特許第6813080号(P6813080)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン・エィ・ダブリュ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6813080-回転電機用部材の製造方法 図000002
  • 特許6813080-回転電機用部材の製造方法 図000003
  • 特許6813080-回転電機用部材の製造方法 図000004
  • 特許6813080-回転電機用部材の製造方法 図000005
  • 特許6813080-回転電機用部材の製造方法 図000006
  • 特許6813080-回転電機用部材の製造方法 図000007
  • 特許6813080-回転電機用部材の製造方法 図000008
  • 特許6813080-回転電機用部材の製造方法 図000009
  • 特許6813080-回転電機用部材の製造方法 図000010
  • 特許6813080-回転電機用部材の製造方法 図000011
  • 特許6813080-回転電機用部材の製造方法 図000012
  • 特許6813080-回転電機用部材の製造方法 図000013
  • 特許6813080-回転電機用部材の製造方法 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6813080
(24)【登録日】2020年12月21日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】回転電機用部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20201228BHJP
   H02K 15/03 20060101ALI20201228BHJP
   H02K 1/27 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   H02K15/02 F
   H02K15/02 K
   H02K15/03 Z
   H02K1/27 501G
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-503874(P2019-503874)
(86)(22)【出願日】2018年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2018009353
(87)【国際公開番号】WO2018164277
(87)【国際公開日】20180913
【審査請求日】2019年6月12日
(31)【優先権主張番号】特願2017-45337(P2017-45337)
(32)【優先日】2017年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】牛田 英晴
(72)【発明者】
【氏名】松原 哲也
(72)【発明者】
【氏名】穴井 岳洋
【審査官】 若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−158347(JP,A)
【文献】 特開2013−099047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
H02K 1/27
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電磁鋼板を積層してモータコアを形成する工程と、
前記モータコアの一方側の端部から他方側の端部までの長さである積層方向における積厚が飽和する加圧力よりも小さい加圧力で、前記モータコアを前記積層方向に加圧した状態で、前記モータコアの積層された前記電磁鋼板をキーホール溶接により溶接する工程と、を備える、回転電機用部材の製造方法。
【請求項2】
前記モータコアを溶接する工程は、前記モータコアが最小積厚になる加圧力よりも小さい加圧力で、前記電磁鋼板の間に隙間を有した前記モータコアを加圧した状態で、前記モータコアを溶接する工程である、請求項1に記載の回転電機用部材の製造方法。
【請求項3】
前記モータコアを溶接する工程の後に、前記モータコアが最小積厚になる加圧力で、前記モータコアを加圧した状態で、前記モータコアの磁石挿入孔に挿入された磁石を樹脂により固定する工程をさらに備える、請求項1または2に記載の回転電機用部材の製造方法。
【請求項4】
前記モータコアを溶接する工程の前に、前記モータコアが最小積厚になる加圧力よりも小さい加圧力で、前記電磁鋼板の間に隙間を有した前記モータコアを加圧した状態で、前記モータコアの磁石挿入孔に挿入された磁石を接着剤により固定する工程をさらに備える、請求項1または2に記載の回転電機用部材の製造方法。
【請求項5】
前記モータコアは、ロータコアまたはステータコアのうちの一方であり、
前記モータコアとしての前記ロータコアまたは前記ステータコアのうちの一方を溶接する工程は、前記ロータコアまたは前記ステータコアのうちの一方の密度が前記ロータコアまたは前記ステータコアのうちの一方と対向して配置される前記ロータコアまたは前記ステータコアのうちの他方の密度以上になる積厚で、前記ロータコアまたは前記ステータコアのうちの一方を溶接する工程である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転電機用部材の製造方法。
【請求項6】
前記モータコアを溶接する工程の前に、前記モータコアの磁石挿入孔に、磁石を挿入する工程をさらに備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載の回転電機用部材の製造方法。
【請求項7】
前記モータコアを溶接する工程は、前記モータコアの回転軸線方向の一方端部から他方端部まで、前記モータコアを溶接する工程である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転電機用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機用部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータコアを溶接する工程を備える回転電機用部材の製造方法が知られている。このような回転電機用部材の製造方法は、たとえば、特開2016−103882号公報に開示されている。
【0003】
上記特開2016−103882号公報には、複数の電磁鋼板を積層してロータコア(モータコア)を形成する工程と、ロータコアの内周面をロータの回転軸線方向に沿って溶接する工程と、を備えるロータ(回転電機用部材)の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−103882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特開2016−103882号公報に記載されるようにロータコアを溶接する場合、溶接時に溶接部分の温度が上昇するため、溶接部分が常温の状態から、ロータの回転軸線方向に沿って延びるように膨張した状態で溶接される。一方、溶接後に溶接部分が常温まで冷却されると、溶接部分が溶接時の膨張した状態から常温の状態まで、ロータの回転軸線方向に沿って縮むように収縮するため、収縮した溶接部分に、溶接部分が収縮する方向(複数の電磁鋼板が接近する方向)とは反対方向(複数の電磁鋼板が離れる方向)に溶接部分を引っ張る力(引張応力)が生じる。このため、溶接を連続して行うと、溶接後の引張応力が残留した状態に、さらに引張応力が加わり引張応力が徐々に蓄積して大きくなるので、引張応力に起因して、溶接部分に電磁鋼板の積層面に沿って延びる割れが生じる場合がある。特にレーザ溶接などのキーホールが形成されて溶融池が出来て凝固する溶接方法などの少ないエネルギーで深い溶け込みの溶接を行って溶接する場合は、溶融から凝固するまでの時間が短いため顕著に表れることがある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、溶接による引張応力に起因して溶接部分に割れが生じることを低減することが可能な回転電機用部材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面における回転電機用部材の製造方法は、複数の電磁鋼板を積層してモータコアを形成する工程と、モータコアの一方側の端部から他方側の端部までの長さである積層方向における積厚が飽和する加圧力よりも小さい加圧力で、モータコアを積層方向に加圧した状態で、モータコアの積層された電磁鋼板をキーホール溶接により溶接する工程と、を備える。なお、「積厚が飽和する」とは、それ以上加圧しても積厚がほぼ変化せず、所定の積厚に収束することを意味する。
【0008】
この発明の一の局面による回転電機用部材の製造方法は、上記のように、モータコアの一方側の端部から他方側の端部までの長さである積層方向における積厚が飽和する加圧力よりも小さい加圧力で、モータコアを積層方向に加圧した状態で、モータコアをキーホール溶接により溶接する工程を備える。これにより、電磁鋼板の間に隙間を有した状態で、モータコアを溶接することができる。この場合、電磁鋼板の間の隙間の分だけ、モータコアを回転軸線方向(隣接する電磁鋼板が接近する方向)に収縮させることができるので、溶接部分が常温まで冷却されて、溶接時の膨張した状態から常温の状態まで収縮する際に、溶接部分とともにモータコアを収縮させることができる。その結果、モータコアを収縮させることが可能な分、収縮した溶接部分に生じる複数の電磁鋼板が離れる方向の引張応力を低減することができるので、溶接部分に電磁鋼板の積層面に沿って延びる割れが生じることを低減することができる。この効果は、入熱量が少なく、溶融範囲が小さいため、引張応力を吸収する範囲が小さく応力が集中しやすいキーホール溶接を行う構成において、非常に効果的である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記のように、溶接による引張応力に起因して溶接部分に割れが生じることを低減することが可能な回転電機用部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1および第2実施形態による回転電機の断面図である。
図2】本発明の第1および第2実施形態によるロータを回転軸線方向(Z方向)から見た図である。
図3図2の300−300線に沿った断面図である。
図4】本発明の第1および第2実施形態のロータの溶接部を示す斜視図である。
図5】本発明の第1実施形態のロータの製造方法を説明するためのフローチャートである。
図6図5のステップS2におけるロータコアの溶接を説明するための図である。
図7図5のステップS2における溶接後のロータコアを示す図である。
図8】本発明の第2実施形態の回転電機の拡大断面図である。
図9】本発明の第2実施形態のロータの製造方法を説明するためのフローチャートである。
図10A】隙間が有る状態で溶接されたロータコアの溶接部分に生じる引張応力を説明するための図である。
図10B】隙間が無い状態で溶接されたロータコアの溶接部分に生じる引張応力を説明するための図である。
図11A】磁石が挿入されない状態で溶接されたロータコアの溶接による変形を説明するための図である。
図11B】磁石が挿入された状態で溶接されたロータコアの溶接による変形を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
[第1実施形態]
(回転電機の構造)
図1図4を参照して、第1実施形態による回転電機100(ロータ20)の構造について説明する。
【0013】
本願明細書では、「回転軸線方向」とは、ロータ20として完成した状態のロータ20(ロータコア21)の回転軸線Cに沿った方向(Z方向、図1参照)を意味する。また、「周方向」とは、ロータ20として完成した状態のロータ20(ロータコア21)の周方向(B1方向またはB2方向、図2参照)を意味する。また、「内径側」とは、ロータ20として完成した状態のロータ20(ロータコア21)の回転中心C0に近付く径方向(たとえばC1方向、図2参照)側を意味する。また、「外径側」とは、ロータ20として完成した状態のロータ20(ロータコア21)の回転中心C0から離れる径方向(たとえばC2方向、図2参照)側を意味する。
【0014】
図1に示すように、回転電機100は、ステータ10とロータ20とを備えている。なお、ロータ20は、請求の範囲の「回転電機用部材」の一例である。
【0015】
ステータ10は、回転電機100において固定されている固定子である。ステータ10は、ステータコア11と、ステータコア11に巻回される巻線12とを備えている。ステータコア11は、複数の電磁鋼板13を有している。ステータコア11は、複数の電磁鋼板13が、回転軸線Cが延びる方向である回転軸線方向(Z方向)に積層されることにより形成されている。ステータコア11は、略円環形状を有している。
【0016】
ロータ20は、回転軸線C周りに回転可能な回転子である。ロータ20は、ロータコア21を備えている。ロータコア21は、略円環形状を有している。回転電機100では、ステータコア11とロータコア21とは、径方向に互いに対向するように配置されている。なお、ロータコア21は、請求の範囲の「モータコア」の一例である。
【0017】
図1図3に示すように、ロータコア21は、複数の電磁鋼板22を有している。ロータコア21は、複数の電磁鋼板22が、回転軸線方向(Z方向)に積層されることにより形成されている。ロータコア21は、積厚T(図3参照)を有している。ロータコア21の積厚Tは、電磁鋼板22の積層方向(Z方向)におけるロータコア21の一方端部21a(Z1方向側の端部、図3参照)から他方端部21b(Z2方向側の端部、図3参照)までの長さである。第1実施形態では、ロータコア21の外径側における積厚Tは、隣接する全ての電磁鋼板22の間に隙間を有しないときの積厚である最小積厚である。また、最小積厚は、言い換えると、加圧力を大きくする程積厚が小さくなり、ロータコア21の積厚がある積厚に収束する場合に、加圧により収束したときの積厚である。また、積厚が最小積厚になる加圧力が、積厚が飽和する加圧力である。つまり、第1実施形態のロータコア21は、ロータ20が完成した状態で、ロータコア21の外径側(磁石挿入孔24の近傍)では、隣接する電磁鋼板22の間に隙間を有しない。なお、図3では、ロータコア21の内径側においても、隣接する電磁鋼板22の間に隙間を有しないようにロータコア21を図示しているが、ロータコア21は、内径側では、若干の隙間を有している。
【0018】
ロータコア21には、回転中心C0に貫通孔23が設けられている。ロータコア21の貫通孔23には、ハブ部材30が取り付けられている。ハブ部材30には、回転軸31が取り付けられている。これにより、回転軸31は、ロータコア21の回転に伴って回転するように構成されている。
【0019】
また、ロータコア21には、永久磁石32が挿入される磁石挿入孔24が設けられている。磁石挿入孔24は、ロータコア21の回転軸線方向(Z方向)の一方端部21a(図3参照)から他方端部21b(図3参照)まで延びるように形成された貫通孔である。また、磁石挿入孔24は、ロータコア21の外周面の近傍に形成されている。磁石挿入孔24は、周方向に沿って等角度間隔で複数(16個)設けられている。つまり、磁石挿入孔24に挿入された永久磁石32も、周方向に沿って等角度間隔で複数(16個)設けられている。磁石挿入孔24に挿入された永久磁石32は、磁石挿入孔24と同様に、ロータコア21の回転軸線方向の一方端部21aから他方端部21b(図3参照)まで延びるように形成されている。第1実施形態では、磁石挿入孔24に挿入された永久磁石32は、樹脂により固定されている。なお、永久磁石32は、請求の範囲の「磁石」の一例である。
【0020】
図2図4に示すように、ロータコア21の内周面には、被溶接部25が設けられている。被溶接部25は、ロータコア21の複数の電磁鋼板22を一体化するために、レーザビームなどの高エネルギビームにより溶接(キーホール溶接)される部分である。被溶接部25は、回転軸線方向(Z方向)から見て、内径側(C1方向側)に向かって突出する凸形状を有している。具体的には、被溶接部25は、回転軸線方向から見て、内径側に向かって徐々に先細るように形成されている。また、被溶接部25は、ロータコア21の回転軸線方向(Z方向)の一方端部21a(Z1方向側の端部、図3参照)から他方端部21b(Z2方向側の端部、図3参照)まで、回転軸線方向に沿って延びるように形成されている。被溶接部25は、周方向に沿って等角度間隔で複数(8つ)設けられている。なお、「キーホール」とは、レーザ等の高密度エネルギーを被溶接部に照射して形成される円形状の孔を意味する。また、「キーホール溶接」とは、キーホールの周囲に溶融池が形成され、形成された溶融池が凝固されることにより溶接する技術であり、レーザ溶接の他に、電子ビーム溶接等がある。「キーホール溶接」では、少ないエネルギーで深い溶け込みの溶接を行うことが可能である。
【0021】
また、被溶接部25には、溶接部分25aが形成されている。溶接部分25aは、ロータコア21を溶接する際に、被溶接部25に生じる溶接痕である。溶接部分25aは、被溶接部25と同様に、ロータコア21の回転軸線方向の一方端部21aから他方端部21bまで、回転軸線方向に沿って延びるように形成されている。つまり、ロータコア21は、一方端部21aから他方端部21bまで回転軸線方向に沿って溶接されている。言い換えると、ロータコア21では、複数の電磁鋼板22の全部が溶接により一体化されている。また、複数の被溶接部25(溶接部分25a)の各々と複数の磁石挿入孔24(磁石32)の各々とは、径方向から見て互いに重なる位置に配置されている。
【0022】
また、ロータコア21の内周面には、冷却用流体通路26が設けられている。冷却用流体通路26は、ロータ20を冷却するために、油などの冷却用流体が流れる通路である。なお、図4では、冷却用流体の流れを太い二点鎖線により示している。冷却用流体通路26は、回転軸線方向(Z方向)から見て、外径側(C2方向側)に窪む凹形状を有している。冷却用流体通路26は、回転軸線方向から見て、外径側に向かって徐々に先細るように形成されている。また、冷却用流体通路26は、ロータコア21の回転軸線方向(Z方向)の一方端部21a(図3参照)から他方端部21b(図3参照)まで、回転軸線方向に沿って延びるように形成されている。また、冷却用流体通路26は、周方向に沿って等角度間隔で複数(8つ)設けられている。
【0023】
また、冷却用流体通路26は、被溶接部25に隣接する位置に配置されている。具体的には、冷却用流体通路26は、被溶接部25に対して周方向の一方側において、被溶接部25に隣接する第1通路26aと、被溶接部25に対しての周方向の他方側において、被溶接部25に隣接する第2通路26bとを有している。冷却用流体通路26は、第1通路26aと、第2通路26bとにより、被溶接部25を周方向に挟むように形成されている。被溶接部25は、冷却用流体通路26の一部を構成している。
【0024】
図1図3に示すように、ロータ20は、ロータコア21の回転軸線方向の一方端部21aおよび他方端部21bにそれぞれ配置される略円環状のエンドプレート40を備えている。エンドプレート40は、回転軸線方向の両側からロータコア21を支持するように構成されている。ロータ20では、エンドプレート40は、溶接部分40aにより、ハブ部材30とともにロータコア21の内周面に溶接されている。
【0025】
(ロータの製造方法)
次に、図5図7を参照して、第1実施形態のロータ20の製造方法について説明する。
【0026】
図5に示すように、まず、ステップS1では、円環形状を各々有する、複数の電磁鋼板22が、回転軸線方向に積層される。これにより、回転中心C0に貫通孔23を有するロータコア21が形成される。
【0027】
次に、ステップS2では、回転軸線方向(Z方向)に加圧された状態で、ロータコア21が溶接される。
【0028】
ここで、第1実施形態では、ロータコア21の積厚Tが飽和する加圧力(荷重)よりも小さい加圧力(荷重)で、ロータコア21を積層方向に加圧(押圧)した状態で、ロータコア21がキーホール溶接により溶接される。つまり、ロータコア21を溶接する工程では、図6および図7に示すように、隣接する電磁鋼板22の間に隙間Dを有した状態で、ロータコア21が溶接される。溶接の際のロータコア21の積厚Tは、たとえば、最小積厚の1.003倍以上1.007倍以下である。溶接の際のロータコア21の積厚Tは、たとえば、最小積厚が60mmである場合、60.2mm以上60.4mm以下である。なお、図6および図7では、ロータコア21が、全部の隣接する電磁鋼板22の間に隙間Dを有した状態を示しているが、隣接する電磁鋼板22の間に隙間を有した状態とは、これに限られず、ロータコア21が、一部の隣接する電磁鋼板22の間に隙間Dを有した状態であってもよい。また、「ロータコア21の積厚Tが飽和する加圧力(荷重)よりも小さい加圧力(荷重)で、ロータコア21を積層方向に加圧(押圧)した状態でロータコア21を溶接する」とは、実際に積厚Tが飽和する加圧力よりも小さい加圧力でロータコア21を積層方向に加圧した状態でロータコア21を溶接することに加えて、飽和した状態の積厚T(最小積厚)よりも少し大きい積厚Tになるように、ロータコア21を加圧する一対の加圧部(押圧パンチ)の間の距離を少し広げた状態でロータコア21を溶接することも含む。
【0029】
具体的には、ステップS2では、ロータコア21が最小積厚よりも大きい予め定められた積厚Tになる所定の加圧力で、隣接する電磁鋼板22の間に隙間Dを有したロータコア21を加圧した状態で、ロータコア21が溶接される。所定の加圧力は、ロータコア21が最小積厚になる加圧力(たとえば、20kN以上)よりも小さい加圧力(たとえば、1kN)である。
【0030】
つまり、ステップS2では、隣接する電磁鋼板22の間の隙間Dが無くならないように、隣接する電磁鋼板22の間に隙間Dを有したロータコア21を加圧しながら、ロータコア21が溶接される。したがって、図7に示すように、溶接前後のロータコア21は、共に、隣接する電磁鋼板22の間に隙間Dを有した状態である。なお、溶接後の隣接する電磁鋼板22の間の隙間Dの大きさは、溶接前の隣接する電磁鋼板22の間の隙間Dの大きさよりもわずかに小さくなる。
【0031】
また、所定の加圧力は、ロータコア21の密度がステータコア11の密度以上になるように、ロータコア21を加圧する加圧力である。したがって、ステップS2では、ロータコア21の密度がステータコア11の密度以上になる積厚Tで、ロータコア21が溶接される。なお、ロータコア21(ステータコア11)の密度とは、ロータコア21(ステータコア11)の質量をロータコア21(ステータコア11)の体積で除したものである。したがって、ロータコア21(ステータコア11)を形成する電磁鋼板22(13)の数が変わらなければ、ロータコア21(ステータコア11)の積厚Tが大きい程、ロータコア21(ステータコア11)の密度は小さい。最小積厚である場合に、ロータコア21(ステータコア11)の密度は最も大きくなる。
【0032】
また、第1実施形態では、図6に示すように、溶接ヘッド50から高エネルギビームを出力させながら、溶接ヘッド50をロータコア21の被溶接部25に対して相対的に移動させることにより、ロータコア21の回転軸線方向の一方端部21aから他方端部21bまで、ロータコア21が溶接(キーホール溶接)される。この結果、被溶接部25に溶接部分25aが形成される。また、合計8個の被溶接部25は、同時ではなく、1つずつ順に溶接される。
【0033】
次に、ステップS3では、ロータコア21の各磁石挿入孔24に永久磁石32が挿入(圧入)される。
【0034】
次に、ステップS4では、回転軸線方向(Z方向)に加圧された状態で、ロータコア21の磁石挿入孔24に樹脂が注入されることにより、ロータコア21の磁石挿入孔24に挿入された永久磁石32が樹脂により固定される。ステップS4では、ロータコア21が最小積厚になる加圧力(たとえば、250kN)で、ロータコア21を加圧した状態で、ロータコア21の磁石挿入孔24に挿入された永久磁石32が樹脂により固定される。つまり、ステップS4では、隣接する電磁鋼板22の間の隙間Dが無くなるように、隣接する電磁鋼板22の間に隙間Dを有した溶接後のロータコア21を加圧した状態で、ロータコア21の磁石挿入孔24に挿入された永久磁石32が樹脂により固定される。また、ステップS4では、ロータコア21の外径側(磁石挿入孔24の近傍)が加圧されるため、少なくともロータコア21の外径側(磁石挿入孔24の近傍)において、隣接する電磁鋼板22の間の隙間Dが無くなる。一方、ロータコア21の内径側では、電磁鋼板22の間の隙間Dは、若干残っている。その後、エンドプレート40およびハブ部材30が、溶接可能な所定の位置に配置されるとともに、ロータコア21の内周面に溶接される。そして、ロータ20が完成する。
【0035】
[第2実施形態]
次に、図8および図9を参照して、第2実施形態について説明する。この第2実施形態では、上記第1実施形態と異なり、完成した状態のロータのロータコアは、隣接する電磁鋼板の間に隙間を有している。
【0036】
本発明の第2実施形態による回転電機200は、ロータ120を備える点で、上記第1実施形態の回転電機100と相違する。また、本発明の第2実施形態によるロータ120は、図8に示すように、ロータコア121を備える点で、上記第1実施形態のロータ20と相違する。
【0037】
第2実施形態では、ロータコア121の積厚Tは、最小積厚よりも大きい。つまり、第2実施形態のロータコア121は、図8に示すように、ロータ120が完成した状態で、隣接する電磁鋼板22の間に隙間Dを有している。また、第2実施形態では、磁石挿入孔24に挿入された永久磁石32は、接着剤により固定されている。
【0038】
なお、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0039】
(ロータの製造方法)
次に、図9を参照して、第2実施形態のロータ120の製造方法について説明する。
【0040】
図9に示すように、まず、ステップS101では、円環形状を各々有する、複数の電磁鋼板22が、回転軸線方向に積層される。これにより、回転中心C0に貫通孔23を有するロータコア121が形成される。
【0041】
次に、ステップS102では、ロータコア121の各磁石挿入孔24に永久磁石32が挿入(圧入)される。第2実施形態では、接着剤が塗布され、乾燥された永久磁石32が、ロータコア121の各磁石挿入孔24に挿入される。
【0042】
次に、ステップS103では、回転軸線方向(Z方向)に加圧された状態で、ロータコア121の磁石挿入孔24に挿入された永久磁石32が接着剤により固定される。ここで、第2実施形態では、ロータコア121が最小積厚になる加圧力よりも小さい加圧力で、隣接する電磁鋼板22の間に隙間Dを有したロータコア121を加圧した状態で、ロータコア121の磁石挿入孔24に挿入された永久磁石32が接着剤により固定される。つまり、ステップS103では、隣接する電磁鋼板22の間の隙間Dが無くならないように、隣接する電磁鋼板22の間に隙間Dを有したロータコア121を加圧しながら、ロータコア121の磁石挿入孔24に挿入された永久磁石32が接着剤により固定される。なお、磁石固定時の加圧力は、ロータコア121が最小積厚になる加圧力でなければ、ステップS104の溶接時の加圧力以上であってもよい。
【0043】
次に、ステップS104では、第1実施形態のステップS2と同様に、回転軸線方向(Z方向)に加圧された状態で、ロータコア121が溶接される。ステップS104は、ステップS2と同様であるので、詳細な説明は省略する。その後、エンドプレート40およびハブ部材30が、溶接可能な所定の位置に配置されるとともに、ロータコア121の内周面に溶接される。そして、ロータ120が完成する。
【0044】
(第1および第2実施形態の効果)
第1および第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0045】
第1および第2実施形態では、上記のように、ロータ(20、120)の製造方法は、ロータコア(21、121)の一方側の端部(一方端部(21a))から他方側の端部(他方端部(21b))までの長さである積層方向における積厚(T)が飽和する加圧力よりも小さい加圧力で、ロータコア(21、121)を積層方向に加圧した状態で、ロータコア(21、121)をキーホール溶接により溶接する工程を備える。これにより、第1および第2実施形態では、図10Aに示すように、電磁鋼板(22)の間に隙間(D)を有した状態で、ロータコア(21、121)を溶接することができる。この場合、図10Bに示すような電磁鋼板(22)の間に隙間(D)が無い状態で、ロータコア(21、121)が溶接される場合と異なり、隣接する電磁鋼板(22)の間の隙間(D)の分だけ、ロータコア(21、121)を回転軸線方向(隣接する電磁鋼板が接近する方向)に収縮させることができる。その結果、溶接部分(25a)が常温まで冷却されて、溶接時の膨張した状態から常温の状態まで収縮する際に、溶接部分(25a)とともにロータコア(21、121)を収縮させることができる。これにより、ロータコア(21、121)を収縮させることが可能な分、収縮した溶接部分(25a)に生じる引張応力を低減することができるので、溶接部分(25a)にロータ(20、120)の電磁鋼板(22)の積層面に沿って延びる割れが生じることを低減することができる。なお、図10AおよびBでは、溶接部分25aに生じる引張応力を白矢印により模式的に示している。この効果は、入熱量が少なく、溶融範囲が小さいため、引張応力を吸収する範囲が小さく応力が集中しやすいキーホール溶接を行う構成において、非常に効果的である。
【0046】
また、第1および第2実施形態では、上記のように、ロータコア(21、121)を溶接する工程は、ロータコア(21、121)が最小積厚になる加圧力よりも小さい加圧力で、電磁鋼板(22)の間に隙間(D)を有したロータコア(21、121)を加圧した状態で、ロータコア(21、121)を溶接する工程である。このように構成すれば、加圧することによりロータコア(21、121)の積厚(T)を適度に小さくしつつ、隣接する電磁鋼板(22)の間の隙間(D)を残したままロータコア(21、121)を溶接することができる。なお、ロータコア(21、121)を加圧しない場合には、ロータコア(21、121)の積厚(T)を十分に小さくすることができず、ロータコア(21、121)の密度を十分に大きくすることができないため、ロータコア(21、121)を備える回転電機(100、200)において、トルク特性などの性能が低下する場合がある。したがって、上記のように構成すれば、ロータコア(21、121)の積厚(T)を最小積厚よりも大きくすることに起因してロータコア(21、121)を備える回転電機(100、200)の性能が低下することを抑制しつつ、ロータコア(21、121)の溶接部分(25a)に割れが生じることを低減することができる。
【0047】
また、第1実施形態では、上記のように、ロータ(20)の製造方法は、ロータコア(21)を溶接する工程の後に、ロータコア(21)が最小積厚になる加圧力で、ロータコア(21)を加圧した状態で、ロータコア(21)の磁石挿入孔(24)に挿入された永久磁石(32)を樹脂により固定する工程を備える。このように構成すれば、ロータコア(21)を溶接する工程では、隣接する電磁鋼板(22)の間に隙間(D)を有した状態で、ロータコア(21)を溶接して、ロータコア(21)の溶接部分(25a)に割れが生じることを低減しつつ、ロータコア(21)を溶接する工程の後の永久磁石(32)を樹脂により固定する工程では、ロータコア(21)が最小積厚になる加圧力で、ロータコア(21)を加圧することにより、隣接する電磁鋼板(22)の間の隙間(D)を無くすことができる。その結果、永久磁石(32)を樹脂により固定する工程において隣接する電磁鋼板(22)の間の隙間(D)に樹脂が入り込むことを防止することができるとともに、ロータコア(21)の積厚(T)を最小積厚よりも大きくすることに起因してロータコア(21)を備える回転電機(100)の性能が低下することを防止することができる。
【0048】
また、第2実施形態では、上記のように、ロータ(120)の製造方法は、ロータコア(121)を溶接する工程の前に、ロータコア(121)が最小積厚(T)になる加圧力よりも小さい加圧力で、電磁鋼板(22)の間に隙間(D)を有したロータコア(121)を加圧した状態で、ロータコア(121)の磁石挿入孔(24)に挿入された永久磁石(32)を接着剤により固定する工程を備える。このように構成すれば、ロータコア(121)を溶接する工程の前に、永久磁石(32)を固定する工程を行う場合にも、永久磁石(32)を固定する工程において、隣接する電磁鋼板(22)の間の隙間(D)が無くならないので、ロータコア(121)を溶接する工程において、隣接する電磁鋼板(22)の間に隙間(D)を有した状態で、ロータコア(121)を溶接することができる。
【0049】
また、第1および第2実施形態では、上記のように、ロータコア(21、121)を溶接する工程は、ロータコア(21、121)の密度がロータコア(21、121)と対向して配置されるステータコア(11)の密度以上になる積厚(T)で、ロータコア(21、121)を溶接する工程である。このように構成すれば、ロータコア(21、121)およびステータコア11を備える回転電機(100、200)において、ロータコア(21、121)の密度がステータコア(11)の密度よりも小さくなることが無い。その結果、ロータコア(21、121)の積厚(T)を最小積厚よりも大きくした状態でロータコア(21、121)を溶接したとしても、ロータコア(21、121)の積厚(T)に起因して、ロータコア(21、121)およびステータコア(11)を備える回転電機(100、200)の性能が低下することを防止することができる。
【0050】
また、第2実施形態では、上記のように、ロータ(20、120)の製造方法は、ロータコア(21、121)を溶接する工程の前に、ロータコア(21、121)の磁石挿入孔(24)に、永久磁石(32)を挿入する工程を備える。ここで、図11AおよびBに示すように、ロータコア(21、121)を溶接すると、溶接部分(25a)の収縮に起因して、ロータコア(21、121)が溶接部分(25a)の収縮に応じて変形する。そこで、上記のように(図11Bに示すように)構成すれば、図11Aに示すようにロータコア(21、121)の磁石挿入孔(24)に永久磁石(32)を挿入しない状態でロータコア(21、121)を溶接する場合に比べて、ロータコア(21、121)の磁石挿入孔(24)に挿入された永久磁石(32)により、溶接部分(25a)の収縮に応じたロータコア(21、121)の変形を抑制して、溶接部分(25a)の収縮に応じたロータコア(21、121)の変形量を低減することができる。なお、図11AおよびBでは、変形したロータコア(21、121)を二点鎖線により模式的に示している。
【0051】
また、第1および第2実施形態では、上記のように、ロータコア(21、121)を溶接する工程は、ロータコア(21、121)の回転軸線方向の一方端部(21a)から他方端部(21b)まで、ロータコア(21、121)を溶接する工程である。このように構成すれば、ロータコア(21、121)の複数の電磁鋼板(22)の全部を一様に溶接することができるので、ロータコア(21、121)の複数の電磁鋼板(22)が部分的に溶接されている場合に比べて、剛性(機械的な強度)が高いロータコア(21、121)を製造することができる。また、ロータコア(21、121)の複数の電磁鋼板(22)の全部を一様に溶接する場合、溶接部分(25a)の長さが長くなる分だけ、溶接部分(25a)に生じる引張応力が大きくなる。このような構成において、収縮した溶接部分(25a)に生じる引張応力を低減して、溶接部分(25a)に割れが生じることを低減できることは、特に有効である。
【0052】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0053】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、ロータコアの内周面が溶接される例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、ロータコアの外周面が溶接されてもよい。
【0054】
また、上記第1実施形態では、ロータコアを溶接する工程の後に、ロータコアの磁石挿入孔に挿入された磁石を樹脂により固定する工程を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、ロータコアが最小積厚にならなければ、ロータコアを溶接する工程の前に、ロータコアの磁石挿入孔に挿入された磁石を樹脂により固定する工程を行ってもよい。
【0055】
また、上記第2実施形態では、ロータコアを溶接する工程の前に、ロータコアの磁石挿入孔に挿入された磁石を接着剤により固定する工程を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、ロータコアを溶接する工程の後に、ロータコアの磁石挿入孔に挿入された磁石を接着剤により固定する工程を行ってもよい。
【0056】
また、上記第1および第2実施形態では、ロータコアを溶接する工程の前に、ロータコアの磁石挿入孔に磁石を挿入する工程を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、ロータコアを溶接する工程の後に、ロータコアの磁石挿入孔に磁石を挿入する工程を行ってもよい。
【0057】
また、上記第1および第2実施形態では、ロータコアの回転軸線方向の一方端部から他方端部まで、ロータコアを溶接する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ロータコアの回転軸線方向の一方端部から他方端部まで、ロータコアを溶接しなくてもよい。たとえば、ロータコアの回転軸線方向の一方端部から他方端部までではなく、ロータコアの回転軸線方向の一方端部から他方端部までの間の一部を溶接してもよい。
【0058】
また、上記第1および第2実施形態では、ロータコアの被溶接部が凸形状を有する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ロータコアの被溶接部は、凸形状以外の形状を有していてもよい。
【0059】
また、上記第1および第2実施形態では、本発明の回転電機用部材の製造方法として、ロータの製造方法を示したが、本発明はこれに限られない。本発明は、回転電機用部材の製造方法として、モータコアとしてのステータコアを備えるステータの製造方法に適用されてもよい。この場合、ステータの製造方法は、複数の電磁鋼板を積層してステータコアを形成する工程と、ステータコアの積厚が飽和する加圧力よりも小さい加圧力で、ステータコアを積層方向に加圧した状態で、ステータコアをキーホール溶接により溶接する工程と、を備える。
【符号の説明】
【0060】
20、120 ロータ(回転電機用部材)
21、121 ロータコア(モータコア)
21a 一方端部
21b 他方端部
22 電磁鋼板
24 磁石挿入孔
32 永久磁石(磁石)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B