特許第6813541号(P6813541)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6813541
(24)【登録日】2020年12月21日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】光学系異常を検出する測距装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/497 20060101AFI20201228BHJP
   G01S 17/89 20200101ALI20201228BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   G01S7/497
   G01S17/89
   G01C3/06 120Q
   G01C3/06 140
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-140430(P2018-140430)
(22)【出願日】2018年7月26日
(65)【公開番号】特開2020-16577(P2020-16577A)
(43)【公開日】2020年1月30日
【審査請求日】2019年12月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 稔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 淳
【審査官】 田中 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−074708(JP,A)
【文献】 特開2013−073312(JP,A)
【文献】 特開2014−048139(JP,A)
【文献】 特開2014−167414(JP,A)
【文献】 特開2009−229255(JP,A)
【文献】 特開2005−321319(JP,A)
【文献】 特開昭63−236909(JP,A)
【文献】 特開2003−302468(JP,A)
【文献】 特開平06−289134(JP,A)
【文献】 特開2005−201868(JP,A)
【文献】 特開2011−117889(JP,A)
【文献】 特開2010−230613(JP,A)
【文献】 特開2010−217077(JP,A)
【文献】 特開平08−015415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 − G01S 7/51
G01S 17/00 − G01S 17/95
G01B 11/00 − G01B 11/30
G01C 3/00 − G01C 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測距光を被写体に照射する照射部と、二次元配列された複数の受光素子を有していて前記被写体からの反射光を受光する受光部と、を備え、前記測距光と前記反射光との間の位相差に基づき算出した前記被写体までの測距値と前記反射光の光強度とを出力する、測距装置であって、
前記光強度が前記測距値の二乗に反比例する関係と基準値との比較により、前記測距装置の光学系の異常度を少なくとも一部の前記受光素子にて検出する光学系異常度検出部を備えることを特徴とする測距装置。
【請求項2】
前記基準値は、前記測距装置の正常時に前記基準値を取得したときの前記被写体の反射率とは異なる反射率を有する被写体を用いて求められる、請求項1に記載の測距装置。
【請求項3】
前記基準値は、前記測距装置の正常時に取得した前記測距値及び前記光強度の前記関係を用いて求められる、請求項1に記載の測距装置。
【請求項4】
前記受光部の受光量に基づき前記測距装置が観測する空間の二次元画像を生成する二次元画像生成部をさらに備え、
前記光学系の異常度は、前記測距値の代わりに、三次元座標の相関が明らかな複数の特徴点を有する前記被写体を撮像した前記二次元画像に基づき幾何学的に算出した前記被写体までの距離を用いて検出される、請求項1から3のいずれか一項に記載の測距装置。
【請求項5】
前記基準値は、前記被写体とは異なる別被写体を用いて検出した前記光学系の異常度と、前記別被写体と同時に撮像した前記被写体に関する前記測距値及び前記光強度の前記関係と、を用いて求められる、請求項1から4のいずれか一項に記載の測距装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の飛行時間に基づき物体までの距離を測定する測距装置に関し、特に光学系異常を検出する測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物体までの距離を測定する測距装置として、光の飛行時間に基づき距離を出力するTOF(time of flight)カメラが公知である。TOFカメラは、所定周期で強度変調した測距光を測定対象空間に照射し、照射した測距光と測定対象空間の被写体からの反射光との間の位相差を検出する位相差方式を採用するものが多い。
【0003】
斯かる測距装置では、光学系異常によって測距精度が落ち、測距能力を失うことがある。特に三次元センサであるTOFカメラは、測距光の被写体からの反射光を撮像することにより測距を行うため、反射光が弱くなると、ショットノイズ、暗電流ノイズ、熱雑音等の影響が相対的に顕在化し、測距値のバラツキが大きくなることが一般的に知られている。反射光が弱くなる要因として、一般的には黒色等の低反射率の被写体、遼遠の被写体等が挙げられるが、それ以外にも、(1)レンズへの汚れ付着、(2)測距光用拡散板への汚れ付着、(3)測距光源の出力低下、(4)受光素子の異常といった光学系異常も挙げられる。斯かる光学系異常の検出に関連する先行技術としては、下記の文献が公知である。
【0004】
特許文献1には、窓カバーを介してレーザ光を出射すると共に、反射光を受光して障害物を検出する車両用障害物検出装置が開示されている。車両用障害物検出装置では、路面からの反射光の強度と時間との関係を理想反射波形として推定し、実際の路面からの反射光の強度と時間との関係を実反射波形として検出すると共に、理想反射波形と実反射波形とに基づいて窓カバーの汚れを検出している。
【0005】
特許文献2には、車両の有無及び台数を検知する光ビームセンサが開示されている。光ビームセンサでは、回帰反射板で反射された光ビームの受光量をモニタし、平均的な受光量が予め設定した基準値以下の場合に、入出射窓、回帰反射板等が汚れていると判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−271404号公報
【特許文献2】特開平10−227856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図7Aに示すように、測距光L1を被写体Oに照射し、被写体Oからの反射光L2により測距する測距装置では、照射から受光までの時間差Δtを求め、測距を行う。被写体Oは外光にも照らされているため、測距装置は測距光L1以外の光も混在した反射光L2を受光する。図7Bに示すように、光学系の正常時には、外光成分の光強度は概ね一定であるから、測距光を照射してない時に取得した光強度を減算することにより、S/N比が確保され、反射光成分のみの光強度を検出できる。
【0008】
ところが、図7Bに示すように、光学系の異常時には、反射光が弱くなり、S/N比が低下し、反射光成分の誤検出又は検出不能が発生し、測距精度の低下又は測距能力の喪失を招く。従って、安定した測距精度及び測距能力を維持するためには、光学系異常の検出が必要となる。また、光学系異常を検出できたとしても、その異常度が分からなければ、測距装置のクリーニングや部品交換の適切なタイミングも把握できない。
【0009】
そこで、容易に光学系の異常度を検出可能な測距装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様は、測距光を被写体に照射する照射部と、二次元配列された複数の受光素子を有していて被写体からの反射光を受光する受光部と、を備え、測距光と反射光と間の位相差に基づき算出した被写体までの測距値と反射光の光強度とを出力する、測距装置であって、光強度が測距値の二乗に反比例する関係と基準値との比較により、測距装置の光学系の異常度を少なくとも一部の前記受光素子にて検出する光学系異常度検出部を備える、測距装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、測距値及び光強度の関係から容易に光学系の異常度を検出できる。斯かる光学系の異常度に基づき測距装置の光学系のクリーニング、部品交換等の適切なタイミングを把握でき、ひいては測距精度及び測距能力を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態における測距装置のブロック図である。
図2A】光学系異常の検出原理を示す説明図である。
図2B】光学系異常の検出原理を示す説明図である。
図2C】光学系異常の検出原理を示す説明図である。
図3A】他の実施形態における反射率が明確な被写体を使用した異常度の検出を示す図である。
図3B】別の実施形態における反射率が不明な被写体を使用した異常度の検出を示す図である。
図4】二次元画像に基づき算出した被写体までの距離を用いて光学系の異常度を検出する例を示す説明図である。
図5A】さらに別の実施形態における基準値の求め方を示す説明図である。
図5B】さらに別の実施形態における基準値の求め方を示す説明図である。
図6A】斑点状の汚れが付着した場合であっても、光学的には均一付着の汚れと同等とみなせることを示す説明図である。
図6B】斑点状の汚れが付着した場合であっても、光学的には均一付着の汚れと同等とみなせることを示す図である。
図7A】従来技術における測距原理を示す説明図である。
図7B】従来技術における光学系の正常時におけるS/N比を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を詳細に説明する。各図面において、同一又は類似の構成要素には同一又は類似の符号が付与されている。また、以下に記載する実施形態は、特許請求の範囲に記載される発明の技術的範囲及び用語の意義を限定するものではない。
【0014】
図1は、一実施形態における測距装置10のブロック図である。測距装置10は、例えば位相差方式に基づき物体までの距離を測定するTOFカメラ、レーザスキャナ等であり、強度変調した測距光L1を被写体Oに照射する照射部11と、被写体Oからの反射光L2を受光する受光部12と、測距光と反射光との間の位相差に基づき被写体までの測距値及び反射光の光強度を出力する出力制御部13と、を備えている。
【0015】
照射部11は、例えば近赤外(NIR)光を発光する発光ダイオード、半導体レーザ等の測距光源、NIR光を測距光L1として拡散する拡散板等で構成される。照射部11は、発光・撮像タイミング制御部14からの発光タイミング信号に基づいて所定周期で強度変調した測距光L1を被写体Oに照射する。
【0016】
受光部12は、例えば被写体Oからの反射光L2を集光する集光レンズ、RGBフィルタ、NIRフィルタ等を介して反射光L2を受光する光電素子、CCDイメージセンサ、又はCMOSイメージセンサ等で構成される。反射光L2は、被写体Oで反射した測距光L1に加え、外光の反射光も含む。受光部12は、1画素につき赤色光、青色光、緑色光、及びNIR光を受光する4つの受光素子を有していてもよいし、又は、1画素につきNIR光のみを受光する1つの受光素子を有していてもよい。受光部12は、二次元配列した複数の受光素子15を有している場合もある。
【0017】
レーザスキャナでは、一般に図7A図7Bに示す参照光の照射タイミングに対する反射光の遅延Δt又は反射光成分の光強度を受光部12が直接測定を行う。本実施形態では以降、測距装置10がTOFカメラである場合を前提に説明する。受光素子15は、例えばフォトダイオード、コンデンサ等で構成される。NIR光を受光する受光素子15は、発光・撮像タイミング制御部14からの撮像タイミング信号に基づき、例えば測距光L1の発光タイミングに対して0°、90°、180°、及び270°だけ位相をずらした複数の撮像タイミングで受光量Q1〜Q4を取得する。一方、赤色光、青色光、緑色光を受光する受光素子15は、予め定めた撮像期間に亘って夫々受光量を取得する。取得した受光量は、増幅部16で増幅され、A/D変換部17でA/D変換され、A/D変換値がバッファメモリ18に記憶される。
【0018】
距離画像生成部19は、NIR光の受光量Q1〜Q4のA/D変換値に基づき、画素毎に被写体Oまでの測距値を含む距離画像30を生成する。測距値dは、例えば公知の下記式から算出される。ここで、Tdは測距光と反射光との間の位相差であり、cは光速であり、fは測距光の周波数である。生成した距離画像30は、バッファメモリ20に記憶され、出力制御部13を介して測距装置10の外部に出力される。
【0019】
【数1】
【0020】
【数2】
【0021】
二次元画像生成部21は、RGB光又はNIR光の受光量のA/D変換値に基づき二次元画像31を生成する。即ち、二次元画像31は、RGB画像(カラー画像)でもよいし、NIR画像(モノクロ画像)でもよい。二次元画像31は、バッファメモリ20に記憶され、出力制御部13を介して測距装置10の外部に出力される。なお、測距装置10がTOFカメラである場合には、受光素子15の出力する光強度Lsは、受光量Q1〜Q4に基づき、例えば公知の下記式から算出する。
【0022】
【数3】
【0023】
図7Bを参照して説明した通り、光学系の異常時には、反射光が弱くなり、S/N比が低下し、測距光のシグナル成分の誤検出又は検出不能が発生し、測距精度の低下又は測距能力の喪失を招く。斯かる光学系の異常度を検出するため、ひいては測距精度又は測距能力を維持するため、本実施形態における測距装置10は、光学系の異常度を検出する光学系異常度検出部22をさらに備えている。光学系異常度検出部22は、例えば中央処理装置(CPU)等のプロセッサを機能させるためのソフトウェアとして構成可能である。又は、例えば斯かるソフトウェアの少なくとも一部の処理を実行可能なプロセッサ等のハードウェアとして実現してもよい。
【0024】
図2A図2Cは、光学系異常の検出原理を示す説明図である。図2Aに示すように測距光源Pから被写体Oへの照度Eは、一般に下記式のように距離dの二乗に反比例する。ここで、Iは観測方向への測距光源Pの光度である。
【0025】
【数4】
【0026】
また図2Bに示すように、被写体Oが反射率ρの均等拡散反射面を有する場合、斯かる反射面の輝度Lrは、一般に下記式で表すことができる。
【0027】
【数5】
【0028】
さらに図2Cに示すように、受光素子15は、一般に入射光束に比例する出力電流を出力する。受光素子15が受光する光束、即ち、受光素子15の出力する光強度Lsは、集光レンズ22によって受光素子15が見込む面の輝度Lrに比例するため、下記式が得られる。
【0029】
【数6】
【0030】
定数kを用いて上記式を表現し直すと、下記式が得られる。ここで、定数kは、装置の構造、発光又は受光に関する各素子の特性の相違、さらに各素子の個体特性バラツキ等を吸収する補正値である。
【0031】
【数7】
【0032】
上記式は、下記の基本式に変形できる。従って、観測方向への測距光源の光度Iが一定で、且つ、反射率がρの被写体Oを測距する状況においては、下記基本式の左辺における被写体Oまでの測距値dと受光素子15が受光する光強度Lsとの関係が一定値となることを示す。即ち、光学系の異常度の検出時に、反射率がρの被写体Oまでの測距値dと受光素子15が受光する光強度Lsとの関係を算出した結果、一定値と異なれば測距装置10の光学系に何かしらの異常があることになる。
【0033】
【数8】
【0034】
そして、上記基本式の右辺には観測方向への測距光源の光度Iが含まれるが、この値は、測距装置10を構成する使用部品の特性バラツキ等によって個々の測距装置毎に値が異なる。光学系異常を検出するための基準値Kρは、例えば測距装置10の正常時(例えば出荷時、設置時等)に、反射率ρcbの被写体を用いたキャリブレーションにより得られた測距値d及び光強度Lsから、次式の通り求める。基準値Kρは、測距装置10の不揮発性メモリ23(図1を参照。)に、反射率ρcbと共に記憶される(後述する基準値も同様。)。
【0035】
【数9】
【0036】
光学系異常度検出部22は、光学系の異常度の検出時において、測距光源の光度Iが一定であることを条件として、既知の反射率ρcbを有する被写体Oの光強度Ls及び測距値dの関係を算出し、斯かる関係と基準値Kρとを比較することにより、測距装置10の光学系の異常度Abを検出する。光学系の異常度Abは、例えば下記式のように光強度Ls及び測距値dの関係と基準値Kρとの比として検出するか、又は、差分として検出してもよい。但し、下記式は、光学系異常の理論上の検出原理であるため、被写体Oの光強度Ls及び測距値dの関係は、種々の事情によって補正を要することに留意されたい。
【0037】
【数10】
【0038】
上記式において光学系の異常度Abが1より小さい場合、光学窓(レンズ、拡散板等)の汚れ付着による発光強度の低下、受光強度の低下、又は測距光源の出力低下等が疑われることになる。このように基準値として、既知の反射率ρcbを有する被写体Oを用いることにより、測距装置10の設置環境に拘わらず、光学系異常の検出が可能になる。また、光学系異常の測定値として(上記式の分子に)、被写体Oの光強度Ls及び測距値dの関係を用いることにより、被写体Oまでの距離に拘わらず、光学系異常の検出が可能になる。
【0039】
図3Aは、他の実施形態における反射率が明確な被写体を使用した異常度の検出を示す図である。基準値Kρを取得したときの反射率ρcbとは異なる反射率ρを有する被写体Oを使用する場合の基準値Kρ1は、上記基本式から、例えば下記式のように、反射率ρcbと、反射率ρ1との比を用いて求められる。
【0040】
【数11】
【0041】
光学系異常度検出部22は、光学系の異常度の検出時において、被写体Oの光強度Ls及び測距値dの関係を算出し、斯かる関係と基準値Kρ1とを比較することにより、測距装置10の光学系の異常度Abを検出する。光学系の異常度Abは、例えば下記式のように光強度Ls及び測距値dの関係と基準値Kρ1との比として検出するか、又は、差分として検出してもよい。
【0042】
【数12】
【0043】
図3Bは、別の実施形態における反射率が不明な被写体を使用した異常度の検出を示す図である。上記基本式は、反射率が不明な被写体Oであっても、測距装置10の正常時(例えば設置時、保守完了時等)に取得した被写体Oの測距値d0及び光強度Ls0の関係を使用して、例えば下記式のように基準値KLs0d0を求められることを示す。その後、同一被写体O(つまり反射率は不明であるが、同一反射率の被写体)を用いることで異常度の検出ができる。
【0044】
【数13】
【0045】
光学系異常度検出部22は、光学系の異常度の検出時において、被写体Oの光強度Ls及び測距値dの関係を算出し、斯かる関係と基準値KLs0d0とを比較することにより、測距装置10の光学系の異常度Abを検出する。光学系の異常度Abは、例えば下記式のように光強度Ls及び測距値dの関係と基準値KLs0d0との比として検出するか、又は、差分として検出してもよい。
【0046】
【数14】
【0047】
このように測距装置10は、反射率が不明の被写体Oの測距値d0及び光強度Ls0の関係から基準値を求めることもできる。換言すれば、被写体が、測距装置10によって常時又は定期的に撮像される固有の固定物(例えば固有の床、机、機械等)でもよいこととなる。光学系異常の測定値(上記式の分子)及び基準値(上記式の分母)として、斯かる固定物の光強度及び測距値の関係を用いることにより、光学系異常の検出が可能になる。即ち、既知の反射率を有する特別な被写体を用意することなく、測距装置10は測距精度又は測距能力を自動で維持できる。
【0048】
図4は、二次元画像31に基づき幾何学的に算出した被写体Oまでの距離drefを用いて光学系の異常度を検出する例を示す説明図である。測距装置10が例えばTOFカメラのように二次元に複数配列した受光素子15を有している場合、各受光素子15の光強度値で構成された二次元画像が出力される。被写体Oには、所謂リファレンスマーカを使用する。リファレンスマーカは、例えば大きさが既知である四角形の白色板状部材に、大きさ、位置関係が既知である正円、正方形、及び菱形を配置し、三次元座標の相関が既知の特徴点を数多く含む。例えば特徴点は、正円、正方形、及び菱形の中心部32a、32b、32c、四角形の角部32d、32e、32f、32gでよい。さらに、リファレンスマーカの正円の中心部32bを代表特徴点とし、正円内を規定の反射率ρを有する部分とする。なお、他の実施形態では、リファレンスマーカの代わりに、三次元座標の相関が明らかな任意の被写体を用いて光学系異常を検出してもよい。三次元座標の相関が明らかとは、複数の特徴点の相対的な位置関係を知ることができることを意味し、必ずしも複数の特徴点の三次元座標の相関が既知である必要はない。つまり、測距装置10がメモリ等に予め記憶している必要はない。
【0049】
光学系異常度検出部22は、公知の画像処理を利用して二次元画像31からリファレンスマーカを検出し、リファレンスマーカの種々の特徴点の画像上の位置座標をサブピクセルレベルで特定すると共に、複数(一般に4個以上)の特徴点の画像上の位置座標の組合せから、代表特徴点である正円の中心部32bまでの距離drefを幾何学的に算出する。より高精度な距離drefの算出のために、組合せの異なる複数の特徴点から複数のdrefを計算し、平均化処理等を行ってもよい。そして、光学系異常度検出部22は、例えば下記式のように、測距値dの代わりに、リファレンスマーカを撮像した二次元画像31に基づいて、幾何学的に算出したリファレンスマーカ(代表特徴点)までの距離drefを用いて光学系の異常度Abを検出する。
【0050】
【数15】
【0051】
このように二次元画像31に基づき算出した被写体Oまでの距離drefを用いることにより、光学系異常によって測距精度が落ちている場合であっても、光学系の異常度Abを正確に検出することが可能になる。
【0052】
図5A及び図5Bは、さらに別の実施形態における基準値の求め方を示す説明図である図5Aに示すように、リファレンスマーカ等の別被写体O’を使用した場合、ある程度進行した光学系の異常度Ab0を正確に観測できる。従って、基準値KAb0は、途中まで進行した光学系の異常度Ab0を観測対象の被写体Oに引き継いで求めてもよい。基準値KAb0は、例えば下記式のように、別被写体O’を用いて検出した光学系の異常度Ab0と、別被写体O’と同時に撮像した観測対象の被写体Oに関する測距値dbref及び光強度Lbrefの関係と、を用いて求められる。
【0053】
【数16】
【0054】
図5Bに示すように,光学系異常度検出部22は、光学系の異常度の検出時において、被写体Oの光強度Ls及び測距値dの関係を算出し、斯かる関係と基準値KAb0とを比較することにより、測距装置10の光学系の異常度Abを検出する。光学系の異常度Abは、例えば下記式のように光強度Ls及び測距値dの関係と基準値KAb0との比として検出するか、又は、差分として検出してもよい。
【0055】
【数17】
【0056】
このように途中まで進行した光学系の異常度Ab0を観測対象の被写体Oに引き継いで基準値Ab0を求める場合、反射率が既知の被写体、リファレンスマーカ等が一時的な使用となり、以後は観測対象の被写体でのみ光学系の異常度を検出できる。
【0057】
図6A及び図6Bは、斑点状の汚れが付着した場合であっても、光学的には均一付着の汚れと同等とみなせることを示す説明図である。光学系異常の原因の中で良く発生し得る光学窓(例えばレンズ33、拡散板34等)への汚れ付着として、埃、ミスト等の均一な付着と、斑点状の付着と、を挙げることができる。図6Aに示すように、斑点状の汚れがレンズ33の表面に付着した場合、画像上の一部分が暗くなる訳ではなく、画像全体が暗くなる。図6Bに示す拡散板34でも同様である。従って、本願のように基準値を定めた観測対象の被写体が画像の一部のみに撮像されるケースにおいても、画像全体の異常度を検出していることと等価とみなせることに留意されたい。
【0058】
光学系異常度検出部22は、光学系異常を検出した場合、警告部24(図1を参照。)へ警告指令を行うと共に、光学系の異常度Abを警告部24へ出力する。警告部24は、例えばスピーカ、LEDランプ、ディスプレイ装置、通信制御部等で構成され、光学系異常度検出部22からの警告指令に従って光学系の異常度Abを測距装置10の外部へ出力する。
【0059】
以上の実施形態によれば、測距装置10は、測距値d及び光強度Lsの関係から容易に光学系の異常度Abを検出でき、斯かる異常度Abに基づいて測距装置10のクリーニングや部品交換の適切なタイミングを把握できる。ひいては、測距精度及び測距能力を維持できる。
【0060】
本明細書において種々の実施形態について説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲に記載された範囲内において種々の変更を行えることを認識されたい。
【符号の説明】
【0061】
10 測距装置
11 照射部
12 受光部
13 出力制御部
14 発光・撮像タイミング制御部
15 受光素子
16 増幅部
17 A/D変換部
18 バッファメモリ
19 距離画像生成部
20 バッファメモリ
21 二次元画像生成部
22 光学系異常度検出部
23 不揮発性メモリ
24 警告部
30 距離画像
31 二次元画像
32a−32c 中心部
32d−32g 角部
33 レンズ
34 拡散板
Ab 光学系の異常度
ρ、Kρ1、KLs0d0、KAb0 基準値
L1 参照光
L2 入射光
O 被写体
1〜Q4 受光量
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B