(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6813841
(24)【登録日】2020年12月22日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】建造物の補強構造
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20201228BHJP
【FI】
E04G23/02 F
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-220905(P2019-220905)
(22)【出願日】2019年12月6日
(62)【分割の表示】特願2015-252160(P2015-252160)の分割
【原出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2020-33869(P2020-33869A)
(43)【公開日】2020年3月5日
【審査請求日】2019年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】310013602
【氏名又は名称】一般社団法人 レトロフィットジャパン協会
(74)【代理人】
【識別番号】110002446
【氏名又は名称】特許業務法人アイリンク国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076163
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋 宣之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 啓三郎
【審査官】
津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−095221(JP,A)
【文献】
特開2010−196285(JP,A)
【文献】
特開2003−129676(JP,A)
【文献】
特開2007−191899(JP,A)
【文献】
特開平09−228655(JP,A)
【文献】
特開平11−270146(JP,A)
【文献】
特開2015−143465(JP,A)
【文献】
特開2013−133637(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第102351482(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の梁を介して互いに連結した一対の既存柱のうちの少なくとも一方の既存柱を、その周囲に柱用補強枠体を設けて補強する一方、
上記梁の底面を除いた少なくとも両側面を、両既存柱間における上記梁の全長にわたって梁用補強枠体で囲い、
この梁用補強枠体内に充填材を充填するとともに、
充填材を充填した梁用補強枠体内に曲げ補強筋を設け、
上記曲げ補強筋の両端を上記一対の既存柱のそれぞれに固定した
建造物の補強構造。
【請求項2】
上記梁用補強枠体に設けた曲げ補強筋は、既存の梁の両側面に対応するそれぞれの側に2本ずつ合計4本設ける一方、
これら曲げ補強筋は、上下左右において対向するとともに、対角線上においても対向する請求項1に記載の建造物の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既存建造物の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、建造物の既存柱を1本1本の強度を見直し、例えば特に荷重がかかっている場所の柱や、劣化が激しい柱など、補強が必要な柱を特定し、その全てを個別に補強していた。
柱の補強構造としては、例えば、
図6に示すように、既存柱1の全周を、間隔を保って柱用補強枠体2で囲い、上記間隔内に、軸方向筋3を配置するとともにグラウト材などの充填材4を充填して既存柱の1の周囲に補強層を構成している。
【0003】
上記柱用補強枠体2は、断面L字状の4つの鋼板5の端部を重ね合わせて構成される。このような柱用補強枠体2を既存柱1に沿って積層し、既存柱1の補強対象部分を覆うようにしている。
なお、既存柱1と梁との交差部においては、図示しない断面コの字状あるいはL字状の交差部用の補強枠体を上記柱用補強枠体2に積層し、この交差部用の補強枠体内にも充填材4を充填して上記柱用補強枠体2とともに、補強層を構成している。
さらに、上記柱用補強枠体2及び交差部用の補強枠体の外周には、繊維などからなる帯状シート6を接着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−228655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、補強が必要な全ての柱を補強しなければならない従来の補強構造では、補強が必要な柱の数が多くなればなるほど工事が大掛かりなものとなってしまう。そして、時間がかかる分、コストがかさんでしまうという問題があった。
この発明の目的は、補強する柱の数を少なくしながら、補強した柱が有効に機能して建造物としての強度をバランスよく向上させることができる建造物の補強構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、既存の梁を介して互いに連結した一対の既存柱のうち、少なくとも一方の既存柱はその周囲に設けた柱用補強枠体で補強される一方、上記梁の底面を除いた少なくとも両側面を、両既存柱間における上記梁の全長にわたって梁用補強枠体で囲い、この梁用補強枠体内に充填材を充填する。そして、充填材を充填した梁用補強枠体内に曲げ補強筋を設け、上記曲げ補強筋の両端を上記一対の既存柱のそれぞれに固定している。
【0007】
上記のように梁を介して連結した一対の既存柱のうち、補強された一方の既存柱と補強された梁とが協働して、他方の既存柱を支えることができる。したがって、他方の既存柱は補強されていなくても、建造物全体に対して補強効果を発揮することができる。
特に、既存の梁に曲げ補強筋を設けたので、梁の強度が飛躍的に向上する。したがって、補強された既存柱を中心にして補強された梁を張り巡らせば、建造物全体の補強効果をさらに向上させることができる。
【0008】
第2の発明は、上記梁用補強枠体に設けた曲げ補強筋は、既存の梁の一方の側面に対応する側に2本ずつ合計4本設ける一方、これら曲げ補強筋は、上下左右において対向するとともに、対角線上においても対向する構成にしている。
このように4本の曲げ補強筋が上下左右及び対角線上に対向しているので、補強された梁はその全方向における強度を維持できる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、当該建造物のすべての既存柱を補強しなくても、十分な補強効果を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図6】従来例の既存柱の補強構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1〜3に示した実施形態は、一対の既存柱A1,A2間と既存の梁Bとで囲われた部分に壁7が設けられた場合であって、しかも、一方の既存柱A1のみを補強し、他方の既存柱A2を補強していない例を示している。
【0012】
そして、既存柱A1を囲う
図1に示した断面コ字状の柱用補強枠体8は、既存柱A1の長手方向に複数積層されるが、この柱用補強枠体8のコ字状の端部は壁7に当接させている。
このようにした柱用補強枠体8と既存柱A1との間に所定の間隔を保持し、この間隔内に、軸方向筋3を配置するとともにグラウト材などの充填材4を充填する。
【0013】
また、上記既存柱A1であって梁Bに対応する高さ位置においては、柱用補強枠体8に交差部用補強枠体9を積層しているが、この交差部用補強枠体9は梁Bの上下方向の幅と同一の幅寸法を備えている。このようにした交差部用補強枠体9は柱用補強枠体8に積層し、既存柱A1に対向する部分には上記軸方向筋3が延伸するとともに、その対向部分に充填材4を充填して上記柱用補強枠体8と一体化している。
【0014】
また、この交差部用補強枠体9は梁方向の一方の端部に取付片9aを設け、この取付片9aを、補強していない梁Bにボルト10で固定するようにしている。さらに、取付片9aを設けた側とは反対側の端部は、
図1,2からも明らかなように、対向する梁Bとの間に所定の間隔を保っている。
なお、この実施形態では上記壁7を挟んだ両側における補強構造は同じなので、ここでは片側の補強構造について説明する。
【0015】
一方、上記既存柱A1,A2間に掛け渡された梁Bの両側面には、
図3に示すように、梁B及び壁7を挟むようにして、断面L字状にした一対の梁用補強枠体11を設けている。このようにした梁用補強枠体11は、梁Bの両側面との間に間隔を保持している。
そして、梁用補強部材11の一方の端部は、対向する梁Bとの間に間隔を保った上記柱用補強枠体9の縁に当接させている。また、梁用補強部材11の他方の端部は、補強をしない既存柱A2の側面に当接させている。
【0016】
このようにした梁用補強枠体11にはグラウト等からなる充填材13を充填するが、この充填材13は柱用補強枠体8の充填材4と一体化されることになる。
さらに、上記梁用補強枠体11内には、両端を既存柱A1,A2の側面に形成の保持孔に固定した合計4本の曲げ補強筋12を設けている。
【0017】
これら曲げ補強筋12は、梁Bの両側面に沿って掛け渡されるとともに、梁Bの両側面に対応するそれぞれの側に2本ずつ合計4本設ける一方、これら4本の曲げ補強筋12は、上下左右において対向するとともに、対角線上においても対向するようにしている。
なお、上記のようにした梁用補強枠体11は、梁Bの底面や、二点鎖線で示した天井スラブ14に固定することもできる。
【0018】
図4に示した第2実施形態は既存柱A1の周囲及び梁Bの下に壁がない補強構造である。
梁Bの下に壁7がなければ、1つの梁用補強枠体15で、当該梁Bの両側面と底面とを囲うことができる。そして、この第2実施形態においても、4本の曲げ補強筋12を設けるとともに、これら4本の曲げ補強筋12を、上下左右及び対角線上においても対向させている。
【0019】
なお、既存柱A1の周囲に壁がない場合には、既存柱A1は
図6に示した従来と全く同じように当該柱A1の周囲を鋼板5で囲むとともに、これら既存柱A1と鋼板5との間に形成される間隔に、軸方向筋3を配置して充填材4を充填する補強構造を採用することができる。
【0020】
図5に示した第3実施形態は、1本の既存柱A1を中心にして4本の梁B1〜B4が交差している場合であって、既存柱A1のみを補強し、梁B1〜B4を介して連結している図示していない他の既存柱は補強せず、しかも、4本の梁のうち1本の梁B1のみを補強した補強構造である。なお、各梁B1〜B4の下には壁も存在しない場合を想定している。
【0021】
そして、
図5に示すように、梁B1〜B4が四方に連結された交差部においては、4分割した交差部用補強枠体9A〜9Dを用いて補強している。
これら交差部用補強枠体9A〜9Dのうち、交差部用補強枠体9C,9Dは、梁B2とB3間及び梁B3,B4間に掛け渡すとともに、それらに設けた取付片9aを梁B2,梁B3,B4にボルト10で固定して柱用補強枠体と一体化している。
【0022】
一方、交差部用補強枠体9A,9Bは、梁方向の一方の端部に取付片9aを設け、この取付片9aを、補強していない梁B2,梁B4にボルト10で固定するようにしている。さらに、取付片9aを設けた側とは反対側の端部は、
図5からも明らかなように、対向する梁Bとの間に所定の間隔を保っている。
【0023】
さらに、上記梁B1の両側面には、第2実施形態と同じ梁B1を囲む梁用補強枠体15を設けている。このようにした梁用補強枠体15は、梁Bの両側面との間に間隔を保持している。
そして、梁用補強枠体15の一方の端部は、対向する梁Bとの間に間隔を保った上記柱用補強枠体9の縁に当接させている。また、梁用補強枠体15の他方の端部は、
図5には示していない補強をしない既存柱A2の側面に当接させている。
【0024】
このようにした梁用補強枠体15にはグラウト等からなる充填材13を充填するが、この充填材13は交差部用補強枠体9A,9Bの充填材4と一体化されることになる。
さらに、上記梁用補強枠体15内には、両端を既存柱A1,A2の側面に形成の保持孔に固定した合計4本の曲げ補強筋12を設けている。
【0025】
これら曲げ補強筋12は、梁B1の両側面に沿って掛け渡されるとともに、梁B1の両側面に対応するそれぞれの側に2本ずつ合計4本設ける一方、これら4本の曲げ補強筋12は、上下左右において対向するとともに、対角線上においても対向するようにしている。
【0026】
なお、この第3実施形態において、第1実施形態のように少なくとも梁B1の下に壁7が存在するときには、第1実施形態と同じ梁用補強枠体11を用いて当該梁B1を補強してもよい。
いずれにしても上記第1〜3実施形態の補強構造によれば、当該建造物のすべての既存柱を補強しなくても、十分な補強効果を発揮させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
特に、柱が多い建造物の補強に適している。
【符号の説明】
【0028】
A1,A2…既存柱、B,B1〜B4…梁、4…充填材、8…柱用補強枠体、11,14…梁用補強枠体、12…曲げ補強筋、13…充填材