(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
指令値に基づいてフィードバックコントローラが制御量を生成し、この制御量を制御対象に入力して、当該制御対象の出力部に現われる出力値を前記指令値との差分演算を行う差分器に負帰還させる外フィードバックループを有する制御システムにおいて、
前記制御対象の出力部と入力部の間を内フィードバックループで接続し、この内フィードバックループに請求項1又は2に記載のフィルタと減衰比調整部を設けて共振抑制制御装置を構成したことを特徴とする制御システム。
指令値に基づいてフィードバックコントローラが制御量を生成し、この制御量を制御対象に入力して、当該制御対象の内部に現われる動作値を前記指令値との差分演算を行う差分器に負帰還させる外フィードバックループを有する制御システムにおいて、
前記制御対象の出力部と入力部の間を内フィードバックループで接続し、この内フィードバックループに請求項1又は2に記載のフィルタと減衰比調整部を設けて共振抑制制御装置を構成したことを特徴とする制御システム。
【背景技術】
【0002】
この種の機械装置の動作は一般的にバネ・マス・ダンパの物理モデルとして表わすことができる。簡単な構成として、
図19の2質点系が挙げられる。このとき質量m
1への力の入力と質量m
2の力の出力の比は次の式Pで表わすことができる。ここで減衰比ζによって出力の挙動に関連し、値が小さいほど振動的となる。
【0003】
【数1】
【0004】
一般的に出力を振動を抑えつつ、短時間で目標値に収束させたい。この種の分野でその解決方法の一つを示しているものとして、例えば特許文献1に示すものが挙げられる。
【0005】
同文献のものは、モータの出力トルクを制御するモータ制御装置に関するものであり、入力されるモータトルク指令は、モータ駆動回路130、電動モータ120、トルク検出手段110及び供試体140からなる試験装置100のモータ駆動回路130に入力され、トルク検出手段110から軸トルクを検出して微分器31を介しフィードバックすることで、軸トルクをトルク指令値に合致させる制御を行うように構成されている。
【0006】
このフィードバック制御をブロック線図で表わすと
図20(b)のようになる。
図20(a)は制御なしの場合である。rは目標値、yは出力値、dは外乱、Pは制御対象(ここでは先に示した数式P)、K
Dは係数、sはラプラス演算子である。
【0007】
入出力の関係を数式で表わすと、次の関係となる。
【0008】
【数2】
【0009】
ここでは、
【0010】
【数3】
【0011】
によって出力の挙動が変わり、例えば振動的でない出力を得たい場合は、式3の値が0.7となるようにK
Dを決定すればよい。
【0012】
図21に
図20(a)と(b)の周波数特性を示す。(a)は制御なしの場合、(b)は制御ありの場合である。(a)に比べ(b)の方が共振周波数のゲインが下がっている。このときのステップ応答を
図22に示す。(b)は振動せずに目標値に収束している。また、特許文献1の構成を用いて0.1sにステップ入力、0.5sに外乱(
図20のdの位置への入力で、ノイズに相当)を与えたときの応答を
図23に示す。ステップ入力に対しては
図22と同様に振動せずに、外乱に対しても振動を抑えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところが、実際の装置は多質点系であることが多い。
図24のように3質点系であった場合、入出力特性は次のような式になる。
【0015】
【数4】
【0016】
3質点系に特許文献1の構成を適用すると、
図25の周波数特性となり、その共振周波数近辺のゲイン線図を拡大したものが
図26である。
図25と
図26の(a)は制御なしの場合、(b)case1と(b)case2は制御ありの場合であってその違いはK
Dの値であり、
図27にステップ応答を示す。
図26(a)に比べて、(b)、(c)は一方の振動モードの共振を抑えることで他方の振動モードの共振が大きくなっていることを示している。また、
図27(b)case2に示すようにK
Dの値によって、振動を増大させることがある。しかしながら、先に示した式3の値が0.7となるような関係式を導出することはできず、試行錯誤でK
Dの調整を行うほかない。また、
図27(b)case1でも、
図27(a)の制御なしの応答とほぼ変わらず、共振抑制の効果は見られない。
図23と同様に、
図28にステップ入力と外乱を与えた際の応答を示す。ここでは
図27(b)case1のK
Dの値を用いており、振動を抑えられていない。
【0017】
この他にも、特許文献2(特開2013−246152号公報)に示すものが挙げられ、1つの振動モードに対してオブザーバを用いて共振および外乱を抑制している。しかし、同文献でも3質点系への適用が難しいと考えられる。
【0018】
本発明は、以上のような課題に着目し、制御対象が多質点系であっても適切に共振を抑制することができ、外乱抑制にも効果がある共振抑制制御装置及びこれを利用した制御システムを実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、かかる目的を達成するために次のような手段を講じたものである。
【0020】
すなわち、本発明の共振抑制制御装置は、2以上の振動モードを有する伝達系を制御対象とするものであって、前記制御対象の出力部に現われる出力値を当該制御対象の入力部に負帰還させるフィードバックループを有し、そのフィードバックループ中に、前記制御対象の一部の振動モードを抽出するとともに他の振動モードを除去するフィルタと、当該抽出した振動モードのみに係る減衰比を調整する減衰比調整部とを設け
、前記フィルタが、抽出する振動モード以外の振動モードに係る伝達関数の逆関数を用いて構成されており、前記減衰比調整部が、微分要素と微分係数を含んで構成されていることを特徴とする。
【0021】
ここで、「一部の振動モードを抽出する」とは、複数の振動モードを表わす有理関数から一部の振動モードの有理関数のみを取り出すこと、或いは支配的にすることをいう。
【0022】
このように構成すると、共振を抑制するうえで当該振動モード以外の振動モードの周波数特性を排除することができるため、複数の振動モードが存在しても、抽出した振動モードに対して共振抑制を効果的に行うことができる。しかも、複数の振動モードを経た出力をフィードバックしているので、上流側で外乱が発生しても、フィードバックループが外乱に対して有効に機能することになる。
【0023】
また、本発明の共振抑制制御装置は、前記フィルタが、抽出する振動モード以外の振動モードに係る伝達関数の逆関数を用いて構成されているので、簡単な手法によって、抽出する振動モード以外の振動モードを的確に取り除く
ことができる。
【0024】
複数の振動モードに対して、各々適切な共振抑制制御を行うためには、前記入力部と前記出力部の間を、抽出する振動モードごとに前記フィードバックループで並列的に接続していることが有効となる。
【0025】
指令値に基づいてフィードバックコントローラが制御量を生成し、この制御量を制御対象に入力して、当該制御対象の出力部に現われる出力値を前記指令値との差分演算を行う差分器に負帰還させる外フィードバックループを有する制御システム、すなわち制御対象の出力を指令値を通じて所望の値に制御するシステムにおいて、出力の共振抑制を図るためには、前記制御対象の出力部と入力部の間を内フィードバックループで接続し、この内フィードバックループにフィルタと減衰比調整部を設けて共振抑制制御装置を構成しておくことが望ましい。
【0026】
或いは、指令値に基づいてフィードバックコントローラが制御量を生成し、この制御量を制御対象に入力して、当該制御対象の内部に現われる動作値を前記指令値との差分演算を行う差分器に負帰還させる外フィードバックループを有する制御システム、すなわち制御対象の内部に現われる動作値を指令値を通じて所望の値に制御し、制御対象の出力自体を制御していないシステムにおいて、出力の共振抑制を図るためには、前記制御対象の出力部と入力部の間を内フィードバックループで接続し、この内フィードバックループにフィルタと減衰比調整部を設けて共振抑制制御装置を構成しておくことが望ましい。
【発明の効果】
【0027】
以上説明した本発明によれば、多質点系であっても適切に共振を抑制することができ、外乱抑制にも効果がある共振抑制制御装置及びこれを利用した制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係る共振抑制制御装置の制御対象を示すブロック線図。
【
図2】同制御対象に共振抑制制御装置を適用したシステムのブロック線図。
【
図3】同システムの入出力部間の周波数特性を制御なしの場合と比較したグラフ。
【
図4】同システムの入出力部間のステップ応答を制御なしの場合と比較したグラフ。
【
図5】同システムの入出力部間のステップ応答及び外乱応答を示すグラフ。
【
図6】同システムのステップ応答と先行技術のステップ応答を比較したグラフ。
【
図7】同システムの外乱応答と先行技術の外乱応答を比較したグラフ。
【
図8】本発明の変形例に係る共振抑制制御装置を適用したシステムのブロック線図。
【
図9】同システムの入出力部間の周波数特性を制御なしの場合と比較したグラフ。
【
図10】同システムの入出力部間のステップ応答を制御なしの場合と比較したグラフ。
【
図11】同システムの入出力部間のステップ応答及び外乱応答を示すグラフ。
【
図12】同システムの簡易設計による入出力部間の周波数特性を制御なしの場合と比較したグラフ。
【
図13】同システムの簡易設計による入出力部間のステップ応答を制御なしの場合と比較したグラフ。
【
図14】共振抑制制御装置を用いた制御システムの一例を示すブロック線図。
【
図15】同システムにおけるトルク制御時のトルク出力を共振抑制なしの場合と比較したグラフ。
【
図16】共振抑制制御装置を用いた制御システムの他の一例を示すブロック線図。
【
図17】同システムにおけるモータ制御時のモータ速度を共振抑制なしの場合と比較したグラフ。
【
図18】同システムにおけるモータ制御時のトルク出力を共振抑制なしの場合と比較したグラフ。
【
図20】特許文献1の制御システムを示すブロック線図。
【
図21】同システムの入出力部間の周波数特性を制御なしの場合と比較したグラフ。
【
図22】同システムのステップ応答を制御なしの場合と比較したグラフ。
【
図23】同システムのステップ応答および外乱応答を示すグラフ。
【
図25】
図24の振動モデルに特許文献1の制御システムを適用した場合と適応しない場合の入出力部間の周波数特性を比較したグラフ。
【
図26】
図25の共振周波数近辺のゲイン線図を拡大したグラフ。
【
図27】
図24の振動モデルに特許文献1の制御システムを適用した場合と適応しない場合の入出力部間のステップ応答を比較したグラフ。
【
図28】
図24の振動モデルに特許文献1の制御システムを適用した場合のステップ応答及び外乱応答を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0030】
この実施形態の共振抑制制御装置Aは、複数の質点を有する機械装置の制御系に存在する共振点を抑制するために用いるもので、例えば供試体の性能を評価するダイナモやベンチ等の試験装置、多関節ロボットの制御装置など、種々のものが対象となる。
【0031】
例えば、
図1の供試体4の性能を評価する試験装置では、モータ駆動回路1で電動モータ2を駆動することによって電動モータ2から供試体4にトルクを与え、供試体4の性能を評価する。フィードバック制御のために電動モータ2と供試体4の間にはトルク検出器3が設けられる。このとき、電動モータ2とトルク検出器3と供試体4からなる機械系の制御対象Pの剛性が原因となり、電動モータ2を駆動すると機械共振が生じる。供試体4の測定したい周波数の範囲内に機械共振が存在する場合、モータトルク指令を与えた際にトルク検出器3に機械共振の振動成分が加わったトルク(例えば軸トルクなど)が検出される。この振動は性能評価とは異なる特性であり、除去されることが望まれる。また、外乱が発生した場合、これが機械系に入力されることによって軸トルクの振動発生の原因となる。特に、質点が3つ以上ある多質点系では、複数の共振点が存在する。
【0032】
このため、外乱に対応しつつ、特定の共振抑制を的確に行うことが望まれる。
【0033】
そこで、本実施形態は、モータトルク指令のような入力に対してフィードバック系を
図2(b)のように構成し、閉ループから供試体4を除外して、供試体4を含まない制御系でモータトルクを制御する。
図2(a)は制御なしの場合である。rは目標値、yは出力値、dは外乱、Pは制御対象、K
Dは係数、sは微分要素である。
【0034】
図示のフィードバックループ5は微分フィードバック系であり、減衰比調整部51は微分要素sと微分係数K
Dによって構成され、制御対象Pに対して減衰比ζの調整箇所となる。また、本実施形態はこのフィードバックループ5中に、制御対象の一部の振動モードを抽出する後記のフィルタ52(F
d)を設けている。
【0035】
本実施形態では振動モードを2次モードまで有する制御対象P(=P
1P
2)について説明するが、3次以上の振動モードを有する対象も適用可能である。共振が生じる制御対象は、固有振動数ω及び減衰比ζによって、以下のような2次遅れ標準形の伝達関数で近似することができる。
【0037】
先のフィルタF
dによって共振を抑制させたい振動モードを抽出し、減衰比調整部51で微分処理と係数演算を行った信号をフィードバックさせることで、所定の振動モードのみの振動を抑制させる。つまり、制御対象P
1で生じる1次モードの振動を抑えたい場合、P・F
d=P
1となるように、F
dを制御対象P
2で生じる2次モードの振動の逆関数として、
【0038】
【数6】
のフィルタを用いる。このフィルタF
dを用いることで、減衰比調整部51に入力される帰還値はP
1・P
2/P
2=P
1となってP
1のみが抽出された形になり、入出力部間の周波数特性は、
【0039】
【数7】
となる。これを見ると、1次の振動モードの周波数特性を表わす有理関数と2次の振動モードの周波数特性を表わす有理関数との積の形に分離され、1次振動モードのみに減衰比ζ
1の調整項が入っている。
【0040】
つまり、フィルタF
dによって共振を抑制したい1次の振動モード以外の振動モード(2次の振動モード)を除去したうえで減衰比調整部51の微分器を通過することで、複数の振動モードが存在するプラントP(=P
1P
2)に対しても、フィルタF
dによって所定の共振モード(1次モード)のみを抽出し、当該1次モードの振動に係る減衰比を係数K
Dを通じ調整することで、当該1次モードの振動に対し一般的な微分フィードバックによって共振抑制の効果を得ることができる。
【0041】
背景技術で挙げた3質点系(
図24参照)に対して、本実施形態の共振抑制制御装置Aを適用した際の入出力の周波数特性を
図3に示す。制御なしの
図3(a)に比べて、制御ありの
図3(b)だと1次モードP1の共振を抑えられている。ステップ応答を見ると、
図4の(b)ように制御なしの(a)に比べて1次モードの振動を除去した応答が得られている。また、
図28や
図32と同様にステップ入力と外乱を与えたときの応答を
図5に示す。ステップ応答と外乱ともに1次モードの振動を除去できている。
【0042】
最後に特許文献1との差を評価する。
図6にステップ応答の拡大図を示す。本装置Aにて振動の最大値・最小値を抑えている。つぎに
図7に外乱応答の拡大図を示す。こちらでも本装置Aが効果的に振動を抑えている。この入力と外乱の共振抑制の両立という効果で、本装置Aは特許文献1にない優れた効果を奏している。
【0043】
以上は、振動モードを2次モードまで有する制御対象Pについて一方の振動モードの共振を抑える共振抑制制御装置Aについて説明したが、1次、2次の振動モードの各々についてゲインK
1、K
2を求めることができる場合、両振動モードの共振を抑える共振抑制制御装置Bのブロック線図を
図8に示す。図示のフィードバックループ5x、5yもそれぞれ微分フィードバック系であり、各ループ5x、5yにおける減衰比調整部51は微分要素sと微分係数K
D1(K
D2)によって構成され、一部の振動モードを抽出するフィルタ52(F
d1、F
d2)を設けている。但し、
【0044】
【数8】
である。この場合、P
1の振動抑制を適用した後の伝達関数を考慮して、F
d2を設計しているため、F
d2は単純な逆関数ではないが、P
1の逆関数を用いていることに変わりはない。
【0047】
これにより、それぞれの振動モードに対して、K
D1やK
D2によって減衰比を調整することが可能となる。
【0048】
このように構成した場合の入出力の周波数特性を
図9に示す。制御なし(Pのまま)に比べ、本システムによると1次、2次の振動モードの共振を抑えられている。ステップ応答を見ると、
図10のように1、2次両振動モードの振動を除去した応答が得られている。外乱に対しては、
図11に示すように更に良好な収束性を示している。
【0049】
次に、2次の振動モードの共振を抑えるシステムを構築するにあたり、各振動モードのゲインK
1、K
2を求めることができない場合について説明する。
【0050】
先に示した数式(8a)〜(8e)、(9)は各振動モードのゲインを個別に求めることができる前提である。しかし、実験機の周波数特性から各振動モードのゲインを個別に切り分けて求めることが難しい場合がある。そこでPをP=KP
1P
2と考える。Kは先で示すところのK=K
1K
2で、まとめて求められるゲインである。このときのF
dの簡易設計を示す。
図8のブロック線図において、
【0051】
【数10】
とすると、入出力特性は下記のようになる。
【0053】
これにより、それぞれの振動モードに対して、K
D1やK
D2によって減衰比を調整することが可能となる。
【0054】
このように構成した場合の入出力の周波数特性を
図12に示す。制御なし(Pのまま)に比べて、簡易システムの(b)だと、1次、2次の振動モードの共振を概ね抑えられている。ステップ応答を見ると、
図13のように1、2次両モードの振動を概ね除去した応答が得られている。
【0055】
以上のように、この共振抑制制御装置A、Bは、2以上の振動モードを有する伝達系を制御対象Pとするものであって、制御対象Pの出力部に現われる出力値を当該制御対象Pの入力部に負帰還させるフィードバックループ5、5x、5yを有し、それらのフィードバックループ5、5x、5y中に、制御対象Pの一部の振動モードを抽出するフィルタ52と、その振動モードの減衰比を調整する減衰比調整部51とを設けて、共振抑制時に当該振動モード以外の振動モードの周波数特性を排除しておくことができるため、複数の振動モードが存在しても、抽出した振動モードに対して一般的な手法によって共振抑制を効果的に行うことができる。しかも、複数の振動モードを経た出力をフィードバックしているので、上流側で外乱dが発生しても、フィードバックループ5、5x、5yが外乱dに対して有効に機能することになる。
【0056】
特に、前記フィルタ52が、抽出する振動モード以外の振動モードに係る伝達関数(例えばP
2)の逆関数(1/P
2)を用いて構成されているので、簡単な手法で、抽出する振動モード以外の振動モードを的確に取り除くことができる。
【0057】
この場合、減衰比調整部51が微分要素sを含み、その微分要素sの微分係数K
D、K
D1、K
D2を減衰比の調整値としているので、抽出した振動モードに対して一般的手法によって適切な減衰比に調整することができる。
【0058】
さらに、入力部と前記出力部の間を、抽出する振動モードごとにフィードバックループ5x、5yで並列的に接続した構成によれば、複数の振動モードに対して、各々適切な共振抑制制御を行うことが可能となる。
【0059】
特に、複数の振動モードからなる制御対象Pの総ゲインKを各振動モードのゲインKとしたときの逆関数を用いて各振動モードのフィードバックループ中のフィルタを構成すれば、各振動モードのゲインK
1、K
2が明確でないときにも、共振抑制制御装置Bを簡易設計することができる。
【0060】
なお、上述した複数の振動モードに対してそれぞれ共振抑制を図る際、各振動モードのゲインがわかっているときも、各振動モードのゲインがわからないときも、それぞれ次のように簡易設計して共振抑制の効果を得ることができる。
【0062】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0063】
例えば、上記実施形態では機械系が直線系の多質点系である場合について説明したが、回転系の多質点系についても同様に適用することができる。
【0064】
また、減衰比調整部は、微分要素(=K
Ds)でなく、(13)式
【0065】
【数13】
とローパスフィルタと組み合わせてもよい。
【0066】
さらにまた、フィルタFの数式がノンプロパの場合は、以下のようにプロパにするための補助関数F
Pを用いてもよい。すなわち、P2の逆関数に補助関数を乗じることによって、
【0067】
【数14】
とプロパな有理関数にすることができる。この場合、入出力関係は、
【0068】
【数15】
となる。F
Pのω
dがP
1に対して十分に高い周波数であれば、
【0069】
【数16】
とできる。これにより、先に導出した式(7)と同様の効果を得る。そして、このようにフィルタを、取り除きたい振動モードの逆伝達関数に補助関数を乗じたプロパな関数とすることで、フィードバックループがノンプロパとなることを回避することができる。
【0070】
次に、本発明の共振抑制制御装置A(B)をある制御システムに組み込んだ例について説明する。
【0071】
図14は、トルク指令値に基づいてフィードバックコントローラ100が制御量を生成し、この制御量100を
図1と同様に構成される制御対象Pに入力して、制御対象100Pの出力部に現われる出力トルクをトルク検出器3で検出し、前記指令値との差分演算を行う差分器101に負帰還させる外フィードバックループ102を有する制御システムにおいて、制御対象Pの出力部と入力部の間を
図2や
図8の内フィードバックループ5(5x、5y)で接続し、この内フィードバックループ5(5x、5y)にフィルタ52と減衰比調整部51(微分器)を設けて共振抑制制御装置A(B)を構成したものである。
【0072】
このようにすると、トルク制御のフィードバックコントローラ100の設計が容易になる。つまり、ノッチフィルタや複雑な制御の設計を行わずに振動を抑制でき、PIコントローラのような簡易に設計できるフィードバック制御を行うことができる。
【0073】
このような構成において、トルク検出器3の値が1となるように0.1sにステップ入力を与えたシミュレーションを行った。
図15は、共振抑制制御装置A(B)を用いずにフィードバックコントローラ100にPI制御を適用したトルク制御の場合と、共振抑制制御装置A(B)を用いてフィードバックコントローラ100にPI制御を適用したトルク制御の場合のトルク検出器3の検出トルクのシミュレーション結果である。共振抑制を用いた方が共振を抑制できるため、例えばオーバーシュートをしないなどの仕様に対してPIコントローラのゲイン調整が容易である。また、振動せずに短時間で目標値に収束する点でも優れている。ここではフィードバックコントローラ100にPI制御を用いた場合について説明したが、H∞制御などを用いても構わない。
【0074】
さらに、本発明の共振抑制制御装置A(B)を別の制御システムに組み込んだ例について説明する。
【0075】
図16は、モータ速度指令値に基づいてフィードバックコントローラ100が制御量を生成し、この制御量を上記と同様の制御対象Pに入力して、制御対象Pの内部の電動モータ2に現われる動作値である速度値をモータ速度記指令値との差分演算を行う差分器103に負帰還させる外フィードバックループ104を有する制御システムにおいて、制御対象Pの出力部に位置するトルク検出器3とモータ駆動回路1への入力部の間を内フィードバックループ5(5x、5y)で接続し、この内フィードバックループ5(5x、5y)にフィルタ52と減衰比調整部である微分器51を設けて共振抑制制御装置A(B)を構成したものである。
【0076】
このようにすると、トルク検出器3の振動と切り離した速度ループのフィードバックコントローラ100を設計できる。つまり、PIコントローラのような簡易に設計できるフィードバック制御と組み合わせることで、ノッチフィルタや複雑な制御を用意することなく、振動を抑制したトルクを検出できる。
【0077】
このような構成において、共振抑制制御装置A(B)を用いずにフィードバックコントローラ100にPI制御を適用した速度制御の場合と、共振抑制制御装置A(B)を用いてフィードバックコントローラ100にPI制御を適用した速度制御の場合の各々について、電動モータ2の速度が1となるように0.1sにステップ入力を与えたシミュレーションを行った。
図17に電動モータ2の速度のグラフ、
図18にトルク検出器3のトルクのグラフを示す。
図17を見ると共振抑制制御装置A(B)の有無に関わらず速度は収束しているが、
図18を見ると共振抑制制御装置A(B)の有無によってトルク検出器の振動の有無に差が生じている。
【0078】
以上の2例のように、共振抑制制御装置A(B)を内部ループに有することで、外側の制御ループの制御設計が容易となることを安定的に示している。また、共振抑制制御装置A(B)によって、速度制御系などを構築したときもトルク検出器の振動を抑えられることを示した。
【0079】
このようなシステムは、シャシダイナモ、エンジンベンチ、搬送ロボット等に適用でき、制御モードも、モータトルク制御、トルク制御、モータ速度制御、モータ角度制御、トルク検出器速度制御、トルク検出器角度制御など、様々な制御モードで利用することができる。
【0080】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0081】
例えば、外乱が影響しないシステムでは、入力信号に一部の振動モードを推定するオブザーバと当該振動モードの減衰比を調整する減衰比調整部とを設けてもよい。