特許第6813441号(P6813441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6813441
(24)【登録日】2020年12月21日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】配向セラミックス焼結体及びその製法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/622 20060101AFI20201228BHJP
   C30B 29/20 20060101ALI20201228BHJP
   C04B 35/111 20060101ALI20201228BHJP
   B28B 3/02 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   C04B35/622
   C30B29/20
   C04B35/111
   B28B3/02 P
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-125165(P2017-125165)
(22)【出願日】2017年6月27日
(65)【公開番号】特開2019-6648(P2019-6648A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 守道
(72)【発明者】
【氏名】大河内 聡太
(72)【発明者】
【氏名】前田 高宏
(72)【発明者】
【氏名】吉川 潤
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/121853(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/057552(WO,A1)
【文献】 特開平02−064065(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/118920(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/086026(WO,A1)
【文献】 特開2003−146767(JP,A)
【文献】 特開2015−030233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
B28B 3/02
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面部の表面に以下の条件を満たす点Aが存在する、配向セラミックス焼結体。
[条件]
前記曲面部の表面の点Aで法線Nを引き、前記法線Nを含むように前記配向セラミックス焼結体を切断した断面において、点Aと前記法線Nが底面と交わる点Dとを結んだ線分ADを3等分した点を点Aに近い側から点B、点Cとし、長さLの線分AB、線分BC、線分CDをそれぞれ含む長方形状の領域1〜3を、各長辺の中点を線分ADが通過し、各短辺が長さL、各長辺が長さLの1.33倍となるように定義し、
前記断面に対する法線ZをND(Normal Direction)、ベクトルBA,ベクトルCB,ベクトルDCをRD(Reference Direction)としたEBSD測定を行い、各領域1〜3につき、RDに対するa面とc面の極点図を作成し、a面のMUD(Multiple Uniform Density)とc面のMUDを算出して両MUDのうち大きい方で且つ値が10以上である面を各領域1〜3の配向面に決定すると共に、各領域1〜3の結晶全体の平均配向方位を表すオイラー角を算出し、各領域1〜3のオイラー角を各領域1〜3の配向方位を示す点P1(α1,β1),点P2(α2,β2),点P3(α3,β3)(α1,α2,α3は倒れ角、β1,β2,β3は回転角を表す)に変換し、
点P1を原点である点P1’(0,0)に移動し、点P2,点P3を点P1の点P1’への移動量と等量だけ移動して点P2’(α2’,β2’),点P3(α3’,β3’)とし、線分P1’P2’と線分P1’P3’とのなす角度をγ=|β3’−β2’|としたとき、
α2’<α3’
1°<α2’<30°
1°<α3’−α2’<30°
γ≦90°
となる。
【請求項2】
γ≦15°である、
請求項1に記載の配向セラミックス焼結体。
【請求項3】
両MUDのうち大きい方の値が30以上である、
請求項1又は2に記載の配向セラミックス焼結体。
【請求項4】
前記配向セラミックス焼結体は、前記曲面部と該曲面部とは反対側の平面状の底面部とを有し、前記曲面部は上に向かって凸状に膨出した面である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の配向セラミックス焼結体。
【請求項5】
前記曲面部は球面状であり、
前記点Aは、前記曲面部の頂点を通る法線を含むように前記配向セラミックス焼結体を切断したときの断面において、前記曲面部と前記底面部との交点を定め、前記交点と前記頂点とを結んだ曲線断片を二等分する点である、
請求項4に記載の配向セラミックス焼結体。
【請求項6】
前記配向セラミックス焼結体は配向アルミナ焼結体である、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の配向セラミックス焼結体。
【請求項7】
少なくとも板状粉末を含む原料粉末100質量部に対して有機バインダーを2〜30質量部含む原料混合物を、前記板状粉末が所定方向に配向するように成形することにより成形体を作製し、前記成形体を有機溶媒に含浸することにより前記成形体に含まれる前記有機バインダーを膨潤させ、膨潤した前記成形体を曲げ加工用の型に入れてプレスすることにより曲げ加工を施し、曲げ加工後の前記成形体を焼成することにより配向セラミックス焼結体を得る、
配向セラミックス焼結体の製法。
【請求項8】
前記成形体は、前記原料粉末100質量部に対して前記有機バインダーを4〜15質量部含む、
請求項7に記載の配向セラミックス焼結体の製法。
【請求項9】
前記有機バインダーは、ブチラール系ポリマー、アクリル系ポリマー又はメタクリル系ポリマーである、
請求項7又は8に記載の配向セラミックス焼結体の製法。
【請求項10】
前記配向セラミックス焼結体は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の配向セラミックス焼結体である、
請求項7〜9のいずれか1項に記載の配向セラミックス焼結体の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向セラミックス焼結体及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
配向アルミナ焼結体の製法としては、例えば特許文献1の方法が知られている。この方法では、板状アルミナ粉末と微細アルミナ粉末とを混合し、そこにバインダーや分散媒等を加えてスラリーを調製し、そのスラリーをテープ成形した後そのテープを積層して成形体とし、成形体を焼成して配向アルミナ焼結体を得ている。こうして得られる配向アルミナ焼結体は、平板状であり、c面配向度の高いものである。
【0003】
一方、曲面部を備えるセラミックスプレートの製法としては、例えば特許文献2の方法が知られている。この方法では、まず、セラミックスグリーンシートを、そのシートに含まれるバインダーのガラス転移点の10℃以上40℃以下の環境下にて加熱するとともに、加熱されたセラミックスグリーンシートに対して曲げ加工を行う。次に、曲げ加工後のセラミックスグリーンシートを焼成する。こうすることにより、曲面部を備えるセラミックスプレートが得られる。この製法によれば、曲げ加工中のセラミックスグリーンシートの割れ等の発生を抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/084722号パンフレット
【特許文献2】特開2015−30233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、焼結体表面で法線を引いた際にその法線上の粒子の結晶方位の配向状態が徐々に変化するような配向焼結体については、特許文献1,2のいずれにも記載も示唆もない。また、特許文献1のようにテープを積層して平板状の成形体としたあと、その成形体を特許文献2のようにバインダーのガラス転移点の10℃以上40℃以下の環境下にて加熱するとともに曲げ加工を行うと、曲げ加工時に割れやしわが入るという問題があった。そのため、特許文献1,2を単に組み合わせただけでは、焼結体表面で法線を引いた際にその法線上の粒子の結晶方位の配向状態が徐々に変化するような配向焼結体を得ることはできない。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、曲線部の表面で法線を引いた際にその法線上の粒子の結晶方位の配向状態が徐々に変化するような配向セラミックス焼結体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の配向セラミックス焼結体は、曲面部の表面に以下の条件を満たす点Aが存在するものである。
[条件]
前記曲面部の表面の点Aで法線Nを引き、前記法線Nを含むように前記配向セラミックス焼結体を切断した断面において、点Aと前記法線Nが底面と交わる点Dとを結んだ線分ADを3等分した点を点Aに近い側から点B、点Cとし、長さLの線分AB、線分BC、線分CDをそれぞれ含む長方形状の領域1〜3を、各長辺の中点を線分ADが通過し、各短辺が長さL、各長辺が長さLの1.33倍となるように定義し、
前記断面に対する法線ZをND(Normal Direction)、ベクトルBA,ベクトルCB,ベクトルDCをRD(Reference Direction)としたEBSD測定を行い、各領域1〜3につき、RDに対するa面とc面の極点図を作成し、a面のMUD(Multiple Uniform Density)とc面のMUDを算出して両MUDのうち大きい方で且つ値が10以上である面を各領域1〜3の配向面に決定すると共に、各領域1〜3の結晶全体の平均配向方位を表すオイラー角を算出し、各領域1〜3のオイラー角を各領域1〜3の配向方位を示す点P1(α1,β1),点P2(α2,β2),点P3(α3,β3)(α1,α2,α3は倒れ角、β1,β2,β3は回転角を表す)に変換し、
点P1を原点である点P1’(0,0)に移動し、点P2,点P3を点P1の点P1’への移動量と等量だけ移動して点P2’(α2’,β2’),点P3(α3’,β3’)とし、線分P1’P2’と線分P1’P3’とのなす角度をγ=|β3’−β2’|としたとき、
α2’<α3’
1°<α2’<30°
1°<α3’−α2’<30°
γ≦90°
となる。なお、倒れ角α、回転角βの詳細については後述する。
【0008】
この配向セラミックス焼結体では、領域1から領域3にかけて配向方位の倒れ角が徐々に大きくなっており、各配向方位の回転角は所定範囲に収まっている。そのため、この配向セラミックス焼結体は、曲線部の表面で法線を引いた際にその法線上の粒子の結晶方位の配向状態が徐々に変化している部分が存在する。こうした配向セラミックス焼結体は、光学特性や電気特性等が向上する。
【0009】
本発明の配向セラミックス焼結体の製法は、
少なくとも板状粉末を含む原料粉末100質量部に対して有機バインダーを2〜30質量部含む原料混合物を、前記板状粉末が所定方向に配向するように成形することにより成形体を作製し、前記成形体を有機溶媒に含浸することにより前記成形体に含まれる前記有機バインダーを膨潤させ、膨潤した前記成形体を曲げ加工用の型に入れてプレスすることにより曲げ加工を施し、曲げ加工後の前記成形体を焼成することにより配向セラミックス焼結体を得る、
ものである。
【0010】
この配向セラミックス焼結体の製法は、上述した配向セラミックス焼結体を製造するのに適している。また、成形体に含まれる有機バインダを膨潤させたあと曲げ加工用の型に入れてプレスすることにより曲げ加工を施すため、曲げ加工時に割れやしわが入るのを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】配向セラミックス焼結体10の概略構成を示す斜視図。
図2図1のA−A断面図。
図3】曲面部10aの表面の点Aにおける法線Nを含むように配向セラミックス焼結体10を切断したときの断面。
図4】RDに対するc面極点図。
図5】配向方位点(α,β)を示した極点図。
図6】配向方位点P1〜P3を示した極点図。
図7】配向方位点P1’〜P3’を示した極点図。
図8】各領域の移動後の配向方位のイメージ図。
図9】点Aの選択方法の一例を示す説明図。
図10】配向セラミックス焼結体20の概略構成を示す斜視図。
図11】板状アルミナ粒子の模式図であり、(a)は平面図、(b)は正面図。
図12】上型60の説明図で、(a)は平面図、(b)はB−B断面図。
図13】曲げ加工の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら以下に説明する。図1は配向セラミックス焼結体10の概略構成を示す斜視図、図2図1のA−A断面図である。なお、図2における矢印は配向軸(粒子の結晶方位の配向方向)を示す。
【0013】
配向セラミックス焼結体10は、緻密質であり、図1及び図2に示すように、曲面部10aと底面部10bとを有している。曲面部10aは、略球面状であり、上に向かって凸状に膨出している。底面部10bは、曲面部10aとは反対側に設けられた平面である。配向セラミックス焼結体10の材料は、アルミナ、窒化アルミニウム、酸化亜鉛などのほか、磁性材料、強誘電体材料、圧電材料、光学材料などであってもよい。このうち、アルミナが好ましい。
【0014】
曲面部10aの表面には、以下の条件を満たす点Aが存在する。
【0015】
曲面部10aの表面の点Aで法線Nを引き、法線Nを含むように配向セラミックス焼結体10を切断した断面(図3)において、点Aと法線Nが底面部10bに交わる点Dとを結んだ線分ADを3等分した点を点Aに近い側から点B、点Cとする。長さLの線分AB、線分BC、線分CDをそれぞれ含む長方形状の領域1〜3を、各長辺の中点を線分ADが通過し、各短辺が長さL、各長辺が長さLの1.33倍となるように定義する。
【0016】
これらの領域1〜3において断面に対する法線Z(図3において紙面に垂直な方向)をND(Normal Direction)、ベクトルBA,ベクトルCB,ベクトルDCをRD(Reference Direction)としたEBSD測定を行い、各領域1〜3につき、RDに対するa面とc面の極点図を作成する。ここでは、EBSD(オックスフォード・インストゥルメンツ社製のNordlys Nano)を組み合わせた走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、SU−5000)を用いてEBSD測定を行い、配向状態を評価する。
【0017】
EBSDの測定条件は、以下のとおりである。
・加速電圧:15kv
・スポット強度:70
・ワーキングディスタンス:22.5mm
・ステップサイズ:10μm
・試料傾斜角:70°
・EBSDカメラピニングモード:1×1
・フレーム平均:5フレーム
・静的バックグラウンド補正:オン
・自動バックグラウンド補正:オン
・Z軸の規定:サンプル台座表面、即ちサンプル断面に対する法線方向をZ0(ND)とする
・Y軸の規定:領域1はベクトルBA方向、領域2はベクトルCB方向、領域3はベクトルDC方向をY0(RD)とする
・測定プログラム: Aztec (version 3.3)
※EBSDの測定面積が2×3mm以上の大面積となる場合、測定プログラムAztec(version3.3) Large Area Mappingを用いて分析範囲を指定し、画像結合を行う。
【0018】
配向状態を評価するにあたり、各領域1〜3のRDに対するa面、c面の極点図を作成する。そして、各領域1〜3のa面、c面の極点図を構成する全点を選択し、MUD(Multiple Uniform Density)を算出する。詳細な解析条件は以下のとおり。
・解析プログラム:OXFORD HKL CHANNEL5(version 5.12.57.0)
・ソフト内のアプリケーション「Manbo」を使用し、極点図を作成。
・「countering」をHalf Width=10°、Data Clustering=5°で実行し、極点図からMUDを算出。
【0019】
RDに対するc面極点図の一例を図4に示す。図4には、c面極点図を構成する全点がプロットされている。なお、EBSD測定時の設定はY0=RDであったが、図4はRDに対する極点図であるためY0≠RD(Y0はEBSD測定時のZ0(ND)に相当)である。また、後述する配向方位は、極点図内全点の平均座標を意味し、極点図に記載すると図5のようになる。
【0020】
各領域1〜3のa面、c面のMUD値を比較し、両者のうち大きい方で且つ値が10以上である面をその領域の配向面とする。例えば、領域1のa面のMUDが3、c面のMUDが15だった場合、領域1の配向面はc面とする。このとき、各領域1〜3の配向面が一致することを確認する。
【0021】
次に、各領域1〜3のRDに対するIPF(Inverse Pole Figure)マップを作成し、IPFマップからEBSDの測定領域内の結晶全体の平均配向方位(これを「配向方位」と定義する)を算出する。解析条件は以下のとおり。
・解析プログラム: OXFORD HKL CHANNEL5(version 5.12.57.0)
・ソフト内のアプリケーション「Tango」を使用。
・RD方向のIPFマップを作成。
・Critical misorientationを「1000」に設定し、Detect Grainsにより、配向方位を算出。
【0022】
配向方位はオイラー角(φ1, φ, φ2)で与えられる。これを、RDに対する倒れ角αと回転角βよりなる(α,β)に変換する。変換方法は以下のとおり。
<RDの配向面がa面の場合>
a= sin(φ1)cos(φ2)+cos(φ1)sin(φ2)cos(φ)
b= −sin(φ1)sin(φ2)+cos(φ1)cos(φ2)cos(φ)
c= −cos(φ1)sin(φ)
d= (a2+b2)1/2/(a2+b2+c2)1/2
e= a/(a2+b2)1/2
α=arcsin(d×180/π)
β=arccos(e×180/π)
<RDの配向面がc面の場合>
a= sin(φ2)sin(φ)
b= cos(φ2)sin(φ)
c= cos(φ)
d= (a2+b2)1/2/(a2+b2+c2)1/2
e= a/(a2+b2)1/2
α=arcsin(d×180/π)
β=arccos(e×180/π)
【0023】
なお、オイラー角φ2=180〜360°のときには、上記式で計算したβに対し、360°−βの値を真のβとして用いることとする。
【0024】
各領域1〜3の配向方位は、RDに対する極点図上で点P1(α1,β1)、点P2(α2,β2)、点P3(α3,β3)と記載することができる(図6)。この後、点P1〜点P3の関係を整理するため、点P1’〜点P3’を定義する。点P1’は領域1の配向方位点P1を原点に移動したものである。また、点P2’、点P3’は点P2(α2,β2)、点P3(α3,β3)に対して、点P1の点P1’への移動と同方向に等量だけ移動したものである。これらの点P1’〜点P3’を極点図上に記載すると図7のようになる。
【0025】
即ち、
領域1:点P1(α1,β1)→点P1’(0,0)、
領域2:点P2(α2,β2)→点P2’(α2−α1,β2−β1)=(α2’,β2‘)
領域3:点P3(α3,β3)→点P3’(α3−α1,β3−β1)=(α3’,β3’)とする。
【0026】
なお、β2−β1、β3−β1の値が負になるときは360°を足した値をβ2’、β3’として用いることとする。また、線分P1’P2’と線分P1’P3’のなす角度をγ=│β3’− β2’│とする。
【0027】
このとき、以下の関係を満たす。
α2’<α3’
1°<α2’<30°(好ましくは5°<α2’<30°)
1°<α3’−α2’<30°(好ましくは5°<α3’−α2’<30°)
γ≦90°(好ましくはγ≦70°、より好ましくはγ≦50°)
【0028】
ここで、領域1の移動後の配向方位と領域2の移動後の配向方位とのイメージ図、領域1の移動後の配向方位と領域3の移動後の配向方位とのイメージ図を図8に示す。領域1の移動後の配向方位を基準としたとき、領域2の移動後の配向方位の倒れ角α2’は1°<α2’<30°であり、領域3の移動後の配向方位の倒れ角α3’は倒れ角α2’よりも更に大きくなっている(1°+α2’<α3’<30°+α2’)。また、各配向方位の回転角は所定範囲に収まっている。そのため、この配向セラミックス焼結体10は、曲線部10aの表面で法線を引いた際にその法線上の粒子の結晶方位の配向状態が徐々に変化している部分が存在する。
【0029】
配向セラミックス焼結体10は、曲面部10aの表面に、以上の条件を満たす点Aが存在するものであれば、特に限定されない。このような点Aの選択方法として、例えば以下のような方法が挙げられる。すなわち、図9に示すように、曲面部10aの頂点Eを定め、その頂点Eを通る曲面部10aの法線を含むように配向セラミックス焼結体10を切断する。その断面において、曲面部10aと底面部10bとの交点F、F’を定め、点Eと点Fとを結んだ曲線断片EFを二等分する点を点Aとする。点Aは1点のみでもよいが、曲線断片EFを二等分する点と曲線断片EF’を二等分する点の2つを点Aとしてもよい。また、曲線断片EFを3等分する点の少なくとも1つを点Aとしてもよい。
【0030】
次に、配向セラミックス焼結体10の製法の一例について説明する。配向セラミックス焼結体10は、以下の手順にしたがって製造する。まず、少なくとも板状粉末を含む原料粉末100質量部に対して有機バインダーを2〜30質量部含む原料混合物を、板状粉末が所定方向に配向するように成形することにより成形体を作製する。次に、成形体を有機溶媒に含浸することにより成形体に含まれる有機バインダーを膨潤させる。そして、膨潤した成形体を曲げ加工用の型に入れてプレスすることにより曲げ加工を施す。最後に、曲げ加工後の成形体を焼成して、配向セラミックス焼結体10を得る。以下、各工程について詳説する。
【0031】
(a)成形体の作製
成形体を作製する方法は、板状粉末が配向する方法であればどのようなものでもよい。例えば、テープ成形、押出成形、鋳込み成形、ゲルキャスト成形、射出成形、一軸プレス成形、及びそれらと磁場配向の組み合わせ等が挙げられる。このうち、テープ成形が好ましい。
【0032】
原料粉末としては、少なくとも板状粉末を用いていれば、1種類の粉末を用いてもよいし、平均粒径の異なる2種以上の粉末の混合物を用いてもよいし、形状の異なる2種以上の粉末の混合物を用いてもよい。原料粉末としては、板状粉末と微細粉末との混合物を原料粉末として用いるのが好ましい。こうすることにより、配向状態(MUD)の高い焼成体が得られる。
【0033】
原料粉末には、主成分の粉末以外に焼結助剤粉末を添加してもよいし、バインダーや可塑剤、分散剤、分散媒、焼結助剤などを適宜添加してもよい。成形体は、原料粉末に有機物を添加した場合にはその有機物が分解・蒸発する温度で脱脂を行ったあと次工程で用いるのが好ましい。
【0034】
有機バインダーとしては、ポリマーを用いることが好ましく、ブチラール系ポリマー、アクリル系ポリマー又はメタクリル系ポリマーを用いることがより好ましい。これによりテープ成形がし易くなり、取扱いも容易になる。ブチラール系ポリマーとしては、例えばポリビニルブチラールが挙げられる。テープ成形のし易さと、成形体を有機溶媒に含浸した際の軟化のし易さから、主原料100質量部に対して、有機バインダーを2〜30質量部を添加することが好ましい。有機バインダーの添加量が少ないと、成形し難くなったり、膨潤による成形体の軟化の効果が小さく加工し難くなったりする。一方、有機バインダーの添加量が多すぎても、成形し難くなったり、軟化し過ぎてしまい取扱い難くなったりする。有機バインダーの添加量は、4〜15質量部がより好ましい。
【0035】
可塑剤としては、例えばフタル酸エステルやアジピン酸エステル等の有機化合物が挙げられる。可塑剤は、主原料100質量部に対して0.5〜25質量部添加するのが好ましく、2〜8質量部添加するのがより好ましい。分散剤としては、例えばトリオレイン酸ソルビタンなどの多価アルコールと脂肪酸とのエステルが挙げられる。分散媒としては、例えば2−エチルヘキサノール、オクタノール、ターピネオール、ブチルカルビトール、キシレン等の芳香族化合物、アルコール類などが挙げられ、単独あるいは複数種組み合わせて使用できる。焼結助剤としては、例えばセラミックがアルミナの場合、AlF3、MgO、MgF2、V23、CaO,CuO、La23などが挙げられ、単独あるいは複数種組合わせて添加できる。
【0036】
(b)膨潤化
有機バインダーを膨潤させることができればどのような方法でもよく、例えば、成形体に有機溶媒を少量ずつかけて徐々に膨潤させてもよいし、成形体を有機溶媒の中に漬けて含浸させてもよい。膨潤状態としては、膨潤後の曲げ加工のし易さ(成形精度や成形体の均質性)の観点から、成形体中の樹脂成分が均質に飽和状態となるまで膨潤させるのが好ましい。そのため、成形体を成形体の形状よりも大きな容器に入れ、成形体全体が浸かるように有機溶媒を注ぎ、含浸させるのが好ましい。含浸させる時間については、成形体中の樹脂成分量、形状により、成形体中に含まれる全ての樹脂成分が均質に膨潤する時間は異なるが、少なくとも5秒以上浸けるのが好ましい。
【0037】
テープ積層体(テープ成形体を重ねただけの状態)を含浸させる際には、積層ズレや剥がれ(積層したテープ同士が完全に剥がれてバラバラになること)が生じないように拘束するのが好ましい。拘束する方法としてはズレや剥がれが生じなければどのような方法でもよく、例えば、磁石により、上下面から積層体を挟むようにして拘束する方法が挙げられる。有機溶媒を含浸させたテープ成形体は非常に柔らかく、曲げ加工時に取扱い難いため、加工前に成形体の空隙やテープ間に入った余分な有機溶媒を取り除いておくのが好ましい。方法としては、成形体を真空パックに入れ真空引きを行う等が挙げられる。
【0038】
有機溶媒の種類としては、樹脂成分を溶かさず膨潤化するようなものであればどのようなものであっても良い。例えば、キシレンやトルエン、ブタノール、プロパノール、メチルイソブチルケトン等が挙げられるが、キシレンやトルエン等の芳香族系の有機溶媒が好ましい。また、成形体の成形方法がテープ成形のものについては、テープに使用している有機溶媒を用いるのが好ましい。
【0039】
(c)曲げ加工
成形体の曲げ加工は、有機溶媒を含浸させた成形体を曲げ加工用の型に入れて、プレスする方法であればどのような方法であってもよい。例えば、曲げ加工用の型は、上型と下型からなり、上型は曲面部を形成するための凹部を有していてもよく、下型は底面部(平面)を形成するため平板であってもよい。プレス方法としては、例えば、一軸プレスや冷間等方圧加圧(CIP)処理が挙げられる。プレスする際には加熱していてもよいし、加熱してあってもよい。
【0040】
少なくとも樹脂成分を膨潤化させる前の成形体の体積を型の容積以上とするように調整する必要がある。また、樹脂成分を膨潤化させる前の成形体の体積を型の容積と同程度となるように調整することで、型からはみ出す余剰な部位の量を減らすことができるため、コスト的な観点では好ましい。
【0041】
(d)焼成
曲げ加工した成形体を脱脂後、焼成することにより配向セラミックス焼結体が得られる。焼成後の形状精度(焼成時の反りやうねりを少なくする)を良くするには、成形体・脱脂体の密度を高くするのが好ましい。このため、成形体・脱脂体に一軸プレス又はCIP処理を行い密度を高めておくのが好ましい。
【0042】
以上詳述した配向セラミックス焼結体10では、領域1から領域3にかけて配向方位の倒れ角が徐々に大きくなっており、各配向方位の回転角は所定範囲に収まっている。そのため、この配向セラミックス焼結体10は、曲線部10aの表面で法線を引いた際にその法線上の粒子の結晶方位の配向状態が徐々に変化している部分が存在する。こうした配向セラミックス焼結体10は、光学特性や電気特性等が向上する。
【0043】
配向セラミックス焼結体10において、γは小さい方が高配向な焼結体であることを意味し、高い配向性を有するには90°以下が好ましく、70°以下がより好ましく、50°以下が更に好ましく、30°以下が特に好ましく、15°以下が一層好ましい。こうすることにより、上述したような効果が顕著に得られる。
【0044】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0045】
上述した実施形態では、曲面部10aを略球面状としたが、特にこれに限定されるものではない。例えば、図10に示す配向セラミックス焼結体20のように、曲面部20aを円柱の側面、底面部20bを長方形状の平面としてもよい。
【実施例】
【0046】
[実験例1]
1.アルミナ焼結体の作製
(1)板状アルミナ粉末の作製
高純度γ−アルミナ粉末(TM−300D、大明化学製)96質量部と、高純度AlF3粉末(関東化学製、鹿特級)4質量部と、種結晶として高純度α−アルミナ粉末(TM−DAR、大明化学製、D50=1μm)0.17質量部とを、溶媒をIPA(イソプロピルアルコール)としてφ2mmのアルミナボールを用いて5時間ポットミルで混合した。ポットミル混合した後、IPAをエバポレータにて乾燥し、混合粉末を得た。得られた混合粉末300gを純度99.5質量%の高純度アルミナ製のさや(容積750cm3)に入れ、純度99.5質量%の高純度アルミナ製の蓋をして電気炉内でエアフロー中、900℃、3時間熱処理した。エアーの流量は25000cc/minとした。熱処理後の粉末を大気中、1150℃で42.5時間アニール処理した後、φ2mmのアルミナボールを用いて4時間粉砕して平均粒径2μm、厚み0.3μm、アスペクト比約7の板状アルミナ粉末を得た。粒子の平均粒径、平均厚み、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)で板状アルミナ粉末中の任意の粒子100個を観察して決定した。平均粒径は、粒子板面の長軸長の平均値、平均厚みは、粒子の短軸長(厚み)の平均値、アスペクト比は、平均粒径/平均厚みである。図11は、板状アルミナ粒子の模式図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。板状アルミナ粒子は、平面視したときの形状が略六角形状であり、その粒径は図11(a)に示したとおりであり、厚みは図11(b)に示したとおりである。
【0047】
(2)成形体の作製、膨潤化及び曲げ加工
上記(1)で作製した板状アルミナ粉末2.0質量部と、平均粒径がこの板状アルミナ粉末の厚みより小さい微細アルミナ粉末(AKP−20、住友化学製)98.0質量部とを混合した。この混合アルミナ粉末100質量部に対し、酸化マグネシウム(500A、宇部マテリアルズ製)0.025質量部と、バインダーとしてポリビニルブチラール(品番BM−2、積水化学工業製)8質量部と、可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)フタレート(黒金化成製)4質量部と、分散剤としてトリオレイン酸ソルビタン(レオドールSP−O30、花王製)0.5質量部と、分散媒としてキシレンとブタノールの1:1混合溶液とを加えて混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。このようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によってPETフィルムの上に乾燥後の厚さが100μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープをφ35mmに切断した後150枚積層した。積層体が剥がれないようにφ5mmフェライト磁石にて上下面から挟み、90mm角のアルミナ容器に入れた。アルミナ容器に有機溶媒としてキシレンを50cc注ぎ、1分間静置して積層体にキシレンを含浸、膨潤させた。膨潤処理後、キシレンから積層体を取り出して磁石を外し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、真空パックし、各テープ間の隙間の余剰な有機溶媒を排出した。積層体を、真空パックから取り出し、曲げ加工を実施した。図12は曲げ加工に用いた上型60の説明図で、(a)は平面図、(b)はB−B断面図である。上型60は、下面に円形凹部62を有する金型である。本実験例では、円形凹部62の開口の直径は47mm、円形凹部62の凹曲面62aの曲率半径は30mmとした。曲げ加工は、図13に示すように、厚さ10mmのAl板50と上型60とを用いて行った。すなわち、上述した積層体を厚さ10mmのAl板50と上型60とで挟み、それを150℃に加熱した一軸プレス成形機(プレス部上下面に加熱機構を有する)にセットした。そして、一軸プレス成形機で25kgf/cm2の圧力を掛けながら、1min、一軸プレスを行った。一軸プレスによって円形凹部62からはみ出した余剰な部位を切り取り、外周形状をφ47mmに整えて、曲面部を備えた成形体を得た。なお、表1に成形体の組成や膨潤化の条件をまとめた。
【0048】
【表1】
【0049】
(3)焼成
曲面部を備えた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体をアルミナ製の鞘に入れ、大気中、1550℃で4時間の条件で常圧焼成し、焼成体を作製した。作製した焼成体を作製した焼成体をアルミナ製の鞘に入れ、熱間等方圧加圧法(HIP)処理をArガス、圧力185MPa、1900℃で2時間の条件で行った。
【0050】
2.アルミナ焼結体の特性
(1)EBSD測定
得られた焼結体の曲面部の頂点の法線を含むように切断し、断面をダイヤモンド砥粒を用いて予備研磨した後、クロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子製、IB−09010CP)で研磨した。CPはイオンミリングの範疇に属する。その得られた断面をカーボン蒸着し、EBSD(オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製、Nordlys Nano)を組み合わせた走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、SU−5000)を用いて、EBSD測定を行った。測定領域は以下のように決定した。図9にしたがって、曲面部の頂点Eと曲面部と底面部の交点Fとを結んだ円弧EFを二分する点A(即ち、∠EOA=∠AOF)の法線と底面部との交わる点をDとし、その線分ADを3等分する点をB、Cとするとき、線分AB、BC、CDが長辺の中心を通る連続する3つ長方形の領域1〜3を測定領域とした。各測定領域は短辺が線分AB、BC、CDの長さであり、長辺が線分AB、BC、CDの1.33倍の長さとした。EBSD測定の諸条件は以下のとおりとした。
【0051】
<EBSD測定条件>
・測定プログラム:Aztec(version3.3)
・加速電圧:15kv
・スポット強度:70
・ワーキングディスタンス:22.5mm
・ステップサイズ:10μm
・試料傾斜角:70°
・EBSDカメラピニングモード:1×1
・フレーム平均:5フレーム
・静的バックグラウンド補正:オン
・自動バックグラウンド補正:オン
・Z軸の規定:サンプル台座表面、即ちサンプル断面に対する法線方向をZ0(ND)とする
・Y軸の規定:領域1はベクトルBA方向、領域2はベクトルCB方向、領域3はベクトルDC方向をY0(RD)とする
【0052】
以下の手法を用いて、領域1〜3のRDにおける極点図を作成し、RDのa面、c面のMUD値(小数点以下は四捨五入)を算出し、配向面を求めた。本実験例では、a面のMUDは領域1は5、領域2は5、領域3は4,c面のMUDは領域1は89、領域2は78、領域3は68であり、領域1〜3共にc面配向であった。
・解析プログラム:OXFORD HKL CHANNEL5(version5.12.57.0)
・ソフト内のアプリケーション「Manbo」を使用し、領域1〜3のRDにおけるa面、c面の極点図を作成
・結晶系の規定:Trigonalを選択
・「countering」をHalf Width=10°、Data Clustering=5°で実行し、a面、c面それぞれのMUDを算出
【0053】
以下の手法を用いて、領域1〜3のRDにおけるIPFマップを作成し、各領域の結晶全体の平均配向方位(配向方位)を算出した。配向方位はオイラー角で与えられた。
・解析プログラム:OXFORD HKL CHANNEL5(version5.12.57.0)
・ソフト内のアプリケーション「Tango」を使用し、領域1〜3のRDにおけるIPFマップを作成
・Critical misorientationを「1000」に設定し、Detect Grainsにより全体の配向方位(オイラー角)を算出
【0054】
前述した方法を用いて、領域1〜3のオイラー角で与えられた配向方位(φ1,φ,φ2)を倒れ角αと回転角βよりなる(α,β)に変換し、それぞれの配向方位を点P1(α1,β1)、点P2(α2,β2)、点P3(α3,β3)とした。次に前述した方法を用いて、領域1の配向方位(平均座標)点P1に対し、座標を原点に移動する操作を実施し、更に点P2(α2,β2)、点P3(α3,β3)に対しても点P1での移動と同方向に等量だけ移動し、以下の点P1’(0,0)、点P2’(α2’,β2‘)、点P3’(α3’,β3’)を定義した。また、線分P1’P2’と線分P1’P3’のなす角度をγ=│β3’− β2’│とした。
【0055】
本実施例では(α1,β1)=(1,53)、(α2,β2)=(11,45)、(α3,β3)=(23,33)であり、(α2’,β2’)=(10,352)、(α3’,β3’)=(22,340)となった。この結果、角度差α3’−α2’は12°、角度γは12°となった。その結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
[実験例2]
アルミナ焼結体を作製するにあたり、上記1.(2)の有機溶剤中での静置時間を5分にしたこと以外は、実験例1と同様にしてアルミナ焼結体を作製し、領域1〜3のRDにおけるa面とc面のMUD、配向面、配向方位を求め、角度差α3’−α2’、角度γを算出した。成形体の組成や膨潤化の条件を表1に示し、焼結体の特性を表2に示す。
【0058】
[実験例3]
アルミナ焼結体を作製するにあたり、上記1.(2)の有機溶剤中での静置時間を10秒にしたこと以外は、実験例1と同様にしてアルミナ焼結体を作製し、領域1〜3のRDにおけるa面とc面のMUD、配向面、配向方位を求め、角度差α3’−α2’、角度γを算出した。成形体の組成や膨潤化の条件を表1に示し、焼結体の特性を表2に示す。
【0059】
[実験例4]
アルミナ焼結体を作製するにあたり、上記1.(2)のバインダーとしてアクリル系ポリマー(品番KC7025T、共栄社化学製)を使用したこと以外は、実験例1と同様にしてアルミナ焼結体を作製し、領域1〜3のRDにおけるa面とc面のMUD、配向面、配向方位を求め、角度差α3’−α2’、角度γを算出した。成形体の組成や膨潤化の条件を表1に示し、焼結体の特性を表2に示す。
【0060】
[実験例5]
アルミナ焼結体を作製するにあたり、上記1.(2)のバインダー添加量を3質量部にしたこと以外は、実験例1と同様にしてアルミナ焼結体を作製し、領域1〜3のRDにおけるa面とc面のMUD、配向面、配向方位を求め、角度差α3’−α2’、角度γを算出した。成形体の組成や膨潤化の条件を表1に示し、焼結体の特性を表2に示す。
【0061】
[実験例6]
アルミナ焼結体を作製するにあたり、上記1.(2)のバインダー添加量を15質量部にしたこと以外は、実験例1と同様にしてアルミナ焼結体を作製し、領域1〜3のRDにおけるa面とc面のMUD、配向面、配向方位を求め、角度差α3’−α2’、角度γを算出した。成形体の組成や膨潤化の条件を表1に示し、焼結体の特性を表2に示す。
【0062】
[実験例7]
アルミナ焼結体を作製するにあたり、上記1.(2)のバインダー添加量を25質量部にしたこと以外は、実験例1と同様にしてアルミナ焼結体を作製し、領域1〜3のRDにおけるa面とc面のMUD、配向面、配向方位を求め、角度差α3’−α2’、角度γを算出した。成形体の組成や膨潤化の条件を表1に示し、焼結体の特性を表2に示す。
【0063】
[実験例8]
アルミナ焼結体を作製するにあたり、上記1.(2)の含浸させる有機溶媒をトルエンにしたこと以外は、実験例1と同様にしてアルミナ焼結体を作製し、領域1〜3のRDにおけるa面とc面のMUD、配向面、配向方位を求め、角度差α3’−α2’、角度γを算出した。成形体の組成や膨潤化の条件を表1に示し、焼結体の特性を表2に示す。
【0064】
[実験例9]
1.酸化亜鉛焼結体の作成
(1)板状酸化亜鉛粉末の作製
硫酸亜鉛七水和物(高純度化学研究所製)1730gとグルコン酸ナトリウム(和光純薬工業製)4.5gをイオン交換水3000gに溶解した。この溶液をビーカーに入れ、マグネットスターラーで攪拌しながら90℃に加熱、溶解した。この溶液を90℃に保持し、攪拌しながら25%アンモニウム水490gをマイクロチューブポンプにて滴下した。滴下終了後、90℃にて攪拌しながら4時間保持した後、静置した。沈殿物をろ過により分離し、更にイオン交換水による洗浄を3回行い、乾燥して白色粉末状の酸化亜鉛前駆物質を得た。得られた酸化亜鉛前駆物質のうち100gをジルコニア製のセッターに載置し、電気炉にて大気中で仮焼することにより、65gの板状多孔質酸化亜鉛粉末を得た。仮焼時の温度スケジュールは、室温から900℃まで昇温速度100℃/hにて昇温した後、900℃で30分間保持し、自然放冷とした。
【0065】
(2)成形体の作製、膨潤化及び曲げ加工
得られた板状酸化亜鉛粉末をボールミルにて体積基準D50平均粒径が3.5μmになるまで粉砕した。粉砕した板状酸化亜鉛粉末と微細酸化亜鉛粒子(堺化学工業製、微細酸化亜鉛、体積基準D50平均粒径:0.3μm)を、板状粒子/微細粒子の混合比が重量比5/95となるように混合して、酸化亜鉛混合粉末を得た。こうして得られた酸化亜鉛混合粉末94.6重量部と、θ−アルミナ(大明化学工業製タイミクロン)0.2重量部と、酸化マグネシウム(岩谷化学製)5.2重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とをトリロール混合した。分散媒の量はスラリー粘度が20000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが100μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープをφ35mmに切断した後150枚積層した。積層体が剥がれないようにφ5mmフェライト磁石にて上下面から挟み、90mm角のアルミナ容器に入れ、有機溶媒としてキシレンを50cc注ぎ、1分間静置して積層体にキシレンを含浸、膨潤させた。膨潤処理後、キシレンから積層体を取り出して磁石を外し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、真空パックし、各テープ間の隙間の余剰な有機溶媒を排出した。積層体を真空パックから取り出し、実験例1と同様にして曲げ加工を実施した。
【0066】
(3)焼成
得られた曲面形状成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間の条件で脱脂を行った。脱脂後、90mm角のアルミナ製の鞘に入れ、大気中、1400℃で5時間の条件で常圧焼成し、焼成体を作製した。作製した焼結体を90mm角のアルミナ製の鞘に入れ、熱間等方圧加圧法(HIP)処理をArガス中、1300℃で2時間の条件で行った。
【0067】
2.酸化亜鉛焼結体の特性
得られた酸化亜鉛焼結体に対し、実験例1と同様にして領域1〜3のRDにおけるa面とc面のMUD、配向面、配向方位を求め、角度差α3’−α2’、角度γを算出した。成形体の組成や膨潤化の条件を表1に示し、焼結体の特性を表2に示す。
【0068】
[実験例10]
アルミナ焼結体を作製するにあたり、上記1.(2)のバインダー添加量を1質量部にしたこと以外は、実験例1と同様にしてアルミナ焼結体の作製を試みたが、テープ成形体を得ることができなかった。
【0069】
[実験例11]
アルミナ焼結体を作製するにあたり、上記1.(2)のバインダー添加量を35質量部にしたこと以外は、実験例1と同様にしてアルミナ焼結体の作製を試みたが、テープ成形体を得ることができなかった。
【0070】
[実験例12]
アルミナ焼結体を作製するにあたり、上記1.(2)板状アルミナ粉末を用いず、微細アルミナ粉末(AKP−20、住友化学製)を100質量部にしたこと以外は、実験例1と同様にしてアルミナ焼結体を作製し、領域1〜3のRDにおけるa面とc面のMUD、配向面を求めたが、いずれの領域においてもa面とc面のMUDが10以下であり、配向焼結体とはならなかった。成形体の組成や膨潤化の条件を表1に示し、焼結体の特性を表2に示す。
【0071】
[評価]
実験例1〜8のアルミナ焼結体、及び実験例9の酸化亜鉛焼結体では、領域1〜3のいずれにおいても結晶粒子はRDにおいてc面配向しており、各領域のMUDは10以上であった。また、配向方位から算出したα2’、α3’、及び角度γは、α2’<α3’、1<α2’<30°、1<α3’−α2’<30°の関係性を持ち、角度γ≦90°以下であった。一方、実験例10,11では、バインダー量が適正でなかったため、テープ成形体を得ることができなかった。また、実験例12では、板状アルミナ粉末を添加していないため、配向焼結体が得られなかった。
【0072】
以上説明した実験例1〜9が本発明の実施例に相当し、実験例10〜12が比較例に相当する。なお、本発明は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、例えば、スマートフォン、スマートウォッチ、腕時計等のカバーガラス、各種窓材、レンズ等の光学部材などに利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
10 配向セラミックス焼結体、10a 曲面部、10b 底面部、20 配向セラミックス焼結体、20a 曲面部、20b 底面部、50 Al板、60 上型、62 円形凹部、62a 凹曲面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13