(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンなどの電子機器は、高性能な無線通信回路及びデジタルチップが採用され、使用する半導体ICの動作周波数も上昇する傾向にある。さらに複数の半導体ICを最短配線で接続する2.5D構造や3D構造をもったシステムインパッケージ(SIP)化が加速し、電源系回路のモジュール化も今後増加していくと予測される。さらに多数の電子部品(インダクタ、コンデンサ、抵抗、フィルターなどの受動部品、トランジスタ、ダイオードなどの能動部品、半導体ICなどの集積回路部品、並びに、その他電子回路構成に必要な部品の総称)がモジュール化された電子回路モジュールも今後益々増加していくことが予測され、これらを総称した電子回路パッケージがスマートフォンなどの電子機器の高機能化および小型化、薄型化により高密度実装される傾向にある。これらの傾向は、一方でノイズによる誤動作及び電波障害が顕著となることを示し、従来のノイズ対策では誤動作や電波障害を防止することが困難である。このため、近年においては、電子回路パッケージのセルフシールド化が進み、導電性ペーストもしくはメッキやスパッタ法による電磁気シールドの提案及び実用化がなされているが、今後はさらに高いシールド特性が要求される。
【0003】
これを実現すべく、近年においては、モールド材料自体に磁気シールド特性をもたせた電子回路パッケージが提案されている。例えば、特許文献1には、電子回路パッケージ用のモールド材料として、酸化被膜を有する軟磁性体粉末を添加した複合磁性封止材料が開示されている。
【0004】
しかしながら、従来の複合磁性封止材料は熱膨張係数が大きいという問題があった。このため、複合磁性封止材料とパッケージ基板又は電子部品との間において熱膨張係数のミスマッチが生じ、その結果、モールド成形後にストリップ形状を有する集合基板の状態で大きなソリが生じたり、個品化した後の電子回路パッケージが実装リフロー時に接続性に問題が発生するほどの大きなソリが発生することがあった。以下、この現象について説明する。
【0005】
近年、半導体パッケージや電子部品モジュールには、種々の構造体が提案および実用化されているが、現在の主流は、有機多層基板上に半導体ICなどの電子部品を実装し、その上部及び周囲を樹脂封止材料でモールド成形した構造が一般的である。このような構造を有する半導体パッケージ又は電子部品モジュールは、集合基板の状態でモールド成形された後、ダイシング等による個品化処理によって作製される。
【0006】
この構造は、物性の異なる有機多層基板と樹脂封止材料がいわゆるバイメタルを構成するため、熱膨張係数の差、ガラス転移、モールド材料の硬化収縮などの要因でソリが発生する。これを抑えるためには、熱膨張係数などの物性をできるだけ一致させる必要がある。近年、半導体パッケージや電子回路モジュールに使用される有機多層基板は、低背化の要求によりますます薄厚化および多層化が進む傾向にある。これを達成しつつ、薄い基板のハンドリング性を確保するための高剛性および低熱膨張化を実現すべく、ガラス転移温度の高い基板材料を使用したり、基板材料に熱膨張率の低いフィラーを添加したり、より低熱膨張係数であるガラスクロスを使用することが一般的となっている。
【0007】
一方で、基板に搭載される半導体IC及び電子部品とモールド材料との間の物性差も応力を発生させるため、モールド材の界面剥離、電子部品やモールド材のクラックなど、種々の問題を引き起こす。半導体ICにはシリコンが使用されるが、シリコンの熱膨張係数は3.5ppm/℃であり、セラミックコンデンサ、インダクタなどの焼成型チップ部品の熱膨張係数は10ppm/℃程度である。
【0008】
このため、モールド材料にも低熱膨張化が要求されており、10ppm/℃を切るような材料が市販されている。モールド材料を低熱膨張化する手法としては、低熱膨張のエポキシ樹脂の採用はもちろん、0.5ppm/℃と熱膨張係数の非常に低い溶融シリカを封止樹脂に高い充填率にて配合する手法が用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、一般的な磁性材料は熱膨張係数が高い。このため、特許文献1に記載されているように、モールド樹脂に一般的な軟磁性体粉末を添加した複合磁性封止材料は、目的とする低熱膨張係数を達成することができないという問題があった。
【0011】
したがって、本発明は、熱膨張係数の低い複合磁性封止材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による複合磁性封止材料は、樹脂材料と、前記樹脂材料に配合され、配合比が30〜85体積%であるフィラーとを備え、前記フィラーは、Feに、Niを主成分とする金属材料を32〜39重量%含有する磁性フィラーを含み、これにより熱膨張係数が15ppm/℃以下である。
【0013】
本発明によれば、熱膨張係数が低い磁性フィラーを用いていることから、複合磁性封止材料の熱膨張係数を15ppm/℃以下とすることが可能となる。このため、本発明による複合磁性封止材料を電子回路パッケージ用のモールド材料として用いれば、基板のソリ、モールド材の界面剥離、モールド材のクラックなどを防止することが可能となる。
【0014】
本発明において、前記金属材料は、前記磁性フィラーの全体に対して0.1〜8重量%のCoをさらに含んでいても構わない。これによれば、複合磁性封止材料の熱膨張係数をより低下させることが可能となる。
【0015】
本発明において、前記フィラーは、非磁性フィラーをさらに含んでいても構わない。これによれば、複合磁性封止材料の熱膨張係数をより低下させることが可能となる。この場合、前記磁性フィラーと前記非磁性フィラーの合計に対する前記非磁性フィラーの量は、1〜40体積%であることが好ましい。これによれば、十分な磁気特性を確保しつつ、複合磁性封止材料の熱膨張係数をより低下させることが可能となる。この場合、前記非磁性フィラーは、SiO
2,ZrW
2O
8,(ZrO)
2P
2O
7,KZr
2(PO
4)
3及びZr
2(WO
4)(PO
4)
2からなる群より選ばれた少なくとも一つの材料を含むことが好ましい。これらの材料は熱膨張係数が非常に低い、或いは、負の値を有していることから、複合磁性封止材料の熱膨張係数をよりいっそう低下させることが可能となる。
【0016】
本発明において、前記磁性フィラーの形状は略球状であることが好ましい。これによれば、複合磁性封止材料中における磁性フィラーの割合を高めることが可能となる。
【0017】
本発明においては、前記磁性フィラーの表面が絶縁コートされていることが好ましく、前記絶縁コートの膜厚が10nm以上であることがより好ましい。これによれば、複合磁性封止材料の体積抵抗率を例えば10
10Ω・cm以上に高めることができ、電子回路パッケージ用のモールド材料に求められる絶縁特性を確保することが可能となる。
【0018】
本発明において、前記樹脂材料は熱硬化性樹脂材料であることが好ましく、前記熱硬化性樹脂材料は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂及びイミド樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一つの材料を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明による複合磁性封止材料は熱膨張係数が小さいことから、電子回路パッケージ用のモールド材料として用いれば、基板のソリ、モールド材の界面剥離、モールド材のクラックなどを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施形態による複合磁性封止材料の構成を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、磁性フィラーのNi比率と複合磁性封止材料の熱膨張係数及び透磁率との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、磁性フィラーのNi比率と複合磁性封止材料の熱膨張係数との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、磁性フィラーのNi比率と複合磁性封止材料の透磁率との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、磁性フィラーのCo比率と複合磁性封止材料の熱膨張係数及び透磁率との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、非磁性フィラーの添加比率と複合磁性封止材料の熱膨張係数との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、磁性フィラーの表面に形成する絶縁コートの有無と体積抵抗率との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、磁性フィラーの表面に形成する絶縁コートの膜厚と体積抵抗率との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、磁性フィラーの体積抵抗率と複合磁性封止材料の体積抵抗率との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10(a)及び(b)は、複合磁性封止材料を用いた電子回路パッケージの構造を示す略断面図である。
【
図11】
図11は、電子回路パッケージのノイズ減衰量を示すグラフである。
【
図12】
図12は、電子回路パッケージに含まれる金属膜の膜厚とノイズ減衰量との関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、電子回路パッケージに含まれる金属膜の膜厚とノイズ減衰量との関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は、電子回路パッケージに含まれる金属膜の膜厚とノイズ減衰量との関係を示すグラフである。
【
図15】
図15は、電子回路パッケージの昇温及び降温時における基板のソリ量を示すグラフである。
【
図16】
図16は、電子回路パッケージの昇温及び降温時における基板のソリ量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の好ましい実施形態による複合磁性封止材料の構成を説明するための模式図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態による複合磁性封止材料2は、樹脂材料4と、樹脂材料4に配合された磁性フィラー6及び非磁性フィラー8からなる。特に限定されるものではないが、樹脂材料4は熱硬化性樹脂材料を主成分とすることが好ましい。具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂又はイミド樹脂を主成分とすることが好ましく、エポキシ樹脂又はフェノール樹脂系の半導体封止材料に用いられる主剤及び硬化剤を用いることがより好ましい。
【0024】
最も好ましいのは、末端に反応性のエポキシ基を持つエポキシ樹脂で、各種硬化剤および硬化促進剤と組み合わせることができる。エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノキシ、ナフタレン、多官能タイプ(ジシクロペンタジエン型等)、ビフェニルタイプ(2官能)および特殊構造タイプが挙げられ、低熱膨張化できるビフェニル、ナフタレン、ジシクロペンタジエン型などは有用である。硬化剤または硬化促進剤の例としては、アミン系化合物脂環族ジアミン、芳香族ジアミン、その他のアミン系(イミダゾール、3級アミン)、酸無水物系化合物(主に高温硬化剤)、フェノール樹脂(ノボラック型、クレゾールノボラック型など)、アミノ樹脂、ジシアンジアミド、ルイス酸錯化合物が挙げられる。材料の混錬方法は、ニーダーや3本ロール、ミキサーなど公知の方法を適宜用いればよい。
【0025】
磁性フィラー6は、Fe−Ni系材料からなり、Niを主成分とする金属材料を32重量%以上、39重量%以下含む。残りの61〜68重量%を占める元素はFeである。磁性フィラー6の配合比は、複合磁性封止材料2の全体に対して30体積%以上、85体積%以下である。これは、磁性フィラー6の配合比が30体積%未満であると、十分な磁気特性を得ることが困難だからであり、磁性フィラー6の配合比が85体積%を超えると、流動性など封止材料に必要な諸特性を確保することが困難だからである。
【0026】
Niを主成分とする金属材料は、少量のCoを含んでいても構わない。つまり、Niの一部がCoによって置換されていても構わない。これによれば、複合磁性封止材料2の熱膨張係数をより低下させることが可能となる。Coの添加量は、磁性フィラー6の全体に対して0.1重量%以上、8重量%以下であることが好ましい。
【0027】
磁性フィラー6の形状については特に限定されないが、高充填化するためには球状とし、最密充填となるように複数の粒度分布のフィラーをブレンド、配合してもよい。また、磁性フィラー6を略球形とすれば、電子部品に対するモールド時のダメージを低減することもできる。特に、最密充填化又は高充填化のためには、磁性フィラー6の形状が真球であることが好ましい。磁性フィラー6は、タップ密度が高く、粉末比表面積が小さいことが好ましい。磁性フィラー6の形成方法としては、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、遠心ディスクアトマイズ法などの方法があり、中でも、高いタップ密度を得ることができるとともに、比表面積を小さくできるガスアトマイズ法が最も好ましい。
【0028】
特に限定されるものではないが、磁性フィラー6の表面は、流動性、密着性、絶縁性向上のために、Si,Al,Ti,Mgなどの金属の酸化物、或いは、有機材料からなる絶縁コート7で覆われている。複合磁性封止材料2の体積抵抗率を十分に高めるためには、絶縁コート7の膜厚を10nm以上とすることが好ましい。絶縁コート7は、磁性フィラー6の表面に熱硬化性材料をコート処理、又は、テトラエチルオキシシラン若しくはテトラメチルオキシシランの金属アルコキシドの脱水反応によって酸化膜を形成してもよく、酸化ケイ素のコート被膜形成が最も好ましい。さらにその上に有機官能性カップリング処理を施すとさらに好適である。
【0029】
本実施形態による複合磁性封止材料2は、非磁性フィラー8を含んでいる。非磁性フィラー8としては、SiO
2,ZrW
2O
8,(ZrO)
2P
2O
7,KZr
2(PO
4)
3又はZr
2(WO
4)(PO
4)
2など、磁性フィラー6よりも熱膨張係数の小さい材料、或いは、熱膨張係数が負の値を有する材料を用いることが好ましい。このような非磁性フィラー8を複合磁性封止材料2に添加すれば、熱膨張係数をよりいっそう低減させることが可能となる。また、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムのような難燃剤や、着色のためのカーボンブラックや顔料又は染料、滑り性、流動性、分散・混錬性向上のために100nm以下の粒径の表面処理されたナノシリカや、離型性向上のためのワックス成分などを添加しても構わない。但し、本発明による複合磁性封止材料が非磁性フィラーを含むことは必須でない。
【0030】
また、密着性や流動性向上のために、磁性フィラー6や非磁性フィラー8の表面に有機官能性カップリング処理を施してもよい。有機官能性カップリング処理は、公知の湿式または乾式で行えばよく、インテグラルブレンド法であってもよい。また、濡れ性などの向上のため、磁性フィラー6や非磁性フィラー8の表面を熱硬化性樹脂でコートしてもよい。
【0031】
非磁性フィラー8を添加する場合、磁性フィラー6と非磁性フィラー8の合計に対する非磁性フィラー8の量は1体積%以上、40体積%以下であることが好ましい。換言すれば、磁性フィラー6の1体積%以上、40体積%以下を非磁性フィラー8で置換することができる。これは、非磁性フィラー8の添加量が1体積%未満では、非磁性フィラー8を添加した効果をほとんど得ることができないからであり、非磁性フィラー8の添加量が40体積%を超えると、磁性フィラー6の量が少なくなりすぎ、十分な磁気特性を確保することが困難となるからである。
【0032】
複合磁性封止材料2の形態は、液状及び固形状のどちらでもよく、成形方法に応じた主剤及び硬化剤の選択によって形態が異なる。固形状の複合磁性封止材料2は、トランスファー成形用であればタブレット形状とすれば良く、インジェクション成型用又はコンプレッション成型用であれば顆粒状とすれば良い。また、複合磁性封止材料2を用いたモールド成形方法については、トランスファー成形、コンプレッション成型、インジェクション成形、注型、真空注型、真空印刷、印刷、ディスペンス、スリットノズルによる方法などがあり、適宜選択できる。成形条件は、使用する主剤、硬化剤、硬化促進材の組み合わせから適宜選択すればよく、成形後、必要に応じアフターキュアを施しても構わない。
【0033】
図2は、磁性フィラー6のNi比率と複合磁性封止材料2の熱膨張係数及び透磁率との関係を示すグラフである。
図2に示すグラフは、磁性フィラー6が実質的にFeとNiのみからなる場合であって、複合磁性封止材料2の全体に対する磁性フィラー6の添加量が70体積%であり、且つ、複合磁性封止材料2に非磁性フィラー8が添加されていない場合を示している。
【0034】
図2に示すように、磁性フィラー6のNi比率が32重量%以上、39重量%以下である場合、複合磁性封止材料2の熱膨張係数は特異的に低くなり、条件によっては10ppm/℃以下となる。本条件下では、Ni比率が約35重量%である場合に最も低い熱膨張係数(約9.3ppm/℃)が得られている。一方、透磁率に関してはNi比率との相関は小さく、
図2に示すNi比率の範囲ではμ=12〜13である。
【0035】
このような特性が得られるのは、Ni比率が上記の範囲である場合、熱膨張と磁気歪みによる体積変化が相殺し合うインバー特性が発現するためである。このような材料はインバー材と呼ばれ、高い精度が求められる金型の材料として知られているが、複合磁性封止材料に配合する磁性フィラーの材料として使用されることはなかった。本発明らは、インバー材のもつ磁気特性及び低熱膨張係数に着目し、これを磁性フィラーの材料として用いることにより、磁気シールド性を有し、且つ、熱膨張係数の小さい複合磁性封止材料2を実現している。
【0036】
図3は、磁性フィラー6のNi比率と複合磁性封止材料2の熱膨張係数との関係を示すグラフである。
図3に示すグラフは、磁性フィラー6が実質的にFeとNiのみからなる場合であって、複合磁性封止材料2の全体に対する磁性フィラー6の添加量が50体積%、60体積%または70体積%であり、且つ、複合磁性封止材料2に非磁性フィラー8が添加されていない場合を示している。
【0037】
図3に示すように、磁性フィラー6の添加量が50体積%、60体積%および70体積%のいずれであっても、磁性フィラー6のNi比率が32重量%以上、39重量%以下である場合に、複合磁性封止材料2の熱膨張係数は特異的に低くなることが分かる。熱膨張係数の値は、磁性フィラー6の添加量が多いほど低くなる。したがって、磁性フィラー6の添加量が少ない場合(例えば30体積%である場合)は、溶融シリカなどからなる非磁性フィラー8をさらに添加することによって、複合磁性封止材料2の熱膨張係数を15ppm/℃以下とすればよい。具体的には、磁性フィラー6と非磁性フィラー8の合計添加量を全体の50体積%以上、85体積%以下とすれば、複合磁性封止材料2の熱膨張係数を十分に(例えば15ppm/℃以下)小さくすることができる。
【0038】
図4は、磁性フィラー6のNi比率と複合磁性封止材料2の透磁率との関係を示すグラフである。
図4に示すグラフは、
図3に示すグラフと同様、磁性フィラー6が実質的にFeとNiのみからなる場合であって、複合磁性封止材料2の全体に対する磁性フィラー6の添加量が50体積%、60体積%または70体積%であり、且つ、複合磁性封止材料2に非磁性フィラー8が添加されていない場合を示している。
【0039】
図4に示すように、磁性フィラー6の添加量が50体積%、60体積%および70体積%のいずれであっても、Ni比率と透磁率の相関は小さいことが分かる。透磁率の値は、磁性フィラー6の添加量が多いほど高くなる。
【0040】
図5は、磁性フィラー6のCo比率と複合磁性封止材料2の熱膨張係数及び透磁率との関係を示すグラフである。
図5に示すグラフは、磁性フィラー6に含まれるNiとCoの和が37重量%であって、複合磁性封止材料2の全体に対する磁性フィラー6の添加量が70体積%であり、且つ、複合磁性封止材料2に非磁性フィラー8が添加されていない場合を示している。
【0041】
図5に示すように、磁性フィラー6にCoが含まれていない(Co=0重量%)場合に比べ、磁性フィラー6を構成するNiが8重量%以下のCoで置換されている場合には、複合磁性封止材料2の熱膨張係数がより低下することが分かる。但し、Coによる置換量が10重量%であると、かえって熱膨張係数が高くなる。したがって、Coの添加量は、磁性フィラー6の全体に対して0.1重量%以上、8重量%以下であることが好ましい。
【0042】
図6は、非磁性フィラー8の添加比率と複合磁性封止材料2の熱膨張係数との関係を示すグラフである。
図6に示すグラフは、磁性フィラー6と非磁性フィラー8の和が全体の70体積%であって、磁性フィラー6が64重量%のFeと36重量%のNiからなり、非磁性フィラー8がSiO
2からなる場合を示している。
【0043】
図6に示すように、非磁性フィラー8の割合が増えると熱膨張係数が小さくなるが、その割合が磁性フィラー60体積%に対し、非磁性フィラー40体積%を超えると熱膨張係数の低減効果がほぼ飽和する。したがって、非磁性フィラー8の量は、磁性フィラー6と非磁性フィラー8の合計に対して1体積%以上、40体積%以下であることが好ましい。
【0044】
図7は、磁性フィラー6の表面に形成する絶縁コート7の有無と体積抵抗率との関係を示すグラフである。磁性フィラー6の材料は、組成A(Fe=64重量%、Ni=36重量%)及び組成B(Fe=63重量%、Ni=32重量%、Co=5重量%)の2種類であり、絶縁コート7は厚さ40nmのSiO
2である。いずれも磁性フィラー6も、カット径が32μmであり、粒径D50が20μmである。
【0045】
図7に示すように、組成A及び組成Bのいずれにおいても、絶縁コート7によって被覆することにより、磁性フィラー6の体積抵抗率が大幅に増大することが分かる。また、絶縁コート7によって被覆すると、測定時における圧力依存性も低下することが分かる。
【0046】
図8は、磁性フィラー6の表面に形成する絶縁コート7の膜厚と体積抵抗率との関係を示すグラフである。
図8に示すグラフは、磁性フィラー6が64重量%のFeと36重量%のNiからなる場合を示している。磁性フィラー6の粒径は、
図7における粒径と同様である。
【0047】
図8に示すように、磁性フィラー6を10nm以上の絶縁コート7によって被覆することにより、磁性フィラー6の体積抵抗率が大幅に増大することが分かる。特に、磁性フィラー6を30nm以上の絶縁コート7によって被覆すると、測定時における圧力にかかわらず非常に高い体積抵抗率が得られることが分かる。
【0048】
図9は、磁性フィラー6の体積抵抗率と複合磁性封止材料2の体積抵抗率との関係を示すグラフである。
【0049】
図9に示すように、磁性フィラー6の体積抵抗率と複合磁性封止材料2の体積抵抗率は比例関係にあることが分かる。特に、磁性フィラー6の体積抵抗率が10
5Ω・cm以上であれば、複合磁性封止材料2の体積抵抗率を10
10Ω・cm以上とすることができる。複合磁性封止材料2の体積抵抗率が10
10Ω・cm以上であれば、電子回路パッケージ用のモールド材料として用いた場合に十分な絶縁性を確保することができる。
【0050】
図10Aは、複合磁性封止材料2を用いた電子回路パッケージ10Aの構造を示す略断面図である。また、
図10Bは、複合磁性封止材料2を用いた電子回路パッケージ10Bの構造を示す略断面図である。
【0051】
図10Aに示す電子回路パッケージ10Aは、基板20と、基板20に搭載された電子部品30と、電子部品30を埋め込むよう基板20の表面21を覆う磁性モールド樹脂40とを備えている。磁性モールド樹脂40の材料は、複合磁性封止材料2である。一方、
図10Bに示す電子回路パッケージ10Bは、磁性モールド樹脂40の上面41及び側面42と、基板20の側面27を覆う金属膜60をさらに備える点において、電子回路パッケージ10Aと相違している。電子回路パッケージ10A,10Bともに、基板20の厚さは0.25mmであり、磁性モールド樹脂40の厚さは0.50mmである。
【0052】
図11は、電子回路パッケージ10Bのノイズ減衰量を示すグラフである。金属膜60についてはCuとNiの積層膜とし、Cuの膜厚が異なる2種類の金属膜60について評価している。具体的には、サンプルAの金属膜60は4μmのCuと2μmのNiが積層された構成を有し、サンプルBの金属膜60は7μmのCuと2μmのNiが積層された構成を有している。比較のため、磁性フィラー6を含まないモールド材料を用いたサンプルC,Dの値も示されている。サンプルCの金属膜60は4μmのCuと2μmのNiが積層された構成を有し、サンプルDの金属膜60は7μmのCuと2μmのNiが積層された構成を有している。
【0053】
図11に示すように、磁性フィラー6を含まないモールド材料を用いた場合と比べ、磁性フィラー6を含む複合磁性封止材料2を用いると、特に100MHz以下の周波数帯におけるノイズ減衰量が高まることが分かる。また、金属膜60については、厚さが厚い方が高いノイズ減衰特性を得ることができる。
【0054】
図12〜
図14は、電子回路パッケージ10Bに含まれる金属膜60の膜厚とノイズ減衰量との関係を示すグラフである。
図12は20MHz、
図13は50MHz、
図14は100MHzにおけるノイズ減衰量を示している。比較のため、磁性フィラー6を含まないモールド材料を用いた場合の値も示されている。
【0055】
図12〜
図14に示すように、いずれの周波数帯においても、金属膜60の厚さが厚いほど、高いノイズ減衰特性が得られることが分かる。また、いずれの周波数帯においても、磁性フィラー6を含まないモールド材料を用いた場合と比べ、磁性フィラー6を含む複合磁性封止材料2を用いることにより、高いノイズ減衰特性が得られることが分かる。
【0056】
図15は、電子回路パッケージ10A,10Bの昇温及び降温時における基板20のソリ量を示すグラフである。比較のため、
図16には、磁性フィラー6をSiO
2からなる非磁性フィラーで置き換えた場合の値が示されている。
【0057】
図15に示すように、金属膜60を有する電子回路パッケージ10Bの方が、金属膜60を持たない電子回路パッケージ10Aよりも温度変化による基板20のソリが小さいことが分かる。また、
図15と
図16を比較すると明らかなように、磁性フィラー6を含む複合磁性封止材料2を用いた電子回路パッケージ10A,10Bのソリ特性は、SiO
2からなる非磁性フィラーを含むモールド材料を用いた場合とほぼ同等である。
【0058】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【実施例】
【0059】
<複合磁性封止材料の作成>
主剤としてDIC社製830S(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、硬化剤として主剤に対し0.5当量の日本カーバイド工業社製DicyDD(ジジアンジアミド)、硬化促進剤として主剤に対し1wt%の四国化成工業社製C11Z−CN(イミダゾール)をそれぞれ使用し、樹脂材料を調製した。
【0060】
上記の樹脂材料に、
図17に示す組成を有する磁性フィラーを50体積%、60体積%または70体積%加え、よく混錬してペーストを得た。なお、ペースト化できない場合は適時ブチルカルビトールアセテートを加えた。このペーストを厚み約300μmとなるように塗布し、100℃で1時間、130℃で1時間、150℃で1時間、180℃で1時間の順に熱硬化させ、硬化物シートを得た。組成1(比較例)は、一般にPBパーマロイと呼ばれる磁性材料である。
【0061】
<熱膨張係数の測定>
上記の硬化物シートを長さ12mm、幅5mmにカットし、TMAを用いて室温から200℃まで5℃/分で昇温させ、ガラス転移温度より低い50℃〜100℃の温度範囲での膨張量から熱膨張係数を算出した。測定の結果を
図18に示す。
図18には、磁性フィラーの代わりにSiO
2からなる非磁性フィラーを用いた場合の結果も示されている。
【0062】
図18に示すように、組成2及び組成3の磁性フィラーを用いた場合、組成1の磁性フィラー(比較例)を用いた場合と比べて、熱膨張係数が大幅に小さくなった。特に、添加量が60体積%以上である場合には、SiO
2からなる非磁性フィラーを用いた場合と同等の熱膨張係数が得られ、添加量が70体積%である場合には、熱膨張係数が10ppm/℃以下であった。
【0063】
<透磁率の測定>
上記の硬化物シートを外径7.9mm、内径3.1mmのリング形状にカットし、アジレント社製インピーダンスアナライザーE4991のマテリアルアナライザー機能を用いて、10MHzの実効透磁率(μ')を測定した。測定の結果を
図19に示す。
【0064】
図19に示すように、組成2及び組成3の磁性フィラーを用いた場合に得られる透磁率は、組成1の磁性フィラー(比較例)を用いた場合に得られる透磁率とほぼ同等であった。
【0065】
<考察>
組成2及び組成3の磁性フィラーを樹脂材料に添加してなる複合磁性封止材料は、SiO
2からなる非磁性フィラーを用いた場合と同等の熱膨張係数が得られるとともに、PBパーマロイからなる磁性フィラーを用いた場合と同等の透磁率を得ることができた。このため、組成2または組成3の磁性フィラーを樹脂材料に添加してなる複合磁性封止材料を電子回路パッケージ用の封止材として用いれば、基板のソリ、モールド材の界面剥離、モールド材のクラックなどを防止しつつ、高い磁気シールド特性を得ることが可能となる。