特許第6812749号(P6812749)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6812749
(24)【登録日】2020年12月21日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】線条体の巻取装置および巻取方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 67/052 20060101AFI20201228BHJP
【FI】
   B65H67/052
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-207832(P2016-207832)
(22)【出願日】2016年10月24日
(65)【公開番号】特開2018-70274(P2018-70274A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 仁広
(72)【発明者】
【氏名】高見澤 宏史
【審査官】 國武 史帆
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭54−032787(JP,U)
【文献】 特開2009−062169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 67/00 − 67/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線条体を巻き取るボビンと、
前記ボビンを支持して回転させる支持部と、
前記支持部に固定されたボビン固定部と、
揺動可能に前記ボビン固定部に支点が支持された端末把持機構と、
を有し、
前記端末把持機構は、前記ボビン固定部に設けられた固定板との隙間で前記線条体の端末を挟み込む把持部を備え、
前記ボビンの回転により発生する遠心力が前記端末把持機構に作用して前記端末を挟み込む方向に揺動し前記端末を把持し、
前記ボビンが外されたときの前記把持部は、前記ボビンが取り付けられているときの状態から挟み込む方向とは逆向きに変位する、線条体の巻取装置。
【請求項2】
前記端末把持機構は、前記遠心力が作用していないときも前記隙間が広がらないように調整する隙間調整部を有する、請求項1に記載の線条体の巻取装置。
【請求項3】
前記隙間は、奥が狭くなるテーパの溝状に形成され、
前記把持部または前記固定板の少なくとも一部が弾性体である、請求項1または請求項2に記載の線条体の巻取装置。
【請求項4】
線条体を巻き取るボビンと、
前記ボビンを支持して回転させる支持部と、
前記支持部に固定されたボビン固定部と、
揺動可能に前記ボビン固定部に支点が支持された端末把持機構と、
を有し、
前記端末把持機構は、前記支点の両側に延在する二つの腕部を有し、
一方の前記腕部は、前記ボビンの一部に当接可能な当接部が設けられ、
他方の前記腕部は、前記ボビンの径方向に沿った直線部と該直線部の先端側が前記固定板側に湾曲した湾曲部と該湾曲部の先端の前記把持部とが設けられており、
前記端末把持機構の重心は、前記他方の腕部の前記直線部において前記支点から前記ボビンの径方向に平行な線よりも前記ボビンとは反対側に存在する、線条体の巻取装置。
【請求項5】
二つのボビンのうちの一方のボビンを巻取ボビンとして線条体を巻き取る巻取工程と、
前記巻取工程において、前記巻取ボビンと共に回転する端末把持機構が回転によって発生する遠心力により変位して、前記巻取ボビンと共に回転する固定板との隙間で前記線条体の端末を挟み込んで固定する端末固定工程と、
前記巻取ボビンに前記線条体を所定量巻き取った後、前記線条体を切断して前記線条体を巻き取る巻取ボビンを他方のボビンに切り替える切替工程と、
前記線条体を所定量巻き取った一方のボビンの回転を停止させて前記一方のボビンを前記端末把持機構から取り外す取外工程と、
を含み、
前記取外工程において、前記端末把持機構から前記一方のボビンが取り外されたとき、前記端末把持機構は、前記線条体の端末を前記隙間に挟み込む方向とは逆向きに変位する、線条体の巻取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線条体を巻き取る巻取装置および巻取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線条体をボビンに巻き取る線条体の巻取装置が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−62169号公報
【特許文献2】特開2005−200114号公報
【特許文献3】特開平11−209001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、上記特許文献1〜3に記載された線条体の巻取装置は、電線、光ファイバ等の連続的に送られてくる線条体をボビンに巻き取る際に、所定量の巻き取りを終えた(満巻きされた)ボビンから、新しく巻き取りを開始する空のボビンに、線条体の走行を中断することなく巻き取りを切り替えている。
上記のように、線条体を巻き取るボビンを切り替える際に、切断された線条体の端末を固定するための爪を備えた爪ホイールによって線条体の端末を把持して、新しい空のボビンで線条体を巻き取るようにしている。このとき、切断された線条体の端末の把持に失敗するとこの端末がボビンに巻かれた線条体に当たり、巻き取った線条体に外傷を与えるおそれがある。特に線条体が光ファイバである場合は、巻き取られた光ファイバが低強度になるかもしくは破断する。このため巻き取られた光ファイバを廃棄しなければならず、無駄が生じていた。
【0005】
本発明は、線条体の端末を確実に把持することができる線条体の巻取装置および巻取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る線条体の巻取装置は、
線条体を巻き取るボビンと、
前記ボビンを支持して回転させる支持部と、
前記支持部に固定されたボビン固定部と、
揺動可能に前記ボビン固定部に支点が支持された端末把持機構と、
を有し、
前記端末把持機構は、前記ボビン固定部に設けられた固定板との隙間で前記線条体の端末を挟み込む把持部を備え、
前記ボビンの回転により発生する遠心力が前記端末把持機構に作用して前記端末を挟み込む方向に揺動し前記端末を把持する。
【0007】
また、本発明の一態様に係る線条体の巻取装置は、線条体を巻き取るボビンと、
前記ボビンを支持して回転させる支持部と、
前記支持部に固定されたボビン固定部と、
揺動可能に前記ボビン固定部に支点が支持された端末把持機構と、
を有し、
前記端末把持機構は、前記支点の両側に延在する二つの腕部を有し、
一方の前記腕部は、前記ボビンの一部に当接可能な当接部が設けられ、
他方の前記腕部は、前記ボビンの径方向に沿った直線部と該直線部の先端側が前記固定板側に湾曲した湾曲部と該湾曲部の先端の前記把持部とが設けられており、
前記端末把持機構の重心は、前記他方の腕部の前記直線部において前記支点から前記ボビンの径方向に平行な線よりも前記ボビンとは反対側に存在する。
【0008】
また、本発明の一態様に係る線条体の巻取方法は、
二つのボビンのうちの一方のボビンを巻取ボビンとして線条体を巻き取る巻取工程と、
前記巻取工程において、前記巻取ボビンと共に回転する端末把持機構が回転によって発生する遠心力により前記線条体に対する把持力を生成させて前記線条体の端末を固定する端末固定工程と、
前記巻取ボビンに前記線条体を所定量巻き取った後、前記線条体を切断して前記線条体を巻き取る巻取ボビンを他方のボビンに切り替える切替工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0009】
上記発明によれば、線条体の端末を確実に把持することができる。これにより、線条体が光ファイバの場合、巻き取られた光ファイバの強度劣化や破断を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る線条体の巻取装置の概略構成図である。
図2】線条体の巻取装置における把持機構の一例を示す部分拡大図である。
図3】本実施形態に係る線条体の巻取方法の一工程を説明する図である。
図4】本実施形態に係る線条体の巻取方法の一工程を説明する図である。
図5】本実施形態に係る線条体の巻取方法の一工程を説明する図である。
図6】本実施形態に係る線条体の巻取方法の一工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の実施形態の説明)
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
本発明の一態様に係る線条体の巻取装置は、
(1)線条体を巻き取るボビンと、
前記ボビンを支持して回転させる支持部と、
前記支持部に固定されたボビン固定部と、
揺動可能に前記ボビン固定部に支点が支持された端末把持機構と、
を有し、
前記端末把持機構は、前記ボビン固定部に設けられた固定板との隙間で前記線条体の端末を挟み込む把持部を備え、
前記ボビンの回転により発生する遠心力が前記端末把持機構に作用して前記端末を挟み込む方向に揺動し前記端末を把持する。
上記構成によれば、端末把持機構は、ボビンの回転により発生する遠心力が作用して線条体の端末を挟み込む方向に揺動して把持力を生成させ、線条体の端末を確実に把持することができる。これにより、端末把持機構の隙間から外れた線条体の端末がボビンに巻かれた線条体に当たり、巻き取った線条体に外傷を与えるおそれを低減することができる。
【0012】
(2)前記端末把持機構は、前記遠心力が作用していないときも前記隙間が広がらないように調整する隙間調整部を有することが好ましい。
端末把持機構は、遠心力が作用していないときも隙間が広がらないように調整する隙間調整部を有するので、ボビンが回転していないときや回転が遅くなったときなどでも、隙間の幅を不要に広げて、線条体の端末が外れてしまうことを防ぐことができる。
【0013】
(3)前記隙間は、奥が狭くなるテーパの溝状に形成され、
前記把持部または前記固定板の少なくとも一部が弾性体であることが好ましい。
隙間が奥が狭くなるテーパの溝状に形成され、把持部または固定板の少なくとも一部が弾性体であり、弾性体の柔らかさによって硬い線条体を挟むので、把持部または固定板の表面に傷や破損が生じることを防ぐことができる。
【0014】
(4)前記ボビンが外されたときの前記把持部は、前記ボビンが取り付けられているときの状態から挟み込む方向とは逆向きに変位することが好ましい。
巻取装置からボビンを取り外すと、把持部が線条体の端末を挟み込む方向とは逆向きに変位するので、線条体の端末が端末把持機構の隙間から外れる。このため、力を加えて隙間から線条体の端末を外す作業が省略できるので、作業性が向上する。
【0015】
また、本発明の一態様に係る線条体の巻取装置は、
(5)線条体を巻き取るボビンと、
前記ボビンを支持して回転させる支持部と、
前記支持部に固定されたボビン固定部と、
揺動可能に前記ボビン固定部に支点が支持された端末把持機構と、
を有し、
前記端末把持機構は、前記支点の両側に延在する二つの腕部を有し、
一方の前記腕部は、前記ボビンの一部に当接可能な当接部が設けられ、
他方の前記腕部は、前記ボビンの径方向に沿った直線部と該直線部の先端側が前記固定板側に湾曲した湾曲部と該湾曲部の先端の前記把持部とが設けられており、
前記端末把持機構の重心は、前記他方の腕部の前記直線部において前記支点から前記ボビンの径方向に平行な線よりも前記ボビンとは反対側に存在する。
上記構成によれば、端末把持機構は、その重心が他方の腕部の直線部における支点からボビンの径方向に平行な線よりもボビンとは反対側に存在しているので、ボビンの回転により発生する遠心力が重心に加わり、重心において固定板側に揺動する分力が発生して線条体の端末を挟み込む把持力を生成させることができる。
【0016】
また、本発明の一態様に係る線条体の巻取方法は、
(6)二つのボビンのうちの一方のボビンを巻取ボビンとして線条体を巻き取る巻取工程と、
前記巻取工程において、前記巻取ボビンと共に回転する端末把持機構が回転によって発生する遠心力により前記線条体に対する把持力を生成させて前記線条体の端末を固定する端末固定工程と、
前記巻取ボビンに前記線条体を所定量巻き取った後、前記線条体を切断して前記線条体を巻き取る巻取ボビンを他方のボビンに切り替える切替工程と、
を含む。
上記方法によれば、線条体を巻き取るボビンを切り替える際に、切断された線条体の端末の把持が失敗することを防いで、線条体の端末がボビンに巻かれた線条体に当たって巻き取った線条体に外傷を与えるおそれを低減することができる。
【0017】
(本発明の実施形態の詳細)
本発明の実施形態に係る線条体の巻取装置および線条体の巻取方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0018】
図1は、線条体の巻取装置に空のボビンがセットされた状態を示す図である。図2は、図1におけるA部の部分拡大図であり、線条体を把持する把持機構を示す。
図1に示すように、線条体の巻取装置1は、線条体を巻き取るためのボビン2と、ボビン2を支持するボビン駆動軸3(支持部の一例)と、ボビン2を固定する爪ホイール4(ボビン固定部の一例)と、線条体の端末を把持するための爪ユニット5(端末把持機構の一例)とを備えている。
【0019】
ボビン2は、線条体が巻き付けられる胴部21と、胴部21の両端部にそれぞれ設けられた円盤状の鍔部22とを備えている。胴部21は、円筒状に形成されており、ボビン駆動軸3に取り付け可能に構成されている。
【0020】
ボビン駆動軸3は、水平方向に配置されており、駆動装置(図示省略)によって回転駆動されるように構成されている。ボビン駆動軸3は、取り付けられたボビン2を支持し、ボビン駆動軸3周りにボビン2を回転させる。
【0021】
爪ホイール4は、ボビン駆動軸3に固定されており、ボビン駆動軸3と一体に回転するように構成されている。爪ホイール4は、ボビン2の鍔部22と対向するように配置されている。爪ホイール4には、ボビン駆動軸3方向へ突出する固定凸部41が設けられており、ボビン2の一方の鍔部22に形成された凹部が固定凸部41に嵌合されることで、ボビン2が爪ホイール4に固定されるように構成されている。
【0022】
爪ホイール4の固定凸部41に固定されたボビン2は、他方の鍔部22側から押えコーン31が押し込まれることでボビン駆動軸3に固定され、ボビン駆動軸3と共に回転するように構成されている。
【0023】
爪ユニット5は、支点ピン51(支点の一例)を介して爪ホイール4に支持されており、支点ピン51を支点として揺動可能に構成されている。爪ユニット5は、爪ホイール4側に取り付けられる鍔部22の径方向における外周側の位置に設けられている。
【0024】
図2に示すように、爪ユニット5は、支点ピン51を挟んだ両側(図において上下側)に延在する二つの腕部52,53を有している。
【0025】
腕部52には、ボビン2の鍔部22に向かって突出する当接部54が設けられている。当接部54は、鍔部22の一部に当接可能に構成されており、鍔部22に当接することで爪ユニット5が、図2における反時計方向へ揺動するのを規制する。爪ユニット5には、当接部54の鍔部22との当接面に直交する方向の長さLを調整することが可能な隙間調整部55が設けられている。
【0026】
もう一方の腕部53は、ボビン2の径方向に沿って伸びる直線部53aと、この直線部53aの先端側が湾曲してボビン駆動軸3方向に沿って伸びる湾曲部53bとを有している。湾曲部53bは、鍔部22の厚さ方向(ボビン駆動軸3方向)において、鍔部22の内側側面近くの位置まで伸びている。湾曲部53bの先端には、線条体の巻始め端末を挟むための爪部56(把持部の一例)が設けられている。爪部56の少なくとも一部は、弾性体で形成されている。弾性体としては、ゴム等の材料が好ましいが、この他に例えば板バネ等を用いてもよい。
【0027】
爪ホイール4の外周部には、ボビン駆動軸3方向と同じ方向に伸びる外周壁42が形成されている。外周壁42は、爪ユニット5の湾曲部53bの外側を覆うように形成されている。外周壁42の先端には、ボビン2の鍔部22方向に伸びる環状壁43が形成されている。環状壁43には、線条体の巻始め端末を挟むための固定板44が、爪ユニット5の先端に設けられた爪部56と対向するように設けられている。
【0028】
固定板44と爪部56との間には、線条体が進入可能な隙間45が形成されている。隙間45は、入口(ボビン2の鍔部22に近い側)から奥に向かって徐々に狭くなるテーパの溝状に形成されている。隙間45は、入口の幅が線条体が進入可能な大きさに形成されており、奥の幅が線条体が通り抜けられない大きさに形成されている。固定板44と爪部56とは、このような構成の隙間45に差し込まれた線条体の巻始め端末を両側から挟み込む。なお、固定板44は、例えば弾性体で形成されるようにしてもよい。
【0029】
爪ユニット5は、重心57の位置が腕部53の直線部53aに存在するように構成されている。爪ユニット5は、その重心57の位置が、支点ピン51を通ってボビン2の径方向へ平行に引かれた線Bよりもボビン2とは反対側に配置されるように爪ホイール4に支持されている。このため、ボビン2の回転に伴って爪ユニット5の重心57に遠心力F1が発生した場合、その分力として腕部53を固定板44側に揺動させる分力F2が発生することになる。
【0030】
次に、上記巻取装置1を用いて行う線条体の巻取方法について、図3図6を用いて(適宜図1、2を参照して)説明する。図3図6の各図において、上方の図は、ボビン2(2A,2B)を側面方向から見た横断面図であり、下方の図は、同じくボビン2(2A,2B)を上面方向から見た平面図である。図に並べて示される2つのボビン2A,2Bは、線条体10の走行が中断されることなく巻取りが切り替えられるように構成されている。
【0031】
図3は、左側のボビン2Aで最初の巻取りを開始する場合であり、次に巻取るボビン2Bが右側に配置され、線条体10を案内するトラバースローラ6がボビン2Aと2Bの中間位置に配置されている。先ず、線条体10の巻始め端末10aが、爪ホイール4Aに形成された隙間45A(図2の隙間45参照)に係止され、ボビン駆動軸3(図1参照)の駆動によりボビン2Aが例えば図3の矢印で示すように時計回りに回転する。なお、巻取りの開始時は、例えば作業者が線条体10の巻始め端末10aを隙間45Aに係止させる。
【0032】
線条体10の巻取りが開始されると、図4に示すように、トラバースローラ6がボビン2Aに対してボビン駆動軸3方向(下方の図の矢印方向)に移動する。トラバースローラ6の移動に伴って線条体10のパスラインがボビン2Aの胴部21Aに沿って移動する。
【0033】
また、線条体10の巻取りが開始されると、図2で示したように、ボビン2Aおよび爪ホイール4Aと共に回転する爪ユニット5に遠心力が加わり、爪ユニット5の重心57において遠心力F1が発生する。また、遠心力F1の発生とともに、爪ユニット5の重心57において、支点ピン51と重心57とを結ぶ方向の分力F3と、分力F3に直交する方向の分力F2が発生する。この分力F2が、支点ピン51を回転軸として爪ユニット5を固定板44方向(時計回り)に回転させる回転力となる。
【0034】
この回転力は、爪ユニット5の先端である爪部56を固定板44側に押し付けるように作用し、爪部56と固定板44との隙間45Aを狭めるように作用する。すなわち、回転力は、線条体10の巻始め端末10aを挟み込む把持力を爪ユニット5に生成させる。把持力は、回転力の大きさ、つまりボビン2Aの回転数に比例する。したがって、ボビン駆動軸3の回転数が増加して爪ユニット5の遠心力F1が大きくなると、その分力F2も大きくなり、爪部56と固定板44との把持力が強まって線条体10の巻始め端末10aが強く固定される。
【0035】
図5は、ボビン2Aへの巻回量が満巻状態となり、右側のボビン2Bに巻取りを切り替える段階を示している。トラバースローラ6が、ボビン2Aと2Bの中間位置から大きく右方向に移動することにより、トラバースローラ6で案内されている線条体10がボビン2Bの胴部21Bに接触する。また、ボビン2Bが矢印で示すように反時計回りに回転を開始するとともに、線条体10が線移動アーム7Bによって爪ホイール4B側へ接触するように変位する。これにより、線条体10が固定板44と爪部56との隙間45Bに係止されるようになる。なお、このとき左側の線移動アーム7Aは、ボビン2Aにおける線条体10のパスラインが変化しないように線条体10の位置決めを行う。
【0036】
線条体10が隙間45Bに係止された状態で引き続きボビン2Bの回転が進むと、図6に示すように、線条体10がカッター8によって切断される。ボビン2Bには上記ボビン2Aと同様にして線条体10が巻き取られていく。一方、巻取りが終了した左側のボビン2Aは、これで回転駆動が停止されるが、ボビン2Aの慣性により直ちに停止せずに徐々に回転速度を減速していく。
なお、上記は線条体10が隙間45Bに係止され、その後カッター8によって線条体10が切断される例を示したが、線条体10が隙間45Bに係止されるのとほぼ同時に隙間45Aにも係止される構成がより好ましい実施形態である。さらに隙間45Aと隙間45Bの両方で線条体10をほぼ同時に係止するために、ボビン2Aとボビン2Bの間に線条体10を挟み込んでガイドするピンチローラを配置することが好ましい。ボビン2Aの終了側の端末が隙間45Aに係止されることで、ボビン2Aの端末が巻回された線条体10に当たって外傷を与えることをより確実に防ぐことができる。
【0037】
ボビン2Aの回転が減速されることにより、図2で示した、爪ユニット5の重心57に生じる遠心力F1が減速に伴って小さくなり、遠心力F1の減少に伴って分力F2が小さくなる。このため、線条体10の巻始め端末10aを挟み込んでいる爪ユニット5の把持力が弱くなる。ところで、爪ユニット5には、支点ピン51と重心57とが上述したような位置関係に設けられている。このため、ボビン2Aの回転が停止されると、支点ピン51を軸として爪ユニット5を図2における反時計回りに回転させようとする力が重心57に作用する。この場合、爪ユニット5の当接部54が鍔部22に当接することで、図2における反時計回りに回転しようとする爪ユニット5の動きが規制され、隙間45Aが不要に広がらないように調整される。
【0038】
なお、図6において、ボビン2Aの回転が停止すると、線条体10が巻付けられたボビン2Aは、ボビン駆動軸3から取り外される。そして、新たな空のボビンがボビン駆動軸3にセットされる。
【0039】
ボビン2Aがボビン駆動軸3から取り外された場合、爪ユニット5の当接部54に対する規制対象物(鍔部22)がなくなるため、爪ユニット5は、支点ピン51を軸として図2における反時計方向へ回転可能な状態になる(図2参照)。このため、爪ユニット5の爪部56は、固定板44から離れる方向、すなわち線条体10を挟み込む方向とは逆向きに変位する。
【0040】
なお、上記巻取方法ではトラバースローラ6がボビン2に対して移動する場合を説明したが、例えばトラバースローラ6を固定させておき、ボビン2がトラバースローラ6に対してボビン駆動軸3方向に移動するようにしてもよい。
【0041】
上記のような線条体の巻取装置1によれば、爪ユニット5の重心57は、腕部53の直線部53aに設けられ、爪ユニット5が爪ホイール4に支持された場合、重心57の位置は、支点ピン51からボビン2の径方向に引いた平行な線Bよりもボビン2とは反対側に存在する。このため、ボビン2が回転すると、その回転数に応じて遠心力F1が重心57に発生するとともに、その分力として爪ユニット5を爪ホイール4の固定板44側に回転させる分力F2が発生する。これにより、ボビン2の回転中において、爪ユニット5の爪部56と爪ホイール4の固定板44との隙間45に線条体10を挟み込む把持力を生成させることができ、把持力によって線条体10の巻始め端末10aを隙間45に確実に把持することができる。また、これにより、爪ユニット5の隙間45から線条体10の巻始め端末10aが外れないのでボビン2に巻かれた線条体10に当たることがなく、巻き取った線条体10に外傷を与えるおそれを低減することができる。
【0042】
また、爪ユニット5には、遠心力が作用していないときに隙間45が広がらないように当接部54の長さLを調整可能な隙間調整部55が設けられている。このため、ボビン2が回転していないときや回転が遅くなったときなどでも、隙間45の幅を不要に広げて、線条体10の巻始め端末10aが外れてしまうことを防ぐことができる。
【0043】
また、隙間45が奥が狭くなるテーパの溝状に形成され、爪部56または固定板44の少なくとも一部が弾性体で形成されている。このため、爪部56と固定板44で挟まれることにより生じうる線条体10の破損を抑制することができる。また、爪部56または固定板44の表面に傷や破損が生じることを防ぐことができる。
【0044】
また、ボビン2を取り外すと、爪部56が線条体10の巻始め端末10aを挟み込む方向とは逆向きに変位する。このため、巻回量が満巻状態となったボビン2を空のボビンに交換する際に、巻始め端末10aを隙間45から外しやすい。したがって、力を加えて隙間45から線条体10の巻始め端末10aを外す作業が省略できるので、作業性が向上する。
【0045】
また、上記のような線条体の巻取方法によれば、ボビン2と共に爪ユニット5を回転させて、爪ユニット5に遠心力F1およびその分力F2を発生させることで、線条体10を把持する把持力を生成させることができる。これにより、線条体10の巻取り工程において、線条体10の巻始め端末10aを爪部56と固定板44との隙間45に確実に固定することが可能になる。また、線条体10を巻き取るボビン2を切り替える際に、切断された線条体の端末の把持が失敗することを防いで、線条体10の端末がボビン2に巻かれた線条体10に当たって巻き取った線条体10に外傷を与えるおそれを低減することができる。
【0046】
以上、本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 巻取装置
2(2A,2B) ボビン
3 ボビン駆動軸(支持部の一例)
4 爪ホイール(ボビン固定部の一例)
5 爪ユニット(端末把持機構の一例)
10 線条体
10a 巻始め端末
21 胴部
22 鍔部
41 固定凸部
44 固定板
45(45A,45B) 隙間
51 支点ピン(支点の一例)
52,53 腕部
53a 直線部
53b 湾曲部
54 当接部
55 隙間調整部
56 爪部(把持部の一例)
57 重心
F1 遠心力
F2,F3 分力
図1
図2
図3
図4
図5
図6