特許第6812958号(P6812958)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6812958
(24)【登録日】2020年12月21日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】車載用電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20201228BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20201228BHJP
【FI】
   F04B39/00 106Z
   H02M7/48 E
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-230874(P2017-230874)
(22)【出願日】2017年11月30日
(65)【公開番号】特開2019-100232(P2019-100232A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】永田 芳樹
【審査官】 井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−050141(JP,A)
【文献】 特開2012−157171(JP,A)
【文献】 特開2005−312279(JP,A)
【文献】 特開2009−033859(JP,A)
【文献】 特開2014−217210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を圧縮する圧縮部と、
前記圧縮部を駆動させる電動モータと、
車両側電気機器と共通の電源から電力が供給されるとともに前記電動モータを駆動させるインバータ装置と、を備え、
前記インバータ装置は、
前記電動モータを駆動させるためにスイッチング動作を行うスイッチング素子と、
前記スイッチング素子のスイッチング動作によって前記インバータ装置から前記車両側電気機器へ流出するリップル電流を減衰させるローパスフィルタと、を有する車載用電動圧縮機であって、
前記リップル電流の流出量が、所定の許容量を越えるか否かを判定する判定部と、
前記判定部によって、前記リップル電流の流出量が前記許容量を越えないと判定されたときに、前記インバータ装置のキャリア周波数を、前記ローパスフィルタの減衰帯域よりも低い周波数に切り替えるキャリア周波数切替部と、を備え、
前記キャリア周波数切替部は、前記キャリア周波数が、前記減衰帯域よりも低い周波数である状態において、前記判定部によって、前記リップル電流の流出量が前記許容量を越えると判定されたときに、前記キャリア周波数を前記減衰帯域に入る周波数に切り替えることを特徴とする車載用電動圧縮機。
【請求項2】
前記ローパスフィルタは、コイルとコンデンサで構成されるLCフィルタであり、前記コイルは金属製の筐体で少なくとも一部を覆われたノーマルモード成分を有するコモンモードコイルであることを特徴とする請求項1に記載の車載用電動圧縮機。
【請求項3】
前記ローパスフィルタは、前記ローパスフィルタの共振を抑制するダンピング抵抗を有していることを特徴とする請求項1に記載の車載用電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されているように、車載用電動圧縮機は、流体を圧縮する圧縮部と、圧縮部を駆動させる電動モータと、電動モータを駆動させるインバータ装置と、を備えている。
【0003】
一般に、電動モータの制御方式としては、パルス幅変調制御(PWM制御)が採用されている。インバータ装置は、電動モータの駆動電圧をパルス幅変調により制御する。具体的には、搬送波信号と呼ばれる高周波の三角波信号と、電圧を指示するための電圧指令信号とによってPWM信号を生成し、PWM信号に基づいてスイッチング素子がスイッチング動作を行うことにより、電源からの直流電圧が交流電圧に変換される。このようにして得られた交流電圧が駆動電圧として電動モータに印加されることにより、電動モータの駆動が制御される。
【0004】
車両には、例えば、車両を走行させる走行用モータの駆動を制御する車両側インバータ装置である車両側電気機器が搭載されている。そして、車載用電動圧縮機のインバータ装置においては、車両側電気機器と共通の電源から電力が供給される場合、スイッチング素子のスイッチング動作に起因したリップル電流(リップルノイズ)がインバータ装置から車両側電気機器へ流出する場合がある。このため、インバータ装置は、インバータ装置から車両側電気機器へ流出するリップル電流を減衰させるLCフィルタを有している。LCフィルタは、リップル電流の流出量が、車両側電気機器において予め定められているリップル電流の許容量を越えないようにリップル電流を減衰させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−201108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、LCフィルタにおいては、例えば、LCフィルタの小型化を図るために、LCフィルタの共振周波数を高周波化することが考えられている。ここで、インバータ装置のキャリア周波数が、LCフィルタの減衰帯域から共振周波数に近づくと、インバータ装置から車両側電気機器へ流出するリップル電流の流出量が増大し、リップル電流の流出量が車両側電気機器において予め定められているリップル電流の許容量を越えてしまう虞がある。よって、LCフィルタの共振周波数の高周波化と、リップル電流の流出量を車両側電気機器において予め定められているリップル電流の許容量を越えないようにすることとを両立するためには、キャリア周波数がLCフィルタの減衰帯域に入る周波数となるように、キャリア周波数を設定する。これによれば、車載用電動圧縮機が、スイッチング素子のスイッチング動作によって発生するリップル電流の発生量が最大となる車載用電動圧縮機の運転条件で駆動しても、リップル電流の流出量が許容量を越えないようにLCフィルタによってリップル電流を減衰することが可能となる。
【0007】
しかしながら、キャリア周波数が、共振周波数を高周波化したLCフィルタの減衰帯域に入る周波数となるように、キャリア周波数を高く設定すると、スイッチング素子のスイッチング動作の頻度が高くなるため、スイッチング素子のスイッチング動作により生じる発熱量が多くなり、スイッチング素子の温度が上昇してしまう。その結果、スイッチング損失が大きくなり、インバータ効率が悪化してしまう。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、LCフィルタなどのローパスフィルタの共振周波数を高周波化したインバータ装置においてインバータ効率を向上させることができる車載用電動圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する車載用電動圧縮機は、流体を圧縮する圧縮部と、前記圧縮部を駆動させる電動モータと、車両側電気機器と共通の電源から電力が供給されるとともに前記電動モータを駆動させるインバータ装置と、を備え、前記インバータ装置は、前記電動モータを駆動させるためにスイッチング動作を行うスイッチング素子と、前記スイッチング素子のスイッチング動作によって前記インバータ装置から前記車両側電気機器へ流出するリップル電流を減衰させるローパスフィルタと、を有する車載用電動圧縮機であって、前記リップル電流の流出量が、所定の許容量を越えるか否かを判定する判定部と、前記判定部によって、前記リップル電流の流出量が前記許容量を越えないと判定されたときに、前記インバータ装置のキャリア周波数を、前記ローパスフィルタの減衰帯域よりも低い周波数に切り替えるキャリア周波数切替部と、を備え、前記キャリア周波数切替部は、前記キャリア周波数が、前記減衰帯域よりも低い周波数である状態において、前記判定部によって、前記リップル電流の流出量が前記許容量を越えると判定されたときに、前記キャリア周波数を前記減衰帯域に入る周波数に切り替える。
【0010】
これによれば、判定部によりリップル電流の流出量が許容量を越えないと判定されたときに、キャリア周波数切替部によりインバータ装置のキャリア周波数がローパスフィルタの減衰帯域よりも低い周波数に切り替えられる。よって、例えば、車載用電動圧縮機が、スイッチング素子のスイッチング動作によって発生するリップル電流の発生量が比較的小さくなる車載用電動圧縮機の運転条件で駆動しているにもかかわらず、インバータ装置が、共振周波数を高周波化したローパスフィルタの減衰帯域に入る周波数にキャリア周波数が設定された状態で駆動されることが無い。その結果、ローパスフィルタの共振周波数を高周波化したインバータ装置においてインバータ効率を向上させることができる。
【0011】
また、判定部によりリップル電流の流出量が許容量を越えると判定されたときに、キャリア周波数切替部によりキャリア周波数が減衰帯域に入る周波数に切り替えられる。よって、車載用電動圧縮機が、スイッチング素子のスイッチング動作によって発生するリップル電流の発生量が比較的大きくなる車載用電動圧縮機の運転条件で駆動されたときに、リップル電流の流出量が許容量を越えないようにローパスフィルタによってリップル電流を減衰することができる。
【0012】
上記車載用電動圧縮機において、前記ローパスフィルタは、コイルとコンデンサで構成されるLCフィルタであり、前記コイルは金属製の筐体で少なくとも一部を覆われたノーマルモード成分を有するコモンモードコイルであるとよい。
【0013】
これによれば、コモンモードコイルから発生する漏れ磁束が金属の筐体を通過し渦電流を生じることで、LCフィルタの共振が抑制される。よって、キャリア周波数がLCフィルタの共振周波数に近い周波数に設定されている場合であっても、LCフィルタによってリップル電流を減衰し易くすることができる。また、減衰に伴い、金属筐体には熱が発生するが、電動圧縮機のハウジングに熱的に接触させることで、吸入冷媒にて間接的に冷却することができる。
【0014】
上記車載用電動圧縮機において、前記ローパスフィルタは、前記ローパスフィルタの共振を抑制するダンピング抵抗を有しているとよい。
これによれば、ダンピング抵抗によりローパスフィルタの共振が抑制されているため、キャリア周波数がローパスフィルタの共振周波数に近い周波数に設定されている場合であっても、ローパスフィルタによってリップル電流を減衰し易くすることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、LCフィルタなどのローパスフィルタの共振周波数を高周波化したインバータ装置においてインバータ効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態における車載用電動圧縮機を示す断面図。
図2】車載用電動圧縮機の電気的構成を示す回路図。
図3】変調率とリップル電流の発生量との関係を示すグラフ。
図4】(a)は第1駆動モードのときのLCフィルタの減衰特性を示すグラフ、(b)はリップル電流の発生量を示すグラフ、(c)はリップル電流の流出量を示すグラフ。
図5】(a)は第2駆動モードのときのLCフィルタの減衰特性を示すグラフ、(b)はリップル電流の発生量を示すグラフ、(c)はリップル電流の流出量を示すグラフ。
図6】別の実施形態における車載用電動圧縮機の電気的構成を示す回路図。
図7】(a)は別の実施形態におけるLCフィルタの減衰特性を示すグラフ、(b)はリップル電流の発生量を示すグラフ、(c)はリップル電流の流出量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、車載用電動圧縮機を具体化した一実施形態を図1図5にしたがって説明する。本実施形態の車載用電動圧縮機は、例えば、車両空調装置に用いられる。
図1に示すように、車載用電動圧縮機10のハウジング11内には、流体である冷媒を圧縮する圧縮部12と、圧縮部12を駆動させる電動モータ13とが収容されている。圧縮部12は、例えば、ハウジング11内に固定された図示しない固定スクロールと、固定スクロールに対向配置される図示しない可動スクロールとから構成されるスクロール式である。なお、圧縮部12は、スクロール式に限らず、例えば、ピストン式やベーン式等であってもよい。
【0018】
ハウジング11には、吸入口11a及び吐出口11bが形成されている。また、ハウジング11内には、回転軸14が収容されている。回転軸14は、ハウジング11に回転可能に支持されている。電動モータ13は、回転軸14に固定されて回転軸14と一体的に回転するロータ13aと、ハウジング11の内周面に固定されるとともにロータ13aを取り囲むステータ13bとから構成されている。ステータ13bのティースには、コイル15が捲回されている。そして、コイル15に電力が供給されることによりロータ13a及び回転軸14が回転する。
【0019】
吸入口11aには外部冷媒回路17の一端が接続されている。吐出口11bには外部冷媒回路17の他端が接続されている。そして、外部冷媒回路17から吸入口11aを介してハウジング11内に冷媒が吸入され、ハウジング11内に吸入された冷媒は、圧縮部12によって圧縮される。そして、圧縮部12によって圧縮された冷媒は、吐出口11bを介して外部冷媒回路17に吐出され、外部冷媒回路17の熱交換器や膨張弁を経て、吸入口11aを介してハウジング11内に還流される。車載用電動圧縮機10及び外部冷媒回路17は、車両空調装置18を構成している。
【0020】
ハウジング11の底壁11cには、インバータカバー19が取り付けられている。インバータカバー19とハウジング11の底壁11cとによって区画される空間には、電動モータ13を駆動させるインバータ装置20が収容されている。圧縮部12、電動モータ13、及びインバータ装置20は、この順で、回転軸14の回転軸線方向に並設されている。
【0021】
図2に示すように、電動モータ13のコイル15は、u相コイル15u、v相コイル15v、及びw相コイル15wを有する三相構造になっている。本実施形態において、u相コイル15u、v相コイル15v、及びw相コイル15wは、Y結線されている。
【0022】
インバータ装置20は、複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2と、ローパスフィルタとしてのLCフィルタ30と、を有している。複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2は、電動モータ13を駆動させるためにスイッチング動作を行う。複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2は、IGBT(パワースイッチング素子)である。複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2には、ダイオードDu1,Du2,Dv1,Dv2,Dw1,Dw2がそれぞれ接続されている。
【0023】
各スイッチング素子Qu1,Qu2、各スイッチング素子Qv1,Qv2、及び各スイッチング素子Qw1,Qw2はそれぞれ直列に接続されている。各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のゲートは、制御コンピュータ40に電気的に接続されている。各スイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1のコレクタは、LCフィルタ30を介して電源41の正極に電気的に接続されている。各スイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のエミッタは、LCフィルタ30を介して電源41の負極に電気的に接続されている。各スイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1のエミッタ及び各スイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のコレクタは、それぞれ直列に接続された中間点からu相コイル15u、v相コイル15v、及びw相コイル15wにそれぞれ電気的に接続されている。
【0024】
制御コンピュータ40は、電動モータ13の駆動電圧をパルス幅変調により制御する。具体的には、制御コンピュータ40は、搬送波信号と呼ばれる高周波の三角波信号と、電圧を指示するための電圧指令信号とによってPWM信号を生成する。そして、制御コンピュータ40は、生成したPWM信号を用いて各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のオンオフ制御を行う。これにより、電源41からの直流電圧が交流電圧に変換される。そして、変換された交流電圧が駆動電圧として電動モータ13に印加されることにより、電動モータ13の駆動が制御される。
【0025】
また、制御コンピュータ40は、PWM信号を制御することにより、各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のオンオフのデューティ比を可変制御する。これにより、電動モータ13の回転数が制御される。制御コンピュータ40は、空調ECU42と電気的に接続されており、空調ECU42から電動モータ13の目標回転数に関する情報を受信すると、その目標回転数で電動モータ13を回転させる。
【0026】
さらに、制御コンピュータ40は、PWM信号を制御することにより、電源41の電圧と、インバータ装置20から出力される交流電圧の振幅との比率である変調率を制御する。制御コンピュータ40は、電源41の電圧と、電動モータ13の駆動に必要な要求電流を把握し、インバータ装置20の出力電流が要求電流となるために必要な出力電圧となるよう変調率を制御する。
【0027】
車両には、例えば、車両を走行させる走行用モータの駆動を制御する車両側インバータ装置である車両側電気機器50が搭載されている。車両側電気機器50は、電源41と電気的に接続されており、電源41から電力が供給される。したがって、車両側電気機器50とインバータ装置20とは、電源41に対して並列に接続されている。よって、インバータ装置20には、車両側電気機器50と共通の電源41から電力が供給される。
【0028】
LCフィルタ30は、複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2と電源41との間に設けられている。LCフィルタ30は、ノーマルモードコイル31と、ノーマルモードコイル31に電気的に接続されるコンデンサ32と、を有している。コンデンサ32は、例えば、フィルムコンデンサや電解コンデンサで構成されている。
【0029】
LCフィルタ30は、複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のスイッチング動作によってインバータ装置20から発生してインバータ装置20から車両側電気機器50へ流出するリップル電流(リップルノイズ)を減衰させる。なお、車両側電気機器50においては、インバータ装置20から流出するリップル電流を許容可能なリップル電流の許容量が予め定められている。なお、LCフィルタ30は、電源41から流入するノーマルモードノイズも減衰させる。
【0030】
図3に示すように、インバータ装置20から発生するリップル電流の発生量は、インバータ装置20の出力電流と変調率とに依存する。インバータ装置20の出力電流は、電動モータ13の駆動に要求される要求電流と同等である。また、変調率は、電動モータ13の回転数および出力電流が大きくなるにつれて大きくなるが、主に回転数が支配的である。
【0031】
図3に示す特性線L1は、電動モータ13の駆動に要求される要求電流が最大のときの変調率とリップル電流の発生量との関係を示している。図3に示す特性線L2は、電動モータ13の駆動に要求される要求電流が最大よりも小さいときの変調率とリップル電流の発生量との関係を示している。図3に示すL3は、電動モータ13の駆動に要求される要求電流が最大よりも小さく、且つ特性線L2で示される電動モータ13の駆動に要求される要求電流よりも大きいときの変調率とリップル電流の発生量との関係を示している。
【0032】
各特性線L1,L2,L3によって示されるように、リップル電流の発生量は、電動モータ13の駆動に要求される要求電流が最大のときであって、且つ変調率が0.5のときに最大となる。よって、各特性線L1,L2,L3によって示されるように、変調率が0.5よりも小さい領域では、変調率が増大するにつれて、リップル電流の発生量が増大していく傾向にあり、変調率が0.5よりも大きい領域では、変調率が増大するにつれて、リップル電流の発生量は減少していく傾向にある。制御コンピュータ40には、このような、変調率とリップル電流の発生量との関係を示すマップが予め記憶されている。
【0033】
図4(a)及び図5(a)に示すように、本実施形態のLCフィルタ30の共振周波数f0は、20kHzである。よって、20kHzよりも大きい周波数は、LCフィルタ30の減衰帯域である。図4(a)及び図5(a)に示すLCフィルタ30の減衰特性(周波数特性)は、制御コンピュータ40に予め記憶されている。
【0034】
図4(b)及び図4(c)に示すように、制御コンピュータ40は、搬送波信号の周波数であるインバータ装置20のキャリア周波数をLCフィルタ30の減衰帯域A1よりも低い周波数である10kHzに設定する第1駆動モードに切り替え可能である。また、図5(b)及び図5(c)に示すように、制御コンピュータ40は、キャリア周波数をLCフィルタ30の減衰帯域A1に入る周波数である40kHzに設定する第2駆動モードに切り替え可能である。
【0035】
図4(b)及び図5(b)に示すように、第1駆動モード及び第2駆動モードそれぞれで発生するリップル電流のノイズ成分は、各々の駆動モードでのキャリア周波数と同一の周波数のノイズ成分だけではなく、その高調波成分を含む。したがって、リップル電流の発生量とは、キャリア周波数と同一の周波数のノイズ成分と、その高調波成分とを合わせた量である。
【0036】
図4(b)に示すように、第1駆動モードのときに、複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のスイッチング動作によってインバータ装置20から発生するリップル電流の高調波成分の一部は、LCフィルタ30の共振周波数f0と同じ周波数である。よって、第1駆動モードのときに発生するリップル電流は、LCフィルタ30の共振周波数f0を跨いだ周波数のノイズ成分を含んでいる。
【0037】
図5(b)に示すように、第2駆動モードのときに、複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のスイッチング動作によってインバータ装置20から発生するリップル電流の高調波成分の全ては、LCフィルタ30の減衰帯域A1に入る周波数になっている。
【0038】
制御コンピュータ40は、空調ECU42から受信する電動モータ13の目標回転数に基づいて、第1駆動モード又は第2駆動モードのどちらかに切り替える。具体的には、制御コンピュータ40は、空調ECU42から受信する電動モータ13の目標回転数およびインバータ出力電流から、予め記憶されている変調率とリップル電流の発生量との関係を示すマップを用いて、リップル電流の発生量を算出する。そして、制御コンピュータ40は、算出したリップル電流の発生量とLCフィルタ30の減衰特性とを用いて求められるリップル電流の流出量が、車両側電気機器50において予め定められているリップル電流の所定の許容量を越えるか否かを判定する。よって、制御コンピュータ40は、リップル電流の流出量が、車両側電気機器50において予め定められている許容量を越えるか否かを判定する判定部として機能する。
【0039】
そして、制御コンピュータ40は、リップル電流の流出量が、車両側電気機器50において予め定められている許容量を越えないと判定すると、第1駆動モードに切り替える。よって、制御コンピュータ40は、リップル電流の流出量が、車両側電気機器50において予め定められている許容量を越えないと判定されたときに、インバータ装置20のキャリア周波数を、LCフィルタ30の減衰帯域A1よりも低い周波数に切り替えるキャリア周波数切替部としても機能する。
【0040】
また、制御コンピュータ40は、第1駆動モードのときに、リップル電流の流出量が、車両側電気機器50において予め定められている許容量を越えると判定すると、第2駆動モードに切り替える。よって、制御コンピュータ40は、キャリア周波数が、LCフィルタ30の減衰帯域A1よりも低い周波数である状態において、リップル電流の流出量が、車両側電気機器50において予め定められている許容量を越えると判定されたときに、キャリア周波数をLCフィルタ30の減衰帯域A1に入る周波数に切り替える。
【0041】
次に、本実施形態の作用について説明する。
例えば、電動モータ13の目標回転数が比較的小さく、電動モータ13の駆動に要求される要求電流が比較的小さいような、電動モータ13の軽負荷時においては、複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のスイッチング動作によって発生するリップル電流の発生量が比較的小さい。制御コンピュータ40は、電動モータ13の軽負荷時のように、リップル電流の発生量が比較的小さく、リップル電流の流出量が、車両側電気機器50における予め定められている許容量を越えないと判定すると、第1駆動モードに切り替える。これによれば、例えば、車載用電動圧縮機10が、リップル電流の発生量が比較的小さくなる車載用電動圧縮機10の運転条件で駆動しているにもかかわらず、インバータ装置20が、LCフィルタ30の減衰帯域A1に入る周波数にキャリア周波数が設定された状態で駆動されることが無い。
【0042】
また、例えば、電動モータ13の目標回転数が変調率が0.5となる回転数であり、且つ電動モータ13の駆動に要求される要求電流が最大のとき、複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のスイッチング動作によって発生するリップル電流の発生量が最も大きい。制御コンピュータ40は、第1駆動モードの状態において、このようなリップル電流の発生量が比較的大きく、リップル電流の流出量が、車両側電気機器50における予め定められている許容量を越えると判定すると、第2駆動モードに切り替える。これによれば、車載用電動圧縮機10が、リップル電流の発生量が比較的大きくなる車載用電動圧縮機10の運転条件で駆動されたときに、リップル電流の流出量が許容量を越えないようにLCフィルタ30によってリップル電流を減衰することが可能となる。
【0043】
このように、LCフィルタ30は、リップル電流の流出量が、車両側電気機器50において予め定められているリップル電流の許容量を越えないようにリップル電流を減衰させている。
【0044】
上記実施形態では以下の効果を得ることができる。
(1)LCフィルタ30においては、例えば、LCフィルタ30の小型化を図るために、LCフィルタ30の共振周波数f0を高周波化することが考えられている。ここで、インバータ装置20のキャリア周波数が、LCフィルタ30の減衰帯域A1から共振周波数f0に近づくと、インバータ装置20から車両側電気機器50へ流出するリップル電流の流出量が増大し、リップル電流の流出量が車両側電気機器50において予め定められているリップル電流の許容量を越えてしまう虞がある。よって、LCフィルタ30の共振周波数f0の高周波化と、リップル電流の流出量を車両側電気機器50において予め定められているリップル電流の許容量を越えないようにすることとを両立するためには、キャリア周波数がLCフィルタ30の減衰帯域A1に入る周波数となるように、キャリア周波数を設定する。これによれば、車載用電動圧縮機10が、リップル電流の発生量が最大となる車載用電動圧縮機10の運転条件で駆動しても、リップル電流の流出量が許容量を越えないようにLCフィルタ30によってリップル電流を減衰することが可能となる。
【0045】
しかしながら、キャリア周波数が、共振周波数f0を高周波化したLCフィルタ30の減衰帯域A1に入る周波数となるように、キャリア周波数を高く設定すると、複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のスイッチング動作の頻度が高くなる。すると、複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のスイッチング動作により生じる発熱量が多くなり、複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2の温度が上昇してしまう。その結果、スイッチング損失が大きくなり、インバータ効率が悪化してしまう。
【0046】
そこで、本実施形態では、制御コンピュータ40は、リップル電流の流出量が、車両側電気機器50における予め定められている許容量を越えないと判定すると、インバータ装置20のキャリア周波数を、LCフィルタ30の減衰帯域A1よりも低い周波数に切り替える。これによれば、例えば、車載用電動圧縮機10が、リップル電流の発生量が比較的小さくなる車載用電動圧縮機10の運転条件で駆動しているにもかかわらず、インバータ装置20が、共振周波数f0を高周波化したLCフィルタ30の減衰帯域A1に入る周波数にキャリア周波数が設定された状態で駆動されることが無い。その結果、LCフィルタ30の共振周波数f0を高周波化したインバータ装置20においてインバータ効率を向上させることができる。
【0047】
(2)制御コンピュータ40は、キャリア周波数が、LCフィルタ30の減衰帯域A1よりも低い周波数である状態において、リップル電流の流出量が、車両側電気機器50における予め定められている許容量を越えると判定すると、キャリア周波数をLCフィルタ30の減衰帯域A1に入る周波数に切り替える。これによれば、車載用電動圧縮機10が、リップル電流の発生量が比較的大きくなる車載用電動圧縮機10の運転条件で駆動されたときに、リップル電流の流出量が、車両側電気機器50における予め定められている許容量を越えないようにLCフィルタ30によってリップル電流を減衰することができる。
【0048】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
図6に示すように、LCフィルタ30は、LCフィルタ30の共振を抑制するダンピング抵抗33を有していてもよい。
【0049】
図7(a)では、ダンピング抵抗33を有していないLCフィルタ30の減衰特性を二点鎖線で示している。なお、図7(a)において二点鎖線で示すLCフィルタ30の減衰特性は、図4(a)及び図5(a)に示すLCフィルタ30の減衰特性と同じである。そして、図7(a)では、ダンピング抵抗33を有しているLCフィルタ30の減衰特性を実線で示している。図7(a)において、実線と二点鎖線とを比較して分かるように、LCフィルタ30がダンピング抵抗33を有していることにより、LCフィルタ30の共振が抑制されている。
【0050】
図7(b)に示すように、第1駆動モードのときに、複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のスイッチング動作によってインバータ装置20から発生するリップル電流の高調波成分の一部は、LCフィルタ30の共振周波数f0と同じ周波数である。よって、第1駆動モードのときに発生するリップル電流は、LCフィルタ30の共振周波数f0を跨いだ周波数のノイズ成分を含んでいる。この場合であっても、ダンピング抵抗33によってLCフィルタ30の共振が抑制されているため、リップル電流のノイズ成分である高調波成分が増幅されることが抑制されている。その結果、図7(c)に示すように、リップル電流の流出量は、図4(c)に示すようなダンピング抵抗33を有していないLCフィルタ30を用いる場合のリップル電流の流出量に比べて小さくなる。
【0051】
これによれば、ダンピング抵抗33によりLCフィルタ30の共振が抑制されているため、キャリア周波数がLCフィルタ30の共振周波数f0に近い周波数に設定されている場合であっても、LCフィルタ30によってリップル電流を減衰し易くすることができる。
【0052】
○ 実施形態において、ノーマルモードコイル31の代わりに、金属製の筐体で少なくとも一部を覆われたノーマルモード成分を有するコモンモードコイルを用いてもよい。この場合、コモンモードコイルから発生する漏れ磁束が金属の筐体を通過し渦電流を生じることで、LCフィルタ30の共振が抑制される。よって、キャリア周波数がLCフィルタ30の共振周波数に近い周波数に設定されている場合であっても、LCフィルタ30によってリップル電流を減衰し易くすることができる。また、減衰に伴い、金属筐体には熱が発生するが、ハウジング11の底壁11cに熱的に接触させることで、吸入冷媒にて間接的に冷却することができる。
【0053】
○ 実施形態において、第1駆動モードでのキャリア周波数は、10kHzでなくてもよく、例えば、15kHzであってもよい。要は、第1駆動モードでのキャリア周波数は、LCフィルタ30の減衰帯域A1よりも低い周波数であればよい。
【0054】
○ 実施形態において、第2駆動モードでのキャリア周波数は、40kHzでなくてもよく、例えば、30kHzであってもよい。要は、第2駆動モードでのキャリア周波数は、LCフィルタ30の減衰帯域A1に入る周波数であればよい。
【0055】
○ 実施形態において、制御コンピュータ40は、空調ECU42から受信する電動モータ13の目標回転数に基づいて、キャリア周波数を10kHz又は40kHzのどちらかに切り替えるのではなく、空調ECU42から受信する電動モータ13の目標回転数に基づいて、キャリア周波数を連続的に切り替えるようにしてもよい。
【0056】
○ 実施形態において、LCフィルタ30の共振周波数f0は、20kHzでなくてもよく、例えば、30kHzであってもよい。なお、LCフィルタ30においては、例えば、LCフィルタ30の小型化を図るために、LCフィルタ30の共振周波数f0を高周波化することが好ましい。
【0057】
○ 実施形態において、車載用電動圧縮機10は、例えば、インバータ装置20が、ハウジング11に対して回転軸14の径方向外側に配置されている構成であってもよい。要は、圧縮部12、電動モータ13、及びインバータ装置20が、この順で、回転軸14の回転軸線方向に並設されていなくてもよい。
【0058】
○ 実施形態において、ローパスフィルタはLCフィルタ30であったが、例えばRCフィルタなど、他の回路構成であってもよい。
○ 実施形態において、車載用電動圧縮機10は、車両空調装置18を構成していたが、これに限らず、例えば、車載用電動圧縮機10は、燃料電池車に搭載されており、燃料電池に供給される流体としての空気を圧縮部12により圧縮するものであってもよい。
【符号の説明】
【0059】
Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2…スイッチング素子、10…車載用電動圧縮機、12…圧縮部、13…電動モータ、20…インバータ装置、30…ローパスフィルタとしてのLCフィルタ、33…ダンピング抵抗、40…判定部及びキャリア周波数切替部として機能する制御コンピュータ、41…電源、50…車両側電気機器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7