(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6812312
(24)【登録日】2020年12月18日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】プラント支援評価システム及びプラント支援評価方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20201228BHJP
【FI】
G05B23/02 R
G05B23/02 G
G05B23/02 T
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-121474(P2017-121474)
(22)【出願日】2017年6月21日
(65)【公開番号】特開2019-8412(P2019-8412A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真塩 健二
(72)【発明者】
【氏名】山下 太香恵
(72)【発明者】
【氏名】椎塚 晋
【審査官】
堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−240642(JP,A)
【文献】
特開平7−261825(JP,A)
【文献】
特開2017−97628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00−23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同種の複数のプラントのそれぞれと、前記プラントとは異なる場所に設けられるプラント支援施設との間で通信可能なネットワークを介して、複数の前記プラントからプラントデータを取得し、前記プラントデータに基づいて前記プラントを評価する、前記プラント支援施設に設けられるプラント支援評価システムであって、
前記プラントデータに基づいて、前記プラントの異常の予兆を監視する異常予兆監視システムと、
前記異常予兆監視システムにより検知される異常予兆の情報である異常予兆検知情報に基づいて、前記プラントに設けられる各機器の故障診断を行う故障診断システムと、
前記故障診断システムにより診断された前記機器の故障に関する情報である故障情報に基づいて、前記プラントの進展をシミュレートして、前記プラントの進展を予測する進展予測システムと、
前記進展予測システムにより予測した前記プラントの進展に関する情報である進展予測情報に基づいて、発生し得る前記プラントの異常事象を特定する異常事象特定システムと、
前記プラントに設けられる各機器の故障を、確率論的にリスク評価するリスク評価システムと、
前記異常事象特定システムにより特定した異常事象に関する情報である異常事象情報と、前記リスク評価システムにより評価された前記機器の故障確率に関する情報である故障確率情報とに基づいて、異常事象の発生確度を評価する異常事象評価システムと、を備えることを特徴とするプラント支援評価システム。
【請求項2】
前記リスク評価システムは、前記故障診断システムから前記故障情報を取得し、前記機器の故障のリスクを再評価して、前記故障確率情報を更新することを特徴とする請求項1に記載のプラント支援評価システム。
【請求項3】
前記リスク評価システムは、前記プラントに設けられる機器のうち、前記プラントの安全上重要な機器を抽出した機器リストを有し、前記故障診断システムから取得した前記故障情報に対応する前記機器を、前記機器リストに基づいて選定し、選定した前記機器の故障のリスクを再評価することを特徴とする請求項2に記載のプラント支援評価システム。
【請求項4】
前記異常事象評価システムは、評価した異常事象の発生確度に基づいて、異常事象に対する緊急対応が必要か否かを判定し、緊急対応が必要であると判定した場合、異常事象に関する情報である報知情報を、前記プラント及び前記プラントを管轄する施設の少なくとも一方へ向けて出力することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のプラント支援評価システム。
【請求項5】
前記異常事象評価システムは、評価した異常事象の発生確度に基づいて、異常事象に対する緊急対応が必要か否かを判定し、緊急対応が必要でないと判定した場合、異常事象の発生要因となる前記機器の交換を促す機器交換情報を生成することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のプラント支援評価システム。
【請求項6】
同種の複数のプラントのそれぞれと、前記プラントとは異なる場所に設けられるプラント支援施設との間で通信可能なネットワークを介して、複数の前記プラントからプラントデータを取得し、前記プラントデータに基づいて前記プラントを評価するプラント支援評価方法であって、
前記プラントデータに基づいて、前記プラントの異常の予兆を監視し、異常予兆が検知された場合、検知される異常予兆の情報である異常予兆検知情報を生成する異常予兆監視ステップと、
前記異常予兆監視ステップにおいて生成された前記異常予兆検知情報に基づいて、前記プラントに設けられる各機器の故障診断を行い、前記機器の故障に関する情報である故障情報を生成する故障診断ステップと、
前記故障診断ステップにおいて生成された前記故障情報に基づいて、前記プラントの進展をシミュレートして、前記プラントの進展を予測し、予測した前記プラントの進展に関する情報である進展予測情報を生成する進展予測ステップと、
前記進展予測ステップにおいて生成された前記進展予測情報に基づいて、発生し得る前記プラントの異常事象を特定し、特定した異常事象に関する情報である異常事象情報を生成する異常事象特定ステップと、
前記プラントに設けられる各機器の故障を、確率論的にリスク評価して、評価された前記機器の故障確率に関する情報である故障確率情報を生成するリスク評価ステップと、
前記異常事象特定ステップにおいて生成した前記異常事象情報と、前記リスク評価ステップにおいて生成した前記故障確率情報とに基づいて、異常事象の発生確度を評価する異常事象評価ステップと、を備えることを特徴とするプラント支援評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントを評価するプラント支援評価システム及びプラント支援評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラント等の設備において、異常あるいは異常の予兆を検知し、設備を診断する異常検知・診断システムが記載されている(例えば、特許文献1参照)。このシステムは、プラント又は設備の保守履歴情報を蓄積したデータベース部を備え、設備に設けられるセンサにより検知した異常検知情報と、保守履歴情報とを結びつけることにより、発生した異常あるいは異常の予兆に対して、必要な保守に関する作業指示を出力している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−137934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1のような異常検知・診断システムは、例えば、発電プラント等のプラントに適用される場合、プラントが設けられるサイト内に設置されることから、異常検知・診断システムは、単体のプラントにそれぞれ個別に設置されることになる。また、異常検知・診断システムは、単体のプラントから得られるリアルタイムな異常検知情報に基づいて、そのプラントの異常あるいは異常の予兆(以下、単に異常予兆という)を検知している。
【0005】
しかしながら、特許文献1の異常検知・診断システムでは、異常予兆を検知するための異常検知情報を、単体のプラントからしか取得することができない。このため、異常検知・診断システムは、他のプラントからの異常検知情報を取得できないため、複数のプラントを一括して管理することができず、また、異常検知情報のリソースが少ないものとなることから、異常予兆の検知について信頼性を高めることが難しい。また、特許文献1の異常検知・診断システムでは、リアルタイムな異常検知情報に基づいて異常予兆を検知することから、現時点における異常予兆を検知することができるものの、将来の時点における異常予兆を検知することが難しい。このため、異常検知に基づく初動対応が後手に回る可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、初動対応を好適に実施できるように、信頼性の高い異常事象の発生の評価を行うことができるプラント支援評価システム及びプラント支援評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプラント支援評価システムは、複数のプラントのそれぞれと、前記プラントとは異なる場所に設けられるプラント支援施設との間で通信可能なネットワークを介して、複数の前記プラントからプラントデータを取得し、前記プラントデータに基づいて前記プラントを評価する、前記プラント支援施設に設けられるプラント支援評価システムであって、前記プラントデータに基づいて、前記プラントの異常の予兆を監視する異常予兆監視システムと、前記異常予兆監視システムにより検知される異常予兆の情報である異常予兆検知情報に基づいて、前記プラントに設けられる各機器の故障診断を行う故障診断システムと、前記故障診断システムにより診断された前記機器の故障に関する情報である故障情報に基づいて、前記プラントの進展をシミュレートして、前記プラントの進展を予測する進展予測システムと、前記進展予測システムにより予測した前記プラントの進展に関する情報である進展予測情報に基づいて、発生し得る前記プラントの異常事象を特定する異常事象特定システムと、前記プラントに設けられる各機器の故障を、確率論的にリスク評価するリスク評価システムと、前記異常事象特定システムにより特定した異常事象に関する情報である異常事象情報と、前記リスク評価システムにより評価された前記機器の故障確率に関する情報である故障確率情報とに基づいて、異常事象の発生確度を評価する異常事象評価システムと、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のプラント支援評価方法は、複数のプラントのそれぞれと、前記プラントとは異なる場所に設けられるプラント支援施設との間で通信可能なネットワークを介して、複数の前記プラントからプラントデータを取得し、前記プラントデータに基づいて前記プラントを評価するプラント支援評価方法であって、前記プラントデータに基づいて、前記プラントの異常の予兆を監視し、異常予兆が検知された場合、検知される異常予兆の情報である異常予兆検知情報を生成する異常予兆監視ステップと、前記異常予兆監視ステップにおいて生成された前記異常予兆検知情報に基づいて、前記プラントに設けられる各機器の故障診断を行い、前記機器の故障に関する情報である故障情報を生成する故障診断ステップと、前記故障診断ステップにおいて生成された前記故障情報に基づいて、前記プラントの進展をシミュレートして、前記プラントの進展を予測し、予測した前記プラントの進展に関する情報である進展予測情報を生成する進展予測ステップと、前記進展予測ステップにおいて生成された前記進展予測情報に基づいて、発生し得る前記プラントの異常事象を特定し、特定した異常事象に関する情報である異常事象情報を生成する異常事象特定ステップと、前記プラントに設けられる各機器の故障を、確率論的にリスク評価して、評価された前記機器の故障確率に関する情報である故障確率情報を生成するリスク評価ステップと、前記異常事象特定ステップにおいて生成した前記異常事象情報と、前記リスク評価ステップにおいて生成した前記故障確率情報とに基づいて、異常事象の発生確度を評価する異常事象評価ステップと、を備えることを特徴とする。
【0009】
これらの構成によれば、異常予兆監視システムは、複数のプラントから得られるプラントデータに基づいて、異常予兆を監視することができるため、複数のプラントを一括して管理することができる。また、異常予兆監視システムは、プラントデータを複数のプラントから取得でき、異常予兆を監視するためのリソースが多くなることから、信頼性の高い異常予兆を行うことができる。さらに、進展予測システムが、異常予兆に基づいて診断された機器の故障情報に基づいて、プラントの進展をシミュレートすることで、異常事象特定システムは、将来の異常事象の発生を予測することができる。加えて、異常事象を評価するにあたり、異常事象評価システムは、異常事象情報と故障確率情報とに基づいて、異常事象の発生確度を評価することができる。このため、将来の時点における異常予兆を精度よく検知することができる。
【0010】
また、前記リスク評価システムは、前記故障診断システムから前記故障情報を取得し、前記機器の故障のリスクを再評価して、前記故障確率情報を更新することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、故障確率情報を最新のものに更新することができるため、プラントの異常事象の発生確度を、精度よく評価することが可能となる。
【0012】
また、前記リスク評価システムは、前記プラントに設けられる機器のうち、前記プラントの安全上重要な機器を抽出した機器リストを有し、前記故障診断システムから取得した前記故障情報に対応する前記機器を、前記機器リストに基づいて選定し、選定した前記機器の故障のリスクを再評価することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、故障情報に含まれる機器の中から、機器リストに基づいて、安全上重要な機器を選定して、機器の故障を、確率論的にリスク評価することができるため、全ての機器のリスク評価を行う必要がなく、効率よく故障確率情報を更新することができる。
【0014】
また、前記異常事象評価システムは、評価した異常事象の発生確度に基づいて、異常事象に対する緊急対応が必要か否かを判定し、緊急対応が必要であると判定した場合、異常事象に関する情報である報知情報を、前記プラント及び前記プラントを管轄する施設の少なくとも一方へ向けて出力することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、プラント及びプラントを管轄する施設の少なくとも一方へ向けて、報知情報を報知することができるため、プラントへの緊急対応を実施することが可能となる。
【0016】
また、前記異常事象評価システムは、評価した異常事象の発生確度に基づいて、異常事象に対する緊急対応が必要か否かを判定し、緊急対応が必要でないと判定した場合、異常事象の発生要因となる前記機器の交換を促す機器交換情報を生成することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、緊急対応を要しない場合であっても、機器交換情報により機器の交換を促すことができるため、機器の交換を行うことで、異常事象の発生確度を引き下げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るプラント支援評価システムに関する概略構成図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るプラント支援評価方法に関するフローチャートである。
【
図3】
図3は、本実施形態の異常事象評価ステップに関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0020】
[実施形態]
図1は、本本実施形態に係るプラント支援評価システムに関する概略構成図である。プラント支援評価システム100は、複数のプラントの運転を支援すると共に、複数のプラントの運転状況を評価するシステムであり、プラントとして、例えば、原子力プラントが適用されている。原子力プラントとしては、例えば、原子炉を有する原子力発電プラント110であり、複数の原子力発電プラント110は、各サイト115内にそれぞれ設けられている。なお、本実施形態では、プラントとして、原子力発電プラント110に適用して説明するが、この構成に限定されず、原子力以外の他のプラント(例えば、化学プラントまたは火力発電プラント等)に適用してもよい。
【0021】
図1に示すように、原子力発電プラント110は、プラント全体の運転を制御するための中央制御室116と、事務所117と、緊急時対策所118とを備えている。中央制御室116には、プラントの運転を操作する運転員が駐在しており、事務所117には、プラントの保守作業を行う保守要員が駐在している。また、緊急時対策所118には、プラントの緊急時において、緊急時対策を行う対策要員が駐在する。なお、詳細は後述するが、事務所117及び緊急時対策所118には、プラント支援評価システム100において生成された報知情報が送信される。
【0022】
プラント支援評価システム100は、複数の原子力発電プラント110とは異なる場所に設けられたプラント支援施設としてのデータセンター120に配設されている。つまり、複数の原子力発電プラント110が設けられるサイト115のそれぞれに対して、データセンター120は遠隔地に設けられている。このため、プラント支援評価システム100と複数の原子力発電プラント110とは、遠隔地となっており、ネットワークを介して通信を行っている。
【0023】
プラント支援評価システム100は、複数の原子力発電プラント110からプラントデータをそれぞれ取得し、各プラントデータに基づいて、各原子力発電プラント110の運転状況を評価している。プラント支援評価システム100は、原子力発電プラント110に設けられた複数計測機器からそれぞれ出力される複数の計測パラメータを、プラントデータとして取得している。ここで、複数の原子力発電プラント110からプラント支援評価システム100へのプラントデータに関する通信は、一方向となっており、複数の原子力発電プラント110からプラント支援評価システム100への通信は可能である一方で、プラント支援評価システム100から複数の原子力発電プラント110への通信は不能となっている。なお、プラント支援評価システム100から複数の原子力発電プラント110へ、後述する報知情報を出力する場合は、プラントデータの通信回線とは異なる、他の通信回線を用いている。
【0024】
図1に示すように、プラント支援評価システム100は、異常予兆監視システム121と、故障診断システム122と、進展予測システム123と、異常事象特定システム124と、リスク評価システム125と、異常事象評価システム126と、を備えている。また、異常予兆監視システム121、故障診断システム122、進展予測システム123、及び異常事象特定システム124は、内部バス128によって通信可能に相互に接続されており、この内部バス128を介して、プラントデータが入力される。さらに、リスク評価システム125は、故障診断システム122及び異常事象評価システム126に通信可能に接続されており、故障診断システム122から各種情報が入力され、異常事象評価システム126へ向けて各種情報を出力している。また、異常事象評価システム126は、異常事象特定システム124及びリスク評価システム125に通信可能に接続されると共に、複数の原子力発電プラント110に通信可能に接続されている。そして、異常事象評価システム126は、異常事象特定システム124及びリスク評価システム125から各種情報が入力され、複数の原子力発電プラント110へ向けて各種情報を出力している。なお、異常事象評価システム126には、別途、原子力発電プラント110を管轄する施設としてのプラント運営会社112に通信可能に接続されており、プラント運営会社112へ向けて各種情報を出力している。
【0025】
異常予兆監視システム121は、プラントデータに基づいて、原子力発電プラント110の異常の予兆を監視するシステムとなっている。異常予兆監視システム121は、プラントデータを、内部バス128を介して取得可能となっている。また、異常予兆監視システム121は、過去のプラントデータと、取得した現在のプラントデータとを比較し、過去のプラントデータに基づいて設定される正常範囲から、現在のプラントデータが逸脱した場合に、原子力発電プラント110の異常予兆を検知する。そして、異常予兆監視システム121は、内部バス128に接続されており、検知した異常予兆に関する情報である異常予兆検知情報を生成し、生成した異常予兆検知情報を故障診断システム122へ向けて出力可能となっている。
【0026】
故障診断システム122は、異常予兆検知情報に基づいて、原子力発電プラント110に設けられる各機器の故障診断を行うシステムとなっている。故障診断システム122は、内部バス128に接続されており、異常予兆監視システム121から出力された異常予兆検知情報を、内部バス128を介して取得可能となっている。故障診断システム122は、異常予兆検知情報に基づいて、原子力発電プラント110を構成する各種設備及び各種機器の中から、異常を引き起こす原因となる設備または機器を特定する。そして、故障診断システム122は、特定した設備または機器の故障に関する情報である故障情報を生成し、生成した故障情報を進展予測システム123へ向けて出力可能となっている。
【0027】
なお、故障診断システム122は、一つの原子力発電プラント110から得られたプラントデータに基づく故障情報を生成すると、類似する原子力発電プラント110及び故障した機器と同一の機器を使用している原子力発電プラント110との間で故障情報を共有することで、複数の原子力発電プラント110間に亘る故障情報の水平展開を行っている。
【0028】
進展予測システム123は、故障情報に基づいて、原子力発電プラント110の経時的な進展をシミュレートして、原子力発電プラント110の進展を予測するシステムとなっている。進展予測システム123は、内部バス128に接続されており、故障診断システム122から出力された故障情報を、内部バス128を介して取得可能となっている。進展予測システム123は、故障情報に基づいて、原子力発電プラント110の各種設備及び各種機器の進展をシミュレートし、原子力発電プラント110の各種設備及び各種機器の故障の進展および異常事象の発生の有無を予測する。そして、進展予測システム123は、原子力発電プラント110の進展に関する情報である進展予測情報を生成し、生成した進展予測情報を、異常事象特定システム124へ向けて出力可能となっている。
【0029】
異常事象特定システム124は、進展予測情報に基づいて、発生し得る原子力発電プラント110の異常事象を特定するシステムとなっている。異常事象特定システム124は、内部バス128に接続されており、進展予測システム123から出力された進展予測情報を、内部バス128を介して取得可能となっている。異常事象特定システム124は、進展予測情報に基づいて、発生し得る異常事象を特定すると共に、特定した異常事象に対する緊急時の原子力発電プラント110の運転を支援可能となっている。そして、異常事象特定システム124は、特定した異常事象に関する情報である異常事象情報を生成し、生成した異常事象情報を、異常事象評価システム126へ向けて出力可能となっている。
【0030】
リスク評価システム125は、故障情報に基づいて、原子力発電プラント110に設けられる各機器の故障を、確率論的にリスク評価(PRA)するシステムである。リスク評価システム125は、故障診断システム122に接続されており、故障診断システム122から出力された故障情報を取得している。リスク評価システム125は、故障情報に基づいて、異常予兆設備を含む設備を待機除外することによって原子力発電プラント110に生じるリスクを評価したり、運転員の人的操作によって原子力発電プラント110に生じるリスクを評価したりする。また、リスク評価システム125は、原子力発電プラント110に生じるリスクを評価することで、機器の故障確率を評価することが可能となっている。そして、リスク評価システム125は、評価した機器の故障確率に関する情報である故障確率情報を生成し、生成した故障確率情報を、異常事象評価システム126へ向けて出力可能となっている。なお、リスク評価システム125は、原子力発電プラント110に生じるリスクを評価することで、機器の故障確率の他、炉心損傷確率または格納容器破損確率等を評価することが可能となっている。
【0031】
具体的に、リスク評価システム125は、EQP(Environmental Qualification Program)131と、HPM(Human Performance Monitoring)132と、人間信頼性評価部133と、確率論的リスク評価部134と、を有している。
【0032】
EQP131は、原子力発電プラント110に設けられる機器のうち、原子力発電プラント110の安全上重要な機器を抽出した機器リスト(SSCリストとも言う)を有している。EQP131は、故障診断システム122から故障情報を取得し、故障情報に対応する機器が、機器リストに含まれている機器であるか否かを選定し、機器リストに含まれている機器である場合、選定した機器の故障のリスクを再評価する。そして、EQP131は、機器リストに関する情報と、再評価した機器の故障確率に関する情報とを、確率論的リスク評価部134へ向けて出力可能となっている。
【0033】
HPM132は、原子力発電プラント110の運転を操作する運転員の操作タスクを分析する。HPM132は、故障診断システム122から故障情報を取得すると共に、運転員の操作タスクを取得し、これらの情報に基づいて、操作タスクを分析する。そして、HPM132は、分析した操作タスクに関する情報であるタスク情報を生成し、生成したタスク情報を、人間信頼性評価部133へ向けて出力可能となっている。
【0034】
人間信頼性評価部133は、運転員のヒューマンエラーに関する情報を用いて操作タスクを分析することで、ヒューマンエラーの評価を行っている。人間信頼性評価部133は、HPM132からタスク情報を取得し、タスク情報に基づいて、運転員の人的過誤率を評価する。そして、人間信頼性評価部133は、運転員の人的過誤率に関する情報を生成し、生成した人的過誤率に関する情報を、確率論的リスク評価部134へ向けて出力可能となっている。
【0035】
確率論的リスク評価部134は、EQP131において再評価した機器の故障確率に関する情報及び機器リストに関する情報と、人間信頼性評価部133において評価した運転員の人的過誤率に関する情報とに基づいて、原子力発電プラント110に生じるリスクを評価することで、機器の故障確率を評価する。そして、確率論的リスク評価部134は、故障確率情報を生成し、生成した故障確率情報を、異常事象評価システム126へ向けて出力可能となっている。
【0036】
また、リスク評価システム125は、故障情報を取得するたびに、また、運転員の操作タスクを取得するたびに、機器の故障のリスクを再評価することで、故障確率情報をリアルタイムに更新している。
【0037】
異常事象評価システム126は、異常事象特定システム124からの異常事象情報と、リスク評価システム125からの故障確率情報とに基づいて、異常事象の発生確度を評価するシステムとなっている。異常事象評価システム126は、評価した異常事象の発生確度に基づいて、異常事象に対する緊急対応が必要か否かを判定し、緊急対応が必要であると判定した場合、異常事象に関する情報である報知情報を、原子力発電プラント110及びプラント運営会社112へ向けて出力する。つまり、異常事象評価システム126は、緊急対応が必要か否かを判定するための、しきい値が設定されており、評価した異常事象の発生確度がしきい値以上となる場合、緊急対応が必要であるとして、報知情報を出力する。報知情報としては、例えば、異常事象に関する情報、及び異常事象への緊急対応策に関する情報等を含むものである。一方で、異常事象評価システム126は、緊急対応が不要であると判定した場合、つまり、評価した異常事象の発生確度がしきい値よりも小さい場合、異常事象の発生要因となる機器の交換を促す機器交換情報を生成し、この機器交換情報を、例えば、保守を行う事務所117等へ向けて出力する。
【0038】
次に、
図2及び
図3を参照して、原子力発電プラント110のプラント支援評価方法について説明する。
【0039】
図2に示すように、プラント支援評価システム100は、原子力発電プラント110の運転状況を評価する場合、先ず、複数の原子力発電プラント110からプラントデータを取得する(ステップS10:プラントデータ取得ステップ)。プラント支援評価システム100は、プラントデータを取得すると、異常予兆監視システム121において、取得したプラントデータに基づいて、原子力発電プラント110の異常の予兆を監視し、異常予兆が検知された場合、検知される異常予兆の情報である異常予兆検知情報を生成し、生成した異常予兆検知情報を故障診断システム122に出力する(ステップS11:異常予兆監視ステップ)。
【0040】
続いて、故障診断システム122が異常予兆検知情報を取得すると、故障診断システム122は、取得した異常予兆検知情報に基づいて、原子力発電プラント110に設けられる各機器の故障診断を行い、機器の故障に関する情報である故障情報を生成し、生成した故障情報を、進展予測システム123とリスク評価システム125とに出力する(ステップS12:故障診断ステップ)。進展予測システム123が故障情報を取得すると、進展予測システム123は、取得した故障情報に基づいて、原子力発電プラント110の運転状態の進展をシミュレートして、原子力発電プラント110の進展を予測し、予測した原子力発電プラント110の進展に関する情報である進展予測情報を生成し、生成した進展予測情報を、異常事象特定システム124に出力する(ステップS13:進展予測ステップ)。
【0041】
次に、異常事象特定システム124が進展予測情報を取得すると、異常事象特定システム124は、取得した進展予測情報に基づいて、原子力発電プラント110に発生し得る異常事象を特定し、特定した異常事象に関する情報である異常事象情報を生成し、生成した異常事象情報を、異常事象評価システム126に出力する(ステップS14:異常事象特定ステップ)。また、リスク評価システム125が故障情報を取得すると、リスク評価システム125は、取得した故障情報に基づいて、原子力発電プラント110に設けられる各機器の故障を、確率論的にリスク評価して、評価された機器の故障確率に関する情報である故障確率情報を生成し、生成した故障確率情報を異常事象評価システム126に出力する(ステップS15:リスク評価ステップ)。
【0042】
そして、異常事象評価システム126が異常事象情報及び故障確率情報を取得すると、異常事象評価システム126は、異常事象の発生確度を評価する(ステップS16:異常事象評価ステップ)。
【0043】
次に、
図3を参照して、異常事象評価ステップについて説明する。異常事象評価システム126は、異常事象の発生確度を評価する(ステップS20)と、評価した異常事象に対する緊急対応が必要であるか否かを判定する(ステップS21)。異常事象評価システム126は、緊急対応が必要であると判定すると(ステップS21:Yes)、報知情報を生成して(ステップS22)、生成した報知情報を原子力発電プラント110及びプラント運営会社112に送信する(ステップS23)。一方で、異常事象評価システム126は、緊急対応が不要であると判定すると(ステップS21:No)、機器交換情報を生成して(ステップS24)、例えば、保守を行う保守要員が駐在する事務所117へ向けて送信する。
【0044】
以上のように、本実施形態によれば、異常予兆監視システム121は、複数の原子力発電プラント110から得られるプラントデータに基づいて、異常予兆を監視することができるため、複数の原子力発電プラント110を一括して管理することができる。また、異常予兆監視システム121は、プラントデータを複数の原子力発電プラント110から取得でき、異常予兆を監視するためのリソースが多くなることから、信頼性の高い異常予兆を行うことができる。さらに、進展予測システム123が、異常予兆に基づいて診断された機器の故障情報に基づいて、原子力発電プラント110の進展をシミュレートすることで、異常事象特定システム124は、将来の異常事象の発生を予測することができる。加えて、異常事象を評価するにあたり、異常事象評価システム126は、異常事象情報と故障確率情報とに基づいて、異常事象の発生確度を評価することができる。このため、プラント支援評価システム100は、将来の時点における異常予兆を精度よく検知することができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、リスク評価システム125は、故障情報を取得するたびに、機器の故障のリスクを再評価して、故障確率情報を更新することができるため、原子力発電プラント110の異常事象の発生確度を、精度よく評価することが可能となる。
【0046】
また、本実施形態によれば、リスク評価システム125は、故障情報に含まれる機器の中から、機器リストに基づいて、安全上重要な機器を選定して、選定した機器の故障を、確率論的にリスク評価することができるため、全ての機器のリスク評価を行う必要がなく、効率よく故障確率情報を更新することができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、原子力発電プラント110及びプラント運営会社112へ向けて、報知情報を報知することができるため、原子力発電プラント110への緊急対応を実施することが可能となる。
【0048】
また、本実施形態によれば、緊急対応を要しない場合であっても、機器交換情報により機器の交換を促すことができるため、機器の交換を行うことで、異常事象の発生確度を引き下げることが可能となる。
【符号の説明】
【0049】
100 プラント支援評価システム
110 原子力発電プラント
112 プラント運営会社
115 サイト
116 中央制御室
117 事務所
118 緊急時対策所
120 データセンター
121 異常予兆監視システム
122 故障診断システム
123 進展予測システム
124 異常事象特定システム
125 リスク評価システム
126 異常事象評価システム
128 内部バス
131 EQP
132 HPM
133 人間信頼性評価部
134 確率論的リスク評価部