【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明することにより、本発明の効果を明らかにする。本発明に係る消防用被覆部材、消防用ホース及びそれらの製造方法、並びに無人消防システムは、以下の本実施例によって制限されない。
【0036】
1.試験例の作製
[試験例1、2]
ホースとなる帝国繊維社製の150スーパーラインAから幅90mm、長さ140mm、厚さ4mmのホース試験片を準備し、これを試験例1とした。また、同様のホース試験片を準備して試験例2とした。
【0037】
[試験例3]
試験例1と同様の寸法を有する帝国繊維社製のノーメックス布を準備し、これを試験例1のホース試験片を覆って積層したものを試験例3とした。
【0038】
[試験例4]
幅1000mm、長さ1000mm、厚さ0.5mmの帝国繊維社製のケブラー布を準備し、この表面にスパッタリングによってアルミニウムを蒸着し、ケブラー布上に厚さ12μmのアルミニウム蒸着層を形成した。このアルミニウム蒸着層上にフッ素樹脂をコーティングしてコーティング層を形成し、三層の被覆部材を得た。この被覆部材を、アルミニウム層が最外層となるように、試験例1のホース試験片を覆って積層した試験例4とした。
【0039】
[試験例5]
試験例4と同様のケブラー布を準備し、アルミニウムを蒸着してアルミニウム蒸着層を形成し、二層の被覆部材を得た。この被覆部材を、アルミニウム層が最外層となるように、試験例1と同様のホース試験片を覆って積層したものを試験例5とした。
【0040】
[試験例6]
ホース試験片の代わりに、試験例1と同様のホースを充水し、充水ホース(静水圧、0MPa)を準備した。これに、試験例5と同様の2層の被覆部材を覆うことによって試験例6とした。
【0041】
2.熱伝達性試験
各試験例に対して、ISO6942に準拠した耐輻射熱試験を実施し、各試験例の耐熱性を検討した。
各試験例から35cmの距離に、輻射熱源としてヒーターを設置し、ヒーターの熱の暴露による各試験例の表面温度の経時的な変化を測定した。試験例1と試験例2〜6では、暴露面に対する入射熱流束密度(単位時間当たりの入射エネルギー量)を変えた。また、表面温度は、K熱電対をホースと被覆部材の中心部分に取り付けることによって、各試験例のホースと被覆部材のそれぞれの表面温度を測定した。試験例と試験条件の関係を下記表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
2.1.状態観察
輻射熱の暴露中、0分(試験前)、30分及び60分経過後に、各試験例の状態の変化を目視で観察した。
試験例1は、30分間輻射熱に暴露すると、ホースが変形し、60分間暴露すると、ホース表面が溶解した。30分経過時のホースの表面温度は171℃であり、60分経過時の表面温度は199℃であった。試験例2は、30分間輻射熱に暴露すると、ホース表面が溶解し、60分間暴露すると溶解したホースのジャケットに収縮が生じていた。30分経過時のホースの表面温度は249℃であり、60分経過時の表面温度も249℃であった。また、試験例3は、30分間輻射熱に暴露すると、被覆部材が熱により変色し、60分間暴露すると、ホース表面が溶解してジャケットの収縮が生じていた。60分経過時のホースの表面温度は199℃であり、被覆部材の表面温度は244℃であった。
【0044】
これに対して、試験例4は、60分間輻射熱に暴露すると、少量の収縮と変色が見られたが、試験例1〜3と比較すると、その原形をほぼ維持していた。60分経過時のホースの表面温度は164℃であり、被覆部材の表面温度は195℃であった。試験例5は、60分間輻射熱に暴露しても、ホースと被覆部材に変化は見られなかった。60分経過時のホースの表面温度は94℃であり、被覆部材の表面温度は159℃であった。また、試験例6も、60分間輻射熱に暴露しても、ホースと被覆部材に変化は見られなかった。60分経過時のホースの表面温度は67℃であり、被覆部材の表面温度は130℃であった。
【0045】
試験例1〜3の結果より、被覆部材を備えた消防用ホースのほうが、耐熱性に優れることがわかった。また、試験例3と試験例4の結果を比較すると、ノーメックス布の代わりにケブラー布を備えた試験例4のホースは、10kW/m
2の熱流束への暴露に耐えることができ、耐熱性に優れることがわかった。よって、試験例3のように、耐熱性布だけでは、熱線を反射することができず、温度上昇を抑制する効果は低い。試験例4のように耐熱性布にアルミニウムを蒸着することで、熱線を反射することができ、ホースの温度上昇を抑えることができる。すなわち、基布の耐熱性の優劣よりも、アルミニウム層の有無がより重要であり、アルミニウム層があれば熱線を反射するため温度上昇が抑制されることがわかった。
【0046】
さらに、試験例4と試験例5の結果を比較すると、同じ蒸着布を用いた場合でも、蒸着層を最外層に配置したほうが良いことがわかった。また、コーティング層をさらに最外層として形成するよりも、アルミニウム層を被覆部材の最外層としたほうが、輻射熱の反射効率の高さを十分に発揮させて、耐熱性を向上できることがわかった。さらにまた、試験例6の結果より、充水ホースと用いれば、ホース内部の水による冷却効果をさらに得ることができるため、耐熱性をより向上すると共に、ホースと被覆部材の表面温度をさらに低く維持できることがわかった。
【0047】
2.2.温度上昇の評価
耐輻射熱試験中の各試験例2〜6について、それらの経時的な温度変化を評価した。
図3(a)は、耐輻射熱試験中に測定した各試験例の被覆部材の温度変化を示し、
図3(b)は、耐輻射熱試験中に測定した各試験例のホースの温度変化を示す。
図3(a)及び(b)に示すように、試験例2〜6の被覆部材の表面温度は、輻射熱の暴露開始から10分後に急激に上昇し、20〜60分までほぼ一定の温度に維持していた。
【0048】
結果より、アラミド繊維を備えた試験例3の消防用被覆部材及びホースであれば、試験例2よりも耐熱性に優れ、0〜60分間の輻射熱の暴露による表面温度の上昇を抑制できることがわかった。また、好適には、パラ系アラミド繊維とアルミニウム蒸着層とを備えた試験例4の消防用被覆部材及びホースであれば、試験例2及び3よりも耐熱性に優れ、0〜60分間の輻射熱の暴露による表面温度の上昇を抑制できることがわかった。さらに、より好適には、アルミニウム層を最外層とした試験例5及び6の消防用被覆部材及びホースであれば、試験例1〜4よりも耐熱性に優れ、0〜60分間の輻射熱の暴露による表面温度の上昇をより抑制できることがわかった。
【0049】
続いて、
図3(a)及び(b)に示す各試験例の初期(0〜10分間)の温度上昇値に着目し、短時間での温度上昇値に起因する消防用被覆部材及びホースの劣化について検討した。
図3(a)に示す被覆部材の温度変化について、試験例4の被覆部材あれば、輻射熱による初期の温度上昇値を約170℃まで抑えることができ、初期の温度上昇値が約180℃〜235℃である試験例2及び3と比較して、被覆部材の劣化を抑制できることがわかった。さらに好適には、試験例5及び6の被覆部材であれば、初期の温度上昇値を約110〜120℃まで抑えることができるため、被覆部材の劣化をより抑制できることがわかった。
【0050】
また、
図3(b)に示すホースの温度変化について、試験例4のホースあれば、輻射熱による初期の温度上昇値を約145℃まで抑えることができ、温度の上昇値が約180〜235℃である試験例2及び3と比較して、被覆部材の劣化に加え、その内部に配置されたホースの劣化も抑制できることがわかった。さらに好適には、試験例5及び6のホースであれば、初期の温度上昇値を約40〜50℃まで抑えることができるため、ホースの劣化をより抑制できることがわかった。
【0051】
3.耐圧性能の測定
試験後の試験例6に対して、日本消防検定協会発行の消防用ホースの品質評価細則に記載された方法により破断圧を測定した。結果より、試験例6の破断圧は4.6MPaであった。これにより、試験例6は、60分間の輻射熱の後でも、未加熱のホース、すなわち150スーパーラインAと同等の耐圧性能を有していることがわかった。したがって、試験例6の消防用ホースは、輻射熱による素材の劣化を防ぎ、繰り返し使用できることを確認した。
【0052】
4.高温火災を想定した評価
防油堤火災、タンク火災等の高温火災現場にて試験例1〜6の消防用ホースの使用することを想定し、その適正について評価した。下記式(1)、式(2)〜(6)、表2並びに
図4(a)及び
図4(b)に示す位置関係と形態係数とを用いて、防油堤火災及びタンク火災における円筒形火災面からの距離(m)による各可燃性液体の輻射熱強度E(kW/m
2)を計算した。なお、アルコール類とLNGを除く可燃性液体については、低減率として0.3を計算結果に乗じて輻射熱強度としている。
【0053】
【数1】
【0054】
【数2】
【0055】
【表2】
【0056】
4.1.防油堤火災を想定した評価
防油堤火災を想定し、各試験例の消防用ホースの適正を評価した。
図5は、想定した80000m
2の防油堤火災における円筒形火災面からの距離(m)による各可燃性液体の輻射熱強度(kW/m
2)を示す。想定した防油堤火災は、
図4(a)中の火炎底面半径(R)を159.6mとし、火炎高さ(H)を478.8mと推定して計算した。また、
図5中の円筒形火災面からの距離(m)は、
図4(a)の円筒形火災面からの距離(L)と火炎底面半径(R)との差異とした。
【0057】
図5に示すように、火災面からの距離が10mの位置では、ベンゼン、ガソリン、灯油、軽油、原油、重油、メタノール及びエタノールの輻射熱は、10kW/m
2以下であることがわかった。また、輻射熱が10kW/m
2以下となる距離は、プロパン及びプロピレンの場合は20mであり、n−ヘキサン及びn−ブタンの場合は40mであった。
【0058】
結果より、石油類、アルコール類の輻射熱が10kW/m
2以下であることから、試験例1〜3の消防用ホースでは溶解してしまうことがわかった。これに対して、試験例4の消防用ホースであれば、防油堤火災の火災面から10mであっても、少なくとも60分間使用できることがわかった。より好適には、試験例5及び試験例6の消防用ホースであれば、防油堤火災の火災面から10mであっても、十分に使用できることがわかった。さらに、試験例5及び試験例6の消防用ホースは、無人消防システムにおいて特に好適であることを確認した。
【0059】
また、エチレンの輻射熱が10kW/m
2以下となる距離は150mであり、LNGの輻射熱が10kW/m
2以下となる距離は380mであった。したがって、試験例5及び6の消防用ホースであれば、ホースの先端から200m以上、好適には400m以上被覆部材によって被覆されていれば、防油堤火災に対応できることがわかった。
【0060】
4.2.タンク火災を想定した評価
高温火災の例としてタンク火災を想定し、試験例1〜6の消防用ホースの使用適正を評価した。
図6は、想定したタンク火災における円筒形火災面からの距離(m)による各可燃性液体の輻射熱強度(kW/m
2)を示す。想定したタンク火災は、
図5(a)中の火炎底面半径(R)をタンク半径として50mとし、火炎高さ(H)を150mと推定して計算した。さらに、液面高さを20mとして
図5(b)中の形態係数を算出した。また、
図6中の円筒形火災面からの距離(m)は、
図5の円筒形火災面からの距離(L)と火炎底面半径(R)との差異とした。
【0061】
図6に示すように、タンク火災では、火災面からの距離が50mにおいて、各可燃性液体の輻射熱は最大値を示した。火災面からの距離が50mの位置では、LNGを除いた石油類及びアルコール類の輻射熱は、10kW/m
2以下であることがわかった。また、LNGについては、最大の輻射熱は11kW/m
2であり、輻射熱が10kW/m
2以下となる距離は約80mであった。
【0062】
結果より、LNGの最大の輻射熱は11kW/m
2であることから、試験例1〜3の消防用ホースでは実使用にて溶解することがわかった。これに対して、試験例4の消防用ホースであれば、LNGを含むタンク火災であっても、少なくとも60分間使用できることがわかった。好適には、試験例5及び試験例6の消防用ホースであれば、タンク火災の火災面からの距離に関わらず、十分に使用できることがわかった。より好適には、タンク火災の火災面からの距離が80m以上あれば、劣化もなく繰り返し使用できることを確認した。さらに、試験例5及び試験例6の消防用ホースは、無人消防システムにおいて特に好適であることを確認した。