特許第6812574号(P6812574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6812574環状オレフィン系共重合体、環状オレフィン系共重合体組成物、成形体および医療用容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6812574
(24)【登録日】2020年12月18日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】環状オレフィン系共重合体、環状オレフィン系共重合体組成物、成形体および医療用容器
(51)【国際特許分類】
   C08F 210/00 20060101AFI20201228BHJP
   C08F 232/00 20060101ALI20201228BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20201228BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20201228BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20201228BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   C08F210/00
   C08F232/00
   C08K5/103
   C08L45/00
   G02B1/04
   A61J1/05 311
【請求項の数】18
【全頁数】57
(21)【出願番号】特願2019-557243(P2019-557243)
(86)(22)【出願日】2018年11月27日
(86)【国際出願番号】JP2018043621
(87)【国際公開番号】WO2019107363
(87)【国際公開日】20190606
【審査請求日】2019年10月24日
(31)【優先権主張番号】特願2017-228675(P2017-228675)
(32)【優先日】2017年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-138691(P2018-138691)
(32)【優先日】2018年7月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】和佐 英樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 春佳
(72)【発明者】
【氏名】ムルティ スニル クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】藤村 太
(72)【発明者】
【氏名】岡本 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】鬼木 絵美
(72)【発明者】
【氏名】木津 巧一
(72)【発明者】
【氏名】何 家成
【審査官】 中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−239975(JP,A)
【文献】 特開平05−310845(JP,A)
【文献】 特開2009−046614(JP,A)
【文献】 特開平01−185307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F6/00−246/00;301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子数が2〜20のα−オレフィン由来の構成単位(A)と、
芳香環を有さない環状オレフィン(ただし、ビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテンを除く)から導かれる構成単位(B)と、
芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、
を有し、
前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(A)、前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(A)の含有量が10モル%以上80モル%以下であり、
前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(C)の含有量が5モル%以上95モル%以下であり、
前記芳香環を有する環状オレフィンが、下記式(C−2)で示される化合物および下記式(C−3)で示される化合物からなる群から選択される一種または二種以上を含む環状オレフィン系共重合体。
【化1】

(上記式(C−2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R18〜R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【化2】

(上記式(C−3)中、qは1、2または3であり、R32〜R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【請求項2】
請求項1に記載の環状オレフィン系共重合体において、
前記芳香環を有さない環状オレフィンが、下記式(B−1)で示される化合物を含む環状オレフィン系共重合体。
【化3】
(前記式[B−1]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R〜R18ならびにRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R15〜R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。)
【請求項3】
請求項1または2に記載の環状オレフィン系共重合体において、
前記環状オレフィン系共重合体からなる厚さ1.0mmの射出成形シートを作製したとき、当該射出成形シートのアッベ数(ν)が35以上55以下である環状オレフィン系共重合体。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の環状オレフィン系共重合体において、
示差走査熱量計(DSC)で測定される、前記環状オレフィン系共重合体のガラス転移温度(Tg)が120℃以上180℃以下である環状オレフィン系共重合体。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の環状オレフィン系共重合体において、
135℃デカリン中で測定される極限粘度[η]が0.05dl/g以上5.0dl/g以下である環状オレフィン系共重合体。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の環状オレフィン系共重合体において、
前記環状オレフィン系共重合体からなる厚さ1.0mmの射出成形シートを作製したとき、当該射出成形シートの複屈折が1nm以上200nm以下である環状オレフィン系共重合体。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の環状オレフィン系共重合体において、
前記芳香環を有する環状オレフィンが、ベンゾノルボルナジエンおよびインデンノルボルネンから選択される少なくとも一種を含む環状オレフィン系共重合体。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の環状オレフィン系共重合体を含む環状オレフィン系共重合体組成物。
【請求項9】
さらに親水性安定剤を含む、請求項に記載の環状オレフィン系共重合体組成物。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の環状オレフィン系共重合体または請求項若しくはに記載の環状オレフィン系共重合体組成物を含む成形体。
【請求項11】
光学レンズである請求項10に記載の成形体。
【請求項12】
炭素原子数が2〜20のα−オレフィン由来の構成単位(A)と、
芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、
芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、
を有する環状オレフィン系共重合体を含む医療用容器であって、
前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(A)、前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(C)の含有量が0.1モル%以上50モル%以下であり、
前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(A)、前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(A)の含有量が10モル%以上80モル%以下であり、
前記芳香環を有する環状オレフィンが、メチルフェニルノルボルネン、下記式(C−2)で示される化合物、および下記式(C−3)で示される化合物からなる群から選択される一種または二種以上を含む医療用容器。
【化4】

(上記式(C−2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R18〜R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【化5】

(上記式(C−3)中、qは1、2または3であり、R32〜R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【請求項13】
請求項12に記載の医療用容器において、
前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(C)の含有量が5モル%以上95モル%以下である医療用容器。
【請求項14】
請求項12または13に記載の医療用容器において、
前記芳香環を有さない環状オレフィンが、下記式(B−1)で示される化合物を含む医療用容器。
【化6】
(前記式[B−1]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R〜R18ならびにRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R15〜R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。)
【請求項15】
請求項12乃至14のいずれか一項に記載の医療用容器において、
示差走査熱量計(DSC)で測定される、前記環状オレフィン系共重合体のガラス転移温度(Tg)が120℃以上180℃以下である医療用容器。
【請求項16】
請求項12乃至15のいずれか一項に記載の医療用容器において、
前記環状オレフィン系共重合体の135℃デカリン中で測定される極限粘度[η]が0.05dl/g以上5.0dl/g以下である医療用容器。
【請求項17】
請求項12乃至16のいずれか一項に記載の医療用容器において、
前記芳香環を有する環状オレフィンが、ベンゾノルボルナジエン、インデンノルボルネンおよびメチルフェニルノルボルネンから選択される少なくとも一種を含む医療用容器。
【請求項18】
請求項12乃至17のいずれか一項に記載の医療用容器において、
シリンジまたは薬液保存容器である医療用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系共重合体、環状オレフィン系共重合体組成物、成形体および医療用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
撮像レンズ、fθレンズ、ピックアップレンズ等の光学レンズには環状オレフィン系重合体が用いられている。このような光学レンズ等の成形体に用いられる環状オレフィン系重合体には、透明性が高いこと、寸法安定性に優れること、耐熱性に優れること等の特性が要求される。
また、例えばスマートフォンやデジタルカメラ等に使用される撮像レンズには、小型化薄型化のため複屈折の値を低く保ちながらも屈折率のさらなる向上が求められている。
【0003】
このような光学レンズに用いられる環状オレフィン系重合体に関する技術としては、例えば、特許文献1(特開平10−287713号公報)および特許文献2(特開2010−235719号公報)に記載のものが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、(A)炭素原子数が2〜20の直鎖状または分岐状のα−オレフィンと、(B)所定の化学式で表される環状オレフィンと、(C)芳香族ビニル化合物とから得られ、極限粘度[η]が0.1〜10dl/gの範囲にあり、上記(B)環状オレフィンから導かれる構成単位の含有割合と、上記(C)芳香族ビニル化合物から導かれる構成単位の含有割合とが特定の関係を満たす環状オレフィン系共重合体が記載されている。
【0005】
特許文献2には、エチレンまたは炭素原子数が3〜20のα−オレフィンから導かれる構成単位(A)を30〜70モル%、所定の化学式で表される環状オレフィンから導かれる構成単位(B)を20〜50モル%、芳香族ビニル化合物から導かれる構成単位(C)を0.1〜20モル%含み、極限粘度[η]、H−NMRおよびガラス転移温度が所定の要件を満たすことを特徴とする環状オレフィン系重合体が記載されている。
【0006】
また、環状オレフィン系樹脂は、透明性や、耐薬品性等の性能バランスが優れている。よって、例えば、医療用容器等の成形体を形成する材料として用いられることが検討されている。このような環状オレフィン系樹脂を含む樹脂組成物に関する技術としては、例えば、特許文献3や特許文献4に記載のものが挙げられる。
【0007】
特許文献3には、特定の環状オレフィン系樹脂を2種含む環状オレフィン系樹脂組成物が記載されている。そして、その組成物により、スリップ性が改良され、透明性、表面光沢に優れ、さらに衛生面に優れた成形体を得ることが記載されている。
【0008】
特許文献4には、環状オレフィン系樹脂60〜90重量部と、数平均分子量が75,000〜500,000である芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体および/またはその水素添加物10〜40重量部とからなる環状オレフィン系樹脂組成物が記載されている。そして、その組成物により、衝撃強度に優れるとともに防湿性にも優れた成形体を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−287713号公報
【特許文献2】特開2010−235719号公報
【特許文献3】特開2001−26693号公報
【特許文献4】特開平8−277353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らの検討によれば、例えば光学レンズ等の用途において、画質の向上及び光学レンズ設計自由度の向上を目的として、従来の樹脂材料よりもアッベ数を低めに調整可能な樹脂材料が求められていることが明らかになった。
本件第一発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高い屈折率を有しつつ、従来の樹脂材料よりもアッベ数を低めに調整可能な環状オレフィン系共重合体を提供するものである。
【0011】
また、シリンジや薬液保存容器等の医療用容器は、通常、滅菌した後に内容物が充填される。この滅菌の際、容器に対して電子線あるいはガンマ線が照射される場合がある。
本発明者らの検討によれば、従来の環状オレフィン系樹脂を用いた医療用容器においては、電子線あるいはガンマ線照射によって変色が発生しうる場合があることが明らかになった。
【0012】
本件第二発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。つまり、本件第二発明は、電子線あるいはガンマ線照射による変色が少なく、かつ、透明性に優れる医療用容器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、本件第一発明上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、エチレンから導かれる構成単位と、ビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテンおよびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンから選ばれる少なくとも一種の化合物から導かれる構成単位と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位と、を有する環状オレフィン系共重合体を用いることにより、高い屈折率を有しつつ、従来の樹脂材料よりもアッベ数を低めに調整可能であることを見出し、本件第一発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本件第一発明によれば、以下に示す環状オレフィン系共重合体、環状オレフィン系共重合体組成物および成形体が提供される。
【0015】
[1]
炭素原子数が2〜20のα−オレフィン由来の構成単位(A)と、
芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、
芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、
を有する環状オレフィン系共重合体。
[2]
上記[1]に記載の環状オレフィン系共重合体において、
上記環状オレフィン系共重合体中の上記構成単位(A)、上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、上記環状オレフィン系共重合体中の上記構成単位(A)の含有量が10モル%以上80モル%以下である環状オレフィン系共重合体。
[3]
上記[1]または[2]に記載の環状オレフィン系共重合体において、
上記環状オレフィン系共重合体中の上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、上記環状オレフィン系共重合体中の上記構成単位(C)の含有量が5モル%以上95モル%以下である環状オレフィン系共重合体。
[4]
上記[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系共重合体において、
上記芳香環を有さない環状オレフィンが、下記式(B−1)で示される化合物を含む環状オレフィン系共重合体。
【化1】
(上記式[B−1]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R〜R18ならびにRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R15〜R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。)
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系共重合体において、
上記芳香環を有する環状オレフィンが、下記式(C−1)で示される化合物、下記式(C−2)で示される化合物、および下記式(C−3)で示される化合物からなる群から選択される一種または二種以上を含む環状オレフィン系共重合体。
【化2】
(上記式(C−1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2であり、R〜R17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、R10〜R17のうち一つは結合手であり、またq=0のときR10とR11、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=1または2のときR10とR11、R11とR17、R17とR17、R17とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR16、R16とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【化3】
(上記式(C−2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R18〜R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【化4】
(上記式(C−3)中、qは1、2または3であり、R32〜R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
[6]
上記[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系共重合体において、
上記環状オレフィン系共重合体からなる厚さ1.0mmの射出成形シートを作製したとき、当該射出成形シートのアッベ数(ν)が35以上55以下である環状オレフィン系共重合体。
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系共重合体において、
示差走査熱量計(DSC)で測定される、上記環状オレフィン系共重合体のガラス転移温度(Tg)が120℃以上180℃以下である環状オレフィン系共重合体。
[8]
上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系共重合体において、
135℃デカリン中で測定される極限粘度[η]が0.05dl/g以上5.0dl/g以下である環状オレフィン系共重合体。
[9]
上記[1]乃至[8]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系共重合体において、
上記環状オレフィン系共重合体からなる厚さ1.0mmの射出成形シートを作製したとき、当該射出成形シートの複屈折が1nm以上200nm以下である環状オレフィン系共重合体。
[10]
上記[1]乃至[9]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系共重合体において、
上記芳香環を有する環状オレフィンが、ベンゾノルボルナジエン、インデンノルボルネンおよびメチルフェニルノルボルネンから選択される少なくとも一種を含む環状オレフィン系共重合体。
[11]
上記[1]乃至[10]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系共重合体を含む環状オレフィン系共重合体組成物。
[12]
さらに親水性安定剤を含む、上記[11]に記載の環状オレフィン系共重合体組成物。
[13]
上記[1]乃至[10]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系共重合体または上記[11]若しくは[12]に記載の環状オレフィン系共重合体組成物を含む成形体。
[14]
光学レンズである上記[13]に記載の成形体。
【0016】
また、本発明者らは本件第二発明に関する上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、医療用容器を構成する樹脂として、α−オレフィン由来の構成単位、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位および芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位を含む環状オレフィン系共重合体を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。そして、以下に示される本件第二発明を完成させた。
【0017】
すなわち、本件第二発明によれば、以下に示す医療用容器および医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物が提供される。
【0018】
[15]
炭素原子数が2〜20のα−オレフィン由来の構成単位(A)と、
芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、
芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、
を有する環状オレフィン系共重合体を含む医療用容器。
[16]
上記[15]に記載の医療用容器において、
前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(A)、前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(C)の含有量が0.1モル%以上50モル%以下である医療用容器。
[17]
上記[15]または[16]に記載の医療用容器において、
前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(C)の含有量が5モル%以上95モル%以下である医療用容器。
[18]
上記[15]乃至[17]のいずれか一つに記載の医療用容器において、
前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(A)、前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(A)の含有量が10モル%以上80モル%以下である医療用容器。
[19]
上記[15]乃至[18]のいずれか一つに記載の医療用容器において、
前記芳香環を有さない環状オレフィンが、下記式(B−1)で示される化合物を含む医療用容器。
【化5】
(前記式[B−1]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R〜R18ならびにRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R15〜R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。)
[20]
上記[15]乃至[19]のいずれか一つに記載の医療用容器において、
前記芳香環を有する環状オレフィンが、下記式(C−1)で示される化合物、下記式(C−2)で示される化合物、および下記式(C−3)で示される化合物からなる群から選択される一種または二種以上を含む医療用容器。
【化6】
(上記式(C−1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2であり、R〜R17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、R10〜R17のうち一つは結合手であり、またq=0のときR10とR11、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=1または2のときR10とR11、R11とR17、R17とR17、R17とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR16、R16とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【化7】
(上記式(C−2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R18〜R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【化8】
(上記式(C−3)中、qは1、2または3であり、R32〜R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
[21]
上記[15]乃至[20]のいずれか一つに記載の医療用容器において、
示差走査熱量計(DSC)で測定される、前記環状オレフィン系共重合体のガラス転移温度(Tg)が120℃以上180℃以下である医療用容器。
[22]
上記[15]乃至[21]のいずれか一つに記載の医療用容器において、
前記環状オレフィン系共重合体の135℃デカリン中で測定される極限粘度[η]が0.05dl/g以上5.0dl/g以下である医療用容器。
[23]
上記[15]乃至[22]のいずれか一つに記載の医療用容器において、
前記芳香環を有する環状オレフィンが、ベンゾノルボルナジエン、インデンノルボルネンおよびメチルフェニルノルボルネンから選択される少なくとも一種を含む医療用容器。
[24]
上記[15]乃至[23]のいずれか一つに記載の医療用容器において、
シリンジまたは薬液保存容器である医療用容器。
[25]
医療用容器を形成するための環状オレフィン系共重合体組成物であって、
炭素原子数が2〜20のα−オレフィン由来の構成単位(A)と、
芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、
芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、
を有する環状オレフィン系共重合体を含む医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物。
[26]
上記[25]に記載の医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物において、
上記環状オレフィン系共重合体中の上記構成単位(A)、上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、上記環状オレフィン系共重合体中の上記構成単位(C)の含有量が0.1モル%以上50モル%以下である医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物。
[27]
上記[25]または[26]に記載の医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物において、
上記環状オレフィン系共重合体中の上記構成単位(A)、上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、上記環状オレフィン系共重合体中の上記構成単位(A)の含有量が10モル%以上80モル%以下である医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物。
[28]
上記[25]乃至[27]のいずれか一つに記載の医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物において、
上記芳香環を有さない環状オレフィンが、下記式(B−1)で示される化合物を含む医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物。
【化9】
(上記式[B−1]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R〜R18ならびにRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R15〜R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。)
[29]
上記[25]乃至[28]のいずれか一つに記載の医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物において、
上記芳香環を有する環状オレフィンが、下記式(C−1)で示される化合物、下記式(C−2)で示される化合物、および下記式(C−3)で示される化合物からなる群から選択される一種または二種以上を含む医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物。
【化10】
(上記式(C−1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2であり、R〜R17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、R10〜R17のうち一つは結合手であり、またq=0のときR10とR11、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=1または2のときR10とR11、R11とR17、R17とR17、R17とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR16、R16とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【化11】
(上記式(C−2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R18〜R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【化12】
(上記式(C−3)中、qは1、2または3であり、R32〜R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
[30]
上記[25]乃至[29]のいずれか一つに記載の医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物において、
示差走査熱量計(DSC)で測定される、上記環状オレフィン系共重合体のガラス転移温度(Tg)が120℃以上180℃以下である医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物。
[31]
上記[25]乃至[30]のいずれか一つに記載の医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物において、
上記環状オレフィン系共重合体の135℃デカリン中で測定される極限粘度[η]が0.05dl/g以上5.0dl/g以下である医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物。
[32]
上記[25]乃至[31]のいずれか一つに記載の医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物において、
上記芳香環を有する環状オレフィンが、ベンゾノルボルナジエン、インデンノルボルネンおよびメチルフェニルノルボルネンから選択される少なくとも一種を含む医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物。
[33]
上記[25]乃至[32]のいずれか一つに記載の医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物において、
上記医療用容器がシリンジまたは薬液保存容器である医療用容器用環状オレフィン系共重合体組成物。
【発明の効果】
【0019】
本件第一発明によれば、高い屈折率を有しつつ、従来の樹脂材料よりもアッベ数を低めに調整可能な環状オレフィン系共重合体を提供することができる。
【0020】
本件第二発明によれば、電子線あるいはガンマ線照射による変色が少なく、かつ、透明性に優れる医療用容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。なお、本実施形態では、数値範囲を示す「A〜B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0022】
1.第一発明
[環状オレフィン系共重合体]
まず、第一発明に係る実施形態の環状オレフィン系共重合体(P)について説明する。
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)は、炭素原子数が2〜20のα−オレフィンから導かれる構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、を有する。
【0023】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)は、炭素原子数が2〜20のα−オレフィンから導かれる構成単位(A)、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)および芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)を含むことにより、光学レンズ等に求められる高い屈折率を満足しながら、アッベ数を低めに調整することができる。
以上から、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)によれば、高い屈折率を有しながら、従来の樹脂材料よりもアッベ数が低い成形体を得ることが可能となる。
【0024】
(エチレン由来の構成単位(A))
本実施形態に係る構成単位(A)は炭素原子数が2〜20のα−オレフィン由来の構成単位である。
ここで、炭素原子数が2〜20のα−オレフィンとしては、直鎖状でも分岐状でもよく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等の炭素原子数が2〜20の直鎖状α−オレフィン;3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン等の炭素原子数が4〜20の分岐状α−オレフィン等が挙げられる。これらの中では、炭素原子数が2〜4の直鎖状α−オレフィンが好ましく、エチレンが特に好ましい。このような直鎖状または分岐状のα−オレフィンは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)、上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)の含有量は、好ましくは10モル%以上80モル%以下、より好ましくは30モル%以上75モル%以下、さらに好ましくは40モル%以上70モル%以下である。
上記構成単位(A)の含有量が上記下限値以上であることにより、得られる成形体の耐熱性や寸法安定性を向上させることができる。また、上記構成単位(A)の含有量が上記上限値以下であることにより、得られる成形体の透明性等を向上させることができる。
本実施形態において、構成単位(A)の含有量は、例えば、H−NMRまたは13C−NMRによって測定することができる。
【0026】
(環状オレフィン由来の構成単位(B))
本実施形態に係る構成単位(B)は芳香環を有さない環状オレフィン由来の構成単位である。本実施形態に係る構成単位(B)としては、得られる成形体の屈折率をさらに向上させる観点から、下記式(B−1)で示される化合物由来の構成単位を含むことが好ましい。
【化13】
(上記式[B−1]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R〜R18ならびにRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R15〜R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。)
これらの中でも、本実施形態に係る構成単位(B)としては、ビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテン由来の構成単位、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン由来の構成単位およびヘキサシクロ[6,6,1,13,6,110,13,02,7,09,14]ヘプタデセン−4由来の構成単位等から選択される少なくとも一種の構成単位を含むことが好ましく、ビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテン由来の構成単位およびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン由来の構成単位から選択される少なくとも一種の構成単位を含むことがより好ましく、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン由来の構成単位を含むことが特に好ましい。
【0027】
(芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C))
本実施形態に係る構成単位(C)は芳香環を有する環状オレフィン由来の構成単位である。
本実施形態に係る芳香環を有する環状オレフィンとしては、例えば、下記式(C−1)で示される化合物、下記式(C−2)で示される化合物、下記式(C−3)で示される化合物等が挙げられる。これらの芳香環を有する環状オレフィンは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
【化14】
【0029】
上記式(C−1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2である。nは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。qは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
〜R17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、R10〜R17のうち一つは結合手であり、R15が結合手であることが好ましい。
〜R17はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
またq=0のときR10とR11、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=1または2のときR10とR11、R11とR17、R17とR17、R17とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR16、R16とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
上記式(C−1)の中でも、下記式(C−1A)で示される化合物が好ましい。
【0030】
【化15】
【0031】
【化16】
上記式(C−2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3である。mは0または1であることが好ましく、1であることがより好ましい。nは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。qは1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
18〜R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基である。
18〜R31はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0032】
【化17】
上記式(C−3)中、qは1、2または3であり、1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
32〜R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基である。
32〜R39はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0033】
また、炭素原子数1〜20の炭化水素基としては、それぞれ独立に、例えば炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数3〜15のシクロアルキル基、および芳香族炭化水素基等が挙げられる。より具体的には、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基等が挙げられ、シクロアルキル基としてはシクロヘキシル基等が挙げられ、芳香族炭化水素基としてはフェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基等のアリール基またはアラルキル基等が挙げられる。これらの炭化水素基はフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0034】
これらの中でも、本実施形態に係る芳香環を有する環状オレフィンとしては、芳香環を1つ有しているものが好ましく、例えば、ベンゾノルボルナジエン、インデンノルボルネンおよびメチルフェニルノルボルネンから選択される少なくとも一種が好ましい。
【0035】
また、本実施形態に係る芳香環を有する環状オレフィンとしては、例えば、下記式(C−1’)で示される化合物、下記式(C−2’)で示される化合物、下記式(C−3’)で示される化合物等も挙げられる。これらの芳香環を有する環状オレフィンは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
【化18】
【0037】
【化19】
【0038】
【化20】
【0039】
上記式(C−1’)、式(C−2’)および式(C−3’)において、mおよびnは0、1または2であり、R〜R36はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、R10とR11、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R25とR26、R26とR27、R27とR28、R33とR34、R34とR35、R35とR36は互いに結合して単環を形成していてもよく、該単環が二重結合を有していてもよい。
【0040】
また、上記式(C−1’)、式(C−2’)および式(C−3’)において、mは0または1であることが好ましく、1であることがより好ましい。nは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。R〜R36は水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0041】
また、炭素原子数1〜20の炭化水素基としては、それぞれ独立に、例えば炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数3〜15のシクロアルキル基、および芳香族炭化水素基等が挙げられる。より具体的には、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基等が挙げられ、シクロアルキル基としてはシクロヘキシル基等が挙げられ、芳香族炭化水素基としてはフェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基等のアリール基またはアラルキル基等が挙げられる。これらの炭化水素基はフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0042】
これらの中でも、本実施形態に係る芳香環を有する環状オレフィンとしては、芳香環を1つ有しているものが好ましく、例えば、ベンゾノルボルナジエン、インデンノルボルネンおよびメチルフェニルノルボルネンから選択される少なくとも一種が好ましい。
【0043】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(C)の含有量は好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは10モル%以上90モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上80モル%以下、さらにより好ましくは30モル%以上80モル%以下、さらにより好ましくは40モル%以上78モル%以下である。
上記構成単位(C)の含有量が上記下限値以上であることにより、得られる成形体において、高い屈折率としつつ、アッベ数をさらに低くすることができる。また、上記構成単位(C)の含有量が上記上限値以下であることにより、得られる成形体の屈折率およびアッベ数のバランスをより良好にすることができる。
本実施形態において、構成単位(B)および構成単位(C)の含有量は、例えば、H−NMRまたは13C−NMRによって測定することができる。
【0044】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)の共重合タイプは特に限定されないが、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等を挙げることができる。本実施形態においては、透明性、アッベ数、屈折率および複屈折率等の光学物性に優れる成形体を得ることができる観点から、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)としてはランダム共重合体であることが好ましい。
【0045】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)は、例えば、特開昭60−168708号公報、特開昭61−120816号公報、特開昭61−115912号公報、特開昭61−115916号公報、特開昭61−271308号公報、特開昭61−272216号公報、特開昭62−252406号公報、特開昭62−252407号公報、特開2007−314806号公報、特開2010−241932号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0046】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)において、環状オレフィン系共重合体(P)からなる厚さ1.0mmの射出成形シートを作製したとき、ASTM D542に準じて測定される上記射出成形シートの波長589nmにおける屈折率(nd)は好ましくは1.545以上、好ましくは1.550以上、より好ましくは1.555以上である。上記屈折率(nd)の上限は特に限定されないが、例えば、1.580以下である。
屈折率が上記範囲内であると、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)を用いて得られる成形体の光学特性を良好に保ちつつ、厚みをより薄くすることができる。
【0047】
また、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)において、得られる成形体の透明性をより向上させる観点から、環状オレフィン系共重合体(P)からなる厚さ1.0mmの射出成形シートを作製したとき、JIS K7136に準拠して測定される上記射出成形シートのヘイズが好ましくは5%未満である。
【0048】
また、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)において、得られる成形体のアッベ数(ν)をより適した範囲に調整する観点から、環状オレフィン系共重合体(P)からなる厚さ1.0mmの射出成形シートを作製したとき、上記射出成形シートのアッベ数(ν)は、好ましくは35以上55以下、より好ましくは40以上50以下、さらに好ましくは43以上47以下である。
上記射出成形シートのアッベ数(ν)は、当該射出成形シートの23℃下での波長486nm、589nmおよび656nmの屈折率から、下記式を用いて算出することができる。
ν=(nD−1)/(nF−nC)
nD:波長589nmでの屈折率
nC:波長656nmでの屈折率
nF:波長486nmでの屈折率
【0049】
また、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)において、得られる成形体の複屈折をより適した範囲に調整する観点から、環状オレフィン系共重合体(P)からなる厚さ1.0mmの射出成形シートを作製したとき、上記射出成形シートの複屈折は、好ましくは1nm以上200nm以下である。
本実施形態において、上記射出成形シートの複屈折は、王子計測機器社製のKOBRA CCDを用いて、測定波長650nmで測定される、ゲート方向から20〜35mmの位相差の平均値である。
【0050】
示差走査熱量計(DSC)で測定される、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)のガラス転移温度(Tg)は、得られる成形体の透明性、ヘイズ、アッベ数、複屈折および屈折率等を良好に保ちつつ、耐熱性をより向上させる観点から、好ましくは120℃以上180℃以下であり、より好ましくは130℃以上170℃以下、さらに好ましくは140℃以上160℃以下である。
【0051】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)の極限粘度[η](135℃デカリン中)は、例えば0.05〜5.0dl/gであり、好ましくは0.2〜4.0dl/gであり、さらに好ましくは0.3〜2.0dl/g、特に好ましくは0.4〜1.0dl/gである。
【0052】
[環状オレフィン系共重合体組成物]
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物は、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)を含み、必要に応じて、環状オレフィン系共重合体(P)以外のその他の成分を含んでもよい。なお、本実施形態において、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物が環状オレフィン系共重合体(P)のみしか含まない場合も環状オレフィン系共重合体組成物と呼ぶ。
【0053】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物は、さらに親水性安定剤を含んでいてもよい。親水性安定剤を含むと、高温高湿条件下における光学性能の劣化が抑制でき、より好ましい。
親水性安定剤は、脂肪酸と多価アルコールとの脂肪酸エステルが好ましい。脂肪酸とエーテル基を1つ以上有する多価アルコールとの脂肪酸エステルがより好ましい。
【0054】
脂肪酸エステルとしては、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、トリグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート等を挙げることができる。
脂肪酸とエーテル基を1つ以上有する多価アルコールとの脂肪酸エステルは、脂肪酸と、エーテル基を1つ以上有する多価アルコールとのエステルである。なお、多価アルコールのエーテル基は、エステル基中のエーテル基を含まない。
エーテル基を1つ以上有する多価アルコールとしては、モノグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ソルビタン等を挙げることができる。
本実施形態において、脂肪酸エステルは、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、トリグリセリン脂肪酸エステルを含むことが好ましい。ジグリセリン脂肪酸エステルは、ジグリセリンに含まれる4つのヒドロキシ基の少なくとも1つが脂肪酸とエステル化したものである。
【0055】
脂肪酸としては、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸;クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸等のモノ不飽和脂肪酸;リノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸等のジ不飽和脂肪酸;リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、エイコサトリエン酸等のトリ不飽和脂肪酸;ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸等のテトラ不飽和脂肪酸;などを挙げることができる。
【0056】
ジグリセリン脂肪酸エステルとしては、ジグリセリンモノカプリレート、ジグリセリンジカプリレート、ジグリセリンモノカプレート、ジグリセリンジカプレート、ジグリセリンモノラウレート、ジグリセリンジラウレート、ジグリセリンモノミリステート、ジグリセリンジミリステート、ジグリセリンモノパルミテート、ジグリセリンジパルミテート、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンジステアレート、ジグリセリンモノベヘネート、ジグリセリンジベヘネート等のジグリセリン飽和脂肪酸エステル;ジグリセリンモノオレート、ジグリセリンジオレート、等のジグリセリン不飽和脂肪酸エステル;等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
本実施形態において、ジグリセリン脂肪酸エステルは、ジグリセリンと、上記から選択される炭素数12〜18の飽和または不飽和脂肪酸とのエステルであることが好ましい。
【0057】
なお、本実施形態の効果の観点から、ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルを主成分として含むことが好ましく、そのうちでもジグリセリンモノオレートを主成分として含むことがより好ましい。ジグリセリン骨格が親水性を有し、脂肪酸が樹脂との相溶性を改善するため、透明性が維持されるとともに、耐湿熱性に優れる。
【0058】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物は、少なくとも1種のジグリセリン脂肪酸エステルを含むことができる。少なくとも1種のジグリセリン脂肪酸エステルの好ましい態様としては、モノエステル単独、またはモノエステルとジエステルとの組合せを挙げることができる。
【0059】
トリグリセリン脂肪酸エステルは、脂肪酸と、トリグリセリンとのエステルである。
本実施形態に係るトリグリセリン脂肪酸エステルは、トリグリセリンに含まれる5つのヒドロキシ基の少なくとも1つが脂肪酸とエステル化したものである。
【0060】
トリグリセリン脂肪酸エステルとしては、トリグリセリンモノカプリレート、トリグリセリンジカプリレート、トリグリセリントリカプリレート、トリグリセリンモノカプレート、トリグリセリンジカプレート、トリグリセリントリカプレート、トリグリセリンモノラウレート、トリグリセリンジラウレート、トリグリセリントリラウレート、トリグリセリンモノミリステート、トリグリセリンジミリステート、トリグリセリントリミリステート、トリグリセリンモノパルミテート、トリグリセリンジパルミテート、トリグリセリントリパルミレート、トリグリセリンモノステアレート、トリグリセリンジステアレート、トリグリセリントリステアレート、トリグリセリンモノベヘネート、トリグリセリンジベヘネート、トリグリセリントリベヘネート等のトリグリセリン飽和脂肪酸エステル;トリグリセリンモノオレート、トリグリセリンジオレート、トリグリセリントリオレート等のトリグリセリン不飽和脂肪酸エステル;等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
本実施形態に係るトリグリセリン脂肪酸エステルは、トリグリセリンと炭素数8以上24以下の飽和または不飽和脂肪酸とのエステルを含むことが好ましく、トリグリセリンと炭素数12以上18以下の飽和または不飽和脂肪酸とのエステルを含むことがより好ましい。
【0061】
本実施形態に係るトリグリセリン脂肪酸エステルとしては、モノエステル単独、モノエステルとジエステルとの混合物またはモノエステルとジエステルとトリエステルとの混合物等を挙げることができる。
このようなトリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、特開2006−232714号公報、特開2002−275308号公報、特開平10−165152号公報等に記載の化合物を用いることができる。
本実施形態に係る親水性安定剤の市販品としては、例えば、リケマールDO−100(理研ビタミン社製)、エキセパールPE−MS(花王社製)などが挙げられる。
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物において、親水性安定剤の含有量の下限は、環状オレフィン系共重合体(P)100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.4質量部以上であることがより好ましい。親水性安定剤の含有量の上限は環状オレフィン系共重合体(P)100質量部に対して、3.0質量部以下であることが好ましく、2.5質量部以下であることがより好ましく、1.2質量部以下であることがさらに好ましい。
【0062】
[成形体]
本実施形態に係る成形体は、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)または環状オレフィン系共重合体組成物を含む成形体である。
本実施形態に係る成形体は、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)を含むため、耐熱性、透明性、ヘイズ、複屈折、耐薬品性および低吸湿性等のバランスに優れるとともに、さらに高い屈折率を有しつつ、従来の樹脂材料よりも低いアッベ数を示す。そのため、光学レンズの用途に好適である。
【0063】
本実施形態に係る成形体は光学特性に優れるため、例えば、眼鏡レンズ、fθレンズ、ピックアップレンズ、撮像用レンズ、センサーレンズ、プリズム、導光板、車載カメラレンズ等の光学レンズとして好適に用いることができ、高い屈折率を有しつつ、従来の樹脂材料よりも低いアッベ数を示すため、撮像用レンズとして特に好適に用いることができる。
撮像用レンズのユニットは、アッベ数及び屈折率の異なる複数のレンズで構成されており、一般的に、アッベ数が大きいレンズと、アッベ数が小さいレンズを複数枚組み合わせている。本実施形態に係る成形体は、高アッベ数と低アッベ数の中間領域に該当するレンズとして好適に用いることができ、レンズユニットの設計の自由度を向上しうる。
【0064】
また、本実施形態に係る成形体中の環状オレフィン系共重合体(P)の含有量は、透明性、ヘイズ、複屈折、アッベ数および屈折率の性能バランスをより向上させる観点から、当該成形体の全体を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは70質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以上100質量%以下であり、特に好ましくは90質量%以上100質量%以下である。
【0065】
本実施形態に係る成形体は、環状オレフィン系共重合体(P)を含む樹脂組成物を所定の形状に成形することにより得ることができる。環状オレフィン系共重合体(P)を含む樹脂組成物を成形して成形体を得る方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。その用途および形状にもよるが、例えば、押出成形、射出成形、圧縮成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等が適用可能である。これらの中でも、成形性、生産性の観点から射出成形法が好ましい。また、成形条件は使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、例えば射出成形における樹脂温度は、通常150℃〜400℃、好ましくは200℃〜350℃、より好ましくは230℃〜330℃の範囲で適宜選択される。
【0066】
本実施形態に係る成形体は、レンズ形状、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルムまたはシート形状等の種々の形態で使用することができる。
【0067】
本実施形態に係る成形体または環状オレフィン系共重合体組成物には、必要に応じて、本実施形態に係る成形体の良好な物性を損なわない範囲内で任意成分として公知の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、フェノール系安定剤、高級脂肪酸金属塩、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、塩酸吸収剤、金属不活性化剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、スリップ剤、核剤、可塑剤、難燃剤、リン系安定剤等を本発明の目的を損なわない程度に配合することができ、その配合割合は適宜量である。
【0068】
本実施形態に係る光学レンズは、上記光学レンズとは異なる光学レンズと組み合わせて光学レンズ系としてもよい。
すなわち、本実施形態に係る光学レンズ系は、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)を含む成形体により構成された第1の光学レンズと、上記第1の光学レンズとは異なる第2の光学レンズと、備える。
【0069】
上記第2の光学レンズとしては特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂により構成された光学レンズを用いることができる。
【0070】
以上、第一発明の実施形態について述べたが、これらは第一発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、第一発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、第一発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は第一発明に含まれるものである。
【0071】
2.第二発明
[環状オレフィン系共重合体]
まず、第二発明に係る実施形態の環状オレフィン系共重合体(P)について説明する。
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)は、炭素原子数が2〜20のα−オレフィンから導かれる構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、を有する。
【0072】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)は、炭素原子数が2〜20のα−オレフィンから導かれる構成単位(A)、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)および芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)を含むことにより、透明性を良好に保ちながら、医療用容器の耐放射線性を向上させることができる。
以上から、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)によれば、電子線あるいはガンマ線照射による変色が少なく、かつ、透明性に優れる医療用容器を得ることが可能となる。
【0073】
(エチレン由来の構成単位(A))
本実施形態に係る構成単位(A)は炭素原子数が2〜20のα−オレフィン由来の構成単位である。
ここで、炭素原子数が2〜20のα−オレフィンとしては、直鎖状でも分岐状でもよく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等の炭素原子数が2〜20の直鎖状α−オレフィン;3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン等の炭素原子数が4〜20の分岐状α−オレフィン等が挙げられる。これらの中では、炭素原子数が2〜4の直鎖状α−オレフィンが好ましく、エチレンが特に好ましい。このような直鎖状または分岐状のα−オレフィンは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)、上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)の含有量は、好ましくは10モル%以上80モル%以下、より好ましくは30モル%以上75モル%以下、さらに好ましくは40モル%以上70モル%以下である。
上記構成単位(A)の含有量が上記下限値以上であることにより、医療用容器の耐熱性や寸法安定性を向上させることができる。また、上記構成単位(A)の含有量が上記上限値以下であることにより、得られる医療用容器の成形性等を向上させることができる。
本実施形態において、構成単位(A)の含有量は、例えば、H−NMRまたは13C−NMRによって測定することができる。
【0075】
(環状オレフィン由来の構成単位(B))
本実施形態に係る構成単位(B)は芳香環を有さない環状オレフィン由来の構成単位である。本実施形態に係る構成単位(B)としては、医療用容器の屈折率をさらに向上させる観点から、下記式(B−1)で示される化合物由来の構成単位を含むことが好ましい。
【化21】
(上記式[B−1]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R〜R18ならびにRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R15〜R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。)
これらの中でも、本実施形態に係る構成単位(B)としては、ビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテン由来の構成単位、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン由来の構成単位およびヘキサシクロ[6,6,1,13,6,110,13,02,7,09,14]ヘプタデセン−4由来の構成単位等から選択される少なくとも一種の構成単位を含むことが好ましく、ビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテン由来の構成単位およびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン由来の構成単位から選択される少なくとも一種の構成単位を含むことがより好ましく、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン由来の構成単位を含むことが特に好ましい。
【0076】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)、上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、環状オレフィン系共重合体(P)中の構成単位(B)の含有量は、好ましくは5モル%以上60モル%以下、より好ましくは10モル%以上55モル%以下、さらに好ましくは15モル%以上45モル%以下である。
本実施形態において、構成単位(B)の含有量は、例えば、H−NMRまたは13C−NMRによって測定することができる。
【0077】
(芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C))
本実施形態に係る構成単位(C)は芳香環を有する環状オレフィン由来の構成単位である。
本実施形態に係る芳香環を有する環状オレフィンとしては、例えば、下記式(C−1)で示される化合物、下記式(C−2)で示される化合物、下記式(C−3)で示される化合物等が挙げられる。これらの芳香環を有する環状オレフィンは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
【化22】
【0079】
上記式(C−1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2である。nは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。qは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
〜R17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、R10〜R17のうち一つは結合手であり、R15が結合手であることが好ましい。
〜R17はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
またq=0のときR10とR11、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=1または2のときR10とR11、R11とR17、R17とR17、R17とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR16、R16とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
上記式(C−1)の中でも、下記式(C−1A)で示される化合物が好ましい。
【0080】
【化23】
【0081】
【化24】
上記式(C−2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3である。mは0または1であることが好ましく、1であることがより好ましい。nは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。qは1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
18〜R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基である。
18〜R31はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0082】
【化25】
上記式(C−3)中、qは1、2または3であり、1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
32〜R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基である。
32〜R39はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0083】
また、炭素原子数1〜20の炭化水素基としては、それぞれ独立に、例えば炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数3〜15のシクロアルキル基、および芳香族炭化水素基等が挙げられる。より具体的には、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基等が挙げられ、シクロアルキル基としてはシクロヘキシル基等が挙げられ、芳香族炭化水素基としてはフェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基等のアリール基またはアラルキル基等が挙げられる。これらの炭化水素基はフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0084】
これらの中でも、本実施形態に係る芳香環を有する環状オレフィンとしては、例えば、ベンゾノルボルナジエン、インデンノルボルネンおよびメチルフェニルノルボルネンから選択される少なくとも一種が好ましい。
【0085】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)、上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、環状オレフィン系共重合体(P)中の構成単位(C)の含有量は好ましくは0.1モル%以上50モル%以下であり、より好ましくは1モル%以上、さらに好ましくは3モル%以上であり、そしてより好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下、特に好ましくは20モル%以下である。
本実施形態において、構成単位(C)の含有量は、例えば、H−NMRまたは13C−NMRによって測定することができる。
【0086】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(C)の含有量は好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは5モル%以上70モル%以下、さらに好ましくは5モル%以上50モル%以下である。
本実施形態において、構成単位(B)および構成単位(C)の含有量は、例えば、H−NMRまたは13C−NMRによって測定することができる。
【0087】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)の共重合タイプは特に限定されないが、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等を挙げることができる。本実施形態においては、透明性や耐熱性に優れる医療用容器を得ることができる観点から、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)としてはランダム共重合体であることが好ましい。
【0088】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)は、例えば、特開昭60−168708号公報、特開昭61−120816号公報、特開昭61−115912号公報、特開昭61−115916号公報、特開昭61−271308号公報、特開昭61−272216号公報、特開昭62−252406号公報、特開昭62−252407号公報、特開2007−314806号公報、特開2010−241932号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0089】
示差走査熱量計(DSC)で測定される、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)のガラス転移温度(Tg)は、得られる医療用容器の透明性を良好に保ちつつ、耐熱性をより向上させる観点から、好ましくは120℃以上180℃以下であり、より好ましくは125℃以上170℃以下、さらに好ましくは130℃以上165℃以下である。
【0090】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)の極限粘度[η](135℃デカリン中)は、例えば0.05〜5.0dl/gであり、好ましくは0.2〜4.0dl/gであり、さらに好ましくは0.3〜2.0dl/g、特に好ましくは0.4〜1.0dl/gである。
極限粘度[η]が上記下限値以上であると、医療用容器の機械的強度を向上させることができる。また、極限粘度[η]が上記上限値以下であると、成形性を向上させることができる。
【0091】
[環状オレフィン系共重合体組成物]
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物は医療用容器を形成するための環状オレフィン系共重合体組成物であって、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)を含み、必要に応じて、環状オレフィン系共重合体(P)以外のその他の成分を含んでもよい。なお、本実施形態において、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物が環状オレフィン系共重合体(P)のみしか含まない場合も環状オレフィン系共重合体組成物と呼ぶ。
【0092】
また、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物中の環状オレフィン系共重合体(P)の含有量は、得られる医療用容器の透明性および、耐ガンマ線または耐電子線性能の性能バランスをより向上させる観点から、当該環状オレフィン系共重合体組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは70質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以上100質量%以下であり、特に好ましくは90質量%以上100質量%以下である。
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物は、環状オレフィン系共重合体(P)を上記の比率で含むことにより、得られる医療用容器について、医療用容器に求められる良好な透明性を満足しながら、耐ガンマ線または耐電子線性能をより一層向上させることができる。
【0093】
(その他の成分)
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物には、必要に応じて、耐候安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、塩酸吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、天然油、合成油、ワックス、有機または無機の充填剤等を本発明の目的を損なわない程度に配合することができ、その配合割合は適宜量である。
【0094】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物は、必要に応じて、ヒンダードアミン系化合物[D]を含んでもよい。
ヒンダードアミン系化合物[D](以下、単に、化合物[D]、あるいは、[D]とも表記する)としては、ヒンダードアミン構造(具体的には、以下の式(b1)で表される部分構造)を、1つまたは2つ以上有する化合物を適宜用いることができる。
式(b1)中、*は、他の化学構造との結合手を表す。
【0095】
【化26】
【0096】
化合物[D]として具体的には、公知のヒンダードアミン系光安定剤(Hindered Amine Light Stabilizers:略称HALS)として知られている化合物などを用いることができる。
【0097】
化合物[D]としては、例えば、国際公開第2006/112434号の段落0058〜0082に記載のヒンダードアミン系化合物、国際公開第2008/047468号の段落0124〜0186に記載のヒンダードアミン系化合物、国際公開第2008/047468号の段落0187〜0226に記載のピペリジン誘導体またはその塩、特開2006−321793号公報に記載のポリアミン誘導体またはその塩などを例示することができる。
【0098】
また、Chimassorb 2020、Chimassorb 944、Tinuvin 622、Tinuvin PA144 Tinuvin 765、Tinuvin
770(以上、BASF社製)、Cyasorb UV−3853、Cyasorb UV−3529、Cyasorb UV−3346、Cyasorb UV−531(以上、Cytec社製)、アデカスタブ LA−52、アデカスタブ LA−57、アデカスタブ LA−63P、アデカスタブ LA−68、アデカスタブ LA−72、アデカスタブ LA−77Y、アデカスタブ LA−81、アデカスタブ LA−82、アデカスタブ LA−87(以上、ADEKA社製)等の市販品を用いることができる。
【0099】
本実施形態では、化合物[D]は、以下一般式(b2)で表される構造単位を有する化合物であることが好ましい。
この化合物は、典型的にはポリマーまたはオリゴマーである。この化合物のような、ポリマーまたはオリゴマーである化合物[D]を用いることで、環状オレフィン系共重合体(P)との相溶性を高められ、組成物をより均一にすることができると考えられる。また、照射により特性吸収を有するような構造に変化しにくいと考えられる。これにより、電子線あるいはガンマ線照射による変色をより少なくし、また、電子線あるいはガンマ線照射によるラジカルの発生をより少なくできると考えられる。
【0100】
【化27】
【0101】
一般式(b2)において、XおよびXは、それぞれ独立に、2価の連結基を表す。
およびXの2価の連結基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、これらの基が連結された基、などを挙げることができる。これらの中でも、アルキレン基が好ましく、炭素数1〜6のアルキレン基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基がより好ましい。
一般式(b2)で表される構造単位を有する化合物については、市販品を用いてもよいし、対応するジオールおよびジカルボン酸などを縮重合させることで得てもよい。
【0102】
化合物[D]については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
組成物中の化合物[D]の含有量は、環状オレフィン系共重合体(P)の含有量を100質量部としたとき、例えば0.01〜2.0質量部、好ましくは0.05〜1.5質量部、より好ましくは0.10〜1.0質量部である。この範囲とすることで、他の性能(例えば成形性や機械強度など)を維持しつつ、電子線あるいはガンマ線照射による変色、ラジカルの発生などを効果的に低減することができる。
【0103】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物は、必要に応じて、リン系化合物[E]を含んでもよい。
使用可能なリン系化合物[E](以下、単に、化合物[E]、または、[E]とのみ表記することもある)については、特に制限は無い。例えば、公知のリン系酸化防止剤を用いることができる。
【0104】
リン系酸化防止剤としては、特に制限はなく、従来公知のリン系酸化防止剤(例えば、ホスファイト系酸化防止剤)を用いることができる。
具体的には、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(シクロヘキシルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレンなどのモノホスファイト系化合物;4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4’−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)、4,4’−イソプロピリデン−ビス(ジフェニルモノアルキル(C12〜C15)ホスファイト)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジ−トリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(イソデシルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(ノニルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジメチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニルホスファイト)などのジホスファイト系化合物などが挙げられる。
【0105】
好ましく用いられる化合物[E]は、3価の有機リン化合物である。より具体的には、化合物[E]は、亜リン酸(P(OH))の3つの水素原子が、各々同一または異なる有機基で置換された構造を有する化合物である。
より具体的には、化合物[E]は、好ましくは、下記一般式(c1)、(c2)または(c3)で表される化合物である。
【0106】
【化28】
【0107】
一般式(c1)、(c2)および(c3)中、
は、複数ある場合はそれぞれ独立に、アルキル基を表し、
は、複数ある場合はそれぞれ独立に、芳香族基を表し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表し、
Xは、単結合または2価の連結基を表す。
【0108】
のアルキル基は、好ましくは炭素数1〜10であり、より好ましくはt−ブチル基である。
の芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、これらがアルキル基等で置換された基などが挙げられる。
の炭素数は、好ましくは1〜30、より好ましくは3〜20、さらに好ましくは6〜18である。
として好ましくはアリール基またはアラルキル基であり、より好ましくはアラルキル基である。これらアリール基またはアラルキル基は、さらに置換基(例えば、炭素数1〜6のアルキル基やヒドロキシ基など)で置換されていてもよい。
Xが2価の連結基である場合、その具体例としては、アルキレン基(メチレン基など)やエーテル基(−O−)などが挙げられる。Xとして好ましくは単結合である。
【0109】
化合物[E]については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
組成物中の化合物[E]の含有量は、環状オレフィン系共重合体(P)の量を100質量部としたとき、例えば0.01〜1.5質量部、好ましくは0.02〜1.0質量部、より好ましくは0.05〜0.5質量部である。この範囲とすることで、他の性能(例えば成形性や機械強度など)を維持しつつ、電子線あるいはガンマ線照射による変色、ラジカルの発生などを効果的に低減することができる。
【0110】
一方、別観点として、環状オレフィン系共重合体(P)の量を100質量部としたとき、リン系化合物[E]の含有量は、好ましくは0.05質量部未満、より好ましくは0.03質量部以下、さらに好ましくは0.02質量部以下である。
【0111】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物は、環状オレフィン系共重合体(P)およびその他の成分を、押出機およびバンバリーミキサー等の公知の混練装置を用いて溶融混練する方法;環状オレフィン系共重合体(P)およびその他の成分を共通の溶媒に溶解した後、溶媒を蒸発させる方法;貧溶媒中に環状オレフィン系共重合体(P)およびその他の成分の溶液を加えて析出させる方法;等の方法により得ることができる。
【0112】
[医療用容器]
次に、本発明に係る実施形態の医療用容器について説明する。
本実施形態に係る医療用容器は環状オレフィン系共重合体(P)または本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物を含んでいる。
本実施形態に係る医療用容器は環状オレフィン系共重合体(P)を含むため、透明性および、耐ガンマ線または耐電子線性能の性能バランスに優れている。この医療用容器は、電子線あるいはガンマ線照射による変色が少ない。
ここで、本発明者らの別の検討によれば、従来の医療用容器は、電子線あるいはガンマ線照射によってラジカルが発生する場合があることが明らかになった。これにより、医療用容器に内容物の充填後に内容物が変質するリスクがあることが懸念される。
これに対して、本実施形態に係る医療用容器は、電子線あるいはガンマ線照射によるラジカルの発生量を少なくすることができる。そのため、本実施形態に係る医療用容器によれば、内容物が変質するリスクを低減することが可能である。
【0113】
また、本実施形態に係る医療用容器中の環状オレフィン系共重合体(P)の含有量は、耐放射線性および透明性の性能バランスをより向上させる観点から、当該医療用容器の全体を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは70質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以上100質量%以下であり、特に好ましくは90質量%以上100質量%以下である。
【0114】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)または本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物を成型して医療用容器を得る方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。その用途および形状にもよるが、例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等が適用可能である。これらの中でも、成形性、生産性の観点から射出成形法が好ましい。また、成形条件は使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、例えば射出成形における樹脂温度は、通常150℃〜400℃、好ましくは200℃〜350℃、より好ましくは230℃〜330℃の範囲で適宜選択される。
【0115】
また、例えば上記で製造された医療用容器に、ガンマ線または電子線を照射することで、医療用容器のガンマ線または電子線照射物(ガンマ線または電子線が照射された医療用容器)を得ることができる。この医療用容器は、照射により、殺菌または滅菌がなされているため清潔であり、かつ、変色やラジカルの発生が抑えられている。照射線量は特に限定されないが、通常は5〜100キログレイ(kGy)、好ましくは10〜80キログレイである。
【0116】
医療用容器としては、例えば、注射器の注射筒外筒(以下、シリンジ)および薬液や薬剤を充填してなる注射筒(以下、プレフィルドシリンジとも呼ぶ。)に使用されるシリンジ、薬液や薬剤を充填してなる保存容器に使用される保存容器(以下、薬液保存容器とも呼ぶ。)等が挙げられる。
【0117】
ここで、プレフィルドシリンジとは、薬液や薬剤があらかじめ充填されているシリンジ形状の製剤であり、1種類の液が充填されたシングルチャンバータイプのものと、2種の薬剤が充填されたダブルチャンバータイプがある。ほとんどのプレフィルドシリンジはシングルチャンバータイプであるが、ダブルチャンバータイプについては、粉末とその溶解液からなる液・粉タイプの製剤と2種類の液からなる液・液タイプの製剤がある。シングルチャンバータイプの内溶液の例としては、ヘパリン溶液等が挙げられる。シリンジ及びプレフィルドシリンジに使用されるシリンジとして、例えば、プレフィラブル・シリンジ、ワクチン用プレフィルドシリンジ、抗がん剤用プレフィルドシリンジ、ニードルレス・シリンジ等が挙げられる。
【0118】
薬液保存容器としては、例えば、広口瓶、狭口瓶、薬ビン、バイアルビン、輸液ボトル、バルク容器、シャーレ、試験管、分析セル等を挙げることができる。より具体的には、アンプル、プレス・スルー・パッケージ、輸液用バッグ、点滴薬容器、点眼薬容器などの液体、粉体または固体の薬品容器;血液検査用のサンプリング用試験管、採血管、検体容器などのサンプル容器;紫外線検査セルなどの分析容器;メス、鉗子、ガーゼ、コンタクトレンズなどの医療器具の滅菌容器;ディスポーザブルシリンジ、プレフィルドシリンジなどの医療用具;ビーカー、バイアル、アンプル、試験管フラスコなどの実験器具;人工臓器のハウジング等が挙げられる。
【0119】
本実施形態に係る医療用容器は透明性が良好である。透明性は、内部ヘイズで評価される。
また、さらに光線透過率が良好であることが好ましい。光線透過率は用途に応じて分光光線透過率または全光線透過率により規定される。
【0120】
全光線、あるいは複数波長域での使用が想定される場合、全光線透過率が良いことが必要であり、反射防止膜を表面に設けていない状態での全光線透過率は85%以上、好ましくは88〜93%である。全光線透過率が85%以上であれば必要な光量を確保することができる。全光線透過率の測定方法は公知の方法が適用でき、測定装置等も限定されないが、例えば、ASTM D1003に準拠して、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物を厚み3mmのシートに成形し、ヘイズメーターを用いて、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物を成形して得られるシートの全光線透過率を測定する方法等が挙げられる。
【0121】
また、本実施形態に係る医療用容器は、450nm〜800nmの波長の光の光線透過率に優れる。
なお、公知の反射防止膜を表面に設けることにより、光線透過率をさらに向上させることができる。
【0122】
以上、第二発明の実施形態について述べたが、これらは第二発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、第二発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、第二発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0123】
以上、本件各発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
なお、当然ながら、上述した本件各発明は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。
【実施例】
【0124】
<第一発明に係る実施例および比較例>
以下、本件第一発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本件第一発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0125】
<環状オレフィン系共重合体の製造>
[製造例1]
攪拌装置を備えた容積500mlのガラス製反応容器に不活性ガスとして窒素を100Nl/hrの流量で30分間流通させた後、シクロヘキサン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(40mmol、以下、テトラシクロドデセンとも呼ぶ。)、およびベンゾノルボルナジエン(88mmol、以下、BNBDとも呼ぶ。)を加えた。次いで回転数600rpmで重合溶媒を攪拌しながら溶媒温度を50℃に昇温した。溶媒温度が所定の温度に達した後、流通ガスを窒素からエチレンに切り替え、エチレンを50Nl/hr、水素を2.0Nl/hrの供給速度で反応容器に流通させ、10分経過した後に、PMAO(1.8mmol)、特開2010−241932号公報の段落0112に記載の方法で調製した触媒(0.0030mmol)をガラス製反応容器に添加し、重合を開始させた。
10分間経過した後、イソブチルアルコールを5ml添加して重合を停止させ、エチレン、テトラシクロドデセンおよびBNBDの共重合体を含む重合溶液を得た。その後、重合溶液を別に用意した容積2Lのビーカーに移液し、さらに濃塩酸5mlと攪拌子を加え、強攪拌下で2時間接触させ脱灰操作を行った。この重合溶液に対して体積で約3倍のアセトンを入れたビーカーに脱灰後の重合溶液を攪拌下加えて共重合体を析出させ、さらに析出した共重合体を濾過により濾液と分離した。得られた溶媒を含む重合体を130℃で10時間減圧乾燥を行ったところ、白色パウダー状のエチレン・テトラシクロドデセン・BNBD共重合体4.58gが得られた。
以上により、環状オレフィン系共重合体(P−1)を得た。
【0126】
[製造例2〜12]
環状オレフィン系共重合体を構成する各構成単位の含有量の値が表1に記載の値になるように調整した以外は、製造例1と同様に操作を行い、表1に記載の環状オレフィン系共重合体(P−2)〜(P−11)をそれぞれ得た。
また、環状オレフィン系共重合体(P−10)と環状オレフィン系共重合体(P−11)を質量比1:1で混合することにより環状オレフィン系共重合体(P−12)を作製した(製造例12)。
ここで、表1におけるBNBDは下記式(1)で示されるベンゾノルボルナジエンを意味し、IndNBは下記式(2)で示されるインデンノルボルネンを意味する。MePhNBは下記式(3)で示されるメチルフェニルノルボルネンを意味する。
【0127】
【化29】
【0128】
【化30】
【化31】
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
<実施例1〜9および比較例1、2>
各実施例および比較例において、各種物性は下記の方法によって測定または評価し、得られた結果を表2に示した。
【0132】
[環状オレフィン系共重合体を構成する各構成単位の含有量の測定方法]
エチレン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンおよび芳香環を有する環状オレフィンの含有量は、日本電子社製「ECA500型」核磁気共鳴装置を用い、下記条件で測定することにより行った。
溶媒:重テトラクロロエタン
サンプル濃度:50〜100g/l−solvent
パルス繰り返し時間:5.5秒
積算回数:6000〜16000回
測定温度:120℃
上記のような条件で測定した13C−NMRスペクトルにより、エチレン、テトラシクロドデセンおよび芳香環を有する環状オレフィンの組成をそれぞれ定量した。
【0133】
[ガラス転移温度Tg(℃)]
島津サイエンス社製、DSC−6220を用いてN(窒素)雰囲気下で環状オレフィン系共重合体のガラス転移温度Tgを測定した。環状オレフィン系共重合体を常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で−20℃まで降温した後に5分間保持した。そして10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際の吸熱曲線から環状オレフィン系共重合体のガラス転移点(Tg)を求めた。
【0134】
[極限粘度[η]]
移動粘度計(離合社製、タイプVNR053U型)を用い、環状オレフィン系共重合体の0.25〜0.30gを25mlのデカリンに溶解させたものを試料とした。ASTM J1601に準じ135℃にて環状オレフィン系共重合体の比粘度を測定し、これと濃度との比を濃度0に外挿して環状オレフィン系共重合体の極限粘度[η]を求めた。
【0135】
[マイクロコンパウンダー成形]
製造例1〜10および12の環状オレフィン系共重合体を、Xplore Instruments社製の小型混練機を用いて、混練温度=280℃、50rpmで5分間混練後、Xplore Instruments社製の射出成形機を用いて、シリンダー温度280℃、射出圧力=12〜15bar、金型温度135℃の条件にて射出成形し、厚み1.0mmの射出成形シートをそれぞれ作製した。
【0136】
[内部ヘイズ]
マイクロコンパウンダーで成形した30mm×30mm×厚み1.0mmの射出成形シートを用いて、ベンジルアルコールを使用し、JIS K7136に基づいて測定した。次いで、以下の基準で内部ヘイズをそれぞれ評価した。
○:5%未満
×:5%以上
【0137】
[複屈折]
マイクロコンパウンダーで成形した30mm×30mm×厚み1.0mmの射出成形シートについて、王子計測機器社製のKOBRA CCDを用いて、測定波長650nmで、ゲート方向から20〜35mmの位相差の平均値を求めた。
次いで、以下の基準で複屈折をそれぞれ評価した。
◎:位相差の平均値が30nm未満
○:位相差の平均値が30nm以上40nm未満
×:位相差の平均値が40nm以上
【0138】
[屈折率]
屈折率計(島津サイエンス社製 KPR200)を用いて、ASTM D542に準じて、マイクロコンパウンダーで成形した30mm×30mm×厚み1.0mmの射出成形シートの波長589nmにおける屈折率(nd)をそれぞれ測定した。
【0139】
[アッベ数(ν)]
マイクロコンパウンダーで成形した30mm×30mm×厚み1.0mmの射出成形シートについて、アッベ屈折計を用い、23℃下での波長486nm、589nmおよび656nmの屈折率を測定し、さらに下記式を用いてアッベ数(ν)を算出した。
ν=(nD−1)/(nF−nC)
nD:波長589nmでの屈折率
nC:波長656nmでの屈折率
nF:波長486nmでの屈折率
【0140】
<実施例10>
親水性安定剤として、トリグリセリン脂肪酸エステル(トリグリセリンとオレイン酸とのエステルであるトリグリセリンオレート(モノエステルとジエステルとトリエステルの混合物、エステル比はモノエステル41%、ジエステル49%、トリエステル10%))を100℃で4時間加熱した溶融状態で、環状オレフィン系共重合体(P−1)100質量部に対して0.6質量部の量で直接押出機に装入し、環状オレフィン系共重合体(P−1)とトリグリセリンとオレイン酸とのエステルの蒸留品を含んでなる樹脂組成物を得た。
具体的には、同方向回転、スクリュー径12mmφ、樹脂装入部からL/D=34の位置にベント孔があるL/D=48の二軸押出機を用い、環状オレフィン系共重合体(P−1)を樹脂装入部より装入し、次いで、80〜120℃で加温溶融させた上記トリグリセリン脂肪酸エステルをベント孔から装入し、スクリュー回転数150rpm、モータ動力2.2kWの条件で溶融混練し、樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でガラス転移温度、極限粘度[η]を測定した。結果を表3に示す。
【0141】
<実施例11>
表3に記載のように、トリグリセリン脂肪酸エステルを環状オレフィン系共重合体(P−1)100質量部に対し0.8質量部の量で用いた以外は実施例10と同様にして樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でガラス転移温度、極限粘度[η]を測定した。結果を表3に示す。
【0142】
<実施例12>
表3に記載のように、トリグリセリン脂肪酸エステルを環状オレフィン系共重合体(P−1)100質量部に対し1.0質量部の量で用いた以外は実施例10と同様にして樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でガラス転移温度、極限粘度[η]を測定した。結果を表3に示す。
【0143】
<実施例13>
表3に記載のように、親水性安定剤としてトリグリセリン脂肪酸エステルに変えてリケマールDO−100(理研ビタミン社製、主成分はジグリセリンモノオレート)を環状オレフィン系共重合体(P−1)100質量部に対し0.6質量部の量で用いた以外は実施例10と同様にして樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でガラス転移温度、極限粘度[η]を測定した。結果を表3に示す。
【0144】
<実施例14>
表3に記載のように、親水性安定剤としてトリグリセリン脂肪酸エステルに変えてリケマールDO−100を環状オレフィン系共重合体(P−1)100質量部に対し1.0質量部の量で用いた以外は実施例10と同様にして樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でガラス転移温度、極限粘度[η]を測定した。結果を表3に示す。
【0145】
<実施例15>
表3に記載のように、親水性安定剤としてトリグリセリン脂肪酸エステルに変えてエキセパールPE−MS(花王社製、主成分はペンタエリスリトールモノステアレート)を環状オレフィン系共重合体(P−1)100質量部に対し1.8質量部の量で用いた以外は実施例10と同様にして樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でガラス転移温度、極限粘度[η]を測定した。結果を表3に示す。
【0146】
<実施例16>
表3に記載のように、親水性安定剤としてトリグリセリン脂肪酸エステルに変えてエキセパールPE−MSを環状オレフィン系共重合体(P−1)100質量部に対し2.4質量部の量で用いた以外は実施例10と同様にして樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でガラス転移温度、極限粘度[η]を測定した。結果を表3に示す。
【0147】
<実施例17>
表3に記載のように、環状オレフィン系共重合体(P−1)に変えて環状オレフィン系共重合体(P−5)を用いた以外は実施例10と同様にして樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でガラス転移温度、極限粘度[η]を測定した。結果を表3に示す。
【0148】
<実施例18>
表3に記載のように、環状オレフィン系共重合体(P−1)に変えて環状オレフィン系共重合体(P−5)を用いた以外は実施例12と同様にして樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でガラス転移温度、極限粘度[η]を測定した。結果を表3に示す。
【0149】
<実施例19>
表3に記載のように、環状オレフィン系共重合体(P−1)に変えて環状オレフィン系共重合体(P−8)を用いた以外は実施例10と同様にして樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でガラス転移温度、極限粘度[η]を測定した。結果を表3に示す。
【0150】
<実施例20>
表3に記載のように、環状オレフィン系共重合体(P−1)に変えて環状オレフィン系共重合体(P−8)を用いた以外は実施例12と同様にして樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でガラス転移温度、極限粘度[η]を測定した。結果を表3に示す。
【0151】
<表3における実施例1、5、8、10〜20の評価方法>
(成形体の製造方法)
射出成形機(メイホー社製 Micro−2)を用いて、シリンダー温度320℃で、樹脂組成物を射出成形し、25mm×25mm×厚み2mmtの成形体(テストピース)をそれぞれ作製した。金型温度は135℃に設定した。
【0152】
[屈折率・アッベ数]
屈折率計(島津サイエンス社製 KPR3000)を用いて、ASTM D542に準じて、成形した25mm×25mm×厚み2mmtのテストピースの波長486nm、589nmおよび656nmにおける屈折率(nd)を測定した。さらに下記式を用いてアッベ数(ν)を算出した。結果を表2に示す。
ν=(nD−1)/(nF−nC)
nD:波長589nmでの屈折率
nC:波長656nmでの屈折率
nF:波長486nmでの屈折率
【0153】
[内部ヘイズ]
成形体の内部ヘイズを、ベンジルアルコールを使用し、JIS K−7136に基づいて測定した。次いで、以下の基準で内部ヘイズをそれぞれ評価した。結果を表2に示す。
〇:5%未満
×:5%以上
【0154】
[複屈折]
成形した25mm×25mm×厚み2mmtのテストピースについて、王子計測機器社製のKOBRA CCDを用いて、測定波長650nmで、ゲート方向から20〜35mmの位相差の平均値を求めた。結果を表2に示す。
次いで、以下の基準で複屈折をそれぞれ評価した。
◎:位相差の平均値が10nm未満
○:位相差の平均値が10nm以上20nm未満
×:位相差の平均値が20nm以上
【0155】
[環境試験後の外観]
成形した25mm×25mm×厚み2mmtのテストピースを温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下に48時間放置した。その後取り出し、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下に48時間放置後にヘイズを測定した。結果を表2に示す。
環境試験後のヘイズから環境試験前のヘイズを差し引いた変化量(以下、Δヘイズ)を以下の基準でそれぞれ評価した。
◎:5%未満
〇:5%以上
【0156】
【表3】
【0157】
以上のように、実施例で得られた光学レンズは、高い屈折率を有しつつ、比較例1で得られた光学レンズよりも低いアッベ数であった。すなわち、実施例で得られた光学レンズは光学レンズに求められる諸特性を満たしつつ、高い屈折率および低いアッベ数を示した。一方、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)を含まない環状オレフィン系共重合体を用いた比較例1の光学レンズはアッベ数が高く、目的とする光学レンズが得られなかった。比較例2の光学レンズは内部ヘイズが悪く、光学特性に劣っていた。
【0158】
<第二発明に係る実施例および比較例>
以下、本件第二発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本件第二発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0159】
<環状オレフィン系共重合体の製造>
[製造例13]
攪拌装置を備えた容積500mlのガラス製反応容器に不活性ガスとして窒素を100Nl/hrの流量で30分間流通させた後、シクロヘキサン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(19mmol、以下、テトラシクロドデセンとも呼ぶ。)、およびインデンノルボルネン(8.0mmol、以下、IndNBとも呼ぶ。)を加えた。次いで回転数600rpmで重合溶媒を攪拌しながら溶媒温度を50℃に昇温した。溶媒温度が所定の温度に達した後、流通ガスを窒素からエチレンに切り替え、エチレンを50Nl/hr、水素を0.5Nl/hrの供給速度で反応容器に流通させ、10分経過した後に、MMAO(Modified MethylAluminoxane)(0.9mmol)、特開2010−241932号公報の段落0112に記載の方法で調製した触媒(0.0030mmol)をガラス製反応容器に添加し、重合を開始させた。
10分間経過した後、イソブチルアルコールを5ml添加して重合を停止させ、エチレン、テトラシクロドデセンおよびIndNBの共重合体を含む重合溶液を得た。その後、重合溶液を別に用意した容積2Lのビーカーに移液し、さらに濃塩酸5mlと攪拌子を加え、強攪拌下で2時間接触させ脱灰操作を行った。この重合溶液に対して体積で約3倍のアセトンを入れたビーカーに脱灰後の重合溶液を攪拌下加えて共重合体を析出させ、さらに析出した共重合体を濾過により濾液と分離した。得られた溶媒を含む重合体を130℃で10時間減圧乾燥を行ったところ、白色パウダー状のエチレン・テトラシクロドデセン・インデンノルボルネン共重合体0.58gが得られた。
以上により、環状オレフィン系共重合体(P−13)を得た。
【0160】
[製造例14〜21]
環状オレフィン系共重合体を構成する各構成単位の含有量の値が表4に記載の値になるように調整した以外は、製造例13と同様に操作を行い、表4に記載の環状オレフィン系共重合体(P−14)〜(P−21)をそれぞれ得た。
ここで、表4におけるBNBDは下記式(1)で示されるベンゾノルボルナジエンを意味し、IndNBは下記式(2)で示されるインデンノルボルネンを意味する。MePhNBは下記式(3)で示されるメチルフェニルノルボルネンを意味する。
【0161】
【化32】
【0162】
【化33】
【0163】
【化34】
【0164】
<実施例21〜28および比較例3>
各実施例および比較例において、各種物性は下記の方法によって測定または評価し、得られた結果を表4に示した。
【0165】
[環状オレフィン系共重合体を構成する各構成単位の含有量の測定方法]
エチレン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンおよび芳香環を有する環状オレフィンの含有量は、日本電子社製「ECA500型」核磁気共鳴装置を用い、下記条件で測定することにより行った。
溶媒:重テトラクロロエタン
サンプル濃度:50〜100g/l−solvent
パルス繰り返し時間:5.5秒
積算回数:6000〜16000回
測定温度:120℃
上記のような条件で測定した13C−NMRスペクトルにより、エチレン、テトラシクロドデセンおよび芳香環を有する環状オレフィンの組成をそれぞれ定量した。
【0166】
[ガラス転移温度Tg(℃)]
島津サイエンス社製、DSC−6220を用いてN(窒素)雰囲気下で環状オレフィン系共重合体のガラス転移温度Tgを測定した。環状オレフィン系共重合体を常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で−20℃まで降温した後に5分間保持した。そして10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際の吸熱曲線から環状オレフィン系共重合体のガラス転移点(Tg)を求めた。
【0167】
[極限粘度[η]]
移動粘度計(離合社製、タイプVNR053U型)を用い、環状オレフィン系共重合体の0.25〜0.30gを25mlのデカリンに溶解させたものを試料とした。ASTM J1601に準じ135℃にて環状オレフィン系共重合体の比粘度を測定し、これと濃度との比を濃度0に外挿して環状オレフィン系共重合体の極限粘度[η]を求めた。
【0168】
(環状オレフィン系共重合体組成物の評価)
[プレス成形]
上記製造例13〜21で得られたパウダーを、東洋精機社製のハンドプレス機を用いて、250℃の条件でプレス成形し、厚み2mmの角板試験片を作製した。
【0169】
[ガンマ線照射]
上記で得られた厚み2mm角板試験片に、ガンマ線20kGyまたは50kGyを照射した。
【0170】
[透明性]
得られた厚み2mmの角板試験片と、ガンマ線照射直後の試験片の内部ヘイズを測定し、以下の基準で透明性をそれぞれ評価した。
内部ヘイズは、ヘイズ計(日本電色工業社製NDH−20D)を用い、ベンジルアルコール中でそれぞれ測定した。
〇:内部ヘイズが6.0%未満
×:目視で試験片が白濁しているもの、または内部ヘイズが6.0%以上
【0171】
[評価:ガンマ線照射直後の色相]
ガンマ線照射直後の試験片を、20mmの厚みで白色紙上に積み上げた。このときの色相および明度を目視評価した。
色相はマンセル表色系に準じた。評価の基準は以下のとおりとした。
○(良い):明度が7〜9.5で、かつ、色相が5.0GY〜10GYの間である。
△(普通):明度が5〜9.5で、かつ、色相が5Y〜5GYの間である。ただし、上記の○(良好)に該当する場合を除く。
×(悪い):明度が0以上5未満である、かつ/または、色相が2.5Y〜5Yの間である。ただし、上記の△(普通)に該当する場合を除く。
【0172】
上記の評価基準について補足しておく。
明度については、その値が大きいほうが、白色に近く、変色が抑えられていることが明らかである。
色相については、特に医療容器として用いることを考慮した場合、黄色は患者に不潔な印象を与えるとして敬遠されることから、黄色より緑色のほうが好ましいとした。
【0173】
[評価:ガンマ線照射5日後および1カ月後のラジカル量]
ガンマ線照射5日後および1カ月後の試料のラジカル量は、電子スピン共鳴法(Electron Spin Rssonance(ESR))により測定した。
具体的には、20kGyおよび50kGyの線量のガンマ線を照射した5日後および1カ月後の試験片を約6mg切り出し、それを試験管(詳細は以下)に入れて、以下条件でESRスペクトルを測定した。
【0174】
・装置:日本電子製電子スピン共鳴装置 JES−TE200
・共振周波数:9.2GHz
・マイクロ波入力:1mW
・中心磁場:326.5mT
・掃引幅:±15mT
・変調周波数:100kHz
・掃引時間:8min.
・時定数:0.1sec
・増幅度:25
・試料管:Xバンド対応の先端部石英の試料管
・外部照準:酸化マグネシウムに担持されたMn2+標準サンプル
・外部標準メモリ:0、700
・測定温度:室温
・測定雰囲気:大気
【0175】
ラジカル発生量の相対比較には、下記式に示される規格化値を用いた。
【0176】
【数1】
【0177】
なお、ESRスペクトルのベースラインについては、Mn2+(第2シグナル)を基準とし補正した。
通常、ラジカル量の相対比較において、基準となるMn2+由来シグナルの面積はMn2+(第3シグナル)を用いる。しかし、有機ラジカル由来ラジカルのスペクトルと、Mn2+(第3シグナル)とが重なるため、今回の測定ではすべてMn2+(第2シグナル)を用いた(外部標準メモリ=700)。
また、有機ラジカル由来シグナルがMn2+(第3シグナル)と重なった場合は、外部標準メモリ=0のESRスペクトルを用いて算出した。
【0178】
【表4】
【0179】
以上のように、実施例21〜28で得られた環状オレフィン系共重合体組成物により構成された成形体(シート)は透明性および、耐ガンマ線性能の性能バランスに優れていた。一方、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)を含まない環状オレフィン系共重合体を用いた比較例3は透明性および耐ガンマ線性能の性能バランスに劣っていた。
【0180】
この出願は、2017年11月29日に出願された日本出願特願2017−228675号および2018年7月24日に出願された日本出願特願2018−138691号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。