(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
振動運動により互いに直交する方向に光で試料を走査する第1のスキャナと第2のスキャナとを含む2次元走査手段であって、前記第1のスキャナは前記第2のスキャナよりも高速に前記試料を走査する2次元走査手段と、
前記2次元走査手段を制御する走査制御手段と、
前記2次元走査手段により走査された前記試料からの光を検出する光検出器と、
前記第2のスキャナの往路期間と復路期間の両方で前記光検出器からの信号をサンプリングするサンプリング手段と、備え、
前記走査制御手段は、前記第1のスキャナの走査方向についての画像有効信号が示す期間の中心が、サンプリングクロックの遅延に起因するサンプリングクロックの分布が中心クロックに対して対称でないサンプリングクロックにおいて、前記第1のスキャナの往路期間中に発生するサンプリングクロックのうちの中心クロックが発生するタイミング又は前記第1のスキャナの復路期間中に発生するサンプリングクロックのうちの中心クロックが発生するタイミングに一致するように、前記第1のスキャナの走査方向についての画像有効信号の出力タイミングを調整する
ことを特徴とする走査型顕微鏡。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施形態]
図1は、本実施形態に係る走査型顕微鏡100の構成を例示した図である。
図2は、走査型顕微鏡100による走査方法の一例を示した図である。
図3は、IZカーブの一例を示した図である。
図4は、走査型顕微鏡100に含まれるコンピュータ20のハードウェアの構成を例示した図である。
【0015】
走査型顕微鏡100は、レーザ光で試料Sを走査するレーザ走査型顕微鏡であり、共焦点光学系を備える共焦点顕微鏡でもある。走査型顕微鏡100は、例えば、試料Sの高さ情報(表面粗さ情報を含む)を生成する3次元測定装置として利用される。なお、本明細書では、レーザ光が集光した光スポットが形成される試料S上の位置を走査位置と記し、光スポットが移動する軌跡を走査軌跡と記す。
【0016】
走査型顕微鏡100は、
図1に示すように、顕微鏡本体10、コンピュータ20、表示装置30、入力装置40を備えている。顕微鏡本体10は、走査光学系、光検出器13、走査駆動制御回路14、クロック生成回路15、A/D変換器16、変位計17、焦点移動機構18を備えている。走査光学系は、レーザ1、ミラー2、ハーフミラー3、二次元走査機構4、ミラー5、レンズ6、レボルバ7、対物レンズ8、ステージ9、レンズ11、共焦点絞り12を備えている。
【0017】
二次元走査機構4は、振動運動により互いに直交する方向にレーザ1からのレーザ光で試料を走査するスキャナ4a(第1のスキャナ)とスキャナ4b(第2のスキャナ)とを含む二次元走査手段であり、走査駆動制御回路14により制御される。スキャナ4aは、対物レンズ8の光軸と直交するX方向に試料Sを走査する、例えば、共振スキャナ又はガルバノスキャナである。スキャナ4bは、対物レンズ8の光軸及びX方向と直交するY方向に試料Sを走査する、例えば、ガルバノスキャナである。二次元走査機構4では、スキャナ4aは、スキャナ4bよりも高速に試料Sを走査する。
【0018】
共焦点絞り12は、ピンホールが形成された絞りである。共焦点絞り12は、対物レンズ8の前側焦点位置以外の位置で反射した光を遮断するため、対物レンズ8の前側焦点位置と光学的に共役な位置にピンホールが位置するように、配置されている。例えば、共焦点絞り12は、レンズ11の後側焦点面に配置される。
【0019】
光検出器13は、二次元走査機構4により走査された試料Sからの光を検出し、検出した光強度に応じたアナログ信号を出力する。光検出器13は、例えば、光電子増倍管(PMT:Photomultiplier Tube)である。
【0020】
走査駆動制御回路14は、二次元走査機構4を制御する走査制御手段であり、ラスタスキャンが行われるように、二次元走査機構4を制御する。以降では、ラスタスキャンを構成するライン走査(
図2におけるX方向への走査)の周期を走査周期と記す。また、走査駆動制御回路14は、二次元走査機構4の走査タイミングを示す信号(以降、走査タイミング信号と記す。)をクロック生成回路15に出力する。走査タイミング信号は、例えば、スキャナ4aがX方向への各ライン走査の開始タイミングを示す信号である。
【0021】
クロック生成回路15は、サンプリングクロックを生成し、A/D変換器16に出力するクロック生成手段である。なお、本明細書では、サンプリング位置とは、サンプリングが行われた走査位置のことをいい、サンプリング軌跡とは、サンプリング位置の軌跡をいう。
【0022】
A/D変換器16は、光検出器13から出力されたアナログ信号をサンプリングして、光検出器13で検出された光強度に応じたデジタル信号を出力するサンプリング手段である。デジタル信号はサンプリング位置の輝度値を示している。A/D変換器16は入力信号の時間積分をA/D変換してもよい。A/D変換器16は、クロック生成回路15で生成されたサンプリングクロックに従って、アナログ信号をサンプリングする。具体的には後述するように、スキャナ4bの往路期間と復路期間の両方で光検出器13からの信号をサンプリングする。
【0023】
変位計17は、レボルバ7とともに移動する対物レンズ8の光軸方向へ移動量を測定する手段である。変位計17は、対物レンズ8の光軸方向の移動量を、コンピュータ20に出力するように構成されている。焦点移動機構18は、レボルバ7を光軸方向へ移動させる手段である。焦点移動機構18は、例えば、ステッピングモータであってもよく、また、ピエゾ素子であってもよい。なお、焦点移動機構18は、対物レンズ8と試料Sの距離を変化させるものであればよいため、レボルバ7の代わりにステージ9を光軸方向に移動させてもよい。その場合、変位計17は、ステージ9の光軸方向への移動量を測定するように構成される。なお、移動量は、Z方向の座標であるZ位置に対応する。
【0024】
顕微鏡本体10では、レーザ1から出射したレーザ光は、ミラー2を反射し、ハーフミラー3、二次元走査機構4を介してミラー5へ入射する。ミラー5で対物レンズ8の光軸方向に反射したレーザ光は、レンズ6により所定の光束径に拡大されて、対物レンズ8によりステージ9に配置された試料S上に光スポットを形成する。試料Sを反射したレーザ光は、再び対物レンズ8に入射し、レンズ6、ミラー5、二次元走査機構4を介してハーフミラー3に入射する。ハーフミラー3で反射したレーザ光は、レンズ11により集光し共焦点絞り12に形成されたピンホールを通って光検出器13で検出される。
【0025】
走査型顕微鏡100では、二次元走査機構4で走査位置をX方向及びY方向に移動させながらA/D変換器16でサンプリングを繰り返すことで、X方向とY方向の二次元に分布した各サンプリング位置のデジタル信号(つまり、各サンプリング位置の輝度値)を得ることができる。さらに、焦点移動機構18で走査位置をZ方向に移動させるたびに上述の処理を繰り返すことで、X方向、Y方向及びZ方向の三次元に分布した各サンプリング位置のデジタル信号(つまり、各サンプリング位置の輝度値)を得ることができる。
【0026】
コンピュータ20は、X方向とY方向の二次元に分布したサンプリング位置のデジタル信号に基づいて、試料Sの断層像を表す走査画像データを生成する画像データ生成装置である。また、コンピュータ20は、Z方向に異なる複数のサンプリング位置のデジタル信号と変位計17から出力されたZ位置とに基づいて、走査画像データの画素領域毎に輝度変化曲線(以降、IZカーブと記す)を生成する。そして、IZカーブ基づいてその画素領域の高さを特定することで、試料Sの高さ情報を生成する。コンピュータ20は、例えば、
図3に示すようにサンプリングが行われた位置の高さのうちの最大輝度値I0を示す高さZ0をその画素領域の高さとして特定してもよく、また、IZカーブの形状を算出し、IZカーブで輝度値が極大となる高さをその画素領域の高さとして特定してもよい。
図3では、黒丸はサンプリング結果を示している。さらに、コンピュータ20は、画素領域毎に特定された高さに対応する画素データに基づいて、走査範囲全体にピントが合った全焦点画像データを生成してもよい。
【0027】
図4は、コンピュータ20のハードウェアの構成を例示した図である。コンピュータ20は、例えば、標準的なコンピュータであり、プロセッサ21、メモリ22、入出力インターフェース23、ストレージ24、及び、可搬記録媒体26が挿入される可搬記録媒体駆動装置25を備え、これらがバス27によって相互に接続されている。なお、
図4は、コンピュータ20のハードウェア構成の一例であり、コンピュータ20はこの構成に限定されるものではない。
【0028】
プロセッサ21は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)などであり、プログラムを実行してプログラムされた処理を行う。なお、プログラムされた処理の一例は、例えば、走査画像や全焦点画像などの画像データを生成する画像データ生成処理、IZカーブを算出して高さ情報を生成する高さ測定処理などである。
【0029】
メモリ22は、例えば、RAM(Random Access Memory)であり、プログラムの実行の際に、ストレージ24または可搬記録媒体26に記録されているプログラムまたはデータを一時的に記憶する。入出力インターフェース23は、コンピュータ20以外の装置(例えば、A/D変換器16、表示装置30、入力装置40など)と信号をやり取りする回路である。
【0030】
ストレージ24は、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリであり、主に各種データやプログラムの記録に用いられる。可搬記録媒体駆動装置25は、光ディスクやコンパクトフラッシュ(登録商標)等の可搬記録媒体26を収容するものである。可搬記録媒体26は、ストレージ24を補助する役割を有する。
【0031】
表示装置30は、コンピュータ20が生成した画像データに基づいて、試料Sの画像を表示するディスプレイである。表示装置30は、例えば、液晶ディスプレイであってもよく、又は、有機ELディスプレイであってもよい。表示装置30は、コンピュータ20が画像データを生成する毎に、最新の画像データに基づいて試料Sの画像を表示してもよく、また、試料Sの画像以外の種々の情報を表示してもよい。表示装置30には、画像の他に、測定結果、測定条件なども表示される。
【0032】
入力装置40は、ユーザの操作に応じた命令をコンピュータ20へ入力する入力装置である。入力装置40は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネルなどである。
【0033】
図5は、走査型顕微鏡100の制御処理のフローチャートである。走査型顕微鏡100では、Y方向に走査するスキャナ4bが往復スキャンを行うように、走査駆動制御回路14が二次元走査機構4を制御する。ここで、往復スキャンとは、往路と復路の両方で試料Sを走査することをいう。より詳細には、走査型顕微鏡100は、
図5に示すように制御される。まず、サンプリング手段であるA/D変換器16がスキャナ4bの往路期間中に光検出器13からの信号をサンプリングし、コンピュータ20へ出力する(ステップS1)。その後、A/D変換器16がスキャナ4bの復路期間中に光検出器13からの信号をサンプリングし、コンピュータ20へ出力する(ステップS2)。そして、コンピュータ20は、スキャナ4bの往路期間中にA/D変換器16から出力されたデジタル信号に基づいて1枚の画像データ(第1の画像データ)を生成する(ステップS3)。さらに、コンピュータ20は、スキャナ4bの復路期間中にA/D変換器16から出力されたデジタル信号に基づいてもう1枚の画像データ(第2の画像データ)を生成する(ステップS4)。これにより、従来よりも画像1枚当たりの取得時間(以降、単に画像取得時間と記す)を短縮することができる。
【0034】
図6は、Y方向についての片側スキャンにおける駆動信号波形を示した図である。
図7は、Y方向についての片側スキャンにおけるスキャナの応答特性を示した図である。
図8は、Y方向についての往復スキャンにおける駆動信号波形を示した図である。
図9は、Y方向についての往復スキャンにおけるスキャナの応答特性を示した図である。
図10は、走査設定毎の有効期間と無効期間の比率を比較した図である。
【0035】
以下、
図6から
図10を参照しながら、Y方向の往復スキャンが行われる走査型顕微鏡100について、片側スキャンが行われる従来の走査型顕微鏡と比較しながら、詳細に説明する。なお、走査型顕微鏡100では、X方向に走査するスキャナ4aは往路と復路の一方で試料Sを走査する片側スキャンを行う。
【0036】
Y方向について片側スキャンを行う従来の走査型顕微鏡では、片側スキャン後にスキャン開始位置まで戻る期間である往路期間又は復路期間の一方(以降、帰線期間と記す)をできる限り短くすることが望ましい。このため、走査駆動制御回路は、往路と復路でのスキャナの動作スピードを異ならせて、帰線期間におけるスキャナの動作スピードが画像有効期間を含む片側スキャン期間におけるスキャナの動作スピードよりも高速になるように、二次元走査機構を制御する。従って、従来の走査型顕微鏡では、
図6に示すように、Y方向についての駆動信号波形L1は鋸波である。
【0037】
なお、本明細書では、Y方向についての駆動信号波形は、Y方向についての時間毎の走査目標位置を示す波形であり、Y方向についての時間毎の実際の走査位置を示す駆動波形とは区別する。
【0038】
鋸波である駆動信号波形L1は、スキャナの折り返し地点において、非常に高い周波数成分を含んでいる。このため、スキャナが駆動信号波形L1に従って制御されると、折り返し地点においてフィードバック制御が一時的に追いつかず、スキャナの応答が遅延して走査位置が走査目標位置からずれてしまう。従って、スキャナの駆動波形L1aは、
図7に示すように、折り返し地点R1において駆動信号波形L1から乖離した波形を示す。なお、折り返し地点R2においても、スキャナの駆動波形L1aは駆動信号波形L1から乖離する。
【0039】
駆動波形L1aが駆動信号波形L1から乖離している期間中に得られるデジタル信号を使用して画像データを生成すると、画像が歪んでしまう。このため、従来の走査型顕微鏡では、Y方向の走査範囲全体が画像化されるわけではない。スキャナの応答遅延に起因する画像の歪みが許容範囲内に収まるように、画角の80%から90%程度の範囲が画像化されるに過ぎない。なお、
図6に示す実線L2は、画像化される走査範囲(画像有効範囲)に対応する期間である画像有効期間を示している。
【0040】
また、フィードバック制御が追いつかずスキャナが遅延している状態(例えば、折り返し地点R1)では、制御を取り戻すためにスキャナに瞬間的に非常に大きな電流が流れ、大きな力が加わってスキャナが物理的に急峻に動くことになる。このため、画像が歪むだけではなく、装置に振動が発生してしまう。この振動は画質や測定データの精度に悪影響を及ぼすことがある。
【0041】
これに対して、Y方向について往復スキャンを行う走査型顕微鏡100では、走査駆動制御回路14は、往路と復路でのスキャナ4bの動作スピードが同じになるように、二次元走査機構4を制御する。このため、走査型顕微鏡100では、
図8に示すように、Y方向についての駆動信号波形L3は三角波である。また、破線で示す駆動信号波形L3に重ねて表示した実線L4、実線L5は、それぞれ往路期間中の画像有効期間を、復路期間中の画像有効期間を示している。
【0042】
三角波である駆動信号波形L3は、鋸波である駆動信号波形L1に比べると、スキャナの折り返し地点において低い周波数成分を含んでいる。このため、スキャナが駆動信号波形に従って制御されると、折り返し地点R3でもスキャナの応答が大きく遅延することはない。スキャナの駆動波形L3aは、
図9に示すように、折り返し地点R3において駆動信号波形L3から乖離することなく、走査位置がおよそ走査目標位置どおりに変化する。
【0043】
従って、走査型顕微鏡100では、走査駆動制御回路14がスキャナ4bの駆動信号波形が三角波となるように二次元走査機構4を制御することで、往路と復路の両方で画像を取得しつつ、従来の走査型顕微鏡に比べて画像の歪みを抑えることができる。このため、走査型顕微鏡100によれば、従来の走査型顕微鏡よりも、画質を劣化させることなく効率的に画像を取得することが可能であり、画像取得時間の短縮を図ることができる。また、折り返し地点での大きな電流の発生も抑えることができるため、省電力化、及び、低振動化も併せて実現することができる。
【0044】
また、走査型顕微鏡100では、画像の歪みが少ないため、往路期間(又は復路期間)に占める画像有効期間の割合を、従来の走査型顕微鏡に比べて大きくしてもよい。これは、無効期間に対する有効期間(画像有効期間)の割合の増加につながるため、画像取得時間のさらなる短縮に寄与し得る。さらに、走査型顕微鏡100では、画像の歪みが少ないため、スキャナの動作スピードを速くしてもよい。例えば、従来の走査型顕微鏡では動作周波数20Hzで使用していたスキャナを、動作周波数30Hzで使用してもよい。スキャナの動作スピードの高速化も、画像取得時間のさらなる短縮に寄与し得る。なお、これらは、間引きスキャンが行われる場合に特に有効である。
【0045】
間引きスキャンとは、X方向の走査(ライン走査)の一部を間引くことで画像取得時間の短縮を図る技術である。間引きスキャンにより間引かれた領域の画素データは、周囲の画素データを補間することで算出される。
【0046】
従来の走査型顕微鏡において、間引きスキャンが行われない場合には、片側スキャン期間に対する帰線期間の割合は比較的小さい。このため、Y方向について片側スキャンを行う場合であっても、有効期間と無効期間とを含む全期間に対する有効期間の割合は一般に高く、例えば、
図10(a)に示すように8割以上である。なお、
図10(a)に示す破線L6は駆動信号波形であり、実線L7は画像有効期間を示している。
【0047】
しかしながら、従来の走査型顕微鏡が間引きスキャンを行う場合、スキャナの動作スピードが速くなり、その結果、片側スキャン期間が短くなり、片側スキャン期間に対する帰線期間の割合が相対的に大きくなる。そのため、例えば、8ライン毎にライン走査を行う間引きスキャン(1/8スキャン)を行う場合には、
図10(b)に示すように、全期間に対する有効期間の割合は6割弱にまで低下してしまう。このことは、間引きスキャンによる時間短縮効果が画像取得時間の短縮に十分に反映されていないことを意味する。なお、
図10(b)に示す破線L8は駆動信号波形であり、実線L9は画像有効期間を示している。
【0048】
これに対して、Y方向に往復スキャンを行う走査型顕微鏡100では、例えば、8ライン毎にライン走査を行う間引きスキャン(1/8スキャン)を行う場合であっても、全期間に対する有効期間の割合は高く維持される。
図10(c)に示す例では、間引くスキャンを行っているにも関わらず、有効期間の割合が間引きスキャンを行わない従来の走査型顕微鏡の場合よりも高くなり、9割弱にまで達する。なお、
図10(c)に示す破線L10は駆動信号波形であり、実線L11は画像有効期間を示している。
【0049】
図10(a)から
図10(c)に示すように、走査型顕微鏡100では、間引きスキャンが行われる場合、つまり、スキャナ4bの動作スピードが速い場合でも、有効期間の割合を高く維持することができる。このため、間引きスキャンに起因するスキャナ4bの動作スピードの向上を画像取得時間の短縮に十分に反映させることができる。
【0050】
図11は、Y方向についての往復スキャンにおける往路でのサンプリング軌跡を示した図である。
図12は、Y方向についての往復スキャンにおける復路でのサンプリング軌跡を示した図である。以下、
図11及び
図12を参照しながら、走査型顕微鏡100において、スキャナ4bの往復スキャンで取得される2枚の画像間のずれを抑制する方法について説明する。
【0051】
ライン走査が行われる走査周期は短いため、スキャナ4bをステップ駆動させた場合であっても、各停止位置でスキャナ4bは完全には停止しない。従って、ラスタスキャンにおける走査位置は実質的にはX方向とY方向の両方向に移動し、サンプリング位置も実質的にはX方向とY方向の両方向に移動する。この場合、スキャナ4bの往路期間と復路期間の両方で、スキャナ4aの片側スキャン期間を往路期間(又は復路期間)に設定すると、スキャナ4bの往路期間と復路期間でサンプリング軌跡が異なることになる。このため、往路期間に取得する画像と復路期間に取得する画像間でサンプリング位置にずれが生じてしまう。
【0052】
そこで、走査型顕微鏡100では、スキャナ4bの往路期間中の走査軌跡とスキャナ4bの復路期間中に走査軌跡が対応するように、走査駆動制御回路14が二次元走査機構4を制御する。ここで、走査軌跡が対応するとは、走査軌跡が実質的に同じ軌跡を示すことをいい、スキャナ4bの往路期間中の走査軌跡の開始位置が復路期間中の走査軌跡の終了位置と一致し、スキャナ4bの往路期間中の走査軌跡の終了位置が復路期間中の走査軌跡の開始位置と一致することが望ましい。
【0053】
さらに、走査型顕微鏡100では、スキャナ4bの往路期間中のサンプリング軌跡とスキャナ4bの復路期間中にサンプリング軌跡が対応するように、A/D変換器16が光検出器13からのアナログ信号をサンプリングする。具体的には、A/D変換器16は、
図11に示すように、スキャナ4bの往路期間中で且つスキャナ4aの往路期間中に光検出器13からの信号をサンプリングし、
図12に示すように、スキャナ4bの復路期間中で且つスキャナ4aの復路期間中に光検出器13からの信号をサンプリングする。つまり、スキャナ4bの往路と復路でスキャナ4aの片側スキャンの向きを切り替える。
【0054】
これにより、スキャナ4bの往路期間中のサンプリング軌跡T1とスキャナ4bの復路期間中のサンプリング軌跡T2が対応し、その結果、スキャナ4bの往路期間中にサンプリングされたサンプリング位置とスキャナ4bの復路期間中にサンプリングされたサンプリング位置とのずれが抑制される。このため、往復スキャンで取得される2枚の画像間のずれを抑制することができる。
【0055】
なお、スキャナ4aとスキャナ4bの往路期間と復路期間の組み合わせは、
図11及び
図12の例に限られない。スキャナ4bの往路期間中のサンプリング軌跡とスキャナ4bの復路期間中にサンプリング軌跡が対応するように、A/D変換器16が光検出器13からのアナログ信号をサンプリングすればよい。従って、A/D変換器16は、スキャナ4bの往路期間中にスキャナ4aの往路期間又は復路期間の一方で光検出器13からの信号をサンプリングし、スキャナ4bの復路期間中にスキャナ4aの往路期間又は復路期間の他方で光検出器13からの信号をサンプリングすればよい。
【0056】
コンピュータ20は、A/D変換器16から出力されたデジタル信号がスキャナ4bの往路期間中に出力されたデジタル信号かスキャナ4bの復路期間中に出力されたデジタル信号かを識別する。そして、信号が出力された期間に応じて画素データを並び替えて画像データを構築する。これにより、スキャナ4bの往復スキャンによって得られる2枚の画像の向きを正立像又は倒立像に揃えることができる。デジタル信号が往路期間中に出力されたものか復路期間中に出力されたものかを判断する方法は、特に限定されないが、例えば、走査駆動制御回路14から出力される状態信号によって判断してもよく、生成中の画像データが何枚目の画像データかによって判断してもよい。
【0057】
走査型顕微鏡100によれば、往復スキャンで取得される画像間のずれを抑制することができる。このため、精度の高い三次元情報(全焦点画像データ、高さ情報)を短時間で得ることができる。
【0058】
[第2の実施形態]
本実施形態に係る走査型顕微鏡は、スキャナ4aが共振スキャナである点、スキャナ4bに加えてスキャナ4aも往復スキャンを行う点(つまり、A/D変換器16がスキャナ4aの往路期間と復路期間の両方で光検出器13からの信号をサンプリングする点)、クロック生成回路15の代わりにクロック生成回路50を含む点が、走査型顕微鏡100とは異なる。その他の構成は、走査型顕微鏡100と同様である。
【0059】
共振スキャナは、一般にガルバノスキャナよりも高速な走査が可能であり、画像取得時間の短縮に有利である。ただし、その動作スピードは周期運動の期間中一定ではなく、その速度変化はサイン関数で表わされる。つまり、非等速に試料Sを走査する。このため、時間的に等間隔にサンプリングが行われると、サンプリング位置が空間的に等間隔に並ばないため、画像が歪んでしまう。
【0060】
そこで、本実施形態に係る走査型顕微鏡では、クロック生成回路50は、試料S上のサンプリング位置が等間隔に移動するようにサンプリングクロックを生成し、A/D変換器16に出力する。つまり、クロック生成回路50で生成されるサンプリングクロックは、スキャナ4aの動作スピードに同期したサンプリングクロックであり、動作スピードが速いときほどクロック間隔が短くなり、動作スピードが遅いときほどクロック間隔が長くなる。
【0061】
具体的には、クロック生成回路50は、動作スピードに同期したサンプリングクロックを、例えば、走査駆動制御回路14から受信した走査タイミング信号と、スキャナ4aの速度波形情報とに基づいて生成する。なお、速度波形情報は、スキャナ4aが試料Sを走査している期間中、試料S上に形成される光スポットの移動速度がどのように変化すべきかを示す情報であり、より具体的には、1走査周期中の各タイミングにおける光スポットの目標とする移動速度の情報である。各タイミングにおけるサンプリング位置は、走査タイミング信号と速度波形情報に基づいて、特定することができる。
【0062】
図13は、本実施形態に係るクロック生成回路50の構成の一例を示したブロック図である。
図14は、クロック生成回路50から出力されるサンプリングクロックとX方向の走査位置の関係を示す図である。
図13及び
図14を参照しながら、スキャナ4aの動作スピードに同期したサンプリングクロックを生成するクロック生成回路15について説明する。なお、
図13に示す構成は、あくまでクロック生成回路50の構成の一例であり、クロック生成回路50の構成は
図13に示す構成に限れない。
【0063】
クロック生成回路50は、位相比較器51、ループフィルタ52、電圧制御発振器(Voltage Controlled Oscillator、以降、VCOと記す)53、カウンタ54、メモリ55、D/Aコンバータ56、VCO57、カウンタ58、位相比較器59、ループフィルタ60を備えている。
【0064】
位相比較器51には、走査駆動制御回路14から出力される走査タイミング信号と、カウンタ54から出力されるタイミング信号(以降、第1タイミング信号と記す。)が入力される。第1タイミング信号については後述する。位相比較器51は、2つの入力信号(走査タイミング信号と第1タイミング信号)の位相差を検出して位相差に応じた信号を出力する。例えば、走査タイミング信号に対して第1タイミング信号が早いほど低い電圧の信号を出力し、遅いほどで高い電圧の信号を出力する。位相比較器51から出力された信号は、ローパスフィルタであるループフィルタ52を介して、VCO53に入力される。VCO53は、可変周波数発振器であり、入力信号(電圧)に応じた周波数のクロックを発生させる。例えば、高電圧が入力されるほど高周波のクロックを発生し、低電圧が入力されるほど低周波のクロックを発生する。カウンタ54は、VCO53からのクロックをカウントし、予め設定されている回数C1(例えば、1000回)カウントする毎に、位相比較器51に第1タイミング信号を出力する。なお、カウンタ54は、後述する位相比較器59にも第1タイミング信号を出力する。
【0065】
位相比較器51からカウンタ54で構成されるループにより、走査タイミング信号と第1タイミング信号が同周期で且つ同位相に収束する。このため、収束状態では、1走査周期中に一定の時間間隔で回数C1と同数のクロックがVCO53から出力される。つまり、VCO53から一定の周波数のクロックが出力される。
【0066】
メモリ55は、少なくとも、カウンタ54に設定されている回数C1と同数のアドレス(0から999まで)を有していて、各アドレスにはスキャナ4aの速度波形(サイン波形)を再現するための速度情報が記憶されている。例えば、N番目のアドレス数には(N−1)/C1周期のタイミングでのスキャナ4aの速度情報が記憶されている。D/Aコンバータ56は、カウンタ54がカウントするたびに、カウンタ値に応じたメモリ55のアドレスから速度情報を読み出して、アナログ信号に変換する。これにより、スキャナ4aの速度波形(サイン波形)を再現した電圧がVCO57へ出力される。VCO57は、VCO53と同様に可変周波数発振器であり、入力信号(電圧)に応じた周波数のクロックを発生させる。このため、スキャナ4aの速度が速く入力電圧が高いときには高い周波数でクロックを出力し、速度が遅く入力電圧が低いときには低い周波数でクロックを出力する。なお、VCO57から出力されたクロックは、サンプリングクロックとしてA/D変換器16に出力される。
【0067】
カウンタ58は、VCO57からのクロックをカウントし、予め設定されている回数C2(例えば、2048回)カウントする毎に、位相比較器59に第2タイミング信号を出力する。位相比較器59は、カウンタ54から出力された第1タイミング信号と、カウンタ58から出力された第2タイミング信号の位相差を検出して位相差に応じた信号を出力する。例えば、第1タイミング信号に対して第2タイミング信号が早いほど低い電圧の信号を出力し、遅いほど高い電圧の信号を出力する。位相比較器59から出力された信号は、ローパスフィルタであるループフィルタ60を介して、D/Aコンバータ56に入力される。D/Aコンバータ56は、位相比較器59からの信号に従ってアナログ信号の大きさを調整して出力する。
【0068】
カウンタ54からループフィルタ60で構成されるループにより、第1タイミング信号と第2タイミング信号が同周期で収束するため、走査タイミング信号と第2タイミング信号も同周期で収束する。また、タイミング信号と実際のスキャナ4aとの間には電気的遅延が位相ずれとして発生するので、位相を調整する。これにより、収束状態、且つ位相調整された状態では、VCO57から、1走査周期中に回数C2と同数のサンプリングクロックが、走査位置が等間隔に移動するようなタイミングで出力される。つまり、VCO57から、
図14に示すように、スキャナ4aの動作スピードに同期したサンプリングクロックが出力される。
【0069】
本実施形態に係る走査型顕微鏡では、クロック生成回路50から出力されるサンプリングクロックに従ってA/D変換器16がサンプリングを行う。これにより、ガルバノスキャナよりも高速な共振スキャナであるスキャナ4aを用いてサンプリング位置を空間的に等間隔に移動させることができる。さらに、A/D変換器16は、スキャナ4aの往路期間と復路期間の両方で光検出器13からの信号をサンプリングする。従って、本実施形態に係る走査型顕微鏡によれば、画質を劣化させることなく、走査型顕微鏡100よりも効率的に画像を取得することが可能であり、画像取得時間の短縮をさらに図ることができる。
【0070】
図15は、Y方向についての往復スキャンにおける往路でのサンプリング軌跡を示した図である。
図16は、Y方向についての往復スキャンにおける復路でのサンプリング軌跡を示した図である。以下、
図15及び
図16を参照しながら、本実施形態に係る走査型顕微鏡において、スキャナ4bの往復スキャンで取得される2枚の画像間のずれを抑制する方法について説明する。
【0071】
本実施形態に係る走査型顕微鏡では、スキャナ4bの往路期間中の走査軌跡とスキャナ4bの復路期間中に走査軌跡が対応するように、走査駆動制御回路14が二次元走査機構4を制御する。具体的には、走査駆動制御回路14は、スキャナ4bの往路期間中であってスキャナ4aの往路期間中に走査した位置を、スキャナ4bの復路期間中であってスキャナ4aの復路期間中に走査するように、二次元走査機構4を制御する。さらに、走査駆動制御回路14は、スキャナ4bの往路期間中であってスキャナ4aの復路期間中に走査した位置を、スキャナ4bの復路期間中であってスキャナ4aの往路期間中に走査するように、二次元走査機構4を制御する。つまり、走査駆動制御回路14は、スキャナ4bの往路期間がスキャナ4aの往路期間から始まる場合には、スキャナ4bの復路期間がスキャナ4aの復路期間で終わるように二次元走査機構4を制御し、スキャナ4bの往路期間がスキャナ4aの復路期間から始まる場合には、スキャナ4bの復路期間がスキャナ4aの往路期間で終わるように二次元走査機構4を制御すればよい。
【0072】
本実施形態に係る走査型顕微鏡では、走査軌跡とサンプリング軌跡は実質的に同じである。このため、スキャナ4bの往路期間と復路期間の走査軌跡を対応させることで、
図16及び
図17に示すように、スキャナ4bの往路期間中のサンプリング軌跡T3とスキャナ4bの復路期間中のサンプリング軌跡T4も対応することになる。その結果、スキャナ4bの往路期間中にサンプリングされたサンプリング位置とスキャナ4bの復路期間中にサンプリングされたサンプリング位置とのずれが抑制される。このため、往復スキャンで取得される2枚の画像間のずれを抑制することができる。
【0073】
コンピュータ20は、A/D変換器16から出力されたデジタル信号がスキャナ4bの往路期間中に出力されたデジタル信号かスキャナ4bの復路期間中に出力されたデジタル信号かを識別し、さらに、スキャナ4aの往路期間中に出力されたデジタル信号かスキャナ4aの復路期間中に出力されたデジタル信号かを識別する。そして、信号が出力された期間に応じて画素データを並び替えて画像データを構築する。これにより、スキャナ4bの往復スキャンによって得られる2枚の画像の向きを正立像又は倒立像に揃えることができる。
【0074】
従って、本実施形態に係る走査型顕微鏡によっても、往復スキャンで取得される画像間のずれを抑制することができる。このため、精度の高い三次元情報(全焦点画像データ、高さ情報)を、走査型顕微鏡100よりも短時間で得ることができる。
【0075】
[第3の実施形態]
従来の走査型顕微鏡では、Y方向についての画像有効信号(以降、Y画像有効信号と記す)の出力タイミングは、Y方向に走査するスキャナの駆動信号波形(以降、Y駆動信号波形と記す)に対して一定である。しかしながら、Y駆動信号波形に対してY画像有効信号が一定のタイミングで出力されると、スキャナの応答遅延によって画像化される走査範囲(画像有効範囲)が変化してしまう。
【0076】
図17及び
図18は、Y方向に走査するスキャナの応答遅延と画像有効範囲の関係を示した図である。
図17に示すように、異なる走査速度で取得された画像(画像M1、画像M2、画像M3)の画像有効範囲は、一般に、スキャナが高速になるほど理想位置からずれた範囲となる。また、
図18の画像M3及び画像M4に示すように、画像有効範囲と理想位置のずれは、スキャナの往路と復路で反対向きに生じる。このため、往復スキャンを行う場合には、画像間で画像有効範囲にずれが生じてしまう。
【0077】
本実施形態に係る走査型顕微鏡は、走査駆動制御回路14がスキャナ4bのY駆動信号波形に対してスキャナ4bのY画像有効信号の出力タイミングを調整するように構成されている点が、走査型顕微鏡100と異なっている。より詳細には、走査駆動制御回路14は、スキャナ4bの往路期間中に画像化される画像有効範囲とスキャナ4bの復路期間中に画像化される画像有効範囲とが合うように、スキャナ4bの駆動信号波形に対してスキャナ4bのY画像有効信号の出力タイミングを調整する。
【0078】
従って、本実施形態に係る走査型顕微鏡によれば、スキャナ4bの応答遅延の有無によらず、所望の範囲を画像化することができる。このため、例えば、本撮影前に試料を粗く走査する予備撮影と予備撮影よりも密に試料を走査する本撮影とで走査速度が異なる場合であっても、試料の同じ領域を撮影することができる。また、往復スキャンで生じる画質の劣化も抑制することができる。
【0079】
図19及び
図20は、Y方向に走査するスキャナの応答遅延に起因する画像有効範囲の変動を抑制する方法について説明する図である。上述した調整の具体的な方法については、特に限定されない。例えば、
図19に示すように、画像有効信号の出力タイミングを時間的に遅らせることで調整しても良い。これにより、画像有効信号の出力タイミングが、Y駆動信号波形L12を基準とするタイミング(画像有効信号S1参照)から、実際の走査位置を示すY駆動波形L12aを基準とするタイミング(画像有効信号S2参照)に調整されてもよい。また、
図20に示すように、Y駆動信号波形を時間方向にずらすことで調整しても良い。これにより、画像有効信号S1の出力タイミングが、調整前のY駆動信号波形L12を基準とするタイミングから、調整後のY駆動信号波形L13に対するY駆動波形L13aを基準とするタイミングに調整されてもよい。
【0080】
また、走査駆動制御回路14での調整量は、スキャナ4bの走査速度、又は撮像モード(例えば、間引きスキャンか通常スキャンかなど)毎にメモリ等に予め記憶されていることが望ましい。例えば、コンピュータ20のストレージ24に格納されていても良く、又は、走査駆動制御回路14が有するメモリ内に記憶されていても良い。また、特定の走査速度での調整量のみが予め記憶されていて、他の走査速度での調整量については記憶されている調整量を基準にして計算により算出してもよい。
【0081】
なお、本実施形態では、スキャナ4bが往復スキャンを行い、スキャナ4aが片側スキャンを行う例を示したが、スキャン方式の組み合わせは特に限定されない。例えば、スキャナ4aとスキャナ4bが共に往復スキャンを行ってもよい。また、スキャナ4aとスキャナ4bが共に片側スキャンを行ってもよい。さらに、スキャナ4aが往復スキャンを行い、スキャナ4bが片側スキャンを行ってもよい。いずれのケースであってもスキャナ4bの応答遅延に起因する画像有効範囲の変動を抑制することができる。
【0082】
[第4の実施形態]
従来の走査型顕微鏡では、X方向についての画像有効信号(以降、X画像有効信号と記す)は、X画像有効信号が示す期間(以降、X画像有効期間と記す)の中心が往路期間又は復路期間(以降、片側期間と記す)の中心に一致するように、出力される。
【0083】
その理由は次のような前提にある。まず、サンプリングクロックはサンプリング位置が等間隔に並ぶように発生する。さらに、片側期間中に発生する全サンプリングクロックのうちの真ん中のサンプリングクロック(以降、中心クロックと記す)によりサンプリングされる位置は走査範囲の中心に位置し、サンプリングクロックの時間方向の分布は中心クロックに対して対称である。これらの前提により、X画像有効期間の中心が片側期間の中心に一致するようにX画像有効期間を設けることで、走査範囲の中心を画像中心とした歪みのない画像を取得することができると考えられるからである。
【0084】
しかしながら、実際には、サンプリングクロックの分布は中心クロックに対して対称ではない。一般的に片側期間の初期のサンプリング周波数は想定された周波数よりも低く、また、片側期間の終期のサンプリング周波数は想定された周波数よりも高くなる。つまり、サンプリングクロックが遅延して発生する。このような現象が生じる要因は様々考えるが、クロック生成回路がサンプリングクロックの周波数が高くなる上りと低くなる下りでは異なる特性を有していること、また、クロック生成回路は、有限の応答性をもっているので、全波整流波形を利用してサンプリングクロックを生成した時、全波整流の折り返し地点を過ぎた付近で立ち上がり部が完全に追従できないこと、などが影響していると考えられる。
【0085】
このため、従来の走査型顕微鏡では、
図21に示すように、X方向の往路、復路ともに、サンプリングクロックの遅延により画像有効範囲が理想位置に対してずれた画像(画像M6、画像M7)が生成されてしまう。また、往路と復路ではスキャンの向きが反対であるため、復路の画像M6と往路の画像M7では、理想位置の画像M5に対して反対向きにずれが生じてしまう。なお、
図21は、サンプリングクロックの遅延に起因する画像有効範囲の変動を説明する図である。
【0086】
本実施形態に係る走査型顕微鏡は、走査駆動制御回路14がクロック生成回路15からサンプリングクロックを受信し、サンプリングクロックの周波数の時間変化を示す波形(以降、サンプリング波形と記す)に対してスキャナ4aのX画像有効信号の出力タイミングを調整するように構成されている点が、第2の実施形態に係る走査型顕微鏡と異なっている。より詳細には、走査駆動制御回路14は、スキャナ4aの往路期間中に画像化されるスキャナ4aの走査方向についての画像有効範囲(以降、X画像有効範囲)とスキャナ4aの復路期間中に画像化されるX画像有効範囲とが合うように、サンプリング波形に対してスキャナ4aのX画像有効信号の出力タイミングを調整する。
【0087】
従って、本実施形態に係る走査型顕微鏡によれば、サンプリングクロックに遅延が生じている場合であっても、共振スキャナを使用した場合に劣化しやすい画像のリニアリティを維持しつつ、所望の範囲を画像化することができる。また、往復スキャンで生じる画質の劣化も抑制することができる。
【0088】
図22は、サンプリングクロックの遅延に起因する画像有効範囲の変動を抑制する方法について説明する図である。上述した調整は、画像有効信号の出力タイミングを時間的に遅らせることで行われる。具体的には、
図22に示すように、調整前の画像有効信号S4の出力タイミングよりも調整後の画像有効信号S5の出力タイミングを遅らせる。なお、調整前の画像有効信号S4に対応する期間の中心は、片側期間の中心C1に一致するのに対して、調整後の画像有効信号S5に対応する期間の中心は、中心クロックCCが発生するタイミングC2に一致する。
【0089】
なお、上記の調整は、特許文献1に記載されているような、共振スキャナの駆動信号波形(同期信号)に対してサンプリングクロックや画像有効信号の位相をずらす技術とは全く異なる技術であり、共振スキャナにおいて課題となるリニアリティ特性の改善に極めて効果的である。
【0090】
また、走査駆動制御回路14での調整量は、スキャナ4bの走査速度、又は撮像モード(例えば、間引きスキャンか通常スキャンかなど)毎に予め記憶されていることが望ましい。例えば、コンピュータ20のストレージ24に格納されていても良く、又は、走査駆動制御回路14が有するメモリ内に記憶されていても良い。
【0091】
なお、本実施形態では、スキャナ4aとスキャナ4bが往復スキャンを行う例を示したが、スキャン方式の組み合わせは特に限定されない。例えば、スキャナ4aとスキャナ4bが共に片側スキャンを行ってもよい。また、スキャナ4aが往復スキャンを行い、スキャナ4bが片側スキャンを行ってもよい。さらに、スキャナ4aが片側スキャンを行い、スキャナ4bが往復スキャンを行ってもよい。いずれのケースであってもサンプリングクロックの遅延に起因する画像有効範囲の変動を抑制することができる。
【0092】
上述した実施形態は、発明の理解を容易にするための具体例を示したものであり、本発明の実施形態はこれらに限定されるものではない。走査型顕微鏡、及びその制御方法は、特許請求の範囲に記載された発明を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
【0093】
例えば、第3の実施形態では、走査駆動制御回路14が、スキャナ4bの往路期間中に画像化される画像有効範囲とスキャナ4bの復路期間中に画像化される画像有効範囲とが合うように、スキャナ4bの駆動信号波形に対してスキャナ4bのY画像有効信号の出力タイミングを調整する例を示した。しかしながら、走査駆動制御回路14は、
図23に示すように、往路期間のサンプリング軌跡T5と復路期間のサンプリング軌跡T6をY方向に敢えてずらして、往路期間と復路期間で画像化される画像有効範囲を変えるように、スキャナ4bの駆動信号波形に対してスキャナ4bのY画像有効信号の出力タイミングを調整してもよい。この場合、往路でサンプリングされた信号と復路でサンプリングされた信号の両方を用いて1枚の画像データを生成することで、Y方向についての分解能を向上させることができる。