特許第6814097号(P6814097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6814097
(24)【登録日】2020年12月22日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】農業用マルチフィルム
(51)【国際特許分類】
   A01G 13/00 20060101AFI20201228BHJP
【FI】
   A01G13/00 302Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-103021(P2017-103021)
(22)【出願日】2017年5月24日
(65)【公開番号】特開2018-196358(P2018-196358A)
(43)【公開日】2018年12月13日
【審査請求日】2019年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100458
【氏名又は名称】みかど化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 重輝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晶英
(72)【発明者】
【氏名】元吉 一浩
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 和代
【審査官】 大谷 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−155223(JP,A)
【文献】 特開2013−179881(JP,A)
【文献】 特開2000−141470(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/054182(WO,A1)
【文献】 特開2013−052511(JP,A)
【文献】 特開2006−328225(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0000022(US,A1)
【文献】 特開2011−042700(JP,A)
【文献】 特開2014−139325(JP,A)
【文献】 特表2015−535027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/14、13/00−13/02
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリエステル系樹脂に、でんぷんを10wt%〜40wt%、グリセリンを2wt%〜20wt%、カーボンブラックを2wt%〜20wt%配合した生分解性樹脂フィルムからなり、
前記生分解性樹脂フィルムの密度が0.75g/cm〜1.1g/cmであることを特徴とする農業用マルチフィルム。
【請求項2】
前記カーボンブラックは、前記生分解性ポリエステル系樹脂とカーボンブラックとからなるマスターバッチであることを特徴とする請求項1記載の農業用マルチフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用マルチフィルムに関し、より詳しくは、ポリエチレンと同等の密度と強度を持ち、畑に展張する作業性に優れ、作物栽培期間中マルチ効果を発揮し、収穫後分解する農業用マルチフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
農業用マルチフィルムは、昭和30年代日本でポリエチレン樹脂の生産が始まり、ポリエチレンフィルムを畑に展張して土壌の保温、保湿、肥料効果の向上機能(いわゆるマルチ効果)から作物生育の大幅な向上をもたらし、飛躍的に農地に普及していった。
【0003】
畑でポリエチレン製マルチフィルムが大量に使用されるようになると、ポリエチレンは化学的に安定な樹脂であり、自然環境中で分解せずに残ることが問題視されるようになった。
【0004】
平成に入り、国内外でいくつかの生分解性樹脂の生産が始まり、農業マルチ用フィルムにも応用されていった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−39381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生分解性樹脂は、ポリエチレンに比べ密度が高く、生分解性樹脂マルチフィルムは重くなり、現在の日本で高齢化している農業従事者が畑に展張するときに取り扱いが困難なものであった。
【0007】
さらに分解性の制御が難しく、畑の条件により栽培期間中に分解したり、または栽培が終わっても分解せず畑に残ってしまうこともあった。
【0008】
特許文献1は、ポリ乳酸からなる生分解性樹脂の分解性の制御のためにでんぷんの添加を試みているが、でんぷんは密度が高く、フィルムがさらに重くなり、また破れ易くなり、農業用マルチフィルムとして改善の余地があった。
【0009】
そこで本発明の課題は、ポリエチレンと同等の密度と強度を持ち、畑に展張する作業性に優れ、作物栽培期間中マルチ効果を発揮し、収穫後分解する農業用マルチフィルムを提供することにある。
【0010】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0012】
1.
生分解性ポリエステル系樹脂に、でんぷんを10wt%〜40wt%、グリセリンを2wt%〜20wt%、カーボンブラックを2wt%〜20wt%配合した生分解性樹脂フィルムからなり、
前記生分解性樹脂フィルムの密度が0.75g/cm〜1.1g/cmであることを特徴とする農業用マルチフィルム。
2.
前記カーボンブラックは、前記生分解性ポリエステル系樹脂とカーボンブラックとからなるマスターバッチであることを特徴とする前記記載の農業用マルチフィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリエチレンと同等の密度と強度を持ち、畑に展張する作業性に優れ、作物栽培期間中マルチ効果を発揮し、収穫後分解する農業用マルチフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態について詳しく説明する。
【0015】
農業用マルチフィルムは、作物栽培時に地面を覆い、作物の生育に好適な環境を作るために用いられる。
【0016】
本発明の農業用マルチフィルムは、密度が0.75g/cm〜1.1g/cmである生分解性樹脂フィルムからなる。
【0017】
従来、用いられていた生分解フィルムの密度は1.2を超えるが、本発明の農業用マルチフィルムは、密度が0.75g/cm〜1.1g/cmであり、ポリエチレンからなるマルチフィルムと同等である。
【0018】
かかる農業用マルチフィルムによれば、ポリエチレンと同等の密度と強度を持ち、畑に展張する作業性に優れ、作物栽培期間中マルチ効果を発揮し、収穫後分解する効果を発揮する。
【0019】
本発明の農業用マルチフィルムの密度が、ポリエチレンと同等であるとは、通常ポリエチレンからなるマルチフィルムの密度が、通常0.910〜0.935g/cm程度であるところ、本発明の農業用マルチフィルムの密度が、上記の通り0.75g/cm〜1.1g/cmであるので、同等であると言える。
【0020】
また、強度に関しては、展張のために用いられる機械に耐えられる程度の強度と伸びを有することで、ポリエチレンと同等であると評価することができる。これについて本発明では、後述する実施例において、農業用フィルムの展張作業中にフィルムが破れるか否かについての展張性として評価した。実施例において、本発明のフィルムは、展張作業中に破れないことが確認されており、ポリエチレンからなるマルチフィルムと同等であることが確認されている。
【0021】
好ましい態様において、生分解性樹脂フィルムは、生分解性ポリエステル系樹脂に、でんぷん、グリセリン及びカーボンブラックを配合した材料を、フィルム状に成形してなる。これにより、生分解性樹脂フィルムからなる農業用マルチフィルムに、ポリエチレンとほぼ同等の密度と強度を付与することができる。このような効果が得られる理由として、でんぷんの周りに空隙が生成して、密度が低下したことが推定される。そして、この密度の低下は、強度の低下を伴わないことが試験によって明らかになった。
【0022】
生分解性ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヒドロキシブチレート、ポリエステルカーボネート、ポリヒドロキシブチレート等の脂肪族ポリエステルや脂肪族芳香族ポリエステル共重合体を使用することができ、これにでんぷん及びグリセリン及びカーボンブラックを配合する。
【0023】
生分解性樹脂フィルム全体の重量に対して、でんぷんの配合量は10wt%〜40wt%であることが好ましく、グリセリンの配合量は2wt%〜20wt%であることが好ましく、カーボンブラックの配合量は2wt%〜20wt%であることが好ましい。これらの配合量とすることで、密度の減少による軽量化の効果と、強度が向上する効果とを、より好適に両立することができる。
【0024】
でんぷん及びグリセリンを生分解性ポリエステル系樹脂に配合する際には、でんぷん及びグリセリンを個別に直接、生分解性ポリエステル系樹脂に配合してもよいが、予めでんぷん及びグリセリンを混合して得られた混合物を生分解性ポリエステル系樹脂に配合することが好ましい。混合物を用いることで、配合の均一性が向上する等によって、本発明の効果を更に良好に発揮することができる。
【0025】
カーボンブラックを生分解性ポリエステル系樹脂に配合する際には、カーボンブラックを直接、生分解性ポリエステル系樹脂に配合してもよいが、カーボンブラックを含有するマスターバッチを生分解性ポリエステル系樹脂(ベース樹脂)に配合することが好ましい。マスターバッチは、カーボンブラックと、ベース樹脂として用いられる生分解性ポリエステル系樹脂と同様の生分解性ポリエステル系樹脂とを混合して得ることができる。マスターバッチに高濃度で含有されるカーボンブラックは、該マスターバッチをベース樹脂に配合した後、希釈混合される。マスターバッチを用いることで、配合の均一性が向上する等によって、本発明の効果を更に良好に発揮することができる。
【0026】
農業用マルチフィルムに含有できる添加剤としては、例えば、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等のような、農業用フィルムに使用されている各種添加剤を使用することができる。
【0027】
生分解性樹脂フィルムからなる農業用マルチフィルムを成形する方法は格別限定されず、例えば、インフレーション成形法、Tダイ成形法等を用いることができる。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はかかる実施例により限定されない。
【0029】
1.農業用マルチフィルムの製造
(実施例1)
まず、ベース樹脂として用いるものと同様の生分解性ポリエステル系樹脂(三菱化学社製「GSP AZ91TN」)にカーボンブラックを高濃度に配合したマスターバッチ(以下、カーボンブラックマスターバッチともいう)を作成した。
【0030】
次いで、ベース樹脂に、カーボンブラックマスターバッチ、でんぷん、グリセリンを配合してフィルム組成物を得た。でんぷん及びグリセリンは、予め混合し、混合物としてベース樹脂に配合した。このとき、フィルム組成物の組成が、ベース樹脂50wt%、でんぷん30wt%、グリセリン10wt%、カーボンブラック10wt%になるように配合した。
【0031】
前記フィルム組成物を用いて、インフレーション成形法で、厚さ20μm、幅950mm、長さ400mのロール巻き農業用マルチフィルムを作成した。
【0032】
得られた農業用マルチフィルムの比重及び重さは表1に示す通りである。ここで、重さは、ロール紙管の重さを含む(以下に説明する実施例2並びに比較例1、2も同様である)。
【0033】
(実施例2)
実施例1のフィルム組成において、ベース樹脂77wt%、でんぷん10wt%、グリセリン3wt%としたこと以外は、実施例1と同様にして農業用マルチフィルムを得た。
【0034】
(比較例1)
実施例1のフィルム組成において、ベース樹脂60wt%とし、グリセリンの配合を省略したこと以外は、実施例1と同様にして農業用マルチフィルムを得た。
【0035】
(比較例2)
実施例1のフィルム組成において、ベース樹脂10wt%、でんぷん60wt%、グリセリン20%としたこと以外は、実施例1と同様にして農業用マルチフィルムを得た。
【0036】
(比較例3)
実施例1のフィルム組成において、ベース樹脂84wt%、でんぷん5wt%、グリセリン1%としたこと以外は、実施例1と同様にして農業用マルチフィルムを得た。
【0037】
(比較例4)
実施例1において、カーボンブラックマスターバッチの配合を省略し、フィルム組成を、ベース樹脂60wt%、でんぷん30wt%、グリセリン10wt%としたこと以外は、実施例1と同様にして農業用マルチフィルムを得た。
【0038】
(比較例5)
市販の黒色ポリエチレンフィルムを農業用マルチフィルムとした。
【0039】
2.評価方法
(1)展張性(強度)
畑にトラクターで長さ25mの畝を作り、この畝に実施例及び比較例で得られた農業用マルチフィルムを展張し、下記評価基準で展張性を評価した。
〔評価基準〕
○:展張作業中に農業用マルチフィルムが破れなかった
×:展張作業中に農業用マルチフィルムが破れた
【0040】
(2)雑草
実施例及び比較例で得られた農業用マルチフィルムを畝に展張し、30日後の雑草の状態を観察し、下記評価基準で雑草を評価した。
〔評価基準〕
○:雑草なし
△:一部に雑草が生えた
×:雑草が繁茂している
【0041】
(3)栽培効果(官能試験)
実施例及び比較例で得られた農業用マルチフィルムを畝に展張し、畝にサツマイモを植え栽培した。収穫されたサツマイモを50人の被験者で食し、味についての回答を集計し、下記評価基準で栽培効果を評価した。
〔評価基準〕
○:11〜50人が美味しいと回答した
△:5〜10人が美味しいと回答した
×:0〜4人が美味しいと回答した
【0042】
(4)分解性
上記「(3)栽培効果」でサツマイモを収穫した後の畝を、トラクターで耕転し、農業用マルチフィルムを破砕すると共に、土壌中にすき込んだ。その後、破砕された農業用マルチフィルムの破片を観察し、下記評価基準で分解性を評価した。
〔評価基準〕
○:農業用マルチフィルムが10日程度で分解が起こり始めた
×:すき込み後、1ヶ月経過しても、農業用マルチフィルムの分解が十分に進行せず大きな破片が残った(比較例3)か、又は、農業用マルチフィルムの分解が進行せずそのまま残った(比較例5)
【0043】
【表1】
【0044】
3.評価
表1より、本発明の農業用マルチフィルムは、ポリエチレンと同等の密度と強度を持つことが示された。本発明のマルチフィルムは、軽く、畑に問題なく展張でき、栽培期間中のマルチ効果を発揮して、品質の良い作物を栽培することができ、栽培後速やかに分解して農業作業者の負担を軽減することがわかる。