック樹脂が挙げられる。フェノールノボラック樹脂は、エポキシ樹脂との反応性が優れ、樹脂強度を向上することができる。
【0034】
なお、上記したエポキシ樹脂およびフェノール樹脂は、熱硬化性樹脂成分を構成する。具体的には、熱硬化性樹脂成分において、エポキシ樹脂は主剤であり、フェノール樹脂は硬化剤である。
【0035】
フェノール樹脂の水酸基当量は、例えば、10g/eq.以上、好ましくは、80g/eq.以上であり、また、例えば、500g/eq.以下、好ましくは、150g/eq.以下である。
【0036】
フェノール樹脂の比重は、例えば、1.0以上1.5以下である。
【0037】
フェノール樹脂の配合割合は、後述される。
【0038】
また、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との組み合わせとして、低い線膨張係数を有する軟磁性樹脂組成物をより確実に作製する観点から、好ましくは、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂と、フェノールノボラック樹脂との組み合わせが挙げられる。
【0039】
つまり、繰り返し単位に官能基を複数有するトリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂に対して、架橋点距離を短くすることができるフェノールノボラック樹脂を使用することにより、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂とフェノールノボラック樹脂とが互に密に多く架橋することができ、より高強度の硬化樹脂を得ることができる。このため、軟磁性粒子のスプリングバックを確実に抑制し、特に低い線膨張係数を有する軟磁性樹脂組成物をより確実に作製できる。
【0040】
アクリル樹脂としては、例えば、直鎖もしくは分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種または2種以上をモノマー成分とし、そのモノマー成分を重合することにより得られるアクリル系重合体などが挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」は、「アクリルおよび/またはメタクリル」を表す。
【0041】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、へプチル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、テトラデシル基、ステアリル基、オクタデシル基、ドデシル基などの炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。
【0042】
アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとその他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0043】
その他のモノマーとしては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのグリシジル基含有モノマー、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸などカルボキシル基含有モノマー、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリルまたは(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレートなどのヒドロキシル基含有モノマー、例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートなど燐酸基含有モノマー、例えば、スチレンモノマー、例えば、アクリロニトリルなどが挙げられる。これらは単独使用または2種以上を併用することができる。これらの中でも、好ましくは、アクリロニトリルが挙げられる。
【0044】
また、アクリル樹脂は、好ましくは、エポキシ基を有する。アクリル樹脂がエポキシ基を有する場合、エポキシ価は、例えば、10eq./g以上、好ましくは、100eq./g以上であり、また、例えば、800eq./g以下、好ましくは、500eq./g以下である。
【0045】
アクリル樹脂の重量平均分子量は、例えば、1×10以上、好ましくは、3×10以上であり、また、例えば、1×10以下である。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトフラフィー(GPC)により、標準ポリスチレン換算値により測定される。
【0046】
アクリル樹脂のガラス転移温度は、例えば、−20℃以上、好ましくは、0℃以上、より好ましくは、10℃以上であり、また、例えば、50℃以下、好ましくは、30℃以下である。アクリル樹脂のガラス転移温度を上記下限以上とすることにより、樹脂成分の強度を向上させ、スプリングバックを抑制し、線膨張係数を低くすることができる。また、軟磁性樹脂組成物の取扱い、半硬化状態における軟磁性樹脂組成物の接着性に優れる。なお、ガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて、引張モード(周波数1Hz、昇温速度10℃/min)で測定される損失正接(tanδ)の極大値より得られる。
【0047】
アクリル樹脂の比重は、例えば、0.6以上1.0以下である。
【0048】
軟磁性樹脂組成物における樹脂成分、つまり、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびアクリル樹脂の総体積割合は、固形分換算で、例えば、5体積%以上、好ましくは、10体積%以上であり、また、例えば、35体積%以下、好ましくは、30体積%以下である。軟磁性樹脂組成物における樹脂成分の質量割合は、固形分換算で、例えば、2質量%以上、好ましくは、5質量%以上であり、また、例えば、15質量%未満、好ましくは、12質量%以下、より好ましくは、10質量%以下である。樹脂成分の含有割合が上記範囲内であることにより、軟磁性フィルムの成膜性、磁気特性に優れる。
【0049】
エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびアクリル樹脂(樹脂成分)におけるエポキシ樹脂およびフェノール樹脂(熱硬化性樹脂成分)の体積割合は、例えば、例えば、85体積%以上、好ましくは、92体積%以上、より好ましくは、95体積%以上であり、また、例えば、99体積%以下、好ましくは、97体積%以下である。
【0050】
樹脂成分におけるエポキシ樹脂の体積割合は、例えば、10体積%以上、好ましくは、30体積%以上、より好ましくは、55体積%以上、さらに好ましくは、60体積%以上であり、また、例えば、90体積%以下、好ましくは、80体積%以下、より好ましくは、70体積%以下である。樹脂成分におけるエポキシ樹脂の質量割合は、例えば、10質量%以上、好ましくは、30質量%以上、好ましくは、40質量%以上であって、また、例えば、90質量%以下、好ましくは、80質量%以下、より好ましくは、70質量%以下である。
【0051】
樹脂成分におけるフェノール樹脂の体積割合は、例えば、10体積%以上、好ましくは、20体積%以上、より好ましくは、30体積%を超過し、また、例えば、90体積%以下、好ましくは、70体積%以下、より好ましくは、50体積%未満、さらに好ましくは、40体積%以下である。樹脂成分におけるフェノール樹脂の質量割合は、例えば、10質量%以上、好ましくは、20質量%以上、より好ましくは、30質量%を超過し、また、例えば、90質量%以下、好ましくは、70質量%以下、より好ましくは、50質量%未満である。
【0052】
また、エポキシ樹脂100体積部に対するフェノール樹脂の含有割合は、例えば、10体積部以上、好ましくは、50体積部以上であり、また、例えば、200体積部以下、好ましくは、100体積部未満である。
【0053】
樹脂成分におけるアクリル樹脂の体積割合は、例えば、1.0体積%以上、好ましくは、3.0体積%以上であり、また、例えば、15.0体積%以下、好ましくは、8.0体積%以下、より好ましくは、5.0体積%以下である。樹脂成分におけるアクリル樹脂の質量割合は、例えば、1.0質量%以上、好ましくは、3.0質量%以上であり、また、例えば、15.0質量%以下、好ましくは、8.0質量%以下、より好ましくは、5.0質量%以下である。アクリル樹脂の含有割合が上記範囲内である場合、軟磁性樹脂組成物の線膨張係数をより低くすることができる。
【0054】
軟磁性樹脂組成物は、好ましくは、熱硬化触媒を含有する。
【0055】
熱硬化触媒としては、加熱により樹脂成分の硬化を促進する触媒であれば限定的でなく、例えば、イミダゾール系化合物、トリフェニルフォスフィン系化合物、トリフェニルボラン系化合物、アミノ基含有化合物などが挙げられる。好ましくは、イミダゾール系化合物が挙げられる。
【0056】
イミダゾール系化合物としては、例えば、2−フェニルイミダゾール(商品名;2PZ)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(商品名;2E4MZ)、2−メチルイミダゾール(商品名;2MZ)、2−ウンデシルイミダゾール(商品名;C11Z)、2−フェニル−1H−イミダゾール4,5−ジメタノール(商品名;2PHZ−PW)、2,4−ジアミノ−6−(2’−メチルイミダゾリル(1)’)エチル−s−トリアジン・イソシアヌール酸付加物(商品名;2MAOK−PW)などが挙げられる(上記商品名は、いずれも四国化成社製)。これらは単独使用または2種以上を併用することができる。
【0057】
熱硬化触媒の比重は、例えば、0.9以上1.5以下である。
【0058】
熱硬化触媒の含有割合は、樹脂成分100体積部に対して、例えば、0.1体積部以上、好ましくは、0.3体積部以上であり、また、例えば、5体積部以下、好ましくは、3体積部以下である。熱硬化触媒の質量割合は、樹脂成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、0.3質量部以上であり、また、例えば、5質量部以下、好ましくは、3質量部以下である。熱硬化触媒の含有割合を上記範囲内とすることにより、軟磁性樹脂組成物を低温度かつ短時間で加熱硬化することができ、また、耐リフロー性に優れる。
【0059】
軟磁性樹脂組成物は、必要により、レオロジーコントロール剤および/または分散剤を含有することもできる。軟磁性樹脂組成物がレオロジーコントロール剤を含有することにより、軟磁性粒子を軟磁性樹脂組成物中により均一に分散させることができる。軟磁性樹脂組成物が分散剤を含有することにより、軟磁性粒子を軟磁性樹脂組成物中により均一に分散させることができる。
【0060】
レオロジーコントロール剤は、せん断力(せん断速度)が低い場合には高粘度を示し、せん断力(せん断速度)が高い場合には低粘度を示すチキソトロピック性を軟磁性樹脂組成物に付与するチキソトロピック剤である。
【0061】
レオロジーコントロール剤としては、例えば、有機系レオロジーコントロール剤および無機系レオロジーコントロール剤が挙げられる。好ましくは、有機系レオロジーコントロール剤が挙げられる。
【0062】
有機系レオロジーコントロール剤としては、例えば、変性ウレア、ウレア変性ポリアマイド、脂肪酸アマイド、ポリウレタン、高分子ウレア誘導体などが挙げられる。好ましくは、変性ウレア、ウレア変性ポリアマイド、脂肪酸アマイドが挙げられ、より好ましくは、ウレア変性ポリアマイドが挙げられる。
【0063】
無機系レオロジーコントロール剤としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、スメクタイトなどが挙げられる。
【0064】
レオロジーコントロール剤としては、具体的には、例えば、ビックケミー社の「BYK−410」、「BYK−430」、「BYK−431」、例えば、楠本化成社の「ディスパロンPFA−131」、例えば、日本アエロジル社の「アエロジル VP NK200」、「アエロジル R976S」、「アエロジル COK84」などが挙げられる。
【0065】
これらは単独使用または2種以上を併用することができる。
【0066】
レオロジーコントロール剤の比重は、例えば、0.6以上1.0以下である。
【0067】
レオロジーコントロール剤の体積割合は、樹脂成分100体積部に対して、例えば、0.1体積部以上、好ましくは、1体積部以上であり、また、例えば、10体積部以下、好ましくは、5体積部以下である。レオロジーコントロール剤の質量割合は、樹脂成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、1質量部以上であり、また、例えば、10質量部以下、好ましくは、5質量部以下である。
【0068】
分散剤としては、例えば、ポリエーテルリン酸エステルなどが挙げられる。
【0069】
ポリエーテルリン酸エステルとして、具体的には、楠本化成社のHIPLAADシリーズ(「ED−152」、「ED−153」、「ED−154」、「ED−118」、「ED−174」、「ED−251」)などが挙げられる。
【0070】
ポリエーテルリン酸エステルの酸価は、例えば、10以上、好ましくは、15以上であり、また、例えば、200以下、好ましくは、150以下である。酸価は、中和滴定法などによって測定される。
【0071】
分散剤の比重は、例えば、0.8以上1.2以下である。
【0072】
分散剤の体積割合は、樹脂成分100体積部に対して、例えば、0.05体積部以上、好ましくは、1体積部以上であり、また、例えば、10体積部以下、好ましくは、5体積部以下である。ポリエーテルリン酸エステルの質量割合は、軟磁性粒子100質量部に対し、0.01質量部以上、好ましくは、0.05質量部以上である。また、5質量部以下、好ましくは、2質量部以下である。
【0073】
軟磁性樹脂組成物は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびアクリル樹脂以外のその他の樹脂、さらに必要に応じて、その他の添加剤を適宜の割合で含有することもできる。
【0074】
その他の樹脂としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂(6−ナイロン、6,6−ナイロンなど)、フェノキシ樹脂、飽和ポリエステル樹脂(PET、PBTなど)、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。これらは単独使用または2種以上を併用することができる。
【0075】
添加剤としては、例えば、架橋剤、無機充填材などの市販または公知のものが挙げられる。
【0076】
軟磁性樹脂組成物は、上記成分を上記含有割合で混合することにより調製される。
【0077】
また、例えば、上記した各成分と溶媒とを混合して、各成分を溶媒に溶解および/または分散させることにより、軟磁性樹脂組成物を軟磁性樹脂組成物溶液として調製することもできる。
【0078】
次に、上記した軟磁性樹脂組成物から形成される軟磁性フィルムを説明する。
【0079】
軟磁性フィルムは、上記した軟磁性樹脂組成物からフィルム状に形成される。
【0080】
具体的には、軟磁性フィルムは、例えば、軟磁性樹脂組成物を溶媒に溶解または分散させることにより、軟磁性樹脂組成物溶液を調製する調製工程、軟磁性樹脂組成物溶液を離型基材の表面に塗布し、乾燥させることにより、半硬化状態の軟磁性フィルムを得る乾燥工程、および、軟磁性フィルムを複数枚積層し、熱プレスする熱プレス工程により、製造することができる。
【0081】
まず、軟磁性樹脂組成物を溶媒に溶解または分散させる(調製工程)。これにより、軟磁性樹脂組成物溶液を調製する。
【0082】
溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)などケトン類、例えば、酢酸エチルなどのエステル類、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類、例えば、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類などの有機溶媒などが挙げられる。また、溶媒として、例えば、水、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコールなどの水系溶媒も挙げられる。
【0083】
軟磁性樹脂組成物溶液における固形分量は、例えば、10質量%以上、好ましくは、30質量%以上であり、また、例えば、90質量%以下、好ましくは、85質量%以下である。
【0084】
次いで、軟磁性樹脂組成物溶液を、離型基材(セパレータ、コア材など)の表面に塗布し、乾燥させる(乾燥工程)。
【0085】
塗布方法としては特に限定されず、例えば、ドクターブレード法、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工などが挙げられる。
【0086】
乾燥条件としては、乾燥温度は、例えば、70℃以上160℃以下であり、乾燥時間は、例えば、1分以上5分以下である。
【0087】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、紙などが挙げられる。これらは、その表面に、例えば、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤、シリコーン系剥離剤などにより離型処理されている。
【0088】
コア材としては、例えば、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルムなどのようなプラスチックフィルム、アルミウム箔などのような金属フィルム、例えば、ガラス繊維やプラスチック製不織繊維などで強化された樹脂基板、シリコン基板、ガラス基板などが挙げられる。
【0089】
セパレータまたはコア材の平均厚みは、例えば、1μm以上500μm以下である。
【0090】
これにより、半硬化状態(Bステージ状態)の軟磁性フィルムを得る。
【0091】
軟磁性フィルムの平均厚みは、例えば、5μm以上、好ましくは、50μm以上であり、また、例えば、500μm以下、好ましくは、250μm以下である。
【0092】
次いで、得られた軟磁性フィルムを複数枚用意し、複数枚の軟磁性フィルムを熱プレスにより、厚み方向に熱プレスする(熱プレス工程)。これにより、半硬化状態の軟磁性フィルムが加熱硬化される。また、軟磁性フィルム内に軟磁性粒子を高割合で充填させ、磁気特性を向上させることができる。
【0093】
熱プレスは、公知のプレス機を用いて実施することができ、例えば、平行平板プレス機などが挙げられる。
【0094】
軟磁性フィルムの積層枚数は、例えば、2以上であり、また、例えば、20以下、好ましくは、5以下である。これにより、所望の厚みの軟磁性フィルムに調整することができる。
【0095】
加熱温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、100℃以上であり、また、例えば、200℃以下、好ましくは、180℃以下である。
【0096】
加熱時間は、例えば、0.1時間以上、好ましくは、0.2時間以上であり、また、例えば、24時間以下、好ましくは、2時間以下である。
【0097】
圧力は、例えば、10MPa以上、好ましくは、20MPa以上であり、また、例えば、500MPa以下、好ましくは、200MPa以下である。
【0098】
これにより、軟磁性フィルムが加熱硬化され、硬化状態(Cステージ状態)の軟磁性フィルムが得られる。
【0099】
この軟磁性フィルムの厚みは、平均厚みとして、例えば、5μm以上、好ましくは、50μm以上であり、また、例えば、500μm以下、好ましくは、250μm以下である。上記した上限を超えると、軟磁性フィルム、ひいては、それを備える電子機器を薄型化できない場合がある。上記した下限に満たないと、透磁率に優れる軟磁性フィルムを作製できない場合がある。
【0100】
硬化後(Cステージ状態)の軟磁性フィルムは、ガラス転移温度未満とガラス転移温度以上との両方の温度範囲において、22.0ppm/℃以下の線膨張係数を有し、好ましくは、20.5ppm/℃以下の線膨張係数を有し、より好ましくは、18.0ppm/℃以下の線膨張係数を有し、さらに好ましくは、15.0ppm/℃以下の線膨張係数を有し、また、例えば、10.0ppm/℃以上の線膨張係数を有する。
【0101】
一方、硬化後の軟磁性フィルムが、上記上限以下の線膨張係数を有しない場合には、リフロー工程の加熱における硬化後の軟磁性フィルムの反りを抑制できない場合がある。
【0102】
具体的には、硬化後の軟磁性フィルムのガラス転移温度未満における線膨張係数αは、例えば、18.0ppm/℃以下、好ましくは、17.0ppm/℃以下、より好ましくは、16.0ppm/℃以下、さらに好ましくは、15.0ppm/℃以下であり、また、10.0ppm/℃以上である。
【0103】
ガラス転移温度未満における線膨張係数αが上記上限を超えると、リフロー工程の加熱の前期段階における硬化後の軟磁性フィルムの反りを抑制できない場合がある。
【0104】
また、硬化後の軟磁性フィルムのガラス転移温度以上における線膨張係数αは、例えば、22.0ppm/℃以下、好ましくは、21.0ppm/℃以下、より好ましくは、20.5ppm/℃以下、また、15.0ppm/℃以上である。
【0105】
ガラス転移温度以上における線膨張係数αが上記上限を超えると、リフロー工程の加熱の後期段階における硬化後の軟磁性フィルムの反りを抑制できない場合がある。
【0106】
硬化後の軟磁性フィルムは、好ましくは、ガラス転移温度未満における線膨張係数αが上記した特定値以下であり、かつ、ガラス転移温度以上における線膨張係数αが上記した特定値以下である。ガラス転移温度未満における線膨張係数αおよびガラス転移温度以上における線膨張係数αのそれぞれが上記した特定値以下であれば、リフロー工程の全段階における軟磁性フィルムの反りを抑制することができる。
【0107】
なお、軟磁性フィルムのガラス転移温度は、例えば、40℃以上である。好ましくは、60℃以上、より好ましくは、80℃以上であり、また、例えば、200℃以下、好ましくは、180℃以下である。また、軟磁性フィルムのガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて、引張モード(周波数1Hz、昇温速度10℃/min)で測定される損失正接(tanδ)の極大値より得られる。
【0108】
軟磁性フィルムは、好ましくは、軟磁性フィルムに含有される扁平状軟磁性粒子が、軟磁性フィルムの2次元の面内方向に配列されている。すなわち、扁平状軟磁性粒子の長手方向(厚み方向と直交する方向)が軟磁性フィルムの面方向に沿うように配向している。これにより、軟磁性フィルムは、軟磁性粒子が高割合で充填され、磁気特性に優れる。また、軟磁性フィルムの薄型化が図られている。
【0109】
この軟磁性フィルムは、例えば、軟磁性フィルムの単層のみからなる単層構造、コア材の片面または両面に軟磁性フィルムが積層された多層構造、軟磁性フィルムの片面または両面にセパレータが積層された多層構造などの形態とすることができる。
【0110】
また、上記の実施形態では、軟磁性フィルムを複数枚積層させて熱プレスしたが、例えば、軟磁性フィルム1枚(単層)に対して熱プレスを実施してもよい。
【0111】
この軟磁性フィルムは、例えば、電子機器に用いられ、具体的には、アンテナ、コイル、またはこれらが表面に形成され、電子素子を実装する回路基板に積層するための軟磁性フィルムとして好適に用いることができる。
【0112】
具体的には、この軟磁性フィルムは、例えば、図1に示すように、回路基板2と、回路基板2の下面(一方面)に配置される接着剤層3と、接着剤層3の下面に配置される軟磁性フィルム4とを備える軟磁性フィルム積層基板1として用いることができる。
【0113】
回路基板2は、例えば、電磁誘導方式で使用される回路基板2などであり、基板5の上面(一方面)に、ループコイルなどの配線パターン6が形成されている。配線パターン6は、セミアディティブ法またはサブトラクティブ法などによって形成される。
【0114】
基板5を構成する絶縁材料としては、例えば、ガラスエポキシ基板、ガラス基板、PET基板、テフロン基板、セラミックス基板、ポリイミド基板などが挙げられる。
【0115】
接着剤層3は、回路基板2の接着剤として通常使用される公知のものが用いられ、例えば、エポキシ系接着剤、ポリイミド系接着剤、アクリル系接着剤などの接着剤を塗布および乾燥することにより形成される。接着剤層3の厚みは、例えば、10〜100μmである。
【0116】
軟磁性フィルム4は、上述の軟磁性フィルムであって、扁平状の軟磁性粒子7が軟磁性樹脂組成物(具体的には、樹脂成分が硬化した硬化樹脂8)中に分散されている。好ましくは、軟磁性粒子7は、その長手方向(厚み方向と直交する方向)が軟磁性フィルム4の面方向に沿うように配向している。
【0117】
このような軟磁性フィルム積層基板1は、例えば、スマートフォン、パソコン、位置検出装置などの用途に用いることができる。
【0118】
なお、図1の実施形態では、回路基板2と軟磁性フィルム4との間に接着剤層3が設けられているが、例えば、図示しないが、回路基板2に軟磁性フィルム4を直接接触するように設けることもできる。
【0119】
軟磁性フィルム4を回路基板2に直接積層させるためには、半硬化状態の軟磁性フィルムを回路基板2に直接貼着させた後、軟磁性フィルムを加熱硬化する。
【0120】
リフロー工程における温度は、例えば、200℃以上、好ましくは、250℃以上であり、また、例えば、500℃以下、好ましくは、300℃以下である。
【0121】
リフロー保存時間は、例えば、1秒以上、好ましくは、5秒以上であり、また、例えば、10分以下、好ましくは、5分以下である。
【0122】
リフロー工程後における軟磁性フィルムの比透磁率μ´は、例えば、120以上、好ましくは、130以上、より好ましくは、140以上であり、また、例えば、500以下である。
【0123】
そして、軟磁性樹脂組成物およびこの軟磁性フィルムは、軟磁性粒子、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびアクリル樹脂を含有し、軟磁性樹脂組成物に対する軟磁性粒子の体積割合が、固形分換算で、60体積%以上である。
【0124】
そのため、軟磁性樹脂組成物および軟磁性フィルムは、透磁率に優れながら、硬化後の軟磁性樹脂組成物および軟磁性フィルムは、22.0ppm/℃以下の線膨張係数を有することができる。
【0125】
その結果、電子機器のノイズを抑制できながら、加熱による軟磁性フィルムの反りを抑制して、加熱後の軟磁性フィルムの平坦性を確保することができる。そのため、軟磁性フィルムを備える電気機器の薄型化ができる。
【0126】
なお、本発明において、フィルムは、テープまたはシートと同義である。
【0127】
また、上記した説明では、本発明の軟磁性樹脂組成物から軟磁性フィルムを形成しているが、例えば、図示しないが、軟磁性樹脂組成物から不定形または定形のブロック状の軟磁性ブロック(軟磁性成形体)などに形成することができ、その場合にも、軟磁性ブロックは、上記した特定の線膨張係数を有する。
【実施例】
【0128】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0129】
実施例1
軟磁性樹脂組成物に対し軟磁性粒子の体積割合が固形分換算で70.0体積%となるように、Fe−Si−Al合金500質量部、エポキシ樹脂として、上記一般式(1)で表わされるエポキシ樹脂(日本化薬社製、EPPN−501HY)21.9質量部、フェノール樹脂としてフェノールノボラック樹脂(群栄化学工業社製、レヂトップ LVR8210DL)13.5質量部、アクリル樹脂としてアクリル酸エステル共重合物(ナガセケムテックス社製、テイサンレジン SG−P3)8.6質量部、分散剤としてポリエーテルリン酸エステル(楠本化成社製、ED152、)0.5質量部(軟磁性粒子100質量部に対して、0.1質量部)、熱硬化性触媒として2−フェニル−1H−イミダゾール4,5−ジメタノール(四国化成社製、キュアゾール2PHZ−PW)0.28質量部(樹脂成分100質量部に対して1.0質量部)、および、レオロジーコントロール剤としてBYK−430(ビックケミージャパン社製)3質量部を混合することにより、軟磁性樹脂組成物を得た。
【0130】
なお、軟磁性樹脂組成物における各成分の体積割合(固形分の体積%)を表1に示す。
【0131】
この軟磁性樹脂組成物をMEKに溶解させることにより、固形分濃度85質量%の軟磁性樹脂組成物溶液を調製した。
【0132】
実施例2および比較例1〜2
表1に記載の成分および配合割合で、各成分を混合して軟磁性樹脂組成物を得た以外は、実施例1と同様に処理し、その後、軟磁性樹脂組成物溶液を調製した。
【0133】
(熱膨張係数)
各実施例および各比較例の軟磁性樹脂組成物溶液を、離型処理済みのセパレータの上に塗布し、その後、110℃の熱雰囲気下で2分間乾燥させた。これにより、半硬化状態の軟磁性フィルム(平均厚み50μm)を製造した。
【0134】
次いで、この軟磁性フィルムを、3層積層して、積層体を作製し、この積層体を真空熱プレス装置(ミカドテクノス社製)で、175℃、30分、40MPaの条件で熱プレスして加熱硬化させることにより、完全硬化状態の軟磁性フィルム(平均厚み150μm)を作製した。
【0135】
このような軟磁性フィルムについて、下記の条件に基づいて、熱機械測定を実施し、熱膨張係数(ガラス転移温度未満での線膨張係数をα、ガラス転移温度以上での線膨張係数をα)を求めた。
【0136】
熱機械測定装置(TMA):TMA(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製
サンプルサイズ:4mm×16mm
モード:引張モード
昇温速度:5℃/分
測定温度範囲:−50℃から300℃
【0137】
別途、ガラス転移温度を、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて、引張モード(周波数1Hz、昇温速度10℃/min)で測定される損失正接(tanδ)の極大値より得た。
【0138】
(反り測定)
各実施例および各比較例の軟磁性樹脂組成物溶液を、離型処理済みのセパレータの上に塗布し、その後、110℃の熱雰囲気下で2分間乾燥させた。これにより、半硬化状態の軟磁性フィルム(平均厚み50μm)を製造した。
【0139】
次いで、この軟磁性フィルムを、3層積層して、図2Aおよび図2Bに示すように、これをCu箔12にさらに積層して積層体を作製し、この積層体を10cm×10cmに外形加工した後、真空熱プレス装置(ミカドテクノス社製)で、175℃、30分、真空下1000Paの条件で熱プレスにて加熱硬化させることにより、Cu箔12と貼り合わせ、Cu箔12に積層された完全硬化状態の軟磁性フィルム4(平均厚み162μm)を作製した。
【0140】
このような軟磁性フィルム4およびCu箔12を、5分間、ピーク温度260℃のリフロー炉に、通過させた。
【0141】
これにより、軟磁性フィルム4の4つの角部10が中央部11に対して反った。具体的には、角部10のCu箔12に対する接触面が、Cu箔12側に移動するように、角部10がカールした。
【0142】
その後、リフロー工程後の軟磁性フィルム4およびCu箔12を、軟磁性フィルム4が下を向くように、上面が平坦である台13に載置した。つまり、軟磁性フィルム4の中央部11を台13の上面に接触させた。そうすると、軟磁性フィルム4の4つの角部10のそれぞれが、台13に対して上側に間隔を隔てて配置された(浮き上がった)。
【0143】
そして、4つの角部10のそれぞれと、台13との距離の平均値を、反り量として求めた。
【0144】
(比透磁率)
各実施例および比較例で製造した軟磁性フィルムの比透磁率は、インピーダンスアナライザ(Agilent社製、商品番号「4294A」)を用いて、インピーダンスを測定することにより求めた。
【0145】
【表1】
【0146】
表における各成分中の数値は、固形分を示す。各実施例、各比較例および表中の各成分の略称について、以下にその詳細を記載する。
・Fe−Si−Al合金:商品名「FME3DH」、軟磁性粒子、扁平状、平均粒子径43μm、平均厚み1μm、比重6.8、山陽特殊製鋼社製
・SG−P3:アクリルゴム溶液、商品名「テイサンレジン SG−P3」、エポキシ基含有のアクリル酸エチル−アクリル酸ブチル−アクリロニトリル共重合体、比重0.85、重量平均分子量8.5×10、エポキシ価210eq./g、ガラス転移温度12℃、ゴム含有割合15質量%、溶媒:メチルエチルケトン、ナガセケムテックス社製
・LVR8210DL:フェノールノボラック樹脂:商品名「レヂトップ LVR8210DL」、水酸基当量104g/eq.、比重1.2、群栄化学工業社製
・EPPN−501HY:上記一般式(1)で表わされるエポキシ樹脂、商品名「EPPN−501HY」、エポキシ当量169g/eq.、ICI粘度(150℃)0.1Pa・s、比重1.25、日本化薬社製
・ED152:ポリエーテルリン酸エステル:商品名「HIPLAAD ED152」、ポリエーテルリン酸エステル、酸価17、比重1.03、楠本化成社製
・BYK−430:商品名、レオロジーコントロール剤、ウレア変性中極性ポリアマイド、比重0.86、固形分30質量%、イソブチルアルコールおよびソルベントナフサの混合液、ビックケミージャパン社製
・2PHZ−PW:熱硬化触媒、2−フェニル−1H−イミダゾール4,5−ジメタノール、比重1.33、商品名「キュアゾール2PHZ−PW」、四国化成社製
【符号の説明】
【0147】
4 軟磁性フィルム
7 軟磁性粒子
図1
図2