(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒を含む電極(触媒層及びガス拡散層)が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。MEAの両面には、さらに、ガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEAと集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
固体高分子形燃料電池の電極触媒には、Pt触媒、Pt合金触媒、カーボンアロイ触媒、酸化物触媒などが用いられている。これらの内、Pt合金触媒は、純Pt触媒よりも高い効率点性能(低電流密度・高電圧作動条件)が得られることが広く知られている。
例えば、非特許文献1には、3d金属(Ti、V、Fe、Co、Ni)を含むPt合金の酸素還元反応(ORR)が開示されている。
同文献には、
(a)3d金属を含むPt合金は、Ptよりも良好な触媒である点、及び、
(b)Pt
3M(M=Fe、Co、Ni)は、純Ptに比べて活性が大きく改善される点
が記載されている。
【0004】
しかしながら、燃料電池自動車のような電位変動回数の多い環境では、Ptですら溶解する。このような環境下でPt合金触媒を使用すると、比較的小さなPt合金粒子からのPtの溶解と比較的大きなPt合金粒子へのPtの再析出によって反応面積が減少(平均粒径が増大)すると共に、合金表面に存在する卑金属は、Ptよりも容易に溶出する。さらに、合金組成が純Ptに近づいていくために、触媒の面積当たりの活性(面積活性)も低下する。その結果、その表面積と面積活性との積である効率点性能が低下する。
【0005】
他方、反応面積が低下すると、発電集中が生じて酸素輸送抵抗が増加するため、出力点性能(高電流密度・低電圧作動条件)も低下する。さらに、溶出した卑金属は、カチオンコンタミとして電解質のプロトン移動抵抗をも増加させるため、さらに出力性能が低下する。このカチオンコンタミの影響は、特に自動車用途に求められる高温・低加湿作動時に顕著である。
【0006】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
(a)Pt/C(Ptの平均粒径:約2.5nm、担持量約47質量%)からなる電極触媒と、アイオノマとを含む触媒層インクAを調製し、
(b)Pt/C(Ptの平均粒子径:約3.2nm、担持量約47質量%)からなる電極触媒:0.8重量部と、PtCo合金/C(PtCo合金の平均粒子径:約4nm、担持量約50質量%、Pt:Co質量比3:1(47.5at%Pt))からなる電極触媒:0.2重量部と、アイオノマとを含む触媒層インクB’を調製し、
(c)Pt/C(Ptの平均粒子径:約4.5nm、担持量約47質量%)からなる電極触媒:0.1重量部と、PtCo合金/C(PtCo合金の平均粒子径:約5.2nm、担持量約50質量%、Pt:Co質量比3:1(47.5at%Pt))からなる電極触媒:0.9重量部と、アイオノマとを含む触媒層インクC’を調製し、
(d)電解質膜の表面であって、ガス供給路の入口側に触媒層インクB’、ガス供給路の出口側に触媒層インクC’をそれぞれ塗布して触媒層(1)を形成し、
(e)触媒層(1)の表面であって、ガス供給路の入口側に触媒層インクA、ガス供給路の出口側に触媒層インクB’をそれぞれ塗布して触媒層(2)を形成する
ことにより得られる固体高分子形燃料電池が開示されている。
【0007】
同文献には、
(a)触媒層においては、ガス供給路の入口側から出口側に向かって滞留する水分量が多くなり、水分量の多いガス供給路の出口側で触媒粒子の溶解が起きやすい点、
(b)ガス供給路の出口側の触媒粒子の粒子径を大きくすると、触媒粒子の溶解を抑制することができる点、
(c)白金粒子は触媒活性が高いのに対して、白金合金粒子は耐溶解性に優れているので、触媒粒子の溶解が生じがたい部位に白金粒子を配置し、触媒粒子の溶解が生じやすい部位に白金合金粒子を配置すると、高い触媒活性を維持できる点、及び
(d)Pt粒子の粒径が異なるPt/Cのみを用いて作製した燃料電池(実施例1)の耐久性(1000サイクル後のセル電圧の変化)は0.023V@1A/cm
2であるのに対し、触媒粒子の粒径が異なるPt/C及びPtCo合金/Cを用いて作製した燃料電池(実施例2)の耐久性は0.044V@1A/cm
2である点(すなわち、PtCo合金/Cを用いた燃料電池の方が耐久性に劣る点)、
が記載されている。
【0008】
粒径の大きな触媒粒子は、比表面積が小さいので、溶出速度をある程度遅くすることができる。しかし、電極触媒全体の反応面積が低下するので、効率点性能が低下する。また、粒径の大きな触媒粒子を用いた場合であっても、燃料電池の作動環境下では、触媒粒子の溶解が進行する。
この問題を解決するために、特許文献1に記載されているように、ガス供給路の入口側にPt/C粒子を多量に配置し、ガス供給路の出口側にPtCo合金/C粒子を多量に配置することも考えられる。しかしながら、この方法により得られた燃料電池は、Pt粒子の粒径が異なるPt/Cのみを用いて作製された燃料電池よりも耐久性が劣っており、触媒粒子の溶出を抑制する効果は低い。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 空気極用電極触媒]
本発明に係る空気極用電極触媒(以下、単に「電極触媒」ともいう)は、以下の構成を備えている。
(1)前記空気極用電極触媒は、
Pt合金からなる第1触媒粒子と、
前記第1触媒粒子よりも平均粒径が小さい純Ptからなる第2触媒粒子と
を備えている。
(2)前記Pt合金は、Pt
xM(1≦x≦4、Mは卑金属元素)で表される原子組成比を持つ。
【0016】
[1.1. 第1触媒粒子]
[1.1.1. 組成]
第1触媒粒子は、Pt合金からなる。本発明において、Pt合金の組成は特に限定されるものではなく、Ptを含むあらゆる合金に対して本発明を適用することができる。粒径の大きなPt合金粒子と粒径の小さな純Pt粒子とを共存させ、かつ、Pt合金粒子と純Pt粒子を近接して配置し、これらを電位変動が生じる環境下に曝すと、純Pt粒子が優先的に溶解し、Pt合金粒子表面にPtが再析出する。このようなPtの溶解及び再析出は、Pt合金の組成や結晶構造によらず起こる。
【0017】
Pt合金は、次の式(1)で表される原子組成比を持つ。
Pt
xM ・・・(1)
但し、Mは卑金属元素、1≦x≦4。
【0018】
式(1)中、Mは、卑金属元素を表す。「卑金属元素」とは、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、及びOs以外の金属元素をいう。
元素Mとしては、例えば、
(a)Al、Ga、Pb、Sn、Sb、Inなどの典型金属元素、
(b)Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znなどの3d遷移金属元素、
(c)Y、Zr、Nb、Moなどの4d遷移金属元素、
(d)W、Taなどの4f遷移金属元素、
などがある。
【0019】
これらの中でも、元素Mは、Co、Ni、Fe、W、Pb、Cr、Mn、V、Mo、Ga、Y、及びAlからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素が好ましい。
これらは、Ptの電子状態をわずかに貴にする効果があると考えられている群であり、これらを含むことによって酸素還元反応の中間体の脱離がしやすくなる。
【0020】
式(1)中、xは、元素Mに対するPtの比率を表す。元素Mは、通常、単独では酸素還元反応(ORR)活性を示さない。一方、元素Mを含むPt合金は、ORR活性を示す。一般に、ORRは、触媒粒子表面において起こるので、表面に露出しているPt原子の量が少なくなるほど、ORR活性が低下する。また、xが小さ過ぎると、元素Mの溶出を抑制することができない。さらに、xが過度に小さくなると、pH〜1程度の燃料電池環境下で数日間、安定に存在できる微粒子合金の作製が困難となる場合がある。従って、xは、1以上(すなわち、50at%Pt以上)が好ましい。
【0021】
Pt合金のORR活性は、あるxの値で極大となり、それ以降は減少に転じる。ORR活性が極大値となるときのxは、元素Mの種類により異なるが、通常、1.0±α(50at%Pt±15at%)の範囲内にある。そのため、xが大きくなるに従い、Pt合金のORR活性は、やがて純Ptのそれに近づく。相対的に大きなORR活性を得るためには、xは、4以下(すなわち、80at%Pt以下)が好ましい。
【0022】
[1.1.2. 平均粒径d
m1]
第1触媒粒子の平均粒径d
m1は、電極触媒のORR活性に影響を与える。一般に、d
m1が小さくなるほど、第1触媒粒子は、溶解しやすくなる。第1触媒粒子の溶解が進行するすると、第1触媒粒子の反応面積(粒径)が減少する。また、第1触媒粒子から元素Mが溶出し、出力点性能が低下する。従って、d
m1は、4nm以上が好ましい。
【0023】
一方、d
m1が大きくなるほど、比表面積が減少する。本発明では、第1触媒粒子中に含まれるPt比を適度に下げることで高い面積活性を得ているため、比表面積の減少に起因する効率点性能の低下をある程度相殺することができる。しかしながら、d
m1が大きくなりすぎると、比表面積の減少を面積活性の増大で補うことができなくなり、効率点性能が低下する。従って、d
m1は、6nm以下が好ましい。
【0024】
[1.1.3. 平均粒径の標準偏差σ
1]
第1触媒粒子の平均粒径の標準偏差σ
1は、電極触媒のORR活性に影響を与える。第1触媒粒子の粒度分布が正規分布であると仮定し、第1触媒粒子の平均粒径の標準偏差をσ
1とすると、ある粒子の粒径がd
m1±σ
1となる確率は、68.27%となる。
(d
m1−σ
1)未満の粒径を持つ微細な第1触媒粒子は、元素Mが溶出しやすいため、電極触媒全体の出力点性能を低下させる原因となる。一方、(d
m1+σ
1)を超える粒径を持つ粗大な第1触媒粒子は、比表面積が小さいため、電極触媒全体の効率点性能を低下させる原因となる。そのため、σ
1は、小さいほど良い。出力点性能と効率点性能を高い次元で両立させるためには、σ
1は、2nm以下が好ましい。σ
1は、好ましくは、1.5nm以下、さらに好ましくは、1.0nm以下である。
【0025】
[1.2. 第2触媒粒子]
[1.2.1. 組成]
第2触媒粒子は、純Ptからなる。「純Pt」とは、99.9at%以上のPtを含み、残部が不可避的不純物からなるものをいう。不可避的不純物は、燃料電池の作動環境下で溶出し、出力点性能を低下させる原因となるので、少ないほど良い。
【0026】
[1.2.2. 平均粒径d
m2]
第2触媒粒子の平均粒径d
m2は、電極触媒のORR活性に影響を与える。第2触媒粒子は、電極触媒全体の反応面積を増加させて、初期の第1触媒粒子の効率点性能及び出力点性能を補完する役割を果たす。また、電位変動を伴う環境下では、粒径の小さな純Pt粒子が優先的に溶解し、Pt合金粒子の表面にPtが再析出することによって、Pt合金粒子からの元素Mの溶出を抑制する。そのためには、d
m2は、少なくともd
m1未満である必要がある。
【0027】
一般に、d
m2が小さくなるほど、Ptの溶解・再析出が起きやすくなる。しかし、d
m2が小さくなりすぎると、Ptの面積活性が顕著に低下することが知られており、その結果、効率点性能を向上させる効果に欠ける。従って、d
m2は、1nm以上が好ましい。d
m2は、好ましくは、1.5nm以上、さらに好ましくは、2.0nm以上である。
一方、d
m2が大きくなりすぎると、電極触媒全体の反応面積が低下し、かつ、Ptの溶解・再析出速度も低下する。その結果、初期性能を向上させ、あるいは、耐久性を向上させる効果が不十分となる。従って、d
m2は、4nm以下が好ましい。d
m2は、好ましくは、3.5nm以下、さらに好ましくは、3.0nm以下である。
【0028】
[1.2.3. 平均粒径の標準偏差σ
2]
第2触媒粒子の平均粒径の標準偏差σ
2は、電極触媒のORR活性に影響を与える。第1触媒粒子と同様に、第2触媒粒子の粒度分布が正規分布であると仮定し、第2触媒粒子の平均粒径の標準偏差をσ
2とすると、ある粒子の粒径がd
m2±σ
2となる確率は、68.27%となる。
(d
m2−σ
2)未満の粒径を持つ微細な第2触媒粒子は、Ptの面積活性が低く、効率点性能を向上させる効果に欠ける。一方、(d
m2+σ
2)を超える粒径を持つ粗大な第2触媒粒子は、比表面積が小さく、かつ、Ptの溶解・再析出速度も過度に小さくなる。そのため、σ
2は、小さいほど良い。出力点性能と効率点性能を高い次元で両立させるためには、σ
2は、2nm以下が好ましい。σ
1は、好ましくは、1.5nm以下、さらに好ましくは、1.0nm以下である。
【0029】
[1.3. 重量比]
第2触媒粒子の重量(W
2)に対する前記第1触媒粒子の重量(W
1)の比(=W
1/W
2)は、電極触媒のORR活性に影響を与える。電極触媒全体に含まれる第1触媒粒子の量が過度に少なくなると、合金の活性向上効果が十分に得られないために、効率点性能が低下する。従って、W
1/W
2比は、2/1以上が好ましい。W
1/W
2比は、好ましくは、2.5/1以上、さらに好ましくは、3/1以上である。
一方、第1触媒粒子の量が過度に多くなると、より多くの元素Mが溶出しやすくなる。従って、W
1/W
2比は、9/1以下が好ましい。W
1/W
2比は、好ましくは、8/1以下、さらに好ましくは、6/1以下である。
【0030】
[1.4. 担体]
第1触媒粒子及び第2触媒粒子は、Ptの溶解・再析出が生じる限りにおいて、そのままの状態で使用しても良く、あるいは、担体表面に担持された状態で使用しても良い。
担体としては、例えば、カーボンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、メソポーラスカーボン、電子伝導性セラミックス(TiO
x、Sb−SnO
2)などがある。
【0031】
[1.5. 第1触媒粒子と第2触媒粒子との間の距離]
Ptの溶解・再析出を生じさせるためには、第2触媒粒子は、第1触媒粒子の溶出を抑制することが可能な位置に近接して配置されているのが好ましい。Ptの溶解・再析出が効率良く進行するように、第1触媒粒子と第2触媒粒子とが近接して配置されている態様としては、例えば、
(a)微細な担体表面に第1触媒粒子が担持されたものと、微細な担体表面に第2触媒粒子が担持されたものとが均一に混合されている態様、
(b)第1触媒粒子と第2触媒粒子が、同一の担体表面に担持されている態様、
(c)第2触媒粒子が、第1触媒粒子の表面に担持されている態様、
などがある。
【0032】
[2. 空気極用電極触媒の製造方法]
本発明に係る空気極用電極触媒は、種々の方法により製造することができる。本発明に係る空気極用電極触媒は、例えば、
(a)特許文献1と同様に、2種類の触媒を混合する方法、
(b)純Pt粒子(又は、Pt合金粒子)が担持されている担体表面に、さらにPt合金粒子(又は、純Pt粒子)を担持させる方法、
(c)Pt合金粒子の表面に純Pt粒子を担持させる方法、
などにより製造することができる。
【0033】
[3. 作用]
電位変動回数の多い環境下において、効率点性能の低下と出力点性能の低下の双方を抑制するためには、(1)面積活性の低下の抑制、(2)反応面積の低下の抑制、及び(3)卑金属元素の溶出の抑制、の3つを同時に達成する必要がある。
効率点性能は、面積活性と反応面積の積で表されるため、面積活性又は反応面積の一方が低下しても、これらの積の低下が抑制されれば、効率点性能の低下を抑制することができる。一方、出力点性能の低下の抑制には、反応面積の低下と、卑金属元素の溶出の双方を抑制する必要がある。
【0034】
粒径が比較的大きく、かつ、Pt比の小さいPt合金触媒は、反応面積の低下(溶解・再析出による平均粒径の増大)の抑制に対して有効であり、結果として効率点性能の低下の抑制には有用と考えられる。しかし、Pt比が小さいため、卑金属元素の溶出の抑制を達成することは困難である。そのため、出力点性能の低下が大きいと考えられる。
一方、粒径が比較的小さく、かつ、Pt比の大きいPt合金触媒は、卑金属元素の溶出の抑制に対しては有効であるが、反応面積の低下の抑制に対しては有効ではない。そのため、効率点と出力点の双方の性能低下が大きいと考えられる。
【0035】
これに対し、第1触媒粒子としてPt合金触媒を用いる場合において、平均粒径を大きくすると総表面積は低下するが、Pt比を下げると面積活性は向上する。その結果、面積活性と反応面積の積である初期の効率点性能を担保することができる。また、Pt総量を一定として平均粒径の大きなPt合金触媒と平均粒径の小さな純Pt触媒とを共存させると、総表面積が増加する。すなわち、平均粒径の小さな純Pt触媒は、初期のPt合金触媒の効率点性能及び出力点性能を補完する役割を果たす。
【0036】
電位変動を伴う環境下において純Pt粒子とPt合金粒子とが共存している電極触媒を使用する場合において、Pt合金粒子に近接して純Pt粒子を配置すると、平均粒径の小さな純Pt粒子が優先的に溶出し、これが平均粒径の大きなPt合金粒子の表面に再析出する。その結果、純Pt粒子が共存しない場合に比べて、Pt合金粒子からの合金元素の溶出が抑制される。また、効率点性能の低下及び出力点性能の低下は、純Pt粒子の溶出に起因する程度は生じるものの、全体としては抑制される。さらに、Pt合金触媒の特徴である高い面積活性に起因して、効率点性能が高いレベルで維持される。これと同時に、Pt合金触媒の反応面積の減少、及び合金元素の溶出が抑制されるため、出力点性能も高いレベルで維持される。
【0037】
従来の触媒設計では、合金元素の溶出を抑制するためにPt合金触媒のPt比を上げて面積活性を少し改良すること、及び、比較的小さな平均粒径とすることで総表面積を増やすことが行われていた。そのため、従来のPt合金触媒は、初期性能は高いが耐久性が低い。これに対し、本発明に係る電極触媒は、従来と同等以上の初期の効率点性能及び出力点性能と、従来よりも高い耐久性とを併せ持つ。
【実施例】
【0038】
(参考例1、実施例2、比較例1〜2)
[1. 試料の作製]
[1.1. 電極触媒の作製]
[1.1.1. 比較例1]
旧知の知見として、平均粒径が4〜6nmになると、2〜3nmの触媒より電位変動に対する耐久性が顕著に改善されることがわかっている。また、Pt
xM合金において、卑金属M(M=Co、Ni、Feなど)に対するPtの比(x)が1未満(50at%Pt未満)になると、pH〜1程度の燃料電池環境下で数日間、安定に存在できる微粒子合金の作製が困難であるとの知見もある。
そこで、平均粒径6.0nmのPt
2Co(66.7at%Pt)をPt合金触媒の代表例(比較例1)として選定した。また、比較として、平均粒径3.1nmのPt
7Co(87.5at%Pt)(比較例2)も試験に供した。いずれも、カーボン担体に30wt%Pt量で担持したものを用いた。
【0039】
[1.1.2.
参考例1]
比較例1のカーボン担持Pt合金触媒(Pt合金/C触媒)に対して、平均粒径2.6nmのPt/CをPt重量換算で23wt%混合した
(参考例1)。
[1.1.3. 実施例2]
比較例1のPt合金/C触媒の担体表面に、Pt重量換算で23wt%相当のPt粒子を追加担持した(実施例2)。追加担持された純Ptの平均粒径は、TEM/EDX解析より、1.4nmであった。
【0040】
[1.2. MEAの作製]
上記の触媒に、旧知の方法に従い溶媒とアイオノマ溶液とを加え、十分に混合してインクを作製した。このインクをポリテトラフルオロエチレンシートに塗布することで空気極用の触媒層キャスト膜を得た。それぞれのPt目付量は、約0.2mg/cm
2であった。また、純Pt粒子のみを用いた以外は、上記と同様にして、燃料極用の触媒層キャスト膜を得た。フッ素系電解質膜の両面に、それぞれ、空気極用触媒層及び燃料極用触媒層を転写し、ホットプレスを行い、電極面積4cm
2のMEAを作製した。
【0041】
[2. 試験方法]
MEAを拡散層とともに燃料電池単セルに組み込み、電位サイクル試験を行った。耐久試験条件は、以下の通りである。
(a)セル温度:80℃
(b)空気極N
2流量:0.5L/min、フル加湿
(c)燃料極H
2流量:0.5L/min、フル加湿
(d)電位サイクル:0.85V(3s)−0.1V(3s)の電位サイクルを5万回
【0042】
[3. 結果]
図1に、各種触媒の反応面積維持率と活性維持率との関係を示す。高Pt比の触媒(比較例2)は、活性維持率が高いものの、反応面積維持率が低いことがわかる。これは、出力性能の低下が促進されていることを示している。他方、低Pt比の触媒(比較例1)は、反応面積維持率が高いものの、活性維持率が低いことがわかる。これは、Coの溶出が一因と考えられる。これらに対して、Pt合金粒子に近接して純Pt粒子を共存させた触媒
(参考例1、実施例2)では、反応面積維持率及び活性維持率の両方が改善されることが明らかとなった。
【0043】
(実施例3)
[1. 試験方法]
Co組成の異なるPt−Co合金粒子を作製し、Pt−Co合金の表面積当たりの活性(SA)を回転電極法で評価した。
【0044】
[2. 結果]
図2に、Pt−Co合金中のCo量に対するPt−Co合金の表面積当たりの0.9V vs RHEにおける活性(SA)依存性を示す。
図2中、実線は、実験値を2次関数でフィッティングしたものである。
図2より、以下のことがわかる。
(a)Co量が20at%以上(80at%Pt以下)になると、SAは純Ptの約1.7倍以上になる。
(b)Co量が50at%近傍のところで、SAは極大値を取る。
【0045】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。