特許第6812337号(P6812337)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6812337移動対象物における所定事象の発生傾向を推定するプログラム、装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6812337
(24)【登録日】2020年12月18日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】移動対象物における所定事象の発生傾向を推定するプログラム、装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20201228BHJP
   G08G 1/01 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   G08G1/00 A
   G08G1/01 A
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-246840(P2017-246840)
(22)【出願日】2017年12月22日
(65)【公開番号】特開2019-114042(P2019-114042A)
(43)【公開日】2019年7月11日
【審査請求日】2019年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 直
(72)【発明者】
【氏名】石川 雄一
【審査官】 田中 将一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−042369(JP,A)
【文献】 特開2014−035639(JP,A)
【文献】 特開2014−086045(JP,A)
【文献】 特開2002−304700(JP,A)
【文献】 特開2011−171876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の移動対象物における事故事象の発生傾向を推定する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
複数の移動対象物それぞれの位置情報から、位置グループを生成する位置グループ生成手段と、
過去に事故事象が発生した移動対象物の位置情報に基づいて前記位置グループ生成手段から出力された位置グループ毎に、複数の移動対象物の進行向きの要素群データを、教師データとして学習エンジンに入力し、事故事象の発生傾向を学習させる教師データ入力手段と、
推定すべき移動対象物の位置情報に基づいて前記位置グループ生成手段から出力された位置グループについて、複数の移動対象物の進行向きの要素群データを前記学習エンジンに入力し、その出力として当該位置グループにおける事故事象の発生傾向を取得する事象発生傾向推定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項2】
事故事象の発生とは、異なる種別となる複数の第1の移動対象物と複数の第2の移動対象物とに基づくものであり、
前記位置グループ生成手段は、第1の移動対象物及び第2の移動対象物の位置情報から、位置グループを生成し、
前記教師データ入力手段は、過去に事故事象が発生した第1の移動対象物及び第2の移動対象物の位置情報に基づいて前記位置グループ生成手段から出力された位置グループ毎に、複数の第1の移動対象物の進行向き及び複数の第2の移動対象物の進行向きの要素群データを、教師データとして学習エンジンに入力し、
前記事象発生傾向推定手段は、推定すべき第1の移動対象物及び第2の移動対象物の位置情報に基づいて前記位置グループ生成手段から出力された位置グループについて、複数の第1の移動対象物の進行向き及び複数の第2の移動対象物の進行向きの要素群データを前記学習エンジンに入力する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
第1の移動対象物は、車両であり、
第2の移動対象物は、人であ
ことを特徴とする請求項に記載のプログラム。
【請求項4】
前記要素群データは、移動対象物の速度を更に含む
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項5】
前記位置グループは、前記要素群データを前記位置情報に基づいて、DBSCAN(Density-Based Spatial Clustering of Applications with Noise)によってクラスタリングしたクラスタである
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項6】
前記位置グループは、緯度経度に基づいて区分した地理範囲、又は、道路地図を区分した道路範囲である
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項7】
前記教師データ入力手段は、位置グループ毎に計数した要素群データ全体の総数と各要素の代表値とを前記学習エンジンに入力し、
前記事象発生傾向推定手段は、位置グループ毎に計数した前記要素群データ全体の総数と各要素の代表値とを前記学習エンジンに入力する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項8】
前記代表値は、当該位置グループに含まれる要素群データの各要素の平均値、中央値、最頻値、最小値又は最大値である
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項に記載のプログラム。
【請求項9】
前記位置グループ生成手段は、所定時間帯毎に、前記位置グループを更に区分し、
前記事象発生傾向推定手段は、推定すべき所定時間帯に基づく当該位置グループにおける要素群データを前記学習エンジンに入力し、その出力として当該所定時間帯の当該位置グループにおける事故事象の発生傾向を取得する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項10】
前記位置グループ生成手段は、天候状況毎に、前記位置グループを更に区分し、
前記事象発生傾向推定手段は、推定すべき天候状況に基づく当該位置グループにおける要素群データを前記学習エンジンに入力し、その出力として当該天候状況の当該位置グループにおける事故事象の発生傾向を取得する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項11】
複数の第1の移動対象物及び複数の第2の移動対象物それぞれから、時刻毎の位置情報を収集する位置情報収集手段と、
第1の移動対象物及び第2の移動対象物それぞれについて、位置情報の変位から移動/滞在を推定し、「移動」と推定された第1の移動対象物及び第2の移動対象物についてのみ、前記要素群データとして前記位置グループ生成手段へ出力する推定データ選択手段と
してコンピュータを更に機能させることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項12】
複数の移動対象物における事故事象の発生傾向を推定する装置であって、
複数の移動対象物それぞれの位置情報から、位置グループを生成する位置グループ生成手段と、
過去に事故事象が発生した移動対象物の位置情報に基づいて前記位置グループ生成手段から出力された位置グループ毎に、複数の移動対象物の進行向きの要素群データを、教師データとして学習エンジンに入力し、事故事象の発生傾向を学習させる教師データ入力手段と、
推定すべき移動対象物の位置情報に基づいて前記位置グループ生成手段から出力された位置グループについて、複数の移動対象物の進行向きの要素群データを前記学習エンジンに入力し、その出力として当該位置グループにおける事故事象の発生傾向を取得する事象発生傾向推定手段と
を有することを特徴とする装置。
【請求項13】
複数の移動対象物における装置の事象発生傾向推定方法であって、
前記装置は、
複数の移動対象物それぞれの位置情報から、位置グループを生成する第1のステップと、
過去に事故事象が発生した移動対象物の位置情報に基づいて第1のステップによって出力された位置グループ毎に、複数の移動対象物の進行向きの要素群データを、教師データとして学習エンジンに入力し、事故事象の発生傾向を学習させる第2のステップと、
推定すべき移動対象物の位置情報に基づいて第1のステップによって出力された位置グループについて、複数の移動対象物の進行向きの要素群データを前記学習エンジンに入力し、その出力として当該位置グループにおける事故事象の発生傾向を取得する第3のステップと
を実行することを特徴とする装置の事象発生傾向推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビッグデータとして大量の移動対象物の位置情報を収集し、例えば交通事故のような所定事象の発生傾向を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路に設置されたセンサを用いて、時間帯毎における管制情報(交通量、交通事故、道路工事)や交通事故情報から、交通事故の発生パターンを学習し、交通事故を予測する技術がある(例えば特許文献1参照)。この技術によれば、交通事故の発生傾向に応じた事故発生パターン学習部及び事故発生予報部からなる複数の組を有し、時間帯に応じてそれら組を切り替える。
【0003】
また、自動車に搭載された事故防止装置と、道路上に設置された車両撮影用の監視装置とを用いた事故防止システムの技術もある(例えば特許文献2参照)。この技術によれば、監視装置が、撮影画像から各自動車の運転特性を収集する。そして、自車両の運転軌跡情報と、その自車両に近接する他の車両の運転特性情報との関係から、車両間の衝突事故を予測する。予測された衝突可能性情報は、各運転手に警報として通知される。
【0004】
更に、信号機に設置された無線タグと、自動車(その他、歩行者・自転車・バイク)の通信装置及びプロジェクタとを用いて、信号機と通信装置との間の無線信号の往復時間から、距離を測定し、プロジェクタに位置情報を投影する技術もある(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−194845号公報
【特許文献2】特開2015−225366号公報
【特許文献3】特開2016−162151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した従来技術によれば、道路や信号機にセンサや無線タグを設置しなければ、移動対象物の移動を検知することができず、勿論、移動対象物同士の事故を予測することもできない。即ち、道路上のインフラ設備を必要とするという課題がある。
【0007】
これに対し、本願の発明者らは、多数の移動対象物の位置情報を常時収集している携帯電話通信システムの中で、リアルタイム性は無くとも、交通事故のような所定事象の発生傾向を推定することができないか、と考えた。
【0008】
そこで、本発明は、移動対象物周辺のインフラ設備を必要とすることなく、且つ、既存の携帯電話通信システムのみで収集可能な位置情報を用いることによって、地理範囲における所定事象の発生傾向を推定することができるプログラム、装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、複数の移動対象物における事故事象の発生傾向を推定する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
複数の移動対象物それぞれの位置情報から、位置グループを生成する位置グループ生成手段と、
過去に事故事象が発生した移動対象物の位置情報に基づいて位置グループ生成手段から出力された位置グループ毎に、複数の移動対象物の進行向きの要素群データを、教師データとして学習エンジンに入力し、事故事象の発生傾向を学習させる教師データ入力手段と、
推定すべき移動対象物の位置情報に基づいて位置グループ生成手段から出力された位置グループについて、複数の移動対象物の進行向きの要素群データを学習エンジンに入力し、その出力として当該位置グループにおける事故事象の発生傾向を取得する事象発生傾向推定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0010】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
事故事象の発生とは、異なる種別となる複数の第1の移動対象物と複数の第2の移動対象物とに基づくものであり、
位置グループ生成手段は、第1の移動対象物及び第2の移動対象物の位置情報から、位置グループを生成し、
教師データ入力手段は、過去に事故事象が発生した第1の移動対象物及び第2の移動対象物の位置情報に基づいて位置グループ生成手段から出力された位置グループ毎に、複数の第1の移動対象物の進行向き及び複数の第2の移動対象物の進行向きの要素群データを、教師データとして学習エンジンに入力し、
事象発生傾向推定手段は、推定すべき第1の移動対象物及び第2の移動対象物の位置情報に基づいて位置グループ生成手段から出力された位置グループについて、複数の第1の移動対象物の進行向き及び複数の第2の移動対象物の進行向きの要素群データを学習エンジンに入力する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
第1の移動対象物は、車両であり、
第2の移動対象物は、人である
ことも好ましい。
【0011】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
要素群データは、移動対象物の速度を更に含む
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0012】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
位置グループは、要素群データを位置情報に基づいて、DBSCAN(Density-Based Spatial Clustering of Applications with Noise)によってクラスタリングしたクラスタである
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0013】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
位置グループは、緯度経度に基づいて区分した地理範囲、又は、道路地図を区分した道路範囲である
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0014】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
教師データ入力手段は、位置グループ毎に計数した要素群データ全体の総数と各要素の代表値とを学習エンジンに入力し、
事象発生傾向推定手段は、位置グループ毎に計数した要素群データ全体の総数と各要素の代表値とを学習エンジンに入力する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0015】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
代表値は、当該位置グループに含まれる要素群データの各要素の平均値、中央値、最頻値、最小値又は最大値である
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0016】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
位置グループ生成手段は、所定時間帯毎に、位置グループを更に区分し、
事象発生傾向推定手段は、推定すべき所定時間帯に基づく当該位置グループにおける要素群データを学習エンジンに入力し、その出力として当該所定時間帯の当該位置グループにおける事故事象の発生傾向を取得する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0017】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
位置グループ生成手段は、天候状況毎に、位置グループを更に区分し、
事象発生傾向推定手段は、推定すべき天候状況に基づく当該位置グループにおける要素群データを学習エンジンに入力し、その出力として当該天候状況の当該位置グループにおける事故事象の発生傾向を取得する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0018】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
複数の第1の移動対象物及び複数の第2の移動対象物それぞれから、時刻毎の位置情報を収集する位置情報収集手段と、
第1の移動対象物及び第2の移動対象物それぞれについて、位置情報の変位から移動/滞在を推定し、「移動」と推定された第1の移動対象物及び第2の移動対象物についてのみ、要素群データとして位置グループ生成手段へ出力する推定データ選択手段と
してコンピュータを更に機能させることも好ましい。
【0020】
本発明によれば、複数の移動対象物における事故事象の発生傾向を推定する装置であって、
複数の移動対象物それぞれの位置情報から、位置グループを生成する位置グループ生成手段と、
過去に事故事象が発生した移動対象物の位置情報に基づいて位置グループ生成手段から出力された位置グループ毎に、複数の移動対象物の進行向きの要素群データを、教師データとして学習エンジンに入力し、事故事象の発生傾向を学習させる教師データ入力手段と、
推定すべき移動対象物の位置情報に基づいて位置グループ生成手段から出力された位置グループについて、複数の移動対象物の進行向きの要素群データを学習エンジンに入力し、その出力として当該位置グループにおける事故事象の発生傾向を取得する事象発生傾向推定手段と
を有することを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、複数の移動対象物における装置の事象発生傾向推定方法であって、
装置は、
複数の移動対象物それぞれの位置情報から、位置グループを生成する第1のステップと、
過去に事故事象が発生した移動対象物の位置情報に基づいて第1のステップによって出力された位置グループ毎に、複数の移動対象物の進行向きの要素群データを、教師データとして学習エンジンに入力し、事故事象の発生傾向を学習させる第2のステップと、
推定すべき移動対象物の位置情報に基づいて第1のステップによって出力された位置グループについて、複数の移動対象物の進行向きの要素群データを学習エンジンに入力し、その出力として当該位置グループにおける事故事象の発生傾向を取得する第3のステップと
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明のプログラム、装置及び方法によれば、移動対象物周辺のインフラ設備を必要とすることなく、且つ、既存の携帯電話通信システムのみで収集可能な位置情報を用いることによって、地理範囲における所定事象の発生傾向を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明におけるシステム構成図である。
図2】本発明における推定装置の機能構成図である。
図3】本発明における学習段階の処理を表す第1の説明図である。
図4】各所定範囲を表す地図である。
図5】本発明における学習段階の処理を表す第2の説明図である。
図6】本発明における推定段階の処理を表す第1の説明図である。
図7】本発明における推定段階の処理を表す第2の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明におけるシステム構成図である。
【0026】
サーバとしての推定装置1は、多数の移動端末の位置情報を収集する。図1によれば、異なる種別となる複数の第1の移動端末と複数の第2の移動端末として、例え以下のようなものが表されている。
第1の移動端末:例えば車両(第1の移動対象物)に搭載
第2の移動端末:例えば人(第2の移動対象物)によって所持
推定装置1は、多数の移動端末が混在する位置グループ(地理範囲)について、所定事象の発生傾向を推定する。ここで、所定事象としては、例えば車両(第1の移動対象物)と人(第2の移動対象物)との交通事故を想定する。また、発生傾向としては、発生確率を想定する。
即ち、本発明によれば、推定装置1は、移動端末2の位置情報のみを取得して、所定事象としての交通事故の発生傾向(発生確率)を推定する。
【0027】
携帯電話通信システムの場合、基地局測位やアクセスポイント測位によって、移動端末2の位置情報を常時収集することができる。その場合、携帯電話通信システムの機能の一部として、推定装置1を組み込むことができる。
【0028】
尚、移動端末2は、測位部を有し、GPS(Global Positioning System)のような測位電波を受信することによって、現在の位置情報を取得して推測するものであってもよい。また、基地局測位に基づくものであってもよい。更に、位置情報を、CAN(Controller Area Network)を介して取得したものであってもよい。移動端末2は、それら位置情報を、推定装置1へ常に送信する。
また、他の実施形態として、移動端末2は、位置情報を、例えばVICS(登録商標、Vehicle Information and Communication System)情報やITS Connectなどの交通状況情報(渋滞や、交通規制など)と共に、推定装置1へ送信するものであってもよい。
【0029】
図2は、本発明における推定装置の機能構成図である。
【0030】
推定装置1は、<学習段階>と<推定段階>とに分けて各機能部を有する。ここで、複数の移動対象物を位置グループに分類する「位置グループ生成部101」は、各段階で共通に用いられる。
推定装置1は、<学習段階>として、事象発生データ蓄積部120と、教師データ入力部121と、学習エンジン100とを有する。
また、推定装置1は、<推定段階>として、学習エンジン100に加えて、事象発生傾向推定部131と、位置情報収集部132と、推定データ選択部133とを有する。
これら機能構成部は、装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。また、これら機能構成部の処理の流れは、事象発生傾向推定方法としても理解できる。
【0031】
<学習段階>
図3は、本発明における学習段階の処理を表す第1の説明図である。
【0032】
[事象発生データ蓄積部120]
事象発生データ蓄積部120は、過去に所定事象(例えば交通事故)が発生した「位置(緯度・経度)」「第1の移動対象物の進行向き」「第2の移動対象物の進行向き」を要素とする「要素群データ」を、複数蓄積したものである。勿論、必ずしも、第1の移動端末及び第2の移動端末のように異なる種別とする必要はなく、「位置情報」「移動対象物の進行向き」のみであってもよい。
【0033】
また、事象発生データ蓄積部120は、要素群データとして更に、「第1の移動対象物の速度」(及び第2の移動対象物の速度)を含むことも好ましい。速度は、2時点の時間差に対する移動対象物の位置の距離差から算出される。
そして、事象発生データ蓄積部120の要素群データは、位置グループ生成部101と教師データ入力部121とから参照される。
【0034】
[位置グループ生成部101]
位置グループ生成部101は、移動対象物(第1の移動対象物及び第2の移動対象物)の位置情報から、位置グループを生成する。
(学習段階)過去に所定事象が発生した第1の移動対象物及び第2の移動対象物の位置情報に基づいて位置グループを生成する。
(推定段階)推定すべき第1の移動対象物及び第2の移動対象物の位置情報に基づいて位置グループを生成する。
尚、学習段階の位置グループと、推定段階の位置グループとは、地理的な共通性は全くなく、各段階で独立して生成される。そのために、学習段階は、地理範囲「東京」で作成された位置グループに基づいて学習し、推定段階は、地理範囲「大阪」で作成された位置グループに基づいて事象発生傾向を推定することができる。
【0035】
また、位置グループ生成部101は、位置グループの生成方法として、以下の2つがある。
(生成方法1)位置に基づくクラスタリング
位置グループは、要素群データを位置情報に基づいて、DBSCAN(Density-Based Spatial Clustering of Applications with Noise)によってクラスタリングしたクラスタであってもよい。
【0036】
DBSCANは、密度ベースのクラスタリング方法であり、以下の2つのパラメータを用いる。
距離の閾値 :ε(Eps-neighborhood of a point)
対象個数の閾値:minPts(a minimum number of points)
クラスタ数kを予め設定する必要がないために、クラスタ数kが未知のデータ群を分類することができる。
データの点を、以下の3つの種類に分類する。
コア点 :半径ε以内に少なくともminPts個の隣接点を持つ点
到達可能点:半径ε以内にminPts個ほどは隣接点がないが、
半径ε以内にCore pointsを持つ点
外れ値 :半径ε以内に隣接点がない点
コア点の集まりからクラスタを作成し、到達可能点を各クラスタに割り当てる。
即ち、DBSCANは、ある空間に点集合が与えられたとき、高い密度領域にある点同士をグループとしてまとめて、低い密度領域にある点を外れ値とする。
【0037】
(生成方法2)所定範囲への区分
最も簡単には、位置グループは、緯度経度に基づいて区分した地理範囲、又は、道路地図を区分した道路範囲であってもよい。
【0038】
図4は、各所定範囲を表す地図である。
図4(a)によれば、所定範囲は、地図をタイル状に分割した地理範囲(緯度・経度)として規定される。
図4(b)によれば、所定範囲は、道路地図を区分した道路範囲として規定される。
このような地理範囲や道路範囲の単位で、位置グループを構成するものであってもよい。
【0039】
図5は、本発明における学習段階の処理を表す第2の説明図である。
【0040】
[教師データ入力部121]
教師データ入力部121は、過去に所定事象が発生した移動対象物の位置情報に基づいて位置グループ生成部101から出力された位置グループ毎に、複数の移動対象物の進行向きの要素群データを、教師データとして学習エンジンに入力する。
ここで、移動対象物を、異なる種別毎に、第1の移動対象物の進行向き及び第2の移動対象物の進行向きの要素群データを、教師データとして学習エンジンに入力するものであってもよい。
これによって、教師データ入力部121は、学習エンジン100に、位置グループ単位で要素群データを学習させて、所定事象の発生傾向に基づく学習モデルを構築させる。
勿論、要素群データに「速度」も含まれる場合、進行向きと共に速度も、学習エンジン100に入力される。
【0041】
また、教師データ入力部121は、位置グループ毎に、要素群データ全体の「総数」と各要素の「代表値」とを計数するものであってもよい。代表値とは、当該位置グループに含まれる要素群データの各要素の平均値、中央値、最頻値、最小値又は最大値であってもよい。例えば、進行向きの平均値や、速度の中央値であってもよい。
そして、教師データ入力部121は、学習エンジン100へ、位置グループ毎に、要素群データ全体の総数と各要素の代表値とを入力して、学習モデルを構築させる。
【0042】
[学習エンジン100]
学習エンジン100は、学習段階と推定段階とのそれぞれから利用される。
(学習段階)学習エンジン100は、過去に所定事象(例えば交通事故)が発生した移動対象物の位置グループ単位で、要素群データ(例えば進行向きや速度、又は、それらの総数や代表値)を入力し、自ら学習モデルを構築する。
学習エンジン100は、統計的分類の機械学習アルゴリズムを有する。具体的には、例えばRandom Forestや、Support Vector Machine、Naive Bayes、K-nearest neighborのように、識別問題に用いられる一般的な機械学習アルゴリズムを用いてもよい。
【0043】
(推定段階)学習エンジン100は、推定すべき移動対象物の位置グループ単位で、要素群データを入力し、所定事象の発生傾向を推定する。
所定事象の発生傾向は、学習エンジン100から出力される尤度(発生確率やスコア)である。学習段階では、所定事象が発生した要素群データのみを入力しているために、推定段階は、入力された位置グループの要素群データによって、どの程度の所定事象の発生確率であるか、を知ることができる。
【0044】
<推定段階>
図6は、本発明における推定段階の処理を表す第1の説明図である。
【0045】
[位置情報収集部132]
位置情報収集部132は、複数の移動対象物それぞれから、時刻毎の位置情報を収集する。この位置情報は、基地局測位に基づくものであってもよいし、GPS測位に基づくものであってもよい。
収集された位置情報は、推定データ選択部133へ出力される。
【0046】
[推定データ選択部133]
推定データ選択部133は、移動対象物それぞれについて、位置情報の変位から移動/滞在を推定し、「移動」と推定された移動対象物についてのみ、要素群データとして位置グループ生成部101へ出力する。
具体的には、移動対象物の時系列の位置情報に基づいて、所定時間(例えば30分)以内に、位置情報の変位が所定距離以上である場合、「移動」と判定する。また、移動対象物の速度が、所定速度以上である場合、「移動」と判定するものであってもよい。
そして、「移動」と推定された移動対象物についてのみ、要素群データとする。
【0047】
図7は、本発明における推定段階の処理を表す第2の説明図である。
【0048】
[事象発生傾向推定部131]
事象発生傾向推定部131は、推定すべき第1の移動対象物及び第2の移動対象物の位置情報に基づいて位置グループ生成手段から出力された位置グループについて、複数の第1の移動対象物の進行向き及び複数の第2の移動対象物の進行向きの要素群データを学習エンジンに入力し、その出力として当該位置グループにおける所定事象の発生傾向を取得する。
【0049】
他の実施形態として、位置グループ生成部101が、所定時間帯毎に、位置グループを更に区分する場合、事象発生傾向推定部131は、推定すべき所定時間帯に基づく当該位置グループにおける要素群データを学習エンジンに入力し、その出力として当該所定時間帯の当該位置グループにおける所定事象の発生傾向を取得するものであってもよい。所定事象(例えば交通事故)の発生傾向は、学習エンジン100から出力される尤度(発生確率やスコア)である。
【0050】
前述したように、移動対象物の位置情報のみを用いているが、これら位置情報を、「所定時間帯毎」(早朝、夜間など)に区分することも好ましい。これによって、所定時間帯毎に、要素群データも蓄積すると共に、位置グループを生成することによって、所定時間帯に応じた移動対象物の動向に対応することができる。
【0051】
また、他の実施形態として、位置グループ生成部101が、天候状況毎に、位置グループを更に区分する場合、事象発生傾向推定部131は、推定すべき天候状況に基づく当該位置グループにおける要素群データを学習エンジンに入力し、その出力として当該天候状況の当該位置グループにおける所定事象の発生傾向を取得するものであってもよい。
【0052】
以上、詳細に説明したように、本発明のプログラム、装置及び方法によれば、移動対象物周辺のインフラ設備を必要とすることなく、且つ、既存の携帯電話通信システムのみで収集可能な位置情報を用いることによって、地理範囲における所定事象の発生傾向を推定することができる。
特に、本発明によれば、学習段階と推定段階とで、地理範囲における共通性を必要とせず、第1の地理範囲で学習させた学習エンジンを用いて、第2の地理範囲で事象発生傾向を推定することができる。
【0053】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0054】
1 推定装置
120 事象発生データ蓄積部
100 学習エンジン
101 位置グループ生成部
121 教師データ入力部
131 事象発生傾向推定部
132 位置情報収集部
133 推定データ選択部
2 移動端末

図1
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図7