(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和機又は空気清浄機においては、塵や埃などを帯電させる荷電部と、帯電した塵や埃などを集塵する集塵部を備えた電気集塵装置が設けられている。通常、集塵部には長方形に形成されたシート状の電極が複数向い合せに配置されており、この配置により、電極間に静電界を形成して、塵や埃などを集塵している。集塵部の筐体には、電極を挟んで固定するリブが設けられており、このリブは高電圧側の電極とグランド側の電極のうち一方を固定している。そして、電極には、極性の異なる電極間の絶縁を確保するために、リブと接触しないように切欠きが設けられている。
【0003】
しかし、切欠きの角部は尖っているため、角部に電界が集中し、リブに対し余分な放電をすることで電極の電位が下がり、集塵性能が下がるという問題があった。
【0004】
この問題を解消するため、例えば、電極の角部を曲線状に形成し、角部への電界の集中を抑制して放電し難いように構成した技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、切り欠かれた電極の両端を曲線形状にすると、空気は電極の表面に沿って流れるため、電極上を流れる空気の割合が少なくなるという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という)を、添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
【0012】
(電気集塵装置の全体構成)
まず、
図1を参照しつつ、電気集塵装置1の全体構成について、説明する。
図1に示すように、外部ケース前面部2と外部ケース背面部3は接合されており、その内部には、内部ケース前面部5を挟んで、荷電部1AとしてのGNDプレート4とHVプレート6が配置されている。なお、
図1では外部ケース前面部2と外部ケース背面部3の内部にあるはずの部品、荷電部1A、集塵部1Bを説明の便宜上、外部ケース前面部2と外部ケース背面部3の外に出して分解しているが、実際は外部ケース前面部2と外部ケース背面部3の内部に収容されている。
【0013】
内部ケース背面部7にはリブ14が縦方向に延在して設けられており、集塵部1BとしてのコレクタシートであるHV(Hi Voltage)シート8(高圧電極板)が高圧電極板用リブ14aに固定され、GNDシート11(捕集電極板)が捕集電極板用リブ14bに固定されている。HVシート8の図中右側にはHV電極9及びHV電極カバー10が設けられている。GNDシート11の図中左側にはGND電極12及びGND電極カバー13が設けられている。なお、以下では、リブについて説明するときはリブ14と、個別に説明するときは高圧電極板用リブ14a及び捕集電極板用リブ14bと表示する。なお、HVシート8とGNDシート11の間に電圧を印加することで、HVシート8とGNDシート11の間には静電力が形成される。コレクタシートは板状に形成されている。
【0014】
通風方向は、外部ケース前面部2から、外部ケース背面部3への向きである。電気集塵装置1に流入した空気に含まれている粉塵等の粒子は、荷電部1Aに配置されているGNDプレート4とHVプレート6間の放電によって帯電する。そして、集塵部1Bに配置されているHVシート8及びGNDシート11の間に形成された静電力によって、荷電部1Aで荷電された粒子はGNDシート11に捕集される。
【0015】
集塵部1Bについて、
図2、
図3及び
図4を参照して、さらに説明する。
図2は、電気集塵装置1の集塵部1Bの外観を、
図3は集塵部1Bの内部構造を示している。
図2に示すように、集塵部1Bは、外部ケース背面部3にHVシート8とGNDシート11が図中左右方向にそれぞれの長手方向がくるように配置され、図中上下方向にHVシート8の面8bとGNDシート11の面11a、およびHVシート8の面8aとGNDシート11の面11bのそれぞれが向き合うように交互に積層されて配置されている。外部ケース背面部3を外すと、
図3に示すように、その内部には、内部ケース背面部7から図中前側に突出するようにリブ14が設けられている。
【0016】
リブ14は、HVシート8を固定する高圧電極板用リブ14aと、GNDシート11を固定する捕集電極板用リブ14bとが交互に配置されており、ここでは、高圧電極板用リブ14aが3つ、捕集電極板用リブ14bが4つ設けられた例を示している。HVシート8の図中右側の端部にはHV電極9が、GNDシート11の図中左側の端部にはGND電極12が当接している。
【0017】
ここで、HVシート8及びGNDシート11と、高圧電極板用リブ14a及び捕集電極板用リブ14bとの固定の関係について、
図4を用いて説明する。
図4(a)は、HVシート8を固定する高圧電極板用リブ14aを上下方向で切断し左右方向から見た時の断面図である。
図4(b)は、GNDシート11を固定する捕集電極板用リブ14bを上下方向で切断し左右方向から見た時の断面図である。
図4(a)に示すように、HVシート8が高圧電極板用リブ14aのスリット14a1に挿し込まれることで固定されており(図中、実線表示)、GNDシート11は第2の切欠き部Cbによってリブ14aと接しないため高圧電極板用リブ14aに固定されない(図中、破線表示)ようになっている。他方、
図4(b)に示すように、GNDシート11が捕集電極板用リブ14bのスリット14b1に挿し込まれることで固定されており(図中、実線表示)、HVシート8は第1の切欠き部Caによってリブ14bと接しないため捕集電極板用リブ14bに固定されない(図中、破線表示)ようになっている。各シートが電位の極性の異なるリブ14によって固定されない構造については後述する。
【0018】
(コレクタシート)
次に、コレクタシート20について、詳しく説明する。コレクタシート20は、HVシート8(高圧電極板)と、GNDシート11(捕集電極板)の一対となっている。なお、HVシート8とGNDシート11は共に左右非対称となっている。両者の形状や大きさは同一であり、左右を逆にした後に反転させた形で対向するように配置される。なお、以下では、各シートをまとめて説明する際は「コレクタシート」と呼び、個別に説明する際は「HVシート」又は「GNDシート」と呼ぶ。
【0019】
図5は、従来のコレクタシート20を示している。このコレクタシート20は矩形状のシートより形成されており、シートの短手方向両側には電気集塵装置1に取り付ける際に極性の異なるリブ14との接触を避けるための切欠き部Cが設けられている。ここでは、短手方向の一側に4か所、他側に3か所の切欠き部Cを設けた例を示している。塵や埃が多く付着する付着部(長さL2で表示する部分)の両端には、端部(長さL3で表示する部分)が設けられており、図中下側の端部には電極が貼り付けられる。
【0020】
ここで、前述したように、2段式の電気集塵装置1の集塵部1Bのコレクタシート20は、静電界を形成して集塵するものであるが、コレクタシート20の切欠き部Cの角部からリブ14に対して放電が発生すると、放電電流によりシート電位が低下し、所定の電界強度が得られず、集塵性能が低下してしまうという問題があった。これに対して、
図6のように放電を回避するために、コレクタシート20の電界が集中する部分をR形状(円弧状)に形成するという技術があり、コレクタシート20のコーナー部21をR形状(円弧状)化することが行われていた。
【0021】
一方で、HVシート8とGNDシートと11の間の絶縁を確保するために、両シートに切欠きC(第1の切欠き部Caと第2の切欠き部Cb)を設けている。HVシート8は高圧電極板用リブ14aに固定され、GNDシート11は捕集電極板用リブ14bに固定されている。通常、この高圧電極板用リブ14aと捕集電極板用リブ14bのそれぞれの断面形状は、略長方形となっている。
【0022】
切欠きCのコーナー部21のR形状は、その曲率が大きければ大きいほど放電しにくくなるが、他方でコレクタシート20の面積が小さくなり、HVシート8とGNDシート11との間に電界を形成する面積が小さくなる。
【0023】
しかし、R形状を大きくすると電気集塵装置1の大型化を招いてしまうとともに、切欠きCとリブ14との隙間も大きくなる。これにより、HVシート8とGNDシート11との間を通過する空気のうち、電界が生じない切欠きCの上方と下方のそれぞれの空間を通過する割合が大きくなるという理由から、かえって集塵性能の低下を招いてしまう。そこで、本実施形態では、
図6に示すように、コレクタシート20の切欠き部Cの開口部のR形状を大きくするとともに、
図8に示すように、コレクタシート20を固定するリブ14の断面形状を、コレクタシート20の切欠き部Cの開口部のR形状に沿った形にすることで、上述した電界のない部分を通過する割合が大きくなることによる集塵性能の低下を来さないようにするものである。
【0024】
まず、
図7を参照して、切欠きCの開口部のRの大きさが集塵性能に影響するリブ14に対する放電時に流れる放電電流をどのように変化させるかについて、説明する。
【0025】
切欠きCの開口部のRの大きさの影響について、次のとおり試験を行った。試験に供したコレクタシート20は、次のようなものである。HVシート8としては、体積低効率ρv=3*10の9乗Ωcmにより構成されたシートを用意した。HVシート8の形状は、矩形状(長辺84mm、短辺34mm、厚み0.4mm)とし、その四隅のうち一隅に電極を貼り付ける突起部を設けた。そして、突起部からみて短辺側の反対の一隅には試験対象のコーナーを設け、突起部及びコーナーからみて長辺側の反対の短辺には、その二隅を覆うように、絶縁体としてビニルテープを貼り付けた。
【0026】
これに対し、GNDシート11としては、体積低効率ρv=200Ωcmにより構成されたシートを用意した。GNDシート11の形状は、同じく矩形状(長辺216mm、短辺34mm、厚み0.4mm)とし、その四隅のうちHVシート8とは長辺側の反対の一隅に電極を貼り付ける突起部を設けた。GNDシート11は加工せずに、コーナーを設けないでそのまま使用した。
【0027】
以上のように用意したHVシート8とGNDシート11を用い、以下の手順で試験を行った。
(1)HVシート8のコーナー21がGNDシート11の長辺と距離2mmで対向するように、配置する。この際、HVシート8のビニルテープはGNDシート11に面している。
(2)HVシート8及びGNDシート11のそれぞれの突起部に電極を貼りつけ、両シート間に高圧電源により、電圧を印加する。
(3)GNDシート11からの戻りの電流を、絶縁抵抗計の電流測定モードで測定する。
(4)放電により大きく電流が変化する際の印加電圧を求める。
【0028】
測定器は、以下のものを用いた。
・高圧電源:松定プレシジョン製(6kV/0.5mA max),正極、Vmonitor、Imonitor付入力24VDC
・オシロスコープ:テクシオテクノロジー製DCS一2204E
・電流測定:YHP製絶縁抵抗計ハイレジスタンスメータ4329A
【0029】
以上の準備をもとに、HVシート8に設けたコーナー21のRを1〜15mmの範囲で変化させて、放電電流iが50nAとなる印加電圧Viの変化を測定した。結果は、
図7に示すとおりである。なお、試験した際の条件は、温度26℃、湿度50%である。
【0030】
図7に示すように、Rが大きくなるにつれて、リブ14に対し放電を開始する印加電圧Viは上昇していき、Rが1mmのときと比較し、Rが7mmになると印加電圧Viを約1kV上昇させることができる。そして、Rが10mmを超えると印加電圧Viはほぼ一定となる。このように、印加電圧Viを上昇させる効果はRが1mmの場合より順次得られるが、約1kV上昇させるという顕著な効果を得る観点からは、Rは7mmから10mmの範囲とすることが好ましい。
【0031】
次に、
図8並びに適宜
図5及び
図6を参照して、コレクタシート20を固定するリブの断面形状について、説明する。
【0032】
図5又は
図6に示したコレクタシート20の主な諸元は、例えば次のとおりである。もちろん、本実施形態は、これらの諸元に限られるものではない。
・全体長さL1:188mm
・矩形部分の長さL2:162mm
・両端部分の長さL3:13mm
・幅W1:18.5mm
・切欠き間のピッチP:23mm(×6ピッチ=138mm)
・切欠きの幅Cl:6mm
・切欠きの深さCw:7mm
【0033】
コレクタシート20を上記の諸元で設定して、コレクタシート20の切欠き部Cの開口部のRを例えば7mmとし、リブ14の断面形状を長方形のままとしたとき、
図8(a)でハッチングした切欠きCとリブ14の間の片側の隙間の面積は、10.5mm
2となる。これをコレクタシート20全体でみると、10.5mm
2×2(リブの両側)×7(切欠きの総数)×2(HVシート8とGNDシート11の一対)ということで、コレクタシート1組の隙間の総面積は、294mm
2となる。コレクタシート20の全有効シート面積は、2409mm
2であるので、隙間の総面積は12.2%に相当する。
【0034】
ここで、
図8(b)に示すように、リブ14の断面形状を切欠きCのR7mmの形状に沿った形に形成すれば、電界がない部分を通過していた空気が、リブ14によって電界のあるコレクタシート20上に強制的に誘導されるため、集塵性能を上昇させることができる。
【0035】
なお、リブ14の断面が大きくなることからリブ14の剛性が高まる共に、リブ同士を連結することで強度を保つ場合に生じるリーク電流を抑制することも可能となる。
【0036】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。