特許第6812303号(P6812303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6812303自動走行作業車両のための衛星測位システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6812303
(24)【登録日】2020年12月18日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】自動走行作業車両のための衛星測位システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/43 20100101AFI20201228BHJP
   G05D 1/02 20200101ALI20201228BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   G01S19/43
   G05D1/02 N
   A01B69/00 303Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-105910(P2017-105910)
(22)【出願日】2017年5月29日
(65)【公開番号】特開2018-200274(P2018-200274A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2019年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】新海 敦
(72)【発明者】
【氏名】鈴川 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】森下 孝文
(72)【発明者】
【氏名】山口 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】阪口 和央
【審査官】 田中 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−322753(JP,A)
【文献】 特開2011−165256(JP,A)
【文献】 特表2010−501751(JP,A)
【文献】 特開2016−031649(JP,A)
【文献】 特開平08−334342(JP,A)
【文献】 特開2015−169503(JP,A)
【文献】 特開2009−175071(JP,A)
【文献】 特表平09−512072(JP,A)
【文献】 特開2017−003448(JP,A)
【文献】 特開2018−113940(JP,A)
【文献】 特開2004−144622(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0229435(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0085734(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00 − G01S 19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動走行作業車両のための衛星測位システムであって、
設置された位置を示すパラメータである位置座標と衛星からの電波とに基づいて生成された補正データを送信する衛星測位基地局ユニットと、
前記衛星からの電波と前記補正データとを用いて測位データを算出する車載衛星測位ユニットと、
無線通信を用いて前記衛星測位基地局ユニットの前記位置座標を外部から設定する位置座標設定部と、
設定状態送信部及び設定状態受信部を有する設定状態管理モジュールと、を備え、
前記自動走行作業車両のそれぞれに、前記車載衛星測位ユニットと前記位置座標設定部と前記設定状態管理モジュールとが搭載され、
前記設定状態送信部は前記位置座標設定部によって設定された前記衛星測位基地局ユニットにおける前記位置座標の設定状態を他の前記自動走行作業車両に送信し、前記設定状態受信部は他の前記自動走行作業車両の前記設定状態管理モジュールの前記設定状態送信部から送信されてきた前記設定状態を受信し、前記設定状態が複数台の前記自動走行作業車両によって共用される自動走行作業車両のための衛星測位システム。
【請求項2】
前記設定状態を示すフラグには、前記位置座標の設定前及び設定中を示す座標未設定フラグと前記位置座標の設定完了を示す座標設定済フラグとが含まれている請求項1に記載の衛星測位システム。
【請求項3】
前記座標未設定フラグには、前記衛星測位基地局ユニットにおける前記位置座標の初期化中を示す初期化中フラグと、設定されている前記位置座標の前記位置座標設定部による変更中を示す変更中フラグが含まれている請求項2に記載の衛星測位システム。
【請求項4】
前記位置座標設定部の1つが前記位置座標の設定中または変更中である場合、他の前記位置座標設定部による前記位置座標の設定または変更は禁止される請求項3に記載の衛星測位システム。
【請求項5】
前記衛星測位基地局ユニットは複数台の前記自動走行作業車両によって共用され、当該自動走行作業車両のそれぞれが、制御ユニット及び前記制御ユニットに接続される汎用端末装置を備え、かつ、
前記汎用端末装置が前記位置座標設定部と前記設定状態送信部と前記設定状態受信部とを有し、前記汎用端末装置同士の間で、前記設定状態が無線通信を通じて共有できる請求項1〜4のいずれか一項に記載の衛星測位システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星からの電波を受信して補正データを生成する移動式の衛星測位基地局ユニットと、衛星からの電波と衛星測位基地局ユニットからの補正データとを用いて測位データを算出する車載衛星測位ユニットとからなる、自動走行作業車両のための衛星測位システムに関する。衛星測位基地局ユニットは自動走行作業車両の作業現場付近に設置され、衛星測位基地局ユニットは自動走行作業車両に搭載され、当該自動走行作業車両の自車位置を算出するために利用される。
【背景技術】
【0002】
この衛星測位システムは、複数の衛星からの電波の受信情報に基づいて、地球上での自車の位置を計測する全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)に属するものであり、地上の所定位置に設置された基地局ユニットと、車両などの移動体に搭載される車載測位ユニットとから構成される。このシステムは、車載測位ユニットにおける衛星電波を用いた測位演算において、基地局ユニットから送られてくる補正データが用いられる方式であり、単独の測位方式に比べて、高い測位精度が得られる。
この方式には、リアルタイムキネマティック方式GPS(以下、RTK−GPSと略称する)やディファレンシャル方式GPS(以下、DGPSと略称する)等が含まれる。RTK−GPSを自動走行作業車両に適用した例が、例えば、特許文献1に開示されている。RTK−GPSを用いた測位方式の運用においては、自動走行作業車両の走行対象となる作業地の近くに、衛星測位基地局ユニットが設置される。この自動走行作業車両が、遠く離れた次の作業地で作業を行う場合には、衛星測位基地局ユニットが取り外され、次の作業地へ搬送され、その適所に設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−31649号公報(段落番号0035参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この衛星測位基地局ユニットは、所定位置に設置された後、起動されると、自動で設置位置の座標を算出する自動位置座標算出機能、及び、外部からの操作(無線操作を含む)による手動位置座標算出機能を備えている。自動位置座標算出機能によって算出された位置座標が正確でないとみなされると、この衛星測位基地局ユニットを利用する車載測位ユニット側からの操作で、自動で設定された位置座標が書き換えられる。この位置座標の書き換え前に、この衛星測位基地局ユニットを利用する別の車両が、それまでに設定されていた位置座標に基づいて算出された補正データを用いて自車位置を算出し、この自車位置と走行経路とを用いて自動走行している可能性がある。そのような場合、外部操作(衛星測位基地局ユニット以外からの無線等による操作)により衛星測位基地局ユニットの位置座標が書き換えられると、それ以前とそれ以後の自車位置の算出結果に矛盾が生じ、この車両(位置座標の書き換えを行っている車両とは異なる車両)の正常な自動走行ができなくなってしまう。また、一方の車両が衛星測位基地局ユニットの位置座標を書き換えている途中で、他方の車両も衛星測位基地局ユニットの位置座標の書き換えを行えば、手動位置座標算出機能がエラーを生じる可能性もある。
【0005】
このことから、複数の車両によって共用されている衛星測位基地局ユニットに設定されている位置座標が、外部から書き換えられた場合でも、全ての車両が、そのような位置座標の書き換え状態を共有することができる技術が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による、自動走行作業車両のための衛星測位システムは、設置された位置を示すパラメータである位置座標と衛星からの電波とに基づいて生成された補正データを送信する衛星測位基地局ユニットと、前記衛星からの電波と前記補正データとを用いて測位データを算出する車載衛星測位ユニットと、無線通信を用いて前記衛星測位基地局ユニットの前記位置座標を外部から設定する位置座標設定部と、設定状態送信部及び設定状態受信部を有する設定状態管理モジュールとを備え、前記自動走行作業車両のそれぞれに、前記車載衛星測位ユニットと前記位置座標設定部と前記設定状態管理モジュールとが搭載され、前記設定状態送信部は前記位置座標設定部によって設定された前記衛星測位基地局ユニットにおける前記位置座標の設定状態を他の前記自動走行作業車両に送信し、前記設定状態受信部は他の前記自動走行作業車両の前記設定状態管理モジュールの前記設定状態送信部から送信されてきた前記設定状態を受信し、前記設定状態が複数台の前記自動走行作業車両によって共用されるように構成されている。
【0007】
この構成によれば、衛星測位基地局ユニットが設置された位置を示すパラメータである位置座標が、衛星測位基地局ユニットの外部から、位置座標設定部によって設定(新規設定または書き換え設定)された場合、その設定状態が設定状態送信部によって送信される。この送信された設定状態を設定状態受信部が受信することで、その時点での衛星測位基地局ユニットにおける位置座標の設定状態は、この衛星測位基地局ユニットを利用している全ての車載衛星測位ユニット側で把握できる。つまり、任意の自動走行作業車両(以下、単に車両とも称する)側から、衛星測位基地局ユニットの位置座標を設定した場合でも、それ以外の車両側は、その設定状態を実質的にリアルタイムで共有できる。これにより、任意の車両側から、衛星測位基地局ユニットの位置座標の設定が行われても、この衛星測位システムを利用している全ての車両における自車位置算出の混乱は回避される。
【0008】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記設定状態を示すフラグには、前記位置座標の設定前及び設定中を示す座標未設定フラグと前記位置座標の設定完了を示す座標設定済フラグとが含まれている。この構成では、座標未設定フラグが与えられている場合は、衛星測位基地局ユニットにおいて位置座標が設定されておらず、補正データは生成されないと判断できる。このように判断されると、車両側では、衛星測位基地局ユニットにおいて位置座標が設定されるのを待つか、あるいは、位置座標設定部が衛星測位基地局ユニットの前記位置座標を外部から設定することになる。座標設定済フラグが与えられている場合は、衛星測位基地局ユニットにおいて位置座標が設定されているので、補正データは生成され、送信されてくると判断できる。このように判断されると、車両側では、送られてくる補正データを利用することになる。但し、その際、衛星測位基地局ユニットで設定されている位置座標に問題があるとみなされると、位置座標設定部による位置座標の外部からの設定が行われる。このように座標未設定フラグと座標設定済フラグとの2つのフラグにより、この衛星測位システムを利用している全ての車両側が同時に衛星測位基地局ユニットにおける位置座標の設定状態を把握することができる。
【0009】
さらに、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記座標未設定フラグには、前記衛星測位基地局ユニットにおける前記位置座標の初期化中を示す初期化中フラグと、設定されている前記位置座標の前記位置座標設定部による変更中を示す変更中フラグが含まれている。この構成では、初期化中フラグが与えられている場合は、衛星測位基地局ユニットが初期化処理を通じて位置座標を設定中であるので、当該初期化処理が終了するまで、待機するべきであると判断できる。変更中フラグが与えられている場合は、任意の位置座標設定部によって位置座標が変更されている途中であるので、当該位置座標設定部による位置座標の変更が終了するまで待機するべきであると判断できる。位置座標の設定中に、別な位置座標の設定が入り込むことを回避するためには、前記位置座標設定部の1つが前記位置座標の設定中または変更中である場合、他の前記位置座標設定部による前記位置座標の設定または変更が禁止されるとよい。
【0010】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記衛星測位基地局ユニットは複数台の前記自動走行作業車両によって共用され、当該自動走行作業車両のそれぞれが、制御ユニット及び前記制御ユニットに接続される汎用端末装置を備え、かつ、前記汎用端末装置が前記位置座標設定部と前記パラメータ設定状態通知部とを有し、前記汎用端末装置同士の間で、前記設定状態が無線通信を通じて共有される。この構成では、各自動走行作業車両に備えられた汎用端末装置が、それぞれデータ交換可能に接続されている(ペアリング状態)ので、汎用端末装置により、衛星測位基地局ユニットの位置座標の設定状態を取得や位置座標の変更が可能となる。したがって、各自動走行作業車両に搭載されている車載衛星測位ユニットには手を加える必要がないので、従来の車載衛星測位ユニットがそのまま流用される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】2台のトラクタによる協調作業の様子を示す説明図である。
図2】2台のトラクタによる協調作業走行時の互いの関係を示す説明図である。
図3】協調走行する作業車の側面図である。
図4】衛星測位システムとトラクタの制御系の機能ブロック図である。
図5】衛星測位基地局と汎用端末装置の基地局管理モジュールとの間のデータの流れを示す模式図である。
図6】衛星測位基地局ユニットの初期化処理における位置座標設定のタイムチャートの一例を示す説明図である。
図7】位置座標設定コマンドによる衛星測位基地局ユニットの位置座標設定過程におけるタイムチャートの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて、本発明に係る自動走行作業車両のための衛星測位システムの実施形態を説明する。この実施形態では、走行車体の後部に耕耘装置を装備した2台のトラクタが、自動走行作業車両として、衛星測位システムを利用している。2台のトラクタは、作業地である圃場に対して協調して耕耘作業を行う。
【0013】
この協調耕耘作業では、図1図2に示すように、2台のトラクタのうち、符号「A」を付与されたトラクタが先行して走行し、符号「B」を付与されたトラクタが、先行するトラクタによって耕耘された領域に対してわずかなオーバーラップ幅をもって、追従走行する。圃場での耕耘作業では、一般に、圃場の中央側に位置する中央作業地CLと、その中央作業地CLの周囲で畦に沿って規定される枕地HLとに区分けされる。各トラクタは、中央作業地CLにおいて予め設定された目標走行経路に沿って直進走行し、枕地HLに達するとUターン走行し、再び中央作業地CLでの直進走行に戻る。なお、2台のトタクタは、設定された目標走行経路に沿って自動走行可能であるが、2台のトラクタのうちのいずれか一方に運転者が乗り込んで手動走行され、他方が自動走行される作業方法と、2台のトラクタの両方が自動走行される作業方法が可能である。また、自動走行されるトラクタには、監視目的で監視者が乗り込むこともある。さらに一般的には、農道から圃場の所定位置(自動走行開始点)までは、運転者が乗り込んで、手動走行される。手動走行と自動走行とにかかわらず、各トラクタの自車位置は、衛星測位システムを用いて算出されるので、圃場における現在位置と目標走行経路や目標地点との間の偏差は、正確に求められる。
【0014】
この実施形態では、2つのトラクタは、実質的に同じ構成である。図3に示すように、このトラクタは、前輪11と後輪12とによって支持された車体10の中央部に操縦部20が設けられている。車体10の後部には油圧式の昇降機構31を介して作業装置としてのロータリ式の耕耘装置30が装備されている。前輪11は操向輪として機能し、操舵機構13によって操舵角が変更されることでトラクタの走行方向が変更される。操舵機構13には自動操舵のための操舵モータ14が含まれている。手動走行では、前輪11の操舵は操縦部20に配置されているステアリングホイール22を用いて行われる。操縦部20には、この実施形態では、タブレットコンピュータによって構成されている汎用端末装置6が操縦席に設置されたクレードルに装着されている。この汎用端末装置6は、無線データ伝送機能を備えており、クレードルから取り外して、トラクタの外部に持ち出しても、トラクタの制御系との間でデータ通信可能である。汎用端末装置6は、運転者に情報を提供する機能と、運転者からの情報を入力する機能とを有する。
【0015】
図1に示すように、この実施形態での衛星測位システムは、GNSS(global navigation satellite system)における、RTK−GPS方式を採用しているので、基本構成要素として、衛星測位基地局ユニット9Bと車載衛星測位ユニット9Aとを備えている。衛星測位基地局ユニット9Bは、圃場近くに設置され、その設置された位置を示すパラメータである位置座標と衛星ASからの電波とに基づいて生成された補正データを車載衛星測位ユニット9Aに送信する。車載衛星測位ユニット9Aは、トラクタに装備されており、GNSS信号(GPS信号も含む)を受信するための衛星用アンテナが、トタクタキャビン21の天井領域に取り付けられている。なお、衛星測位システムを用いた衛星航法を補完するために、車載衛星測位ユニット9Aに、ジャイロ加速度センサや磁気方位センサを組み込んだ慣性航法モジュールを組み合わせることも可能である。そのような慣性航法モジュールは、車載衛星測位ユニット9Aとは別の場所に設けてもよい。
【0016】
衛星測位基地局ユニット9Bは、持ち運び可能であり地面上の任意の箇所に設置することができるように構成されている。このように構成することで、複数の圃場のそれぞれに衛星測位基地局ユニット9Bが設置される必要がなく、1台の衛星測位基地局ユニット9Bが各圃場に運搬車等により搬送され、設置される。複数の車載衛星測位ユニット9Aは、1台の衛星測位基地局ユニット9Bを共用することができる。また、作業すべき複数の圃場が隣接する場合には、各圃場を走行するトラクタの車載衛星測位ユニット9Aとの間で通信可能な場所に1台の衛星測位基地局ユニット9Bが設置される。
【0017】
このため、作業対象となる圃場の地図データに、当該圃場に対応する衛星測位基地局ユニット9Bの適正設置位置とが対応付けられたものが、圃場情報として管理されている。しかしながら、このように持ち運び可能で地面上の任意の箇所に設置することが可能な衛星測位基地局ユニット9Bであれば、作業者が前回の設置位置と異なる位置に誤って設置するおそれがある。衛星測位基地局ユニット9Bから送信される衛星測位基地局ユニット9Bの設置位置の位置座標が、圃場情報に記述されている適正設置位置と異なれば、衛星測位基地局ユニット9Bを適正な設置位置に移動させることになる。また、衛星測位基地局ユニット9Bで算定された設置位置の位置座標に誤りがあるとみなされる場合には、後述する構成を用いて、トラクタ側から、衛星測位基地局ユニット9Bの設置位置の位置座標を書き換えることも可能である。
【0018】
図4には、衛星測位システムとトラクタの制御系の機能ブロック図が示されている。トラクタの制御系の中核要素である制御ユニット5は、入出力インタフェースとして、出力処理部7と入力処理部8とを備えている。異なるタイプの無線通信機器と無線通信を行うために、複数の通信方式で動作可能な無線モジュール4が制御ユニット5と接続している。無線モジュール4は、他のトラクタの無線モジュール4とも無線通信可能であり、トラクタ間のデータ交換に用いられる。さらに、制御ユニット5は、汎用端末装置6及び衛星測位システムの車両側構成要素である車載衛星測位ユニット9Aと車載LANなどを介して接続している。
【0019】
衛星測位システムの地上設置される構成要素である衛星測位基地局ユニット9Bは、無線通信を用いて、車載衛星測位ユニット9Aに補正データを送信する。
【0020】
汎用端末装置6には、衛星測位基地局ユニット9Bの各種パラメータ、特に衛星測位基地局ユニット9Bの設置位置を示す位置座標を外部から設定管理する基地局管理モジュール61がインストールされている。基地局管理モジュール61の詳しい機能は後述される。汎用端末装置6と衛星測位基地局ユニット9Bとの間のデータ通信は、図4では、トラクタの制御系に組み込まれている無線モジュール4を介して行われるように構成されている。汎用端末装置6にも無線モジュール4は備えられているので、汎用端末装置6と衛星測位基地局ユニット9Bとの間で直接データ通信を行うことも可能である。
【0021】
出力処理部7は、車両走行機器群71、作業装置機器群72、及び液晶ディスプレイなどの報知デバイス73と接続している。車両走行機器群71には、車両走行に関する制御機器、例えばエンジン制御機器、変速制御機器、制動制御機器、操舵制御機器などが含まれている。作業装置機器群72には、この実施形態では、耕耘装置30への動力伝達を入り切りするPTOクラッチなどの動力制御機器や、耕耘装置30を昇降させる昇降機構31の昇降シリンダ制御機器などが含まれている。
【0022】
入力処理部8には、走行系検出センサ群81、作業系検出センサ群82、走行モード切替器83などが接続されている。走行モード切替器83は、自動操舵で走行する自動走行モードと、手動操舵で走行する手動操舵モードとのいずれかを選択するスイッチである。
例えば、自動操舵モードで走行中に走行モード切替器83を操作することで、手動操舵での走行に切り替えられ、手動操舵での走行中に走行モード切替器83を操作することで、自動操舵での走行に切り替えられる。走行系検出センサ群81には、エンジン回転数調整具、アクセルペダル、ブレーキペダル、ステアリングホイール22などの操作具の状態を検出するセンサが含まれている。作業系検出センサ群82には、耕耘装置30の駆動状態や姿勢を検出するセンサが含まれている。
【0023】
制御ユニット5には、作業走行制御モジュール50、自車位置算出部57、報知部58が備えられている。自車位置算出部57は、車載衛星測位ユニット9Aから逐次送られてくる測位データに基づいて、車体10の座標位置(地図座標または圃場座標)である自車位置を算出する。報知部58は、運転者や監視者に対して報知すべき情報を生成し、報知デバイス73を通じて、視覚的方法や聴覚的方法で情報を報知する。
【0024】
作業走行制御モジュール50には、走行制御部51、作業制御部52、エンジン制御部53、自動作業走行指令部54、走行経路生成部55、協調走行管理部56が含まれている。走行制御部51は、操舵モータ14などの車両走行機器群71を制御する。このトラクタは自動走行(自動操舵)と手動走行(手動操舵)の両方で走行可能である。このため、走行制御部51は、手動走行制御機能と自動走行制御機能とを有する。手動走行制御機能が実行されている場合、運転者による操作に基づいて車両走行機器群71が制御される。自動走行制御機能が実行されている場合、自動作業走行指令部54から与えられる自動操舵指令に基づいて、走行制御部51が車両走行機器群71を制御する。作業制御部52は、耕耘装置30の動きを制御するために、作業装置機器群72に作業制御信号を与える。エンジン制御部53は、エンジンの動作機器にエンジン制御信号を与える。
【0025】
走行経路生成部55は、入力された圃場情報から、圃場の外形データを読み出し、この圃場における適正な走行経路を生成する。この走行経路は、運転者によって入力される基本的な初期パラメータに基づいて生成される。別なコンピュータで生成された走行経路をダウンロードして、利用することも可能である。いずれにしても、走行経路生成部55が得た走行経路は、メモリに展開され、自動走行における目標走行経路に利用される。もちろん、この走行経路は、手動走行であっても、トラクタが当該走行経路に沿って走行するためのガイダンスのために利用できる。
【0026】
自動作業走行指令部54は、走行経路生成部55によって目標走行経路として設定された走行経路と、自車位置算出部57によって算出された自車位置との間の方位ずれ及び位置ずれを算出し、その方位ずれ及び位置ずれを解消する自動操舵指令を生成して、走行制御部51に与える。
【0027】
協調走行管理部56は、協調相手のトラクタと協調作業を行う際に、協調走行のパターンに基づいて、協調相手のトラクタの走行経路を考慮した、走行経路の生成を走行経路生成部55に要求する。また、協調走行管理部56は、協調相手のトラクタの走行状態や作業状態を取得し、協調相手のトラクタの作業走行を制御する機能または協調相手のトラクタから自己の作業走行を制御させる機能も有する。
【0028】
次に、図4図5とを用いて、衛星測位基地局ユニット9Bの設置位置を示す位置座標が、汎用端末装置6の基地局管理モジュール61によって設定管理される際のデータの流れを説明する。
【0029】
GNSS衛星ASからの電波を受信する衛星測位基地局ユニット9Bには、無線モジュール90、補正データ生成部91、パラメータ管理部92などが備えられている。無線モジュール90は、各トラクタの車載衛星測位ユニット9A及び無線モジュール4との間でデータ通信を行う。なお、衛星測位基地局ユニット9Bは、電源ON時やリセット時には、初期化処理として、衛星ASからの電波に基づいて、設置された位置の位置座標を演算する機能を有する。演算によって得られた位置座標は、パラメータ管理部92によって初期位置座標として設定され、要求があれば外部に送信される。なお、この初期位置座標が、前もって衛星測位基地局ユニット9Bの設置位置として規定されている位置座標と許容以上に異なっていれば、設置ミスとみなすことができる。
【0030】
補正データ生成部91は、予め設定されている衛星測位基地局ユニット9Bの設置位置を示す位置座標と、衛星ASからの電波に基づいて演算される位置座標との相違に基づき、RTK−GPSの補正アルゴリズムを用いて、補正データを算出する。算出された補正データは、無線モジュール90を通じて、各トラクタに搭載されている車載衛星測位ユニット9Aに送信される。補正データを受け取った車載衛星測位ユニット9Aは、補正データと衛星ASからの電波とを用いてより正確な測位データを生成し、自車位置算出部57に与える。
【0031】
パラメータ管理部92は、衛星測位基地局ユニット9Bにおいて設定される各種パラメータを管理する。このパラメータには、衛星測位基地局ユニット9Bの設置位置を示す位置座標の値(経緯度値)、この位置座標が初期化処理として自動的に算出されたものかあるいは外部からのコマンドで変更されたものであるかを示す値、無線モジュール90の無線パラメータ値などが含まれている。
【0032】
汎用端末装置6にインストールされている基地局管理モジュール61には、位置座標設定部62と設定状態管理モジュール63とが含まれている。設定状態管理モジュール63は、設定状態送信部64と設定状態受信部65を有する。
【0033】
位置座標設定部62は、汎用端末装置6側から、つまり各トラクタ側から、新たな位置座標を含む位置座標設定コマンドを衛星測位基地局ユニット9Bに送り、衛星測位基地局ユニット9Bで設定されている位置座標を変更設定する。この位置座標設定コマンドを生成する際には、汎用端末装置6のタッチパネル60によって具現化されるマンマシンインターフェースを用いて、各種データが入力される。
【0034】
上述したように、衛星測位基地局ユニット9Bの設置位置を示す位置座標として、初期化処理によって算出された位置座標(初期位置座標)、または、汎用端末装置6の位置座標設定部62によって設定された位置座標が用いられる。このため、パラメータ管理部92で管理されている位置座標には複数の設定状態がある。その設定状態を示す設定フラグとして、座標未設定フラグと座標設定済フラグとが規定されている。座標未設定フラグは、衛星測位基地局ユニット9Bにおける位置座標の設定前及び設定中を示し、座標設定済フラグは位置座標の設定完了を示す。さらに、座標未設定フラグには、衛星測位基地局ユニット9Bにおける位置座標の初期化中を示す初期化中フラグと、その時点において設定されている位置座標が位置座標設定部62から与えられる位置座標設定コマンドによって変更されている途中であることを示す変更中フラグが含まれている。
【0035】
任意のトラクタの位置座標設定部62からの位置座標設定コマンドに基づく位置座標の設定状態は、設定フラグとして、当該トラクタの設定状態送信部64から他のトラクタの設定状態送信部64に送られる。つまり、衛星測位基地局ユニット9Bにおける位置座標の設定状態を示すこれらの設定フラグは、無線モジュール4を用いた無線通信によって、基地局管理モジュール61を利用している全てのトラクタに共有される。これにより、任意のトラクタ側からの位置座標設定コマンドによる設定状態は、実質的にリアルタイムで、その他のトラクタに共有されることなる。
【0036】
衛星測位基地局ユニット9Bにおける設定状態が、全てのトラクタ、詳しくは全ての汎用端末装置6によって共有されることから、任意の位置座標設定部62が位置座標の設定中または変更中である場合、他の位置座標設定部62による位置座標の設定または変更を禁止することができる。これにより、外部からの位置座標設定コマンドにより衛星測位基地局ユニット9Bの位置座標が変更されたとしても、その事実が設定フラグを通じて、全トラクタに把握されるので、自車位置算出における混乱が回避される。また、複数のトタクタから位置座標設定コマンドが衛星測位基地局ユニット9Bに与えられる不都合も回避される。
【0037】
図6には、衛星測位基地局ユニット9Bの初期化処理における位置座標設定のタイムチャートの一例が示されている。このタイムチャートには、状態遷移と、フラグ遷移Aと、フラグ遷移Bとが示されている。状態遷移は、衛星測位基地局ユニット9Bの初期の位置座標設定状態を示す。フラグ遷移Aは、一方のトラクタに属する基地局管理モジュール61が衛星測位基地局ユニット9Bにアクセスすることで得られる設定フラグの内容が状態遷移によって変化する様子を示している。フラグ遷移Bは、他方のトラクタに属する基地局管理モジュール61が一方のトラクタに属する基地局管理モジュール61から転送される設定フラグの内容を示している。
【0038】
(状態遷移)衛星測位基地局ユニット9Bが適所に設置され、電源がONされると、衛星ASからの電波に基づいて、設置された位置の位置座標を自動的に演算する初期化処理が行われる。これによって求められた位置座標は初期位置座標として設定される。
(フラグ遷移A)基地局管理モジュール61が衛星測位基地局ユニット9Bにアクセスすることで、パラメータ管理部92から衛星測位基地局ユニット9Bの状態に応じた内容の設定フラグが取得される。例えば、電源ONに対応して「初期化前」フラグ、初期化の開始に対応して「初期化中」、初期位置座標設定に対応して「座標設定済」フラグが与えられる。なお、「初期化前」フラグ及び「初期化中」フラグは「座標未設定」フラグとみなすことができる。
(フラグ遷移B)一方のトラクタに属する基地局管理モジュール61が取得した設定フラグは、無線モジュール4を介しての無線通信で、当該基地局管理モジュール61から他方のトラクタに属する基地局管理モジュール61に転送される。これによって、全てのトタクタの基地局管理モジュール61は、状態遷移にともなって変化する設定フラグの内容を共有することができる。
【0039】
図7には、位置座標設定コマンドによる衛星測位基地局ユニット9Bの位置座標設定過程のタイムチャートの一例が示されている。このタイムチャートにおいても、状態遷移、フラグ遷移A、フラグ遷移Bの意味は、図6のものと同様である。
(状態遷移)一方のトラクタに属する基地局管理モジュール61からの位置座標設定コマンドによって、位置座標を書き換える位置座標変更が行われ、座標変更が完了すると新しい位置座標が設定される。
(フラグ遷移A)位置座標設定コマンドが衛星測位基地局ユニット9Bに送信されることで、位置座標変更処理が始まると、基地局管理モジュール61には、「座標変更中」フラグが与えられる。この「座標変更中」フラグは、新しい位置座標が設定されるまで与えられ、新しい位置座標が設定されると、「座標設定済」フラグが与えられる。なお、「座標変更中」フラグが与えられるまでは、「座標設定済」フラグが有効であり、「座標変更中」フラグから「座標設定済」フラグまで間は、「座標未設定」フラグまたは「変更中」フラグが有効であるとみなされる。
(フラグ遷移B)ここでも、一方の基地局管理モジュール61が与えられている設定フラグは、他方の基地局管理モジュール61に転送されるので、全ての基地局管理モジュール61は、状態遷移にともなって変化する設定フラグの内容を共有する。これにより、いずれかの基地局管理モジュール61が位置座標の変更を行っている間は、他の基地局管理モジュール61が位置座標の変更を行うことを禁止できる。
【0040】
上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【0041】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、基地局管理モジュール61が汎用端末装置6に構築されていたが、これに代えて、基地局管理モジュール61が制御ユニット5に構築されてもよい。
(2)上述した実施形態では、衛星測位システムの測位データ生成方式としてRTK−GPS方式が採用されていたが、DGPS方式など他の方式が採用されてもよい。
(3)図4図5で示された機能ブロック図における各機能部は、主に説明目的で区分けされている。実際には、各機能部は他の機能部と統合してもよいし、またはさらに複数の機能部に分けてもよい。
(4)上述した実施形態では、自動走行作業車両として、耕耘装置30を作業装置として装備したトラクタを取り上げたが、そのようなトラクタ以外にも、例えば、田植機、施肥機、コンバインなどの農作業車、建設作業車両、などの種々の作業車両にも、本願発明を適用することができる。また、協調作業を行う複数台の自動走行作業車両は同一種類の作業車でなくてもよく、例えば、一方がコンバインで他方がトラクタでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、無線端末機器との間で無線通信可能な無線通信部を備えた作業車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
4 :無線モジュール
5 :制御ユニット
50 :作業走行制御モジュール
51 :走行制御部
52 :作業制御部
53 :エンジン制御部
54 :自動作業走行指令部
55 :走行経路生成部
56 :協調走行管理部
57 :自車位置算出部
6 :汎用端末装置
60 :タッチパネル
61 :基地局管理モジュール
62 :位置座標設定部
63 :設定状態管理モジュール
64 :設定状態送信部
65 :設定状態受信部
7 :出力処理部
8 :入力処理部
9A :車載衛星測位ユニット
9B :衛星測位基地局ユニット
90 :無線モジュール
91 :補正データ生成部
92 :パラメータ管理部
AS :衛星(GNSS衛星)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7