【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27、28年度環境省「環境研究総合推進費」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Niおよび/またはCoを含むリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として含む正極を備える電極体と、Fを含む電解質とが電池ケースに収容されたリチウムイオン電池の処理方法であって、
比誘電率が30以上の第1の溶媒と25℃における粘度が0.8mPa・s以下の第2の溶媒との混合溶媒を含む洗浄液で、前記電池ケース内を超音波を照射しながら洗浄し、前記Fの量を減少させる工程と、
前記洗浄に続いて、前記リチウムイオン電池を解体して前記電極体を取り出し、前記正極を回収する工程と
を備えることを特徴とするリチウムイオン電池の処理方法。
前記回収された正極から前記Niおよび/またはCoを含有する金属材料を得る工程をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のリチウムイオン電池の処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
1.全体構成
図1は、本実施形態において処理されるリチウムイオン電池(以下、LiBとも称する)の斜視図である。LiB10は、電池ケース12内に電解液とともに収容された電極体(図示せず)を備える。電池ケース12はアルミニウム合金製であり、ケース本体14および蓋体16を含む。ケース本体14と蓋体16とは、レーザー溶接されている。蓋体16には、安全弁18、正極端子20および負極端子22が設けられている。
【0013】
電極体は、セパレータを介して捲回された正極と負極とを含む。正極は、正極集電体および正極活物質層を有する。本実施形態においては、正極集電体はAl箔であり、正極における正極集電体の質量比は、5〜25質量%である。正極活物質層は、正極活物質、導電材、およびバインダーを含む。正極活物質層における導電材、バインダーの質量比は、それぞれ正極の0〜30質量%、0〜20質量%である。本実施形態においては、正極活物質は、Ni,Co等の遷移金属を含むリチウム遷移金属複合酸化物であり、例えば、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物である。
【0014】
負極は、負極集電体および負極活物質層を有する。本実施形態においては、負極集電体はCu箔であり、負極活物質は黒鉛である。セパレータとしては、一般的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂製の多孔質膜または不織布が用いられる。
【0015】
正極活物質としては、Niおよび/またはCoを含有する任意のリチウム複合酸化物を用いることができる。例えば、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物等から選択することができる。
【0016】
電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解可能なリチウム塩(電解質)とを含む非水電解液である。本実施形態で処理されるLiB10においては、非水溶媒としてカーボネート類が用いられ、電解質としてLiPF
6が用いられている。カーボネート類は、ジメチルカーボネート(DMC)を含む混合物である。電解質としては、LiBF
4、LiTFSA(リチウムトリフルオロメタンスルホニルアミド)、またはLiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド)等を用いることができる。
【0017】
本実施形態の方法では、
図2のフローチャートに示すように、ステップSP1、ステップSP2、ステップSP3、およびステップSP4にしたがってLiB10を処理して、Niおよび/またはCoを含む金属材料を得る。ステップSP1においては、LiB10を放電させる。次いで、ステップSP2においては、電池ケース内の洗浄を行う。ステップSP3においては、LiBを解体して正極を回収する。最後に、ステップSP4において回収された正極を、還元反応としてのテルミット反応に供して、Niおよび/またはCoを含む金属材料を得る。本実施形態においては、使用済みLiBを例に挙げて説明するが、本実施形態の方法で処理される電池は、使用済みのものに限定されない。製造後に不良が確認された未使用のリチウムイオン電池等も、本実施形態の方法により処理することができる。各工程について、それぞれ詳細に説明する。
【0018】
[放電]
ステップSP1について説明する。LiBを処理する際、電荷が残留しているLiBを解体すると、短絡が生じて発火の原因となるおそれがある。そこで、解体に先立って、使用済みLiBを放電させて残留電荷を低減する。残留電荷は、可能な限り小さいことが望ましい。しかしながら、使用済みLiBを過放電させた場合には、電解液中に負極集電体からCuが溶出して正極を汚染する。LiBが過放電状態になると、正極電位が低下し、負極電位が上昇して、LiBの電圧が0Vに近づき、正負極間の等電位化が発生する。負極の電位が1Vを超えてCuの溶出限界電位に達すると、電気化学的に負極集電体からCuが溶出する。
【0019】
本実施形態においては、負極集電体から電解液中に溶出するCuの溶出量が、正極の質量に対して0.02質量%以下となるように放電を行う。Cuの溶出量は、放電条件、具体的には保持電圧および保持時間を適切に設定することで、正極の質量に対して0.02質量%以下とすることができる。Cuの溶出量が、正極の質量に対して0.02質量%以下であれば、Cuの影響は小さいので正極の汚染は無視できる。すなわち、後の工程で、テルミット反応により正極から得られる金属材料中のCu含有量を0.17質量%以下とすることができる。特に、正極における正極集電体、導電材、バインダーの質量比に応じてCuの溶出量を調整することにより、金属材料中のCu含有量を0.05質量%以下とすることができる。Cu含有量が0.05質量%以下の金属材料は、ニッケル金属水素化物電池用金属材料、水素貯蔵用金属材料として適用することができる。金属材料中のCu含有量が0.05質量%より大きいと、ニッケル金属水素化物電池や水素貯蔵金属として用いた場合、Cuの溶出により短絡が生じるおそれがある。
【0020】
回収された電池パック(48セル仕様)を用いて、強制放電方法について検証した。電池パックは、EH5(本田技研工業(株)製)である。放電試験に使用した機器は、東洋システム(株)製高圧BATTERY放電器TYS−91GE002である。本装置は、電池パックの放電に特化した装置である。具体的には、本装置は、40Ωの固定抵抗(電圧100V以上)を用いて、充電されたエネルギーを熱として排出する。
【0021】
放電開始前の電池パックの電圧は、単セル換算で3.6Vであった。リチウムイオン電池の放電終止電圧は、通常2.7V程度とされていることから、放電終了電圧が2.7V/セルとなるように放電終了電圧を129.6Vとして、強制放電試験を実施した。強制放電後、電池パックを個々の電池セル単位に分解し、1.0V、0.6V、0Vまで1Cの条件でCC放電(定電流放電)を行った。その後60秒休止後に、CV放電(定電圧放電)の保持時間を変化させて放電条件を検証した。
【0022】
Cuの溶出量を測定するために、まず、放電後の電池セルを分解して、電極体を取り出した。正極を含む捲回体を巻き開いて正極を取り出し、得られた正極を洗浄した。洗浄後の正極の5箇所を打ち抜いて、サンプルを得た。サンプルは、正極が捲回されていた際の異なる箇所、具体的には、最外部、最内部、および中間部から打ち抜いた。得られたサンプルには、正極集電体と正極活物質層とが含まれている。このサンプルをサーモフィッシャーサイエンティフィック製(ELEMENT XR)ICP質量分析装置より分析して、サンプルの質量当たりのCu量を求めた。
【0023】
正極中に含まれているCuは、負極集電体から溶出して正極に移動したものである。サンプルを分析して得られた結果を、
図3に示す。
図3のプロット中の「×」は、放電後24時間放置し取り出した正極中のCu量である。残りのプロットは、放電直後に取り出した正極中のCu量である。
【0024】
電圧を0.6V、1.0Vとした場合、保持時間に関わらず正極中のCu量は6.4〜6.8μg/gと大きな差は見られなかった。また、0Vで360秒保持して放電し、24時間放置した後の正極についても、7.4μg/gと大きな変化は見られなかった。この結果より、放電後直ちに正極を取り出さなくても、Cu量は増加しないことが確かめられた。0Vの場合には、保持時間とともにCu量が増加し、360秒で8.5μg/gであった。
【0025】
保持電圧を0Vとし、保持時間を延長した際のCu量を
図4に示す。保持時間が360秒のとき、Cu量は8.5μg/gである(
図3参照)。保持時間が3600秒(1時間)の場合には、Cu量は大幅に増加して2500μg/gである。保持時間が86400秒(24時間)になると、Cu量は3133μg/gまで増加している。放電後の正極に含まれるCu量は、200μg/g(0.02質量%)以下であれば許容される。
【0026】
本実施形態の処理方法においては、テルミット反応により正極から金属材料を得るので、正極中に含まれるCuの量が金属材料に含まれるCuの量に反映される。テルミット反応前の正極中に含まれるCuの含有量を0.02質量%以下とすることにより、テルミット反応後に得られる金属材料中のCu含有量を0.17質量%以下とすることができる。具体的には、テルミット反応前の正極中に0.02質量%のCuが含有され、リチウム複合酸化物の組成がLiNiO
2であり、正極における集電体の質量割合が30質量%(最大割合)、正極における導電材の質量割合が30質量%(最大割合)、バインダーの質量割合が20質量%(最大割合)の場合、金属材料中のCu含有量は、約0.17質量%と算出される。
【0027】
本実施形態においては、正極における集電体の質量割合が20質量%、正極における導電材の質量割合が5質量%、バインダーの質量割合が5質量%である。この場合、リチウム複合酸化物の組成がLiNiO
2であって、テルミット反応前の正極中に0.02質量%のCuが含有されていると、金属材料中のCu含有量は、約0.05質量%と算出される。金属材料中のCu含有量を0.05質量%以下とすることにより、使用済みリチウムイオン電池の正極から回収された金属材料を、ニッケル金属水素化物電池の電極材料として再利用することが可能である。回収された金属材料は、水素貯蔵用金属として再利用することもできる。
【0028】
放電時のCuの溶出を抑制するために、保持電圧は、0.6V以上が好ましいが、短時間であれば0.6V未満でもCu量は増加しない。
図4によれば、保持電圧0Vの場合には、保持時間を30〜360秒の範囲とすることにより、正極中のCu量を200μg/gとすることができる。
【0029】
図5には、1Cレートで0.6VまでCC放電を行い、30秒休止後、0.6V−30秒のCV放電を行った後の残容量を測定した際の電流の変化を示す。この場合、放電処理後の残容量は207mAhであり、単三マンガン電池に相当する電荷レベルである。放電後のLiBの残容量は、充電率(State of Charge、SOC)10%以下が好ましい。本実施形態によれば、少なくとも単三マンガン電池に相当する電荷レベルに低減することができる。保持電圧0.6Vの場合には、保持時間を少なくとも30秒とすることにより、所望の電荷レベルまで放電することができる。
【0030】
以上に基づいて本実施形態においては、Cu溶出量が正極の質量に対して0.02質量%以下となり、かつ、SOCが10%以下となるように、保持電圧と保持時間とを組み合わせて条件を設定して、使用済みLiBの放電を行う。
【0031】
[電池ケース内の洗浄]
LiPF
6のようなフッ素(F)を含む電解質は、空気中の水分と反応するとフッ化水素(HF)を発生して腐食の原因となる。テルミット反応に供して金属材料を得るため、処理装置の腐食を避けるには、洗浄により電解質を十分に除去することが必要である。
【0032】
ステップSP2においては、放電後のLiBの電池ケース内を所定の洗浄液で洗浄する。本実施形態で用いる洗浄液は、電解液中の電解質の解離促進能が高い第1の溶媒と、洗浄液の粘度を低減させる第2の溶媒との混合溶媒を含む。比誘電率の大きな溶媒は、電解質の解離促進能が高い傾向がある。したがって、本実施形態においては、比誘電率が30以上の溶媒を第1の溶媒として用いる。第2の溶媒は、25℃における粘度が0.8mPa・s以下である。洗浄液は、LiBの電解液に用いられている非水溶媒と同じ溶媒を含むことが好ましいが、含んでいなくてもよい。
【0033】
第1の溶媒としては、例えば環状カーボネートおよびラクトンが挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびブチレンカーボネート(BC)が挙げられる。ECの比誘電率は90であり、PCの比誘電率は65であり、BCの比誘電率は53である。環状カーボネートは、単独であるいは2種以上を組み合わせて、第1の溶媒として用いることができる。
【0034】
ラクトンとしては、例えば、γ−ブチロラクトン(GBL)、およびメチル−γ−ブチロラクトン(GVL)が挙げられる。GBLの比誘電率は39であり、GVLの比誘電率は34である。ラクトンは、単独であるいは2種を組み合わせて、また、環状カーボネートと組み合わせて、第1の溶媒として用いることができる。
【0035】
第2の溶媒としては、例えば鎖状カーボネートを用いることができる。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、およびエチルメチルカーボネート(EMC)が挙げられる。DMC、DEC、およびEMCは、25℃における粘度が、それぞれ0.59mPa・s、0.746mPa・s、および0.7mPa・sである。鎖状カーボネートは、単独であるいは2種以上を組み合わせて、第2の溶媒として用いることができる。
【0036】
さらに、ジメトキシエチレン(DME)、1,3−ジオキソラン(DO
x)、テトラヒドロフラン(THF)またはメタノール(MeOH)を、第2の溶媒として用いることもできる。DME、DO
x、THFおよびMeOHは、25℃における粘度が、それぞれ0.455mPa・s、0.59mPa・s、0.46mPa・sおよび0.529mPa・sである。
【0037】
第1の溶媒と第2の溶媒とは、それぞれの特性(解離促進作用、低粘度)を維持できれば、任意の割合で混合することができる。洗浄液は、解離促進作用を有する低粘度の液体である。例えば、第1の溶媒としてECを用い、第2の溶媒としてDMCを用いる場合には、第1の溶媒と第2の溶媒とは、30:70〜50:50の体積比で混合することができる。第1の溶媒としてのECと第2の溶媒としてのDMCとは、体積比1:1で混合することが好ましい。
【0038】
電池ケース内の洗浄にあたっては、まず、安全弁を開けて電池ケース内を減圧し、電解液の一部を排出する。次いで、安全弁を介して洗浄液の注入・排出を行う。電池ケース内に注入した洗浄液を排出する際、電解質が電池ケース内から電池ケースの外に移動する。洗浄液の注入および排出を繰り返すことによって、電池ケース内の電解質を低減することができる。洗浄液を電池ケースに注入後、排出する前に、20〜200kHz程度の超音波を照射しながら所定時間保持することが好ましい。超音波照射によって、電池ケース内の電解質を、より効率的に除去することができる。
【0039】
電池ケース内の洗浄の結果は、電池ケースから排出された洗浄液(回収液)中のP濃度にもとづいて確認することができる。実際の試料を用いて、回収液中のP濃度の変化を調べた。その結果を
図6に示す。試料としては、上記条件で放電後のLiBを用いた。LiB中の電解液は、1MのLiPF
6とDMC、EMCおよびPCを含む非水溶媒とを含むので、回収液中のP濃度で電解質の量を判断することができる。
【0040】
洗浄液としてECとDMCとの1:1混合溶媒を用いて、電池ケース内の洗浄を4回行った。洗浄後、電池ケースから排出された回収液を、サーモフィッシャーサイエンティフィック製(ELEMENT XR)ICP質量分析装置により分析してP濃度を求めた。
図6には、3回目および4回目に排出された洗浄液(回収液)中のP濃度とともに、この2つの洗浄液中のP濃度の比率を示している。
【0041】
1〜3回目の洗浄は、電池ケース内に洗浄液を注入し、注入された洗浄液を排出することで行った。1〜3回目の洗浄の際、超音波は照射していない。4回目の洗浄は、超音波(78Hz)を、LiBの底面から所定時間照射しつつ行った。超音波の照射時間は、0,1,3,10分である。照射時間が0分の場合には、洗浄液を電池ケース内に注入し、15分後に排出して4回目の洗浄を行った。
【0042】
図6によれば、超音波を1分間照射して洗浄した場合、回収液中のP濃度は、超音波を照射しない場合の1.66倍である。超音波の照射時間が10分になると、回収液中のP濃度は、超音波を照射しない場合の1.85倍にも増加している。超音波の照射時間が長くなると洗浄効率が向上することがわかる。
【0043】
図7には、洗浄液としてDMCのみを用いた以外、上述と同様の条件で洗浄を行った際の回収液中のP濃度の変化を示す。超音波を10分間照射した場合でも、回収液中のP濃度は、超音波を照射しない場合の1.45倍にとどまっている。
【0044】
図6と
図7との比較から、EC(第1の溶媒)とDMC(第2の溶媒)との混合溶媒を洗浄液として用いることによって、電池ケース内の電解質を効率よく除去できることがわかる。しかも、DMCとともにECを含有する混合溶媒を洗浄液として用いた場合には、超音波照射による効果も、DMC単独の場合より向上している。
【0045】
電池ケース内を洗浄して電解質の量を低減することで、電解質に起因した問題を回避できる。上述したように、処理されるLiBに含まれている電解質はLiPF
6であるので、この電解質の量を低減するとLiB中のフッ素(F)量が減少する。腐食性のフッ化水素(HF)の発生が抑制され、それによって処理装置の腐食を回避できる。
【0046】
[解体]
ステップSP3について説明する。電池ケース内を洗浄して電解質の量を低減した後のLiBは、解体して正極を回収する。解体にあたっては、まず、電池ケースの溶接部を切断して電池ケースを開封する。電池ケースの溶接部は、エンドミル加工、レーザー照射等によって切断することができる。溶接部を切断する際、電池ケースが損傷するおそれは少ない。切断された溶接部を再度溶接することが可能であるので、電池ケースは必要に応じて再利用することができる。
【0047】
開封された電池ケースから、正極および負極を含む電極体を取り出す。電極体もまた、電池ケースを切断する際に損傷を受けないため、状態は良好である。正極は、捲回された状態から巻き戻すことによって、電極体から分離して回収される。回収された正極は、質量がLiBの10分の1程度と軽量なので、安価なコストで容易に搬送することが可能である。解体工程を、LiBの回収地域に近接して設置された複数のサテライト施設で行い、解体後の軽量な正極をリサイクル工場に輸送することにより、質量の大きいLiBの輸送距離を短縮することができ、処理コストを低減することが可能である。なお、電極体に含まれていた負極、セパレータ、および電池パックの構成部品等は、必要に応じて再利用することができる。
【0048】
[テルミット反応]
ステップSP4について説明する。電極体から回収された正極は、正極集電体としてのAl箔と、正極活物質としてのリチウム遷移金属複合酸化物とを含んでいる。正極活物質として、LiNi
1/6Co
2/3Mn
1/6O
2を用いた場合を例に挙げて説明する。この場合には、正極集電体のAlが還元剤となって、以下のような反応が生じる。反応の結果、Niおよび/またはCoを含有する金属材料として、Ni
1/6Co
2/3Mn
1/6が得られる。アルミナ(Al
2O
3)を溶融スラグ状態にするためのフラックスとしては、生石灰(CaO)が好ましい。
LiNi
1/6Co
2/3Mn
1/6O
2+Al → 1/2Li
2O+Ni
1/6Co
2/3Mn
1/6+1/2Al
2O
3
本実施形態では、テルミット反応によりNiおよび/またはCoを含有する金属材料を得ているので、正極集電体のAlを還元剤として作用させることができ、還元剤を別途追加することなく、還元反応を行うことができる。
【0049】
正極100gに対して、フラックスとしてのCaOを35.4g添加する。正極とフラックスとを高周波溶解炉にて1500℃で溶解して合金化した後、冷却することで、Niおよび/またはCoを含有する金属材料が得られる。
【0050】
テルミット反応により得られる金属材料は、Ni、CoおよびMnを含有する合金である。合金中に不可避不純物が含有される場合があるが、特に問題ない。正極からのNi、Co、およびMnの回収率は、それぞれ99.7%、91.3%、および94.8%であった。正極中のLiは、Li
2Oとして分離することができる。
【0051】
本実施形態の処理方法によって、LiBの正極活物質の成分であるNi,CoおよびMnを含有する金属材料を、合金として得ることができる。Ni,CoおよびMnは、いずれも90%以上の高い回収率で正極から回収されるので、得られる金属材料は、水素吸蔵合金の原料として用いることができる。金属材料はCu含有量が0.05質量%以下なので、ニッケル金属水素化物電池の電極として好適である。
【0052】
2.作用および効果
本実施形態の方法によれば、LiBを解体する前に、比誘電率が30以下の第1の溶媒と、25℃における粘度が0.8mPa・s以下の第2の溶媒との混合溶媒を含む洗浄液を用いて電池ケース内を洗浄する。これによって、LiB内の電解質を効率よく除去できるので、電解質に含まれるフッ素(F)に起因した処理装置の腐食を抑制できる。特に、テルミット反応により金属材料を得る際に、正極に電解質が残留していると、溶解炉および溶解炉に接続される排ガス設備に腐食が発生する。本実施形態の方法によれば、LiB内の電解質を効率よく除去できるので、溶解炉および溶解炉に接続される排ガス設備などが腐食することを抑制できる。
【0053】
洗浄後のLiBを解体して取り出される電極体は、有価物としてのNiおよび/またはCoを正極に含んでいる。正極は、腐食が抑制された良好な状態であるので、電極体から回収された正極から、Niおよび/またはCoを含む良質な金属材料を得ることができる。金属材料中におけるCuの含有量は、0.17質量%以下とすることができる。Cu含有量が0.05重量%以下に低減された金属材料は、ニッケル金属水素化物電池の電極として好適である。
【0054】
電極体を取り出した後の電池ケースもまた、電解質に起因した腐食が抑制された良好な状態である。こうした電池ケースは、リチウムイオン電池に再利用することができる。
【0055】
本実施形態の方法では、Niおよび/またはCoを含む正極を良質な状態で単独で合金化するので、Niおよび/またはCoを含む金属材料を効率よく得ることができる。本発明の方法により、LiBを低コストで処理することが可能である。さらに、消費エネルギーの削減、環境への負荷の低減といった利点も備えている。本実施形態の方法は、使用済みの自動車用LiBの処理に特に好適である。
【0056】
本実施形態の方法によりLiBを処理して得られる金属材料は、正極活物質の成分である有価物(Niおよび/またはCo)を含んでいる。この金属材料は、Cu含有量が0.05質量%以下であるので、ニッケル金属水素化物電池の電極として有効に用いることができる。
【0057】
3.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0058】
上記実施形態においては、処理されるLiBの負極に含まれる負極活物質として黒鉛を用いたが、LiBに一般に用いられている負極活物質を用いることができる。使用し得る負極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン等の炭素材料、Si系材料、およびリチウムチタン複合酸化物等が挙げられる。
【0059】
電解液に含まれる非水溶媒としては、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を用いてもよい。
【0060】
電池ケース内の洗浄に用いる洗浄液は、解離促進作用および低い粘度を損なわない範囲であれば、第3の溶媒をさらに含んでいてもよい。第3の溶媒としては、周知の溶媒および添加剤等が挙げられる。洗浄剤全体に対する第3の溶媒の割合は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が特に好ましい。第1の溶媒と第2の溶媒とは、その種類に応じて任意の割合で混合して、混合溶媒を調製することができる。
【0061】
上記実施形態においては、テルミット反応により回収された正極からNiおよび/またはCoを含有する金属材料を得ているが、テルミット反応以外の還元反応により回収された正極からNiおよび/またはCoを含有する金属材料を得ることができる。例えば、回収された正極と還元剤とを混合し、溶解炉にて溶解して合金化した後、冷却することで、Niおよび/またはCoを含有する金属材料が得られる。テルミット反応以外の還元反応により金属材料を得る際にも、正極に電解質が残留していると、溶解炉および溶解炉に接続される排ガス設備に腐食が発生する。本実施形態の洗浄方法によれば、LiB内の電解質を効率よく除去できるので、溶解炉および溶解炉に接続される排ガス設備などが腐食することを抑制できる。