特許第6814056号(P6814056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6814056
(24)【登録日】2020年12月22日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】フェライト粉および樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/11 20060101AFI20201228BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20201228BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20201228BHJP
   H01F 1/36 20060101ALI20201228BHJP
   H01F 1/37 20060101ALI20201228BHJP
   H01F 1/113 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   H01F1/11
   C08K3/22
   C08L101/00
   H01F1/36
   H01F1/37
   H01F1/113
【請求項の数】7
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2017-10524(P2017-10524)
(22)【出願日】2017年1月24日
(65)【公開番号】特開2018-120921(P2018-120921A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】安賀 康二
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 哲也
【審査官】 木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−268575(JP,A)
【文献】 特開昭60−173052(JP,A)
【文献】 特開平04−352498(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/200047(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/089904(WO,A1)
【文献】 特表2008−512655(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3151352(JP,U)
【文献】 特開2014−010118(JP,A)
【文献】 特開2004−233458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/11− 1/117
H01F 1/36− 1/375
C08K 3/22
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属探知機で検出可能なフェライト粉であって、ハードフェライト粒子と、ソフトフェライト粒子とを含み、
10k・1000/4πA/mの磁場をかけたときのVSM測定による、残留磁化が20A・m/kg以上40A・m/kg以下、飽和磁化が60A・m/kg以上90A・m/kg以下、かつ、保磁力が40kA/m以上180kA/m以下であり、
経時的に変動する磁場を印加することで金属を検知するタイプの金属探知機、および、磁気センサーで直接磁束を測定するタイプの金属探知機のいずれでも検出可能であることを特徴とするフェライト粉。
【請求項2】
前記ハードフェライト粒子として、Srを7.8質量%以上9.0質量%以下、Feを61.0質量%以上65.0質量%以下、含有する粒子を含む請求項に記載のフェライト粉。
【請求項3】
前記ソフトフェライト粒子として、Mnを3.5質量%以上20.0質量%以下、Feを50.0質量%以上70.0質量%以下、含有する粒子を含む請求項1または2に記載のフェライト粉。
【請求項4】
前記ハードフェライト粒子の含有率をX[質量%]、前記ソフトフェライト粒子の含有率をX[質量%]としたとき、0.7≦X/X≦18の関係を満足する請求項1ないしのいずれか1項に記載のフェライト粉。
【請求項5】
前記ハードフェライト粒子の体積平均粒径が0.1μm以上60μm以下である請求項1ないしのいずれか1項に記載のフェライト粉。
【請求項6】
前記ソフトフェライト粒子の体積平均粒径が1μm以上100μm以下である請求項1ないしのいずれか1項に記載のフェライト粉。
【請求項7】
請求項1ないしのいずれか1項に記載のフェライト粉と、
樹脂材料とを含むことを特徴とする樹脂組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト粉および樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、食品の製造現場においては、異物混入の問題がある。異物混入の問題が生じると、大きな社会問題となり、消費者等に多大な不安を与えるとともに、食品の製造業者、加工業者等にも大きな打撃を与える。
【0003】
異物混入を防止するために金属探知機を導入し、出荷前の商品について検査を行う機会が増えてきている。
【0004】
しかしながら、金属探知機では、一般のプラスチック材料等を検知することができないため、製造時に用いられる包装材等の道具等が由来の異物が混入したとしても、検出することができなかった。
【0005】
このような問題を解消する目的で、鉄等の金属で構成された金属探知材を含む作業手袋が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、このような技術では、異物として混入した場合でも、金属探知機で検出されない場合があった。また、金属は、酸化反応等の化学反応を受けることによる経時変化により、金属探知機で探知されなくなる場合があった。
【0007】
また、特定の金属探知材を含ませても、金属探知機の種類によっては、安定的に検出することができないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−120974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、種々の金属探知機で安定的に検出することができる成形体製造に好適に用いることのできるフェライト粉および樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のフェライト粉は、金属探知機で検出可能なフェライト粉であって、ハードフェライト粒子と、ソフトフェライト粒子とを含み、
10k・1000/4πA/mの磁場をかけたときのVSM測定による、残留磁化が20A・m/kg以上40A・m/kg以下、飽和磁化が60A・m/kg以上90A・m/kg以下、かつ、保磁力が40kA/m以上180kA/m以下であり、
経時的に変動する磁場を印加することで金属を検知するタイプの金属探知機、および、磁気センサーで直接磁束を測定するタイプの金属探知機のいずれでも検出可能であることを特徴とする。
【0012】
本発明のフェライト粉では、前記ハードフェライト粒子として、Srを7.8質量%以上9.0質量%以下、Feを61.0質量%以上65.0質量%以下、含有する粒子を含むことが好ましい。
【0013】
本発明のフェライト粉では、前記ソフトフェライト粒子として、Mnを3.5質量%以上20.0質量%以下、Feを50.0質量%以上70.0質量%以下、含有する粒子を含むことが好ましい。
【0014】
本発明のフェライト粉では、前記ハードフェライト粒子の含有率をX[質量%]、前記ソフトフェライト粒子の含有率をX[質量%]としたとき、0.7≦X/X≦18の関係を満足することが好ましい。
【0015】
本発明のフェライト粉では、前記ハードフェライト粒子の体積平均粒径が0.1μm以上60μm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明のフェライト粉では、前記ソフトフェライト粒子の体積平均粒径が1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、本発明のフェライト粉と、
樹脂材料とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、種々の金属探知機で安定的に検出することができる成形体製造に好適に用いることのできるフェライト粉および樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細な説明をする。
《フェライト粉》
まず、本発明のフェライト粉について説明する。
【0027】
本発明のフェライト粉は、ハードフェライト粒子と、ソフトフェライト粒子とを含むことを特徴とする。
【0028】
これにより、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体を、金属探知機により検出されやすくすることができる。特に、種々の金属探知機に好適に対応することができ、種々の金属探知機で安定的に検出することができる。したがって、例えば、本発明のフェライト粉や、当該フェライト粉を含む成形体の少なくとも一部が、誤って食品等の製品中等に混入した場合等に、金属探知機により好適に検知することができ、当該製品が外部に流通すること等を効果的に防止することができる。特に、異なる種類の金属探知機が導入された様々な現場で、好適に用いることができる。また、一般に金属探知機は高価であり、すでに金属探知機が導入されている現場において、新たな金属探知機に買い替えることは容易なことではないが、本発明のフェライト粉は、既存の金属探知機を用いた場合でも、安定的に検出されるため、既存の設備を有効的に利用することができる。
【0029】
また、上記のようなフェライト粉を構成するハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子は、いずれも、酸化物を主成分とし、化学的に安定で、耐腐食性、耐薬品性に優れている。したがって、金属探知機による検出の安定性に優れている。特に、金属材料で構成された金属探知材を適用した場合には、酸化反応等の経時変化により、金属探知機による検出が困難になる可能性があるが、上記のようなフェライト粉では、様々な環境に曝された場合であっても、金属探知機による検出の安定性に優れている。また、上記のようなフェライト粉は、人体に対する安全性にも優れている。
【0030】
これに対し、上記のような構成を満足しない粉末では、満足のいく結果が得られない。
例えば、金属粉末を用いた場合には、酸化等の化学反応により変質しやすく、優れた特性を安定的に発揮することが困難であり、金属探知機による検出が困難になる場合がある。特に、粒子状の金属(金属粒子)は、表面積が大きいため、上記のような問題がより顕著に発生する。また、金属材料には、人体に有害な材料も多い。
【0031】
また、フェライト粉が、ハードフェライト粒子のみで構成されている場合(ソフトフェライト粒子を含まない場合)には、飽和磁化がソフトフェライトと比較して高くないため、フェライト粉および樹脂材料を含む材料で構成された成形体を製造する際にフィラー充填量を上げる必要があり、成形体の強度が劣化したり、成形体の重量(密度)が大きくなる。
【0032】
また、フェライト粉が、ソフトフェライト粒子のみで構成されている場合(ハードフェライト粒子を含まない場合)には、磁界が印加された状態でないと磁化が発生しないため、磁気センサーで直接磁束を測定するタイプの金属探知機では検出できない。
【0033】
(ハードフェライト粒子)
本発明のフェライト粉中に含まれるハードフェライト粒子は、ハードフェライトを含む材料で構成されていればよく、例えば、Ba系フェライト等で構成されていてもよいが、Srを7.8質量%以上9.0質量%以下、Feを61.0質量%以上65.0質量%以下、含有しているのが好ましい。
【0034】
これにより、着磁処理をすることで成形体から常に磁束が発生する状態となるため磁気センサーで直接磁束を測定するタイプの金属探知機で好適に検出することができる。
【0035】
これに対し、ハードフェライト粒子中におけるSrの含有率が7.8質量%未満であると、Feの量が過剰となり、粒子中に比較的多くのFeが含まれることとなり、飽和磁化が低下し、金属探知機の種類等によっては、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出が困難となる可能性がある。
【0036】
また、ハードフェライト粒子中におけるSrの含有率が9.0質量%を超えると、Srの量が過剰となり、粒子中に比較的多くのSrOが含まれることとなったり、Srフェライト以外のSr−Fe酸化物が含まれることとなり、飽和磁化が低下し、金属探知機の種類等によっては、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出が困難となる可能性がある。
【0037】
また、ハードフェライト粒子中におけるFeの含有率が61.0質量%未満であると
、Srの量が過剰となり、粒子中に比較的多くのSrOが含まれることとなったり、Srフェライト以外のSr−Fe酸化物が含まれることとなり、飽和磁化が低下し、金属探知機の種類等によっては、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出が困難となる可能性がある。
【0038】
また、ハードフェライト粒子中におけるFeの含有率が65.0質量%を超えると、Feの量が過剰となり、粒子中に比較的多くのFeが含まれることとなり、飽和磁化が低下し、金属探知機の種類等によっては、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出が困難となる可能性がある。
【0039】
上記のように、ハードフェライト粒子中におけるSrの含有率は、7.8質量%以上9.0質量%以下であるのが好ましいが、7.9質量%以上8.9質量%以下であるのがより好ましく、8.0質量%以上8.8質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0040】
また、ハードフェライト粒子中におけるFeの含有率は、61.0質量%以上65.0質量%以下であるのが好ましいが、61.1質量%以上64.9質量%以下であるのがより好ましく、61.2質量%以上64.8質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0041】
ハードフェライト粒子を構成する金属元素の含有量は、以下のようにして測定することができる。
【0042】
すなわち、フェライト粒子:0.2gを秤量し、純水:60mlに1Nの塩酸:20mlおよび1Nの硝酸:20mlを加えた混合物を加熱し、フェライト粒子を完全溶解させた水溶液を準備し、ICP分析装置(例えば、島津製作所製、ICPS−1000IV)を用いた測定を行うことにより、金属元素の含有量を求めることができる。
【0043】
なお、後に詳述するソフトフェライト粒子についても、金属元素の含有量は、上記と同様にして求めることができる。
【0044】
上記のようなハードフェライト粒子を構成するハードフェライトは、Fe、Sr、O以外の成分(元素)を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、Ti、Si、Cl、Ca、Al等が挙げられる。
【0045】
ただし、上記のようなハードフェライト粒子を構成するハードフェライト中に含まれるFe、Sr、O以外の成分(元素)の含有率は、1.0質量%以下であるのが好ましい。
【0046】
また、ハードフェライト粒子は、ハードフェライト以外の成分を含んでいてもよい。
ただし、ハードフェライト粒子中に含まれるハードフェライト以外の成分の含有率は、1.0質量%以下であるのが好ましい。
【0047】
ハードフェライト粒子は、表面処理が施されていてもよい。
粒子の表面処理に用いる表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、リン酸系化合物、カルボン酸、フッ素系化合物等が挙げられる。
【0048】
特に、ハードフェライト粒子にシランカップリング剤による表面処理が施されていると、ハードフェライト粒子の凝集をより効果的に防止することができ、フェライト粉や当該フェライト粉を含む樹脂組成物の流動性、取り扱いのし易さをより向上させることができる。また、樹脂組成物中、成形体中におけるハードフェライト粒子の分散性をより向上させることができる。
【0049】
シランカップリング剤としては、例えば、シリル基および炭化水素基を有するシラン化合物を用いることができるが、シランカップリング剤は、特に、アルキル基として炭素数が8以上10以下のアルキル基を有しているのが好ましい。
【0050】
これにより、ハードフェライト粒子の凝集をさらに効果的に防止することができ、フェライト粉や当該フェライト粉を含む樹脂組成物の流動性、取り扱いのし易さをさらに向上させることができる。また、樹脂組成物中、成形体中におけるハードフェライト粒子の分散性をさらに向上させることができる。
【0051】
リン酸系化合物としては、例えば、ラウリルリン酸エステル、ラウリル−2リン酸エステル、ステアレス−2リン酸、2−(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸のリン酸エステル等を挙げることができる。
【0052】
カルボン酸としては、例えば、炭化水素基と、カルボキシル基とを有する化合物(脂肪酸)を用いることができる。このような化合物の具体例としては、デカン酸、テトラデカン酸、オクタデカン酸、cis−9−オクタデセン酸等を挙げることができる。
【0053】
フッ素系化合物としては、例えば、上述したようなシランカップリング剤、リン酸系化合物、カルボン酸が有する水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換された構造を有する化合物(フッ素系シラン化合物、フッ素系リン酸化合物、フッ素置換脂肪酸)等が挙げられる。
【0054】
フェライト粉中に含まれるハードフェライト粒子の体積平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm以上60μm以下であるのが好ましく、0.2μm以上50μm以下であるのがより好ましく、0.3μm以上10μm以下であるのがさらに好ましい。
【0055】
これにより、ハードフェライト粒子の樹脂材料に対する分散性をより向上させることができ、ハードフェライト粒子が好適な状態で分散した樹脂組成物をより好適に調製することができる。また、当該樹脂組成物を用いて製造される成形体の強度、表面性状、信頼性をより向上させることができる。また、樹脂組成物を用いた成形体の製造をより安定的に行うことができる。また、成形体の色調の調整をより好適に行うことができる。
【0056】
これに対し、ハードフェライト粒子の体積平均粒径が前記下限値未満であると、樹脂組成物の製造に用いるハードフェライト粒子の量等によっては、後述する樹脂組成物の製造時に、樹脂材料にハードフェライト粒子を分散させるのに時間がかかったり、凝集体のまま分散するため好ましくない。また、粒径が小さくなることでハードフェライト粒子の着色力が強くなり、黒・グレー・茶色以外の色を付ける場合にくすんだ色になりやすいため好ましくない。
【0057】
また、ハードフェライト粒子の体積平均粒径が前記上限値を超えると、樹脂組成物の製造に用いるハードフェライト粒子の量等によっては、樹脂組成物を用いて製造する成形体の形状や大きさ等にもよるが、成形体としたときの成形体の強度や表面性(仕上がり)が低下する可能性があり好ましくない。また、例えば、成形体の製造方法としてインジェクション成形法を採用する場合に、インジェクションの経路を樹脂組成物が閉塞させる可能性があるため好ましくない。
【0058】
体積平均粒径は、例えば、以下のような測定により求めることができる。すなわち、まず、試料としての粉末:10gと水:80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を2〜3滴添加する。次いで、超音波ホモジナイザー(例えば、SMT.Co.LTD.製UH−150型等)を用い分散を行う。超音波ホモジナイザーとして、SMT.Co.LTD.製UH−150型を用いる場合には、例えば、出力レベル4に設定し、20秒間分散を行ってもよい。その後、ビーカー表面にできた泡を取り除き、マイクロトラック粒度分析計(例えば、日機装株式会社製、Model9320−X100等)に導入し、測定を行うことができる。
【0059】
10・1000/4πA/mの磁場をかけたときのVSM測定によるハードフェライト粒子の残留磁化は、25A・m/kg以上40A・m/kg以下であるのが好ましく、27A・m/kg以上38A・m/kg以下であるのがより好ましい。
【0060】
これにより、フェライト粉を用いて製造される成形体の金属探知機による検出のされやすさをより向上させつつ、成形体の靭性、強度等をより向上させることができる。また、成形体の生産コストを抑制する上でも有利である。
【0061】
これに対し、残留磁化が前記下限値未満であると、フェライト粉を用いて製造される成形体中のフェライト粉の含有率を高くしないと、成形体の金属探知機による検出のされやすさが不十分となる。また、金属探知機による検出のされやすさを向上させるために成形体中におけるフェライト粉の含有率を高めると、成形体の靭性、強度が低下し易くなる。
【0062】
また、残留磁化が前記上限値を超えると、その磁気特性を実現するために、ハードフェライト粒子の組成の調整等が複雑となり、安定して優れた特性を得ることも困難となる。また、残留磁化が前記上限値を超えても、実用的には、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出のされやすさのさらなる向上が望めない。
【0063】
10・1000/4πA/mの磁場をかけたときのVSM測定によるハードフェライト粒子の飽和磁化は、45A・m/kg以上70A・m/kg以下であるのが好ましく、47A・m/kg以上65A・m/kg以下であるのがより好ましい。
【0064】
これにより、フェライト粉を用いて製造される成形体の金属探知機による検出のされやすさをより向上させつつ、成形体の靭性、強度等をより向上させることができる。また、成形体の生産コストを抑制する上でも有利である。
【0065】
これに対し、飽和磁化が前記下限値未満であると、フェライト粉を用いて製造される成形体中のフェライト粉の含有率を高くしないと、金属探知機による成形体の検出のされやすさを十分に向上させることができない。また、金属探知機による成形体の検出のされやすさを十分に向上させるために成形体中におけるフェライト粉の含有率を高めると、成形体の靭性、強度が低下し易くなる。
【0066】
また、飽和磁化が前記上限値を超えると、その磁気特性を実現するために、ハードフェライト粒子の組成の調整等が複雑となり、安定して優れた特性を得ることも困難となる。また、飽和磁化が前記上限値を超えても、実用的には、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出のされやすさのさらなる向上が望めない。
【0067】
10・1000/4πA/mの磁場をかけたときのVSM測定によるハードフェライト粒子の保磁力は、39.7kA/m以上320kA/m以下であるのが好ましく、55kA/m以上280kA/m以下であるのがより好ましい。
【0068】
これにより、フェライト粉を用いて製造される成形体の金属探知機による検出のされやすさをより向上させることができる。また、成形体の生産コストを抑制することができる。
【0069】
これに対し、保磁力が前記下限値未満であると、本発明のフェライト粉を用いて製造された成形体を着磁した場合に、十分な着磁ができず、成形体の金属探知機による検出のされやすさが低下する可能性があるため好ましくない。
【0070】
また、保磁力が前記上限値を超えると、その磁気特性を実現するために、ハードフェライト粒子の組成の調整等が複雑となり、安定して優れた特性を得ることも困難となる。また、保磁力が前記上限値を超えても、実用的には、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出のされやすさのさらなる向上が望めない。
【0071】
なお、磁気特性は、例えば、以下のようにして求めることができる。すなわち、まず、内径5mm、高さ2mmのセルに対象となる粉末(粒子)を詰めて振動試料型磁気測定装置にセットする。次に、印加磁場を加え、10・1000/4π・A/mまで掃引し、次いで、印加磁場を減少させ、ヒステリシスカーブを作製する。このカーブのデータより飽和磁化、残留磁化および保磁力を求めることができる。振動試料型磁気測定装置としては、例えば、VSM−C7−10A(東英工業社製)等を用いることができる。
【0072】
本発明のフェライト粉中におけるハードフェライト粒子の含有率は、特に限定されないが、42質量%以上93質量%以下であるのが好ましく、45質量%以上92質量%以下であるのがより好ましく、48質量%以上90質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0073】
これにより、樹脂組成物の密度を低く保ちつつ、樹脂組成物を用いて製造される成形体の強度をより向上させることができるとともに、経時的に変動する磁場を印加することで金属を検知するタイプの金属探知機、および、磁気センサーで直接磁束を測定するタイプの金属探知機のいずれにも、より好適に対応した成形体を得ることができる。
【0074】
上記のようなハードフェライト粒子は、いかなる方法で製造してもよいが、例えば、以下に述べるような方法により、好適に製造することができる。
【0075】
すなわち、まず、原料としてFeおよびSrCOを乾式混合する。
乾式混合は、例えば、ヘンシェルミキサー等を用い、1分以上、好ましくは3分以上60分以下の時間混合して造粒する。
【0076】
その後、このようにして得られた造粒物を焼成する。
造粒物の焼成は、例えば、固定式電気炉等を用いて行うことができる。
【0077】
焼成条件は、特に限定されないが、例えば、大気中、温度:1050℃以上1250℃以下、焼成時間:2時間以上8時間以下(ピーク)とすることができる。
【0078】
その後、焼成によって得られた焼成物をビーズミル等により湿式粉砕し、洗浄、脱水、乾燥後、熱処理を施す。
【0079】
当該熱処理の条件は、特に限定されないが、例えば、温度:750℃以上1050℃以下、加熱時間:0.1時間以上2時間以下とすることができる。
【0080】
(ソフトフェライト粒子)
本発明のフェライト粉中に含まれるソフトフェライト粒子は、ソフトフェライトを含む材料で構成されていればよく、例えば、Ni−Zn−Cu系のフェライト等で構成されていてもよいが、Mnを3.5質量%以上20.0質量%以下、Feを50.0質量%以上70.0質量%以下、含有するのが好ましい。
【0081】
これにより、フェライト粉のキュリー点がより高くなり、高温での金属探知機による検出をより安定的に行うことができる。また、ソフトフェライト粒子自体の飽和磁化が高いので、樹脂組成物中におけるソフトフェライト粒子の含有率がより少ない場合であっても、金属探知機で好適に検知することができる。
【0082】
これに対し、ソフトフェライト粒子中におけるMnの含有率が3.5質量%未満であると、Feの量が過剰となり、樹脂組成物の製造時(特に、加熱による混合、混錬時)や成形体の製造時(特に、加熱による成形時)等に酸化反応が進行しやすくなり、結果として、最終的に得られる成形体の飽和磁化が低くなる可能性がある。その結果、金属探知機の種類等によっては、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出が困難となる可能性がある。
【0083】
また、ソフトフェライト粒子中におけるMnの含有率が20.0質量%を超えると、本焼成後に粉砕等の処理を行った際に酸化が進み、飽和磁化が低くなる可能性がある。その結果、金属探知機の種類等によっては、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出が困難となる可能性がある。
【0084】
また、ソフトフェライト粒子中におけるFeの含有率が50.0質量%未満であると、Mn含有量が増加していることを意味しており、本焼成後に粉砕等の処理を行った際に酸化が進み、飽和磁化が低くなる可能性がある。その結果、金属探知機の種類等によっては、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出が困難となる可能性がある。
【0085】
また、ソフトフェライト粒子中におけるFeの含有率が70.0質量%を超えると、Feの量が過剰となり、樹脂組成物の製造時(特に、加熱による混合、混錬時)や成形体の製造時(特に、加熱による成形時)等に酸化反応が進行しやすくなり、結果として、最終的に得られる成形体の飽和磁化が低くなる可能性がある。その結果、金属探知機の種類等によっては、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出が困難となる可能性がある。
【0086】
上記のように、ソフトフェライト粒子中におけるMnの含有率は、3.5質量%以上20.0質量%以下であるのが好ましいが、5.0質量%以上19.0質量%以下であるのがより好ましく、6.4質量%以上18.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0087】
また、ソフトフェライト粒子中におけるFeの含有率は、50.0質量%以上70.0質量%以下であるのが好ましいが、51.0質量%以上66.0質量%以下であるのがより好ましく、52.0質量%以上65.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0088】
ソフトフェライト粒子を構成するソフトフェライトは、Fe、Mn、O以外の成分(元素)を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、Mg、Ti、Si、Cl、Ca、Al等が挙げられる。
【0089】
ただし、ソフトフェライト粒子を構成するソフトフェライト中に含まれるFe、Mn、O以外の成分(元素)の含有率は、1.0質量%以下であるのが好ましい。
【0090】
また、ソフトフェライト粒子は、ソフトフェライト以外の成分を含んでいてもよい。
ただし、ソフトフェライト粒子中に含まれるソフトフェライト以外の成分の含有率は、1.0質量%以下であるのが好ましい。
【0091】
ソフトフェライト粒子は、表面処理が施されていてもよい。
粒子の表面処理に用いる表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、リン酸系化合物、カルボン酸、フッ素系化合物等が挙げられる。
【0092】
特に、ソフトフェライト粒子にシランカップリング剤による表面処理が施されていると、ソフトフェライト粒子の凝集をより効果的に防止することができ、フェライト粉や当該フェライト粉を含む樹脂組成物の流動性、取り扱いのし易さをより向上させることができる。また、樹脂組成物中、成形体中におけるソフトフェライト粒子の分散性をより向上させることができる。
【0093】
シランカップリング剤としては、例えば、シリル基および炭化水素基を有するシラン化合物を用いることができるが、シランカップリング剤は、特に、アルキル基として炭素数が8以上10以下のアルキル基を有しているのが好ましい。
【0094】
これにより、ソフトフェライト粒子の凝集をさらに効果的に防止することができ、フェライト粉や当該フェライト粉を含む樹脂組成物の流動性、取り扱いのし易さをさらに向上させることができる。また、樹脂組成物中、成形体中におけるソフトフェライト粒子の分散性をさらに向上させることができる。
【0095】
リン酸系化合物としては、例えば、ラウリルリン酸エステル、ラウリル−2リン酸エステル、ステアレス−2リン酸、2−(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸のリン酸エステル等を挙げることができる。
【0096】
カルボン酸としては、例えば、炭化水素基と、カルボキシル基とを有する化合物(脂肪酸)を用いることができる。このような化合物の具体例としては、デカン酸、テトラデカン酸、オクタデカン酸、cis−9−オクタデセン酸等を挙げることができる。
【0097】
フッ素系化合物としては、例えば、上述したようなシランカップリング剤、リン酸系化合物、カルボン酸が有する水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換された構造を有する化合物(フッ素系シラン化合物、フッ素系リン酸化合物、フッ素置換脂肪酸)等が挙げられる。
【0098】
フェライト粉中に含まれるソフトフェライト粒子の体積平均粒径は、特に限定されないが、1μm以上100μm以下であるのが好ましく、1μm以上80μm以下であるのがより好ましく、1μm以上70μm以下であるのがさらに好ましい。
【0099】
これにより、ソフトフェライト粒子の樹脂材料に対する分散性をより向上させることができ、ソフトフェライト粒子が好適な状態で分散した樹脂組成物をより好適に調製することができる。また、当該樹脂組成物を用いて製造される成形体の強度、表面性状、信頼性をより向上させることができる。また、樹脂組成物を用いた成形体の製造をより安定的に行うことができる。また、成形体の色調の調整をより好適に行うことができる。
【0100】
これに対し、ソフトフェライト粒子の体積平均粒径が前記下限値未満であると、樹脂組成物の製造に用いるソフトフェライト粒子の量等によっては、後述する樹脂組成物の製造時に、樹脂材料にソフトフェライト粒子を分散させるのに時間がかかったり、凝集体のまま分散するため好ましくない。また、粒径が小さくなることでソフトフェライト粒子の着色力が強くなり、黒・グレー・茶色以外の色を付ける場合にくすんだ色になりやすいため好ましくない。
【0101】
また、ソフトフェライト粒子の体積平均粒径が前記上限値を超えると、樹脂組成物の製造に用いるソフトフェライト粒子の量等によっては、樹脂組成物を用いて製造する成形体の形状や大きさ等にもよるが、成形体としたときの成形体の強度や表面性(仕上がり)が低下する可能性があり好ましくない。また、例えば、成形体の製造方法としてインジェクション成形法を採用する場合に、インジェクションの経路を樹脂組成物が閉塞させる可能性があるため好ましくない。
【0102】
フェライト粉中に含まれるハードフェライト粒子の体積平均粒径をD[μm]、フェライト粉中に含まれるソフトフェライト粒子の体積平均粒径をD[μm]としたとき、0.5≦D/D≦50の関係を満足するのが好ましく、0.5≦D/D≦40の関係を満足するのがより好ましく、0.5≦D/D≦30の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0103】
これにより、樹脂組成物中、成形体中におけるソフトフェライト粒子の分散性をより向上させることができ、樹脂組成物中、成形体中における不本意な組成のばらつきの発生をより効果的に防止することができる。
【0104】
10・1000/4πA/mの磁場をかけたときのVSM測定によるソフトフェライト粒子の飽和磁化は、85A・m/kg以上98A・m/kg以下であるのが好ましく、87A・m/kg以上97A・m/kg以下であるのがより好ましい。
【0105】
これにより、フェライト粉を用いて製造される成形体の金属探知機による検出のされやすさをより向上させつつ、成形体の靭性、強度等をより向上させることができる。また、成形体の生産コストを抑制する上でも有利である。
【0106】
これに対し、飽和磁化が前記下限値未満であると、フェライト粉を用いて製造される成形体中のフェライト粉の含有率を高くしないと、成形体の金属探知機による検出のされやすさが不十分となる。また、金属探知機による検出のされやすさを向上させるために成形体中におけるフェライト粉の含有率を高めると、成形体の靭性、強度が低下し易くなる。
【0107】
また、飽和磁化が前記上限値を超えると、その磁気特性を実現するために、ソフトフェライト粒子の組成の調整等が複雑となり、安定して優れた特性を得ることも困難となる。また、飽和磁化が前記上限値を超えても、実用的には、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出のされやすさのさらなる向上が望めない。
【0108】
また、10・1000/4πA/mの磁場をかけたときのVSM測定によるソフトフェライト粒子の残留磁化は、4.5A・m/kg以上40A・m/kg以下であるのが好ましく、5.0A・m/kg以上37A・m/kg以下であるのがより好ましい。
【0109】
これにより、フェライト粉を用いて製造される成形体の金属探知機による検出のされやすさをより向上させつつ、成形体の靭性、強度等をより向上させることができる。また、成形体の生産コストを抑制する上でも有利である。
【0110】
これに対し、残留磁化が前記下限値未満であると、フェライト粉を用いて製造される成形体中のフェライト粉の含有率を高くしないと、成形体の金属探知機による検出のされやすさが不十分となる。また、金属探知機による検出のされやすさを向上させるために成形体中におけるフェライト粉の含有率を高めると、成形体の靭性、強度が低下し易くなる。
【0111】
また、残留磁化が前記上限値を超えると、その磁気特性を実現するために、ソフトフェライト粒子の組成の調整等が複雑となり、安定して優れた特性を得ることも困難となる。また、残留磁化が前記上限値を超えても、実用的には、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出のされやすさのさらなる向上が望めない。
【0112】
10・1000/4πA/mの磁場をかけたときのVSM測定によるソフトフェライト粒子の保磁力は、550A/m以上6500A/m以下であるのが好ましく、600A/m以上5300A/m以下であるのがより好ましい。
【0113】
これにより、フェライト粉を用いて製造される成形体の金属探知機による検出のされやすさをより向上させることができる。また、成形体の生産コストを抑制することができる。
【0114】
これに対し、保磁力が前記下限値未満であると、本発明のフェライト粉を用いて製造された成形体を着磁した場合に、十分な着磁ができず、成形体の金属探知機による検出のされやすさが低下する可能性があるため好ましくない。
【0115】
また、保磁力が前記上限値を超えると、その磁気特性を実現するために、フェライト粉の組成の調整等が複雑となり、安定して優れた特性を得ることも困難となる。また、保磁力が前記上限値を超えても、実用的には、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出のされやすさのさらなる向上が望めない。
【0116】
また、ソフトフェライト粒子のキュリー温度(キュリー点)は、400℃以上であるのが好ましく、450℃以上であるのがより好ましい。
【0117】
これにより、フェライト粉やこれを含む樹脂組成物、これらを用いて製造される成形体の耐熱性をより向上させることができ、より高い温度に曝された場合でも金属探知機による検出を効果的に行うことができる。なお、キュリー温度は、JIS C 2560−1に基づいた測定により求めることができる。
【0118】
本発明のフェライト粉中におけるソフトフェライト粒子の含有率は、特に限定されないが、7質量%以上58質量%以下であるのが好ましく、8質量%以上55質量%以下であるのがより好ましく、10質量%以上50質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0119】
これにより、経時的に変動する磁場を印加することで金属を検知するタイプの金属探知機での検知を好適に行うことができる。
【0120】
本発明のフェライト粉中におけるハードフェライト粒子の含有率をX[質量%]、ソフトフェライト粒子の含有率をX[質量%]としたとき、0.7≦X/X≦18の関係を満足するのが好ましく、0.8≦X/X≦12の関係を満足するのがより好ましく、1≦X/X≦10の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0121】
これにより、樹脂組成物の密度を低く保ちつつ、樹脂組成物を用いて製造される成形体の強度をより向上させることができるとともに、経時的に変動する磁場を印加することで金属を検知するタイプの金属探知機、および、磁気センサーで直接磁束を測定するタイプの金属探知機のいずれにも、より好適に対応した成形体を得ることができる。
【0122】
上記のようなソフトフェライト粒子は、いかなる方法で製造してもよいが、例えば、以下に述べるような方法により、好適に製造することができる。
【0123】
すなわち、まず、原料としてMnCOおよびMnのうちの少なくとも一方と、Feとを混合する。原料の混合は、湿式混合、乾式混合のいずれにより行ってもよい。原料の混合には、例えば、ヘンシェルミキサーやボールミルを用いて行うことができる。
得られた混合物を、仮焼成し仮焼結物とする。
【0124】
仮焼成の焼成条件は、特に限定されないが、例えば、大気中、温度:800℃以上1200℃以下で好適に行うことができる。
【0125】
その後、仮焼結物を粉砕する。仮焼結物の粉砕は、例えば、ロッドミル、ボールミル等を用いて行うことができる。
【0126】
仮焼結体の粉砕物の他に、水、ポリビニルアルコール(PVA)等のバインダー、分散剤を含む組成物を調製し、当該組成物を噴霧、乾燥して、造粒粉を得る。
【0127】
なお、前記組成物は、例えば、仮焼結物の粗粉砕物に、水、ポリビニルアルコール(PVA)等のバインダー、分散剤を加えて、微粉砕(湿式粉砕)の処理を施すことにより調製してもよい。
その後、造粒粉を本焼成することにより、フェライト粉が得られる。
【0128】
本焼成の焼成条件は、特に限定されないが、例えば、窒素中(非酸化性雰囲気下)、温度:1000℃以上1300℃以下で好適に行うことができる。
【0129】
また、本発明のフェライト粉は、上述したようなハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子に加え、他の粒子を含んでいてもよい。
【0130】
フェライト粉の構成粒子の体積平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm以上95μm以下であるのが好ましく、0.2μm以上75μm以下であるのがより好ましい。
【0131】
これにより、フェライト粉の樹脂材料に対する分散性をより向上させることができ、フェライト粉と樹脂材料とを含む樹脂組成物の製造をより好適に行うことができる。また、当該樹脂組成物を用いて製造される成形体の強度、表面性状、信頼性をより向上させることができる。また、樹脂組成物を用いた成形体の製造をより安定的に行うことができる。また、成形体の色調の調整をより好適に行うことができる。
【0132】
10・1000/4πA/mの磁場をかけたときのVSM測定によるフェライト粉の残留磁化は、20A・m/kg以上40A・m/kg以下であるのが好ましく、27A・m/kg以上38A・m/kg以下であるのがより好ましい。
【0133】
これにより、フェライト粉を用いて製造される成形体の金属探知機による検出のされやすさをより向上させつつ、成形体の靭性、強度等をより向上させることができる。また、成形体の生産コストを抑制する上でも有利である。
【0134】
これに対し、残留磁化が前記下限値未満であると、フェライト粉を用いて製造される成形体中のフェライト粉の含有率を高くしないと、成形体の金属探知機による検出のされやすさが不十分となる。また、金属探知機による検出のされやすさを向上させるために成形体中におけるフェライト粉の含有率を高めると、成形体の靭性、強度が低下し易くなる。
【0135】
また、残留磁化が前記上限値を超えると、その磁気特性を実現するために、フェライト粉の組成の調整等が複雑となり、安定して優れた特性を得ることも困難となる。また、残留磁化が前記上限値を超えても、実用的には、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出のされやすさのさらなる向上が望めない。
【0136】
10・1000/4πA/mの磁場をかけたときのVSM測定によるフェライト粉の飽和磁化は、60A・m/kg以上90A・m/kg以下であるのが好ましく、63A・m/kg以上85A・m/kg以下であるのがより好ましい。
【0137】
これにより、フェライト粉を用いて製造される成形体の金属探知機による検出のされやすさをより向上させつつ、成形体の靭性、強度等をより向上させることができる。また、成形体の生産コストを抑制する上でも有利である。
【0138】
これに対し、飽和磁化が前記下限値未満であると、フェライト粉を用いて製造される成形体中のフェライト粉の含有率を高くしないと、成形体の金属探知機による検出のされやすさが不十分となる。また、金属探知機による検出のされやすさを向上させるために成形体中におけるフェライト粉の含有率を高めると、成形体の靭性、強度が低下し易くなる。
【0139】
また、飽和磁化が前記上限値を超えると、その磁気特性を実現するために、フェライト粉の組成の調整等が複雑となり、安定して優れた特性を得ることも困難となる。また、飽和磁化が前記上限値を超えても、実用的には、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出のされやすさのさらなる向上が望めない。
【0140】
10・1000/4πA/mの磁場をかけたときのVSM測定によるフェライト粉の保磁力は、40kA/m以上180kA/m以下であるのが好ましく、44kA/m以上170kA/m以下であるのがより好ましい。
【0141】
これにより、フェライト粉を用いて製造される成形体の金属探知機による検出のされやすさをより向上させることができる。また、成形体の生産コストを抑制することができる。
【0142】
これに対し、保磁力が前記下限値未満であると、本発明のフェライト粉を用いて製造された成形体を着磁した場合に、十分な着磁ができず、成形体の金属探知機による検出のされやすさが低下する可能性があるため好ましくない。
【0143】
また、保磁力が前記上限値を超えると、その磁気特性を実現するために、フェライト粉の組成の調整等が複雑となり、安定して優れた特性を得ることも困難となる。また、保磁力が前記上限値を超えても、実用的には、フェライト粉や当該フェライト粉を含む成形体の金属探知機による検出のされやすさのさらなる向上が望めない。
【0144】
特に、フェライト粉が、残留磁化、飽和磁化および保磁力について、上記のような条件を満足していると、樹脂組成物の密度を低く保ちつつ、樹脂組成物を用いて製造される成形体の強度をより向上させることができるとともに、経時的に変動する磁場を印加することで金属を検知するタイプの金属探知機、および、磁気センサーで直接磁束を測定するタイプの金属探知機のいずれにも、より好適に対応した成形体を得ることができる。
【0145】
本発明のフェライト粉は、いかなる方法で製造してもよいが、例えば、前述したような方法で別個に製造されたハードフェライト粒子とソフトフェライト粒子とを混合することにより、好適に製造することができる。
【0146】
《樹脂組成物》
次に、本発明の樹脂組成物について説明する。
【0147】
本発明の樹脂組成物は、ハードフェライト粒子と、ソフトフェライト粒子と、樹脂材料とを含み、金属探知機で検出可能である。
【0148】
このような樹脂組成物は、前述したフェライト粉と、樹脂材料とを混合して好適に得ることができる。言い換えると、本発明の樹脂組成物は、前述したフェライト粉と、樹脂材料とを含んでいてもよい。
【0149】
このような本発明の樹脂組成物は、金属探知機による検出のされやすさ、検出の安定性に優れる成形体の製造に好適に用いることができる。
【0150】
なお、本発明の樹脂組成物は、ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子のうちの一方のみを含む組成物と、ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子のうちの他方のみを含む組成物とを混合しても得ることができる。より具体的には、例えば、本発明の樹脂組成物は、ハードフェライト粒子および樹脂材料を含む組成物と、ソフトフェライト粒子および樹脂材料を含む組成物とを混合して得ることができ、また、ハードフェライト粒子および樹脂材料を含む組成物と、ソフトフェライト粒子(粉末)とを混合して得ることができ、ハードフェライト粒子と、ソフトフェライト粒子および樹脂材料を含む組成物とを混合して得ることができる。
このような場合でも、前述したのと同様の効果が得られる。
【0151】
また、このような場合でも、樹脂組成物中に含まれるハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子は、本発明のフェライト粉の説明で述べたのと同様の条件を満足するのが好ましい。
【0152】
以下の説明では、樹脂組成物の製造において、前述したようなハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子を含む混合粉末としての本発明のフェライト粉を用いなかった場合でも、最終的に得られる樹脂組成物中にハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子が含まれる場合には、ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子をまとめてフェライト粉と言う。
【0153】
本発明の樹脂組成物において、フェライト粉(ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子)は、いかなる形態で含まれていてもよいが、樹脂材料中に分散して存在しているのが好ましい。
【0154】
これにより、樹脂組成物の取扱いのし易さがより向上し、後に詳述する成形体の成形をより好適に行うことができる。また、成形体の各部位におけるフェライト粉(ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子)の含有率の不本意なばらつきの発生を効果的に防止することができ、フェライト粉(ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子)を含む成形体の金属探知機による検出の確実性をより向上させることができる。
【0155】
樹脂組成物中におけるフェライト粉の含有率(ハードフェライト粒子の含有率とソフトフェライト粒子の含有率との和)は、特に限定されないが、5.0質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、7.0質量%以上88質量%以下であるのがより好ましい。
【0156】
これにより、成形体の成形性をより向上させることができ、成形体の靭性、強度、信頼性等をより向上させることができるとともに、成形体の金属探知機による検出のされやすさ、検出の安定性をより向上させることができる。また、成形体の比重が過剰に大きくなることを効果的に防止することができる。
【0157】
これに対し、樹脂組成物中におけるフェライト粉の含有率(ハードフェライト粒子の含有率とソフトフェライト粒子の含有率との和)が前記下限値未満であると、ハードフェライト粒子の組成等によっては、成形体の金属探知機による検出のされやすさ、検出の安定が不十分になる可能性がある。
【0158】
また、樹脂組成物中におけるフェライト粉の含有率(ハードフェライト粒子の含有率とソフトフェライト粒子の含有率との和)が前記上限値を超えると、成形体の成形性が低下するとともに、成形体の靭性、強度、信頼性等が低下する可能性がある。
【0159】
樹脂組成物中に含まれる樹脂材料としては、例えば、各種熱可塑性樹脂、各種硬化性樹脂等を用いることができる。
【0160】
より具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、エチレン−プロピレン共重合体、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン;変性ポリオレフィン;ポリスチレン;ブタジエン−スチレン共重合体;アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂);アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂);ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA);ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66);ポリイミド;ポリアミドイミド;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート(PC);アイオノマー;ポリビニルアルコール(PVA);エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)等のポリエステル;ポリエーテル;ポリアセタール(POM);ポリフェニレンオキシド;変性ポリフェニレンオキシド;ポリエーテルケトン(PEK);ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ポリエーテルイミド;ポリサルフォン;ポリエーテルサルフォン;ポリフェニレンサルファイド;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂;シリコーンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、天然ゴム等のゴム材料;スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;ユリア樹脂;メラミン樹脂;不飽和ポリエステル;シリコーン樹脂;ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0161】
中でも、樹脂組成物中に含まれる樹脂材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール(PVA)、フッ素系樹脂、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂およびシリコーン樹脂よりなる群から選択される1種または2種以上を含むのが好ましい。
【0162】
これにより、樹脂組成物中におけるフェライト粉(ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子)の分散安定性がより向上し、成形体の成形性をより向上させることができる。また、成形体の靭性、強度、信頼性等をより向上させることができる。
【0163】
特に、フェライト粉を構成する粒子(ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子のうちの少なくとも一方)が、シランカップリング剤による表面処理が施されている場合に、各種樹脂との密着性が向上するので、樹脂組成物中におけるフェライト粉(ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子)の分散安定性をさらに向上させ、成形体の成形性をさらに向上させることができる。
【0164】
また、樹脂組成物中に含まれる樹脂材料は、樹脂組成物を用いて製造される成形体中に含まれる樹脂材料とは、異なる組成であってもよい。例えば、樹脂組成物中に含まれる樹脂材料は、最終的な成形体中に含まれる樹脂材料の前駆体(例えば、モノマー、ダイマー、トリマー、オリゴマー、プレポリマー等)であってもよい。
【0165】
樹脂組成物中における樹脂材料の含有率は、特に限定されないが、8.0質量%以上95質量%以下であるのが好ましく、10質量%以上90質量%以下であるのがより好ましい。
【0166】
これにより、成形体の成形性をより向上させることができ、成形体の靭性、強度、信頼性等をより向上させることができるとともに、成形体の金属探知機による検出のされやすさ、検出の安定性をより向上させることができる。
【0167】
これに対し、樹脂組成物中における樹脂材料の含有率が前記下限値未満であると、成形体の成形性が低下するとともに、成形体の靭性、強度、信頼性等が低下する可能性がある。
【0168】
また、樹脂組成物中における樹脂材料の含有率が前記上限値を超えると、フェライト粉(ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子)の含有率が相対的に低下し、ハードフェライト粒子の組成等によっては、成形体の金属探知機による検出のされやすさ、検出の安定性が不十分になる可能性がある。
【0169】
本発明の樹脂組成物は、フェライト粉(ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子)および樹脂材料を含んでいればよく、さらにこれら以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。
【0170】
このような成分(その他の成分)としては、例えば、顔料、染料等の各種着色剤;各種蛍光材料;各種蓄光材料;各種燐光材料;溶剤;赤外線吸収材料;紫外線吸収剤;分散剤;界面活性剤;重合開始剤;重合促進剤;架橋剤;重合禁止剤;増感剤;可塑剤;スリップ剤(レベリング剤);浸透促進剤;湿潤剤(保湿剤);帯電防止剤;定着剤;防腐剤;防黴剤;酸化防止剤;キレート剤;pH調整剤;増粘剤;アルミナ、シリカ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化カルシウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、ガラス繊維、炭素繊維、石膏繊維、金属繊維、金属粒子、黒鉛、タルク、クレー、マイカ、ウォラストナイト、ゾノトライト、ハイドロタルサイト、ゼオライト等のフィラー;凝集防止剤;消泡剤;発泡剤等が挙げられる。
【0171】
本発明の樹脂組成物は、いかなる形態であってもよく、樹脂組成物の形態としては、例えば、粉末、ペレット、分散液、スラリー、ゲル等が挙げられるが、ペレットが好ましい。
【0172】
これにより、樹脂組成物の取扱いのし易さがより向上し、樹脂組成物を用いた成形体の製造をより好適に行うことができる。また、樹脂組成物の保存安定性をより向上させることができ、保存時等における樹脂組成物の構成成分の劣化等をより効果的に防止することができる。
【0173】
樹脂組成物がペレットである場合、その体積平均粒径は、1mm以上10mm以下であるのが好ましく、2mm以上7mm以下であるのがより好ましい。
【0174】
これにより、樹脂組成物の取扱いのし易さがさらに向上し、樹脂組成物を用いた成形体の製造をさらに好適に行うことができる。
【0175】
本発明の樹脂組成物は、例えば、前述したフェライト粉(ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子)、樹脂材料を混合することにより、製造することができる。フェライト粉(ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子)と樹脂材料との混合は、例えば、プラネタリーミキサー、二軸ミキサー、ニーダー、バンバリーミキサー、オーブンロール等の攪拌混練機、単軸押出機、二軸押出機等の混合装置(混練装置)を用いることにより好適に行うことができる。
【0176】
また、必要に応じて、混合の際に、例えば、前述したようなその他の成分をさらに用いてもよい。
【0177】
《成形体》
次に、本発明の成形体について説明する。
【0178】
本発明の成形体は、ハードフェライト粒子とソフトフェライト粒子と樹脂材料とを含み、ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子が、樹脂材料によって固定されていることを特徴とする。
【0179】
これにより、種々の金属探知機で安定的に検出することができる成形体を提供することができる。
【0180】
また、ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子を含むことにより、成形体の強度、耐久性等をより向上させることができ、例えば、引張や曲げ等の外力が加わった場合、特に、大きな外力が加わった場合や繰り返し外力が加わった場合等でも、切断等により成形体の一部が脱離することがより効果的に防止される。したがって、成形体の一部が製品等に異物として混入してしまうこと自体をより効果的に防止することができる。
【0181】
このような本発明の成形体は、前述した本発明の樹脂組成物を用いて好適に製造することができる。
【0182】
また、本発明の成形体は、例えば、ハードフェライト粒子を含みかつソフトフェライト粒子を含まない組成物(第1の組成物)と、ソフトフェライト粒子を含みかつハードフェライト粒子を含まない組成物(第2の組成物)とを組み合わせて、製造することもできる。
【0183】
この場合、例えば、容易かつ確実に、成形体の各部位で、ハードフェライト粒子の含有率、ソフトフェライト粒子の含有率を異ならせることができる。より具体的には、例えば、ハードフェライト粒子の含有率が高い第1の領域と、第1の領域に比してソフトフェライト粒子の含有率が高い第2の領域とを有する成形体を好適に製造することができる。
【0184】
本発明の成形体は、その少なくとも一部にハードフェライト粒子、ソフトフェライト粒子を含んでいればよく、例えば、ハードフェライト粒子、ソフトフェライト粒子のいずれをも含まない領域を有していてもよい。
【0185】
より具体的には、例えば、本発明の樹脂組成物以外の材料で構成された基部と、当該基部の表面に設けられ、本発明の樹脂組成物を用いて形成された表面層とを有していてもよい。
【0186】
また、上記のような場合でも、成形体中に含まれるハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子は、本発明のフェライト粉の説明で述べたのと同様の条件を満足するのが好ましい。
【0187】
以下の説明では、成形体の製造において、前述したようなハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子を含む混合粉末としての本発明のフェライト粉を用いなかった場合や、成形体中においてハードフェライト粒子とソフトフェライト粒子とが互いに異なる領域に分かれて含まれる場合でも、成形体中にハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子が含まれる場合には、ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子をまとめてフェライト粉と言う。
【0188】
成形体は、少なくとも、その表面付近にハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子を含んでいるのが好ましい。
【0189】
より具体的には、成形体は、その表面から厚さ方向に1.0mm以内の領域にハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子を含んでいるのが好ましく、その表面から厚さ方向に0.5mm以内の領域にハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子を含んでいるのがより好ましい。
【0190】
成形体の表面付近は、成形体の中でも特に脱離し易い部位である。したがって、このような領域にハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子を含むことにより、本発明の効果がより顕著に発揮される。
【0191】
なお、このような成形体は、例えば、成形体の成形時(樹脂材料が軟化または溶融した状態)において、成形体の表面となるべき方向から磁場を与えることにより、好適に製造することができる。特に、厚みが比較的大きい成形体である場合、成形体の表面付近に、前述したフェライトを偏在させることができ、前述したような効果をより顕著に発揮させることができる。
【0192】
また、例えば、成形体は、その表面付近の領域において、ソフトフェライト粒子よりもハードフェライト粒子の含有率が高い第1の層と、ハードフェライト粒子よりもソフトフェライト粒子の含有率が高い第2の層とを有していてもよい。
【0193】
これにより、上記樹脂組成物を着磁した際に、第2の層と第1の層とで樹脂組成物から発生する層の垂直方向(法線方向)への磁力線の発生量を異ならせることができる。なお、第1の層中にはソフトフェライト粒子が含まれていても含まれていなくてもよく、第2の層中にはハードフェライト粒子が含まれていても含まれていなくてもよい。また、第1の層と第2の層とは接触していてもよいし、これらの層の間に少なくとも1層の中間層が介在していてもよい。また、第1の層と第2の層との間に明確な境界がなく、連続的に組成が変化していてもよい。
【0194】
特に、第1の層が第2の層よりも、成形体の外表面側に存在することにより、金属探知機で検出されやすさを向上させつつ、第2の層に接する物体(前述したフェライト粒子を含まない基材)への樹脂組成物から発生する磁力線の影響を抑制する効果が期待される。
【0195】
本発明の成形体中における前記フェライト粉の含有率(ハードフェライト粒子の含有率とソフトフェライト粒子の含有率との和)は、成形体の用途等により異なるが、2.0質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、2.5質量%以上18質量%以下であるのがより好ましい。
【0196】
これにより、成形体の靭性、強度、信頼性等をより向上させることができるとともに、成形体の金属探知機による検出のされやすさ、検出の安定性をより向上させることができる。また、成形体の比重が過剰に大きくなることを効果的に防止することができる。
【0197】
なお、成形体が、前記ハードフェライト粒子または前記ソフトフェライト粒子を含む部位に加え、前記ハードフェライト粒子および前記ソフトフェライト粒子を含まない部位を有する場合には、前記ハードフェライト粒子または前記ソフトフェライト粒子を含む部位において、前述したような含有率についての条件を満足するのが好ましい。
【0198】
本発明の成形体は、その全部または一部(例えば、成形体の切片)が金属探知による検査に適用される可能性、言い換えると、金属探知機で検知することを目的として使用される可能性があれば、いかなる用途であってもよいが、本発明の成形体の用途としては、例えば、食品の製造、加工、包装(梱包を含む。以下同様)の現場用、化粧品、医薬部外品の製造、加工、包装の現場用、医薬品の製造、加工、包装の現場用、上記以外の製品の製造、加工、包装の現場用、医療現場用、細胞培養、組織培養、器官培養、遺伝子組み換え等の生物学的処理を行う現場用、化合物の合成等の化学的処理を行う現場用等が挙げられる。
中でも、本発明の成形体は、食品の製造、加工、包装現場で用いられるのが好ましい。
【0199】
食品には、高い安全性が求められるが、一般に、異物が混入しやすい環境で製造、加工、包装が行われている。したがって、本発明を食品の製造、加工、包装の現場で用いられる物品に適用することにより、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0200】
また、食品の製造、加工現場で用いられる物品には、電子レンジに適用される物品(例えば、各種調理具、各種容器、トレイ、ラップフィルム等)も多いが、本発明の成形体では、非金属材料であるフェライトを用いているため、電子レンジの使用にも好適に対応することができる。
【0201】
また、前述したようなソフトフェライトは、組成の調整等により、電子レンジに適用した場合に、発熱(特に、過度な温度上昇が防止された所定温度までの好適な発熱)をすることができる。このため、ソフトフェライト粒子を含むことにより、例えば、調理時間の短縮や、食品の焼き色の調整等を好適に行うことができる。
【0202】
また、食品の製造、加工、包装現場では、比較的古くから金属探知機が導入されているため、これらの現場には、様々な種類の金属探知機が存在している。本発明の成形体は、種々の金属探知機で好適に安定的に検出されるため、既存の設備を有効的に利用することができ、本発明の成形体が、様々な種類の金属探知機が存在している食品の製造、加工、包装現場で用いられる場合に、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0203】
なお、本明細書において、食品の形態には、固形状、半固形状(ゼリー、プリン等のゲル状等)に加え、液状が含まれ、食品は、飲み物等も含む概念である。また、食品添加物やサプリメント(健康補助食品)も食品の概念に含まれる。また、動物由来の食肉、魚介類、植物由来の野菜、果実、種子、穀物、豆類、海藻のような天然物やこれらの加工物に加え、人工甘味料、人工調味料等のような人工的な合成品も食品の概念に含む。
【0204】
食品の製造、加工現場で用いられる成形体としては、例えば、調理機器類、調理器具類、調理用具類、食器類、衣服類(人体に装着して用いる物品)、食品の包装に用いる包装部材、および、これらに付随して用いられる物品、ならびに、これらのメンテナンス、修理等に用いる物品等が挙げられる。
【0205】
より具体的には、例えば、ホットプレート、コンロ、ガスバーナー、オーブン、トースター、電子レンジ、食器洗浄機、食器乾燥機、秤(スケール)、キッチンタイマー、温度計、浄水器、浄水フィルター(カートリッジ)等の調理機器類;鍋、フライパン、やかんや、これらの蓋、包丁、はさみ、おたま(レードル)、ヘラ、ピーラー、スライサー、ミキサー、チョッパー、マッシャー、麺棒、マドラー、泡立て器、ざる、ボウル、水切り器、まな板、マット、しゃもじ、成形型、型抜き、灰汁取り、おろし金(フードグレーダー)、フライ返し(ターナー)、ピック、水切り器、篩、ミル、落し蓋、製氷皿、焼き網、トング、卵切器、計量カップ、計量スプーン等の調理器具類;布巾、キッチンペーパー、手ぬぐい、タオル、紙タオル、水切りシート、ラップフィルム、オーブンペーパー、絞り出し袋、五徳、鍋敷き等の調理用具類;皿、コップ、椀、箸(菜箸を含む)、スプーン、フォーク、ナイフ、蟹甲殻類大腿部歩脚身取出器具(カニスプーン、カニフォーク)等の食器類;エプロン、白衣、マスク、手袋、靴、靴下、下着、帽子、眼鏡等の衣服類(人体に装着して用いる物品);食品用ラミネートフィルム等の食品用包装フィルム、包装用チューブ、食品用収納ボトル、プラスチック性密閉容器等の食品包装部材;その他、干物干し網、ホース、まな板立て、食器立て、スポンジ、たわし、洗剤容器、砥石、シャープナーや、これらの構成部材等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0206】
特に、本発明の成形体は、調理器具類、調理用具類、食品包装部材の一部もしくは全部に使用されるのが好ましい。
【0207】
これにより、このような成形体は、各種成形体の中でも、特に、その少なくとも一部が、食品の製造、加工、包装現場等で、食品に混入するおそれが高い。したがって、本発明が上記のような成形体に適用されることにより、本発明の効果がより顕著に発揮される。
【0208】
また、医療現場で適用した場合、例えば、手術時等における、体内への医療器具、医療用具の置き忘れ等が発生した場合に、容易に検出することができ、重大な医療過誤事件への発展をより効果的に防止することができる。
【0209】
成形体の製造方法としては、各種成形方法を用いることができ、例えば、射出成形法(インサート成形法、多色成形法、サンドイッチ成形法、インジェクション成形法等)、押出成形法、インフレーション成形法、Tダイフィルム成形法、ラミネート成形法、ブロー成形法、中空成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法等の成形法、光造形法、三次元積層造形法等が挙げられる。
【0210】
また、樹脂組成物が硬化性樹脂を含む場合、当該硬化性樹脂の硬化反応を行う。硬化反応は、硬化性樹脂の種類等により異なるが、加熱や紫外線等のエネルギー線の照射等により行うことができる。
また、成形体の製造時には、複数種の樹脂組成物を組み合わせて用いてもよい。
【0211】
また、成形体が、フェライト粉を含まない組成物を用いて形成された基部と、当該基部上に設けられ、フェライト粉を含む組成物を用いて形成された表面層とを有する場合、上記のような方法や鋳造、鍛造、粉末射出成型法(PIM(Powder Injection Molding))等の方法により製造された基部上に、ディッピング、刷毛塗り等の塗装法、インクジェット法等の各種印刷法等を用いて表面層を形成して製造してもよい。
【0212】
また、成形体の成形時に着磁してもよい。これにより、成形体の金属探知機による検出のされやすさ、検出の安定性をより向上させることができる。
【0213】
また、成形体は、上記のような成形方法により得られた成形体に対し、例えば、研削、研磨等の後処理を施すことにより製造してもよい。
【0214】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されない。
【0215】
例えば、前述した実施形態では、樹脂組成物において、フェライト粉(ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子)が樹脂材料中に分散して存在している場合について中心的に説明したが、樹脂組成物において、例えば、フェライト粉(ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子)は、液体中に沈降しており、必要に応じて撹拌等により分散させて、使用してもよい。また、例えば、本発明の樹脂組成物は、揮発性の液体中に、フェライト粉(ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子)と、樹脂粒子とが分散した分散体であってもよい。また、本発明の樹脂組成物は、例えば、フェライト粉(ハードフェライト粒子およびソフトフェライト粒子)と樹脂粉末とが単に混合された構成であってもよい。
【実施例】
【0216】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0217】
《1》フェライト粉の製造
各実施例および各比較例のフェライト粉の製造に先立ち、以下のようにしてハードフェライト粒子の集合体、ソフトフェライト粒子の集合体を製造した。
【0218】
<ハードフェライト粒子の集合体の製造>
(実験例H1)
まず、FeとSrCOとを用意し、これらを、モル比で、5.6:1.0の割合で、ヘンシェルミキサーに投入し、10分間乾式混合、造粒した。
【0219】
固定式電気炉を用いて、得られた造粒物を、大気中、1075℃で4時間(ピーク)焼成した。
【0220】
さらに、上記焼成で得られた焼成物を、ビーズミルを用いて固形分:60質量%で30分間という条件で湿式粉砕し、洗浄、脱水、乾燥後、大気中、850℃で1時間(ピーク)熱処理し、ハードフェライト粒子の集合体を得た。
【0221】
このようにして得られたハードフェライト粒子中におけるSrの含有率は、8.78質量%、Feの含有率は、62.3質量%であった。
【0222】
粒子中における金属元素の含有量は、以下のようにして求めた。すなわち、対象となる粒子:0.2gを秤量し、純水:60mlに1Nの塩酸:20mlおよび1Nの硝酸:20mlを加えた混合物を加熱し、粒子を完全溶解させた水溶液を準備し、ICP分析装置(島津製作所製、ICPS−1000IV)を用いた測定を行うことにより、各金属元素の含有量を求めた。なお、後に述べる各実験例についても同様にして求めた。
また、ハードフェライト粒子の体積平均粒径は、1.8μmであった。
【0223】
体積平均粒径は、以下のような測定により求めた。すなわち、まず、試料としての粒子:10gと水:80mlとを100mlのビーカーに入れ、分散剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を2滴添加した。次いで、超音波ホモジナイザー(SMT.Co.LTD.製UH−150型)を用い分散を行った。このとき、超音波ホモジナイザーの出力レベルを4に設定し、20秒間分散を行った。その後、ビーカー表面にできた泡を取り除き、マイクロトラック粒度分析計(例えば、日機装株式会社製、Model9320−X100等)に導入し、測定を行った。なお、後に述べる各実験例についても同様にして求めた。
【0224】
また、ハードフェライト粒子について、振動試料型磁気測定装置を用いて測定を行ったところ、飽和磁化:55.8A・m/kg、残留磁化:33.4A・m/kg、保磁力:285kA/mであった。
【0225】
上記の磁気特性は以下のようにして求めた。すなわち、まず、内径5mm、高さ2mmのセルに測定対象の粒子の集合体を詰めて振動試料型磁気測定装置(東英工業社製 VSM−C7−10A)にセットした。次に、印加磁場を加え、10・1000/4π・A/mまで掃引し、次いで、印加磁場を減少させ、ヒステリシスカーブを作製した。その後、このカーブのデータより飽和磁化、残留磁化および保磁力を求めた。なお、後に述べる各実験例、各実施例および各比較例についても同様にして求めた。
【0226】
(実験例H2、H3)
造粒物の製造に用いる材料の比率を表1に示すようにした以外は、前記実験例H1と同様にしてハードフェライト粒子の集合体を製造した。
【0227】
(実験例H4)
まず、FeとSrCOとを用意し、これらを、モル比で、5.75:1.0の割合で混合した。次いで、この混合物を乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)で4.5時間粉砕し、得られた粉砕物をローラーコンパクターにて、約1mm角のペレットにした。このペレットを目開き3mmの振動篩にて粗粉を除去し、次いで目開き0.5mmの振動篩にて微粉を除去した後、ロータリー式電気炉で、1080℃で3時間加熱し、仮焼成を行い、仮焼結体を得た。
【0228】
次に、乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて体積平均粒径が約4μmとなるまで粉砕し、その後、水を加え、さらに湿式のメディアミル(縦型ビーズミル、1/16インチ径のステンレスビーズ)を用いて10時間粉砕し、そこに、バインダーとしてのポリビニルアルコール(PVA)の水溶液(20質量%溶液)を添加しスラリーを得た。スラリー中の固形分は55.0質量%、バインダーの含有率は1.0質量%であった。
次に、得られたスラリーを、スプレードライヤーで噴霧乾燥し、造粒物を得た。
【0229】
その後、得られた造粒物の粒度調整を行い、さらに、ロータリー式電気炉で、650℃で2時間加熱し、バインダーの除去を行った。
【0230】
その後、固定式電気炉を用いて、得られた造粒物を、大気中、1185℃で4時間(ピーク)焼成し、さらに解砕・分級を行い、ハードフェライト粒子の集合体を得た。
【0231】
このようにして得られたハードフェライト粒子中におけるSrの含有率は、8.52質量%、Feの含有率は、62.7質量%であった。
また、ハードフェライト粒子の体積平均粒径は、15.0μmであった。
【0232】
また、ハードフェライト粒子について、振動試料型磁気測定装置(東英工業社製 VSM−C7−10A)を用いて測定を行ったところ、飽和磁化:55.3A・m/kg、残留磁化:32.4A・m/kg、保磁力:161kA/mであった。
【0233】
(実験例H5)
仮焼結体に対する粉砕処理の条件、スプレードライヤーによる噴霧乾燥の条件、造粒物に対する粒度調整の条件を変更した以外は、前記実験例H4と同様にしてハードフェライト粒子の集合体を製造した。
【0234】
このようにして得られたハードフェライト粒子の体積平均粒径は、39.0μmであった。
【0235】
前述した実験例H1〜H5について、ハードフェライト粒子の集合体の製造条件を表1にまとめて示し、ハードフェライト粒子の集合体の特性等を表2にまとめて示す。
【0236】
【表1】
【0237】
【表2】
【0238】
<ソフトフェライト粒子の集合体の製造>
(実験例S1)
まず、FeとMnとを用意し、これらを、モル比で、8.0:0.67の割合で、ヘンシェルミキサーに投入し、10分間乾式混合を行った後、混合物をローラーコンパクターでペレット化した。その後、焼成温度(仮焼温度):1000℃、大気雰囲気のロータリーキルンにて仮焼成を行った。
【0239】
次に、乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて体積平均粒径が約4μmとなるまで粉砕し、その後、水を加え、さらに湿式のメディアミル(縦型ビーズミル、1/16インチ径のステンレスビーズ)を用いて10時間粉砕し、そこに、バインダーとしてのポリビニルアルコール(PVA)の水溶液を添加しスラリーを得た。スラリー中の固形分は55.0質量%、バインダーの含有率は1.0質量%であった。
次に、得られたスラリーを、スプレードライヤーで噴霧乾燥し、造粒物を得た。
【0240】
その後、得られた造粒物の粒度調整を行い、さらに、ロータリー式電気炉で、650℃で2時間加熱し、バインダーの除去を行った。
【0241】
その後、固定式電気炉を用いて、得られた造粒物を、窒素雰囲気中、1280℃で4時間(ピーク)焼成(本焼成)し、さらに解砕・分級を行い、ソフトフェライト粒子の集合体を得た。
【0242】
このようにして得られたソフトフェライト粒子中におけるMnの含有率は、7.88質量%、Feの含有率は、64.13質量%であった。
【0243】
また、ソフトフェライト粒子の体積平均粒径は、45μmであった。
また、ソフトフェライト粒子について、振動試料型磁気測定装置を用いて測定を行ったところ、飽和磁化:92A・m/kg、残留磁化:6.2A・m/kg、保磁力:1225A/mであった。
【0244】
また、ソフトフェライト粒子について、キュリー温度の測定を行ったところ、450℃であった。ソフトフェライト粒子のキュリー温度は、JIS C 2560−1に基づいた測定により求めた。
なお、後に述べる各実験例についても同様にして求めた。
【0245】
(実験例S2)
仮焼結体に対する粉砕処理の条件、スプレードライヤーによる噴霧乾燥の条件、造粒物に対する粒度調整の条件を調整した以外は、前記実験例S1と同様にしてソフトフェライト粒子の集合体を製造した。
【0246】
(実験例S3)
まず、FeとMnとカーボンブラック(C)とを用意し、これらを、モル比で、8.0:0.67:1.1の割合で、ヘンシェルミキサーに投入し、10分間乾式混合、造粒した。
【0247】
固定式電気炉を用いて、得られた造粒物を、窒素雰囲気中、1000℃で4時間(ピーク)焼成した。
【0248】
さらに、上記焼成で得られた焼成物を、ビーズミルを用いて固形分:60質量%で30分間という条件で湿式粉砕し、洗浄、脱水、乾燥し、ソフトフェライト粒子の集合体を得た。
【0249】
(実験例S4、S5)
原料として用いるFeとMnとの比率を表3に示すようにした以外は、前記実験例S2と同様にしてソフトフェライト粒子の集合体を製造した。
【0250】
前述した実験例S1〜S5について、ソフトフェライト粒子の集合体の製造条件を表3にまとめて示し、ソフトフェライト粒子の集合体の特性等を表4にまとめて示す。
【0251】
【表3】
【0252】
【表4】
【0253】
<フェライト粉の製造>
(実施例A1)
前記実験例H1で製造されたハードフェライト粒子の集合体と、前記実験例S3で製造されたソフトフェライト粒子の集合体とを所定の比率で混合することにより、ハードフェライト粒子とソフトフェライト粒子とを含むフェライト粉を得た。
【0254】
ハードフェライト粒子の集合体とソフトフェライト粒子の集合体との混合は、ヘンシェルミキサーを用いて行った。
【0255】
(実施例A2〜A8)
ハードフェライト粒子の集合体、ソフトフェライト粒子の集合体の組み合わせ、および、これらの混合比率を表5に示すようにした以外は、前記実施例A1と同様にしてフェライト粉を製造した。
【0256】
(比較例A1)
前記実験例H2で製造されたハードフェライト粒子の集合体を、他の粒子と混合することなく、そのままフェライト粉として用いた。すなわち、本比較例のフェライト粉は、複数個のハードフェライト粒子のみからなる。
【0257】
(比較例A2)
前記実験例S2で製造されたソフトフェライト粒子の集合体を、他の粒子と混合することなく、そのままフェライト粉として用いた。すなわち、本比較例のフェライト粉は、複数個のソフトフェライト粒子のみからなる。
【0258】
前述した各実施例および比較例のフェライト粉の構成、磁気特性等を表5にまとめて示す。
【0259】
【表5】
【0260】
《2》樹脂組成物の製造
前述したようにして調製した各フェライト粉を用いて、以下のようにして、樹脂組成物を製造した。
【0261】
(実施例B1)
ニーダー、ペレタイザーを用いて、前記実施例A1で製造したフェライト粉と、樹脂材料としてのポリプロピレンとを、質量比で、7.5:92.5で混合・混練、造粒した。
これにより、体積平均粒径が3mmのペレットとしての樹脂組成物を得た。
【0262】
(実施例B2、B3)
フェライト粉とポリプロピレンとの配合比率を表6に示すように変更した以外は、前記実施例B1と同様にしてペレットとしての樹脂組成物を得た。
【0263】
(実施例B4)
ニーダー、ペレタイザーを用いて、前記実施例A1で製造したフェライト粉と、樹脂材料としてのポリプロピレンと、白色顔料としてのシリカ(日本エアロジル社製、AEROSIL200)とを、質量比で、7.5:87.5:5.0で混合・混練、造粒した。
これにより、体積平均粒径が3mmのペレットとしての樹脂組成物を得た。
【0264】
(実施例B5、B6)
フェライト粉の種類を表6に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にしてペレットとしての樹脂組成物を得た。
【0265】
(実施例B7〜B9)
フェライト粉の種類および樹脂材料の種類を表6に示すようにした以外は、前記実施例B1と同様にしてペレットとしての樹脂組成物を得た。
【0266】
(実施例B10)
ボールミルを用いて、前記実施例A7で製造したフェライト粉と、樹脂材料としてのナイロン粉とを、質量比で、7.5:92.5で混合した。
【0267】
これにより、フェライト粉と樹脂粉末(ナイロン粉)との混合粉末としての樹脂組成物を得た。
【0268】
(実施例B11)
ボールミルを用いて、前記実施例A8で製造したフェライト粉と、樹脂材料としてのフッ素樹脂粉とを、質量比で、7.5:92.5で混合した。
【0269】
これにより、フェライト粉と樹脂粉末(フッ素樹脂粉)との混合粉末としての樹脂組成物を得た。
【0270】
(比較例B1)
フェライト粉の種類を前記比較例A1で製造したフェライト粉に変更した以外は、前記実施例B1と同様にしてペレットとしての樹脂組成物を得た。
【0271】
(比較例B2)
フェライト粉の種類を前記比較例A2で製造したフェライト粉に変更した以外は、前記実施例B1と同様にしてペレットとしての樹脂組成物を得た。
前述した各実施例および各比較例の樹脂組成物の条件を表6にまとめて示す。
【0272】
【表6】
【0273】
《3》成形体の製造
(実施例C1)
ニーダー、Tダイを用いて、前記実施例B1で製造した樹脂組成物(ペレット)を溶融、成形し、厚さ:100μmのシート状の成形体を得た。
【0274】
(実施例C2〜C9)
樹脂組成物として、前記実施例B1で製造したペレットの代わりに、それぞれ、前記実施例B2〜B9で製造したペレットを用いた以外は、前記実施例C1と同様にしてシート状の成形体を製造した。
【0275】
(実施例C10)
樹脂組成物として、前記実施例B10で製造した混合粉末を、金型に投入し加圧成形した後、180℃、4時間加熱し樹脂を溶融・硬化させ、その後冷却することにより、直径:13mm、厚さ:2.0mmの円盤状の成形体を製造した。
【0276】
(実施例C11)
樹脂組成物として、前記実施例B11で製造した混合粉末を用いた以外は、前記実施例C10と同様にして円盤状の成形体を製造した。
【0277】
(実施例C12)
固形分10質量%のPVA水溶液に実施例A1で製造したフェライト粉およびSiOを分散し、アプリケーターを用いて、塗工・乾燥し、厚さ:100μmのシート状の成形体を得た。この時、PVAの固形分、フェライト粉、および、SiOの質量比が、それぞれ、75.0質量%、20.0質量%、5.0質量%となるようにした。
【0278】
(実施例C13)
前記実施例A1で製造したフェライト粉と、液状のエポキシ樹脂と、重合開始剤と、硬化剤としての三フッ化ホウ素モノエチルアミンコンプレックスと、白色顔料としてのシリカ(日本エアロジル社製、AEROSIL200)とを混合し、この混合物をシリコーン樹脂製の成形型に流し込んだ。その後、120℃に加熱し、エポキシ樹脂を硬化させ、直径:13mm、厚さ:2.0mmの円盤状の成形体を製造した。
【0279】
得られた成形体中におけるフェライト粉の含有率は20.0質量%、樹脂材料の含有率は75.0質量%、着色剤の含有率は5.0質量%であった。
【0280】
(実施例C14)
前記実施例A1で製造したフェライト粉と、オレフィン系熱可塑性エラストマーと、白色顔料としての二酸化チタン粒子とを混合し、この混合物をシリコーン樹脂製の成形型に流し込んだ。その後、120℃で加熱し、その後冷却することにより、直径:13mm、厚さ:2.0mmの円盤状の成形体を製造した。
【0281】
得られた成形体中におけるフェライト粉の含有率は20.0質量%、樹脂材料の含有率は75.0質量%、着色剤の含有率は5.0質量%であった。
【0282】
(実施例C15〜C18)
樹脂材料の種類を表8に示すように変更した以外は、前記実施例C14と同様にして円盤状の成形体を製造した。
【0283】
なお、実施例C15およびC16は成形型に流し込んだ後、120℃で溶融・加熱させ、直径:13mm、厚さ:2.0mmの円盤状の成形体を製造した。
【0284】
また、実施例C17およびC18で使用した樹脂は有機溶媒で樹脂固形分が20質量%に希釈されたものを使用し、樹脂固形分換算で表8に記載した樹脂含有率になるように添加し、成形型に流し込んだ後、65℃で加熱し有機溶媒を除去した後、150℃で樹脂を硬化させた。
【0285】
(実施例C19)
前記比較例B1で製造した樹脂組成物(ペレット)および前記比較例B2で製造した樹脂組成物(ペレット)を重量比で1:1の割合で混合した後に、当該混合物を、ニーダー、Tダイを用いて溶融、成形し、厚さ:100μmのシート状の成形体を得た。
【0286】
(比較例C1、C2)
樹脂組成物として、前記実施例B1で製造したペレットの代わりに、それぞれ、前記比較例B1、B2で製造したペレットを用いた以外は、前記実施例C1と同様にしてシート状の成形体を製造した。
前述した各実施例および各比較例の成形体の条件等を表7、表8にまとめて示す。
【0287】
【表7】
【0288】
【表8】
【0289】
《4》成形体についての評価
《4−1》金属探知機による検出
前述した各実施例および各比較例で製造した成形体について、2種の金属探知機を用いて、それぞれで、成形体を検出することができる感度(レベルメーター、鉄球感度)を求めた。すなわち、第1の金属探知機として、ベルトコンベア式の金属探知機(ニッカ電測社製、微小金属検出機NT2−K4B)を用い、当該金属探知機を通過させ、成形体を検出することができる感度(レベルメーター、鉄球感度)を求めるとともに、第2の金属探知機として、ベルトコンベア式の金属探知機(システムスクエア社製、META−HAWKII)を用い、当該金属探知機を通過させ、成形体を検出することができる感度(レベルメーター、鉄球感度)を求め、以下の基準に従い評価した。
【0290】
(第1の金属探知機)
○:ステンレスファイバー1質量%含有相当以上の感度である。
×:ステンレスファイバー1質量%含有相当未満の感度である。
【0291】
(第2の金属探知機)
○:鉄球感度直径0.6mm以上。
×:鉄球感度直径0.6mm未満。
【0292】
なお、成形体をシート状に成形した実施例C1〜C9、C12、C19、比較例C1、C2については、80mm×60mmサイズに切断し、切片について評価を行った。実施例C10、C11、C13〜C18については得られた成形体をそのまま評価に使用した。
これらの結果を表9に示す。
【0293】
【表9】
【0294】
表9から明らかなように、本発明では、種々の金属探知機で安定的に検出することができる成形体を得ることができた。また、本発明では、成形体の表面性状の制御を好適に行うことができ、粉末を含むことによる不本意な凹凸の発生も効果的に防止されていた。また、本発明では、着色剤により、成形体を、様々な色に調整することが可能であった。これに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0295】
本発明のフェライト粉は、金属探知機で検出可能なフェライト粉であって、ハードフェライト粒子と、ソフトフェライト粒子とを含む。そのため、種々の金属探知機で安定的に検出することができる成形体の製造に好適に用いることのできるフェライト粉を提供することができる。従って、本発明のフェライト粉は、産業上の利用可能性を有する。