【実施例】
【0055】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0056】
試験例1
ラットの下部尿路閉塞モデルを試験系として用い、この下部尿路閉塞モデルに、被験物質を2週間に亘り反復経口投与し、下部尿路閉塞モデルの排尿機能に対する作用について検討した。
【0057】
より詳細には、前記ラット(雌性、Crl:CD(SD)、8週齢;日本チャールスリバー社)に下部尿路閉塞手術を施し、被験物質を2週間に亘り、1日1回の割合で反復経口投与し、投与終了後、麻酔下、膀胱にカテーテル留置術を行い、無麻酔下でシストメトリーした後、ウレタン麻酔下でシストメトリーし、深麻酔下で安楽死処置し、組織(膀胱、腎臓)を摘出した。また、正常群として、下部尿路閉塞手術を施すことなく、前記ラットを用いた。
【0058】
試験系、被験物質および投与量は以下の通りである。
【0059】
正常群:0.5v/v%ポリソルベート80溶液、10mL/kg(n=6)
溶媒群(対照群):0.5v/v%ポリソルベート80溶液、10mL/kg(n=15)
A群:化合物A、10mg/kg)(n=15)
B3群:化合物B、3mg/kg(n=7)
B10群:化合物B、10mg/kg(n=7)
【0060】
なお、化合物A及び化合物Bの化合物名は、以下の通りである。
化合物A:17α−アセトキシ−6−クロロ−15β−ヒドロキシ−2−オキサ−4,6−プレグナジエン−3,20−ジオン
化合物B:TZP−4238(17α−アセトキシ−6−クロロ−2−オキサ−4,6−プレグナジエン−3,20−ジオン
【0061】
そして、残尿量、排尿効率、膀胱容量について、次のようにして測定した。
【0062】
[残尿量]
排尿後に、膀胱に留置したカテーテルの他端より、残存した尿を吸引して容量(mL)を測定した。
【0063】
[排尿効率]
排尿後に、尿の重量を測定して排尿量(g=mL)を求めた後、以下の計算式にて排尿効率を算出した。
排尿効率(%)=[(排尿量(mL))/(排尿量(mL)+残尿量(mL))]×100
【0064】
[膀胱容量]
排尿量と残尿量から、以下の計算式にて膀胱容量を算出した。
膀胱容量(mL)=排尿量(mL)+残尿量(mL)
【0065】
また、摘出した膀胱及び腎臓の湿重量を測定した。
【0066】
図1〜
図6に、雌性ラット下部尿路閉塞モデルでの残尿量、排尿効率、膀胱容量、摘出した組織(膀胱、腎臓)の湿重量及び生存率の結果を示す。なお、
図1は残尿量と被験物質との関係を示し、
図2は排尿効率と被験物質との関係を示す。また、
図3は膀胱容量と被験物質との関係を示し、
図4及び
図5は膀胱及び腎臓湿重量と被験物質との関係を示し、
図6は生存率と被験物質との関係を示す。
【0067】
図1〜
図3から明らかなように、B群(B3群及びB10群)は、対照群(溶媒群)に比べて残尿量及び膀胱容量を有意に増加させ、排尿効率を低下させたのに対して、A群は、対照群に比べて残尿量及び膀胱容量を有意に低減させ、排尿効率を増加させた。また、
図4及び
図5から明らかなように、A群は下部尿路閉塞に伴う膀胱及び腎臓湿重量の増加を有意に抑制する方向に作用したが、B群はむしろ増加させる方向に作用した。このように、B群は、排尿機能を改善しないか、むしろ悪化させる方向に作用したのに対して、A群は、下部尿路閉塞に伴って低下した排尿機能を有意に改善した。さらに、A群は、前立腺のない雌性ラットの下部尿路閉塞モデル系で排尿機能が有意に改善したことから、化合物Aは、前立腺肥大の有無に拘わらず、排尿障害を改善することが分かる。
【0068】
さらに、
図6から明らかなように、B群は下部尿路閉塞ラットの生存率を低下させたが、A群では生存率の低下が見られなかった。このことから、化合物Aは安全性が高いことも確認された。
【0069】
なお、同じ2−オキサプレグナン化合物(プロゲステロン類)に属する化合物であるにも拘わらず、雌性ラットで上記のような結果が得られた理由は明確ではないが、次のように考えられる。
【0070】
一般的に、臨床において、妊娠中に増加するプロゲステロンにより、膀胱を含む子宮周辺臓器は弛緩するものと考えられている。ラットにおいても、妊娠やプロゲステロンが膀胱ムスカリン受容体に影響して膀胱容量を増大したり、膀胱収縮を抑制することが報告されている(Pharmacology. 50(3):192-200.1995)。また、膀胱は、プロゲステロンによる弛緩に加え、妊娠子宮による後方からの機械的圧迫のため、機能的にも低緊張状態を呈する。そのため、残尿や膀胱尿管逆流現象を招く可能性がある。
【0071】
B群は強いプロゲステロン様作用を有し、上記メカニズムにより膀胱収縮を抑制すると考えられるが、前記雌性下部尿路閉塞モデルなどのように、膀胱機能が強く障害された病態モデルにおいて、B群では、化合物Bにより過度に膀胱収縮が抑制されて病態が悪化した可能性が考えられる。
【0072】
一方、化合物Aは、軽度な抗プロゲステロン作用を有する。雌ラットの性周期は4日間程度であり、A群では、化合物Aが性周期に応じて増加する内因性のプロゲステロンに拮抗し、下部尿路閉塞モデルの膀胱機能のさらなる抑制に対して保護的に作用した可能性が考えられる。
【0073】
試験例2
ラットの下部尿路閉塞モデルを試験系として用い、この下部尿路閉塞モデルに、被験物質を14日間に亘り反復経口投与し、下部尿路閉塞モデルの排尿機能に対する作用について検討した。なお、上記下部尿路閉塞モデルは、前立腺が肥大した前立腺肥大症モデルではない。
【0074】
より詳細には、前記ラット(雄性、Crl:CD(SD)、8週齢;日本チャールスリバー社)に下部尿路閉塞手術を施し、被験物質を14日間に亘り、1回/日の割合で反復経口投与し、投与終了後、麻酔下、膀胱にカテーテル留置術を行い、無麻酔下でシストメトリーし、残尿量、排尿効率を評価した。
【0075】
試験系(下部尿路閉塞雄性ラット)での被験物質と投与量は以下の通りである。
【0076】
溶媒群(対照群):0.5v/v%ポリソルベート80溶液、10mL/kg(n=8)
A群:化合物A、10mg/kg(n=12)
C群:化合物C(デュタステリド)、0.5mg/kg(n=11)
なお、デュタステリドは5α還元酵素阻害薬である。
【0077】
結果を
図7及び
図8に示す。
【0078】
図7及び
図8から、雄性ラット下部尿路閉塞モデルにおいて、A群はC群(デュタステリド)に比べて排尿機能(残尿量、排尿効率)の改善作用が強いことが示唆された。
【0079】
試験例3
高週齢雄性ラット(22週齢;日本チャールスリバー社)での膀胱及び尿道収縮反応と被験物質との関係を調べた。なお、前記ラットは、高週齢のため、前立腺が肥大していると予測されるモデルである。
【0080】
上記高週齢雄性ラットに被験物質を2週間に亘り、1回/日の割合で反復経口投与した後、膀胱標本を摘出した。そして、膀胱標本を用いて、95%O
2−5%CO
2ガスを通気した生理的塩類溶液で満たされた恒温(37℃)マグヌス管に静止張力約9.8mNで懸垂し、矩形波経壁電気刺激(EFS、Amplitude; 0.3 ms, Frequency; 1, 2, 5, 10, 20 Hz, Duration; 5s)、Carbachol(CCH、100 nmol/L〜100 μmol/L)及びKCl(40、80 mmol/L)を適用して等尺性で収縮実験を行った。
【0081】
試験系(高週齢雄性ラット)での被験物質と投与量は以下の通りである。
【0082】
溶媒群(対照群):0.5v/v%ポリソルベート80溶液、10mL/kg(n=6)
A群:化合物A、10mg/kg(n=6)
C群:化合物C(デュタステリド)、0.3mg/kg(n=6)
【0083】
結果を
図9及び
図10に示す。
【0084】
図9及び
図10から、C群に比べて、A群では、矩形波経壁電気刺激(膀胱遠心性神経刺激)、Carbachol(ムスカリン受容体刺激)及びKCl(脱分極依存性Ca
2+刺激)による膀胱収縮張力が有意に強いか又は強い方向性にあった。
【0085】
試験例4
以下のように、排尿障害モデルとして、糖尿病に伴う排尿障害モデルを調製し、排尿障害について評価した。なお、このモデルは、前立腺肥大症を伴っておらず、神経障害及び平滑筋収縮の障害に伴う排尿障害モデルである。
【0086】
ラット(雄性、Crl:CD(SD)、5週齢;日本チャールスリバー社)の体重を測定し、一晩絶食後、尾静脈から血液を採取し、空腹時血糖を測定し、体重と空腹時血糖値とに基づいて、多変数ブロック化割り付けにより、2つの群に群分けした。群分け翌日に、第1の群に濃度0.1mmol/Lのクエン酸バッファー(pH4.5)(10mL/kg)を腹腔内投与し、第2の群にストレプトゾシン(STZ;Sigma-aldrich社)(50mg/kg)を腹腔内投与した。なお、ストレプトゾシン(STZ)は濃度5mg/mLの上記クエン酸バッファー溶液として投与した。
【0087】
ストレプトゾシン(STZ)の投与から約1週間後に体重及び空腹時血糖を測定し、ストレプトゾシン(STZ)投与群(第2の群)において、空腹時血糖値が300mg/dL以上の個体を糖尿病誘発動物として採用した。これらの糖尿病誘発動物は前立腺に異常がない(前立腺肥大症ではない)モデルである。糖尿病誘発動物(モデル)を、体重と空腹時血糖値とに基づいて、多変数ブロック化割り付けにより、3つの群に群分けした。
【0088】
群分けした糖尿病誘発モデルに、0.5v/v%ポリソルベート80溶液(0.5%P)(10mL/kg)又は化合物A(3又は10mg/kg)を1日1回、平日のみ、4週間に亘る投与スケジュールで経口投与した。また、前記第1の群にも、0.5v/v%ポリソルベート80溶液(0.5%P)(10mL/kg)を上記と同じ投与スケジュールで経口投与した(正常群)。投与最終日にイソフルラン麻酔下で、膀胱頂部にカニューレを挿入・固定し、覚醒下とウレタン麻酔下の順で、シストメトリー(Cystometogram,CMG)し、膀胱内圧、排尿量及び残尿量を測定した。測定終了後、イソフルラン深麻酔下、採血した後、前立腺(腹葉、背側葉)、精嚢、膀胱及び腎臓を摘出し、それぞれの重量を測定した。また、採取した血液中の血糖値を測定した。
【0089】
試験系(糖尿病に伴う排尿障害ラット)での被験物質と投与量は以下の通りである。
【0090】
正常群:クエン酸バッファー10mL/kg(腹腔内投与),0.5%P 10mL/kg(経口投与)(n=10)
溶媒群(対照群):STZ50mg/kg(腹腔内投与),0.5%P 10mL/kg(経口投与)(n=10)
A3群:STZ 50mg/kg(腹腔内投与),化合物A 3mg/kg(経口投与)(n=10)
A10群:STZ 50mg/kg(腹腔内投与),化合物A 10mg/kg(経口投与)(n=9)
【0091】
排尿パラメータ:
得られた膀胱内圧、排尿量及び残尿量のデータを解析し、排尿パラメータとして、1回の排尿毎に膀胱容量(mL)、残尿量(mL)、排尿効率(%)を求めた。これらの排尿パラメータについて、2回の測定値の平均値を求め、各個体の測定値とした。
【0092】
組織重量:
前立腺腹葉及び前立腺背側葉の重量から前立腺全体の重量を算出した。前立腺、精嚢、膀胱及び腎臓の重量については、体重100g当たりの組織重量に換算した。また、化合物Aを投与したA3群及びA10群については、溶媒群の前立腺及び精嚢の重量に対して、前立腺及び精嚢の重量の抑制率を算出した(小数点第1位まで)。
【0093】
統計解析では、最終体重、体重100g当たりの組織重量(前立腺、精嚢、膀胱及び腎臓)、血糖値、各種排尿パラメータについて、各群の平均値及び標準偏差を算出した。統計解析には、SAS統計解析システム(SAS version 9.4;SAS Institute Japan(株)製)を用いて有意差検定した。なお、正常群と溶媒群との間では両側のStudentのt検定を行い、危険率5%未満を統計的に有意差があると判断した。また、溶媒群とA3群及びA10群との間ではWilliamsの多重比較検定を行い、危険率2.5%未満を統計的に有意差があると判断した。
【0094】
なお、5%有意(P<0.05(対正常群)(Studentのt検定))であることを「*」で示し、2.5%有意(P<0.025(対溶媒群)(Williamsの多重比較検定))であることを「#」で示す。
【0095】
ノモグラム解析による膀胱収縮力:
麻酔下でのシストメトリー(CMG)において、最大尿流率(mL/秒)と最大尿流時膀胱内圧(cmH
2O)を求め、各群の排尿時の膀胱収縮力を評価した。すなわち、各群について、最大尿流率Qmax(mL/秒)、最大尿流時膀胱内圧PdetQmax(cmH
2O)及び膀胱容量BC(mL)の平均値を求め、X軸の最大尿流時膀胱内圧/膀胱容量に対して、Y軸に最大尿流率/膀胱容量をプロットし、原点からの距離が近いほど、膀胱収縮力が弱く、原点からの距離が遠いほど、膀胱収縮力が強いと判断した。
【0096】
結果を表1、
図11〜
図13(覚醒下でのシストメトリー(CMG)データ)及び
図14〜
図16(麻酔下でのシストメトリー(CMG)データ)並びに
図17(ノモグラム解析結果)に示す。なお、表中の各欄には「平均値±標準偏差」を記載した。
【0097】
【表1】
【0098】
[体重、組織重量及び血糖値]
溶媒群(対照群)では、正常群に比べて、体重が有意に減少し、膀胱及び腎臓重量が有意に増加した。また、血糖値も有意に上昇した。これに対して、A3群及びA10群では、前立腺及び精嚢重量が有意に減少し、体重、血糖値、並びに膀胱及び腎臓重量には作用しなかった。
【0099】
なお、溶媒群に対するA3群及びA10群の血糖値から明らかなように、化合物Aには糖尿病の治療効果が認められない。また、糖尿病誘発モデルでは、前立腺が肥大することなく、排尿障害を発症している。
【0100】
[シストメトリー(CMG):膀胱容量、残尿量及び排尿効率]
覚醒下でのシストメトリー(CMG)測定データの解析結果を
図11〜
図13に示す。溶媒群(対照群)では、正常群に比べて、膀胱容量及び残尿量が有意に増加し、排尿効率が有意に低下した。溶媒群(対照群)に対して、A3群では、膀胱容量及び残尿量が有意に減少し、排尿効率が改善した。A10群でも、膀胱容量及び残尿量が有意に減少し、排尿効率が有意に改善された(P=0.0359、Williamsの多重比較検定)。
【0101】
麻酔下でのシストメトリー(CMG)測定データの解析結果を
図14〜
図16に示す。溶媒群(対照群)では、正常群に比べて、膀胱容量及び残尿量が有意に増加し、排尿効率が有意に低下した。溶媒群(対照群)に対して、A3群では、残尿量が有意に減少した。A10群でも、残尿量が有意に減少し、膀胱容量も減少した(P=0.0336、Williamsの多重比較検定)。また、A3群及びA10群では、排尿効率が改善した。
【0102】
さらに、A3群及びA10群は、ノモグラム解析(
図17)において、溶媒群(対照群)に比べて、原点からの距離が遠いことから、排尿時の膀胱収縮力が強いと判断される。
【0103】
このように、化合物Aには糖尿病の治療効果が認められず(A3群及びA10群)、しかも、前立腺が肥大していない糖尿病誘発モデルでも、排尿障害を有意に改善できる。
【0104】
試験例5
化合物Aおよび化合物D(ミフェプリストン)について、抗プロゲステロン活性を測定した。すなわち、試験系としての卵巣摘除ラットに、性ホルモンとともに被験物質を反復投与し、ラット脱落膜腫形成に伴う子宮重量の変動(重量増加に対する抑制作用)を指標として抗プロゲステロン作用(抗プロゲステロン活性)を検討した。
【0105】
より詳細には、ラット(雌性、Crl:CD(SD)、5週齢:日本チャールスリバー社)に卵巣摘出手術を施し、手術の一週間後から高用量のエストロン5μg/匹を1回/日、3日間皮下投与した。1日休薬した後、翌日から1日1回8日間にわたり、低用量のエストロン(1μg/匹)を皮下投与し、プロゲステロン(6mg/kg)を筋肉内投与し、被験物質を経口投与した。途中、投与開始4日目に右側子宮に脱落膜化反応の刺激処置を施し、最終投与の翌日に子宮重量(右側体部)を測定した(n=6)。なお、E群には卵巣摘除及び脱落膜化反応の刺激処置を行ったが、ホルモン処置を行わなかった。
【0106】
試験系(卵巣摘除ラット)での被験物質と投与量は以下の通りである。
【0107】
E群:卵巣摘除ホルモン非処置ラット
0.5v/v%ポリソルベート80溶液、10mL/kg(n=6)
溶媒群(対照群):0.5v/v%ポリソルベート80溶液、10mL/kg(n=6)
A3群:化合物A、3mg/kg(n=6)
A10群:化合物A、10mg/kg(n=6)
A30群:化合物A、30mg/kg(n=6)
D群:化合物D(ミフェプリストン)、3mg/kg(n=6)
【0108】
結果を
図18に示す。
【0109】
図18に示されるように、溶媒群に対して、D群では有意な抑制作用(抑制率89.5%)が認められた。また、溶媒群に対して、A3群では有意な抑制作用は認められなかった(抑制率15.0%)ものの、A10群及びA30群では有意な抑制作用(抑制率がそれぞれ63.0%及び83.3%)が認められ、化合物Aが抗プロゲステロン活性を有することが明らかとなった。
試験例6
以下のように、試験例4に準じて、排尿障害モデルとして、ストレプトゾシン誘発糖尿病に伴う排尿障害モデルを作製し、前記化合物A及び化合物Cが排尿障害に及ぼす影響について評価した。なお、このモデルは、前立腺肥大症を伴っておらず、神経障害及び平滑筋収縮の障害に伴う排尿障害モデルである。
ラット(雄性、Crl:CD(SD)、5週齢;日本チャールスリバー社)の体重を測定し、体重に基づいて、2つの群に群分けした。群分け翌日に、第1の群に濃度0.1mmol/Lのクエン酸バッファー(pH4.5)(10mL/kg)を腹腔内投与し、第2の群にストレプトゾシン(STZ;Sigma-aldrich社)(50mg/kg)を腹腔内投与した。なお、ストレプトゾシン(STZ)は濃度5mg/mLの上記クエン酸バッファー溶液として投与した。
【0110】
ストレプトゾシン(STZ)の投与から約1週間後に体重及び空腹時血糖を測定し、ストレプトゾシン(STZ)投与群(第2の群)において、空腹時血糖値が300mg/dL以上の個体を糖尿病誘発動物として採用した。これらの糖尿病誘発動物は前立腺に異常がない(前立腺肥大症ではない)モデルである。糖尿病誘発動物(モデル)を、体重と空腹時血糖値とに基づいて、多変数ブロック化割り付けにより、3つの群に群分けした。
群分けした糖尿病誘発モデルに、0.5v/v%ポリソルベート80溶液(0.5%P)(10mL/kg)、化合物A(3mg/kg)又は化合物C(デュタステリド)(0.3mg/kg)を1日1回、平日のみ、4週間に亘る投与スケジュールで経口投与した。また、前記第1の群にも、0.5v/v%ポリソルベート80溶液(0.5%P)(10mL/kg)を上記と同じ投与スケジュールで経口投与した(正常群)。投与最終日にイソフルラン麻酔下で、膀胱頂部にカニューレを挿入・固定し、覚醒下とウレタン麻酔下の順で、シストメトリー(Cystometogram,CMG)し、膀胱内圧、排尿量及び残尿量を測定した。測定終了後、イソフルラン深麻酔下、採血した後、前立腺(腹葉、背側葉)を摘出し、それぞれの重量を測定した。また、採取した血液中の血糖値を測定した。
試験系(糖尿病に伴う排尿障害ラット)での被験物質と投与量は以下の通りである。
正常群:クエン酸バッファー10mL/kg(腹腔内投与),0.5%P 10mL/kg(経口投与)(n=10)
溶媒群(対照群):STZ50mg/kg(腹腔内投与),0.5%P 10mL/kg(経口投与)(n=10)
A3群:STZ 50mg/kg(腹腔内投与),化合物A 3mg/kg(経口投与)(n=10)
C0.3群:STZ 50mg/kg(腹腔内投与),化合物C(デュタステリド) 0.3mg/kg(経口投与)(n=10)
排尿パラメータ:試験例4と同様にして、排尿パラメータとして、1回の排尿毎に残尿量(mL)、排尿効率(%)を求め、2回の測定値の平均値を、各個体の測定値とした。
前立腺重量:試験例4と同様にして、前立腺(腹葉、背側葉及び全体)の重量から、体重100g当たりの組織重量に換算した。また、化合物Aを投与したA3群及び化合物Cを投与したC0.3群については、溶媒群の前立腺の重量に対して、前立腺の重量の抑制率を算出した(小数点第1位まで)。
統計解析では、試験例4と同様にして、有意差検定した。なお、正常群と溶媒群との間では両側のStudentのt検定を行い、危険率5%未満を統計的に有意差があると判断し、5%有意であることを「*」で示した。また、溶媒群とA3群及びC0.3群との間ではDunnettの多重比較検定を行い、危険率5%未満を統計的に有意差があると判断し、5%有意であることを「#」で示した。
ノモグラム解析による膀胱収縮力:試験例4と同様にして、各群の排尿時の膀胱収縮力を評価した。また、X軸の最大尿流時膀胱内圧/膀胱容量に対して、Y軸に最大尿流率/膀胱容量をプロットし、原点からの距離が近いほど、膀胱収縮力が弱く、原点からの距離が遠いほど、膀胱収縮力が強いと判断した。
結果を、表2、
図19及び20(覚醒下でのシストメトリー(CMG)データ)、並びに
図21(ノモグラム解析結果)に示す。
【表2】
[前立腺重量及び血糖値]
A3群及びC0.3群は、溶媒群に対して、前立腺腹葉、前立腺背側葉及び前立腺全体の重量を同じ程度で有意に萎縮させた(P<0.05)。なお、正常群と溶媒群との対比において、前立腺重量に有意差がないことから、前記糖尿病誘発モデルは、前立腺が肥大していないモデルである。このような糖尿病モデルにおいて、A3群及びC0.3群は、前記試験例4と同様に、溶媒群の血糖値に対して統計的に影響を与えなかったため、化合物A及び化合物Cには糖尿病の治療効果が認められないことが確認された。
[シストメトリー(CMG):残尿量及び排尿効率]
覚醒下でのシストメトリー(CMG)測定データの解析結果から、
図19及び
図20に示されるように、溶媒群は、STZ処理(糖尿病誘発)に伴って、正常群に対して、残尿量が有意に増加し、排尿効率が有意に低下した(p<0.05)。これらのことから、前記糖尿病誘発モデルは、排尿障害を発症している。これに対して、A3群は、溶媒群に対して、残尿量を有意に減少させた(p<0.05)が、C0.3群は、溶媒群の残尿量に対して統計的に影響を与えなかった。また、A3群は、溶媒群に対して、排尿効率を有意に改善した(p<0.05)が、C0.3群は、溶媒群の排尿効率に対して統計的に影響を与えなかった。なお、排尿効率に関し、A3群とC0.3群との間には統計的に差のある傾向が認められた(p=0.0757,Studentのt検定)。
また、ノモグラフ解析(
図21)において、正常群のプロットは原点から最も離れた位置にあり、C0.3群は溶媒群とほぼ同じ位置にあった。これに対して、A3群のプロットは溶媒群よりも原点から離れた位置にあった。このことから、A3群は、溶媒群及びC0.3群よりも排尿時の膀胱収縮力が強いと判断される。
このように、化合物A(A3群)には糖尿病の治療効果が認められず、しかも、前立腺が肥大していない糖尿病誘発モデルでも、排尿障害を有意に改善できる。