(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
生体組織材料が存在する環境下に留置することにより、凹部を有し線維性結合組織で構成されたコア部と前記凹部に形成されたIII型コラーゲン及び体性幹細胞を含む疎線維性の体性幹細胞集積組織とを有する組織構造体を形成するための、中空部を有する組織構造体製造器具であって、
前記中空部を形成する枠体を有し、
前記枠体が、前記中空部から前記組織構造体製造器具の外部空間に連通する開口部を有し、
前記枠体が、前記中空部において形成される前記組織構造体の形状を規定し、
前記開口部が少なくとも2.5mmの開口幅を有し、
前記開口部からの前記中空部の深さが少なくとも2mmであり、
前記体性幹細胞が、間葉系幹細胞、並びに多能性幹細胞マーカーSSEA4及びSSEA3の少なくとも一方を発現する多能性幹細胞を含む、
生体組織材料が存在する環境下に留置したときに、前記枠体の表面から前記中空部の内方に広がるように線維性結合組織が形成されることによって、前記開口部から前記中空部に向かって窪む凹部を有するコア部が生成するとともに、前記凹部に前記体性幹細胞が集積した疎線維性組織が形成される、組織構造体製造器具。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、生体組織から体性幹細胞を効率よく集積可能な組織構造体製造器具と、その器具を用いて作製することができる体性幹細胞に富む組織構造体に関する。
【0012】
本発明によれば、そのような組織構造体製造器具を、生体組織材料が存在する環境下(例えば生体内)に留置することにより、組織構造体製造器具内に細胞を集積させ、組織構造体製造器具内において体性幹細胞が集積した組織構造体の形成を誘導することができる。
【0013】
生体組織材料が存在する環境下に留置した本発明の組織構造体製造器具の開口部からは、生体組織材料由来の細胞等が当該器具内の中空部(当該器具の外部空間へと開口している)に入り込み、当該中空部に線維性結合組織が形成される。組織構造体製造器具の開口部の直下に、当該開口部から器具内中空部に向かって窪む、線維性結合組織の凹部が生じるとともに、当該凹部を有し線維性結合組織で構成されるコア部が、器具中空部に面した器具表面から器具内中空部に向かって形成され、さらに、当該凹部内に体性幹細胞が多数集積し、体性幹細胞集積組織が形成される。組織構造体製造器具内の中空部に当該中空部を埋めるように組織(線維性結合組織とその凹部内の体性幹細胞集積組織とを含む)が形成されるのに十分な期間にわたり、生体組織材料が存在する環境下に組織構造体製造器具を留置することにより、当該器具内に組織構造体が形成される。得られた組織構造体中の体性幹細胞集積組織からは、体性幹細胞を容易に効率良く回収することができる。本発明は、本発明者らが見出したこのような知見に基づくものである。
【0014】
本発明に係る組織構造体製造器具は、より具体的には、器具内の中空部を形成する枠体を有し(例えば、その枠体により構成され)、その枠体は、上記中空部から組織構造体製造器具の外部空間に連通する開口部を有する。組織構造体製造器具は、好ましくは、生体組織材料が存在する環境下(例えば生体内)に留置したときに、上記枠体の表面から上記中空部の内方に広がるように線維性結合組織が形成されることによって、上記開口部から上記中空部に向かって窪む凹部を有するコア部が生成するとともに、上記凹部に体性幹細胞が集積した疎線維性組織が形成されるように構成されている。組織構造体製造器具内に、枠体が形成する中空部を埋めるように組織構造体が形成されるとき、その枠体は上記中空部内に形成される組織構造体の形状(全体形状、コア部の形状、体性幹細胞集積組織/凹部の位置及び深さなど)を規定する。
【0015】
一実施形態では、上記枠体は、柱状部材と支持部を含むものであってよく、例えば柱状部材と支持部から構成されるものであってよい。この支持部は、枠体の形状を保持しそれにより中空部の形状を維持するように柱状部材を固定する。例えば、複数の柱状部材が、その両端部で支持部に固定されていてもよい。複数の柱状部材は、その中間部でさらに支持部に固定されていてもよい。上記枠体は、複数の柱状部材を含むことが好ましく、以下に限定するものではないが、例えば、3〜50本、4〜40本、4〜30本、5〜30本、3〜20本、3〜15本、3〜10本、4〜15本、又は5〜15本の柱状部材を含むものであってよい。柱状部材は、円柱状、楕円柱状、角柱状、錐台状、ツイスト状、ねじ状等の任意の形状を有するものであってよい。支持部は、円環状、円盤状、楕円環状、楕円盤状、矩形枠状、又は板状(例えば多角形、台形又は不定形の板状)等の任意の形状を有するものであってよい。上記枠体は、1つ、2つ、3つ、4つ、又はそれ以上の支持部を有していてもよい。上記枠体は、複数の柱状部材がその両端部及び場合によりその中間部(例えば中間部の1ヶ所又は2ヶ所以上)で支持部に固定された構造が、柱状部材の延在方向に2つ以上連なるものであってもよい。その場合、1つの支持部上に、以下に限定するものではないが、例えば、3〜20本、3〜15本、3〜10本、4〜15本、又は5〜15本の柱状部材が固定され得る。
【0016】
一実施形態では、上記枠体において、複数の柱状部材は、その両端部及び場合によりその中間部で支持部に固定され、かつ、支持部と支持部に挟まれた仮想的な筒面上(例えば、円筒面上、楕円筒面上、又は角筒面上)に周方向に配置されているものであってよい。この場合、支持部は円環状、円盤状、楕円環状、楕円盤状、矩形枠状、又は板状(例えば多角形、台形又は不定形の板状)等であり得るが、それらに限定されない。複数の柱状部材は、支持部と支持部に挟まれた仮想的な筒面上に、等間隔で配置されてもよいし、異なる間隔で配置されてもよい。上記枠体は、複数の柱状部材がその両端部及び場合によりその中間部で支持部に固定され、かつ、支持部と支持部に挟まれた仮想的な筒面上に周方向に配置された構造が、柱状部材の延在方向に2つ以上連なるものであってもよい。その場合、1つの支持部上に、以下に限定するものではないが、例えば、3〜20本、3〜15本、3〜10本、4〜15本、又は5〜15本の柱状部材が固定され得る。
【0017】
別の実施形態では、上記枠体は、複数の柱状部材を含むものであってよく、例えば複数の柱状部材によって構成され、枠体の形状を保持するようにそれらの柱状部材が相互に固定されたものであってもよい。
【0018】
上記枠体を構成する柱状部材は、少なくとも0.5mm、0.5mm〜5mm、例えば0.7mm〜3mm又は0.7mm〜1.5mmの径を有するものであってよいが、それに限定されない。
【0019】
上記枠体を構成する支持部は、5mm〜30mm、例えば5mm〜25mm又は6mm〜20mmの径を有するものであってよいが、それに限定されない。
【0020】
別の実施形態では、上記枠体は、網目状又はコイル状等の線状部材を含むものであってよく、例えば線状部材によって構成されていてもよい。線状部材は、0.5mm〜5mm、例えば0.7mm〜3mm又は0.7mm〜1.5mmの径を有するものであってよいが、それに限定されない。上記枠体は、線状部材と支持部を含むものであってよく、例えば線状部材と支持部によって構成されていてもよい。この支持部は、枠体の形状を保持するように線状部材を固定する。
【0021】
本発明において「径」(差し渡し)とは、別途記載しない限り、目的の部材又は領域の断面(通常は短手方向の断面)においてその両側から接する二本の平行線の間の最長距離として定義される。なお、その断面は円形又は楕円形に限定されず、多角形、台形又は不定形等であってもよい。
【0022】
組織構造体製造器具、枠体、及びそれらの構成部材である柱状部材の長手方向の長さは、以下に限定されないが、それぞれ、5mm〜100mm、例えば、15mm〜90mm、20mm〜80mm、15mm〜70mm、又は20mm〜60mmであってよい。
【0023】
組織構造体製造器具、枠体、並びにそれらの構成部材である柱状部材、支持部、及び線状部材等は、生体適合性材料を含むかそれにより構成されるものであることが好ましい。生体適合性材料としては、以下に限定するものではないが、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂、セラミックス、ステンレス、コバルトクロム合金、チタン、ニッケルチタン等のチタン合金、プラチナ、金等の金属材料などが挙げられる。本発明においてここで使用される生体適合性材料は、生体内において、少なくとも組織構造体の製造期間内には変形しない程度の剛性を備えることが好ましい。
【0024】
上記枠体は、器具中空部から組織構造体製造器具の外部空間に連通しておりその直下に線維性結合組織の凹部が形成される開口部を、1、2、3、又は4つ以上(例えば、4、5、6、7、8、9、又は10以上)有することができ、例えば1〜50、3〜50、4〜40、4〜30、5〜30、3〜20、3〜15、3〜10、4〜15、又は5〜15個有することができる。そのような開口部は、好ましくは、柱状部材と支持部によって形成されているか、又は複数の柱状部材によって形成されている。あるいは、そのような開口部は、線状部材によって、又は線状部材と支持部によって形成されていてもよい。
【0025】
上記枠体の支持部は、それ自体が、器具内中空部と上記器具の外部空間とを連通する開口部を有してもよい。例えば、支持部が円環状、楕円環状、矩形枠状等である場合、支持部は当該開口部を有していてもよい。
【0026】
枠体の上記開口部は、線維性結合組織/コア部、並びに線維性結合組織/コア部の凹部及びその凹部内の体性幹細胞集積組織を形成するのに十分な開口幅を有していればよい。本発明において枠体の上記開口部の「開口幅」は、当該開口部の短手方向の開口幅として定義される。枠体の上記開口部は、少なくとも2.5mmの開口幅を有することが好ましく、例えば、3.0mm以上の開口幅を有していてもよい。一実施形態では、上記開口部は、2.5mm以上28mm以下;2.5mm以上25mm以下;2.5mm以上20mm以下;又は3.0mm以上10mm以下の開口幅を有していてもよい。枠体の上記開口部の開口幅を、本明細書では開口幅Wとも表記する。
【0027】
なお本発明に関して「長手方向」及び「短手方向」の用語は、任意の形状、又は任意の形状を有する物体に対して用いられ、例えば、長方形又は直方体に加えて、他の多角形、円、楕円、円柱、角柱、円錘、角錐、錘台等、並びにそれらの形状を有する枠体等を含む様々な形状又は物体に対して用いられる。円、正方形又は立方体等の一部の形状又は物体においては「長手方向」及び「短手方向」の長さが同一であり得る。
【0028】
枠体の開口部の開口幅は、開口部を形成する部材(柱状部材、支持部、線状部材等)上の、開口面積が最も狭くなる同一面上の位置に定義される開口縁において決定することができる(例えば、
図2の10Fを参照のこと)。枠体が複数の柱状部材と支持部から構成されるか、又は複数の柱状部材若しくは線状部材から構成される場合には、上記開口部の開口幅は、枠体の当該開口部を含む短手方向の断面における、隣り合う柱状部材又は線状部材間の最短距離として算出することもできる。その場合、枠体の短手方向の断面は、支持部に平行な断面であってもよい。隣り合う柱状部材又は線状部材が平行に配置されている場合には、上記開口部の開口幅は、その柱状部材又は線状部材間の単一の最短距離として算出することもできる。
【0029】
あるいは、又は上記に加えて、枠体の開口部は、2.5mm又はそれを超える直径(例えば、3.0mm又はそれを超える直径)の円が内接可能な開口形状(形及び大きさ)を有することが好ましい。枠体の上記開口部は、例えば、2.5mm以上28mm以下;2.5mm以上25mm以下;2.5mm以上20mm以下;又は3.0mm以上10mm以下の直径の円が内接可能な開口形状を有するものであり得る。そのような開口形状を有する、枠体の開口部は、線維性結合組織の凹部及びその凹部内の体性幹細胞集積組織の形成に特に適している。ここで、枠体の開口部について「円が内接可能な開口形状」とは、当該開口部の開口形状(例えば、矩形、又は多角形等)の内側に、所定の直径を有する円が1点以上で接して収まることができることを意味する。例えば、長辺20mm、短辺2.5mmの長方形の開口形状を有する開口部には、最大2.5mmの直径の円が内接可能である。本発明において、枠体の開口部の開口形状は、当該開口部において開口面積が最も狭くなる位置で定めることができ、例えば、上記開口縁を含む面(例えば、平面)上で定めることができる。
【0030】
一実施形態では、枠体の上記開口部は、多角形状、矩形状、台形状、丸形状、円形状、又は楕円形状等の任意の形状の開口端を有するものであってよい。
【0031】
本発明に係る組織構造体製造器具の枠体の上記開口部の少なくとも1つにおいて、各開口縁の相互に対向する辺は、当該辺の延在方向において異なる大きさの開口幅を有してもよい。組織構造体製造器具のこの構成によれば、1つの開口部に異なる大きさの開口幅を含むことができる。
【0032】
枠体が形成する中空部は、コア部を形成するのに十分な深さを有することが好ましい。枠体において、上記開口部からの中空部の深さは、少なくとも2mmであってよい。上記開口部からの中空部の深さは、例えば、2mm以上30mm以下;2mm以上26mm以下;又は2mm以上12mm以下であってよい。枠体における上記開口部からの中空部の深さ(本明細書において深さDと表す)は、枠体の短手方向の断面における、単一の開口部の開口縁上にある点を結ぶ直線の中点から中空部の最深点までの距離として決定することができる(
図2)。枠体において、複数の柱状部材が、その両端部及び場合によりその中間部で支持部に固定され、かつ、支持部と支持部に挟まれた仮想的な筒面上に(例えば、仮想的な筒面上に内接又は外接して)周方向に(好ましくは、仮想的な筒面上の周囲を取り巻くように)配置されている場合、その筒面の短手方向の断面の中心点を中空部の最深点とすることができる。短手方向の断面の中心点は、仮想的な筒面上に周方向に配置された各柱状部材から等距離にある点であってよい。短手方向の断面の中心点は、仮想的な筒面の円形断面の中心であってよい。本発明に係る組織構造体製造器具は、深さDが2mm以上(好ましくは、当該開口部の深さDが一定の場合)であるか又は深さDの最大値が2mm以上(当該開口部の深さDが一定でない場合)である開口部を少なくとも1つ有するものであってよい。
【0033】
なお本発明の組織構造体製造器具の枠体が有する開口部の少なくとも1つが上記のような開口部であればよいが、枠体が有する開口部のすべてが上記のような開口部であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明に係る組織構造体製造器具の枠体において、複数の上記開口部が、柱状部材を挟んで相互に隣り合って存在してもよい。複数の上記開口部が、枠体の周方向に沿って配置されていてもよい。あるいは、複数の上記開口部が、枠体の軸方向に沿って配置されていてもよい。あるいは、複数の上記開口部が、枠体の周方向及び軸方向にそれぞれ沿って配置されていてもよい。このような開口部の構成によれば、組織構造体の外面に形成される、体性幹細胞を集積させるための凹部の密度を高めることが可能であり、好ましい実施形態では、体性幹細胞の集積効率を高めること、ひいては、1つの集積器具から採取される体性幹細胞の細胞数を多くすることが可能ともなる。そのような組織構造体製造器具を用いた場合、製造される組織構造体のコア部は、凹部周縁部によって区画された複数の凹部を有していてもよく、その場合、各凹部は少なくとも1つの凹部周縁部を挟んで別の凹部に隣接していることとなる。
【0035】
本発明の組織構造体製造器具は、枠体が形成する中空部内に棒状体などの別の部材を備えていないことが好ましく、また、当該中空部内に棒状体などの別の部材が格納された状態で生体組織材料が存在する環境下に留置されないように構成されていることが好ましい。
【0036】
一実施形態では、本発明に係る組織構造体製造器具は、
図1に示すものである。
図1に示すように、組織構造体製造器具10(以下、本発明に係る組織構造体製造器具を、器具10とも呼ぶ)は、円環状の3つの支持部11を備える。各支持部11は、以下に限定するものではないが、アクリル樹脂やシリコーン樹脂などの生体適合性を有した樹脂を含むか又はそれによって構成されていてもよい。3つの支持部11は、2つの第1支持部11Aと、2つの第1支持部11Aに挟まれた1つの第2支持部11Bとを備え、1つの軸方向Axに沿って並ぶ。1つの第1支持部11Aと第2支持部11Bとは、1つの仮想的な円筒面Sの両端部に位置する。2つの第1支持部11Aは、器具外と器具内とを軸方向Axに連通する貫通孔11Hを備える。第2支持部11Bは、一方の円筒面Sの内部と他方の円筒面Sの内部とを軸方向Axに連通する貫通孔11Hを備える。器具10が生体組織材料が存在する環境下、例えば生体内の生体組織に埋設・留置されるとき、これら貫通孔11Hから、器具内の中空部に向けて線維芽細胞を始めとする細胞等が流入することができる。
【0037】
1つの第1支持部11Aと第2支持部11Bは、円柱状の3本の柱状部材13を固定している。3本の柱状部材13は、各円筒面S上においてその周方向Ciに等間隔に配置(等配)され、第1支持部11A及び第2支持部11Bとともに、3つの開口部10Hを区画・形成する。柱状部材13、2つの第1支持部11A、及び第2支持部11Bは、器具10の枠体を構成している。器具10が、生体組織材料が存在する環境下、例えば生体内の生体組織に埋設される前において、柱状部材13と第1支持部11A及び第2支持部11Bに囲まれる空間は、中空部10Sであり、各開口部10Hは、器具内の中空部10Sから器具の外部空間に連通する。器具10が生体組織材料が存在する環境下、例えば生体内の生体組織に埋設されるとき、各開口部10Hから、生体組織から器具内の中空部10Sに向けて、器具内の中空部に向けて線維芽細胞を始めとする細胞等が流入することができる。
【0038】
図2には
図1に示す器具の上記開口部を含む短手方向の断面の模式図を示す。
図2に示すように、円筒面Sの周方向で隣り合う柱状部材13の最短距離であり得る、この断面において開口縁10F上にある点を結ぶ直線の長さが開口幅Wに当たる。隣り合う柱状部材13が平行である場合、軸方向Axにおいて開口幅Wは一定である。隣り合う柱状部材13が平行でない場合、軸方向Axの各部位において、開口幅Wは相互に異なる。器具10の上記開口部は、開口幅Wが、2.5mm以上、例えば、2.5mm以上28mm以下;2.5mm以上25mm以下;2.5mm以上20.0mm以下;又は3.0mm以上10mm以下である開口形状を有するものであってよい。体性幹細胞の集積される効率をより高める観点において、器具10の軸方向Axの全体にわたり、開口幅Wは少なくとも2.5mmであることが好ましい。あるいは、又は上記に加えて、器具10の上記開口部は、2.5mm以上28mm以下;2.5mm以上25mm以下;2.5mm以上20mm以下;又は3.0mm以上10mm以下の直径の円が内接可能な開口形状を有するものであることも好ましい。
【0039】
図2に示す断面上の円筒面Sの中心(中心点)Ctと、開口縁10F上にある点を結ぶ直線の中点との間の距離が、開口部10Hからの中空部10Sの深さDに当たる。器具10は、深さD又は深さの最大値が少なくとも2mm、例えば2mm以上30mm以下;2mm以上26mm以下;又は2mm以上12mm以下である開口部10Hを有するものであってよい。
【0040】
生体組織材料が存在する環境下、例えば生体内の生体組織に埋設された組織構造体製造器具10において、組織形成は、
図3に概説するように起こると考えられるが、本発明はこの理論に限定されるものではない。
図3Aに示すように、器具10が生体組織材料が存在する環境下、例えば生体内の生体組織に埋設されたとき、中空部10Sの外側には、生体組織21が位置する。次いで、
図3Bに示すように、生体組織由来の液性成分が、開口部10H及び貫通孔11Hを通じて、中空部10Sに侵入する。器具10が生体組織に埋設されてから、適切な時間、例えば、3時間以上6時間以下を経過すると、器具10の中空部10Sは、生体組織由来の液性成分によって満たされる。
図3Cに示すように、器具10の中空部10Sが液性成分によって満たされると、生体組織内の線維芽細胞22Cが、開口部10H及び貫通孔11Hを通じて、中空部10Sに侵入する。中空部10Sに侵入した線維芽細胞22Cは、柱状部材13の表面から、中空部10Sの内方に向けて、線維性結合組織22を形成し始める。
【0041】
図3Dに示すように、柱状部材13の中空部10Sに面した表面上で形成され始めた線維性結合組織は、中空部10Sの内方に向けて広がるように成長する。そして、各柱状部材13の表面から広がった線維性結合組織22が、中空部10Sの内方において相互につながり、それによって、開口部10Hから中空部10Sに向かって窪む凹部22Hが、線維性結合組織22の表面に形成される。なお組織構造体製造器具10の構成要素である支持部11、例えば、
図2に示す器具の第1支持部11A及び第2支持部11Bの表面から中空部10Sの内方に向けても、線維性結合組織22が形成され、成長し、柱状部材13の表面から広がった線維性結合組織22とつながる。各柱状部材13及び支持部11(例えば、
図2に示す器具の第1支持部11A及び第2支持部11B)の表面から広がるように形成された線維性結合組織22が相互に連結することにより、コア部25が形成される。すなわち、線維性結合組織22で構成されたコア部25はその外面に凹部を有する。凹部を有する線維性結合組織22及びコア部25の形成が進むにつれ、生体組織に含まれる体性幹細胞23Cが、開口部10Hを通じて凹部22Hに移動する。生体組織材料が存在する環境下、例えば生体内の生体組織に埋設された組織構造体製造器具10を適切な期間にわたり留置することにより、凹部において、体性幹細胞23Cを含む体性幹細胞集積組織(ポケット部とも称する)が形成されることになる。
【0042】
組織構造体製造器具10の別の実施形態では、
図4Aに示すように、器具10は、柱状部材13と、外径(外側の円の直径)が6mmである円環状の2つの第1支持部11Aと、その2つの第1支持部11Aに挟まれて配置された外径が6mmである円環状の1つの第2支持部11Bとを備えるものであってよい。上段の1つの第1支持部11Aと第2支持部11Bとの間には、開口幅Wが3.0mm、深さDが2mmとなるように、直径1mmの3本の柱状部材13(長さ25mm)が固定されており、下段の第1支持部11Aと第2支持部11Bとの間には、開口幅Wが2.5mm、深さDが2.2mmとなるように、直径1mmの4本の柱状部材13(長さ25mm)が固定されている。
図4Aに示すこのような器具10において、上段の第1支持部11Aと第2支持部11Bと柱状部材13によって形成された各開口部は、最大で直径3.0mm(開口幅Wと等しい)の円が内接可能な開口形状を有し、下段の第1支持部11Aと第2支持部11Bと柱状部材13によって形成された各開口部は、最大で直径2.5mm(開口幅Wと等しい)の円が内接可能な開口形状を有する。
【0043】
組織構造体製造器具のさらに別の実施形態では、
図4Bに示すように、器具10は、柱状部材13と、外径が11mmである円環状の2つの第1支持部11Aと、その2つの第1支持部11Aに挟まれて配置された外径が11mmである円環状の2つの第2支持部11Bとを備えるものであってよい。上段の1つの第1支持部11Aと第2支持部11Bとの間には、開口幅Wが4.0mm、深さDが4.6mmとなるように、直径1mmの6本の柱状部材13(長さ20mm)が固定されており、下段の第1支持部11Aと第2支持部11Bとの間には、開口幅Wが3.0mmであり、深さDが4.8mmとなるように、直径1mmの8本の柱状部材13(長さ20mm)が支持されている。中段の2つの第2支持部11Bの間には、開口幅Wが6.0mmであり、深さDが4.0mmとなるように、直径1mmの4本の柱状部材13(長さ20mm)が固定されている。
図4Bに示すこのような器具10において、上段の第1支持部11Aと第2支持部11Bと柱状部材13によって形成された各開口部は、最大で直径4.0mm(開口幅Wと等しい)の円が内接可能な開口形状を有し、下段の第1支持部11Aと第2支持部11Bと柱状部材13によって形成された各開口部は、最大で直径3.0mm(開口幅Wと等しい)の円が内接可能な開口形状を有し、中段の2つの第2支持部11Bと柱状部材13によって形成された各開口部は、最大で直径6.0mm(開口幅Wと等しい)の円が内接可能な開口形状を有する。
【0044】
組織構造体製造器具のさらに別の実施形態では、
図4Cに示すように、器具10は、柱状部材13と、外径が16mmである円環状の2つの第1支持部11Aと、その2つの第1支持部11Aに挟まれて配置された外径が16mmである円環状の2つの第2支持部11Bとを備えるものであってよい。上段の1つの第1支持部11Aと第2支持部11Bとの間には、開口幅Wが5.0mm、深さDが7.1mmとなるように、直径1mmの8本の柱状部材13(長さ20mm)が固定されており、下段の第1支持部11Aと第2支持部11Bとの間には、開口幅Wが3.5mm、深さDが7.3mmとなるように、直径1mmの10本の柱状部材13(長さ20mm)が固定されている。中段の2つの第2支持部11Bの間には、開口幅Wが6.5mm、深さDが6.8mmとなるように、直径1mmの6本の柱状部材13(長さ20mm)が固定されている。
図4Cに示すこのような器具10において、上段の第1支持部11Aと第2支持部11Bと柱状部材13によって形成された各開口部は、最大で直径5.0mm(開口幅Wと等しい)の円が内接可能な開口形状を有し、下段の第1支持部11Aと第2支持部11Bと柱状部材13によって形成された各開口部は、最大で直径3.5mm(開口幅Wと等しい)の円が内接可能な開口形状を有し、中段の2つの第2支持部11Bと柱状部材13によって形成された各開口部は、最大で直径6.5mm(開口幅Wと等しい)の円が内接可能な開口形状を有する。
【0045】
組織構造体製造器具10のさらに別の実施形態では、
図4Dに示すように、器具10は、柱状部材13と、外径が11mmである円環状の2つの第1支持部11Aと、その2つの第1支持部11Aに挟まれて配置された外径が10mmである円環状の1つの第2支持部11Bとを備えるものであってよい。2つの第1支持部11Aの間には、開口幅Wが4.0mm、深さDが4.6mmとなるように、直径1mmの6本の柱状部材13(長さ60mm)が固定されており、それらの柱状部材13はその長手方向の略中央でさらに第2支持部11Bにより固定されている。
図4Dに示すこのような器具10において、第1支持部11Aと第2支持部11Bと柱状部材13によって形成された各開口部は、最大で直径4.0mmの円が内接可能な開口形状を有する。
【0046】
組織構造体製造器具のさらに別の実施形態では、
図5Aに示すように、器具10は、柱状部材13と、外径が11mmである円環状の2つの第1支持部11Aを備えるものであってよい。2つの第1支持部11Aの間には、一方の第1支持部11Aから他方の第1支持部11Aに向けて、開口幅Wが1.0mmから5.0mmまで連続的に変化し、また深さDが5.0mmから4.3mmまで連続的に変化するように直径1mmの8本の柱状部材13が固定されている。開口幅Wは、器具10の、支持部11Aと平行な短手方向の断面において測定している。
図5Aに示す器具10の長さ(長手方向の大きさ)は40mmである。
【0047】
組織構造体製造器具のさらに別の実施形態では、
図5Bに示すように、器具10は、柱状部材13と、外径が16mmである円環状の2つの第1支持部11Aを備えるものであってよい。2つの第1支持部11Aの間には、一方の第1支持部11Aから他方の第1支持部11Aに向けて、開口幅Wが1.0mmから8.0mmまで連続的に変化し、また深さDが7.5mmから6.3mmまで連続的に変化するように、直径1mmの8本の柱状部材13が固定されている。開口幅Wは、器具10の、支持部11Aと平行な短手方向の断面において測定している。
図5Bに示す器具10の長さ(長手方向の大きさ)は60mmである。
【0048】
組織構造体製造器具のさらに別の実施形態では、
図6Aに示すように、器具10は、支持部の一例である大矩形枠11Cと、支持部の一例である小矩形枠11Dと、柱状部材13(直径1mm)とから構成される、略多面体形状を有するものであってよい。大矩形枠11Cは、(縦)20mm×(横)15mmの大きさ(いずれも内寸;矩形枠の厚みは1mmであり、外寸は(縦)22mm×(横)17mm)を有し、小矩形枠11Dは、(縦)3mm×(横)15mmの大きさ(いずれも内寸;矩形枠の厚みは1mmであり、外寸は(縦)5mm×(横)17mm)を有する。
図6Aに示す器具10は、大矩形枠11Cにおける4つの頂点部と、小矩形枠11Dにおける4つの頂点部とに固定された4本の柱状部材13を備える。また、
図6Aに示す器具10は、大矩形枠11Cにおける1つの長辺の中点と、小矩形枠11Dにおける1つの短辺の中点とを結ぶ1本の柱状部材13をさらに備える。
【0049】
図6Aに示す器具10は、大矩形枠11Cにおける1つの長辺と、小矩形枠11Dにおける1つの短辺と、これらと接続する3本の柱状部材13(大矩形枠11C及び小矩形枠11Dと直角に接続する最短の柱状部材13の長さ55mm)とによって区画・形成された、台形状の2つの開口部10Hを有する。
図6Aに示す器具10は、大矩形枠11Cにおける1つの長辺と、小矩形枠11Dにおける1つの短辺と、これらと接続する2本の柱状部材13とによって区画・形成された、台形状の1つの開口部10Hを有する。また、
図6Aに示す器具10は、大矩形枠11Cにおける1つの短辺と、小矩形枠11Dにおける1つの長辺と、これらと接続する2本の柱状部材13とによって区画・形成された、長方形状の開口部10Hを有する。
図6Aに示す器具10は、大矩形枠11Cの2つの長辺及び2つの短辺、並びに小矩形枠11Dの2つの長辺及び2つの短辺によってそれぞれ区画・形成された、2つの貫通開口部12Hをさらに有する。
図6Aに示す器具10において、開口幅は1.0mmから20.0mmまでであり、また深さDは2.0mmから10.5mmまでである。開口幅Wは、器具10の、大矩形枠11Cの長辺と平行な短手方向の断面において測定している。
【0050】
図6Bに示すように、器具10は、
図6Aに示す器具10と同じく、支持部の一例である大矩形枠11Cと、支持部の一例である小矩形枠11Dと、柱状部材13(直径1mm)とから構成される、略多面体形状を有するものであってよい。大矩形枠11Cは、(縦)20mm×(横)15mmの大きさ(いずれも内寸;矩形枠の厚みは1mmであり、外寸は(縦)22mm×(横)17mm)を有し、小矩形枠11Dは、(縦)3mm×(横)15mmの大きさ(いずれも内寸;矩形枠の厚みは1mmであり、外寸は(縦)5mm×(横)17mm)を有する。
図6Bに示す器具10は、大矩形枠11Cにおける2つの頂点部と小矩形枠11Dにおける2つの頂点部に固定された2本の柱状部材13を備える。また、
図6Bに示す器具10は、大矩形枠11Cにおける1つの短辺と、小矩形枠11Dにおける1つの長辺とを、スリット26S(幅1mm)を有する1つの板状体26で接続している。
【0051】
図6Bに示す器具10は、大矩形枠11Cにおける1つの長辺と、小矩形枠11Dにおける1つの短辺と、これらに接続する2本の柱状部材13とによって区画・形成された、台形状の開口部10Hを有する。
図6Bに示す器具10は、大矩形枠11Cにおける1つの短辺と、小矩形枠11Dにおける1つの長辺と、これらに接続する2本の柱状部材13とによって区画・形成された、長方形状の開口部10Hを有する。また、
図6Bに示す器具10は、大矩形枠11Cにおける1つの長辺と、小矩形枠11Dにおける1つの短辺と、これらを接続する板状体26の縁と、柱状部材13とによって区画・形成された、台形状の2つの開口部10Hを有する。
図6Bに示す器具10は、大矩形枠11Cの2つの長辺及び2つの短辺、並びに小矩形枠11Dの2つの長辺及び2つの短辺によってそれぞれ区画・形成された、2つの貫通開口部12Hをさらに有する。
図6Bに示す器具10において、開口幅は1.0mmから20.0mmまでであり、また深さDは2.0mmから20.5mmまでである。開口幅Wは、器具10の、大矩形枠11Cの長辺と平行な短手方向の断面において測定している。
【0052】
図6Cに示すように、器具10は、支持部の一例である大矩形枠11Cと、支持部の一例である小矩形枠11Dと、支持部の一例である中矩形枠11Eと、柱状部材13(直径1mm)とから構成される、略多面体形状を有するものであってよい。大矩形枠11Cは、(縦)20mm×(横)15mmの大きさ(いずれも内寸;矩形枠の厚みは1mmであり、外寸は(縦)22mm×(横)17mm)を有し、中矩形枠11Eは、(縦)15mm×(横)15mmの大きさ(いずれも内寸;矩形枠の厚みは1mmであり、外寸は(縦)17mm×(横)17mm)を有し、小矩形枠11Dは、(縦)3mm×(横)15mmの大きさ(いずれも内寸;矩形枠の厚みは1mmであり、外寸は(縦)5mm×(横)17mm)を有する。
図6Cに示す器具10は、大矩形枠11Cにおける4つの頂点部と小矩形枠11Dにおける4つの頂点部に固定された4本の柱状部材13を備え、4本の柱状部材13は中矩形枠11Eでさらに固定されている。
図6Cに示す器具10は、大矩形枠11Cにおける1つの長辺の中点と、小矩形枠11Dにおける1つの短辺の中点とを結び、中間部で中矩形枠11Eでさらに固定されている、1本の柱状部材13をさらに備える。
【0053】
図6Cに示す器具10は、大矩形枠11Cにおける1つの短辺と、中矩形枠11Eにおける1つの辺と、これらに接続する2本の柱状部材13とによって区画・形成された、長方形状の開口部10Hを有する。
図6Cに示す器具10は、中矩形枠11Eにおける1つの辺と、小矩形枠11Dにおける1つの長辺と、これらに接続する2本の柱状部材13とによって区画・形成された、長方形状の開口部10Hを有する。また、
図6Cに示す器具10は、大矩形枠11Cにおける1つの長辺と、中矩形枠11Eにおける1つの辺と、これらに接続する3本の柱状部材13とによって区画・形成された、台形状の2つの開口部10Hを有する。
図6Cに示す器具10は、中矩形枠11Eにおける1つの辺と、小矩形枠11Dにおける1つの短辺と、これらに接続する3本の柱状部材13とによって区画・形成された、台形状の2つの開口部10Hを有する。
図6Cに示す器具10は、大矩形枠11Cにおける1つの長辺と、中矩形枠11Eにおける1つの辺と、これらに接続する2本の柱状部材13とによって区画・形成された、長方形状の開口部10Hを有する。
図6Cに示す器具10は、中矩形枠11Eにおける1つの辺と、小矩形枠11Dにおける1つの短辺と、これらに接続する2本の柱状部材13とによって区画・形成された、長方形状の開口部10Hを有する。
図6Cに示す器具10は、大矩形枠11Cの2つの長辺及び2つの短辺、並びに小矩形枠11Dの2つの長辺及び2つの短辺によってそれぞれ区画・形成された、2つの貫通開口部12Hをさらに有する。
図6Cに示す器具10において、開口幅は1.0mmから20.0mmまでであり、また深さDは2.0mmから10.5mmまでである。開口幅Wは、器具10の、大矩形枠11Cの長辺と平行な短手方向の断面において測定している。
【0054】
開口部10Hの位置は、器具10の周方向及び/又は軸方向Axに並ぶ位置に限らず、器具10の長手方向に延びる螺旋上に周期的に定められる位置とすることも可能である。また、開口部10Hの位置は、1つずつの開口部10Hが所定の方向に繰り返される構成に限らず、例えば、複数の開口部10Hが1つの開口群を構成し、複数の開口群が所定の方向に繰り返される構成であってもよい。
【0055】
組織構造体製造器具のさらに別の実施形態では、器具10又は枠体の形状は、特に限定されず、棒状であってもよいし、略多面体形状(例えば、立方体状、直方体状等)であってもよいし、略球状又は略半球状であってもよい。器具10又は枠体の形状は、直線的な棒状に限らず、例えば、曲線状とすることも可能である。
【0056】
組織構造体製造器具のさらに別の実施形態では、
図7に示すように、器具10を構成する枠体がコイル状であり、開口縁10Fがコイルの周方向に連なる1つ以上の螺旋形状であってもよい。コイル状に巻き回された線状部材16の隣り合う円周部分間の最短距離として開口幅Wを測定することができる。開口幅Wが少なくとも2.5mm、例えば、2.5mm以上28mm以下;2.5mm以上25mm以下;2.5mm以上20mm以下;又は3.0mm以上10mm以下となる開口形状を有する開口部を、器具10が備えることが好ましい。また、コイル状の器具10の中心軸と、コイル状に巻き回された線状部材16との最短距離を、深さDとして算出することもでき、深さDが少なくとも2mm、例えば、2mm以上30mm以下;2mm以上26mm以下;又は2mm以上12mm以下となる領域を、器具10が有してもよい。
【0057】
組織構造体製造器具のさらに別の実施形態では、器具10は、例えば、
図8に示すように、中空部を有する立方体状や直方体状の枠体から構成されていてもよい。立方体状や直方体状の側面17は開口部10Hを備え、側面17を構成する隣り合う柱状部材間の最短距離として開口幅Wを測定することができる。その開口幅Wが少なくとも2.5mm、例えば、2.5mm以上28mm以下;2.5mm以上25mm以下;2.5mm以上20mm以下;又は3.0mm以上10mm以下となる少なくとも1つの開口部を、器具10又は枠体が備えることが好ましい。また、立方体状や直方体状の器具10又は枠体の中心点と、器具10の側面との最短距離として、深さDを算出することもできる。深さDが少なくとも2mm、例えば、2mm以上30mm以下;2mm以上26mm以下;又は2mm以上12mm以下となる領域を、器具10が有してもよい。
【0058】
器具10の枠体が有する形状は、例えば、
図8に示す立方体形状や直方体形状の構造が1つの面上に連なる形状であってもよい。
【0059】
組織構造体製造器具のさらに別の実施形態では、器具10はステント形状であってもよい。
図9に示すステント形状の器具10は、拡張及び収縮可能な網目状の筒形態を有し、その網目が開口部10Hを形成し、両端にはバルーン挿入用の端部開口部14Hを有するものであってよい。本発明は、例えば、
図9に示すステント形状の器具を、組織構造体製造器具として用いることができる。典型的な実施形態では、生体組織材料が存在する環境下、例えば、生体内の生体組織に、閉じたステントをマウントしたバルーンカテーテルを挿入し、皮下で水圧を付加してバルーンを拡張させ、ステントを拡径させ、次いで水圧を解除し、バルーンを収縮させて抜去することにより、ステントを容易に埋設することができる。
【0060】
上記組織構造体製造器具を用いた、体性幹細胞が集積した組織構造体の製造方法は、生体組織材料が存在する環境下、例えば、生体内又は生体組織中に当該組織構造体製造器具を配置し、一定期間にわたり留置することを含む。生体組織材料が存在する環境、例えば、生体内の生体組織は、線維芽細胞を含むものであってよい。生体組織は、外胚葉系組織、中胚葉系組織、又は内胚葉系組織であってよい。組織構造体製造器具を留置する生体組織は、健常状態で体性幹細胞が存在する組織であってもよいし、傷害部又は欠損部のように組織修復に必要とされる体性幹細胞が存在する組織であってもよい。線維芽細胞が存在する生体組織の1つの好ましい例は、皮下組織である。
【0061】
組織構造体製造器具は、生体内の生体組織内に埋設し留置することができる。あるいは、組織構造体製造器具は、生体内の生体組織を模倣した人工環境、すなわち、生体内から取り出された生体組織を含むin vitro培養系や、生体内の生体組織を模倣して生体外に構築された環境下に留置してもよい。生体内の生体組織を模倣した人工環境としては、単離された細胞又は組織の三次元培養によって作製された人工組織又は人工臓器などが挙げられる。
【0062】
生体内の生体組織に組織構造体製造器具を埋設し留置する際には、必要に応じて麻酔下で、生体又は生体組織を切開し、挿入口を形成する。次いで、挿入口に組織構造体製造器具を挿入する。組織構造体製造器具が埋設された後、切開の傷口が縫合される。
【0063】
埋設する生体組織は、体性幹細胞の入手起源となりうる任意の動物のものであってよく、例えば、ヒト、サル、チンパンジーなどの霊長類、並びにイヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ラット、マウスなどを含む哺乳動物、また鳥類、魚類、両生類等の動物が挙げられるが、これらに限定されない。組織構造体製造器具を埋設する部位は、特に限定されないが、腹部、胸部、肩部、背部、四肢、又は腹腔内等であってよい。
【0064】
生体組織材料が存在する環境下に配置された組織構造体製造器具は、器具内中空部に、凹部を有し線維性結合組織により構成されたコア部とその凹部内に体性幹細胞が集積した組織とが形成されるまで、そこに留置する。
【0065】
生体組織材料が存在する環境下、例えば生体内の生体組織に組織構造体製造器具を留置する時間は、生体組織において過度な炎症を引き起こすことなく体性幹細胞の十分な集積を可能にする期間であることが好ましく、埋設部位、生体生物種、器具のサイズなどに応じて適宜設定することができる。そのような留置時間は、一般的には5日〜4ヶ月間であり得るが、好ましくは1週間(7日間)以上3ヶ月以下であり、例えば1週間以上2ヶ月以下、1週間以上5週間以下、9日間以上5週間以下、9日間以上4週間以下、2週間以上5週間以下、2週間以上4週間以下、2週間以上3週間以下、又は3週間以上5週間以下であってよい。
【0066】
留置期間後、組織構造体製造器具を生体組織材料が存在する環境下から取り出す。取り出した組織構造体製造器具内には、体性幹細胞が集積した組織を含む凹部を有する、線維性結合組織を含むコア部を有する組織構造体が形成されている。
【0067】
器具10の生体からの取り出しの際には、必要に応じて麻酔下で、組織構造体製造器具の埋設部位を切開する。切開部から組織構造体製造器具を取り出した後、傷口の縫合を施すことが好ましい。
【0068】
このようにして生体組織材料が存在する環境下、例えば生体内の生体組織から、組織構造体製造器具を取り出すことにより、組織構造体を単離することができる。取り出した組織構造体製造器具から、組織構造体を分離することにより、組織構造体を回収してもよい。このようにして、組織構造体製造器具を用いて、組織構造体を製造することができる。
【0069】
本発明は、上記の組織構造体製造器具を用いて製造可能な、本発明に係る組織構造体も提供する。より具体的には、本発明は、凹部を有し線維性結合組織で構成されたコア部と、その凹部に形成されたIII型コラーゲン及び体性幹細胞を含む疎線維性の組織(体性幹細胞集積組織)とを有する、組織構造体に関する。
【0070】
本発明において組織構造体のコア部25を構成する線維性結合組織22は、コラーゲン線維と線維芽細胞を主成分とする、線維密度が高く強靭な組織である。本発明におけるコア部を構成する線維性結合組織は、密性結合組織と称することもでき、脂肪組織や疎性結合組織とは異なる。本発明におけるコア部を構成する線維性結合組織は、コラーゲンとして、主にI型コラーゲンを含むことが好ましい。一方、通常、本発明のコア部におけるIII型コラーゲン含量は少なく、特にその中心部にはIII型コラーゲンはごくわずかに存在するだけである。好ましい実施形態では、本発明のコア部における総コラーゲン中のI型コラーゲンの比率は65〜90重量%程度、例えば70〜85重量%程度、III型コラーゲンの比率は5〜30重量%程度、例えば10〜25重量%程度である(例えば、
図12A及びB)。好ましい実施形態では、本発明において線維性結合組織で構成されるコア部において、凹部の近傍には体性幹細胞が存在し得るが、凹部から離れた領域(特に、コア部の中心部)には体性幹細胞は全く存在しないか又はほぼ存在しない。
【0071】
一方、凹部に形成される体性幹細胞集積組織23(ポケット部)は、体性幹細胞を含み、特に体性幹細胞23Cが富化された、疎線維性組織である。本発明における凹部に形成される体性幹細胞集積組織はIII型コラーゲンを含み、そのIII型コラーゲン含量はコア部のIII型コラーゲン含量と比較して多い。凹部に形成される体性幹細胞集積組織は、線維芽細胞、血管内皮細胞等の他の細胞を含んでもよいし、他の種類のコラーゲンや他の物質をさらに含んでもよい。好ましい実施形態では、本発明の体性幹細胞集積組織における総コラーゲン中のI型コラーゲンの比率は30〜75重量%程度、例えば35〜65重量%程度、総コラーゲン中のIII型コラーゲンの比率は20〜65重量%程度、例えば30〜60重量%である(例えば、
図12C)。凹部に形成される体性幹細胞集積組織中の線維は少量でありランダムに配向している。凹部に形成される体性幹細胞集積組織23は、コラーゲン線維を疎らにしか含んでいないことから、疎線維性であり軟組織である。なお体性幹細胞集積組織23が形成される凹部は、通常、コア部の外面に存在する。
【0072】
好ましい実施形態では、本発明の組織構造体の凹部に形成される体性幹細胞集積組織(ポケット部)における総コラーゲン中のIII型コラーゲンの比率は、その組織構造体のコア部における総コラーゲン中のIII型コラーゲンの比率よりも高い。一実施形態では、前者(ポケット部におけるIII型コラーゲンの比率)が30〜60重量%、後者(コア部におけるIII型コラーゲンの比率)が10〜25重量%であり得る。
【0073】
好ましい実施形態では、本発明の組織構造体の凹部に形成される体性幹細胞集積組織(ポケット部)における総コラーゲン中のI型コラーゲンの比率は、その組織構造体のコア部における総コラーゲン中のI型コラーゲンの比率よりも低い。一実施形態では、前者(ポケット部におけるI型コラーゲンの比率)が35〜65重量%、後者(コア部におけるI型コラーゲンの比率)が70〜85重量%であり得る。
【0074】
本発明に係る組織構造体、特にコア部及び体性幹細胞集積組織は、弾性線維を実質的に含まない。本発明において「弾性線維を実質的に含まない」とは、エラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色で全く検出されないか又は実質的に検出されないことを意味する。
【0075】
本発明に係る組織構造体は、組織構造体製造器具の中空部において形成される際、器具内中空部を埋めるようにして形成されるため、器具内中空部の形状に沿った形状となる。例えば、
図4Dに示す組織構造体製造器具を用いて組織構造体の製造を行った場合、
図11の組織構造体断面写真に示されるように、線維性結合組織により構成されるコア部は、柱状部材13の配置に従って、組織構造体の中心部から6本の柱状部材13の表面へと放射状に延び、かつ柱状部材13と柱状部材13の間の各開口部の直下に凹部を1つずつ(合計6つの凹部)形成しており、その6つの凹部にそれぞれ体性幹細胞集積組織が形成されている。したがって、本発明に係る組織構造体は、中空部を形成する枠体によりその形状が規定される。すなわち、本発明に係る組織構造体は、組織構造体製造器具により成形される。
【0076】
本発明における線維性結合組織から構成される「コア部」は、組織構造体の中核部を指し、その凹部に形成された体性幹細胞集積組織を支持するものである。好ましい実施形態では、本発明のコア部は、組織構造体の中心部から、組織構造体の最外面に向かって連続的に広がっている。本発明において組織構造体の「中心部」は、例えば、組織構造体が棒状の場合には、組織構造体の中心軸(長手方向中心軸)の全長若しくは一部及び/又はその周方向近傍の領域を指し、その中心軸は、組織構造体の短手方向の各断面(長手方向に直交する断面)の中心点(幾何中心)を結んだ線を指す。あるいは、本発明における組織構造体の「中心部」は、例えば、組織構造体が略多面体状の場合には、組織構造体の中心軸(長手方向中心軸)の全長若しくは一部及び/又はその周方向近傍の領域を指し、その中心軸は、組織構造体の短手方向の各断面の中心点(幾何中心)を結んだ線を指す。
【0077】
本発明に係る組織構造体のコア部は、少なくとも2.5mmの径を有することが好ましい。コア部の「径」は上述の定義のとおりであり、コア部の短手方向の断面に対して両側から接する二本の平行線の間の最長距離として決定される。コア部の径は、典型的には、コア部の短手方向の断面上の、コア部の中心部を挟んで反対側に存在する2つの凹部周縁部24の端部24E(
図22)間の最長距離であり得る。
【0078】
一実施形態では、本発明に係る組織構造体又はそのコア部は、中実であってもよいし、中実でなくてもよい。組織構造体又はそのコア部について「中実」とは、組織構造体又はそのコア部の中心部まで組織が詰まっていることを意味する。なお生体組織材料が存在する環境下に留置後の組織構造体製造器具内から取り出した組織構造体においては、柱状部材の外側にも薄い組織の膜が形成されていることがあるが、そのような薄い組織の膜の存在は、本発明に係る組織構造体及又はそのコア部が中実でないことを意味しない。
【0079】
本発明の組織構造体は、コア部において、体性幹細胞集積組織がその内部に形成された少なくとも1つの凹部を有し、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上の当該凹部を有してもよい。本発明の組織構造体は、コア部において、例えば4、5、6、7、8、9、又は10以上の、体性幹細胞集積組織が形成された凹部を有してもよい。本発明の組織構造体のコア部が有する、体性幹細胞集積組織が形成された凹部は、組織構造体1個当たり、例えば1〜50、3〜50、4〜40、4〜30、5〜30、3〜20、3〜15、3〜10、4〜15、又は5〜15個であり得る。凹部は線維性結合組織により形成されている。コア部における各凹部の内面は典型的には略曲面状(例えば、すり鉢状)に構成されている。
【0080】
本発明の組織構造体において、体性幹細胞集積組織が形成された凹部は、以下に限定するものではないが、少なくとも2.5mmの開口幅WWを有することが好ましい。凹部の開口幅WWは、その組織構造体の製造に使用された組織構造体製造器具の枠体の開口部の開口幅Wと同一とみなして算出することができる。あるいは、本発明の組織構造体における凹部の開口幅WWは、組織構造体製造器具を取り外した後の組織構造体の短手方向の断面において、組織構造体製造器具の枠体(例えば、柱状部材、支持部、線状部材等)の周囲に形成された凹部周縁部24の、枠体(例えば、柱状部材、支持部、線状部材等)表面上の端部(枠体の開口部の開口縁に対応)間の最短距離として決定することができる。本発明の組織構造体において、コア部の上記凹部は、開口幅WWが2.5mm以上、例えば、2.5mm以上28mm以下;2.5mm以上25mm以下;2.5mm以上20.0mm以下;又は3.0mm以上10mm以下である開口形状を有することが好ましい。
【0081】
あるいは、又は上記に加えて、本発明の組織構造体のコア部の、体性幹細胞集積組織が形成された凹部は、2.5mm又はそれを超える直径(例えば、3.0mm又はそれを超える直径)の円が内接可能な開口形状(形及び大きさ)を有することが好ましい。上記凹部の開口は、例えば、2.5mm以上28mm以下;2.5mm以上25mm以下;2.5mm以上20mm以下;又は3.0mm以上10mm以下の直径の円が内接可能な形状及び大きさを有するものであり得る。そのような形状及び大きさを有する、上記凹部の開口は、線維性結合組織の凹部及びその凹部内の体性幹細胞集積組織の形成に特に適している枠体の開口部の開口形状に対応したものである。ここで、本発明の組織構造体のコア部の凹部の開口について「円が内接可能」とは、当該開口の開口形状(例えば、矩形、又は多角形)の内側に、所定の直径を有する円が当該開口に1点以上で接して収まることができることを意味する。例えば、長辺20mm、短辺2.5mmの長方形の開口形状には、最大2.5mmの直径の円が内接可能である。
【0082】
一実施形態では、本発明の組織構造体において、線維性結合組織又はコア部は、凹部周縁部によって区画された複数の凹部を有していてもよい。
【0083】
一実施形態では、本発明の組織構造体の線維性結合組織又はコア部の外面は、複数の凹部と複数の凹部周縁部によって構成され得る。
【0084】
本発明に係る組織構造体は、棒状(例えば、略円柱状又は略多角柱状など)、略多角体状、略錐台状、略球状等の任意の形状を有していてよい。一実施形態では、本発明の組織構造体の形状が棒状であり、複数の上記凹部がその周方向に沿って位置するものであってよい。別の実施形態では、本発明の組織構造体の形状は棒状であり、複数の上記凹部がその軸方向に沿って位置するものであってもよい。別の実施形態では、本発明の組織構造体の形状が棒状であり、複数の上記凹部がその軸方向及び周方向に沿って位置するものであってもよい。
【0085】
さらに別の実施形態では、本発明の組織構造体の形状が略多面体状であり、複数の上記凹部が、略多面体の異なる面に位置するものであってよい。
【0086】
本発明の組織構造体の形状は、非管状であることが好ましく、さらに、非シート状であることが好ましい。
【0087】
本発明の組織構造体は、コア部の凹部に形成された疎線維性組織を有する。本発明の組織構造体の凹部に形成されたその組織には体性幹細胞が集積している(体性幹細胞集積組織)。体性幹細胞集積組織に含まれる体性幹細胞は、間葉系幹細胞及び多能性幹細胞の少なくとも一方を含むことが好ましく、間葉系幹細胞及び多能性幹細胞の両方を含むことがさらに好ましい。体性幹細胞集積組織は、幹細胞マーカーを発現している幹細胞、例えば、少なくとも1つの多能性幹細胞マーカーを発現している多能性幹細胞及び/又は少なくとも1つの間葉系幹細胞マーカーを発現している間葉系幹細胞を含み得る。体性幹細胞集積組織は、好ましくは、多能性幹細胞マーカーSSEA4及びSSEA3の両方を発現している多能性幹細胞を含む。体性幹細胞集積組織はまた、SSEA3及びSSEA4のいずれか一方を発現している幹細胞、例えば多能性幹細胞も含み得る。体性幹細胞集積組織はまた、間葉系幹細胞マーカーCD90及びCD105の両方又は一方を発現している間葉系幹細胞を含み得る。体性幹細胞集積組織はまた、間葉系幹細胞マーカーCD90、又はCD90とSSEA3の両方を発現している幹細胞を含み得る。体性幹細胞集積組織はまた、間葉系幹細胞マーカーCD105、又はCD105とSSEA3の両方を発現している幹細胞を含み得る。体性幹細胞集積組織はまた、増殖因子マーカーVEGF、又はVEGFとSSEA3の両方を発現している幹細胞を含み得る。そのような幹細胞は、高い血管新生能を有する幹細胞である。体性幹細胞集積組織はまた、増殖因子マーカーHGFを発現している幹細胞を含み得る。本発明の組織構造体の体性幹細胞集積組織は、上記マーカーに加えて、又は上記マーカーの代わりに、異なるマーカーを発現する体性幹細胞、例えば多能性幹細胞、間葉系幹細胞を含んでもよい。
【0088】
好ましい実施形態では、本発明の組織構造体は、それに含まれる全細胞数に対し、体性幹細胞(間葉系幹細胞及び多能性幹細胞を含む)を、1%以上、5%以上、10%以上、又は30%以上、及び、60%以下、50%以下、40%以下、又は30%以下の比率、例えば1〜60%、5〜40%、5〜30%、又は5〜20%の比率(細胞数ベースの幹細胞比率)で含み得る。
【0089】
好ましい実施形態では、本発明の体性幹細胞集積組織は、それに含まれる全細胞数に対し、体性幹細胞(間葉系幹細胞及び多能性幹細胞を含む)を、20%以上、30%以上、又は50%以上、及び、90%以下、80%以下、又は70%以下の比率、例えば、20〜90%、30〜90%、30〜80%、又は50〜90%(細胞数ベースの幹細胞比率)の比率で含み得る。
【0090】
好ましい実施形態では、本発明の組織構造体及び/又は体性幹細胞集積組織を、実施例4に記載されたように、0.25%コラゲナーゼタイプI溶液中で37℃で1.5時間処理したとき、それにより分解された組織(体性幹細胞集積組織とその周囲)から回収された細胞は、その全細胞数に対し、体性幹細胞(間葉系幹細胞及び多能性幹細胞を含む)を、20%以上、30%以上、又は50%以上、及び、90%以下、80%以下、又は70%以下の比率、例えば、20〜90%、30〜90%、30〜80%、又は50〜90%(細胞数ベースの幹細胞比率)の比率で含み得る。
【0091】
以上の幹細胞比率は、少なくとも1つの幹細胞マーカー(以下に限定するものではないが、例えば、CD90、CD105、SSEA3、及びSSEA4からなる群から選択される少なくとも1つ、又はCD90、SSEA3、及びSSEA4からなる群から選択される少なくとも1つ)を発現している細胞の数を幹細胞数(体性幹細胞数)として用いて、算出することができる。
【0092】
一実施形態では、本発明の組織構造体及び体性幹細胞集積組織は、間葉系幹細胞と多能性幹細胞を、以下に限定されないが、間葉系幹細胞:多能性幹細胞=60〜95:5〜40、60〜80:10〜30、又は65〜75:15〜25の比率で含むことができる。この間葉系幹細胞 対 多能性幹細胞比は、少なくとも1つの間葉系幹細胞マーカー(以下に限定するものではないが、例えば、CD90又はCD105)を発現している細胞の数を間葉系幹細胞数とし、少なくとも1つの多能性幹細胞マーカー(以下に限定するものではないが、例えば、SSEA3又はSSEA4)を発現している細胞の数を多能性幹細胞数として用いて、算出することができる。
【0093】
本発明の組織構造体において凹部に形成される体性幹細胞集積組織は、そのような体性幹細胞に加え、III型コラーゲンを含んでおり、さらに、線維芽細胞、血管内皮細胞等の他の細胞を含んでもよいし、他の種類のコラーゲンや他の物質をさらに含んでもよい。血管内皮細胞の存在は、例えば、血管内皮細胞マーカーvWFの発現を検出することにより調べることができる。線維芽細胞の存在は、例えば、線維芽細胞マーカーvimentinの発現を検出することにより調べることができる。
【0094】
本発明の組織構造体では特にその比較的外側の領域でVEGFの高発現が見られ得る。一方、本発明の組織構造体の中心部に多く含まれる線維芽細胞では典型的にはVEGFの発現が弱い。
【0095】
本発明の組織構造体は、生体組織材料が存在する環境下、例えば生体内の生体組織に、上記の組織構造体製造器具を留置することによって形成されるものであってよい。
【0096】
本発明の組織構造体は、生体組織材料が存在する環境下で、上記の組織構造体製造器具を用いて製造された後、当該器具内に入ったままの状態であってもよい。その場合、組織構造体が組織構造体製造器具内の中空部を埋めた(満たした)状態であり、そのコア部は当該器具の枠体(例えば、柱状部材、支持部、線状部材等)の表面に密着していることが好ましい。あるいは本発明の組織構造体は、その形成後、組織構造体製造器具から分離されたものであってもよい。
【0097】
本発明の組織構造体の線維性結合組織(コア部)の凹部に形成された体性幹細胞集積組織は、線維性結合組織から、容易に採取することができる。例えば、本発明の組織構造体の線維性結合組織22(コア部25)の凹部22Hから、体性幹細胞集積組織23を容易に掻き取ることができる。あるいは、生体組織材料が存在する環境下、例えば生体内の生体組織から取り出された器具10から、集積された体性幹細胞23Cを含む体性幹細胞集積組織23を、凹部22Hから掻き取ったり、酵素分解したりすることによって、体性幹細胞集積組織23又は体性幹細胞23Cを回収することができる。生体組織材料が存在する環境下から取り出した器具10を、直接、コラゲナーゼ、エラスターゼ、トリプシン、TrypLE
TM(Thermo Fisher Scientific)、アキュターゼ(Accutase
(R);Innovative Cell Technologies,Inc.)、ディスパーゼなどの分解酵素により酵素処理することによって、体性幹細胞23Cを器具内中空部において凹部に形成された体性幹細胞集積組織23から分離してもよい。あるいは、凹部22Hから掻き取った体性幹細胞集積組織23を、コラゲナーゼ、エラスターゼ、トリプシン、TrypLE
TM(Thermo Fisher Scientific)、アキュターゼ(Accutase
(R);Innovative Cell Technologies,Inc.)、ディスパーゼなどの分解酵素により酵素処理することによって、体性幹細胞23Cを体性幹細胞集積組織23から分離してもよい。酵素処理時間は、処理物の量にも依存するが、典型的には、0.5〜2時間程度であってよい。酵素処理によって生き残った細胞を、線維性結合組織22から分離し、そこから体性幹細胞23Cを回収してもよい。
【0098】
さらなる単離精製工程により、体性幹細胞23Cの精製度を増加させることもできる。例えば、膜フィルターやメッシュフィルターなどを用いる濾過処理によって、体性幹細胞23Cを含む細胞を分離してもよい。体性幹細胞23Cの単離精製は、幹細胞マーカー(多能性幹細胞マーカー及び又は間葉系幹細胞マーカー)等の、体性幹細胞の細胞表面に特異的に発現しているマーカーを用いて行うことができる。例えば、多能性幹細胞マーカーSSEA4及びSSEA3の一方又は両方、間葉系幹細胞マーカーCD105及びCD105の一方又は両方を、幹細胞マーカーとして用いることができる。体性幹細胞集積組織から、例えば、磁気細胞分離(Magnetic cell sorting;MACS)、蛍光活性化細胞分離(fluorescence−activated cell sorting:FACS)等のセルソーティング法を始めとする常法により、体性幹細胞を容易に分離及び/又は濃縮することができる。
【0099】
本発明は、本発明の組織構造体から、体性幹細胞集積組織又は体性幹細胞を分離することを含む、体性幹細胞23Cの収集方法にも関する。
【0100】
本発明の組織構造体の体性幹細胞集積組織から単離された体性幹細胞は、必要に応じて適宜培養及び増殖してもよいし、しなくてもよい。あるいは、体性幹細胞集積組織又はそこから部分精製された体性幹細胞を含む細胞集団を、必要に応じて適宜培養及び増殖してもよいし、しなくてもよい。体性幹細胞集積組織、体性幹細胞を含む細胞集団、又は体性幹細胞は、in vitro又はex vivoでの組織構築又は細胞分化用に用いることができる。体性幹細胞集積組織、体性幹細胞を含む細胞集団、又は体性幹細胞は、患者に投与して、再生医療用、例えば、組織修復(組織再生)、組織若しくは臓器の障害若しくは機能低下を修復又は改善するために、用いることができる。すなわち、本発明で得られる体性幹細胞集積組織、体性幹細胞を含む細胞集団、又は体性幹細胞を含む細胞製剤は、再生医療用、例えば、組織修復(組織再生)、組織若しくは臓器の障害若しくは機能低下の修復又は改善用のものであり得る。
【0101】
本発明で得られる体性幹細胞集積組織、体性幹細胞を含む細胞集団、又は体性幹細胞は、生体組織外で目的とする細胞に分化を誘導されてから、患者に投与してもよいし、適切な生体組織(組織若しくは臓器の障害若しくは機能低下が生じている部位など)に分化誘導なしで投与してもよい。本発明で得られる体性幹細胞集積組織、体性幹細胞を含む細胞集団、又は体性幹細胞は、常法に従って凍結保存することができ、必要な時期に投与することができる。
【0102】
本発明によれば、体性幹細胞が集積された組織構造体を製造することができ、それにより体性幹細胞を効率よく収集し、体性幹細胞の取得及び利用を容易にすることができる。
【実施例】
【0103】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0104】
[材料及び器具]
本願明細書の実施例では、以下の被験動物、試薬及び機器を使用した。
− 被験動物:ビーグル犬、雌、3歳齢、体重10kg
−
図4〜6に示す組織構造体製造器具
−
図9に示す形状のステント、及びバルーンカテーテル
− 組織保存液HypoThermosol
(R)FRS(BioLIfe Solutions,101102)
− コラゲナーゼタイプI(Worthington,LS004214)
− ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(DMEM−LG(低グルコース);Wako,041−29775)
− 細胞凍結保存液バンバンカー
(R)(日本ジェネティクス,CS−02−001)
− 4%パラホルムアルデヒド(PFA;Wako,163−20146)
− 溶血試薬VersaLyse Lysing Solution(Beckman Coulter,A09777)
− ウシ胎児血清(FBS)(Biosera,FB−1365)
− リン酸緩衝生理食塩水(PBS)
− キシレン(武藤化学,4313)
− 100%エタノール(武藤化学,4026)
− 媒染剤(武藤化学,4006−1)
− 第二媒染剤(武藤化学,8141−1)
− ワイゲルト鉄ヘマトキシリン液1(武藤化学,4034−1)
− ワイゲルト鉄ヘマトキシリン液2(武藤化学,4035−1)
− 0.75%オレンジG(武藤化学,4023−1)
− 1%酢酸(武藤化学,4017−1)
− マッソン染色液B(武藤化学,4025−1)
− 2.5%リンタングステン酸液(武藤化学,4018−1)
− アニリン青液(武藤化学,4020−1)
− 前田変法レゾルシル・フクシン液(武藤化学,4032−1)
− ワンギーソン液A(武藤化学,4036−1)
− ワンギーソン液B(武藤化学,4037−1)
− 1%シリウスレッド液(武藤化学,3306−1)
− クエン酸バッファー(Sigma,C9999−1000ML)
− ウシ血清アルブミン(BSA)(Wako,013−25773)
【0105】
<一次抗体>
− 抗CD90抗体(abcam,ab123511)
− 抗CD105抗体(abcam,ab156756)
− 抗SSEA4抗体(abcam,ab16287)
− 抗VEGFA抗体(abcam,ab1316)
− 抗HGF抗体(abcam,ab83760)
− 抗SSEA3抗体(Bioss,bs−3575R)
− 抗Von Willebrand Factor(vWF)抗体(abcam,ab6994)
− 抗vimentin抗体(abcam,ab8069)
【0106】
<二次抗体(蛍光標識)>
− ヤギ抗マウスIgG H&L(Alexa Fluor
(R)488)(abcam,ab150113)
− ヤギ抗ウサギIgG H&L(Alexa Fluor
(R)594)(abcam,ab150080)
− ProLong
TM Gold Antifade Mountant with DAPI(4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)(Thermo Fisher Scientific,P36931)
− 細胞染色バッファー(Cell Staining Buffer;BioLegend,420201)
− FITC標識抗CD90抗体(BioLegend,328107)
− 抗FITCマイクロビーズ(Miltenyi Biotec,130−048−700)
− ヤギ抗ウサギIgGマイクロビーズ(Miltenyi Biotec,130−048−600)
− MACSバッファー(autoMACS
(R)Rinsing Solution;Miltenyi Biotec,130−091−222)
− MACS分離カラム(MSカラム;Miltenyi Biotec,130−042−201)
− 蛍光顕微鏡(Nikon,ECLIPSE Ti−U)
− 偏光顕微鏡(Nikon,ECLIPSE E1000)
【0107】
[実施例1]生体内組織形成術(iBTA)による組織構造体の作製
ビーグル犬を麻酔し、右側腹部から背部にかけて5ヶ所の皮膚を電気メスで切開した後、皮下に、
図4D及び
図10Aに示す形状の組織構造体製造器具を各箇所に1つずつ挿入して埋設し、傷口を縫合した。3週間留置した後、ビーグル犬を麻酔し、皮膚を切開し、皮下の組織構造体製造器具を取り出した。使用した組織構造体製造器具は、直径1mm、長さ60mmの円柱状の6本の柱状部材13をその両端部と中間部で直径11mmの円環状の支持部により固定したものであり、その開口幅Wは4.0mm、深さDは4.6mmである。
【0108】
皮下から取り出した器具のほぼ全体が軟組織に覆われていた。断面を観察したところ、器具内の中空部(中空空間)には中心まで組織が詰まっていた。生体内に埋設し留置した組織構造体製造器具内の中空部に細胞が集積し、組織形成されたものと考えられた。埋設部位の違いは組織形成にほとんど影響しなかった。
【0109】
図10に、使用した器具(A)、生体内埋設の3週間後に取り出された器具(B)、及び得られた組織構造体の断面(C)の写真の例を示す。
【0110】
生体内に本発明に係る組織構造体製造器具を埋設し留置することにより、組織構造体を作製できることが示された。
【0111】
皮下から取り出した組織構造体製造器具は、組織保存液HypoThermosol
(R)FRSの入った15mL遠心管に入れて氷上に置き、4℃で保存して24時間以内に次の処理を行った。
【0112】
クリーンベンチ内で、組織保存液から、形成された組織構造体を内部に有する組織構造体製造器具を取り出し、PBSの入った遠心管で軽く洗浄後、器具周囲の余分な組織をトリミングした。トリミング後、写真を撮影し、当該器具をDMEM中で保存した。
【0113】
[実施例2]組織構造体の組織学的分析
実施例1で生体内から取り出した組織構造体製造器具を、4%PFAで4℃で24時間処理することにより組織を固定し、次いで器具を取り外して組織構造体のパラフィン包埋ブロックを作製した。
【0114】
パラフィン包埋ブロックを、短手方向にミクロトームで厚さ3〜5μmの切片を作製した。切片についてヘマトキシリン・エオシン(HE)染色、マッソン・トリクローム(MT)染色、エラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色、及びシリウスレッド(SR)染色を行い、顕微鏡で観察を行った。
【0115】
染色の結果、組織構造体は全体的にHE染色で桃色に(
図11A)、MT染色で青色に(
図11B)、染色されたことから、得られた組織構造体にはコラーゲン線維が豊富に含まれていることが示された。さらに組織構造体は全体的にSR染色で赤色に染まったことから、コラーゲンが豊富に含まれていることが示された(
図11D)。組織構造体における、特に組織構造体製造器具の柱状部材の周囲から中心部にかけての領域は、濃染されたことから示されるとおり、コラーゲンが密に存在していた。したがって組織構造体の上記柱状部材周囲及び中心部では線維性の結合組織が形成されたことが示された。これに対し、組織構造体の、上記柱状部材間に当たる位置には、HE、MT及びSR染色の全てで淡染された領域が存在し、この領域にはコラーゲン線維が極めて疎らに存在するのみであった。得られた組織構造体において上記柱状部材周囲及び中心部に形成された結合組織は上記柱状部材間に略曲面状の凹部を有しており、その凹部に淡染領域(ポケット部)に相当する軟組織(疎線維性組織)が形成されていることが示された。
【0116】
なお、EVG染色で黒色に染色される領域がなかったことから、組織構造体には弾性線維はほとんど含まれていないことが示された(
図11C)。
【0117】
組織構造体中に存在するコラーゲンの型を調べるため、シリウスレッド(SR)染色した切片を偏光顕微鏡で観察した。偏光顕微鏡ではI型コラーゲンは黄〜橙色、III型コラーゲンは緑色に観察される。
【0118】
観察の結果、シリウスレッドで濃染された領域(器具柱状部材周囲及び中心部)では密に配列したコラーゲン線維が黄色や橙色に観察されたことから、I型コラーゲンが主に存在していることが示された(
図12A及びB)。一方、柱状部材間の淡染領域は緑色で観察され、器具柱状部材周囲及び中心部と比較して、III型コラーゲンがより多く存在していることが示された(
図12C)。柱状部材間の淡染領域(ポケット部)に含まれる線維は少量でありランダムに配向していた(
図12C)。
【0119】
[実施例3]免疫組織化学染色
組織構造体中に存在する細胞種及びその分布を調べるため、組織構造体の免疫組織化学染色を行った。組織構造体の厚さ3〜5μmの切片について、間葉系幹細胞マーカーとしてCD90及びCD105、多能性幹細胞マーカーとしてSSEA4及びSSEA3、増殖因子として血管内皮増殖因子(VEGF)及び肝細胞増殖因子(HGF)を、対応する一次抗体及び二次抗体を用いた免疫組織化学染色により検出した。さらに、細胞核染色のためにDAPI(4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)を用いた染色処理を行った。その結果を
図13〜15に示す。
【0120】
間葉系幹細胞マーカーCD90及びCD105の検出では、ポケット部において多数の細胞が染色された。上記柱状部材周囲においてもポケット部に近い領域では陽性細胞が確認できた。
図13において代表的な染色箇所を矢じり記号で示した。一方、組織構造体の中心部には陽性細胞は全く存在していなかった。
【0121】
多能性幹細胞マーカーSSEA4及びSSEA3の検出では、間葉系幹細胞マーカーと同様に、ポケット部において多数の細胞が染色された。
図14A及びBに代表的な染色箇所を矢じり記号で示した。一方、組織構造体の中心部には陽性細胞が存在していなかった。
【0122】
組織構造体内部の増殖因子の発現に関しては、VEGFは組織構造体全体の比較的外側の領域で高発現しており、特にポケット部内に存在する円形細胞がより強くVEGFを発現していた(
図15)。HGF発現細胞はポケット部に多くみられ、VEGFと同様に円形細胞がHGFを高発現していた(
図15)。なお円形細胞は一般に未分化性が高い細胞と考えられる。一方、線維芽細胞におけるVEGFの発現は弱かった。
【0123】
幹細胞の性質を調べるため、幹細胞マーカーSSEA3と他のマーカーとの二重染色を行った(CD90&SSEA3、CD105&SSEA3、SSEA4&SSEA3、VEGF&SSEA3)。
【0124】
二重染色の結果、二重陽性細胞(白矢印)の他に、各マーカーの単独陽性の細胞(横縞矢印、ドット矢印)が見られた(
図16)。横縞矢印は、CD90、CD105、SSEA4、又はVEGF陽性の緑色の染色を示している。ドット矢印は、SSEA4陽性の赤色の染色を示している。ポケット部の組織を構成している細胞が、未分化度の異なる、階層性を持った細胞集団であることが示された。また、一部の細胞は多能性幹細胞マーカーSSEA4とSSEA3を同時に発現しており(
図16C)、これはES細胞などのより未分化な多能性幹細胞の特徴(Henderson J.K.,et al.,Stem cels,2002;20:329−337)と一致する。また、VEGFがSSEA3陽性細胞で特に高く発現したことから(
図16D)、ポケット部の組織に存在する未分化性の高い幹細胞は高い血管新生能を有していると考えられた。実際、抗vWF抗体を用いた免疫組織化学染色により、血管内皮細胞マーカーvWFの発現が、ポケット部とコア部の境界を中心とした領域において強く検出され、当該境界付近及びポケット部における血管内皮細胞の存在が示された。なお、抗vimentin抗体を用いた免疫組織化学染色により、ポケット部には線維芽細胞マーカーvimentinの発現も検出された。
【0125】
以上の結果は、組織形成を促進するためにポケット部に幹細胞が集積し活性化されていることを示す。すなわち凹部に形成された組織(ポケット部)は体性幹細胞が集積した組織(体性幹細胞集積組織)であるといえる。このようなポケット部を有する組織構造体を作製することで、活性化状態の幹細胞を高効率で取得・利用可能になる。
【0126】
[実施例4]細胞分離及び分析
バイアル中のコラゲナーゼタイプI(50mg)にDMEM(無血清)を20mL加え、0.25%コラゲナーゼ溶液を調製した。調製したコラゲナーゼ溶液を6mL入れた15mL遠心管に、実施例1で生体内から取り出された、組織構造体を内部に有する組織構造体製造器具を入れ、恒温槽で37℃で振盪した。1.5時間振盪した後、当該器具とコラゲナーゼで未分解の組織とを取り除き、遠心管を4℃で1000rpm、5分遠心し、上清を除去した。DMEMを6mL添加し、ピペッティングし、50mL遠心管に細胞を回収した(4本分、24mL)。回収画分を4℃で1000rpm、5分遠心し、上清を除去した。
【0127】
赤血球を溶血させるため、回収した細胞にVersaLyse Lysing Solutionを1mL加え、ピペッティングし、室温で10分インキュベートした。10%FBS含有DMEMを10mL加え、4℃で1000rpm、5分遠心し、上清を除去した。細胞凍結保存液バンバンカー
(R)を5mLを加えて懸濁し、その細胞懸濁液10μLを分取し、等量のトリパンブルー染色液を加えて染色し、細胞数を計数した。クライオチューブに1mLずつ分注し、液体窒素タンクで保存した。
【0128】
バンバンカー
(R)5mL懸濁液の細胞濃度は6.25×10
6細胞/mL、細胞生存率は98.4%であった。したがって、組織構造体1つあたり約4x10
6細胞を回収できた。なお独立して行った他の実験でもほぼ同等の細胞数を回収できた。本実施例の処理条件下では、体性幹細胞集積組織のほぼ全体とその周囲の結合組織(組織構造体の周辺部)が分解されたが、組織構造体(コア部)の中心部までは分解されなかった。
【0129】
回収された細胞集団中の細胞の存在比率を調べるため、フローサイトメーターを用いてCD90陽性細胞、SSEA3陽性細胞、SSEA4陽性細胞をそれぞれ計数した。
【0130】
その結果、回収された細胞集団中、CD90陽性細胞が73%、SSEA3陽性細胞が23%、及びSSEA4陽性細胞が18%であり(
図17)、回収された細胞集団中の幹細胞マーカーを発現する細胞は80%前後であった。マーカー発現に基づくと、約70%が間葉系幹細胞(2.8×10
6細胞)、約20%が多能性幹細胞(8.0×10
5細胞)であった。
【0131】
コラゲナーゼ処理では、組織構造体が外側から分解されて細胞が分離されるため、コラゲナーゼ処理初期に分離される細胞のほとんどは体性幹細胞集積組織由来の体性幹細胞であった。コラゲナーゼ処理時間に応じて線維芽細胞の割合が増えることが示された。
【0132】
一般的な間葉系幹細胞のソースである骨髄は10〜100細胞/mL、脂肪組織は5×10
3細胞/gの間葉系幹細胞を含むにすぎない。本発明に係る細胞構造体は幹細胞を高い比率で含んでいることから、本発明では、幹細胞を回収する従来の方法と比較してより高効率に幹細胞を回収することができる。
【0133】
[実施例5]CD90又はSSEA3陽性細胞の濃縮
実施例4と同様の方法で組織構造体をコラゲナーゼ処理し回収した細胞集団から、CD90又はSSEA3陽性の幹細胞を単離及び濃縮した。回収した細胞集団について抗CD90抗体(BioLegend,328107)又は抗SSEA3抗体(Bioss,bs−3575R)で標識し、磁気ビーズ抗体(抗FITCマイクロビーズ(Miltenyi Biotec,130−048−700)及びヤギ抗ウサギIgGマイクロビーズ(Miltenyi Biotec,130−048−600))を反応させ、磁気細胞分離(Magnetic cell sorting;MACS)法により細胞分離を行った。
【0134】
その結果、CD90陽性細胞の比率を分離前の62%から分離後に90%まで濃縮することができた(
図18)。またSSEA3陽性細胞の比率を、分離前の29%から分離後に84%まで濃縮することができた(
図19)。
【0135】
MACS法による細胞分離前の細胞集団(対照)及び細胞分離後の細胞集団を6ウェルプレートに3000細胞/cm
2の密度で播種し、10%FBS含有DMEMで培養し、細胞形態を観察した。その結果、線維芽細胞様の細胞がプレート底面に接着し、また増殖したことが示された(
図20)。幹細胞マーカーで分離した細胞も線維芽細胞様の形態であったが、分離前の細胞集団よりも小型の細胞が多くみられた(
図20)。
【0136】
このように本発明に係る細胞構造体をソースとすることにより、目的の幹細胞を効率よく濃縮することができた。
【0137】
[実施例6]
ビーグル犬の皮膚を穿刺し、皮下に、閉じたステント(拡径時の長さ29mm x 直径20mm)をマウントしたバルーンカテーテルを挿入した(
図21A、D)。皮下で水圧を付加してバルーンを拡張させ(
図21B)、ステントを拡径させた(
図21C)。
【0138】
水圧を解除し、バルーンを収縮させて抜去し、ステントを拡径状態で皮下に留置した。3週間後、ビーグル犬を麻酔し、皮膚を切開して、皮下に留置したステントを摘出した。
【0139】
ステント内部には中心部まで組織が詰まっていた(
図21E)。ステント内部に形成された組織構造体を取り出した(
図21F)。ステントの金属フレーム周囲及び中心部では線維性結合組織が形成され、隣接する金属フレームと金属フレームの間で結合組織は曲面状の凹部を形成した。その凹部には幹細胞が集積したポケット部(体性幹細胞集積組織)が形成されていた(
図21G、矢印)。またステントの両端の貫通開口部12Hにおいても、金属フレーム間と同様に、体性幹細胞集積組織が形成された凹部が認められた。このように、
図9に示す形状のステントを用いても本発明に係る組織構造体を製造できることが示された。
【0140】
[実施例7]
様々な形状を有する本発明に係る組織構造体製造器具を用い、組織構造体の製造を行った。
図4A〜C、及び
図5A及びBに示す5種類の形状の組織構造体製造器具10を準備した。使用した5種類の組織構造体製造器具の柱状部材13は、いずれも直径1mmの円柱状であった。十分な麻酔下のビーグル犬に切開術を施して、腹部の皮下に組織構造体製造器具を埋設して傷口を縫合した。器具埋設の3日、10日、2週間(14日)、17日、又は3週間(21日)後、ビーグル犬に切開術を施して、腹部の皮下から組織構造体製造器具を取り出した。
【0141】
皮下から取り出した組織構造体製造器具は、ほぼ全体が軟組織で覆われ、その器具内の中空部(中空空間)には組織が詰まっており、上記実施例と同様に組織構造体が形成されたことが観察された。
【0142】
上記器具から得た組織構造体について、実施例2と同様の方法でコラーゲン線維を染色するための線維染色処理を行った。一例として、
図4Bの組織構造体製造器具(開口部の開口幅W=6.0mm)を用いて形成された組織構造体の長手方向中央付近に位置する切片のHE染色像を、
図22に示す。実施例2とよく似た結果が示された。各柱状部材の周囲から組織構造体の中心部にかけては結合組織が存在し、柱状部材間では結合組織が凹部22Hを形成し、その凹部には疎線維性の体性幹細胞集積組織(ポケット部)23が存在していた。なお結合組織の主成分は、緻密なコラーゲン線維であった。
【0143】
組織構造体の組織解析の結果から、組織構造体製造器具の各柱状部材の表面から当該器具の中空部の内方に広がるように線維性結合組織が形成されていき、隣り合う柱状部材の周囲で形成された結合組織が相互につながることにより、上記器具の開口部から器具中空部に向かって窪む凹部を外面に有するコア部が形成されるとともに、その凹部に生体由来の体性幹細胞が集積し、体性幹細胞集積組織が形成されると考えられた。
【0144】
さらに、実施例3と同様にして、免疫組織化学染色を行った。コア部の結合組織では、DAPI染色された多数の細胞核の存在が認められた一方、間葉系幹細胞マーカーCD90の発現は陰性であり、また、多能性幹細胞マーカーSSEA−4の発現も陰性であった。他方、体性幹細胞集積組織(ポケット部)には、CD90陽性である多数の体性幹細胞、及びSSEA−4陽性である多数の体性幹細胞の存在が認められた。
【0145】
組織構造体製造器具の生体内埋設後の留置期間が3日の場合、凹部を外面に有するコア部の形成は認められたが、体性幹細胞集積組織とコア部において、CD90陽性細胞及びSSEA−4陽性細胞のいずれの存在も検出されなかった。留置期間が10日、2週間、17日、及び3週間の場合、コア部において、CD90陽性細胞及びSSEA−4陽性細胞の存在が示された。
【0146】
図23に示すように、HE染色の結果から、留置期間が10日の場合、体性幹細胞集積組織に多数の線維素(フィブリン)が含まれることが認められた。一方、留置期間が3週間の場合は、留置期間が10日の場合と比較して体性幹細胞集積組織に含まれる線維素が少ないことが認められた。対照的に、体性幹細胞集積組織において検出されたCD90陽性の細胞数及びSSEA−4陽性の細胞数は、留置期間が3週間の場合には、留置期間が10日の場合と比較して非常に多いことが認められた。
【0147】
留置期間が2週間の場合の体性幹細胞集積組織中のCD90陽性の細胞数は、留置期間が10日の場合と、留置期間が3週間の場合との中間値程度であった。それに対し、留置期間が2週間の場合の体性幹細胞集積組織中のSSEA−4陽性の細胞数は、留置期間が10日の場合よりも若干多い程度であった。すなわち、生体内埋設の2週間後から3週間後までの間の時点で、体性幹細胞集積組織中のSSEA−4陽性細胞が大幅に増加したことが示された。
【0148】
以上の結果から、体性幹細胞集積組織中の体性幹細胞の細胞数は、組織構造体製造器具の生体内留置期間に応じて増加することが示された。
【0149】
[実施例8]
図4〜6に示す組織構造体製造器具の構造と、結合組織の凹部及び体性幹細胞集積組織の形成との関係について、実施例7と同様の方法で3週間の留置期間にわたり製造された組織構造体を線維染色(HE染色)処理した切片を調べた。
【0150】
組織構造体の製造に
図4Aに示す形状の組織構造体製造器具を使用した場合、(i)3本の柱状部材13間の開口幅Wが3.0mmであり、深さDが2.0mmである器具の中空部10S(器具上段)、及び(ii)4本の柱状部材13間の開口幅Wが2.5mmであり、深さDが2.2mmである器具の中空部10S(器具下段)の両方において、各柱状部材13、支持部11A及び11Bの周囲及び中心部に線維性結合組織を有し、かつ2本の隣り合う柱状部材13と支持部11Aと支持部11Bで囲まれた(形成された)各開口部から器具中空部に向かって窪む凹部22Hを有するコア部25と、その凹部に形成された体性幹細胞集積組織23とを有する組織構造体が製造された(
図24)。コア部25を構成する線維性結合組織22は組織構造体製造器具の2つの支持部11Aの各貫通孔11H内まで広がっていた。組織構造体は、貫通孔(支持部開口部)11Hから器具中空部に向かって窪む凹部22Hをさらに有しており、その凹部にも体性幹細胞集積組織23の形成が認められた。上記(i)及び(ii)の器具中空部にそれぞれ形成された線維性結合組織は、支持部11Bの貫通孔内に形成された線維性結合組織を介して連結されていた。
【0151】
組織構造体の製造に
図4Bに示す形状の組織構造体製造器具を使用した場合、(i)6本の柱状部材13間の開口幅Wが4.0mmであり、深さDが4.6mmである器具の中空部10S(器具上段)、(ii)4本の柱状部材13間の開口幅Wが6.0mmであり、深さDが4.0mmである器具の中空部10S(器具中段)、及び(iii)8本の柱状部材13間の開口幅Wが3.0mmであり、深さDが4.8mmである器具の中空部10S(器具下段)のいずれにおいても、各柱状部材13、支持部11A及び11Bの周囲及び中心部に線維性結合組織を有し、かつ2本の隣り合う柱状部材13と2つの対向する支持部(支持部11Aと支持部11B、又は2つの支持部11B)で囲まれた(形成された)各開口部から器具中空部に向かって窪む凹部22Hを有するコア部25と、その凹部に形成された体性幹細胞集積組織23とを有する組織構造体が製造された(
図25)。コア部25を構成する線維性結合組織22は組織構造体製造器具の2つの支持部11Aの各貫通孔11H内まで広がっていた。組織構造体は、貫通孔(支持部開口部)11Hから器具中空部に向かって窪む凹部22Hをさらに有しており、その凹部にも体性幹細胞集積組織23の形成が認められた。上記(i)〜(iii)の器具中空部にそれぞれ形成された線維性結合組織は、2つの支持部11Bの貫通孔11H内に形成された線維性結合組織を介して連結されていた。
【0152】
組織構造体の製造に
図4Cに示す形状の組織構造体製造器具を使用した場合、(i)8本の柱状部材13間の開口幅Wが5.0mmであり、深さDが7.1mmである器具の中空部10S(器具上段)、(ii)6本の柱状部材13間の開口幅Wが6.5mmであり、深さDが6.8mmである器具の中空部10S(器具中段)、及び(iii)10本の柱状部材13間の開口幅Wが3.5mmであり、深さDが7.3mmである器具の中空部10S(器具下段)のいずれにおいても、各柱状部材13、支持部11A及び11Bの周囲及び中心部に線維性結合組織を有し、かつ2本の隣り合う柱状部材13と2つの対向する支持部(支持部11Aと支持部11B、又は2つの支持部11B)で囲まれた(形成された)各開口部から器具中空部に向かって窪む凹部22Hを有するコア部25と、その凹部に形成された体性幹細胞集積組織23とを有する組織構造体が製造された(
図26)。コア部25の線維性結合組織22は組織構造体製造器具の2つの支持部11Aの各貫通孔11H内まで広がっていた。組織構造体は、貫通孔(支持部開口部)11Hから器具中空部に向かって窪む凹部22Hをさらに有しており、その凹部にも体性幹細胞集積組織23の形成が認められた。上記(i)〜(iii)の器具中空部にそれぞれ形成された線維性結合組織は、2つの支持部11Bの貫通孔11H内に形成された線維性結合組織を介して連結されていた。
【0153】
組織構造体の製造に
図5Aに示す形状の組織構造体製造器具を使用した場合、各柱状部材13及び支持部11Aの周囲及び中心部に線維性結合組織を有し、かつ2本の隣り合う柱状部材13と2つの対向する支持部11Aで囲まれた(形成された)各開口部から器具中空部に向かって窪む凹部22Hを有するコア部25と、その凹部に形成された体性幹細胞集積組織23とを有する組織構造体が製造された。各開口部について、柱状部材13間の開口幅Wが2.5mm以上5.0mm以下の範囲において凹部22Hの形成が認められ、その凹部22Hに体性幹細胞集積組織23の存在が認められた。開口幅Wが2.5mmよりも狭い範囲においては、凹部22Hの形成は認められなかった。例えば、
図27Aは、組織構造体の長手方向のほぼ中央に位置する切片のHE染色写真である。開口幅Wが3.0mmであり、深さDが4.8mmである部位では凹部22Hが認められ、その凹部22Hにおいて体性幹細胞集積組織23の存在も認められた。
図27Bは、組織構造体の長手方向の端部近くに位置する切片のHE染色写真である。開口幅Wが4.0mmであり、深さDが4.6mmである部位では凹部22Hが認められ、その凹部22Hにおいて体性幹細胞集積組織23の存在も認められたが、開口幅Wが2.0mmであり、深さDが4.9mmである部位では凹部22Hの形成は認められなかった(
図27B)。コア部25の線維性結合組織22は組織構造体製造器具の2つの支持部11Aの各貫通孔11H内まで広がっていた。組織構造体は、貫通孔(支持部開口部)11Hから器具中空部に向かって窪む凹部22Hをさらに有しており、その凹部にも体性幹細胞集積組織23の形成が認められた。
【0154】
組織構造体の製造に
図5Bに示す形状の組織構造体製造器具を使用した場合、各柱状部材13及び支持部11Aの周囲及び中心部に線維性結合組織を有し、かつ2本の隣り合う柱状部材13と2つの対向する支持部11Aで囲まれた(形成された)各開口部から器具中空部に向かって窪む凹部22Hを有するコア部25と、その凹部に形成された体性幹細胞集積組織23とを有する組織構造体が製造された。各開口部について、柱状部材13間の開口幅Wが2.5mm以上8.0mm以下の範囲において凹部22Hの形成が認められ、その凹部22Hに体性幹細胞集積組織23の存在が認められた。開口幅Wが2.5mmよりも狭い範囲においては、凹部22Hの形成は認められなかった。例えば、
図28Aは、組織構造体の長手方向のほぼ中央に位置する切片のHE染色写真である。開口幅Wが4.0mmであり、深さDが7.2mmである部位では凹部22Hが認められ、その凹部22Hに体性幹細胞集積組織23の存在も認められた。
図28Bは、組織構造体の端部近くに位置する切片のHE染色写真である。開口幅Wが7.0mmであり、深さDが6.6mmである部位では凹部22Hが認められ、その凹部22Hにおいて体性幹細胞集積組織23の存在も認められたが、開口幅Wが2.0mmであり、深さDが7.4mmである部位では凹部22Hの形成は認められなかった(
図28B)。コア部25の線維性結合組織22は組織構造体製造器具の2つの支持部11Aの各貫通孔11H内まで広がっていた。組織構造体は、貫通孔(支持部開口部)11Hから器具中空部に向かって窪む凹部22Hをさらに有しており、その凹部にも体性幹細胞集積組織23の形成が認められた。
【0155】
図29は、
図5Bに示す形状の組織構造体製造器具を用いて製造された組織構造体の、軸方向Axに沿った断面を有する切片の線維染色処理後の写真の拡大画像である。この画像は、開口幅Wが2.0mmから5.0mmまで連続的に変化する範囲の開口部直下に形成された組織の構造を示す。
図29に示されるように、開口幅Wが2.0mm以上5.0mm以下の範囲において、開口幅Wが大きいほどその直下に形成される凹部22Hの深さも大きく、開口幅Wの増加に伴ってその直下の凹部22Hに形成される体性幹細胞集積組織23のサイズ(体積)も大きくなることが示された。特に、凹部22Hの深さは、開口幅W=3.0mmを境界として急激に増えることから、体性幹細胞集積組織23のサイズも開口幅W=3.0mm以上で急激に増えると考えられた。
【0156】
組織構造体の製造に
図6Aに示す形状の組織構造体製造器具を使用した場合、各柱状部材13、大矩形枠11C及び小矩形枠11Dの周囲及び中心部に線維性結合組織を有し、かつ2本の隣り合う柱状部材13と大矩形枠11Cと小矩形枠11Dで囲まれた(形成された)各開口部から器具中空部に向かって窪む凹部22Hを有するコア部25と、その凹部に形成された体性幹細胞集積組織23とを有する組織構造体が製造された。また組織構造体の製造に
図6Bに示す形状の組織構造体製造器具を使用した場合、各柱状部材13、大矩形枠11C、小矩形枠11D及び板状体26の周囲及び中心部に線維性結合組織を有し、かつ(i)2本の隣り合う柱状部材13と大矩形枠11Cと小矩形枠11Dで囲まれた(形成された)開口部、及び(ii)1本の柱状部材13と大矩形枠11Cと小矩形枠11Dと板状体26で囲まれた(形成された)開口部のそれぞれから、器具中空部に向かって窪む凹部22Hを有するコア部25と、その凹部に形成された体性幹細胞集積組織23とを有する組織構造体が製造された。板状体26のスリット26S(開口幅1mm)の開口部においては凹部は形成されなかった。各開口部について、柱状部材13間の開口幅Wが3.0mm以上20.0mm以下の範囲において凹部22Hの形成が認められ、その凹部22Hに体性幹細胞集積組織23の存在が認められた。なお
図6Aに示す形状の組織構造体製造器具の深さDは、2.0mmから10.5mmまでの範囲である。また
図6Bに示す形状の組織構造体製造器具の深さDは、当該器具の底部が塞がっており中空部の最深点が底部上にあるため、2.0mmから20.5mmまでの範囲である。コア部25の線維性結合組織22は組織構造体製造器具の大矩形枠11C及び小矩形枠11Dの枠内まで広がっていた。組織構造体は、大矩形枠11C及び小矩形枠11D(いずれも支持部)の開口部から器具中空部に向かってそれぞれ窪む凹部22Hをさらに有しており、その凹部にも体性幹細胞集積組織23の形成が認められた。
【0157】
組織構造体の製造に
図6Cに示す形状の組織構造体製造器具を使用した場合、各柱状部材13、大矩形枠11C、中矩形枠11E、及び小矩形枠11Dの周囲及び中心部に線維性結合組織を有し、かつ(i)2本の隣り合う柱状部材13と大矩形枠11Cと中矩形枠11Eで囲まれた(形成された)開口部、(ii)2本の柱状部材13と中矩形枠11Eと小矩形枠11Dで囲まれた(形成された)開口部のそれぞれから、器具中空部に向かって窪む凹部22Hを有するコア部25と、その凹部に形成された体性幹細胞集積組織23とを有する組織構造体が製造された(
図30)。各開口部について、柱状部材13間の開口幅Wが3.0mm以上20.0mm以下の範囲において凹部22Hの形成が認められ、その凹部22Hに体性幹細胞集積組織23の存在が認められた。なお
図6Cに示す形状の組織構造体製造器具の深さDは、2.0mmから10.5mmまでの範囲である。コア部25の線維性結合組織22は組織構造体製造器具の大矩形枠11C、中矩形枠11E及び小矩形枠11Dの枠内まで広がっていた。組織構造体は、大矩形枠11C及び小矩形枠11D(いずれも支持部)の開口部から器具中空部に向かってそれぞれ窪む凹部22Hをさらに有しており、その凹部にも体性幹細胞集積組織23の形成が認められた。
【0158】
図6Cに示す形状の組織構造体製造器具を使用して得られた組織構造体(
図30)の切片のHE染色の結果を
図31に示す。
図30に示す位置で、組織構造体を切断した。
図31Aは、大矩形枠11Cの開口部直下に形成された体性幹細胞集積組織23の縦断面(a−a’)の染色像である。
図31Bは、小矩形枠11Dの開口部直下に形成された体性幹細胞集積組織23の縦断面(短手方向;b−b’)の染色像である。いずれの開口部においても、器具中空部に向かって窪む凹部22Hと凹部における体性幹細胞集積組織23の形成が観察された。大矩形枠11C又は小矩形枠11Dの周囲の線維性結合組織では、コラーゲン線維が密に存在していた。
【0159】
以上の実施例では、組織構造体製造器具の開口幅Wが2.5mm以上の範囲において、組織構造体における凹部22Hの形成が認められた。一方、開口幅Wが2.5mm未満の開口部の直下には凹部22Hの形成が認められなかった。深さD、又は深さDの最大値は、少なくとも、2mm以上の場合、凹部22Hの形成への影響は認められなかった。
【0160】
本発明に係る組織構造体製造器具10を用いることにより、短い留置期間、例えば、1ヶ月以内、さらには2〜3週間程度でも、凹部22Hに体性幹細胞23Cを集積させて富化させた組織構造体を製造できることが示された。
【解決手段】凹部を有し線維性結合組織で構成されたコア部と、前記凹部に形成されたIII型コラーゲン及び体性幹細胞を含む疎線維性の体性幹細胞集積組織とを有する、組織構造体、その製造器具、及び組織構造体からの体性幹細胞の収集方法。