(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6813255
(24)【登録日】2020年12月21日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】医療用表示装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20201228BHJP
【FI】
A61B5/00 102A
A61B5/00 102E
A61B5/00 D
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-222798(P2014-222798)
(22)【出願日】2014年10月31日
(65)【公開番号】特開2016-86972(P2016-86972A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年9月28日
【審判番号】不服2019-16692(P2019-16692/J1)
【審判請求日】2019年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112602
【氏名又は名称】フクダ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佃 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】岡 享
(72)【発明者】
【氏名】讃岐 美智義
【合議体】
【審判長】
森 竜介
【審判官】
磯野 光司
【審判官】
渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−507724(JP,A)
【文献】
特開2006−326050(JP,A)
【文献】
特開2012−170786(JP,A)
【文献】
吉田祥子,外5名,“静脈麻酔管理に対応した自動麻酔記録システム”,麻酔・集中治療とテクノロジー,2009年,第2009巻,第1号,pp.93−97
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の生命維持に関する基本生体情報である第1情報と、
前記患者への麻酔薬の投薬によって生じた前記患者の神経系への作用に関する情報である第2情報と、
前記患者への前記麻酔薬の投薬速度の履歴情報と、
を、統合して同一画面に時間軸を合わせて同時に表示するとともに、画面の上側から下側に向かって順次、前記第1情報、前記第2情報、前記投薬速度の履歴情報の順で表示し、かつ、前記第2情報と前記投薬速度の履歴情報とが隣接するように表示する、
医療用表示装置。
【請求項2】
前記第1情報、前記第2情報及び前記投薬速度の履歴情報それぞれについての、リアルタイム情報とトレンド情報とを並べて表示する、
請求項1に記載の医療用表示装置。
【請求項3】
前記第1情報、前記第2情報及び前記投薬速度の履歴情報それぞれについてのトレンドグラフを、時間軸を合わせて並べて表示する、
請求項1に記載の医療用表示装置。
【請求項4】
前記第1情報は、前記患者の呼吸及び循環に関する情報を含む情報である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の医療用表示装置。
【請求項5】
前記第2情報は、脳波モニター及び筋弛緩モニターによって得られた情報を含む、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の医療用表示装置。
【請求項6】
前記投薬速度の履歴情報は、各麻酔薬毎の投薬速度の履歴情報である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の医療用表示装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の医療用表示装置を具備する生体情報モニター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用表示装置に関し、特に手術室やICU(Intensive Care Unit)において麻酔薬を投与する際に用いて好適な医療用表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
手術室やICUなどにおける麻酔時には、一般に、自動麻酔記録表示装置が用いられる。自動麻酔記録表示装置は、例えば特許文献1で開示されているように、麻酔期間中に患者から測定した生体情報、たとえば心拍数、体温、血圧値、酸素飽和度などを記録する。つまり、自動麻酔記録表示装置は、生体情報モニターとしての機能を有し、麻酔中の患者の生体情報を表示及び記録することで、医師などの医療従事者に麻酔中の生体の状態を把握させ、安全な麻酔投与を支援する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−056785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
手術をしている患者の麻酔中の生命の安全に関して、生体情報モニターの進化が大きな役割を果たしてきた。現在の生体情報モニターは、心電図だけでなく自動血圧計で安定した血圧測定ができ、SpO
2やEtCO
2などのモニター機能も有するので、全身麻酔中の生命の安全を監視する上で非常に有効である。
【0005】
しかし、非常に短時間で麻酔効果が現れる麻酔薬の登場や、全静脈麻酔の普及、筋弛緩薬の使用法の多様化、神経ブロック麻酔の流行などにより、かつて経験しなかったような複雑な組み合わせで麻酔が行われるようになってきている。
【0006】
この結果、既存の生体情報モニターの表示画像を見るだけでは、患者の状態を迅速かつ包括的に把握することが難しく、安全な麻酔管理を行うのが困難となりつつある。
【0007】
本発明は、以上の点を考慮してなされたものであり、医療従事者が麻酔中の患者の状態を迅速かつ包括的に把握することができ、より安全な麻酔管理を行うことができる医療用表示装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の医療用表示装置の一つの態様は、
患者の生命維持に関する基本生体情報である第1情報と、
前記患者への麻酔薬の投薬によって生じた前記患者の神経系への作用に関する情報である第2情報と、
前記患者への前記麻酔薬の投薬速度の履歴情報と、
を、統合して
同一画面に時間軸を合わせて同時に表示する
とともに、画面の上側から下側に向かって順次、前記第1情報、前記第2情報、前記投薬速度の履歴情報の順で表示し、かつ、前記第2情報と前記投薬速度の履歴情報とが隣接するように表示する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、医療従事者が麻酔中の患者の状態を迅速かつ包括的に把握することができ、より安全な麻酔管理を行うことができる医療用表示装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態の医療用表示装置の説明に供する図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る医療用表示装置(以下、単に「表示装置」と呼ぶ)の説明に供する図である。本発明の特徴は、表示装置100の表示形態にあるので、
図1及び以下の説明では、主にその表示形態について説明する。なお、表示装置100のハードウェアは、情報入力部、表示制御部、ディスプレイなどの一般的な構成要素からなるので、ここではその説明は省略する。
【0013】
なお、医薬の分野では、厳密には、麻酔薬と、鎮痛薬と、筋弛緩薬とは区別される場合もあるが、本明細書では、麻酔薬と記述した場合には、鎮痛薬や筋弛緩薬もそれに含まれるものとする。
【0014】
図1に示すように、表示装置100は、1つのディスプレイ画面101を分割して、基本生体情報と、麻酔効果情報と、人工呼吸情報と、投薬情報と、を1画面上に同時に表示するようになっている。
【0015】
本実施の形態の場合、表示装置100は、画面中の上部領域に基本生体情報を表示し、中部領域に麻酔効果情報及び人工呼吸情報を横に並べて表示し、下部領域に投薬情報を表示する。
【0016】
ここで、基本生体情報は、患者10の生命維持に関する情報であり、本実施の形態では、これを第1情報と呼ぶ。一方、麻酔効果情報は、患者10への麻酔薬の投与によって生じる患者10の神経系への作用に関する情報を含む情報であり、本実施の形態では、これを第2情報と呼ぶ。
【0017】
基本生体情報は、例えば従来の生体情報モニターによって取得され表示されている情報であり、患者10の呼吸及び循環に関する情報を含む情報である。具体的には、表示装置100は、心電計201、血圧測定用カフ202、心拍出量センサー203、SpO
2センサー204及び体温センサー205などによって取得された基本生体情報を入力し、これを表示する。
【0018】
麻酔効果情報は、鎮静、鎮痛、筋弛緩の効果に関する情報と言ってもよい。表示装置100は、脳波モニター(脳波スペクトル分析装置)211によって測定されたBIS(Bispectral Index)値、及び筋弛緩モニター212によって測定された筋弛緩度を麻酔効果情報として表示する。また、本実施の形態の場合、ガスモニター213によって測定された吸気・呼気中のガス濃度を麻薬効果情報に含めて表示する。なお、このガス濃度は、麻薬効果情報とは別に表示してもよい。さらに、表示装置100は、人工呼吸器221の動作情報を入力し、これを人工呼吸情報として表示する。
【0019】
投薬情報は、患者10に投与した麻酔薬の量や種類に関する情報である。表示装置100は、シリンジポンプ231から患者10に投与した麻酔薬の投薬速度及び種類に関する情報を入力し、これを投薬情報として表示する。なお、麻酔薬の種類に関する情報をユーザによって直接表示装置に入力する構成としてもよい。
【0020】
これに加えて、表示装置100は、トレンド情報を表示する領域と、リアルタイム情報を表示する領域とを有する。
図1の例の場合、画面の左側にトレンド情報を表示し、右側にリアルタイム情報を表示するようになっている。
【0021】
トレンド情報として、ショートトレンドグラフが表示される。ショートトレンドグラフとは、1時間未満の期間のトレンドグラフである。1時間以上のトレンドは、比較的短い時間で起こった急激な変化が波形上で埋没してしまい、波形上に現れない場合が多い。よって、本実施の形態では、トレンド情報表示領域に、短時間での急激な変化がトレンド波形上に現れるショートトレンドグラフを表示するようになっている。本実施の形態では、30分間のショートトレンドグラフを表示するようになっている。因みに、本実施の形態の場合、ショートトレンドグラフの分解能(サンプリング間隔)は5秒とされている。分解能はこれ以外でもかまわないが、ショートトレンド波形を滑らかに表示できる程度の分解能であることが好ましい。また、トレンドグラフはスケールを変えたり、過去に遡って見たりできるようにすることが好ましい。なお、ショートトレンドグラフを用いると上述したようなメリットを得ることができ好適であるが、トレンド情報として表示するのはショートトレンドグラフに限らず、トレンドグラフであってもよい。
【0022】
図2は、表示装置100の1つのディスプレイ画面101に表示される表示画像例を示す図である。
【0023】
第1情報(基本生体情報)のトレンド情報として、心拍数(HR)、酸素飽和度(SpO
2)、呼吸気中の炭酸ガス濃度(CO
2)、呼吸数(RR)、観血血圧(BP)の最高及び最低血圧についての、それぞれのショートトレンドグラフが表示される。
【0024】
第1情報(基本生体情報)のリアルタイム情報として、現在の、心拍数(HR)、酸素飽和度(SpO
2)、観血血圧(BP1)の最高及び最低血圧、呼吸気中の炭酸ガス濃度(CO
2)、呼吸数(RR)、が、それぞれ計測値として表示される。また、これらの数値の右側には、心電図(II×1)、酸素飽和度(SpO
2)、血圧(BP1)、呼吸気中の炭酸ガス濃度(CO
2)、呼吸(RESP)のカレント波形が表示される。カレント波形とは、トレンドグラフよりも短い期間、例えば数拍分の期間に相当する期間の波形である。さらに、
図2の例の場合、現在の非観血血圧(NIBP)の最高及び最低血圧、体温T1(皮膚温)、T2(直腸温)の数値が表示されている。
【0025】
なお、トレンドグラフ、計測値、カレントグラフは、各パラメータに応じて色分けされている。例えば、血圧に関するものは赤色、心拍に関するものは緑色、血液に関するものは黄色で表示されている。これにより、ユーザは、どのグラフがどのパラメータを示しているかをひと目で認識できる。
【0026】
第2情報(麻酔効果情報)のトレンド情報として、BIS値及び筋弛緩度(TOF)についての、それぞれのショートトレンドグラフが表示される。本実施の形態の場合、筋弛緩度として、4連刺激(TOF(Train Of Four))時に測定した筋反応を用いるようになっている。BIS値や、4連刺激を用いた筋反応については、既知の技術であるためここでの詳しい説明は省略する。BIS値が小さいほど大脳皮質の抑制が強いことつまり脳への麻酔効果が高い状態であることを意味し、4連刺激時の筋反応が小さいほど筋肉系への麻酔効果が高い状態であることを意味する。よって、これら2つのトレンドグラフを表示することにより、異なる見方で麻酔の効果を確認できるようになる。
【0027】
さらに、第2情報(麻酔効果情報)のトレンド情報として、本実施の形態では、O
2ガス、N
2Oガス及びSev(セボフルラン)ガスなどの揮発性吸入麻酔ガスのそれぞれのガス濃度のショートトレンドグラフが表示される。このガス濃度は吸気ガス濃度又は呼気ガス濃度のどちらでもよい。このガス濃度は、麻酔効果を直接的に表すものではないが、麻酔効果を確認するための補助情報として用いることができる。このことについて説明する。全身麻酔を行う場合には、一般に、先ず吸入麻酔ガスを用いた吸入麻酔が行われ、続いて静脈麻酔が行われる。静脈麻酔が投与されて麻酔が効いてくると、吸入麻酔ガスの濃度を下げていく操作が行われる。つまり、吸入麻酔ガスの濃度が下がっていることは、麻酔が効いている一つの指標となり得る。ただし、本発明は、第2情報(麻酔効果情報)として、このようなガス濃度を表示せずに実施してもよい。
【0028】
第2情報(麻酔効果情報)のリアルタイム情報として、O
2ガス、N
2Oガス及びSev(セボフルラン)などの揮発性吸入麻酔ガスのそれぞれについての、現在の吸気ガス濃度及び呼気ガス濃度の計測値(吸気ガス濃度/呼気ガス濃度)が表示される。N
2O及び揮発性吸入麻酔ガスについては、吸気ガス濃度から呼気ガス濃度を引いた差分値が小さいほど、効果部位濃度と吸入濃度が平衡に達していることを示す。従って、投与している麻酔薬濃度自体を麻酔効果の指標として使用できる。また、第2情報(麻酔効果情報)のリアルタイム情報として、現在のBIS値及び筋弛緩度が数値として表示される。
【0029】
人工呼吸情報として、スパイログラムが表示され、現在の人工呼吸器の動作情報及び外呼吸の状態が表示される。
【0030】
投薬情報のトレンド情報として、患者10に投与された各麻酔薬の麻酔薬別の投薬速度がショートトレンドグラフで表示される。
【0031】
投薬情報のリアルタイム情報として、患者10に投与される各麻酔薬の薬品名と、現在実際に投与されている投薬速度とが表示される。図の例では、例えば商品名が「アルチバ静注用2mg」である麻酔薬が、現在シリンジポンプ231によって10(mL/h)で投与されていることが表示されている。本実施の形態の表示装置100は、シリンジポンプ231が麻酔薬の実際の投与量を測定する機能があることを利用し、シリンジポンプ231から実際の投与量の情報を入力し、それを表示するようになっている。これにより、医療従事者は、麻酔の実際の投与量及び投薬速度を正確に知ることができるようになる。
【0032】
なお、トレンド情報を表示する領域には、単位の異なる複数のトレンドグラフが同時に表示されるため、実際には、各トレンドグラフ毎に変動単位が分かるような数値が表示されるが、
図2では図を簡単化するためにこれを省略して示してある。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態によれば、患者10の生命維持に関する基本生体情報である第1情報と、患者10への麻酔薬の投薬によって生じた患者10の神経系への作用に関する情報である第2情報と、を統合して同時に表示するようにしたことにより、医療従事者が麻酔中の患者10の状態を迅速かつ包括的に把握することができ、より安全な麻酔管理を行うことができる医療用表示装置を実現できる。
【0034】
また、患者10への麻酔薬の投薬情報を、前記第1情報及び前記第2情報と統合して、前記第1情報及び前記第2情報と同時に表示したことにより、麻酔薬投与量と、基本生体情報及び患者10の神経系への作用に関する情報との因果関係を一目で把握することができ、より安全な麻酔薬管理を支援することができるようになる。
【0035】
また、リアルタイム情報とトレンド情報とを並べて表示したことにより、どのような過程を経て現状に至っているかを把握できるようになる。
【0036】
また、基本生体情報、麻酔効果情報、投薬情報のトレンドグラフを、時間軸を合わせて並べて表示したことにより、医療従事者が患者10の状態をより迅速かつ包括的に把握することができるようになる。
【0037】
さらに、上述の実施の形態では、シリンジポンプ231から患者10に投与した麻酔の投薬速度の実測情報を入力し、当該麻酔投薬速度の履歴を表示したことにより、実際に患者10に投与された麻酔薬の投薬速度の変化を正確に把握でき、より安全な麻酔薬管理を支援することができるようになる。
【0038】
なお、上述の実施の形態では、患者10への麻酔薬の投薬によって生じた患者10の神経系への作用に関する情報である第2情報に含まれる麻酔効果情報として、BIS値及び筋反応を用いた場合について述べたが、麻酔効果情報はこれらに限らない。麻酔効果情報としては、例えば患者10の神経反応の情報や、脳波の情報などを広く用いることができる。
【0039】
本発明の医療用表示装置の機能は、生体情報モニターに搭載して具現化することもできる。
【0040】
上述の実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の医療用表示装置は、手術室やICUにおいて麻酔薬を投与する際に用いて好適である。
【符号の説明】
【0042】
10 患者
100 医療用表示装置
101 ディスプレイ画面
201 心電計
202 血圧測定用カフ
203 心拍出量センサー
204 SpO
2センサー
205 体温センサー
211 脳波モニター
212 筋弛緩モニター
213 ガスモニター
221 人工呼吸器
231 シリンジポンプ