(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6813931
(24)【登録日】2020年12月22日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】レーダ地中探査装置及びレーダ地中探査方法
(51)【国際特許分類】
G01V 3/12 20060101AFI20201228BHJP
G01V 3/11 20060101ALI20201228BHJP
G01S 13/88 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
G01V3/12 B
G01V3/11 A
G01S13/88 200
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-12858(P2017-12858)
(22)【出願日】2017年1月27日
(65)【公開番号】特開2018-119904(P2018-119904A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2020年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】飯田 洋志
(72)【発明者】
【氏名】島田 尚
【審査官】
佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−250896(JP,A)
【文献】
特開平10−205658(JP,A)
【文献】
特開平4−184188(JP,A)
【文献】
特開2001−238337(JP,A)
【文献】
特開平7−248379(JP,A)
【文献】
特開平11−160451(JP,A)
【文献】
特開平11−84020(JP,A)
【文献】
特開2011−185792(JP,A)
【文献】
米国特許第5151657(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42
13/00−13/95
G01V 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された中空非金属管を探査するレーダ地中探査装置であって、
前記中空非金属管に金属ワイヤーが挿入されていない状態における、前記中空非金属管の周辺でのレーダ探査データ(非挿入状態探査データ)と、前記中空非金属管に金属ワイヤーが挿入されている状態における、前記中空非金属管の周辺でのレーダ探査データ(挿入状態探査データ)と、を取得するレーダ探査データ取得部と、
前記レーダ探査データ取得部が取得した前記非挿入状態探査データ及び前記挿入状態探査データについて、差分を算出するレーダ探査データ差分部と、
前記レーダ探査データ差分部が算出した前記差分に基づいて、前記中空非金属管の周辺に位置し前記中空非金属管より大きいレーダ反射率を有するレーダ反射体の影響を低減しつつ、前記中空非金属管の埋設位置を探査する中空非金属管探査部と、
を備えることを特徴とするレーダ地中探査装置。
【請求項2】
前記中空非金属管の周辺の既知の場所に位置し前記中空非金属管より大きいレーダ反射率を有する既知のレーダ反射体に基づいて、前記レーダ探査データ取得部が取得した前記非挿入状態探査データ及び前記挿入状態探査データについて、地面に水平な方向の位置合わせを行う探査データ位置合わせ部、をさらに備え、
前記レーダ探査データ差分部は、前記探査データ位置合わせ部が位置合わせを行った前記非挿入状態探査データ及び前記挿入状態探査データについて、前記差分を算出する
ことを特徴とする、請求項1に記載のレーダ地中探査装置。
【請求項3】
前記レーダ探査データ差分部が算出した前記差分に基づいて、前記中空非金属管の周辺の比誘電率を推定する周辺比誘電率推定部、をさらに備え、
前記中空非金属管探査部は、前記周辺比誘電率推定部が推定した前記比誘電率に基づいて、地面に垂直な方向の前記中空非金属管の埋設位置を探査する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のレーダ地中探査装置。
【請求項4】
地中に埋設された中空非金属管を探査するレーダ地中探査方法であって、
前記中空非金属管に金属ワイヤーが挿入されていない状態における、前記中空非金属管の周辺でのレーダ探査データ(非挿入状態探査データ)と、前記中空非金属管に金属ワイヤーが挿入されている状態における、前記中空非金属管の周辺でのレーダ探査データ(挿入状態探査データ)と、を取得するレーダ探査データ取得ステップと、
前記レーダ探査データ取得ステップで取得した前記非挿入状態探査データ及び前記挿入状態探査データについて、差分を算出するレーダ探査データ差分ステップと、
前記レーダ探査データ差分ステップで算出した前記差分に基づいて、前記中空非金属管の周辺に位置し前記中空非金属管より大きいレーダ反射率を有するレーダ反射体の影響を低減しつつ、前記中空非金属管の埋設位置を探査する中空非金属管探査ステップと、
を順に備えることを特徴とするレーダ地中探査方法。
【請求項5】
前記中空非金属管の周辺の既知の場所に位置し前記中空非金属管より大きいレーダ反射率を有する既知のレーダ反射体に基づいて、前記レーダ探査データ取得ステップで取得した前記非挿入状態探査データ及び前記挿入状態探査データについて、地面に水平な方向の位置合わせを行う探査データ位置合わせステップ、を前記レーダ探査データ取得ステップと前記レーダ探査データ差分ステップとの間にさらに備え、
前記レーダ探査データ差分ステップでは、前記探査データ位置合わせステップで位置合わせを行った前記非挿入状態探査データ及び前記挿入状態探査データについて、前記差分を算出する
ことを特徴とする、請求項4に記載のレーダ地中探査方法。
【請求項6】
前記レーダ探査データ差分ステップで算出した前記差分に基づいて、前記中空非金属管の周辺の比誘電率を推定する周辺比誘電率推定ステップ、を前記レーダ探査データ差分ステップと前記中空非金属管探査ステップとの間にさらに備え、
前記中空非金属管探査ステップでは、前記周辺比誘電率推定ステップで推定した前記比誘電率に基づいて、地面に垂直な方向の前記中空非金属管の埋設位置を探査する
ことを特徴とする、請求項4又は5に記載のレーダ地中探査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地中に埋設された中空非金属管を探査するレーダ地中探査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ等の通信ケーブルを地中に敷設するために、中空非金属管を地中に埋設した後に、光ファイバ等の通信ケーブルを中空非金属管に挿入している。ここで、中空非金属管が敷設された溝内にコンクリートを充填する際に、又は、地中に埋設された中空非金属管の周辺環境が経時変化する際に、中空非金属管の埋設位置及び断面形状が変化することがある。そこで、光ファイバ等の通信ケーブルを地中に敷設する際に、道路面上を掃引するレーダ地中探査装置を用いて、中空非金属管の埋設位置の変化を探査し、中空非金属管内を走行する小型カメラ装置を用いて、中空非金属管の断面形状の変化を探査する。なお、レーダ地中探査装置の開示例として、特許文献1等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−185792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非金属及び空気の比誘電率は、金属及び土壌の比誘電率より低く、中空非金属管のレーダ反射率は、ガス管及び水道管等の金属構造物並びに土壌の変化点のレーダ反射率より小さく、中空非金属管によるエコー強度は、ガス管及び水道管等の金属構造物並びに土壌の変化点によるエコー強度より低い。よって、レーダ地中探査の有資格者でなければ、中空非金属管の埋設位置を探査することはできず、たとえ、レーダ地中探査の有資格者であっても、中空非金属管の埋設位置を短時間で正確に探査することは難しい。
【0005】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、レーダ地中探査の有資格者でなくても、中空非金属管の埋設位置を短時間で正確に探査可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、中空非金属管に金属ワイヤーが挿入されていない状態と、中空非金属管に金属ワイヤーが挿入されている状態と、における中空非金属管の周辺でのレーダ探査データについて、差分を算出する。そして、算出した差分に基づいて、中空非金属管の周辺に位置し中空非金属管より大きいレーダ反射率を有するレーダ反射体の影響を低減しつつ、金属ワイヤーの挿入位置すなわち中空非金属管の埋設位置を探査する。
【0007】
具体的には、本開示は、地中に埋設された中空非金属管を探査するレーダ地中探査装置であって、前記中空非金属管に金属ワイヤーが挿入されていない状態における、前記中空非金属管の周辺でのレーダ探査データ(非挿入状態探査データ)と、前記中空非金属管に金属ワイヤーが挿入されている状態における、前記中空非金属管の周辺でのレーダ探査データ(挿入状態探査データ)と、を取得するレーダ探査データ取得部と、前記レーダ探査データ取得部が取得した前記非挿入状態探査データ及び前記挿入状態探査データについて、差分を算出するレーダ探査データ差分部と、前記レーダ探査データ差分部が算出した前記差分に基づいて、前記中空非金属管の周辺に位置し前記中空非金属管より大きいレーダ反射率を有するレーダ反射体の影響を低減しつつ、前記中空非金属管の埋設位置を探査する中空非金属管探査部と、を備えることを特徴とするレーダ地中探査装置である。
【0008】
また、本開示は、地中に埋設された中空非金属管を探査するレーダ地中探査方法であって、前記中空非金属管に金属ワイヤーが挿入されていない状態における、前記中空非金属管の周辺でのレーダ探査データ(非挿入状態探査データ)と、前記中空非金属管に金属ワイヤーが挿入されている状態における、前記中空非金属管の周辺でのレーダ探査データ(挿入状態探査データ)と、を取得するレーダ探査データ取得ステップと、前記レーダ探査データ取得ステップで取得した前記非挿入状態探査データ及び前記挿入状態探査データについて、差分を算出するレーダ探査データ差分ステップと、前記レーダ探査データ差分ステップで算出した前記差分に基づいて、前記中空非金属管の周辺に位置し前記中空非金属管より大きいレーダ反射率を有するレーダ反射体の影響を低減しつつ、前記中空非金属管の埋設位置を探査する中空非金属管探査ステップと、を順に備えることを特徴とするレーダ地中探査方法である。
【0009】
この構成によれば、金属ワイヤーの挿入状態において、金属ワイヤーによるエコー強度は、ガス管及び水道管等の金属構造物並びに土壌の変化点によるエコー強度と同等程度である。そして、金属ワイヤーの挿入前後のレーダ探査データの差分算出後において、金属ワイヤーによるエコー強度は、ガス管及び水道管等の金属構造物並びに土壌の変化点によるエコー強度と異なり残存する。よって、レーダ地中探査の有資格者でなくても、中空非金属管の埋設位置を短時間で正確に探査することができる。
【0010】
また、本開示は、前記中空非金属管の周辺の既知の場所に位置し前記中空非金属管より大きいレーダ反射率を有する既知のレーダ反射体に基づいて、前記レーダ探査データ取得部が取得した前記非挿入状態探査データ及び前記挿入状態探査データについて、地面に水平な方向の位置合わせを行う探査データ位置合わせ部、をさらに備え、前記レーダ探査データ差分部は、前記探査データ位置合わせ部が位置合わせを行った前記非挿入状態探査データ及び前記挿入状態探査データについて、前記差分を算出することを特徴とするレーダ地中探査装置である。
【0011】
また、本開示は、前記中空非金属管の周辺の既知の場所に位置し前記中空非金属管より大きいレーダ反射率を有する既知のレーダ反射体に基づいて、前記レーダ探査データ取得ステップで取得した前記非挿入状態探査データ及び前記挿入状態探査データについて、地面に水平な方向の位置合わせを行う探査データ位置合わせステップ、を前記レーダ探査データ取得ステップと前記レーダ探査データ差分ステップとの間にさらに備え、前記レーダ探査データ差分ステップでは、前記探査データ位置合わせステップで位置合わせを行った前記非挿入状態探査データ及び前記挿入状態探査データについて、前記差分を算出することを特徴とするレーダ地中探査方法である。
【0012】
この構成によれば、金属ワイヤーの非挿入状態及び挿入状態において、同一のレーダ探査ライン上でのレーダ探査範囲が異なるときであっても、金属ワイヤーの挿入前後のレーダ探査データの差分をより正確に算出することができる。よって、レーダ地中探査の有資格者でなくても、中空非金属管の埋設位置をより正確に探査することができる。
【0013】
また、本開示は、前記レーダ探査データ差分部が算出した前記差分に基づいて、前記中空非金属管の周辺の比誘電率を推定する周辺比誘電率推定部、をさらに備え、前記中空非金属管探査部は、前記周辺比誘電率推定部が推定した前記比誘電率に基づいて、地面に垂直な方向の前記中空非金属管の埋設位置を探査することを特徴とするレーダ地中探査装置である。
【0014】
また、本開示は、前記レーダ探査データ差分ステップで算出した前記差分に基づいて、前記中空非金属管の周辺の比誘電率を推定する周辺比誘電率推定ステップ、を前記レーダ探査データ差分ステップと前記中空非金属管探査ステップとの間にさらに備え、前記中空非金属管探査ステップでは、前記周辺比誘電率推定ステップで推定した前記比誘電率に基づいて、地面に垂直な方向の前記中空非金属管の埋設位置を探査することを特徴とするレーダ地中探査方法である。
【0015】
この構成によれば、金属ワイヤーの挿入前後のレーダ探査データの差分算出前ではなく、金属ワイヤーの挿入前後のレーダ探査データの差分算出後において、中空非金属管の周辺の比誘電率をより正確に推定することができる。よって、レーダ地中探査の有資格者でなくても、中空非金属管の深さ方向の埋設位置をより正確に探査することができる。
【発明の効果】
【0016】
このように、本開示は、レーダ地中探査の有資格者でなくても、中空非金属管の埋設位置を短時間で正確に探査可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示のレーダ地中探査装置の構成を示す図である。
【
図2】本開示のレーダ地中探査処理の手順を示す図である。
【
図3】本開示のレーダ探査データ差分部の処理を示す図である。
【
図4】本開示の探査データ位置合わせ部の処理を示す図である。
【
図5】本開示の周辺比誘電率推定部の処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0019】
(本開示のレーダ地中探査装置の構成)
本開示のレーダ地中探査装置の構成を
図1に示す。本開示のレーダ地中探査処理の手順を
図2に示す。レーダ地中探査装置Pは、レーダ送信部1、レーダ受信部2、レーダ探査データ取得部3、探査データ位置合わせ部4、レーダ探査データ差分部5、周辺比誘電率推定部6及び中空非金属管探査部7から構成され、ステップS1〜S6を実行する。
【0020】
レーダ地中探査装置Pは、地中Uに埋設された中空非金属管Nを探査するために、地面G上においてレーダ探査ラインLに沿ってレーダ探査を実行する。レーダ送信部1は、地中Uへとレーダ照射波を送信する。レーダ受信部2は、地中Uからレーダ反射波を受信する。なお、レーダ送信部1の送信アンテナと、レーダ受信部2の受信アンテナと、の間の間隔は、
図1のように一定であってもよく、変形例として変化させてもよい。
【0021】
(本開示のレーダ探査データ差分部の処理)
次に、レーダ探査データ取得部3、レーダ探査データ差分部5及び中空非金属管探査部7について説明する。本開示のレーダ探査データ差分部の処理を
図3に示す。なお、探査データ位置合わせ部4及び周辺比誘電率推定部6については、後に詳述する。
【0022】
レーダ探査データ取得部3は、中空非金属管Nに金属ワイヤーMが挿入されていない状態における、中空非金属管Nの周辺でのレーダ探査データ(非挿入状態探査データ)を取得する(ステップS1)。レーダ探査データ取得部3は、中空非金属管Nに金属ワイヤーMが挿入されている状態における、中空非金属管Nの周辺でのレーダ探査データ(挿入状態探査データ)を取得する(ステップS2)。なお、ステップS1、S2の順序は、
図2のようにステップS1を先にしてもよく、変形例としてステップS2を先にしてもよい。
【0023】
図3の上段及び中段には、地面Gを上から見たときにおける、中空非金属管N及びレーダ反射体R1、R2、R4の埋設位置を示す。塩化ビニル管等の中空非金属管N並びにガス管及び水道管等のレーダ反射体R2が、ほぼ平行に延伸されるように、地中Uに埋設されている。金属構造物等のレーダ反射体R1が、中空非金属管N及びレーダ反射体R2の延伸方向にほぼ垂直であるレーダ探査ラインL1の直下において、地中Uに埋設されている。金属構造物等のレーダ反射体R4が、中空非金属管N及びレーダ反射体R2の延伸方向にほぼ垂直であるレーダ探査ラインL2の直下において、地中Uに埋設されている。金属ワイヤーMは、地面G上のマンホールを開けたうえで、中空非金属管Nに挿入される。
【0024】
図3の上段には、金属ワイヤーMの非挿入状態における、非挿入状態探査データを示す。レーダ探査ラインL1での非挿入状態探査データDN(L1)では、レーダ反射体R1、R2による双曲線状のエコーEH(R1)、EH(R2)は観測され、中空非金属管Nによる双曲線状のエコーはほぼ観測されない。レーダ探査ラインL2での非挿入状態探査データDN(L2)では、レーダ反射体R2、R4による双曲線状のエコーEH(R2)、EH(R4)は観測され、中空非金属管Nによる双曲線状のエコーはほぼ観測されない。
【0025】
図3の中段には、金属ワイヤーMの挿入状態における、挿入状態探査データを示す。レーダ探査ラインL1での挿入状態探査データDI(L1)では、レーダ反射体R1、R2による双曲線状のエコーEH(R1)、EH(R2)が観測され、金属ワイヤーMによる双曲線状のエコーEH(M)も観測される。レーダ探査ラインL2での挿入状態探査データDI(L2)では、レーダ反射体R2、R4による双曲線状のエコーEH(R2)、EH(R4)が観測され、金属ワイヤーMによる双曲線状のエコーEH(M)も観測される。
【0026】
レーダ探査データ差分部5は、レーダ探査データ取得部3が取得した非挿入状態探査データ及び挿入状態探査データについて、差分を算出する(ステップS4)。中空非金属管探査部7は、レーダ探査データ差分部5が算出した上記差分に基づいて、中空非金属管Nの周辺に位置し中空非金属管Nより大きいレーダ反射率を有するレーダ反射体R1、R2、R4の影響を低減しつつ、金属ワイヤーMの挿入位置すなわち中空非金属管Nの埋設位置を探査する(ステップS6)。なお、ステップS3、S5については、後に詳述する。
【0027】
図3の下段には、レーダ探査データの差分算出後における、差分算出後探査データを示す。レーダ探査ラインL1での差分算出後探査データDS(L1)では、レーダ反射体R1、R2による双曲線状のエコーEH(R1)、EH(R2)はほぼ残存しないが、金属ワイヤーMによる双曲線状のエコーEH(M)は残存する。レーダ探査ラインL2での差分算出後探査データDS(L2)では、レーダ反射体R2、R4による双曲線状のエコーEH(R2)、EH(R4)はほぼ残存しないが、金属ワイヤーMによる双曲線状のエコーEH(M)は残存する。金属ワイヤーMによる双曲線状のエコーEH(M)は、金属ワイヤーMの挿入位置すなわち中空非金属管Nの埋設位置を反映する。
【0028】
ここで、金属ワイヤーMの挿入前後において、金属ワイヤーMによる双曲線状のエコーEH(M)の有無が変化するとともに、レーダ反射体R1、R2、R4による双曲線状のエコーEH(R1)、EH(R2)、EH(R4)の強度も変化することがある。しかし、金属ワイヤーMの挿入前後において、レーダ反射体R1、R2、R4による双曲線状のエコーEH(R1)、EH(R2)、EH(R4)の強度変化は、金属ワイヤーMによる双曲線状のエコーEH(M)の強度変化と比べて、はるかに小さいと考えてよい。よって、差分算出後探査データDS(L1)、DS(L2)では、レーダ反射体R1、R2、R4による双曲線状のエコーEH(R1)、EH(R2)、EH(R4)はほぼ残存しないが、金属ワイヤーMによる双曲線状のエコーEH(M)は残存すると考えてよい。
【0029】
このように、金属ワイヤーMの挿入状態において、金属ワイヤーMによるエコー強度は、ガス管及び水道管等の金属構造物並びに土壌の変化点によるエコー強度と同等程度である。そして、金属ワイヤーMの挿入前後のレーダ探査データの差分算出後において、金属ワイヤーMによるエコー強度は、ガス管及び水道管等の金属構造物並びに土壌の変化点によるエコー強度と異なり残存する。よって、レーダ地中探査の有資格者でなくても、中空非金属管Nの埋設位置を短時間で正確に探査することができる。
【0030】
(本開示の探査データ位置合わせ部の処理)
次に、探査データ位置合わせ部4について説明する。本開示の探査データ位置合わせ部の処理を
図4に示す。金属ワイヤーMの非挿入状態におけるレーダ探査範囲と、金属ワイヤーMの挿入状態におけるレーダ探査範囲は、同一のレーダ探査ラインL上であるとはいえ、ユーザが目分量でレーダ地中探査装置Pを操作する都合上異なることが考えられる。
【0031】
すると、非挿入状態探査データ及び挿入状態探査データについて、同一のレーダ探査ラインL上での位置合わせを行わないときには、金属ワイヤーMの挿入前後のレーダ探査データの差分を正確に算出することができない。そのため、非挿入状態探査データ及び挿入状態探査データについて、同一のレーダ探査ラインL上での位置合わせを可能にする機構を有する方が望ましい。
【0032】
そこで、探査データ位置合わせ部4は、中空非金属管Nの周辺の既知の場所に位置し中空非金属管Nより大きいレーダ反射率を有する既知のレーダ反射体R3に基づいて、レーダ探査データ取得部3が取得した非挿入状態探査データ及び挿入状態探査データについて、地面Gに水平な方向の位置合わせを行う(ステップS3)。
【0033】
図3の上段及び中段には、地面Gを上から見たときにおける、レーダ反射体R3の設置位置を示す。金属テープ等のレーダ反射体R3が、中空非金属管N及びレーダ反射体R2の延伸方向にほぼ平行な方向に沿って、地面G上に設置されている。なお、レーダ反射体R3は、
図3のように地面G上に設置されている金属テープ等であってもよく、変形例として地中Uに埋設されている金属構造物等であってもよい。
【0034】
図4の上段には、金属ワイヤーMの非挿入状態における、非挿入状態探査データを示す。レーダ探査ラインL1での非挿入状態探査データDN(L1)では、レーダ反射体R1、R2による双曲線状のエコーEH(R1)、EH(R2)及びレーダ反射体R3によるエコーEP(R3)は観測され、中空非金属管Nによる双曲線状のエコーはほぼ観測されない。そして、レーダ反射体R3によるエコーEP(R3)は、レーダ探査ラインL1での非挿入状態探査データDN(L1)の原点において観測される。
【0035】
図4の中段には、金属ワイヤーMの挿入状態における、レーダ探査ラインL上での位置合わせ前の挿入状態探査データを示す。レーダ探査ラインL1での位置合わせ前の挿入状態探査データDI(L1)では、レーダ反射体R1、R2による双曲線状のエコーEH(R1)、EH(R2)及びレーダ反射体R3によるエコーEP(R3)が観測され、金属ワイヤーMによる双曲線状のエコーEH(M)も観測される。そして、レーダ反射体R3によるエコーEP(R3)は、レーダ探査ラインL1での位置合わせ前の挿入状態探査データDI(L1)の原点からずれた点において観測される。
【0036】
ここで、探査データ位置合わせ部4は、非挿入状態探査データDN(L1)でのレーダ反射体R3による反射位相と、挿入状態探査データDI(L1)でのレーダ反射体R3による反射位相と、が同一位相になるように、非挿入状態探査データDN(L1)及び挿入状態探査データDI(L1)について、地面Gに水平な方向の位置合わせを行う。
【0037】
図4の下段には、金属ワイヤーMの挿入状態における、レーダ探査ラインL上での位置合わせ後の挿入状態探査データを示す。レーダ探査ラインL1での位置合わせ後の挿入状態探査データDI’(L1)では、レーダ反射体R1、R2による双曲線状のエコーEH(R1)、EH(R2)及びレーダ反射体R3によるエコーEP(R3)が観測され、金属ワイヤーMによる双曲線状のエコーEH(M)も観測される。そして、レーダ反射体R3によるエコーEP(R3)は、レーダ探査ラインL1での位置合わせ後の挿入状態探査データDI’(L1)の原点において観測される。
【0038】
そして、レーダ探査データ差分部5は、探査データ位置合わせ部4が位置合わせを行った非挿入状態探査データDN(L1)及び挿入状態探査データDI’(L1)について、差分を算出する(ステップS4)。ここで、
図4においては、挿入状態探査データDI(L1)の原点を、非挿入状態探査データDN(L1)の原点に合わせている。つまり、
図4においては、挿入状態探査データDI(L1)でのレーダ反射体R3による反射位相を、非挿入状態探査データDN(L1)でのレーダ反射体R3による反射位相に合わせている。ただし、変形例として、非挿入状態探査データDN(L1)の原点を、挿入状態探査データDI(L1)の原点に合わせてもよい。つまり、変形例として、非挿入状態探査データDN(L1)でのレーダ反射体R3による反射位相を、挿入状態探査データDI(L1)でのレーダ反射体R3による反射位相に合わせてもよい。
【0039】
このように、金属ワイヤーMの非挿入状態及び挿入状態において、同一のレーダ探査ラインL上でのレーダ探査範囲が異なるときであっても、金属ワイヤーMの挿入前後のレーダ探査データの差分をより正確に算出することができる。よって、レーダ地中探査の有資格者でなくても、中空非金属管Nの埋設位置をより正確に探査することができる。
【0040】
(本開示の周辺比誘電率推定部の処理)
次に、周辺比誘電率推定部6について説明する。本開示の周辺比誘電率推定部の処理を
図5に示す。周辺比誘電率推定部6は、レーダ探査データ差分部5が算出した上記差分に基づいて、中空非金属管Nの周辺の比誘電率を推定する(ステップS5)。周辺比誘電率推定部6は、例えば、合成開口技術及び双曲線法技術等を用いることができる。中空非金属管探査部7は、周辺比誘電率推定部6が推定した上記比誘電率に基づいて、地面Gに垂直な方向の中空非金属管Nの埋設位置を探査する(ステップS6)。
【0041】
図5の上段には、金属ワイヤーMの挿入状態における、挿入状態探査データを示す。レーダ探査ラインL1での挿入状態探査データDI(L1)では、レーダ反射体R1、R2による双曲線状のエコーEH(R1)、EH(R2)が観測され、金属ワイヤーMによる双曲線状のエコーEH(M)も観測される。よって、金属ワイヤーMによるエコーEH(M)の形状に基づいて中空非金属管Nの周辺の比誘電率を推定するときに、レーダ反射体R1、R2によるエコーEH(R1)、EH(R2)の影響を受けてしまう。
【0042】
図5の中段には、レーダ探査データの差分算出後における、差分算出後探査データを示す。レーダ探査ラインL1での差分算出後探査データDS(L1)では、レーダ反射体R1、R2による双曲線状のエコーEH(R1)、EH(R2)はほぼ残存しないが、金属ワイヤーMによる双曲線状のエコーEH(M)は残存する。よって、金属ワイヤーMによるエコーEH(M)の形状に基づいて中空非金属管Nの周辺の比誘電率を推定するときに、レーダ反射体R1、R2によるエコーEH(R1)、EH(R2)の影響をほぼ受けない。
【0043】
図5の下段には、中空非金属管N周辺の比誘電率推定後における、比誘電率推定後探査データを示す。レーダ探査ラインL1での比誘電率推定後探査データDP(L1)では、金属ワイヤーMによるほぼ円状のエコーEP(M)が抽出される。
【0044】
このように、金属ワイヤーMの挿入前後のレーダ探査データの差分算出前ではなく、金属ワイヤーMの挿入前後のレーダ探査データの差分算出後において、中空非金属管Nの周辺の比誘電率をより正確に推定することができる。よって、レーダ地中探査の有資格者でなくても、中空非金属管Nの深さ方向の埋設位置をより正確に探査することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本開示のレーダ地中探査装置及びレーダ地中探査方法は、光ファイバ等の通信ケーブルを地中に敷設するために、中空非金属管を地中に埋設した後に、光ファイバ等の通信ケーブルを中空非金属管に挿入する際に、適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
P:レーダ地中探査装置
1:レーダ送信部
2:レーダ受信部
3:レーダ探査データ取得部
4:探査データ位置合わせ部
5:レーダ探査データ差分部
6:周辺比誘電率推定部
7:中空非金属管探査部
G:地面
U:地中
L、L1、L2:レーダ探査ライン
N:中空非金属管
M:金属ワイヤー
R1、R2、R3、R4:レーダ反射体