特許第6813727号(P6813727)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リッチコミュニケーションズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6813727-被着体接着ガラスの製造方法 図000002
  • 特許6813727-被着体接着ガラスの製造方法 図000003
  • 特許6813727-被着体接着ガラスの製造方法 図000004
  • 特許6813727-被着体接着ガラスの製造方法 図000005
  • 特許6813727-被着体接着ガラスの製造方法 図000006
  • 特許6813727-被着体接着ガラスの製造方法 図000007
  • 特許6813727-被着体接着ガラスの製造方法 図000008
  • 特許6813727-被着体接着ガラスの製造方法 図000009
  • 特許6813727-被着体接着ガラスの製造方法 図000010
  • 特許6813727-被着体接着ガラスの製造方法 図000011
  • 特許6813727-被着体接着ガラスの製造方法 図000012
  • 特許6813727-被着体接着ガラスの製造方法 図000013
  • 特許6813727-被着体接着ガラスの製造方法 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6813727
(24)【登録日】2020年12月22日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】被着体接着ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 5/06 20060101AFI20201228BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   C09J5/06
   C09J201/00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-11216(P2020-11216)
(22)【出願日】2020年1月9日
【審査請求日】2020年2月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510022680
【氏名又は名称】リッチコミュニケーションズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口 勝治
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−069390(JP,A)
【文献】 特開2019−038506(JP,A)
【文献】 特開2017−160288(JP,A)
【文献】 特開2008−100201(JP,A)
【文献】 特開2017−176989(JP,A)
【文献】 特開2016−55741(JP,A)
【文献】 特開平6−206442(JP,A)
【文献】 米国特許第4923555(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00− 5/10
7/00− 7/50
9/00−201/10
C03C27/00− 29/00
B60J 1/00− 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状に形成されたガラス材の一部に未硬化の湿気硬化型接着剤を介して被着体を接着してなる被着体接着ガラスの未硬化品を製造する工程と、
前記未硬化品の全体を加熱処理室内に収容し、前記未硬化品の被着体接着面を前記加熱処理室内に配置された過熱水蒸気噴射ノズルと対向に配置する工程と、
前記過熱水蒸気噴射ノズルから前記加熱処理室内に収容された前記未硬化品の被着体接着部及び少なくとも前記被着体接着部の周辺を含む被着体非接着部の双方に向けて過熱水蒸気を噴射し、前記未硬化品被着体接着部を所定の温度まで昇温する工程と、
前記被着体接着部を所定の時間に亘って前記所定の温度に保ち、前記未硬化の湿気硬化型接着剤を硬化して、前記被着体接着ガラスの完成品を製造する工程と、
を有することを特徴とする被着体接着ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記被着体接着ガラスの未硬化品及び完成品は、前記板状に形成されたガラス材の外周に沿ってリング状の前記被着体が接着されていることを特徴とする請求項1に記載の被着体接着ガラスの製造方法
【請求項3】
前記被着体接着ガラスの未硬化品及び完成品は、前記板状に形成されたガラス材の一縁部にコマ状の前記被着体が接着されていることを特徴とする請求項1に記載の被着体接着ガラスの製造方法
【請求項4】
前記被着体接着面の全面に向けて前記過熱水蒸気噴射ノズルから過熱水蒸気を噴射することを特徴とする請求項1に記載の被着体接着ガラスの製造方法
【請求項5】
前記被着体接着部と、前記被着体接着部の周辺の前記被着体非接着部とに向けて前記過熱水蒸気噴射ノズルから過熱水蒸気を噴射することを特徴とする請求項1に記載の被着体接着ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス材の一部に被着体を接着してなる被着体接着ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フロントガラス、リアガラス、ドアガラス、サイドウインドガラス及びサンルーフガラス等の自動車用ガラス製品は、湿気硬化型接着剤を用いてガラス材の所要の部分に所要の部品(被着体)を接着する方法で製造することが検討されている。この方法によれば、ガラス材に対する穴開け等の加工が不要になるので、自動車用ガラス製品の製造工程を効率化でき、自動車用ガラス製品ひいては自動車のコストダウンを図ることができる。また、湿気硬化型接着剤は、硬化時の歪みが小さいため、これを用いることによってガラス材の破損を防止でき、被着体接着ガラスの歩留まりを高めることができる。
【0003】
なお、湿気硬化型接着剤を用いてガラス材の一部に被着体を接着する方法は、自動車用ガラス製品の製造のみならず、他の技術分野で使用される他種のガラス製品の製造にも適用できる。本明細書では、湿気硬化型接着剤を用いてガラス材の一部に被着体を接着する方法で製造されるガラス製品を「被着体接着ガラス」という。
【0004】
被着体接着ガラスの製造装置としては、水蒸気を発生するボイラ部と、ボイラ部で発生した水蒸気を過熱して過熱水蒸気を発生する過熱器と、過熱器で発生した過熱水蒸気を接着部に向けて噴射する過熱水蒸気噴射部と、ガラス材の被着体接着部を覆い、その内部においてガラス材の被着体接着部に過熱水蒸気を噴射する過熱水蒸気室と、を備えた過熱水蒸気装置を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。過熱水蒸気装置を用いると、湿気硬化型接着剤に湿分を効率的に供給できるので、空中に放置する場合よりも湿気硬化型接着剤を速やかに硬化でき、被着体接着ガラスの製造を効率的に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017−160288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、被着体接着ガラスを効率的に量産するためには、ガラス材と被着体の接着部を80℃〜90℃の温度範囲に数分間(例えば1分間〜2分間)保持することが望ましいとされている。このようにすると、湿分が接着部の深部まで入り込みやすくなって、湿気硬化型接着剤を迅速に硬化できるからである。過熱水蒸気装置を用いる場合には、過熱水蒸気噴射部から190℃程度の高温の過熱水蒸気が噴射されるので、過熱水蒸気の熱を利用することによりガラス材と被着体の接着部を所定温度まで加熱することができる。
【0007】
しかしながら、従来の技術は、被着体が接着されたガラス材の一辺部のみを過熱水蒸気室内に収容して加熱するものであるので、例えばサイドウインドガラスやサンルーフガラスのように、ガラス材の周縁部に沿ってリング状の被着体が接着された被着体接着ガラスの製造には適さない。また、従来の技術は、被着体が接着されたガラス材の一辺部のみを加熱するものであることから、接着部を加熱するための熱がガラス材の非加熱部分を伝って外部に逃げやすいという問題がある。このため、従来の技術によっては、ガラス材と被着体の接着部を所定の温度まで昇温するのに長時間を要すると共に、ガラス材と被着体の接着部を所定の温度範囲に維持するのに多量のエネルギを必要とする。このような問題は、外気温が低い冬期において特に顕著になる。
【0008】
即ち、従来の技術は、被着体が接着されたガラス材の一辺部のみを過熱水蒸気室内に収容して加熱するものであるので、加熱部分と非加熱部分との温度差が大きくなり、加熱部分の熱が非加熱部分を伝って外部に放熱されやすい。そして、冬季においては、過熱水蒸気室内に収容される前の被着体接着ガラスの温度は、外気温とほぼ等しい5℃程度まで低下するので、加熱部分と非加熱部分との温度差は75℃〜85℃にも達し、加熱部分からの放熱量が甚大なものになる。このため、そもそもガラス材が加熱によって昇温しにくい物質であることと相俟って、ガラス材と被着体の接着部を所定の温度まで昇温するのに長時間を要すると共に、ガラス材と被着体の接着部を所定の温度範囲に維持するのに多量のエネルギを必要とすることになる。
【0009】
そこで、本発明は、湿気硬化型接着剤を用いた被着体接着ガラスの製造をより迅速かつ高エネルギ効率で行えるものとすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明は、上記の課題を解決するため、被着体接着ガラスの製造方法に関して、板状に形成されたガラス材の一部に未硬化の湿気硬化型接着剤を介して被着体を接着してなる被着体接着ガラスの未硬化品を製造する工程と、前記未硬化品の全体を加熱処理室内に収容し、前記未硬化品の被着体接着面を前記加熱処理室内に配置された過熱水蒸気噴射ノズルと対向に配置する工程と、前記過熱水蒸気噴射ノズルから前記加熱処理室内に収容された前記未硬化品の被着体接着部及び少なくとも前記被着体接着部の周辺を含む被着体非接着部の双方に向けて過熱水蒸気を噴射し、前記未硬化品被着体接着部を所定の温度まで昇温する工程と、前記被着体接着部を所定の時間に亘って前記所定の温度に保ち、前記未硬化の湿気硬化型接着剤を硬化して、前記被着体接着ガラスの完成品を製造する工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
被着体接着ガラスの全体を加熱処理室内に収容して必要な加熱処理を行うと、例えばサイドウインドガラスやサンルーフガラスのように、ガラス材の周縁部に沿ってリング状の被着体が接着された被着体接着ガラスの製造が可能になる。また、被着体接着ガラスの全体を加熱処理室内に収容して必要な加熱処理を行うと、被着体接着ガラスの一部のみを加熱処理室内に収容して必要な加熱処理を行う場合とは異なり、湿気硬化型接着剤を硬化するための熱がガラス材を伝って加熱処理室の外部に逃げることがない。従って、この方法によると、熱エネルギの無駄を削減できて、被着体接着ガラスの被着体接着部を所定の温度まで迅速に昇温できると共に、被着体接着ガラスの被着体接着部を所定の温度のまま保持しやすくなる。また、ガラス材の一部に被着体が接着された被着体接着ガラスを製造する場合において、被着体接着ガラスの被着体接着部のみならず被着体接着ガラスの被着体非接着部にまで過熱水蒸気を噴射して加熱すると、被着体接着ガラスの被着体非接着部に加えられた熱を被着体接着ガラスの被着体接着部に伝播できる。従って、この方法によると、被着体接着ガラスの被着体接着部を所定の温度までより迅速に昇温できると共に、被着体接着ガラスの被着体接着部を所定の温度のままより保持しやすくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、湿気硬化型接着剤を用いた被着体接着ガラスの製造をより迅速かつ高エネルギ効率で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る被着体接着ガラス製造装置の全体構成図である。
図2】実施形態に係る加熱処理室の正面側から見た断面図である。
図3】実施形態に係るコンベアの要部拡大図である。
図4】実施形態に係る加熱処理室の平面側から見た断面図である。
図5】実施形態に係る被着体接着ガラス製造装置に備えられる過熱水蒸気噴射ノズルの制御系統図である。
図6】実施形態に係る被着体接着ガラス製造装置で製造される被着体接着ガラスの第1例を示す斜視図である。
図7】実施形態に係る被着体接着ガラス製造装置で製造される被着体接着ガラスの第2例を示す斜視図である。
図8】実施形態に係る被着体接着ガラスの製造手順を示すフローチャートである。
図9】実施形態に係る被着体接着ガラスに対する過熱水蒸気噴射範囲の第1例を示す平面図である。
図10】実施形態に係る被着体接着ガラスに対する過熱水蒸気噴射範囲の第2例を示す平面図である。
図11】実施形態に係る被着体接着ガラスに対する過熱水蒸気噴射範囲の第3例を示す平面図である。
図12】実施形態に係る加熱処理室の他の例を示す正面側から見た断面図である。
図13】実施形態に係る加熱処理室のさらに他の例を示す正面側から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態に係る被着体接着ガラスの製造装置及び製造方法を図に基づいて説明する。なお、本発明の範囲は、以下に記載する実施形態の範囲に限定されるものではなく、本発明の要旨に反しない範囲で様々な設計変更を加えて実施されるものをも含むことは勿論である。
【0016】
図1に示すように、実施形態に係る被着体接着ガラス製造装置1は、水蒸気を発生するボイラ2と、ボイラ2で発生した水蒸気を過熱して過熱水蒸気を発生する過熱器3と、未硬化の湿気硬化型接着剤101を介してガラス材102の一部に被着体103が接着された被着体接着ガラス100(図6及び図7参照)の加熱処理及び未硬化の湿気硬化型接着剤101の硬化処理を行う加熱処理室4と、から主に構成されている。ボイラ2及び過熱器3の構成については、公知に属する事項であり、かつ本発明の要旨でもないので、説明を省略する。なお、図1においては、ボイラ2、過熱器3及び加熱処理室4がそれぞれ独立の別体に構成されているかのように描かれているが、加熱処理室4にボイラ2及び過熱器3を一体に組み込む構成とすることもできる。
【0017】
加熱処理室4は、断熱材を内蔵した金属製の構造体をもって箱状に構成されており、その内容積は、製造しようとする被着体接着ガラス100を全体として収容可能な大きさになっている。被着体接着ガラス100は、図6及び図7に示すように、湿気硬化型接着剤101を介してガラス材102の一部に所要の被着体103を接着してなる。図6に示す被着体接着ガラス100は、ガラス材102の外周に沿ってリング状の被着体103が接着されたものであり、図7に示す被着体接着ガラス100は、ガラス材102の一縁部にコマ状の被着体103が接着されたものである。図6に示す被着体接着ガラス100は、例えば自動車のサンルーフガラスとして使用されるものであり、図7に示す被着体接着ガラス100は、例えば自動車のドアガラスとして使用されるものである。被着体103は、金属製であっても樹脂製であっても良い。
【0018】
湿気硬化型接着剤101は、湿気により硬化が促進されるものであれば良く、特に限定されるものではない。即ち、湿気硬化型接着剤101としては、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系、変性シリコーン系などの公知の湿気硬化型接着剤が使用できる。また、湿気硬化型接着剤101は、一液型であっても、二液型であっても良い。これらの中では、自動車用湿気硬化型接着剤としての実績から、特に一液湿気硬化型ウレタン湿気硬化型接着剤が好ましい。湿気硬化型接着剤101には、充填剤、可塑剤、酸化防止剤、顔料、シランカップリング剤、分散剤、溶剤等を配合しても良い。
【0019】
加熱処理室4には、図2に示すように、未硬化の湿気硬化型接着剤101を介してガラス材102の一部に被着体103が接着された被着体接着ガラス(未硬化品)100の搬入口11と、湿気硬化型接着剤101が硬化された後の被着体接着ガラス(完成品)100の搬出口12とが形成されている。また、搬入口11の外側には未硬化品載置部13が設けられ、搬出口12の外側には完成品載置部14が設けられている。
【0020】
また、未硬化品載置部13と完成品載置部14の間には、未硬化品載置部13に載置された被着体接着ガラス100を、加熱処理室5を通して完成品載置部14まで搬送するコンベア15が備えられている。コンベア15は、図3に拡大して示すように、未硬化品載置部13の外端部に備えられた一対(図の手前側と奥側)のスプロケット16及び完成品載置部14の外端部に備えられた一対(図の手前側と奥側)のスプロケット17と、スプロケット16、17のいずれか一方に連結されたコンベア駆動モータ18と、スプロケット16、17に巻き掛けられた合計2本のチェーン19と、各チェーン19に両端が連結された複数のローラ20と、から構成されている。ローラ20は、チェーン19に連結される回転軸21と、回転軸21の外周に装着されたラバー製の保護体22と、からなる。本例のコンベア15は、ラバー製の保護体22を備えているので、被着体接着ガラス100を直接載置しても、被着体接着ガラス100の損傷を防止できる。
【0021】
加熱処理室4の内部には、図2及び図4に示すように、複数の過熱水蒸気噴射ノズル31が、加熱処理室4内に搬入された被着体接着ガラス100に向けて配列されている。図4の例では、コンベア15の移動方向X及びそれと直行する方向Yに関して複数の過熱水蒸気噴射ノズル31が等分に配列されている。複数の過熱水蒸気噴射ノズル31をこのように配列することにより、加熱処理室4内に搬入された被着体接着ガラス100に対して過熱水蒸気Aを均等に噴射できる。
【0022】
過熱水蒸気噴射ノズル31からは、190℃程度の高温の過熱水蒸気Aが噴射される。被着体接着ガラス100の被着体接着部は、過熱水蒸気Aの熱によって、湿気硬化型接着剤101の硬化に適した80℃〜90℃まで加熱される。従って、過熱水蒸気噴射ノズル31から被着体接着ガラス100までの距離や、過熱水蒸気噴射ノズル31からの過熱水蒸気Aの噴射量は、過熱水蒸気の熱によって被着体接着ガラス100の被着体接着部を可及的速やかに適温(80℃〜90℃)まで昇温できるように調整される。
【0023】
なお、過熱水蒸気噴射ノズル31の配列は、必ずしも全てを等分に配列する必要はなく、千鳥状に配置する等、任意の配列とすることができる。また、複数の過熱水蒸気噴射ノズル31は、その全てを同時にオフ状態からオン状態に、又は、オン状態からオフ状態に切り換える必要はなく、被着体接着ガラス100の形状やガラス材102に対する被着体103の接着位置に応じて、適宜の過熱水蒸気噴射ノズル31のみを選択的にオフ状態からオン状態に、又は、オン状態からオフ状態に切り換える構成とすることもできる。このような構成とすることにより、無駄な加熱水蒸気Aの噴射を抑制でき、被着体接着ガラス製造装置1のエネルギ効率を高めることができる。
【0024】
図5に示す被着体接着ガラス製造装置1において、複数の過熱水蒸気噴射ノズル31のそれぞれは、過熱器3から延びる過熱水蒸気管41に接続されている。そして、過熱水蒸気管41には、全ての過熱水蒸気噴射ノズル31への過熱水蒸気の供給を断続する主弁42と、過熱水蒸気を噴射する過熱水蒸気噴射ノズルを個々に選択するノズル選択弁43と、が備えられている。主弁42の開閉は、コントローラ44を介して接続された主弁スイッチ45を操作することにより行われる。また、ノズル選択弁43の開閉は、コントローラ44を介して接続されたノズル選択スイッチ46を操作することにより行われる。
【0025】
即ち、主弁スイッチ45を操作すると、主弁スイッチ45からスイッチ信号が出力され、出力されたスイッチ信号はコントローラ44に入力される。コントローラ44は、スイッチ信号を受けて、主弁42に切換信号を出力する。同様に、ノズル選択スイッチ46を操作すると、操作したノズル選択スイッチ46からスイッチ信号が出力され、出力されたスイッチ信号はコントローラ44に入力される。コントローラ44は、スイッチ信号を受けて、対応するノズル選択弁43に切換信号を出力する。本構成によると、ノズル選択スイッチ46を操作することによって、適宜の過熱水蒸気噴射ノズル31のみを選択的にオフ状態からオン状態に、又は、オン状態からオフ状態に切り換えることができる。
【0026】
次に、上述した被着体接着ガラス製造装置1を用いた被着体接着ガラス100の製造方法を、図8を用いて説明する。
【0027】
まず、被着体接着ガラス製造装置1に備えられたノズル選択スイッチ46を操作して、過熱水蒸気を噴射する過熱水蒸気噴射ノズル31を選択する(ステップS1)。
【0028】
次に、未硬化の湿気硬化型接着剤101を用いて所要のガラス材102の所要の部分に所要の被着体103が部分的に接着された被着体接着ガラス(未硬化品)100を用意する(ステップS2)。
【0029】
次に、ステップS2で作成された被着体接着ガラス(未硬化品)100を、未硬化品載置部13内まで延長されたコンベア15の一端に載置する(ステップS3)。
【0030】
次に、コンベア駆動モータ18を起動して、コンベア15上に載置された被着体接着ガラス(未硬化品)100を加熱処理室4内に搬入する(ステップS4)。
【0031】
次に、主弁スイッチ45を操作して主弁42を過熱水蒸気の噴射状態に切り換える(ステップS5)。これにより、ステップS1で選択した過熱水蒸気噴射ノズル31から過熱水蒸気Aが選択的に噴射される。
【0032】
図9図11に、サンルーフガラスを例にとって、被着体接着ガラス100に対する過熱水蒸気Aの噴射例を示す。図9の例では、被着体接着ガラス100の全面に過熱水蒸気Aをほぼ均等に噴射している。一方、図10の例では、被着体接着ガラス100の中央部分に過熱水蒸気Aが噴射されておらず、その他の部分に過熱水蒸気Aをほぼ均一に噴射している。いずれの場合にも、被着体103の接着部分と、被着体103の接着部分に隣接するガラス材102の部分に過熱水蒸気Aを噴射している。図11の例では、1つの過熱水蒸気噴射ノズル31から噴射される過熱水蒸気Aの噴射範囲を広くして、少ない過熱水蒸気噴射ノズル31で被着体接着ガラス100の被着体接着部分及びその周辺部分に、過熱水蒸気Aを同時に噴射できるようにしている。
【0033】
過熱水蒸気噴射ノズル31からの過熱水蒸気Aの噴射は、ステップS6で、所定の時間(例えば1分間〜2分間)が経過したと判断されるまで継続される。ここで、所定の時間とは、湿気硬化型接着剤101が十分に硬化するまでの時間として予め設定された時間をいう。なお、この段階においては、湿気硬化型接着剤101が全体に亘って完全に硬化する必要はなく、被着体接着ガラス100を次工程に移動する際に被着体103の脱落や位置ずれを生じない程度の硬化状態であっても良い。湿気硬化型接着剤101の硬化に必要な所定の時間は、このような観点から適宜調整される。なお、被着体接着ガラス100の製造に適した所定の温度や所定の時間は、使用する湿気硬化型接着剤101の種類、ガラス材102及び被着体103のサイズ等によって変化し、製造しようとする被着体接着ガラス100ごとに実験やシミュレーションによって求めることができる。
【0034】
ステップS6において、所定の時間が経過したと判断された場合(Yesの場合)は、主弁スイッチ45を操作して、主弁42を過熱水蒸気Aの噴射停止状態に切り換える(ステップS7)。ここに至り、未硬化の湿気硬化型接着剤101が十分に硬化された被着体接着ガラス100の完成品が得られる。
【0035】
次に、コンベア駆動モータ18を起動して、被着体接着ガラス100の完成品を加熱処理室4内から完成品載置部14に搬出する(ステップS8)。完成品載置部14に搬出された被着体接着ガラス100の完成品は、所要の搬送手段を用いて次工程(例えば自動車の組立工程)に搬送される。
【0036】
実施形態に係る被着体接着ガラス100の製造方法によると、被着体接着ガラス100の全体を加熱処理室4内に収容して未硬化の湿気硬化型接着剤101の硬化処理を行うので、被着体接着ガラス100の一部のみを加熱処理室4内に収容して湿気硬化型接着剤101の硬化処理を行う場合とは異なり、湿気硬化型接着剤101を硬化するための熱がガラス材102を伝って加熱処理室4の外部に逃げることがない。従って、この方法によると、熱エネルギの無駄を削減できて、被着体接着ガラス100の被着体接着部を、湿気硬化型接着剤101の硬化に適した所定の温度(例えば80℃〜90℃)まで迅速に昇温できると共に、被着体接着ガラス100の被着体接着部を所定の時間に亘って適温に保持しやすくなる。
【0037】
また、図9図11に示すように、実施形態に係る被着体接着ガラス100の製造方法によると、ガラス材102の一部に被着体103が接着された被着体接着ガラス100を製造する場合において、被着体接着ガラス100の被着体接着部のみならず、被着体接着ガラス100の被着体非接着部にまで過熱水蒸気Aを噴射して加熱するので、被着体接着ガラス100の被着体非接着部に加えられた熱を被着体接着ガラス100の被着体接着部に伝播できる。従って、この方法によると、被着体接着ガラス100の被着体接着部を所定の温度までより迅速に昇温できると共に、被着体接着ガラス100の被着体接着部を所定の温度のままより保持しやすくなる。よって、湿気硬化型接着剤101の硬化を迅速化することができ、被着体接着ガラス100の製造を効率化できる。
【0038】
なお、ステップS4〜S8の各手順については、例えばシーケンサを用いて自動的に実施することも可能である。
【0039】
以下、本発明に用いる被着体接着ガラスの製造装置及び製造方法の他の実施形態について列挙する。
【0040】
図12に示すように、加熱処理室4外には、被着体接着ガラス100の未硬化品を予備加熱するための予備加熱用ヒータ51を備えることもできる。予備加熱用ヒータ51を備えると、加熱処理室4内に収容する前に被着体接着ガラス100の未硬化品を程度加熱できるので、加熱処理室4内における処理時間を短縮化できる。予備加熱用ヒータ51としては、比較的安価にして設置が容易であることから、赤外線ヒータが好適に用いられる。また、予備加熱用ヒータ51は、被着体接着ガラス100の未硬化品からの放熱を抑制してエネルギ効率を高めるため、未硬化品載置部13に上方に配置することが望ましいが、これに限定されるものではない。
【0041】
また、図13に示すように、加熱処理室4内には、被着体接着ガラス100の表面に付着した水滴を乾燥するための乾燥用ヒータ52を備えることもできる。乾燥用ヒータ52を備えると、過熱水蒸気Aを噴射することによって被着体接着ガラス100の表面に付着した水滴を速やかに蒸発させて除去できるので、加熱処理室4内における処理時間を短縮化できる。乾燥用ヒータ52としては、比較的安価にして設置が容易であることから、赤外線ヒータや熱風ドライヤーが好適に用いられる。
【0042】
その他、上記の実施形態においては、被着体接着ガラス100の上方に過熱水蒸気噴射ノズル31を配置したが、被着体接着ガラス100の下方に過熱水蒸気噴射ノズル31を配置することもできるし、被着体接着ガラス100の上方及び下方の双方に配置することもできる。これにより、加熱処理室4の設計の自由度を高めることができる。
【符号の説明】
【0043】
1…被着体接着ガラス製造装置、2…ボイラ、3…過熱器、4…加熱処理室、11…搬入口、12…搬出口、13…未硬化品載置部、14…完成品載置部、15…コンベア、16、17…スプロケット、18…コンベア駆動モータ、19…チェーン、20…ローラ、21…回転軸、22…保護体、31…過熱水蒸気噴射ノズル、41…過熱水蒸気管、42…主弁、43…ノズル選択弁、44…コントローラ、45…ノズル選択スイッチ、51…予備加熱用ヒータ、52…乾燥用ヒータ、100…被着体接着ガラス、101…湿気硬化型接着剤、102…ガラス材、103…被着体、A…過熱水蒸気。
【要約】
【課題】湿気硬化型接着剤を用いた被着体接着ガラスの製造をより迅速かつ高エネルギ効率で行える装置及び方法を提供する。
【解決手段】 被着体接着ガラス製造装置1に、被着体接着ガラス100の加熱処理及び未硬化の湿気硬化型接着剤101の硬化処理を行う加熱処理室4を備える。加熱処理室4内には、被着体接着ガラス100に向けて過熱水蒸気Aを噴射する複数の過熱水蒸気噴射ノズル31を備える。加熱処理室4は、被着体接着ガラス100の全体を収容可能な容積を有し、複数の過熱水蒸気噴射ノズル31は、被着体接着ガラス100の被着体接着部及び被着体非接着部の双方に向けて過熱水蒸気Aを噴射する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13