(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
微生物はバチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、大腸菌(Escherichia coli)、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)、ストレプトミセス・ピロサス(Streptomyces pilosus)、エイケネラ・コローデンス(Eikenella corrodens)、イユバクテリウム・アシダミノフィルム(Eubacterium acidaminophilum)、サルモネラ・ チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、テルモプラズマ・アシドフィルム(Thermoplasma acidophilum)、パイロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)又はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)から選択される、請求項3に記載の1,5−ペンタンジアミンの製造方法。
リジン含有液は、リジン発酵液、リジン発酵液の濃縮液若しくは希釈液、リジン発酵液から菌体を除去した後の滅菌リジン発酵液及び滅菌リジン発酵液の濃縮液若しくは希釈液、及び調製されたリジン溶液である、請求項1に記載の1,5−ペンタンジアミンの製造方法。
リジン含有液はコエンザイムをさらに含み、前記コエンザイムは、ピリドキサール、リン酸ピリドキサール、ピリドキシン、ピリドキサミンから選択される一種又は複数種である、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の1,5−ペンタンジアミンの製造方法。
【背景技術】
【0002】
1,5−ジアミノペンタン(1,5−ペンタンジアミンともいい、ペンタンジアミンと略す)とは、化学工業における重要な5炭素化合物であり、主にポリアミド、ポリウレタンなどの製造に用いられる以外に、イソシアネート、ピリジン、ピペリジンなどの重要な化学工業原料の製造にも使用されるものである。
【0003】
ジアミン類物質は、現在まで、石油系の原料からジカルボン酸中間体、又はアミノ酸の化学的脱炭酸作用により化学的に製造(Albrecht,Klaus,et al,Plastics(第5版),Winnacker−Kuechler,2005)されている。化石原料に限界があり、またグリーン・環境保護に対して日増しに重視されることから、再生可能な原材料を利用して生物工学的方法によりジアミン類物質を合成するのは理想的な経路になる。
【0004】
生物学的方法によるペンタンジアミンの合成方法として、主に両種類ある。一つは、以下の文献に記載されるとおり、グルコースを利用して微生物で複雑な代謝調節によりペンタンジアミンに転化するものであり、即ち、リジン脱炭酸酵素をコードする任意の遺伝子を、リジンを生産する微生物に導入することにより、ペンタンジアミンを生成するものである(Tabor,Herbert,et al;Journal of bacteriology,144(3),952−956,1980)。2007年、比較的高いリジン合成能を有するコリネバクテリウム・グルタミカムにリジン脱炭酸酵素を過剰発現させることにより、菌体が発酵過程中に直接ペンタンジアミンを生産するようになり、収量が2.9g/lであることがTakashiらによって報告された。ペンタンジアミンの収量向上に関する研究において、研究者は同一宿主由来のリジン脱炭酸酵素(cadA遺伝子)を過剰発現するプラスミドを有する大腸菌の菌株を使用してみた(日本国特許JP2002223770A、JP2008104453Aなどを参照する)。中国特許CN200810005332において、リジン脱炭酸酵素を過剰発現する、リジン生産用コリネバクテリウム・グルタミカムを用いて発酵してペンタンジアミンを生産したが、培養液におけるペンタンジアミンの含有量は約3.4g/Lであった。以上より、グルコースから、微生物の発酵により直接ペンタンジアミンを生成するプロセスは簡単であるが、発酵周期が長く、且つ細胞内のペンタンジアミンに対する菌体の耐性に限界があり、ペンタンジアミンの収率が比較的低く、大規模な産業化生産には不利である。
【0005】
さらなる研究において、研究者はペンタンジアミンを生産するもう一つの方法を検討し、即ち、リジン脱炭酸酵素を過剰発現した菌株を培養し、収集されたリジン脱炭酸酵素を触媒として、リジンからペンタンジアミンを得た(JP2002−223771A、JP2004−000114A、EP1482055B1、JP2005−060447Aなどを参照する)。また、例えば、中国特許CN101578256Aにおいて、リジンアジピン酸塩に、cadAを過剰発現した大腸菌で触媒作用を及ぼし、反応過程中において反応のpHを制御して酵素の安定性を向上した。中国特許CN102056889Aにおいて、基質としてのリジン炭酸塩からペンタンジアミンへの生産を触媒し、反応過程中に放出された二酸化炭素を回収し利用して、反応のpHを制御した。中国特許CN102782146Aにおいて、cadAを発現する菌株を破砕処理した後、外来リジンからペンタンジアミンへの生産を触媒し、ペンタンジアミンの収率向上に使用した。
【0006】
上記の特許において、リジン脱炭酸酵素を触媒としてリジンからペンタンジアミンを生成するプロセスにおいて、通常、遊離状態のリジン脱炭酸酵素又はリジン脱炭酸酵素を含有する細胞を使用する。日本国特許JP2004298033Aにおいて、リジン脱炭酸酵素生産用菌株をカラギーナンのゲルで埋め込んだ後、酵素を発酵して生成し、その後、培養された固定化細胞を用いて、精製されたリジン塩からペンタンジアミンへの生産を触媒し、246g/lのリジン塩酸塩からペンタンジアミンへの生産を固定化細胞で150h触媒することにより、生成されたペンタンジアミンの濃度は40g/lであり、リジン塩酸塩のモル転化率は約30%である。
【0007】
「固定化されたL−リジン脱炭酸酵素を含有する細胞による1,5−ペンタンジアミンの製造」(蒋麗麗など,精細化工,2007,24(11),1080−1084)の文献に、リジン脱炭酸酵素を含有する細胞を3wt%のアルギン酸ナトリウムで固定したが、固定化細胞は安定性が非常に悪く、二回目の転化時でも酵素活性が著しく減少し、4回目での酵素活性が1回目の酵素活性の約38%まで低下したことが報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アルギン酸ナトリウムのような天然高分子ゲルを用いると、実際の操作において強度が高くなく、微生物により分解されやすく、転化過程中に変形、破砕又は溶解し、酵素又は細胞の漏れを引き起こし、固定化酵素の再利用効率が低いなどの問題がある。
【0011】
リジン脱炭酸酵素活性を有する細胞は、多種の形式のリジン溶液、例えば精製されたリジン、リジンの塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、アジピン酸塩及びその他の塩類に触媒作用を及ぼすことができ、精製されていないリジン発酵液に触媒作用を及ぼすこともできるが、リジン発酵液の成分が複雑であるから、リジン脱炭酸酵素を含有する細胞の安定性により大きく影響し、細胞溶解、酵素の流失を引き起こしやすく、リジン脱炭酸酵素の利用効率を低減する。リジン脱炭酸酵素を含有する細胞を一定の担体に固定すると、リジン発酵液におけるリジン脱炭酸酵素を含有する細胞の安定性を著しく向上し、酵素の触媒効率を向上し、リジンの精製コストを低減した。
【0012】
以上より、微生物で生産されたリジン脱炭酸酵素を利用して、リジンからペンタンジアミンへの生産を触媒する研究はより多い、その特徴として、精製されたリジン又はリジン塩を使用する場合が多く、リジンを精製する必要があり、プロセスが複雑で生産コストが高く、ペンタンジアミンの産業化生産に制限がある。また、酵素触媒によるリジンからペンタンジアミンへの生成の反応系において、遊離酵素細胞を用いて行う場合が多く、酵素の安定性が低く、酵素反応液からペンタンジアミンを抽出する工程が複雑となり、ペンタンジアミン製品の純度に影響を及ぼし、産業化生産には不利となる。
【0013】
従って、本技術領域では、より簡単なプロセスで、より安価で、リジン脱炭酸酵素の再利用効率を向上することができる方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第一態様は、
【0015】
A)第1合成高分子物質を水性溶液に十分に溶解させるステップと、
B)得られた溶液に、固定化しようとするリジン脱炭酸酵素を含有する細胞を加えて固定化するステップとを含み、
第1合成高分子物質はゲル形成能を有する任意の合成高分子物質であり、固定化の条件はリジン脱炭酸酵素を含有する細胞の活性を破壊しなければよい、リジン脱炭酸酵素を含有する細胞の固定化方法に関する。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記得られた溶液は、天然高分子物質、第2合成高分子物質中の一種、複数種又はそれらの混合物をさらに含み、ここで、天然高分子物質及び第2合成高分子物質は、ゲル形成能を有する天然高分子物質又は合成高分子物質であり、且つ第2合成高分子物質は第1合成高分子物質とは異なる。
【0017】
第1合成高分子物質や第2合成高分子物質は、いくつかの実施形態において、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、二酢酸セルロースから選択される一種又は複数種であり、さらなる実施形態において、ポリビニルアルコール及びポリエチレングリコールから選択される。
【0018】
いくつかの実施形態において、天然高分子物質はアルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、活性炭、珪藻土、カードラン、キトサンから選択される一種又は複数種であり、さらなる実施形態において、天然高分子物質はアルギン酸ナトリウムである。
【0019】
さらなる実施形態において、前記得られた溶液はポリビニルアルコールとアルギン酸ナトリウムとの混合溶液、又はポリビニルアルコールとポリエチレングリコールとの混合溶液であり、いくつかの実施形態において、ポリビニルアルコールの添加量は1〜13wt%であり、さらなる実施形態において、ポリビニルアルコールの添加量は6〜11wt%であり、よりさらなる実施形態において、ポリビニルアルコールの添加量は7〜9wt%であり、一実施形態において、ポリビニルアルコールの添加量は8wt%であり、アルギン酸ナトリウムの添加量は0.1〜3wt%例えば0.5〜2.5wt%、1〜2.0wt%であり、一実施形態において、アルギン酸ナトリウムの添加量は1.5wt%であり、ポリエチレングリコールの添加量は0.1−5wt%例えば0.2〜3wt%、0.3〜1.5wt%、0.4〜1wt%であり、一実施形態において、ポリエチレングリコールの添加量は0.5wt%である。
【0020】
いくつかの実施形態において、ステップb)における固定化は、物理的固定化又は化学的固定化であるが、化学的固定化が好ましく、塩化カルシウムとホウ酸とを架橋することによる固定化がより好ましい。好ましくは、塩化カルシウム溶液の濃度は0.2〜5wt%例えば0.3〜3wt%、0.4%〜2wt%、0.6〜1.5wt%であり、一実施形態において、塩化カルシウム溶液の濃度は1wt%であり、ホウ酸溶液の濃度は1〜10wt%例えば2〜8wt%、3〜6wt%であり、一実施形態において、ホウ酸溶液の濃度は4wt%である。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記方法は、溶液のゲル化後にエピクロロヒドリン溶液及び/又は液状エポキシ樹脂で処理するステップをさらに含み、好ましくは、エピクロロヒドリン溶液及び/又は液状エポキシ樹脂を、PVAにおけるヒドロキシル基の理論モル数の1〜1.5倍量で投入し、20〜60min振とう反応させ、顆粒を分離して洗浄し、製品を得る。
【0022】
いくつかの実施形態において、リジン脱炭酸酵素を含有する細胞は、植物、微生物、昆虫又は動物のいずれかに由来するものである。
【0023】
いくつかの実施形態において、微生物はバチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、大腸菌(Escherichia coli)、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)、ストレプトミセス・ピロサス(Streptomyces pilosus)、エイケネラ・コローデンス(Eikenella corrodens)、イユバクテリウム・アシダミノフィルム(Eubacterium acidaminophilum)、サルモネラ・ チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、テルモプラズマ・アシドフィルム(Thermoplasma acidophilum)、パイロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)又はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)から選択され、大腸菌、ハフニア・アルベイが好ましい。
【0024】
本発明の第二態様は、上記第一態様に係るリジン脱炭酸酵素を含有する細胞の固定化方法により得られる固定化されたリジン脱炭酸酵素を含有する細胞に関する。
【0025】
本発明の第三態様は、第二態様に係る固定化されたリジン脱炭酸酵素を含有する細胞をリジン含有液に接触させるステップ及び1,5−ペンタンジアミンを得るステップを含む1,5−ペンタンジアミンの製造方法に関する。
【0026】
いくつかの実施形態において、リジン含有液は、リジン発酵液、リジン発酵液の濃縮液若しくは希釈液、リジン発酵液から菌体を除去した後の滅菌リジン発酵液及び滅菌リジン発酵液の濃縮液若しくは希釈液、及び調製されたリジン溶液であり、好ましくはリジン発酵液である。
【0027】
いくつかの実施形態において、リジン発酵液は微生物の発酵により得られる。
【0028】
いくつかの実施形態において、リジン発酵液の製造に用いられる微生物は、コリネバクテリウム属、エシェリヒア属から選択され、大腸菌、コリネバクテリウム・グルタミカムが好ましい。
【0029】
いくつかの実施形態において、リジン発酵液の製造に用いられる炭素源は、発酵性糖である。好ましくは、発酵性糖は、澱粉類物質に由来するもので、トウモロコシ、タピオカが好ましく、又はリグノセルロース類物質に由来するもので、藁、樹木が好ましい。より好ましくは、発酵性糖はグルコース、果糖、ショ糖から選択される。
【0030】
いくつかの実施形態において、リジン含有液は硫酸根イオンをさらに含み、且つその濃度が0.005mol/kg以上である。
【0031】
いくつかの実施形態において、リジン含有液は糖と遊離NH
4+をさらに含み、糖含有量の合計が300ppm以上であり、遊離NH
4+含有量が0.028mol/kg以上である。
【0032】
いくつかの実施形態において、リジン含有液はコエンザイムをさらに含み、前記コエンザイムは、ピリドキサール、リン酸ピリドキサール、ピリドキシン、ピリドキサミンから選択される一種又は複数種であり、5’−リン酸ピリドキサールが好ましい。好ましくは、コエンザイムの添加量は反応系重量で0.01〜0.3mmol/kgである。
【0033】
いくつかの実施形態において、固定化されたリジン脱炭酸酵素を含有する細胞に接触するリジン含有液のpHは4.0〜9.0であり、好ましくは4.5〜8.5である。
【0034】
いくつかの実施形態において、固定化されたリジン脱炭酸酵素を含有する細胞がリジン含有液に接触する温度は25〜55℃であり、より好ましくは28℃〜45℃である。
【0035】
いくつかの実施形態において、リジン含有液におけるリジン含有量は1%〜50%(w/w)であり、より好ましくは5〜20%(w/w)である。
【0036】
言い換えれば、本発明が解決しようとする技術課題は、工業的に低い生産コストで簡単なプロセスによりペンタンジアミンを製造するための固定化細胞及びその製造方法を提供し、さらに、この固定化細胞によりペンタンジアミンを得る方法を提供することである。
【0037】
本発明の方法では、リジン脱炭酸酵素を含有する細胞を合成高分子物質を用いて固定化処理し、リジン脱炭酸酵素固定化細胞を得て、酵素の安定性を著しく向上し、反応系及びペンタンジアミンの分離プロセスを簡略化することができる。従来報告されている固定化細胞によるペンタンジアミンの製造と比べて、この方法はリジン発酵液を直接に使用してペンタンジアミンを製造することができ、成分が複雑なリジン発酵液におけるリジン脱炭酸酵素の触媒安定性を向上し、従来技術ではリジン純品、リジン塩酸塩、リジン硫酸塩、リジン炭酸塩及びリジンジカルボン酸塩などを基質としたことに起因したコストが高く、プロセスが複雑であったという欠点を克服し、リジン発酵液の精製ステップを減らすことができる。従って、本発明は酵素の利用効率を向上し、ペンタンジアミンの抽出の製造プロセスを簡略化し、リジンの精製コストを節約し、ペンタンジアミンの生産コストを低減することができる。。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、発明者がリジン脱炭酸酵素を含有する細胞を合成高分子物質で固定化処理した後、リジン発酵液に加え、ペンタンジアミン含有混合液を得ることを見出したことに基づく。従来、アルギン酸ナトリウムなどの天然高分子物質で製造された、固定化されたリジン脱炭酸酵素を含有する細胞の酵素活性の回収率が比較的高いものの、使用過程中に固定化細胞の構造が不安定で、瓦解しやすいことにより、使用安定性が低下することが報告されている。また、天然高分子物質は価格が高いから、その工業的使用が多く制限されている。天然高分子物質を担体とするのに対して、合成高分子物質を用いた固定化細胞は構造安定性が向上し、固定化細胞の製造コストも著しく低下する。しかし、現在まで、合成高分子材料は、リジン脱炭酸酵素を含有する細胞の固定化において実用化には至っていない。これは、リジン脱炭酸酵素により触媒された反応の生成物であるペンタンジアミンが極性の強い生成物で、ヒドロキシル基を大量に有する合成高分子材料に吸着することにより、リジン脱炭酸酵素活性を有する細胞の固定化における合成高分子材料の使用に影響を与えたためである。従って、本発明のいくつかの実施形態では、合成高分子材料及び天然高分子物質を組み合わせてリジン脱炭酸酵素を含有する細胞の固定化担体とすることにより、合成高分子材料及び天然高分子物質の利点を組み合わせる。この二種類の材料で製造された固定化細胞は透過性がよく、且つ構造が安定である。本発明のいくつかの実施形態において、同時に、通常の高分子物質の構造における極性基とペンタンジアミンのお互いの吸着作用を、エピクロロヒドリン及び/又は液状エポキシ樹脂での処理により解除し、固定化細胞による触媒効率を著しく向上する。
【0039】
本発明は、リジン脱炭酸酵素を含有する細胞を固定化する方法を提供する。
【0040】
上記リジン脱炭酸酵素(単に「LDC」といい、EC4.1.1.18)含有細胞はリジンを1,5−ペンタンジアミンに転化することができる細胞であり、その由来は特に限定されなく、既知の生物に由来してもよい。リジン脱炭酸細胞は微生物、動物、植物又は昆虫に由来する細胞であってもよく、例えば野生菌株であり、バチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、大腸菌(Escherichia coli)、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)、ストレプトミセス・ピロサス(Streptomyces pilosus)、エイケネラ・コローデンス(Eikenella corrodens)、イユバクテリウム・アシダミノフィルム(Eubacterium acidaminophilum)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、テルモプラズマ・アシドフィルム(Thermoplasma acidophilum)、パイロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)又はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)などを含むが、これらに限定されない。リジン脱炭酸酵素は上記の菌株の誘発された突然変異株、遺伝子工学的手法による菌に由来してもよい。リジン脱炭酸酵素は上記由来のリジン脱炭酸酵素の変異体、活性断片であってもよく、この変異体は天然変異体であってもよく、人工組換え変異体であってもよく、この活性断片はリジン脱炭酸酵素の活性を保持している切断型のタンパク質断片である。リジン脱炭酸酵素の変異体、活性断片を含む菌株や遺伝子工学的手法による菌は、同様に本発明の方法に好適に用いる。
【0041】
遺伝子組換え細胞は、特に限定されなく、例えば微生物、動物、植物又は昆虫に由来する組換え細胞であってもよい。より具体的に、例えば、動物を使用する場合、マウス、ラット又はそれらの培養細胞などが挙げられる。また、植物を使用する場合、例えばシロイヌナズナ、タバコ又はそれらの培養細胞などが挙げられる。また、昆虫を使用する場合、例えばカイコ又はその培養細胞などが挙げられる。微生物を使用する場合、大腸菌、ハフニア・アルベイなどが挙げられる。
【0042】
上記組換え細胞は、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
細胞のリジン脱炭酸酵素の活性を向上する方法として、例えば、リジン脱炭酸酵素の量を増加させる方法などを使用することができる。細胞の酵素の量を増加させる方法として、例えば遺伝子の転写調節領域の改良、遺伝子コピー数の増加、タンパク質への翻訳の効率化、酵素よる触媒活性の改良などが挙げられる。
【0044】
また、上記組換え細胞を培養する方法について、特に限定されなく、如何なる公知の方法を使用することができる。より具体的に、例えば、微生物を培養する場合、培地として、炭素源、窒素源及び無機イオンを含む培地を使用することができる。
【0045】
炭素源として、当該技術分野で使用される任意の炭素源であってもよく、例えばグルコース、乳糖、ショ糖、ガラクトース、果糖、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボース又は澱粉の加水分解物などの糖類、例えばグリセリン、マンニトール又はソルビトールなどのアルコール類、例えばグルコン酸、フマル酸、クエン酸又はコハク酸などの有機酸類などが挙げられ、炭素源としてグルコース、ショ糖及び澱粉の加水分解物などが好ましい。上記炭素源は、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
窒素源として、当該技術分野で使用される任意の窒素源であってもよく、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウムなどの無機アンモニウム塩、例えば大豆加水分解物などの有機窒素源が挙げられる。上記窒素源は、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
無機イオンとして、当該技術分野で使用される任意の無機イオンであってもよく、例えばナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、塩化物イオン、マンガンイオン、鉄イオン、リン酸イオン、硫酸イオンなどが挙げられる。培地に一種又は複数種の上記無機イオンを添加することができる。
【0048】
また、必要に応じて、培地にその他の微量栄養素を添加することもでき、例えば各種アミノ酸、微量元素及びビタミンなどが挙げられる。
【0049】
上記培地として、当該技術分野で使用される任意の培地であってもよく、より具体的に、例えばLB培地が挙げられ、例えば1%のへプトン、0.5%の酵母粉末、1%の塩化ナトリウムを含み、且つpHが7.0のLB培地が用いられる。
【0050】
本発明のリジン脱炭酸酵素を含有する細胞の培養条件は、特に限定されなく、例えば、ハフニア・アルベイを培養する場合、好気的条件下で培養温度は、例えば20〜45℃であり、好ましくは25〜38℃である。培地のpHは、例えば5.0〜8.5であり、好ましくは5.5〜7.5であり、培養時間は、例えば10〜50時間である。
【0051】
本発明は、a)水中に1〜13wt%(重量%)の第1合成高分子物質を加え、溶解するまで、例えば加熱攪拌するステップと、b)得られた溶液に20〜40℃でリジン脱炭酸酵素を含有する細胞を加え、攪拌して溶解した後、溶液をゲル化させ、固定化細胞を得るステップとを含む固定化細胞の製造方法をさらに提供する。前記第1合成高分子物質はゲル形成能を有する任意の合成高分子物質である。
【0052】
上記製造方法において、前記得られた溶液は、天然高分子物質、第2合成高分子物質中の一種又はそれらの混合物をさらに含む。天然高分子物質又は第2合成高分子物質の添加は、均一に混合された溶液が得られる限り特に限定されないが、第1合成高分子物質を加えるに先立って添加してもよく、第1合成高分子物質と共に添加してもよく、第1合成高分子物質を加えた後に添加してもよい。いくつかの実施形態において、第1合成高分子物質を含む溶液に前記第1合成高分子物質の1:20〜1:4で第2合成高分子物質を加え、攪拌し、溶解して均一な溶液を得る。前記天然高分子物質及び第2合成高分子物質はゲル形成能を有する任意の天然又は合成高分子物質である。
【0053】
第1合成高分子物質又は第2合成高分子物質は、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、ポリアクリルアミド、二酢酸セルロースなどの一種又は複数種であってもよく、好ましくはポリビニルアルコール及びポリエチレングリコールであり、使用されるポリエチレングリコールの分子量の範囲は1000−8000ダルトンであり、例えば1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000ダルトン及びその間の任意の分子量である。第2合成高分子物質の具体的な選択は第1合成高分子物質と異なっても良い。合成高分子物質としてポリビニルアルコール及びポリエチレングリコールを選択する場合、第1合成高分子物質はポリビニルアルコールが好ましく、第2合成高分子物質はポリエチレングリコールが好ましい。いくつかの実施形態において、固定化の担体としてポリアクリルアミド及びカラギーナンを選択する場合、ポリアクリルアミドは第1合成高分子物質とし、カラギーナンは天然高分子物質とする。
【0054】
本発明において、第1合成高分子物質例えばポリビニルアルコールの投入量は、水に溶解することができれば、特に限定されないが、濃度が低すぎると、形成された固定化材料の構造がほぐれ、リジン脱炭酸酵素が漏れやすく、第1合成高分子物質例えばポリビニルアルコールの濃度が0.5wt%未満の場合、形成された固定化材料の構造がほぐれすぎ、固定化細胞の製造には適さない。いくつかの実施形態において、第1合成高分子物質例えばポリビニルアルコールの投入量は、水分の1〜13wt%であり、好ましくは6〜11wt%である。
【0055】
本発明において、第1合成高分子物質例えばポリビニルアルコールの溶解方法は特に限定されない。いくつかの実施形態において、水を50〜100℃に加熱し、第1合成高分子物質例えばポリビニルアルコールを加え、常時に撹拌して溶解させる。
【0056】
いくつかの実施形態において、天然高分子物質及び/又は第2合成高分子物質の添加量は第1合成高分子物質例えばポリビニルアルコールの1/20〜1/4の量であり、より好ましく第1合成高分子物質例えばポリビニルアルコールの1/10〜1/5の量である。いくつかの実施形態において、ポリエチレングリコールの添加量は第1合成高分子物質例えばポリビニルアルコールの1/20〜1/4の量であり、より好ましく第1合成高分子物質例えばポリビニルアルコールの1/10〜1/5の量である。
【0057】
本発明において、前記天然高分子物質は、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キトサン、アガロース、カラギーナン、ゼラチンなどを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記天然高分子物質はアルギン酸ナトリウムであり、いくつかの実施形態において、前記天然高分子物質はカラギーナンである。
【0058】
本発明において、酵素を含有する細胞の添加量は、リジン脱炭酸酵素を含有する細胞の形態としてその溶液の重量の0.5%〜7%であり、その溶液の重量で水分含有量が10〜50%の酵素発酵液の濃縮液を添加してもよい。
【0059】
本発明において、合成高分子物質のゲル化の方法は、特に限定されなく、ホウ酸法を使用してもよく、凍結法を使用してもよい。一実施形態において、溶液に1〜10wt%、好ましくは3〜6wt%のホウ酸を投入し、得られたホウ酸溶液に固定化細胞の溶液を滴下し、球状の顆粒を形成する。一実施形態において、固定化細胞の溶液を−5〜−20℃で10〜40時間凍結させ、室温で解凍した後、飽和硫酸ナトリウム溶液に入れて脱水させ、次いで顆粒状に切断する。一実施形態において、固定化細胞の溶液を−5〜−20℃で10〜40時間凍結させ、室温で解凍した後、飽和硫酸アンモニウム溶液に入れて脱水させ、次いで顆粒状に作製する。
【0060】
本発明の固定化細胞の製造方法において、溶液のゲル化後、エピクロロヒドリン溶液及び/又は液状エポキシ樹脂をポリビニルアルコール(PVA)におけるヒドロキシル基の理論モル数の1〜1.5倍量で投入し、20〜60min振とう反応させ、顆粒を分離して洗浄し、製品を得るステップをさらに含む。本発明において、簡単にPVAのみをアルギン酸ナトリウムの全部または一部に代えて、固定化材料とすることは本発明の目的を基本的に達成できるだけである。これは、PVAが、極性物質に属するペンタンジアミンが、大量のヒドロキシル基を持っているPVAに多く吸着することにより、濃度が高すぎるペンタンジアミンが酵素転化において生成物に強い阻害作用を与えるからである。このように、酵素転化効率は低くなる。エピクロロヒドリン及び/又は液状エポキシ樹脂による処理は、担体の表面性質を変更し、生成物に対する担体の吸着作用を解除することができる。PVAに加え、本発明に使用されるその他の合成高分子物質、例えばポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、二酢酸セルロースも、エピクロロヒドリン及び/又は液状エポキシ樹脂による処理により、担体の表面性質を変更し、生成物に対する担体の吸着作用を解除することができる。下記の実施例で実証されるように、エピクロロヒドリン及び/又は液状エポキシ樹脂による処理は、固定化されたリジン脱炭酸酵素を含有する細胞の安定性及び利用効果を著しく改善する。
【0061】
本発明におけるエピクロロヒドリンは水溶液又はエタノール溶液として存在することができ、濃度は1〜5.5wt%である。いくつかの実施形態において、1〜5.5wt%のエピクロロヒドリンに顆粒状の固定化細胞を投入し、20〜50℃、100〜300r/minで20〜120min振とうする。
【0062】
本発明における液状エポキシ樹脂として、エポキシ基を有し、且つ室温で液体であるエポキシ樹脂が用いられる。エポキシ樹脂の分子量は、液状エポキシ樹脂であれば特に限定されなく何れも使用できる。その使用量は、具体的にエポキシ樹脂におけるエポキシ基の含有量により換算され、いくつかの実施例において、エピクロロヒドリンをPVAにおけるヒドロキシル基の理論モル数の1〜1.5倍量で投入することができる。
【0063】
本発明においてペンタンジアミンの製造方法も開示されている。当該製造方法は、
A)リジン又はその塩を上記の固定化細胞に接触させるステップと
B)固液分離によりペンタンジアミン含有溶液を得るステップとを含む。
【0064】
本発明は、リジン又はその塩の形態として、特に限定されることなく、リジンを含む任意の液体であってもよく、例えば、リジン発酵液、リジン発酵液の濃縮液若しくは希釈液、リジン発酵液から菌体を除去した後の滅菌リジン発酵液及び滅菌リジン発酵液の濃縮液若しくは希釈液、精製若しくは部分精製されたリジン発酵液、リジン又はその塩により調製された溶液が用いられる、好ましくはリジン発酵液が用いられる。前記リジン塩は、リジン塩酸塩、リジン硫酸塩、リジン炭酸塩、リジンリン酸塩、リジンアジピン酸塩、リジンセバシン酸塩を含むが、これらに限定されない。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態において、固定化細胞がリジン又はその塩に接触している時、温度は30〜50℃であり、リジン又はその塩のpHは5〜7である。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態において、固定化細胞がリジン又はその塩に接触している時、溶液におけるリジン又はその塩の濃度は6〜30wt%であり、好ましくは8〜20wt%である。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態において、固定化細胞がリジン又はその塩に接触している時に、コエンザイムを添加する。このコエンザイムは、ピリドキサール、リン酸ピリドキサール、ピリドキシン、ピリドキサミンから選択され一種又は複数種であってもよく、より好ましく5’−リン酸ピリドキサールである。いくつかの実施形態において、コエンザイムの添加量は、反応系の重量で(エンザイム以外の全ての反応原料の重量で)0.01〜0.5mmol/kgである。
【0068】
反応が終了した後、ペンタンジアミン含有混合液(即ち、反応終了液)を得る。固液分離の方式は、特に限定されなく、例えば遠心分離、ろ過などが挙げられ、従来の公知の技術を使用してもよい。固液分離後の上清からペンタンジアミンを抽出する方式は、特に限定されなく、例えば日本国特許JP200400114Aに言及された、先ず溶液のpHを12〜14に調整し、その後、有機溶剤で抽出し、抽出液を減圧下で蒸留してペンタンジアミンを得るものが挙げられる。
【0069】
本願におけるリジンの発酵元液は、従来技術こより得られるいずれのリジン発酵液を含む。
【0070】
本発明において、使用されるリジン発酵液は、Cl
−、SO
42−などの無機イオンを含むことができる。
【0071】
本発明において、リジン発酵液は、培地の配合における発酵後の残糖及び残留窒素などの種々の残留成分をさらに含む。
【0072】
本発明の合成高分子物質により固定化された、リジン脱炭酸酵素を発現する細胞でリジン発酵液からペンタンジアミンへの生産を触媒する方法は、以下の利点があり、1)リジン脱炭酸酵素を含有する細胞を固定化処理することにより、酵素の利用率を向上し、ペンタンジアミンの生産プロセスの簡略化に寄与し、ペンタンジアミンの製品の品質を向上し、
【0073】
2)固定化細胞の安定性を高めることにより、この方法でリジンの発酵元液を直接に使用してペンタンジアミンを製造することができ、従来技術ではリジン純品、リジン塩酸塩、リジン硫酸塩、リジン炭酸塩及びリジンジカルボン酸塩などを基質としたことに起因した、コストが高く、プロセスが複雑である欠点を克服し、リジン発酵液の精製段階を減少し、プロセスを簡略化し、ペンタンジアミンの生産コストを低減する。
【0074】
以下、製造例によって本発明を例示的に説明し、本発明の特徴及び利点をより明確にするが、本発明は本明細書に記載される実施例に限定されるものではない。特に断りのない限り、培地の成分の含有割合は何れも重量比であり、濃度は質量%であり、リジン含有量はリジン塩酸塩で算出されたものである。特に断りのない限り、実施例において使用された原料は市販のものである。
【実施例】
【0075】
製造例1 リジン脱炭酸酵素の発酵液の製造。
【0076】
次のようにしてリジン脱炭酸酵素の発酵液を製造する。
【0077】
(1)種培養
100mlの液体培地(1%のへプトン、0.5%の酵母粉末、1%の塩化ナトリウムを含み、pHが7.0であるLB培地)を添加した500mlのシードバイアル(Seed Vial)に、リジン脱炭酸酵素を発現する、遺伝子工学的に操作されたハフニア・アルベイのグリセリン保存菌液(山東凱賽)を接種し、30℃、250rmpでシェーカーにより15時間培養した。
【0078】
(2)リジン脱炭酸酵素の発酵
5Lの発酵タンクに、3LのLB培地を加え、121℃で20min滅菌した後、上記の種液(Seed Solution)を接種して発酵を開始し(発酵培地は1%のへプトン、0.5%の酵母粉末、1%の塩化ナトリウムを含み、pHが7.0であるLB培地である。)、30℃、500r/minで発酵を開始し、通気流量を1vvmに、タンク内圧を0.1MPaに制御し、発酵過程中にアルカリ溶液でpHを7に制御し、30時間(h)発酵を行った後、発酵を停止させた。発酵が終了した後、固定化細胞の製造のために、遠心分離して酵素細胞を収集した。
【0079】
比較例1 カラギーナンによる固定化されたリジン脱炭酸酵素を含有する細胞の製造
【0080】
(1)固定化細胞の製造
水100mlを煮沸してからカラギーナン4gを加え、カラギーナンが十分に溶解するまで攪拌加熱し、次いで室温に冷却した後、製造例1で製造されたリジン脱炭酸酵素を含有する細胞1gを加え、均一に攪拌し、2〜5%のCaCl
2水溶液にシリンジで滴下し、直径約3−8mmの顆粒を形成し、固定化細胞をろ過収集して準備した。
【0081】
(2)固定化細胞によるリジン発酵液への触媒作用
固定化細胞を高さ/直径比3:1の反応カラムに装入し、市販のリジン含有量が20%であるリジン発酵液を濃度8%に希釈し、最終濃度0.1mMになるようにコエンザイムを添加し、酵素反応カラムの底部からカラムにこのコエンザイムを含むリジン発酵液を通液し、流出した反応液中のリジンの残留量が0.1%(W/W)未満であることを確保するように流速を調整し、反応温度を40℃に制御した。ペンタンジアミンの収率、固定化細胞の使用時間及び固定化細胞の形態変化は表1に示す。
【0082】
比較例2 アルギン酸ナトリウムによる固定化されたリジン脱炭酸酵素を含有する細胞の製造
【0083】
(1)固定化細胞の製造
水100mlを煮沸してからアルギン酸ナトリウム3〜5gを加え、アルギン酸ナトリウムが十分に溶解するまで攪拌加熱し、次いで室温に冷却した後、製造例1で得られたリジン脱炭酸酵素を含有する細胞1gを加え、均一に攪拌し、2〜5%のCaCl
2水溶液にシリンジで滴下し、直径約3−8mmの顆粒を形成し、固定化細胞をろ過収集して準備した。
【0084】
(2)固定化細胞によるリジン発酵液への触媒作用
固定化細胞を高さ/直径比3:1の反応カラムに装入し、固定化細胞反応カラムに濃度が8%であるリジン発酵液を通液し、流出した反応液中のリジンの残留量が0.1%(W/W)未満であることを確保するように流速を調整し、反応温度を40℃に制御した。反応液を常時に収集し、濃縮した後、蒸留してペンタンジアミンの製品を得た。ペンタンジアミンの収率、固定化細胞の使用時間及び固定化細胞の形態変化は表1に示す。
【0085】
比較例3 遊離状態のリジン脱炭酸酵素を含有する細胞のリジン発酵液に対する触媒効率
【0086】
濃度が8%のリジン発酵液10gを添加した三角フラスコにリジン脱炭酸酵素を含有する細胞1gを加え、最終濃度0.1mMになるようにコエンザイムを添加し、40℃、200rpmで1h触媒反応を行い、リジンの転化率が99.25%であり、遠心分離して細胞を収集し、リジン発酵液に繰り返して触媒作用を与え、合計3h反応させた後、酵素を含有する細胞は部分的に破砕し、遠心分離して回収された細胞の量がただ0.5gであり、リジン発酵液に対する触媒効率が40%以下と低下し、相対酵素活性が著しく低下した。結果は表1に示す。
【0087】
実施例1 ポリビニルアルコールによるリジン脱炭酸酵素固定化細胞の製造
【0088】
(1)固定化細胞の製造
水100mlを煮沸してからポリビニルアルコール8gを加え、攪拌し、ポリビニルアルコールが十分に溶解するまで加熱し続け、室温に冷却した後、製造例1で得られたリジン脱炭酸酵素を含有する細胞の菌体懸濁液3gを加え、均一に攪拌し、−20℃の冷蔵庫に入れて冷却固化し、取り出して飽和硫酸ナトリウム溶液を加え、水分の80%を除去した後、直径約4−8mmの顆粒に切断した。
【0089】
(2)固定化細胞によるリジン発酵液への触媒作用
固定化細胞を高さ/直径比3:1の反応カラムに装入し、固定化細胞反応カラムに8%のリジンを含む発酵液を通液し、流出した転化液中のリジンの残留量が0.1%(W/W)未満であることを確保するように流速を調整し、反応温度を40℃に制御した。酵素脱炭酸液を収集し、濃縮した後、蒸留してペンタンジアミンの製品を得た。
【0090】
ペンタンジアミンの収率、固定化細胞の使用時間及び固定化細胞の形態変化は表1に示す。
【0091】
実施例2 ポリビニルアルコールとアルギン酸ナトリウムを混合することによるリジン脱炭酸酵素固定化細胞の製造
【0092】
(1)固定化細胞の製造
水100mlにポリビニルアルコール7gを加え、ポリビニルアルコールが十分に溶解するまで加熱攪拌し、次いでアルギン酸ナトリウム1.5gを加え、加熱して均一に溶解し、室温に冷却した後、リジン脱炭酸酵素ファージを含有する細胞を一定量加え、均一に攪拌し、この溶液を6%のホウ酸溶液に滴下し、顆粒を形成し、水で3回洗浄した後、固定化細胞の顆粒を収集した。
【0093】
(2)固定化細胞によるリジン発酵液への触媒作用
固定化細胞を高さ/直径比3:1の反応カラムに装入し、反応カラムの底部から8%のリジン発酵液を通液し、流出した転化液中のリジンの残留量が0.1%(W/W)未満であることを確保するように流速を調整し、反応温度を40℃に制御した。酵素反応液を収集し、濃縮した後、蒸留してペンタンジアミンの製品を得た。
【0094】
ペンタンジアミンの収率、固定化細胞の使用時間、固定化細胞の形態変化及び固定化細胞相対残存酵素活性は表1に示す。
【0095】
実施例3 ポリビニルアルコールとポリエチレングリコールを混合することによるリジン脱炭酸酵素固定化細胞の製造
【0096】
(1)固定化細胞の製造
水100mlにポリビニルアルコール7gを加え、ポリビニルアルコールが十分に溶解するまで加熱攪拌し、次いでポリエチレングリコール(PEG5000)0.5gを加え、加熱して均一に溶解し、室温に冷却した後、リジン脱炭酸酵素を含有する細胞1.5gを加え、均一に攪拌し、溶液を乾燥して成形し、切断、洗浄して顆粒を収集し、固定化細胞を得た。
【0097】
(2)固定化細胞によるリジン発酵液への触媒作用
固定化細胞を高さ/直径比3:1の反応カラムに装入し、反応カラムの底部から8%のリジン発酵液を通液し、流出した転化液中のリジンの残留量が0.1%(W/W)未満であることを確保するように流速を調整し、反応温度を40℃に制御した。反応液を濃縮し、蒸留してペンタンジアミンの製品を得た。
【0098】
ペンタンジアミンの収率、固定化細胞の使用時間、固定化細胞の形態変化及び固定化細胞相対残存酵素活性は表1に示す。
【0099】
実施例4 エピクロロヒドリンによる固定化細胞の処理
【0100】
(1)固定化細胞の製造
水100mlにポリビニルアルコール7gを加え、ポリビニルアルコールが十分に溶解するまで加熱攪拌し、次いでアルギン酸ナトリウム1.5gを加え、加熱して均一に溶解し、室温に冷却した後、リジン脱炭酸酵素を含有する細胞2gを加え、均一に攪拌し、この溶液を、1%塩化カルシウムを含む4%ホウ酸溶液に滴下し、球状の顆粒を形成し、顆粒を取り出し、水で3回洗浄した後、5%のエピクロロヒドリンのエタノール溶液に加え、200rpm、室温で2時間振とうした後、水で洗浄してエピクロロヒドリンを除去し、固定化細胞を収集した。
【0101】
(2)固定化細胞によるリジン発酵液への触媒作用
固定化細胞を高さ/直径比3:1の反応カラムに装入し、反応カラムの底部から濃度が8%(W/V)であるリジン発酵液を通液し、流出した転化液中のリジンの残留量が0.1%(W/W)未満であることを確保するように流速を調整し、反応温度を40℃に制御した。反応液を濃縮した後、蒸留してペンタンジアミンの製品を得た。
【0102】
ペンタンジアミンの収率、固定化細胞の使用時間、固定化細胞の形態変化及び固定化細胞相対残存酵素活性は表1に示す。
【0103】
実施例5 エピクロロヒドリンによる固定化細胞の処理
【0104】
(1)固定化細胞の製造
水100mlにポリビニルアルコール8gを加え、ポリビニルアルコールが十分に溶解するまで加熱攪拌し、室温に冷却した後、リジン脱炭酸酵素を含有する細胞を加え、均一に攪拌し、この溶液を、1wt%塩化カルシウムを含む4wt%ホウ酸溶液に滴下し、球状の顆粒を形成し、顆粒を取り出し、水で3回洗浄した後、5%のエピクロロヒドリンのエタノール溶液に加え、200rpm、室温で2時間振とうした後、洗浄してエピクロロヒドリンを除去し、固定化細胞の顆粒を収集した。
【0105】
(2)固定化細胞によるリジン発酵液への触媒作用
固定化細胞を高さ/直径比3:1の反応カラムに装入し、反応カラムの底部から濃度が8%(W/V)であるリジン発酵液を通液し、流出した転化液中のリジンの残留量が0.1%(W/W)未満であることを確保するように流速を調整し、反応温度を40℃に制御した。反応液を濃縮した後、蒸留してペンタンジアミンの製品を得た。
【0106】
ペンタンジアミンの収率、固定化細胞の使用時間、固定化細胞の形態変化及び固定化細胞相対残存酵素活性は表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
ペンタンジアミンの収率とは、一定の反応時間内に生成されたペンタンジアミンのモル数と反応液の初期リジンのモル数との比である。
【0109】
本発明の実施例において、埋め込み法により製造された固定化リジン脱炭酸酵素を含有する細胞で、異なる処理をされたリジン発酵液に触媒作用を及ぼす方法のみについて説明しているが、当業者にとって、本発明の方法はこれに限定されなく、同様にその他の酵素生産細胞の固定化及びその他のリジンを含む溶液に使用されてもよいと理解されるべきである。