【実施例】
【0052】
ここで、補修用高強度モルタルを含む各モルタルについて、圧縮強さ、接着強さ、不燃性、鏝作業性、ダレ性及びプラスチックひび割れ発生状況を確認した。
【0053】
まず、実施例1〜3及び比較例1〜7を表1に示すと共に、下記に詳述する。
なお、各実施例における仲介接着用下塗材は2kg、補修用高強度モルタルは10kgを調合した。また、各比較例における仲介接着用下塗材は2kg、各モルタルは10kgずつを調合した。
【0054】
【表1】
【0055】
≪実施例1≫
<仲介接着用下塗材>
配合:セメントとして早強ポルトランドセメントを30重量%、セメントに対しポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂としてアクリル系粉末樹脂を6重量%
塗布量:1kg/m
2
<補修用高強度モルタル>
配合:セメントとして早強ポルトランドセメントを25重量%、セメントに対し重量骨材として絶乾比重3.0g/cm
3・粒子径0.2〜0.6mmのフェロニッケルスラグを30重量%、セメントに対しポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂としてアクリル系エマルジョンを固形分換算で1重量%、セメントに対し特殊湿潤材としてポリエチレングリコールを0.1重量%
塗り厚さ:接着試験では10mm、不燃性試験では5mmと50mm
【0056】
≪実施例2≫
<仲介接着用下塗材>
配合:セメントとして早強ポルトランドセメントを60重量%、セメントに対しポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂としてアクリル系粉末樹脂を15重量%
塗布量:3kg/m
2
<補修用高強度モルタル>
配合:セメントとして早強ポルトランドセメントを50重量%、セメントに対し重量骨材として絶乾比重4g/cm
3・粒子径1.2〜2.5mmのガーネットを70重量%、セメントに対しポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂としてアクリル系エマルジョンを固形分換算で3重量%、セメントに対し特殊湿潤材としてポリエチレングリコールを1.0重量%
塗り厚さ:接着試験では10mm、不燃性試験では5mmと50mm
【0057】
≪実施例3≫
<仲介接着用下塗材>
配合:セメントとして早強ポルトランドセメントを45重量%、セメントに対しポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂としてアクリル系粉末樹脂を10重量%
塗布量:2kg/m
2
<補修用高強度モルタル>
配合:セメントとして早強ポルトランドセメントを35重量%、セメントに対し重量骨材として絶乾比重3.5g/cm
3・粒子径0.2〜2.5mmの銅スラグを45重量%、セメントに対しポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂としてアクリル系エマルジョンを固形分換算で2重量%、セメントに対し特殊湿潤材としてポリエチレングリコールを0.5重量%
塗り厚さ:接着試験では10mm、不燃性試験では5mmと50mm
【0058】
≪実施例1〜3の主な差異点≫
実施例1〜3の差異点は、仲介接着用下塗材におけるセメント・ポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂の混入量、仲介接着用下塗材の塗布量、補修用高強度モルタルにおけるセメント・重骨材・ポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂・特殊湿潤材の混入量、重骨材の種類・絶乾比重・粒径である。
【0059】
≪比較例1≫
<補修用通常強度モルタル(従来品)>
配合:セメントとして普通ポルトランドセメントを40重量%、セメントに対し重量骨材として絶乾比重2.6g/cm
3・粒子径0.3〜2.5mmの珪砂(シリカサンド)を40重量%、セメントに対しポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂としてアクリル系粉末樹脂を5重量%
塗り厚さ:接着試験では10mm、不燃性試験では5mmと50mm
【0060】
≪比較例2≫
<吸水調整材>
種類:EVA系の5倍希釈液(固形分9%に希釈し調整)
塗布量:70g/m
2
<補修用通常強度モルタル(従来品)>
配合:セメントとして普通ポルトランドセメントを40重量%、セメントに対し重量骨材として絶乾比重2.6g/cm
3・粒子径0.3〜2.5mmの珪砂(シリカサンド)を40重量%、セメントに対しポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂としてアクリル系粉末樹脂を5重量%
塗り厚さ:接着試験では10mm、不燃性試験では5mmと50mm
【0061】
≪比較例3≫
<吸水調整材>
種類:EVA系の5倍希釈液(固形分9%に希釈し調整)
塗布量:70g/m
2
<補修用通常強度モルタル(従来品)>
配合:セメントとして普通ポルトランドセメントを40重量%、セメントに対し重量骨材として絶乾比重2.6g/cm
3・粒子径0.3〜2.5mmの珪砂(シリカサンド)を40重量%、セメントに対しポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂としてアクリル系粉末樹脂を10重量%、セメントに対し特殊湿潤材としてポリエチレングリコールを0.5重量%
塗り厚さ:接着試験では10mm、不燃性試験では5mmと50mm
【0062】
≪比較例4≫
<吸水調整材>
種類:EVA系の5倍希釈液(固形分9%に希釈し調整)
塗布量:70g/m
2
<補修用高強度モルタル>
配合:セメントとして早強ポルトランドセメントを35重量%、セメントに対し重量骨材として絶乾比重3.5g/cm
3・粒子径0.3〜2.5mmの銅スラグを45重量%、セメントに対しポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂としてアクリル系エマルジョンを固形分換算で10重量%、セメントに対し特殊湿潤材としてポリエチレングリコールを0.5重量%
塗り厚さ:接着試験では10mm、不燃性試験では5mmと50mm
【0063】
≪比較例5≫
<吸水調整材>
種類:EVA系の5倍希釈液(固形分9%に希釈し調整)
塗布量:70g/m
2
<補修用高強度モルタル>
配合:セメントとして早強ポルトランドセメントを35重量%、セメントに対し重量骨材として絶乾比重3.5g/cm
3・粒子径0.3〜2.5mmの銅スラグを45重量%、セメントに対しポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂としてアクリル系エマルジョンを固形分換算で2重量%、セメントに対し特殊湿潤材としてポリエチレングリコールを0.5重量%
塗り厚さ:接着試験では10mm、不燃性試験では5mmと50mm
【0064】
≪比較例6≫
<仲介接着用下塗材>
配合:セメントとして早強ポルトランドセメントを45重量%、セメントに対しポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂としてアクリル系粉末樹脂を10重量%
塗布量:2kg/m
2
<補修用高強度モルタル>
配合:セメントとして早強ポルトランドセメントを35重量%、セメントに対し重量骨材として絶乾比重3.5g/cm
3・粒子径0.3〜2.5mmの銅スラグを45重量%、セメントに対しポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂としてアクリル系エマルジョンを固形分換算で2重量%
塗り厚さ:接着試験では10mm、不燃性試験では5mmと50mm
【0065】
≪比較例7≫
<仲介接着用下塗材>
配合:セメントとして早強ポルトランドセメントを45重量%、セメントに対しポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂としてアクリル系粉末樹脂を10重量%
塗布量:2kg/m
2
<補修用高強度モルタル>
配合:セメントとして早強ポルトランドセメントを20重量%、セメントに対し重量骨材として絶乾比重3.5g/cm
3・粒子径0.3〜2.5mmの銅スラグを75重量%、セメントに対しポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂としてアクリル系エマルジョンを固形分換算で2重量%、セメントに対し特殊湿潤材としてポリエチレングリコールを0.5重量%
塗り厚さ:接着試験では10mm、不燃性試験では5mmと50mm
【0066】
≪比較例1〜7の主な差異点≫
高強度コンクリート躯体への下地処理として、比較例1では下地処理材を用いず、比較例2〜5では吸水調整材を用い、比較例6〜7では仲介接着用下塗材を用いている。
セメントとして、比較例1〜3では普通ポルトランドセメントを用い、比較例4〜7では早強ポルトランドセメントを用いている。
比較例1〜2及び比較例6〜7ではモルタルに特殊湿潤材を配合せず、比較例3〜5ではモルタルに特殊湿潤材を配合している。
【0067】
次に、実施例及び比較例における試験内容(規格や機器等)を列挙する。
なお、各試験は、所定塗布量の下塗材の上から各モルタルを塗り付けて行うものとする。
【0068】
≪圧縮試験≫
規格:JISA1171に規定するポリマーセメントモルタルの試験方法
機器:AUTOGRAPH AG−100kNG(島津製作所社製)
評価:100N/mm
2以上を基準値とする
【0069】
≪接着試験≫
規格:JISA1171に規定するポリマーセメントモルタルの試験方法
機器:建研式接着力試験機(オックスジャッキ社製)
状況:コンクリート平板に施工(標準養生、温冷繰り返し)
評価:1N/mm
2以上を基準値とする
【0070】
≪不燃性試験≫
規格:ISO5660−1に準拠した加熱実験
機器:コンカロリーメーター
状況:加熱開始後20分間の総発熱量を測定
評価:供試体の燃焼の有無・加熱後の供試体の異常(著しい貫通穴やひび割れの有無)を確認
【0071】
≪鏝作業性試験≫
状況:コンクリート壁面(100mm×100mm)に厚さ50mmで左官鏝を用いて施工
評価:塗り易さ等の作業性を確認
【0072】
≪ひび割れ試験≫
状況:鏝作業性を確認後、塗り付け面を経時で確認
評価:初期ひび割れ等の確認
【0073】
上述した試験内容に基づいて行った実施例1〜3及び比較例1〜7の試験結果を表2に示すと共に、下記に説明する。
【0074】
【表2】
【0075】
実施例1〜3においては、圧縮強さ及び接着強さ(標準養生・温冷繰り返し)はいずれも基準値を上回り、不燃性試験はいずれも異常が無かった。さらに、鏝作業性・ダレ性・プラスチックひび割れも問題なかった。
これらより、実施例1〜3の差異点は、いずれも補修用高強度モルタルに対して影響はなく、各実施例における高強度コンクリート躯体の設置に問題ないことがわかった。
【0076】
一方、比較例1においては、圧縮強さ及び接着強さに問題があった。圧縮強さに問題がある理由は、従来から存在する通常強度モルタルの設定強度が60N/mm
2以下の設定とされているからである。接着強さに問題がある理由は、下地処理材を用いていないからである。
【0077】
比較例2においては、圧縮強さ及び接着強さ(特に、温冷繰返し後)に問題があった。圧縮強さに問題がある理由は、従来から存在する通常強度モルタルの設定強度が60N/mm
2以下の設定とされているからである。接着強さに問題がある理由は、吸水調整材により形成されるポリマー被膜は熱に劣化し易いため、温冷繰り返しにより躯体界面の接着が低下したからである。
【0078】
比較例3においては、圧縮強さ・接着強さ(特に、温冷繰返し後)・不燃性(燃焼)・鏝作業性・プラスチックひび割れに問題があった。圧縮強さに問題がある理由は、従来から存在する通常強度モルタルの設定強度が60N/mm
2以下の設定とされているからである。接着強さに問題がある理由は、吸水調整材により形成されるポリマー被膜は熱に劣化し易いため、温冷繰り返しにより躯体界面の接着が低下したからである。不燃性・鏝操作性に問題がある理由は、モルタルに混和したセメントに対するポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂の割合(ポリマー比)が高め(10重量%)だからである。プラスチックひび割れに問題がある理由は、モルタルに混和したセメントに対するポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂の割合(ポリマー比)が高め(10重量%)の場合、モルタルの表面に比較的厚いポリマー皮膜が形成し、特殊湿潤材の効果が期待できないためである。
【0079】
比較例4においては、圧縮強さ・接着強さ(特に、温冷繰返し後)・不燃性(燃焼)・鏝作業性・ダレ性・プラスチックひび割れに問題があった。圧縮強さに問題がある理由は、高強度モルタルの粉体配合に対して、ポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂の割合(ポリマー比)の混入量が高め(10重量%)の場合、圧縮強度がやや低下するためである。接着強さに問題がある理由は、吸水調整材により形成されるポリマー被膜は熱に劣化し易いため、温冷繰り返しにより躯体界面の接着が低下したからである。不燃性・鏝操作性に問題がある理由は、モルタルに混和したセメントに対するポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂の割合(ポリマー比)が高め(10重量%)だからである。ダレ性に問題がある理由は、高強度モルタルの粉体配合に対して、ポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂の割合(ポリマー比)の混入量が高め(10重量%)の場合、モルタルのベタツキが非常に大きくなり、ダレ易くなったからである。プラスチックひび割れに問題がある理由は、モルタルに混和したセメントに対するポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂の割合(ポリマー比)が高め(10重量%)の場合、モルタルの表面に比較的厚いポリマー皮膜が形成し、特殊湿潤材の効果が期待できないためである。
【0080】
比較例5においては、接着強さに問題があった。接着強さに問題がある理由は、高強度モルタルの粉体配合に対する、ポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂の割合(ポリマー比)の混入量が比較的低め(2重量%)の場合、高強度モルタルの下地処理として吸水調整材を用いても、接着強さが期待できないためである。更に、吸水調整材により形成されるポリマー被膜は熱に劣化し易いため、温冷繰り返しにより躯体界面の接着が低下したからである。
【0081】
比較例6においては、鏝作業性・プラスチックひび割れに問題があった。鏝作業性・プラスチックひび割れに問題がある理由は、ともに高強度モルタルに対して特殊湿潤材を添加していないためである。
【0082】
比較例7においては、圧縮強さ・ダレ性に問題があった。圧縮強さに問題がある理由は、高強度モルタルに対してセメントの混合割合が低すぎる(20重量%)ためである。ダレ性に問題がある理由は、高強度モルタルに対して重量骨材の混合割合が高すぎる(75重量%)ためである。