特許第6812316号(P6812316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6812316-水素化処理触媒及びそれを作成する方法 図000023
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6812316
(24)【登録日】2020年12月18日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】水素化処理触媒及びそれを作成する方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 47/06 20060101AFI20201228BHJP
   B01J 23/888 20060101ALI20201228BHJP
   B01J 29/16 20060101ALI20201228BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20201228BHJP
   C10G 45/04 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   C10G47/06
   B01J23/888 M
   B01J29/16 M
   B01J35/10 301A
   C10G45/04 A
【請求項の数】14
【外国語出願】
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-150485(P2017-150485)
(22)【出願日】2017年8月3日
(62)【分割の表示】特願2015-131001(P2015-131001)の分割
【原出願日】2010年6月29日
(65)【公開番号】特開2018-9175(P2018-9175A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2017年9月1日
【審判番号】不服2019-6465(P2019-6465/J1)
【審判請求日】2019年5月17日
(31)【優先権主張番号】12/496,442
(32)【優先日】2009年7月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ビ − ツェン
(72)【発明者】
【氏名】メーセン、テオドルス
(72)【発明者】
【氏名】リヒテンベルガー、ジャニーン
(72)【発明者】
【氏名】ライニス、アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ティムケン、ヘ − ギョン
【合議体】
【審判長】 川端 修
【審判官】 木村 敏康
【審判官】 日比野 隆治
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5882205(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質供給原料を水素化分解する方法であって、前記方法は水素化分解条件下で炭素質供給原料を硫化水素化分解触媒及び水素と接触させる工程を含み、前記水素化分解触媒は少なくとも1種の分子篩及び非晶質シリカ−アルミナ触媒支持体に沈着されたニッケル(Ni)及びタングステン(W)を含み、前記支持体は、ICP元素分析により決定される担体のバルク乾燥重量の10重量%から70重量%の量のSiO、450m/gから550m/gのBET表面積、0.75mL/gから1.05mL/gの総孔体積、及び70Åから130Åの平均メソ細孔径を有し、ニッケル(Ni)及びタングステン(W)の沈着が構造(1)で表される化合物の存在下で達成される、
法:
【化1】

式中、
ヒドロキシルであり、R及びRはCカルボキシアルキル基である
【請求項2】
分子篩が24.15Åから24.45Åの単位セルサイズをもつYゼオライトである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1種の分子篩が、10超のシリカ対アルミナ比率、0.15mL/gから0.27mL/gの微小孔体積、700m/gから825m/gのBET表面積、及び24.15Åから24.45Åの単位セルサイズを有するYゼオライトである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
硫化水素化分解触媒が、10超のシリカ対アルミナ比率、0.15mL/gから0.27mL/gの微小孔体積、700m/gから825m/gのBET表面積、及び24.15Åから24.35Åの単位セルサイズを有するYゼオライト、並びに未満のアルファ値及び1から40マイクロ−モル/gのブレンステッド酸性度を有する、低酸性度で高度に脱アルミン酸塩化された超安定性Yゼオライトを前記分子篩として含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
構造(1)で表される化合物がクエン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
水素化分解条件は、175〜485℃の範囲の温度、5barから300barの範囲の水素圧力、及び0.1〜30h−1の範囲のLHSVを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
炭素質供給原料が気液化方法から生成される、請求項記載の方法。
【請求項8】
水素化分解条件が、204〜482℃の反応温度、3.5〜34.6MPaの圧力、0.5hr−1から20hr−1(v/v)の給送速度(LHSV)及び液体炭化水素供給原料1m当たり53.4から356mの水素総消費量を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
非晶質シリカ−アルミナ触媒支持体に沈着されたニッケル(Ni)及びタングステン(W)を含む水素化分解触媒を作成する方法であって、前記支持体が、ICP元素分析により決定される担体のバルク乾燥重量の10重量%から70重量%の量のSiO、450m/gから550m/gのBET表面積、0.75mL/gから1.05mL/gの総孔体積、及び70Åから130Åの平均メソ細孔径を有し、当該方法は、
(a)少なくとも1種の分子篩及び非晶質シリカ−アルミナ触媒支持体を含む押出可能な塊を形成する工程、
(b)前記塊を押出した後焼成して、焼成押出品を形成する工程、
(c)焼成押出品をニッケル(Ni)及びタングステン(W)及び構造(1)で表される化合物を含む含浸溶液に曝して、含浸押出品を形成する工程、並びに
(d)構造(1)で表される化合物の分解温度より低く且つ含浸溶液溶媒を除去するのに十分な温度で含浸押出品を乾燥して、乾燥含浸押出品を形成する工程、
を含む法:
【化2】

式中、
ヒドロキシルであり、R及びRはCカルボキシアルキル基である
【請求項10】
構造(1)で表される化合物及び含浸溶液溶媒を除去し且つニッケル(Ni)及びタングステン(W)を金属酸化物に変換するのに十分な高い温度で乾燥含浸押出品を焼成する工程をさらに含む、請求項記載の方法
【請求項11】
分子篩が24.15Åから24.45Åの単位セルサイズをもつYゼオライトである、請求項記載の方法
【請求項12】
少なくとも1種の分子篩が、10超のシリカ対アルミナ比率、0.15mL/gから0.27mL/gの微小孔体積、700m/gから825m/gのBET表面積、及び24.15Åから24.45Åの単位セルサイズを有するYゼオライトである、請求項記載の方法
【請求項13】
押出可能な塊が、10超のシリカ対アルミナ比率、0.15mL/gから0.27mL/gの微小孔体積、700m/gから825m/gのBET表面積、及び24.15Åから24.35Åの単位セルサイズを有するYゼオライト、並びに未満のアルファ値及び1から40マイクロ−モル/gのブレンステッド酸性度を有する、低酸性度で高度に脱アルミン酸塩化された超安定性Yゼオライトを前記分子篩として含む、請求項記載の方法
【請求項14】
構造(1)で表される化合物がクエン酸である、請求項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化処理条件の下、炭素質供給原料を水素化処理する触媒、該触媒を作成する方法、及び本発明の触媒を用いた水素化処理法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
接触水素化処理とは、望ましくない不純物を除去する、及び/又は供給原料を改良品に変換する目的で、炭素質供給原料を高温及び高圧で水素及び触媒と接触させる石油精製法を指す。水素化処理法の例には、水素化処置法、水素化脱金属法、水素化分解法及び水素異性化法が含まれる。
【0003】
水素化処理触媒は通常、非晶質酸化物及び/又は結晶性微小孔物質(例えば、ゼオライト)から成る支持体又は担体に沈着された1種以上の金属から成る。支持体及び金属の選択は、触媒が使用される具体的な水素化処理法によって異なる。
【0004】
石油精製業者は、活性、選択性及び/又は安定性が改善された触媒を探し続けている。触媒活性の増大により化学反応が一定の条件下で進行する速度が増加し、触媒の選択性が増すことによりいらない反応副生成物が減少し、並びに触媒の安定性を高めることにより失活に対する耐性を高め、即ち、有用な触媒寿命が延長する。一般に、触媒活性が増大すると、特定の硫黄又は窒素含量の炭化水素などの最終生成物を生成するのに必要な条件はより穏和になる(例えば、温度の低下)。より穏和な条件は所望生成物を得るためのエネルギーが少なくて済み、触媒寿命はコークス形成の減少等の因子により延長される。
【0005】
水素化処理触媒の組成特性又は調製方法の適度又は僅かな変動は、水素化処理反応(脱窒素及び/又は脱硫反応など)に全く予測不可能な活性、選択性及び/又は安定性の影響を及ぼすことが知られていることは当分野で周知である。従って、当技術分野におけるこの予測不可能性のため、水素化処理触媒の活性、選択性及び/又は安定性の新規かつ意外な改良が続いている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも1種の触媒支持体、1種以上の金属、任意で1種以上の分子篩、及び任意で1種以上の促進剤、を含む水素化処理触媒を対象とし、少なくとも1種の金属の沈着が改質剤の存在下で達成される。
【0007】
本発明は、該触媒を作成する方法、及び本発明の触媒を用いた水素化処理法も対象とする。
他との重複もあるが、本発明を以下に示す。
[書類名]特許請求の範囲
[発明1]
炭素質供給原料を水素化処理する方法であって、前記方法は水素化処理条件下で炭素質供給原料を硫化水素化処理触媒及び水素と接触させる工程を含み、前記水素化処理触媒は非晶質シリカ−アルミナ触媒支持体に沈着された少なくとも1種の金属を含み、前記支持体は、ICP元素分析により決定される担体のバルク乾燥重量の10重量%から70重量%の量のSiO、450m/gから550m/gのBET表面積、0.75mL/gから1.05mL/gの総孔体積、及び70Åから130Åの平均メソ細孔径を有し、金属の沈着が改質剤の存在下で達成される、
方法。
[発明2]
硫化水素化処理触媒が少なくとも1種の分子篩をさらに含む、発明1記載の方法。
[発明3]
分子篩が24.15Åから24.45Åの単位セルサイズをもつYゼオライトである、発明2記載の方法。
[発明4]
少なくとも1種の分子篩が、10超のシリカ対アルミナ比率、0.15mL/gから0.27mL/gの微小孔体積、700m/gから825m/gのBET表面積、及び24.15Åから24.45Åの単位セルサイズを有するYゼオライトである、発明2記載の方法。
[発明5]
硫化水素化処理触媒が、10超のシリカ対アルミナ比率、0.15mL/gから0.27mL/gの微小孔体積、700m/gから825m/gのBET表面積、及び24.15Åから24.35Åの単位セルサイズを有するYゼオライト、並びに約5未満のアルファ値及び1から40マイクロ−モル/gのブレンステッド酸性度を有する、低酸性度で高度に脱アルミン酸塩化された超安定性Yゼオライトをさらに含む、発明1記載の方法。
[発明6]
改質剤が構造(1)から(4)で表される化合物より成る群及びそれらの縮合形態から選択され、
[化1]

[化2]

[化3]

[化4]

式中、
(1)R、R、及びRは、水素、ヒドロキシル、メチル、アミン、及び直鎖又は分枝、置換又は非置換のC−Cアルキル基、C−Cアルケニル基、C−Cヒドロキシアルキル基、C−Cアルコキシアルキル基、C−Cアミノアルキル基、C−Cオキソアルキル基、C−Cカルボキシアルキル基、C−Cアミノカルボキシアルキル基及びC−Cヒドロキシカルボキシアルキル基からなる群から独立して選択され;
(2)RからR10は、水素、ヒドロキシル、及び直鎖又は分枝、置換又は非置換のC−Cカルボキシアルキル基からなる群から独立して選択され;並びに
(3)R11は、直鎖又は分枝、飽和又は不飽和、置換又は非置換のC−Cアルキル基、C−Cヒドロキシアルキル基、及びC−Cオキソアルキル基からなる群から選択される、発明1記載の方法。
[発明7]
改質剤が、N,N’−ビス(2−アミノエチル)−1,2−エタン−ジアミン、2−アミノ−3−(1H−インドール3−イル)−プロパン酸、ベンズアルデヒド、[[(カルボキシメチル)イミノ]ビス(エチレンニトリロ)]−テトラ−酢酸、1,2−シクロヘキサンジアミン、2−ヒドロキシ安息香酸、チオシアネート、チオサルフェート、チオ尿素、ピリジン、及びキノリンからなる群から選択される、発明1記載の方法。
[発明8]
少なくとも1種の金属が周期表の6族及び8族から10族の元素からなる群から選択される、発明1記載の方法。
[発明9]
少なくとも1種の金属が、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、及びこれらの混合物からなる群から選択される、発明8記載の方法。
[発明10]
少なくとも1種の金属が周期表の6族から選択される少なくとも1種の金属及び周期表の8族から10族から選択される少なくとも1種の金属である、発明8記載の方法。
[発明11]
水素化処理条件は、175〜485℃の範囲の温度、5barから300barの範囲の水素圧力、及び0.1〜30h−1の範囲のLHSVを含む、発明1記載の方法。
[発明12]
炭素質供給原料が気液化方法から生成される、発明11記載の方法。
[発明13]
水素化処理条件が、204〜482℃の反応温度、3.5〜34.6MPaの圧力、0.5hr−1から20hr−1(v/v)の給送速度(LHSV)及び液体炭化水素供給原料1m当たり53.4から356mの水素総消費量を含む、発明1記載の方法。
[発明14]
非晶質シリカ−アルミナ触媒支持体に沈着された少なくとも1種の金属を含む水素化処理触媒であって、前記支持体が、ICP元素分析により決定される担体のバルク乾燥重量の10重量%から70重量%の量のSiO、450m/gから550m/gのBET表面積、0.75mL/gから1.05mL/gの総孔体積、及び70Åから130Åの平均メソ細孔径を有し、当該硫化水素化処理触媒は、
(a)非晶質シリカ−アルミナ触媒支持体を含む押出可能な塊を形成する工程、
(b)前記塊を押出した後焼成して、焼成押出品を形成する工程、
(c)焼成押出品を少なくとも1種の金属及び改質剤を含む含浸溶液に曝して、含浸押出品を形成する工程、並びに
(d)改質剤の分解温度より低く且つ含浸溶液溶媒を除去するのに十分な温度で含浸押出品を乾燥して、乾燥含浸押出品を形成する工程、
を含む方法により作成される、
水素化処理触媒。
[発明15]
改質剤及び含浸溶液溶媒を除去し且つ少なくとも1種の金属を金属酸化物に変換するのに十分な高い温度で乾燥含浸押出品を焼成する工程をさらに含む、発明14記載の水素化処理触媒。
[発明16]
押出可能な塊が少なくとも1種の分子篩をさらに含む、発明14記載の水素化処理触媒。
[発明17]
分子篩が24.15Åから24.45Åの単位セルサイズをもつYゼオライトである、発明16記載の水素化処理触媒。
[発明18]
少なくとも1種の分子篩が、10超のシリカ対アルミナ比率、0.15mL/gから0.27mL/gの微小孔体積、700m/gから825m/gのBET表面積、及び24.15Åから24.45Åの単位セルサイズを有するYゼオライトである、発明16記載の水素化処理触媒。
[発明19]
押出可能な塊が、10超のシリカ対アルミナ比率、0.15mL/gから0.27mL/gの微小孔体積、700m/gから825m/gのBET表面積、及び24.15Åから24.35Åの単位セルサイズを有するYゼオライト、並びに約5未満のアルファ値及び1から40マイクロ−モル/gのブレンステッド酸性度を有する、低酸性度で高度に脱アルミン酸塩化された超安定性Yゼオライトをさらに含む、発明14記載の水素化処理触媒。
[発明20]
改質剤が構造(1)から(4)で表される化合物より成る群、それらの縮合形態から選択され、
[化5]

[化6]

[化7]

[化8]

式中、
(1)R、R、及びRは、水素、ヒドロキシル、メチル、アミン、及び直鎖又は分枝、置換又は非置換のC−Cアルキル基、C−Cアルケニル基、C−Cヒドロキシアルキル基、C−Cアルコキシアルキル基、C−Cアミノアルキル基、C−Cオキソアルキル基、C−Cカルボキシアルキル基、C−Cアミノカルボキシアルキル基及びC−Cヒドロキシカルボキシアルキル基からなる群から独立して選択され;
(2)RからR10は、水素、ヒドロキシル、及び直鎖又は分枝、置換又は非置換のC−Cカルボキシアルキル基からなる群から独立して選択され;並びに
(3)R11は、直鎖又は分枝、飽和又は不飽和、置換又は非置換のC−Cアルキル基、C−Cヒドロキシアルキル基、及びC−Cオキソアルキル基からなる群から選択される、
発明14記載の水素化処理触媒。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、多環式芳香族が本明細書の例1及び3の教示通りに合成された触媒組成物について操業時間の関数として増加することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
序論
「周期表」という用語は、2007年6月22日付けのIUPAC元素周期表版を指し、周期表グループの付番方式は、Chemical and Engineering News,63(5),27(1985)に記載の通りである。
【0010】
「バルク乾燥重量」という用語は、1000℃を超える高温で30分間焼成後の物質の重量を指す。
【0011】
「水素化処理(hydroprocessing)」という用語は、望ましくない不純物を除去し、及び/又は供給原料を所望の生成物に変換する目的で、炭素質供給原料を高温及び高圧で水素及び触媒と接触させる方法を指す。
【0012】
「水素化処置(hydrotreating)」という用語は、硫黄及び/又は窒素を含有する炭化水素供給原料を硫黄及び/又は窒素含量が減少した炭化水素生成物に変換する方法であって、通常水素化分解機能と併用する方法を指し、これらは副生成物として(それぞれ)硫化水素及びアンモニアを生成する。
【0013】
「水素化分解」という用語は、水素化及び脱水素化が炭化水素の分解/分裂を伴う方法であって、例えば重炭化水素から軽炭化水素に変換し、又は芳香族及び/又はシクロパラフィン(ナフテン)から非環状分枝パラフィンに変換する方法を指す。
【0014】
「水素異性化」という用語は、ノルマルパラフィンが、水素の存在下、触媒を用いて分枝対応物に異性化される方法を指す。
【0015】
「水素脱金属」という用語は、炭化水素供給原料から望ましくない金属を除去し、金属含量の減少した炭化水素生成物を得る方法を指す。
【0016】
「気液化」(GTL)という用語は、天然ガスなどの気相炭化水素が、例えばフィッシャー−トロプシュ法を用いて、直接変換又は中間体としての合成ガスによってディーゼル燃料等の長鎖炭化水素に変換される方法を指す。
【0017】
「骨格トポロジー」という用語及びその前3文字の骨格コードは、2007年「アトラス・オブ・ゼオライト・タイプ」第6版の骨格コードに提供される骨格タイプ・データを指す。
【0018】
本明細書で用いられる「アルケニル」という用語は、少なくとも1種の炭素−炭素二重結合を含む直鎖又は分枝鎖の炭化水素に由来する1から12の炭素原子の直鎖又は分枝鎖の基を表す。
【0019】
本明細書で用いられる「ヒドロキシアルキル」という用語は、アルキル基を介して親分子部分に結合した1以上のヒドロキシ基を表す。
【0020】
本明細書で用いられる「アルコキシアルキル」という用語は、アルキル基を介して親分子部分に結合した1以上のアルコキシ基を表す。
【0021】
本明細書で用いられる「アミノアルキル」という用語は、アルキル基を介して親分子部分に結合した1以上のアミノ基を表す。
【0022】
本明細書で用いられる「オキソアルキル」という用語は、アルキル基を介して親分子部分に結合した1以上のエーテル基を表す。
【0023】
本明細書で用いられる「カルボキシアルキル」という用語は、アルキル基を介して親分子部分に結合した1以上のカルボキシル基を表す。
【0024】
本明細書で用いられる「アミノカルボキシアルキル」という用語は、アルキル基を介して親分子部分に結合した1以上のカルボキシル基及び1以上のアミノ基を表す。
【0025】
本明細書で用いられる「ヒドロキシカルボキシルアルキル」という用語は、アルキル基を介して親分子部分に結合した1以上のカルボキシル基及び1以上のヒドロキシル基を表す。
【0026】
許容される場合、本出願で引用される全ての刊行物、特許及び特許出願は、当該開示が本発明と矛盾しない程度に、参照により全体として本明細書に組み入れられる。
【0027】
別段の規定がない限り、元素、物質又は他成分の属の列挙から個々の成分又は成分混合物が選択でき、該列挙は、記載成分及びその混合物の可能なあらゆる下位属の組み合わせを含むことが意図される。また、「含む」及びその変形とは、リスト項目の列挙が本発明の物質、組成物及び方法にも有用でありうる他の同様な項目を排除しないように非限定であることを意図する。
【0028】
本明細書に記載する物質の性質は下記の通りに決定される:
(a)拘束インデックス(CI): 900°F(482℃)、0.68WHSVで試料触媒によるn−ヘキサン及び3−メチル−ペンタンの50/50混合物の総分解変換を示す。試料は、2006年6月20日に発行されたZones及びBurtonの米国特許第7,063,828号に記載の方法に従って調製される。
【0029】
(b)ブレンステッド酸性度: T.J.Gricus Kofke,R.K.Gorte,W.E.Farneth,J.Catal.114,34−45,1988;T.J.Gricus Kifke,R.J.Gorte,G.T.Kokotailo,J.Catal.115,265−272,1989;J.G.Tittensor,R.J.Gorte and D.M.Chapman,J.Catal.138,714−720,1992による公開記述から適応させたイソプロピルアミン昇温脱離(IPam TPD)により決定される。
【0030】
(c)SiO/Al比率(SAR): ICP元素分析により決定される。無限大(∞)のSARは、ゼオライト中にアルミニウムが存在しない場合、即ちシリカ対アルミナのモル比が無限大である場合を表す。この場合、分子篩は本質的に全てシリカから構成される。
【0031】
(d)表面積: 沸点でのN吸着により決定される。BET表面積は、P/P=0.050、0.088、0.125、0.163及び0.200で5点数法により算出される。試料は、水又は有機物のようななんらかの吸着揮発性物質を除去するため、まず400℃で6時間流動乾燥Nの存在下で前処理される。
【0032】
(e)微小孔体積: 沸点でのN吸着により決定される。微小孔体積は、P/P=0.050、0.088、0.125、0.163及び0.200でt−プロット法により算出される。試料は、水又は有機物のようななんらかの吸着揮発性物質を除去するため、まず400℃で6時間流動乾燥Nの存在下で前処置される。
【0033】
(f)メソ細孔の孔径: 沸点でのN吸着により決定される。メソ細孔の孔径は、E.P.Barrett,L.G.Joyner and P.P.Halenda,「The determination of pore volume and area distributions in porous substances.I.Computations from nitrogen isotherms.」J.Am.Chem.Soc.73,373−380,1951に記載のBJH方法によりN等温線から算出される。試料は、水又は有機物のようななんらかの吸着揮発性物質を除去するため、まず400℃で6時間流動乾燥Nの存在下で前処置される。
【0034】
(g)総孔体積: P/P=0.990で沸点でのN吸着により決定される。試料は、水又は有機物のようななんらかの吸着揮発性物質を除去するため、まず400℃で6時間流動乾燥Nの存在下で前処置される。
【0035】
(h)単位セルサイズ: X線粉末回折により決定される。
【0036】
(i)アルファ値: モバイル・アルファ試験の公開記述(P.B.Weisz and J.N.Miale,J.Catal.,4,527−529,1965;J.N.Miale,N.Y.Chen,and P.B.Weisz,J.Catal.,6,278−87,1966)から適応させたアルファ試験により決定される。「アルファ値」は、標準シリカ・アルミナ試料の分解速度で割る当試料の分解速度として算出される。得られる「アルファ」は、一般に酸性部位数と相関する酸分解活性の測定値である。
【0037】
水素化処理触媒組成物
本発明は、少なくとも1種の触媒支持体、1種以上の金属、任意で1種以上の分子篩、任意で1種以上の促進剤を含む水素化処理触媒を対象とし、少なくとも1種の金属の沈着が改質剤の存在下で達成される。
【0038】
本明細書に記載される各実施形態では、触媒支持体は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化トリウム、酸化ベリリウム、アルミナ−シリカ、アルミナ−酸化チタン、アルミナ−酸化マグネシウム、シリカ−酸化マグネシウム、シリカ−ジルコニア、シリカ−酸化トリウム、シリカ−酸化ベリリウム、シリカ−酸化チタン、酸化チタン−ジルコニア、シリカ−アルミナ−ジルコニア、シリカ−アルミナ−酸化トリウム、シリカ−アルミナ−酸化チタン又はシリカ−アルミナ−酸化マグネシウムからなる群から選択され、好ましくはアルミナ、シリカ−アルミナ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0039】
一つの下位実施形態において、触媒支持体は、γ−アルミナ、η−アルミナ、θ−アルミナ、δ−アルミナ、χ−アルミナ、及びこれらの混合物からなる群から選択されるアルミナである。
【0040】
他の下位実施形態において、触媒支持体は、平均メソ細孔径が70Åから130Åである非晶質シリカ−アルミナ物質である。
【0041】
他の下位実施形態において、触媒支持体は、ICP元素分析により決定される担体のバルク乾燥重量の10から70重量%の量のSiOを含む非晶質シリカ−アルミナ物質であり、BET表面積が450から550m/g、並びに総孔体積が0.75から1.05mL/gである。
【0042】
他の下位実施形態において、触媒支持体は、ICP元素分析により決定される担体のバルク乾燥重量の10から70重量%の量のSiOを含む非晶質シリカ−アルミナ物質であり、BET表面積が450から550m/g、総孔体積が0.75から1.05mL/g、並びに平均メソ細孔径が70Åから130Åである。
【0043】
他の下位実施形態において、触媒支持体は、0.7から1.3の、シリカ対アルミナの表面対バルク比(S/B比)を有する高度に均一な非晶質シリカ−アルミナ物質であり、約10重量%未満の量で結晶性アルミナ相が存在する。
【0044】
【数1】
【0045】
S/B比率を決定するために、シリカ−アルミナ表面のSi/Al原子比率がX線光電子分光分析(XPS)を用いて測定される。XPSは化学分析の電子分光法(ESCA)としても知られる。XPSの侵入深さは50Å未満であるため、XPSにより測定されるSi/Al原子比率は表面化学組成に関するものである。
【0046】
シリカ−アルミナ特性評価のためのXPSの使用は、W.Daneiell et al.in Applied Catalysis A,196,247−260,2000により公開された。それ故、XPS技術は触媒粒子表面の外層の化学組成を測定するのに有効である。オージェ電子分光法(AES)及び二次イオン質量分析(SIMS)などの他の表面測定技術も、表面組成の測定に用いられ得る。
【0047】
組成物のバルクSi/Al比率は個別にICP元素分析から決定される。次に、表面Si/Al比率をバルクSi/Al比率と比較することにより、S/B比率及びシリカ−アルミナの均一性が測定される。SB比率が粒子の均一性をどのように規定するかは、下記の通り説明される。1.0のS/B比率は、物質が粒子全体にわたって完全に均一であることを意味する。1.0未満のS/B比率は、粒子表面がアルミナで充実する(又はシリコン不足となる)ことを意味し、アルミナは大部分が粒子の外面に位置する。1.0超のS/B比率は、粒子表面がシリコンで充実する(又はアルミナ不足となる)ことを意味し、アルミナは大部分が粒子の内部域に位置する。
【0048】
本明細書に記載の各実施形態では、水素化処理触媒における触媒支持体の量は、水素化処理触媒のバルク乾燥重量に基づき、5重量%から80重量%である。
【0049】
本明細書に記載の各実施形態では、水素化処理触媒は、BEA−、ISV−、BEC−、IWR−、MTW−、STO−、OFF−、MAZ−、MOR−、MOZ−、AFI−、NRE−、SSY−、FAU−、EMT−、ITQ−21−、ERT−、ITQ−33−、及びITQ−37−型の分子篩、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の分子篩を任意に含んでもよい。
【0050】
一下位実施形態において、1種以上の分子篩は、FAU骨格トポロジーを有する分子篩、BEA骨格トポロジーを有する分子篩、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0051】
水素化処理触媒における分子篩物質の量は、水素化処理触媒のバルク乾燥重量に基づき、0重量%から60重量%である。一下位実施形態において、水素化処理触媒における分子篩物質の量は、0.5重量%から40重量%である。
【0052】
一下位実施形態において、分子篩は、24.15Å〜24.45Åの単位セルサイズのYゼオライトである。他の下位実施形態において、分子篩は24.15Å〜24.35Åの単位セルサイズのYゼオライトである。他の下位実施形態において、分子篩は、5未満のアルファ値及び1から40のブレンステッド酸性度を有する、低酸性度で高度に脱アルミン酸塩化された超安定性Yゼオライトである。一下位実施形態において、分子篩は下記の表1に記載する性質を有するYゼオライトである。
【0053】
【表1】
【0054】
他の下位実施形態において、分子篩は下記の表2に記載する性質を有するYゼオライトである。
【0055】
【表2】
【0056】
他の下位実施形態において、触媒は、上記の表2に記載する性質を有する0.1重量%から40重量%(触媒のバルク乾燥重量に基づく)のYゼオライト、及び約5未満のアルファ値及び1から40マイクロモル/gのブレンステッド酸性度を有する、1重量%から60重量%(触媒のバルク乾燥重量に基づく)の、低酸性度で高度に脱アルミン酸塩化された超安定性Yゼオライトを含む。
【0057】
上記の本明細書に記載する通り、本発明の水素化処理触媒は1種以上の金属を含む。本明細書に記載の各実施形態では、使用する各金属は周期表の6族及び8族から10族の元素、並びにこれらの混合物からなる群から選択される。一下位実施形態において、各金属は、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、及びこれらの混合物からなる群から選択される。他の下位実施形態において、水素化処理触媒は、少なくとも1種の6族金属及び周期表の8族から10族の元素より選択される少なくとも1種の金属を含む。例示的な金属の組み合わせとして、Ni/Mo/W、Ni/Mo、Ni/W、Co/Mo、Co/W、Co/W/Mo及びNi/Co/W/Moが挙げられる。
【0058】
水素化処理触媒における金属酸化物物質の総量は、水素化処理触媒のバルク乾燥重量に基づいて、0.1重量%から90重量%である。一下位実施形態において、水素化処理触媒は、水素化処理触媒のバルク乾燥重量に基づいて、2重量%から10重量%の酸化ニッケル及び8重量%から40重量%の酸化タングステンを含む。
【0059】
希釈剤は水素化処理触媒の形成において使用してもよい。適切な希釈剤として、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素、酸化チタンなどの無機酸化物、粘土、セリア、及びジルコニア、並びにこれらの混合物が挙げられる。水素化処理触媒における希釈剤の量は、水素化処理触媒のバルク乾燥重量に基づいて0重量%から35重量%である。一下位実施形態において、水素化処理触媒における希釈剤の量は、水素化処理触媒のバルク乾燥重量に基づいて0.1重量%から25重量%である。
【0060】
本発明の水素化処理触媒は、リン(P)、ホウ素(B)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、亜鉛、マンガン(Mn)、及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上の促進剤を含んでもよい。水素化処理触媒における促進剤の量は、水素化処理触媒のバルク乾燥重量に基づいて0重量%から10重量%である。一下位実施形態において、水素化処理触媒における促進剤の量は、水素化処理触媒のバルク乾燥重量に基づいて0.1重量%から5重量%である。
【0061】
水素化処理触媒の調製
本発明において、触媒への少なくとも1種の金属の沈着は、改質剤の存在下で達成される。一実施形態において、成形した水素化処理触媒は、
(a)少なくとも非晶質シリカ−アルミナ触媒支持体を含む押出可能な塊を形成すること、
(b)前記塊を押出した後該焼成して、焼成押出品を形成すること、
(c)焼成押出品を少なくとも1種の金属及び改質剤を含む含浸溶液に曝して、含浸押出品を形成すること、並びに
(d)改質剤の分解温度より低く且つ含浸溶液溶媒を除去するのに十分な温度で含浸押出品を乾燥し、乾燥含浸押出品を形成すること、
により調製される。
【0062】
希釈剤、促進剤及び/又は分子篩(使用する場合)は、押出可能な塊を形成する場合に担体と組み合わせてもよい。他の実施形態において、担体及び(任意で)希釈剤、促進剤及び/又は分子篩は、所望の形状に形成される前又は後に含浸され得る。
【0063】
一実施形態において、少なくとも1種の金属の沈着は、構造(1)から(4)で表される化合物より成る群であって該化合物の縮合形態を含む群から選択される改質剤の存在下で達成される。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】
【0064】
式中、
(1)R、R、及びRは、水素、ヒドロキシル、メチル、アミン、及び直鎖又は分枝、置換又は非置換のC−Cアルキル基、C−Cアルケニル基、C−Cヒドロキシアルキル基、C−Cアルコキシアルキル基、C−Cアミノアルキル基、C−Cオキソアルキル基、C−Cカルボキシアルキル基、C−Cアミノカルボキシアルキル基及びC−Cヒドロキシカルボキシアルキル基からなる群から独立して選択され;
(2)RからR10は、水素、ヒドロキシル、及び直鎖又は分枝、置換又は非置換のC−Cカルボキシアルキル基からなる群から独立して選択され;並びに
(3)R11は、直鎖又は分枝、飽和又は不飽和、置換又は非置換のC−Cアルキル基、C−Cヒドロキシアルキル基、及びC−Cオキソアルキル基からなる群から選択される。
【0065】
この実施形態に有用な改質剤の代表例には、2,3−ジヒドロキシコハク酸、エタン二酸、2−ヒドロキシ酢酸、2−ヒドロキシプロパン酸、2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボン酸、メトキシ酢酸、シス−1,2−エチレンジカルボン酸、ヒドロエタン−1,2−ジカルボン酸、エタン−1,2−ジオール、プロパン−1,2,3−トリオール、プロパン二酸、及びα−ヒドロ−ω−ヒドロキシポリ(オキシエチレン)が含まれる。
【0066】
代替実施形態において、少なくとも1種の金属の沈着は、N,N’−ビス(2−アミノエチル)−1,2−エタン−ジアミン、2−アミノ−3−(1H−インドール3−イル)−プロパン酸、ベンズアルデヒド、[[(カルボキシメチル)イミノ]ビス(エチレンニトリロ)]−テトラ−酢酸、1,2−シクロヘキサンジアミン、2−ヒドロキシ安息香酸、チオシアネト、チオサルフェート、チオ尿素、ピリジン、及びキノリンからなる群から選択される改質剤の存在下で達成される。
【0067】
改質剤は金属凝集を妨げ、それにより触媒の活性及び選択性を強化する。
【0068】
本明細書に記載の各実施形態では、予備焼成された水素化処理触媒における改質剤の量は、水素化処理触媒のバルク乾燥重量に基づいて2重量%から18重量%である。
【0069】
押出塊の焼成は選択される特定の支持体に応じて変わる。通常、押出塊は752°F(400℃)から1200°F(650℃)の温度で1から3時間焼成され得る。
【0070】
適切な溶媒の非限定例には、水及びCからCアルコールが含まれる。他の適切な溶媒として、アルコール、エーテル、及びアミンなどの極性溶媒が挙げられ得る。水は好ましい溶媒である。金属化合物は水溶性であること、及びそれぞれの溶液が形成され又は両金属を含む単一溶液が形成されることも好ましい。改質剤は、適切な溶媒、好ましくは水で調製され得る。3溶媒成分は任意の順序で混合され得る。即ち、3つ全てを共に同時に混合でき、又は任意の順で連続して混合できる。一実施形態において、1種以上の金属成分を水性媒体にまず混合して、その後、改質剤を加えることが好ましい。
【0071】
含浸溶液における金属前駆体及び改質剤の量は、乾燥後に触媒前駆体における金属対改質剤の好ましい比率に達するように選択されるべきである。
【0072】
焼成押出品を、初期湿潤が達成されるまで、典型的には1から100時間(より典型的には1から5時間)、室温から212°F(100℃)で、押出品を回転しながら、含浸溶液に曝し、続いて0.1から10時間、典型的には約0.5から約5時間寝かせる。
【0073】
乾燥工程は、含浸溶液溶媒を除去するのに十分な温度であるが改質剤の分解温度より低い温度で行われる。他の実施形態において、乾燥含浸押出品は、次に、改質剤の分解温度を超える温度、通常約500°F(260℃)から1100°F(590℃)で有効な時間焼成されて、金属を金属酸化物に変換する。本発明は、含浸押出品が焼成される場合、意図する焼成温度まで温度を上昇又は漸増させる時間、乾燥を経るであろうことを予期する。この有効な時間は、約0.5から約24時間、通常は約1から約5時間の範囲に及ぶ。焼成は、空気などの流動酸素含有ガス、窒素などの流動不活性ガス、又は酸素含有ガス及び不活性ガスの組み合わせの存在下で行われ得る。
【0074】
本発明の乾燥及び焼成された水素化処理触媒は、活性触媒を形成するために硫化され得る。触媒を形成するための触媒前駆体の硫化は、反応器に触媒を導入する前に実施され得る(従って系外(ex−situ)事前硫化)、又は反応器で行われ得る(系中(in−situ)硫化)。
【0075】
適切な硫化剤として、硫黄元素、硫化アンモニウム、多硫化アンモニウム([(NH])、チオ硫酸アンモニウム((NH)、チオ硫酸ナトリウム(Na)、チオ尿素CSN、二硫化炭素、ジメチルジスルフィド(DMDS)、ジメチルスルフィド(DMS)、ジブチルポリスルフィド(DBPS)、メルカプタン、第三ブチルポリスルフィド(PSTB)、第三ノニルポリスルフィド(PSTN)、水性硫化アンモニウムが挙げられる。
【0076】
一般に、硫化剤は硫化触媒を形成するのに必要な化学量論量を超過する量で存在する。他の実施形態において、硫化剤の量は、硫化触媒を生成するために、少なくとも3対1の硫黄対金属モル比を表す。
【0077】
触媒を、150°Fから900°F(66℃から482℃)の温度で、10分から15日間、101kPaから25,000kPaのH含有ガス圧の下、硫化剤と接触させて活性硫化触媒に変換される。硫化温度が硫化剤の沸点より低い場合、該方法は一般に大気圧で行われる。硫化剤/任意成分の沸点より上では、反応は一般に加圧して行われる。本明細書で用いられるように、硫化方法の完了は、金属を、例えばCo、MoS、WS、Ni等に変換するのに必要な化学量論硫黄量の少なくとも95%が消費されたことを意味する。
【0078】
一実施形態において、硫化は、HSに分解可能な水素及び硫黄含有化合物を含む気相で完了させるために行われ得る。例には、メルカプタン、CS、チオフェン、DMS、DMDS及び適切なS含有精製出口ガスが含まれる。H及び硫黄含有化合物のガス混合物は該工程で同一又は相違し得る。気相の硫化は、固定床方法及び移動床方法(反応器に対して触媒が移動する、例えば沸騰法及び回転炉)を含む、任意の適切な様式でなされ得る。
【0079】
触媒前駆体と水素及び硫黄含有化合物との接触は、68°Fから700°F(20℃から371℃)の温度、101kPaから25,000kPaの圧力、1から100時間、の一段階でなされ得る。通常、硫化は、温度が上昇又は漸増する時間行われ、完了までの時間持続する。
【0080】
気相における硫化の他の実施形態において、硫化は2以上の段階でなされ、第一段階は次の段階より低い温度である。
【0081】
一実施形態において、硫化は液相で行われる。最初に、触媒前駆体を、触媒総孔体積の20%から500%の範囲の量で有機液体と接触させる。有機液体との接触は、周囲温から248°F(120℃)までの範囲にわたる温度であり得る。有機液体の取り込み後、触媒前駆体を水素及び硫黄含有化合物と接触させる。
【0082】
一実施形態において、有機液体は、200°Fから1200°F(93℃から649℃)の沸点範囲を有する。例示的な有機液体として、重油などの石油留分、鉱油系潤滑油のような潤滑油留分、常圧ガス油、真空ガス油、直留ガス油(straight run gas oils)、揮発油、ディーゼルのような中間留分、ジェット燃料及び灯油、ナフサ、並びにガソリンが挙げられる。一実施形態において、有機液体は10重量%未満、及び好ましくは5重量%未満の硫黄を含む。
【0083】
水素化処理方法及び供給原料
本発明の触媒組成物は、広範囲な反応条件下で、例えば200°から450°の範囲の温度、5から300barの範囲の水素圧力、及び0.05から10h−1の範囲の空間速度(LHSV)で、複数の供給原料を処置するため、実質的に全ての水素化処理方法で乾燥又は焼成形態で使用され得る。本発明の水素化処理触媒組成物は、中間留分、灯油、ナフサ、真空ガス油、及び重質ガス油などの炭化水素供給原料を水素化処置するために特に適切である。
【0084】
本発明の触媒を用いて、重質石油残留物供給原料、環状原料(cyclic stocks)及び他の水素化分解原料(hydrocrackate charge stocks)は、米国特許第4,910,006号及び米国特許第5,316,753号に開示される方法条件及び触媒成分を用いて水素化分解できる。通常、水素化分解は、本発明の触媒を用いて、175〜485℃の範囲の温度、5から300barの範囲の水素圧力、及び0.1〜30h−1の範囲のLHSVで、供給原料と水素及び触媒との接触により行われ得る。
【0085】
水素化処置中、炭化水素質供給原料中に存在する酸素、硫黄及び窒素は低レベルまで減少する。芳香族及びオレフィンは、供給原料に存在する場合、飽和される二重結合も有しうる。場合によっては、水素化処置触媒及び水素化処置条件は分解反応を最小限にするよう選択され、該反応はほとんどの脱硫化生成物の収率を減じ得る(燃料として通常は有用である)。
【0086】
水素化処置条件は通常、204〜482℃の反応温度、例えば315−454℃;3.5〜34.6MPaの圧力、例えば7.0〜20.8MPa;0.5hr−1から20hr−1(v/v)の給送速度(LHSV);並びに液体炭化水素供給原料1バーレル当たり300から2000 scfの水素総消費量(53.4〜356m/m供給原料)を含む。
【0087】
水素異性化条件は使用する供給原料及び所望する生成物に応じて大いに異なる。水素対供給原料の比率は通常、0.089から5.34SCM/リットル(標準立方メートル/リットル)、例えば0.178から3.56SCM/リットルである。一般に、水素は該生成物から分離され、反応帯に再循環される。通常の供給原料として、軽質ガス油、重質ガス油、及び約177℃より高い沸点の常圧蒸留残油が挙げられる。
【0088】
潤滑油は触媒を用いて調製されてもよい。例えば、C20+潤滑油は、供給原料のパラフィン留分を水素異性化することにより作られてもい。代わりに、水素化分解帯で炭化水素質供給原料を水素化分解することにより水素化分解油を含む流出物を得、少なくとも約200℃の温度及び0.103から20.7Mpaゲージの圧力で、添加水素ガスの存在下、該流出物を接触脱ろうすることにより、潤滑油が作られてもよい。
【0089】
本発明の触媒を用いて、GTL方法から生成されるFTワックス供給原料は、175〜485℃の範囲の温度、5から300barの範囲の水素圧力、及び0.1〜30h−1の範囲のLHSVで、本発明の触媒と水素及び触媒とを該方法により接触させることにより、ディーゼル及びジェット燃料に水素化分解され得る。
【実施例】
【0090】
下記の実施例は説明に役立つであろうが、本発明を限定するものではない。
【0091】
触媒調製
(例1)
触媒A−比較水素化分解触媒
比較水素化分解触媒は下記の手順で調製した: 67重量部のシリカ−アルミナ粉末(Sasolから入手)、25重量部の擬ベーマイト・アルミナ粉末(Sasolから入手)、及び8重量部のゼオライトY(Tosohから入手)を十分に混合した。希釈HNO酸性水溶液(1重量%)を混合粉末に添加して、押出可能なペーストを形成した。該ペーストを1/16”非対称四葉形状に押し出し、250°F(121℃)で一晩乾燥した。乾燥押出品を、過剰な乾燥空気を浄化しながら、1100°F(593℃)で1時間焼成し、室温に冷却した。
【0092】
Ni及びWの含浸を、最終触媒のバルク乾燥重量に基づいて4重量%のNiO及び28重量%のWOの標的金属ローディングに等しい濃度でメタタングステン酸アンモニウム及び硝酸ニッケルを含む溶液を用いて行った。溶液の総体積は基材押出品試料の103%水孔体積に匹敵した(初期湿潤(incipient wetness)法)。該押出品を回転しながら、金属溶液を基材押出品に徐々に加えた。溶液添加が完了したら、浸漬された押出品を2時間寝かせた。次いで、押出品を250°F(121℃)で一晩乾燥した。乾燥押出品を、過剰な乾燥空気を浄化しながら、842°F(450℃)で1時間焼成し、室温に冷却した。この触媒は触媒Aと命名され、その物性は表3に要約される。
【0093】
(例2)
触媒B−改質水素化分解触媒
改質Ni/W水素化分解触媒を、触媒Aと同じ処方で調製した押出品を用いて調製した。Ni及びWの含浸を、最終触媒のバルク乾燥重量に基づいて4重量%のNiO及び28重量%のWOの標的金属ローディングに等しい濃度でメタタングステン酸アンモニウム及び硝酸ニッケルを含む溶液を用いて行った。最終触媒のバルク乾燥重量の10重量%に等しい量で、2−ヒドロキシ1,2,3−プロパントリカルボン酸(改質剤として使用)をNi/W溶液に加えた。溶液を、完全な溶解(透明)溶液を確実にするために、120°F(49℃)より高く加熱した。金属溶液の総体積は基材押出品の103%水孔体積に匹敵した(初期湿潤法)。該押出品を回転しながら、金属溶液を基材押出品に徐々に加えた。溶液添加が完了したら、浸漬された押出品を2時間寝かせた。次いで、押出品を、過剰な乾燥空気を浄化しながら、400°F(205℃)で2時間乾燥し、室温に冷却した。
【0094】
(例3)
触媒C−改質水素化分解触媒
触媒Cを、触媒Bの採取試料を842°F(450℃)で1時間さらに焼成することにより調製した。
【0095】
(例4)
触媒D−改質水素化分解触媒
触媒Dを下記の手順で調製した: 55重量部のシリカ−アルミナ粉末、25重量部の擬ベーマイト・アルミナ粉末、及び20重量部のゼオライトYを十分に混合した。該混合物に対して、希釈HNO酸性(1重量%)溶液を添加して、押出可能なペーストを形成した。該ペーストを1/16”非対称四葉形状に押し出し、250°F(121℃)で一晩乾燥した。乾燥押出品を、過剰な乾燥空気を浄化しながら、1100°F(593℃)で1時間焼成し、室温に冷却した。
【0096】
Ni及びWの含浸を、最終触媒のバルク乾燥重量に基づいて4重量%のNiO及び28重量%のWOの標的金属ローディングに等しい濃度でメタタングステン酸アンモニウム及び硝酸ニッケルを含む溶液を用いて行った。2−ヒドロキシ1,2,3−プロパントリカルボン酸(改質剤として使用)を、最終触媒のバルク乾燥重量の10重量%に等しい量で、Ni/W溶液に添加した。溶液を、透明溶液を確実にするために、120°F(49℃)より高く加熱した。金属溶液の総体積は基材押出品の103%水孔体積に匹敵した(初期湿潤法)。金属溶液を、該押出品を回転しながら、基材押出品に徐々に添加した。溶液添加が完了したら、浸漬された押出品を2時間寝かせた。次いで、押出品を、過剰な乾燥空気を浄化しながら、400°F(205℃)で2時間乾燥し、室温に冷却した。
【0097】
(例5)
触媒E−改質水素化分解触媒
触媒Eを、触媒Dの採取試料を842°F(450℃)で1時間さらに焼成することにより調製した。
【0098】
(例6)
触媒F−改質水素化分解触媒
触媒Fを下記の手順で調製した: 69重量部のシリカ−アルミナ粉末、及び31重量部の擬ベーマイト・アルミナ粉末を十分に混合した。該混合物に対して、希釈HNO酸性(1重量%)溶液を添加して、押出可能なペーストを形成した。該ペーストを1/16”非対称四葉形状に押し出し、250°F(121℃)で一晩乾燥した。乾燥押出品を、過剰な乾燥空気を浄化しながら、1100°F(593℃)で1時間焼成し、室温に冷却した。
【0099】
Ni及びWの含浸を、最終触媒のバルク乾燥重量に基づいて4重量%のNiO及び28重量%のWOの標的金属ローディングに等しい濃度でメタタングステン酸アンモニウム及び硝酸ニッケルを含む溶液を用いて行った。2−ヒドロキシ1,2,3−プロパントリカルボン酸(改質剤として使用)を、最終触媒のバルク乾燥重量の10重量%に等しい量で、Ni/W溶液に添加した。溶液を、透明溶液を確実にするために、120°F(49℃)より高く加熱した。金属溶液の総体積は基材押出品の103%水孔体積に匹敵した(初期湿潤法)。金属溶液を、該押出品を回転しながら、基材押出品に徐々に添加した。溶液添加が完了したら、浸漬された押出品を2時間寝かせた。次いで、押出品を、過剰な乾燥空気を浄化しながら、400°F(205℃)で2時間乾燥し、室温に冷却した
【0100】
(例7)
触媒G−改質水素化分解触媒
触媒Gは、触媒Fの採取試料を842°F(450℃)で1時間さらに焼成することにより調製した。
【0101】
【表3】
【0102】
(例8)
水素化分解性能
触媒の水素化分解性能を評価するために、種々の供給原料が使用された。各試験において、触媒は、供給原料1について、下記の給送方法条件を受けた: 2300PSIG総圧(反応器入り口で2100 PSIA H)、5000 SCFB H、1.0 LHSV、通過変換当たり60 LV%。供給原料2では、試験条件は、1000 psig総圧(反応器入り口で900 psia H)、5000 scfb H、1.0 LHSV、通過変換当たり65 LV%であった。表4は試験で使用された2つの供給原料の物性を要約する。供給原料1は高濃度の多環式芳香族を含む水素化処置VGOである。供給原料2はGTL方法から生成されるFTワックスである。
【0103】
【表4】
【0104】
表5及び表6は、改質剤の使用及び不使用で調製した触媒による水素化分解性能を比較する。
【0105】
【表5】
【0106】
【表6】
【0107】
触媒Cは触媒Aより優れたHCR性能を示す。触媒Cは、高価な低質ガスの収率(C4−)及びナフサの収率(C5−250°F/121℃)において、基礎事例より少なくとも2重量%高いディーゼル収率をもたらした。触媒Cは、Aと比較して低ガスの収率を4.7から4.0重量%、ナフサの収率を19.0から17.7重量%に減少させた。触媒Cは、触媒Aより約2.5重量%多い重ディーゼル(550〜700°F/288〜371℃)を作り、ジェットの収率はほぼ同程度であった(250〜550°F/121〜288℃)。2−ヒドロキシ1,2,3−プロパントリカルボン酸の使用は触媒活性に影響を及ぼさない。
【0108】
供給原料2では(表6)、触媒BもDも、石油供給原料の知見と同様に、高価な低ガス及びナフサで触媒Aより少なくとも2重量%高いディーゼルの収率を示した。比較触媒Aと比較して10°F(5.5℃)より高く、触媒B及びDの触媒活性に有意な改善も観察された。
【0109】
さらに、改質剤は供給原料の飽和多環式芳香族について接触水素化活性を増強した。図1は、触媒A及びCによる供給原料1の再循環液(例えば>700°F(371℃)留分)における多環式芳香族濃度(多環式芳香族インデックスにより測定、PCI)を示す。該供給原料の初期濃度は比較用にも供される。触媒Aについて、図1は、多環式芳香族が再循環液体中で触媒Aによる操業時間と線型性をもって増加することを明瞭に示す。触媒Cでは、再循環液体のPCI値は供給原料及び触媒Aによる再循環液体のPCI値よりはるかに低かった。また、PCI値は触媒Cによる操業時間と同レベルで維持した。これは、改質剤の使用により水素化活性の改善のための直接的証拠を提供する。多環式芳香族は触媒表面上でのコークス形成の前駆体と考えられるため、反応物分子に近づき難い触媒活性部位を遮断することは触媒寿命に有益である。
図1