特許第6813717号(P6813717)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6813717
(24)【登録日】2020年12月21日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】排尿障害改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/585 20060101AFI20201228BHJP
   A61P 13/00 20060101ALI20201228BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20201228BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20201228BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20201228BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   A61K31/585
   A61P13/00
   A61P13/08
   A61P13/10
   A61K9/20
   A61K9/08
【請求項の数】11
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2020-535666(P2020-535666)
(86)(22)【出願日】2020年1月29日
(86)【国際出願番号】JP2020003105
【審査請求日】2020年6月25日
(31)【優先権主張番号】特願2019-182369(P2019-182369)
(32)【優先日】2019年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002990
【氏名又は名称】あすか製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀男
(72)【発明者】
【氏名】新保 淳
(72)【発明者】
【氏名】中野 洋一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕太
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 順一
【審査官】 深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−199993(JP,A)
【文献】 特表2004−506744(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/081837(WO,A1)
【文献】 朴英哲 他,前立腺肥大症に対するTZP-4238の臨床的検討−尿流動態におよぼす影響−,泌尿器科紀要,1994年,Vol.40,pp.761-769
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
17α−アセトキシ−6−クロロ−15β−ヒドロキシ−2−オキサ−4,6−プレグナジエン−3,20−ジオン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む排尿障害改善剤。
【請求項2】
残尿感、尿勢減弱、排尿遅延、腹圧排尿、終末滴下、排尿後尿滴下、尿失禁、頻尿、尿意切迫感、膀胱痛又は膀胱痛症候群、排尿時痛、膀胱萎縮、神経因性膀胱、排尿筋過活動又は過活動膀胱、慢性膀胱炎、間質性膀胱炎、慢性前立腺炎、骨盤内疼痛症候群、低活動膀胱、排尿筋過反射収縮不全から選択された少なくとも1つの排尿障害又は症状を改善する請求項1記載の排尿障害改善剤。
【請求項3】
残尿量、排尿効率、膀胱容量、膀胱湿重量および腎臓湿重量から選択された少なくとも1つの排尿障害又は症状を改善する請求項1又は2記載の排尿障害改善剤。
【請求項4】
排尿障害が、平滑筋収縮の障害に伴う排尿障害である請求項1〜のいずれかに記載の排尿障害改善剤。
【請求項5】
排尿障害が、神経因性膀胱を生じさせる疾患、糖尿病、及び糖尿病に伴う神経障害から選択された少なくとも一種の疾患に伴う排尿障害である請求項1〜のいずれかに記載の排尿障害改善剤。
【請求項6】
排尿障害が、前立腺肥大症に伴う排尿障害である請求項1〜のいずれかに記載の排尿障害改善剤。
【請求項7】
排尿を改善又は促進する請求項1〜のいずれかに記載の排尿障害改善剤。
【請求項8】
投与量が、17α−アセトキシ−6−クロロ−15β−ヒドロキシ−2−オキサ−4,6−プレグナジエン−3,20−ジオン換算で、1日当たり、0.01〜100mgである請求項1〜のいずれかに記載の排尿障害改善剤。
【請求項9】
固形製剤、半固形製剤又は液剤である請求項1〜8のいずれかに記載の排尿障害改善剤。
【請求項10】
経口投与製剤又は非経口投与製剤である請求項1〜9のいずれかに記載の排尿障害改善剤。
【請求項11】
錠剤である請求項1〜10のいずれかに記載の排尿障害改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含み、残尿感などの排尿障害を改善するために有用な排尿障害改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会が進行するにつれて、高齢者での排尿障害、例えば、排尿しにくさ、残尿感、頻尿、尿失禁などの疾患又は症状を改善又は緩和することが重要となっている。このような排尿障害を改善する改善剤として、特開平5−155773号公報(特許文献1)には、頻尿若しくは尿失禁などの排尿障害の治療予防に有効なキサンチン誘導体が記載され、特開平8−3045号公報(特許文献2)には、N−置換インドール誘導体を有効成分とする排尿障害改善薬が記載されている。WO2012/020749(特許文献3)には、トリアジン誘導体およびそれを含有する鎮痛作用又は排尿障害改善作用を有する医薬組成物が記載されている。
【0003】
また、排尿障害改善薬として、α1遮断薬、5α−リダクターゼ阻害剤などが市販されており、5α−リダクターゼ阻害剤は、テストステロンからのジヒドロテストステロンの生成を抑制し、肥大した前立腺を縮小させ排尿障害を改善する。
【0004】
特開昭61−204198号公報(特許文献4)及びEndocrine Journal 1994, 41(4), 445-452(非特許文献1)には、抗男性ホルモン剤としてTZP−4238(17α−アセトキシ−6−クロロ−2−オキサ−4,6−プレグナジエン−3,20−ジオン)が記載され、TZP−4238は、前立腺肥大及び前立腺ガンなどの疾患の治療に有用であることも記載されている。
【0005】
また、特許第2591640号公報(特許文献5)には、抗男性ホルモン活性を有する化合物として、17α−アセトキシ−6−クロロ−15β−ヒドロキシ−2−オキサ−4,6−プレグナジエン−3,20−ジオンなどの2−オキサプレグナン化合物が記載されている。この文献には、前記化合物が、アンドロゲン依存性疾病、例えば、前立腺肥大症、前立腺癌、脱毛症などの治療剤として有用であることが記載されている。
【0006】
また、植物製剤に関し、特開2011−20972号公報(特許文献6)には、ノコギリヤシ果実抽出液を含み、オレイン酸、ミリスチン酸を1:0〜2:3で含む排尿障害改善剤が記載されている。この特許文献6には、高齢化に伴って男性では前立腺が肥大し、尿道に近い部分(尿道周囲腺)が増殖して大きくなる(機械的閉塞)とともに、ジヒドロテストステロンが前立腺に蓄積することにより、前立腺肥大症(benign prostate hyperplasia、BPH)が起こることが記載され、前立腺肥大症の症状として、排尿しにくさ、頻尿などの下部尿路症状が挙げられると記載されている。
【0007】
しかし、前立腺の肥大が必ずしも排尿障害をもたらすものではない。例えば、World Journal of Urology, 13, 9-13 (1995)(非特許文献2)には、前立腺のサイズと尿道の閉塞との間に統計的に有意な関係があるが、排尿障害の症状と尿道の閉塞の程度又は前立腺のサイズとに相関がないことが報告されている。
【0008】
The Journal of Urology, 150, 351-358 August 1993(非特許文献3)には、前立腺のサイズと残尿量とに相関がないこと、残尿量、前立腺のサイズと種々の症状とに相関がないことが報告されている。具体的には、良性の前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia, BPH)患者における相関マトリックスが記載され、比較的大きなサンプルサイズにもかかわらず、症状の重症度と、残尿量、前立腺サイズ又は前立腺特異性抗原(PSA)レベルとの間に統計的に有意な関係がなかったことが記載され、BPHの特性でもある前立腺の肥大は、症状または生理学的下部閉塞のいずれかの生成における決定的な要因ではないこと、並びに、ある患者(個体)では、尿道周囲における過形成の程度が小さくても、生理学的障害を引き起こす可能性があり、一方、他の患者(個体)では、障害を起こさずにかなりの過形成が起こる可能性があることが記載されている。
【0009】
そのため、前立腺の肥大の程度や有無に拘わらず排尿障害を有効に治療又は改善することが求められている。さらに、排尿障害の治療では、高齢者などの患者に対して長期間に亘り投与されるため、高い治療効果とともに高い安全性が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−155773号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平8−3045号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】WO2012/020749(請求の範囲)
【特許文献4】特開昭61−204198号公報(特許請求の範囲、第1頁右欄)
【特許文献5】特許第2591640号公報(特許請求の範囲、第11欄49行〜第12欄49行)
【特許文献6】特開2011−20972号公報(特許請求の範囲、[0002])
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Endocrine Journal 1994, 41(4), 445-452
【非特許文献2】World Journal of Urology, 13, 9-13 (1995) (Summary)
【非特許文献3】The Journal of Urology, 150, 351-358 August 1993(第354頁右欄5行〜10行、第355頁左欄下から9行〜右欄6行、Table 3、Table 5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、排尿障害を治療又は改善(若しくは緩和)するのに有用な排尿障害改善剤を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、安全性が高く、長期間に亘り投与しても、高い治療又は改善効果で排尿障害を治療又は改善するのに有用な排尿障害改善剤を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、前立腺肥大の程度又は有無にかかわらず、排尿障害を治療又は緩和するのに有用な排尿障害改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を達成するため、ステロイド骨格の2位にオキソ基を有し、高い抗アンドロゲン活性を有する2−オキサプレグナン化合物と排尿障害との関係について鋭意検討した結果、高い抗アンドロゲン活性を有する2−オキサプレグナン化合物であっても、ステロイド骨格の所定の部位のヒドロキシル基又はオキソ基の有無により、排尿障害の改善に大きな差異が認められることを見いだした。すなわち、ステロイド骨格の所定の部位にヒドロキシル基が置換していない化合物では、高い抗アンドロゲン活性を有するにも拘わらず、前立腺肥大が認められない被験体では排尿障害に対して全く治療効果を示さないのに対して、ステロイド骨格の所定の部位にヒドロキシル基又はオキソ基が置換した化合物を用いると、前立腺肥大の有無に拘わらず、排尿障害に対して高い治療又は改善効果を示すことを見いだした。本発明をこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0016】
すなわち、本発明の排尿障害改善剤は、下記式(1)で表される2−オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含んでいる。なお、下記式(1)のステロイド骨格には位置番号を付している。
【0017】
【化1】
【0018】
(式中、R〜Rは、同一又は異なって、アルキル基を示し、Rは、水素原子又はアルキルカルボニル基を示し、Xはハロゲン原子を示し、Yはステロイド骨格の11位、15位又は16位に結合したヒドロキシル基又はオキソ基を示す)
【0019】
〜Rは、同一又は異なって、C1−4アルキル基(例えば、メチル基)であってもよく、Rは、低級アルカノイル基又はアシル基(C1−4アルキル−カルボニル基)、例えば、アセチル基であってもよい。Xで表されるハロゲン原子は塩素原子であってもよく、Yはステロイド骨格の15位に結合したヒドロキシル基又はオキソ基であってもよい。前記式(1)で表される代表的な2−オキサプレグナン化合物は、17α−アセトキシ−6−クロロ−15β−ヒドロキシ−2−オキサ−4,6−プレグナジエン−3,20−ジオンであってもよい。
【0020】
前記化合物又はその薬学的に許容される塩は、排尿障害又は症状を予防、治療又は改善若しくは緩和するのに有用である。排尿障害は、例えば、残尿感、尿勢減弱、排尿遅延、腹圧排尿、終末滴下、排尿後尿滴下、尿失禁(切迫性、腹圧性、混合性、溢流性を含む)、頻尿(昼間、夜間、心因性を含む)、尿意切迫感、膀胱痛又は膀胱痛症候群、排尿時痛、膀胱萎縮、神経因性膀胱、排尿筋過活動又は過活動膀胱(本態性、神経因性、難治性を含む)、慢性膀胱炎、間質性膀胱炎、慢性前立腺炎、骨盤内疼痛症候群、低活動膀胱、排尿筋過反射収縮不全などから選択された少なくとも1つの疾患又は症状であってもよい。具体的には、前記化合物又はその薬学的に許容される塩は、前立腺肥大症の有無に拘わらず、排尿障害に対して高い治療又は改善効果を示す。すなわち、排尿障害は、前立腺肥大症を伴わない排尿障害又は前立腺肥大症に伴う排尿障害のいずれであってもよい。そのため、排尿障害を有する対象は、雄及び雌(男性及び女性)のいずれであってもよい。また、排尿障害は、平滑筋収縮の障害に伴う排尿障害であってもよい。さらに、排尿障害は、神経因性膀胱を生じさせる疾患、糖尿病、及び糖尿病に伴う神経障害から選択された少なくとも一種の疾患に伴う排尿障害であってもよい。排尿障害改善剤は、排尿を改善又は促進してもよい。そのため、排尿障害改善剤は、排尿改善剤又は排尿促進剤ということもできる。
【0021】
本発明は、排尿障害を有する対象物に、前記式(1)で表される2−オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として投与し、排尿障害を治療又は改善若しくは緩和する方法(並びに排尿を改善又は促進する方法)も含む。さらに、排尿障害を治療又は改善若しくは緩和する(並びに排尿を改善又は促進する)ための有効成分としての前記式(1)で表される2−オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩の使用;前記排尿障害改善剤、排尿改善剤又は排尿促進剤を製造するための前記式(1)で表される2−オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩の使用も包含する。被検者(又は患者)としてのヒトに対する投与量は、式(1)で表される化合物換算で、1日当たり、0.01〜100mg程度であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の排尿障害改善剤は、所定の2−オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩を含むため、排尿障害を有効に治療又は改善(若しくは緩和)できる。また、前記化合物又はその薬学的に許容される塩は安全性が高く、長期間に亘り投与しても、排尿障害を高い治療又は改善効果で改善できる。さらに、ステロイド骨格の所定の部位にヒドロキシル基又はオキソ基を有するため、前立腺肥大の程度又は有無にかかわらず、排尿障害を治療又は緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は試験例1での無麻酔下及び麻酔下における残尿量と被験物質との関係を示すグラフである。
図2図2は試験例1での無麻酔下及び麻酔下における排尿効率と被験物質との関係を示すグラフである。
図3図3は試験例1における膀胱容量と被験物質との関係を示すグラフである。
図4図4は試験例1における膀胱湿重量及と被験物質との関係を示すグラフである。
図5図5は試験例1における腎臓湿重量と被験物質との関係を示すグラフである。
図6図6は試験例1における生存率と被験物質との関係を示すグラフである。
図7図7は試験例2における残尿量と被験物質との関係を示すグラフである。
図8図8は試験例2における排尿効率と被験物質との関係を示すグラフである。
図9図9は試験例3における矩形波経壁電気刺激による膀胱収縮張力と被験物質との関係を示すグラフである。
図10図10は試験例3におけるCarbachol(ムスカリン受容体刺激)及びKCl(脱分極依存性Ca2+刺激)による膀胱収縮張力と被験物質との関係を示すグラフである。
図11図11は試験例4の覚醒下でのシストメトリー(CMG)における膀胱容量と被験物質との関係を示すグラフである。
図12図12は試験例4の覚醒下でのシストメトリー(CMG)における残尿量と被験物質との関係を示すグラフである。
図13図13は試験例4の覚醒下でのシストメトリー(CMG)における排尿効率と被験物質との関係を示すグラフである。
図14図14は試験例4の麻酔下でのシストメトリー(CMG)における膀胱容量と被験物質との関係を示すグラフである。
図15図15は試験例4の麻酔下でのシストメトリー(CMG)における残尿量と被験物質との関係を示すグラフである。
図16図16は試験例4の麻酔下でのシストメトリー(CMG)における排尿効率と被験物質との関係を示すグラフである。
図17図17は試験例4でのノモグラム解析結果を示すグラフである。
図18図18は試験例5における子宮重量と被験物質との関係を示すグラフである。
図19図19は試験例6の覚醒下でのシストメトリー(CMG)における残尿量と被験物質との関係を示すグラフである。
図20図20は試験例6の覚醒下でのシストメトリー(CMG)における排尿効率と被験物質との関係を示すグラフである。
図21図21は試験例6でのノモグラム解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[2−オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩]
前記式(1)で表される化合物は、前記特許文献5に記載されており、公知である。この化合物は、前記のように、高い抗アンドロゲン活性を有しており、前立腺肥大症の治療剤としても有用であるが、前立腺の肥大とは関係なく、排尿障害を有効に治療又は改善するという特色がある。
【0025】
前記式(1)において、R〜Rで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基などが例示できる。アルキル基は、通常、直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1−3アルキル基、さらに好ましくはメチル基又はエチル基であり、メチル基である場合が多い。具体的には、R〜Rで表されるアルキル基は、同一又は異なっていてもよく、いずれもメチル基である場合が多い。
【0026】
は水素原子又はアルキルカルボニル基のいずれであってもよく、通常、アルキルカルボニル基(アルカノイル基又はアシル基)である場合が多い。Rで表されるアルキルカルボニル基(又はアシル基)としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、t−ブチリル基、ペンタノイル基(バレリル基)、ヘキサノイル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキル−カルボニル基などが例示できる。アルキルカルボニル基は、通常、直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル−カルボニル基、好ましくはC1−4アルキル−カルボニル基、さらに好ましくはC1−3アルキル−カルボニル基であり、アセチル基である場合が多い。なお、Rで表されるアルキルカルボニル基は、加水分解酵素により加水分解されて水素原子に変換されてもよく、Rで表される水素原子は、アシル化酵素によりアルキルカルボニル基に変換されてもよい。
【0027】
Xで表されるハロゲン原子には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が含まれる。ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、特に塩素原子である場合が多い。
【0028】
Yで表されるヒドロキシル基又はオキソ基の置換位置は、ステロイド骨格の11位、15位又は16位のいずれかであってもよく、通常、ステロイド骨格の15位に結合している場合が多い。
【0029】
生体内の酸化還元酵素により、ステロイド骨格のオキソ基とヒドロキシル基とは互いに変換可能であってもよい。そのため、Yはヒドロキシル基又はオキソ基のいずれであってもよい。Yは、通常、ヒドロキシル基である場合が多い。なお、Yがヒドロキシル基である場合、このヒドロキシル基は、下記式で表されるα位又はβ位の立体配置をとってもよい。例えば、ステロイド骨格の15位に結合したヒドロキシル基はβ位の立体配置を有していてもよい。
【0030】
【化2】
【0031】
式(1)で表される化合物には、17α−C1−4アルキル−カルボニルオキシ−6−ハロ−15β−ヒドロキシ−2−オキサ−4,6−プレグナジエン−3,20−ジオン、17α−C1−4アルキル−カルボニルオキシ−6−ハロ−2−オキサ−4,6−プレグナジエン−3,15,20−トリオンが含まれる。
【0032】
好ましい化合物は、ステロイド骨格の11位、15位又は16位に、Yで表されるヒドロキシル基を有しており、下記式(1a)で表すことができる。
【0033】
【化3】
【0034】
式(1a)で表される代表的な化合物又はその薬学的に許容される塩としては、17α−アセトキシ−6−クロロ−15β−ヒドロキシ−2−オキサ−4,6−プレグナジエン−3,20−ジオン又はそれらの薬学的に許容される塩などが挙げられる。
【0035】
前記式(1)で表される2−オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩は、ラセミ体であってもよく、光学活性体(又は光学異性体)であってもよい。前記(1)で表される2-オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩は、代謝物であってもよい。
【0036】
なお、塩としては、無機酸(塩酸、硫酸など)、有機酸(酢酸など)との塩、無機塩基(アンモニア、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属など)、有機塩基(トリエチルアミンなどのアミン類など)との塩などが挙げられる。
【0037】
前記式(1)で表される2−オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩は、慣用の方法、例えば、前記特許文献5に記載の方法に準じて調製することができる。
【0038】
前記式(1)で表される2−オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩は、抗アンドロゲン活性を有していてもよく、アンドロゲン受容体モジュレーターとして作用してもよい。さらに、前記化合物は、抗アンドロゲン作用と抗プロゲステロン作用とを併せ持っていてもよい。
【0039】
本発明の排尿障害改善剤は、有効成分として少なくとも前記式(1)で表される2−オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩を含んでいればよく、必要に応じて、他の生理活性成分又は薬理活性成分(他の排尿改善薬など)を含んでいてもよい。他の排尿改善薬(第2の排尿改善薬)としては、例えば、α1受容体遮断薬(降圧薬)又は前立腺肥大治療薬(ドキサゾシンメシル酸塩、ウラピジル、プラゾシン塩酸塩、ブナゾシン塩酸塩、オキセンドロンゲストノロンカプロン酸エステル、クロルマジノン酢酸エステル、タムスロシン塩酸塩、ナフトピジル、シロドシンなど)、5α還元酵素阻害薬(デュタステリドDutasterideなど)、抗アンドロゲン薬(メチルテストステロン、テストステロンプロピオネート、テストステロンエナントエート、ビカルタミド、エンザルタミドなど)、PDE5阻害薬(タダラフィルなど)、生薬などが例示できる。これらの第2の排尿改善薬は、前記式(1)で表される2−オキサプレグナン化合物100質量部に対して、0.1〜100質量部(例えば、1〜50質量部)程度の割合で使用してもよい。
【0040】
本発明の排尿障害改善剤(又は製剤)は、種々の排尿障害の治療及び/又は予防に有効であり、排尿障害を改善又は緩和する。そのため、排尿障害改善剤は、排尿障害を治療及び/又は予防するための治療剤及び/又は予防剤、排尿障害を緩和する緩和剤ということもできる。
【0041】
排尿障害としては、例えば、排尿しにくさ(排尿困難)、残尿感、尿勢減弱、排尿遅延、腹圧排尿、終末滴下、排尿後尿滴下、尿失禁(切迫性、腹圧性、混合性、溢流性を含む)、頻尿(昼間、夜間、心因性を含む)、尿意切迫感、膀胱痛又は膀胱痛症候群、排尿時痛、膀胱萎縮、神経因性膀胱、排尿筋過活動又は過活動膀胱(本態性、神経因性、難治性を含む)、慢性膀胱炎、間質性膀胱炎、慢性前立腺炎、骨盤内疼痛症候群、低活動膀胱、排尿筋過反射収縮不全などの疾患又は症状が例示できる。さらに、前記症状は、残尿量の増加、排尿効率の低下、膀胱容量の増加、膀胱湿重量および腎臓湿重量の増加から選択された少なくとも1つの症状であってもよく、このような少なくとも1つの症状を排尿障害の指標又は基準としてもよい。排尿障害は、これらの複数の疾患又は症状が複合的に生じる障害であってもよい。例えば、排尿しにくさには、残尿感及び尿勢減弱を伴っていてもよい。排尿障害は、通常、残尿感、尿勢減弱、尿失禁、頻尿又は尿意切迫感などの症状(例えば、下部尿路症状)として顕れる場合が多い。そのため、本発明では、排尿を改善又は促進してもよい。
【0042】
なお、上記排尿障害は、前立腺肥大を伴ってもよく、前立腺肥大を伴わなくてもよい。すなわち、排尿障害は、前立腺肥大症を伴わない排尿障害、前立腺肥大症に伴う排尿障害のいずれであってもよい。本発明では、前立腺肥大の程度及び/又は有無に拘わらず、排尿障害を有効に治療又は改善できる。
【0043】
なお、前記排尿障害は、平滑筋収縮の障害(膀胱平滑筋収縮障害)に伴う排尿障害であってもよい。前記排尿障害の類型としては、例えば、神経因性膀胱を生じさせる疾患、糖尿病、糖尿病に伴う神経障害(排尿反射系の求心性又は遠心性神経障害)、高血糖症、高血糖症に伴う神経障害などの疾患に伴う排尿障害が挙げられる。これらの排尿障害は、前立腺肥大症を伴ってもよく、前立腺肥大症を伴わなくてもよく;前立腺肥大症を伴わない排尿障害である場合が多い。神経因性膀胱を生じさせる疾患は、例えば、脳血管障害(脳卒中)、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、小脳変性症、脊髄髄膜瘤(二分脊椎症)、脊髄係留症候群、椎間板ヘルニア、脊椎管狭窄症、直腸癌・子宮癌手術による膀胱への末梢神経障害などであってもよい。具体的には、例えば、前立腺肥大症を伴わなくても、神経因性膀胱などのように、中枢又は末梢神経の障害により、平滑筋の収縮が阻害され、排尿障害が生じる場合がある。また、糖尿病患者及び/又は高血糖症の患者では、インスリン依存性又はインスリン非依存性に拘わらず、中枢又は末梢神経が傷害され、合併症としての神経障害(排尿反射系の知覚(求心性)又は遠心性神経障害など)により、排尿障害が生じることが知られている。なお、糖尿病はI型及び/又はII型糖尿病のいずれであってもよい。このように、排尿障害は、前記神経障害を介して、膀胱平滑筋の収縮を阻害することに起因してもよい。また、臨床学的及び非臨床学的に、排尿障害(例えば、低活動膀胱、糖尿病性排尿障害)が膀胱平滑筋収縮障害と関連していることも知られている。本発明では、このような前立腺肥大症を伴わない排尿障害であっても有効に治療又は改善できる。そのため、排尿障害を有する対象は、雄及び雌(男性及び女性)のいずれであってもよく、本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩及び排尿障害改善剤(又は製剤)は、性別に関係なく、排尿障害を有効に治療又は改善するのに有効である。
【0044】
本発明の排尿障害改善剤は、前記式(1)で表される2−オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩単独で形成してもよく、担体(薬理学的又は生理学的に許容可能な担体など)と組み合わせて医薬組成物又は生理活性組成物として用いてもよい。排尿障害改善剤(医薬組成物、生理活性組成物)の担体は、製剤の形態(すなわち、剤形)、投与形態、用途などに応じて選択できる。剤形は特に制限されず、固形製剤[粉剤、散剤、粒剤(顆粒剤、細粒剤など)、丸剤、ピル、錠剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤など)、ドライシロップ剤、坐剤、フィルム又はシート状製剤など]、半固形製剤(クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、グミ剤など)、液剤(注射剤、シロップ剤など)などであってもよい。好ましい態様において、本発明の排尿障害改善剤の剤形は、固形製剤、特に、粒剤、錠剤又はカプセル剤である。
【0045】
なお、前記粉剤には、スプレー剤、エアゾール剤なども含まれる。カプセル剤は、軟カプセル、硬カプセルのいずれであってもよく、液体充填カプセルであってもよく、顆粒剤などの固形剤を充填したカプセルであってもよい。また、製剤は凍結乾燥製剤であってもよい。さらに、本発明の排尿障害改善剤(又は製剤)は、薬剤の放出速度が制御された製剤(徐放性製剤、速放性製剤)であってもよい。また、排尿障害改善剤(又は製剤)の投与経路は特に制限されず、経口投与製剤(顆粒剤、散剤、錠剤(舌下錠、口腔内崩壊錠など)、カプセル剤、フィルム製剤など)であってもよく、非経口投与製剤(吸入剤、経皮投与製剤、経鼻投与製剤、座剤、注射剤など)であってもよい。さらに、製剤は局所投与製剤(軟膏剤、貼付剤、パップ剤など)であってもよい。本発明の排尿障害改善剤(又は製剤)は、固形製剤(例えば、経口投与固形製剤)である場合が多い。そのため、以下の説明では、固形製剤の成分を中心に説明する。
【0046】
前記担体は、例えば、第十六改正日本薬局方(局方)の他、(1)医薬品添加物ハンドブック、丸善(株)、(1989)、(2)「医薬品添加物事典2016」(薬事日報社、2016年2月発行)、(3)薬剤学、改訂第5版、(株)南江堂(1997)、及び(4)医薬品添加物規格2003(薬事日報社、2003年8月)などに収載されている成分(例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、コーティング剤など)の中から、投与経路及び製剤用途に応じて選択できる。例えば、固形製剤の担体としては、賦形剤、結合剤および崩壊剤から選択された少なくとも一種の担体を使用する場合が多い。また、排尿障害改善剤(又は製剤)は脂質を含んでいてもよい。
【0047】
前記賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、キシリトールなどの糖類又は糖アルコール類;トウモロコシデンプンなどのデンプン;結晶セルロース(微結晶セルロースも含む)などの多糖類;軽質無水ケイ酸などの酸化ケイ素又はケイ酸塩などが例示できる。結合剤としては、アルファ化デンプン、部分アルファ化デンプンなどの可溶性デンプン;アラビアゴム、デキストリン、アルギン酸ナトリウムなどの多糖類;ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリ乳酸、ポリエチレングリコールなどの合成高分子;メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などのセルロースエーテル類などが例示できる。崩壊剤としては、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが例示できる。これらの担体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0048】
なお、前記コーティング剤としては、例えば、糖類、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリオキシエチレングリコール、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、オイドラギット(メタクリル酸・アクリル酸共重合物)などが用いられる。コーティング剤は、セルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体などの腸溶性成分であってもよく、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどの塩基性成分を含むポリマー(オイドラギットなど)で構成された胃溶性成分であってもよい。また、製剤は、これらの腸溶性成分や胃溶性成分を剤皮に含むカプセル剤であってもよい。
【0049】
製剤においては、投与経路や剤形などに応じて、公知の添加剤を適宜使用することができる。このような添加剤としては、例えば、滑沢剤、崩壊補助剤、抗酸化剤又は酸化防止剤、安定剤、防腐剤又は保存剤、殺菌剤又は抗菌剤、帯電防止剤、矯味剤又はマスキング剤、着色剤、矯臭剤又は香料、清涼化剤、消泡剤などが挙げられる。これらの添加剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0050】
本発明の排尿障害改善剤(医薬組成物又は製剤)は、有効成分の他、担体成分、必要により添加剤などを用いて、慣用の製剤化方法、例えば、第十六改正日本薬局方記載の製造法又はこの製造方法に準じた方法により調製できる。
【0051】
前記2−オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩は、前記のように公知化合物であり、長年に亘り使用されており、安定性、安全性が高い。
【0052】
本発明の排尿障害改善剤(医薬組成物又は製剤)は、ヒト及び非ヒト動物、通常、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サルなど)に対して、安全に投与できる。投与量は、投与対象の種、年齢、体重、及び状態(一般的状態、病状、合併症の有無など)、投与時間、剤形、投与方法などに応じて選択できる。例えば、ヒトに対する投与量(1日用量)は、式(1)で表される化合物換算で、例えば、0.01〜100mg/日、好ましくは0.05〜75mg/日(例えば、0.1〜40mg/日)、特に0.05〜10mg/日(例えば、0.1〜3mg/日)程度であってもよい。
【0053】
投与方法は、経口投与であってもよく、局所投与又は非経口投与(例えば、皮下投与、筋肉内投与、直腸投与、膣投与など)であってもよい。好ましい態様では、本発明の排尿障害改善剤(医薬組成物又は製剤)は、経口投与される。投与回数は、特に制限されず、例えば、1日1回であってもよく、必要に応じて1日複数回(例えば、2〜3回)であってもよい。
【0054】
本発明は、前記のように、排尿障害を有する対象物に、前記2−オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として投与し、若しくは前記排尿障害改善剤(医薬組成物又は製剤)を投与し、排尿障害を治療又は改善若しくは緩和する方法(並びに排尿を改善又は促進する方法)も含む。さらに、排尿障害を治療又は改善若しくは緩和する(並びに排尿を改善又は促進する)ための有効成分としての前記2−オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩の使用、若しくは排尿障害を治療又は改善若しくは緩和する(並びに排尿を改善又は促進する)ための前記排尿障害改善剤(医薬組成物又は製剤)の使用;前記排尿障害改善剤、排尿改善剤又は排尿促進剤を製造するための前記2−オキサプレグナン化合物又はその薬学的に許容される塩の使用も包含する。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0056】
試験例1
ラットの下部尿路閉塞モデルを試験系として用い、この下部尿路閉塞モデルに、被験物質を2週間に亘り反復経口投与し、下部尿路閉塞モデルの排尿機能に対する作用について検討した。
【0057】
より詳細には、前記ラット(雌性、Crl:CD(SD)、8週齢;日本チャールスリバー社)に下部尿路閉塞手術を施し、被験物質を2週間に亘り、1日1回の割合で反復経口投与し、投与終了後、麻酔下、膀胱にカテーテル留置術を行い、無麻酔下でシストメトリーした後、ウレタン麻酔下でシストメトリーし、深麻酔下で安楽死処置し、組織(膀胱、腎臓)を摘出した。また、正常群として、下部尿路閉塞手術を施すことなく、前記ラットを用いた。
【0058】
試験系、被験物質および投与量は以下の通りである。
【0059】
正常群:0.5v/v%ポリソルベート80溶液、10mL/kg(n=6)
溶媒群(対照群):0.5v/v%ポリソルベート80溶液、10mL/kg(n=15)
A群:化合物A、10mg/kg)(n=15)
B3群:化合物B、3mg/kg(n=7)
B10群:化合物B、10mg/kg(n=7)
【0060】
なお、化合物A及び化合物Bの化合物名は、以下の通りである。
化合物A:17α−アセトキシ−6−クロロ−15β−ヒドロキシ−2−オキサ−4,6−プレグナジエン−3,20−ジオン
化合物B:TZP−4238(17α−アセトキシ−6−クロロ−2−オキサ−4,6−プレグナジエン−3,20−ジオン
【0061】
そして、残尿量、排尿効率、膀胱容量について、次のようにして測定した。
【0062】
[残尿量]
排尿後に、膀胱に留置したカテーテルの他端より、残存した尿を吸引して容量(mL)を測定した。
【0063】
[排尿効率]
排尿後に、尿の重量を測定して排尿量(g=mL)を求めた後、以下の計算式にて排尿効率を算出した。
排尿効率(%)=[(排尿量(mL))/(排尿量(mL)+残尿量(mL))]×100
【0064】
[膀胱容量]
排尿量と残尿量から、以下の計算式にて膀胱容量を算出した。
膀胱容量(mL)=排尿量(mL)+残尿量(mL)
【0065】
また、摘出した膀胱及び腎臓の湿重量を測定した。
【0066】
図1図6に、雌性ラット下部尿路閉塞モデルでの残尿量、排尿効率、膀胱容量、摘出した組織(膀胱、腎臓)の湿重量及び生存率の結果を示す。なお、図1は残尿量と被験物質との関係を示し、図2は排尿効率と被験物質との関係を示す。また、図3は膀胱容量と被験物質との関係を示し、図4及び図5は膀胱及び腎臓湿重量と被験物質との関係を示し、図6は生存率と被験物質との関係を示す。
【0067】
図1図3から明らかなように、B群(B3群及びB10群)は、対照群(溶媒群)に比べて残尿量及び膀胱容量を有意に増加させ、排尿効率を低下させたのに対して、A群は、対照群に比べて残尿量及び膀胱容量を有意に低減させ、排尿効率を増加させた。また、図4及び図5から明らかなように、A群は下部尿路閉塞に伴う膀胱及び腎臓湿重量の増加を有意に抑制する方向に作用したが、B群はむしろ増加させる方向に作用した。このように、B群は、排尿機能を改善しないか、むしろ悪化させる方向に作用したのに対して、A群は、下部尿路閉塞に伴って低下した排尿機能を有意に改善した。さらに、A群は、前立腺のない雌性ラットの下部尿路閉塞モデル系で排尿機能が有意に改善したことから、化合物Aは、前立腺肥大の有無に拘わらず、排尿障害を改善することが分かる。
【0068】
さらに、図6から明らかなように、B群は下部尿路閉塞ラットの生存率を低下させたが、A群では生存率の低下が見られなかった。このことから、化合物Aは安全性が高いことも確認された。
【0069】
なお、同じ2−オキサプレグナン化合物(プロゲステロン類)に属する化合物であるにも拘わらず、雌性ラットで上記のような結果が得られた理由は明確ではないが、次のように考えられる。
【0070】
一般的に、臨床において、妊娠中に増加するプロゲステロンにより、膀胱を含む子宮周辺臓器は弛緩するものと考えられている。ラットにおいても、妊娠やプロゲステロンが膀胱ムスカリン受容体に影響して膀胱容量を増大したり、膀胱収縮を抑制することが報告されている(Pharmacology. 50(3):192-200.1995)。また、膀胱は、プロゲステロンによる弛緩に加え、妊娠子宮による後方からの機械的圧迫のため、機能的にも低緊張状態を呈する。そのため、残尿や膀胱尿管逆流現象を招く可能性がある。
【0071】
B群は強いプロゲステロン様作用を有し、上記メカニズムにより膀胱収縮を抑制すると考えられるが、前記雌性下部尿路閉塞モデルなどのように、膀胱機能が強く障害された病態モデルにおいて、B群では、化合物Bにより過度に膀胱収縮が抑制されて病態が悪化した可能性が考えられる。
【0072】
一方、化合物Aは、軽度な抗プロゲステロン作用を有する。雌ラットの性周期は4日間程度であり、A群では、化合物Aが性周期に応じて増加する内因性のプロゲステロンに拮抗し、下部尿路閉塞モデルの膀胱機能のさらなる抑制に対して保護的に作用した可能性が考えられる。
【0073】
試験例2
ラットの下部尿路閉塞モデルを試験系として用い、この下部尿路閉塞モデルに、被験物質を14日間に亘り反復経口投与し、下部尿路閉塞モデルの排尿機能に対する作用について検討した。なお、上記下部尿路閉塞モデルは、前立腺が肥大した前立腺肥大症モデルではない。
【0074】
より詳細には、前記ラット(雄性、Crl:CD(SD)、8週齢;日本チャールスリバー社)に下部尿路閉塞手術を施し、被験物質を14日間に亘り、1回/日の割合で反復経口投与し、投与終了後、麻酔下、膀胱にカテーテル留置術を行い、無麻酔下でシストメトリーし、残尿量、排尿効率を評価した。
【0075】
試験系(下部尿路閉塞雄性ラット)での被験物質と投与量は以下の通りである。
【0076】
溶媒群(対照群):0.5v/v%ポリソルベート80溶液、10mL/kg(n=8)
A群:化合物A、10mg/kg(n=12)
C群:化合物C(デュタステリド)、0.5mg/kg(n=11)
なお、デュタステリドは5α還元酵素阻害薬である。
【0077】
結果を図7及び図8に示す。
【0078】
図7及び図8から、雄性ラット下部尿路閉塞モデルにおいて、A群はC群(デュタステリド)に比べて排尿機能(残尿量、排尿効率)の改善作用が強いことが示唆された。
【0079】
試験例3
高週齢雄性ラット(22週齢;日本チャールスリバー社)での膀胱及び尿道収縮反応と被験物質との関係を調べた。なお、前記ラットは、高週齢のため、前立腺が肥大していると予測されるモデルである。
【0080】
上記高週齢雄性ラットに被験物質を2週間に亘り、1回/日の割合で反復経口投与した後、膀胱標本を摘出した。そして、膀胱標本を用いて、95%O−5%COガスを通気した生理的塩類溶液で満たされた恒温(37℃)マグヌス管に静止張力約9.8mNで懸垂し、矩形波経壁電気刺激(EFS、Amplitude; 0.3 ms, Frequency; 1, 2, 5, 10, 20 Hz, Duration; 5s)、Carbachol(CCH、100 nmol/L〜100 μmol/L)及びKCl(40、80 mmol/L)を適用して等尺性で収縮実験を行った。
【0081】
試験系(高週齢雄性ラット)での被験物質と投与量は以下の通りである。
【0082】
溶媒群(対照群):0.5v/v%ポリソルベート80溶液、10mL/kg(n=6)
A群:化合物A、10mg/kg(n=6)
C群:化合物C(デュタステリド)、0.3mg/kg(n=6)
【0083】
結果を図9及び図10に示す。
【0084】
図9及び図10から、C群に比べて、A群では、矩形波経壁電気刺激(膀胱遠心性神経刺激)、Carbachol(ムスカリン受容体刺激)及びKCl(脱分極依存性Ca2+刺激)による膀胱収縮張力が有意に強いか又は強い方向性にあった。
【0085】
試験例4
以下のように、排尿障害モデルとして、糖尿病に伴う排尿障害モデルを調製し、排尿障害について評価した。なお、このモデルは、前立腺肥大症を伴っておらず、神経障害及び平滑筋収縮の障害に伴う排尿障害モデルである。
【0086】
ラット(雄性、Crl:CD(SD)、5週齢;日本チャールスリバー社)の体重を測定し、一晩絶食後、尾静脈から血液を採取し、空腹時血糖を測定し、体重と空腹時血糖値とに基づいて、多変数ブロック化割り付けにより、2つの群に群分けした。群分け翌日に、第1の群に濃度0.1mmol/Lのクエン酸バッファー(pH4.5)(10mL/kg)を腹腔内投与し、第2の群にストレプトゾシン(STZ;Sigma-aldrich社)(50mg/kg)を腹腔内投与した。なお、ストレプトゾシン(STZ)は濃度5mg/mLの上記クエン酸バッファー溶液として投与した。
【0087】
ストレプトゾシン(STZ)の投与から約1週間後に体重及び空腹時血糖を測定し、ストレプトゾシン(STZ)投与群(第2の群)において、空腹時血糖値が300mg/dL以上の個体を糖尿病誘発動物として採用した。これらの糖尿病誘発動物は前立腺に異常がない(前立腺肥大症ではない)モデルである。糖尿病誘発動物(モデル)を、体重と空腹時血糖値とに基づいて、多変数ブロック化割り付けにより、3つの群に群分けした。
【0088】
群分けした糖尿病誘発モデルに、0.5v/v%ポリソルベート80溶液(0.5%P)(10mL/kg)又は化合物A(3又は10mg/kg)を1日1回、平日のみ、4週間に亘る投与スケジュールで経口投与した。また、前記第1の群にも、0.5v/v%ポリソルベート80溶液(0.5%P)(10mL/kg)を上記と同じ投与スケジュールで経口投与した(正常群)。投与最終日にイソフルラン麻酔下で、膀胱頂部にカニューレを挿入・固定し、覚醒下とウレタン麻酔下の順で、シストメトリー(Cystometogram,CMG)し、膀胱内圧、排尿量及び残尿量を測定した。測定終了後、イソフルラン深麻酔下、採血した後、前立腺(腹葉、背側葉)、精嚢、膀胱及び腎臓を摘出し、それぞれの重量を測定した。また、採取した血液中の血糖値を測定した。
【0089】
試験系(糖尿病に伴う排尿障害ラット)での被験物質と投与量は以下の通りである。
【0090】
正常群:クエン酸バッファー10mL/kg(腹腔内投与),0.5%P 10mL/kg(経口投与)(n=10)
溶媒群(対照群):STZ50mg/kg(腹腔内投与),0.5%P 10mL/kg(経口投与)(n=10)
A3群:STZ 50mg/kg(腹腔内投与),化合物A 3mg/kg(経口投与)(n=10)
A10群:STZ 50mg/kg(腹腔内投与),化合物A 10mg/kg(経口投与)(n=9)
【0091】
排尿パラメータ:
得られた膀胱内圧、排尿量及び残尿量のデータを解析し、排尿パラメータとして、1回の排尿毎に膀胱容量(mL)、残尿量(mL)、排尿効率(%)を求めた。これらの排尿パラメータについて、2回の測定値の平均値を求め、各個体の測定値とした。
【0092】
組織重量:
前立腺腹葉及び前立腺背側葉の重量から前立腺全体の重量を算出した。前立腺、精嚢、膀胱及び腎臓の重量については、体重100g当たりの組織重量に換算した。また、化合物Aを投与したA3群及びA10群については、溶媒群の前立腺及び精嚢の重量に対して、前立腺及び精嚢の重量の抑制率を算出した(小数点第1位まで)。
【0093】
統計解析では、最終体重、体重100g当たりの組織重量(前立腺、精嚢、膀胱及び腎臓)、血糖値、各種排尿パラメータについて、各群の平均値及び標準偏差を算出した。統計解析には、SAS統計解析システム(SAS version 9.4;SAS Institute Japan(株)製)を用いて有意差検定した。なお、正常群と溶媒群との間では両側のStudentのt検定を行い、危険率5%未満を統計的に有意差があると判断した。また、溶媒群とA3群及びA10群との間ではWilliamsの多重比較検定を行い、危険率2.5%未満を統計的に有意差があると判断した。
【0094】
なお、5%有意(P<0.05(対正常群)(Studentのt検定))であることを「*」で示し、2.5%有意(P<0.025(対溶媒群)(Williamsの多重比較検定))であることを「#」で示す。
【0095】
ノモグラム解析による膀胱収縮力:
麻酔下でのシストメトリー(CMG)において、最大尿流率(mL/秒)と最大尿流時膀胱内圧(cmHO)を求め、各群の排尿時の膀胱収縮力を評価した。すなわち、各群について、最大尿流率Qmax(mL/秒)、最大尿流時膀胱内圧PdetQmax(cmHO)及び膀胱容量BC(mL)の平均値を求め、X軸の最大尿流時膀胱内圧/膀胱容量に対して、Y軸に最大尿流率/膀胱容量をプロットし、原点からの距離が近いほど、膀胱収縮力が弱く、原点からの距離が遠いほど、膀胱収縮力が強いと判断した。
【0096】
結果を表1、図11図13(覚醒下でのシストメトリー(CMG)データ)及び図14図16(麻酔下でのシストメトリー(CMG)データ)並びに図17(ノモグラム解析結果)に示す。なお、表中の各欄には「平均値±標準偏差」を記載した。
【0097】
【表1】
【0098】
[体重、組織重量及び血糖値]
溶媒群(対照群)では、正常群に比べて、体重が有意に減少し、膀胱及び腎臓重量が有意に増加した。また、血糖値も有意に上昇した。これに対して、A3群及びA10群では、前立腺及び精嚢重量が有意に減少し、体重、血糖値、並びに膀胱及び腎臓重量には作用しなかった。
【0099】
なお、溶媒群に対するA3群及びA10群の血糖値から明らかなように、化合物Aには糖尿病の治療効果が認められない。また、糖尿病誘発モデルでは、前立腺が肥大することなく、排尿障害を発症している。
【0100】
[シストメトリー(CMG):膀胱容量、残尿量及び排尿効率]
覚醒下でのシストメトリー(CMG)測定データの解析結果を図11図13に示す。溶媒群(対照群)では、正常群に比べて、膀胱容量及び残尿量が有意に増加し、排尿効率が有意に低下した。溶媒群(対照群)に対して、A3群では、膀胱容量及び残尿量が有意に減少し、排尿効率が改善した。A10群でも、膀胱容量及び残尿量が有意に減少し、排尿効率が有意に改善された(P=0.0359、Williamsの多重比較検定)。
【0101】
麻酔下でのシストメトリー(CMG)測定データの解析結果を図14図16に示す。溶媒群(対照群)では、正常群に比べて、膀胱容量及び残尿量が有意に増加し、排尿効率が有意に低下した。溶媒群(対照群)に対して、A3群では、残尿量が有意に減少した。A10群でも、残尿量が有意に減少し、膀胱容量も減少した(P=0.0336、Williamsの多重比較検定)。また、A3群及びA10群では、排尿効率が改善した。
【0102】
さらに、A3群及びA10群は、ノモグラム解析(図17)において、溶媒群(対照群)に比べて、原点からの距離が遠いことから、排尿時の膀胱収縮力が強いと判断される。
【0103】
このように、化合物Aには糖尿病の治療効果が認められず(A3群及びA10群)、しかも、前立腺が肥大していない糖尿病誘発モデルでも、排尿障害を有意に改善できる。
【0104】
試験例5
化合物Aおよび化合物D(ミフェプリストン)について、抗プロゲステロン活性を測定した。すなわち、試験系としての卵巣摘除ラットに、性ホルモンとともに被験物質を反復投与し、ラット脱落膜腫形成に伴う子宮重量の変動(重量増加に対する抑制作用)を指標として抗プロゲステロン作用(抗プロゲステロン活性)を検討した。
【0105】
より詳細には、ラット(雌性、Crl:CD(SD)、5週齢:日本チャールスリバー社)に卵巣摘出手術を施し、手術の一週間後から高用量のエストロン5μg/匹を1回/日、3日間皮下投与した。1日休薬した後、翌日から1日1回8日間にわたり、低用量のエストロン(1μg/匹)を皮下投与し、プロゲステロン(6mg/kg)を筋肉内投与し、被験物質を経口投与した。途中、投与開始4日目に右側子宮に脱落膜化反応の刺激処置を施し、最終投与の翌日に子宮重量(右側体部)を測定した(n=6)。なお、E群には卵巣摘除及び脱落膜化反応の刺激処置を行ったが、ホルモン処置を行わなかった。
【0106】
試験系(卵巣摘除ラット)での被験物質と投与量は以下の通りである。
【0107】
E群:卵巣摘除ホルモン非処置ラット
0.5v/v%ポリソルベート80溶液、10mL/kg(n=6)
溶媒群(対照群):0.5v/v%ポリソルベート80溶液、10mL/kg(n=6)
A3群:化合物A、3mg/kg(n=6)
A10群:化合物A、10mg/kg(n=6)
A30群:化合物A、30mg/kg(n=6)
D群:化合物D(ミフェプリストン)、3mg/kg(n=6)
【0108】
結果を図18に示す。
【0109】
図18に示されるように、溶媒群に対して、D群では有意な抑制作用(抑制率89.5%)が認められた。また、溶媒群に対して、A3群では有意な抑制作用は認められなかった(抑制率15.0%)ものの、A10群及びA30群では有意な抑制作用(抑制率がそれぞれ63.0%及び83.3%)が認められ、化合物Aが抗プロゲステロン活性を有することが明らかとなった。
試験例6
以下のように、試験例4に準じて、排尿障害モデルとして、ストレプトゾシン誘発糖尿病に伴う排尿障害モデルを作製し、前記化合物A及び化合物Cが排尿障害に及ぼす影響について評価した。なお、このモデルは、前立腺肥大症を伴っておらず、神経障害及び平滑筋収縮の障害に伴う排尿障害モデルである。
ラット(雄性、Crl:CD(SD)、5週齢;日本チャールスリバー社)の体重を測定し、体重に基づいて、2つの群に群分けした。群分け翌日に、第1の群に濃度0.1mmol/Lのクエン酸バッファー(pH4.5)(10mL/kg)を腹腔内投与し、第2の群にストレプトゾシン(STZ;Sigma-aldrich社)(50mg/kg)を腹腔内投与した。なお、ストレプトゾシン(STZ)は濃度5mg/mLの上記クエン酸バッファー溶液として投与した。
【0110】
ストレプトゾシン(STZ)の投与から約1週間後に体重及び空腹時血糖を測定し、ストレプトゾシン(STZ)投与群(第2の群)において、空腹時血糖値が300mg/dL以上の個体を糖尿病誘発動物として採用した。これらの糖尿病誘発動物は前立腺に異常がない(前立腺肥大症ではない)モデルである。糖尿病誘発動物(モデル)を、体重と空腹時血糖値とに基づいて、多変数ブロック化割り付けにより、3つの群に群分けした。
群分けした糖尿病誘発モデルに、0.5v/v%ポリソルベート80溶液(0.5%P)(10mL/kg)、化合物A(3mg/kg)又は化合物C(デュタステリド)(0.3mg/kg)を1日1回、平日のみ、4週間に亘る投与スケジュールで経口投与した。また、前記第1の群にも、0.5v/v%ポリソルベート80溶液(0.5%P)(10mL/kg)を上記と同じ投与スケジュールで経口投与した(正常群)。投与最終日にイソフルラン麻酔下で、膀胱頂部にカニューレを挿入・固定し、覚醒下とウレタン麻酔下の順で、シストメトリー(Cystometogram,CMG)し、膀胱内圧、排尿量及び残尿量を測定した。測定終了後、イソフルラン深麻酔下、採血した後、前立腺(腹葉、背側葉)を摘出し、それぞれの重量を測定した。また、採取した血液中の血糖値を測定した。
試験系(糖尿病に伴う排尿障害ラット)での被験物質と投与量は以下の通りである。
正常群:クエン酸バッファー10mL/kg(腹腔内投与),0.5%P 10mL/kg(経口投与)(n=10)
溶媒群(対照群):STZ50mg/kg(腹腔内投与),0.5%P 10mL/kg(経口投与)(n=10)
A3群:STZ 50mg/kg(腹腔内投与),化合物A 3mg/kg(経口投与)(n=10)
C0.3群:STZ 50mg/kg(腹腔内投与),化合物C(デュタステリド) 0.3mg/kg(経口投与)(n=10)
排尿パラメータ:試験例4と同様にして、排尿パラメータとして、1回の排尿毎に残尿量(mL)、排尿効率(%)を求め、2回の測定値の平均値を、各個体の測定値とした。
前立腺重量:試験例4と同様にして、前立腺(腹葉、背側葉及び全体)の重量から、体重100g当たりの組織重量に換算した。また、化合物Aを投与したA3群及び化合物Cを投与したC0.3群については、溶媒群の前立腺の重量に対して、前立腺の重量の抑制率を算出した(小数点第1位まで)。
統計解析では、試験例4と同様にして、有意差検定した。なお、正常群と溶媒群との間では両側のStudentのt検定を行い、危険率5%未満を統計的に有意差があると判断し、5%有意であることを「*」で示した。また、溶媒群とA3群及びC0.3群との間ではDunnettの多重比較検定を行い、危険率5%未満を統計的に有意差があると判断し、5%有意であることを「#」で示した。
ノモグラム解析による膀胱収縮力:試験例4と同様にして、各群の排尿時の膀胱収縮力を評価した。また、X軸の最大尿流時膀胱内圧/膀胱容量に対して、Y軸に最大尿流率/膀胱容量をプロットし、原点からの距離が近いほど、膀胱収縮力が弱く、原点からの距離が遠いほど、膀胱収縮力が強いと判断した。
結果を、表2、図19及び20(覚醒下でのシストメトリー(CMG)データ)、並びに図21(ノモグラム解析結果)に示す。
【表2】
[前立腺重量及び血糖値]
A3群及びC0.3群は、溶媒群に対して、前立腺腹葉、前立腺背側葉及び前立腺全体の重量を同じ程度で有意に萎縮させた(P<0.05)。なお、正常群と溶媒群との対比において、前立腺重量に有意差がないことから、前記糖尿病誘発モデルは、前立腺が肥大していないモデルである。このような糖尿病モデルにおいて、A3群及びC0.3群は、前記試験例4と同様に、溶媒群の血糖値に対して統計的に影響を与えなかったため、化合物A及び化合物Cには糖尿病の治療効果が認められないことが確認された。
[シストメトリー(CMG):残尿量及び排尿効率]
覚醒下でのシストメトリー(CMG)測定データの解析結果から、図19及び図20に示されるように、溶媒群は、STZ処理(糖尿病誘発)に伴って、正常群に対して、残尿量が有意に増加し、排尿効率が有意に低下した(p<0.05)。これらのことから、前記糖尿病誘発モデルは、排尿障害を発症している。これに対して、A3群は、溶媒群に対して、残尿量を有意に減少させた(p<0.05)が、C0.3群は、溶媒群の残尿量に対して統計的に影響を与えなかった。また、A3群は、溶媒群に対して、排尿効率を有意に改善した(p<0.05)が、C0.3群は、溶媒群の排尿効率に対して統計的に影響を与えなかった。なお、排尿効率に関し、A3群とC0.3群との間には統計的に差のある傾向が認められた(p=0.0757,Studentのt検定)。
また、ノモグラフ解析(図21)において、正常群のプロットは原点から最も離れた位置にあり、C0.3群は溶媒群とほぼ同じ位置にあった。これに対して、A3群のプロットは溶媒群よりも原点から離れた位置にあった。このことから、A3群は、溶媒群及びC0.3群よりも排尿時の膀胱収縮力が強いと判断される。
このように、化合物A(A3群)には糖尿病の治療効果が認められず、しかも、前立腺が肥大していない糖尿病誘発モデルでも、排尿障害を有意に改善できる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の排尿障害改善剤は、式(1)で表される2−オキサプレグナン化合物を含むため、残尿感、尿勢減弱、尿失禁、頻尿などの排尿障害を有効に改善できる。そのため、排尿障害を患ったヒト(特に、高齢者)のクオリティ オブ ライフを改善し向上させることができる。
【要約】
前立腺肥大の程度又は有無にかかわらず、排尿障害を治療又は改善(若しくは緩和)するのに有用な排尿障害改善剤を提供する。
排尿障害改善剤は、下記式(1)で表される2−オキサプレグナン化合物を有効成分として含んでいる。
(式中、R〜Rはメチル基などのアルキル基を示し、Rはアセチル基などのアルキルカルボニル基を示し、Xは塩素原子などのハロゲン原子を示し、Yはステロイド骨格の11位、15位又は16位に結合したヒドロキシル基又はオキソ基を示す)
図1
図2
図3
図4
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