【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0045】
本実施例では、コクリア リゾフィラ(Kocuria rhizophila)DC2201株で自律的に複製、保持される大腸菌シャトルベクターを構築し、かつ外来遺伝子発現ベクターとして使用した。
【0046】
実験方法
使用ベクターおよび宿主
野生型プラスミド取得にはKocuria palustris IPUFS-1株(石川県立大学より分譲)を用いた。クローニング宿主にはE. coli JM109 およびE. coli EC100D pir-116を用いた。野生型プラスミドの取得にはEZ-Tn5
TM <R6Kγori/KAN-2> Insertion Kit (epicentre)を用いた。野生型プラスミドのサブクローニングにはpTA2 (Toyobo)を、qRT-PCRコントロールプラスミド構築にはpGEM-T Easy (Promega)、E. coli-Kocuria シャトルベクター構築<にはpUC118およびpHSG298を用いた。
【0047】
遺伝子操作
プラスミド抽出、ゲノムDNA抽出、制限酵素処理、シーケンス解析等、一般的な遺伝子操作は常法に従い行った。シーケンス反応はBigDye Terminator Thermal Cycler Sequencing Kit ver3.1を用いて、メーカーのプロトコルに従い行った。シーケンス解析はキャピラリーDNAシーケンサー3130を用いて行った。
【0048】
培養条件
K. palustris およびK. rhizophila DC2201 の培養には主にDC2201培地(1% トリプトン、1% 酵母エキス、0.5% NaCl、0.5% グルコース、0.3% カツオエキスpH 7.0)を用い、30℃で3〜7日間培養した。E. coliの培養にはLB培地を用い、37℃で培養した。それぞれ必要に応じて適宜抗生物質等を添加した。
【0049】
K. palustris からのプラスミド粗抽出
K. palustris をDC2201寒天培地にストリークし、30℃で4日間培養した。生育したコロニーを一白金耳掻き取り、4 mLのDC2201培地に稙菌し30℃で3日間培養した。前培養液1 mLを100 mLのDC2201液体培地に稙菌し、30℃、200 rpmで3日間培養した。培養した菌体を遠心12,000 rpm、室温、5分間で集菌し、TEバッファーで洗菌した。洗菌後再び遠心により菌体を回収し、プラスミド抽出へ供した。
【0050】
K. palustris からのプラスミド抽出はフェノール抽出法により、常法に従い行った。回収した菌体を10 mg/mL リゾチームを含むTEバッファー 10 mLに懸濁し、30℃で1時間処理した。菌体懸濁液にSDS(ラウリル硫酸ナトリウム)およびNaOHをそれぞれ終濃度1%、0.2 M になるように添加し、室温で5分間静置した。10 mLの3 M 酢酸ナトリウム溶液(pH 4.5)を添加し、転倒混和後12,000 rpm、4℃、20分間遠心し、上清を新しいチューブに回収した。等量のPCI(フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール, 25:24:1)を添加し転倒混和後、遠心(12,000 rpm、室温、10分間)により上清を回収した(フェノール抽出)。フェノール抽出を5回繰り返した後、等量のクロロホルムを添加し混和後、同様に遠心により上清を回収した。回収した上清に等量のイソプロピルアルコールを添加し室温で10分間静置後、12,000 rpm、4℃で20分間遠心した。ペレットを70%エタノールでリンスした後、風乾によりペレットを乾燥させた。乾燥したペレットを5 mLのTEバッファーに溶解後、10 UのRNase を添加し37℃で処理した。再びPCI抽出、クロロホルム抽出、エタノール沈殿を行い、最終的に得られたペレットをTEバッファーに溶解し、プラスミド粗抽出液とした。
【0051】
塩化セシウム密度勾配超遠心法によるプラスミドの精製
得られたプラスミド粗抽出液をTEバッファーで20 mLに調整し、20 gの塩化セシウムを添加し溶解した。2 mLの10 mg/mL臭化エチジウム溶液を添加・混和し、必要に応じて塩化セシウムを添加して溶液密度を1.55 g/mLに調整した。超遠心チューブに分注し、65,000 rpm、室温、20時間超遠心を行った。超遠心終了後、UVライト照射下でプラスミドと思われるバンドをシリンジ及び注射針を用いて回収し、新しいチューブに移した。3倍量のTEバッファーを添加して希釈後、等量のイソアミルアルコールを添加し混和した。12,000 rpm、室温、5分間遠心して上層のイソアミルアルコールを取り除き、再び等量のイソアミルアルコールを添加した。この操作を水相中の臭化エチジウムが除かれるまで繰り返した。臭化エチジウム除去後、水相に等量のイソプロパノールを添加し室温で10分間静置した。常法に従いアルコール沈殿、風乾を行い得られたペレットを500μLのTEバッファーに溶解し、精製プラスミドサンプルとした。
【0052】
EZ-Tn5
TM <R6Kγori/KAN-2> Insertion Kitを用いたプラスミドレスキュー
精製プラスミドへのトランスポゾン挿入反応は、メーカーのマニュアルに従い行った。
【0053】
反応液組成
200 ng プラスミドDNA
等モル量 EZ-Tn5 <R6Kγori/KAN-2> transposon
1μL 10x反応バッファー
1μL EZ-Tn5 transposase
滅菌水
Total 10μL
【0054】
37℃で2時間反応後、1μLのEZ-Tn5 10x stop solution を加えて混和後、70℃で10分間加熱処理を行い、反応を停止した。
反応液1μLを用いて、50μLのE. coli EC100D pir-116コンピテントセル(epicentre)をエレクトロポレーション法により形質転換した。エレクトロポレーション後、950μLのSOC培地を添加して回復培養を行い、回復培養液100μLを50μg/mL カナマイシン入りLB寒天培地に塗布し37℃で一晩培養した。培養後生育したコロニーを新たなLBカナマイシンプレートにレプリカし、野生型プラスミドの解析に供した。
【0055】
K. rhizophila DC2201 の薬剤耐性試験
K. rhizophila DC2201 野生株を4 mL DC2201液体培地に稙菌し、30℃、130 rpmで二日間培養した。培養液100μLを各薬剤1〜500μg/mLを含むDC2201寒天培地上に撒き、30℃で3〜7日間培養した。薬剤にはアンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、ハイグロマイシン、ストレプトマイシン、スペクチノマイシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、エリスロマイシン、アプラマイシン、チオストレプトンを検討した。培養後コロニー形成の有無を確認し、コロニーを形成しない薬剤濃度を最少生育阻止濃度(MIC)とした。
【0056】
薬剤耐性遺伝子の合成
K. rhizophila DC2201 で機能する薬剤耐性遺伝子として、チオストレプトン耐性遺伝子(tsr; Accession no. CAA38132)、クロラムフェニコール耐性遺伝子(catSa; AGI91459)、テトラサイクリン耐性遺伝子(tetSl; AAA26830)、ゲンタマイシン耐性遺伝子(aacC1; AAB60000)、およびネオマイシン耐性遺伝子(aph1; AAA26699)を用いた。各遺伝子配列をデータベースより取得し、K. rhizophila DC2201 にコドンを最適化した後に合成した。合成はGenewiz 社に委託した。
【0057】
複製最小領域の特定
得られたプラスミド配列を基にPCRプライマーを設計し、特定領域を順次欠失させたPCR断片を増幅した。ドナーベクターとしてInverse PCRにより増幅したpHSG298増幅断片を制限酵素Bgl II/Nco IないしBgl II/Nde Iで処理し、アガロースゲル電気泳動にて分離精製した。精製したドナーベクターに各プラスミド増幅断片をライゲーションしE. coli JM109へ形質転換した。得られた形質転換体からプラスミド抽出を行い、制限酵素処理によるインサート導入確認およびシーケンスによる配列確認後、K. rhizophila DC2201の形質転換に供した。
【0058】
E. coli-Kocuria シャトルベクターの構築
解析したプラスミドの複製最小領域を増幅するPCRプライマーを設計し、超遠心精製したプラスミドサンプルをテンプレートとしてinverse PCRを行った。得られたPCR増幅断片を制限酵素Bgl II/Nco Iで処理し、アガロースゲル電気泳動による分離、精製後インサートとした。同様にpHSG298およびpUC118に対してもinverse PCRを行い、増幅断片の制限酵素処理を行った。使用したPCRプライマーは表1-1に記載した。制限酵素処理後、アガロースゲル電気泳動により分離・精製したインサートおよびベクターの断片を用いてライゲーションし、E. coli JM109 へ形質転換した。得られたコロニーをピックアップし、プラスミド抽出・制限酵素処理により断片挿入を確認した。さらに、必要に応じて薬剤耐性遺伝子を導入する場合には、薬剤耐性遺伝子の両末端にBgl IIおよびBamH I制限酵素サイトを付加してPCR増幅を行い、同制限酵素で処理後、構築したプラスミドのBgl IIサイトに導入した。それぞれ構築したプラスミドを用いて、K. rhizophila DC2201の形質転換を行った。
【0059】
【表1-1】
【0060】
K. rhizophila DC2201 の形質転換
K. rhizophila DC2201は4 mL DC2201培地で2日間前培養した。100 mLのLB液体培地(1.5 % グリシン含有)に1 mLの前培養液を稙菌し、30℃、150 rpmでOD
600が0.7になるまで培養した。培養液を10分間氷上で冷却し、1,500×g、4℃、10分間遠心し菌体を回収した。菌体を氷冷した滅菌水30 mLで洗菌後、再び遠心により集菌した。洗菌作業を2回繰り返した後、1 mLの10%グリセロール溶液に菌体を懸濁し、OD
600を測定した。測定後、OD
600が50になるように菌体懸濁液を希釈し、エッペンチューブに100μLずつ分注して液体窒素で凍結しコンピテントセルとした。
【0061】
K. rhizophila DC2201の形質転換はエレクトロポレーション法により行った。1μgのプラスミドDNAサンプルとコンピテントセルを混和し、35℃で5分間処理した。氷上で30分間静置後、菌体-プラスミド混合液をキュベット(2 mm ギャップ)に移した。2.5 kv, 400オーム,25μFでエレクトロポレーション後、900μLのSOC 培地を添加・混和し50 mLファルコンチューブに移した。30℃、130 rpmで16時間回復培養し、抗生物質を含むDC2201寒天培地に100μLずつ撒いて30℃で3〜7日間培養した。
【0062】
RT-qPCRによるプラスミドコピー数測定
RT-qPCR(Real Time-quantitative PCR)にはニッポンジーン社のGeneAce SYBR
(R) qPCR Mix α Low ROX を用い、Applied Biosystems 7500 Real-Time PCR Systemにより行った。
【0063】
反応組成
1μL 鋳型DNA
25μM primers
2x GeneAce SYBR qPCR Mix a Low ROX
MilliQ 水
total 25μL
【0064】
RT-qPCRによるプラスミドコピー数算出は、絶対定量法により行った。検量線作成には、K. rhizophila DC2201 ゲノム配列中の解糖系酵素遺伝子(TPI:トリオースリン酸イソメラーゼ、PGK:ホスホグリセリン酸キナーゼ、ENO:エノラーゼ)および構築したプラスミドベクターのカナマイシン耐性遺伝子からそれぞれ約200塩基対程度の領域を選び、それらの領域のPCR産物をpTA2ベクターへクローニングしたものを適宜希釈して用いた。RT-qPCR用のプライマーは"Primer3"(
http://bioinfo.ut.ee/primer3-0.4.0/)を用いて設計した(表1−2)。
【0065】
【表1-2】
【0066】
プラスミド保持率試験
構築したプラスミドベクターを導入したK. rhizophila DC2201菌体を4 mL DC2201液体培地(400μg/mL カナマイシン)で2日間培養した。培養液40μLを抗生物質を含まない4 mL DC2201液体培地に稙菌し、30℃、130 rpmで12時間培養した。培養12時間ごとに植え継ぎを繰り返すと同時に、10
6倍希釈した培養液100μLをDC2201寒天培地(カナマイシン含有および非含有)に撒き30℃で3日間培養した。カナマイシン含有および非含有培地にそれぞれ生育したコロニーの数を計数し、プラスミド保持率を算出した。
【0067】
プラスミド共存試験
構築したシャトルベクターpKITE102をK. rhizophila DC2201へ導入し、得られた形質転換体を用いてコンピテントセルを調製した。調製したコンピテントセルにpKITE303を導入し、二剤耐性形質転換体を選抜した。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、アガロースゲル電気泳動により2種のプラスミドの共存を確認した。
【0068】
構築したシャトルベクターを用いたアルコール脱水素酵素(LSADH)遺伝子の発現
構築したE. coli-Kocuria シャトルベクターが遺伝子発現に利用できるか調べるため、Leifsonia sp. S749 由来アルコール脱水素酵素(LSADH)をpKITE103およびpKITE303へ導入し、K. rhizophila DC2201 による発現を試みた。構築したpKITE103 およびpKITE303のマルチクローニングサイト内にNde I 認識配列を導入するため、変異導入用プライマー(表1-3)を用いたPCRを行った。K. rhizophila DC2201 ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)遺伝子のプロモーター配列を増幅し、制限酵素Nco IおよびNde Iで処理後、同制限酵素で切断処理を行った上記ベクターのNco I サイトおよびNde I サイトに導入した。得られたGAPDHプロモーター導入ベクターのNde IサイトおよびHind III サイトを用いて、Leifsonia sp. S749 ゲノムDNAより増幅したLSADH遺伝子をライゲーションしE. coli JM109へ形質転換した。得られたプラスミドをK. rhizophila DC2201へ形質転換し、10μg/mLのチオストレプトンを含む選択培地上で形質転換体を得た。得られた形質転換体を10 mLのDC2201液体培地に稙菌し、30℃で2日間培養した。培養菌体を遠心回収し、50 mM KPB (pH 7.0)で洗菌後、LSADH活性測定へと供した。
【0069】
【表1-3】
【0070】
LSADH活性測定
集菌したK. rhizophila DC2201 菌体を50 mM KPB (pH 7.0)へ再懸濁し、超音波破砕機により菌体を破砕した。遠心(15,000 rpm, 10分間)により上清を回収し、酵素液としてLSADH活性測定に供した。LSADH活性測定は以下の通りに行った。反応液として50 mM KPB (pH 6.0)、10 mM トリフルオロアセトフェノン、0.2 mM NADHが全量990μLになるように調製し、30℃で3分間予備加温した。10μLの酵素液を予備加温した反応液に添加・懸濁後、分光光度計(島津UV2550)を用いて340 nmの吸光度の減少を測定した。LSADH活性はNADHの分子吸光係数6,220 M
-1cm
-1を用いて算出した。
【0071】
実験結果
K. palustris からのプラスミド精製
石川県立大学より分譲頂いたK. palustris IPUFS-1株をDC2201液体培地で培養し、Wizard SV DNA purification system (Promega)によりプラスミド精製を行った。アガロースゲル電気泳動により複数のバンドが確認できたことから、本菌株が数種類の内在性プラスミドを有することが示唆された。
【0072】
これらのプラスミドの大量調製を行うために、100 mL の培養液からフェノール抽出法によりプラスミドの粗精製を行い、塩化セシウム密度勾配超遠心法により精製を行った。電気泳動により精製プラスミドの純度を確認し、以降の操作に供した。
【0073】
EZ-Tn5
TM <R6Kγori/KAN-2> Insertion Kitを用いたプラスミドレスキュー
精製したプラスミドを用いて、EZ-Tn5
TM <R6Kγori/KAN-2> Insertion Kit(
http://arb-ls.com/products/eztn5_
r6kgammaori_
kan2_
tnp_
transposome_
kit/)によるトランスポゾン挿入及びE. coli EC100D pir-116 への形質転換を行った。得られた形質転換体をランダムに選抜し、プラスミド抽出および制限酵素処理によるサイズ確認を行った。その結果、複数のクローンにおいて野生型プラスミドへのトランスポゾン挿入の結果と推測されるバンドが確認された。これらのクローンについて、シーケンスによる配列確認を行った。シーケンスプライマーにはキットに付属のトランスポゾン配列に対応するプライマーを用いた。その結果、これらのクローンでプラスミドの一部に相当すると思われる配列が確認された。プライマーウォーキング法によりこれらのクローンの塩基配列を解析した結果、得られたクローンは3種類のプラスミド1〜3に分類されることが明らかになった。
【0074】
K. palustris 野生型プラスミドの遺伝子構造
3種のプラスミドの内、プラスミド1[配列番号1]及びプラスミド3[配列番号2]の遺伝子構造を
図1に示す。プラスミド1及びプラスミド3はそれぞれ2251, 4443 塩基対からなる環状プラスミドであった。プラスミド2からは、後述するように形質転換体は得られなかった。プラスミド1は、replicase ABから構成される複製遺伝子を有していた。これに対しプラスミド3には、replicaseのような複製遺伝子は見いだされなかった。しかし、塩基配列の相同性検索の結果、プラスミド3の配列の一部でK. rhizophilaのゲノムDNA配列と高度に一致する領域が見出された(
図1 plasmid3 黒色BOX領域)。ORF検索プログラムによる検索結果、プラスミド1 にはRepABのみがコードされていた。またこのプラスミドには他の細菌類プラスミドの複製開始起点(ori)と相同な配列がコードされていた(表2-1)。プラスミド3には6つのORFが見出され、そのうちの一つはDNA組換え酵素の一種であるリコンビナーゼと50%程度の相同性を示した。しかし、他のORFについては該当する遺伝子が無いか、もしくは未同定のhypothetical proteinとのみ相同性を示した。各プラスミドに見出されたORFの相同性検索の結果を表2-2に示す。
【0075】
【表2-1】
【0076】
【表2-2】
【0077】
K. rhizophila DC2201 の薬剤耐性試験
シャトルベクター構築に当たり、K. rhizophila DC2201で選択マーカーとして使用可能な薬剤を検討した。各薬剤のK. rhizophila DC2201に対する最少生育阻止濃度(MIC)を表3に示す。アンピシリンおよびエリスロマイシンは1μg/mL以下の濃度で生育を阻害することが明らかとなり、使用薬剤としては適さないと考えられた。またアプラマイシン、ストレプトマイシン、スペクチノマイシンは500μg/mLの濃度においても生育するコロニーが見られたことからこれらも選択マーカーとしては適さないと考えられる。最終的にカナマイシン、テトラサイクリン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、チオストレプトンを選択マーカーとして検討することとした。
【0078】
【表3】
【0079】
E. coli-Kocuria シャトルベクター構築
各プラスミドの複製最小領域を特定するため、各プラスミドをそれぞれPCRにより増幅し各領域を欠失した増幅断片を得た。これらの増幅断片をpHSG298にクローニングしK. rhizophila DC2201への形質転換を行った結果、プラスミド1およびプラスミド3をクローニングしたクローンでのみ形質転換体が得られた。しかし、プラスミド2由来の形質転換体は得られなかった。またプラスミド1の複製最小領域はレプリカーゼA,Bおよびその上流に位置する複製起点(ori)を含む領域であることが明らかとなった(
図3)。一方、プラスミド3の複製最小領域は、K. rhizophila DC2201 ゲノム配列と高度に相同性を有する領域であることが分かり、リコンビナーゼ(XerD)と推測される領域は複製には必須ではないことが明らかとなった(
図4)。プラスミド1の複製最小領域の塩基配列は[配列番号3]に示す。プラスミド3の複製最小領域の塩基配列は、[配列番号4]に示す。
【0080】
これらの結果を踏まえ、プラスミド1およびプラスミド3を用いたシャトルベクター構築を行った。各プラスミドの複製最小領域をPCRにより増幅し、制限酵素Bgl II およびNco I サイトを用いてpHSG298のInverse PCR 増幅断片へとクローニングした。得られたベクターをそれぞれpKITE101およびpKITE301とした。これらのベクターを用いてK. rhizophila DC2201への形質転換を行った結果、それぞれカナマイシン耐性を有する形質転換体を得ることができた。また、他の薬剤耐性マーカーを持つベクターを構築するために、上記の複製最小領域PCR断片をpUC118 Inverse PCR 増幅断片へクローニングした。合成した薬剤耐性遺伝子をBamH IおよびBgl IIで切断処理した後にアガロースゲル電気泳動で分離・精製し、Bgl II 処理を行ったプラスミドとライゲーション後E. coli JM109へ形質転換した。得られたプラスミドへの薬剤耐性遺伝子挿入を確認後、K. rhizophila DC2201への形質転換を行った。この結果、ネオマイシン耐性遺伝子(aph1)およびチオストレプトン耐性遺伝子(tsr)をそれぞれ導入したプラスミドを用いた時、それぞれの薬剤耐性を示すK. rhizophila DC2201 形質転換体を得ることができた。これにより得られたシャトルベクターをそれぞれpKITE102(ネオマイシン耐性)、pKITE103(チオストレプトン耐性)、pKITE302(ネオマイシン耐性)、pKITE303(チオストレプトン耐性)とした。構築したベクターを
図4-1〜4-3および表4にまとめた。また、各ベクターの塩基配列は[配列番号5]〜[配列番号10]に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
E. coli-Kocuria シャトルベクターのコピー数
pKITE101またはpKITE301を導入した K. rhizophila DC2201よりDNAを抽出し、解糖系遺伝子(TPI、PGK、ENO)およびカナマイシン耐性遺伝子(kan)に対するRT-qPCRを行った。絶対定量法により各増幅断片を定量しプラスミドコピー数を算出した結果、一細胞あたりpKITE101は約50〜90コピー、pKITE301は約10〜30コピーであることが明らかとなった。
【0083】
E. coli-Kocuria シャトルベクターのプラスミド保持率
構築したシャトルベクターのK. rhizophila DC2201細胞内における安定性・保持率を調べるために、薬剤を含まない培地で継代培養を行い、一定の継代回数ごとに薬剤含有プレート上に撒きコロニー形成率を算出した(
図6)。pKITE101については100回継代培養を行った後でもコロニー形成率は99%を超えていた。このことからpKITE101は薬剤を含まない培地中においても安定に複製、保持されることが明らかとなった。一方でpKITE301については継代10回目においてコロニー形成率が約3%以下にまで低下し、選択圧がない条件下ではプラスミドが安定に保持されないことが推測される。両プラスミドはそのコピー数がそれぞれ異なり、pKITE101は50〜90コピー、pKITE301は10〜30コピーとpKITE101の方がコピー数が多いことが明らかとなっている。これらのプラスミドは細胞分裂の際に自然拡散的にそれぞれの娘細胞に受け継がれると考えられることから、コピー数の違いがプラスミドの安定保持率に大きく寄与していることが推測される。
【0084】
E. coli-Kocuria シャトルベクターの形質転換効率
pKITE101のK. rhizophila DC2201に対する形質転換効率は 5〜10×10
2 cfu(コロニー生成単位)/μgDNA、pKITE301では 2〜5×10
6 cfu/μgDNAであった。
【0085】
構築プラスミドの共存試験
構築したE. coli-Kocuria シャトルベクターがK. rhizophila DC2201内で共存できるか調べるため、pKITE102およびpKITE303を同時に導入した形質転換体を作成した。得られた形質転換体はネオマイシンおよびチオストレプトンの両薬剤に対して耐性を示した。またこれらの形質転換体を培養しプラスミドを抽出したところ、それぞれのプラスミドに由来すると考えられるバンドが確認できた(
図7)。
【0086】
構築したシャトルベクターを用いたアルコール脱水素酵素(LSADH)遺伝子の発現
構築したE. coli-Kocuria シャトルベクターの実用性を確認するため、Leifsonia sp. S749 由来アルコール脱水素酵素LSADHの導入、発現を試みた。pHSG298が有するlacZプロモーターはK. rhizophila DC2201内で機能しない可能性が推測されたため、K. rhizophila DC2201由来のプロモーターの使用を検討した。解糖系酵素GAPDHは比較的高発現であることが知られていることから、本遺伝子プロモーターの使用を検討した。K. rhizophila DC2201ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、GAPDH開始コドン上流の約300塩基対の配列を増幅した。同時に、pKITE103およびpKITE303のマルチクローニングサイトのEcoR I サイト直上にNde I サイトを導入するため、変異導入プライマーを用いたPCRを両ベクターに対して行った。得られたNde I サイト導入ベクターpKITE103nde [配列12]およびpKITE303nde [配列13]を制限酵素Nco I, Nde I で切断処理後、増幅したGAPDHプロモーター断片[配列14を挿入しpKITE103PgapおよびpKITE303Pgap を得た。これらのベクターを制限酵素Nde I、Hind III により切断し、PCR増幅したLSADH遺伝子を導入し最終的にpKITE103PgapLSADHおよびpKITE303PgapLSADHを得た[
図5、配列15、16]。これらのプラスミドをK. rhizophila DC2201へ形質転換し、チオストレプトン耐性を示す形質転換体を選抜した。
【0087】
得られた形質転換体をDC2201 培地で培養し、菌体の回収及び超音波破砕を行った。得られた細胞破砕液上清を用いたLSADH活性測定を行った結果、それぞれのプラスミド導入株において2.39 U/mgおよび1.13 U/mg の比活性が得られた。このことから、K. rhizophila DC2201 由来のGAPDHプロモーターが正常に機能し、Kocuria 菌体内でLSADH遺伝子が正常に発現していることが明らかになるとともに、構築したベクターがK. rhizophila DC2201における遺伝子発現に有効であることが実証できた。