(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記チャンバは、前記筒状壁の上側及び下側の端面のうち、いずれか他方の端面と、前記上側及び下側の部材のうち、前記他方の端面に連結された部材との間において、前記チャンバ内でプラズマ処理が実行される状態において前記他方の端面と前記連結された部材とが非接触となる状態で介設された第2の真空シール部材を更に具備することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
前記第1の真空シール部材及び前記第2の真空シール部材は、それぞれ、略同一平面上において略同心状に配置された、互いに異なる内径を有する複数のOリングから構成され、
前記複数のOリングのうち、最も内側に位置するOリングの線径が他のOリングの線径よりも小さく、前記最も内側に位置するOリングの表面が耐プラズマ性を有する膜によって被覆されていることを特徴とする請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書では、主として筒状壁、コイル、及びそれらの近傍に位置する部材に着目して本発明のプラズマ処理装置の説明を行う。そのため、図面では、プラズマ処理装置の一部の構成(例えば、基板搬送手段(搬送口)、処理ガス供給手段、チャンバ内排気手段(排気口)など)を適宜省略して簡略化しており、各構成要素の寸法も適宜変更して表している。本明細書で特に言及しないプラズマ処理装置の構成については、従来用いられているプラズマ処理装置と同様の構成を採用することができる。
以下、添付図面を参照しつつ第1乃至第4実施形態に係る本発明のプラズマ処理装置について順に説明するが、第2乃至第4実施形態の説明については、主として第1実施形態との相違点のみに着目し、第1実施形態と共通する構成については適宜説明を省略する。
さらに、本明細書において、「〜」で結ばれた数値は、「〜」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「〜」で結ぶことができる。
【0021】
[第1実施形態]
図1に示すように、第1実施形態に係る本発明のプラズマ処理装置10は、チャンバ1と、コイル5と、を備えている。チャンバ1は、筒状壁2と、筒状壁2の上側の端面と連結された上側の部材3と、筒状壁2の下側の端面と連結された下側の部材4と、第1の真空シール部材6と、を具備している。
以下、チャンバ1を構成する各部材(第1の真空シール部材6を除く)について分説した後、コイル5及び第1の真空シール部材6について詳述する。
【0022】
<筒状壁>
筒状壁2は、その内側に、処理ガスの供給によりプラズマが生成されるプラズマ生成空間21を有する筒状の部材である。筒状壁2の形状は、内側にプラズマ生成空間21を有することを条件に、特に限定されない。本実施形態では、筒状壁2は、直胴(上下方向において外径が一定である)の円筒状に形成された筒状体22と、筒状体22の下端部において筒状体22の径外方向に突出したフランジ部23を有している。フランジ部23は後述するクランプ25が取り付けられる部分である。
プラズマは、後述するコイル5によって発生した誘導電界によって筒状壁2の内側に導入された処理ガスがプラズマ化されることによって生成される。従って、筒状壁2は、その内側に誘導電界が発生することを妨げないような絶縁性の材料によって形成される。このような材料としては、例えばセラミックスを主成分とする材料が挙げられる。
【0023】
本明細書において、セラミックスを主成分とする材料とは、該材料を構成する全成分のうち、セラミックスの比率(質量%)が最も高い材料を意味する。そのため、セラミックスを主成分とする材料とは、実質的にセラミックスのみを含む材料のみならず、セラミックス及びセラミックス以外の成分(例えば、金属)を含む材料を包含している。なお、「実質的にセラミックのみを含む材料」とは、セラミックスを98質量%以上含む材料を意味する。
なお、セラミックスは、無機物を焼き固めた焼結体の総称であり、特定の化学式によって特定されるものではない。セラミックスとしては、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)、石英(二酸化ケイ素)、窒化アルミニウム、イットリア(酸化イットリウム)、チタニア(二酸化チタン)、ジルコニア(二酸化ジルコニウム)、及びこれらの混合物などが挙げられる。本発明では、アルミナ及び石英のうち少なくとも一方を主成分とするセラミックスが好ましく用いられ、より好ましくは、実質的にアルミナ及び石英のうち少なくとも一方のみを含むセラミックスが用いられる。
【0024】
筒状壁2の厚みは特に限定されない。もっとも、筒状壁2の厚みがあまりに薄い場合、後述する第1の真空シール部材6を設けることが難しくなり、チャンバ内の真空状態が十分に保てない虞がある。他方、筒状壁2があまりに厚い場合、筒状壁2の上下方向だけでなく厚み方向(
図1の紙面において左右方向)にも温度差が生じ、筒状壁2にクラックが生じ易くなる虞があるだけでなく、チャンバ内でプラズマが発生し難くなる虞がある。
これらを考慮すると、筒状壁2の厚みの下限値は、通常、5mmであり、好ましくは7mmであり、より好ましくは10mmである。また、筒状壁2の厚みの上限値は、通常、20mmであり、好ましくは15mmであり、より好ましくは13mmである。
【0025】
なお、本実施形態では、筒状体22は、直胴状の円筒であるが、筒状体22の形状はその他の任意の形状とすることができる。例えば、特に図示しないが、筒状体22は、角筒であってもよく、側面視円錐台形の筒であってもよい。また、筒状壁2と下側の部材4を非接触とする場合、フランジ部23を省くこともできる。
【0026】
<上側の部材及び下側の部材>
上側の部材3は、筒状壁2の上側に設けられる部材であり、下側の部材4は、筒状壁2の下側に設けられる部材である。上側の部材3は、筒状壁2の上側の端面と連結されており、下側の部材4は、筒状壁2の下側の端面に連結されている。
上側の部材3及び下側の部材4は、例えば、金属によって形成されており、このような金属としてはアルミ合金などが挙げられる。
【0027】
上側の部材3の形状は、筒状壁2の上端開口部を閉塞可能であり且つ筒状壁2の上側の端面と連結可能であれば特に限定されない。本実施形態では、筒状壁2の上端開口部を閉塞する板状の天板部材3を上側の部材3として採用している。天板部材3の略中央部には、下方に窪んだ凹部31が形成されている。特に図示しないが、通常、天板部材3の凹部31を除く上面部には、処理ガス供給口が設けられており、この処理ガス供給口を介して処理ガス供給手段からプラズマ生成空間21に処理ガスが供給される。
天板部材3の略中央部に凹部が形成されているため、プラズマ生成空間21は、
図1に示すように、断面視略U字状の空間となる。このような断面視略U字状のプラズマ生成空間21を採用することにより、比較的小さい電力で高密度のプラズマを生成することができる。
【0028】
下側の部材4の形状は、プラズマ生成空間21と連接するプラズマ処理空間41を内側有し且つ筒状壁2の下側の端面と連結可能であれば特に限定されない。本実施形態では、筒状壁2よりも外径が大きな円筒である下筒体4を下側の部材4として採用している。
下筒体4は、筒状壁2よりも外径が大きな直胴状の円筒である胴部42と、胴部42の下端開口部を閉塞し且つチャンバ1全体を支持する底板部43と、胴部42の上端縁から胴部42の軸心方向へ延びた環状の支持部44と、を有する。本実施形態では、下筒体4の支持部44に筒状壁2が連結されている。
下筒体4の内側にあるプラズマ処理空間41には、プラズマ処理の対象となる基板Sを載置する載置台8が設けられている。載置台8の高さは昇降シリンダなどの昇降手段によって任意の高さに調整することができる。
また、載置台8には、第1のインピーダンス整合器46を介して接続された第1の高周波電源47によって高周波電力が印加される。
【0029】
なお、天板部材3の形状及び下筒体4の形状は、適宜変更することが可能である。例えば、特に図示しないが、天板部材3は、凹部31を有さない平板状であってもよい。また、下筒体4の胴部42は、筒状壁22の外径と略同じ大きさの外径を有する直胴状の円筒であってもよく、この場合、胴部42の上端に筒状壁2を連結することができるため、支持部44を省くことができる。
【0030】
<支柱壁>
支柱壁24は、上側の部材3(本実施形態では、天板部材3)を支持する部材である。本実施形態では、支柱壁24は、下筒体4の支持部44の上面から天板部材3の下面にかけて垂直に立設されている。
後述するように、筒状壁2と上側の部材3との間に第1の真空シール部材6が介設されるため、支柱壁24は、その上端面が筒状壁2の上端面よりも上側に位置する。支柱壁24の上端面と筒状壁2の上端面との高低差が、後述する間隙Gに相当する。
【0031】
<コイル>
コイル5は、筒状壁2の外面に沿って螺旋状に巻回された線状の部材である。コイルは、
図1乃至3に示すように、筒状壁2の外面に接しつつ巻回されていてもよく、特に図示しないが、筒状壁2の外面から僅かに離隔するように巻回されていてもよい(この場合、コイル5を支持する部材が用いられる)。もっとも、コイル5が筒状壁2の外面に接している場合、筒状壁2の温度が上がり易くなるため、コイル5は、筒状壁2の外面から僅かに離隔するように巻回されることが好ましい。
【0032】
図2は、筒状壁2に対するコイル5の位置関係を例示した、プラズマ処理装置10の一部拡大断面図であり、
図3は、コイル5が最も好ましい位置に巻回された本実施形態に係るプラズマ処理装置10の一部拡大断面図である。以下、
図2及び3を参照しつつコイル5と筒状壁2との好ましい位置関係について説明する。
なお、コイル5の位置関係は、後述する第1の真空シール部材6との位置関係を規定する指標となるため、便宜上、
図2及び3では、コイル5、上側の部材3、筒状壁2、及び下側の部材4のみを表している。また、
図2及び3では、便宜上、筒状壁2と上側の部材3及び下側の部材4は接触するように図示している。
また、
図2及び3において、「C」は、螺旋状の線形であるコイル5の一端とその他端の上下方向における中心位置(以下、「中心位置C」と称する)を表し、「W」は、筒状壁2の上下方向における中心位置(以下、「中心位置W」と称する)を表す。
本発明では、コイル5を巻回する筒状壁2の位置は適宜変更することが可能であるが、プラズマの発生位置と筒状壁2の温度差の双方を考慮して設定することが好ましい。
【0033】
具体的には、プラズマ生成空間21では、コイル5が巻回された位置に対応した領域でプラズマが特に多く生成される。そして、なるべく基板Sの近くでプラズマを発生させる方がプラズマ処理をより精度良く実行することが可能である。従って、プラズマ処理の精度を考慮すると、コイル5の巻回位置はなるべく下側であることが好ましい。
これを考慮すると、コイル5は、
図2(a)に示すように、コイル5全体が中心位置Wよりも下側に位置し且つコイル5の下端が筒状壁2の筒状体22の下端よりも上側に位置するように巻回されることが好ましく、
図2(b)に示すように、コイル5全体が中心位置Wよりも下側に位置し且つコイル5の下端と筒状壁2の筒状体22の下端(フランジ部23の上端)が略一致するように巻回されることがより好ましい。
他方、上述したように、筒状壁2の上側の端面があまりにコイル5から離れると、筒状壁2のコイル5が巻回された部分と筒状壁2の上側の端面の温度差が非常に大きくなり、筒状壁2にクラックが生じやすくなる虞がある。従って、筒状壁2のクラック発生防止を考慮すると、コイル5は、
図2(c)に示すように、中心位置Cと中心位置Wの高さが一致するように巻回されることが好ましい。
【0034】
これらを総合的に考慮すると、筒状壁2の上下方向における温度差が大きくなり過ぎないようにしつつ、なるべく中心位置Wよりも下側にコイル5を巻回することが最も好ましい。従って、
図3に示すように、中心位置Cが中心位置Wよりも下側で且つコイル5の上端が中心位置Wより上側に位置するようにコイル5を巻回することが最も好ましい。
【0035】
図1に示すように、コイル5には、第2のインピーダンス整合器51を介して第2の高周波電源52が接続されており、この第2の高周波電源52からコイル5に高周波電力が印加される。真空環境下でプラズマ生成空間21内に処理ガスを供給し、コイル5に高周波電力を印加することにより、プラズマ生成空間21に生じた誘導電界によって処理ガスがプラズマ化され、その結果、基板Sにプラズマ処理を施すことができる。
コイル5に印加される高周波電力の周波数及び電力は特に限定されないが、例えば、周波数は10MHz〜100MHzの範囲で設定され、電力は100W〜10000Wの範囲で設定される。
【0036】
<第1の真空シール部材>
プラズマ処理装置10は、少なくとも第1の真空シール部材6を具備する。
第1の真空シール部材6は、主としてプラズマ処理中においてチャンバ1内の真空状態を保つ部材であり、本発明では、筒状壁2の上下方向における温度差を小さくするために設けられる部材でもある(後述する第2の真空シール部材7についても同様である)。
第1の真空シール部材6は、筒状壁2の上側及び下側の端面のうち、中心位置Cから遠い方の端面と、前記上側の部材3及び下側の部材4のうち、前記遠い方の端面に連結された部材との間において、チャンバ1内でプラズマ処理が実行される状態において前記遠い方の端面と前記連結された部材とが非接触となる状態で介設されている。
【0037】
以下、主に
図4乃至7を参照しつつ第1の真空シール部材について具体的に説明する。なお、
図4は、
図1のIV−IV線断面図であるが、便宜的に、筒状壁の断面内において、第1の真空シール部材6が設けられた部分を破線で囲って表している。また、
図5乃至7について、便宜上、第1の真空シール部材の断面を示すハッチングは省略している(後述する
図8乃至11についても同様)。
【0038】
以下、本明細書において、筒状壁2の上側の端面を単に「上端面」と称し、筒状壁2の下側の端面を単に「下端面」と称し、中心位置Cから遠い方の端面を「遠端面」と称し、中心位置Cから近い方の端面を「近端面」と称する場合がある。
コイル5の巻回位置を変えることにより、筒状壁2の上端面及び下端面は、遠端面にもなり得るし近端面にもなり得る。なお、
図2(c)に示すように、中心位置Cと中心位置Wの高さが一致する場合、便宜上、筒状壁2の上端面及び下端面のうち一方を遠端面とし、他方を近端面とする。
【0039】
本実施形態では、
図1及び3に示すように、中心位置Cが中心位置Wよりも下側に位置するようにコイル5が巻回されている。従って、筒状壁2の遠端面は、その上端面であり、筒状壁2の近端面は、その下端面である。そのため、本実施形態では、
図5に示すように、筒状壁2の上端面とそれに連結された部材(即ち、上側の部材3)との間に第1の真空シール部材6が介設されている。
第1の真空シール部材6は、特に限定されないが、好ましくは、
図4に示すように筒状壁2の遠端面(本実施形態では上端面)の全周に亘る環状の弾性部材であり、本実施形態では、その断面形状が円形の弾性部材(いわゆる、Oリング)を第1の真空シール部材6として用いている。第1の真空シール部材6を用いることにより、チャンバ内の真空状態を容易に保つことができる。以下、その理由について
図6を参照しつつ説明する。
【0040】
図6(a)は、筒状壁2と上側の部材3を連結する前の状態を示している。この状態において、第1の真空シール部材6(Oリング6)は、上側の部材3の下端面に形成された溝部9に嵌入されている。
上側の部材3の下面を支
柱壁24の上端面に近づけると、
図6(b)に示すように、第1の真空シール部材6は、上側及び下側から押圧されやや弾性変形する。この状態では、第1の真空シール部材6と上側の部材3及び筒状壁2との間に微細な間隙が存在するため、チャンバ1の内外が空間的に分離されていない状態(非真空シール状態)である。
次に、
図6(b)の状態から、上側の部材3を支
柱壁24の上端面と接するように押さえつけつつチャンバ1内を真空排気する。そうすると、第1の真空シール部材6は上側の部材3及び筒状壁2と密着するように大きく弾性変形し、上記微細な間隙がなくなり、
図5で示すようにチャンバ1の内外が空間的に分離された状態(真空シール状態)となる。
本実施形態では、支
柱壁24の上端面が筒状壁2の上端面よりも上側に位置しているため、第1の真空シール部材6が真空排気の圧力により潰れ過ぎることがない。そのため、筒状壁2の上端面と上側の部材3の下面が非接触な状態のままチャンバ1内の真空状態を保つことができる。
【0041】
このように、本発明では、
図5に示すように、チャンバ内でプラズマ処理が実行される状態において、遠端面(
図5では、筒状壁の上端面)とそれと連結した部材(
図5では、上側の部材3)とが非接触とされている。換言すると、筒状壁2の上端面と上側の部材3は、直接接しておらず、第1の真空シール部材6を介して間接的に連結されている。
プラズマ処理の実行により、筒状壁2は上述したように昇温するが、本発明では、遠端面とそれと連結した部材が非接触とされているため、筒状壁2の遠端面から連結した部材への直接的な熱伝導が生じない。また、第1の真空シール部材6は、通常、熱伝導率が低いため、第1の真空シール部材6を介した間接的な熱伝導も生じ難い。
【0042】
従って、
図7に示すように、本発明では、筒状壁2の遠端面(本実施形態では、上端面)が、それと連結した部材(本実施形態では、上側の部材3)によって冷却され難いため、プラズマ処理を実行中の筒状壁2の上下方向における温度差が小さくなる。
具体的には、
図7に示すように、筒状壁2の最上部の温度(280℃)と筒状壁2の最高温度(300℃)との差(Δt
1)は、20℃となり、上述した
図13に示す従来のプラズマ装置10AのΔt
1の値(50℃)よりも温度差が小さくなる。
従って、本発明のプラズマ処理装置10は、プラズマ処理を実行中に筒状壁2にクラックが生じ難くなり、プラズマ処理を長時間安定的に実行することができる。
【0043】
本実施形態では、筒状壁2の近端面である下端面とそれと連結した下側の部材4との間には、Oリングが介設されているものの、
図7に示すように、筒状壁2のフランジ部23と下側の部材4は、クランプ25を用いて強制的に接触状態とされている。そのため、筒状壁2のコイル5より下側における温度分布は、上述した
図13に示す従来の筒状壁2Aと略同様である。
【0044】
なお、
図7に示す、本実施形態に係るプラズマ処理装置10の各部材の外面温度、Δt
1及びΔt
2は例示である。これらの値は、コイルに印加する電力、筒状壁2の素材、上側の部材3及び下側の部材4の調整温度(チャンバヒーターの温度)などによって変動するものの、これらがどのような値であっても、第一の真空シール部材6を用いることによって筒状壁2の上下方向における温度差を小さくすることが可能である。後述する第2乃至第4実施形態についても同様である。
【0045】
さらに、本発明では、筒状壁2の遠端面(本実施形態では、上端面)とそれと連結した部材(本実施形態では、上側の部材3)とが非接触とされているため、プラズマ処理状態において、プラズマ処理空間にパーティクルが発生することを効果的に防止することができる。以下、
図8を参照しつつ説明する。
図8(a)はプラズマ処理を開始直後の状態を表し、
図8(b)は、プラズマ処理を終了間際の状態を表す。
図8(a)及び
図8(b)において、破線は、筒状壁2の筒状体22の厚み方向における中間点を通る基準線を表す。
【0046】
上側の部材3は、プラズマ処理を開始直後は比較的低温であるが、プラズマ処理を継続するにつれて徐々に昇温し、プラズマ処理を終了間際においてはプラズマ処理の開始直後よりも著しく高温となる。そのため、上側の部材3はプラズマ処理の開始から終了の間に左右方向に熱膨張する。その結果、
図8(a)及び
図8(b)に示すように、プラズマ処理の開始直後に基準線の直上に位置した点A(上側の部材3の上面における一点)は、プラズマ処理の終了間際には基準線よりも僅かに右側に位置がずれる。なお、筒状壁2も若干熱膨張するものの、通常、上側の部材3に比してその熱膨張率はかなり小さいため、その影響は殆ど無視することができる。
ここで、従来のプラズマ処理装置のように、筒状壁2と上側の部材3が接触していると、上述のような上側の部材3の熱膨張により筒状壁2の上端面と上側の部材3の下面とが擦れ合い、その結果、筒状壁2の一部又は上側の部材3の一部が微粒子状に剥離する(即ち、パーティクルが発生する)と共にプラズマ処理空間41に拡散し、プラズマ処理の精度に悪影響を及ぼす場合がある。また、上側の部材3は、上下方向にも熱膨張するため、従来のプラズマ処理装置のように、筒状壁2と天板部材3とが接触していると、上側の部材3により筒状壁2の上面が押圧されるため筒状壁2にクラックが発生し易くなる虞がある。
これに対し、本実施形態では、筒状壁2の上端面と上側の部材3が第1の真空シール部材6によって非接触とされている。そのため、熱膨張によって上側の部材3と筒状壁2との位置関係にずれが生じても、第1の真空シール部材6が弾性変形することによりチャンバ1内の真空状態を保ったまま該ずれに対応可能である(
図8(b)参照)。そのため、筒状壁2の上端面と上側の部材3はプラズマ処理の過程において擦れ合わない。従って、本発明では、筒状壁2のクラック発生を防止できるだけでなく、プラズマ処理空間41にパーティクルが拡散し基板に付着することを効果的に防止できる。
【0047】
第1の真空シール部材6の材料は特に限定されないが、熱伝導率が低い材料を用いることが好ましい。熱伝導率が低ければ低いほど、第1の真空シール部材6を介した上側の部材3への熱伝導が生じ難くなり、筒状壁2の上下方向における温度差をより小さくすることができる。
第1の真空シール部材6の熱伝導率は、好ましくは0.8W/(mK)以下であり、より好ましくは0.6W/(mK)であり、特に好ましくは0.5W/(mK)以下である。このような熱伝導率を満たす材料として公知のエラストマーや樹脂を用いることができ、具体的には、ニトリル系ゴム、シリコン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレンプロピレン(EP)ゴム、スチレンブタジエン(SB)ゴムなどを用いることができる。
【0048】
また、特に図示しないが、筒状壁2の遠端面が下端面である場合、筒状壁2の下端面と下側の部材4との間に第1の真空シール部材6が介設される。
この場合、上述と同様の理由により、筒状壁2の最下部の温度と筒状壁2の最高温度(300℃)との差(Δt
2)が、上述した
図13に示す従来のプラズマ装置10AのΔt
2の値(40℃)よりも小さくなり、筒状壁2の上下方向における温度差を小さくすることができる。また、この場合、第1の真空シール部材6は、後述する第2の真空シール部材7と同様に、下側の部材4の上端面に形成された溝部9に嵌入される。
【0049】
プラズマ処理を実行中において、筒状壁2の遠端面とそれと連結した部材とは非接触であり両者の間には間隙Gが存在する(
図5参照)。間隙Gの幅は特に限定されず、適宜設定される。例えば、間隙Gの最小値は、0.3mmであり、好ましくは0.4mmであり、より好ましくは0.5mmである。また、間隙Gの最大値は、1.0mmであり、好ましくは0.9mmであり、より好ましくは0.8mmである。
間隙Gが0.3mmよりも小さい場合、チャンバ1内の真空度が僅かに変動することで遠端面とそれと連結した部材が接触する虞がある。他方、間隙Gが1.0mmを超えると、プラズマに暴露される第1の真空シール部材6の表面積が増加し、第1の真空シール部材6がプラズマによって劣化し易くなる虞がある。
【0050】
第1の真空シール部材6としてOリングを用いる場合、その線径は特に限定されず、目標とする間隙Gの幅を考慮して適宜設定される。
一般的に、線径が小さいOリングは線径の大きなOリングに比して、圧縮永久ひずみ率が大きい。そのため、線径が小さいOリングを用いた場合、チャンバ内の真空状態を長期間に亘って安定的に保つことが難しい場合がある。これを考慮すると、Oリングの線径の最小値は、例えば、2.0mmであり、好ましくは3.0mmであり、より好ましくは5.0mmである。他方、Oリングの線径が大きすぎると、チャンバの内のプラズマに曝露されるOリングの表面積が大きくなり、Oリングが劣化し易くなる虞がある。これを考慮すると、Oリングの線径の最大値は、8.0mmであり、好ましくは7.0mmであり、より好ましくは6.0mmである。なお、本明細書で例示したOリングの線径は、弾性変形する前の状態を基準としている。
Oリングの硬度(JIS K6253「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方−」に準拠して求められる硬度(ショアA))は特に限定されないが、例えば、50〜90であり、好ましくは70〜90である。
【0051】
また、第1の真空シール部材6が嵌入される溝部9の形状は、特に限定されない。図では、断面視矩形状の溝部9を採用しているが、これ以外にも、あり溝(断面視台形状の溝部9)や、断面視三角形状の溝部9などを用いることもできる(図示せず)。
溝部9の深さは特に限定されず、第1の真空シール部材6の形状に合わせて適宜設定することができる。例えば、第1の真空シール部材6としてOリングを用いる場合、好ましくは、溝部9の深さの下限値は、Oリングの線径の0.3倍であり、より好ましくは0.5倍であり、特に好ましくは0.6倍である。また、好ましくは、溝部9の深さの上限値は、Oリングの線径の0.9倍であり、より好ましくは0.8倍であり、特に好ましくは0.7倍である。
【0052】
第1実施形態に係るプラズマ処理装置10は、上述した具体的な態様に限定されず、プラズマ処理を実行中に筒状壁2の遠端面とそれと連結した部材とが非接触であること条件に、様々な変更を加えることが可能である。
例えば、第1の真空シール部材6として、Oリング以外にも、断面形状が四角形状、D字状、不定形状の弾性部材などを用いることもできる。なお、第1の真空シール部材6の断面形状は、第1の真空シール部材6が弾性変形する前の状態を基準としている。
また、溝部9は、筒状壁2の上端面に形成されていてもよく、上側の部材3の下面と筒状壁2の上端面の両方に形成されていてもよい。なお、後者の場合、両溝部9の深さを合計した値が上述した数値範囲内に収まることが好ましい。
【0053】
[第2実施形態]
第2実施形態に係るプラズマ処理装置10は、チャンバ1が、第1の真空シール部材6に加えさらに第2の真空シール部材7を具備する。第2の真空シール部材7は、筒状壁2の近端面と該近端面に連結された部材との間において、チャンバ1内でプラズマ処理が実行される状態において筒状壁2の近端面と該近端面に連結された部材とが非接触となる状態で介設される。
換言すると、本実施形態において、チャンバ1は、筒状壁2の上端面と上側の部材3との間、及び、筒状壁2の下端面と下側の部材4との間の双方に、筒状壁2の上端面と上側の部材3とを非接触とし且つ筒状壁2の下端面と下側の部材4とを非接触とした状態で真空シール部材(第1の真空シール部材6及び第2の真空シール部材7)を具備する。
【0054】
例えば、筒状壁2の遠端面がその上端面である場合、筒状壁2の近端面はその下端面であり、それと連結した部材は下側の部材4である。そのため、
図9に示すように、筒状壁2の下端面と下側の部材4との間に第2の真空シール部材7(本実施形態では、Oリング7)が介設されている。なお、筒状壁2の上端面と上側の部材3との関係は、上述した第1実施形態(
図5)と同じなので、
図9では当該部分の図示を省略する。また、本実施形態では、筒状壁2の下端面と下側の部材4を非接触とするため、フランジ部23にクランプ25を設けていない。
上述した第1の真空シール部材6と同様に、第2の真空シール部材7は、下側の部材4の上面に形成された溝部9に嵌入されている。第2の真空シール部材7を上側及び下側から押圧しつつチャンバ1内を真空排気することにより、第2の真空シール部材7は、大きく弾性変形しつつ筒状壁2及び下側の部材4に密着する。これにより、チャンバ1の内外が空間的に分離された状態(真空シール状態)となる。
筒状壁2の下端面と下側の部材4との間に存在する間隙Gの幅は、上述した筒状壁2の上端面と上側の部材3との間に存在する間隙Gの幅と同じ範囲内とすることが好ましい。
【0055】
このように、本実施形態に係るプラズマ処理装置10は、第1の真空シール部材6に加え第2の真空シール部材7をさらに具備することにより、プラズマ処理が実行されている状態において、上側の部材3及び下側の部材4の双方が筒状壁2と接触しない。従って、
図10に示すように、筒状壁2の最上部の温度(280℃)と筒状壁2の最高温度(300℃)との差(Δt
1)が20℃となり、上述した
図13に示す従来のプラズマ装置10AのΔt
1の値(50℃)よりも温度差が小さくなる。同様に、本実施形態では、筒状壁2の最下部の温度(290℃)と筒状壁2の最高温度(300℃)との差(Δt
2)が10℃となり、上述した
図13に示す従来のプラズマ装置10AのΔt
2の値(40℃)よりも温度差が小さくなる。従って、本実施形態では、第1実施形態よりもさらに筒状壁2の上下方向における温度差を小さくすることができる。
また、本実施形態では、筒状壁2の上端面と上側の部材3との間、及び、筒状壁2の下端面と下側の部材4との間の双方が非接触であるため、チャンバ1内にパーティクルが拡散することをより確実に防止でき、より高精度なプラズマ処理を実行することができる。
【0056】
なお、第2実施形態に係るプラズマ処理装置10については、上述した第1実施形態と同様に、様々な変更を加えることが可能である。
例えば、第2の真空シール部材7が嵌入される溝部9は、下側の部材4の上面ではなく、筒状壁2の下端面に形成されていてもよい。その他、第2実施形態に対して想定できる変更点については、上述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する(第3及び第4実施形態についても同様)。
【0057】
[第3実施形態]
第1実施形態では、第1の真空シール部材6が、1つのOリングから構成されていたが、第3実施形態では、第1の真空シール部材6は、略同一平面上において略同心状に配置された、互いに異なる内径を有する複数のOリングから構成されており、この複数のOリングのうち、最も内側に位置するOリングの線径が他のOリングの線径よりも小さく、最も内側に位置するOリングの表面が耐プラズマ性を有する膜によって被覆されている。
以下、2つのOリングから構成された第1の真空シール部材6について
図11を参照しつつ説明する。
【0058】
図11に示すように第1の真空シール部材6は、互いに内径の異なるOリング61とOリング62から構成されており、内側のOリング61は外側のOリングよりも線径が小さい。従って、Oリング61のみがチャンバの内側の露出している。
2つのOリング61,62は、略同一平面上に同心状に配置されている。略同一平面上に配置されているとは、
図11に示すように、2つのOリング61,62が、破線で示された水平線に沿って隣り合うように配置されていることを意味する。また、同心状に配置されているとは、Oリング61の軸心とOリング62の軸心を通る鉛直線が一致するように配置されていることを意味する。該鉛直線は、筒状壁2の軸心と一致していてもよく、一致していなくてもよいが、筒状壁2の軸心と一致することが好ましい。
【0059】
内側のOリング61の表面には、耐プラズマ性を有する膜(以下、「耐プラズマ膜」と称する)が被覆されている。Oリング61が耐プラズマ膜によって被覆されることにより、該Oリング61よりも外側に位置するOリング62(
図11では、Oリング62)を耐プラズマ膜によって被覆せずとも第1の真空シール部材6(複数のOリング)に耐プラズマ性を付与することができる。
耐プラズマ膜は特に限定されないが、例えば、フッ素系樹脂を含む膜が例示できる。
フッ素系樹脂としては、テトラフルオロエチレンの重合体を用いることが好ましい。テトラフルオロエチレンの重合体としては、例えば、ETFE(テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、及びPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などが挙げられる。
【0060】
本実施形態では、内側のOリング61により外側のOリング62がプラズマから保護される。耐プラズマ性を有するOリングは、耐プラズマ膜で被覆する表面積が広ければ広いほど高価である。しかし、Oリング61は耐プラズマ膜によって被覆されているものの、線径が比較的小さいため廉価である。また、外側のOリング62は、Oリング61よりも線径が大きいため、チャンバ1の真空シール性を確保することができる。このように、本実施形態に係るプラズマ処理装置10では、比較的廉価である線径の小さな耐プラズマ性を有するOリング61と線径の大きなOリング62を併用することにより、経済的且つ効果的に長期に亘ってチャンバ1の真空状態を確保することができる。
【0061】
なお、これまで第1の真空シール部材6が2つのOリングから構成されている場合について説明したが、本実施形態において、Oリングの数は2つに限られず、3つ以上とすることも可能である。
Oリングが3つ以上である場合、複数のOリングは、チャンバ1の内側から外側に向かって、内径の小さい順に配置されていてもよいし、線径の大きさとは無関係に無作為に配置してもよい(但し、最も内側のOリングの線径が最も小さいことを条件とする)。
また、Oリングの数が3つ以上である場合、外側のOリング(最も内側のOリング以外のOリング)は、互いに同じ線径であってもよい。
【0062】
[第4実施形態]
第3実施形態では、第1の真空シール部材が、複数のOリングから構成されていたが、第4実施形態では、第1の真空シール部材及び前記第2の真空シール部材は、それぞれ、略同一平面上において略同心状に配置された、互いに異なる内径を有する複数のOリングから構成され、複数のOリングのうち、最も内側に位置するOリングの線径が他のOリングの線径よりも小さく、最も内側に位置するOリングの表面が耐プラズマ性を有する膜によって被覆されている。
即ち、第4実施形態は、上述した第2実施形態が備える第1及び第2の真空シール部材が、共に上述した第3実施形態と同様に、複数のOリングから構成された実施形態である。本実施形態における第2の真空シール部材の具体的な態様については、第3実施形態と同様であるため図面及びその説明を省略する。
【0063】
第4実施形態では、第3実施形態と同様の理由により、より安定的にチャンバ内の真空状態を保つことができると共に、低廉なOリングを用いて第1及び第2の真空シール部材の双方に耐プラズマ性を付与することができる。
また、第4実施形態では、第2実施形態と同様の理由により、プラズマ処理空間にパーティクルが混入することを効果的に防止することができる。