特許第6813478号(P6813478)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6813478
(24)【登録日】2020年12月21日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】耐熱性を有するキシラナーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20201228BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20201228BHJP
   C12N 9/24 20060101ALI20201228BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20201228BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20201228BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20201228BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20201228BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20201228BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   C12N15/31ZNA
   C12N15/55
   C12N9/24ZAB
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P19/14 Z
   B09B3/00 304Z
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-515551(P2017-515551)
(86)(22)【出願日】2016年4月26日
(86)【国際出願番号】JP2016063034
(87)【国際公開番号】WO2016175202
(87)【国際公開日】20161103
【審査請求日】2019年4月2日
(31)【優先権主張番号】特願2015-92216(P2015-92216)
(32)【優先日】2015年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢追 克郎
(72)【発明者】
【氏名】松沢 智彦
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/019219(WO,A1)
【文献】 Kubicek C. P. et al.,Accession No. G9MUR3, Definition: Beta-xylanase.,Database UniProtKB [online],2012年 2月22日,<http://www.uniprot.org/uniprot/G9MUR3> [retrieved on 2016.07.11],URL,<http://www.uniprot.org/uniprot/G9MUR3>
【文献】 TSUKIMURA W et al.,Improvement of alkaliphily of thermostable GH family 10 xylanase from Thermotoga maritima by directed evolution,極限環境微生物学会誌,2010年,Vol.9, No.1,pp.15-18
【文献】 RULLER R. et al.,Concommitant adaptation of a GH11 xylanase by directed evolution to create an alkali-tolerant/thermophilic enzyme,Protein Eng Des Sel,2014年,Vol.27, No.8,pp.255-262
【文献】 MIYAZAKI K. et al.,Thermal stabilization of Bacillus subtilis family-11 xylanase by directed evolution.,J Biol Chem,2006年,Vol.281, No.15,pp.10236-10242
【文献】 ARASE A. et al.,Stabilization of xylanase by random mutagenesis.,FEBS Lett,1993年,Vol.316, No.2,pp.123-127
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
WPIDS/WPIX(STN)
AGRICOLA(STN)
FSTA(STN)
SCISEARCH(STN)
TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)〜(iii)のいずれかに示されるポリペプチドを含む、58℃、30分間の熱処理を行った際に、熱処理を行っていない同じ酵素の活性と比較して、30%以上の活性を維持している変異キシラナーゼ;
(i)配列番号2に示されるアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列における21番目のトレオニン、97番目のアスパラギン、242番目のグルタミン、及び、296番目のアスパラギンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸に変異を有しており、
ここで、前記21番目のトレオニンにおける変異が、アラニン(T21A)への置換であり、
前記97番目のアスパラギンにおける変異が、セリン(N97S)への置換であり、
前記242番目のグルタミンにおける変異が、アラニン(Q242A)、グルタミン酸(Q242E)、プロリン(Q242P)、バリン(Q242V)、イソロイシン(Q242I)、セリン(Q242S)、トレオニン(Q242T)、アルギニン(Q242R)、システイン(Q242C)、及び、アスパラギン酸(Q242D)からなる群より選択されるいずれかのアミノ酸への置換であり、
前記296番目のアスパラギンにおける変異が、チロシン(N296Y)、フェニルアラニン(N296F)、トリプトファン(N296W)、ロイシン(N296L)、イソロイシン(N296I)、ヒスチジン(N296H)、グルタミン(N296Q)、及び、メチオニン(N296M)からなる群より選択されるいずれかのアミノ酸への置換である、
アミノ酸配列からなるポリペプチド、
ただし、前記ポリペプチドは、配列番号2に記載されるアミノ酸配列において、21番目のトレオニンにおける変異、又は、97番目のアスパラギンにおける変異のいずれか1つのみの変異を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドではない、
(ii)前記(i)に記載のアミノ酸配列において、1〜30個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつキシラナーゼ活性を有するポリペプチド、又は、
(iii)前記(i)に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつキシラナーゼ活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載の変異キシラナーゼであって、
前記(i)に記載のアミノ酸配列における変異が、T21A、N97S、Q242A、Q242E、Q242P、N296Y、N296F、及び、N296Wからなる群より選択される少なくとも一つの変異であることを特徴とするキシラナーゼ。
【請求項3】
請求項1に記載の変異キシラナーゼであって、
前記(i)に記載のアミノ酸配列における変異が、下記(a)〜(d)のいずれかに記載の変異であることを特徴とするキシラナーゼ;
(a)Q242P又はN296Yの1つの変異
(b)T21A及びQ242Pの2つの変異、N97S及びQ242Pの2つの変異、若しくは、Q242P及びN296Yの2つの変異
(c)T21A、N97S、Q242P、及びN296Yからなる群より選択される3つの変異の組み合わせ、又は
(d)T21A、N97S、Q242P、及びN296Yの4つの変異。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載のキシラナーゼをコードする核酸。
【請求項5】
請求項に記載の核酸を含む組換えベクター。
【請求項6】
請求項に記載の組換えベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項7】
請求項に記載の宿主細胞を培養することによりキシラナーゼを産生させる工程を含む、キシラナーゼの生産方法。
【請求項8】
請求項1〜いずれか一項に記載のキシラナーゼを含む、キシラン又はキシランを構成要素とする多糖を含む材料を処理するためのキシラン処理剤。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載のキシラナーゼ又は請求項に記載のキシラン処理剤を使用して、キシラン又はキシランを構成要素とする多糖を含む材料の糖化をする工程を含む、キシラン分解物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性を有するキシラナーゼ、当該キシラナーゼをコードする遺伝子、及び、当該キシラナーゼを発現する形質転換体に関する。また、本発明は、耐熱性を有するキシラナーゼを含むキシラン処理剤、及び、当該キシラナーゼ又は当該キシラン処理剤を用いたキシラン分解物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界に存在する木質系バイオマスのうち、20〜40%がヘミセルロースである。ヘミセルロースは、植物細胞壁中にセルロースに次いで多く含まれる多糖の総称であり、その主要成分はキシランである。キシランは、広く天然に存在する多糖の一つであり、その構造は、キシロースを単位とするβ-1,4-キシロピラノシド結合により重合した主鎖を有する高分子多糖である。キシランをキシロースまで加水分解する為には、キシラン内部のβ-キシロピラノシド結合を加水分解してキシロビオース、キシロトリオースなどのキシロオリゴ糖を生成するエンド-β-キシラナーゼと、キシロオリゴ糖に作用してキシロースにまで分解するβ-キシロシダーゼ(β-D-xylosidase)との相乗効果が必要であることが知られている。
【0003】
このうち、キシロオリゴ糖を生成するエンド-β-キシラナーゼは、木質系バイオマスの糖化処理の他、最近では、飼料用酵素、食品加工分野などにおいても応用が進んでおり、様々なキシラナーゼが研究開発されている。このようなキシラナーゼを効率的に生産する菌として、従来より糸状菌(トリコデルマ・リーセイ:Trichoderma reesei)が知られており、トリコデルマ・リーセイは、これらの酵素を生産する能力を目的に利用されてきた。トリコデルマ・リーセイ由来のキシラナーゼとして、現在までに3つの主要な形態が報告されている(Xyn1、Xyn2、及び、Xyn3)。これら3つのキシラナーゼのうち、Xyn1及びXyn2と、Xyn3とは、発現制御機構が共通していないことが報告されている。すなわち、Xyn1及びXyn2がキシラン及びセルロースにより誘導されるのに対して、第3のキシラナーゼであるXyn3は、キシラン(これら酵素の基質)によって全く誘導されず、むしろ、セルロース及びその誘導体によって誘導されることが報告されている(非特許文献1及び2)。
【0004】
また、Xyn3は、グリコシドヒドラーゼファミリー10(glycoside hydrolase family 10:GH10)に区分されているが、一方で、Xyn1やXyn2は、グリコシドヒドラーゼファミリー11(glycoside hydrolase family 11:GH11)に区分されており、Xyn3はXyn1等とは別のグリコシドヒドラーゼファミリーに属している。GH10に区分されるXyn3の立体構造は、GH11に区分されるXyn1やXyn2の立体構造とは異なるため、Xyn3とそれ以外のキシラナーゼでは酵素活性における作用様式が異なる。また、GH10に区分される酵素として報告されているのは、現在のところXyn3のみである。上述のように、通常、木質バイオマスを分解する工程においては、各種の酵素を組み合わせて使用する必要があるため、唯一のGH10メンバーであるXyn3は木質バイオマス分解において重要な酵素として位置づけられる。このような背景から、Xyn3は木質系バイオマスの効率的な糖化処理に向けた新たな可能性を有するキシラナーゼとしてこれまでに使用が検討されてきた。
【0005】
なお、バイオマス分解に限らず酵素を用いた反応系において、当該反応系における反応温度は生産物の収率に大きく影響する。ここで、トリコデルマ・リーセイ由来のXyn3における酵素活性の最適温度は約55℃であるとの報告がある(非特許文献1)。しかしながら一方で、トリコデルマ・リーセイ由来のXyn3を50℃の温度に加熱した場合、約10分程度の加熱処理で酵素活性が失われ始め、30分加熱処理した際にはその活性が60%程度まで減少してしまうことについても報告がされている(非特許文献3)。
トリコデルマ・リーセイの酵素製剤を用いたバイオマスの糖化工程は、通常、50℃、24〜72時間の条件で行われており、上記非特許文献3の報告を鑑みると、当該バイオマスの糖化工程で使用される大部分のXyn3の活性は、その糖化工程の早い段階でほとんど失活していると考えられる。従って、上記のようなバイオマス糖化工程においても酵素活性を維持できるXyn3、すなわち耐熱性を有するXyn3を提供することができれば、さらに収率が向上したバイオマスの糖化処理方法を提供することができる。しかしながら、長時間の高温条件下においても酵素活性を維持できるキシラナーゼ、とりわけXyn3については、これまでに報告がなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Xu et al., Apple Microbiol Biotechnol (1998) 49: 718-724
【非特許文献2】W. Ogasawara et al., Apple Microbiol Biotechnol (2006) 72: 995-1003
【非特許文献3】Juan Wang et al., Folia Microbiol (2014) 59: 229-233
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、従来のバイオマス糖化処理工程における長時間の高温条件下でも活性を維持することのできる耐熱性を有するキシラナーゼを提供することにある。また、本発明は、当該キシラナーゼをコードする遺伝子、当該キシラナーゼを発現する形質転換体、当該キシラナーゼを含むキシラン処理剤、及び、当該キシラナーゼ又は当該キシラン処理剤を用いたキシラン分解物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らはXyn3を構成するアミノ酸配列に耐熱性を付与するアミノ酸変異を導入することで耐熱性を有するXyn3を得ることに着目した。そこで発明者らは、トリコデルマ・リーセイ由来Xyn3のランダム変異ライブラリーを構築し、当該ライブラリーから回収した酵素粗抽出液中に含まれる各変異Xyn3に対して熱処理を行い、熱処理後の酵素活性を測定することで耐熱性を有するXyn3を見出すことを発想した。
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、上記ランダム変異ライブラリーより耐熱性を有するXyn3(第一世代耐熱化Xyn3)を見出すことに成功した。第一世代耐熱化Xyn3のアミノ酸配列についてシーケンス解析を行ったところ、野生型のアミノ酸配列と比較して1つのアミノ酸において変異を有していた。なお、上述のようにトリコデルマ・リーセイ由来のキシラナーゼのうち、Xyn3について耐熱性を有したものについての報告はなく、耐熱性を有するXyn3は本発明者らが初めて見出したものである。
ここで、本発明者らは、さらに耐熱性を有するXyn3を見出すため、また、耐熱性に影響するアミノ酸変異を同定するために、第一世代耐熱化Xyn3をコードする核酸を含むプラスミドを基にランダム変異ライブラリーを構築し、当該ライブラリー由来の粗酵素抽出液に含まれる酵素の熱処理後の活性を測定することで、さらに耐熱性を有するキシラナーゼ(第二世代耐熱化Xyn3)を見出すことにも成功した。このようにして得られた変異体の情報から、本発明者らは、Xyn3を構成するアミノ酸配列において、耐熱性の付与に影響するアミノ酸変異を同定することにも成功した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
〔1〕下記(i)〜(iii)のいずれかに示されるポリペプチドを含む耐熱性を有するキシラナーゼに関する;
(i)配列番号2に示されるアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列における21番目のトレオニン、97番目のアスパラギン、242番目のグルタミン、及び、296番目のアスパラギンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸に変異を有しており、
ここで、前記21番目のトレオニンにおける変異が、アラニン(T21A)への置換であり、
前記97番目のアスパラギンにおける変異が、セリン(N97S)への置換であり、
前記242番目のグルタミンにおける変異が、アラニン(Q242A)、グルタミン酸(Q242E)、プロリン(Q242P)、バリン(Q242V)、イソロイシン(Q242I)、セリン(Q242S)、トレオニン(Q242T)、アルギニン(Q242R)、システイン(Q242C)、及び、アスパラギン酸(Q242D)からなる群より選択されるいずれかのアミノ酸への置換であり、
前記296番目のアスパラギンにおける変異が、チロシン(N296Y)、フェニルアラニン(N296F)、トリプトファン(N296W)、ロイシン(N296L)、イソロイシン(N296I)、ヒスチジン(N296H)、グルタミン(N296Q)、及び、メチオニン(N296M)からなる群より選択されるいずれかのアミノ酸への置換である、
アミノ酸配列からなるポリペプチド、
ただし、前記ポリペプチドは、配列番号2に記載されるアミノ酸配列において、21番目のトレオニンにおける変異、又は、97番目のアスパラギンにおける変異のいずれか1つのみの変異を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドではない、
(ii)前記(i)に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、耐熱性及びキシラナーゼ活性を有するポリペプチド、又は、
(iii)前記(i)に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、耐熱性及びキシラナーゼ活性を有するポリペプチド。
【0010】
ここで、本発明の耐熱性を有するキシラナーゼの一実施の形態によれば、
〔2〕前記〔1〕に記載の耐熱性を有するキシラナーゼであって、
前記(i)に記載のアミノ酸配列における変異が、T21A、N97S、Q242A、Q242E、Q242P、N296Y、N296F、及び、N296Wからなる群より選択される少なくとも一つの変異であることを特徴とする。
また、本発明の耐熱性を有するキシラナーゼの一実施の形態によれば、
〔3〕 前記〔1〕に記載の耐熱性を有するキシラナーゼであって、
前記(i)に記載のアミノ酸配列における変異が、下記(a)〜(d)のいずれかに記載の変異であることを特徴とする;
(a)Q242P又はN296Yの1つの変異
(b)T21A及びQ242Pの2つの変異、N97S及びQ242Pの2つの変異、若しくは、Q242P及びN296Yの2つの変異
(c)T21A、N97S、Q242P、及びN296Yからなる群より選択される3つの変異の組み合わせ、又は
(d)T21A、N97S、Q242P、及びN296Yの4つの変異。
【0011】
また、本発明の別の態様によれば、本発明は、
〔4〕前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のキシラナーゼをコードする核酸に関する。
また、本発明の別の態様によれば、本発明は、
〔5〕前記〔4〕に記載の核酸を含む組換えベクターに関する。
また、本発明の別の態様によれば、本発明は、
〔6〕前記〔5〕に記載の組換えベクターで形質転換された宿主細胞に関する。
また、本発明の別の態様によれば、本発明は、
〔7〕前記〔6〕に記載の宿主細胞を培養することによりキシラナーゼを産生させる工程を含む、キシラナーゼの生産方法に関する。
また、本発明の別の態様によれば、本発明は、
〔8〕前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のキシラナーゼを含む、キシラン又はキシランを構成要素とする多糖を含む材料を処理するためのキシラン処理剤に関する。
また、本発明の別の態様によれば、本発明は、
〔9〕前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のキシラナーゼ又は前記〔8〕に記載のキシラン処理剤を使用して、キシラン又はキシランを構成要素とする多糖を含む材料の糖化をする工程を含む、キシラン分解物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るキシラナーゼは、当該酵素を構成するアミノ酸配列に耐熱性を付与するアミノ酸変異を有するため、熱処理後においても高いキシラナーゼ活性を維持することが可能となる。
なお、本発明で提供される耐熱性を有するキシラナーゼは、55℃、30分間の熱処理後においても高い酵素活性(約70%以上)を維持することができる。これは、通常のバイオマス処理条件における温度条件(約50℃)下において、より高い酵素活性を長い時間維持できることを意味している。
これまでにGH10に区分されるキシラナーゼに関して耐熱性を有するものが報告されていなかったが、本発明は、上記のようにGH10ファミリーの唯一のメンバーであるXyn3に関し耐熱性を有するキシラナーゼを提供するものであり、バイオマス糖化処理工程をより効率的に実施することを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、トリコデルマ・リーセイ由来のXyn3のアミノ酸配列(配列番号1)を示す。太字で示されたアミノ酸配列はシグナルペプチドを示す。また、図1に示されるアミノ酸配列の176位グルタミン酸と282位のグルタミン酸は、触媒活性アミノ酸を示す。
図2図2は、下記実施例1において合成した配列番号3で示される塩基配列を示す。当該塩基配列は、トリコデルマ・リーセイ由来のXyn3をコードする塩基配列について、大腸菌のコドン出現頻度(codon usage)を元にコドンの最適化を行うと伴に、分泌シグナルをコードする領域を除去し、かつ、開始コドンに対応する塩基配列(ATG)を挿入したものである。なお、図2に示す塩基配列において太字で示す塩基は挿入した開始コドン(ATG)を示し、下線で示す塩基は終止コドンを示す。
図3図3は、配列番号3で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸(配列番号2)を示す。図3に示されるアミノ酸配列(配列番号2)の132位のグルタミン酸と238位のグルタミン酸は、触媒活性アミノ酸を示す。
図4図4は、野生型Xyn3(Wt)、下記実施例3で作製した第一世代耐熱化Xyn3(D4)、及び、下記実施例7で作製した第二世代耐熱化Xyn3(E10)とを、それぞれ加熱処理(60℃、61℃、62℃、63℃、64℃、又は65℃のいずれかの温度で30分間)した後の残存キシラナーゼ活性をDNS法により測定した結果示すグラフである。なお、図4の相対活性(relative activity)とは、各酵素の熱未処理区の活性を100としたときの、熱処理後の活性の相対値を示す。
図5図5は、下記実施例3で作製した第一世代耐熱化Xyn3(D4)、下記実施例7で作製した第二世代耐熱化Xyn3(E10)、及び、下記実施例10で作製した(i)〜(x)の変異を有する各変異Xyn3を含む酵素粗抽出液を55℃、58℃、又は61℃で30分間加熱処理した後、それぞれの酵素粗抽出液中に残存するキシラナーゼの活性をDNS法により測定した結果を示すグラフである。なお、図5の相対活性(relative activity)とは、各酵素の熱未処理区の活性を100としたときの、熱処理後の活性の相対値を示す。
図6図6は、242番目のグルタミンを各種アミノ酸に置換した際の加熱処理(58℃、60℃、又は、62℃で30分間)後の残存キシラナーゼ活性をDNS法により測定した際の結果を示すグラフである。なお、図6の残存活性とは、各酵素の熱未処理区の活性を100としたときの、熱処理後の活性の相対値を示す。
図7図7は、296番目のアスパラギンを各種アミノ酸に置換した際の加熱処理(58℃、60℃、又は、62℃で30分間)後の残存キシラナーゼ活性をDNS法により測定した際の結果を示すグラフである。なお、図7の残存活性とは、各酵素の熱未処理区の活性を100としたときの、熱処理後の活性の相対値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(キシラナーゼ)
本発明は、耐熱性を有するキシラナーゼに関するものである。
ここで、「キシラナーゼ」とは、真菌若しくは細菌等の微生物に由来する、又は植物若しくは動物に由来するタンパク質、又は、当該タンパク質の活性ドメインを含むフラグメントを含むものであって、分岐したキシランやキシロオリゴ糖などを含むキシランの炭水化物骨格の様々な位置の1つ以上において、キシランの開裂を触媒する能力を有するものをいう。本発明に係るキシラナーゼは、エンド-1,4-β-キシラナーゼ(EC 3.2.1.8)である。
また、本発明に係るキシラナーゼは、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)由来のキシラナーゼであって、それらのキシラナーゼのうちの特にXyn3(アクセッション番号BAA89465、配列番号1;図1)を意味する。これより以下、本明細書において、特に断りがない限り、「キシラナーゼ」はトリコデルマ・リーセイ由来のXyn3を意味する。
Xyn3は、(β/α)8バレルの基本構造を有し、GH10のファミリーに属する。一方、トリコデルマ・リーセイ由来の他のキシラナーゼとしてXyn1及びXyn2が当業者に周知であるが、これらの酵素はβ−ゼリーロール(β-jelly roll)の基本構造を有し、GH11のファミリーに属する。このように、Xyn3とXyn1およびXyn2とは基本構造が異なるため、それぞれ別のGHファミリーに属し、互いの作用様式が異なる。また、Xyn3はGH10ファミリーとして唯一同定されている酵素であるため、各種酵素を組み合わせて使用するバイオマス糖化処理において有用な酵素である。
【0015】
(耐熱性を有するキシラナーゼ)
なお、本発明に係るキシラナーゼは、耐熱性を有するもの(例えば、熱処理前後のキシラナーゼの活性を比較した際に酵素活性を一定の割合で維持可能なもの)であり、本発明に係るキシラナーゼというときには、下記(i)〜(iii)のいずれかに示されるポリペプチドを含むキシラナーゼを含む;
(i)配列番号2に示されるアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列における21番目のトレオニン、97番目のアスパラギン、242番目のグルタミン、及び、296番目のアスパラギンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸に変異を有しており、
ここで、前記21番目のトレオニンにおける変異が、アラニン(T21A)への置換であり、
前記97番目のアスパラギンにおける変異が、セリン(N97S)への置換であり、
前記242番目のグルタミンにおける変異が、アラニン(Q242A)、グルタミン酸(Q242E)、プロリン(Q242P)、バリン(Q242V)、イソロイシン(Q242I)、セリン(Q242S)、トレオニン(Q242T)、アルギニン(Q242R)、システイン(Q242C)、及び、アスパラギン酸(Q242D)からなる群より選択されるいずれかのアミノ酸への置換であり、
前記296番目のアスパラギンにおける変異が、チロシン(N296Y)、フェニルアラニン(N296F)、トリプトファン(N296W)、ロイシン(N296L)、イソロイシン(N296I)、ヒスチジン(N296H)、グルタミン(N296Q)、及び、メチオニン(N296M)からなる群より選択されるいずれかのアミノ酸への置換である、
アミノ酸配列からなるポリペプチド、
ただし、前記ポリペプチドは、配列番号2に記載されるアミノ酸配列において、21番目のトレオニンにおける変異、又は、97番目のアスパラギンにおける変異のいずれか1つのみの変異を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドではない、
(ii)前記(i)に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、耐熱性及びキシラナーゼ活性を有するポリペプチド、又は、
(iii)前記(i)に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、耐熱性及びキシナラーゼ活性を有するポリペプチド。
なお、本明細書において、例えば「Q242P」と表記する場合、アミノ酸配列における242番目のグルタミン(Q)がプロリン(P)へ変異したことを表す。
【0016】
(i)のポリペプチドについて
ここで、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)由来のキシラナーゼであるXyn3のうち、N末側の分泌シグナルが欠損したものである。図2は配列番号2のアミノ酸配列をコードする塩基配列(配列番号3)示し、太字で示すアミノ酸残基は挿入した開始コドン(ATG)に対応する塩基配列を示し、下線で示すアミノ酸残基(TAA)は終止コドンに対応する塩基配列を示す。また、図3に、配列番号3の塩基配列がコードするアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
なお、実施の形態により、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含むキシラナーゼには、配列番号2に示されるアミノ酸配列以外のアミノ酸配列を含むことができ、例えば、N末端に分泌シグナルを有することができる。また、一実施の形態においては、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含むキシラナーゼは、当該アミノ酸配列のみからなるキシラナーゼであってもよい。または、分泌シグナルをコードする塩基配列をプラスミドベクターに挿入しておくことで、形質転換体において発現するキシラナーゼに分泌シグナルを付加してもよい。
また、本発明のキシラナーゼは、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、特定の変異を有することにより耐熱性を備えるものである。ここで、配列番号2に示されるアミノ酸配列における特定の変異とは、具体的には、配列番号2で示されるアミノ酸配列における21番目のトレオニン、97番目のアスパラギン、242番目のグルタミン、及び、296番目のアスパラギンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸における変異である。なお、本明細書において、特に断りがない限り、例えば、21番目のトレオニンという場合、配列番号2で示されるアミノ酸配列における21番目のトレオニンを意味する。
【0017】
(変異箇所におけるアミノ酸の置換について)
また、以下に、各変異箇所において耐熱性を付与するアミノ酸置換について記載する。
21番目のトレオニンにおける置換は、アラニン(T21A)であることが好ましい。
97番目のアスパラギンにおける置換は、セリン(N97S)であることが好ましい。
242番目のグルタミンにおける置換は、アラニン(Q242A)、グルタミン酸(Q242E)、プロリン(Q242P)、バリン(Q242V)、イソロイシン(Q242I)、セリン(Q242S)、トレオニン(Q242T)、アルギニン(Q242R)、システイン(Q242C)、又は、アスパラギン酸(Q242D)であることが好ましく、特に、アラニン(Q242A)、グルタミン酸(Q242E)、プロリン(Q242P)が好ましい。
296番目のアスパラギンにおける置換は、チロシン(N296Y)、フェニルアラニン(N296F)、トリプトファン(N296W)、ロイシン(N296L)、イソロイシン(N296I)、ヒスチジン(N296H)、グルタミン(N296Q)、又は、メチオニン(N296M)であることが好ましく、特に、チロシン(N296Y)、フェニルアラニン(N296F)、トリプトファン(N296W)が好ましい。
なお、本発明において、242番目のグルタミンが変異を有するというとき、上記の通り配列番号2における242番目のグルタミンが上記に列挙されるいずれかのアミノ酸に置換されることによりキシラナーゼに耐熱性が付与されるものである。しかしながら、242番目のグルタミンが、上記に列挙するアミノ酸以外のアミノ酸に置換されていた場合であっても、例えば、他の位置(この場合、21番目、97番目、及び/又は、296番目のアミノ酸)におけるアミノ酸変異による耐熱性をキシラナーゼが維持している限りにおいて21番目のアミノ酸が上記に列挙されるアミノ酸以外の他のアミノ酸へ置換されることが許容される。21番目のトレオニン、97番目のアスパラギン、及び、296番目のアスパラギンにおけるアミノ酸変異についても同様である。
【0018】
(アミノ酸変異の組み合わせ)
また、配列番号2に示されるアミノ酸配列における21番目のトレオニン、97番目のアスパラギン、242番目のグルタミン、及び、296番目のアスパラギンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸における変異というとき、変異は、1箇所であってもよいし、2箇所、3箇所、4箇所の変異の組み合わせであっても良い。ここで、2箇所又は3箇所の変異の組み合わせの場合には、21番目のトレオニン、97番目のアスパラギン、242番目のグルタミン、及び、296番目のアスパラギンからなる群から選択される2箇所又は3箇所の変異の組み合わせについて、全ての組み合わせを含む。
【0019】
なお、具体的な変異箇所及びその組み合わせについて、下記に例を挙げる。しかしながら、変異及びその組み合わせについては、以下に限定されない;
(a)242番目のグルタミンにおける変異、又は、296番目のアスパラギンにおける変異のいずれか1箇所における変異、
(b)21番目のトレオニン及び242番目のグルタミンの2箇所における変異、97番目のアスパラギン及び242番目のグルタミンの2箇所における変異、若しくは、242番目のグルタミン及び296番目のアスパラギンの2箇所における変異、
(c)21番目のトレオニン、97番目のアスパラギン、242番目のグルタミン、及び296番目のアスパラギンからなる群より選択される3箇所における変異の組み合わせ
具体的には、
(c−1)21番目のトレオニン、97番目のアスパラギン、及び242番目のグルタミン
(c−2)21番目のトレオニン、97番目のアスパラギン、及び296番目のアスパラギン
(c−3)21番目のトレオニン、242番目のグルタミン、及び296番目のアスパラギン
(c−4)97番目のアスパラギン、242番目のグルタミン、及び296番目のアスパラギン、の4つの組み合わせ、又は、
(d)21番目のトレオニン、97番目のアスパラギン、242番目のグルタミン、及び296番目のアスパラギンの4箇所における変異。
【0020】
また、具体的なアミノ酸変異(変異箇所及び置換されるアミノ酸)及びその組み合わせについて、下記に好ましい変異の例を挙げる。しかしながら、変異及びその組み合わせについては、以下に限定されない;
(a’)Q242P又はN296Yの1つの変異
(b’)T21A及びQ242Pの2つの変異、N97S及びQ242Pの2つの変異、若しくは、Q242P及びN296Yの2つの変異
(c’)T21A、N97S、Q242P、及びN296Yからなる群より選択される3つの変異の組み合わせ;
具体的には、下記4つの組み合わせ;
(c’−1)T21A、N97S、及び、Q242P、
(c’−2)T21A、N97S、及びN296Y、
(c’−3)T21A、Q242P、及びN296Y、若しくは
(c’−4)N97S、Q242P、及びN296Y、又は
(d’)T21A、N97S、Q242P、及びN296Yの4つの変異。
【0021】
(ii)のポリペプチドについて
また、本発明の耐熱性を有するキシラナーゼには、上記(i)に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、耐熱性及びキシラナーゼ活性を有するポリペプチドを含むキシラナーゼも含まれる。
ここで、「1若しくは数個のアミノ酸」とは、1〜60個であることが好ましく、1〜50個、1〜40個、1〜30個、1〜20個であることがより好ましく、1〜10個、1〜5個であることがさらに好ましい。
なお、「アミノ酸が欠失や付加されたアミノ酸配列において21番目のトレオニン」というとき、配列番号2に示されるアミノ酸配列と当該アミノ酸が欠失や付加されたアミノ酸配列とを全体として比較して(すなわち、比較する2つのアミノ酸配列を必要に応じて間隙を導入して整列(アラインメント)させ)、配列番号2に示されるアミノ酸配列における21番目のトレオニンに相当するアミノ酸を特定する。例えば、配列番号2に示されるアミノ酸のN末側から1〜3番目のアミノ酸に相当するアミノ酸の3つが欠失していたアミノ酸配列においては、「配列番号2に示されるアミノ酸配列における21番目のトレオニンに相当するアミノ酸」とは、N末側から18番目のアミノ酸となる。なお、以下に記載する、配列番号2に示されるアミノ酸配列と一定の割合で同一性を有するアミノ酸配列においても、同様である。
【0022】
(iii)のポリペプチドについて
本発明の耐熱性を有するキシラナーゼは、キシラナーゼの全長ではなく部分配列であってもよい。また、本発明の耐熱性を有するキシラナーゼには、トリコデルマ・リーセイ由来に限らず、Xyn3のオルソログを含むホモログについて、上述する変異を有するものも本発明のキシラナーゼに含まれる。
配列番号2に示されるアミノ酸配列をクエリーとしてNCBI BLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)のblastp検索をした結果、複数のGH10ファミリーに属するXyn3のオルソログを同定することができた。
同定されたトリコデルマ・リーセイ由来のキシラナーゼ(Xyn3)オルソログとしては、例えば、トリコデルマ・オリエンターレ(Trichoderma orientale)由来(アクセッション番号AJP77550)、トリコデルマ・シュードコニンギー(Trichoderma pseudokoningii)由来(アクセッション番号ABY71931)、トリコデルマ・ビレンス(Trichoderma virens)由来(アクセッション番号EHK21815)、トリコデルマ・ハルジアナム(Trichoderma harzianum)由来(アクセッション番号AIW82452)などのキシラナーゼ(Xyn3)を挙げることができる。なお、これらオルソログのアミノ酸配列とトリコデルマ・リーセイ由来のXyn3のアミノ酸配列との同一性は、トリコデルマ・オリエンターレ由来のキシラナーゼと比較して95%、トリコデルマ・シュードコニンギー由来のキシラナーゼと比較して93%、トリコデルマ・ビレンス由来のキシラナーゼと比較して85%、トリコデルマ・ハルジアナム由来のキシラナーゼと比較して84%であった。
従って、これらのオルソログにおいて、上記(i)のポリペプチドと同様の変異を有するものも、同様に向上した耐熱性を有するものである。
このように、本発明の耐熱性を有するキシラナーゼには、上記(i)に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、耐熱性及びキシラナーゼ活性を有するポリペプチドからなるキシラナーゼも含まれる。ここで、上記(i)に記載のアミノ酸配列との同一性は、80%〜99%以上(例えば、84%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上)であることが好ましい。
なお、本明細書においてアミノ酸配列の同一性というとき、比較する2つのアミノ酸配列を必要に応じて間隙を導入して整列(アラインメント)させ、その際に得られる最大のアミノ酸配列の同一性(%)をいう。アミノ酸配列の同一性については、公知の方法により解析することができる。例えば、BLASTアルゴリズムを実装したNCBI BLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)のblastpなどにより算出することができる。
【0023】
本明細書において「耐熱性を有する」とは、野生型のキシラナーゼが有する耐熱性よりも向上した耐熱性を有することを意味する。
また、「耐熱性を有するキシラナーゼ」は、熱処理をしていないキシラナーゼの酵素活性と熱処理した同一のキシラナーゼの酵素活性を測定・比較した際に、酵素活性を維持しているかを確認することで評価することができる。
本明細書において「耐熱性を有するキシラナーゼ」というとき、具体的には、下記のいずれかの条件(少なくとも(1)の条件)を満たすものである;
(1)55℃、30分間の熱処理を行った際に、熱処理を行っていない同じ酵素の活性と比較して、約70%以上の活性を維持しているもの。なお、当該条件において約70%以上の活性を維持しているもののうち、約80%以上、約90%以上の活性を維持しているものがより好ましい。
(2)より好ましくは、58℃、30分間の熱処理を行った際に、熱処理を行っていない同じ酵素の活性と比較して、約30%以上の活性を維持しているもの。なお、当該条件において約30%以上の活性を維持しているもののうち、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上の活性を維持しているものがより好ましい。
(3)さらに好ましくは、60℃、30分間の熱処理を行った際に、熱処理を行っていない同じ酵素の活性と比較して、20%以上の活性を維持しているもの。なお、当該条件において約20%以上の活性を維持しているもののうち、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上の活性を維持しているものがより好ましい。
【0024】
なお、上記に記載の「熱処理」及び「酵素活性の測定」は、具体的には、例えば下記のように行うことができる:
(イ)耐熱性を有する変異キシラナーゼを産生する形質転換宿主よりタンパク質を抽出して、当該変異キシラナーゼを含む粗酵素抽出液を得る。
(ロ)酵素抽出液を一定の温度(例えば、55℃〜65℃)で30分間加熱処理する。
(ハ)それぞれの酵素粗抽出液中に存在するキシラナーゼの活性をDNS法(Miller L., Anal Chem (1959) 31:426-428参照)により測定する。
【0025】
具体例として、形質転換宿主として大腸菌を使用し、当該菌体を1mLのLB培地中で30℃で一晩培養した際の「熱処理」及び「酵素活性の測定」は、下記のようにして行う。
(イ)の粗酵素抽出液の回収は、培養後の菌体を集菌後、100μlのタンパク質抽出液(例えば、50μlのBugBuster Protein Extraction Reagent(メルクミリポア社製)、0.1μlのBenzonase(メルクミリポア社製)、及び、50μlの超純水を混合させたもの)に懸濁してタンパク質を抽出する。タンパク質の抽出は上記抽出溶液に菌体を懸濁した後、室温で30分間静置することにより行うことができる。30分静置した後、400μlの50mM酢酸バッファー(pH5.0)を添加して抽出溶液を希釈する。次に、3500rpmで15分間遠心分離を行い、上清を回収することでキシラナーゼを含む酵素粗抽出液とする。
(ロ)の熱処理は、得られた酵素抽出液をそのまま一定の温度条件下(例えば、55℃〜65℃)で30分間加熱処理すればよい。
(ハ)のキシラナーゼ活性の測定は、本明細書の実施例においても使用されるDNS法により測定することができる。すなわち、Birchwood由来等のキシランを含むキシラン溶液に測定対象のキシラナーゼを添加することで反応させ、キシランの加水分解によって生じた還元末端をDNS法(Miller L., Anal Chem (1959) 31:426-428参照)により測定することでキシラナーゼ活性を確認することができる。
具体例として、上記(ロ)で熱処理した酵素粗抽出液及び上記(イ)で得られた熱処理していない状態の酵素抽出液を用いてキシラナーゼ活性を測定する際には、30μlの各酵素粗抽出液中に3μlのキシラン溶液を添加し、37℃で2時間反応させる(なお、キシラン溶液は以下のようにして調製する;ミリQ水に3%(w/v)になるようにBirchwood由来のxylanを添加した溶液を60℃、750rpmで30分撹拌し、次いで当該溶液を8000rpm、10分間遠心分離した。そして、遠心分離により得られた上清を回収し、キシラン溶液とする)。2時間後、反応により得られた溶液中に30μlのDNS(ジニトロサリチル酸)溶液(1.6% 水酸化ナトリウム、0.5% 3,5-ジニトロサリチル酸、30% 酒石酸ナトリウムカリウム四水和物)を加え、98℃、10分間加熱する。加熱処理後の溶液についてマイクロプレートを用いてOD540を測定することで溶液中の還元糖(キシランの加水分解により生じた糖鎖の還元末端の量)を測定し、キシラナーゼ活性を確認する。そして、例えば、加熱処理を行っていない同一のXyn3について、同じ条件で測定したキシラナーゼ活性を比較することで、加熱処理をしていないXyn3の活性を100として相対値で各変異キシラナーゼの酵素活性を評価することができる。
【0026】
(耐熱性を有するキシラナーゼをコードする核酸の調製法)
本明細書において、「耐熱性を有するキシラナーゼをコードする核酸」とは、上記(i)〜(iii)のいずれかで定義されるポリペプチドをコードする塩基配列を含む核酸である。当該核酸には、上記(i)〜(iii)のいずれかで定義されるポリペプチドをコードする塩基配列のほかに、組換えタンパク質の回収・精製のためのタグや分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列等を適宜設計して付加することもできる。
本発明のキシラナーゼをコードする核酸は、本明細書に開示される耐熱性を有するキシラナーゼのアミノ酸配列を参考にして、公知の方法やDNA合成装置を用いて作製することができる。
(耐熱性を有するキシラナーゼをコードする遺伝子発現ベクター)
本発明の耐熱性を有するキシラナーゼの遺伝子発現ベクターは、適当な発現ベクターに耐熱性の変異を有するキシラナーゼをコードする核酸を連結することにより得ることができる。
本発明で使用するベクターとしては、プラスミド、コスミド、バクテリオファージなど宿主中で複製可能なものであれば特に限定されない。またそのベクターが機能するものであれば大腸菌、放線菌、酵母、糸状菌など宿主も限定されない。
ベクター中に導入する遺伝子の方向及び順序は、遺伝子が発現され、発現されたタンパク質が酵素として機能しうる限りにおいて、適宜選択してよい。
【0027】
(本発明のキシラナーゼ遺伝子発現ベクターを含む形質転換体)
本発明においては、上記キシラナーゼ遺伝子発現ベクターを含む形質転換体(宿主細胞)として、人為的に作製した上記ベクターを導入した微生物が包含されるが、これらに限定されず、組換え酵素の生産に使用可能な公知の宿主を適宜使用することができる。
本発明の形質転換体は、上記組換えベクターを上記宿主に導入し、形質転換を行うことにより作製される。形質転換体を作製する場合、上記組換えベクターを宿主に導入することにより行われるが、これには公知のエレクトロポレーション法、プロトプラスト法、塩化カルシウム法(スフェロプラスト法)などの手法を用いることができる。また、形質転換体の作製に際しては、ベクターや宿主、高発現を誘導する誘導基質やプロモーター、オペレーター、エンハンサーなどの組み合わせを考慮して、これらを選択して用いることによって、キシラナーゼ産生能を有する形質転換体を作製することができる。
本発明に使用される形質転換体(宿主細胞)としては、生産性、取り扱い易さなどを考慮すると大腸菌宿主が好ましい。なお、本実施例では、宿主として大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3)株、ベクターとしてpET22bベクターを使用した例を示す。得られたキシラナーゼ遺伝子が導入された形質転換体は、良好なキシラナーゼの生産性を示している。
この例に限らず宿主やベクター、発現制御系などをうまく機能する様に組み合わせて用いることによって、耐熱化したキシラナーゼをコードする遺伝子を高発現する微生物の作製が可能となる。
【0028】
(本発明の耐熱性を有するキシラナーゼの製造方法)
本発明において、目的の耐熱性を有するキシラナーゼは、それをコードする核酸を保有する前記形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清、培養菌体、又は菌体の破砕物のいずれも意味するものである。本発明の形質転換体を培地で培養する方法は、当業者であれば使用する形質転換体の宿主ごとに公知の技術を用いて適宜実施することができる。放線菌や細菌、酵母、糸状菌等の微生物を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、微生物の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0029】
上記で示した組換え大腸菌の場合は当研究分野で通常用いる栄養培地で培養し、必要に応じてIPTGなどの誘導物質を加えることにより、大腸菌が増殖できる栄養培地中での酵素の高発現を行うことができる。通常の培養条件では、適宜、抗生物質を加えたLB培地で37℃一晩培養し、この十分増殖した菌体を種菌として、IPTGを含む新しいLB培地に植菌し、さらに30℃で一晩培養する。なお、他の形質転換体の場合も、それぞれの宿主細胞用に適した培地で培養する。
【0030】
培養後、目的の酵素のタンパク質が菌体内に生産される場合には、菌体を破砕することにより当該タンパク質を抽出する。また、目的タンパク質が菌体外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独でまたは適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から目的の酵素タンパク質を通常のタンパク質精製方法を用いて単離精製することができる。目的の酵素タンパク質が得られたか否かは、単離した後に、一般的なタンパク質の同定方法であるSDS-PAGE等によっても確認することができるが、形質転換体の発現産物である組換えキシラナーゼを含む酵素粗抽出液により培養液でキシランを分解する酵素活性を有するか否かで確認することができる。
【0031】
(キシラン処理剤について)
本発明は別の態様として、本発明のキシラナーゼを含有し、キシラン、又はキシランを構成要素とする多糖を含む材料を処理するためのキシラン処理剤を提供する。ここで、「処理する」とは、キシラン、又はキシランを構成要素とする多糖を基質として分解する工程にかけることを意味し、より具体的には、例えば上記のDNS法により測定される活性を利用してキシラン等を含有する材料を分解することを意味する。
本発明のキシラン処理剤は、本発明の上記形質転換体の培養物自体、適宜これを精製したもの、及び精製したキシラナーゼにその他の成分を添加した組成物の何れをも含む。キシラン処理剤に含まれるその他の成分としては、キシラナーゼの作用を阻害することのないものであれば特に限定されることはなく当該分野において公知のものを含めることができる。特に、キシラナーゼの作用と併用することにより処理効果をあげることが可能なものを含めることが好ましい。具体的にはセルラーゼ製剤などがあり、これらを該技術分野で使用されている濃度で使用することが可能である。
【0032】
(キシラナーゼ又はキシラン処理剤を用いた糖化処理)
本発明のキシラナーゼは、一般に用いられる糖化反応条件(45〜50℃)での活性が高い特長を有していることから、農業及び産業廃棄物となっている稲ワラや古木材の主成分であるキシランなどの多糖バイオマス資源をキシラン分解物(キシロオリゴ糖やキシロース)まで効率良く分解することができ、バイオマス再利用技術の付加価値を高めることができる。
キシランは、キシロースから成る主鎖にアラビノースやグルクロン酸が側鎖として結合しているため、キシランに対してキシラナーゼを作用させることで、主鎖を切断してキシロビオースなどのオリゴ糖を製造することが可能であり、キシロビオース、キシロトリオースなどのオリゴ糖が最終産物となる。したがって、β-キシロシダーゼ等の酵素を、同時にもしくは逐次的に添加することで、オリゴ糖をキシロースまで加水分解することができる。その際、側鎖を切断するα-L-アラビノフラノシダーゼを同時に、もしくは逐次的に添加することで、ほぼ完全にキシロースにまで分解できる。
すなわち、キシランに対して、本発明のキシラナーゼを反応させる工程、又は、キシラナーゼをβ-キシロシダーゼと共に反応させる工程、又は、キシラナーゼを反応させる工程の後で反応させることにより、キシロースを製造することができる。好ましくは、本発明のβ-キシロシダーゼをα-L-アラビノフラノシダーゼと同時に反応させる。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
下記実施例において、配列番号2のアミノ酸配列における242番目のグルタミンがプロリンに置換された耐熱性を有するキシラナーゼを、便宜的に、第一世代耐熱化Xyn3(D4)という。また、下記実施例において、21番目のトレオニンがアラニンに、97番目のアスパラギンがセリンに、242番目のグルタミンがプロリンに、296番目のアスパラギンがチロシンに置換された、耐熱性を有するキシラナーゼを、便宜的に、第二世代耐熱化Xyn3(E10)という。
【0034】
(1.Xyn3のランダム変異ライブラリーの構築)
トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)由来のキシラナーゼであるXyn3(配列番号1)を大腸菌で発現させるために、前記配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列及び大腸菌のコドン出現頻度(codon usage)を元にコドンの最適化を行い、配列番号3に記載のDNA(;以下、本実施例において、便宜的に野生型Xyn3をコードする塩基配列ともいう)を、DNA合成装置を用いて合成した。なお、合成したDNA(配列番号3)は、元の塩基配列(トリコデルマ・リーセイ由来のキシラナーゼであるXyn3をコードする塩基配列)から分泌シグナルをコードする領域を除去し、かつ、開始コドン(ATG)に対応する塩基配列を挿入したものである(図2に、合成したDNAの塩基配列(配列番号3)を示す。なお、図2における下線部が挿入ATGに対応する塩基配列を示す)。
次に、上記の合成DNAを鋳型に、以下のプライマーを用いてPCRを行い、合成DNAを増幅させた。(なお、下記プライマー配列において、下線を引いた箇所は制限酵素認識配列を示す。CATATGはNdeI認識配列を示し、GGATCCはBamHI認識配列を示す。)
【0035】
EcXyn3.N.NdeI(フォワードプライマー)(配列番号4)
5’-GTTTTCATATGCAGGCCTCTCAGAGTATTG-3’
EcXyn3.C.BamHI(リバースプライマー)(配列番号5)
5’-GTTTTGGATCCTTATTGAAGGATGCCAACGATCGAG-3’
上記で増幅したPCR産物をNdeI及びBamHIの制限酵素で消化し、pET22bベクターのマルチクローニングサイトへ挿入した。得られたプラスミドベクター(pET22b-Xyn3;野生型Xyn3を発現させるプラスミドベクター)を鋳型として、DiversifyTM PCRランダム突然変異誘発キット(タカラバイオ社製)を用いたエラープローンPCR法(反応溶液組成は、PCR grade water 36μl、10×TITANIUM Taq Buffer 5μl、8mM MnSO4 4μl、2mM dGTP 1μl、50×Diversify dNTP Mix 1μl、10μM Primer mix 1μl、1ng/μl、Template DNA 1μl、TITANIUM Taq polymerase 1μl)を行い、ランダム変異が導入されたXyn3遺伝子断片を作製した。この遺伝子断片をメガプライマーとして、pET22b-Xyn3を鋳型として使用し、MEGAWHOP法(Kentaro Miyazaki, Creating random mutagenesis libraries by megaprimer PCR of whole plasmid (MEGAWHOP). Methods in Molecular Biology (2003) 231:23-38)で変異ライブラリーを作製した。
【0036】
(2.ランダム変異ライブラリーを用いた変異Xyn3の合成及び抽出液の回収)
作製されたpET22b-Xyn3ランダム変異ライブラリーを用いて大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。具体的には、ECOSTM Competent E. coli BL21(DE3)(ニッポンジーン社製)50μlにpET22b-Xyn3ランダム変異ライブラリープラスミドDNA溶液を2μl添加し氷上で5分間静置後、42℃で45秒間熱処理を行った。200μlのSOC培地を添加し、37℃で30分間インキュベートした。その後、アンピシリンを添加したLB培地に植菌し、37℃で一晩培養した。
形質転換後の大腸菌BL21(DE3)をアンピシリン(Amp)添加LB培地に植菌した。培養は、37℃で一晩行った。
培養後、アンピシリン(Amp)添加LB培地に出現したコロニーを、96穴ディープウェル(最大容量2mL)中の培地に植菌した。なお、96穴ディープウェル中の培地としては、0.1mM IPTGを含有するアンピシリン(Amp)添加LB培地を用い、96穴ディープウェル中に各1mLずつ添加して培養に使用した。
30℃で一晩培養後、菌体を集菌し、100μlのタンパク質抽出液(50μlのBugBuster Protein Extraction Reagent(メルクミリポア社製)、0.1μlのBenzonase(メルクミリポア社製)、及び、50μlの超純水を混合させたもの)に懸濁してタンパク質を抽出した。タンパク質の抽出は上記抽出溶液に菌体を懸濁した後、室温で30分間静置することにより行った。30分静置した後、400μlの50mM酢酸バッファー(pH5.0)を添加して抽出溶液を希釈した。次に、3500rpmで15分間遠心分離を行い、上清(キシラナーゼを含む酵素粗抽出液)を回収した。
【0037】
(3.酵素粗抽出溶液に含まれるキシラナーゼの耐熱性試験)
回収した酵素粗抽出液に含まれる各変異キシラナーゼの耐熱性を測定するために、各酵素粗抽出液を60℃で30分間加熱処理した後、それぞれの酵素粗抽出液中に残存するキシラナーゼの活性を測定した。酵素活性の測定は以下のように行った。30μlの酵素粗抽出液中に3μlのキシラン溶液を添加し、37℃で2時間反応させた(なお、キシラン溶液は以下のようにして調整した。ミリQ水に3%(w/v)になるようにBirchwood由来のキシランを添加した溶液を60℃ 750rpmで30分撹拌し、次いで当該溶液を8000 rpmで10分間遠心分離した。そして、遠心分離により得られた上清を回収し、キシラン溶液として用いた)。その後、キシランの加水分解によって生じた還元末端をDNS法により測定し、キシラナーゼ活性の有無を確認した。すなわち、反応により得られた溶液中に30μlのDNS(ジニトロサリチル酸)溶液(1.6% 水酸化ナトリウム、0.5% 3,5-ジニトロサリチル酸、30% 酒石酸ナトリウムカリウム四水和物)を加え、98℃、10分間加熱し、加熱後の溶液についてマイクロプレートを用いてOD540を測定することで溶液中の還元糖(キシランの加水分解により生じた糖鎖の還元末端の量)を測定し、キシラナーゼ活性を確認した。
その結果、60℃で30分間処理した後にもキシラナーゼ活性を有する変異Xyn3(第一世代耐熱化Xyn3;D4)のクローンを見出した。
【0038】
(4.第一世代耐熱化Xyn3(D4)の変異箇所の確認)
上記3.で得られた第一世代耐熱化Xyn3をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターを抽出し、当該塩基配列のシーケンスの解析を行った。その結果、トリコデルマ・リーセイ由来の配列番号2で示されるアミノ酸配列と比較して、Q242P(242番目のグルタミンがプロリンへ置換)の1点について変異が挿入されていることを確認した。すなわち、第一世代耐熱化Xyn3は、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる酵素である。
【0039】
(5.第二世代耐熱化Xyn3の作製のためのランダム変異ライブラリー(第二世代)の構築)
第一世代耐熱化Xyn3のプラスミドを鋳型として、上記1.と同様の方法により、Clontech DiversifyTM PCRランダム突然変異誘発キットを用いたエラープローンPCR法を行い、ランダム変異が導入されたpET22b-Xyn3ランダム変異ライブラリー(第二世代)を作製した。
【0040】
(6.ランダム変異ライブラリー(第二世代)を用いた変異Xyn3の合成及び抽出液の回収)
作製されたpET22b-Xyn3ランダム変異ライブラリー(第二世代)を用いて大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。形質転換後の大腸菌BL21(DE3)はアンピシリン(Amp)添加LB培地に植菌し、37℃で一晩培養した。
培養後、アンピシリン(Amp)添加LB培地中に出現したコロニーを96穴ディープウェル(最大容量2mL)中の培地に植菌した。なお、96穴ディープウェル中の培地としては、0.1mM IPTGを含有するアンピシリン(Amp)添加LB培地を用い、96穴ディープウェル中に各1mLずつ添加して培養に使用した。
30℃で一晩培養後、菌体を集菌し、100μlのタンパク質抽出液(50μlのBugBuster Protein Extraction Reagent(メルクミリポア社製)、0.1μlのBenzonase(メルクミリポア社製)、及び、50μlの超純水を混合させたもの)に懸濁してタンパク質を抽出した。タンパク質の抽出は上記抽出溶液に菌体を懸濁した後、室温で30分間静置することにより行った。30分静置した後、400μlの50mM酢酸バッファー(pH5.0)を添加して抽出溶液を希釈した。次に、3500rpmで15分間遠心分離を行い、上清(キシラナーゼを含む酵素粗抽出液)を回収した。
【0041】
(7.ランダム変異ライブラリー(第二世代)由来の酵素抽出溶液に含まれるキシラナーゼの耐熱性試験)
回収した酵素粗抽出液に含まれる各変異キシラナーゼの耐熱性を測定するために、各酵素粗抽出液を63℃で30分間処理した後、それぞれの酵素粗抽出液中に残存するキシラナーゼの活性を上記3.と同様の方法(DNS法)により測定した。
その結果、63℃で30分間処理した後にもキシラナーゼ活性を有する変異Xyn3(第二世代耐熱化Xyn3;E10)のクローンを取得した。
【0042】
(8.第二世代耐熱化Xyn3(E10)の変異箇所の確認)
上記7.で得られた第二世代耐熱化Xyn3をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターを抽出し、当該塩基配列のシーケンスの解析を行った。その結果、第二世代耐熱化Xyn3では第一世代耐熱化Xyn3が有する変異Q242Pに加えてT21A、N97S、N296Yという3つの変異がさらに挿入されていることが明らかになった。すなわち、本実施例で得られた第二世代耐熱化Xyn3は、配列番号7に示されるアミノ酸配列からなるキシラナーゼである。
なお、下記表に、第一世代耐熱化Xyn3(D4)と第二世代耐熱化Xyn3(E10)における変異の箇所及び置換アミノ酸の比較を示す。
【表1】
【0043】
(9.第一世代および第二世代の耐熱化Xyn3の耐熱性試験)
上記3.で得られた第一世代耐熱化Xyn3(D4)と上記7.で得られた第二世代耐熱化Xyn3(E10)とを用いた60℃〜65℃の範囲における耐熱性試験を行った。
具体的には、上記3.に記載の第一世代耐熱化Xyn3を含む酵素粗抽出液と上記7.に記載の第二世代耐熱化Xyn3を含む酵素粗抽出液とを、それぞれ60℃、61℃、62℃、63℃、64℃、又は65℃のいずれかの温度で30分間加熱処理した後、それぞれの酵素粗抽出液中に残存するキシラナーゼの活性を上記3.に記載の方法(DNS法)と同様にして測定した。なお、対象となる野生型(Wt)のキシラナーゼは、同様に調整した酵素祖抽出液を使用した。
その結果を図4に示す。なお、図4は、野生型Xyn3の熱未処理区のキシラナーゼ活性を同様に測定したときの値を100として、各変異Xyn3熱処理後の活性の相対値を示す。
図4に示すように、第一世代耐熱化Xyn3(D4)は、61℃を超える温度での加熱処理によっても40%程度の活性を維持していた。
【0044】
(10.キシラナーゼの耐熱性向上に関係する変異の特定)
第二世代耐熱化Xyn3では、第一世代耐熱化Xyn3のアミノ酸配列における1つの変異に加えて、さらに3箇所に変異を有していた。これら3つの変異のうち、耐熱性に寄与している変異を特定するために下記の実験を行った。
野生型Xyn3及び第一世代耐熱化Xyn3を発現させるプラスミドベクターを鋳型として、第二世代耐熱化Xyn3が有する変異(T21A、N97S、及びN296Y)を一つずつQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(アジレント・テクノロジー株式会社)を用いて導入した。
すなわち、野生型Xyn3のアミノ酸配列において、下記(i)〜(iii)の変異を有するクローンを作製した;
(i) T21Aの1箇所に変異を有する(配列番号8)
(ii) N97Sの1箇所に変異を有する(配列番号9)
(iii) N296Yの1箇所に変異を有する(配列番号10)
また、第一世代耐熱化Xyn3のアミノ酸配列において下記(iv)〜(vi)の変異を有するクローンを作製した。
(iv) Q242P及びT21Aの2箇所に変異を有する(配列番号11)
(v) Q242P及び N97Sの2箇所に変異を有する(配列番号12)
(vi) Q242P及びN296Y の2箇所に変異を有する(配列番号13)
【0045】
また、第二世代耐熱化Xyn3を発現させるプラスミドベクターを鋳型として、PCR法によって4つの変異箇所(Q242P、T21A、N97S、及びN296Y)のいずれか1つについて野生型のアミノ酸をコードする様にアミノ酸を戻したクローンをそれぞれ作製した。
すなわち、第二世代耐熱化Xyn3のアミノ酸配列において、下記(vii)〜(x)の変異を有するクローンを作製した;
(vii)296位のアミノ酸が野生型アミノ酸をコードする様にY296Nの変異を導入したもの(すなわち野生型Xyn3をコードする塩基配列と比較して、Q242P、T21A、及びN97Sの3箇所に変異を有する)(配列番号14)
(viii)97位のアミノ酸が野生型アミノ酸をコードする様にS97Nの変異を導入したもの(すなわち野生型Xyn3をコードする塩基配列と比較して、Q242P、T21A、及びN296Yの3箇所に変異を有する)(配列番号15)
(ix)21位のアミノ酸が野生型アミノ酸をコードする様にA21Tの変異を導入したもの(すなわち野生型Xyn3をコードする塩基配列と比較して、Q242P、N97S、及びN296Yの3箇所に変異を有する)(配列番号16)
(x)242位のアミノ酸が野生型アミノ酸をコードする様にP242Qの変異を導入したもの(すなわち野生型Xyn3をコードする塩基配列と比較して、T21A、N97S、及びN296Yの3箇所に変異を有する)(配列番号17)
【0046】
上記で作製した(i)〜(x)の変異を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むプラスミドベクターを用いて、大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。具体的には、ECOSTM Competent E. coli BL21(DE3)(ニッポンジーン社製)50μlにプラスミドDNA溶液を2μl添加し氷上で5分間静置後、42℃で45秒間熱処理を行った。200μlのSOC培地を添加し、37℃で30分間インキュベートした。その後、アンピシリン(Amp)添加LB培地に植菌し、37℃で一晩培養した。
培養後、アンピシリン(Amp)添加LB培地に出現したコロニーを、96穴ディープウェル(最大容量2mL)中の培地に植菌した。なお、96穴ディープウェル中の培地としては、0.1mM IPTGを含有するアンピシリン(Amp)添加LB培地を用い、96穴ディープウェル中に各1mLずつ添加して培養に使用した。
30℃で一晩培養後、菌体を集菌し、100μlのタンパク質抽出液(50μlのBugBuster Protein Extraction Reagent(メルクミリポア社製)、0.1μlのBenzonase(メルクミリポア社製)、及び、50μlの超純水を混合させたもの)に懸濁してタンパク質を抽出した。タンパク質の抽出は上記抽出溶液に菌体を懸濁後、室温で30分間静置することにより行った。30分静置した後、400μlの50mM酢酸バッファー(pH5.0)を添加して抽出溶液を希釈した。次に、3500rpmで15分間遠心分離を行い、上清(酵素粗抽出液)を回収した。
【0047】
(11.上記(i)〜(x)の変異を有する変異Xyn3の耐熱性試験)
上記10.で作成した(i)〜(x)の変異を有する各変異Xyn3の耐熱性を確認するため、上記10.で得られた各変異Xyn3をそれぞれ含む酵素粗抽出液を55℃、58℃、又は61℃で30分間処理した後、それぞれの酵素粗抽出液中に残存するキシラナーゼの活性を上記3.と同様の方法及び条件(DNS法)により測定した。なお、対象となる野生型(Wt)のキシラナーゼも上記と同様に調製した酵素祖抽出液を使用した。
その結果を図5に示す。なお、図5は、それぞれの酵素(野生型Xyn3又は各変異Xyn3)の熱未処理区のキシラナーゼ活性を同様に測定したときの値を100として、熱処理後の活性の相対値を示す。図5が示すように、上記9.で作製した(iii)〜(x)の各変異体は、58℃の熱処理後の活性においても、熱未処理区の活性と比較して少なくとも約25%以上の活性を維持していた。
また、第一世代耐熱化Xyn3(D4)にN296Y変異を導入したクローン、及び、第二世代耐熱化Xyn3(E10)のT21A又はN97Sのいずれかの変異を野生型のアミノ酸に戻したクローンの酵素粗抽出液では、61℃の熱処理後においても活性を相対的に高い値で維持しており、耐熱性の顕著な向上が見られた(図5)。また、第二世代耐熱化Xyn3(E10)のQ242P又はN296Yのいずれかの変異を野生型のアミノ酸に戻したクローンの酵素粗抽出液において耐熱性の低下が見られた(図5)。
【0048】
(12.242番目のグルタミンにおける置換アミノ酸の検討)
配列番号2における242番目のグルタミンの変異について、プロリン以外のアミノ酸に置換した際のキシラナーゼの耐熱性について検討した。具体的には、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(アジレント・テクノロジー株式会社)を用いて他の18種類のアミノ酸に置換した変異酵素を作製した。各変異酵素を含む粗酵素抽出液を回収した後、各粗酵素抽出液を58℃、60℃、又は62℃で30分間熱処理した後、それぞれの酵素粗抽出液中に残存するキシラナーゼの活性を上記3.と同様の方法及び条件(DNS法)により測定した。
その結果を図6に示す。なお、図6は、各変異Xyn3の熱未処理区のキシラナーゼ活性を同様に測定したときの値を100として、各変異Xyn3熱処理後の活性の相対値を示す。図6に示すように、プロリンの代わりに、アラニン(Ala)、バリン(Val)、イソロイシン(Ile)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、アルギニン(Arg)、システイン(Cys)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)に置換した場合であっても、58℃の熱処理後における活性は約40%程度維持されており耐熱性が向上していた。特に、アラニン(Ala)、グルタミン酸(Glu)は、60℃の熱処理後においても活性を維持しており、耐熱性が顕著に向上していた。
【0049】
(13.296番目のアスパラギンにおける置換アミノ酸の検討)
配列番号2における296番目のアスパラギンの変異について、チロシン以外のアミノ酸に置換した際のキシラナーゼの耐熱性について検討した。QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(アジレント・テクノロジー株式会社)を用いて他の18種類のアミノ酸に置換した変異酵素を作製した。各変異酵素を含む粗酵素抽出液を回収した後、各粗酵素抽出液を58℃、60℃、又は62℃で30分間熱処理した後、それぞれの酵素粗抽出液中に残存するキシラナーゼの活性を上記3.と同様の方法及び条件(DNS法)により測定した。
その結果を図7に示す。なお、図7は、各変異Xyn3の熱未処理区のキシラナーゼ活性を同様に測定したときの値を100として、各変異Xyn3熱処理後の活性の相対値を示す。図7に示すように、チロシンの代わりに、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、トリプトファン(Trp)、ヒスチジン(His)、グルタミン(Gln)、メチオニン(Met)に置換した場合であっても、58℃の熱処理後における活性は約30%程度維持されており耐熱性が向上していた。特に、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、トリプトファン(Trp)は、60℃及び62℃の熱処理後においても活性を維持しており、耐熱性が顕著に向上していた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]