(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(a)の忌避香料成分は、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、2−メチルウンデカナール、トリデカナール、10−ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ネラール、フェニルアセトアルデヒド、シンナミックアルデヒド、α−アミルシンナミックアルデヒド、α−ヘキシルシンナミックアルデヒド、リリアール、ペリルアルデヒド、トリベルタール、クミンアルデヒド、ヘリオトロピン、トリデカノン、l−カルボン、メントン、プレゴン、シス−ジャスモン、ジヒドロジャスモン、α−ダマスコン、β−ダマスコン、δ−ダマスコン、α−イオノン、β−イオノン、2−ペンチルシクロペンタノン、2−ヘキシルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン、メチルベンジルケトン、及びメチルスチリルケトンからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記(b)の忌避香料成分は、リナロール、デヒドロリナロール、ジヒドロミルセノール、ゲラニオール、ネロール、シトロネロール、メントール、テルピネオール、テルピネン−4−オール、イソプレゴール、ボルネオール、1−フェニルエチルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、シンナミックアルコール、チモール、及びオイゲノールからなる群から選択される少なくとも一つである請求項4に記載のヒアリ及び/又はカミアリ用忌避剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特定外来アリは、一般的な在来アリとは生態が大きく異なる。在来アリは、地中の他、枯れ木の内部等にもコロニー(巣)を形成し、比較的少数の家族単位で生命活動を営んでいる。一方、特定外来アリは、地中深くにコロニーを形成し、一つのコロニーの中に一匹の女王アリが存在する単女王制と、複数の女王アリが存在する多女王制との二種類の生態が知られている。特に、多女王制の生態を有する特定外来アリは、コロニー内の女王アリの個体数が多いほど繁殖力が高く、一つのコロニー内で最大4000万匹ものアリが生命活動を営むこともある。
【0007】
このように、特定外来アリは、在来アリとは活動規模や行動パターンが大きく異なるため、特定外来アリのコロニーに、従来用いられていた特許文献1に記載のアリ類の忌避剤(有効成分:天然精油)や、特許文献2に記載の防除剤(有効成分:ディート)を適用しても、特定外来アリを完全に忌避又は防除できるとは限らず、そればかりか、一部の女王アリが忌避剤又は防除剤の存在をいち早く察知し、それらの忌避効果又は防除効果を免れるためコロニーから離散してしまう可能性もある。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、特定外来アリに対して効果的に忌避作用を及ぼすことができる害虫忌避剤、及び害虫忌避製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明にかかる害虫忌避剤の特徴構成は、
ヒアリ類及び/又はカミアリ類に対する忌避成分として、以下の式(I):
【化1】
で表されるピペリジン誘導体を含有することにある。
【0010】
本構成の害虫忌避剤によれば、上記式(I)で表されるピペリジン誘導体は、従来、蚊類、蚋類、チョウバエ類、イエバエ類、サシバエ類、ゴキブリ類等の害虫に対して忌避効果を示すことが知られていたが、ヒアリ類、カミアリ類等の特定外来アリに対しても優れた忌避効果を示すという新たな知見に基づき、ヒアリ類及び/又はカミアリ類を忌避するための有効成分(忌避成分)となり得ることが判明した。従って、本構成のピペリジン誘導体を含有する害虫忌避剤は、ヒアリ類及び/又はカミアリ類用の害虫忌避剤として有用であり、本構成の害虫忌避剤を使用すれば、ヒアリ類及び/又はカミアリ類による被害を低減することができる。
【0011】
本発明にかかる害虫忌避剤において、
前記式(I)において、Rは炭素数2〜6のアルコキシ基であることが好ましい。
【0012】
本構成の害虫忌避剤によれば、上記式(I)で表されるピペリジン誘導体において、置換基Rとして炭素数2〜6のアルコキシ基を選択することにより、ヒアリ類及び/又はカミアリ類に対してより優れた忌避効果を有する害虫忌避剤となり得る。
【0013】
本発明にかかる害虫忌避剤において、
前記Rは、1−メチルプロポキシ基であることが好ましい。
【0014】
本構成の害虫忌避剤によれば、上記式(I)で表されるピペリジン誘導体において、置換基Rとして1−メチルプロポキシ基を選択することにより、当該ピペリジン誘導体は害虫忌避効果が高く且つ人体安全性に優れたイカリジンとして、ヒアリ類及び/又はカミアリ類に対してさらに優れた忌避効果を有する害虫忌避剤となり得る。
【0015】
本発明にかかる害虫忌避剤において、
忌避香料成分として、以下の(a)及び(b):
(a)総炭素数8〜16の炭化水素アルデヒド類及び/又は炭化水素ケトン類
(b)総炭素数8〜12のモノテルペン系アルコール類及び/又は芳香族アルコール類の少なくとも一方をさらに含有することが好ましい。
【0016】
本構成の害虫忌避剤によれば、上記式(I)で表されるピペリジン誘導体の他に、上記(a)及び(b)の少なくとも一方の忌避香料成分をさらに含有することで、ピペリジン誘導体と忌避香料成分との相乗効果により、ヒアリ類及び/又はカミアリ類を強力に忌避することができる。また、ピペリジン誘導体は、無香性であることから、忌避香料成分と組み合わせた場合、当該忌避香料成分の本来の香りに影響することは殆どない。従って、ピペリジン誘導体は、忌避香料成分との相性が良い忌避成分であると言える。
【0017】
本発明にかかる害虫忌避剤において、
前記(a)の忌避香料成分は、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、2−メチルウンデカナール、トリデカナール、10−ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ネラール、フェニルアセトアルデヒド、シンナミックアルデヒド、α−アミルシンナミックアルデヒド、α−ヘキシルシンナミックアルデヒド、リリアール、ペリルアルデヒド、トリベルタール、クミンアルデヒド、ヘリオトロピン、トリデカノン、l−カルボン、メントン、プレゴン、シス−ジャスモン、ジヒドロジャスモン、α−ダマスコン、β−ダマスコン、δ−ダマスコン、α−イオノン、β−イオノン、2−ペンチルシクロペンタノン、2−ヘキシルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン、メチルベンジルケトン、及びメチルスチリルケトンからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記(b)の忌避香料成分は、リナロール、デヒドロリナロール、ジヒドロミルセノール、ゲラニオール、ネロール、シトロネロール、メントール、テルピネオール、テルピネン−4−オール、イソプレゴール、ボルネオール、1−フェニルエチルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、シンナミックアルコール、チモール、及びオイゲノールからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0018】
本構成の害虫忌避剤によれば、上記(a)の忌避香料成分と上記(b)の忌避香料成分とを、上記の各選択肢の中から選択することで、ヒアリ類及び/又はカミアリ類をより強力に忌避することができる害虫忌避剤となり得る。
【0019】
本発明にかかる害虫忌避剤において、
前記(a)の忌避香料成分と前記(b)の忌避香料成分とを、(a)/(b)=0.1/1〜9/1の配合比率(重量比)で含有することが好ましい。
【0020】
本構成の害虫忌避剤によれば、上記(a)の忌避香料成分と上記(b)の忌避香料成分とを、上記の配合比率(重量比)で含有することで、異なる種類の忌避香料成分によって増強された忌避効果(相乗効果)が得られ、また芳香としても心地よい害虫忌避剤となり得る。
【0021】
本発明にかかる害虫忌避剤において、
忌避効果持続成分として、グリコール類及び/又はグリコールエーテル類をさらに含有することが好ましい。
【0022】
本構成の害虫忌避剤によれば、グリコール類及び/又はグリコールエーテル類はピペリジン誘導体よりも蒸気圧が高い物質であるため、グリコール類及び/又はグリコールエーテル類によってピペリジン誘導体の過剰な揮散が抑制される。その結果、ピペリジン誘導体によるヒアリ類及び/又はカミアリ類に対する忌避効果が長期に亘って持続する。
【0023】
本発明にかかる害虫忌避剤において、
殺虫成分を実質的に含有しないことが好ましい。
【0024】
本構成の害虫忌避剤によれば、殺虫成分を実質的に含有しなくても、上記式(I)で表されるピペリジン誘導体によって、ヒアリ類及び/又はカミアリ類に対する忌避効果が得られる。このため、殺虫成分に過敏な消費者にとっても日常的な使用への抵抗が小さい害虫忌避剤となり得る。また、害虫がディート等の従来の忌避成分に耐性を有することになった場合にも、忌避効果が期待できる。
【0025】
上記課題を解決するための本発明にかかる害虫忌避製品の特徴構成は、
上記何れか一つの害虫忌避剤を含有する液状製剤、ジェル状製剤、又は固形剤として構成されることにある。
【0026】
本構成の害虫忌避製品によれば、本発明の害虫忌避剤を含有しているため、ヒアリ類及び/又はカミアリ類を忌避するための実用的且つ有用な害虫忌避製品となる。また、製品形態として、液状製剤、ジェル状製剤、又は固形剤を採用することで、使い勝手の良い害虫忌避製品となり得る。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、従来、蚊類、蚋類、チョウバエ類、イエバエ類、サシバエ類、ゴキブリ類等の害虫に対して忌避効果を示すことが知られていたピペリジン誘導体について、本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、このピペリジン誘導体は、予期せぬことに、現在社会問題となっているヒアリ類やカミアリ類などの特定外来アリに対して特異的に優れた忌避効果を有するという新たな知見が得られ、これに基づいてヒアリ類及び/又はカミアリ類に対する害虫忌避剤、及び害虫忌避製品を完成するに至ったものである。以下、本発明の害虫忌避剤、及び害虫忌避製品について説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態の構成や実施例の内容に限定されることを意図するものではない。
【0028】
〔害虫忌避剤〕
本発明の害虫忌避剤は、ヒアリ類及び/又はカミアリ類に対する忌避成分として、以下の式(I):
【化2】
で表されるピペリジン誘導体を含有する。上記式(I)において、置換基であるRは、炭素数2〜6のアルキル基又はアルコキシ基であるが、炭素数2〜6のアルコキシ基であることが好ましい。
【0029】
Rが炭素数2〜6のアルキル基である場合、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。Rが炭素数2〜6のアルコキシ基である場合、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、1−メチルプロポキシ基、2−メチルプロポキシ基等が挙げられる。これらの置換基Rうち、最も好ましいものは、Rが炭素数4のアルコキシ基である1−メチルプロポキシ基であり、これは、以下の式(II):
【化3】
で表される1−メチルプロピル2−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペリジンカルボキシラート[別名:イカリジン]である。
【0030】
上記式(I)で表されるピペリジン誘導体は、害虫忌避成分として従来から一般に使用されているディートと比べると、蒸気圧が若干低い物質である。例えば、代表的なピペリジン誘導体である上記式(II)で表されるイカリジンの蒸気圧は0.059Pa(25℃)であり、ディートの蒸気圧は0.23Pa(25℃)である。それにも関わらず、後述の実施例の結果が示すように、ピペリジン誘導体を含有する本発明の害虫忌避剤は、ヒアリ類やカミアリ類などの特定外来アリに対して優れた忌避効果を示した。その一方で、ディートを含有する従来の害虫忌避剤は、ピペリジン誘導体を含有する本発明の害虫忌避剤と比べて、特定外来アリに対する忌避効果は著しく劣るものであった。これは、ピペリジン誘導体の忌避効果は、有効成分(忌避成分)の揮散による空間忌避効果よりも、むしろ有効成分の害虫への接触による接触忌避効果に依るところが大きいためと推測される。
【0031】
ところで、本発明の害虫忌避剤は、有効成分として含有するピペリジン誘導体のみで、特定外来アリに対して実用上問題の無い忌避効果を示すことができるが、空間忌避効果によって接触忌避効果を補った場合には、相乗効果によって特定外来アリをより強力に忌避することが可能となる。そこで、本発明の害虫忌避剤においては、上記式(I)で表されるピペリジン誘導体の他に、忌避香料成分を併用することが有効である。なお、ピペリジン誘導体は、無香性である(虫除け剤特有の臭いが無い)ことから、忌避香料成分と組み合わせた場合、当該忌避香料成分の本来の香りに影響することは殆どない。従って、ピペリジン誘導体は、忌避香料成分との相性が良い忌避成分であると言える。
【0032】
ピペリジン誘導体と組み合わせることが可能な忌避香料成分は、(a)総炭素数8〜16の炭化水素アルデヒド類及び/又は炭化水素ケトン類、及び(b)総炭素数8〜12のモノテルペン系アルコール類及び/又は芳香族アルコール類である。上記(a)の忌避香料成分及び上記(b)の忌避香料成分は、どちらか一方のみを使用してもよいし、両方を使用してもよい。
【0033】
上記(a)の忌避香料成分を例示すると、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、2−メチルウンデカナール、トリデカナール、10−ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ネラール、フェニルアセトアルデヒド、シンナミックアルデヒド、α−アミルシンナミックアルデヒド、α−ヘキシルシンナミックアルデヒド、リリアール、ペリルアルデヒド、トリベルタール、クミンアルデヒド、ヘリオトロピン、トリデカノン、l−カルボン、メントン、プレゴン、シス−ジャスモン、ジヒドロジャスモン、α−ダマスコン、β−ダマスコン、δ−ダマスコン、α−イオノン、β−イオノン、2−ペンチルシクロペンタノン、2−ヘキシルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン、メチルベンジルケトン、及びメチルスチリルケトンが挙げられる。これらの(a)の忌避香料成分は、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
上記(b)の忌避香料成分を例示すると、リナロール、デヒドロリナロール、ジヒドロミルセノール、ゲラニオール、ネロール、シトロネロール、メントール、テルピネオール、テルピネン−4−オール、イソプレゴール、ボルネオール、1−フェニルエチルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、シンナミックアルコール、チモール、及びオイゲノールが挙げられる。これらの(b)の忌避香料成分は、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
上記(a)の忌避香料成分と上記(b)の忌避香料成分とを併用する場合、両者の配合比率(a)/(b)は、重量比で0.1/1〜9/1に設定することが好ましく、0.5/1〜1.4/1に設定することがより好ましい。配合比率(a)/(b)が上記の範囲にあれば、異なる種類の忌避香料成分(a)及び(b)によって増強された忌避効果(相乗効果)が得られ、また芳香としても心地よいものとなる。配合比率(a)/(b)が0.1/1より小さい場合、或いは配合比率(a)/(b)が9/1より大きい場合、異なる種類の忌避香料成分(a)及び(b)を併用したことによる相乗効果を享受し難くなる。
【0036】
本発明の害虫忌避剤は、上記(a)及び(b)とは別の忌避香料成分として、(c)総炭素数8〜16の炭化水素エステル類を含有することも可能である。上記(c)の忌避香料成分は、上記(a)の忌避香料成分や上記(b)の忌避香料成分と協働して、特定外来アリに対する忌避効果の増強に寄与し得る成分である。
【0037】
上記(c)の忌避香料成分を例示すると、デシルアセテート、リナリルアセテート、ゲラニルアセテート、シトロネリルアセテート、メンチルアセテート、テルピニルアセテート、ネピルアセテート、p−t−ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、トリシクロデセニルプロピオネート、トリシクロデセニルイソブチレート、ベンジルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、シンナミルプロピオネート、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、メチルベンゾエート、エチルベンゾエート、3−ヘキセニルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、メチルシンナメート、エチルシンナメート、メチルサリシネート、エチルサリシネート、アミルサリシネート、メチルジャスモネート、及びメチルジヒドロジャスモネートが挙げられる。これらの(c)の忌避香料成分は、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本発明の害虫忌避剤は、必要に応じて、忌避香料成分以外の成分を含有することも可能である。そのような成分として、d−リモネン、α−ピネン、β−ピネン等の炭化水素類、イソアミルフェニルエチルエーテル、リナロールオキサイド、1,8−シネオール、ローズオキサイド、ジフェニルエーテル、マグノラン、ルバフラン、ジヒドロインデニル−2,4−ジオキサン等の炭化水素エーテル類、2,6−ジメチル−3−エチルピラジン、シトロネリルニトリル、ステモン、o−アミノアセトフェノン等の含窒素化合物類、サンダルウッド油、スペアミント油、タイムホワイト油、バチョウリ油、ガーリック油、シナモンリーフ油、タイムレッド油、ジャスミン油、ネロリ油、ベルガモット油、オレンジ油、ゼラニウム油、プチグレン油、レモン油、レモングラス油、シナモン油、ユーカリ油、レモンユーカリ油等の精油類等が挙げられる。
【0039】
さらに、本発明の害虫忌避剤は、グリコール類及び/又はグリコールエーテル類を含有することが有効である。グリコール類及び/又はグリコールエーテル類は、忌避成分又は忌避香料成分の溶剤としてのみならず、忌避成分又は忌避香料成分の忌避効果を持続させる忌避効果持続成分として作用する。これは、グリコール類及び/又はグリコールエーテル類はピペリジン誘導体よりも蒸気圧が高い物質であることに起因する。グリコール類及び/又はグリコールエーテル類をピペリジン誘導体に添加すると、ピペリジン誘導体の過剰な揮散が抑制され、その結果、ピペリジン誘導体による特定外来アリに対する忌避効果が長期に亘って持続し得る。
【0040】
忌避効果持続成分として使用可能なグリコール類及び/又はグリコールエーテル類を例示すると、プロピレングリコール(10.7Pa)、ジプロピレングリコール(1.3Pa)、トリプロピレングリコール(0.67Pa)、ジエチレングリコール(3Pa)、トリエチレングリコール(1Pa)、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール(6.7Pa)、ベンジルグリコール(2.7Pa)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(3Pa)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。なお、各物質名の後のカッコ内に記載する数値は、20℃における蒸気圧である。これらのグリコール類及び/又はグリコールエーテル類のうち、好ましい忌避効果持続成分は、ジプロピレングリコールである。忌避効果持続成分の含有量は、忌避成分及び忌避香料成分の含有量の0.2〜10倍とすることが好ましい。
【0041】
本発明の害虫忌避剤には、特定外来アリに対する忌避効果に支障を来たさない物質及び分量であれば、消臭成分、除菌成分、抗菌成分等の機能性成分を配合してもよい。消臭成分としては、イネ科、ツバキ科、イチョウ科、モクセイ科、クワ科、ミカン科、キントラノオ科、カキノキ科などの植物抽出物が代表的である。また、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド等を配合することで、リラックス効果を付与することもできる。
【0042】
本発明の害虫忌避剤は、その趣旨から殺虫成分を実質的に含有しないものとすることが好ましい。ここで、「実質的に含有しない」とは、どのような場合においても殺虫成分の含有量が厳密に0%であることを意味するものではない。例えば、意図せずして極微量の殺虫成分が含まれることになった場合や、意図的に極微量の殺虫成分を含有させたとしても当該殺虫成分としての作用を奏しない場合は、殺虫成分を実質的に含有しない害虫忌避剤であるものと見なす。意図せずして極微量の殺虫成分が含まれることとなった場合の例としては、害虫忌避剤の製造設備において、以前に殺虫成分を含有する別の製品を製造していた場合、容器や配管に付着していた極微量の殺虫成分がコンタミとして害虫忌避剤に混入するケースや、製造室内の空気中に浮遊又は揮散していた殺虫成分が製造中の害虫忌避剤に吸収されて混入するケース等が挙げられる。このような場合は、殺虫成分を極微量含むものであっても、殺虫成分を実質的に含有しない害虫忌避剤として取り扱う。
【0043】
本発明の害虫忌避剤は、殺虫成分を実質的に含有しなくても、本発明の害虫忌避剤における必須成分であるピペリジン誘導体が特定外来アリに対する高い忌避効果を有するため、従来の殺虫成分を含有する忌避剤と同等又はそれ以上の忌避効果を示すものとなる。そして、殺虫剤を実質的に含有しない本発明の害虫忌避剤は、殺虫成分に過敏な消費者にとっても日常的な使用への抵抗が小さいものとなり得る。また、本発明の害虫忌避剤であれば、害虫がディート等の従来の忌避成分に耐性を有することになった場合にも、忌避効果が期待できる。
【0044】
〔害虫忌避製品〕
本発明の害虫忌避剤は、特別な加工を行わなくても、そのままで特定外来アリを忌避する用途に使用することが可能であるが、使い勝手の良い剤型に調製し、害虫忌避剤を0.01〜99w/w%含有する害虫忌避製品として使用することが実用的である。害虫忌避製品の剤型は、代表的には、液状製剤、ジェル状製剤、固形剤が挙げられる。
【0045】
液状製剤及びジェル状製剤としては、例えば、液剤、乳剤、水溶剤、マイクロエマルジョン、エアゾール、クリーム等が挙げられる。液状製剤及びジェル状製剤は、製剤中の忌避成分、忌避香料成分、忌避効果持続成分などの各種成分の含有量の調整が容易である。そのため、例えば、忌避成分の増量によって忌避効果を強めたり、忌避香料成分の増量によって芳香性の高い製品にするなど、害虫忌避製品の商品特性を変更し易いというメリットを有する。
【0046】
固形剤としては、例えば、粉剤、粒剤、ベイト剤等が挙げられる。固形剤は、液漏れや指先が濡れる心配がないため、取り扱いが容易であるというメリットを有する。固形剤として構成される害虫忌避製品は、例えば、適当な担持体に害虫忌避剤を担持(含浸)させることにより調製することができる。害虫忌避剤を担持体に担持させる際には、必要に応じて、溶剤や界面活性剤等を添加してもよい。担持体としては、木粉、小麦粉等の各種植物質粉末、紙、織布、不織布等の基布、ビスコパール等の多孔質有機成形体、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、珪石、珪砂、セラミックス等の無機担持体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、スチレン系ジブロックポリマー、スチレン系トリブロックポリマー、熱可塑性樹脂エラストマー(TPE、TPO)等から構成されるフィルム又は成形体、シリコーンゴム等が挙げられる。例えば、担持体が不織布である場合、害虫忌避剤を薬液分注方式や塗布方式によって保持させる方法、あるいはパラフィンワックスとともに包埋させる方法が挙げられる。担持体がフィルム又は成形体である場合、害虫忌避剤を薬液分注方式や塗布方式によって保持させる方法、あるいは害虫忌避剤を溶剤とともに噴霧又は滴下し、フィルム又は成形体に浸透させる方法が挙げられる。担持体がシリコーンゴムである場合、害虫忌避剤を高濃度で含有するシリコーンゴムと無処理のシリコーンゴムとを密閉容器中に投入し、一定時間放置してシリコーンゴム全体に亘って害虫忌避剤の濃度を平均化させる方法が挙げられる。
【0047】
害虫忌避製品における害虫忌避剤の配合量は、当該害虫忌避製品の用途、使用期間、仕様等に応じて適宜調整されるが、液状製剤又はジェル状製剤の場合は0.01〜20w/v%が好ましく、固形剤の場合は0.01〜10w/w%が好ましい。例えば、担持体を用いた固形剤の場合、8〜12時間の使用期間を想定した害虫忌避製品では、一製品あたり害虫忌避剤10〜50mgを含有させることが好ましい。15〜30日の使用期間を想定した害虫忌避製品では、一製品あたり害虫忌避剤100〜2000mgを含有させることが好ましい。
【0048】
害虫忌避製品を調製するにあたっては、必要に応じて、溶剤、界面活性剤、可溶化剤、ゲル基剤、ゲル化剤、分散剤、安定化剤、pH調整剤、着色剤等を配合することも可能である。溶剤としては、例えば、水、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、ノルマルパラフィンやイソパラフィン等の炭化水素系溶剤等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン高級アルキルエーテル類(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等の非イオン系界面活性剤、ラウリルアミンオキサイド、ステアリルアミンオキサイド、ラウリル酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド等の高級アルキルアミンオキサイド系界面活性剤が挙げられる。ゲル化剤としては、ポリビニルアルコール、アルギン酸、カラギーナン等が挙げられる。
【0049】
本発明の害虫忌避製品は、剤型に応じて様々な場面で使用される。液状製剤として構成された害虫忌避製品は、例えば、スプレー製品として物体や環境に散布して用いられる。ジェル状製剤として構成された害虫忌避製品は、例えば、塗布製品として人体の皮膚に塗布して用いられる。固形剤として構成された害虫忌避製品は、例えば、玄関、台所、トイレ、リビングルーム、寝室、倉庫、車中、ベランダ、ポーチ、庭先、家屋の周囲などに所定量を散布又は載置して用いられる。特に、害虫忌避製品が固形剤である場合は、当該害虫忌避製品を中心として特定外来アリを寄せ付けない三次元バリアが形成されるため、広範囲に亘って忌避効果を及ぼすことができる。成形体やシリコーンゴムに害虫忌避剤を担持して害虫忌避製品を構成したものは、バンドとして足首や靴等に巻装したり、クリップのような固定具で靴等に装着して使用することができる。シールやフィルムに害虫忌避剤を担持して害虫忌避製品を構成したものは、担持体の下面に粘着層を設け、ズボンの下部や靴等に貼付して使用することができる。
【0050】
害虫忌避製品の施用量は、剤型に応じて適宜調整される。液状製剤又はジェル状製剤では、施用量は10〜50mL/m
2が好ましい。施用量が10mL/m
2未満の場合は十分な忌避効果が期待できず、施用量が50mL/m
2を超える場合はベトツキにより不快感が増す。固形剤では、施用量は10〜50g/m
2が好ましい。施用量が10g/m
2未満の場合は十分な忌避効果が期待できず、施用量が50g/m
2を超えても忌避効果は殆ど変わらないため経済的ではない。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の害虫忌避剤、及び害虫忌避製品を用いた実施例について説明する。本発明の害虫忌避剤を種々調製し、これらを用いて在来アリ及び特定外来アリを対象とした効力確認試験を実施した(実施例1〜19)。また、比較のため、従来の害虫忌避剤についても同様の効力確認試験を実施した(比較例1〜5)。なお、以下の実施例では、各成分の重量単位をmgで示しているが、本実施例は任意の倍率でスケールアップが可能である。従って、重量単位「mg」は「重量部」と読み替えることができる。
【0052】
〔害虫忌避剤の調製〕
下記の表1に示す組成に従って、実施例1〜19及び比較例1〜5の害虫忌避剤を調製した。
【0053】
【表1】
【0054】
ここで、害虫忌避成分である表1中のピペリジンa〜fは、前述の式(I)で表されるピペリジン誘導体において、置換基Rが下記の表2に示す官能基である。
【0055】
【表2】
【0056】
なお、ピペリジンa(イカリジン)、ピペリジンb、及びピペリジンdは、市場で入手可能な試薬グレードの化合物を使用した。ピペリジンc、ピペリジンe、及びピペリジンfについては、下記の手順により本発明者らが合成したものを使用した。
【0057】
[ピペリジンc]
2−(2−ヒドロキシエチル)−ピペリジン(715mg、5.53mmol)及びトリエチルアミン(1.0ml、7.21mmol)をトルエン6mlに溶解し、0℃でクロロギ酸ヘキシル(910mg、5.53mmol)を加えた。次いで、20℃で24時間撹拌した後、反応液に水を注加し、酢酸エチルを用いて有機成分を抽出した。次いで、有機成分が含まれる有機層を、硫酸マグネシウムを用いて乾燥した後、減圧条件下で濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付してピペリジンcを得た。ピペリジンcの質量スペクトルを以下に示す。
無色液体:MS(EI)m/z[M]
+:257
【0058】
[ピペリジンe]
ピペリジンcの合成において、クロロギ酸ヘキシルの代わりにクロロギ酸デシルを用いたこと以外は同様の手順により、ピペリジンeを得た。ピペリジンeの質量スペクトルを以下に示す。
無色液体:MS(EI)m/z[M]
+:313
【0059】
[ピペリジンf]
ピペリジンcの合成において、クロロギ酸ヘキシルの代わりにn−ノナノイルクロリドを用いたこと以外は同様の手順により、ピペリジンfを得た。ピペリジンfの質量スペクトルを以下に示す。
無色液体:MS(EI)m/z[M]
+:269
【0060】
〔効力確認試験1〕
実施例1〜19及び比較例1〜5の害虫忌避剤を夫々アセトン5mLに溶解し、害虫忌避剤の薬液を調製した。夫々の供試薬液0.3mLを、アトマイザーを用いて直径15cmの濾紙の片側半分に滴下し、風乾した。この場合、乾燥後の濾紙において、例えば、実施例1では害虫忌避剤が濾紙半面あたり3.0mg含まれることになる。次に、この害虫忌避剤が含まれる濾紙の半面(処理区)と、害虫忌避剤が含まれない濾紙の半面(無処理区)とが重ならないように、濾紙を直径15cmのガラスシャーレに入れた。そして、ガラスシャーレの内壁にタルクを塗布し、供試虫としてトビイロケアリ(在来アリの一種)又はアカカミアリ(特定外来アリの一種)を夫々30匹放ち、5分後及び2時間後に処理区及び無処理区に存在するアリの数(虫数)をカウントした。そして、害虫の忌避率を下記の式に従って求めた。
忌避率(%) = (無処理区の虫数−処理区の虫数)/供試虫数 × 100
【0061】
上記の効力確認試験1を3回実施し、各回の試験でカウントした虫数の平均値を忌避率の計算に使用した。試験結果を以下の表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
上記の効力確認試験1の結果によれば、前述の式(I)で表されるピペリジン誘導体を含有する害虫忌避剤を用いると、試験直後(5分後)から特定外来アリの一種であるアカカミアリを寄せ付けない忌避効果が得られた。そして、その高い忌避効果は、2時間経過後も略維持されていた(実施例1〜19)。なお、在来アリの一種であるトビイロケアリに対しても、アカカミアリと同様の効果が確認された(実施例1〜19)。特に、式(I)で表されるピペリジン誘導体において、置換基Rが炭素数2〜6のアルコキシ基である化合物の忌避効果が優れており、さらに、置換基Rが1−メチルプロポキシ基である化合物(イカリジン)の忌避効果がより優れる結果となった。
【0064】
より詳細に考察すると、実施例5〜8及び実施例9〜19の結果が示すように、害虫忌避成分に加えて、忌避香料成分として、(a)総炭素数8〜16の炭化水素アルデヒド類及び/又は炭化水素ケトン類、及び(b)総炭素数8〜12のモノテルペン系アルコール類及び/又は芳香族アルコール類の少なくとも一方を含む害虫忌避剤は、害虫忌避成分のみを含む害虫忌避剤と比べて忌避効果が高くなること(相乗効果)が確認された。そして、本実施例によれば、(a)の忌避香料成分と(b)の忌避香料成分との配合比率[(a)/(b)]が0.1/1〜9/1の範囲において、高い忌避効果を示すことが確認された。さらに、実施例12と実施例16との比較、及び実施例15と実施例17との比較から、ジプロピレングリコールを配合した場合、害虫忌避成分の忌避効果を持続させる効果があることが認められた。
【0065】
一方、比較例1〜5の結果が示すように、前述の式(I)で表されるピペリジン誘導体以外の化合物や、人体用忌避剤として汎用されているディートを含む従来の害虫忌避剤は、アリに対する忌避効果が十分であると言えないばかりか、アカカミアリに対する忌避効果は、トビイロケアリに対する忌避効果よりもかなり劣る傾向が認められた。
【0066】
〔効力確認試験2〕
実施例1、5〜14、18及び比較例1〜5の害虫忌避剤を夫々アセトン5mLに溶解して調製した害虫忌避剤の薬液を使用し、上述の効力確認試験1と同様の手順にて、ヒアリ(特定外来アリの一種)を対象とした効力効果試験2を実施した。ただし、処理区及び無処理区に存在するアリの数(虫数)のカウントは、5分後のみとした。害虫の忌避率の算出方法は、効力確認試験1における算出方法と同様である。試験結果を以下の表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
上記の効力確認試験2の結果によれば、前述の式(I)で表されるピペリジン誘導体であって、特に、置換基Rが1−メチルプロポキシ基である化合物(イカリジン)を含有する害虫忌避剤を用いると、試験直後(5分後)から特定外来アリの一種であるヒアリについても優れた忌避効果が得られた。
【0069】
さらに、実施例5〜8の結果が示すように、害虫忌避成分に加えて、忌避香料成分として、(a)総炭素数8〜16の炭化水素アルデヒド類及び/又は炭化水素ケトン類、及び(b)総炭素数8〜12のモノテルペン系アルコール類及び/又は芳香族アルコール類の少なくとも一方を含む害虫忌避剤は、害虫忌避成分のみを含む害虫忌避剤と比べて忌避効果が高くなること(相乗効果)が確認された。また、実施例5と実施例6との比較、及び実施例7と実施例8との比較から、忌避香料成分としてα−ヘキシルシンナミックアルデヒドを含む害虫忌避剤は、α−ヘキシルシンナミックアルデヒドを含まない害虫忌避剤に対して忌避効果が大幅に向上することが認められた。
【0070】
一方、比較例1〜5の結果が示すように、前述の式(I)で表されるピペリジン誘導体以外の化合物や、人体用忌避剤として汎用されているディートを含む従来の害虫忌避剤は、ヒアリに対しても忌避効果が劣る結果となった。
【0071】
このように、本発明の式(I)で表されるピペリジン誘導体を含有する害虫忌避剤が、特定外来アリに対して、在来アリと同等又はそれ以上の忌避効果を示したことは、従来のアリ忌避剤では達成できなかった特筆すべき性能であり、本発明の害虫忌避剤の有用性及び実用性が高いことを証明している。
【0072】
〔害虫忌避製品の構成例〕
次に、本発明の害虫忌避剤を使用した害虫忌避製品の構成例について説明する。
【0073】
[スプレー製品(液状製剤)]
害虫忌避成分として前述の式(II)で表されるイカリジン8.0g(4.0w/v%)、(a)の忌避香料成分としてクミンアルデヒド及び2−ペンチルシクロペンタノン1.0g(0.5w/v%)、(b)の忌避香料成分としてl−メントール及び2−フェニルエチルアルコール2.0g(1.0w/v%)、イソプロピルメチルフェノール0.2g(0.1w/v%)、及び柿抽出物由来の消臭成分1.0g(0.5w/v%)を含有する害虫忌避剤を調製した。この害虫忌避剤に、99%エタノール110g(55w/v%)、及び精製水を加えて全量を200mLとし、ポンプスプレー容器に充填してスプレータイプの害虫忌避製品(製品A)を構成した。
【0074】
上記製品Aについて、被験者が海辺(ヒアリの生息が報じられていた地域)に出かける前に、上着とズボンに万遍なく(表面に少し湿り気を感じる程度で、およそ20mL/1m
2)、特に袖口とズボンの下部には入念にスプレーした。着衣した状態で、海辺を約5時間に亘って散策したが、ヒアリ等の特定外来アリだけでなく在来アリや他の害虫にも煩わされることがなく、マダニ類に取り付かれることもなかった。
【0075】
[塗布製品(ジェル状製剤)]
害虫忌避成分として前述の式(II)で表されるイカリジン3.0g(5.0w/w%)、忌避効果持続成分として1,3−ブチレングリコール3.0g(5.0w/w%)、及び紫外線劣化抑制成分としてパラメトキシ桂皮酸エチルヘキシル0.12g(0.2w/w%)を含有する害虫忌避剤を調製した。この害虫忌避剤に、ゲル基剤としてカルボキシビニルポリマー0.09g(0.15w/w%)、ゲル化剤としてトリエタノールアミン0.09g(0.15w/w%)、エタノール21g(35w/w%)、及び精製水を加えて全量を60gとし、ジェル吐出容器に充填して無香料のジェルタイプの害虫忌避製品(製品B)を構成した。
【0076】
また、上記の製品Bで使用した害虫忌避剤に、(a)の忌避香料成分としてジヒドロジャスモン0.6g(1.0w/w%)、及び(b)の忌避香料成分としてl−フェニルエチルアルコール及びジヒドロミルセノールを0.6g(1.0w/w%)を別途追加し、その他の成分は製品Bで使用した害虫忌避剤と同様に処方して、忌避香料で賦香されたジェルタイプの害虫忌避製品(製品C)を調製した。
【0077】
直径が約4cm、長さが1mの棒を2本準備し、一方の棒の中央(50cm)付近から上方に製品Bを20g/m
2の塗布量で塗布した。また、他方の棒についても同様に製品Cを同じ塗布量で塗布した。ヒアリが頻繁に出入りする巣に両方の棒を突き刺し、ヒアリの行動を観察したところ、いずれの棒についてもヒアリが棒の中央付近まで這い上がった後に引き返す行動が見られた。そして、このヒアリの行動(巣への引き返し)は、製品Cの方が製品Bよりも幾分速やかであった。このように、イカリジンはヒアリ等の特定外来アリに対して高い忌避効果を示すことが示され、さらに、(a)の忌避香料成分と(b)の忌避香料成分とをイカリジンと併用することにより、特定外来アリに対する忌避効果が増強されること(相乗効果)が実証された。