(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記大径部は、前記一端側に向かうに従って前記中心軸からの距離が大きくなる直線部分を含むテーパー状の側面を有している請求項1から4のいずれか一項に記載の懸垂碍子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、碍子本体の筒部の外面及び内面にサンドを固着する工程は、作業が難しく、製造時間が長くなり、製造コストが増大する。一方、碍子本体の外面及び内面を波形状とすると、サンドを固着する工程は省略することができるものの、製造工程(特に焼成、乾燥工程)で亀裂が発生し易くなり、歩留まりが低下し、製造コストが増大する。碍子本体の表面(外面及び内面)にサンドを固着するか、碍子本体の表面を波形状に形成するかは、専ら全体的な製造コストを考慮して決定される。
【0005】
近年、懸垂碍子に求められる要求は高くなってきている。具体的には、長期間に亘り高い特性(強度、絶縁性等)を維持することが求められている。本発明者らの研究により、碍子本体の筒部の表面(外面及び内面)の状態は、懸垂碍子の特性にも大きな影響を及ぼすことが分かってきた。すなわち、本発明者らは、碍子本体の筒部の表面の状態を工夫することにより、懸垂碍子の特性を向上させることができるということを見出した。本明細書は、特性に優れた新規な形状の碍子本体を備える懸垂碍子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で開示する懸垂碍子は、一端が閉塞された磁器製の筒部と、キャップ金具と、ピン金具を備えていてよい。キャップ金具は、筒部の外側に接合材料を介して固定されていてよい。ピン金具は、筒部の内側で筒部の中心軸に沿って伸びている軸部と、軸部の一端側(筒部の閉塞されている側)に設けられている大径部を有していてよい。ピン金具は、筒部の内側に接合材料を介して固定されていてよい。この懸垂碍子では、筒部の外面にセラミックス製のサンドが固定されているとともに、中心軸が伸びる方向において筒部の内面に複数の突出部が設けられていてよい。
【0007】
上記懸垂碍子は、筒部の外側と内側で、表面の状態が異なる。具体的には、筒部の外面にはサンドが固定されており、内面には突出部が設けられている。なお、筒部は、碍子本体の一部である。上記懸垂碍子では、キャップ金具と碍子本体の接合強度は、外面に固定したサンドによって確保されている。ピン金具と碍子本体の接合強度は、内面に設けた突出部によって確保されている。すなわち、上記懸垂碍子では、筒部の内面にサンドを固定していない。筒部の内面のサンドを省略すると、単に製造工程が簡略化するだけでなく、急峻波電圧(インパルス電圧)に対する耐性が向上し、懸垂碍子に高電圧が印加されても懸垂碍子(典型的に碍子本体の筒部)に亀裂が生じることを防止することができる。
【0008】
従来、インパルス電圧に対する耐性を向上させるためには、筒部の厚み(外面と内面の距離)を大きくすることが有効であると知られていた。そのため、従来は、耐インパルス電圧を向上させるため、筒部の厚みを厚くしていた。しかしながら、上記懸垂碍子では、筒部の内面にサンドを固定せず筒部自身を突出させることにより、筒部の厚みを厚くすることなく、耐インパルス電圧を確保することができる。すなわち、従来よりも筒部の厚みを薄くすることができる。また、筒部の厚みを薄くすると、筒部の内径が大きくなるとともに、ピン金具の端部(大径部)から筒部に加わる剪断力を小さくすることができる。また、筒部の厚みを薄くすると、結果的に閉鎖部(筒部の一端側を閉塞している部分)の厚みも薄くなる。そのため、筒部に対してピン金具をより深く挿入することができ、ピン金具の端部(大径部)とキャップ金具の端部(対向部)の距離を大きくすることができる。これらの結果、筒部(碍子本体)の破壊強度が向上し、懸垂碍子の引張破壊強度が向上する。
【0009】
上記したように、筒部の内面にサンドを固定せず筒部自身を突出させることにより、耐インパルス電圧及び引張破壊強度を向上させることができる。また、上記懸垂碍子では、筒部の外面は突出させず、サンドを固定する。そのため、碍子本体の乾燥、焼成工程において筒部の外面に亀裂が生じることを抑制することができる。なお、筒部の内面で筒部自身を突出させると、筒部の内面側で亀裂が生じることがある。しかしながら、筒部の内面側の亀裂の有無は、内面に圧力を加える試験(内圧試験)により確認することができる。すなわち、懸垂碍子を組み立てて確認することなく、碍子本体のみで亀裂の有無を確認する(良否の判断をする)ことができる。それに対して、筒部の外側面の亀裂の有無は、碍子本体のみでの確認が難しく、懸垂碍子を組み立てて確認することが必要である。そのため、筒部の外面では、筒部自身を突出させるよりもサンドを固定した方がコストメリットが大きい。上記懸垂碍子は、筒部の外面と内面の状態を異ならせることにより、特性を向上させつつ、低コスト化を実現することができる。
【0010】
筒部内面の突出部は、筒部の中心軸の周りを連続して一巡していてよい。筒部の周方向の全体で、上記特性の向上効果が得られる。
【0011】
筒部内面の突出部では、突出部の一端側(筒部が閉塞されている側)の面において、突出部の底部と頂部の間に、直線部が設けられていてよい。また、直線部と筒部の中心軸が成す角度(直線部の傾斜角)が、22度以上28度以下であってよい。すなわち、突出部の傾斜角が22度以上28度以下であってよい。引張破壊強度のばらつきが少なく、高い引張破壊強度を有する懸垂碍子を実現することができる。
【0012】
ピン金具の大径部は、上記一端側に向かうに従って筒部の中心軸からの距離が大きくなる直線部分を含むテーパー状の側面を有していてよい。ピン金具と接合材料の間に大きなくさび効果を発現させることができる。また、大径部の側面と筒部の中心軸が成す角度(側面の傾斜角)が、18度以上25度以下であってよい。この場合も、引張破壊強度のばらつきが少なく、高い引張破壊強度を有する懸垂碍子を実現することができる。
【0013】
ピン金具の頭部にテーパー面が設けられている場合、碍子本体の内面に設けられている突出部において、突出部の底部と頂部の間に平面部が設けられていてよい。テーパー面から接合
材料を介して碍子本体に加わる力を、平面部で効率よく受けることができる。
【0014】
ピン金具の大径部の側面がテーパー状である場合、キャップ金具の内側面に、ピン金具の側面と対向するように突出している複数の対向部が設けられていてよい。これにより、大径部(ピン金具)から筒部に加わる力が筒部の外側で受けられ、強いタガ締め効果を発現させることができる。換言すると、大径部と対向部で筒部が挟まれることにより、筒部に加わる剪断力が軽減され、筒部の破壊荷重が上昇し、高い引張破壊強度を有する懸垂碍子を実現することができる。
【0015】
キャップ金具の対向部は、底部と頭部の間に直線部が設けられていてよく、対向部の直線部と筒部の中心軸が成す角度(対向部の傾斜角)が、20度以上27度以下であってよい。この場合も、引張破壊強度のばらつきが少なく、高い引張破壊強度を有する懸垂碍子を実現することができる。
【0016】
ピン金具の大径部の側面と筒部の中心軸が成す角度をθ1とし、筒部の突出部の直線部と筒部の中心軸が成す角度をθ2とし、キャップ金具の対向部の直線部と筒部の中心軸とが成す角度をθ3としたときに、下記式(1)を満足してよい。下記式(1)を満足することにより、懸垂碍子の引張破壊強度をより向上させることができる。
θ1<θ3<θ2・・・(1)
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照し、懸垂碍子100について説明する。懸垂碍子100は、碍子本体20と、キャップ金具10と、ピン金具30を備えている。碍子本体20は、磁器製であり、頭部22と傘部24を備えている。頭部22は、筒部22bと、筒部22bの一端を塞いでいる閉塞部22aを備えている。筒部22bは、中心軸80に沿って伸びている。筒部22bの厚み(内面と外面の距離)は、閉塞部22aの厚みより厚い。傘部24が、筒部22bの他端に設けられている。筒部22bは、一端が閉塞部22aによって閉塞され、他端が解放された構造を有している。以下、筒部22bに対して閉塞部22aが設けられている側(一端側)を上部(あるいは上方)と称し、筒部22bに対して傘部24が設けられている側(他端側)を下部(あるいは下方)と称することがある。
【0019】
筒部22bの外面に、サンド26が固定されている。サンド26は、釉薬(図示省略)によって、筒部22bの全周に固定されている。サンド26は、セラミックス製であり、一例として碍子本体20と同質(磁器を粉砕したもの)である。筒部22bの内面に、中心軸80が伸びる方向に並ぶ複数の突出部28が設けられている。各々の突出部28は、中心軸80の周りを連続して一巡している。なお、突出部28は、筒部22b自体が内側(中心軸80側)に突出しているものであり、筒部22bの内面に固定したものではない。
【0020】
傘部24は、円板状であり、径方向外側に向かう(中心軸80から離れる)に従って、下方に傾斜している。傘部24は、複数のリブ24aを備えている。リブ24aは、傘部24から下方に突出している。各々のリブ24aは、中心軸80の周りを連続して一巡している。そのため、懸垂碍子100を下方から観察すると、中心軸80の周りに環状の複数のリブ24aが現れている。
【0021】
キャップ金具10は、セメント40によって、頭部22(閉塞部22aと筒部22b)の外側に固定されている。セメント40は、接合材料の一例である。キャップ金具10は、頭部22全体を覆っている。キャップ金具10の上部に、連結孔10aが設けられている。連結孔10aには、他の懸垂碍子のピン金具130の連結部136が挿入される。連結部136を連結孔10aに挿入することにより、複数の懸垂碍子が中心軸80方向に連結される。キャップ金具10の下部には、ピン金具30の大径部32の側面32aと対向する対向部12が設けられている。ピン金具30の詳細については後述する。対向部12は、キャップ金具10の内側面の一部が中心軸80に向けて突出することによって形成されている。対向部12は、中心軸80の周りを連続して一巡している。キャップ金具10には、2個の対向部12が設けられている。
【0022】
ピン金具30は、セメント50によって、頭部22(閉塞部22aと筒部22b)の内側に固定されている。セメント50は、接合材料の一例である。ピン金具30は、大径部32と軸部34と連結部36を備えている。大径部32は、軸部34の上部(一端側)に設けられている。連結部36は、軸部34の下部(他端側)に設けられている。大径部32の径(中心軸80に直交する方向における、大径部32の存在範囲)は、軸部34の径より大きい。また、連結部36の径も、軸部34の径より大きい。大径部32の全体と軸部34の一部(上部側)が、セメント50で覆われている。なお、ピン金具の連結部は、他の懸垂碍子のピン金具に設けられた連結孔に挿入可能であれば、必ずしも円形でなくてよく、例えば矩形であってもよい。また、キャップ金具の上部の形状によっては、ピン金具の連結部は、中央に貫通孔が設けられた形状(クレビス金具の連結部分のような形状)であってもよい。
【0023】
大径部32は、上方に向かうに従って径(中心軸80からの距離)が大きくなっている。そのため、大径部32の側面32aはテーパー状である。側面32aは、キャップ金具10の対向部12と対向している。なお、大径部32の上部にコルク60が配置されている。コルク60は、ピン金具30(大径部32)と頭部22(閉塞部22a)が接触することを防止している。連結部36は、他の懸垂碍子の連結孔に挿入することができる。一般的に、同じ強度クラスの懸垂碍子(破壊強度が設定された所定範囲の値を満足している、すなわち、同程度の強度を有する懸垂碍子)が、連結部36と連結孔10aによって連結される。
【0024】
図2を参照し、懸垂碍子100の特徴についてさらに詳細に説明する。ピン金具30の上方に大径部32が設けられている。大径部32は、ピン金具30がセメント50から抜けることを防止している。大径部32の側面32aはテーパー状であり、傾斜角θ1(中心軸80と側面32aの成す角度)は18度〜25度に調整されている。筒部22bの内面に突出部28が設けられている。突出部28は、筒部22bの内面のほぼ全面に設けられている。しかしながら、最も上部側に位置する突出部28は、ピン金具30(大径部32)の上方端よりも下方に設けられている。突出部28は、セメント50が頭部22(筒部22b)から抜けることを防止している。突出部28の上方側の面は、直線部28cを有している。具体的には、突出部28の底部28bと頂部28aの間に、部分的に直線部28cが設けられている。突出部28の傾斜角θ2(中心軸80と直線部28cの成す角度)は22度〜28度に調整されている。大径部32及び突出部28を設けることにより、ピン金具30が頭部22から抜けることを防止している。
【0025】
筒部22bの外面にサンド26が固定されている。サンド26は、磁器製であり、釉薬(図示省略)によって筒部22bに固定されている。サンド26は、筒部22bの外面のほぼ全面に固定されている。サンド26は、ピン金具30(大径部32)の上方端よりも上方まで設けられている。筒部22bの外面にサンド26を固定することにより、頭部22がセメント40から抜けることを防止している。キャップ金具10の下方に、対向部12が設けられている。対向部12は、中心軸80側に向けて突出した形状を有している。対向部12は、ピン金具30の大径部32より下方に設けられている。対向部12は、セメント40がキャップ金具10から抜けることを防止している。対向部12の上方側の面は、直線部12cを有している。すなわち、対向部12の底部12bと頂部12aの間に、部分的に直線部12cが設けられている。対向部12の傾斜角θ3(中心軸80を直線部12cの成す角度)は22度〜28度に調整されている。サンド26と対向部12を設けることにより、キャップ金具10が頭部22から外れることを防止している。
【0026】
なお、懸垂碍子100では、傾斜角θ1とθ2がθ1<θ2となるように調整されている。また、傾斜角θ1とθ3がθ1<θ3となるように調整されている。より詳細には、懸垂碍子100では、傾斜角θ1,θ2及びθ3が、下記式(1)を満足するように、各々の傾斜角が調整されている。下記式(1)を満足するように各傾斜角を調整することにより、懸垂碍子100の引張破壊強度が大幅に向上する。
θ1<θ3<θ2・・・(1)
【0027】
懸垂碍子100の利点を説明する。懸垂碍子100では、筒部22bの外面にサンド26を固定し、筒部22bの内面に突出部28を設けることにより、頭部22(筒部22b)とセメント(セメント40,50)を強固に接合している。筒部22bの外面に突出部を設けずにサンド26を固定することにより、乾燥・焼成工程において筒部22bの外面側に亀裂が生じることを抑制している。なお、乾燥・焼成工程で生じる亀裂には、表面に現れる亀裂と、表面には現れずに内部に発生する亀裂(内在欠陥)が存在する。筒部22bの外面に突出部を設けた場合、突出部内に内在欠陥が生じているか否かは、碍子本体のみの検査で確認することが難しい。突出部内に内在欠陥が存在する碍子本体を用いて懸垂碍子を製造すると、内在欠陥を起因として低値破壊(本来よりも極めて弱い力で碍子本体が破壊する現象)が発生することが起こり得る。懸垂碍子100では、筒部22bの外面にサンド26を固定することにより、筒部22bの外面側に亀裂が生じることを抑制している。
【0028】
懸垂碍子100では、筒部22bの内面に突出部28を設けている。すなわち、筒部22bの内面にサンドを固定しない。筒部22bの内面にサンドを固定すると、懸垂碍子に高電圧(インパルス電圧)が印加されたときに、サンド(より具体的には、サンドが存在する範囲とサンドが存在しない範囲との界面部分)に電圧が集中し、碍子本体が絶縁破壊することが起こり得る。そのため、従来は、碍子本体に絶縁破壊が生じないように、碍子本体(筒部)の厚みを十分に確保することが必要であった。懸垂碍子100は、筒部22bの内面に突出部28を設け、筒部22bの内面にサンドを固定しない構造を採用することにより、碍子本体20の絶縁破壊のリスクを低減することができ、従来よりも筒部の厚みを薄くすることができる。換言すると、懸垂碍子100は、従来よりも耐インパルス電圧を向上させることができる。
【0029】
また、筒部の厚みが薄くなると、筒部の内径が大きくなる。筒部の内径を大きくすると、懸垂碍子に引張荷重が加わったときにピン金具(大径部)から筒部に加わる剪断力を小さくすることができる。筒部の破壊が抑制され、懸垂碍子の引張破壊強度を向上させることができる。すなわち、懸垂碍子100は、筒部22bの内面に突出部28を設け、サンドを固定しない構造を採用することにより、引張破壊強度を向上させることができる。
【0030】
通常、閉塞部の厚みは、筒部の厚みに対応して設定される。すなわち、筒部の厚みが薄いときは閉塞部の厚みも薄くし、筒部の厚みが厚いときは閉塞部の厚みも厚くする。このように、閉塞部の厚みを筒部の厚みに応じて変化させることにより、乾燥工程において両者の乾燥速度差を低減することができる。なお、閉塞部と筒部の乾燥速度差が大きくなると、閉塞部及び/又は筒部に亀裂が生じることがある。上記したように、懸垂碍子100は、従来よりも筒部の厚みを薄くすることができる。そのため、懸垂碍子100は、結果的に閉塞部の厚みも薄くすることができる。その結果、懸垂碍子100では、懸垂碍子100を製造するときに、ピン金具30をより深くまで挿入することができる。中心軸80方向において、ピン金具30の端部(大径部32)とキャップ金具10の下方端(対向部12)の距離を大きくすることができる。中心軸80方向における大径部32と対向部12の距離を大きくすることにより、大径部32と対向部12の間でより大きな圧縮力を負担することができ、引張破壊強度が向上する。このことからも、懸垂碍子100は、筒部22bの内面に突出部28を設け、サンドを固定しない構造を採用することにより、引張破壊強度を向上させることができる。
【0031】
また、筒部22bの内面に突出部28を設け、サンドを固定しない構造を採用することにより、大径部32から筒部22bに加わる力がサンドに集中する現象に対策することが不要となる。筒部の内面にサンドを固定した場合、大径部からセメントを介して筒部に加わる力は、サンド(サンドが存在する範囲とサンドが存在しない範囲との界面部分)に集中しやすい。そのため、筒部の内面にサンドを設ける場合、大径部からの力を分散させるため、大径部の側面(上方から下方に向かう方向の側面形状)を曲面にすることが必要である。そのため、筒部の内面にサンドを固定する場合、ピン金具(大径部)が大きなくさび効果を発現することができない。懸垂碍子100は、サンドに応力が集中する現象に対策する必要がないので、大径部32の側面をテーパー状とし、大きなくさび効果を発現させることができる。なお、大径部32の傾斜角θ1は、18度〜25度の範囲で調整可能であり、19度以上であることが好ましく、20度以上であることがより好ましく、21度以上であることが特に好ましい。また、大径部32の傾斜角θ1は、24度以下であることが好ましく、23度以下であることがより好ましく、22以下であることが特に好ましい。
【0032】
また、懸垂碍子100では、突出部28の上方側の面に直線部28cが設けられている。懸垂碍子100に引張力が加わると、ピン金具30の大径部32からの力が、突出部28の上方側から突出部28に加わる。突出部28の上方側の面に直線部28cを設けると、大径部32からの力を面で受けることができる。なお、突出部28の傾斜角θ2は、22度〜28度の範囲で調整可能であり、22度以上であることが好ましく、23度以上であることがより好ましく、24度以上であることが特に好ましい。また、直線部28cの傾斜角θ2は、28度以下であることが好ましく、27度以下であることがより好ましく、26以下であることが特に好ましく、25度以下であることが一層好ましい。
【0033】
また、懸垂碍子100では、キャップ金具10の内側面に、大径部32と対向する対向部12が設けられている。上記したように、懸垂碍子100に引張力が作用すると、ピン金具30から碍子本体20(筒部22b)に力(剪断力)が加わる。キャップ金具10に対向部12を設けると、ピン金具30(大径部32)からの力を、対向部12で受けることができる。筒部22bに対向部12からの反力が作用し、大径部32から筒部22bに作用する剪断力を低減することができる。なお、キャップ金具10に対向部12を設けると、筒部22bが大径部32と対向部12に挟まれた状態となり、筒部22bに圧縮力が作用する。磁器(筒部22b)は、高い圧縮強度を有していることが知られている。そのため、対向部12を設けることによって筒部22bに加わる圧縮力が増加しても、筒部22bに加わる剪断力を低減するメリットの方が大きい。
【0034】
対向部12は直線部12cを有しており、ピン金具30(大径部32)からの力を面で受けることができる。対向部12の傾斜角θ3は、20度〜28度の範囲で調整可能である。傾斜角θ3は、21度以上であることが好ましく、22度以上であることがより好ましく、22.5度以上であることが特に好ましい。また、傾斜角θ3は、27度以下であることが好ましく、26度以下であることがより好ましく、25度以下であることが特に好ましく、23.5度以下であることが一層好ましい。
【0035】
なお、懸垂碍子100では、筒部22bの内面に突出部28を設けることによって、内面に突出部を設けない形態(例えば内面にサンドを固定する形態)と比較して、製造過程で筒部22bの内側に亀裂が発生し易くなることが起こり得る。しかしながら、筒部22bの内側の亀裂の有無は、碍子本体での検査方法(内圧検査)が確立しており、懸垂碍子組み立てることなく確認することができる。筒部22bの内面は、筒部22bの外面と比較して、突出部を形成することによるデメリットが小さい。
【実施例】
【0036】
懸垂碍子100の傾斜角θ1〜θ3を変化させ、引張破壊強度の測定を行った(実施例1−3)。また、懸垂碍子に急峻波の電圧を印加し、急峻波電圧が印加されたときの耐久性について測定した(実施例4:急峻波試験、実施例5:複合ストレス試験)。急峻波試験及び複合ストレス試験の詳細については後述する。
【0037】
(実施例1)
碍子本体の突出部の傾斜角θ2を20度から30度まで変化させ、引張試験を行った。なお、傾斜角θ1、θ3は、各々21.5度、23度とした。結果を
図3に示す。
図3の横軸は傾斜角θ2を示し、縦軸は引張破壊強度を示している。なお、
図3は、製造ばらつき(例えば製造ロットによる引張破壊強度のばらつき)を考慮し、全ての製品(懸垂碍子)で保証値(引張破壊強度の保証値)を満足するために必要とされる碍子本体の破壊強度を「100」とし、保証値に対する本試験で得られた破壊強度の比を示している。
図3に示すように、傾斜角θ2が22度以上28度以下のときに良好な引張破壊強度が得られることが確認された。
図3に示す結果より、製造公差を考慮すると、傾斜角θ2は、23度以上27度以下であることが好ましく、24度以上25度以下であることが特に好ましいことが確認された。
【0038】
(実施例2)
ピン金具の大径部の傾斜角θ1を14度から26度まで変化させ、引張試験を行った。傾斜角θ2、θ3は、各々24.5度、23度とした。結果を
図4に示す。
図4の横軸は傾斜角θ1を示し、縦軸は引張破壊強度を示している。なお、
図4の結果も、
図3と同様に、保証値に対する本試験で得られた破壊強度の比を示している。
図4に示すように、傾斜角θ1が18度以上25度以下のときに良好な引張破壊強度が得られることが確認された。
図4に示す結果より、製造公差を考慮すると、傾斜角θ1は、19度以上23度以下であることが好ましく、20度以上22度以下であることが特に好ましいことが確認された。
【0039】
(実施例3)
キャップ金具の対向部の傾斜角θ3を20度から30度まで変化させ、引張試験を行った。傾斜角θ1、θ2は、各々21.5度、24.5度とした。結果を
図5に示す。
図5の横軸は傾斜角θ3を示し、縦軸は引張破壊強度を示している。なお、
図5の結果も、
図3及び
図4と同様に、保証値に対する本試験で得られた破壊強度の比を示している。
図5に示すように、傾斜角θ3が20度以上27度以下のときに良好な引張破壊強度が得られることが確認された。
図5に示す結果より、製造公差を考慮すると、傾斜角θ3は、20度以上25度以下であることが好ましく、22度以上23.5度以下であることが特に好ましいことが確認された。
【0040】
(実施例4)
まず、急峻波試験について説明する。急峻波試験は、IEC61211に規定されているように急峻波電圧(インパルス電圧)を印加されても懸垂碍子の絶縁性能が低下しないこと(碍子本体の亀裂発生の有無)を確認する試験である。具体的には、懸垂碍子100に波高およそ368kV、波頭長およそ140nsの電圧(電圧峻度(傾き)およそ2650kV/ns)を、正極性電圧5回、負極性電圧5回、正極性電圧5回、負極性電圧5回の順に印加(合計20回)した。また、比較例として、筒部の内面に突出部を設けてないことを除き、懸垂碍子100と同サイズの碍子本体の筒部の内外面にサンドが固定された懸垂碍子についても同様の試験を行った。すなわち、比較例の碍子本体の筒部の厚みは、懸垂碍子100の筒部22bの突出部28が設けられていない部分(薄肉部分)の厚みと同一である。試験結果を
図6に示す。
図6は、各懸垂碍子(懸垂碍子100、比較例の懸垂碍子)10個中、絶縁性能の低下を確認(亀裂が発生した)懸垂碍子の個数を示している。
図6に示すように、懸垂碍子100は全く絶縁性能が低下しなかったが(10個中0個)、比較例の懸垂碍子は絶縁性能が低下(亀裂を発生するものが存在)した(10個中1個)。
【0041】
(実施例5)
複合ストレス試験について説明する。複合ストレス試験は、懸垂碍子100をIEC60383に規定されているように促進劣化させた後(促進劣化試験後)、上記急峻波試験を実施する試験である。具体的には、懸垂碍子100に保証荷重の60〜65%の荷重(引張力)を加えた状態で、−30度12時間(降温時間を含む)、+40度12時間(昇温時間を含む)を1サイクルとする温度変化を4回(4サイクル)実施し、懸垂碍子100の劣化を促進させた。なお、促進劣化試験では、各サイクルが終了したとき(温度40度のとき)に懸垂碍子100に加えていた荷重を一旦開放し、次のサイクルが始まるときに再度同じ荷重を加えた。また、各ピーク温度(−30度、+40度)のキープ時間が4時間以上となるように、昇降温速度を調整した。本実施例でも、比較例として、筒部の内面に突出部を設けてないことを除き、懸垂碍子100と同サイズ(筒部の厚みが、懸垂碍子100の筒部22bの薄肉部分の厚みと同一)の碍子本体の筒部の内外面にサンドが固定された懸垂碍子についても同様の試験を行った。試験結果を
図6に示す。
図6は、各懸垂碍子10個中、絶縁性能の低下を確認(亀裂が発生)した懸垂碍子の個数を示している。
【0042】
図6に示すように、懸垂碍子100は全く絶縁性能が低下しなかったが(10個中0個)、比較例の懸垂碍子は絶縁性能が低下(亀裂が発生するものが存在)した(10個中4個)。
図6に示すように、内外面にサンドを
固定した懸垂碍子(比較例)は、促進劣化試験を行うことによって急峻波特性が低下している。すなわち、比較例の懸垂碍子は、長期間の使用により、急峻波特性(耐インパルス電圧特性)が低下することを示している。それに対して、懸垂碍子100は、促進劣化試験を行っても急峻波特性の低下が確認されなかった。
図6に示す結果は、懸垂碍子100は使用初期の急峻波特性が従来の懸垂碍子より高いだけでなく、長期間使用した後の急峻波特性も従来の懸垂碍子より高いことを示している。
【0043】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。