(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6812310
(24)【登録日】2020年12月18日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】高炉セメントA種相当のコンクリートの製造方法、コンクリート構造物、及びコンクリート構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/08 20060101AFI20201228BHJP
C04B 7/02 20060101ALI20201228BHJP
C04B 7/19 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B7/02
C04B7/19
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-119825(P2017-119825)
(22)【出願日】2017年6月19日
(65)【公開番号】特開2019-1694(P2019-1694A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2019年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】金子 樹
【審査官】
田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−193079(JP,A)
【文献】
特開2014−148059(JP,A)
【文献】
特開2007−063414(JP,A)
【文献】
特開2009−286655(JP,A)
【文献】
特開2016−023105(JP,A)
【文献】
特開2013−203635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 − 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメントと高炉セメントB種と水と骨材を混合することにより、ポルトランドセメントと高炉セメントB種を合わせたものに対する高炉スラグの質量割合が5%を越え30%以下となる高炉セメントA種相当のコンクリートを製造する、高炉セメントA種相当のコンクリートの製造方法であって、
前記ポルトランドセメントの全質量に対する該ポルトランドセメントの高炉スラグの質量割合は、0%〜5%であり、前記高炉セメントB種の全質量に対する該高炉セメントB種の高炉スラグの質量割合は、40%〜45%である場合に、
互いに混合する前記ポルトランドセメントと前記高炉セメントB種との質量割合を、80.0:20.0にすることにより、高炉スラグの質量割合が8%〜13%の高炉セメントA種相当のコンクリートを製造し、
互いに混合する前記ポルトランドセメントと前記高炉セメントB種との質量割合を、67.5:32.5にすることにより、高炉スラグの質量割合が13%〜18%の高炉セメントA種相当のコンクリートを製造し、
互いに混合する前記ポルトランドセメントと前記高炉セメントB種との質量割合を、55.0:45.0にすることにより、高炉スラグの質量割合が18%〜23%の高炉セメントA種相当のコンクリートを製造する、高炉セメントA種相当のコンクリートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製造された高炉セメントA種相当のコンクリートから形成されたコンクリート構造物。
【請求項3】
ポルトランドセメントと高炉セメントB種と水と骨材を混合することにより、ポルトランドセメントと高炉セメントB種を合わせたものに対する高炉スラグの質量割合が5%を越え30%以下となるように製造された高炉セメントA種相当のコンクリートから形成されたコンクリート構造物であり、
該コンクリート構造物は、建物を建てる地盤の内部に設けられ該建物を支えるためのコンクリート杭である、コンクリート構造物。
【請求項4】
ポルトランドセメントと高炉セメントB種と水と骨材を混合することにより、ポルトランドセメントと高炉セメントB種を合わせたものに対する高炉スラグの質量割合が5%を越え30%以下となる高炉セメントA種相当のコンクリートを製造し、
該高炉セメントA種相当のコンクリートからコンクリート構造物としてコンクリート杭を形成する、コンクリート構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉セメントA種に相当するコンクリートの製造方法と、このコンクリートから形成されるコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントとして、ポルトランドセメント(例えば普通ポルトランドセメント)と高炉セメントがある。ポルトランドセメントは、石灰石、粘土などの混合物を焼成したものに石膏を加えて粉末状にした最も代表的な種類のセメントである。高炉セメントは、ポルトランドセメントに高炉スラグを混ぜたセメントであり、水和による発熱が低く耐久性が高い。高炉セメントは、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
高炉セメントとして、高炉セメントA種と高炉セメントB種と高炉セメントC種がある。高炉セメントA種では、高炉スラグの質量割合が5%を越え30%以下であり、高炉セメントB種では、高炉スラグの質量割合が30%を越え60%以下であり、高炉セメントC種では、高炉スラグの質量割合が60%を越え70%以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−115144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
市場において流通している高炉セメントは、ほとんどが高炉セメントB種である。高炉セメントB種は、土木工事(例えばトンネル、ダム、橋梁、港湾などの工事)によく用いられる。
【0006】
一方、高炉セメントA種は、市場においてほとんど流通しておらず、入手が困難である。しかし、コンクリート構造物の形成に高炉セメントA種を用いることが望まれる場合がある。このように高炉セメントA種を用いるコンクリート構造物として、地表面よりも下方に位置する地下構造物や、地表面よりも上方に位置する上部構造物がある。地下構造物は、例えば、建物を建てる地盤中に設けられるコンクリート杭(杭基礎)である。
【0007】
これについて、高炉セメントA種は上述のように市場においてほとんど流通していないので、高炉セメントA種の製造ラインを構築することが考えられる。しかし、高炉セメントA種の需要が少ないと見込まれる場合において、高炉セメントA種に専用の製造ラインを新たに構築することは、現実的ではない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、高炉セメントA種に専用の製造ラインを構築しなくても、高炉セメントA種相当のコンクリートを容易に製造できる方法と、この方法で製造されたコンクリートによるコンクリート構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明によると、ポルトランドセメントと高炉セメントB種と水と骨材を混合することにより、ポルトランドセメントと高炉セメントB種を合わせたものに対する高炉スラグの質量割合が5%を越え30%以下となる高炉セメントA種相当のコンクリートを製造する、高炉セメントA種相当のコンクリートの製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明によると、上述の製造方法により製造された高炉セメントA種相当のコンクリートから形成されたコンクリート構造物が提供される。
【発明の効果】
【0011】
上述した本発明によると、ポルトランドセメントと高炉セメントB種とを混合することにより、高炉セメントA種相当のコンクリートを製造する。したがって、高炉セメントA種を一から製造する製造ラインを構築しなくても、高炉セメントA種相当のコンクリートを容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態によるコンクリートの製造方法の説明図である。
【
図2】本発明の実施形態によるコンクリート構造物の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0014】
(製造方法)
図1は、本発明の実施形態によるコンクリートの製造方法の説明図である。この製造方法では、ポルトランドセメントと高炉セメントB種と水と骨材(細骨材および粗骨材)と混和材料(化学混和剤)を混合することにより、高炉セメントA種に相当する生コンクリートを製造する。混和材料は、必要に応じて加えられるものであるので、当該生コンクリートの製造に用いられなくてもよい(以下同様)。このように製造された生コンクリートを以下でA種相当コンクリートという。A種相当コンクリートにおいて、ポルトランドセメントと高炉セメントB種のみを合わせたもの(水や骨材や混和材料を除く)に対する高炉スラグの質量割合は、5%を越え30%以下である。本願において、高炉スラグの質量割合とは、対象セメント(すなわち、生コンクリートにおけるポルトランドセメントと高炉セメントB種のみ)の全質量(水や骨材を除く)に対する、この対象セメントに含まれている高炉スラグの質量の割合である(以下でも同様)。また、本願において、a,bが数値であるとして、「質量割合がa%〜b%である」という内容を記載した場合に、「a%〜b%」が示す範囲は、a%を含んでも含まなくてもよく、b%を含んでも含まなくてもよい。
【0015】
ポルトランドセメントは、上述したように、石灰石、粘土などの混合物を焼成したものに石膏を加えて粉末状にしたセメントである。本実施形態において、ポルトランドセメントは例えば普通ポルトランドセメントであってよいが、他のポルトランドセメントであってもよい。
【0016】
高炉セメントは、ポルトランドセメントに高炉スラグを混ぜたセメントである。高炉スラグとは、製鉄所の溶鉱炉(高炉)から副産物として生じる溶融スラグを急冷したものを粉砕した高炉スラグ微粉末である。本願において、高炉セメントA種と高炉セメントB種は、日本工業規格JISR5211に次の(1)(2)のように定められているものであってよい。
(1)高炉セメントA種における高炉スラグの質量割合は、5%を越え30%以下である。
(2)高炉セメントB種における高炉スラグの質量割合は、30%を越え60%以下である。
【0017】
図1において、A種相当コンクリートの製造方法はステップS1〜S3を有する。ステップS1では、ポルトランドセメントを製造する。ステップS2では、高炉セメントB種を製造する。ステップS3では、ステップS1で製造されたポルトランドセメントとステップS2で製造された高炉セメントB種と水と骨材と混和材料を互いに混ぜてA種相当コンクリートを製造する。
【0018】
ステップS1とステップS2は、それぞれ第1および第2のセメント製造業者により行われる。ステップS3は、コンクリート製造業者により行われる。なお、ステップS1を行うセメント製造業者は、ステップS2を行うセメント製造業者とは異なっていてもよい。
【0019】
ステップS1は、ステップS11〜S13を有する。
ステップS11は原料工程である。ステップS11において、ポルトランドセメントの複数種類の原料を粉砕して互いに混合することにより、混合原料を製造する。これら複数種類の原料は、主に、石灰石、粘土、けい石、酸化鉄を含んでよい。
ステップS12は焼成工程である。ステップS12において、ステップS11で製造した混合原料を、例えば1500℃程度の高温で焼成することにより、クリンカーを製造する。その後、ステップS12においてクリンカーを急冷する。
ステップS13は仕上げ工程である。ステップS13において、ステップS12で製造されたクリンカーを粉砕し、これに石膏または石膏と混合材を加え、クリンカーと石膏の混合物をさらに粉砕することにより、ポルトランドセメントを製造する。なお、石膏と共にクリンカーに加える混合材は、例えば、高炉スラグ、フライアッシュ、またはシリカ質混合材である。
【0020】
ステップS2は、ステップS21〜S23を有する。
ステップS21において、ポルトランドセメントを用意する。
ステップS22において、高炉スラグを用意する。例えば、製鉄所の溶鉱炉から生じる溶融スラグに水を噴射して急冷した水砕スラグを粉砕することにより得られた高炉スラグを用意する。
ステップS23において、ステップS21で用意したポルトランドセメントに、ステップS22で用意した高炉スラグを加え、これらを混合機で混合する。これにより、高炉セメントB種が製造される。
【0021】
ステップS3において、ステップS1で製造されたポルトランドセメントとステップS2で製造された高炉セメント(高炉セメントB種)と水と骨材と混和材料を互いに混合して生コンクリートを製造するが、当該生コンクリートにおける上述した対象セメント中の高炉スラグの質量割合が5%を越え30%以下となるようにする。すなわち、ステップS3により当該生コンクリートをA種相当コンクリートとして製造する。
ステップS3において、ポルトランドセメントと高炉セメントB種と水と骨材と混和材料を混練して生コンクリートを製造する過程で、ポルトランドセメントと高炉セメントB種の混合量を調整する。この調整により、A種相当コンクリートを製造する。
【0022】
(混合割合の調整)
本実施形態では、ステップS3において、互いに混合するポルトランドセメントと高炉セメントB種との質量割合を調整することにより、A種相当コンクリートにおける高炉スラグの質量割合を所望の値または所望の範囲に調整する。ここで、所望の範囲は、例えば、8%〜13%、13%〜18%、または18%〜23%である。
【0023】
流通しているポルトランドセメントにおける高炉スラグの質量割合は、0%〜5%以下である。
また、流通している多くの高炉セメントB種における高炉スラグの質量割合は、40%〜45%以下である。すなわち、高炉スラグの質量割合が40%〜45%である高炉セメントB種が販売されている。
【0024】
これに対応して、実施例では、ステップS3で用いるポルトランドセメントにおける高炉スラグの質量割合が、0%〜5%であることは分かっているが、0%〜5%のいずれの値であるかの特定が困難であり、ステップS3で用いる高炉セメントB種における高炉スラグの質量割合が、40%〜45%であることは分かっているが、40%〜45%のいずれの値であるかの特定が困難であることを前提とする。この前提において、ステップS3で互いに混合するポルトランドセメントと高炉セメントの質量割合は、次の表1に従って定められてよい。
【0026】
表1に従って次のようにステップS3を行うことができる。
高炉スラグの質量割合が8%〜13%のA種相当コンクリート(高炉セメントA種に相当するコンクリート)を製造する場合には、互いに混合するポルトランドセメントと高炉セメントB種との質量割合を、80.0:20.0にする。
高炉スラグの質量割合が13%〜18%のA種相当コンクリートを製造する場合には、互いに混合するポルトランドセメントと高炉セメントB種との質量割合を、67.5:32.5にする。
高炉スラグの質量割合が18%〜23%のA種相当コンクリートを製造する場合には、互いに混合するポルトランドセメントと高炉セメントB種との質量割合を、55.0:45.0にする。
【0027】
上述の前提において、高炉スラグの質量割合が8%〜23%であるA種相当コンクリートを製造すればよい場合には、表1に従って、ステップS3で互いに混合するポルトランドセメントと高炉セメントB種の全質量(合計質量)に対する、この高炉セメントB種の質量割合を、20.0%〜45.0%にすればよい。
【0028】
(実施形態による効果)、
上述したステップS3において、ポルトランドセメントと高炉セメントB種とを混合することにより、A種相当コンクリート(高炉セメントA種に相当するコンクリート)を製造する。したがって、高炉セメントA種に専用の製造ライン(すなわち、原料工程と焼成工程と仕上げ工程、および仕上げ工程で得たポルトランドセメントに高炉スラグを混合する工程を行う設備)を構築せずに、ポルトランドセメントと高炉セメントB種とを混合することにより、A種相当コンクリートを容易に製造できる。
【0029】
また、ステップS3で混合するポルトランドセメントと高炉セメントB種との混合割合を調整することにより、A種相当コンクリートにおける高炉スラグの質量割合を所望の値または範囲に容易に調整できる。
【0030】
セメント製造業者によって製造されたポルトランドセメントおよび高炉セメントB種と、水と骨材と混和材料をコンクリート製造業者が混合することにより、A種相当コンクリートを製造できる。このように、コンクリート製造業者は、セメント製造業者が製造したポルトランドセメントと高炉セメントB種を購入して、両者を混合することにより、高炉セメントA種相当のコンクリートを簡単に製造できる。したがって、A種相当コンクリートを容易に製造できる。
【0031】
(コンクリート構造物)
上述の実施形態による製造方法により製造されたA種相当コンクリートから形成可能なコンクリート構造物として、地表面よりも下方に位置する地下構造物や、地表面よりも上方に位置する上部構造物がある。当該コンクリート構造物は、A種相当コンクリートが固まったものである。
図2は、当該コンクリート構造物の一例を示す。
【0032】
図2の例では、コンクリート構造物10は、建物を建てる地盤の内部に設けられて建物を支えるためのコンクリート杭(すなわち基礎杭)である。このコンクリート杭は、既成コンクリート杭であってもよいし、場所打ちコンクリート杭であってもよい。また、
図2では、コンクリート杭は、その下端部が地盤における支持層に位置する支持杭であるが、他の種類の杭(例えば摩擦杭)として用いられてもよい。
【0033】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0034】
10 コンクリート構造物