特許第6812377号(P6812377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6812377
(24)【登録日】2020年12月18日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20201228BHJP
   F01N 11/00 20060101ALI20201228BHJP
   E02F 9/00 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   F01N3/08 BZAB
   F01N11/00
   E02F9/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-833(P2018-833)
(22)【出願日】2018年1月5日
(65)【公開番号】特開2019-120200(P2019-120200A)
(43)【公開日】2019年7月22日
【審査請求日】2019年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 晃一郎
(72)【発明者】
【氏名】小原 敦
(72)【発明者】
【氏名】奥田 一晶
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−002285(JP,A)
【文献】 特開2013−245504(JP,A)
【文献】 特開2013−029053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00− 3/38
F01N 9/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体、前記本体に設けた作業機、前記本体に設けたエンジン、前記エンジンの排気管に設けたNOx浄化装置、尿素水を貯留するメインタンク、及び前記メインタンクに貯留された尿素水を前記NOx浄化装置の上流側で前記排気管の排気流路に噴射する尿素水噴射系統を備えた作業機械において、
尿素水を貯留するサブタンクと、
前記メインタンク及び前記サブタンクを接続し、前記サブタンクから前記メインタンクへの流れ経路を形成する第1配管と、
前記メインタンク及び前記サブタンクを接続し、前記メインタンクから前サブタンクへの流れ経路を形成する第2配管と、
前記メインタンクと前記サブタンクとの間で尿素水を循環させる循環ポンプと、
前記第1配管に設けたフィルタと、
前記サブタンクに貯留された尿素水を強制冷却する冷却器と
を備えたことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記メインタンクの内部に設けられた温度センサと、
前記メインタンクの尿素水温度について予め設定した設定温度を記憶した記憶装置と、
少なくとも前記温度センサで検出された前記メインタンクの尿素水温度が前記設定温度よりも高い場合に前記冷却器を作動させる冷却指令部と
を備えていることを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機械において、前記メインタンク及び前記サブタンクのうち前記サブタンクのみに尿素水の補給口が設けられていることを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械において、前記循環ポンプとして、前記第1配管に設けられて前記サブタンクに貯留された尿素水を前記メインタンクに移送する第1ポンプと、前記第2配管に設けられて前記メインタンクに貯留された尿素水を前記サブタンクに移送する第2ポンプとを備えていることを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項4に記載の作業機械において、
前記メインタンクの内部に設置された液位センサと、
前記液位センサで検出された前記メインタンクの液位が予め設定された上限値以下である場合に前記第1ポンプを駆動して前記サブタンクの尿素水を前記メインタンクに移送し、前記メインタンクの液位が予め設定された下限値以上である場合に前記第2ポンプを駆動して前記メインタンクの尿素水を前記サブタンクに移送する液位調整部と
を備えていることを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンから排出される排気ガスを浄化する尿素SCRシステムを備えた油圧ショベル等の作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の作業機械の分野でも、環境保護の観点から、近年ディーゼルエンジン等のエンジンの排気ガス中のNOxの削減が強く求められている。それに対し、排気管の内部に尿素水を噴射して、NH(アンモニア)ガスによって排気中のNOxを還元反応させて排気を浄化する排気浄化装置(SCRシステム)が知られている。この種の排気浄化装置として、多量の尿素水を供給できるように尿素水を貯留するタンクを複数車載した作業機械がある(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2013−245504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
尿素水は変質を避けるために−11〜60℃の温度に保つ必要がある。油圧ショベル等の作業機械は多数の機器を緻密なレイアウトで車載しており、容量が必要な尿素水タンクのような機器は設置場所が制約され、温度管理の面で有利な場所には必ずしも設置できない。但し、複数の尿素水タンクを備える場合、容量の大きなメインタンクの設置場所は制約されるが、比較的小型のサブタンクであれば比較的低温で尿素水への熱的影響が少ない場所を選択して配置し得る。この場合、例えばメインタンクの尿素水の温度が上昇したらサブタンクから比較的低温の尿素水をメインタンクに供給することで、メインタンクの尿素水の温度を下げることができる。
【0005】
しかし、作業機械の場合、走行体を備えた自走可能な機体であっても、乗用車のような移動手段と異なり一定の狭い範囲に止まって稼働するため、尿素水タンクを冷却する冷却風を走行により誘起することは困難である。また稼働環境も多種多様であり、例えば鉄工所の溶鉱炉付近のような極めて高温の環境下で稼働する場合もある。このような過酷な温度環境下では、尿素水を自然冷却する方式であると、仮に上記の通りサブタンクからメインタンクに尿素水を供給できるようにしても、設置場所によらずサブタンクに貯留された尿素水が昇温してしまい、温度調整が困難である。
【0006】
その一方で尿素水の強制冷却機能を設けた場合、タンク内で尿素水の温度差が広がって気泡が生じ易くなる。気泡が生じると温度センサ等の尿素水タンクに設けたセンサ類の動作に影響し、尿素水の温度管理が不安定になる恐れがある。
【0007】
本発明は、強制冷却することで高温の稼働環境下でも尿素水を適正な温度範囲に保ち、また気泡の影響で尿素水の温度管理が不安定になることを抑制することができる作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、本体、前記本体に設けた作業機、前記本体に設けたエンジン、前記エンジンの排気管に設けたNOx浄化装置、尿素水を貯留するメインタンク、及び前記メインタンクに貯留された尿素水を前記NOx浄化装置の上流側で前記排気管の排気流路に噴射する尿素水噴射系統を備えた作業機械において、尿素水を貯留するサブタンクと、前記メインタンク及び前記サブタンクを接続し、前記サブタンクから前記メインタンクへの流れ経路を形成する第1配管と、前記メインタンク及び前記サブタンクを接続し、前記メインタンクから前サブタンクへの流れ経路を形成する第2配管と、前記メインタンクと前記サブタンクとの間で尿素水を循環させる循環ポンプと、前記第1配管に設けたフィルタと、前記サブタンクに貯留された尿素水を強制冷却する冷却器とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、メインタンク及びこれと別置きで車載したサブタンクを第1配管と第2配管でループ状に接続したことで、循環ポンプによりメインタンクとサブタンクとの間で尿素水を循環させることができる。サブタンクの尿素水は冷却器により強制冷却が可能であるため、冷却されたサブタンクの尿素水をメインタンクに移送することで、メインタンクの尿素水の温度の上昇を抑えることができる。同時にメインタンクの尿素水をサブタンクに移送することで、2つのタンクの液位の変化を抑制しつつ、メインタンクで昇温した尿素水をサブタンクで冷却することができる。またサブタンクにおいて強制冷却することで生じ得る気泡が第1配管に吸い込まれてもフィルタで捕集することができ、メインタンクへの気泡の流入を抑制することができる。よって、冷却器を用いた強制冷却により高温の稼働環境下でも尿素水を適正な温度範囲に保つことができ、また気泡の影響で尿素水の温度管理が不安定になることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る作業機械の側面図
図2図1の作業機械の平面図
図3図1の作業機械に備えられた排気浄化システムの回路図
図4図1の作業機械による尿素水の冷却手順を表したフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
【0012】
−作業機械−
図1は本発明の一実施形態に係る作業機械の側面図、図2は平面図である。図2では作業機4を図示省略してある。これらの図には作業機械の一例として油圧ショベルを表しているが、ホイールローダやクレーン等の他の種類の作業機械を発明の適用対象とする場合もある。以下の説明においては、同図中の右左に相当する方向をそれぞれ作業機械の前後とする。同図に示した作業機械は、本体1と作業機4からなる。本体1は走行体2と旋回体3からなる。
【0013】
走行体2は作業機械の基礎構造体をなすものであり、トラックフレーム5、駆動輪6、遊動輪7及び履帯8を備えている。遊動輪7はトラックフレーム5における前部の両端に、駆動輪6はトラックフレーム5における後部の両端に回転可能に支持されている。駆動輪6は走行用の油圧モータ(不図示)に連結されている。履帯8はトラックフレーム5の左右において駆動輪6と遊動輪7とに掛け回してある。なお、基礎構造体としてクローラ式の走行体2を備えた作業機械を例に挙げて説明したが、ホイール式の走行体を基礎構造体として備えた構成や地面に固定される架台(ポスト等)を基礎構造体として備えた構成とする場合もある。
【0014】
作業機4は旋回体3の前部に俯仰可能に設けており、ブーム9、アーム10及びバケット11を備えている。ブーム9は旋回体3(旋回フレーム12)の前部に回動可能に取り付けられており、ブームシリンダ9aによって旋回体3に対して俯仰(上下に回動)する。アーム10はブーム9の先端に回動可能に取り付けられており、アームシリンダ10aによってブーム9に対して前後に回動する。バケット11はアーム10の先端に回動可能に取り付けられており、バケットシリンダ11aによってアーム10に対して回動する。ブーム9、アーム10及びバケット11は、旋回体3の前後に延びる鉛直面に沿って動作する。
【0015】
旋回体3は走行体2上に旋回可能に搭載されており、旋回フレーム12、運転室13、エンジン室16及びカウンタウェイト17を備えている。旋回フレーム12は旋回体3のベースフレームであり、旋回装置を介して走行体2上に鉛直軸周りに旋回可能に搭載されている。運転室13はオペレータが搭乗して作業機械を操作する部屋であり、同図の例では旋回フレーム12の前部において作業機4の左側に並設してある。エンジン室16は、旋回フレーム12の上部における運転室13や作業機4の後側に設けられており、エンジン14(図3)や油圧ポンプ(不図示)、ラジエータ、ファン等の機器を収容している。本例におけるエンジン14はディーゼルエンジンである。カウンタウェイト17は作業機4との重量バランスをとる錘であり、旋回フレーム12の後端部に設けてある。本例では運転室やエンジン室等が旋回体3として作業機4と共に走行体2に対して旋回する構成を例に挙げて説明したが、運転室等が走行体に対して旋回しない構成とする場合もある。
【0016】
旋回フレーム12の前部において作業機4の右側の位置には、尿素SCRシステムに用いる尿素水を貯留するメインタンク24が設置されている。またカウンタウェイト17の後部にはフレーム15が後方に突出して設けられている。フレーム15の上部には、後述するサブタンク25、第1ポンプ26、第2ポンプ27、フィルタ28、冷却器29が設けられている。
【0017】
−排気浄化システム−
図3は排気浄化システムの回路図である。同図に示した排気浄化システムにはPM浄化装置21と尿素SCRシステムが含まれる。尿素SCRシステムは、尿素水を利用して排気中のNOx(窒素酸化物)を還元する排気浄化装置である。この尿素SCRシステムは、NOx浄化装置22、尿素水噴射系統23、メインタンク24、サブタンク25、第1ポンプ26(フィードポンプ)、第2ポンプ27(リターンポンプ)、フィルタ28、冷却器29、制御装置30等を備えている。
【0018】
・PM浄化装置
PM浄化装置21は、エンジン14の排気に含まれるPM(粒子状物質)を浄化するものであり、エンジン14の排気管18の途中に設けてあり、エンジン室16に収容されている。このPM浄化装置21は、図示していないが酸化触媒及びCSFフィルタを備えている。酸化触媒は、NOガスをNOガスに酸化するものであり、CSFフィルタに対して排気の流れ方向の上流側(エンジン14側)に配置してある。CSFフィルタはPMを捕集するフィルタである。PM浄化装置21においては、エンジン14の排気に含まれるNOガスを酸化触媒51でNOガスに酸化させ、CSFフィルタで捕集したPMにNOガスを反応させることによってPMを無害化する。
【0019】
・NOx浄化装置
NOx浄化装置22は、エンジン14の排気に含まれるNOx(窒素酸化物)を浄化するものであり、PM浄化装置21に対して排気の流れ方向の下流側(エンジン14と反対側)に位置するように排気管18の途中に配置してある。NOx浄化装置22は、PM浄化装置21と共にエンジン室16内に設けてある。このNOx浄化装置22は、SCRフィルタ(選択還元触媒)及び酸化触媒を備えている。SCRフィルタは、吸着したNHによって排気中のNOxを還元反応させて水と窒素とに分解するものであり、酸化触媒に対して排気の流れ方向の上流側(エンジン14側)に配置してある。酸化触媒は、NOxとの反応に用いられなかった余剰のNHを酸化・分解するものである。
【0020】
・尿素水噴射系統
尿素水噴射系統23はメインタンク24に貯留された尿素水をNOx浄化装置22の上流側の位置で排気管18の排気流路に噴射する系統であり、配管23a、ノズル23b、ポンプ23cを備えている。ノズル23bはPM浄化装置21とNOx浄化装置22との間に位置するように排気管18の途中に設けてある。配管23aはノズル23bとメインタンク24とを接続している。メインタンク24の内部に位置する配管23aの吸入口には異物等の吸入を防止するためのフィルタが設けられている。ポンプ23cは配管23aの途中に設けられている。ポンプ23cが駆動されるとメインタンク24の尿素水が配管23aに吸い込まれ、ポンプ23cで加圧された尿素水がノズル23bから排気管18の内部に噴霧される。排気管18の内部に噴霧された尿素水から生じるNH(アンモニア)ガスは、排気管18内を漂った状態又はSCRフィルタ53に吸蔵された状態で、排気管18を流れる排気中のNOxと反応しNOxを還元する。ポンプ23cはECM(エンジンコントロールモジュール)19からの制御信号により駆動される。ECM19はエンジン回転数等を制御するエンジン制御装置であり、エンジン14と共にエンジン室16に収容されている。エンジン回転数や排気温度等に基づいてECM19によって尿素水噴射系統23が制御される。
【0021】
・尿素水貯留系統
メインタンク24及びサブタンク25は尿素水を貯留する密閉型のタンクである。本実施形態ではサブタンク25はメインタンク24よりも容量が小さくコンパクトに構成されており、前述したように冷却器29等と共にフレーム15上に設置されている。メインタンク24の内部には、温度センサ24t、液位センサ24l、濃度センサ24cが設置されている。サブタンク25の内部には、液位センサ25lが設置されている。温度センサ24tはメインタンク24の尿素水の温度を検出するセンサ、液位センサ24lはメインタンク24の尿素水の液位を検出するセンサ、濃度センサ24cはメインタンク24の尿素水の濃度を検出するセンサである。液位センサ25lはサブタンク25の尿素水の液位を検出するセンサである。温度センサ24t、液位センサ24l,25l及び濃度センサ24cの検出信号は、制御装置30に出力される。また、メインタンク24及びサブタンク25の少なくとも一方(本実施形態ではメインタンク24及びサブタンク25のうちのサブタンク25にのみ)に、尿素水の補給口25aが設けられている。
【0022】
また、メインタンク24及びサブタンク25は、第1配管(フィードライン)26a及び第2配管(リターンライン)27aによりループ状に接続されている。第1配管26a及び第2配管27aは旋回フレーム12の右縁部の中空部(不図示)を通り、旋回体3の前後に分散して配置されたメインタンク24及びサブタンク25を接続している。第1配管26aはサブタンク25からメインタンク24への尿素水の流れ経路を形成し、第2配管27aはメインタンク24からサブタンク25への尿素水の流れ経路を形成している。上記の第1ポンプ(フィードポンプ)26及び第2ポンプ(リターンポンプ)27はメインタンク24とサブタンク25との間で尿素水を循環させる循環ポンプである。第1ポンプ26は第1配管26aの途中に、第2ポンプ27は第2配管27aの途中に設けられている。サブタンク25の内部に位置する第1配管26aの吸入口、メインタンク24の内部に位置する第2配管27aの吸入口には、異物等の吸入を防止するためのフィルタがそれぞれ設けられている。第1ポンプ26が駆動されるとサブタンク25に貯留された尿素水がメインタンク24に移送され、第2ポンプ27が駆動されるとメインタンク24に貯留された尿素水がサブタンク25に移送される。第1ポンプ26及び第2ポンプ27は制御装置30からの制御信号(給電)で駆動される。上記フィルタ28はメインタンク24に導かれる尿素水から異物や気泡を捕集して除去するものであり、第1配管26a(本実施形態では第1配管26aの途中における第1ポンプ26の下流側の位置)に設けられている。
【0023】
上記の冷却器29はサブタンク25に貯留された尿素水を強制冷却するものである。冷却器29は駆動されて尿素水を強制冷却できる構成であれば必ずしも構成は限定されないが、例えばエアコンの冷媒冷却系統と同様の構成を適用することができる。本実施形態の場合、冷却器29は冷却ユニット29aと循環配管29bを備えている。冷却ユニット29aはサブタンク25の外部に設けられており(図2も参照)、図示していないが、例えばコンプレッサ、コンデンサ、ファン、膨張弁等を備えている。冷却ユニット29aを構成するこれらの機器は循環配管29bに沿って配置されている。循環配管29bは環状に構成されており、経路の一部(本例では膨張弁とコンプレッサを接続する部分)が冷却ユニット29aの外部に取り出されてサブタンク25の内部に這い回されている。循環配管29bの内部に封入された冷媒は、コンプレッサによって圧縮されて高温低温の気体から高圧の半液体に状態変化してコンデンサに流入し、ファンの起こす風によって冷却されて更に液化する。液化した冷媒は膨張弁を介して噴霧されて一気に気化する。膨張弁から噴射されて気化した冷媒がサブタンク25に這い回した循環配管29bを通過し、サブタンク25に貯留された尿素水と熱交換する。これによりサブタンク25の尿素水が冷却される。冷却器29(冷却ユニット29a)は制御装置30からの制御信号(給電)で駆動される。
【0024】
・制御装置
制御装置30は第1ポンプ26、第2ポンプ27及び冷却器29を制御する機能を有する制御盤或いはコンピュータであり、記憶装置(メモリ)31、冷却指令部32、液位判定部33、液位調整部34等を備えている。制御装置30は電源(本実施形態では工場電源等の外部電源X)に接続されており、電源からの給電により作動し、第1ポンプ26、第2ポンプ27及び冷却器29に制御信号(駆動電力)を出力する。これにより冷却指令部32等が外部電源Xに接続可能であり、外部電源Xからの給電によりエンジン14の停止時でも第1ポンプ26、第2ポンプ27及び冷却器29が制御可能なように構成されている。なお、制御装置30に接続する電源としては、外部電源Xに限らず作業機械に車載されたバッテリや発電機(不図示)を用いることもできる。
【0025】
記憶装置31には、第1ポンプ26、第2ポンプ27及び冷却器29の制御に必要なプログラムや、設定温度T0、下限値LA及び上限値LB、下限値La及び上限値Lb等の制御閾値が記憶されている。設定温度T0は、メインタンク24の尿素水の温度Tmについて予め設定した値であり、尿素水の適正温度範囲の上限値(60℃)よりも低めに設定してある。下限値LA及び上限値LBはメインタンク24の尿素水の液位Lmについて予め設定した値であり、LA<Lm<LBがメインタンク24の尿素水の適正液位である。下限値La及び上限値Lbはサブタンク25の尿素水の液位Lsについて予め設定した値であり、La<Ls<Lbがサブタンク25の尿素水の適正液位である。
【0026】
冷却指令部32は冷却器29を制御して直接的にはサブタンク25の尿素水を強制冷却し、メインタンク24の尿素水を間接的に冷却する回路である。具体的には、冷却指令部32は、温度センサ24tで検出されたメインタンク24の尿素水の温度Tmが設定温度T0よりも高い場合に冷却器29を作動させる。温度Tmが設定温度T0以下の場合でも冷却器29が作動する構成としても良いが、本実施形態ではエネルギー浪費を抑える観点でTm≦T0の場合には冷却器20を停止させるように構成してある。
【0027】
液位判定部33はサブタンク25の尿素水の液位Lsが適正範囲(La<Ls<Lb)にあるかどうか判定し、適正範囲を外れている場合に第1ポンプ26、第2ポンプ27及び冷却器29を停止させる回路である。
【0028】
液位調整部34は、第1ポンプ26及び第2ポンプ27を制御してメインタンク24の尿素水の液位を制御する回路である。具体的には第1の機能として、液位調整部34は、液位センサ24lで検出されたメインタンク24の液位が予め設定された上限値LB以下である場合に第1ポンプ26を駆動してサブタンク25の尿素水をメインタンク24に移送する。第2の機能として、液位調整部34は、液位センサ24lで検出されたメインタンク24の液位が予め設定された下限値LA以上である場合に第2ポンプ27を駆動してメインタンク24の尿素水をサブタンク25に移送する。
【0029】
−尿素水の冷却手順−
図4は制御装置30による尿素水の冷却手順を表したフローチャートである。同図に示した制御手順は、ECM19による尿素水の噴射制御やエンジン制御とは独立して実行される。制御装置30の電源を入れると図4の制御手順が実行される。図4の手順が実行されると、制御装置30は、まず第1ポンプ26、第2ポンプ27及び冷却器29を始動し(ステップS101)、液位センサ25lの信号を基にサブタンク25の尿素水の液位Lsを液位判定部33で判定する(ステップS102)。サブタンク25の尿素水の液位Lsが下限値La以下か上限値Lb以上で液位Lsが適正範囲にない場合、制御装置30は第1ポンプ26、第2ポンプ27及び冷却器29を停止し(ステップS112,S113)、図4の手順を終了する。
【0030】
サブタンク25の尿素水の液位Lsが設定した適正範囲にある場合(La<Ls<Lb)、制御装置30は液位センサ24lの信号を基にメインタンク24の尿素水の液位Lmが上限値LB以下であるかを液位判定部33で判定する(ステップS103)。液位Lmが上限値LBを超えていなければ、制御装置30は液位調整部34により指令信号を出力して第1ポンプ26の運転を継続(又は開始)し、サブタンク25からメインタンク24に尿素水を移送する(ステップS104)。液位Lmが上限値LBを超えている場合、制御装置30は液位調整部34により指令信号を停止して第1ポンプ26の運転を停止し、サブタンク25からメインタンク24への尿素水の移送を中止する(ステップS105)。
【0031】
ステップS104又はS105の手順を実行したら、制御装置30は液位センサ24lの信号を基にメインタンク24の尿素水の液位Lmが下限値LA以上であるかを液位判定部33で判定する(ステップS106)。液位Lmが下限値LAを下回っていなければ、制御装置30は液位調整部34により指令信号を出力して第2ポンプ27の運転を継続(又は開始)し、メインタンク24からサブタンク25に尿素水を移送する(ステップS107)。液位Lmが下限値LAを下回っている場合、制御装置30は液位調整部34により指令信号を停止して第2ポンプ27の運転を停止し、メインタンク24からサブタンク25への尿素水の移送を中止する(ステップS108)。なお、ステップS106−S108の手順は、ステップS103−S105の手順と順序が逆になっても良いし同時に実行するようにしても良い。
【0032】
液位調整部34によるステップS103−S108の手順を終えたら、制御装置30は温度センサ24tの信号を基にメインタンク24に貯留された尿素水の温度Tmが設定温度T0より高いか否かを判定する(ステップS109)。温度Tmが設定温度T0より高い場合、制御装置30は冷却指令部32により指令信号を出力して冷却器29の運転を指令する(ステップS110)。これによりサブタンク25の尿素水が冷却される。メインタンク24の液位Lmが適正範囲(LA<Lm<LB)を逸脱していない限りメインタンク24とサブタンク25との間で尿素水が循環しているので、サブタンク25の尿素水が冷却されることでメインタンク24の尿素水の温度Tmが低下する。温度Tmが設定温度T0以下である場合、制御装置30は冷却指令部32による指令信号を停止して冷却器29の運転を停止する(ステップS111)。ステップS110又はS111の手順を終えたら、制御装置30はステップS102に手順を戻す。
【0033】
以降、電源が切られるまで制御装置30はステップS101−S113の手順を所定のサイクルタイムで繰り返し実行する。
【0034】
−効果−
(1)本実施形態によれば、メインタンク24とサブタンク25の2つの尿素水タンクを備えているので、多量の尿素水を貯留することができる。そして、メインタンク24及びこれと別置きで車載したサブタンク25は、第1配管26aと第2配管27aでループ状に接続してある。循環ポンプによりサブタンク25の尿素水をメインタンク24に補給できるだけでなく、メインタンク24の尿素水をサブタンク25に戻すことができ、メインタンク24とサブタンク25との間で尿素水を循環させることができる。サブタンク25の尿素水は冷却器29により強制冷却が可能であるため、冷却されたサブタンク25の尿素水をメインタンク24に移送することで、メインタンク24の尿素水の温度の上昇を抑えることができる。同時にメインタンク24の尿素水をサブタンク25に移送することで、2つのタンクの液位の変化を抑制しつつ、メインタンク24で昇温した尿素水をサブタンク25で冷却することができる。更には、サブタンク25において強制冷却することで生じ得る気泡が第1配管26aに吸い込まれてもフィルタ28で捕集することができ、メインタンク24への気泡の流入を抑制することができる。これにより濃度センサ24c等のメインタンク24に設置されたセンサ類の検出値に気泡が与える影響を抑制することができ、安定した尿素水の温度管理を行うことができる。
【0035】
よって、冷却器29を用いた強制冷却により高温の稼働環境下でも尿素水を適正な温度範囲に保つことができ、気泡の影響で尿素水の温度管理が不安定になることを抑制することができる。また、尿素水の冷却システムは作業機械の動作や姿勢等と連動させる必要がない独立したシステムとして構築できるので、既存の作業機械に本実施形態に係るシステムを適用するに当たって大掛かりな機体改造を必要としない点もメリットである。
【0036】
(2)本実施形態では、メインタンク24の尿素水の温度Tmが設定温度T0を超えているときに尿素水を冷却するように却器29を制御装置30で制御する構成とした。この場合、メインタンク24の尿素水の温度が高ければ確実にこれを冷却できると同時に、冷却不要な場合には必要に応じて冷却器29を停止させ、エネルギーの浪費を抑制することができる。
【0037】
但し、無条件に尿素水の冷却を継続する仕様とする場合、上記の基本的な効果(1)を得る上で、メインタンク24の尿素水の温度に応じた冷却器29の制御は必ずしも必要ない。
【0038】
(3)2つの尿素水タンクのうちサブタンク25にのみ補給口25aを設け、尿素水の補給をサブタンク25で行うようにした。この場合、尿素水の補給の際にサブタンク25内で気泡が生じたり開放した補給口25aから塵埃がサブタンク25内に入り込んだりしても、メインタンク24に移送される際にフィルタ28等で塵埃や気泡は捕集される。従って尿素水の補給に伴ってメインタンク24の尿素水に気泡や塵埃が混入することを抑制することができる。
【0039】
但し、メインタンク24とサブタンク25との間で尿素水が循環する構成であるため、仮にメインタンク24の内部に気泡や塵埃があっても、これらはサブタンク25に送られて循環の際にフィルタ28等で捕集することができる。従って尿素水の補給口をメインタンク24に設けても、上記効果(1)を得ることはできる。
【0040】
(4)循環ポンプとして第1配管26aに設けた第1ポンプ26及び第2配管27aに設けた第2ポンプ27を備えている。この場合、メインタンク24からサブタンク25へも、サブタンク25からメインタンク24へも、作業機械の姿勢(傾斜等)によらず自在に尿素水を移送することができる。従ってメインタンク24やサブタンク25の液位を調整する上で高い自由度を得ることができる。
【0041】
但し、メインタンク24からサブタンク25への尿素水の移動、及びサブタンク25からメインタンク24への尿素水の移動には、例えば2つの尿素水タンクに高低差を付けることで重力搬送を利用することができる。この場合には、2つの尿素水タンクの位置関係に応じて第1配管26a及び第2配管27aの一方のみに揚水ポンプとして第1ポンプ26又は第2ポンプ27を設けた構成としても良い。
【0042】
(5)また、メインタンク24の液位Lmが上限値LBを超えない限りサブタンク25からメインタンク24に尿素水を移送し、液位Lmが下限値LAを下回らない限りメインタンク24からサブタンク25に尿素水を移送する構成とした。言い換えれば、メインタンク24の液位Lmが上限値LBを超えるなり下限値LAを下回るなりして適正範囲を逸脱すれば、尿素水の循環が停止する。これにより、メインタンク24の液位Lmが適正範囲にある限り尿素水を循環させることができると共に、例えばフィルタ28の目詰まりによりメインタンク24に対する尿素水の給排量に差が生じても液位Lmが適正範囲から逸脱しないようにすることができる。
【0043】
但し、上記効果(1)を得る上では、液位Lmに基づいて第1ポンプ26や第2ポンプ27を制御する構成は必ずしも必要ない。例えば単純にメインタンク24とサブタンク25との間で尿素水を常時循環させる構成、或いはメインタンク24の尿素水が昇温した場合にのみ尿素水を循環させる構成であっても良い。
【0044】
(6)また、制御装置30を外部電源Xに接続することで、エンジン14の停止時においても尿素水の冷却システムの運転を継続することができる。従って例えば直射日光で作業機械のボディの温度が上昇する場面、或いは高温の熱源が近くにある場面でも、休車時に尿素水の温度が上昇してしまうことを抑制できる。
【0045】
但し、稼働環境によっては、エンジン14が発する熱等が尿素水に与える影響が抑制できれば足りる場合もある。そのような場合には、上記効果(1)を得る上で必ずしも休車中に尿素水を冷却する必要はない。エンジン14の稼働時にのみ冷却システムが作動すれば足りる場合には、車載したバッテリや発電機等を冷却システムの電源としても良い。
【0046】
(7)尿素水はメインタンク24とサブタンク25との間で循環するので、気泡や塵埃を捕集する限りではフィルタ28は循環路のどこにあっても良い。但し本実施形態のように第1配管26aにおける第1ポンプ26の下流位置にフィルタ28を設置した場合、サブタンク25で生じ得る気泡等のみならず、第1ポンプ26で生じ得る気泡をもフィルタ28で捕集することができる。メインタンク24の尿素水を気泡や塵埃が最も少ない状態に保つ上で有利な構成である。
【0047】
(8)サブタンク25の設置場所は他の機器との配置の制限が許容する範囲で適宜変更することができるが、本実施形態においてはフレーム15を設けてカウンタウェイト17の後側に設置した。この場合、エンジン室16とサブタンク25との間にカウンタウェイト17が介在するので、エンジン室16で発生する熱がカウンタウェイト17で遮断され、作業機械の運転に伴って発生する熱がサブタンク25の尿素水に与える影響を軽減することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…本体、4…作業機、14…エンジン、18…排気管、22…NOx浄化装置、23…尿素水噴射系統、24…メインタンク、24l…液位センサ、24t…温度センサ、25…サブタンク、25a…補給口、26…第1ポンプ(循環ポンプ)、26a…第1配管、27…第2ポンプ(循環ポンプ)、27a…第2配管、28…フィルタ、29…冷却器、31…記憶装置、32…冷却指令部、34…液位調整部、LA…下限値、LB…上限値、Lm…メインタンクの液位、T0…設定温度、Tm…メインタンクの尿素水温度、X…外部電源
図1
図2
図3
図4